説明

ポータブル式プロジェクション溶接機

【課題】 ボルトやナットなどの部品供給や溶接動作が確実に行えるとともに、作業者にとって操作性の良好なポータブル式プロジェクション溶接機を提供する。
【解決手段】 取っ手9を有する基部材8に回転軸11が支持され、この回転軸11に回転駆動手段13と回転基部材14が取り付けられ、この回転基部材14に部品1の保持部22,80を備えた移動電極15が結合され、回転駆動手段13の回転角度は、部品供給通路17からの部品1が移動電極15の保持部22,80に供給される被供給位置と、この被供給位置から回転して部品1が相手方部材42に対して溶着可能となる溶接位置をとるように設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ボルトやナットなどを自動的に電極に供給して、プロジェクション溶接により、鋼板部品などの相手方部材に溶接するポータブル式溶接機に関している。
【背景技術】
【0002】
ポータブル式の溶接機としては、主に鋼板同士を溶着するスポット溶接機が種々提案されている。特開2001−105156号公報に開示されている技術も前記スポット溶接機である。
【特許文献1】特開2001−105156号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述のような形式の溶接機は鋼板同士をスポット溶接で一体化するものであり、ボルトやナットなどをプロジェクション溶接で鋼板に溶接するものではない。このようにボルトやナットなどをプロジェクション溶接で鋼板部品などに溶接する場合には、ボルトやナットなどを電極で保持するための部品供給手段が必要になる。ポータブル式のプロジェクション溶接機においては、ボルトやナットなどの部品供給が確実になされ、しかもこれらの部品が正確に鋼板部品に対して溶接できるとともに、作業者にとって操作性が良好でなければならず、さらに、溶接機全体をコンパクトにしなければならない。
【0004】
本発明は、上記の問題点を解決するために提供されたもので、ボルトやナットなどの部品供給や溶接動作が確実に行えるとともに、作業者にとって操作性の良好なポータブル式プロジェクション溶接機を提供することを目的とする。
【問題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の発明は、取っ手を有する基部材に回転軸が支持され、この回転軸に回転駆動手段と回転基部材が取り付けられ、この回転基部材に部品の保持部を備えた移動電極が結合され、前記回転駆動手段の回転角度は、部品供給通路からの部品が移動電極の保持部に供給される被供給位置と、この被供給位置から回転して部品が相手方部材に対して溶着可能となる溶接位置をとるように設定されていることを特徴とするポータブル式プロジェクション溶接機である。
【発明の効果】
【0006】
回転動作をする回転基部材に移動電極が取り付けられ、この移動電極に、部品が保持部に供給される被供給位置と、部品が相手方部材に対して溶着可能となる溶接位置との2位置を付与したので、被供給位置において部品が移動電極に保持されてから、回転駆動手段によって溶接位置に回動する。このようにして、前記被供給位置を移動電極への部品供給が最も行いやすい位置とすることができ、この部品供給が確実に行える。さらに、前記溶接位置を最も溶接しやすい位置に設定することができ、溶接動作が確実なものとなる。
【0007】
作業者は溶接機を手で持って、溶接位置にある移動電極を鋼板部品などの相手方部材の方へ進出させて溶接を行う。このときの移動電極は、溶接機の進出方向の先端側におかれて、目的箇所に到達しやすくする必要がある。上述のように、移動電極の溶接位置が回転基部材の回転角度によって設定されるので、溶接動作にとって最適の溶接位置が設定でき、容易な溶接作業や、部品の溶接位置などが正確で良好な溶接品質が確保でき、すぐれたポータブル溶接機として効果的である。
【0008】
