説明

マイクロサテライト不安定性における遺伝子の発現の差次的発現

本発明は、低レベルのマイクロサテライト不安定性(MSS)を示す腫瘍に対して、高レベルのマイクロサテライト不安定性(MSI−H)を示す結腸直腸腫瘍において過剰発現され、したがって、患者においてMSI−Hを同定するために使用でき、さらに患者の予後に役立ち、疾患の進行/退縮をモニターし、適当な治療計画を同定し、治療の有効性を評価するために使用できる核酸配列に関する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
結腸直腸癌腫は悪性新生物性疾患である。西欧諸国、特に、米国では、結腸直腸癌腫の罹患率が高い。この種の腫瘍は、リンパ管および脈管によって転移することが多い。結腸直腸癌腫を患う多数の患者が、この疾患のために最終的に死亡する。実際、米国単独で、毎年、62,000人が結腸直腸癌腫のために死亡すると推定されている。
【0002】
しかし、結腸直腸癌は、早期に診断されれば、癌組織の外科的切除によって効果的に治療できる。結腸直腸癌は結腸直腸上皮において始まり、通常、進行の初期ステージの間は広範に血管新生していない(ひいては、浸潤性でない)。結腸直腸癌は、結腸または直腸の上皮層における単一の変異細胞のクローン増殖に起因すると考えられている。全身に広がる、高度に血管新生化した、浸潤性の、最終的な、転移性癌への移行には、通常、10年以上かかる。癌が浸潤する前に検出されれば、癌組織の外科的切除が有効な治療法である。しかし、結腸直腸癌は、疼痛および黒いタール状の便といった臨床症状の出現時にのみ検出されることが多い。一般に、このような症状は、疾患が十分に確立された場合にのみ、多くは転移が起こった後に存在し、患者の予後は、癌組織の外科的切除後でさえ悪い。したがって、結腸直腸癌の早期検出は、検出によってその死亡率を大幅に低減できるという点で重要である。
【0003】
内視鏡検査などの侵襲的診断法により、ポリープなどの癌の可能性がある増殖の直接的視覚的同定、除去および生検が可能となる。内視鏡検査は高額であり、不快なものであり、本質的に危険なものであるので、結腸直腸癌を有するものを同定するために集団をスクリーニングするための実用的ツールではない。結腸直腸癌または前癌状態の存在を示す特徴についての糞便サンプルの非侵襲的分析が、初期診断のための好ましい代替法であるが、この目的を確実に達成する公知の診断法はどれも利用できる状態ではない。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、低レベルのマイクロサテライト不安定性(MSS)を示す腫瘍に対して、高レベルのマイクロサテライト不安定性(MSI−H)を示す結腸直腸腫瘍において過剰発現され、したがって、患者においてMSI−Hを同定するために使用でき、さらに患者の予後に役立ち、疾患の進行/退縮をモニターし、適当な治療計画を同定し、治療の有効性を評価するために使用できる核酸配列に関する。
【0005】
一態様では、本発明は、被験体において結腸癌の存在を検出する方法であって、前記被験体から生体サンプルを得るステップと、前記サンプルにおいて配列番号1〜34のうち1種以上の配列の存在を検出するステップであって、前記の1種以上の配列の存在が前記被験体における結腸癌を示すステップとを含む方法を提供する。
【0006】
一実施形態では、結腸癌を有していないことがわかっている対照被験体における前記配列の発現レベルと比較して、少なくとも2倍の前記配列の過剰発現が、前記被験体における結腸癌の存在を示す、前記配列の発現レベルを調べるステップ。
【0007】
さらなる実施形態では、検出するステップは、前記生体サンプルを、ストリンジェントなハイブリダイゼーションを可能にする条件下で、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で1種以上の前記配列とハイブリダイズする核酸プローブと接触させるステップと、前記核酸プローブの、前記の1種以上の前記配列とのハイブリダイゼーションを検出するステップであって、ハイブリダイゼーションの検出が前記サンプルにおける前記の1種以上の配列の存在を示すステップとを含む。
【0008】
一実施形態では、核酸プローブは検出可能なように標識されている。
【0009】
さらなる実施形態では、被験体はヒトである。
【0010】
もう1つの態様では、本発明はまた、被験体において結腸癌の存在を検出する方法であって、前記被験体から生体サンプルを得るステップと、前記サンプルにおいて、配列番号35〜68のうち1種以上のアミノ酸配列の存在を検出するステップであって、前記の1種以上の配列の存在が前記被験体における結腸癌を示すステップとを含む方法を提供する。
【0011】
一実施形態では、検出するステップは、前記生体サンプルを、前記の1種以上のアミノ酸配列と結合できるポリペプチドリガンドと、前記ポリペプチドリガンドが前記の1種以上のアミノ酸配列と結合するのを可能にする条件下で接触させるステップと、前記ポリペプチドリガンドの、前記の1種以上のアミノ酸配列との結合を検出するステップであって、結合の検出が前記サンプルにおける前記の1種以上のアミノ酸配列の存在を示すステップとを含む。
【0012】
一実施形態では、ポリペプチドリガンドは抗体である。
【0013】
さらなる実施形態では、ポリペプチドリガンドは、検出可能な標識を含む。
【0014】
一実施形態では、被験体はヒトである。
【0015】
もう1つの態様では、本発明はまた、個体においてマイクロサテライト不安定性を検出する方法であって、前記個体において配列番号1〜34のうち1種以上の配列の発現を測定するステップを含み、前記配列が、マイクロサテライト不安定性を有していないことがわかっている個体における前記配列の発現と比較して少なくとも2倍過剰発現される場合に、マイクロサテライト不安定性が検出される方法を提供する。
【0016】
一実施形態では、測定するステップは、前記個体から結腸直腸組織サンプルを得るステップと、前記サンプルを、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で前記の配列番号1〜34のうち1種以上の配列とハイブリダイズできる核酸プローブと接触させるステップと、前記核酸プローブの、前記の配列番号1〜34のうち1種以上の配列とのハイブリダイゼーションを検出するステップとを含む。
【0017】
一実施形態では、個体はヒトである。
【0018】
さらなる実施形態では、核酸プローブは検出可能なように標識されている。
【0019】
もう1つの態様では、本発明はまた、マイクロサテライト不安定性を有する結腸組織を同定する方法であって、個体から結腸組織サンプルを得るステップと、配列番号1〜34のうち1種以上の配列の発現を検出するステップとを含み、前記の配列番号1〜34のうち1種以上の配列の発現が、マイクロサテライト不安定性を有していないことがわかっている結腸組織サンプルにおける同一配列の発現よりも少なくとも2倍多い場合に、マイクロサテライト不安定性を有する結腸組織が検出される方法を提供する。
【0020】
一実施形態では、検出するステップは、前記結腸組織サンプルを、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で前記の配列番号1〜34のうち1種以上の配列とハイブリダイズできる核酸プローブと接触させるステップと、前記核酸プローブの、前記の1種以上の配列とのハイブリダイゼーションを検出するステップと含み、ハイブリダイゼーションの検出が、前記の配列番号1〜34のうち1種以上の配列の発現を示す。
【0021】
一実施形態では、核酸プローブは検出可能なように標識されている。
【0022】
一実施形態では、個体はヒトである。
【0023】
一実施形態では、結腸組織サンプルは腫瘍サンプルである。
【0024】
さらなる実施形態では、腫瘍は悪性腫瘍である。
【0025】
もう1つの態様では、本発明はまた、被験体において癌またはその前癌性状態の発症、進行または退縮をモニターする方法であって、第1の時点で、被験体の生体サンプルにおいて、配列番号1〜34からなる群から選択される1種以上の核酸配列を含む1種以上の核酸配列の発現を検出するステップと、その後の時点で、ステップ(a)を反復するステップと、ステップ(a)および(b)で検出される発現レベルを比較するステップとを含み、発現レベルの変化が被験体における癌またはその前癌性状態の進行を示す方法を提供する。
【0026】
一実施形態では、発現レベルの変化は上昇または低下のいずれかである。
【0027】
さらなる実施形態では、上昇または低下は少なくとも2倍の上昇または低下である。
【0028】
もう1つの態様では、本発明はまた、被験体において癌またはその前癌性状態の予後を調べる方法であって、被験体の生体サンプルにおいて、配列番号1〜34からなる群から選択される1種以上の核酸配列を含む1種以上の核酸配列の発現レベルを検出するステップと、ステップ(a)において検出された発現レベルを前記核酸配列の参照発現レベルと比較するステップと、ステップ(b)における比較に基づいて被験体の予後を評価するステップとを含む方法を提供する。
【0029】
一実施形態では、参照発現レベルは、癌のないサンプルまたは正常サンプルにおける前記核酸配列の発現レベルである。
【0030】
さらなる実施形態では、参照発現レベルは、攻撃的な形態に進行しないことがわかっている癌サンプルにおける前記核酸配列の発現レベルである。
【0031】
一実施形態では、参照発現レベルは、MSS結腸腫瘍における前記核酸配列の発現レベルである。
【0032】
もう1つの態様では、本発明はまた、被験体において癌を阻害する試験化合物の有効性を調べる方法であって、a)被験体から得た、試験化合物に曝露された第1の生体サンプルにおける1種以上の核酸配列の発現レベルを、b)被験体から得た、試験化合物に曝露されていない第2の生体サンプルにおける前記核酸配列の発現レベルと比較するステップを含み、前記核酸配列が配列番号1〜34からなる群から選択される1種以上の核酸配列を含み、前記ヌクレオチド配列の発現レベルの少なくとも2倍の変化が、試験化合物が被験体において癌を阻害するために有効であるという指標である方法を提供する。
【0033】
一実施形態では、発現レベルの変化は上昇または低下のいずれかである。
【0034】
さらなる実施形態では、本発明はまた、被験体において、癌を阻害する療法の有効性を調べる方法であって、a)被験体に療法の少なくとも一部を提供する前に被験体から得た第1の生体サンプルにおける1種以上の核酸配列の発現レベルを、b)療法の少なくとも一部の提供の後に被験体から得た第2の生体サンプルにおける前記ヌクレオチド配列の発現レベルと比較するステップを含み、前記ヌクレオチド配列が配列番号1〜34からなる群から選択される1種以上の核酸配列を含み、前記核酸配列の発現レベルの少なくとも2倍の変化が、療法が被験体において癌を阻害するために有効であるという指標である方法を提供する。
【0035】
一実施形態では、発現レベルの変化は上昇または低下のいずれかである。
【0036】
もう1つの態様では、本発明はまた、被験体において癌を阻害する組成物を選択する方法であって、被験体から癌細胞を含む第1の生体サンプルを得るステップと、複数の試験組成物の存在下でサンプルのアリコートを別個に曝露するステップと、(b)から得たアリコートの各々における1種以上の核酸配列の発現レベルを、(a)によって作製したサンプルにおける発現レベルと比較するステップであって、前記核酸配列が配列番号1〜34からなる群から選択される1種以上の核酸配列を含むステップと、試験組成物を含む一アリコートにおいて前記核酸配列の発現レベルの少なくとも2倍の変化を誘導する試験組成物の1種を選択するステップとを含む方法を提供する。
【0037】
一実施形態では、発現レベルの変化は上昇または低下のいずれかである。
【0038】
もう1つの態様では、本発明はまた、被験体において癌の発症、進行または退縮をモニターする方法であって、第1の時点で、第1の生体サンプルを、配列番号35〜68からなる群から選択されるポリペプチド配列を含む1種以上のポリペプチドと特異的に結合する1種以上のポリペプチドリガンドと接触させ、ポリペプチドリガンドとポリペプチドの間の特異的結合を調べるステップと、その後の時点で、第2の生体サンプルを、配列番号35〜68からなる群から選択されるポリペプチド配列を含む1種以上のポリペプチドと特異的に結合する前記ポリペプチドリガンドと接触させ、ポリペプチドリガンドとポリペプチドの間の特異的結合を調べるステップと、第1の生体サンプルにおける特異的結合を、第2の生体サンプルにおける特異的結合と比較するステップであって、特異的な結合の大幅な変化が癌の発症、進行または退縮の指標であるステップとを含む方法を提供する。
【0039】
もう1つの態様では、本発明はまた、被験体において癌またはその前癌性状態の予後を調べる方法であって、癌を有する被験体から得た生体サンプルを、配列番号35〜68からなる群から選択されるポリペプチド配列を含む1種以上のポリペプチドと特異的に結合する1種以上のポリペプチドリガンドと接触させるステップと、特異的結合を調べるステップと、サンプルにおけるポリペプチドリガンドとポリペプチドの間の特異的結合を、癌のないサンプルにおけるか、または攻撃的な形態に進行しないことがわかっている癌サンプルのいずれかにおけるポリペプチドリガンドとポリペプチドの間の特異的結合と比較するステップと、ステップ(c)における比較に基づいて被験体の予後を評価するステップとを含む方法を提供する。
【0040】
なおさらなる態様では、本発明はまた、被験体において癌を阻害する試験化合物の有効性を調べる方法であって、a)被験体から得た、試験化合物に曝露されていない第1の生体サンプルにおける、配列番号35〜68からなる群から選択されるポリペプチド配列を含む1種以上のポリペプチドと特異的に結合する1種以上のポリペプチドリガンドと、配列番号35〜68からなる群から選択されるポリペプチド配列を含む1種以上のポリペプチドの間の結合を、b)被験体から得た、試験化合物に曝露された第2の生体サンプルにおける、前記ポリペプチドリガンドと前記ポリペプチドの特異的結合と比較するステップであって、特異的結合の大幅な変化が、試験化合物が被験体において癌を阻害するために有効であるという指標であるステップを含む方法を提供する。
【0041】
もう1つの態様では、本発明は、被験体において癌を阻害する療法の有効性を調べる方法であって、治療前に被験体から得た第1の生体サンプルにおける、配列番号35〜68からなる群から選択されるポリペプチド配列を含む1種以上のポリペプチドと特異的に結合する1種以上のポリペプチドリガンドと、配列番号35〜68からなる群から選択されるポリペプチド配列を含む1種以上のポリペプチドの間の結合を、治療後に被験体から得た第2の生体サンプルにおける、前記ポリペプチドリガンドと前記ポリペプチドの特異的結合と比較するステップであって、特異的結合の大幅な変化が、試験化合物が被験体において癌を阻害するために有効であるという指標であるステップを含む方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
孤発性結腸直腸癌では、ゲノム不安定性の2つの主な機構が役割を果たすことが発見されている。第1のものは、染色体不安定性として知られ、ki−rasなどの一連の発癌遺伝子の活性化ならびにp53およびAPCなどの腫瘍抑制遺伝子の不活性化を含む一連の遺伝子の変異に起因している。染色体不安定性を示す細胞は、数十万のDNA塩基に影響を及ぼす異型接合性の喪失などの大規模な染色体変化を示す。マイクロサテライト不安定性(MSI)として知られる第2の機構は、最初、遺伝性非ポリポーシス結腸癌において記載され、孤発性結腸直腸癌の12〜15%でも見られる。MSIの示すものは、マイクロサテライトとして知られる短い反復DNA配列の広範囲に及ぶ突然変異である。MSI腫瘍は、粘液性組織像、顕著なリンパ性浸潤、近位位置(脾彎曲部の近位)、あまり分化していないことおよびより好都合ステージ分布(すなわち、癌進行の初期ステージで同定される)を特徴とする、特徴的な表現型を有する(例えば、ゲルバズ(Gervaz)ら、2003、スイス・サージェリー(Swiss Surgery)、9:3参照)。当技術分野では、MSI腫瘍を迅速かつ正確に検出する方法と、MSI結腸直腸腫瘍を有する患者の予後および治療計画を決定するための信頼できる判定基準とが必要である。
【0043】
本発明は、マイクロサテライト不安定性(MSS)を示さない腫瘍と比較して、マイクロサテライト不安定として分類される(MSI−H;分類は以下でさらに説明する)ヒト結腸直腸腫瘍では、特定の遺伝子配列が過剰発現されるという発見に幾分か基づいている。より具体的には、本発明は、マイクロサテライト不安定性を示さない結腸直腸腫瘍と比較して、高度のマイクロサテライト不安定性を有する(MSI−H)結腸直腸腫瘍において少なくとも2倍過剰発現される、34種の遺伝子配列に関する。したがって、一実施形態では、MSI−H結腸直腸腫瘍における遺伝子過剰発現の発見が、個体において結腸癌を検出および予測する手段を提供する。本発明は、結腸癌を有する疑いのある個体から生体サンプルを得、続いて、核酸プローブを用いてスクリーニングし、本明細書に記載される1種以上の遺伝子配列が少なくとも2倍過剰発現されているかどうかを調べることができる方法を提供する。1種以上の本発明の遺伝子配列の少なくとも2倍の過剰発現を同定することにより、当業者が個体をMSI−H対MSI−L対MSSである結腸直腸癌を有するとして分類することが可能となり、これによって、開業医に個体についての有益な予後情報が提供される。好ましい実施形態では、本発明は、本発明の1種以上のMSI−Hマーカー配列の過剰発現に基づいて、患者における結腸直腸癌の予後、治療経過、治療の有効性を調べる方法ならびに進行および/または退縮および/または再発をモニターする方法を提供する。
【0044】
したがって、本発明は、結腸直腸癌およびマイクロサテライト不安定性の検出に有用であるMSI特異的マーカー(核酸配列:配列番号1〜34;アミノ酸配列:35〜68)を提供する。本発明によれば、MSI−Hマーカーはまた、結腸直腸癌の発生を予測するために、および結腸直腸癌の発症に対する個体の素因を調べるためにも使用できる。
【0045】
定義
本明細書において、「マイクロサテライト不安定性」(MSI)とは、正常組織と比較した際の、腫瘍内の短いヌクレオチドリピート(マイクロサテライト)の拡大または収縮を指す。MSIは個々の腫瘍表現型を説明するものではなく、代わりに、1種以上の所与の遺伝子マーカーでの不安定性の観察を指す。マイクロサテライトは、短いモチーフ(通常、1〜5ヌクレオチド長)が数回反復されているDNAである。一般的なモノヌクレオチドリピートマイクロサテライトは、例えば、ひと続きの13個のアデノシン、略して(A)13であり得る。ヒトにおいて最もよく見られるマイクロサテライトは、シトシンおよびアデニンのジヌクレオチドリピート、(CA)であり、これは、その生殖細胞系中の何万もの位置で生じる。マイクロサテライトリピートは、減数分裂において拡大または収縮(延長化または短縮化)する傾向がある。これらの拡大または収縮は、通常DNAミスマッチ修復タンパク質(MMR)によって修復されるが、MMRの欠損がこのようなマイクロサテライト修飾の継続をもたらす場合があり、その結果、マイクロサテライト不安定性と呼ばれる。MSIは3つのカテゴリー:MSI−H、MSI−LおよびMSS(マイクロサテライト安定)に細分される。MSI−H、MSI−LおよびMSS腫瘍は、ボーランド(Boland)ら(以下でさらに詳細に論じられる、1998、キャンサー・リサーチ(Cancer Research)58、5248)に記載のとおり定義される。
【0046】
本明細書において、「生体サンプル」とは、個体から得た組織サンプル、細胞サンプルまたは液状サンプルを指す。本明細書において「生体サンプル」とは、細胞、循環細胞(例えば、血中循環細胞)、指定の解剖学的位置または指定の細胞種(例えば、結腸細胞、胃腸細胞、癌細胞など)から得た細胞、組織サンプルまたはリンパ、胆汁、血清、血漿、尿、滑液、血液、CSF、粘膜分泌物などの生理液または糞便などのその他の生理学的サンプルを指す場合がある。生体サンプルは結腸組織であることが好ましい。配列番号1〜34のうち1種以上などの本発明のMSI関連マーカーは、適した「生体サンプル」において検出でき、特異的結腸直腸癌関連マーカーの検出にとっての生体サンプルの個々の種類の適合性は、当業者によって容易に調べることができる。
【0047】
本明細書において「検出」とは、サンプル中の分子の有無の同定を指す。検出される分子がポリペプチドである場合には、検出というステップは、ポリペプチドを、検出可能なように標識されている抗体などのペプチドリガンドと結合することによって実施できる。検出可能な標識は、独立にか、または刺激に応じてのいずれかで、観察可能なシグナルを生成し得る分子である。検出可能な標識は、それだけには限らないが、蛍光標識、色素生産性標識、発光標識または放射性標識であり得る。標識を「検出」する方法としては、標準または共焦点顕微鏡に適応した定量的および定性的方法、FACS分析ならびにマルチウェルプレート、アレイまたはマイクロアレイに関連するハイスループット法に適応したものが挙げられる。当業者ならば、所与の蛍光ポリペプチドまたは色素からの蛍光発光を検出するための適当なフィルターセットおよび励起エネルギー源を選択できる。本明細書において「検出」とはまた、検出されるポリペプチドに対する多重ペプチドリガンドの使用を含み、これでは、多重抗体は、検出されるポリペプチド上の異なるエピトープと結合できる。この方法に用いる抗体は、2種以上の検出可能な標識を使用でき、これとしては例えば、FRETペアが挙げられる。配列番号35〜68のうちの1種以上などのポリペプチド分子は、検出可能なシグナルのレベルが検出可能な標識のバックグラウンドレベルよりも、ともかく大きい場合に、または測定される核酸のレベルが対照サンプルにおいて測定されるレベルよりも、ともかく大きい場合に、本発明によれば「検出される」。
【0048】
本明細書において「検出」とは、標的核酸分子(例えば、配列番号1〜34のうち1種以上の核酸分子)の存在を検出することを指すので、直接的または間接的に標識されたプローブ核酸分子(生体サンプル中、例えば、細胞中の標的、例えば、配列番号1〜34のうち1種以上の配列とin situハイブリダイゼーションによってハイブリダイズできる)によって生じたシグナルが測定されるか、観察されるプロセスを指す。したがって、プローブ核酸の検出は、標的核酸の存在、ひいては検出を直接的に示す。例えば、プローブ核酸上の検出可能な標識が蛍光標識である場合には、プローブ核酸上の蛍光標識が適当な波長によって励起される際に発せられる光を観察または測定することによって標的核酸を「検出し」、または検出可能な標識が蛍光/クエンチャーペアである場合には、プローブ核酸上に存在する蛍光/クエンチャーペアが会合または解離する際に発せられる光を観察または測定することによって標的核酸を「検出し」、プローブ核酸の検出が標的核酸の検出を示す。検出可能な標識が放射性標識である場合には、標的核酸を、放射標識されたプローブとのハイブリダイゼーションの後に、例えば、オートラジオグラフィーによって「検出する」。蛍光標識、放射性標識およびその他の化学標識を「検出する」方法および技術は、オーズベル(Ausubel)ら(1995、ショート・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー(Short Protocols in Molecular Biology.)、第3版、ジョン・ウィリー・アンド・サンズ社(John Wiley and sons Inc.)に見ることができる。あるいは、核酸は「間接的に検出する」こともでき、これでは、酵素活性などの部分を、標的とハイブリダイズするプローブ核酸と結合させ、これによって適当な基質の存在下で検出が可能となるか、または特異的抗原もしくはその他のマーカーを結合させ、これによって抗体またはその他の特異的指示薬の添加による検出が可能となる。あるいは、生体サンプルから調製した核酸サンプルを、標的核酸配列の一部とハイブリダイズするよう特別に設計されたオリゴヌクレオチドプライマーを用いて増幅することによって、標的核酸分子を検出できる。それだけには限らないが、TaqManなどの定量的増幅法を用いて、本発明の標的核酸を「検出」することもできる。本明細書において核酸分子は、測定される核酸(例えば、定量的PCRによって)のレベル、または検出可能な標識によって提供される検出可能なシグナルのレベルが、バックグラウンドまたは対照レベルをともかく上回る場合に「検出される」。
【0049】
本明細書において「検出」とはまた、患者における結腸直腸癌の検出、好ましくは、早期の検出をさらに指し、ここで「早期」の検出とは、デュークスステージAの結腸直腸癌の検出、または好ましくは、結腸直腸癌を形態的に個々のデュークスステージに分類できる時点の前の検出を指す。本明細書において「検出」とは、上記で示される同一検出基準を用いる、個体における結腸直腸癌再発の検出をさらに指す。本明細書において「検出」とは、治療薬での治療の前および/または後の結腸直腸癌の程度の変化の測定をさらに指す。この場合には、治療薬に応じた結腸直腸癌の程度の変化とは、治療薬の不在下における発現レベルと比較して、治療薬の存在に応じて少なくとも10%の、臨床サンプル中に存在する、1種以上の本発明のMSI−Hマーカーの発現の増加または減少、あるいは、MSI−Hマーカーポリペプチド(例えば、配列番号35〜68のうち1種以上)の量の増加または減少を指す。
【0050】
本明細書において、用語「発現レベルの変化」とは、発現を評価するために用いられるアッセイの標準誤差よりも大きい量の、対照レベルからの、試験サンプルにおけるヌクレオチド配列の発現レベル(例えば、発現される核酸のレベルの測定および/または産生されるタンパク質のレベルの測定)の上昇または低下を指す。変化は少なくとも約2倍であることが好ましく、3倍、4倍、5倍または10倍に達することがより好ましい。上昇については、変化は、試験サンプルにおける発現レベルを、対照レベルと比較することによって求める。低下については、変化は対照レベルを、試験サンプルにおける発現レベルと比較することによって求める。あるいは、低下は、試験サンプルにおける発現レベルを、対照レベルと比較することによって求め、発現レベルの低下は少なくとも約15%、25%、30%、40%、50%、65%、80%またはそれよりも多くである。用語「特異的結合の大幅な変化」とは、癌のないサンプルにおける特異的結合からの、少なくとも約10%、20%、25%、30%、好ましくは、少なくとも約40%、50%、より好ましくは、少なくとも約60%、70%または90%の増加または減少のいずれかを指す。
