説明

マイクロカプセルおよびその製造方法

【課題】 塗膜修復成分の含有率が高く、機械的強度と脆弱性のバランスに優れ自己修復性の塗膜の製造に適したマイクロカプセルを提供する。
【解決手段】 液状の塗膜修復成分と、塗膜修復成分を封入する殻膜と、を備え、応力により破裂して塗膜修復成分を放出する自己修復性塗膜用のマイクロカプセル。このマイクロカプセルの殻膜は、少なくともナイロン系重合膜と、該ナイロン系重合膜の内側に形成されたポリウレア系重合膜とを含み、ポリウレア系重合膜は、ヘキサメチレンジイソシアネートのトリマーと、該トリマーを1構造単位とした場合に2以上のトリマーが結合した多量体と、を含有するトリマー変性体混合物から重合される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己修復性を有する塗膜形成用のマイクロカプセルおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塗膜や複合材料などの種々の材料に自己修復機能を付与するインテリジェント材料の一つとしてマイクロカプセルの利用が検討されている。例えば、特許文献1では、塗膜にキズが生じた場合に破裂し、損傷部分を被覆するフィルム形成成分と金属表面の腐食抑制剤を放出するマイクロカプセルを含有する防蝕金属塗膜が提案されている。また、複合材料のマイクロクラックの自己修復に関するものとして、特許文献2では、ポリマーマトリックス中に重合活性化剤を内包させたマイクロカプセルを配合する技術が提案されている。さらに、特許文献3では、自己修復の目的に用いるマイクロカプセルを、相分離法と液中乾燥法を組み合わせた方法で安定的かつ効率的に製造する方法が提案されている。
【0003】
塗膜に自己修復機能を持たせるには、マイクロカプセル中に長期間にわたり塗膜修復成分を内包させた状態にしておくことが必要である。そのためには、マイクロカプセル中への塗膜修復成分の含有率を高くし、塗膜修復成分の含有量を十分に高めておく必要がある。また、マイクロカプセル中に内包された塗膜修復成分が時間の経過とともに滲出しないように、封入性を高めておく必要もある。
【0004】
マイクロカプセルにおける内包物の含有率を高めるための提案として、特許文献4では、農薬などの芯物質を吸着・保持した多孔性の芯物質担体を、疎水性(または親水性)の皮膜形成性ポリマーを溶解した有機溶媒(または水)中に分散して第1のエマルションを調製した後、この第1のエマルションを水溶液(または油溶液)に添加して第1のエマルションが水中(または油中)に分散した第2のエマルションを調製し、この第2のエマルションから有機溶媒(または水)を除去することにより、ポリマーから成る皮膜内に、芯物質担体に吸着・保持された芯物質が内包されたマイクロカプセルを得る方法が提案されている。
【0005】
また、特許文献5では、尿素及びホルムアルデヒド等の重縮合反応により形成されるアミノ樹脂よりなる第一次壁と、構造単位中にウレア結合を有するカチオン性ポリアミド−エピハロヒドリン樹脂とポリスチレンスルホン酸及び(又は)その塩とのポリイオンコンプレックスよりなる第二次壁と、を備えた二重壁マイクロカプセルにより、保存中のマイクロカプセルからの内包成分の滲出を防止するとともに、耐熱性と耐湿性を向上させる提案がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2002−506112号公報
【特許文献2】特表2008−540733号公報
【特許文献3】特開2007−222807号公報
【特許文献4】特開2002−301357号公報
【特許文献5】特開平5−7767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