さらに、前記被供給位置は、例えば、溶接機の進出方向とは逆の側に配置することが望ましい。こうすることにより、溶接位置から離隔した箇所で部品が移動電極に供給されるので、供給に必要な構造物などの配置が行いやすくなる。上述のように、移動電極の被供給位置が回転基部材の回転角度によって設定されるので、上述の利点がえられるような最適の部品供給位置が設定でき、円滑で確実な移動電極への部品供給にとって効果的である。
【0009】
また、前記基部材に、取っ手および回転駆動手段と回転基部材を備えた回転軸などが装備されているので、溶接機の全体構成を移動電極への部品供給、溶接動作、作業性などに適したものとすることができる。
【0010】
請求項2記載の発明は、前記取っ手は基部材の上側に配置され、前記回転軸は基部材の下側に配置されている請求項1記載のポータブル式プロジェクション溶接機である。
【0011】
上述の構成により、溶接機の上側の配置されている取っ手を持って溶接機の下側に配置された移動電極を目的箇所へ到達させることとなる。これにより、移動電極を溶接機の進出方向側に位置させ、これとは逆の側を作業者が持つことになる。したがって、部品が保持された移動電極を進出方向の先端側にして作業性の良い溶接が可能となる。さらに、取っ手から離隔した箇所に、回転軸や回転基部材などの可動部材が配置できるので、作業者の手がこれらの可動構造物に接触することがなく、安全性向上にとって有効である。
【0012】
請求項3記載の発明は、前記被供給位置に位置している移動電極の保持部と部品供給通路とが合致するように構成された請求項1または請求項2記載のポータブル式プロジェクション溶接機である。
【0013】
上述のように、移動電極の保持部と部品供給通路とが合致するようになっているので、部品供給通路から確実に保持部に対して部品供給ができ、ポータブル式プロジェクション溶接機における部品供給の自動化にとって効果的である。
【0014】
請求項4記載の発明は、部品供給通路と保持部との間に、部品を一時的に係止する一時係止手段が配置されている請求項1〜請求項3のいずれかに記載のポータブル式プロジェクション溶接機である。
【0015】
一般に、部品供給通路内を移動してくる部品は圧縮空気で搬送されるので、その搬送速度は高速になる。このような速度で部品が移動電極の保持部に激突すると、保持部の耐久性が低下する恐れがある。本発明では、上述のように、部品を一時的に係止してから保持部へ移行させるものであるから、保持部に対する部品の衝撃が緩和され、保持部の保持機能が長期にわたって維持できる。
【0016】
請求項5記載の発明は、前記一時係止手段に、部品を保持部に案内するガイド形状部が設けられている請求項4記載のポータブル式プロジェクション溶接機である。
【0017】
このようなガイド形状部が設けられているので、部品の一旦停止機能と一旦停止状態にある部品を保持部に案内する案内機能とが同時に果たされる。したがって、部品が確実に移動電極へ移行されて、正確な動作の溶接機がえられる。
【0018】
請求項6記載の発明は、前記一時係止手段は、少なくとも部品供給通路を移送されてきた部品を受け止めるストッパ部材と、部品を保持部へ移行する移行機構とを備えている請求項4記載のポータブル式プロジェクション溶接機である。
【0019】
このような構成により、前記ストッパ部材によって部品の衝撃力を一旦受け止め、その後、前記移行機構によって保持部へ供給する。したがって、保持部に対する過大な衝撃力が緩和され、保持部の保持機能が長期にわたって維持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
つぎに、本発明のポータブル式プロジェクション溶接機を実施するための最良の形態を説明する。
【実施例1】
【0021】
図1〜図5は、第1の実施例を示す。
【0022】
図1(A)は溶接機全体の正面図、図2はその側面図である。この溶接機によって溶接される部品としては、プロジェクションナットやプロジェクションボルト、あるいはそれ以外の溶着用突起を有するものなど色々な部品がある。この実施例では、図1(B),(C)に示すプロジェクションボルトが溶接の対象部品であり、鋼板部品に溶接される。以下の説明において、プロジェクションボルトを単にボルトと表現することもある。