【0051】
本明細書において、用語「1種以上の核酸配列の発現レベル」とは、生体サンプル中に存在する、対応する遺伝子から転写されたmRNAの量(またはmRNAに転写されるDNAの量)を指す。発現レベルは、対照サンプルに由来するレベルと、または対照サンプルの予想されるレベルと比較してもしなくても検出できる。
【0052】
本明細書において、用語「1種以上の核酸配列の対照発現レベル」とは、健常な、癌のない被験体を代表する生体サンプル中に存在する、対応する遺伝子から転写されたmRNAの量(またはmRNAに転写されるDNAの量)を指す。用語「対照発現レベル」とはまた、健常な、癌のない被験体から得た測定に基づいて先に確立されている、癌のない集団を代表するmRNAの確立されたレベルを指す場合もある。
【0053】
本明細書において、「MSI−Hマーカー配列」とは、配列番号35〜68のアミノ酸配列をコードし、本発明によって、マイクロサテライト不安定性を有する結腸直腸腫瘍組織において過剰発現されていると同定されている配列番号1〜34の核酸配列を指す。本発明のMSI−Hマーカー配列には、配列番号1〜34の核酸配列と配列番号35〜68のアミノ酸配列の双方が含まれる。本発明のMSI−Hマーカー配列は、結腸直腸癌の検出、生体サンプルにおけるマイクロサテライト不安定性の同定および結腸癌の進行の予測に有用なツールを提供する。
【0054】
本明細書において、単数形または複数形のいずれかで用いられる、用語「癌性細胞」または「癌細胞」とは、宿主生物に対して病的にする悪性形質転換を受けている細胞を指す。悪性形質転換は、細胞および/または遺伝子発現プロフィールの遺伝子構成の変化を幾分かは含む、一段階プロセスであるか、または多段階プロセスである。悪性形質転換は、自発的に起こる場合もあるし、あるいは薬物もしくは化学治療、放射線、その他の細胞との融合、ウイルス感染または特定の遺伝子の活性化もしくは不活化などの事象もしくは事象の組み合わせによって起こる場合もある。悪性形質転換はin vivoで起こる場合もあるし、in vitroで起こる場合もあり、必要ならば、実験的に誘導することもできる。悪性細胞は明確な腫瘤内に見い出すことができ、その他の身体の位置に転移している場合もある。癌細胞の特徴は、宿主によって制御できない方法で増殖する傾向であるが、個々の癌細胞と関連している病理学はいずれの形もとり得る。原発癌細胞(すなわち、悪性形質転換部位付近から得た細胞)は、十分に確立した病理学技術、特に、組織学的検査によって非癌性細胞と容易に識別できる。本明細書において、癌細胞の定義は、原発癌細胞だけでなく、癌細胞の祖先に由来する細胞はいずれも含む。これとしては、転移した癌細胞および癌細胞に由来するin vitro培養物および細胞株が挙げられる。
【0055】
本明細書において、用語「有効性」とは、細胞増殖性障害を引き起こすか、細胞増殖性障害の一因となる細胞増殖のある程度の阻害か、または細胞増殖性障害を引き起こすか、細胞増殖性障害の一因となる因子(例えば、増殖因子)の産生のある程度の阻害を指す。「治療有効性」とは、細胞増殖性障害の1以上の症状の軽減を指す。癌の治療に関しては、治療有効性とは、以下のうち1以上を指す:1)癌細胞数の減少、2)腫瘍の大きさの減少、3)末梢臓器への癌細胞浸潤の阻害(すなわち、ある程度の遅延、好ましくは、停止)、3)腫瘍転移の阻害(すなわち、ある程度の遅延、好ましくは、停止)、4)腫瘍増殖のある程度の阻害および/または5)障害と関連している1以上の症状のある程度の軽減。癌以外の細胞増殖性障害の治療に関しては、治療有効性とは、1)障害を引き起こす細胞の増殖のある程度の阻害、2)障害を引き起こす因子(例えば、増殖因子)の産生のある程度の阻害および/または3)障害と関連している1以上の症状のある程度の軽減のいずれかを指す。
【0056】
本明細書において、用語「検出可能な標識」とは、分光学的、光化学的、生化学的、免疫化学的または化学的手段によって検出可能な組成物を指す。
【0057】
本明細書において、用語「ポリヌクレオチドプローブ」とは、1以上の種類の化学結合によって、通常、相補的塩基対形成によって、通常、水素結合形成によって、相補的配列の標的核酸と結合できる核酸を指す。本明細書において、プローブには、天然(すなわち、A、G、CまたはT)または塩基で改変されたもの(7−デアザグアノシン、イノシンなど)または糖部分で改変されたものが含まれる。さらに、プローブ中の塩基は、ハイブリダイゼーションを干渉しない限りは、ホスホジエステル結合以外の結合によって結合されていてもよい。したがって、例えば、プローブは、構成塩基が、ホスホジエステル結合ではなくペプチド結合によって結合しているペプチド核酸であり得る。当業者には理解されるであろうが、プローブは、完全な相補性を欠く標的配列と結合できるが、プローブ配列はハイブリダイゼーション条件のストリンジェンシーに応じて変わる。プローブは、同位元素、発色団、ルミフォア(lumiphore)、色素源などで直接標識されているか、ビオチンなどで間接標識され、それにストレプトアビジン複合体が後に結合できることが好ましい。プローブの有無をアッセイすることによって、選択配列または部分配列の有無を検出できる。
【0058】
本明細書において、用語「ハイブリダイゼーション」とは、核酸の鎖が塩基対形成によって相補鎖と結合するいずれかのプロセスを指す。
【0059】
本明細書において、用語「被験体」とは、ヒトまたは非ヒト生物のいずれかを指す。
【0060】
本明細書において、「個体」とは、哺乳類、好ましくは、ヒトを指す。
【0061】
本明細書において、「リガンド」とは、ポリペプチドまたは核酸と結合できる分子を指す。本発明において有用な「ポリペプチドリガンド」としては、それだけには限らないが、抗体、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、抗体断片(例えば、Fv、scFVもしくはFab)、小分子または核酸アプタマーが挙げられる。本明細書において「リガンド」とはまた、相補的な核酸分子またはポリペプチド分子と結合できる、「核酸リガンド」、例えば、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、DNA、RNA、mRNAまたはcDNAを指す場合もある。
【0062】
本明細書において用語「抗体」とは、例えば、いずれかのアイソタイプ(IgG、IgA、IgM、IgEなど)の全抗体を対象とし、その断片および脊椎動物、例えば、哺乳類タンパク質と特異的に反応する一本鎖抗体も含む。抗体は従来技術を用いて断片化でき、断片は全抗体について上記で記載されるものと同じように有用性についてスクリーニングできる。したがって、この用語は、特定のタンパク質と選択的に反応できる、抗体分子の、タンパク質分解によって切断されたか、組換えによって調製された部分のセグメントを含む。このようなタンパク質分解性および/または組換え断片のそれだけには限らない例として、Fab、F(ab’)2、Fab’、Fvおよびペプチドリンカーによって結合されているV[L]および/またはV[H]ドメインを含む一本鎖抗体(scFv)が挙げられる。scFvは共有結合または非共有結合して、2以上の結合部位を有する抗体を形成している場合もある。本発明は、ポリクローナル、モノクローナルまたは抗体のその他の精製された調製物および組換え抗体を含む。
【0063】
本明細書において、用語「核酸」とは、ポリヌクレオチド、例えば、デオキシリボ核酸(DNA)、必要に応じて、リボ核酸(RNA)を指す。この用語はまた、同等物として、ヌクレオチド類似体で作製されたRNAまたはDNAいずれかの類似体、ならびに、記載されている実施形態に適用できる、一本鎖(センスまたはアンチセンス)および二本鎖ポリヌクレオチドを含むと理解されなくてはならない。EST、染色体、cDNA、mRNAおよびrRNAは、核酸と呼ばれ得る分子の代表的な例である。
【0064】
用語「タンパク質」、「ポリペプチド」および「ペプチド」は、本明細書では、遺伝子産物を言及する場合には同義的に用いる。本明細書において「ポリペプチド」とは、いずれかの種類のポリペプチド、例えば、ペプチド、ヒトタンパク質、ヒトタンパク質の断片、非ヒト供給源由来のタンパク質またはタンパク質の断片、遺伝子操作した種類のタンパク質またはタンパク質の断片、酵素、抗原、薬物、細胞シグナル伝達に関与している分子、例えば、受容体分子、免疫グロブリンスーパーファミリーのポリペプチドをはじめとする抗体、例えば、抗体ポリペプチドまたはT細胞受容体ポリペプチドを指す。
【0065】
本明細書において、用語「発現のレベル」または「発現レベル」とは、所与の核酸の測定可能な発現を指す。核酸の発現のレベルは、当技術分野で周知の方法によって求める。「発現のレベル」または「発現レベル」は、当技術分野で周知の方法にしたがって、標識された標的核酸を用いるハイブリダイゼーション分析によって測定できる(例えば、オーズベル(Ausubel)ら、ショート・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー(Short Protocols in Molecular Biology)、第3版、1995、ジョン・ウィリー・アンド・サンズ社(John Wiley and sons Inc.)参照)。標的核酸上の標識は発光標識、酵素標識、放射性標識、化学標識または物理的標識である。標的核酸は蛍光分子で標識することが好ましい。好ましい蛍光標識としては、フルオレセイン、アミノクマリン酢酸、テトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)、テキサスレッド(Texas Red)、Cy3およびCy5が挙げられる。あるいは、「発現のレベル」は、定量的増幅プロトコール、例えば、当業者に公知のTaqManによって測定できる。
【0066】
本明細書において「差次的発現」とは、核酸配列の発現の、少なくとも約2倍の、少なくとも約3倍、少なくとも10倍、または少なくとも最大約50倍またはそれより多い増加または減少を指す。同様に「過剰発現」とは、核酸配列の発現の少なくとも約2倍の、少なくとも約3倍の、少なくとも約10倍の、または少なくとも最大約50倍またはそれより多い増加を指す。好ましい実施形態では、配列番号1〜34のうち1種以上の配列は、少なくとも約2倍の平均で過剰発現されることが、少なくとも2正常個体における平均発現レベルと比較して結腸癌を有する少なくとも2個体において測定される場合に、あるいは、隣接する健常な結腸組織サンプルと比較して個体から得た結腸癌サンプルにおいて測定される場合に、過剰発現される。細胞の表現型を調べる(例えば、結腸癌またはマイクロサテライト不安定性を検出する)方法は、ストリンジェントな条件下で配列番号1〜34のうち1種とハイズリダイズする少なくとも1種の核酸の、正常細胞と比較した差次的発現であって、核酸が少なくとも少なくとも約2倍、少なくとも約3倍、少なくとも約10倍または少なくとも最大約50倍またはそれよりも多く差次的に発現される発現の検出を含み得る。あるいは、細胞の表現型を調べる方法は、配列番号1〜34を含む少なくとも1種の核酸の、正常細胞と比較した差次的発現の検出を含み得る。
【0067】
本明細書において「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」とは、第1の核酸配列の、第2の核酸配列とのハイブリダイゼーションを可能にする、温度およびバッファー組成の条件を指し、高度または中程度ストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件のいずれかを指すことが好ましい。したがって、「高ストリンジェンシー条件」とは、互いに極めて類似している核酸配列のみがハイブリダイズする条件である。配列は、中程度ストリンジェンシー条件下でハイブリダイズする場合には、互いにあまり類似していない場合もある。個々のハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを決定する詳細な条件としては、イオン強度、温度およびホルムアミドなどの不安定化剤の濃度だけでなく、核酸配列の長さ、その塩基組成、2種の配列間のミスマッチした塩基対のパーセント、その他の非同一配列内での配列のサブセット(例えば、リピートの短い一続き)の出現頻度などの因子に関しても挙げられる。洗浄は、条件が、互いにハイブリダイズする配列間の最小レベルの類似性を調べるよう設定されているステップである。一般に、2種の配列間の1%ミスマッチは、相同ハイブリダイゼーションのみが生じる最低温度から、いずれかの選択したSSC濃度の溶解温度(T)の1℃低下をもたらす。一般に、SSCの濃度を倍にすることによって、Tの約17℃の増加がもたらされる。洗浄温度は、これらのガイドラインを用い、求められるミスマッチのレベルに応じて経験的に決定することができる。ハイブリダイゼーションおよび洗浄条件は、カレント・プロトコール・イン・モレキュラー・バイオロジー(Current Protocols in Molecular Biology)(オーズベル(Ausubel),F.M.ら編、ジョン・ウィリー・アンド・サンズ社(John Wiley and sons Inc.)、1995、補足を含む最新版)中、2.10.1〜2.10.16および6.3.1〜6.3.6頁に説明されている。
【0068】
本明細書において「高ストリンジェンシー条件」とは、概して、(1)65℃で、1×SSC(10×SSC=3M NaCl、0.3M クエン酸Na−2HO(88g/リットル)、1M HClを用いてpH7.0に)、1%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)、0.1〜2mg/ml変性サケ精子DNA、(2)42℃で、1×SSC、50%ホルムアミド、1%SDS、0.1〜2mg/ml変性サケ精子DNA、(3)65℃で、1%ウシ血清アルブミン(画分V)、1mM Na−EDTA、0.5M NaHPO(pH7.2)(1M NaHPO=1リットルあたり134g NaHPO・7HO、4ml 85%HPO)、7%SDS、0.1〜2mg/ml変性サケ精子DNA、(4)42℃で、50%ホルムアミド、5×SSC、0.02M Tris−HCl(pH7.6)、1×デンハート液(100×=10gフィコール400、10gポリビニルピロリドン、10gウシ血清アルブミン(画分V)、500mlまでの水)、10%硫酸デキストラン、1%SDS、0.1〜2mg/ml変性サケ精子DNA、(5)65℃で、5×SSC、5×デンハート液、1%SDS、100:g/ml変性サケ精子DNAまたは(6)42℃で、5×SSC、5×デンハート液、50%ホルムアミド、1%SDS、100:g/ml変性サケ精子DNAのいずれかでのハイブリダイゼーションと、(1)65℃で、0.3〜0.1×SSC、0.1%SDSまたは(2)65℃で、1mM NaEDTA、40mM NaHPO(pH7.2)、1%SDSのいずれかの高ストリンジェンシー洗浄を指す。上記条件は、50塩基対またはそれより長いDNA−DNAハイブリッドに用いられるものとする。ハイブリッドが18塩基対の長さよりも短いと考えられる場合には、ハイブリダイゼーションおよび洗浄温度は、ハイブリッドの算出されるTの温度(ここで、℃でのT=(2×AおよびT塩基の数)+(4×GおよびC塩基の数))よりも5〜10℃低くなくてはならない。約18〜約49塩基対の長さであると考えられるハイブリッドについては、℃でのT=(81.5℃+16.6(log10M)+0.41(%G+C))−0.61(%ホルムアミド)−500/L)(式中、「M」は一価の陽イオン(例えば、Na)のモル濃度であり、「L」は塩基対でのハイブリッドの長さである)。
【0069】
「中程度ストリンジェンシー条件」とは、(1)65℃で、4×SSC、(10×SSC=3M NaCl、0.3Mクエン酸Na−2HO(88g/リットル)、1M HClを用いてpH7.0に)、1%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)、0.1〜2mg/ml変性サケ精子DNA、(2)42℃で、4×SSC、50%ホルムアミド、1%SDS、0.1〜2mg/ml変性サケ精子DNA、(3)65℃で、1%ウシ血清アルブミン(画分V)、1mM Na−EDTA、0.5M NaHPO(pH7.2)(1M NaHPO=1リットルあたり134g NaHPO・7HO、4ml 85%HPO)、7%SDS、0.1〜2mg/ml変性サケ精子DNA、(4)42℃で、50%ホルムアミド、5×SSC、0.02M Tris−HCl(pH7.6)、1×デンハート液(100×=10gフィコール400、10gポリビニルピロリドン、10gウシ血清アルブミン(画分V)、500mlまでの水)、10%硫酸デキストラン、1%SDS、0.1〜2mg/ml変性サケ精子DNA、(5)65℃で、5×SSC、5×デンハート液、1%SDS、100μg/ml変性サケ精子DNAまたは(6)42℃で、5×SSC、5×デンハート液、50%ホルムアミド、1%SDS、100:g/ml変性サケ精子DNAのいずれかでのハイブリダイゼーションと、65℃で、1×SSC、0.1%SDSという中程度ストリンジェンシー洗浄を指す。上記条件は50塩基対またはそれより長いDNA−DNAハイブリッドに用いられるものとする。ハイブリッドが18塩基対の長さよりも短いと考えられる場合には、ハイブリダイゼーションおよび洗浄温度は、ハイブリッドの算出されるTの温度(ここで、℃でのT=(2×AおよびT塩基の数)+(4×GおよびC塩基の数))よりも5〜10℃低くなくてはならない。約18〜約49塩基対の長さであると考えられるハイブリッドについては、℃でのT=(81.5℃+16.6(log10M)+0.41(%G+C))−0.61(%ホルムアミド)−500/L)(式中、「M」は一価の陽イオン(例えば、Na)のモル濃度であり、「L」は塩基対でのハイブリッドの長さである)。
【0070】
本明細書において、用語、特異的「結合」または「特異的に結合」とは、抗体と、タンパク質またはペプチドとの相互作用を指す。この相互作用は、タンパク質上の特定の構造(すなわち、抗原決定基またはエピトープ)の存在に応じて変わる。言い換えれば、抗体は、タンパク質全般ではなく、特異的タンパク質構造を認識し、結合している。例えば、抗体がエピトープAに特異的である場合には、標識された「A」と抗体とを含む反応物中の、エピトープA(すなわち、遊離の、標識されていないA)を含有するタンパク質の存在は、抗体と結合される標識されたAの量を低減させる。
【0071】
本明細書において、「結腸癌を発症する素因」とは、「結腸癌を発症する素因がある」いずれかの所与の個体集団が、結腸癌を発症する素因のない同様の集団よりも、結腸癌の罹患率の少なくとも10%の増加を有する状態を指す。本明細書において「結腸癌を発症する素因」とはまた、個体の結腸組織において、本発明の1種以上のMSI−Hマーカー配列の発現が、正常個体における発現レベルと比較して少なくとも2倍過剰発現されていると同定される、個体の状態を指す。
【0072】
MSI−Hマーカー配列
マイクロサテライト不安定性
マイクロサテライト不安定性とは、正常組織と比較した際の、腫瘍内の短いヌクレオチドリピート(マイクロサテライト)の拡大または収縮を指す。MSIは個々の腫瘍表現型を説明するものではなく、代わりに、所与の遺伝子マーカーでの不安定性の観察を指す。MSIは3つのサブカテゴリーに細分される。第1のものはMSI−Hを特徴とし、これではマーカーの大部分がMSIを示す。第2のものはMSI−Lであり、これでは、マーカーのうち少数しかMSIを示さない。第3のものはMSSであり、これではマーカーは見かけの不安定性を欠いている。所与の腫瘍のMSI状態は、モノヌクレオチドリピートを含む2種のマーカー(BAT26およびBAT25、それぞれGenBank受託番号9834508および9834505)と、ジヌクレオチドリピートを有する3種のマーカー(D5S346、D2S123およびD17S250、それぞれGenBank受託番号181171、187953および177030)とを含む遺伝子マーカーのパネルにおいてマイクロサテライト不安定性に注目することによって調べる。MSI−H腫瘍は、この参照パネルを用い、2種以上のマーカーにおいて不安定性を有すると定義され、他方、MSI−L腫瘍は1種のマーカーにおいて不安定性を有すると定義される。見かけの不安定性を全く示さない腫瘍はMSS群に含めることができる。上記の5種の主要マーカーに加え、マイクロサテライト不安定性についてさらなるマーカーを調べることができ、これとしては、それだけには限らないが、BAT40、BAT34C4、TGF−β−R11、ACTC(635/636)、D18S55、D18S58、D18S61、D18S64、D3S1029、D10S197、D13S175、D17S588、D5S107、D8S87、D18S69、D13S153、D17S787、D7S519およびD20S100が挙げられる。5種のマーカーの主要パネルよりも多くを用いる場合には、MSI−Hは、試験したマーカーの>30〜40%においてMSIを有すると定義され、他方、MSI−L群は、マーカーの<30〜40%においてMSIを示す。MSI−H対MSI−L対MSSを特性決定する判定基準についての記述は、例えば、ボーランド(Boland)ら、1998、キャンサー・リサーチ(Cancer Research)58、5248頁に見ることができ、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0073】
MSI−HおよびMSI−L/MSS腫瘍間の区別は、結腸直腸癌の予後、治療およびモニタリングにとって重要である。例えば、MSI状態(すなわち、MSI−H、MSI−LまたはMSSのような腫瘍の分類)は、ステージIIおよびステージIII結腸癌におけるフルオロウラシルを用いるアジュバントをベースとする化学療法の利益の予測因子であることがわかっている(リビック(Ribic)ら、2003、ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(New England Journal of Medicine)349、247頁)。さらに、MSI−H腫瘍の近位解剖学的位置が、患者におけるより好都合な予後と関連しており(例えば、より高い生存率、ボーランド(Boland)ら;ゲルバズ(Gervaz)ら、2003、スイス・サージェリー(Swiss Surgery)、9:3およびルビック(Rubic)ら)、MSI−H腫瘍は、より好都合なステージ区分と相関があり、MSI−H腫瘍の大部分は、ステージII結腸直腸癌に分類される(グレベズ(Gervaz)ら)。したがって、以下にさらに記載するように、結腸直腸腫瘍の同定およびMSI状態への分類は、開業医に患者の診断、予後および最適な治療計画に関して臨床情報を提供する。
【0074】
従来、結腸直腸癌腫瘍のMSI状態は、上記のマーカーについての遺伝子スクリーニングによって検出されてきた。この方法のMSIステージングは、些細なことではなく、厄介なことであり、時間がかかり、例えば、ポリアクリルアミドゲル電気泳動またはその他の適した方法によって分離されている正常対腫瘍DNAバンドの比較を必要とする(例えば、バパット(Bapat)ら、1999、ヒューマン・ジェネティクス(Human Genetics)、104、167参照)。また、上記のマーカーパネルを用いるMSIの遺伝子検出にはまた、腫瘍細胞集団を濃縮するために腫瘍組織の顕微解剖を含めなければならないことが一般に認められている(例えば、ボーランド(Boland)ら、同文献、参照)。対照的に本発明は、本明細書に記載される、MSI−Hマーカー遺伝子のうち1種以上の過剰発現を検出することによって腫瘍のMSI状態を調べる手段を提供する。したがって、本発明は、今日まで当技術分野において用いられているMSI検出のための遺伝学的(すなわち、マーカーパネル)アプローチの代替法を提供し、結腸直腸癌を有する患者の予後、ステージングおよび治療計画を決定するために有用である。
【0075】
本発明は、本明細書に開示されるMSI−Hマーカー配列のうち1種以上の過剰発現を検出することによる結腸癌およびマイクロサテライト不安定性の検出に関する。本発明は、正常結腸組織と比較してMSI−H結腸直腸腫瘍において少なくとも2倍過剰発現されていると同定されたマーカー配列自体にも同様に関する。
【0076】
さらに、本発明は、結腸組織または細胞において、MSI−Hマーカー配列によってコードされる1種以上のポリペプチド配列を同定することによる癌の検出を包含する。あるいは、本発明は、個体において結腸直腸癌を検出する方法であって、個体から得た生体サンプルにおいて、1種以上のMSI−Hマーカー核酸配列および少なくとも1種のさらなる結腸直腸癌関連マーカーの過剰発現を検出することによって結腸直腸癌を同定する方法に関する。本発明のMSI−Hマーカー配列としては、配列番号1〜34のうち1種以上に示される核酸配列を有するもの、あるいは、配列番号34〜68に示される、列挙されたポリヌクレオチド配列によってコードされるポリペプチド配列が挙げられる。
【0077】
MSI−Hマーカーの核酸およびアミノ酸配列は、それぞれ配列番号1〜34および35〜68に示されている(表1および配列表に示されるように)。本発明は、結腸直腸癌またはMSIを検出する方法におけるMSI−Hマーカー配列の直接検出に関するが、本発明は、さらに、それに相補的な配列、または配列番号1〜34の配列と特異的にハイブリダイズする配列の検出にも関する。本発明はまた、臨床サンプルにおける、配列番号35〜68の配列またはその断片をコードする核酸分子の存在を検出することによる結腸直腸癌またはMSIの検出に関する。
【0078】
