説明

マイクロシステムにおける流体の制御方法

【課題】刺激感応物質を制御流体に含有させ、該制御流体に瞬間的な刺激を与えることによって、該制御流体と合流させた被制御流体の流れを高速且つ高精度に制御する方法等を提供すること。
【解決手段】主流路と副流路に分岐した被制御流体流路を有するマイクロシステムにおいて被制御流体の流れを制御する方法であって、刺激感応物質を含む制御流体を合流させ、合流後に該被制御流体と並行する該制御流体に刺激を与えることによって主流路における被制御流体の流量を一時的に制御し、それによって該被制御流体の副流路における流量を間接的に制御する方法、及び該方法を用いるマイクロシステム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロシステムにおける流体の粘度変化による流れの制御方法に関するものである。更に詳しくは、マイクロ流体システムを流れる試料溶液の流れを制御溶液の粘度変化によって間接的にON−OFF制御する方法等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年のナノテクノロジーの進歩により、ガラスなどのチップ上にミクロンオーダーの液体流路を形成し、この液体流路に試料を流すことによって、試料の分析、又は反応などを行わせるマイクロシステムの開発が進められている。このようなマイクロシステムは、試料が少量であっても試料の分析が可能であるなどの利点を有しており、非常に注目を浴びている。
【0003】
このようなマイクロシステムにおいて、数μl〜数nlオーダーの試料や薬液の導入、反応、分析などを行うため、極めて正確な流体の制御が求められる。特定の微粒子を選択的に分別する試みとして、これまでに、電場により微粒子の流れを制御する、または、外部バルブによりシース流の流量を変化させて微粒子含溶液の流れを制御するなどの手法が開発された。特に層流中を流れる微粒子を直接顕微鏡観察しながら分離するセルソーターとしては、例えば、以下の非特許文献1〜3等に報告されている。
【0004】
又、外部駆動源からの駆動をマイクロ流路中におけるメカニカルバルブに圧力によって伝達しているシステム(非特許文献4)にあっては、メカニカルバルブの構築が必要となり、加工の際に高精度な位置だし等が必要となる。更に、メカニカルバルブが正常に働くためには数百マイクロメートルオーダーの幅を有する流路部分にメカニカルバルブを設置する必要がある。これはメカニカルバルブの駆動部であるエラストマーの薄膜の厚さ、弾性的伸縮に依存している。そのため、数マイクロメートルオーダーもしくはサブマイクロメートルオーダーの幅を有する流路に対してはエラストマーが十分に変位することが出来ない。その結果、これらの方法では、観察手段に対する試料分離の応答速度が遅く、実用化するためには、より応答の速い処理方法が必要であった。
【0005】
この問題を解決する手段として、特開2002−163022号公報(特許文献1)に、マイクロシステムの微小流路を流れる液体に、外部レーザーなどからの熱の刺激によりゾル−ゲル転移する物質を添加し、微小流路上の所望の箇所に刺激を与え、流体をゲル化させて流れを制御する方法が開示されている。更に、特開2007−148981号公報(特許文献2)には、シースフローを用いることによって、完全なゾル−ゲル転移がなくとも小さな粘度変化によって流れの切り替えを行い、高速かつ正確な制御の方法を提案されている。
【0006】
これらの方法によれば、複雑なバルブ構造を用いることなく、流体の流れを停止し、また、流量や流速を簡便に調整することができる。そして、流路の一部に分岐を設け、分岐後の流路に対し選択した流路において液体に刺激を与えれば、その物質のゲル化によってその流路が閉塞されることによって流体の流れる方向を選択することができる。そして、刺激を停止することで、その物質はゾル化して、再びその流路が開放されるものである。
【0007】
しかしながら、上記の方法によれば、被制御溶液流には熱の刺激によりゾルーゲル転移する物質等の刺激感応物質を添加する必要があり、そのため、制御可能な溶液流の種類には制限があり、さらには、上記の方法によって分別された溶液には必ずこのような刺激感応物質が含まれてしまい、当該物質を除去することが困難であった。更に、これらの流体制御方法では全ての溶液に温度感受性高分子を添加しているために溶液全体の粘性が高く、数マイクロメートル〜サブマイクロメートルサイズの流路において流体制御を行うためには、実用的でない高圧送液が必要であった。
【特許文献1】特開2002−163022号公報
【特許文献2】特開2007−148981号公報
【非特許文献1】Micro Total Analysis 1998, pp.77-80
【非特許文献2】Kluwer Academic Publishers, 1998, pp.39-44
【非特許文献3】Analytical Chemistry, 70, pp.1909-1915 (1998)
【非特許文献4】Microsyst Technol (2006) 12:746-753
