説明

マイクロカプセル

【課題】壁膜形成材料としてメラミン−ホルムアルデヒド樹脂または尿素−ホルムアルデヒド樹脂を含有してなるマイクロカプセルにおいて、壁膜形成に寄与しない過剰のホルムアルデヒドによる臭いや、マイクロカプセルに使用する材料や調製に伴う特異臭、着色を少なくすることが、本発明での課題である。
【解決手段】壁膜形成材料としてメラミン−ホルムアルデヒド樹脂または尿素−ホルムアルデヒド樹脂を含有してなるマイクロカプセルにおいて、該マイクロカプセルがホルムアルデヒド吸着剤またはホルムアルデヒド処理剤による処理を施された後、漂白剤を用いて処理されてなることを特徴とするマイクロカプセル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁膜形成材料としてメラミン−ホルムアルデヒド樹脂または尿素−ホルムアルデヒド樹脂を含有してなるマイクロカプセルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
理学、工学、医学、農学等の多くの分野において、情報記録材料、化粧品素材、塗料材料、文房具材料、農医薬、食品素材、エネルギー貯蔵等の用途でマイクロカプセルが利用されている。
【0003】
マイクロカプセルは、有用物質を内包物質とし、内包物質を外部環境と隔離して使用したり、必要に応じて壁膜を破壊し内包物質を取り出して使用したりする等、目的に応じた形態で利用される。その中でも、膜形成材料としてメラミン−ホルムアルデヒド樹脂や尿素−ホルムアルデヒド樹脂を含有してなるマイクロカプセルは、堅牢なカプセルとして使われている。
【0004】
壁膜形成材料としてメラミン−ホルムアルデヒド樹脂や尿素−ホルムアルデヒド樹脂を含有してなるマイクロカプセルは、調製した後に壁膜形成に寄与しない過剰のホルムアルデヒドが残り、その臭い等が問題となる。このため過剰のホルムアルデヒドを低減化することが必須である。
【0005】
過剰のホルムアルデヒドを除去する方法としては、一般にホルムアルデヒドを酸化または還元等させて分解する方法や、ホルムアルデヒドと反応性する化合物と結合させて異なる化合物に変換させる方法等がある。その具体的な例として、塩基性触媒下で加熱処理する方法、過酸化物で処理する方法、尿素やアンモニア水で処理する方法、窒素を含まず且つ一分子中に2個以上のアルコール性水酸基を有する化合物と過剰のホルムアルデヒドを反応させる方法等がある(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0006】
しかしながら、これらのホルムアルデヒドを除去する方法では、処理直後のホルムアルデヒド除去効果はあるが、ホルムアルデヒド除去効果が不十分であったり、経時的にホルムアルデヒドが遊離してきたり、ホルムアルデヒド除去反応によって生じた液着色や臭い、ホルムアルデヒドを除去するために使用した薬剤固有の臭い等が生じたりすることがあり、問題となっていた。またホルムアルデヒドを除去するために使用する薬剤によっては、取扱い時や保管時の安全性の確保が必要となるものもあり、煩雑となっていた。
【特許文献1】特開2000−44940号公報
【特許文献2】特開平4−35735号公報
【特許文献3】特開2007−21299号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
膜形成材料がメラミン−ホルムアルデヒド樹脂や尿素−ホルムアルデヒド樹脂を含有してなるマイクロカプセルにおいて、壁膜形成に寄与しない過剰のホルムアルデヒドによる臭いや、マイクロカプセルに使用する材料や調製に伴う特異臭、着色を少なくすることが本発明の課題である。
【0008】
上記課題を解決するために、以下の発明を見出した。
(1)壁膜形成材料としてメラミン−ホルムアルデヒド樹脂または尿素−ホルムアルデヒド樹脂を含有してなるマイクロカプセルにおいて、該マイクロカプセルがホルムアルデヒド吸着剤またはホルムアルデヒド処理剤による処理を施された後、漂白剤を用いて処理されてなることを特徴とするマイクロカプセル、