本発明のもう1つの態様は、低、中または高ストリンジェンシー下、好ましくは、中または高条件下で、配列番号1〜34のうち1種以上によって表される核酸配列、またはそれに相補的な配列とハイブリダイズする核酸の検出によるMSI−Hの検出を提供する。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシー条件とは、第1の核酸配列の、第2の核酸配列とのハイブリダイゼーションを可能にする、温度およびバッファー組成の条件を指し、条件により、互いにハイブリダイズする配列間の同一性の程度が決まる。したがって、「高ストリンジェンシー条件」とは、互いに極めて類似している核酸配列のみがハイブリダイズする条件である。中程度ストリンジェンシー条件下でハイブリダイズする場合には、配列が互いにあまり類似していない場合もある。低ストリンジェンシー条件下では、2種の配列がハイブリダイズするのに、さらにより低い類似性しか必要でない。ハイブリダイゼーションが全く生じないストリンジェンシーレベルから、ハイブリダイゼーションが最初に観察されるレベルにハイブリダイゼーション条件を変えることによって、所与の配列がそれに最も類似している配列とハイブリダイズする条件を決定することができる。個々のハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを決定する詳細な条件としては、イオン強度、温度およびホルムアミドなどの不安定化剤の濃度だけでなく、核酸配列の長さ、その塩基組成、2種の配列間のミスマッチした塩基対のパーセント、その他の非同一配列内での配列のサブセット(例えば、リピートの短い一続き)の出現頻度などの因子に関しても含まれる。洗浄は、条件が、互いにハイブリダイズする配列間の最小レベルの類似性を調べるよう設定されているステップである。一般に、2種の配列間の1%ミスマッチが、相同ハイブリダイゼーションのみが生じる最低温度から、いずれかの選択したSSC濃度の溶解温度(T)の1℃低下をもたらす。一般に、SSCの濃度を倍にすることによって、Tの約17℃の増加がもたらされる。洗浄温度は、これらのガイドラインを用い、求められるミスマッチのレベルに応じて経験的に決定することができる。ハイブリダイゼーションおよび洗浄条件は、カレント・プロトコール・イン・モレキュラー・バイオロジー(Current Protocols in Molecular Biology)(オーズベル(Ausubel),F.M.ら編、ジョン・ウィリー・アンド・サンズ社(John Wiley and sons Inc.)、1995、補足を含む最新版)中、2.10.1〜2.10.16および6.3.1〜6.3.6頁に説明されている。
【0079】
高ストリンジェンシー条件は、(1)65℃で、1×SSC(10×SSC=3M NaCl、0.3M クエン酸Na・2HO(88g/リットル)、1M HClを用いてpH7.0に)、1%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)、0.1〜2mg/ml変性サケ精子DNA、(2)42℃で、1×SSC、50%ホルムアミド、1%SDS、0.1〜2mg/ml変性サケ精子DNA、(3)65℃で、1%ウシ血清アルブミン(画分V)、1mM Na−EDTA、0.5M NaHPO(pH7.2)(1M NaHPO=1リットルあたり134g NaHPO・7HO、4ml 85%HPO)、7%SDS、0.1〜2mg/ml変性サケ精子DNA、(4)42℃で、50%ホルムアミド、5×SSC、0.02M Tris−HCl(pH7.6)、1×デンハート液(100×=10gフィコール400、10gポリビニルピロリドン、10gウシ血清アルブミン(画分V)、500mlまでの水)、10%硫酸デキストラン、1%SDS、0.1〜2mg/ml変性サケ精子DNA、(5)65℃で、5×SSC、5×デンハート液、1%SDS、100:g/ml変性サケ精子DNAまたは(6)42℃で、5×SSC、5×デンハート液、50%ホルムアミド、1%SDS、100:g/ml変性サケ精子DNAのいずれかでのハイブリダイゼーションと、(1)65℃で、0.3〜0.1×SSC、0.1%SDSまたは(2)65℃で、1mM NaEDTA、40mM NaHPO(pH7.2)、1%SDSのいずれかの高ストリンジェンシー洗浄を用いることができる。上記条件は、50塩基対またはそれより長いDNA−DNAハイブリッドに用いられるものとする。ハイブリッドが18塩基対の長さよりも短いと考えられる場合には、ハイブリダイゼーションおよび洗浄温度は、ハイブリッドの算出されるTの温度(ここで、℃でのT=(2×AおよびT塩基の数)+(4×GおよびC塩基の数))よりも5〜10℃低くなくてはならない。約18〜約49塩基対の長さであると考えられるハイブリッドについては、℃でのT=(81.5℃+16.6(log10M)+0.41(%G+C)−0.61(%ホルムアミド)−500/L)(式中、「M」は一価の陽イオン(例えば、Na)のモル濃度であり、「L」は塩基対でのハイブリッドの長さである)。
【0080】
中程度ストリンジェンシー条件は、(1)65℃で、4×SSC、(10×SSC=3M NaCl、0.3Mクエン酸Na・2HO(88g/リットル)、1M HClを用いてpH7.0に)、1%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)、0.1〜2mg/ml変性サケ精子DNA、(2)42℃で、4×SSC、50%ホルムアミド、1%SDS、0.1〜2mg/ml変性サケ精子DNA、(3)65℃で、1%ウシ血清アルブミン(画分V)、1mM Na−EDTA、0.5M NaHPO(pH7.2)(1M NaHPO=1リットルあたり134g NaHPO・7HO、4ml 85%HPO)、7%SDS、0.1〜2mg/ml変性サケ精子DNA、(4)42℃で、50%ホルムアミド、5×SSC、0.02M Tris−HCl(pH7.6)、1×デンハート液(100×=10gフィコール400、10gポリビニルピロリドン、10gウシ血清アルブミン(画分V)、500mlまでの水)、10%硫酸デキストラン、1%SDS、0.1〜2mg/ml変性サケ精子DNA、(5)65℃で、5×SSC、5×デンハート液、1%SDS、100μg/ml変性サケ精子DNAまたは(6)42℃で、5×SSC、5×デンハート液、50%ホルムアミド、1%SDS、100:g/ml変性サケ精子DNAのいずれかでのハイブリダイゼーションと、65℃で、1×SSC、0.1%SDSという中程度ストリンジェンシー洗浄を用いることができる。上記条件は50塩基対またはそれより長いDNA−DNAハイブリッドに用いられるものとする。ハイブリッドが18塩基対の長さよりも短いと考えられる場合には、ハイブリダイゼーションおよび洗浄温度は、ハイブリッドの算出されるTの温度(ここで、℃でのT=(2×AよびT塩基の数)+(4×GおよびC塩基の数))よりも5〜10℃低くなくてはならない。約18〜約49塩基対の長さであると考えられるハイブリッドについては、℃でのT=(81.5℃+16.6(log10M)+0.41(%G+C)−0.61(%ホルムアミド)−500/L)(式中、「M」は一価の陽イオン(例えば、Na)のモル濃度であり、「L」は塩基対でのハイブリッドの長さである)。
【0081】
低ストリンジェンシー条件は、(1)50℃で、4×SSC、(10×SSC=3M NaCl、0.3M クエン酸Na・2HO(88g/リットル)、1M HClを用いてpH7.0に)、1%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)、0.1〜2mg/ml変性サケ精子DNA、(2)40℃で、6×SSC、50%ホルムアミド、1%SDS、0.1〜2mg/ml変性サケ精子DNA、(3)50℃で、1%ウシ血清アルブミン(画分V)、1mM Na−EDTA、0.5M NaHPO(pH7.2)(1M NaHPO=1リットルあたり134g NaHPO・7HO、4ml 85%HPO)、7%SDS、0.1〜2mg/ml変性サケ精子DNA、(4)40℃で、50%ホルムアミド、5×SSC、0.02M Tris−HCl(pH7.6)、1×デンハート液(100×=10gフィコール400、10gポリビニルピロリドン、10gウシ血清アルブミン(画分V)、500mlまでの水)、10%硫酸デキストラン、1%SDS、0.1〜2mg/ml変性サケ精子DNA、(5)50℃で、5×SSC、5×デンハート液、1%SDS、100:g/ml変性サケ精子DNAまたは(6)40℃で、5×SSC、5×デンハート液、50%ホルムアミド、1%SDS、100:g/ml変性サケ精子DNAのいずれかでのハイブリダイゼーションと、50℃で、2×SSC、0.1%SDSまたは(2)0.5%ウシ血清アルブミン(画分V)、1mM NaEDTA、40mM NaHPO(pH7.2)、5%SDSのいずれかの低ストリンジェンシー洗浄を用いることができる。上記条件は、50塩基対またはそれより長いDNA−DNAハイブリッドに用いられるものとする。ハイブリッドが18塩基対の長さよりも短いと考えられる場合には、ハイブリダイゼーションおよび洗浄温度は、ハイブリッドの算出されるTの温度(ここで、℃でのT=(2×AおよびT塩基の数)+(4×GおよびC塩基の数))よりも5〜10℃低くなくてはならない。約18〜約49塩基対の長さであると考えられるハイブリッドについては、℃でのT=(81.5℃+16.6(log10M)+0.41(%G+C)−0.61(%ホルムアミド)−500/L)(式中、「M」は一価の陽イオン(例えば、Na)のモル濃度であり、「L」は塩基対でのハイブリッドの長さである)。
【0082】
遺伝暗号の縮重のために、配列番号1〜34に示されるヌクレオチド配列とは異なる配列、またはそれに相補的な配列を有するMSI−Hマーカー核酸の検出も、本発明の範囲内である。このような核酸は、機能的に同等なペプチド(すなわち、同等または同様の生物活性を有するペプチド)をコードするが、配列は、遺伝暗号の縮重のために配列表に示される配列とは異なっている。例えば、いくつかのアミノ酸は、2種以上のトリプレットによって指定される。同一のアミノ酸または同義語を指定するコドン(例えば、各々ヒスチジンをコードするCAUとCAC)は、ポリペプチドのアミノ酸配列には影響を及ぼさない「サイレント」突然変異をもたらし得る。しかし、主題ポリペプチドのアミノ酸配列の変化を本当に導くDNA配列多型が哺乳類の間には存在すると予測される。当業者には理解されることであるが、ポリペプチドの活性を有するポリペプチドをコードする核酸の1種以上のヌクレオチドにおけるこれらの変異(例えば、ヌクレオチドの最大約3〜5%)は、天然の対立遺伝子変異のために所与の種の個体間に存在し得る。
【0083】
本発明はまた、その範囲内に、ストリンジェントな条件(少なくとも、65℃で、約4×SSC、または少なくとも、42℃で、約4×SSC、例えば、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,707,829号参照)下で、配列番号1〜34のうちの1種の少なくとも15個の連続するヌクレオチドとハイブリダイズする、ポリヌクレオチドプローブまたはプライマーを含む。これは、配列番号1〜34の少なくとも15個の連続するヌクレオチドをプローブとして用いる場合には、プローブが、相補配列を含む遺伝子またはmRNA(生体材料の)と優先的にハイブリダイズし、これによって、選択したプローブと独特にハイブリダイズする生体材料の核酸の同定および検出が可能となることを意味する。15ヌクレオチドより多いプローブを用いることもできるが、15ヌクレオチドは独特な同定にとって十分な配列に相当する。
【0084】
配列番号1〜34のうち1種以上の配列、その一部またはそれに相補的な配列を有するポリヌクレオチドの構築物は、例えば、プローブを作製するために有用であり、当業者に周知の方法を用いて合成によって製造することができ、または天然供給源(例えば、ヒト細胞)から得ることもできる(例えば、サムブロック(Sambrook)ら、モレキュラー・クローニング:ア・ラボラトリー・マニュアル(Molecular Cloning: A Laboratory Manual)、第2版、(コールド・スプリング・ハーバー・プレス(Cold Spring Harbor Press)、コールド・スプリング・ハーバー(Cold Spring Harbor)、ニューヨーク州、1989)参照)。
【0085】
一実施形態では、本発明のMSI−Hマーカーポリヌクレオチド配列として、配列番号1〜34の配列のうち1種以上と、少なくとも約70%、75%、80%、90%、95%、97%または98%同一である配列が挙げられる。あるいは、本発明は、個体において検出でき、ひいては、結腸直腸癌を示す、配列番号1〜34の核酸配列と相補的であるmRNA配列と少なくとも約70%、75%、80%、90%、95%、97%または98%同一である核酸配列によってコードされるMSI−Hマーカーポリペプチドを含む。特に好ましいポリペプチドとしては、配列番号35〜68のもの、またはその断片、または配列番号35〜68のうち1種以上のアミノ酸配列と配列において少なくとも約70%、75%、80%、90%、95%、98%または99%同一であるポリペプチド配列がある。
【0086】
本発明は、個体から得た生体サンプルにおいて、1種以上のMSI−Hマーカーポリヌクレオチド配列またはMSI−Hマーカーポリペプチドの過剰発現を同定することによって結腸直腸癌を検出する方法に加え、同一サンプルにおいて(例えば、同一血清、組織または細胞サンプルにおいて)、少なくとも1種のその他の結腸直腸癌関連マーカーに加えて1種以上のMSI−Hマーカーの存在を同定することによって癌を検出する方法をさらに含む。
【0087】
マーカーパネル
本発明の一実施形態では、個体から得た生体サンプルを2種以上のMSI−Hマーカーのパネルに対してスクリーニングする。すなわち、配列番号1〜34のうち2種以上のMSI−Hマーカー配列が、癌ではないとわかっている生体サンプルにおける同一配列と比較して少なくとも2倍過剰発現されていると同定される場合にMSI−Hが検出されるといわれる、MSI−Hを検出する方法を提供する。
【0088】
さらなる実施形態では、パネルにおいて、本発明の1種以上のMSI−Hマーカー配列を、マーカー核酸およびアミノ酸配列をはじめとする1種以上のさらなる結腸直腸癌特異的マーカーと組み合わせることができる。本発明において有用な「結腸直腸癌関連マーカー」とは、結腸直腸癌を有する個体から得た結腸直腸癌細胞、組織または血清において、結腸直腸癌を有さない個体から得た細胞、組織または血清における発現のレベルと比較して少なくとも10%の過剰発現または過少発現を示すポリペプチドまたは核酸配列を指す。以下の表2は、本発明において有用な「結腸直腸癌関連マーカー」のリスト(ただし、本発明において有用な結腸直腸癌関連マーカーは表2に示されるものに限定されない)およびその「配列表」に示される配列との一致を示す。
【0089】
【表1】

【表2】

【0090】
本発明において有用な、結腸直腸癌関連マーカーのさらなる限定されない例としては、ポリペプチド上に存在する炭水化物エピトープまたはこのようなエピトープを認識し、結合できる核酸分子および/または抗体分子であり得、炭水化物エピトープは個体において結腸直腸癌の存在と関連があるとわかっている。このような炭水化物エピトープは、2種以上の関連のないタンパク質またはポリペプチド上に存在し得る。一実施形態では、このような炭水化物エピトープは、CA19−9であり、シアリル−ルイスとしても知られ、血液型抗原と関連しており、分岐した、種々の糖タンパク質または糖脂質と共有結合している5糖構造からなる炭水化物エピトープとしてモノクローナル抗体によって規定される腫瘍マーカーである。これらのタンパク質は、主にムチンファミリーに属し、脂質は、通常、膜結合型である。CA19−9エピトープは、通常、複合体の末端部分、いずれかの高分子上のO結合型炭水化物構造である。「結腸直腸癌関連マーカー」のような、本発明において有用な種々の炭水化物エピトープとして規定されるその他の腫瘍マーカーとしては、種々のタンパク質骨格上にある三重にシアル化されたTn抗原であるTag72抗原の存在を示すCA72−4;種々のぺプチドにO−結合した、シアル化n−アセチルガラクトサミン部分である、トムゼン−フリーデンリッヒ(Thomsen Freidenreich)抗原(TF);種々のペプチドにO結合した、末端n−アセチルガラクトサミン部分を含まないTF抗原の骨格である、Tnおよびシアル化Tn(sTn);シアル化ルイス式A血液型抗原に対応するエピトープであるCA50;muc−1上のCHO部分であるCA549;シアル化CHOであるCA242;シアル酸が結合した脂質、すなわち、タンパク質が結合していない脂質であるLASA;膵臓関連ムチン様CHO抗原であるDu−PANの1〜5のが挙げられる。これらの有用な結腸癌特異的抗原およびその他のものは、当技術分野では公知であり、例えば、「セロロジカル・キャンサー・マーカーズ(Serological Cancer Markers)、セル(Sell),S.編、1992、ヒュマーナ・プレス社(Humana Press Inc.)、ニュージャージー州、トトワ(Totowa)に記載されている。
【0091】
配列相同性の算出
一実施形態では、本発明は、高ストリンジェンシー条件下での、プローブおよび/またはプライマーの、MSI−Hマーカー配列とのハイブリダイゼーションを可能にするよう、MSI−Hマーカー配列の一部と相補的であるか、またはMSI−Hマーカー配列の一部と十分に相同であるプローブおよび/またはプライマーを用いることによって、MSI−Hマーカー配列またはそれに相同な配列の存在を検出することによる、個体におけるMSI−Hの検出に関する。本発明の配列は、配列番号1〜34のMSI−Hマーカーと、少なくとも50%相同であり、MSI−Hマーカー配列(または、場合によっては、1種以上のさらなる結腸直腸癌関連マーカーをコードする配列)と60%、70%、80%、90%相同、最大完全配列同一性であることが好ましい。
【0092】
本明細書に示される配列のいずれかに関して配列同一性は、配列のうちいずれか1種以上を、別の配列と簡単に「視認」比較(すなわち、忠実な比較)し、その他の配列が、配列(類)と、例えば、少なくとも80%の配列同一性を有しているかどうかを確かめることによって調べることができる。
【0093】
相対的な配列同一性はまた、同一性を調べるためのいずれかの適したアルゴリズムを用いて2種以上の配列間の同一性%を算出できる市販のコンピュータプログラムによって、例えば、デフォルトパラメーターを用いて、調べることができる。このようなコンピュータプログラムの代表例として、CLUSTALがある。2種の配列間の同一性および類似性を調べるその他のコンピュータプログラム法としては、それだけには限らないが、GCGプログラムパッケージ(デベロー(Devereux)ら、1984、ヌクレイック・アシッズ・リサーチ(Nucleic Acids Research)12、387)およびFASTA(アッシュル(Atschul)ら、1990、ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(Journal of Molecular Biology)403〜410頁)が挙げられる。
【0094】
相同性%は、連続配列にわたって算出できる。すなわち、ある配列を他の配列と整列させ、ある配列中の各アミノ酸を、他の配列中の対応するアミノ酸と一度に一残基、直接比較する。これは「ギャップなし」アラインメントと呼ばれる。通常、このようなギャップなしアラインメントは、比較的少数の残基にわたってのみ実施される。
【0095】
これは極めて簡単で一貫した方法であるが、例えば、そうでなければ同一の配列対において、1つの挿入または欠失が以下のアミノ酸残基をアラインメントから出させるということを考慮できず、ひいては、大域アラインメントを実施すると相同性%が大きく低下してしまう可能性がある。したがって、ほとんどの配列比較法は、全体的な相同性スコアに過度にペナルティーを課すことなく挿入および欠失の可能性を考慮する最適アラインメントが得られるよう設計されている。これは、局所相同性を最大にしようと配列アラインメントに「ギャップ」を挿入することによって達成される。
【0096】
しかし、これらのより複雑な方法では、同数の同一アミノ酸について、2種の比較されている配列間のより高い関連性を反映する、できる限り少ないギャップを含む配列アラインメントが、多数のギャップを含むものよりも高スコアを達成するよう、アラインメント中に生じる各ギャップに「ギャップペナルティー」を割り当てる。ギャップの存在に比較的高いコストを、ギャップ中の続きの各残基にはより小さいペナルティーを課す「アフィニティーギャップコスト」が通常用いられる。これは最も一般的に用いられるギャップスコアリングシステムである。高いギャップペナルティーにより、当然、より少ないギャップしか含まない最適化されたアラインメントが得られる。ほとんどのアラインメントプログラムでは、ギャップペナルティーを改変することが許容されている。しかし、配列比較のためにこのようなソフトウェアを用いる場合にはデフォルト値を用いることが好ましい。例えば、GCGウィスコンシン・ベネフィット・パッケージ(Wisconsin Bestfit package)を用いる場合には、アミノ酸配列のデフォルトギャップペナルティーは、ギャップに対して−12であり、各伸長に対して−4である。
【0097】
したがって、最大相同性%の算出には、まず、ギャップペナルティーを考慮した、最適アラインメントの作成が必要である。このようなアラインメントを実施するための適したコンピュータプログラムとして、GCGウィスコンシン・ベネフィット・パッケージ(ウィスコンシン大学、米国;デベロー(Devereux)ら、1984、ヌクレイック・アシッズ・リサーチ(Nucleic Acids Research)12、387頁)がある。配列比較を実施できるその他のソフトウェアの例としては、それだけには限らないが、BLASTパッケージ(オーズベル(Ausubel)ら、1995、ショート・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー(Short Protocols in Molecular Biology.)、第3版、ジョン・ウィリー・アンド・サンズ社(John Wiley and sons Inc.)、FASTA(アッシュル(Atschul)ら、1990、ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(Journal of Molecular Biology)403〜410頁)および比較ツールのGENEWORKS一式が挙げられる。BLASTおよびFASTAは双方とも、オフラインおよびオンライン検索に利用できる(オーズベル(Ausubel)ら、1999、前掲、7−58〜7−60頁)。
【0098】
最終相同性%は同一性という点で測定できるが、アラインメントプロセス自体は通常、全か無かの対比較に基づいているわけではない。そうではなく、スコアを化学的類似性又は進化距離に基づいて各対比較に割り当てる、スケールド類似性スコアマトリックスが一般に用いられる。よく用いられるこのようなマトリックスの例としては、BLOSUM62マトリックス−BLASTプログラム一式のデフォルトマトリックス−がある。GCGウィスコンシンプログラムは、通常、公開デフォルト値または提供されている場合には、カスタム記号比較表のいずれかを用いる。GCGパッケージの公開デフォルト値を用いることが好ましく、またその他のソフトウェアの場合には、BLOSUM62などのデフォルトマトリックスを用いることが好ましい。
【0099】
BLASTアルゴリズムは、パラメーターをデフォルト値に設定して用いることが有利である。BLASTアルゴリズムは、ワールドワイドウェブ上、ncbi.nih.gov/BLAST/blast_help.htmlに詳述されており、これは参照により本明細書に組み込まれる。検索パラメーターは以下の通り規定し、規定のデフォルトパラメーターに設定することが有利であり得る。
【0100】
BLASTによって評価した場合「実質的に同一」とは、少なくとも約7、好ましくは、少なくとも約9、もっとも好ましくは10以上のEXPECT値でマッチする配列と同等とみなすことが有利である。BLAST検索におけるEXPECTのデフォルト閾値は、通常、10である。
【0101】
BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)は、プログラムblastp、blastn、blastx、tblastnおよびtblastxで働く発見的検索アルゴリズムであり、これらのプログラムは、有用性を、カーリン(Karlin)およびアルトシュル(Altschul)の統計的手法を、2,3増強して用いるその発見によるものであるとする(カーリン(Karlin)およびアルトシュル(Altschul)1990、プロシーディングス・オブ・ナショナル・アカデミック・サイエンス・オブ・ユーエスエー(Proceedings of National Academic Science of USA)87:2264〜68頁、カーリン(Karlin)およびアルトシュル(Altschul)、1993、プロシーディングス・オブ・ナショナル・アカデミック・サイエンス・オブ・ユーエスエー(Proceedings of National Academic Science of USA)90、5873〜7頁、http://www.ncbi.nih.gov/BLAST/blast_help.html参照)。BLASTプログラムは、例えば、クエリー配列に対する相同性を同定するための配列類似性検索に合わせて作られている。配列データベースの類似性検索における基礎的な問題の議論については、アルトシュル(Altschul)ら、ネイチャー・ジェネティクス(Nature Genetics)6、119〜129頁参照。
【0102】
ワールドワイドウェブ上、ncbi.nlm.nih.govで入手できる5種のBLASTプログラムは、以下のタスクを実行する:blastp−タンパク質配列データベースに対してアミノ酸クエリー配列を比較する;blastn−ヌクレオチド配列データベースに対してヌクレオチドクエリー配列を比較する;blastx−タンパク質配列データベースに対してヌクレオチドクエリー配列の6通りのフレーム概念的翻訳産物(両鎖)を比較する;tblastn−6通り全てのリーディングフレーム(両鎖)で動的に翻訳されるヌクレオチド配列データベースに対してタンパク質クエリー配列を比較する;tblastx−ヌクレオチド配列データベースの6通りのフレーム翻訳に対してヌクレオチドクエリー配列の6通りのフレーム翻訳を比較する。
【0103】
BLASTは、以下の検索パラメータを用いる。
【0104】
HISTOGRAM−各検索のスコアのヒストグラムを示す;デフォルトはイエス。(BLASTマニュアル中、パラメータH参照)。
【0105】
DESCRIPTIONS−報告されるマッチする配列の簡単な説明の数を、指定数に限定する;デフォルト限定は100個の説明である。(マニュアル頁中、パラメータV参照)。
【0106】