【0023】
図1(B)において、鉄製のプロジェクションボルト1は、雄ねじが設けられた軸部2と軸部2と一体のフランジ部3と軸部2とは反対側のフランジ面に設けられた溶着用突起4から構成されている。そして、図1(C)に示すように、ボルト1は鋼板部品5に溶接されるもので、黒く塗りつぶした箇所が、溶融部6である。
【0024】
ポータブル式プロジェクション溶接機は、符号7で示されている。細長い形状の基部材8の上端部に取っ手9が結合されている。この取っ手9は、基部材8から横向きに突き出すような状態で配置されている。図4に示すように、この基部材8の下端部に筒状の軸受10が溶接などにより固定され、その内部に回転軸11が回転可能な状態で支持されている。
【0025】
前記基部材8の下端部に結合部材12がボルト(図示していない)などで固定され、この結合部材12に回転駆動手段である回転式エアシリンダ13がボルト(図示していない)などで固定してある。そして、回転軸11が回転式エアシリンダ13に結合されて、回転するようになっている。回転駆動手段は、このように回転式エアシリンダ13を採用しているが、それ以外の例として、パルス入力で所定角度回転するステップモータを用いることも可能である。
【0026】
回転軸10の他端に、回転軸10と同軸とされた四角い(図2参照)回転基部材14が設けてある。この回転基部材14に、2本の移動電極15が一直線上に配列された状態で取り付けられている。両移動電極15の先端部が回転軸11と同心の仮想円上に位置するように、両移動電極15の長さが設定してある。両移動電極15は一直線上に配置されているので、一方の移動電極15が後述の被供給位置から180度回動すると、溶接位置に移動するようになっている。なお、前記回転基部材14を円形とし、その外周部に移動電極15を取り付けても良い。
【0027】
金属製の部品供給管17が結合部材16(図1(A)参照)を介して基部材8の側面に固定され、パーツフィーダ18から伸びてきている供給ホース19が部品供給管17に接続されている。この部品供給管17によって、部品供給通路が形成されている。そして、この供給ホース19は、溶接機7の色々な方向への移動に追従できるように、ポリアミド樹脂のような柔軟性のある合成樹脂で作られている。
【0028】
なお、前記パーツフィーダ18としては、振動式ボウルの移送通路から送出するもの、回転板に取り付けた磁石で所定個数の部品を吸着してそれを送出通路から送出するもの、あるいは、回転円板で搬送通路に部品を移動させこの部品が移送通路から送出されるもの等いろいろなものが採用できる。この実施例では、振動式ボウルの移送通路から送出する形式のものが採用されている。
【0029】
パーツフィーダ18の送出箇所には、空気搬送用の空気ノズル20が取り付けてあり、プロジェクションボルト1はこの搬送空気によって供給ホース19内を高速で搬送されてくる。
【0030】
図3(B)に示すように、符号21で示された保持部が移動電極15に形成されている。この保持部21はボルト1の軸部2を保持するものであればよく、クランプ板ばねで軸部2を挟み付けるものや、軸部2を収容孔内に保持するものなど種々な形態で実現することができる。この実施例では、後者の形式を採用している。
【0031】
すなわち、移動電極15の中心部に軸部2の受入孔22が形成され、その奥部に永久磁石23が固定されている。図3(B)に示すように、一方の移動電極15の保持部21(受入孔22)が部品供給通路を構成する部品供給管17に合致している状態が、「被供給位置」である。一方の移動電極15が被供給位置にあるときには、他方の移動電極15の保持部21にボルト1が保持されていて溶接可能な状態になっており、これが「溶接位置」である。なお、移動電極15を1本にすることも可能であり、さらに、移動電極15を3本や4本にすることも可能である。このような場合には、回転駆動手段の動作角度が、それぞれ360度または180度,120度,90度に設定される。
【0032】