マイクロカプセル中への塗膜修復成分の含有率を高めるには、マイクロカプセルを構成する殻材の構造や材質、製造条件の検討が不可欠である。また、塗膜のように外部環境に曝された状態で自己修復機能を保持し続けるためには、マイクロカプセルの殻材に、塗膜中で長期間安定的に塗膜成分を保持し得る特性と、キズなどの発生時に一定以上の応力(衝撃など)で破裂して塗膜修復成分を放出させ得る特性とが必要になる。つまり、自己修復性を有する塗膜に配合されるマイクロカプセルには、機械的強度と脆弱性のバランスが必要である。この場合、マイクロカプセルが配合される母材(例えば塗料や塗膜)との関係や、マイクロカプセル中に内包される塗膜修復成分との関係も十分に考慮する必要がある。しかしながら、自己修復性の母材を形成する目的で使用されるマイクロカプセルにおいて、塗膜修復成分の含有率と保持率を高めるとともに、塗膜への配合に適した機械的強度と脆弱性のバランスを図るための検討は、これまでなされていなかった。
【0008】
本発明の目的は、塗膜修復成分の含有率と保持率が高く、さらに機械的強度と脆弱性のバランスに優れ、自己修復性の塗膜の製造に適したマイクロカプセルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記実情に鑑み鋭意研究を行った結果、マイクロカプセルの殻膜を、少なくともナイロン系重合膜とポリウレア系重合膜とを有する多重膜として形成するとともに、ポリウレア系重合膜の原料として、ヘキサメチレンジイソシアネートのトリマー変性体の混合物を使用することによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明のマイクロカプセルは、塗膜中に配合され、応力により破裂して塗膜を補修する成分を放出し、塗膜に自己修復性を付与するマイクロカプセルであって、
液状の塗膜修復成分と、
前記塗膜修復成分を封入する殻膜と、
を備えており、
前記殻膜は、少なくともナイロン系重合膜と、該ナイロン系重合膜の内側に形成されたポリウレア系重合膜とを含み、
前記ポリウレア系重合膜は、ヘキサメチレンジイソシアネートのトリマーと、該トリマーを1つの構造単位とした場合に2以上のトリマーが結合した多量体と、
を含有するイソシアネート系重合性成分を原料として重合されたものである。
【0011】
本発明のマイクロカプセルにおいて、前記塗膜修復成分が、ジシクロペンタジエンを含有することが好ましい。
【0012】
本発明のマイクロカプセルにおいて、前記イソシアネート系重合性成分中における、前記トリマーの比率が5重量%以上95重量%以下の範囲内であり、前記トリマーが2つ結合した多量体の配合比率が5重量%以上95重量%以下の範囲内であることが好ましい。
【0013】
本発明に係るマイクロカプセルの製造方法は、塗膜中に配合され、応力により破裂して塗膜を補修する成分を放出し、塗膜に自己修復性を付与するマイクロカプセルの製造方法であって、
下記成分A〜C;
A)塗膜修復成分、
B)クロライド系重合性成分、および
C)ヘキサメチレンジイソシアネートのトリマーと、該トリマーを1つの構造単位とした場合に2以上のトリマーが結合した多量体と、を含有するイソシアネート系重合性成分、
を含有する有機相と、水溶性分散安定剤を含有する水相と、をそれぞれ調製する工程と、
前記有機相と水相とを混合、攪拌し、前記水相に前記有機相が分散した水中油滴型エマルション液を調製する工程と、
前記水中油滴型エマルション液中に、アミン系重合性成分を含有するアルカリ水溶液を添加し、4℃以上20℃以下の範囲内の温度で、前記クロライド系重合性成分により第1の重合反応を生じさせ、前記塗膜修復成分を内包するナイロン系重合膜を形成させる工程と、
20℃以上80℃以下の範囲内の温度で、前記イソシアネート系重合性成分により第2の重合反応を生じさせ、前記ナイロン系重合膜の内表面にポリウレア系重合膜を形成させる工程と、
を備えている。
【0014】