EXPECT−データベース配列に対するマッチを報告するための統計的有意性の閾値;デフォルト値は、カーリン(Karlin)およびアルトシュル(Altschul)(1990)の確率論的モデルにしたがって、単に偶然によって10種のマッチが見い出されることが期待されるように10である。マッチに基づく統計的有意性がEXPECT閾値よりも大きい場合には、マッチは報告されない。EXPECT閾値が低いほどより厳しく、マッチが報告される機会がより少なくなる。小数値は許容される。(BLASTマニュアル中、パラメータE参照)。
【0107】
CUTOFF−スコアの高いセグメント対を報告するためのカットオフスコア。デフォルト値はEXPECT値(上記参照)から算出される。HSPは、それらに基づく統計的有意性がCUTOFF値に等しいスコアを有する単独のHSPに基づくであろうものと少なくとも同程度に高い場合にのみデータベース配列について報告される。CUTOFF値が高いほどより厳しく、マッチが報告される機会がより少なくなる。(BLASTマニュアル中、パラメータS参照)。通常、有意性閾値は、EXPECTを用いてより直観的に処理され得る。
【0108】
ALIGNMENTS−スコアの高いセグメント対(HSP)が報告されるデータベース配列を、指定数に限定する;デフォルト限界は50である。これよりも多くのデータベース配列が、報告するための統計的有意性の閾値をたまたま満たす場合には(以下のEXPECTおよびCUTOFF参照)、最大の統計的有意性に基づくマッチのみが報告される。(BLASTマニュアル中、パラメータB参照)。
【0109】
MATRIX−BLASTP、BLAST、TBLASTNおよびTBLASTXの代替スコアリングマトリックスを指定する。デフォルトマトリックスはBLOSUM62である(ヘニコフ(Henikoff)&ヘニコフ(Henikoff)、1992)。有効な代替選択としては、PAM40、PAM120、PAM250およびIDENTITYが挙げられる。BLASTNの代替スコアリングマトリックスは利用できない;BLASTNリクエストにおいてMATRIX指令を指定すると、エラーレスポンスが返される。
【0110】
STRAND−TBLASTN検索を、データベース配列の上部または下部の鎖だけに限定する;または、BLASTN、BLASTXもしくはTBLASTX検索を、クエリー配列の上部もしくは下部の鎖のリーディングフレームだけに限定する。
【0111】
FILTER−ウットン(Wootton)&フェデルヘン(Federhen)(1993)コンピューターズ・アンド・ケミストリー(Computers and Chemistry)17、149〜163頁のSEGプログラムによって決定される、構造上の複雑性の低いクエリー配列のセグメントまたはクラベリー(Claverie)&ステイツ(States)(1993)コンピューターズ・アンド・ケミストリー(Computers and Chemistry)17、191〜201頁のXNUプログラムによって、もしくはBLASTNについては、タツソフ(Tatusov)&リップマン(Lipman)のDUSTプログラム(http://www.ncbi.nlm.nih.gov参照)によって決定される、短い周期性内部リピートからなるセグメントをマスクして除外する。フィルタリングによって、統計的有意であるが生物学的には興味深いものではない報告をblast出力から排除し(例えば、共通酸性、塩基性またはプロリンリッチ領域に対するヒット)、データベース配列に対する特定のマッチングに利用できる、より生物学的に興味深い領域のクエリー配列を残すことができる。
【0112】
フィルタープログラムによって見い出される複雑性の低い配列は、ヌクレオチド配列においては文字「N」を用いて(例えば、「NNNNNNNNNNNNN」)、タンパク質配列においては文字「X」を用いて(例えば、「XXXXXXXXX」)置き換えられる。
【0113】
フィルタリングは、データベース配列ではなくクエリー配列(またはその翻訳産物)にのみ適用される。デフォルトフィルタリングはBLASTNについてはDUSTであり、その他のプログラムについてはSEGである。
【0114】
SWISS−PROTにおいて配列に適用した場合に、SEG、XNUまたは両方によってマスクされるものが何もないことは珍しいことではなく、フィルタリングには常に効果をもたらすと期待してはならない。さらに、配列が完全にマスクされる場合もあり、このことは、フィルタリングされていないクエリー配列に対して報告されるいずれのマッチの統計的有意性も疑わしいはずであるということを示す。
【0115】
NCBI−gi−出力に、受託名および/または遺伝子座名の他、NCBI gi識別子を示させる。
【0116】
配列比較は、ワールドワイドウェブ上、ncbi.nlm.nih.gov/BLASTで提供される簡単なBLAST検索アルゴリズムを用いて実施することが最も好ましい。本発明のいくつかの実施形態では、配列同一性を調べる場合にギャップペナルティーを用いない。
【0117】
プローブおよびプライマー
MSI−Hマーカーのヌクレオチド配列は、本発明において、血清、結腸細胞または組織などの生体サンプルにおいてMSI−Hマーカー核酸配列を同定するために設計されたプローブおよびプライマーを作製するために有用である。プローブ/プライマーとして有用であるヌクレオチド配列としては、配列番号1〜34のすべてもしくは一部、またはそれに相補的な配列、またはストリンジェントな条件下で配列番号1〜34のすべてもしくは一部とハイブリダイズする配列が挙げられる。例えば、本発明はまた、実質的に精製されたオリゴヌクレオチドを含むプローブ/プライマーであって、オリゴヌクレオチドがストリンジェントな条件下で、配列番号1〜34のセンスもしくはアンチセンス配列の、少なくともおよそ8、好ましくは、約12、好ましくは、約15、好ましくは、約25、より好ましくは、約40の連続ヌクレオチド、最大全長、またはそれに相補的な配列、または天然に存在するその突然変異体とハイブリダイズするヌクレオチド配列を含むプローブ/プライマーを提供する。例えば、配列番号1〜34、またはそれに相補的な配列のうちの1種で表される核酸に基づくプライマーを反応に用いて、患者の臨床サンプルから得たmRNAサンプル内に含まれる鋳型核酸(例えば、プライマー配列が誘導されたMSI−Hマーカー)を増幅することができる。
【0118】
MSI−Hマーカー配列をコードする核酸配列に基づくプローブは、MSI−Hマーカー自体を検出するのに有用であるだけでなく、患者において野生型MSI−Hマーカー配列の突然変異体を検出する方法も提供できる。野生型MSI−Hマーカー配列に相補的であり、突然変異遺伝子とミスマッチを形成できる核酸プローブが提供され、これによって酵素的切断もしくは化学的切断による、または電気泳動移動度のシフトによる検出が可能となる。同様に、主題配列に基づくプローブを用いて、例えば、予後アッセイまたは診断アッセイにおいて用いるための、転写物または転写物もしくは相同タンパク質をコードするゲノム配列を検出できる。好ましい実施形態では、核酸プローブは、それに結合しており、検出され得る標識基をさらに含む。例えば、標識基は放射性同位元素、蛍光化合物、化学発光化合物、発色性化合物、酵素および酵素補助因子から選択される。
【0119】
配列番号35〜68のMSI−Hマーカーポリペプチド配列に対するプローブ、プライマーまたは抗体の作製にとって有用な、開示された核酸を含む全長cDNA分子は以下の通りに得ることができる。MSI−Hマーカーの核酸配列(配列番号1〜34)または配列番号1〜34の配列の少なくともおよそ8、好ましくは、約12、好ましくは、約15、好ましくは、約25、より好ましくは、約40のヌクレオチド、最大全長を含むその一部、またはそれに相補的な配列をハイブリダイゼーションプローブとして用い、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,654,173号「セクレテッド・プロテインズ・アンド・ポリヌクレオチド・エンコーディング・ゼム(Secreted Proteins and Polynucleotides Encoding Them)」に記載される、プローブ設計法、クローニング法およびクローン選抜技術を用いて、ハイブリダイズするcDNAライブラリーのメンバーを検出できる。cDNAのライブラリーは、正常または腫瘍組織などの選択した組織から、または、例えば、薬剤物質で治療された哺乳類の組織から作製することができる。核酸とcDNAは双方とも発現された遺伝子に相当するので、組織は核酸を作製するために用いたものと同一であることが好ましい。あるいは、多数のcDNAライブラリーが市販されている。(サムブロック(Sambrook)ら、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning):ア・ラボラトリー・マニュアル(A Laboratory Manual)、第2版、(コールド・スプリング・ハーバー・プレス(Cold Spring Harbor Press)、ニューヨーク州、コールド・スプリング・ハーバー(Cold Spring Harbor Press)1989)。ライブラリー構築用細胞種の選択は、関連遺伝子が公知である核酸によってコードされるタンパク質を同定した後に行うことができる。これによって、どの組織および細胞種が関連遺伝子を発現しそうであるか、したがって、cDNAを作製するためのmRNAを含んでいるかが示される。
【0120】
核酸より大きい、好ましくは、天然メッセージの全配列を含むライブラリーのメンバーを得ることができる。全cDNAが得られていることを確認するには、RNA保護実験を以下のとおり実施すればよい。全長cDNAの、mRNAとのハイブリダイゼーションは、RNAをRNアーゼ分解から保護できる。cDNAが全長でない場合には、ハイブリダイズされていないmRNAの一部がRNアーゼ分解に付され得る。当技術分野では公知であるが、これは、ポリアクリルアミドゲルでの電気泳動移動度の変化によって、または放出されるモノリボヌクレオチドを検出することによってアッセイできる。サムブロック(Sambrook)ら、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning):ア・ラボラトリー・マニュアル(A Laboratory Manual)、第2版、(コールド・スプリング・ハーバー・プレス(Cold Spring Harbor Press)、ニューヨーク州、コールド・スプリング・ハーバー(Cold Spring Harbor Press)1989)。部分cDNAの末端の5’のさらなる配列を得るためには、5’RACE(PCRプロトコールズ(PCR Protocols):ア・ガイド・トゥー・メソッヅ・アンド・アプリケーションズ(A Guide to Methods and Applications)(アカデミック・プレス社(Academic Press, Inc.)1990)を実施すればよい。
【0121】
ゲノムDNA(例えば、MSI−HマーカーゲノムDNA)は、全長cDNAの単離と同様の方法で核酸を用いて単離できる。簡単には、核酸またはそのタンパク質を、ゲノムDNAのライブラリーのプローブとして使用できる。ライブラリーは、核酸を作製するために用いた細胞種から得ることが好ましい。ゲノムDNAは、実施例において本明細書に記載される生体物質から得ることがより好ましい。このようなライブラリーは、サムブロック(Sambrook)ら、9.4〜9.30頁に詳述される、P1またはYACなどのゲノムの大きなセグメントを保持するのに適したベクター中にあってもよい。さらに、ゲノム配列は、例えば、リサーチ・ジェネティクス社(Research Genetics, Inc)、米国、アラバマ州、ハントビル(Huntville)から市販されているヒトBACライブラリーから単離できる。さらなる5’または3’配列を得るには、サムブロック(Sambrook)らに記載される染色体歩行を実施すればよく、その結果、ゲノムDNAの隣接し、重複するフラグメントが単離される。当技術分野では公知であるが、これらは、制限消化酵素およびDNAリガーゼを用いてマッピングおよび統合することができる。
【0122】
本発明の核酸を用いることによって、cDNAライブラリーを構築し、プローブするための古典的方法およびPCR法の双方を用いて対応する全長遺伝子を単離できる。いずれかの方法を用い、いくつかの細胞種でノーザンブロットを実施し、どの細胞株が注目する遺伝子を最高率で発現するかを調べられることが好ましい。
【0123】
サムブロック(Sambrook)ら、前掲におけるcDNAライブラリーを構築する古典的方法。これらの方法を用い、mRNAからcDNAを作製し、ウイルスまたは発現ベクターに挿入することができる。通常、ポリ(T)プライマーを用いて、ポリ(A)テールを含むmRNAのライブラリーを作製することができる。同様に、cDNAライブラリーは、本MSI配列またはその一部をプライマーとして用いて作製できる。
【0124】
PCR法を用いて、所望の挿入部分を含むcDNAライブラリーのメンバーを増幅できる。この場合には、所望の挿入部分は、本発明のMSIポリペプチドマーカーをコードする配列に対応する全長cDNAに由来する配列を含み得る。このようなPCR法としては、遺伝子トラッピングおよびRACE法が挙げられる。
【0125】
遺伝子トラッピングは、cDNAライブラリーのメンバーをベクターに挿入することを必要とし得る。次いで、ベクターを変性して一本鎖分子を作製できる。次いで、基質が結合しているプローブ、例えば、ビオチン化オリゴを用いて注目するcDNA挿入部分をトラッピングできる。ビオチン化プローブはアビジンが結合している固体基質と結合できる。PCR法を用いて、トラッピングされたcDNAを増幅できる。全長遺伝子に相当する配列をトラッピングするには、標識したプローブ配列は、配列番号1〜34の核酸またはそれに相補的な配列に基づくものであり得る。ランダムプライマーまたはライブラリーベクターに特異的なプライマーを用いて、トラッピングされたcDNAを増幅することができる。このような遺伝子トラッピング技術は、グルバー(Gruber)ら、PCT WO95/04745およびグルバー(Gruber)ら、米国特許第5,500,356号に記載されている。遺伝子トラッピング実験を実施するためのキットが、例えば、ライフ・テクノロジーズ(Life Technologies)、米国、メリーランド州、ゲイサーズバーグから市販されている。
【0126】
「cDNA末端の迅速増幅」またはRACEとは、いくつかの異なるRNAからcDNAを増幅するPCR法である。cDNAをオリゴヌクレオチドリンカーにライゲーションし、2種のプライマーを用いてPCRによって増幅することができる。一方のプライマーは、全長配列が望まれる本核酸に由来する配列に基づくものであり得、第2のプライマーは、cDNAを増幅するためのオリゴヌクレオチドリンカーとハイブリダイズする配列を含み得る。この方法の説明は、PCT公開番号WO97/19110に報告されている。
【0127】
RACEの好ましい実施形態では、cDNA末端と連結している任意のアダプター配列とアニーリングするよう共通プライマーを設計できる(アプテ(Apte)およびシーベルト(Siebert)、バイオテクニークス(Biotechniques)15、890〜893頁、1993;エドワーズ(Edwards)ら、ヌクレイック・アシッヅ・リサーチ(Nucleic Acids Research)19、5227〜5232頁、1991)。単一遺伝子特異的RACEプライマーが共通プライマーと対形成する場合には、単一遺伝子特異的プライマーと共通プライマーの間の配列の優先的な増殖が生じる。RACEにおいて使用するように改変された市販のcDNAプールを利用できる。
【0128】
全長cDNAまたは遺伝子を得ると、サムブロック(Sambrook)15.3〜15.63に詳述される、位置指定突然変異誘発によって変異体をコードするDNAを調製できる。置換されるコドンまたはヌクレオチドの選択は、タンパク質構造および/または機能の変更を達成するためのアミノ酸の任意の変更に関する本明細書における開示内容に基づくものであり得る。
【0129】
生体物質、例えば、結腸組織からDNAまたはRNAを得る代替法として、本発明の核酸のうち1種以上の配列を有するヌクレオチドを含む核酸を合成できる。したがって、本発明は、核酸分子の複製および発現をはじめとする1種以上の生物学的操作に適した、約8ヌクレオチドの長さ(ストリンジェントな条件下で配列番号1〜34の核酸配列とハイブリダイズするか、または配列番号1〜34の核酸配列と少なくとも80%同一である、少なくとも12の連続ヌクレオチド、またはそれに相補的な配列に対応する)〜最大長の範囲の核酸分子を包含する。本発明は、それだけには限らないが、(a)本発明のMSI−Hマーカーポリヌクレオチド配列またはそれに相補的な配列の各々によって表される全遺伝子の大きさを有する核酸、(b)融合タンパク質の発現を可能にするよう機能しうる形で連結している、少なくとも1種のさらなる遺伝子も含む(a)の核酸、(c)(a)または(b)を含む発現ベクター、(d)(a)または(b)を含むプラスミドおよび(e)(a)または(b)を含む組換えウイルス粒子を含む。
【0130】
本発明の核酸の配列は制限されず、A、T、Gおよび/またはC(DNAについては)およびA、U、Gおよび/またはC(RNAについては)またはをイノシンおよびシュードウリジンをはじめとするその修飾された塩基のいずれの配列であってもよい。配列の選択は所望の機能に応じて変わり、所望のコーディング領域、所望のイントロン様領域および所望の調節領域によって決定できる。
【0131】
プローブ調製
プローブ核酸の、患者サンプルとのハイブリダイゼーションの前に、核酸サンプルを、その後のハイブリダイゼーションの検出を容易にするよう調製しなくてはならない。結腸直腸癌またはMSIについてスクリーニングされる個体から得た核酸サンプルは、1種以上の化学結合によって、通常、相補的塩基対形成によって、通常水素結合形成によって、相補的配列の核酸プローブによって結合され得る。
【0132】
配列番号1〜34のMSI−Hマーカー配列のうち1種以上、および場合によっては、少なくとも1種のさらなる結腸直腸癌関連マーカーとハイブリダイズし、ひいては、その存在を同定するために、本発明において有用なプローブは、MSI−Hマーカー配列のうち1種以上、および場合によっては、少なくとも1種のさらなる結腸直腸癌関連マーカーをコードするmRNA転写物に由来するポリヌクレオチド分子とハイブリダイズするよう設計できる。本明細書において「mRNA転写物に由来するポリヌクレオチド」とは、mRNA転写物またはその部分配列の合成がその鋳型として最終的に役立ったポリヌクレオチドを指す。したがって、mRNAから逆転写されたcDNA、そのcDNAから転写されたRNA、cDNAから増幅されたDNA、増幅されたDNAから転写されたRNAなどは、すべてmRNA転写物に由来し、このように導かれた生成物の検出は、サンプル中の最初の転写物の存在および/または不在を示す。したがって、適した標的核酸サンプルとしては、それだけには限らないが、遺伝子または遺伝子類のmRNA転写物(すなわち、MSI−Hマーカーまたは結腸直腸癌関連マーカー)、mRNAから逆転写されたcDNA、cDNAから転写されたcRNA、遺伝子または遺伝子類から増幅されたDNA、増幅されたDNAから転写されたRNAなどが挙げられる。本明細書において用いられるポリヌクレオチドプローブは、MSI−Hマーカー配列のうち1種以上、または場合によっては、少なくとも1種のその他の結腸直腸癌関連マーカーをコードする配列とハイブリダイズするよう設計されていることが好ましい。
【0133】
核酸プローブは、当業者に周知の技術を用いて作製できる(例えば、サムブロック(Sambrook)ら、モレキュラー・クローニング:ア・ラボラトリー・マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual)(第2版)、1〜3巻、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory)(1989))またはカレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー(Current Protocols in Molecular Biology)、F.オースベル(Ausubel)ら編、グリーン・パブリッシング・アンド・ウィレー・インターサイエンス(Greene Publishing and Wiley Interscience)、ニューヨーク(1987)参照)。
【0134】
プローブ核酸の、サンプル中の標的配列とのハイブリダイゼーションを測定するために、プローブ核酸を検出可能な標識で標識することが好ましい。分子と結合しているか、または分子中に組み込まれている、任意の分析的に検出可能なマーカーを本発明に使用できる。分析的に検出可能なマーカーとは、分析的に検出され、定量される、いずれかの分子、部分または原子を指す。
【0135】
本発明において使用するのに適した検出可能な標識としては、分光学的、光化学的、生化学的、免疫化学的、電子的、光学的または化学的手段によって検出可能な任意の組成物が挙げられる。本発明において有用な標識としては、標識ストレプトアビジンコンジュゲートで染色するためのビオチン、磁性ビーズ(例えば、ダイナビーズ(Dynabeads)TM)、蛍光色素(例えばフルオレセイン、テキサスレッド、ローダミン、緑色蛍光タンパク質など)、放射標識(例えば、H、125I、35S、14Cまたは32P)、酵素(例えば、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼおよびELISAにおいてよく用いられるその他のもの)およびコロイド金または着色ガラスもしくはプラスチック(例えば、ポリスチレン、ポリプロピレン、ラテックスなど)ビーズなどの比標識が挙げられる。このような標識の使用を教示する特許としては、米国特許第3,817,837号、同3,850,752号、同3,939,350号、同3,996,345号、同4,277,437号、同4,275,149号および同4,366,241号が挙げられる。
【0136】
このような標識を検出する手段は当業者にはよく知られている。したがって、例えば、放射標識は、写真用フィルムまたはシンチレーションカウンターを用いて検出でき、蛍光マーカーは、発光される光を検出するための光検出器を用いて検出できる。酵素標識は通常、酵素を基質とともに提供することと、酵素の基質に対する作用によって生じた反応生成物を検出することとによって検出し、比色標識は、有色標識を簡単に可視化することによって検出する。
【0137】
標識は、当業者に周知のいくつかの手段のうちいずれによって核酸プローブに組み込んでもよい。しかし、好ましい実施形態では、プローブポリヌクレオチドの調製における増幅ステップの際に、プローブに標識を同時に組み込む。したがって、例えば、標識したプライマーまたは標識したヌクレオチドを用いるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)またはその他の増幅反応によって、標識した増幅産物、ひいては、標識したプローブが提供される。
【0138】
あるいは、標識はプローブに直接付加してもよい。ポリヌクレオチドに標識を結合させる手段は、当業者にはよく知られており、これとしては、例えば、ニックトランスレーションまたは末端標識(例えば、標識したRNAを用いる)と、それに続く、サンプルポリヌクレオチドと標識(例えば、フルオロフォア)とを連結する、ポリヌクレオチドリンカーの結合(ライゲーション)が挙げられる。
【0139】
好ましい実施形態では、蛍光修飾は、シアニン色素、例えば、Cy−3/Cy−5 dUTP、Cy−3/Cy−5 dCTP(アマシャム・ファルマシア(Amersham Pharmacia))またはアレクサ色素(カーン(kahn),J.、サイモン(Simon),R.、ビットナー(Bittner),M.、チェン(Chen),Y.レイトン(Leighton),S.B.、ポヒダ(Pohida),T.、スミス(Smith),P.D.、 チャン(Jiang),Y.、グーデン(Gooden),G.C.、トレント(Trent),J.M.&メルツァー(Meltzer),P.S.(1998)キャンサー・リサーチ(Cancer Research)58、50095013)によってである。
【0140】
好ましい実施形態では、本明細書に記載されるMSI−Hマーカー配列のうち1種以上とハイブリダイズできるプローブ核酸と、少なくとも1種のさらなる結腸直腸癌関連マーカーをコードする核酸配列とハイブリダイズできるプローブ核酸とを、試験サンプル(例えば、血清サンプル)と同時ハイブリダイズさせる。この実施形態では、比較のために用いる2種のプローブサンプルは、区別可能な検出シグナルを生じる異なる蛍光色素で標識する。例えば、MSI核酸マーカー配列とハイブリダイズ可能なプローブをCy5を用いて標識し、もう一方の結腸直腸関連マーカーとハイブリダイズ可能なプローブをCy3を用いて標識する。異なって標識された標的サンプルを、同じマイクロアレイと同時にハイブリダイズする。
【0141】
好ましい実施形態では、対照プローブを、MSI核酸マーカー配列用プローブおよび/またはさらなる結腸直腸関連マーカー用プローブとともに、サンプルと同時ハイブリダイズさせることができ、これでは、対照プローブは臨床サンプル中に見られることがわかっている核酸配列とハイブリダイズでき、臨床サンプルが血清サンプルである場合には、対照配列は血清アルブミンまたはフィブリノゲンをコードする配列であり得る。
【0142】
抗体