高速で搬送されてきたボルト1が直接受入孔22内に進入すると、受入孔22の開口縁の損傷、例えば、急速に進行する摩耗などのおそれがある。このような現象を回避するために、ボルト1を一時的に係止する一時係止手段25が設けられている。一時係止手段25としては、搬送されてきたボルト1を一旦停止してから、ゆっくりと移動させるものであればよく、停止機能を果たす部材と再び移動させる機能の部材を備えている。
【0033】
この実施例では、一対の開閉部材に一旦停止機能と再移動機能が付与されている。2つの開閉部材26A,26Bは、それらが合致している状態で一旦停止機能を果たし、それらが開くと再移動機能が果たされる。開閉部材26A,26Bが閉じている状態で有底のテーパ孔27が形成され、その底部材27A,27Bに軸部2の挿入孔28が形成されている。つまり、このような構成によってガイド形状部が構成されている。
【0034】
したがって、搬送されてきたボルト1は、その軸部2が挿入孔28を通過するのと同時に、その先端部が移動電極15の受入孔22内に挿入された箇所で、フランジ部3がテーパ孔27の底部材27A,27Bに受け止められてストッパ機能が果たされる。その後、開閉部材26A,26Bが両側に後退して開くと、フランジ部3が底部を通過し軸部2が受入孔22内に入りきって永久磁石23に吸引される。このようにして移動電極15へのボルト保持がなされる。
【0035】
このように、開閉部材26A,26Bにテーパ孔27や挿入孔28のような構造で形成されたガイド形状部が設置されているので、ボルト1が開閉部材26A,26Bにより一旦停止されたときにボルト1の軸部2が受入孔22内に挿入されて、ボルト1が確実に保持部21に保持され、信頼性の高い動作がえられる。
【0036】
前記開閉部材26A,26Bの開閉手段としては、ガイドレールに沿って開閉する形式や、アーム部材が支持軸を中心にして開閉される形式など種々な形式のものが採用できる。この実施例では後者の形式である。
【0037】
図3(A)に示すように、一対のアーム部材29A,29Bが支持軸30で開閉自在に結合してあり、このアーム部材29A,29Bと一体に前記開閉部材26A,26Bが設けてある。両アーム部材29A,29Bの間に開閉部材26A,26Bを閉じ方向に付勢するスプリング31が取り付けてある。また、作業者が握りやすくするための凹凸状の滑り止め32A,32Bがアーム部材29A,29Bに形成されている。
【0038】
前記支持軸30は、基部材8の側面に形成した支持片33に取り付けられ、この取付位置を選定することにより、テーパ孔27が部品供給管17と同軸状態になっている。そして、アーム部材29A,29Bが基部材8から横方向に突出していて握りやすくなっている。
【0039】
作業者が滑り止め32A,32Bの箇所を握ると、スプリング31が圧縮され開閉部材26A,26Bが開かれる。これにより、ボルト1のフランジ部3がテーパ孔27の底部を通過し、受入孔22内の奥まで軸部2が進入しボルト保持が完了する。
【0040】
上述の例は滑り止め32A,32Bの箇所を手で握る方式であるが、これを自動化することができる。図3(A)に2点鎖線で示すように、電磁ソレノイド34をアーム部材29A,29Bの間に配置する。この電磁ソレノイド34に通電することにより、アーム部材29A,29Bが引き寄せられて開閉部材26A,26Bが開くのである。前記電磁ソレノイド34に代えてエアシリンダを配置してもよい。
【0041】
上述のように、開閉部材26A,26Bを開いてボルト1が受入孔22に移行される。したがって、開閉部材26A,26Bの開閉機構が「移行機構」を形成している。
【0042】
図4に示すように、移動電極15に溶接電流を通電するために、回転軸11の外周面に接触する給電シュー36が設けてある。この給電シュー36は軸受10に固定されたガイド筒37内に摺動可能な状態で収容されている。ガイド筒37にねじ込まれた調整ボルト38と給電シュー36との間に圧縮コイルスプリング39が配置され、これの張力で給電シュー36が回転軸10に押し付けられている。給電ケーブル40が給電シュー36に接続してある。
【0043】
