説明

マイクロカプセル化組成物及び組織石灰化の方法

本発明は骨及び歯の石灰化に有用な組成物、製品及び方法に関する。この組成物は塩水溶液を含有するポリマーマイクロカプセルを含む。マイクロカプセルのシェルは半透過性又は不透過性であり得る。本発明の組成物においてはカルシウム塩、フッ化物塩及びリン酸塩の溶液が特に有用である。マイクロカプセルは、好ましくは界面活性剤を含まない逆エマルションの界面重合によって調製される。骨用の製品としてはセメント、足場及び生体活性ガラスが挙げられる。歯科用製品としてはペースト、ゲル、洗口液及び他の多くの歯科用材料が挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は様々な生体組織、主に骨及び歯の石灰化のための組成物、化合物及び方法に関する。石灰化される結合組織としては、ヒトを含む哺乳動物の歯、骨、並びにコラーゲン、軟骨、腱、靭帯及び他の密性結合組織並びに細網繊維(III型コラーゲンを含有する)等の様々な結合組織が挙げられる。本明細書中での定義を目的とすると、「石灰化される組織」とは具体的に骨及び歯を意味するものとする。「石灰化」、「組織石灰化」という用語はいずれも本明細書中で区別なく使用され、リン酸カルシウムの結晶が骨形成細胞又は歯形成細胞によって産生され、石灰化される組織(上記に規定された)の繊維性マトリックス又は足場内に正確な量で沈着するプロセスを意味する。
【0002】
[関連出願の相互参照]
本願は2009年4月27日付けで出願された米国仮出願第61/172,939号(参照により本明細書中に援用される)の利益を主張するものである。
【0003】
[連邦政府による資金提供を受けた研究開発の記載]
本発明は連邦政府の資金を用いて開発されたものではなく、本発明者らによって独立して開発されたものである。
【背景技術】
【0004】
リン酸カルシウムは、水素イオン又は水酸化物イオンを含有しても、又は含有しなくてもよいオルトリン酸塩、メタリン酸塩及び/又はピロリン酸塩と共にカルシウムイオンを含有する(これに限定されない)ミネラルの一種である。
【0005】
本明細書中での定義を目的とすると、「再石灰化」とは、無機イオンの形態のミネラルを歯のヒドロキシアパタイト格子構造に回復させるプロセスである。本明細書中で使用される場合、「再石灰化」という用語には石灰化、カルシウム沈着、カルシウム再沈着及びフッ素化、並びに様々な特定のイオンが歯に石灰化される他のプロセスが含まれる。「歯」という用語は、本明細書中で使用される場合、ヒトを含む動物の口腔内の歯の象牙質、エナメル質、歯髄及びセメント質を含む。
【0006】
或る特定の実施の形態では、本発明は、本発明の組成物を用いることによって歯質の表面をホワイトニングする方法を提供する。本明細書中での定義を目的とすると、本明細書中で言及する場合、「歯質」とは天然歯、義歯、歯床、充填材、キャップ、歯冠、ブリッジ、歯科用インプラント等、及びヒトを含む動物の口腔内で永続的又は一時的に歯に固定される他の任意の硬表面歯科用補綴物を指す。本明細書中で使用される場合、「ホワイトニング」及び「歯のホワイトニング」という用語は区別なく使用され、本明細書中で規定されるような歯の外観の変化、好ましくは歯のシェード又は光沢がより明るくなるような変化を指す。
【0007】
骨の状態
現在行われているどの治療戦略も、新生骨(new bone mass)の成長を十分に刺激又は増強する方法又は組成物を含んでいない。本発明は、局所的部位での骨石灰化の増加又は直接口腔内での歯の再石灰化に役立ち、したがって生体塩、特にカルシウム及びリン酸塩のバイオアベイラビリティによって改善することのできる任意の状態の結果として、骨量又は組織量の増加が所望される多様な状態の治療と共に利用され得る組成物、製品及び方法を提供する。
【0008】
或る特定の骨量の変化が個人の生涯の間に起こる。男女共に40歳頃から晩年にかけて緩やかな骨量低下が起こる。骨ミネラル量の低下は様々な状態によって引き起こされ、重大な医学的問題を生じ得る。組織石灰化のプロセスが適切に調節されなければ、ミネラルの不足又は過剰が起こり、そのいずれも骨の健康、硬度及び強度を損なう可能性がある。骨再形成サイクルの不均衡を引き起こす骨成長障害が多数知られている。中でも骨粗鬆症、骨増生(osteoplasia)(骨軟化症)、慢性腎不全及び副甲状腺機能亢進症等の代謝性骨疾患が代表的であり、これらは骨減少症として知られる異常又は過剰な骨量の低下をもたらす。パジェット病等の他の骨疾患も、局所的部位で過剰な骨量の低下をもたらす。
【0009】
骨粗鬆症は骨形成、骨吸収、又はその両方の不均衡によって生じる骨量の低下によって引き起こされる骨格の構造劣化である。骨吸収は破骨細胞が骨を破壊し、ミネラルを放出させるプロセスであり、骨液から血液へのカルシウムの移動をもたらす。骨吸収が骨形成段階よりも優勢になると、対象となる骨の体重支持力が低下する。健常な成人では、骨の形成及び再吸収の割合は、骨格骨の再生が維持されるよう緊密に調整されている。しかしながら、骨粗鬆症の個体では、これらの骨再形成サイクルの不均衡が発生し、骨量の低下及び骨格の連続性における微細構造の異常の形成の両方が生じる。再形成手順の乱れによって生じるこれらの骨格の異常は蓄積し、最終的に骨格の構造的完全性が著しく損なわれ、骨折が起こり得る状況に達する。この不均衡は大抵の個体においては加齢と共に徐々に起こるが、閉経後の女性でははるかに重篤であり、迅速に起こる。加えて、骨粗鬆症は栄養及び内分泌の不均衡、遺伝病及び多数の悪性転換によっても生じ得る。
【0010】
ヒトにおける骨粗鬆症は、米国でおよそ2500万人の人々に見られる状態である臨床的骨減少症(若年成人の骨における骨ミネラル密度の平均値から1標準偏差超2.5標準偏差未満下回る骨ミネラル密度)より始まる。米国では更に700万〜800万人の患者が臨床的骨粗鬆症(成熟若年成人の骨の骨ミネラル量を2.5標準偏差超下回る骨ミネラル量として定義される)であると診断されている。骨粗鬆症は医療制度に関して最もコストのかかる疾患の1つであり、米国において年間数十億ドルの損失を与えている。医療関連のコストに加えて、長期にわたる在宅看護及び労働日数の損失がこの疾患の財政的コスト及び社会的コストを増大させている。世界的には、およそ7500万人の人々に骨粗鬆症のリスクがある。
【0011】
ヒト集団における骨粗鬆症の頻度は年齢と共に増加し、白色人種においては大半が女性である(米国では女性が骨粗鬆症患者プールのおよそ80%を占める)。女性においてはさらに、別の骨量低下段階がおそらくは閉経後のエストロゲン欠乏のために生じる。この骨量低下段階の間、女性は更に皮質骨の10%及び骨梁小室(trabecular compartment)の25%を失う可能性がある。高齢者における骨格骨の脆弱性及び骨折に対する感受性の増加は、この集団における不慮の転倒のリスクが高いことから悪化する。米国では毎年150万件を超える骨粗鬆症関連の骨折が報告されている。臀部、手首及び椎骨の骨折は、骨粗鬆症に関連する最もよく見られる損傷の1つである。特に臀部の骨折は患者にとって極めて厄介で、コストがかかり、女性については高い死亡率及び罹患率と相関する。
【0012】
慢性腎不全を患う患者は、ほぼ例外なく骨格骨量の低下(腎性骨ジストロフィーと呼ばれる)を患う。腎機能不全が血中のカルシウム及びリン酸塩の不均衡を引き起こすことが知られているが、これまでの透析によるカルシウム及びリン酸塩の補給によっては、慢性腎不全を患う患者において骨ジストロフィーはほとんど抑制されない。成人においては、骨ジストロフィーの症状は罹患率の重大な原因であることが多い。小児においては、腎不全は多くの場合、骨量の維持及び/又は増加の不良により成長障害をもたらす。
【0013】
骨軟化症(「骨の軟化」)としても知られる骨増生は、骨石灰化の異常(例えば、不完全な石灰化)であり、古くからビタミンD欠乏(1,25−ジヒドロキシビタミンD3)に関連するとされている。この異常は骨の圧迫骨折、骨量の低下、並びに骨組織に代わる肥大軟骨及び増殖性軟骨の領域の拡大を引き起こす。この欠乏は、栄養不足(例えば小児のくる病)、ビタミンD若しくはカルシウムの吸収不良、及び/又はビタミンの代謝障害に起因し得る。
【0014】
副甲状腺機能亢進症(副甲状腺ホルモンの過剰産生)は、カルシウムの吸収不良を引き起こし、異常な骨量低下をもたらすことが知られている。小児では、副甲状腺機能亢進症は成長を抑制する可能性があり、成人では骨格完全性が損なわれ、肋骨及び椎骨の骨折が特徴的である。副甲状腺ホルモンの不均衡は、通常甲状腺腫又は腺過形成に起因し得るか、又はステロイドの長期の薬理学的使用に起因し得る。二次性副甲状腺機能亢進症は腎性骨ジストロフィーにも起因し得る。この疾患の初期段階では、過剰なホルモンの存在に応答して破骨細胞が刺激され、骨を再吸収する。疾患が進行するにつれ、骨梁が最終的に再吸収され、微小骨折の結果として骨髄が繊維(fibrosis)、マクロファージ及び出血巣に置き換わる(この状態は臨床的に線維性骨炎と称される)。
【0015】
パジェット病(変形性骨炎)は現在、ウイルス性病因を有すると考えられている障害であり、炎症を起こし、治癒するが、最終的には慢性及び進行性となり、悪性転換に至る可能性がある局所的部位での過剰な骨吸収を特徴とする。この疾患は通常25歳超の成人が罹患する。
【0016】
骨粗鬆症は、骨量の低下による骨折のリスクの増加として定義されているが、現在利用可能な骨障害の治療のいずれも、成人の骨密度を実質的に増加させることができない。骨減少症及び骨粗鬆症のリスクのある成人において特に手首、脊柱及び臀部の骨の骨密度を増加させ得る薬物が必要とされていることが、医師の間では強く認識されている。
【0017】
骨粗鬆症の予防のための現在の戦略は個体に幾らかの効果をもたらし得るが、疾患の回復を確かなものとすることはできない。これらの戦略には、高齢での発症に関し身体活動、特に体重負荷のかかる活動を抑えること、食事中に十分なカルシウムを含めること、及びアルコール又はタバコを含有する製品の摂取を避けることが含まれる。臨床的骨減少症又は骨粗鬆症を呈する患者については、現在の全ての治療薬及び戦略は、構成的に起こる骨再形成プロセスの自然な構成要素である骨吸収のプロセスを阻害することによって、さらなる骨量の低下を減少させることを対象とする。
【0018】
例えば、現在ではエストロゲンが骨量低下を遅らせるために処方されている。しかしながら、患者に対し何らかの長期的な利益があるか否か、また75歳以上の患者に対し少しでも効果があるか否かについては議論が分かれる。さらに、エストロゲンの使用は乳がん及び子宮体がんのリスクを増大させると考えられている。閉経後の女性向けには高用量の食事性カルシウム(ビタミンDを伴う又は伴わない)も提案されている。しかしながら、高用量のカルシウムの経口摂取には、不快な消化管副作用が認められる場合が多く、血清中及び尿中カルシウムレベルを継続的にモニタリングする必要がある。
【0019】