本発明は、個体から得た生体サンプルにおける配列番号1〜34のMSI−Hマーカー配列のうち1種以上によってコードされるポリペプチド分子(および場合によっては、少なくとも1種のさらなる結腸直腸癌関連マーカー)の存在および過剰発現を検出するステップを含む、MSI−Hを検出(およびその後、MSI状態に基づいて、予後、治療および/またはモニタリングについて患者を層別化)する方法を提供する。一実施形態では、このようなサンプル中の、1種以上のMSI−Hマーカー、またはその他のマーカーの存在は、好ましくは検出可能なように標識されており、サンプル中のMSI−Hマーカーポリペプチドと、および存在すれば、その他のマーカーと結合できるポリペプチドリガンドを用いて検出する。好ましい実施形態では、ポリペプチドリガンドは抗体である。本発明の抗体としては、それだけには限らないが、ポリクローナル、モノクローナル、多重特異性、ヒト、ヒト化またはキメラ抗体、一本鎖抗体、Fab断片、Fv断片F(ab’)断片、Fab発現ライブラリーによって作製される断片、抗イディオタイプ抗体、またはその他のエピトープ結合性ポリペプチドが挙げられる。本発明において、1種以上のMSI−Hマーカーポリペプチド(および場合によっては、少なくとも1種のさらなる結腸直腸癌関連マーカー)を検出するために有用な抗体は、ヒト抗体またはscFv、Fab、Fab’、F(ab’)、Fd、一本鎖抗体またはFvをはじめとするその断片であることが好ましい。本発明において有用な抗体としては、完全重鎖もしくは軽鎖定常領域またはその一部またはその不在が挙げられる。本発明において有用な抗体は、認識される宿主、例えば、ウサギ、マウス、ラット、ロバ、ヒツジ、ヤギ、モルモット、ラクダ、ウマまたはニワトリから得ることができる。一実施形態では、本発明において有用な抗体は、ヒト抗体に、より酷似するよう非抗原結合領域においてアミノ酸が置換されているが、元の結合能力は保持したままである、ヒト化抗体であり得る。ヒト化抗体を作製する方法は、テン(teng)ら、1983、プロシーディングス・オブ・ナショナル・アカデミック・サイエンス・オブ・ユーエスエー(Proceedings of National Academic Science of USA)80、7308〜7312頁;コズボール(kozbor)ら、1983、イミュノロジー・トゥデイ(Immunology Today)4、7279頁;オルソン(Olsson)ら、1982、メソッズ・イン・エンジモロジー(Methods In Enzymology)92、3〜16頁、WO92/06193;EP0239400に開示されている。
【0143】
本発明の抗体は、単一特異性、二重特異性、三重特異性またはより大きな多重特異性のものであり得る。そのようなものとして、結腸直腸癌および/またはMSI−H、または場合によっては、2種以上のMSIポリペプチドマーカーを検出するのに有用な、1種以上のMSI−Hマーカーポリペプチドおよび場合によっては、さらなる結腸直腸癌関連マーカーを、別個の抗体で検出することもできるし、同一抗体で検出することもできる。あるいは、多重特異性抗体は、同一タンパク質上の異なるエピトープに対して異なる特異性を示す場合がある。本発明において有用な抗体の特異性は、MSI−Hマーカーまたは1種以上のさらなる結腸直腸癌関連マーカーのいずれかに対してであることが好ましいが、本発明において、結腸直腸癌を検出するために有用なポリペプチドと少なくとも95%、90%、85%、75%、65%、55%および少なくとも50%の同一性を有するポリペプチドと結合する抗体も本発明に含まれる。また、配列番号1〜34の配列と相補的であるか、もしくはそれとハイブリダイズする1種以上の核酸配列、または本明細書に記載される、さらなる結腸直腸癌関連マーカーをコードする核酸配列と相補的であるか、もしくはそれとハイブリダイズする1種以上の配列によってコードされるポリペプチド分子と結合する抗体も本発明に包含される。
【0144】
結腸直腸癌を検出するために有用な本発明の抗体は、それらが結合するポリペプチド分子の活性のアゴニストまたはアンタゴニストとしてさらに作用でき、したがって、結腸直腸癌を治療または予防するための治療分子として有用であり得る。
【0145】
それだけには限らないが、本発明の抗体の1つの重要な役割は、in vitroおよびin vivo検出法を含む、患者サンプル中の1種以上のMSIポリペプチドマーカーまたはその他の結腸直腸癌関連マーカーの精製または検出を提供することである。本明細書に記載される結腸直腸癌の検出に有用な抗体は、単独で使用しなくてもよく、抗体ポリペプチド配列のNまたはC末端で異種ポリペプチドをはじめとするその他のポリペプチドと融合させることができる。例えば、本発明において有用な抗体を、検出可能な標識と融合させ、標的ポリペプチドと結合している場合には抗体の検出を容易にすることができる。抗体ポリペプチドを検出可能なように標識する方法は、当業者に公知である。
【0146】
本発明において有用な抗体を製造するためは、ヤギ、ウサギ、ラット、マウスなどをはじめ、種々の宿主を、本発明の候補遺伝子のタンパク質産物(または免疫原性特性を保持している、そのいずれかの部分、断片またはオリゴヌクレオチド)を注射することによって免疫化できる。宿主種に応じて、種々のアジュバントを使用して、免疫学的応答を増大することができる。このようなアジュバントとしては、それだけには限らないが、フロイントのもの、水酸化アルミニウムなどの無機ゲルおよびリゾレシチン、プルロニックポリオール、ポリアニオンなどの界面活性物質、ペプチド、油乳剤、キーホールリンペットヘモシアニンおよびジニトロフェノールが挙げられる。BCG(カルメット−ゲラン菌(Bacilli Calmette-Guerin))およびコリネバクテリウム・パルブム(Corynebacterium parvum)は、有用なヒトアジュバントである可能性がある。
【0147】
ポリクローナル抗血清またはモノクローナル抗体は、当技術分野で公知の方法を用いて作製できる。マウス、ハムスターまたはウサギなどの哺乳類は、MSI−Hマーカーポリペプチド、断片、その修飾型またはその変異体型の免疫原性型で免疫化できる。あるいは、動物は、1種以上のさらなる結腸直腸癌関連マーカーポリペプチドの免疫原性型を用いて免疫化できる。このような分子に免疫原性を付与する技術としては、担体とのコンジュゲーションまたは当技術分野で周知のその他の技術が挙げられる。例えば、免疫原性分子は、上記のアジュバントの存在下で投与できる。免疫化は、血漿または血清中の抗体力価を検出することによってモニターできる。抗原として免疫原を用いる標準的なイムノアッセイ手順を用いて、抗体のレベルおよび特異性を評価できる。免疫化後に抗血清を採取し、必要に応じて、血清からポリクローナル抗体を単離できる。
【0148】
モノクローナル抗体を作製するために、免疫化した動物から抗体産生細胞(リンパ球)を採取し、標準的な体細胞融合手順によって骨髄腫細胞と融合し、そのようにして、これらを不死化し、ハイブリドーマ細胞を得ることができる。このような技術は当技術分野ではよく知られている(例えば、ケーラー(Kohler)およびミルステイン(Milstein)、1075、ネイチャー(Nature)256、495〜497頁;コズボール(kozbor)ら、1983、イミュノロジー・トゥデイ(Immunology Today)4、72頁、コール(Cole)ら、1985、モレキュラー・アンチボディーズ・イン・キャンサー・セラピー(Monoclonal Antibodies in Cancer Therapy)、アレンR.ブリス社(Allen R. Bliss, Inc.)77〜96頁参照)。さらに、一本鎖抗体を作製するための記載された技術(米国特許第4,946,778号)を適用して、本発明の抗体を製造できる。
【0149】
本発明のポリペプチドと特異的に結合できる抗体断片、その断片、その修飾型およびその変異体も、公知の技術によって作製できる。例えば、このような断片としては、それだけには限らないが、抗体分子のペプシン消化によって生じ得るF(ab’)断片、F(ab’)断片のジスルフィド架橋を還元することによって作製できるFab断片が挙げられる。VH領域およびFV領域は、ファージ発現ライブラリーを用いて細菌において発現させることができる(例えば、ワード(Ward)ら、1989、ネイチャー(Nature)341、544〜546頁;ヒューズ(Huse)ら、1989、サイエンス(Science)246、1275〜1281頁;マッカファティ(MaCafferty)ら、1990、ネイチャー(Nature)348、552〜554頁)。
【0150】
キメラ抗体、すなわち、非ヒト動物可変領域と、ヒト定常領域とを組み合わせた抗体分子も、本発明の範囲内にある。キメラ抗体分子は、例えば、マウス、ラットまたはその他の種の抗体由来の抗原結合ドメインを、ヒト定常領域とともに含む。標準法を用いて、本発明のMSI−Hマーカー抗原の遺伝子産物を認識する免疫グロブリン可変領域を含むキメラ抗体を作製できる(例えば、モリソン(Morrison)ら、1985、プロシーディングス・オブ・ナショナル・アカデミック・サイエンス・オブ・ユーエスエー(Proceedings of National Academic Science of USA)81、6851頁;タケダら、1985、ネイチャー(Nature)314、452頁;米国特許第4,816,567号;同4,816,397号参照)。ベクターおよび宿主細胞
【0151】
本発明は、本発明の1種以上のMSI−Hマーカーまたはその他の結腸直腸癌関連マーカーの発現を導くのに有用なベクターおよびプラスミドをさらに提供し、本明細書において提供されるベクターおよびプラスミドを発現する宿主細胞をさらに提供する。以下に記載されるように、ベクターまたはプラスミドからの発現に有用な核酸配列としては、それだけには限らないが、上記の方法によって差次的に制御されると同定されるいずれかの核酸または遺伝子配列が挙げられ、さらに治療用核酸分子、例えば、アンチセンス分子が含まれる。宿主細胞は原核細胞または真核細胞のいずれであってもよい。ポリヌクレオチド配列を遺伝子構築物、例えば、発現ベクターに連結することと、真核生物(酵母、鳥類、昆虫もしくは哺乳類)または原核生物の(細菌細胞)いずれかの宿主に形質転換またはトランスフェクトすることとは、当技術分野で周知の標準的な手順である。
【0152】
ベクター
本発明の差次的に発現される核酸分子の発現に有用な、当技術分野で公知であり利用可能な多様なベクターがある。個々のベクター選択は、差次的に発現される核酸によってコードされるポリペプチドの目的とする用途に応じて明らかに変わる。例えば、選択されたベクターは、細胞種が原核生物であろうと真核生物であろうと、所望の細胞種においてポリペプチドを発現させることが可能でなければならない。多数のベクターが、原核生物ベクターの複製と、機能しうる形で連結された遺伝子配列の真核生物の発現の双方を可能にする配列を含んでいる。
【0153】
本発明による有用なベクターは自己複製しているものであり得る。すなわち、ベクター、例えば、プラスミドは、染色体外に存在し、その複製は宿主細胞ゲノムの複製と必ずしも直接関連していない。あるいは、ベクターの複製が宿主染色体DNAの複製と関連している場合もある。例えば、レトロウイルスベクターによって達成されるように、ベクターが宿主細胞の染色体に組み込まれている場合もある。
【0154】
本発明による有用なベクターは、注目する配列(例えば、MSI−Hマーカー配列)に機能しうる形で連結された、配列の転写および翻訳を可能にする配列を含むことが好ましい。連結された注目する配列の転写を可能にする配列としては、プロモーターが挙げられ、場合によっては、エンハンサーエレメントまたは連結された配列の強力な発現を可能にするエレメントも含まれる。用語「転写制御配列」とは、プロモーターと、機能しうる形で連結された核酸配列に所望の発現特性(例えば、高レベル発現、誘導可能な発現、組織または細胞種特異的発現)を付与するいずれかのさらなる配列との組み合わせを指す。
【0155】
選択されるプロモーターは、選択される宿主細胞において転写活性を示すいずれかのDNA配列である場合もあるし、宿主細胞において正常に発現される遺伝子から、またはその他の細胞もしくは生物において正常に発現される遺伝子から導く場合もある。プロモーターの例としては、それだけには限らないが、以下のものが挙げられる:A)原核生物プロモーター−大腸菌(E.coli)lac、tacまたはtrpプロモーター、λファージPまたはPプロモーター、バクテリオファージT7、T3、Sp6プロモーター、枯草菌(B.subtilis)アルカリプロテアーゼプロモーターおよびB.ステアロサーモフィルス(B. stearothermophilus)マルトジェニックアミラーゼプロモーターなど、B)真核生物のプロモーター−酵母プロモーター、例えば、GAL1、GAL4およびその他の解糖系遺伝子プロモーター(例えば、ヒッツマン(Hitzeman)ら、1980、ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(Journal of Biological Chemistry)255、12073〜12080頁;アルバー(Alber)&カワサキ、1982、ジャーナル・オブ・モレキュラー・アンド・アプライド・ジェネティクス(Journal of Molecular and Applied Genetics)1、419〜434頁参照)、LEU2プロモーター(マルチネス−ガルシア(Martinez-Garcia)ら、1989、モレキュラー・アンド・ジェネラル・ジェネティクス(Molecular and General Genetics)217、464〜470頁)、アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子プロモーター(ジェネティック・エンジニアリング・オブ・マイクロオーガニズムス・フォー・ケミカルス(Genetic Engineering of Microorganisms for Chemicals)、ホレンダー(Hollaender)ら編、プレナム・プレス(Plenum Press)、ニューヨーク州中、ヤング(Young)ら、1982)またはTPIlプロモーター(米国特許第4,599,311号)、昆虫プロモーター、例えば、ポリヘドリンプロモーター(米国特許第4,745,051号、バスベダン(Vasuvedan)ら、1992、フェブス・レターズ(FEBS Lettrs)311、7〜11頁)、P10プロモーター(ブラック(Vlak)ら、1988、ジャーナル・オブ・ジェネラル・ビロロジー(Journal of General Virology)69、765〜776頁)、オートグラファ・カリフォルニカ(Autographa californica)多角体病ウイルス塩基性タンパク質プロモーター(EP397485)、バキュロウイルス前初期遺伝子プロモーター遺伝子1プロモーター(米国特許第5,155,037号および同5,162,222号)、バキュロウイルス39K遅延型初期遺伝子プロモーター(同様に、米国特許第5,155,037号および同5,162,222号)およびOpMNPV前初期プロモーター2、哺乳類プロモーター−SV40プロモーター(スブラマニ(Subramani)ら、1981、モレキュラー・アンド・セルラー・バイオロジー(MoIecular and Cellular Biology)1、854〜864頁)、メタロチオネインプロモーター(MT−1;パルミター(Palmiter)ら、1983、サイエンス(Science)222、809〜814頁)、アデノウイルス2主要後期プロモーター(ユー(Yu)ら、1984、ヌクレイック・アシッズ・リサーチ(Nucleic Acids Research)12、9309〜21頁)、サイトメガロウイルス(CMV)またはその他のウイルスのプロモーター(トング(Tong)ら、1998、アンチキャンサー・リサーチ(Anticancer Research)18、719〜725頁)または特定の細胞種においては注目する遺伝子の内因性プロモーターさえもが挙げられる。
【0156】
選択したプロモーターはまた、プロモーターを誘導可能または組織特異的にする配列に連結することができる。例えば、選択したプロモーターの上流に組織特異的エンハンサーエレメントを加えることによって、所与の組織または細胞種においてプロモーターがより活性になり得る。あるいは、またはさらに、プロモーターを、例えば、熱変化(温度感受性)、化学的処理(例えば、金属イオンまたはIPTG誘導可能)による誘導を可能にするいくつかの配列エレメントのうちいずれかと連結することによって、または抗生物質誘導物質(例えば、テトラシクリン)を加えることによって、誘導可能な発現を達成できる。
【0157】
制御可能な発現は、例えば、薬物によって誘導可能な(例えば、テトラシクリン、ラパマイシンまたはホルモン誘導可能)発現系を用いて達成される。哺乳類細胞において用いるのに特に適している、薬物によって制御可能なプロモーターとしては、テトラサイクリンによって制御可能なプロモーターおよびグルココルチコイドステロイド、性ホルモンステロイド、エクジソン、リポ多糖類(LPS)およびイソプロピルチオガラクトシド(IPTG)によって制御可能なプロモーターが挙げられる。哺乳類細胞に用いるための制御可能な発現系は、必ずしもそうではないが、理想的には、制御物質に応じて非哺乳類DNAモチーフと結合する(または結合できない)転写レギュレーターと、この転写レギュレーターに対してのみ応答性である制御配列を含まなくてはならない。
【0158】
また、組織特異的プロモーターは、本発明の構築物をコードする差次的に発現される配列に有利に使用できる。多種多様な組織特異的プロモーターが知られている。本明細書において、用語「組織特異的」とは、所与のプロモーターが、生物のすべてではない細胞または組織において転写的に活性である(すなわち、プロモーターのポリペプチド産物の検出を可能にするほど十分な、連結している配列の発現を指示する)ことを意味する。組織特異的プロモーターは1つの細胞種においてのみ活性であることが好ましいが、例えば、特定の種類または系統の細胞種(例えば、造血細胞)で活性である場合もある。本発明による有用な組織特異的プロモーターは、本来そのプロモーターと連結している遺伝子の発現方法またはパターンと本質的に同じ方法またはパターンでの、機能しうる形で連結している核酸配列の発現に必要であり、十分な配列を含む。以下は、組織特異的プロモーターおよびそのそれぞれの組織においてそれらのプロモーターに特徴的な発現を達成するのに必要な配列を含む参照文献の非排他的リストであり、これらの参照文献の各々の全内容は参照により本明細書に組み込まれる。本発明において有用な組織特異的プロモーターの例は以下の通りである。
ボウマン(Bowman)ら、1995プロシーディングス・オブ・ナショナル・アカデミック・サイエンス・オブ・ユーエスエー(Proceedings of National Academic Science of USA)92、12115〜12119頁には、脳特異的トランスフェリンプロモーターが記載されており、シナプシンIプロモーターはニューロン特異的であり(スコッチ(Schoch)ら、1996ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(Journal of Biological Chemistry)271、3317〜3323頁)、ネスチンプロモーターは有糸分裂後ニューロン特異的であり(ウエツキら、1996ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(Journal of Biological Chemistry)271、918〜924頁)、ニューロフィラメント光プロモーターはニューロン特異的であり(シャロン(Charron)ら、1995ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(Journal of Biological Chemistry)270、30604〜30610頁)、アセチルコリン受容体プロモーターはニューロン特異的であり(ウッド(Wood)ら、1995ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(Journal of Biological Chemistry)270、30933〜30940頁)、カリウムチャネルプロモーターは高頻度発火性ニューロン特異的である(ガン(Gan)ら、1996ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(Journal of Biological Chemistry)271、5859〜5865頁)。当技術分野で公知の組織特異的転写制御配列はいずれも、疼痛にさらされた動物から得た差次的に発現される核酸配列をコードするベクターとともに有利に使用できる。
【0159】
プロモーター/エンハンサーエレメントに加え、本発明による有用なベクターには、適したターミネーターをさらに含めることができる。このようなターミネーターとしては、例えば、ヒト成長ホルモンターミネーター(パルミター(Palmiter)ら、1983、前掲)または酵母もしくは真菌宿主についてはTPI1(アルバー(Alber)&カワサキ、1982前掲)またはADH3ターミネーター(マックナイト(McKnight)ら、1995、エンボ・ジャーナル(EMBO Journal)4、2093〜2099頁)が挙げられる。
【0160】
本発明による有用なベクターにはまた、ポリアデニル化配列(例えば、SV40またはAd5E1bポリ(A)配列)と、転写エンハンサー配列(例えば、アデノウイルスVA RNA由来のもの)とを含めることができる。さらに、本発明による有用なベクターは、組換えポリペプチドを特定の細胞コンパートメントに向けるシグナル配列をコードする場合もあり、あるいは、組換えポリペプチドの分泌を指示するシグナルをコードする場合もある。
【0161】
a.プラスミドベクター
選択した宿主細胞種における注目するコード配列(例えば、MSI−Hマーカーペプチド配列のコード配列)の発現を可能にするプラスミドベクターはいずれも、本発明の使用に許容される。本発明における有用なプラスミドベクターは、本発明による有用なベクターの上記の特徴のいずれかまたはすべてを有し得る。本発明による有用なプラスミドベクターとしては、それだけには限らないが、以下の例が挙げられる:細菌の−pQE70、pQE60、pQE−9(キアゲン(Qiagen))pBs、phagescript、psiX174、pBluescript SK、pBsKS、pNH8a、pNH16a、pNH18a、pNH46a(ストラタジーン(Stratagene))、pTrc99A、pKK223−3、pKK233−3、pDR540およびpRIT5(ファルマシア(Pharmacia))、真核細胞の−pWLneo、pSV2cat、pOG44、pXT1、pSG(ストラタジーン(Stratagene))pSVK3、pBPV、pMSGおよびpSVL(ファルマシア(Pharmacia))。しかし、宿主において複製可能であり、生存能力がある限りは、どんなその他のプラスミドまたはベクターを使用してもよい。
【0162】
b.バクテリオファージベクター
本発明による有用な、いくつかの周知のバクテリオファージ由来ベクターがある。これらの中で第一のものは、挿入部分によってコードされるポリペプチドの誘導可能な発現を可能にするλベースのベクター、例えば、λZapIIまたはλZap Expressベクター(ストラタジーン(Stratagene))である。その他のものとしては、M13ベースのベクターのファミリーなどの糸状バクテリオファージが挙げられる。
【0163】
c.ウイルスベクター
本発明によれば、いくつかの異なるウイルスベクターが有用であり、細胞における1種以上の本発明のポリヌクレオチドの導入および発現を可能にするウイルスベクターはいずれも、本発明の方法における使用に許容される。外来核酸を細胞に送達するために使用できるウイルスベクターとしては、それだけには限らないが、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクターおよびセムリキ森林ウイルス(αウイルス)ベクターが挙げられる。欠損レトロウイルスは、遺伝子導入において使用するために十分に特性決定されている(概説については、ミラー(Miller)、A.D.(1990)ブロッド(blood)76、271頁参照)。組換えレトロウイルスを作製するプロトコールおよびこのようなウイルスを用いてin vitroまたはin vivoで細胞に感染させるプロトコールは、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー(Current Protocols in Molecular Biology)、オースベル(Ausubel)、F.M.ら(編)グリーン・パブリッシング・アソシエーツ(Greene Publishing Associates)、(1989)、第9節、9.10〜9.14およびその他の標準的な実験室マニュアルに見ることができる。
【0164】
レトロウイルスベクターの他、アデノウイルスも、注目する遺伝子産物をコードし、発現するよう遺伝子操作できるが、正常な溶菌性のウイルス生活環においてはその複製能力の点で不活化されている(例えば、バークナー(Berkner)ら、1988、バイオテクニークス(BioTechniques)6、616頁、ローゼンフェルド(Rosenfeld)ら、1991、サイエンス(Science)252、431〜434頁およびローゼンフェルド(Rosenfeld)ら、1992、セル(Cell)68、143〜155頁)。アデノウイルス株Adタイプ5dl324またはアデノウイルスのその他の株(例えば、Ad2、Ad3、Ad7など)由来の適したアデノウイルスベクターは当業者によく知られている。アデノ随伴ウイルス(AAV)は、効率的な複製および増殖性の生活環には、ヘルパーウイルスとしてアデノウイルスまたはヘルペスウイルスなどの別のウイルスを必要とする天然に存在する欠損ウイルスである。(概説については、ムジツカ(Muzyczka)ら、1992、カレント・トピックス・イン・マイクロバイオロジー・アンド・イムノロジー(Current Topics in Microbiology & Immunology)158、97〜129頁参照)。核酸を細胞に導入するために、トラスチン(Traschin)ら(1985、モレキュラー・アンド・セルラー・バイオロジー(MoIecular and Cellular Biology)5、3251〜3260頁)に記載されるものなどのAAVベクターを使用できる。AAVベクターを用いて、種々の核酸が種々の細胞種に導入されている(例えば、ヘルモナット(Hermonat)ら、1984、、プロシーディングス・オブ・ナショナル・アカデミック・サイエンス・オブ・ユーエスエー(Proceedings of National Academic Science of USA)81、6466〜6470頁およびトラスチン(Traschin)ら(1985、モレキュラー・アンド・セルラー・バイオロジー(MoIecular and Cellular Biology)4、2072〜2081頁参照)。
【0165】
宿主細胞
注目する遺伝子を保持している組換えベクターを導入でき、ベクターが差次的に発現される配列によってコードされるペプチドを発現させることが許容されている細胞はいずれも、本発明によれば有用である。本発明の差次的に発現される分子が発現され、好ましくは検出され得る細胞はいずれも適した宿主であり、これでは、宿主細胞は哺乳類細胞であることが好ましく、ヒト細胞がより好ましい。原核生物および真核生物双方のいくつかの異なる生物に由来する宿主細胞への核酸配列の導入に適したベクターは、本明細書において上記に記載されているか、または当業者には公知である。
