説明

ポーラス金属ガラスの製造方法とポーラス金属ガラス

【課題】 急冷が不可欠であり、特異な物性を有する金属ガラスのポーラス化方法を確立することを課題とする。
【解決手段】 金属ガラス素材(1)と、融点が前記金属ガラス素材(1)の融点より更に高融点のスペーサー物質(2)にて形成されたスペーサー粉粒状物とを金属ガラス素材(1)の融点以上、スペーサー粉粒状物(2)の融点以下の温度で加熱して金属ガラス素材(1)を溶融してスペーサー粉粒状物(2)が溶融金属ガラス(1a)内に分散した状態となるようにし、続いてこの溶融金属ガラス(1a)を急冷して前記スペーサー粉粒状物(2)間にて溶融金属ガラス(1a)を凝固させ、然る後、スペーサー粉粒状物(2)を溶媒にて除去することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポーラス金属ガラスの製造方法並びに該方法で形成されたポーラス金属ガラスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属中の空隙は金属の欠陥とみなされており、金属中に多数の空隙を有する焼結金属は構造材料としての信頼性に欠けるとしてその用途が限られていた。しかしながら、最近では金属中の空隙を積極的に利用して、比強度に優れた材料や、骨組織の空隙への侵入とその親和力により医療用材料としての用途をはじめとして急速に用途が拡張されている。しかしながら、これらポーラス金属は、一般的に用いられている結晶金属、例えば鉄、ステンレス、銀などで急速冷却を必要とする金属ガラスについてのポーラス化の方法はまったく存在しなかった。
【0003】
このようなポーラス金属の製造技術としては、等圧気体雰囲気下における単一結晶金属や結晶合金を作製するものであり、ポーラス金属のポアを生成するため緩冷が必要である。その一つとして金属‐ガス平衡状態図に従い、金属‐ガス共晶反応を利用して大量にガス原子を溶け込ませ且つ固体状態の金属中に当該ガスが溶け込まないことを利用して金属ガラスを溶融状態から徐冷し、固体金属ガラス中に大量の空隙を形成する技術が公開されている(特開平10−88254号)。
【0004】
一方、金属ガラスは、固体状態において金属ガラス状態とするには溶融状態から急冷をしなければならない。そのため急冷方法では、吸蔵ガスが金属ガラス中に残留してしまいポーラス状態にならず、従来方法では急冷がネックとなってポーラス金属ガラスを製造することができなかった。その結果、金属ガラスは優れた物性をもつことが知られているが、現状の方法ではこの優れた物性を持つ金属ガラスのポーラス体を生成することはできなかった。
【特許文献1】特開平10−88254号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記金属ガラスはその特異な物性、即ち、高強度でしかも高弾性率、低ヤング率であるという特殊な物性を有する素材で、前述のように急冷を必要とする素材である。本発明の解決課題は急冷が不可欠であり、特異な物性を有する金属ガラスのポーラス化方法を確立することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1のポーラス金属ガラス(A)の製造方法(図1)は「金属ガラス素材(1)と、その融点が前記金属ガラス素材(1)の融点より更に高融点のスペーサー物質(2)にて形成されたスペーサー粉粒状物とを金属ガラス素材(1)の融点(Tm)以上、スペーサー粉粒状物(2)の融点(Tm)以下の温度で加熱して金属ガラス素材(1)を溶融してスペーサー粉粒状物(2)が互いに接触した状態にてスペーサー粉粒状物(2)が溶融金属ガラス(1a)内に分散した状態となるようにし、続いてこの溶融金属ガラス(1a)を急冷して前記スペーサー粉粒状物(2)間にて溶融金属ガラス(1a)を凝固させ、然る後、スペーサー粉粒状物(2)を溶媒(6)にて除去する」ことを特徴とする。