提案されている他の治療薬としては、カルシトニン、ビスホスフォネート、アナボリックステロイド及びフッ化ナトリウムが挙げられる。しかしながら、かかる治療薬は望ましくない副作用を有し(例えば、カルシトニン及びステロイドは吐き気を引き起こし、免疫反応を誘発する可能性があり、ビスホスフォネート及びフッ化ナトリウムは骨密度が適度に増加していても骨折の修復を抑制する可能性がある)、このことがそれらの使用を妨げていると考えられる。
【0020】
上記の障害は、所与の障害を患う個体において骨折、骨の亀裂又は粉砕を引き起こす可能性のある状態の例である。現在の治療法は、個体において生じた場合に、これらの障害を治療するには不十分であり、改善された骨折の治療の必要性が残される。本発明は、骨折、骨の亀裂、粉砕及び同様の損傷を局所治療するか、又は骨の石灰化の機構を増進させることによって分解された骨組織を強化することにより改善された組成物、製品及び方法を提供する。本発明がコラーゲン、軟骨、腱、靭帯並びに他の密性結合組織及び細網繊維等の周辺の結合組織の石灰化をもたらすことも考えられる。
【0021】
口腔
口腔内での組織分解に関しては、口内で徐々に起こる或る種の歯の分解及び齲蝕が、口腔内の食物粒子に対する細菌作用及び酵素作用によって生じる代謝産物である酸の供給源による歯のエナメル質の酸腐食から始まることが歯科分野において一般に知られている。微生物、タンパク性物質及び炭水化物、上皮細胞及び食物のかすの組織化構造からなる歯の表面上の軟らかい蓄積物であるプラークが、歯及び口腔の軟組織の様々な病的状態の発症の一因であることが一般に理解される。プラークに関連する口腔の糖分解性生物は、有機酸の蓄積及び局所的濃縮をもたらす代謝活性によってプラーク基質の下で歯の脱灰又は脱カルシウムを引き起こす。エナメル質の腐食及び脱灰は、口腔内で齲蝕の形成及び歯周病を引き起こすまで継続し得る。
【0022】
歯は、口腔内のpH変動の結果としてもミネラルの喪失及び回復の周期を繰り返す。所与の歯の位置でのミネラルの全体的な増減は、齲蝕プロセスが退行するか、安定するか、又は不可逆的な状態にまで進行するかを決定する。患者の多数の相関因子が、このサイクルの再石灰化部分と脱灰部分との間の均衡に影響を与え、これらの因子としては口腔衛生、食事並びに唾液の量及び質が挙げられる。このプロセスの極限では、ミネラルの回復が歯の修復に必要とされる。
【0023】
口腔内でプラーク及び齲蝕を予防及び減少させる方法は概して、歯磨き粉を用いた歯のブラッシング;デンタルフロスによるプラークの機械的除去;洗口液、歯磨剤及び殺菌剤による投与及び口腔の洗い流し;フッ化物剤、カルシウム剤及びホワイトニング剤による歯の再石灰化及びホワイトニング、並びに口腔への他の様々な適用を含む。当該分野では、口腔内で歯が常に直面する脱灰の課題に対処する歯の再石灰化のための搬送システムは未だ見つかっていない。
【0024】
齲蝕の進行期に達した歯は多くの場合、口内の歯科用修復物の取り付けを必要とする。全歯科用修復物の半数が10年以内に破損し、それらを交換することに平均的な歯科医の診療時間の60%が費やされる。現在の歯科用材料は、口腔の厳しい機械環境及び化学環境のために課題を有し、二次齲蝕が破損の主な原因である。微生物による破壊に対抗し、口腔の厳しい機械環境及び化学環境に耐えるために、新規の歯科用材料又は新たなレジン系を設計すること、既存の材料を強化すること、及び生物活性剤を材料に組み入れることによって、より強く、より持続する生体適合性歯科用修復物を開発することが、依然として所望されている。
【0025】
多数の予防的口腔衛生戦略があるにもかかわらず、齲蝕は依然として重大な口腔衛生の問題である。6歳〜8歳の小児の50%超が齲蝕を有し、17歳以上の青年の80%超がこの疾患を経験している。齲蝕は成人において、原発性疾患としても、治療済みの歯での再発性疾患としても見られる。診断及び治療の進歩は、齲蝕を治療するための非侵襲的な再石灰化技法をもたらした。しかしながら、依然として、病変部の硬組織の機械的除去、並びにエナメル質及び象牙質の修復及び置換が、初期齲蝕を治療し、歯の機能を回復させて、さらなる齲蝕を阻止するために最も広く利用されている臨床戦略である。加えて、新たに埋植される修復物の50%近くが、破損した修復物の交換のためのものである。修復材料がこの広範な疾患の治療の重要な要素であることは明らかである。
【0026】
修復材料の選択はここ数年で大きく変化した。歯科用アマルガムは依然としてコスト効率の良い材料であるとみなされているが、歯科用アマルガムによって享受されるのと同じ臨床的寿命をもたらす、歯の色をした代替物の需要が高まっている。後方歯修復(posterior restorations)のための修復材料としてアマルガムと置き換えるのに選択される材料としてのコンポジットレジンの使用は、世界的に大幅に拡大している。この需要は、審美材料に対する希望及びアマルガムの水銀量に関する懸念のために、或る程度は消費者主導である。この需要は、歯牙構造を保護し、更には支持する点でレジン系接着材料の可能性を認める歯科医によっても主導される。多数の研究によって、修復物を残存歯牙構造に接着することは、多表面の永久臼歯用調製物の破砕を減少させることが示されている。残念なことに、直接レジン修復材料によって修復された後方歯は、より高い二次齲蝕の発生率を有する。このことは、アマルガムと比較した、コンポジットレジン材料に対する臨床サービスの短縮及び臨床的適応の縮小につながっている。
【0027】
最も頻繁に挙げられる修復物交換の理由は、既存の修復物の周囲の又は隣接する再発性齲蝕である。重合収縮による辺縁での破砕は、修復物と歯との界面に歯垢が集まり、それにより齲蝕が助長される臨床環境をもたらす可能性がある。したがって、齲蝕予防能を有する歯科用材料を開発することは、修復物の寿命を延ばすための最優先事項である。
【0028】
歯の再石灰化
自然な再石灰化は口腔内で常に起こっているが、活性レベルは論考されるような口内の状態によって異なる。再石灰化プロセスにおけるフッ化物の取り込みは、齲蝕予防の要であった。或る特定の歯科用修復材料を含む、様々な搬送プラットフォームからのフッ化物放出の有効性は広く実証されている。フッ化物による齲蝕予防が、歯のミネラル中のフッ素リン灰石又はフッ化物に富むヒドロキシアパタイトとしてのその取り込み、それによる歯のエナメル質の溶解性の低下によって得られることが一般に認められている。最近になって、齲蝕予防活性が、溶液のカルシウム塩及びリン酸塩濃度を口腔液中の環境濃度を超えるレベルにまで増大させる戦略を用いて実証された。フッ化物を既に脱灰したエナメル質の再石灰化に対して効果的にするためには、十分な量のカルシウムイオン及びリン酸イオンが利用可能である必要がある。2個のフッ化物イオンにつき、10個のカルシウムイオン及び6個のリン酸イオンがフッ素リン灰石(Ca10(PO)のセルを形成するのに必要とされる。したがって、正味のエナメル質再石灰化の律速因子は、唾液中のカルシウム及びフッ化物のアベイラビリティである。
【0029】
リン酸カルシウムの溶解度の低さは、臨床的搬送プラットフォームにおける、特にフッ化物イオンの存在下でのその使用を制限している。これらの不溶性リン酸塩は、酸性環境でのエナメル質への拡散に利用可能なイオンしか生じることができない。これらは歯の表面に効率的に局在化せず、臨床的に使用可能な形態で適用することが困難である。可溶性のカルシウムイオン及びリン酸イオンは、それらの固有の溶解度のために、非常に低い濃度でしか使用することができない。そのため、これらは歯の表面下エナメル質への拡散を推進する濃度勾配を生じない。溶解度の課題は、カルシウムフッ化リン酸塩の更に低い溶解度によって悪化する。
【0030】
様々な歯科用搬送モデルに商品化されているカルシウム及びリン酸塩の調製物を用いた、幾つかの商業化が可能な手法が存在する。これらを再石灰化プロセスに対するカルシウムイオン及びリン酸イオンの限られたバイオアベイラビリティを克服するために化合させることが報告されている。第1の技術では、非晶質リン酸カルシウム(ACP)で安定化させたカゼインホスホペプチド(CCP)(Cadbury Enterprises Pte. Ltd.のRECALDENT(登録商標)CCP−ACP)を使用する。カゼインホスホペプチドが高濃度のイオン的に利用可能なカルシウム及びリン酸塩の安定化を、フッ化物の存在下であっても促進することができるという仮説が立てられている。この配合物が被膜及びプラークに結合する一方で、カゼインホスホペプチドは歯石の形成を防ぎ、これらのイオンは表面下エナメル質の病変まで濃度勾配を拡散させて、再石灰化を促進するのに利用可能である。CCP−ACPと比較すると、本発明の組成物では、生物学的に利用可能なイオンは、塩が本発明のマイクロカプセル中で既に溶媒和されていることから利用可能である。非晶質リン酸カルシウムは水又は唾液には可溶性ではない。製造業者は非晶質リン酸カルシウムからの生物学的に利用可能なイオンの放出を主張しているが、これは複合体の溶解の結果ではない。第2の技術(ENAMELON(登録商標))では、安定化されていない非晶質リン酸カルシウムを使用する。カルシウムイオン及びリン酸イオンは、非晶質リン酸カルシウムをin situで形成する二重チャンバー(dual chamber)デバイス内に歯磨剤として別個に導入される。非晶質複合体の形成が再石灰化を促進することが提唱されている。第3の手法では、カルシウムナトリウムリンケイ酸(calcium sodium phosphosilicate)を含有するいわゆる生体活性ガラス(NovaMin Technology Inc.のNOVAMIN(登録商標))が使用される。このガラスが再石灰化を促進するのに利用可能なカルシウムイオン及びリン酸イオンを放出することが提唱されている。最近になって、歯科用コンポジット配合物は、臨床的な再石灰化を促進する可能性があるジルコニアハイブリッドACPを用いて化合されている。
【0031】
Recaldent(登録商標)調製物及びEnamelon(登録商標)調製物は、再石灰化の増強を示唆する証拠をin situ及びin vivoの両方で有し、これらは局所的に適用されるが、歯と修復物との界面で再発性齲蝕の最もリスクの高い位置を特異的に標的化しない。生体活性ガラス及びジルコニアハイブリッドACPフィラーの技術は可能性を有するが、脆性フィラーの取扱いに関する課題及びフィラーの粒径の制御に対する幾つかの制限のために、使用され得る配合物の範囲については比較的柔軟性が低い。
【0032】
口腔内で齲蝕を減少させるのに講じられる別の手法は、飲料水のフッ素化によってエナメル質及び骨の脱灰を制限することである。飲料水中に含有されるフッ化物が、エナメル質及び骨の主要な無機構成成分であるヒドロキシアパタイト中に或る程度取り込まれることが示されている。フッ素化されたヒドロキシアパタイトは、酸による脱灰の影響を受けにくく、したがって酸性のプラーク及び歯周ポケット内の代謝産物の分解力に耐性を示すとみなされる。加えて、唾液中のフッ化物イオン濃度はフッ素化飲料水の摂取によって増大する。したがって、唾液は唾液中に天然に見られる緩衝塩と組み合わさって、さらなるフッ化物イオンの貯蔵庫として働き、フッ化物イオンはエナメル質表面上で能動的に交換され、更に脱灰性の酸代謝産物の影響を抑える。
【0033】