(2)ホルムアルデヒド吸着剤またはホルムアルデヒド処理剤による処理が、塩基性触媒存在下による加熱処理である上記(1)記載のマイクロカプセル。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、膜形成材料としてメラミン−ホルムアルデヒド樹脂または尿素−ホルムアルデヒド樹脂を含有してなるマイクロカプセルにおいて、壁膜形成に寄与しない過剰のホルムアルデヒドによる臭いや、マイクロカプセルに使用する材料や調製に伴う特異臭、着色を少なくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、膜形成材料としてメラミン−ホルムアルデヒド樹脂または尿素−ホルムアルデヒド樹脂を含有してなるマイクロカプセルに関するものである。マイクロカプセルに内包する物質は、使用用途に応じて適宜選択されるものであり、情報記録材料、化粧品素材、塗料材料、文房具材料、農医薬、食品素材、蓄熱材、エネルギー貯蔵物質等の有用物質を内包物質として用い、内包物質を外部環境と隔離させたり、必要に応じて熱や圧力によりマイクロカプセル壁膜を破壊して内包物質を取り出したり等によってマイクロカプセルの機能を発揮する。
【0011】
一般に、有用物質を内包物質としてマイクロカプセル化する方法としては、複合エマルジョン法によるカプセル化法(特開昭62−1452号公報)、蓄熱物質粒子の表面に熱可塑性樹脂を噴霧する方法(特開昭62−45680号公報)、蓄熱物質粒子の表面に液中で熱可塑性樹脂を形成する方法(特開昭62−149334号公報)、蓄熱物質粒子の表面でモノマーを重合させ被覆する方法(特開昭62−225241号公報)、界面重縮合反応によるポリアミド皮膜マイクロカプセルの製法(特開平2−258052号公報)等に記載されている方法がある。
【0012】
マイクロカプセル壁膜形成材料としては、界面重合法、インサイチュー法、ラジカル重合法等の手法で得られるポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリ(メタ)アクリレート、ポリアミド、ポリアクリルアミド、エチルセルロース、ポリウレタン、ポリウレア、アミノプラスト樹脂、ゼラチンとカルボキシメチルセルロースもしくはアラビアゴムとのコアセルベーション法を利用した合成あるいは、天然樹脂が用いたものがあり、使用用途等に応じて使い分けされている。更に物理的、化学的に安定で、且つ比較的安価で容易に作製できるインサイチュー法によるメラミン−ホルムアルデヒド樹脂、尿素−ホルムアルデヒド樹脂を用いたマイクロカプセルは有用であり、本発明の壁膜形成材料として使用される。
【0013】
メラミン−ホルムアルデヒド樹脂または尿素−ホルムアルデヒド樹脂の壁膜からなるマイクロカプセルでは、壁膜形成後、壁膜形成に寄与しない過剰のホルムアルデヒドが残留し、その臭い等が問題となる。本発明において、この過剰のホルムアルデヒドが残留するマイクロカプセルは、まずホルムアルデヒド吸着剤またはホルムアルデヒド処理剤により処理が施される。
【0014】
ホルムアルデヒド吸着剤による処理としては、ゼオライト、酸性白土、珪藻土、活性炭、シリカゲル、二酸化チタンや酸化亜鉛等の光触媒、キトサン、カテキン、タンニン等を使用することができる。またホルムアルデヒド処理剤による処理としては、尿素、チオ尿素、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン等の有機アミン、アミノ酸、リン酸アンモニウム等の無機アンモニウム塩、消石灰、チオ硫酸塩、アンモニア、亜硫酸塩、過硫酸塩等や、ホルムアルデヒドを酸化または還元効果により分解する方法、ホルムアルデヒドと化学反応する化合物と結合させて異なる化合物に変換させる方法等がある。その具体的な例として、尿素等のアミン系化合物やアンモニア水で処理する方法や、窒素を含まず、且つ、一分子中に2個以上のアルコール性水酸基を有する化合物で処理する方法(特開2000−44940号公報)、塩基性触媒下で加熱処理する方法(特開2007−21299号公報)等がある。
【0015】
ホルムアルデヒド吸着剤またはホルムアルデヒド処理剤による処理が施されたマイクロカプセルは、ホルムアルデヒドは低減できる反面、液着色や臭い、ホルムアルデヒド除去剤固有の臭い等が残る場合があるが、本発明では、漂白剤を用いてこれを除去する。本発明に係わる漂白剤としては、次亜塩素酸ナトリウム等の塩素系漂白剤、過酸化水素、オゾン、過炭酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム、過酢酸等の酸化剤、二酸化チオ尿素、亜二チオン酸ナトリウム、ハイドロサルファイト等の還元剤等がある。中でも法規制の存在と取り扱いの容易性等より、過ホウ酸ナトリウム、過炭酸ナトリウムが特に好ましい。これら漂白剤は、いずれか1種類を使用するだけでなく、必要に応じて2種類以上を併用することもできる。また、漂白剤の他に必要に応じて、テトラアセチルエチレンジアミン、ノナノイルオキシベンゼンスルホン酸、ペンタアセチルグルコース、デカノイルオキシ安息香酸等を漂白活性化剤として添加し、漂白剤の効果を高めることもできる。