【0007】
請求項2のポーラス金属ガラス(A)の製造方法(図2)は「金属ガラス素材(1)と、該金属ガラス素材(1)の主成分をその構成元素とし、その融点が前記金属ガラス素材(1)の融点より更に高融点のスペーサー物質(2)となる水素化物とを混合し、続いてこの混合体(3)を加熱して金属ガラス素材(1)を溶融すると共に水素化物(P)を分解し、水素化物(P)の分解により生成された水素気泡(10)の発生中に急冷して金属ガラス素材(1)を発泡凝固体(1b)にする」ことを特徴とする。
【0008】
請求項3のポーラス金属ガラス(A)の製造方法(図3)は「金属ガラス素材(1)より高融点のスペーサー物質(2)の連続気泡ポーラス体(P)の空隙(K)に溶融金属ガラス(1a)を充填した後、これを急冷し、然る後、前記ポーラス体(P)を溶媒(6)にて除去する」ことを特徴とする。
【0009】
請求項4のポーラス金属ガラス(A)の製造方法(図4、5)は、「金属ガラス素材(1)を溶融し、続いてスペーサー物質(2)である圧力ガスを溶融金属ガラス(1a)中に圧入し、然る後、加圧状態からそれ以下の圧力に戻して溶融金属ガラス(1a)中のスペーサー物質(2)である吸蔵ガスの発泡脱ガスにより凝固中の金属ガラス(1a)内に気泡(10)を形成させつつ溶融金属ガラス(1a)を急冷する」ことを特徴とする。ここで、スペーサー物質(2)である圧力ガスとしては例えば、Ar、窒素などが上げられる。
【0010】
請求項5のポーラス金属ガラスの製造方法(図6)は「金属ガラス素材(1)の粉粒状体と、金属ガラス遷移温度(Tg温度)以上の融点を持つスペーサー物質(2)の粉粒状体とを混合し、この混合体(3)を金属ガラス遷移温度(Tg温度)直上の温度で加圧焼結し、然る後、この混合焼結体(3b)からスペーサー物質(2)を溶媒(6)で除去する」ことを特徴とする。
【0011】
請求項6のポーラス金属ガラス(A)の製造方法(図7)は「金属ガラス素材(1)を高圧水素雰囲気中で溶融し、溶融金属ガラス(1)中にスペーサー物質(2)である水素又は窒素を固溶し、次いで、これを急冷して水素固溶金属ガラス体(1a’)又は窒素固溶金属ガラス体を形成し、然る後、この水素固溶金属ガラス体(1a’)又は窒素固溶金属ガラス体を(Tg−Tx温度)の範囲内で加熱して固溶した水素(2)又は窒素の気泡化を促し、水素気泡又は窒素気泡発生中に金属ガラス体(1a’)を冷却する」ことを特徴とする。ポーラス金属ガラス(A)は図10に示す。
【0012】
請求項7のポーラス金属ガラスの製造方法「スペーサー物質(2)が窒素の場合、金属ガラス素材(1)は鉄基又はジルコニウム基である」ことを特徴とする。鉄基又はジルコニウム基の金属ガラス素材(1)は窒素の固溶量が大であり、発泡化に有効である。
【0013】
請求項8のポーラス金属ガラス(A)は「請求項1〜7に記載のいずれかの製造方法にて形成された」ものである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1〜7に記載の方法により、ポーラス金属ガラス(A)の製造が可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を図示実施例に従って順次説明する。本発明の対象となる金属ガラス(A)はジルコニウム系、鉛系、鉄系、アルミニウム系、チタン系、ニッケル系、銅系、マグネシウム系、パラジウム系などが挙げられ、更に詳しくいえば、『例えば、Mg-Ln-(Ni,Cu,Zn)、 Ln-Al-Tm、 Zr-Al-Tm, Fe-(Al,Ga)-(P,B,C,Si), Pd-Cu-Ni-P、 Fe-(Zn,Hf,Nb)-B (前記Ln=希土類金属、Tm=IV〜VIII族遷移金属である)などの3元以上の多元系合金』のいずれかであって、ガラス遷移温度を持ち、換算ガラス化温度(Tg/Tm)が0.55〜0.7であり、過冷却液体領域(Tx−Tg)が20℃〜127℃或いはそれ以上の幅を有するものである。