前記給電ケーブル40は、図1(A)に2点鎖線で示すように、基部材8の先端部から変圧器41に接続してある。ボルト1が溶接される相手方部品は鋼板部品42であり、バック電極43の上に載せられている。前記変圧器41とバック電極43は導通線44で接続されている。
【0044】
前述の被供給位置や溶接位置がずれないようにするために、回転軸11の回転運動に対して節度を付与する構造が採用されている。図4に示すように、軸受10の端部に直径方向の貫通孔があけられ、ここに挿入した鋼球46が回転軸11の外周面に設けた窪み47内にはまり込んで、節度が付与される。前記鋼球46は圧縮コイルスプリング48で加圧され、前記貫通孔にねじ込んだ調整ボルト49で圧縮コイルスプリング48を支持している。前記窪み47は、被供給位置や溶接位置に対応させて、180度間隔で設けてある。
【0045】
回転式エアシリンダ13の出力で回転軸11が回されると、その回転力により、窪み47にはまり込んでいる鋼球46が圧縮コイルスプリング48を圧縮しながら窪み47から脱出させられ、180度回動した位置で再び窪み47内にはまり込む。
【0046】
図5は、前記回転式エアシリンダ13の断面図である。回転ベーン50が出力軸51に固定され、この出力軸51が前記回転軸11に結合されている。円形シリンダ52内に円形の空気室53が形成され、回転ベーン50が空気室53内を回動するようになっている。円形シリンダ52に180度間隔で隔壁部材54が設けられ、ここから空気通路55をへて供給した動作空気の圧力が回転ベーン50に作用して、図5の実線位置から回転軸51が時計方向に180度回動する。また、他方の空気通路55からの空気圧で回転ベーン50が反時計方向に回動する。なお、回転式エアシリンダ13に接合されている空気吸排ホースの図示は省略してある。
【0047】
移動電極15の過熱を防止するために、冷却水通路57が設けてある。この冷却水通路57は図4に示すように、基部材8の端部,軸受10,回転軸11,回転基部材14,移動電極15を通過して循環するようになっている。
【0048】
図1(A)に示すように、冷却水の往路と復路を形成する冷却水ホース58,59が前記冷却水通路57に接続してある。この冷却水ホース58,59も前述の給電ケーブル40と同様に、柔軟な合成樹脂で作られており、溶接機7の種々な向きの変化に順応できるようになっている。冷却水ホース58,59とボルト1の供給ホース19とは、結束具60で束ねてある。
【0049】
図1(A)に示すように、取っ手9にはスイッチボタン61,62が設けられ、スイッチボタン61を押すと溶接電流の通電が行われ、スイッチボタン62を押すと回転式エアシリンダ13が回動出力をするようになっている。2点鎖線で示された導通線63は各スイッチボタン61,62に接続され、各ボタン61,62からの動作信号を制御装置(図示していない)に入力する。
【0050】
回転式エアシリンダ13に何等かの故障が生じたり、同エアシリンダ13への空気吸排に故障が生じたりしたときに備えて、この実施例では、補助グリップ64が回転基部材14に取り付けてある。この補助グリップ64を手で持って回転基部材14を回動させて、移動電極15に被供給位置と溶接位置を設定する。
【0051】
溶接機7を軽く操作するために、懸垂バランサー65によって吊り下げてある。この懸垂バランサー65は一般的に採用されているもので、工場の梁などの静止部材66に取り付けてある。懸垂バランサー65には重量軽減のための巻き上げスプリングが内蔵され、この巻き上げ力は懸垂ケーブル67に作用している。基部材8に懸垂環68が取り付けられ、その上部が懸垂ケーブル67に連結されている。
【0052】
図中の矢印69は、溶接位置にある移動電極15の進出方向を示している。
【0053】
上述の実施例の動作を説明する。
【0054】
部品供給管17と移動電極15の受入孔22が合致した被供給位置の状態のところへパーツフィーダ18からボルト1が搬送されてくる。その結果、図3(B)に示すように、フランジ部3がテーパ孔27の底部材27A,27Bによって一旦停止をされ、それと同時に軸部2が受入孔22内に進入する。ついで、作業者が滑り止め32A,32Bの箇所を握りしめると、開閉部材26A,26Bが開いてボルト1がテーパ孔27を通過し、受入孔22内の奥まで入り込み永久磁石23で吸引される。