本発明のマイクロカプセルの製造方法において、前記イソシアネート系重合性成分中における、前記トリマーの比率が5重量%以上95重量%以下の範囲内であり、前記トリマーが2つ結合した多量体の配合比率が5重量%以上95重量%以下の範囲内であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のマイクロカプセルは、ナイロン系重合膜と、その内側に形成された、ヘキサメチレンジイソシアネートのトリマー変性体混合物を原料とするポリウレア系重合膜とを有する多重の殻膜を有する構成としたので、塗膜修復成分を高い含有率で含有するとともに、塗膜修復成分の滲出がなく、長期間安定的に塗膜修復成分を保持できる。また、本発明のマイクロカプセルは、機械的強度と脆弱性のバランスに優れており、応力が加えられると破裂して塗膜修復成分を放出するため、自己修復性の塗膜形成用のマイクロカプセルとして利用価値が高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】マイクロカプセルの構造を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
[マイクロカプセル]
まず、図1を参照しながら、本発明の一実施の形態に係るマイクロカプセルの構造について説明する。マイクロカプセル1は、液状の塗膜修復成分2が、殻膜3によって内包された構造を有している。殻膜3は、内膜3aと、内膜3aの周囲を覆う外膜3bと、により構成される2重膜である。マイクロカプセル1の形状は球状が好ましい。
【0018】
塗膜修復成分2は、液状であり、マイクロカプセル1が混入させられる塗膜(後述)のキズや亀裂等に対する修復作用を有する成分によって構成される。塗膜修復成分2は、塗膜の種類に応じて選択できる。塗膜修復成分2としては、例えばマイクロカプセル1から放出された後、空気との接触や紫外線により硬化(固化)して修復作用を奏するものや、マイクロカプセル1から放出された後、塗膜中に含まれる触媒成分等との接触によって固化して修復作用を奏するものなどを挙げることができる。
【0019】
上記のような塗膜修復成分2としては、例えばジシクロペンタジエン(DCPD)、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンサルファイト、ポリエーテルスルフォン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリオキシメチレン、ポリフェニレンオキサイド、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体、ポリ(メタ)アクリル酸(エステル)、合成ゴム等の合成接着剤、天然ゴムやニトロセルロース等の天然接着剤等を挙げることができる。上記塗膜修復成分2は、1種に限らず、2種以上を組み合わせて使用できる。
【0020】
殻膜3は、少なくとも内膜3aと外膜3bを有する多重膜である。内膜3aはポリウレア系重合膜であり、外膜3bはナイロン系重合膜である。ナイロン系重合膜は、後述するように、クロライド系重合性成分と、アミン系重合性成分との界面重合反応により形成される。また、ポリウレア系重合膜は、後述するように、ヘキサメチレンジイソシアネートのトリマー(イソシアヌレート体)と、該トリマーを1つの構造単位とした場合に2以上の構造単位(2以上のトリマー)が結合した多量体と、を含有するイソシアネート系重合性物質から重合されたものである。
【0021】
マイクロカプセル1の粒径は、自己修復性の塗料に配合する場合、粒度分布により測定される頻度分布では、例えば0.01μm以上1000μm以下の範囲内とすることが好ましく、0.1μm以上500μm以下の範囲内とすることがより好ましい。粒径が上記の上限値を超えると、母材の強度を低下させる傾向となり、下限値未満では母材へのマイクロカプセルの分散性が低下する傾向となる。
【0022】
マイクロカプセル1は、塗膜中で長期間安定的に存在する必要がある一方で、キズなどの発生時に一定以上の応力が加えられた場合に破裂して塗膜修復成分を放出させ得ることが必要である。このため、マイクロカプセルの強度は、例えばマイクロカプセルをスライドガラスに挟んで圧縮した場合に、マイクロカプセルが破れて内包している塗膜修復成分を十分に放出している状態であることが好ましい。マイクロカプセルの破壊強度は、例えばマイクロカプセルの粒径を制御することにより調節することができる。マイクロカプセルに適正な破壊強度を付与する観点から、例えばマイクロカプセルの最頻径は、1μm以上100μm以下の範囲内とすることが好ましく、10μm以上75μm以下の範囲内とすることがより好ましく、このような範囲とすることで、マイクロカプセルの破壊強度を好ましい範囲に調節することができる。