歯のフッ化物処置の確立された利点にもかかわらず、フッ化物イオン処置は、飲料水による投与か、又は局所的に適用されるフッ化物処置による投与かを問わず、個体によっては歯に不規則な斑点又は染みを生じる可能性がある。この影響は濃度に関連し、かつ患者特異的であることが知られている。加えて、ヒトの健康に対するその長期的影響についてのフッ化物の毒性は研究中である。口腔内でのフッ素化の標的化手法が所望されている。
【0034】
口腔内環境におけるミクロフローラの増殖を制限する別の手法は、広域スペクトルの抗菌化合物の局所適用又は全身適用によるものである。口内の口腔ミクロフローラの数を減少させることは、酸性代謝産物の産生に損害を与えると共に、プラーク及び歯周ポケット内蓄積物の直接的な減少又は除去をもたらす。この特定の手法の主な欠点は、口腔内環境に見られる多様な良性の又は有益な細菌株が、同抗菌化合物によって有害な菌株と同様に殺菌される可能性があることである。加えて、抗菌化合物による処置は、或る特定の細菌及び真菌を選択する場合があるが、これらは投与される抗菌化合物に耐性を示すようになり、したがって適切に均衡の取れたミクロフローラ集団の共生力によって制限されずに増殖する可能性がある。したがって、広域スペクトル抗生物質単独の適用又は投与は、齲蝕の治療に賢明でなく、より特異的な標的化手法が所望される。
【0035】
歯のホワイトニング
審美的な歯科用ホワイトニング又はブリーチング化粧品は、一般の人々に非常に望まれるようになっている。多くの人々が「明るい」笑顔及び白い歯を望み、黄ばんだ及び着色した歯は美容上魅力的でないと考えている。残念なことに、予防手段又は治療手段がなければ、歯の着色は歯科用材料の吸着性のためにほとんど不可避である。或る特定の食品及び飲料(特にコーヒー、紅茶及び赤ワイン)の摂食、咀嚼又は飲用、並びに喫煙又は他のタバコ製品の経口使用等の日々の活動は、歯の表面の望ましくない着色汚れを生じる。獲得被膜の外因性の着色汚れは、歯の表面上のタンパク層に捕捉され、緊密に結合するタンニン及びポリフェノール化合物等の化合物の結果として生じる。このタイプの着色汚れは、通常は機械的な歯のクリーニング方法によって除去することができる。これに対し、内因性の着色汚れは、着色汚れ化合物がエナメル質、更には象牙質に浸透するか、又は歯内の供給源から発生した場合に起こる。これらの材料中の色原体又は発色物質は被膜層の一部となり、エナメル質層を透過し得る。定期的なブラッシング及びフロッシングをもってしても、長年にわたる色原体の蓄積は目に見える歯の変色をもたらす。内因性の着色汚れは微生物活性(歯垢に関連するものを含む)にも起因し得る。このタイプの着色汚れには、機械的な歯のクリーニング方法を施行することができず、化学的方法が必要とされる。
【0036】
本発明の作用機構を具体的に規定するものではないが、本発明の組成物、製品及び方法は、口腔内での歯の表面への塩の沈殿を可能にし、塩を歯の表面への付着及び歯の再石灰化に利用可能なものとする。石灰化塩は、歯の間隙に沈着し、歯を平滑にし、歯の表面からの光の反射を増大させ、それにより歯により明るく、より光沢のある外観及びより白い見た目を与える。
【0037】
歯科用ホワイトニング組成物は、一般に2つのカテゴリーに分けられる:(1)着色した獲得被膜のアブレシブ摩耗によって歯のステイン除去をもたらすために着色した歯の表面で機械的に撹拌される歯磨き粉を含むゲル、ペースト、ワニス又(varnish)は液体;及び(2)着色した歯の表面と特定の期間接触する間、化学プロセスによって歯のホワイトニング効果を達成する(配合物はその後除去される)ゲル、ペースト、ワニス又は液体。場合によっては、機械プロセスに補助的な化学プロセス(酸化的であっても又は酵素的であってもよい)を補足する。当初、歯のホワイトニングは歯科医院で行われていた。一液系及び二液系のいずれかの形で提供されるホワイトニングストリップ及びホワイトニングトレー等、よりコストのかからない家庭での歯科用ホワイトニングキットが利用可能となっている。
【0038】
医院での及び家庭での歯のホワイトニングはいずれも通常、所望のホワイトニング効果を達成するために過酸化物含有組成物を歯の表面に適用することを含む。医院用及び家庭用の歯科用ホワイトニング組成物の大半は酸化によって作用する。これらの組成物は、接触時間の間(場合によっては1日数回30分間、又は1日60分間超、場合によっては8時間〜12時間もの間)口内で所定の位置に保持される歯科用ブリーチングトレー中で、患者によって直接適用される。遅速性のブリーチングは主に、酸化組成物の安定性を維持するために開発された配合物によるものである。水性の歯科用ホワイトニングゲルが、歯の過敏症の可能性を低下させる、歯牙構造に対する水和効果のために望ましいことが証明されている。
【0039】
最も一般的に使用される酸化組成物は、グリセリン及び/又はプロピレングリコール及び/又はポリエチレングリコールを含有する無水又は低含水量の吸湿性の粘性キャリアと混合される、過酸化水素前駆体の過酸化カルバミドを含有する。水と接触すると、過酸化カルバミドは尿素と過酸化水素とに分解する。過酸化水素は、より高濃度の過酸化カルバミドよりも迅速に歯を白くするその能力のために、最適な歯科用ブリーチング材料となる。
【0040】
代替的な過酸化水素供給源は過炭酸ナトリウムであるが、これは一晩のブリーチング手順の間、歯に塗布され、耐久性の膜を形成するシリコーンポリマー製品において使用されてきた。過酸化物は最大4時間にわたって緩やかに放出される。
【0041】
吸湿性キャリアにおけるブリーチングの遅速性に関連して、現在利用可能な歯科用ブリーチング組成物は、50%超の患者において歯の過敏化を引き起こす。歯の過敏症は、歯内での象牙質細管を通って神経終末に向かう流体の運動に起因すると考えられる。この運動は過酸化カルバミドのキャリアによって増強される。グリセリン、プロピレングリコール及びポリエチレングリコールは各々、歯が熱、寒冷、過度に甘い物質及び他の原因物質に曝露されると様々な程度の歯の過敏症を引き起こし得ることが分かっている。
【0042】
過酸化水素歯科用ブリーチング配合物は、歯の過敏症の他にも制約を有する。最近まで、安定な水性の過酸化水素歯科用ブリーチングゲルは事実上存在しなかった。過酸化水素は強力な酸化剤であり、時間とともに水と酸素とに容易に分解される不安定な化合物である。口腔内の或る特定の化学的及び物理的な影響が分解速度を加速する可能性があり、安定な歯科用ホワイトニングゲルを存在させるためにはそれらを制御する必要がある。温度、pH及び不要な金属イオンは全て、特に水性処方において過酸化水素の分解に対して著しい影響を有する。
【0043】
本発明の組成物の利点の1つは患者の歯の過敏症の減少又は排除である。現在の歯科用ブリーチング製品と共に使用される場合、本発明のマイクロカプセルは、口腔内に塩として沈殿し、歯の開いた象牙質細管を石灰化し、それにより酸化的歯科用ブリーチング製品に対する歯の過敏症を減少させる塩イオンを放出する。
【0044】
市販のホワイトニング系としては、投与の際に構成成分の混合が必要とされる二液系、及びより迅速かつ容易に投与され、一般に歯科医による医院でのブリーチングに好ましい一液型組成物が挙げられる。二液系としては、デュアルバレルシリンジ、過酸化水素水/粉体系及びホワイトニングストリップが挙げられる。単一成分系歯科用ブリーチング組成物では、コストのかかる不便な貯蔵の問題を排除するために室温貯蔵状態が好まれる。水性の過酸化水素歯科用ホワイトニング組成物のpHも配合物の安定性に大きく関わっている。二液系では優れた貯蔵期間安定性が実証される。過酸化水素溶液を含有する配合物は強酸性であり、酸性pH処方においてその安定性を維持する。安定な水性の過酸化水素歯科用ホワイトニングゲルは、酸性pH範囲で配合することができる。しかしながら、酸性pH範囲(pH2.0〜5.5)のブリーチング組成物は、歯の表面からのカルシウムイオンの溶解によって歯のエナメル質を脱灰する傾向がある。この表面エナメル質の減少は、患者に対し歯の過敏症及び不快感を引き起こす。本発明の組成物を歯科用ブリーチング製品に組み入れるか、又は歯科用ブリーチング製品と併用することによって、本発明のマイクロカプセルは口腔内のpHレベルを変更し、ブリーチングプロセスの促進をもたらすことができる。
【0045】
利用可能な製品の多くは手間がかかり、有効性が限られており、使用者に様々な身体的不快感を与える。更に重要なことには、現在行われているようなホワイトニング組成物への歯の長期の曝露は、歯の過敏症に加えて多数の悪影響を有する。所望される歯のブリーチング効果を達成することが当該技術分野で知られているいずれの過酸化物も、時間とともにカルシウムキレート剤として機能するようになる。歯科用ホワイトニング製品においてよく見られるキレート剤の他の例としては、EDTA及びその塩、クエン酸及びその塩、グルコン酸及びその塩、アルカリ金属ピロリン酸塩並びにアルカリ金属ポリリン酸塩が挙げられる。エナメル質層からのカルシウムの溶解は、5.5未満のpHで脱灰を伴って起こり得る。キレート剤は無傷のエナメル質及び象牙質に浸透し、生活歯の歯髄腔に達し、それにより歯髄組織に損傷を与える恐れがある。他の悪影響としては、歯科用トレーからの組成物の滲出及び続く使用者による消化を引き起こす、口腔内での唾液によるブリーチング組成物の希薄化が挙げられる。
【0046】
過酸化水素系の温度を上昇させることによって、ホワイトニングの速度を増大させることができることが示されている(10℃の上昇は反応速度を倍増させ得る)。したがって、歯のブリーチングの速度を加速するために、高強度の光を利用して過酸化水素の温度を上昇させる手順が多数存在する。歯科用器具の加熱等といった過酸化水素を加熱する他の手法が記載されている。最近の手法及び文献は、或る範囲の波長及びスペクトルパワーを有する様々な光源、例えばハロゲン硬化ライト、プラズマアークランプ、レーザー及び発光ダイオードを用いた前歯への同時照射によって、過酸化物ブリーチングを加速することに焦点を合わせている。光活性化ホワイトニング手順に使用される一部の製品は、光から過酸化物ゲルへのエネルギー伝達を補助すると主張される光増感剤として働き、着色材料、例えばカロテン及び硫酸マンガンであることが多い成分を含有する。しかしながら、過剰な加熱は歯髄に対して不可逆的な損傷を引き起こし得る。加えて、in vitro及び臨床での研究及び実際の結果に関する文献では、歯のホワイトニングに対する光の実際の効果が限定的であり、矛盾しており、議論の余地があることが実証されている。
【0047】
したがって、従来技術の制限を克服する改善された組成物、方法及び製品が必要とされている。課題は依然として、数多くの歯科用材料及び様々な製品に組み込むことのできる、安定かつ効果的な組織再石灰化イオンを組み入れた歯科用ホワイトニング及び再石灰化技術プラットフォームを作り出すことである。かかる搬送プラットフォームは、歯を再石灰化することが可能な歯科用製品の配合を容易にし得る。本明細書中に記載される本発明の組成物、製品及び方法はこれら及び他の要求を満たす。最終的な効果は、修復物交換の最も多く見られる理由である再発性齲蝕の減少;歯のホワイトニング;並びに結果として生じる口腔内の歯の全体的な強度及び衛生状態の向上である。