【0016】
ここで、Txは金属ガラス(A)の結晶化温度であり、Tgは金属ガラス(A)の金属ガラス遷移温度であり、Tmは金属ガラス(A)の融点である。
【0017】
一般式で記載すれば、Xa−Yb−Mc(XはZr、Ti、Hf、La、Mg、Al、Fe、Co、Ni及び希土類金属から選ばれた1以上の金属であり、YはAl、Zr、Hf、Ti、Mo、Ta、Nb及び希土類金属から選ばれた1以上の金属であり、MはFe、Co、Ni、Pd、Ag、Cu及び希土類金属から選ばれた1以上の金属であり、a=50〜80、b=0〜20、c=0〜50)で示される組成をもつ素材であり、具体例を上げれば、Zr60Al15Ni25、Zr65Al7.5Ni27.5、Zr55Al10Ni5Cu30、Zr55Ti5Al10Ni10Cu20、Fe73Al5Ga21064、Fe58Co7Ni7Zr1018、Fe58Co7Ni7Zr3Mo718、Fe58Co7Ni7Mo1018、La55Al25Ni20、Mg55Cu2510、Mg60Ni20La20などがある。
【0018】
換算ガラス化温度は、(Tg/Tm)で定義される無名数で、必要とする冷却速度のパラメータとして使用される。
【0019】
過冷却液体領域は△Txで表され、△Tx=Tx−Tgで定義され、過冷却液体の安定度合いのパラメータを示す。
【0020】
また本発明で使用されるスペーサー物質(2)は、
(イ)固体に限られず、水素のようなガスでもよいし、その他の条件として
(ロ)混合される金属ガラス素材(1)の金属ガラス遷移温度(Tg)以上の融点をもつもの、又は
(ハ)金属ガラス素材(1)より融点(Tm)の高いものなどが選定される。そして、
(ニ)金属ガラス素材(1)と合金を形成しないもの或いは合金化するものであったとしても生成されたポーラス金属ガラス(A)の表層のみに限られ、合金化した表層が酸やアルカリその他の薬剤で除去できるようなものであれば構わない。
(ホ)更に溶融金属ガラス素材(1a)の凝固中、或いは凝固した後に凝固金属ガラス(1b)から放散したり、酸、アルカリ、水その他の溶媒(6)により溶出除去できることが必要である。
【0021】
スペーサー物質(2)が固体の場合、形状は特に限定されないが、本発明の場合はポーラス体の成形を目的としている関係上、粉粒状物(2)が使用される。粒径も特に限定されるものではない。スペーサー物質(2)を具体的に述べれば、例えばNaCl[融点=801℃](イオン結合の塩)、CaCO3、MgOCO3(炭酸塩)、MgO[融点=2,830℃](酸化物)、CaO[融点=2,570℃](酸化物)などである。第1実施例ではNaClが本発明に使用されている。
【0022】
前記金属ガラス素材(1)は金属ガラス(A)を生成するための各成分素材或いは金属ガラス組成を有する素材(換言すれば、金属ガラス(A)の粉砕粉)であるが、金属ガラス(A)を生成するための各成分素材を用いる場合は、スペーサー物質(2)との溶融時に金属ガラス(A)とすることに困難性があるため、通常、金属ガラス(A)の粉砕粉を使用する。
【0023】
本発明で使用される加熱手段(8)は、電気炉、誘導加熱装置などであり、加熱に使用される収納容器(坩堝)は、例えば上端開口有底の石英管(7)である。
【0024】
また、本発明で使用される冷媒(5)は、水、液体窒素、油その他であり、本実施例では水が使用される。
【0025】
本発明で使用される溶媒(6)は、酸或いはアルカリまたは水、或いは有機溶媒であり、ここでは水又は酸が使用されている。
【0026】