【0023】
[マイクロカプセルの製造方法]
次に、マイクロカプセルの製造方法について説明する。本実施の形態のマイクロカプセルの製造方法は、以下の工程a〜工程dを備えている。なお、本実施の形態のマイクロカプセルの製造方法は、必要に応じて、工程a〜d以外の任意の工程を含むことができる。
【0024】
工程a:
この工程aでは、有機相および水相をそれぞれ調製する。有機相は、塗膜修復成分、クロライド系重合性成分およびイソシアネート系重合性成分を含有する。このイソシアネート系重合性成分は、ヘキサメチレンジイソシアネートのトリマーと、該トリマーを1トリマー単位とした場合に2以上のトリマー単位が結合した多量体と、を含有する。水相は、例えば、水溶性分散安定剤を含有する。
【0025】
工程aで、有機相に配合されるクロライド系重合性成分としては、例えば、セバコイルジクロリド、トリメソイルクロリド、マロニルジクロリド、琥珀酸クロリド、グルタルジクロリド、アジポイルジクロリド、塩化フマリン、塩化フマリル、塩化イタコニル、テレフタル酸クロリド等を挙げることができる。これらは、単独もしくは2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
有機相に配合されるイソシアネート系重合性成分としては、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)のトリマー変成体の混合物を使用することができる。例えば、下記式1で示されるHDIのトリマー(6員環構造のイソシアヌレート体)と、該トリマーを1つの構造単位とした場合に2以上の構造単位(2以上のトリマー)が結合した多量体と、を含むトリマー変性体の混合物を用いることが好ましい。ここで、HDIのトリマーの「2以上のトリマーが結合した多量体」の代表例としては、下記式2で示されるように、トリマーが2つ結合した多量体を挙げることができる。
【0027】
【化1】

【0028】
【化2】

【0029】
マイクロカプセルへの塗膜修復成分の含有率を高めるためには、イソシアネート系重合性成分中に、上記式1で示されるトリマーが5重量%以上95重量%以下の範囲内で含まれることが好ましく、30重量%以上70重量%以下の範囲内で含まれることがより好ましい。また、イソシアネート系重合性成分中に、上記式2で示される多量体が5重量%以上95重量%以下の範囲内で含まれることが好ましく、10重量%以上40重量%以下の範囲内で含まれることがより好ましい。
【0030】
また、イソシアネート系重合性成分中には、上記式1および式2以外の多量体を含有することができる。上記式1および式2以外の多量体は、5重量%以上90重量%未満の範囲内で含まれることが好ましく、10重量%以上40重量%以下の範囲内で含まれることがより好ましい。
【0031】
上記のような配合組成を有するトリマー変成体の混合物としては、市販品を使用可能であり、例えばコロネートHXLV、コロネートHX[いずれも商品名:日本ポリウレタン工業(株)製]を使用することができる。
【0032】
なお、イソシアネート系重合性成分中には、トリマーおよび多量体(ダイマーを除く)の合計が50重量%を超える範囲で含まれることが好ましく、70重量%以上の範囲で含まれることがより好ましい。
【0033】
イソシアネート系重合性反応物質としては、上記HDIのトリマー変性体の混合物と組み合わせて、さらに、例えばフェニルイソシアネート、トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート等を用いることができる。これらは、単独もしくは2種類以上を組み合わせて使用できる。
【0034】
有機相中には、塗膜修復成分を5重量%以上85重量%以下の範囲内、好ましくは10重量%以上75重量%以下の範囲内、クロライド系重合性成分を1重量%以上40重量%以下の範囲内、好ましくは5重量%以上35重量%以下の範囲内、イソシアネート系重合性成分を1重量%以上40重量%以下の範囲内、好ましくは5重量%以上35重量%以下の範囲内、それぞれ含有することができる。