【発明の概要】
【0048】
本明細書中の記載、並びに改善された組織及び骨の石灰化並びに歯の再石灰化用の製品を提供するという要望に従って、本発明は組織ミネラル量及び組織ミネラル密度を増加させる組成物及び方法を提供する。組織分解によって生じる多様な状態の治療及び予防においてかかる組成物を利用する方法も提示される。本発明は、歯の再石灰化及びホワイトニングのための歯科用組成物及び歯科用製品も提供する。より具体的には、本発明は、石灰化される組織に搬送される生物学的に利用可能なイオンの放出を可能にする、半透過性ポリマーシェルに封入された塩溶液を含む組成物を提供する。マイクロカプセルは様々な骨修復製品及び歯科用製品に組み込むことができる。マイクロカプセルは、任意の一般に知られるマイクロカプセル化方法、好ましくは界面活性剤を含まない逆エマルションによって調製することができる。より具体的には、本発明は、カルシウム、リン酸塩、フッ化物並びにそれらの組み合わせ及び混合物の塩水溶液をマイクロカプセル化したポリマーを含有する組成物である。さらに、マイクロカプセルからの塩イオンの放出速度は、単一種類のマイクロカプセル、及び多数の異なる種類のマイクロカプセルを含有する製品において、イオンの持続制御放出の適用を与え、それにより長時間にわたって組織石灰化効果をもたらすように設計することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】安息香酸メチル中に懸濁した0.1M Ca(NO水溶液を含有する、本発明のマイクロカプセルの光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
マイクロカプセル化
好ましい実施形態では、本発明の組成物は水、塩、油溶性乳化剤及び少なくとも1種類のポリマー(これらを組み合わせて、混合又は撹拌すると本発明のマイクロカプセルが形成される)を組み合わせることによって形成される。定義を目的とすると、本明細書中で使用される場合、「マイクロカプセル」という用語は、有用な性質を有する小さなカプセルをもたらすコーティングに取り囲まれた微小な粒子又は液滴を指す。マイクロカプセルはミクロスフェアと称される場合もあるが、本発明のマイクロカプセルは球形をしている必要はない。マイクロカプセル内の材料は、本明細書中で「コア」又は「内相」と称するものとし、コアを取り囲む材料は「シェル」、「壁」、「コーティング」、「膜」又は「外相」を意味することが意図される。本明細書中で更に記載されるように、実質的にコアの大部分がポリマーシェルでコーティングされていれば、シェルによってマイクロカプセルのコアの周囲を完全に又は均一にコーティングする必要はない。
【0051】
好ましくは、本発明のマイクロカプセルの直径範囲は100ナノメートル〜3ミリメートルである。より好ましくは、マイクロカプセルのサイズは1ミクロン〜1mmである。概して、マイクロカプセルの好ましいサイズは所望の最終用途に左右される。マイクロカプセルのサイズを制御するために使用されるパラメータの1つは、エマルションの量及びそれを混合又は撹拌する力によるものである。マイクロカプセル及びマイクロカプセルの構成成分のサイズを制御するための他のパラメータは下記で更に論考される。本発明のマイクロカプセルのサイズは、十分な数のマイクロカプセルが、石灰化に影響を与えるために組織、骨又は歯質界面と接触する基質の固相表面で利用可能であるように最適化することができる。
【0052】
様々な封入方法がマイクロカプセル化粒子の作製に知られているが、いずれの方法も、本発明によって意図されるような、組織若しくは骨の石灰化用の組成物又は歯科用再石灰化組成物の形成にこれまで適用されてこなかった。マイクロカプセルを構築する方法は物理的であっても、又は化学的であってもよい。物理的な製造方法としては、パンコーティング、エアサスペンション(air-suspension)コーティング、遠心押出、振動ノズル及び噴霧乾燥が挙げられる。化学的な製造方法としては、界面重合、その場重合及びマトリクス重合等の重合が挙げられる。界面重合では、少なくとも2つのモノマーを非混和性の液体中に別個に溶解する。液体間の界面で、マイクロカプセルの薄いシェル又は壁を作り出す高速反応が起こる。その場重合は粒子表面で行われる単一のモノマーの直接重合である。マトリクス重合では、マイクロカプセルの形成中にコア材料を包埋する。マイクロカプセルはゾルゲル法の使用、水溶液又は有機溶液沈殿合成法、複合コアセルベーション、及び当該技術分野で既知の他の方法によっても構築され得る。
【0053】
本発明のマイクロカプセルを調製する好ましい方法は、塩、特にカルシウムイオン、リン酸イオン及びフッ化物イオンを含有する水溶性の塩の水溶液を含有する、マイクロカプセルを生成するために本明細書中で開発された合成法である。イオンの水溶液をマイクロカプセル中に封入するために、界面活性剤を含まない油中水型逆エマルションが好ましくは使用される。任意の連続油相を本発明のプロセスに利用することができる。歯科用材料の一実施形態では、分散相を立体的に安定化させる働きがある乳化剤を用いるプロセスにおいて疎水性油が連続油相として利用される。本発明の好ましい油相の1つは安息香酸メチルである。図1は、安息香酸メチル中に懸濁した0.1M Ca(NO水溶液を含有する、本発明のマイクロカプセルの光学顕微鏡写真である。
【0054】
標準的なエマルションは、正式には分散した液滴を安定化させるために界面活性剤を使用するが、本発明の好ましい方法では界面重合を起こすために、連続油相に乳化剤を使用して、分散した水滴を立体的に安定化させる。これによって、分散相におけるイオン水溶液を取り囲むポリマーシェルの効率的な合成がもたらされる。界面活性剤の両親媒性は、カプセルを生成するのに必要な分散相及び連続相の界面で起こる必要のある重合の妨害を引き起こす。界面活性剤はまた、イオンに対するその親和性において問題を生じる。親水性の極性頭部基は、再石灰化のためのカプセルに含有されるイオンに引き付けられる。界面活性剤の存在は真に生物学的に利用可能なイオンの割合を減少させ、カプセルからのイオンの放出を不活性化するキレート剤として効果的にふるまう。したがって、界面活性剤を含まない逆エマルションによる界面重合が、本発明の歯科用マイクロカプセルを形成する方法として好ましい。
【0055】
乳化剤
本発明の歯科用マイクロカプセルにおいて好ましい乳化剤は、乳化剤が油相にのみ分配され、界面活性を示さないという点で界面活性剤とは異なる。界面活性剤を含まない逆エマルションの使用の概念には、水滴を小さな液滴に分裂させることができ、そのサイズ及びサイズ分布が投入エネルギーの形態及び量に左右され、形成された液滴が幾分遅い成長速度のために一時的に残存することが特有である。界面活性剤を含まないエマルションは溶媒抽出、乳化重合、食品製造(油と酢でできたドレッシングの製造等)に頻繁に適用されているが、生物学的に活性な水溶液系のマイクロカプセル化に使用されるその基本的性質についてはほとんど注目されていない。乳化剤は、界面重合を妨げることなく液滴を立体的に安定化させる。それにより再石灰化イオンのキレート化は最小限に抑えられる。
【0056】
ポリマー
本発明のマイクロカプセルは、少なくとも1種のポリマーからなるシェル、好ましくは特定の塩水溶液に半透過性のシェルを含有する。本明細書中で使用される場合、「ポリマー」という用語は、1000グラム/モル〜50000グラム/モル、より好ましくは1500g/モル〜20000g/モル、より好ましくは1500g/モル〜8000g/モルの範囲の好ましいサイズを有する前駆体ポリマー分子を意味することが意図される。より大きなポリマー及びより小さなオリゴマー又はプレポリマーを使用することができるが、ポリマーの分子量は所望の歯科用製品の用途において実用化されるように制御される。あるいは、モノマーを本発明の方法に使用することもできる。コア構成成分の特に所望される放出特性を有する最終使用製品を製造するために、多数のポリマーを組み合わせて1つのマイクロカプセルにすることができる。
【0057】
本発明の一実施形態では、マイクロカプセルのシェルは、その所望される用途に応じて限られた透過性を有するか、又は透過性を実質的に有しないように設計される。所望される最終用途で特定のイオンに対し不透過性であることが知られる特定のポリマーを選択することにより、合成中に不透過性シェルが形成される。かかるマイクロカプセルは、例えば本明細書中で下記で論考されるような「バースト」用途のために合成することができる。
【0058】
多くの種類のポリマーを本発明の範囲内で利用することができ、その選択は所望される具体的な性質によって決まる。例としてはアクリルポリマー、アルキド樹脂、アミノプラスト、クマロン−インデン樹脂、エポキシ樹脂、フルオロポリマー、フェノール性樹脂、ポリアセタール、ポリアセチレン、ポリアクリル酸、ポリアルキレン、ポリアルケニレン、ポリアルキニレン、ポリアミン酸、ポリアミド、ポリアミン、ポリ無水物、ポリアリーレンアルケニレン、ポリアリーレンアルキレン、ポリアリーレン、ポリアゾメチン、ポリベンズイミダゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンズオキサジノン、ポリベンズオキサゾール、ポリベンジル、ポリカルボジイミド、ポリカーボネート、ポリカルボラン、ポリカルボシラン、ポリシアヌレート、ポリジエン、ポリエステル−ポリウレタン、ポリエステル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテル−ポリウレタン、ポリエーテル、ポリヒドラジド、ポリイミダゾール、ポリイミド、ポリイミン、ポリイソシアヌレート、ポリケトン、ポリオレフィン、ポリオキサジアゾール、ポリオキシド、ポリオキシアルキレン、ポリオキシアリーレン、ポリオキシメチレン、ポリオキシフェニレン、ポリフェノール、ポリホスファゼン、ポリピロール、ポリピロン、ポリキノリン、ポリキノキサリン、ポリシラン、ポリシラザン、ポリシロキサン、ポリシルセスキオキサン、ポリスルフィド、ポリスルホンアミド、ポリスルホン、ポリチアゾール、ポリチオアルキレン、ポリチオアリーレン、ポリチオエーテル、ポリチオメチレン、ポリチオフェニレン、ポリ尿素、ポリウレタン、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマールが挙げられるが、これらに限定されない。当業者は特定の種類のポリマーの選択が、本発明のマイクロカプセルの組成及び透過特性に影響を与えることを更に理解するであろう。
【0059】