【実施例】
【0016】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
【0017】
実施例1
(マイクロカプセルスラリー1の調製)
メラミン粉末12質量部に37質量%ホルムアルデヒド水溶液15.4質量部と水40質量部を加え、pHを8に調整した後、約70℃まで加熱してメラミン−ホルムアルデヒド初期縮合物水溶液を得た。pHを4.5に調整した10質量%スチレン−無水マレイン酸共重合体のナトリウム塩水溶液100質量部中に、蓄熱物質として、n−テトラデカン(融点5〜6℃)80質量部を激しく撹拌しながら添加し、粒子径が3.0μmになるまで乳化を行い、乳化液を得た。この乳化液に、上記メラミン−ホルムアルデヒド初期縮合物水溶液全量を添加して70℃加熱条件下で2時間撹拌を施し、n−テトラデカンを内包したマイクロカプセルスラリー0を得た。
【0018】
次いで、このマイクロカプセルスラリー0に、10質量%水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを11に調整し、10質量%グルコース水溶液40質量部を添加して70℃加熱条件下で1時間撹拌を施し、マイクロカプセルスラリー1を得た。このマイクロカプセルスラリー1は、ホルムアルデヒドの刺激臭は完全に消失していたが、スラリーは茶褐色で糖臭が存在した。
【0019】
(特異臭、スラリー着色の除去)
40質量%のマイクロカプセルスラリー1を100g採取し、過炭酸ナトリウム(純正化学(株)化学用試薬)3gを添加して60℃加熱条件下で1時間撹拌した。その後常温まで温度を下げ、蟻酸を用いてスラリーpHを7に調整し、マイクロカプセルスラリーAを得た。本操作後のマイクロカプセルスラリーAからは、糖臭と着色がほぼ消えた。
【0020】
実施例2
(特異臭、スラリー着色の除去)
実施例1で得られた40質量%のマイクロカプセルスラリー1を100g採取し、過ホウ酸ナトリウム四水和物(和光純薬工業(株)特級試薬)5gを添加して60℃加熱条件下で1時間撹拌した。その後常温まで温度を下げ、蟻酸を用いてスラリーpHを7に調整し、マイクロカプセルスラリーBを得た。本操作後のマイクロカプセルスラリーBからは、糖臭と着色がほぼ消えた。
【0021】
実施例3
(特異臭、スラリー着色の除去)
40質量%のマイクロカプセルスラリー1を100g採取し、6質量%過酸化水素水溶液25gを添加して60℃加熱条件下で1時間撹拌した。その後常温まで温度を下げ、蟻酸を用いてスラリーpHを7に調整し、マイクロカプセルスラリーCを得た。本操作後のマイクロカプセルスラリーCからは、糖臭と着色がほぼ消えた。
【0022】
実施例4
(マイクロカプセルスラリー3の調製)
メラミン粉末12質量部に37質量%ホルムアルデヒド水溶液15.4質量部と水40質量部を加え、pHを8に調整した後、約70℃まで加熱してメラミン−ホルムアルデヒド初期縮合物水溶液を得た。pHを4.5に調整した10質量%スチレン−無水マレイン酸共重合体のナトリウム塩水溶液100質量部を50℃に加温した液中に、蓄熱物質として、n−テトラデカノール(融点38℃)80質量部を50℃に加温した状態で、激しく撹拌しながら添加し、粒子径が3.0μmになるまで乳化を行い、乳化液を得た。この乳化液に、上記メラミン−ホルムアルデヒド初期縮合物水溶液全量を添加し70℃で2時間撹拌を施し、n−テトラデカノールを内包したマイクロカプセルスラリー2を得た。
【0023】
次いで、このマイクロカプセルスラリー2に、アンモニア水を添加してpHを8に調整し、水を添加して乾燥固形分濃度40質量%のn−テトラデカノールを内包したマイクロカプセルスラリー3を得た。このマイクロカプセルスラリー3は、白色であるものの、アンモニアとホルムアルデヒドの臭いがした。
【0024】
(特異臭、スラリー着色の除去)