【0035】
工程aで、有機相には、上記以外の成分として、例えばポリオキシエチレンが付加したジスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンが付加したアルコールエーテル、ポリオキシエチレンが付加したソルビタンモノオレエート等のツイーン系界面活性剤や、ソルビタンモノオレエート等のスパン系界面活性剤などの界面活性剤や、ジクロロメタン、ジクロロエタン、オクタン、ヘキサン、イソオクタン、デカン、ノナン、ドデカン、アセトン、メタノール、エタノール、ブタノール、クロロホルム、酢酸エチルなどの溶媒成分などを配合することができる。
【0036】
水相は、蒸留水などの母液に、例えば水溶性分散安定剤などの成分を配合して形成することができる。水溶性分散安定剤としては、例えばアラビアゴム、ゼラチン、レシチン、カゼイン、デキストリン、ペクチン、アルギン酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルエーテル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール等の多価アルコール、ツイーン系界面活性剤、スパン系界面活性剤、マグネシウム化合物、カルシウム化合物などの多価金属化合物が挙げられる。水溶性分散安定剤は、単独もしくは2種類以上を混合して使用することができる。
【0037】
工程b:
この工程bでは、工程aで得られた有機相および水相を混合し、水相に有機相が分散した水中油滴型(O/W)エマルション液を調製する。水中油滴型エマルション液を調製する際の攪拌速度により、マイクロカプセルの粒径を調節できる。攪拌速度が大きいほどマイクロカプセルの粒径は小さくなる傾向がある。前記のように、塗膜に配合する場合のマイクロカプセルの粒径は0.01〜1000μmの範囲内が好ましく、このような粒径のマイクロカプセルを調製するためには、攪拌速度を50rpm以上50000rpm以下の範囲内に設定することが好ましい。
【0038】
工程c:
この工程cでは、水中油滴型エマルション液中に、アミン系重合性成分を含有するアルカリ水溶液を添加し、4℃以上20℃以下の範囲内の温度で、クロライド系重合性成分により第1の重合反応を生じさせ、前記塗膜修復成分を内包するナイロン系重合膜を形成させる。
【0039】
第1の重合反応は、有機相(油滴)と水相の界面におけるアミン系重合性成分とクロライド系重合性成分による界面重合反応である。この重合反応では、アミン系重合性成分が反応開始剤となる。アミン系重合性成分としては、例えばエチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、p−フェニレンジアミン、2−メチルピペラジン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等を挙げることができる。これらは、単独もしくは2種類以上を組み合わせて使用できる。
【0040】
アルカリ水溶液としては、例えば水酸化ナトリウム溶液、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムなどを使用できる。
【0041】
工程d:
この工程dでは、例えば20℃以上80℃以下の範囲内の温度で、アミン系重合性成分とイソシアネート系重合性成分により第2の重合反応を生ぜしめ、ナイロン系重合膜の内表面にポリウレア系重合膜を形成させる。第2の重合反応は、ポリウレア重合反応である。本工程dでは、工程cの後、水中油滴型エマルション液の温度を上記範囲まで加温するだけで重合反応が生じ、ポリウレア系重合膜を形成できる。但し、工程cにおける第1の重合反応の温度(Tc)と工程dにおける第2の重合反応の温度(Td)の差(Td−Tc)を0.5℃以上とすることが好ましい。
【0042】
以上の工程a〜dを行うことにより、ナイロン系重合膜とポリウレア系重合膜とを有する2重膜中に、塗膜修復成分2を内包したマイクロカプセル1を形成できる。マイクロカプセル1は、ろ過して液相と分別し、乾燥することにより、粉末の形態で得ることができる。ろ過方法としては、例えば吸引ろ過や遠心分離などの方法が好ましい。乾燥方法としては、デシケータ内での常温乾燥や、凍結乾燥などが好ましい。