次に、本発明の第1実施例(図1)について説明する。まず、金属ガラス素材(1)の粉粒状物とスペーサー物質(2)の粉粒状物とを石英管(7)に必要量必要割合(金属ガラス素材:スペーサー粒状物=6:4〜8:2[体積比])で投入する。投入方法は石英ガラス素材(1)の粉粒状物とスペーサー粉粒状物(2)とを十分に混合した状態として投入する場合でもよいし或いは図1(イ)のように上下に2層に分かれた状態で投入するようにしてもよい。
【0027】
第1実施例の石英管(7)の底部には、ピンホール或いは微細通孔(18)が穿設されており、有底石英管(7)への加圧或いは底部からの吸引により、溶融金属ガラス(1a)の流出はないが、石英管(7)に高圧で吹きこまれた加圧ガスが微細通孔(18)から流出するような構造となっている。加熱温度は、金属ガラス素材(1)が溶融するが、スペーサー粉粒状物(2)は溶融しない温度に制御される。
【0028】
続いて不活性ガス(Ar)を、石英管(7)の開口に装着されているシリンダ(9)(=本実施例ではアルゴン供給用ボンベ)から不活性ガス(=本実施例では0.3MPaのアルゴンガス)を石英管(7)内に吹き込み、石英管(7)の底部の微細通孔(18)から内部に吹き込んだ不活性ガス排出し、石英管(7)内の溶融状態の金属ガラス素材(1a)を撹拌し、溶融状態の金属ガラス(1a)がスペーサー粉粒状物(2)の空隙内に入り込んだ状態とする[勿論、溶融時点でこのようになっておれば、不活性ガス吹き込みは必ずしも必要がない。]。この状態で石英管(7)を冷媒(5)(水、オイル又は液体窒素)に浸漬し、溶融金属ガラス(1a)を急冷する。これによりスペーサー粉粒状物(2)の空隙に入り込んだ溶融金属ガラス素材(1a)は急冷されて結晶化することなくスペーサー粉粒状物(2)を含んだ金属ガラス凝固物(1b)となる。
【0029】
続いて、前記スペーサー粉粒状物(2)を含んだ金属ガラス凝固物(1b)を石英管(7)から取り出し、溶媒(6)(スペーサー粉粒状物(2)が塩[例えばNaCl]の場合、溶媒(6)は水)に浸漬し、スペーサー粉粒状物(2)を溶媒(6)に溶かし出す。これにより連続気泡型のポーラス金属ガラス(A)のブロックが得られる。
【0030】
ポーラス金属ガラス(A)の第2実施例(図2)は以下の通りである。例えばZr-Al-Ni-Cu系金属ガラス素材(1)と、該金属ガラス素材(1)の主成分(Zr)をその構成元素とする例えばZrH2のような水素化物[これがスペーサー物質(2)の1種である]とを混合する。続いてこの混合体(3)を電気炉(8)で加熱し金属ガス素材(1)を約800℃で融解すると共にペーサー物質(2)である水素化物を分解し、水素気泡(10)を発生させる。水素気泡(10)は溶融状態の金属ガラス(1a)内を上昇し、上下に伸びた気泡空間を形成する。この水素気泡(10)の発生中に溶融金属ガラス(1a)を急冷(例えば水冷)すると、無数の気泡空間が金属ガラス素材(1)内に残留して金属ガラス発泡体(A)となる。なお、この場合、スペーサー物質(2)となるZrH2が分解したとき、溶融金属ガラス(1a)内に残留するものは主成分であるZrであるから、組成が大幅に変更されず、金属ガラスとしての物性を維持することができる。
【0031】
ポーラス金属ガラス(A)の第3実施例(図3)は以下のとおりである。この場合は、予め、金属ガラス(A)より高融点スペーサー物質(2) (本実施例では、NaCl)の粒子にて所定の形の連続気泡型のポーラス体(P)を形成しておく。ポーラス体(P)の注湯口(20)を除く外面は溶融金属ガラス(1a)が流出しないように閉塞壁が形成されている(勿論、石英管(7)内に前記高融点スペーサー物質(2)の粒子を充填したようなものでもよい)。
【0032】