【0166】
宿主細胞は原核生物、例えば、いくつかの細菌株のいずれかであってもよいし、真核生物、例えば、酵母またはその他の真菌細胞、昆虫もしくは両生類細胞または例えば、げっ歯類、サルもしくはヒト細胞をはじめとする哺乳類細胞であってもよい。細胞は一次培養細胞、例えば、一次ヒト線維芽細胞もしくはケラチノサイトであってもよいし、または確立された細胞株、例えば、NIH3T3、293TもしくはCHO細胞であってもよい。さらに、本発明において有用な哺乳類細胞は、表現型的に正常であってもよいし、または発癌性に形質転換されていてもよい。当業者ならば、培養において、選択した宿主細胞種を容易に確立し、維持できると思われる。
【0167】
宿主細胞へのベクターの導入
本発明において有用なベクターは、当業者に公知のいくつかの適した方法のうちいずれかによって選択した宿主細胞に導入できる。例えば、ベクター構築物は、大腸菌バクテリオファージベクター粒子、例えば、λまたはM13の場合には、感染によって、またはプラスミドベクターについては、もしくはバクテリオファージDNAについては、いくつかの形質転換法のうちいずれかによって、適当な細菌細胞に導入できる。例えば、標準的な塩化カルシウム媒介性細菌形質転換は、裸のDNAを細菌に導入するために未だよく用いられている(サムブロック(Sambrook)ら、1989、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning):ア・ラボラトリー・マニュアル(A Laboratory Manual)、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス(Cold Spring Harbor Laboratory Press)、コールド・スプリング・ハーバー(Cold Spring Harbor)、ニューヨーク州)が、エレクトロポレーションも使用できる(オーズベル(Ausubel)ら、1988、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー(Current Protocols in Molecular Biology)、ジョン・ウィリー・アンド・サンズ社(John Wiley and sons Inc.)、ニューヨーク州、NY))。
【0168】
酵母またはその他の真菌細胞へのベクター構築物の導入には、化学的形質転換法が一般に用いられる(例えば、ローズ(Rose)ら、1990、メソッヅ・イン・イースト・ジェネティクス(Methods in Yeast Genetics)、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス(Cold Spring Harbor Laboratory Press)、コールド・スプリング・ハーバー(Cold Spring Harbor)、ニューヨーク州に記載されるような)。例えば、S.セレビシエ(cerevisiae)の形質転換には、細胞を酢酸リチウムで処理し、およそ10コロニー形成単位(形質転換された細胞)/DNA1μgという形質転換効率を達成する。次いで、形質転換された細胞を、用いる選択マーカーに対して適当な選択培地上で単離する。あるいは、またはさらに、プレートまたはプレートから持ち上げたフィルターを、GFP蛍光についてスキャンし、形質転換されたクローンを同定することもできる。
【0169】
哺乳類細胞への、注目する配列を含むベクターの導入については、用いる方法はベクターの形に応じて変わる。プラスミドベクターは、いくつかのトランスフェクション法、例えば、脂質媒介性トランスフェクション(「リポフェクション」)、DEAE−デキストラン媒介性トランスフェクション、エレクトロポレーションまたはリン酸カルシウム沈殿などのいずれかによって導入できる。これらの方法は、例えば、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー(Current Protocols in Molecular Biology)(オーズベル(Ausubel)ら、1988、ジョン・ウィリー・アンド・サンズ社(John Wiley and sons Inc.)、ニューヨーク州、NY)に詳述されている。
【0170】
多種多様な形質転換された細胞および形質転換されていない細胞または一次細胞の一時的トランスフェクションに適したリポフェクション試薬および方法が広く利用可能であり、このためにリポフェクションは、真核生物、特に哺乳類培養細胞へ構築物を導入する魅力的な方法となっている。例えば、リポフェクトアミン(LipofectAMINE)(商標)(ライフテクノロジーズ(Life Technologies))またはリポタクシ(LipoTaxi)(商標)(ストラタジーン(Stratagene))キットが利用可能である。リポフェクション用の試薬および方法を提供するその他の会社としては、バイオラッドラボラトリーズ(Bio-Rad Laboratories)、クローンテック(CLONTECH)、グレンリサーチ(Glen Research)、インビトロジェン(InVitrogen)、ジェイビーエルサイエンティフィック(JBL Scientific)、エムビーアイファーメンタス(MBI Fermentas)、パンベラ(Pan Vera)、プロメガ(Promega)、カンタムバイオテクノロジーズ(Quantum Biotechnologies)、シグマ−アルドリッチ(Sigma-Aldrich)およびワコーケミカルズユーエスエー(Wako Chemicals USA)が挙げられる。
【0171】
本発明のベクターを用いてトランスフェクションした後、構築物を(染色体内にまたは染色体外に)うまく組み入れている真核生物の(例えば、ヒトの)細胞を、上記に記載したように、トランスフェクトされた集団の、耐性遺伝子がベクターによってコードされている選択物質、例えば、抗生物質での処理によってか、または、例えば、細胞集団のFACSもしくは接着培養の蛍光スキャニングを用いる直接スクリーニングのいずれかによって選択できる。両タイプのスクリーニングを使用できることが多く、これでは、負の選抜を用いて、構築物を取り込んでいる細胞を豊富にし、FACSまたは蛍光スキャニングを用いて、それぞれ、差次的に発現されるポリヌクレオチドを発現する細胞をさらに豊富にするか、細胞の特定のクローンを同定する。例えば、ネオマイシン類似体G418(ライフテクノロジーズ社(Life Technologies, Inc.))を用いる負の選抜を用いて、ベクターを受け取っている細胞を同定でき、蛍光スキャニングを用いて、ベクター構築物を最大程度に発現する細胞または細胞のクローンを同定できる。
【0172】
検出アッセイ
本発明は、コード化された疾患又はその条件に対して、開示されたMSI−Hマーカー(場合によっては、さらなる結腸直腸癌関連マーカーをコードする1種以上の核酸配列、あるいは、MSI−Hポリペプチドマーカーおよび場合によっては、少なくとも1種のさらなる結腸直腸癌関連マーカー)の過剰発現を検出することによって、結腸直腸癌を検出する方法、あるいは、被験体が結腸直腸癌を発症する危険にあるかどうかを調べる方法、あるいは、腫瘍サンプル中のMSI−Hの存在を調べる方法を提供する。
【0173】
臨床適用では、ヒト生体サンプルを、MSI−Hマーカーおよび/または本明細書において同定されるその他の結腸直腸癌関連マーカーの有無および/または過剰発現についてスクリーニングできる。このようなサンプルは、例えば、ニードル生検コア、外科的切除サンプル、リンパ節組織または血清をはじめとする、組織サンプル、全細胞、細胞溶解物または単離された核酸を含み得る。上記の生体サンプルのいずれかまたはすべてを個体から得る方法は、当業者にはよく知られている。
【0174】
核酸分子のスクリーニング
一実施形態では、本発明の検出法は、個体から得た生体サンプルがMSI−HマーカーのDNAおよび/またはmRNAを含むかどうか、好ましくは、個々のMSI−Hマーカー配列が少なくとも2倍過剰発現されているかどうかを調べることを含む。注目する核酸分子の存在を調べるための技術としては、それだけには限らないが、ノーザンブロット解析、逆転写−ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)、in situハイブリダイゼーション、PCRおよび定量的増幅が挙げられる。
【0175】
臨床サンプル中の標的核酸分子の検出の前に、サンプルから核酸(好ましくは、RNA、好ましくはmRNA)をまず単離し、標的配列の検出を容易にすることが好ましい。生体サンプルからRNAを単離する方法は当技術分野ではよく知られており、本明細書に記載される生体サンプルからのRNA抽出には市販のキットを利用できる(例えば、RNイージー(RNeasy)キット、キアゲン(QIAGEN)、カリフォルニア州、バレンシア)。
【0176】
あるいは、市販のRNA単離試薬、例えば、トリゾール(Trizol)(インビトロジェン(Invitrogen)、カリフォルニア州、カールズバッド)を製造業者の使用説明書にしたがって用いて、本発明の臨床サンプルから全RNAを抽出してもよい。RNAの純度および完全性は、260/280nmでの吸光度および1%アガロースゲルでのRNAサンプルの分離とそれに続く紫外線下での観察によって評価する。
【0177】
一実施形態では、RNAを単離した後、当業者に周知の方法にしたがって、RNAを逆転写してcDNAサンプルを提供できる(例えば、オーズベル(Ausubel)ら(1995、ショート・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー(Short Protocols in Molecular Biology.)、第3版、ジョン・ウィリー・アンド・サンズ社(John Wiley and sons Inc.)参照)。
【0178】
したがって、一態様では、本発明は、本明細書に開示される1種以上のMSI−Hマーカー核酸配列と特異的にハイブリダイズするか、または本明細書に記載されるさらなる結腸直腸癌関連マーカーをコードする核酸分子とハイブリダイズできる、プローブおよびプライマーを提供する。したがって、核酸プローブは、配列番号1〜34の配列と実質的に相補的な核酸とハイブリダイズするのに十分な、配列番号1〜34の核酸配列の一領域を含む。プローブ/プライマーとして使用するのに好ましい核酸分子は、配列番号1〜34の配列とハイブリダイズするのに十分な、配列番号1〜34の配列と実質的に相補的な核酸配列の一領域さらに含み得る。さらに、プローブ/プライマーとして有用な核酸配列は、マーカー核酸配列のコード配列の一部と相補的であり、核酸配列が配列番号1〜34またはそれに相補的な配列によって表される、少なくとも約8ヌクレオチドの長さの、少なくとも約12ヌクレオチドの長さの、好ましくは、少なくとも約15ヌクレオチド、より好ましくは、約25ヌクレオチドおよび最も好ましくは、少なくとも40ヌクレオチド、最大、コード配列のすべてまたはほぼすべてのヌクレオチド配列を含む。
【0179】
一実施形態では、本方法は、核酸プローブを用いて、臨床サンプル(例えば、血清サンプルまたはそれから抽出された核酸サンプル)中の1種以上のMSI−Hマーカー核酸分子の存在および過剰発現を調べることを含む。具体的には、本方法は、
1.配列番号1〜34によって表される核酸配列またはそれに相補的な配列のコード配列の一部と相補的である、少なくとも約8ヌクレオチドの長さの、少なくとも約12ヌクレオチドの長さの、好ましくは、少なくとも約15ヌクレオチド、より好ましくは、約25ヌクレオチドおよび最も好ましくは、少なくとも約40ヌクレオチド、最大、コード配列のすべてまたはほぼすべてのヌクレオチド配列を含む核酸プローブを提供することと、
2.MSI−Hマーカー核酸配列を含む可能性がある患者から生体サンプルを得ることと、
3.結腸直腸癌および/またはMSIを有していないことがわかっている個体から第2の臨床サンプルを提供することと、
4.ストリンジェントな条件下で、核酸プローブを、前記の第1および第2の生体サンプル各々のRNAと接触させること(例えば、ノーザンブロットにおいて、またはin situハイブリダイゼーションアッセイにおいて)と、
5.(a)プローブと第1の生体サンプルのRNAとのハイブリダイゼーション量を、(b)プローブと第2の生体サンプルのRNAとのハイブリダイゼーション量と比較し、第2の生体サンプルのRNAとのハイブリダイゼーション量と比較した、第1の臨床サンプルのRNAとのハイブリダイゼーション量の統計的に有意な差異が、第1の生体サンプル中のMSI−Hマーカー配列の存在を示すことと
を含む。
【0180】
あるいは、本発明は、配列番号1〜34によって表される核酸配列、またはそれに相補的な配列から導いたプローブを用いる、MSI−Hマーカー核酸配列のin situハイブリダイゼーション検出を含む、MSI−Hマーカーを検出する方法を提供する。ハイブリダイゼーションプローブは検出可能なように標識されていることが好ましい。本方法は、標識されたハイブリダイゼーションプローブを、結腸直腸癌を有する疑いのある個体から得た組織または細胞サンプルと接触させることと、結合していないプローブを洗い流すことと、検出可能な標識によって生じたシグナルを検出することを含み、検出可能なシグナルの検出がサンプル中のMSI−Hマーカー配列の存在を示し、したがって、結腸直腸癌および/またはMSIの検出を可能にする。あるいは、組織または細胞を、少なくとも1種のさらなる結腸直腸癌関連マーカーをコードする核酸配列と特異的にハイブリダイズできる、検出可能なように標識された核酸プローブとさらにハイブリダイズする。その結果、第2の検出可能なように標識されたプローブは、サンプル中のさらなる結腸直腸癌関連マーカーの存在を示し、MSI−Hマーカー配列の検出と併せて、個体における結腸直腸癌および/またはMSIの検出を可能にする。in situハイブリダイゼーションのための具体的な方法は、当技術分野ではよく知られている。
【0181】
あるいは、PCR、ノーザン解析およびタックマン(Taqman)などの方法を用いて、生体サンプル中のMSI−Hマーカー核酸配列の発現(および過剰発現)を検出および/または定量することができる。一実施形態では、生体サンプルから単離されたMSI−Hマーカー配列の所定の部分と特異的にハイブリダイズするよう設計されたプライマーを用いる逆転写PCR(RT−PCR)を実施する。その結果、このような反応によるPCR産物の生成が、サンプル中のMSI−Hマーカー配列の存在を示す。PCR増幅のためのプライマーを設計する技術は、当技術分野ではよく知られている。オリゴヌクレオチドプライマーおよびプローブは、5〜100ヌクレオチドの長さ、理想的には、17〜40ヌクレオチドであるが、種々の長さのプライマーおよびプローブが用いられる。増幅用プライマーは約17〜25ヌクレオチドであることが好ましい。本発明による有用なプライマーはまた、融解温度推定法によって特定の融解温度(T)を有するよう設計される。オリゴ(Oligo)(商標)(エムビーアイ(MBI)、コロラド州、カスケード(Cascade))をはじめとする市販のプログラム、プライマー3(Primer3)およびオリゴカルキュレーター(Oligo Calculator)をはじめとするインターネットで利用可能なプライマー設計およびプログラムを用いて、本発明による有用な核酸配列のTを算出できる。好ましくは、例えば、オリゴカルキュレーター(Oligo Calculator)によって算出される、本発明による有用な増幅プライマーのTは、約45と65℃の間であることが好ましく、約50と60℃の間がより好ましい。本発明による有用なプローブのTは、対応する増幅プライマーのTよりも7℃高いことが好ましい。RT−PCRによってcDNAを作製した後に、cDNA断片を適当なシークエンシングベクター、例えば、PCRIIベクター(TAクローニングキット;インビトロジェン(Invitrogen))にクローニングすることが好ましい。次いで、双方向で配列決定することによって各クローニングされた断片の同一性を確認する。配列決定から得られる配列は、本明細書に記載されるMSI−Hマーカー配列の既知配列と同一であると予測される。
【0182】
あるいは、MSI−HマーカーmRNA配列の存在は、ノーザン解析によって検出できる。配列が確認されたcDNA、すなわち、本発明のMSI−Hマーカー配列(あるいは、さらなる結腸直腸癌関連マーカー)に相当するcDNAを用い、当技術分野で周知の技術を用いて32P標識cDNAプローブを作製する(例えば、オーズベル(Ausubel)、前掲参照)。ノーザン解析用の標識されたプローブはまた、市販のキット(プライマー−イット(Prime-It)キット、ストラタジーン(Stratagene)、カリフォルニア州、ラ・ホーヤ(La Jolla))を用いて作製することもできる。従来の記載された技術を用いて、臨床サンプルから得た全RNAのノーザン解析を実施できる。例えば、全RNAサンプルをホルムアルデヒド/ホルムアミドを用いて変性し、1%アガロース、MOPS−酢酸塩−EDTAゲルにおいて2時間流す。次いで、上方への毛細血管作用によってRNAをニトロセルロースメンブレンに移し、UV架橋によって固定する。メンブレンを少なくとも90分間プレハイブリダイズさせ、42℃で一晩ハイブリダイズさせる。ハイブリダイゼーション後、当技術分野で公知のように洗浄を実施する(オーズベル(Ausubel)、前掲)。次いで、−80℃で、メンブレンを増感スクリーンとともにX線フィルムに一晩曝露させる。次いで、フィルムに対する曝露の後に、標識したメンブレンを可視化する。次いで、放射標識されたcDNAプローブによってX線フィルム上に生じたシグナルを、当技術分野で公知のいずれかの技術、例えば、フィルムをスキャニングすることと、NIHイメージ(NIH Image)(米国国立衛生研究所(National Institutes of Health)、メリーランド州、ベテスダ(Bethesda))などのコンピュータプログラムを用いて相対ピクセル強度を定量することとを用いて定量でき、これでは、MSI−Hマーカー特異的プローブの、臨床サンプルとのハイブリダイゼーションの検出が、MSI−Hマーカーの存在を示し、したがって結腸直腸癌を検出するために使用できる。
【0183】
代替実施形態では、臨床サンプル中のMSI−Hマーカーの存在、場合によっては、量を、転写物特異的アンチセンスプローブ(すなわち、本明細書に記載されるMSI−Hマーカー配列と特異的にハイブリダイズできるプローブ)を用いて実施する、タックマン(Taqman)(商標)(パーキン−エルマー(Perkin-Elmer)、カリフォルニア州、フォレスターシティー(Forester City))技術を用いて調べることができる。このプローブはMSI−HマーカーPCR産物に特異的であり、クエンチャーとオリゴヌクレオチドの5'末端と複合体形成した蛍光レポータープローブとを用いて調製する。異なる蛍光マーカーを異なるレポーターと結合させることができ、これによって、一反応において2種の産物の測定が可能となる(例えば、2種以上のMSI−Hマーカー配列、あるいは、1種のMSI−Hマーカー配列と少なくとも1種のさらなる結腸直腸癌関連マーカーとの測定)。TaqDNAポリメラーゼは活性化されると、その5’から3’の核酸分解活性によって蛍光レポーターを切断除去する。ここでクエンチャーを含まないレポーターが蛍光を発する。色の変化は、各指定の産物の量に比例し、蛍光光度計によって測定される。したがって、各色の量を測定でき、RT−PCR産物を定量できる。PCR反応は、96ウェルプレートで実施でき、その結果、多数の個体から得たサンプルを同時に処理し、測定できる。タックマン(Taqman)(商標)システムには、ゲル電気泳動を必要としないというさらなる利点があり、標準曲線とともに用いると定量化が可能となる。したがって、タックマン(Taqman)法により、本発明のMSI−Hマーカー配列の発現の定量化が可能となり、このような配列の過剰発現の測定が可能となる。
【0184】
ポリペプチド分子のスクリーニング
当技術分野で公知のいずれかの方法によって、上記のMSI−Hマーカー特異的および結腸直腸癌マーカー特異的抗体を用いて、生体サンプル中の配列番号1〜34によってコードされるMSI−Hマーカーポリペプチドまたはさらなる結腸直腸癌関連マーカーの存在を検出できる。使用できるイムノアッセイとしては、それだけには限らないが、例えば、2、3例を挙げると、ウエスタンブロット、ラジオイムノアッセイ、ELISA(酵素結合免疫吸着検定法)、「サンドイッチ」イムノアッセイ、免疫沈降アッセイ、沈降反応、ゲル拡散法沈降素反応、免疫拡散アッセイ、凝集アッセイ、補体固定化アッセイ、免疫放射線測定法、蛍光イムノアッセイ、タンパク質Aイムノアッセイなどの技術を用いる競合および非競合アッセイ系が挙げられる。このようなアッセイは当技術分野では日常的なものであり、よく知られている(例えば、参照によりその全文が本明細書に組み込まれる、オーズベル(Ausubel)ら編、1994、カレント・プロトコール・イン・モレキュラー・バイオロジー(Current Protocols in Molecular Biology)、第1巻、ジョン・ウィリー・アンド・サンズ社(John Wiley and sons Inc.)、ニューヨーク参照)。例示的イムノアッセイを以下に簡潔に記載する(しかし、制限しようとするものではない)。
【0185】
免疫沈降プロトコールは、通常、リン酸タンパク質および/またはプロテアーゼ阻害剤(例えば、EDTA、PMSF、アプロチニン、バナジン酸ナトリウム)を補給した、RIPAバッファー(1%NP−40またはトリトン(Triton)X−100、1%デオキシコール酸ナトリウム、0.1%SDS、0.15M NaCI、pH7.2の0.01Mリン酸ナトリウム、1%トラシロール(Trasylol))などの溶解バッファー中で細胞集団を溶解することと、細胞溶解物に注目する抗体を加えることと、一定時間(例えば、1〜4時間)の間インキュベートすることと、細胞溶解物にタンパク質Aおよび/またはタンパク質Gセファロースビーズを加えることと、約1時間以上4℃でインキュベートすることと、溶解バッファー中でビーズを洗浄することと、ビーズをSDS/サンプルバッファーに再懸濁することとを含む。しかし、血清サンプルの免疫沈降の場合には、上記のプロトコールを細胞溶解ステップなしで実施する。抗体の、MSI−Hマーカーポリペプチド(またはその他の結腸直腸癌マーカー)抗原を免疫沈降させる能力は、例えば、ウエスタンブロット解析によって評価できる。抗体の抗原との結合を増加させ、バックグラウンドを低減するよう改変できるパラメータ(例えば、セファロースビーズを用いて細胞溶解物をプレクリアすること)は、当業者にはよく知られている(オーズベル(Ausubel)ら、前掲)。
【0186】
ウエスタンブロット解析を用いて、患者の生体サンプル中のMSI−Hマーカーポリペプチドおよび場合によっては、1種以上のさらなる結腸直腸癌関連マーカーを検出できる。簡単には、ウエスタンブロット解析は、タンパク質サンプルを調製することと、ポリアクリルアミドゲル(例えば、8%〜20%SDS−PAGE)においてタンパク質サンプルを電気泳動することと、タンパク質サンプルを、ポリアクリルアミドゲルからニトロセルロース、PVDFまたはナイロンなどのメンブレンにトランスファーすることと、ブロッキング溶液(例えば、3%BSAもしくは脱脂乳を含むPBS)中でメンブレンをブロッキングすることと、洗浄バッファー(例えば、PBS−Tween20)中でメンブレンを洗浄することと、メンブレンを、ブロッキングバッファーで希釈した一次抗体(注目する抗体)でブロッキングすることと、洗浄バッファー中でメンブレンを洗浄することと、メンブレンを、ブロッキングバッファーで希釈した酵素の基質(例えば、ホースラディッシュペルオキシダーゼもしくはアルカリホスファターゼ)または放射性分子(例えば、32Pもしくは125I)と結合している二次抗体(一次抗体、例えば、抗ヒト抗体を認識する)でブロッキングすることと、洗浄バッファー中でメンブレンを洗浄することと、抗原の存在を検出することとを含む。このような解析を最適化する方法は当技術分野ではよく知られている(オーズベル(Ausubel)ら、前掲)。
【0187】
あるいは、臨床サンプル中のMSI−Hマーカーポリペプチドおよび場合によっては、1種以上のさらなる結腸直腸癌関連マーカーの存在は、ELISAによって検出できる。ELISAは、抗原を調製することと、96ウェルマイクロタイタープレート(またはその他の適した容器)のウェルを、抗原でコーティングすることと、検出可能な化合物、例えば、酵素の基質(例えば、ホースラディッシュペルオキシダーゼもしくはアルカリホスファターゼ)と結合している注目する抗体をウェルに加えることと、一定時間インキュベートすることと、抗原の存在を検出することとを含む。ELISAでは、注目する抗体を、検出可能な化合物と結合させなくてもよく、代わりに、検出可能な化合物と結合している二次抗体(注目する抗体、すなわち、MSI−Hマーカーペプチドもしくは第2の結腸直腸癌関連マーカーと結合する抗体を認識する)をウェルに加えることができる。さらに、ウェルを抗原でコーティングする代わりに、ウェルに抗体をコーティングしてもよい。この場合には、コーティングされたウェルに注目する抗原を加えた後に、検出可能な化合物と結合している二次抗体を加えればよい。この方法は、当業者に公知の技術にしたがって改変または最適化できる。
【0188】
抗体の、抗原との結合親和性および抗体/抗原相互作用のオフレイトは、競合結合アッセイによって求めることができる。このようなアッセイの一例として、漸増量の非標識抗原の存在下で、標識した抗原(例えば、3Hもしくは125Iで標識したMSI−Hマーカー配列)を、抗MSI−Hマーカー抗体とともにインキュベートすることと、標識した抗原と結合している抗体を検出することとを含むラジオイムノアッセイがある。注目する抗体の、特定の抗原に対する親和性および結合オフレイトは、スキャッチャードプロット分析によるデータから求めることができる。二次抗体との競合も、ラジオイムノアッセイを用いて調べることができる。この場合には、漸増量の非標識二次抗体の存在下で、抗原を、標識した化合物(例えば、3Hもしくは125I)と結合している注目する抗体とともにインキュベートする。
【0189】