【0055】
ついで、スイッチボタン62を押すと、回転式エアシリンダ13の回転動作で回転基部材14が180度回動し、受入孔22にボルト1を保持した移動電極15が溶接位置に配置される。これと同時に他方の移動電極15が被供給位置に回ってくる。それから作業者が溶接機7を矢印69の方向へ進出させてボルト1の溶着用突起4を鋼板部品42に押し付け、スイッチボタン61を押して溶接電流の通電を行う。所定時間の通電が行われると溶接が完了する。この通電時間は制御装置(図示していない)によって設定されている。
【0056】
このように溶接位置の移動電極15が溶接をしている間に、他方の移動電極15にはボルト1が供給されている。溶接が完了して溶接機7を持ち上げると、ボルト1が鋼板部品42上に残る。
【0057】
移動電極15が溶接位置におかれているときには、移動電極15が溶接機7から突き出た状態になっていて、所定の箇所へ移動電極15を到達させやすくなっている。したがって、移動電極15と鋼板部品42との相対位置、とくに移動電極15と鋼板部品42との角度関係が所定通りに正確に設定できるので、ボルト1の溶着角度が正しく求められて、溶接品質が向上する。
【0058】
以上に説明した実施例の作用効果を列記すると、つぎのとおりである。
【0059】
回転動作をする回転基部材14に移動電極15が取り付けられ、この移動電極15に、ボルト1が保持部である受入孔22に供給される「被供給位置」と、ボルト1が鋼板部品42に対して溶着可能となる「溶接位置」との2位置を付与したので、被供給位置においてボルト1が移動電極15に保持されてから、回転式エアシリンダ13によって溶接位置に回動する。このようにして、前記被供給位置を移動電極15へのボルト供給が最も行いやすい位置とすることができ、このボルト供給が確実に行える。さらに、前記溶接位置を最も溶接しやすい位置に設定することができ、溶接動作が確実なものとなる。
【0060】
作業者は溶接機7を手で持って、溶接位置にある移動電極15を鋼板部品42の方へ進出させて溶接を行う。このときの移動電極15は、溶接機7の進出方向の先端側におかれ、目的箇所に到達しやすくなる。上述のように、移動電極15の溶接位置が回転基部材14の回転角度によって設定されるので、溶接動作にとって最適の溶接位置が設定でき、容易な溶接作業や、ボルト1の溶接位置などが正確で良好な溶接品質が確保でき、すぐれたポータブル溶接機7として効果的である。
【0061】
さらに、前記被供給位置は、矢印69で示された溶接機7の進出方向とは逆の側に配置されている。こうすることにより、溶接位置から離隔した箇所でボルト1が移動電極15に供給されるので、供給に必要な部品供給管17や一時係止手段25などの配置が行いやすくなる。上述のように、移動電極15の被供給位置が回転基部材14の回転角度によって設定されるので、最適のボルト供給位置が設定でき、円滑で確実な移動電極15へのボルト供給にとって効果的である。
【0062】
また、前記基部材8に、取っ手9および回転式エアシリンダ13と回転基部材14を備えた回転軸11などが装備されているので、溶接機7の全体構成を移動電極15への部品供給、溶接動作、作業性などに適したものとすることができる。
【0063】
前記基部材8は、矢印69で示される進行方向に沿って細長く形成されているので、取っ手9を基部材8の上方に配置し、回転基部材14や移動電極15などを基部材8の下方に配置することができて、取っ手9を持って移動電極15を先端側にした態様の溶接ができる。したがって、移動電極15の先端を所定の箇所に容易に到達させることができ、溶接作業が容易になる。そして、細長い基部材8であるから、溶接機7全体がスリムなものとなり、狭い箇所へのボルト溶接に好適である。
【0064】
前記取っ手9は基部材8の上側に配置され、前記回転軸11は基部材8の下側に配置されている。
【0065】