組織及び特に歯科用途では、フッ化物塩、カルシウム塩及びリン酸塩が本発明の組成物に好適であるが、所望の用途によっては他の塩を使用することもできる。カルシウム塩の例としては、酢酸カルシウム、アルミノケイ酸カルシウム、安息香酸カルシウム、臭化カルシウム、酪酸カルシウム、カルシウムアラゴナイト、カルシウムカルサイト、塩化カルシウム、アルミン酸カルシウム、カルシウムクロリドフルオリドオルトホスフェート(calcium chloride fluoride orthophosphate)、チオ硫酸カルシウム、吉草酸カルシウム、桂皮酸カルシウム、クエン酸カルシウム、フルオロケイ酸カルシウム、フッ化カルシウム、ギ酸カルシウム、フマル酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウム、ヨウ素酸カルシウム、ヨウ化カルシウム、イソブチル酸カルシウム、乳酸カルシウム、カルシウムリシネート(calcium lysinate)、リンゴ酸カルシウム、マロン酸カルシウム、硝酸カルシウム、カルシウム−1−フェノール−4−スルホネート、オルトリン酸カルシウム、ピロリン酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、サリチル酸カルシウム、キナ酸カルシウム、オルトケイ酸カルシウム、酒石酸カルシウム、硫酸カルシウム及びチオシアン酸カルシウムが挙げられるが、これらに限定されない。ナトリウム塩、フッ素供給塩の例としては、フッ化ナトリウム、フルオロケイ酸、フルオロケイ酸ナトリウム、モノフルオロケイ酸ナトリウム、ケイフッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化銅(I)、フッ化第一スズ又はクロロフッ化スズのようなフッ化スズ、フッ化ケイ酸アンモニウム、モノフルオロリン酸アルミナ、ジフルオロリン酸アルミナが挙げられるが、これらに制限されない。リン酸塩の例としてはリン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸マグネシウムが挙げられるが、これらに制限されない。
【0060】
本発明の界面活性剤を含まない逆エマルションの重合の方法の好ましい一実施形態では、非常に低分子量のポリウレタンを連続油相中に予備混合する。ポリウレタンの分子量は、好ましくは1500g/モル〜20000g/モル、より好ましくは1500g/モル〜8000g/モルである。低分子量ポリウレタンはその両親媒性のために、分散相と連続相との界面にあることがほとんどである。
【0061】
上記の実施形態では、イソシアネート官能性ポリウレタンシェルの分子量を増加させるためにジオールを系に添加する。好ましいジオールはエチレングリコールである。ジオールは最終的に、マイクロカプセル化学構造においてエチレンオキシドリンカー単位をもたらす。エチレンオキシドが電極間のイオンの流動を抑制しないことが産業用途では示されている。この手法は、マイクロカプセルのポリウレタン壁に使用されるジオールの同一性を単純に変化させることによって、マイクロカプセルの合成において化学構造を容易に変更することができるため、マイクロカプセルの透過性に対するウレタンの構造・物性関係を理解するのに有用である。この実施形態では、組成物のマイクロカプセルシェルのイオン透過性は、マイクロカプセルの合成に使用されるスペーサーモノマーとして働くジオールの化学的組成に基づく。以下のスキームは、この実施形態のマイクロカプセルシェルの合成に使用される反応を表す。
【化1】

ここで、n=1、2、3又は4である
【0062】
マイクロカプセル壁中のエチレンオキシドスペーサーの長さは、膜シェルのイオン透過性を制御するために変更することができる。好ましい実施形態としては、エチレングリコール(n=1)を用いたマイクロカプセル及び1,4−ブタンジオール(n=2)に由来するマイクロカプセルが挙げられる。好ましい実施形態としては、n=3のジオール(1,6−ヘキサンジオール)又はn=4のジオール(1,8−オクタンジオール)に由来するマイクロカプセルが挙げられる。
【0063】
マイクロカプセル膜のイオン透過性に影響を与える第2の特徴は、シェル又は壁の厚さであり、シェルの合成に使用される材料の量と、分散させたイオン性塩水溶液の容量との比率を変更することによって変更することができる。水性イオン相に対してより多くの材料を一定の攪拌速度で添加することで、より厚いマイクロカプセル壁の形成がもたらされる。好ましい実施形態では、本発明は水溶液15mL〜40mLに対し、ポリウレタン1グラムという比率を含む。
【0064】
特定の再石灰化イオンのマイクロカプセル化によって、物理的障壁(デュアルバレルシリンジ、デュアルブラダーチューブ(dual bladder tube)又は歯科用ホワイトニング製品の2つの別個のコンテナシステム等)を用いて、様々な反応性イオンを分離することを必要とせずに、全ての構成要素を単一相に組み込むことが可能となる。本発明の方法は、反応性再石灰化イオンの別個の単離したマイクロカプセルを水溶液系中に組み込むことを可能とする。水性歯科用組成物のこの単一相は、バイナリコンテナ(binary containers)の特別設計の必要性をなくし、最終歯科用製品が必要とされるまでの長期の安定性を可能にする。かかる歯科用組成物の好ましい具体的な実施形態としては、単一相歯磨剤、洗口液、ホワイトニングペースト、ホワイトニングゲル、ホワイトニング液及びホワイトニングワニス、並びにホワイトニングストリップ等の口腔に直接適用される製品が挙げられる。水溶液系中の単一相においてこれら特定の再石灰化イオンを併用することは、現在実現可能ではない。
【0065】
本発明の歯科用材料の実施形態は、1種類のみの石灰化イオンがマイクロカプセルのコア内に含有されるように配合することができ、又は代替的には、複数の異なる種類の塩、したがって塩イオンを1つのマイクロカプセル中に組み込むことができる。
【0066】
他の実施形態では、1種類のイオンを含有する複数のマイクロカプセルを、製品中で他のイオンを含有するマイクロカプセルと組み合わせることができる。例えば、カルシウム塩を有するマイクロカプセルを、同様にリン酸塩を含有するマイクロカプセルを含有する洗口液製品中で組み合わせる。カルシウムイオン及びリン酸イオンは、それらがマイクロカプセルのシェル膜を透過すること、又はマイクロカプセルが口内で破裂することによって口腔内に放出される。カルシウムイオン及びリン酸イオンは放出されると非晶質リン酸カルシウムを形成し、これが唾液から沈殿して、歯の再石灰化をもたらす。製品の別の例は、半透過性であっても又は不透過性であってもよい別個のマイクロカプセル中に各々カルシウム塩、リン酸塩及びフッ化物塩を含有する洗口液であり得る。口をすすぐことによりマイクロカプセルが開いて塩イオンが放出されるが、これらは口腔内で組み合わせられると、フッ化カルシウム及び非晶質フッ化リン酸カルシウムを形成し、歯の上に沈殿する。
【0067】
制御された放出
本発明のマイクロカプセル及び製品は、特定のイオン又は構成要素の制御された持続放出(徐放又は長時間放出としても知られる)を可能にして、様々な所望の結果を達成する方法で、異なる持続放出プロファイルを有するように設計することができる。これにより、本発明の様々な塩イオン又は構成成分を、各々のマイクロカプセルから様々な期間で放出させることができる。
【0068】
さらに、異なるタイプのマイクロカプセルにおける放出時間の比率を、製品中の各々のタイプのマイクロカプセルの特定のイオン又は構成要素の透過性及び濃度を、互いに対して、またそれらが必要とされる環境に対して最適化するように、単一の製品の設計に組み込むことができる。かかる設計によって、患者への製品の多数回の投与を必要とせずに、多数の活性成分を制御された時間にわたって特定の組織分解部位に搬送することのできる石灰化製品が可能となり、それにより患者の治療を最小限に抑えられる。
【0069】
例えば、歯科用製品は、歯科用組成物と接触する歯質の領域を再石灰化して、口腔内で齲蝕を予防し、歯を白くし、及び/又は標的の歯の表面に対する抗菌治療を提供することができる。例えば、充填材、シーラント及びセメントを、本発明の放出制御マイクロカプセルを含有し、塩イオンを歯又は歯質と接触する領域へと徐々に放出するように設計することができる。歯科用製品の徐放剤型は、活性剤の頻回投与の必要性を避けると同時に、口腔内で所望レベルの再石灰化又はホワイトニングを達成する。
【0070】
放出制御設計を達成することのできる一方法は、シェル内で所望の透過性を有するシェルポリマーの特異的選択又は組成によるものである。透過性及び放出プロファイルを制御する別の方法は、本明細書中で記載されるようなマイクロカプセルの合成においてシェル層の厚さを調整することである。
【0071】
マイクロカプセル内のイオン濃度を変更して透過性を達成することもできる。好ましい実施形態では、生物学的に活性なCa2+イオン、PO3−イオン及びFイオン並びにそれらの組み合わせをマイクロカプセル中に組み込むことができる。各々のマイクロカプセルは、特定の標的イオンを或る範囲の濃度にわたって有する塩水溶液を用いて合成される。水への溶解度が高い塩が好ましいが、必ずしも必要なわけではない。好ましい実施形態としては、Ca(NO、KHPO及びNaFが挙げられる。好ましい実施形態には、5%〜95%、より好ましくは25%〜95%、より好ましくは70%〜90%という所与のイオンの飽和率を反映する或る範囲のモル濃度を有するマイクロカプセルが含まれる。幾つかの好ましい実施形態を表1に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
例えば、活性成分の全てがそこから即座に吸収されず、活性成分が投与から一定期間にわたって徐々にかつ継続的に放出される、本発明のマイクロカプセルを含む錠剤を製造することができる。
【0074】
口腔内では、マイクロカプセルの瞬間放出又は「バースト」放出は、歯による機械的撹拌、例えば口腔内での歯ブラシ若しくはデンタルフロスの使用;歯若しくは歯茎での通常の咀嚼、歯ぎしり(grinding)、食いしばり(gritting)、クレンチング(clenching)若しくは噛み締め(clamping);舌運動若しくは舌による圧迫;又は口腔(internal orifices of the mouth)内での顎筋及び他の筋肉の運動による液体のスイッシング(swishing)若しくはうがいによって生じ得る。上記に記載されるような本発明の半透過性マイクロカプセル及び不透過性マイクロカプセルはどちらも、バースト放出効果のために設計される製品に組み込むことができる。
【0075】
マイクロカプセルの装填
本発明のマイクロカプセルは、その透過性が、濃度勾配の結果として周囲環境からマイクロカプセル外及びマイクロカプセル内の両方へと塩イオンを放出する働きをする半透過性ポリマーシェルを含有する。これにより、コア中に塩水溶液を有しないか、又は最大可能量未満の塩水溶液を有する既に形成されたマイクロカプセルに、さらなる塩溶液又は塩イオンを充填する(本明細書中で「装填」と称される)ことのできる実施形態が予想される。装填には、反応性イオン及び適切な濃度勾配の存在下での空のマイクロカプセルへの「再充填」も含まれる。新たなイオンは、高度に石灰化させる充填用塩溶液中にマイクロカプセルを浸漬することによって(塩溶液中の塩イオン濃度がマイクロカプセルのコア内の塩イオン濃度よりも高い)、部分的に装填されたマイクロカプセルのコアに導入するか、又は空のマイクロカプセルのコアに再導入することができる。
【0076】