抗体を用いる上記検出アッセイを実施し、配列番号1〜34の配列またはそれに相補的な配列を有する核酸によってコードされるタンパク質産物を検出することが好ましい。タンパク質産物は配列番号35〜68のうち1種以上の配列を有することが好ましい。さらに、上記の検出アッセイは、少なくとも1種のさらなる結腸直腸癌関連マーカーを特異的に認識し、結合する1種以上の抗体を用いて実施できる。したがって、一実施形態では、本アッセイは、試験細胞のタンパク質を、配列番号1〜34によって表される核酸またはそれに相補的な配列の遺伝子産物に特異的な抗体と接触させることと、抗体と試験細胞のタンパク質とによる免疫複合体形成のおよその量を求めることとを含み、このような免疫複合体の検出が抗原の存在を示し、したがって、結腸直腸癌の検出を可能にする。
【0190】
本発明において有用なイムノアッセイとしては、上記のものが挙げられ、また、同種の手順および異種手順のどちらも、例えば、蛍光偏光イムノアッセイ(FPIA)、蛍光イムノアッセイ(FIA)、酵素イムノアッセイ(EIA)および比濁分析阻害イムノアッセイ(NIA)も含めることができる。
【0191】
もう1つの実施形態では、患者の生体液(例えば、血液または尿)中の、コードされる産物、すなわち、配列番号1〜34またはそれに相補的な配列によってコードされる産物のレベルを、その患者の細胞におけるマーカー核酸配列の発現のレベルをモニターする一手段として調べることができる。このような方法は、患者から生体液のサンプルを得るステップと、サンプル(またはサンプルから得たタンパク質)をコードされるマーカーポリペプチドに特異的な抗体と接触させるステップと、抗体による免疫複合体形成量を調べるステップとを含み、免疫複合体形成量がサンプル中のマーカーによってコードされる産物のレベルを示す。この測定は、正常個体から採取した対照サンプル中の、または同一人物から以前にもしくは後に得た1種以上のサンプル中の同一抗体による免疫複合体形成量に対して比較する場合に、特に有益である。
【0192】
もう1つの実施形態では、本方法を用いて、細胞中に存在するマーカーポリペプチドの量を調べることができ、次いで、これを過剰増殖性障害、例えば、結腸直腸癌の進行と関連付けることができる。マーカーポリペプチドのレベルを、細胞のサンプルが形質転換された細胞である細胞または形質転換された細胞になりやすい細胞を含むかどうかを評価するために予測的に用いることができる。さらに、本方法を用いて、形質転換されているとわかっている細胞の表現型を評価でき、表現型結果は、個々の治療計画を立てる際に有用である。例えば、サンプル細胞における極めて高レベルのマーカーポリペプチドは、癌、例えば、結腸直腸癌の強力な診断および予後マーカーである。マーカーポリペプチドレベルの観察結果を、例えば、より積極的な治療の使用に関する決定に利用できる。
【0193】
上記で示したように、本発明の一態様は、患者から単離した細胞との関連では、サンプル細胞においてマーカーポリペプチドのレベルが有意に低減されるかどうかを調べる検出アッセイに関する。用語「有意に低減された」とは、同様の組織起源の正常細胞と比較して、細胞が低減した細胞量のマーカーポリペプチドを有する細胞表現型を指す。例えば、細胞は、正常対照細胞の約50%、25%、10%または5%未満のマーカーポリペプチドを有し得る。詳しくは、アッセイは試験細胞中のマーカーポリペプチドのレベルを評価し、好ましくは、測定されたレベルを、少なくとも1種の対照細胞、例えば、正常細胞および/または既知の表現型の形質転換された細胞において検出されたマーカーポリペプチドと比較する。
【0194】
本発明の特に重要なことは、正常または異常なMSI−Hマーカー発現のレベルを定量する能力である。MSI−Hマーカーの発現、および/またはMSI−Hマーカーの発現レベルを、患者が結腸直腸癌を発症しやすいかどうかを評価するために、または結腸直腸癌の重篤度を調べるために、またはマイクロサテライト不安定性を有する腫瘍の存在を調べるために予測的に用いることができる。
【0195】
一実施形態では、組織サンプルを用い、所与のMSI−Hマーカーポリペプチドを発現する細胞(すなわち、結腸細胞)の数を調べるために使用できる免疫組織化学染色によってMSI−Hマーカーペプチド発現を測定できる。このような染色には、組織のマルチブロックを生検またはその他の組織サンプルから採取し、プロテアーゼKまたはペプシンのような薬剤を用いるタンパク質分解性加水分解に付す。特定の実施形態では、サンプル細胞から核画分を単離し、核画分においてマーカーポリペプチドのレベルを検出することが望ましい場合がある。
【0196】
組織サンプルを、ホルマリン、グルタルアルデヒド、メタノールなどといった試薬で処理することによって固定する。次いで、サンプルを、所与のMSI−Hマーカーポリペプチド(または複数のMSI−Hマーカーポリペプチド)および場合によっては、さらなる結腸直腸癌関連マーカーに対する結合特異性を有する抗体、好ましくは、モノクローナル抗体とともにインキュベートする。この抗体には、その後の結合の検出のために標識を結合させることができる。サンプルを、免疫複合体を形成するのに十分な時間インキュベートする。次いで、抗体の結合を、この抗体と結合している標識によって検出する。抗体を標識していない場合は、例えば、抗マーカーポリペプチド抗体のアイソタイプに特異的である二次標識抗体を使用することができる。使用できる標識の例としては、放射性核種、フルオロフォア、化学発光標識、酵素などが挙げられる。
【0197】
酵素を用いる場合には、酵素の基質をサンプルに加え、着色された生成物または蛍光生成物を提供することができる。コンジュゲートにおいて使用するのに適した酵素の例としては、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、リンゴ酸デヒドロゲナーゼなどが挙げられる。市販にない場合には、このような抗体−酵素コンジュゲートは、当業者に公知の技術によって容易に作製できる。サンプル(血清または組織のいずれか)中のポリペプチドの存在および/または量を調べるための当業者に公知のその他のアッセイもまた、本発明に包含される。
【0198】
癌の予後、ステージングおよびモニタリング
一態様では、本発明は、本発明に記載の方法を用いるMSI−Hマーカー配列およびポリペプチドの発現レベルの調査に基づいて癌予後およびステージを調べる方法を提供する。マーカー配列の発現レベルを調べることによって以外の技術を用いて被験体において癌が検出される場合には、MSI−Hマーカー配列の差次的発現レベルを用いて被験体の予後およびステージを調べることができる。本明細書において、予後とは、あり得る疾患の経過および転帰の予想を指す。
【0199】
当技術分野では、結腸直腸癌腫瘍のMSI状態によって、臨床転帰および生存、ならびに特定の療法に対する患者の応答を予測できるということが一般に認められている。例えば、5−フルオロウラシル(flurouracil)/レバミソールおよびフルオロピリミジンベースの化学療法後に、MSI−H結腸腫瘍を患う患者は、MSSまたはMSI−L結腸直腸癌腫瘍を有する患者と比較して、高い生存率を有することがわかっており(エラレ(Elaleh)ら、2000オンコロジー(Oncology)58、52頁;エルサレイ(Elsaley)およびラコペッタ(Iacopetta)、2001、クリニカル・コロレクタル・キャンサー(Clinical Colorectal Cancer)1、104頁)、また、全般的に、結腸直腸腫瘍のMSI−H状態は、化学的介入に対する、このような腫瘍のより高い感受性を示し得る(例えば、リャン(Liang)ら、2002、インターナショナル・ジャーナル・オブ・キャンサー(International Journal of Cancer)101、519頁参照)。さらに、MSI−H結腸直腸腫瘍は、MSSまたはMSI−L腫瘍と比較した全生存の改善と関連しており(グリフェ(Gryfe)ら、2000、ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(New England Journal of Medicine)342、69頁;ワード(Ward)ら、2001、ガット(Gut)48、821頁)、また、初期の結腸直腸癌と関連している(キム(Kim)ら、1994、アメリカン・ジャーナル・オブ・パソロジー(American Journal of Pathology)145、148頁;ガファ(Gafa)ら、2000、キャンサー(Cancer)89、2025頁;ジェーンバル(Jernvall)ら、1999、ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・キャンサー(European Journal of Cancer)35、197頁)。したがって、本明細書に記載されるMSI−Hマーカー配列の過剰発現を用いて調べられる、結腸直腸腫瘍のMSI−H状態を予後指標として使用でき、また、これを用いて所与の患者の治療計画を設計または選択でき、また、これを用いて結腸直腸癌をステージングできる。
【0200】
概して、癌の予後またはステージに用いる方法は、注目するサンプル中のMSI−Hマーカー配列の量を、対照のものと比較して、MSI−Hマーカー配列の発現の相対的差異を検出することを含み、これでは、差異は定質的におよび/または定量的に測定できる。例えば、1種以上のMSI−HマーカーRNAまたはポリペプチドの発現レベルは、癌を含まないサンプルまたは正常サンプル中の同一MSI−HマーカーRNAまたはポリペプチドの発現レベルと比較できる。あるいは、1種以上のMSI−HマーカーRNAまたはポリペプチドの発現レベルはまた、進行しないことがわかっている癌において観察される同一MSI−HマーカーRNAまたはポリペプチドの発現レベルと比較できる。さらに、1種以上のMSI−HマーカーRNAまたはポリペプチドの発現レベルはまた、進行および/または転移することがわかっている癌において観察される同一MSI−HマーカーRNAまたはポリペプチドの発現レベルと比較できる。
【0201】
また、本明細書において、癌ステージとは、癌が発現し、症状を引き起こす一連の事象を指す。さらに、ステージングとは、患者において癌状態がどのように進行しているかを説明するために用いられる過程である。ステージングシステムは、癌の種類によって異なるが、一般に、以下の「TNM」システムを含む:Tによって示される腫瘍の種類、Nによって示される、癌が近くのリンパ節に転移しているかどうか、Mによって示される、癌が身体のより離れた部分に転移しているかどうか。一般に、癌が、いずれのリンパ節にも広がっておらず、一次病巣の領域のみで検出可能である場合には、ステージIと呼ばれる。最も近いリンパ節にのみ広がっている場合には、ステージIIと呼ばれる。ステージIIIでは、通常、癌は一次病巣の部位に近接するリンパ節に広がっている。肝臓、骨、脳またはその他の部位などの身体の離れた部分に広がった癌はステージIVであり、最も進行したステージである。本発明の方法は、癌のステージングをアッセイするのに有用である。癌のステージングは、1種以上のMSI−Hマーカー核酸またはポリペプチドの発現レベルを、同一MSI−Hマーカー核酸またはポリペプチドの参照発現レベルに対して調べることによって達成できる。マーカーRNAまたはポリペプチドの参照発現レベルは、癌のないまたは健常なまたは癌サンプルから得たものであり得、これでは、癌は異なる進行ステージのものであってもよいし、あるいは、腫瘍によって浸潤されていない、結腸に隣接する部分に由来するものであってもよい。
【0202】
本発明は、MSI−Hマーカー核酸またはポリペプチドの発現レベルを経時的に測定することによる、癌の進行または再発をモニターする方法をさらに提供する。一実施形態では、本方法は
(1)第1の時点で、被験体の生体サンプルにおいて、配列番号1〜34からなる群から選択される1種以上の核酸配列を含む1種以上の核酸配列の発現を検出することと、
(2)その後の時点で、ステップ(a)を反復することと、
(3)ステップ(a)および(b)において検出された発現レベルを比較することとを含み、発現レベルの変化が、被験体における癌またはその前癌性状態の進行を示す。
【0203】
もう1つの実施形態では、本方法は、
(1)第1の時点で、被験体の生体サンプルにおいて、配列番号35〜68からなる群から選択される1種以上のポリペプチド配列を含む1種以上のポリペプチドの発現を検出することと、
(2)後の時点で、ステップ(a)を反復することと、
(3)ステップ(a)および(b)において検出された発現レベルを比較することとを含み、発現レベルの変化が、被験体における癌またはその前癌性状態の進行を示す。
【0204】
例えば、より早い時点と比較して、後の時点での1種以上の過剰発現されるMSI−Hマーカーヌクレオチドまたはポリペプチドの発現レベルの上昇、または1種以上の過少発現されるMSI−Hマーカーヌクレオチドまたはポリペプチドの発現レベルの低下は、癌がより重篤なステージに進行していることを示す。一方では、より早い時点と比較して、後の時点での1種以上の過剰発現されるMSI−Hマーカーヌクレオチドまたはポリペプチドの発現レベルの低下、または1種以上の過少発現されるMSI−Hマーカーヌクレオチドまたはポリペプチドの発現レベルの上昇は、癌が進行していないか、ゆっくりと進行していることを示す。
【0205】
癌の予後、ステージングおよびモニタリングにおいて用いられる方法は、種々の種類の癌に適用できる。癌の例としては、それだけには限らないが、腺癌、リンパ腫、芽細胞腫、黒色腫、肉腫および白血病が挙げられる。より詳しくは、癌の例としてはまた、扁平上皮癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、胃腸癌、ホジキンおよび非ホジキンリンパ腫、膵臓癌、膠芽腫、子宮頸癌、卵巣癌、肝細胞癌および肝細胞腫などの肝臓癌、膀胱癌、乳癌、結腸癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌、唾液腺癌、腎細胞癌およびウィルムス腫瘍などの腎臓癌、基底細胞癌、黒色腫、前立腺癌、外陰癌、甲状腺癌、精巣癌、食道癌および種々の種類の頭頸部癌が挙げられる。好ましくは、癌として乳癌、結腸癌および肺癌が挙げられる。癌が結腸癌であり、MSI−Hマーカー配列が、配列番号1〜34からなる群から選択される核酸配列を含むものであることがより好ましい。
【0206】
療法および治療用組成物の有効性
MSI状態により、当業者が治療戦略に関する決定を行うことが可能となるので、一態様では、本発明はまた、癌、特に、結腸癌のための従来的および非従来的な治療および療法の双方から利益を得そうである患者の評価および/またはモニタリングを可能にする方法を提供する。したがって、本発明は、癌患者を治療するための、単独で用いられる抗癌治療および療法、互いに組み合わせた抗癌治療および療法ならびに/または抗癌薬、抗腫瘍剤、化学療法および/もしくは放射線療法および/もしくは手術と組み合わせた抗癌治療および療法を受けている患者を試験することと、スクリーニングすることと、モニタリングすることとを包含する。
【0207】
本発明の利点は、1種またはいくつかの利用可能な癌療法から利益を受けることができる患者を長期間モニターまたはスクリーニングする能力、また好ましくは、個々の種類の療法または併用療法を受けている患者を長期間モニターし、患者が治療からどのようにうまくやっているか、治療の変化、変更または中止に値するかどうか、患者の疾患が減少しているか、寛解しているか、和らいでいるかどうか、あるいは、患者の疾患状態またはステージが進行しているか、または転移性もしくは浸潤性になっているかどうかを調べる能力である。本明細書に包含される癌治療はまた、患者において、腫瘍または腫瘍量を除去するか腫瘍または腫瘍量の大きさを減少させるための手術も含む。したがって、本発明の方法は、術後の患者の進行および疾患状態をモニターするために有用である。
【0208】
本発明による癌療法についての正確な患者の同定によって、治療の有効性の増大を提供することができ、患者が、療法の、不要の、命にかかわる副作用を受けるのを避けることができる。同様に、本明細書においてさらに論じられるように、本発明の方法を用いる療法経過を受けている患者をモニターする能力によって、患者が長期にわたって療法に対して十分に応答しているかどうかを調べること、投与量または送達量または送達様式を変更または調整しなくてはならないかどうかを決定すること、患者が療法の間に改善されている、または逆行している、または浸潤もしくは転移を含む、疾患のより重篤なもしくは進行したステージに入っているかどうかを確認することができる。
【0209】
本発明によるモニターする方法は、長時間にわたって、例えば、治療または療法経過の間、または患者の疾患の経過の間、患者の体液サンプルを試験または分析することによる、癌患者の連続または逐次試験または分析を反映するものである。例えば、連続試験では、本発明の方法にしたがって、治療の経過の間および/または疾患の経過の間、1種以上のこれらのMSI−Hマーカーのレベルを測定することによって、患者において、本発明の1種以上のMSI−Hマーカー(DNA、RNAまたはポリペプチド)の発現レベルを観察、調査または検査する目的で、同一患者が、体液サンプル、例えば、血清または血漿を提供するか、同一患者がサンプルを採取される。
【0210】
同様に、患者を経時的にスクリーニングして、その疾患の状態および/または受けている癌もしくは新生物性疾患治療もしくは療法の有効性、それに対する反応および応答を調べる目的で、生体サンプル中の1種以上のMSI−Hマーカーのレベルを評価することができる。当然のことではあるが、患者が治療を受けている間ならびに臨床評価および医学的評価を受けている間の1以上の後の時点での、患者の進行および/または応答の分析および評価を補助するために、治療もしくは療法の経過の前に、または治療もしくは療法の開始時に、1種以上の治療前サンプルを患者から採取することが最適である。
【0211】
患者の本発明の1種以上のMSI−Hマーカーのレベルの、数日、数週間、数ヵ月、時には数年またはその種々の間隔であり得る長期にわたるモニタリングでは、治療または疾患の経過にわたって、癌患者における1種以上のMSI−Hマーカーのレベルを、正常個体における1種以上のこれらの分析物の各レベルと比較して調べるために、患者の体液サンプル、例えば、血清または血漿サンプルを、医師または臨床医などの開業医によって決められる間隔で採取する。例えば、本発明によれば、患者サンプルを、1ヶ月毎、2ヶ月毎、または1、2もしくは3ヶ月間隔を組み合わせて採取し、モニターすることができる。年4回またはそれより高頻度で患者サンプルをモニターすることが望ましい。
【0212】
患者において見られる1種以上のMSI−Hマーカーのレベルを、正常個体における1種以上のこれらのマーカーの各レベルと、また、例えば、試験期間前に得た患者自身のMSI−Hマーカーレベルと比較し、治療または疾患進行または転帰を調べる。したがって、経時的にモニターされた患者自身のMSI−Hマーカーレベルの使用により、比較目的で、マーカーレベル、ひいては、癌の存在および/または進行を長期間モニターするための内部人物対照として患者自身の値を提供できる。本明細書に記載されるように、治療または疾患の経過の後、長期にわたる、癌患者における1種以上のMSI−Hマーカーレベルの、正常個体における1種以上のこれらのMSI−Hマーカーの各レベルと比較した上昇または低下の測定は、患者の癌療法または治療の経過または転帰における、患者の癌の重篤度もしくはステージ、または進行もしくは進行がないことを調べる能力を反映するものである。
【0213】
癌患者におけるMSI−Hマーカーのレベルの上昇または低下は、正常対照範囲の発現レベルと比較して癌患者サンプルを分析することから得られた値を比較することによって求める。MSI−Hマーカーは、マーカーの発現が、正常対照と比較して、癌患者おいて少なくとも2倍大きい場合に過剰発現されるといわれ、またMSI−Hマーカーは、マーカーの発現が、癌患者においてと比較して、正常対照において少なくとも2倍大きい場合に過少発現されるといわれる。
【0214】
長期にわたる患者のモニタリングでは、1種以上の患者のMSI−Hマーカーレベルの、正常範囲の値と比較して上昇したレベル(すなわち、少なくとも2倍過剰発現された)から、正常個体において見られる分析物のレベルのまたは分析物のレベル付近のレベルへのレベルの低下は、治療の進行もしくは有効性および/または疾患の改善、寛解、腫瘍の減少または排除などを示す。同様に、本発明の実施形態において記載されるすべての方法において、上昇した(すなわち、少なくとも2倍過剰発現された)レベルから、正常個体において見られる1種以上のこれらの分析物の各レベルへ、またはその前後への、1種以上の患者のMSI−Hマーカーレベルの低下を調べることは、本発明の実施後の、患者の改善、回復もしくは寛解および/または治療の進行もしくは有効性が長期にわたって確認され得る、本方法の方法のさらなる態様を提供する。
【0215】
本発明のもう1つの実施形態は、癌患者の疾患の経過、または癌患者の治療もしくは療法の有効性をモニターする方法を包含する。患者の治療もしくは療法としては、従来的な治療、例えば、ホルモン療法、化学療法薬療法、放射線療法または新規療法または前記のもののいずれかの組合わせが挙げられる。本方法は、疾患または癌治療の経過の間、癌患者の体液サンプル中の1種以上のMSI−Hマーカーのレベルを測定することと、患者のサンプル中の1種以上のマーカーのレベルが、正常対照中の1種以上のこれらの分析物の各レベルと比較して少なくとも2倍変化しているかどうかを調べることを含む。本方法によれば、癌患者におけるMSI−Hマーカーのレベルの、正常対照におけるMSI−Hマーカーの各レベルと比較した変化は、患者の癌のステージ、グレード、重篤度または進行の変化および/または治療の経過の間に患者に提供される、癌治療もしくは療法の有効性もしくは利益の欠如、例えば、不十分な治療または臨床転帰を示す。
【0216】
当技術分野の熟練した開業医には理解されるであろうが、本発明によるモニタリング法は、疾患または疾患治療計画の経過の間に(例えば、数日、数週間、数ヵ月または場合によっては、数年後または種々の複数のこれらの間隔の後に)患者から採取したサンプルを用いて連続または逐次様式で実施し、疾患の進行もしくは転帰、および/または治療の有効性または転帰を調べることが可能となることが好ましい。サンプルが凍結または冷蔵保存を受け入れられる場合には、サンプルを患者(または正常個体)から採取し、分析の前に一定期間保存することができる。
【0217】
もう1つの実施形態では、本発明は、分析されるサンプル中の本発明の1種以上のマーカーのレベルの測定と併せて、1種以上のさらなる癌マーカーの量またはレベルの測定を包含する。
【0218】
本発明はまた、癌、例えば、結腸癌を阻害する試験組成物の有効性を評価する方法を含む。上記のように、本発明のMSI−Hマーカー配列の差次的発現レベルは、癌細胞、特に結腸癌細胞の癌性状態と相関関係がある。本発明のMSI−Hマーカー配列の発現レベルの変化は、細胞の癌性状態に起因し得るか、または細胞の癌性状態を誘導し得ると認識されている。したがって、患者において癌を阻害する組成物は、MSI−Hマーカー配列の発現レベルを、マーカー配列の正常発現レベル付近のレベルに変化させる。したがって、本方法は、試験組成物の存在下で維持された第1の生体サンプル中の1種以上のMSI−Hマーカー配列の発現レベルを、試験組成物の不在下で維持された第2の生体サンプル中の同一MSI−Hマーカー配列のものと比較することを含む。1種以上のマーカー配列の発現レベルの有意な差異は、試験組成物が癌を阻害するという指標である。好ましい実施形態では、癌は結腸癌であり、MSI−Hマーカー配列は配列番号1〜34および/または35〜68に列挙されるものである。もう1つの実施形態では、細胞サンプルは、健常被験体または癌状態の患者のいずれかから得られた単一サンプルのアリコートであり得る。
【0219】
マーカー配列のモジュレーター
MSI−Hマーカー配列の発現レベルの変化は、細胞の癌性状態を誘導、維持および促進する可能性があると認識されている。したがって、本発明のもう1つの態様は、細胞の分化および増殖を調節できるMSI−Hマーカー配列のモジュレーターを対象とする。この関連で、本発明は、マーカー配列の発現を調節する化合物を調べるアッセイを提供する。MSI−Hマーカー配列によってコードされるポリペプチドまたはMSI−Hマーカー配列自体の生物活性を調節するために、本化合物を使用できる。化合物はまた、種々の異なる環境において、例えば、癌と関連する障害を治療または予防する医薬として有用であり得る。
【0220】
化合物を同定する方法は、通常、化合物をMSI−Hマーカー配列、その転写産物、その翻訳産物またはその他の標的と接触させるステップと、化合物がマーカー配列を調節するかどうかを調べるステップとを含む。MSI−Hマーカー配列の発現を調節するには、方法は、以下のステップ、例えば、マーカー配列(例えば、細胞集団中の)を、試験化合物と、前記試験化合物がマーカー配列の発現を調節するのに有効な条件下で接触させるステップと、前記試験物質が前記配列を調節するかどうかを調べるステップのうち1以上をいずれかの有効な順序で含み得る。化合物は、細胞において配列の発現をいずれかのレベル、例えば、転写(例えば、プロモーターを調節することによる)、翻訳および/または核酸の維持(例えば、分解、安定性など)で調節できる。
【0221】
ポリペプチドの生物活性を調節するには、方法は、以下のステップ、例えば、ポリペプチド(例えば、細胞、溶解物中の、または単離された)を、試験化合物と、前記試験物質が前記ポリペプチドの生物活性を調節するのに有効な条件下で接触させるステップと、前記試験化合物が前記生物活性を調節するかどうかを調べるステップのうち1以上をいずれかの有効な順序で含み得る。
【0222】
ポリヌクレオチドまたはポリペプチドを、試験化合物と接触させることは、化合物を、サンプルにおいて遺伝子またはその産物の発現または生物活性を機能的に制御する位置におく、いずれかの適した方法および/または手段によって達成できる。機能的制御とは、どんな機構が働こうとも、化合物がその生理学的作用を発揮し得ること示す。方法および/または手段の選択は、化合物の性質ならびに遺伝子またはその産物が提示される環境の状態および種類、例えば、溶解物、単離された、または細胞集団中の(例えば、in vivo、in vitro、組織移植片など)に応じて変わり得る。例えば、細胞集団がin vitro細胞培養物である場合には、化合物を培養培地に直接添加することによって化合物を細胞と接触させることができる。化合物が水性培地に容易には溶解できない場合には、リポソームまたは別の脂溶性担体に組み込み、次いで、細胞培養物に投与することができる。接触は、担体を用いて化合物を組み込むことによって容易になり得、注射によって、注入によってなどで、分子および複合体を送達する。