【0043】
[作用]
本発明のマイクロカプセルは、ナイロン系重合膜とポリウレア系重合膜との二重壁にしたので、塗膜への配合に適した機械的強度と脆弱性を有しており、塗膜修復成分の隔離性に優れている。また、HDIのトリマー変性体を用いることで、カプセル外殻の強度がより増し、修復成分の含有率も高い。このため、本発明のマイクロカプセルは、自己修復性塗膜の製造に適したものである。
【0044】
本発明のマイクロカプセルは、例えば塗料に配合することによって、塗膜に自己修復性を付与できる。塗料には、例えばアクリル樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂などの塗膜形成成分と、必要に応じて配合される添加剤、例えば、顔料、流動性調整剤、ハジキ防止剤、垂れ止め防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、紫外線安定剤、つや消し剤、艶出し剤、防腐剤、硬化促進剤、硬化触媒、擦り傷防止剤、消泡剤等を特に制限なく使用することができる。
【実施例】
【0045】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらによって何ら制約されるものではない。なお、実施例において特にことわりないが限り、各種測定、評価は下記によるものである。
【0046】
[粒子径の測定]
粒度分布測定器(HORIBA社製)により最頻径を測定した。
【0047】
[含有率、回収率]
以下の計算により求めた。
DCPD含有率(%)=[カプセル中のDCPDの質量/カプセル質量]×100
内包効率(%)=[(カプセル回収量×DCPD含有率)/仕込みDCPD量]
回収率(%)=[カプセル回収量/仕込みカプセル材(芯物質+殻材)量]×100
【0048】
実施例1
水相(連続相)として、蒸留水300mlに分散安定剤としてのアラビアゴムを2重量%(6g)溶解させたものを準備した。また、ジシクロペンタジエン(DCPD)を10g(75.6mmol)、セバコイルクロリドを1.913g(8mmol)、トリメソイルクロリドを0.478g(1.8mmol)、コロネートHXLV[商品名:1,6−ヘキサメチレンジイソシアネートのトリマー変成体の混合物、日本ポリウレタン工業(株)製]を2g(2.78mmol)およびソルビタンモノオレエートを0.145g(0.34mmol)混合し、有機相(分散相)を準備した。なお、イソシアネート系重合性成分であるコロネートHXLV中には、上記式1で示されるHDIのトリマーを70重量%、式2で示されるトリマーが2つ結合した多量体を15重量%、上記式1、式2以外の、2つ以上のトリマーが結合した多量体を15重量%含有し、HDIのダイマーは含有しない。
【0049】
上記水相に有機相を注入し、20℃、8000rpmで10分間撹拌してO/Wエマルション液を調製した。このO/Wエマルション液に、エチレンジアミン1g(16mmol)を溶解させた1N−水酸化ナトリウム水溶液(25ml)を徐々に加え、20℃で10分間かけて攪拌しながら界面重合反応を起こさせ、ナイロン系重合膜を形成させた。次に、O/Wエマルション液を50℃まで加温し、同温度で3時間かけて攪拌しながらポリウレア生成反応を起こさせ、ナイロン系重合膜の内側にポリウレア系重合膜を形成させ、平均粒径13μm(最頻径19μm)の二重膜マイクロカプセルを形成した。
【0050】
その後、遠心分離によってマイクロカプセルを液相から分別し、凍結乾燥して粉末状のマイクロカプセルを得た。このマイクロカプセルのDCPDの含有率は61.1%、回収率は87.3%、内包効率は75.8%であった。調製したマイクロカプセル100個を分取してスライドガラスに挟んで圧縮し、電子顕微鏡による観察を行った。マイクロカプセル100個全てにおいて、マイクロカプセルの殻膜より放出されたDCPDが破壊された殻膜全体を覆い、DCPDが殻膜から十分に放出されていることを確認した。
【0051】