一方、金属ガラス素材(1)を前述と同様、石英管(7)を用いて誘導加熱により溶解し、溶融金属ガラス(1a)を注湯口(20)からポーラス体(P)に注湯する。続いて、これを冷媒(5)(本実施例では、水)に投入して溶融金属ガラス(1a)を急冷する。これにより溶融金属ガラス(1a)は金属ガラス状態を保って凝固する。換言すれば、高融点スペーサー物質(2)の粒子を含む金属ガラス凝固体(1b)となる。そして、そのまま冷媒(5)中に放置しておけば次第にスペーサー物質(2)は冷媒(5)(この場合は冷媒(5)である水が溶媒(6)の役目も兼ねる)に溶け、最終的に連続気泡型のポーラス金属ガラス(A)のブロックが得られる。図3の(2)は除去されたNaClを模式的に示したものである。
【0033】
ポーラス金属ガラス(A)の第4実施例(図4)は以下のとおりである。実施例1と同様に金属ガラス素材(1)を石英管(7)に入れ、石英管(7)の開口部を水素(或いは水素とアルゴンの混合ガス)又は窒素などが充填されたボンベ(9)に接続して金属ガラス素材(1)を水素(或いは水素とアルゴンの混合ガス)又は窒素雰囲気とし、然る後、電気炉(8)或いは誘導加熱により石英管(7)又は窒素内で金属ガラス素材(1)を溶融する。水素(或いは水素とアルゴンの混合ガス)又は窒素加圧下で金属ガラス素材(1)が溶融されるので、溶融金属ガラス(1a)は大量の水素又は窒素(これがスペーサー物質(2)である)を吸蔵(固溶)する。
【0034】
続いて石英管(7)の開口部をポンプ(11)に切替接続して石英管(7)から急速に排気してスペーサー物質(2)である吸蔵水素の気泡化による溶融金属ガラス(1a)の発泡を行わせつつ冷媒(5)に石英管(7)を浸漬して溶融石英ガラス(1a)を急冷し、発泡状態で金属ガラス状態を保ったまま凝固させ、石英管(7)から取り出す。これにより、連続気泡型のポーラス金属ガラス(A)のブロックが得られる。
【0035】
別法(請求項6;図7)として、前述同様に金属ガラス素材(1)を石英管(7)に入れ、石英管(7)の開口部を水素(或いは水素とアルゴンの混合ガス)又は窒素などが充填されたボンベ(9)に接続して金属ガラス素材(1)を水素(或いは水素とアルゴンの混合ガス)又は窒素雰囲気とし、然る後、電気炉(8)或いは誘導加熱により石英管(7)又は窒素内で金属ガラス素材(1)を溶融する。水素(或いは水素とアルゴンの混合ガス)又は窒素加圧下(本実施例では4MPa以下)で金属ガラス素材(1)が溶融されるので、溶融金属ガラス(1a)は大量の水素又は窒素(これがスペーサー物質(2)である)を吸蔵(固溶)する。
【0036】
続いて石英管(7)毎溶融金属ガラス(1a)を冷却(本実施例では水焼入れ)して金属ガラス水素固溶体(1b)又は金属ガラス窒素固溶体を形成する。然る後、石英管(7)を減圧(排気)ポンプ(11)に接続し、石英管(7)内を減圧状態にした後、金属ガラス水素固溶体(1b)又は金属ガラス窒素固溶体をTg(金属ガラス(A)の金属ガラス遷移温度)以上Tx(金属ガラスの結晶化温度)以下に再加熱し、軟化している金属ガラスから固溶されている水素又は窒素を放出させ、ポーラス化を図ると共に軟化状態で且つポーラス状態の金属ガラスを再度急冷(水焼入れ)してポーラス状態を固定する。これにより、連続気泡型のポーラス金属ガラス(A)のブロックが得られる。この場合、断面円形でその直径が大小さまざまな通孔が無数に形成される。
【0037】
なお、この場合も前述同様、ガス排気と冷却タイミングとその冷却速度を適切に行う必要があり、ガス排気が不十分なときに急冷を行うと、ガスが金属ガラス内に取り込まれた状態となってしまうし、逆に急冷が遅いと、ガスが抜け切ってから急冷されることになり、ポーラス状態にならない。なお、前記水素の固溶量は水素(或いは水素とアルゴンの混合ガス)の雰囲気圧力により制御出来る。
【0038】