上述の構成により、溶接機7の上側の配置されている取っ手9を持って溶接機7の下側に配置された移動電極15を鋼板部品42へ到達させることとなる。これにより、移動電極15を溶接機7の進出方向69側に位置させ、これとは逆の側を作業者が持つことになる。したがって、ボルト1が保持された移動電極15を進出方向の先端側にして作業性の良い溶接が可能となる。さらに、取っ手9から離隔した箇所に、回転軸11や回転基部材14などの可動部材が配置できるので、作業者の手がこれらの可動構造物に接触することがなく、安全性向上にとって有効である。
【0066】
前記被供給位置に位置している移動電極15の受入孔22と部品供給管17とが合致するように構成されている。
【0067】
上述のように、移動電極15の受入孔22と部品供給管17とが合致するようになっているので、部品供給管17から確実に受入孔22に対してボルト供給ができ、ポータブル式プロジェクション溶接機におけるボルト供給の自動化にとって効果的である。
【0068】
部品供給管17と受入孔22との間に、プロジェクションボルト1を一時的に係止する一時係止手段、例えば、開閉部材26A,26Bが配置されている。
【0069】
一般に、部品供給管17内を移動してくるボルト1は圧縮空気で搬送されるので、その搬送速度は高速になる。このような速度でボルト1が移動電極15の受入孔22に激突すると、受入孔22の耐久性が低下する恐れがある。上述のように、ボルト1を一時的に係止してから受入孔22へ移行させるものであるから、受入孔22に対するボルト1の衝撃が緩和され、受入孔22の保持機能が長期にわたって維持できる。
【0070】
前記一時係止手段に、ボルト1を受入孔22に案内するガイド形状部が設けられている。
【0071】
このようなガイド形状部が設けられているので、ボルト1の一旦停止機能と一旦停止状態にあるボルト1を受入孔22に挿入する案内機能とが同時に果たされる。したがって、ボルト1が確実に移動電極15へ移行されて、正確な動作の溶接機7がえられる。
【0072】
前記一時係止手段は、少なくとも部品供給管17を移送されてきたボルト1を受け止めストッパ機能を果たすテーパ孔27の底部材27A,27Bと、ボルト1を受入孔22へ移行する移行機構とを備えている。
【0073】
このような構成により、前記テーパ孔27の底部材27A,27Bによってボルト1の衝撃力を一旦受け止め、その後、前記移行機構によって受入孔22へ供給する。したがって、受入孔22に対する過大な衝撃力が緩和され、受入孔22の保持機能が長期にわたって維持できる。
【実施例2】
【0074】
図6は、第2の実施例を示す。
【0075】
この実施例は、鉄製のプロジェクションナット71を溶接の対象にしている。このプロジェクションナット71は四角い形状のもので、その四隅に溶着用突起72が設けてある。基部材8に結合部材73を用いて部品供給管74が固定されている。この部品供給管74は、プロジェクションナット71の形状に合わせて断面が矩形になっている。以下、プロジェクションナットを単にナットと表現することもある。
【0076】
前記部品供給管74は、湾曲してその先端部に仮止室75が形成されている。この仮止室75の内面を形成する部材としてストッパ部材76が設けられ、このストッパ部材76は、部品供給管74の端部に固定されるとともに、結合部材77を介して基部材8に固定されている。ストッパ部材76には、ナット71を吸引して一時係止をするための永久磁石78が埋設してある。仮止室75の下側にナット71が送出される送出口79が設けてある。
【0077】
ナット71を仮止室75から移動電極15の受入孔80に移行させる移行機構が、送出片81とそれを進退させるエアシリンダ82によって構成されている。このエアシリンダ82は、結合部材83によって基部材8に固定され、そのピストンロッド84に前記送出片81が固定されている。送出片81は、ブロック状の部材にナット71のねじ孔に進入するガイドピン85が固定され、押出面86がブロック状の部材の端面に形成してある。エアシリンダ82のストローク方向はナット71のねじ孔の軸線方向とされている。
【0078】
仮止室75の上側に通過口87があけられ、ここを送出片81が通過してナット1を送出するようになっている。上述の構成により、ナット71の一時係止手段は、仮止室75,ストッパ部材76,永久磁石78などで構成されている。