本発明の再充填可能な用途の実施形態としては、口腔内に比較的長期にわたって維持され、したがって歯を再石灰化、フッ素化するか、又は白くするために利用することのできる歯科用レジン及びセメント等の製品が挙げられる。マイクロカプセルの再充填速度は、製品の塩イオンの濃度勾配及び特定のポリマーの放出プロファイルによって決まる。
【0077】
骨修復材料
本発明の組成物は、様々な骨の修復又は再生用の製品に有用である。身体独自の再生機構及び癒傷組織を刺激することのできる新たな材料が必要とされている。足場として働く多孔質テンプレートが三次元骨組織成長に必要とされると考えられる。生体活性ガラスは、新たな骨を産生するよう骨形成細胞を刺激し、体内で分解性であり、骨と結合するため、足場材料としての高い可能性を有することが近年判明した。
【0078】
一例においては、三次元ポリカプロラクトンリン酸三カルシウム複合骨足場を、骨エンジニアリングへの適用について評価した。骨足場を人工体液中に37℃で浸漬し、重量損失及び水分吸収についてモニタリングした。生化学的アッセイ及び顕微鏡法から、カルシウムが足場の表面に沈着し、足場のヒドロキシアパタイト層の結晶化が生じることが明らかとなった。本発明のマイクロカプセルを、骨の形成を開始させるか又は増強し、骨の再生をもたらすために、そのような生体活性骨足場及び同様の生体活性骨足場に組み込むことができる(Y. Lei, B. Rai, K. H. Ho and S.H. Teoh, In vitro degradation of novel bioactive polycaprolactone - 20% tricalcium phosphate composite scaffolds for bone engineering, National University of Singapore, 2006を参照されたい)。
【0079】
歯科分野における骨再生製品の使用としては、抜歯後に歯槽に埋植されたインプラントの周囲の骨組織の構築、又は将来の義歯若しくは補綴物の埋め込みの準備が挙げられる。別の有用な用途は、歯根の切除、嚢胞切除又は埋伏歯の抜歯の後の骨欠陥の充填である。更に別の用途は、口腔内での創傷の再開放後の骨欠陥の修復である。
【0080】
歯科用製品
本発明のマイクロカプセルを含む具体的な歯科用製品としては、歯科用ゲル、ペースト、洗口液、歯磨剤、ホワイトニング製品、口臭清涼剤、人工唾液系、ワニス、知覚過敏抑制剤及び歯科分野で既知の他の歯科用製品が挙げられる。歯科用修復材料としては、コンポジット及び他の固相充填材料、接着剤及びセメント、仮修復材料、骨成長の誘導のためのインプラント上のコーティングが挙げられる。本発明の様々な実施形態には、歯磨き粉、ブリーチング材、ワニス、シーラント、シーラー、レジン修復材料、グラスアイオノマー(レジン強化型グラスアイオノマーを含む)、生体活性ガラス、コンポマー修復材料、ジャイオマー(giomer)保存材料、洗口液、任意の局所予防剤又は再石灰化剤(液体、ゲルムース、ペースト)、抗菌剤を含む任意の洗口液のような処方箋外用途、業務用及び処方箋外の「塗布型(paint-on)」ゲル、ワニス、シーラー、間接的実験用材料(実験用樹脂を含む)、義歯、義歯床材料、歯科用セメント、根管充填材及びシーラー、骨移植に用いられる材料、骨セメント、歯科移植用組織成長材料、歯根充填材料(すなわち逆充填材料(retro-fill materials)と呼ばれることもある根尖切除材料)、歯髄覆罩材、仮修復充填材料、プロフィーペースト(prophy pasete)、歯周スケーリングゲル、予防用空気研磨剤、矯正用セメント、口腔外科手術用抜歯窩被覆材(dressing)、死体の骨、及び他の骨代用材を含む。
【0081】
歯科用製品の実施形態としては、口腔内で唾液と接触すると、口腔内の酵素活性の結果として分解されることのできる製品、例えば分解性ホワイトニングストリップも挙げられる。歯の再石灰化をもたらすことのできるマイクロカプセルを組み入れた他の製品としては、チューインガム、キャンディ、トローチ、カプセル、錠剤及び様々な食品が挙げられる。
【0082】
本発明の特定の再石灰化イオンのマイクロカプセル化歯科用組成物によって、重合性コンポジット及び他の固体充填歯科用修復材料(グラスアイオノマーセメント等)の基質への塩イオンの取り込みが可能になる実施形態では、マイクロカプセル化されたイオンの取り込みは生体活性充填材料及び接着剤の供給源を提供する。半透過性のマイクロカプセルの使用によって、材料がこれらの再石灰化化合物を歯牙構造と修復充填材料又は接着剤との間の界面で放出することが可能になる。この界面は、特に細菌の侵入、攻撃及び続く二次齲蝕の発生を受けやすい。この界面内に流体が存在することで、修復界面での微少漏洩の可能性を示すことができるだけでなく、再石灰化プロセスが起こるように材料を活性化し、必要とされるイオンを放出させることも可能となる。本発明のマイクロカプセルの実施形態は、歯/充填材界面の空間の開口部で機械的ストレスを受けると塩イオンを放出するように設計することができる。
【0083】
本発明の歯科用組成物の実施形態は、複数の利点をもたらすコンポジット等の固相を含むように設計することもできる。現在、再石灰化イオンをレジンコンポジットに添加し、イオンの活性を与えることは、これらのイオンがレジン又はプラスチックの不溶性基質中に取り込まれるか又は埋没する可能性があるため、知られていない。
【0084】
本発明の好ましい一実施形態では、本発明のマイクロカプセル組成物を含有する歯磨き粉、洗口液又は歯磨剤等の口腔歯科用製品は、定期的に、例えば毎日、又は1日おき、又は2日おき、又は1日に数回口腔内に適用するのが好ましいが、定期的適用は必須ではない。
【0085】
本発明の様々な実施形態に従うと、歯科用ホワイトニング組成物は歯の表面に自然な白い外観を与えるために提供される。歯の表面は一般にエナメル質、象牙質及び獲得被膜からなり、ホワイトニング組成物は歯表面に接触、好ましくは付着して、即時の認識可能なホワイトニング効果を与え、それにより迅速に歯の表面の色を変える。或る特定の実施形態では、本発明は、本発明の組成物を用いて歯の表面をホワイトニングする方法を提供する。歯科用製品は、ホワイトニング微粒子として働く塩イオンを分散させ、歯の表面に付着させて、自然な白い外観をもたらす働きをする搬送システムとして機能する。本発明のホワイトニング組成物は、当該技術分野で既知の任意の好適な歯科用ホワイトニング手段を用いて歯に適用することができる。例としては、歯磨き粉、洗口液、ゲル、ストリップ(分解性ホワイトニングストリップを含む)等の押出形態、塗布液(paint-on liquids)及びワニス、一液型及び二液型の製品が挙げられる。
【0086】
歯表面の白色度の増大は、例えば色比較チャート若しくは色比較ゲージを用いて目視で観察するか、又はMinolta Chromameterの例えばモデルCR−400(Minolta Corp.,Ramsey,N.J.)等の任意の好適な計器を用いて、比色分析によって測定することができる。計器は、例えば国際照明委員会(CIE)によって確立された基準に従って、Hunter Lab値又はL値を測定するようにプログラムすることができる。歯科分野において歯の色を測定及び判定する唯一の基準はないが、非常に一般的な方法はVITA(登録商標)Shade Guide(Vita(登録商標) Zahnfarbik,Bad Sackingen,Germany)である。VITA(登録商標)Shade Guideにおけるシェードの範囲は、「非常に明るい」(B1)から「非常に暗い」(C4)まで変化する。合計16段階のシェードが、明度を尺度にしてこれら2つの端点間の色範囲を構成する。歯のホワイトニング手順及び製品による患者満足度は、達成された歯のシェードの数値変化に比例して上昇する。
【0087】
他の添加物
幾つかの実施形態では、本発明のマイクロカプセル組成物を組み入れた製品中に甘味料が利用される。本明細書において有用な甘味料には、経口的に許容可能な天然又は人工の、栄養又は非栄養甘味料が含まれる。このような甘味料としては、デキストロース、ポリデキストロース、スクロース、マルトース、デキストリン、乾燥転化糖、マンノース、キシロース、リボース、フルクトース、果糖、ガラクトース、コーンシロップ(高フルクトースコーンシロップ及びコーンシロップ固体を含む)、部分的に水素化されたデンプン、水素化デンプン加水分解産物、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、マルチトール、イソマルト、アスパルテーム、ネオテーム、サッカリン、及びその塩、スクラロース、ジペプチド系強化甘味料、チクロ、ジヒドロカルコン及びこれらの混合物が挙げられる。1つ又は複数の甘味料は、選択された特定の甘味料(複数可)に強く依存して、総量中に存在し得る。
【0088】
様々な実施形態において、本発明の組成物を組み入れた組成物は任意で香料添加剤を含む。本明細書において有用な香料添加剤には、組成物の風味を高める働きをする任意の材料又は材料の混合物が含まれる。芳香油、芳香アルデヒド、芳香エステル、芳香アルコール、同様の材料、及びその組合せのような任意の経口的に許容可能な天然又は合成香料(flavorant)を使用することができる。香料添加剤としては、バニリン、セージ、マジョラム、パセリ油、スペアミント油、シナモン油、冬緑油(サリチル酸メチル)、ペパーミント油、丁子油、ベイ油、アニス油、ユーカリ油、柑橘油、果実油及びエッセンス(レモン、オレンジ、ライム、グレープフルーツ、杏、バナナ、ブドウ、リンゴ、イチゴ、さくらんぼ、パイナップル等に由来するものを含む)、コーヒー、ココア、コーラ、ピーナッツ、アーモンド等のような豆及びナッツ由来の香料、吸収され封入された香料、及びその混合物が挙げられる。香料添加剤内に含まれるのは、風味及び/又は他の口内での感覚への作用(冷感作用又は温感作用を含む)をもたらす成分である。これらの成分としては、メントール、酢酸メンチル、乳酸メンチル、カンファー、ユーカリ油、ユーカリプトール、アネトール、オイゲノール、カッシア、オキサノン、a−イリソン、プロペニルグエトール(guaiethol)、チモール、リナロール、ベンズアルデヒド、シンナムアルデヒド、N−エチル−p−メンタン−3−カルボキサミン、N,2,3−トリメチル−2−イソプロピルブタンアミド、3−l−メントキシプロパン−1,2−ジオール、シンナムアルデヒドグリセロールアセタール(CGA)、メタングリセロールアセタール(MGA)、及びその混合物が挙げられる。1つ又は複数の香料添加剤は、任意に本発明の組成物中に存在していてもよい。
【0089】
様々な実施形態において、活性成分が本発明の組成物を含む製品中に含まれる。幾つかの実施形態では、任意の活性成分は、全体的又は部分的に口腔の障害ではない障害を治療又は予防する働きをする「全身活性剤」である。様々な実施形態において、活性剤は口腔内(例えば歯、歯肉、又は口腔の他の硬組織若しくは軟組織)で障害を治療若しくは予防するか、又は美容的効果を提供する「口腔ケア活性剤」である。本明細書中の歯科用組成物において有用な口腔ケア活性剤としては、虫歯予防薬、歯石除去剤、歯周活性剤、研磨剤、口臭清涼剤、悪臭防止剤、歯科用知覚過敏抑制剤、唾液刺激剤及びそれらの組み合わせが挙げられる。上記活性剤のカテゴリーの各々の一般属性は異なり得るが、幾つかの共通の属性が存在し、任意の所与の材料がかかる活性剤のカテゴリーの2つ以上において複数の目的に適合し得ることが理解される。