【0223】
遺伝子または遺伝子産物(例えば、DNA、mRNAおよびポリペプチドをはじめとするMSI−Hマーカー)に接近できる方法で物質を投与した後、試験化合物がその発現または生物活性を調節するかどうかを調べることができる。調節は、質または量、例えば、増加する、促進する、増強する、アップレギュレートする、刺激する、活性化する、増幅する、増大する、誘導する、低減する、ダウンレギュレートする、減少する、和らげる、減少させるなど、どのような種類のものでもあり得る。また、調節量は、例えば、1%、5%、10%、50%、75%、1倍、2倍、5倍、10倍、100倍など、どんな値も包含し得る。遺伝子発現を調節することとは、例えば、試験化合物が、例えば、転写の量を達成するために、RNAスプライシングを達成するために、RNAのポリペプチドへの翻訳を達成するために、RNAまたはポリペプチド安定性を達成するために、ポリアデニル化またはその他のRNAのプロセシングを達成するために、転写後または翻訳後プロセシング達成するためになど、その発現に対してある作用を有することを意味する。生物活性を調節することとは、例えば、ポリペプチドの機能活性が、化合物の不在下のその正常活性と比較して変更されること意味する。この作用としては、増加する、減少する、ブロックする、阻害する、増強するなどが挙げられる。
【0224】
試験化合物は、例えば、化学化合物、生体分子、例えば、ポリペプチド、脂質、核酸(例えば、ポリヌクレオチドのアンチセンス)炭水化物、抗体、リボザイム、二本鎖RNA、アプタマーなど、どんな分子組成のものであってもよい。例えば、調節されるMSI−Hマーカーポリペプチドが細胞表面分子である場合は、試験化合物はそれを特異的に認識し、例えば、ポリペプチドをインターナライズさせ、細胞の表面でのそのダウンレギュレーションを導く抗体であり得る。このような作用は、永久的でなくともよいが、ダウンレギュレーション作用を継続するには抗体の存在を必要とする場合がある。また、抗体を用いて、溶解物中またはその他の細胞を含まない形のポリペプチドの生物活性を調節できる。
【0225】
薬物スクリーニング
MSI−Hマーカー核酸(配列番号1〜34またはそれに相補的な配列)の発現を調節する、および/またはコードされるポリペプチド(例えば、配列番号35〜68)の生物活性を変更、例えば、阻害する化合物を同定するには、いくつかのin vivo法を使用できる。
【0226】
薬物スクリーニングは、細胞のサンプルに試験化合物を添加し、作用をモニターすることによって実施する。試験化合物を与えない平行サンプルも対照としてモニターする。次いで、処理および未処理細胞を、それだけには限らないが、顕微鏡分析、生存力試験、複製能力、組織学的検査、細胞と関連している特定のRNAまたはポリペプチドのレベル、細胞または細胞溶解物によって発現される酵素活性のレベルおよび細胞の、その他の細胞または化合物と相互作用する細胞の能力をはじめ、いずれかの適した表現型判定基準によって比較する。処理および未処理細胞間の差異は、試験化合物に起因する作用を示す。
【0227】
試験化合物の望ましい作用としては、癌関連マーカー核酸配列によって付与される、いずれかの表現型に対する作用が挙げられる。例として、mRNAの過剰を制限し、コードされるタンパク質の産生を制限するか、タンパク質の機能的作用を制限する試験化合物が挙げられる。試験化合物の作用は、処理および未処理細胞間の結果を比較すると明らかである。
【0228】
したがって、本発明は、MSI−Hマーカー核酸mRNAが検出可能である細胞もしくは組織、またはMSI−Hマーカー核酸を含み、MSI−Hマーカー核酸を発現できる培養細胞のいずれかを、物質がmRNAの産生を阻害できるかどうかを調べるために、物質に曝露することと、曝露された細胞又は組織中のmRNAのレベルを調べることとを含み、細胞株を物質に曝露した後のmRNAレベルの低下がマーカー核酸mRNA産生の阻害を示す、in vitroでMSI−Hマーカー核酸(配列番号1〜34またはそれに相補的な配列)の発現を阻害する物質をスクリーニングする方法を包含する。
【0229】
あるいは、スクリーニング法は、MSI−Hマーカー核酸の発現および/またはMSI−Hマーカータンパク質の産生を阻害するとみられる物質に対する、MSI−Hマーカー核酸が過剰発現されているか、ポリペプチドが検出可能である細胞もしくは組織、またはMSI−Hマーカーを発現するか、もしくはMSI−Hマーカー核酸が過剰発現される培養細胞のin vitroスクリーニングと、細胞または組織においてMSI−Hマーカーポリヌクレオチドまたはポリペプチドのレベルを調べることとを含む場合があり、細胞または組織を物質に曝露した後のマーカーポリヌクレオチドまたはポリペプチドのレベルの低下が、マーカータンパク質産生またはマーカーポリペプチド発現の阻害を示す。
【0230】
本発明はまた、MSI−HマーカーmRNAまたはタンパク質が検出可能である腫瘍細胞または血清を有する哺乳類を、マーカーmRNAまたはタンパク質の産生を阻害するとみられる物質に曝露することと、曝露された哺乳類の血清または腫瘍細胞中のマーカーmRNAまたはタンパク質のレベルを調べることとを含む、マーカー核酸の発現を阻害する物質をin vivoスクリーニングする方法を包含する。哺乳類を物質に曝露した後のマーカーmRNAまたはタンパク質のレベルの低下は、マーカー核酸発現の阻害を示す。場合によっては、少なくとも1種のさらなる結腸直腸癌関連マーカーの発現に対する候補物質の作用も調べることができる。
【0231】
したがって、本発明は、マーカー核酸(配列番号1〜34またはそれに相補的な配列)を発現する細胞を試験化合物とともにインキュベートすることと、DNA、mRNAまたはタンパク質レベルを測定することとを含む方法を提供する。本発明は、細胞集団または生体サンプル中のマーカー核酸の発現のレベルを定量的に調べる方法および物質が、細胞集団または生体サンプル中のMSI−Hマーカー核酸の発現のレベルを上昇または低下させることができるかどうかを調べる方法をさらに提供する。一実施形態では、物質が、細胞集団においてMSI−Hマーカー核酸の発現のレベルを上昇または低下させることができるかどうかを調べる方法は、(a)対照および物質処理細胞集団から細胞抽出物を調製するステップと、(b)細胞抽出物からMSI−Hマーカーポリペプチドを単離するステップと、(c)MSI−Hマーカーポリペプチドと、前記ポリペプチドに特異的な抗体の間で形成される免疫複合体の量を定量する(例えば、平行して)ステップとを含む。本発明のMSI−Hマーカーポリペプチドはまた、その生物活性についてアッセイすることによって定量できる。MSI−Hマーカー核酸発現の増加を誘導する物質は、処理細胞において形成される免疫複合体の量を、対照細胞において形成される免疫複合体の量と比較して増加させるその能力によって同定できる。同様に、MSI−Hマーカー核酸の発現を減少させる物質は、処理細胞抽出物において形成される免疫複合体の量を、対照細胞と比較して減少させるその能力によって同定できる。
【0232】
mRNAレベルは、ノーザンブロットハイブリダイゼーションによって調べることができる。mRNAレベルはまた、PCRを含む方法によって調べることができる。ハイスループットアッセイにおいて使用できる、mRNAを測定するためのその他の高感度法、例えば、DELFIAエンドポイント検出および定量法を用いる方法が、例えば、ウェブ(Webb)およびハースカイネン(Hurskainen)(1996)ジャーナル・オブ・バイオモレキュラー・スクリーニング(Journal of Biomolecular Screening)1、119頁に記載されている。MSI−Hマーカータンパク質レベルは、配列番号35〜68のタンパク質産物を特異的に認識する抗体を用いる免疫沈降または免疫組織化学によって調べることができる。
【0233】
薬物スクリーニングアッセイにおいて活性と同定される物質は、細胞増殖活性をブロックする能力について試験される候補である。これらの物質は、細胞、特に、結腸細胞の異常増殖、特に、結腸直腸癌を含む障害の治療にとって有用であろう。
【0234】
種々のアッセイフォーマットは、本開示内容に照らして十分であるが、それにもかかわらず、本明細書においてはっきりと記載されていないものも当業者によって理解される。例えば、アッセイは多数の異なるフォーマットで作製することができ、細胞を含まない系、例えば、精製されたタンパク質または細胞溶解物に基づくアッセイ、ならびに無傷の細胞を利用する細胞に基づくアッセイを含む。
【0235】
化合物および天然抽出物のライブラリーを調べる多数の薬物スクリーニングプログラムでは、所与の期間に調査される化合物数を最大にするにはハイスループットアッセイが望ましい。例えば、精製または半精製タンパク質を用いて、または溶解物を用いて、または血清から精製もしくは半精製されたタンパク質を用いて導くことができる、細胞を含まない系で実施される本発明のアッセイは、試験化合物によって媒介される分子標的の変更の迅速な進行および比較的容易な検出を可能にするよう作製できるという点で「一次」スクリーニングとして好ましいことが多い。さらに、in vitro系では、試験化合物の細胞毒性の作用および/またはバイオアベイラビリティの作用は通常無視でき、代わりに、アッセイは、主に、その他のタンパク質との結合親和性の変化または分子標的の酵素特性の変化に現れ得るような、分子標的に対する薬物の作用に焦点が合わされている。
実施例
【実施例1】
【0236】
差次的に発現される配列の同定
34対の結腸直腸癌組織および対応正常隣接組織の十分に特性決定された、顕微解剖サンプルを、同意している患者から得た。各サンプルについて、結腸中の位置、疾患のステージおよびマイクロサテライト状態を調べた。RNイージー(RNeasy)キット(キアゲン(QIAGEN)、カリフォルニア州、バレンシア)を製造業者の使用説明書にしたがって用いてサンプルから全RNAを抽出した。各精製RNAサンプルを、アガロースゲルで質について視覚的に検査し、リボグリーン(RiboGreen)(登録商標)アッセイ(モレキュラー・プローブス(Molecular Probes)、オレゴン州、ユージーン)を用いて定量した。
【0237】
差次的に発現される遺伝子を同定するために、特注の、高密度ナイロンメンブレンアレイで発現プロファイリングを実施した。バイオグリッド(BioGrid)ロボットアレイヤー(ジェノミック・ソリューションズ社(Genomic Solutions Inc.)、ミシガン州、アナーバー)を用いて、ナイトラン(Nytran)(登録商標)スーパーチャージ(SuperCharge)ナイロンメンブレン(シュライヒャー&シェルバイオサイエンス社(Schleicher & Schuell BioScience, Inc.)、ニューハンプシャー州、キーン)上に配列を確認したPCR産物をスポットすることによってアレイを作製した。これらのアレイには13,000個を上回るクローンを含み、これは約5400の別個の遺伝子に相当する。
【0238】
顕微解剖サンプルから単離されるRNAの制限された量のために、各サンプルから1ミクログラムの全RNAを、RNAサンプルの最初の発現量を維持する、SMART(商標)技術(BD バイオサイエンシズ(BD Biosciences)/クローンテック(Clontech)、カリフォルニア州、パロアルト)を用いて増幅した。増幅したcDNAから複合体33P標識プローブを調製した。対応腫瘍および正常組織から得たプローブを、同一ナイロンメンブレンとハイブリダイズさせた。ストーム(Storm)(商標)ホスホルイメージャー(Phosphorimager)(アマシャム・バイオサイエンシズ(Amersham Biosciences)、ニュージャージー州、ピスカタウェイ)によってシグナルを捕らえ、アレイビジョン(ArrayVision)(商標)(イメージング・リサーチ社(Imaging Research Inc.)、カナダ、オンタリオ州、セントキャサリンズ(St. Catharines))およびジーンスプリング(GeneSpring)ソフトウェア(シリコン・ジェネティクス(Silicon Genetics)、カリフォルニア州、レッドウッドシティー)によって分析した。
【0239】
発現データを、ジーンスプリング(GeneSpring)デフォルトパラメータにしたがって標準化し、スケールした。各アレイについて、各スポットのシグナルを個々のアレイ上の全スポットの平均シグナルで除した。次いで、各遺伝子のシグナルを、すべての測定から得たその遺伝子の中央値シグナルで除した。最後に、各癌サンプルから得たシグナルを、対応正常サンプルから得たシグナルで除し、各腫瘍正常対の比率データを作成した。このように表されるデータは、アレイ上の各遺伝子の過剰発現(または過少発現)倍数を示す。1.0よりも大きい値は、腫瘍組織において、正常組織と比較して過剰発現されている遺伝子を表すのに対し、1.0未満の値は過少発現される遺伝子を示した。
【0240】
MSI−H腫瘍において過剰発現された遺伝子を同定するために、一連のフィルターを用いてデータセットを減少させた。全標準化データセットで開始し、パラメトリックおよびノンパラメトリック試験の双方を用いて、MSI−H腫瘍またはMSS腫瘍のいずれかと統計的に関連している遺伝子を規定した。次いで、これら2種のセットの各々について、フィルターを用いて、MSI−H腫瘍における最小発現レベルの高閾値を設定した。具体的には、このフィルターにより、15腫瘍/正常対のうちいずれか1つにおいて、少なくとも7倍過剰発現されているMSI−H腫瘍中の遺伝子を選択した。最後に、ベン(Venn)ダイアグラムを利用して、これら2種の同様に導いたセットとは異なる遺伝子を調べた。この分析により、MSI−H腫瘍において過剰発現されているが、MSS腫瘍では過剰発現されていない34種の遺伝子が得られた。これらの遺伝子は表1に同定されている。
【0241】
差次的に発現される遺伝子の一例として、図1ではREG4が示されている。このグラフでは、15種のMSI−H腫瘍がx軸の左側に、19種のMSS腫瘍が右側に集められている。y軸は、対応腫瘍/正常対各々におけるREG4の過剰発現倍率を表す。REG4は、15種のMSI−H腫瘍のうち7種において2倍より多く過剰発現されていたが、19種のMSS腫瘍のいずれにおいても有意には過剰発現されていなかった。REG4の平均過剰発現倍率は、MSI−H腫瘍では5.4であり、MSS腫瘍では1.0であった。
【0242】
その他の実施形態
その他の実施形態は当業者には明らかであろう。前記の詳細な説明は明確にするためだけに提供され、単に例示的なものに過ぎないことは理解されなくてはならない。本発明の趣旨および範囲は上記の実施例に制限されず、特許請求の範囲によって包含される。
【図面の簡単な説明】
【0243】
【図1】MSI−Hマーカー遺伝子REG4の差次的発現プロフィールを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体においてマイクロサテライト不安定性を検出する方法であって、
前記個体において配列番号1〜34のうち1種以上の配列の発現を測定し、マイクロサテライト不安定性を有していないことがわかっている個体における前記配列の発現と比較して前記配列が少なくとも2倍過剰発現される場合に、マイクロサテライト不安定性が検出されることを含む方法。
【請求項2】
測定するステップが
(a)前記個体から結腸直腸組織サンプルを得るステップと、
(b)前記サンプルを、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で配列番号1〜34のうち1種以上の前記配列とハイブリダイズできる核酸プローブと接触させるステップと、
(c)前記核酸プローブの、配列番号1〜34のうち1種以上の前記配列とのハイブリダイゼーションを検出するステップと
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記個体がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記核酸プローブが検出可能なように標識されている、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
マイクロサテライト不安定性を有する結腸組織を同定する方法であって、
(a)個体から結腸組織サンプル得るステップと、
(b)配列番号1〜34の配列のうち1種以上の発現を検出し、前記の配列番号1〜34の配列のうち1種以上の発現が、マイクロサテライト不安定性を有していないことがわかっている結腸組織サンプルにおける同一配列の発現よりも少なくとも2倍大きい場合に、マイクロサテライト不安定性を有する結腸組織が検出されるステップと
を含む方法。
【請求項6】
前記の検出するステップが、
(a)前記結腸組織サンプルを、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で前記の配列番号1〜34の配列のうち1種以上とハイブリダイズできる核酸プローブと接触させるステップと、
(b)前記核酸プローブの、前記の1種以上の配列とのハイブリダイゼーションを検出し、ハイブリダイゼーションの検出が前記の配列番号1〜34の配列のうち1種以上の発現を示すステップと
を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記核酸プローブが検出可能なように標識されている、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記個体がヒトである、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記結腸組織サンプルが腫瘍サンプルである、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
前記腫瘍が悪性腫瘍である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
被験体において、癌またはその前癌性状態の発症、進行または退縮をモニターする方法であって、
(a)第1の時点で被験体の生体サンプルにおいて、配列番号1〜34からなる群から選択される1種以上の核酸配列を含む1種以上の核酸配列の発現を検出するステップと、
(b)その後の時点でステップ(a)を反復するステップと、
(c)ステップ(a)および(b)において検出された発現レベルを比較し、発現レベルの変化が被験体における癌またはその前癌性状態の進行を示すステップと
を含む方法。
【請求項12】
発現レベルの変化が上昇または低下のいずれかである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記上昇または低下が少なくとも2倍の上昇または低下である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
被験体において癌またはその前癌性状態の予後を調べる方法であって、
(a)被験体の生体サンプルにおいて、配列番号1〜34からなる群から選択される1種以上の核酸配列を含む1種以上の核酸配列の発現レベルを検出するステップと、
(b)ステップ(a)において検出された発現レベルを、前記核酸配列の参照発現レベルと比較するステップと、
(c)ステップ(b)における比較に基づいて被験体の予後を評価するステップと
を含む方法。
【請求項15】
参照発現レベルが、癌のないサンプルまたは正常サンプルにおける前記核酸配列の発現レベルである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
参照発現レベルが、攻撃的な形態に進行しないことがわかっている癌サンプルにおける前記核酸配列の発現レベルである、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
参照発現レベルが、MSS結腸腫瘍における前記核酸配列の発現レベルである、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
被験体において癌を阻害する試験化合物の有効性を調べる方法であって、a)被験体から得た、試験化合物に曝露された第1の生体サンプルにおける1種以上の核酸配列の発現レベルを、b)被験体から得た、試験化合物に曝露されていない第2の生体サンプルにおける前記核酸配列の発現レベルと比較するステップを含み、前記核酸配列が配列番号1〜34からなる群から選択される1種以上の核酸配列を含み、前記核酸配列の発現レベルの少なくとも2倍の変化が、試験化合物が被験体において癌を阻害するために有効であるという指標である方法。
【請求項19】
発現レベルの変化が上昇または低下のいずれかである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
被験体において癌を阻害するための療法の有効性を調べる方法であって、a)被験体に療法の少なくとも一部を提供する前に被験体から得た第1の生体サンプルにおける1種以上の核酸配列の発現レベルを、b)療法の少なくとも一部の提供の後に被験体から得た第2の生体サンプルにおける前記核酸配列の発現レベルと比較するステップを含み、前記核酸配列が配列番号1〜34からなる群から選択される1種以上の核酸配列を含み、前記核酸配列の発現レベルの少なくとも2倍の変化が、療法が被験体において癌を阻害するために有効であるという指標である方法。
【請求項21】
発現レベルの変化が上昇または低下のいずれかである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
被験体において癌を阻害する組成物を選択する方法であって、
(a)被験体から癌細胞を含む第1の生体サンプルを得るステップと、
(b)複数の試験組成物の存在下でサンプルのアリコートを別個に曝露するステップと、
(c)(b)から得たアリコートの各々における1種以上の核酸配列の発現レベルを、(a)によって作製したサンプルにおける発現レベルと比較するステップであって、前記核酸配列が配列番号1〜34からなる群から選択される1種以上の核酸配列を含むステップと、
(d)試験組成物を含む一アリコートにおいて前記核酸配列の発現レベルの少なくとも2倍の変化を誘導する試験組成物の1種を選択するステップと
を含む方法。
【請求項23】
発現レベルの変化が上昇または低下のいずれかである、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
被験体において癌の発症、進行または退縮をモニターする方法であって、
(a)第1の時点で、第1の生体サンプルを、配列番号35〜68からなる群から選択されるポリペプチド配列を含む1種以上のポリペプチドと特異的に結合する1種以上のポリペプチドリガンドと接触させ、ポリペプチドリガンドとポリペプチドの間の特異的結合を調べるステップと、
(b)その後の時点で、第2の生体サンプルを、配列番号35〜68からなる群から選択されるポリペプチド配列を含む1種以上のポリペプチドと特異的に結合する前記ポリペプチドリガンドと接触させ、ポリペプチドリガンドとポリペプチドの間の特異的結合を調べるステップと、
(c)第1の生体サンプルにおける特異的結合と、第2の生体サンプルにおける特異的結合を比較するステップであって、特異的な結合の大幅な変化が癌の発症、進行または退縮の指標であるステップと
を含む方法。
【請求項25】
被験体において、癌またはその前癌性状態の予後を調べる方法であって、
(a)癌を有する被験体から得た生体サンプルを、配列番号35〜68からなる群から選択されるポリペプチド配列を含む1種以上のポリペプチドと特異的に結合する1種以上のポリペプチドリガンドと接触させるステップと、
(b)特異的結合を調べるステップと、
(c)サンプルにおけるポリペプチドリガンドとポリペプチドの間の特異的結合を、癌のないサンプルにおけるか、または攻撃的な形態に進行しないことがわかっている癌サンプルにおけるポリペプチドリガンドとポリペプチドの間の特異的結合と比較するステップと、
(d)ステップ(c)における比較に基づいて、被験体の予後を評価するステップと
を含む方法。
【請求項26】
被験体において癌を阻害する試験化合物の有効性を調べる方法であって、a)被験体から得た、試験化合物に曝露されていない第1の生体サンプルにおける、配列番号35〜68からなる群から選択されるポリペプチド配列を含む1種以上のポリペプチドと特異的に結合する1種以上のポリペプチドリガンドと、配列番号35〜68からなる群から選択されるポリペプチド配列を含む1種以上のポリペプチドの間の結合を、b)被験体から得た、試験化合物に曝露された第2の生体サンプルにおける、前記ポリペプチドリガンドと前記ポリペプチドの特異的結合と比較するステップであって、特異的結合の大幅な変化が、試験化合物が被験体において癌を阻害するために有効であるという指標であるステップを含む方法。
【請求項27】
被験体において、癌を阻害する療法の有効性を調べる方法であって、a)治療前に被験体から得た第1の生体サンプルにおける、配列番号35〜68からなる群から選択されるポリペプチド配列を含む1種以上のポリペプチドと特異的に結合する1種以上のポリペプチドリガンドと、配列番号35〜68からなる群から選択されるポリペプチド配列を含む1種以上のポリペプチドの間の結合を、b)治療後に被験体から得た第2の生体サンプルにおける、前記ポリペプチドリガンドと前記ポリペプチドの特異的結合と比較するステップであって、特異的結合の大幅な変化が、試験化合物が被験体において癌を阻害するために有効であるという指標であるステップを含む方法。

【図1】
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【公表番号】特表2008−507976(P2008−507976A)
【公表日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−523770(P2007−523770)
【出願日】平成17年7月27日(2005.7.27)
【国際出願番号】PCT/US2005/026647
【国際公開番号】WO2006/015047
【国際公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【出願人】(503106111)バイエル・ヘルスケア・エルエルシー (154)
【出願人】(501083115)メイヨ・ファウンデーション・フォー・メディカル・エデュケーション・アンド・リサーチ (27)
【Fターム(参考)】