実施例2
実施例1において、O/Wエマルション液の調製に際し8000rpmで10分間撹拌した代わりに、300rpmで10分間撹拌したこと以外、実施例1と同様にして、平均粒径703μmの二重膜マイクロカプセルを形成した。
【0052】
その後、吸引ろ過によってマイクロカプセルを液相から分別し、デシケータ内(常温常圧)で乾燥して粉末状のマイクロカプセルを得た。このマイクロカプセルのDCPDの含有率は62.4%、回収率は64.4%、内包効率は62.4%であった。調製したマイクロカプセル100個を分取してスライドガラスに挟んで圧縮し、電子顕微鏡による観察を行った。マイクロカプセル100個中98個において、マイクロカプセルの殻膜より放出されたDCPDが破壊された殻膜全体を覆い、DCPDが殻膜から十分に放出されていることを確認した。
【0053】
実施例3
実施例1において、コロネートHXLV2g(2.78mmol)を使用したことの代わりに、コロネートHXLVを1.02g(1.41mmol)及びジイソシアン酸トリレンを0.983g(5.65mmol)使用したこと以外、実施例1と同様にして、平均粒径12μm(最頻径17μm)の二重膜マイクロカプセルを形成した。
【0054】
その後、実施例1と同様にして、粉末状のマイクロカプセルを得た。このマイクロカプセルのDCPDの含有率は61.8%、回収率は80.1%、内包効率は74.2%であった。調製したマイクロカプセル100個を分取してスライドガラスに挟んで圧縮し、電子顕微鏡による観察を行った。マイクロカプセル100個全てにおいて、マイクロカプセルの殻膜より放出されたDCPDが破壊された殻膜全体を覆い、DCPDが殻膜から十分に放出されていることを確認した。
【0055】
実施例4
実施例3において、O/Wエマルション液の調製に際し8000rpmで10分間撹拌した代わりに、300rpmで10分間撹拌したこと以外、実施例1と同様にして、平均粒径648μmの二重膜マイクロカプセルを形成した。
【0056】
その後、吸引ろ過によってマイクロカプセルを液相から分別し、デシケータ内(常温常圧)で乾燥して粉末状のマイクロカプセルを得た。このマイクロカプセルのDCPDの含有率は63.1%、回収率は75.6%、内包効率は63.8%であった。調製したマイクロカプセル100個を分取してスライドガラスに挟んで圧縮し、電子顕微鏡による観察を行った。マイクロカプセル100個中92個において、マイクロカプセルの殻膜より放出されたDCPDが破壊された殻膜全体を覆い、DCPDが殻膜から十分に放出されていることを確認した。
【0057】
比較例1
水相(連続相)として、蒸留水300mlに分散安定剤としてのアラビアゴムを2重量%溶解させたものを準備した。次に、ジシクロペンタジエン(DCPD)を10g(75.6mmol)、セバコイルクロリドを1.913g(8mmol)、トリメソイルクロリドを0.478g(1.8mmol)、ジイソシアン酸トリレンを4.971g(28.6mmol)、イソシアン酸フェニルを3.4g(28.5mmol)およびソルビタンモノオレエートを0.143g(0.33mmol)混合し、有機相(分散相)を準備した。
【0058】
上記水相に有機相を注入し、25℃、2000rpmで10分間撹拌してO/Wエマルション液を調製した。このO/Wエマルション液に、エチレンジアミン1g(16mmol)を溶解させた1N−水酸化ナトリウム水溶液(25ml)を徐々に加え、25℃で10分間かけて攪拌しながら界面重合反応を起こさせ、ナイロン系重合膜を形成させた。次に、O/Wエマルション液を50℃まで加温し、同温度で2時間かけて攪拌しながらポリウレア生成反応を起こさせ、ナイロン系重合膜の内側にポリウレア系重合膜を形成させ、平均粒径44.2μmの二重膜マイクロカプセルを形成した。
【0059】
その後、遠心分離によってマイクロカプセルを液相から分別し、凍結乾燥して粉末状のマイクロカプセルを得た。このマイクロカプセルのDCPD含有率は25.8%、回収率は75.4%、内包効率は64.5%であった。
【0060】