【0090】
本発明の組成物を含む製品は任意で酸化防止剤を含む。ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、ビタミンA、カロチノイド、ビタミンE、フラボノイド、ポリフェノール、アスコルビン酸、薬草酸化防止剤、クロロフィル、メラトニン及びそれらの混合物を含む、任意の経口的に許容可能な酸化防止剤を使用することができる。
【0091】
本発明の組成物を含有する製品は任意で、例えば抗菌剤、抗歯石剤又は口臭清涼剤として有用な、経口的に許容可能な亜鉛イオン供給源を含む。かかる供給源は1つ又は複数存在し得る。好適な亜鉛イオン供給源としては、酢酸亜鉛、クエン酸亜鉛、グルコン酸亜鉛、グリシン酸亜鉛、酸化亜鉛、硫酸亜鉛、クエン酸亜鉛ナトリウム等が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の製品は、歯科用製品の安定性及び貯蔵寿命を調整するために、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及びアンモニウムを含む(これらに限定されない)、好適なpH調整剤を任意で含み得る。
【0092】
本発明の歯科製品は、任意に抗歯垢(例えば歯垢除去)剤を含む。1つ又は複数のかかる抗歯垢剤は抗歯垢効果のある総量で存在し得る。好適な抗歯垢剤としては、スズ塩、銅塩、マグネシウム塩及びストロンチウム塩、セチルジメチコンコポリオールのようなジメチコンコポリオール、パパイン、グルコアミラーゼ、グルコースオキシダーゼ、尿素、乳酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウム、ポリアクリル酸ストロンチウム、並びにクエン酸、酒石酸、及びそれらのアルカリ金属塩のようなキレート剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0093】
本発明の組成物を含有する歯科用製品及び医薬化合物は、任意に抗炎症剤を含む。1つ又は複数のかかる抗炎症剤は抗炎症効果のある総量で存在し得る。好適な抗炎症剤としては、フルオシノロン及びヒドロコルチゾンのようなステロイド剤、並びにケトロラク、フルビプロフェン、イブプロフェン、ナプロキセン、インドメタシン、ジクロフェナク、エトドラク、インドメタシン、スリンダク、トルメチン、ケトプロフェン、フェノプロフェン、ピロキシカム、ナブメトン、アスピリン、ジフルニサール、メクロフェナム酸、メフェナム酸、オキシフェンブタゾン及びフェニルブタゾンのような非ステロイド剤(NSAID)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0094】
本発明の組成物を組み入れた歯科用製品は、任意に脱感作剤又は歯の知覚保護剤を含む。かかる脱感作剤又は歯の知覚保護剤が1つ又は複数存在し得る。好適な脱感作剤としてはクエン酸カリウム、酒石酸カリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム及び硝酸カリウムのようなカリウム塩が挙げられるが、これらに限定されない。別の好適な脱感作剤は硝酸ナトリウムである。代替的に又は付加的に、アスピリン、コデイン、アセトアミノフェン、サリチル酸ナトリウム又はサリチル酸トリエタノールアミンのような局所性又は全身性の鎮痛薬を使用することができる。
【0095】
本発明の組成物を組み入れた食品材料のような製品は、任意に栄養素を含む。好適な栄養素としてはビタミン、ミネラル、アミノ酸、及びそれらの混合物が挙げられる。ビタミンとしてはビタミンC及びビタミンD、チアミン、リボフラミン、パントテン酸カルシウム、ナイアシン、葉酸、ニコチンアミド、ピリドキシン、シアノコバラミン、パラアミノ安息香酸、バイオフラボノイド、及びそれらの混合物が挙げられる。栄養補助剤としては、アミノ酸(例えばL−トリプトファン、L−リシン、メチオニン、トレオニン、レボカルニチン及びL−カルニチン)、脂肪作用薬(例えばコリン、イノシトール、ベタイン及びリノレン酸)、魚油(ω−3(N−3)ポリ不飽和脂肪酸、エイコサペンタエン酸及びドコサヘキサエン酸のようなその構成要素を含む)、コエンザイムQ10、及びそれらの混合物が挙げられる。
【0096】
本発明の別の実施形態では、マイクロカプセルを含む製品は更に、骨組織又は歯表面で放出される抗菌剤を含み得る。様々な抗菌活性化合物を使用することができる。これらの活性剤は、一般的にハロゲン化炭化水素、第4級アンモニウム塩及び硫黄化合物に分類することができる。ハロゲン化炭化水素としてはサリチルアニリド、カルバニリド、ビスフェノール、ジフェニルエーテル、チオフェンカルボン酸のアニリド及びクロルヘキシジンのハロゲン化誘導体が挙げられる。第4級アンモニウム化合物としては、アルキルアンモニウム塩、ピリジニウム塩、及びイソキノリニウム塩が挙げられる。硫黄活性化合物としては、チウラムスルフィド及びジチオカルバメートが挙げられる。
【0097】
他の好適な例としては、塩化銅(II)、フッ化銅(II)、硫酸銅(II)及び水酸化銅(II)のような銅(II)化合物、酢酸亜鉛、クエン酸亜鉛、グルコン酸亜鉛、グリシン酸亜鉛、酸化亜鉛、硫酸亜鉛及びクエン酸亜鉛ナトリウム(sodium zinc citrate)のような亜鉛イオン源、フタル酸マグネシウム一カリウムのようなフタル酸及びその塩、ヘキセチジン、オクテニジン、サンギナリン、塩化ベンザルコニウム、臭化ドミフェン、塩化セチルピリジニウム(CPC、CPCと亜鉛及び/又は酵素との組合せを含む)、塩化テトラデシルピリジニウム及びN−テトラデシル−4−エチルピリジニウム塩化物のような塩化アルキルピリジニウム、ヨウ素、スルホンアミド、アレキシジン、クロルヘキシジン及び二グルコン酸クロルヘキシジンのようなビスビグアニド、デルモピノール及びオクタピノールのようなピペリジン誘導体、モクレン抽出物、ブドウ種子抽出物、メントール、ゲラニオール、シトラール、ユーカリプトール、抗生物質(例えばオーグメンチン、アモキシシリン、テトラサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、メトロニダゾール、ネオマイシン、カナマイシン及びクリンダマイシン等)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0098】
他の好適な抗菌剤としては、当業者に既知の非イオン性及びアニオン性抗菌剤が挙げられる。非イオン性抗菌剤の例としては、アルキルフェノキシフェノール、シクロアルキルフェノキシフェノール、9,10−ジヒドロフェナンスレノール、アルキルフェノール、シクロアルキルフェノール、フェノール性化合物、ハロゲン化カルバニリド、ハロゲン化サリチルアニリド、安息香酸エステル、ハロゲン化ジフェニルエーテル及びそれらの混合物のような実質的に水に不溶で、非カチオン性の抗菌剤が挙げられる。特に好適な非イオン性抗菌剤は、2,4,4’−トリクロロ−2’−ヒドロキシジフェニルエーテル(トリクロサン)及び2,2’−ジヒドロキシ−5,5’−ジブロモジフェニルエーテルのようなジフェニルエーテルである。1つ又は複数の抗菌剤は、抗微生物効果のある総量で任意に存在する。
【0099】
本発明の歯科用製品の様々な実施形態において、歯科用製品は、組成物と再石灰化又はホワイトニングされる歯の表面との接着を強化することを含む、複数の機能を果たす接着剤又は接着強化剤を含む。接着剤は歯と接着すること、歯以外の口腔表面(唇、歯肉面又は他の粘膜面等)と接着しないこと、及び長時間歯と接着し続けることについて最適化される。かかる特徴の最適化は、単一の接着剤又は異なる接着剤の組み合わせの物理的性質及び化学的性質を変更することにより達成することができる。本発明の或る特定の実施形態では、製品中の接着性ポリマーは、その中に歯科用微粒子を分散させることのできるポリマーであり、当該技術分野で既知である。
【0100】
本発明の組成物は、キャンディ、トローチ、チューインガム、錠剤、カプセル又は他の製品に組み込むこともできる。製品へのマイクロカプセルの組み込みは、望ましくは従来の可塑剤又は軟化剤、糖、グルコース、ソルビトール又は他の甘味料と共に、例えば温めたガム基礎剤(その実例としてはジェルトン、ゴムラテックス、ビニライト樹脂、及び同様の化合物を挙げることができる)に混ぜ入れること、又はガム基礎剤の外表面にコーティングすることによって達成することができる。本発明のマイクロカプセル組成物を様々な食品に組み込むことができることも本明細書中で意図される。
【0101】
本明細書はヒトにおける用途に具体的に言及するが、本発明は獣医学目的にも有用であることが明らかに理解される。したがって、全ての態様において、本発明の方法及び組成物はウシ、ヒツジ、ウマ及び家禽等の家畜、並びにネコ及びイヌ等の伴侶動物、並びに他の動物に有用である。
【0102】
本発明が、以上に具体的に示し、説明した特定の実施形態に限定されないことは当業者に理解される。それどころか、本発明の範囲は記載される特徴の組み合わせ、並びに当業者が上述の記載を読むことで想到し得る、従来技術に含まれないその変更形態及び変形形態を含む。
【実施例】
【0103】
以下の実施例は、本発明の組成物及び合成方法を説明するものである。これらの実験によって、イオン性塩溶液を首尾よく封入して効果的な組織石灰化組成物を作製するために、界面活性剤を含まない逆エマルションの界面重合を使用することの実行可能性が実証される。
【0104】
[実施例1]
合成データ
安息香酸メチル連続相中の塩水溶液の安定な逆エマルションの界面重合を行うことによって、3種の本発明のマイクロカプセル組成物、すなわち、Ca(NO水溶液を含有する第1の組成物、KHPO水溶液を含有する第2の組成物、及びNaF水溶液を含有する第3の組成物を調製した。6グラムのポリグリセリル−3−ポリリシノレエート(P3P)を乳化剤として使用した。この乳化剤と4グラムのポリウレタンポリマーとを混合した。塩水溶液(100mLの1モルリン酸水素二カリウム)を、210mLの安息香酸メチル連続油相に混合しながら添加した。0.2gのエチレングリコールを続いて逆エマルションに添加し、分散した塩水溶液の液滴の界面でのポリウレタンポリマーの界面重合を完了させた。マイクロカプセルの平均サイズを混合速度によって調整した。本発明の方法を用いることによって、以下の塩溶液を調製した:(1)Ca(NO[5モラー];(2)KHPO[5モラー];及び(3)NaF[0.1モラー]。
【0105】
[実施例2]
再石灰化能を有するキャビティーワニス用の本発明の組成物を、以下のようにして調製した。以下の再石灰化剤(3wt%)を有するロジン、エタノール及びチモール(97wt%)を含有する標準的なキャビティーワニスを、1Mリン酸水素二カリウム塩水溶液を含有するマイクロカプセル1.5wt%及び1M硝酸カルシウム溶液を含有するマイクロカプセル1.5wt%と組み合わせた。