40質量%のマイクロカプセルスラリー3を100g採取し、過炭酸ナトリウム(純正化学(株)化学用試薬)3gを添加して60℃加熱条件下で1時間撹拌した。その後常温まで温度を下げ、蟻酸を用いてスラリーpHを7に調整し、マイクロカプセルスラリーDを得た。本操作後のマイクロカプセルスラリーDからは、アンモニアとホルムアルデヒドの臭いが少なくなった。
【0025】
実施例5
(特異臭、スラリー着色の除去)
実施例4で得られた40質量%のマイクロカプセルスラリー3を100g採取し、過ホウ酸ナトリウム四水和物(和光純薬工業(株)特級試薬)5gを添加して60℃加熱条件下で1時間撹拌した。その後常温まで温度を下げ、蟻酸を用いてスラリーpHを7に調整し、マイクロカプセルスラリーEを得た。本操作後のマイクロカプセルスラリーEからは、アンモニアとホルムアルデヒドの臭いが少なくなった。
【0026】
比較例1
(特異臭、スラリー着色の除去)
実施例1で得られた40質量%のマイクロカプセルスラリー1を100g採取し、60℃加熱条件下で1時間撹拌した。その後常温まで温度を下げ、蟻酸を用いてスラリーpHを7に調整し、マイクロカプセルスラリーFを得た。本操作後のマイクロカプセルスラリーFは、糖臭と着色があった。
【0027】
比較例2
(特異臭、スラリー着色の除去)
実施例4で得られた40質量%のマイクロカプセルスラリー3を100g採取し、60℃加熱条件下で1時間撹拌した。その後常温まで温度を下げ、マイクロカプセルスラリーGを得た。本操作後のマイクロカプセルスラリーGには、アンモニア臭があった。
【0028】
比較例3
(特異臭、スラリー着色の除去)
実施例1で得られた40質量%のマイクロカプセルスラリー0を100g採取し、6質量%過酸化水素水(純正化学(株)30質量%特級試薬の希釈液)25gを添加し、60℃加熱条件下で1時間撹拌した。その後常温まで温度を下げ、10質量%水酸化ナトリウムを用いてスラリーpHを7に調整し、マイクロカプセルスラリーHを得た。本操作後のマイクロカプセルスラリーHには、ホルムアルデヒドの臭いと着色がわずかに残った。
【0029】
実施例及び比較例で得られたマイクロカプセルスラリーA〜Hの臭気と液着色を表1にまとめて示した。表中の記号の意味は次の通りである。
臭気の評価
◎:ほぼなし
○:わずかに臭気がある
×:臭気がある
着色の評価
◎:ほぼなし
○:わずかに着色している
×:着色がある
【0030】
【表1】

【0031】
ホルムアルデヒド処理剤で処理された後に漂白剤を用いて処理された実施例1〜5のマイクロカプセルは、ホルムアルデヒド処理剤で処理されただけの比較例1及び2のマイクロカプセルと比べて、臭気、液着色共に少なくなっていた。また、漂白剤を用いた処理のみの比較例3のマイクロカプセルと比較して、着色が少なくなっていた。また、実施例1〜3のマイクロカプセルを比較すると、臭気及び液着色共に少なくなっていたが、漂白剤として過炭酸ナトリウムと過ホウ酸ナトリウムを使用した実施例1及び2では、過酸化水素よりも、取り扱いが容易であった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、実施例の態様に限定されるものではなく、種々変更することができる。また、壁膜形成材料としてメラミン−ホルムアルデヒド樹脂または尿素−ホルムアルデヒド樹脂を含有してなるマイクロカプセルのみならず、液の臭気または着色の改善等が必要な他種壁膜のマイクロカプセルスラリーに対しても適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁膜形成材料としてメラミン−ホルムアルデヒド樹脂または尿素−ホルムアルデヒド樹脂を含有してなるマイクロカプセルにおいて、該マイクロカプセルがホルムアルデヒド吸着剤またはホルムアルデヒド処理剤による処理を施された後、漂白剤を用いて処理されてなることを特徴とするマイクロカプセル。
【請求項2】
ホルムアルデヒド吸着剤またはホルムアルデヒド処理剤による処理が、塩基性触媒存在下による加熱処理である請求項1記載のマイクロカプセル。

【公開番号】特開2009−202123(P2009−202123A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−48608(P2008−48608)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】