以上のように、本発明方法によって得られた実施例1〜4のマイクロカプセルは、DCPD含有率、回収率および内包効率がいずれも高く、優れた内包成分の保持能力を有しているとともに、圧縮時には崩壊して内包成分を放出させる性質を備えていることが確認された。一方、HDIのトリマー・多量体を使用せずに調製した比較例1のマイクロカプセルは、DCPD含有率が低く、内包成分の保持能力が十分ではなかった。
【0061】
以上、本発明の実施の形態を述べたが、本発明は上記実施の形態に制約されることはなく、種々の変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のマイクロカプセルは、インテリジェント材料として、自己修復性の塗膜を形成する塗料への配合が可能である。
【符号の説明】
【0063】
1…マイクロカプセル、2…塗膜修復成分、3…殻膜、3a…内膜、3b…外膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗膜中に配合され、応力により破裂して塗膜を補修する成分を放出し、塗膜に自己修復性を付与するマイクロカプセルであって、
液状の塗膜修復成分と、
前記塗膜修復成分を封入する殻膜と、
を備えており、
前記殻膜は、少なくともナイロン系重合膜と、該ナイロン系重合膜の内側に形成されたポリウレア系重合膜とを含み、前記ポリウレア系重合膜は、ヘキサメチレンジイソシアネートのトリマーと、該トリマーを1つの構造単位とした場合に2以上のトリマーが結合した多量体と、を含有するイソシアネート系重合性成分を原料として重合されたものであることを特徴とするマイクロカプセル。
【請求項2】
前記塗膜修復成分が、ジシクロペンタジエンを含有することを特徴とする請求項1に記載のマイクロカプセル。
【請求項3】
前記イソシアネート系重合性成分中における、前記トリマーの比率が5重量%以上95重量%以下の範囲内であり、前記トリマーが2つ結合した多量体の配合比率が5重量%以上95重量%以下の範囲内であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のマイクロカプセル。
【請求項4】
塗膜中に配合され、応力により破裂して塗膜を補修する成分を放出し、塗膜に自己修復性を付与するマイクロカプセルの製造方法であって、下記成分A〜C;
A)塗膜修復成分、
B)クロライド系重合性成分、および
C)ヘキサメチレンジイソシアネートのトリマーと、該トリマーを1つの構造単位とした場合に2以上のトリマーが結合した多量体と、を含有するイソシアネート系重合性成分、
を含有する有機相と、水溶性分散安定剤を含有する水相と、をそれぞれ調製する工程と、
前記有機相と水相とを混合、攪拌し、前記水相に前記有機相が分散した水中油滴型エマルション液を調製する工程と、
前記水中油滴型エマルション液中に、アミン系重合性成分を含有するアルカリ水溶液を添加し、4℃以上20℃以下の範囲内の温度で、前記クロライド系重合性成分により第1の重合反応を生じさせ、前記塗膜修復成分を内包するナイロン系重合膜を形成させる工程と、
20℃以上80℃以下の範囲内の温度で、前記イソシアネート系重合性成分により第2の重合反応を生じさせ、前記ナイロン系重合膜の内表面にポリウレア系重合膜を形成させる工程と、
を備えていることを特徴とするマイクロカプセルの製造方法。
【請求項5】
前記イソシアネート系重合性成分中における、前記トリマーの比率が5重量%以上95重量%以下の範囲内であり、前記トリマーが2つ結合した多量体の配合比率が5重量%以上95重量%以下の範囲内であることを特徴とする請求項4に記載のマイクロカプセルの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−11164(P2011−11164A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−158803(P2009−158803)
【出願日】平成21年7月3日(2009.7.3)
【出願人】(504258527)国立大学法人 鹿児島大学 (284)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】