【0106】
[実施例3]
コロイド状結合剤、保湿剤、防腐剤、香料添加剤、研磨剤及び洗浄剤を含む、再石灰化能を有する歯磨き粉用の組成物を調製した。2Mリン酸水素二カリウム水溶液を含有するマイクロカプセル2wt%、及び1M硝酸カルシウム溶液を含有するマイクロカプセル2wt%を組み込んだ。さらに、0.25M NaF溶液を含有するマイクロカプセルを、フッ素化の治療剤として歯磨き粉中に組み込んだ。口腔へ適用すると、マイクロカプセルは歯に対する歯ブラシの運動及び圧迫によって口内で破裂する。カルシウムイオンが硝酸カルシウム溶液から放出され、歯の石灰化及びホワイトニングをもたらす。
【0107】
[実施例4]
再石灰化能及びフッ素化治療能を有する歯科用レジンコンポジット用の組成物を、以下のようにして調製した。始めに、ウレタンジメタクリレート樹脂とジメタクリル酸トリエチレングリコール(TEGDMA)樹脂とを4:1の比率で組み合わせることによって、樹脂混合物(合計16wt%)を作製した。光増感剤(カンファーキノン)は組成物全体の0.7wt%添加した。促進剤(エチル−4−ジメチルアミノ安息香酸エチル)は組成物全体の3wt%添加した。阻害剤(4−メトキシフェノール)は組成物全体の0.05wt%添加した。樹脂、光増感剤、促進剤及び阻害剤をフラスコ内で合わせ、50℃で混合した。均質化した後、上記樹脂ブレンドを以下のフィラー(合計84wt%):
シラン処理(silanated)ストロンチウムガラス71wt%、ヒュームドシリカ10wt%、2.5M硝酸カルシウム溶液を含有するマイクロカプセル1.25wt%、1.0Mリン酸水素二カリウム溶液を含有するマイクロカプセル1.25wt%及び0.25M NaF溶液を含有するマイクロカプセル0.5wt%、
と混合した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の塩の水溶液を取り囲む半透過性のシェルとして実質的に配置された、少なくとも1種のポリマーを含むマイクロカプセル組成物であって、前記塩が少なくとも1種の塩イオンを含有し、該塩イオンが前記シェルを透過し、哺乳動物への搬送に好適である組成物。
【請求項2】
前記塩が、カルシウム塩、リン酸塩、フッ化物塩及びそれらの混合物から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ポリマーの分子量が、約1000g/モル〜約50000g/モルである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記マイクロカプセルの直径が約1ミクロン〜約3mmである、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の組成物を含む、組織石灰化のための製品。
【請求項6】
哺乳動物の骨量の増加をもたらす、請求項1に記載の組成物を含む骨石灰化製品。
【請求項7】
骨セメント又は生体活性ガラスの形態である、請求項6に記載の骨石灰化製品。
【請求項8】
前記塩イオンが、哺乳動物の口腔内で歯の脱灰を防ぐか、又は歯の再石灰化をもたらす、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記塩イオンが、哺乳動物の口腔内で歯のホワイトニングをもたらす、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
哺乳動物の口腔内で組織感受性の低下をもたらす、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
ペースト、ゲル、フォーム、洗口液、歯磨剤、歯科用ホワイトニング製品、口臭清涼剤、人工唾液系、ワニス、知覚過敏抑制剤、歯科用修復材、コンポジット、接着剤、セメント、生体活性ガラス、グラスアイオノマー、コンポマー、ジャイオマー、レジン、義歯、義歯床材料、根管充填材、シーラー、歯科用インプラント、組織再生材料、歯髄覆罩材及び充填修復材の形態である、請求項1に記載の組成物を含む歯科用製品。
【請求項12】
防腐剤、抗歯石剤、歯石除去剤(anticalculus agents)、抗菌剤、香料、甘味料及び着色料を含む群から選択される添加物を更に含む、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
請求項1に記載のマイクロカプセルを複数含み、前記マイクロカプセルが種々の塩水溶液を含有する組織石灰化製品。
【請求項14】
請求項1に記載の組成物を含む、塩イオンの放出のための制御された放出搬送システムであって、異なる明確な塩イオン放出プロファイルを有する複数のマイクロカプセルを含む、システム。
【請求項15】
錠剤、カプセル、キャンディ、トローチ及びチュアブルガムからなる群から選択される、活性成分として請求項1に記載の組成物を含む製品。
【請求項16】
請求項1に記載の組成物を組み入れた食品材料。
【請求項17】
請求項1に記載の組成物を含む医薬化合物。
【請求項18】
少なくとも1種の塩の水溶液を取り囲むシェルとして実質的に配置された、少なくとも1種のポリマーを含むマイクロカプセル組成物であって、前記塩が少なくとも1種の塩イオンを含有し、哺乳動物への搬送に好適である組成物。
【請求項19】
マイクロカプセルを含む、齲蝕の低減又は予防のための歯科用製品であって、前記マイクロカプセルがCa(NO、KHPO及びNaFの少なくとも1種から選択される水溶液を含み、逆エマルションの界面重合によって調製される、歯科用製品。
【請求項20】
組織石灰化に使用される、哺乳動物への搬送に好適なマイクロカプセルを形成する方法であって、少なくとも1種のポリマーと少なくとも1種の塩水溶液とを組み合わせる工程を有し、前記ポリマーが前記塩溶液を取り囲むシェルを実質的に形成する方法。
【請求項21】
界面活性剤を含まない逆エマルションの界面重合によって、組織石灰化のための哺乳動物への搬送に好適なマイクロカプセルを形成する方法であって、(a)塩水溶液、(b)油相、(c)ポリマー及び(d)乳化剤を接触させる工程を有し、前記ポリマーが前記塩水溶液を取り囲むシェルを実質的に形成する方法。
【請求項22】
前記シェルが半透過性又は不透過性である、請求項20又は21に記載の方法。
【請求項23】
前記組織が骨又は歯である、請求項20又は21に記載の方法。
【請求項24】
前記哺乳動物がヒトである、請求項20又は21に記載の方法。
【請求項25】
前記塩が、カルシウム塩、リン酸塩、フッ化物塩又はそれらの混合物から選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
前記ポリマーが両親媒性ポリウレタンである、請求項21に記載の方法。
【請求項27】
ジオール、イソシアン酸塩又はその両方を添加する工程を更に有する、請求項21に記載の方法。
【請求項28】
前記油相が安息香酸メチルである、請求項21に記載の方法。
【請求項29】
前記乳化剤がポリグリセリル−3−ポリリシノレエートである、請求項21に記載の方法。
【請求項30】
界面活性剤を含まない逆エマルションの界面重合によって、組織石灰化のための哺乳動物への搬送に好適な半透過性のポリマーマイクロカプセルを形成する方法であって、(a)水、(b)油相、(c)ポリマー及び(d)乳化剤を接触させる工程を有し、前記ポリマーが水分子を取り囲む半透過性のシェル層を実質的に形成し、前記組織が骨又は歯である方法。
【請求項31】
請求項30に記載の方法において形成されたマイクロカプセルを、塩水溶液と接触させる工程を更に含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
口腔内で請求項1に記載のマイクロカプセルに塩イオンを装填する方法であって、口腔内の前記マイクロカプセルを塩水溶液と接触させる工程を有し、塩イオンが前記塩水溶液から前記マイクロカプセルの半透過性のポリマーシェルを透過し、続く歯の再石灰化に使用される前記マイクロカプセル内に入る方法。
【請求項33】
前記マイクロカプセルに装填する工程が、口腔内に前記塩水溶液を含む歯科用製品を投与することによって起こり、前記歯科用製品がペースト、ゲル、フォーム、洗口液、歯磨剤、人工唾液系、ワニス又は接着剤から選択される、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
哺乳動物の骨において骨量を増加させるか、又は骨量の低下を防ぐ方法であって、半透過性のポリマーシェルに実質的に封入された、塩水溶液を含有するマイクロカプセルを含む化合物を前記骨に局所投与する工程を有し、前記塩溶液が前記半透過性のシェルを透過して前記マイクロカプセルから出る塩イオンを、前記骨の石灰化を誘導し、それにより骨量を増加させるか、又は骨量の低下を防ぐのに十分な量で放出する方法。
【請求項35】
歯を再石灰化する方法であって、半透過性のポリマーシェルに実質的に封入された、塩水溶液を含有するマイクロカプセルを含む歯科用化合物を哺乳動物の口腔内に投与する工程を有し、前記塩溶液が前記半透過性のシェルを透過して前記マイクロカプセルから口腔内へと出る塩イオンを放出する方法。
【請求項36】
前記塩イオンが口腔内で歯のホワイトニングももたらす、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記歯科用化合物が、ペースト、ゲル、フォーム、洗口液、歯磨剤、ホワイトニング製品、口臭清涼剤、人工唾液系、ワニス、知覚過敏抑制剤、歯科用修復材、コンポジット、接着剤、セメント、生体活性ガラス、グラスアイオノマー、コンポマー、レジン、義歯、義歯床材料、根管充填材、シーラー、歯科用インプラント、組織再生材料、歯髄覆罩材及び充填修復材から選択される、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
歯を再石灰化する方法であって、(1)ポリマーシェルに実質的に封入された、塩水溶液を含有するマイクロカプセルを含む歯科用化合物を哺乳動物の口腔内に投与する工程、及び(2)前記塩イオンを口腔内での機械的撹拌によって前記マイクロカプセルから口腔内へと放出させる工程を有する方法。
【請求項39】
前記塩イオンを、歯ブラシ、デンタルフロス、歯又は舌によって前記マイクロカプセルから放出させる、請求項38に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2012−527405(P2012−527405A)
【公表日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−507476(P2012−507476)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【国際出願番号】PCT/US2010/032636
【国際公開番号】WO2010/129309
【国際公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(508232286)プレミア デンタル プロダクツ カンパニー (2)
【Fターム(参考)】