【0079】
移動電極15に設けられているナット1の保持部は、ナット1を収容できる受入孔80によって構成されている。この受入孔80の下方に永久磁石88が埋設され、その吸引力によってナット71の落下防止がなされている。図6に示した構造以外は、先の実施例と同じ構造である。
【0080】
この実施例の動作を説明する。
【0081】
図6は、パーツフィーダ18から送られてきたナット71が仮止室75で一時係止されている状態を示している。ここで、エアシリンダ82によって送出片81が進出すると、そのガイドピン85がねじ孔内に進入しさらに押出面86がナット71の端面にあたってナット1は送出口79から送り出されて、受入孔79内に移行される。その後の動作は先の実施例と同じである。
【0082】
この実施例によってえられる作用効果は、先の実施例と同じである。
【産業上の利用可能性】
【0083】
上述のように、本発明によれば、ボルトやナットなどの部品供給や溶接動作が確実に行えるとともに、作業者にとって操作性の良好なポータブル式プロジェクション溶接機でるから、自動車の車体溶接工程や家庭電化製品の鋼板溶接など広い産業分野で活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】溶接機全体の正面図とボルトの図である。
【図2】溶接機全体の側面図である。
【図3】一時係止手段を示す平面図や部分図である。
【図4】基部材の下部構造を示す断面図である。
【図5】回転式エアシリンダの断面図である。
【図6】他の実施例を示す側面図である。
【符号の説明】
【0085】
1 プロジェクションボルト
2 軸部
3 フランジ部
7 ポータブル式プロジェクション溶接機
8 基部材
9 取っ手
10 軸受
11 回転軸
13 回転式エアシリンダ
14 回転基部材
15 移動電極
17 部品供給管
18 パーツフィーダ
21 保持部
22 受入孔
25 一時係止手段
69 進出方向の矢印
71 プロジェクションナット
74 部品供給管
75 仮止室
76 ストッパ部材
80 受入孔
81 送出片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
取っ手を有する基部材に回転軸が支持され、この回転軸に回転駆動手段と回転基部材が取り付けられ、この回転基部材に部品の保持部を備えた移動電極が結合され、前記回転駆動手段の回転角度は、部品供給通路からの部品が移動電極の保持部に供給される被供給位置と、この被供給位置から回転して部品が相手方部材に対して溶着可能となる溶接位置をとるように設定されていることを特徴とするポータブル式プロジェクション溶接機。
【請求項2】
前記取っ手は基部材の上側に配置され、前記回転軸は基部材の下側に配置されている請求項1記載のポータブル式プロジェクション溶接機。
【請求項3】
前記被供給位置に位置している移動電極の保持部と部品供給通路とが合致するように構成された請求項1または請求項2記載のポータブル式プロジェクション溶接機。
【請求項4】
部品供給通路と保持部との間に、部品を一時的に係止する一時係止手段が配置されている請求項1〜請求項3のいずれかに記載のポータブル式プロジェクション溶接機。
【請求項5】
前記一時係止手段に、部品を保持部に案内するガイド形状部が設けられている請求項4記載のポータブル式プロジェクション溶接機。
【請求項6】
前記一時係止手段は、少なくとも部品供給通路を移送されてきた部品を受け止めるストッパ部材と、部品を保持部へ移行する移行機構とを備えている請求項4記載のポータブル式プロジェクション溶接機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2007−136541(P2007−136541A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−361008(P2005−361008)
【出願日】平成17年11月15日(2005.11.15)
【出願人】(000196886)