なお、脱ガスの方法としては前述のようにポンプ(11)により直接石英筒(7)内を減圧状態にしてもよいし、図5のように、撹拌ガス(12)(Ar、窒素のような不活性ガス或いは水素又はArと水素の混合ガスのような溶融金属ガラス(1a)内に多量に吸蔵されるガス)を石英筒(7)内に投入して溶融金属ガラス(1a)を撹拌した後、或いは撹拌ガス(12)を投入することなく溶融したそのままの状態で石英筒(7a)の上部開口を閉塞した後、石英筒(7a)の底部(7b)に接続されている急冷用シリンダ(13)のピストン(14)を作動させて石英筒(7a)から急冷用シリンダ(13)内の溶融金属ガラス収納空間(15)を急拡張させて当該空間(15)を急速に減圧状態にし(断熱膨張)、溶融金属ガラス(1a)内に吸蔵されているスペーサー物質(2)である吸蔵ガスを溶融金属ガラス(1a)から急速に放出させ且つ急冷用シリンダ(13)の大質量で急冷用シリンダ(13)内に吸い込まれた溶融金属ガラス(1a)を急冷し、連続気泡型のポーラス金属ガラス(A)のブロックを得るようにしてもよい。この場合、急冷用シリンダ(13)による急冷速度を高めるため、急冷用シリンダ(13)の材質を熱伝導性に優れた銅とし、水冷構造にするのは好ましい。
【0039】
次に、実施例5(図6)のポーラス金属ガラス(A)の製造方法を説明する。この場合は、金属ガラス粉末(1)(この場合は、金属ガラスの各組成材料の粉末ではなく、すでに金属ガラスとなったものの粉末である。例えば、Zr55Al10Ni5Cu30)と、金属ガラスと合金を形成しないスペーサー物質スペーサー物質(2)の粉末(例えばCaCO3の平均粒径が10μmで、金属ガラスの平均粒径より小さいものが好ましい。)とを混合し、この混合体(3)を金型(18)に入れて上下からピストン(16)(17)(電極も兼ねる)で押圧し、通電加熱(例えば金属ガラスの燒結に有効なパルス通電)により燒結すると共に金属ガラス遷移温度(Tg)付近で加圧して所定の形状に押し固める。この状態は金属ガラス粉(1)とスペーサー物質(2)の粉末との混合燒結状態である。換言すれば、金属ガラス粉(1)同士が燒結により部分的に結合した状態の間にスペーサー物質(2)の粉末が互いに接触状態を保って存在する状態で、このような混合粉末圧粉燒結体(3b)を形成した後、この混合粉末圧粉燒結体(3b)を金型(18)(前述同様、銅製水冷金型)にて冷却する。然る後、この混合粉末圧粉燒結体(3b)を溶媒(6)(スペーサー物質(2)がCaCO3の場合は、0.1mol/リットルの硝酸[HNO3]が用いられる)に浸漬し、脱スペーサー燒結体(3c)の燒結金属ガラス粉末…間に存在するスペーサー物質(2)を溶解・除去する。これにより連続気泡型のポーラス金属ガラス(A)のブロックが得られる。以下は、実施例5の成形条件である(表1)。
【0040】
【表1】

圧縮比=見かけ密度/圧縮密度
ポロシティ=ポア率
以上の方法により得られたポーラス金属ガラス(A)のブロックの特徴は;
(a) 低密度である。
(b) 連続気泡で表面に開口している場合、表面積が非常に大きくなる。
(c) ヤング率が原金属ガラスより低くなる。
(d) 大きな塑性歪みを実現する。
【産業上の利用可能性】
【0041】
この製造方法を用いることにより、連続気泡型のポーラス金属ガラスブロックが得られ、優れた金属ガラスの特性を生かして、過酷な環境の濾過材料、特殊な電磁波シールド材料、触媒材料、水素吸蔵合金材料、高耐磨耗軸受け材料、生体材料、ゴルフ材料、メガネフレーム用材料、消音材料、自動車、航空機、輸送機器の部品用材料等に広範囲で応用されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の第1実施例の手順を示す図面である。
【図2】本発明の第2実施例の手順を示す図面である。
【図3】本発明の第3実施例の手順を示す図面である。
【図4】本発明の第4実施例の手順を示す図面である。
【図5】本発明の第4実施例の他の手順を示す図面である。
【図6】本発明の第5実施例の手順を示す図面である。
【図7】本発明の第6実施例の手順を示す図面である。
【図8】図7のポーラス金属ガラスの顕微鏡写真図である。
【符号の説明】
【0043】
(A) ポーラス金属ガラス
(1) 金属ガラス素材
(1a) 溶融金属ガラス
(1a’)水素又は窒素固溶金属ガラス体
(1b) 発泡凝固体
(2) スペーサー物質(スペーサー粉粒状物)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ガラス素材と、その融点が前記金属ガラス素材の融点より更に高融点のスペーサー物質にて形成されたスペーサー粉粒状物とを金属ガラス素材の融点以上、スペーサー粉粒状物の融点以下の温度で加熱して金属ガラス素材を溶融してスペーサー粉粒状物が互いに接触した状態にて溶融金属ガラス内に分散した状態となるようにし、続いてこの溶融金属ガラスを急冷して前記スペーサー粉粒状物間にて溶融金属ガラスを凝固させ、然る後、スペーサー粉粒状物を溶媒にて除去することを特徴とするポーラス金属ガラスの製造方法。
【請求項2】
金属ガラス素材と、該金属ガラス素材の主成分をその構成元素とし、その融点が前記金属ガラス素材の融点より更に高融点のスペーサー物質である水素化物とを混合し、続いてこの混合体を加熱して金属ガラス素材を溶融すると共に前記水素化物を分解し、水素化物の分解により生成された水素気泡の発生中に急冷して金属ガラス素材を発泡体にすることを特徴とするポーラス金属ガラスの製造方法。
【請求項3】
金属ガラスより高融点のスペーサー物質の連続気泡ポーラス体の空隙に溶融金属ガラス素材を充填した後、これを急冷し、然る後、前記ポーラス体を溶媒にて除去することを特徴とするポーラス金属ガラスの製造方法。
【請求項4】
金属ガラス素材を溶融し、続いてスペーサー物質である圧力ガスを溶融金属ガラス中に圧入し、然る後、加圧状態からそれ以下の圧力に戻して溶融金属ガラス中のスペーサー物質である吸蔵ガスの発泡脱ガスにより凝固中の金属ガラス内に気泡を形成させつつ溶融金属ガラスを急冷することを特徴とするポーラス金属ガラスの製造方法。
【請求項5】
金属ガラス素材の粉粒状体と、金属ガラス遷移温度(Tg温度)以上の融点を持つスペーサー物質の粉粒状体とを混合し、この混合体を金属ガラス遷移温度(Tg温度)直上の温度で加圧焼結し、然る後、この混合焼結体からスペーサー物質を溶媒で除去することを特徴とするポーラス金属ガラスの製造方法。
【請求項6】
金属ガラス素材を高圧水素雰囲気中で溶融し、溶融金属ガラス中にスペーサー物質である水素又は窒素を固溶し、次いで、これを急冷して水素固溶金属ガラス体又は窒素固溶金属ガラス体を形成し、然る後、この水素固溶金属ガラス体又は窒素固溶金属ガラス体を(Tg−Tx温度)の範囲内で加熱して固溶した水素又は窒素の気泡化を促し、水素気泡又は窒素気泡発生中に金属ガラス体を冷却することを特徴とするポーラス金属ガラスの製造方法。
【請求項7】
スペーサー物質が窒素の場合、金属ガラス素材は鉄基又はジルコニウム基であることを特徴とするポーラス金属ガラスの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7に記載のいずれかの製造方法にて形成されたポーラス金属ガラス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−2195(P2006−2195A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−178027(P2004−178027)
【出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(592200338)日本素材株式会社 (29)
【Fターム(参考)】