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記の問題を解決することであり、刺激感応物質を制御流体に含有させ、該制御流体に瞬間的な刺激を与えることによって、該制御流体と合流させた被制御流体の流れを高速且つ高精度に制御する方法を提供することにある。更に、本発明の流れの制御方法を利用することで、分別後の被制御流体に刺激感応物質が混入しない微粒子分別方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、本発明は以下の各態様に係るものである。
[態様1]
主流路と副流路に分岐した被制御流体流路を有するマイクロシステムにおいて被制御流体の流れを制御する方法であって、刺激感応物質を含む制御流体を合流させ、合流後に該被制御流体と並行する該制御流体に刺激を与えることによって主流路における被制御流体の流量を一時的に制御し、それによって該被制御流体の副流路における流量を間接的に制御する方法。
[態様2]
分岐後の主流路を流れる被制御流体に刺激感応物質を含む制御流体を合流させる、態様1記載の方法。
[態様3]
刺激感応物質が刺激により粘度変化を起こす物質である、態様1又は2記載の方法。
[態様4]
刺激感応物質の粘度変化がゾル−ゲル転移によるものである、態様3記載の方法。
[態様5]
刺激感応物質が熱可逆性高分子ゲルである、態様4記載の方法。
[態様6]
刺激が温度変化である、態様1〜5のいずれか一項に記載の方法。
[態様7]
温度変化が流路に局所照明された赤外線を制御流体が吸収することによって起こるものである、態様6に記載の方法。
[態様8]
温度変化が流路に付加されたマイクロヒーターによって引き起こされる、態様7に記載の方法。
[態様9]
マイクロヒーターによる温度変化が、局所照射された光線をマイクロヒーターが吸収することによって制御される、態様8記載の方法。
[態様10]
被制御流体がシース液により囲まれるシースフローを形成する、態様1〜9のいずれか一項に記載の方法。
[態様11]
被制御流体が微粒子含溶液である、態様1〜10のいずれか一項に記載の方法。
[態様12]
被制御流体に含まれる微粒子を選択的に分別する、態様11記載の方法。
[態様13]
態様1〜12のいずれか一項に記載の方法によって、被制御流体の流量を間接的に制御するマイクロシステム。
[態様14]
制御流体導入部及び被制御流体導入部を有し、制御流体は主流路から出る、態様13記載のマイクロシステム。
[態様15]
制御流体と被制御流体とが合流後に再び分かれ、制御流体は主流路とは別の流路から排出される、態様14記載のマイクロシステム。
[態様16]
被制御流体に含まれる微粒子を選択的に分別する、態様13〜15のいずれか一項記載のマイクロシステム。
[態様17]
態様13〜16のいずれか一項記載のマイクロシステムを含有する装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、流れの切り替えに刺激感応物質のゾル−ゲル転移や粘度変化という簡単な方法を採用しつつ、刺激感応物質は被制御流体及びシース液には含有させず、刺激感応物質は制御流体に導入することにより、刺激感応物質は制御流体及び刺激感応物質の添加による被制御流体への影響を抑えることに成功した。又、制御・分別された流体には刺激感応物質が混入していないために、該流体から刺激感応物質を除去する必要がない。更に、被制御溶液には刺激感応物質を添加する必要がないため、数マイクロメートル〜サブマイクロメートルサイズの流路において流体制御を行う場合でも、実用的な低圧送液が可能となる。また、この刺激を除去することにより粘度変化した物質が速やかに元の粘度となり、被制御流体の流れは元どおりに戻される。その結果、本発明は、マイクロシステムにおける簡単かつ高速かつ正確な間接的流体制御を実現するものである。
【0011】
更に、被制御流体として微粒子含溶液流、特に、シース液に囲まれたシースフローを形成させた場合、シース液の流量を制御することによって、刺激を与えていない状態では、微粒子含溶液の流れの方向を常に廃棄側に向けておくことが可能である。これにより、回収流路への流入の可・不可を瞬間的な刺激によって制御し、特定の微粒子を選択的に制御・分別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明によるマイクロシステムにおける間接的流体制御方法を示す概念図である。
【図2】本発明によるシースフローを用いたマイクロシステムにおける間接的流体制御方法を利用した微粒子の分別方法を示す概念図である。
【図3】本発明によるマイクロシステムの微小流路を作製するための鋳型の電子顕微鏡写真像(a)、および流路における流体の流れを蛍光によって可視化し、CCDカメラにより撮影した蛍光顕微鏡画像(b)である。(倍率:x20、 露光時間:33ms)
【図4】本発明のマイクロシステムにおける間接的流体制御方法を示す概念図である。
【図5】本発明によるマイクロシステムの流路における流体および微粒子の流れを蛍光によって可視化し、CCDカメラにより撮影した蛍光顕微鏡画像である。(倍率:x20、露光時間:33 ms)
【図6】画像解析によって検出部位(Detect)、廃棄流路(Waste)、回収流路(Collect)における輝度測定を行った結果を示す。
【図7】本発明のマイクロシステム全体の一例を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の方法において、制御流体に刺激を与える部分は被制御流体の流路の分岐点より下流である必要がある。又、制御流体と被制御流体との合流地点は該分岐点の上流又は下流のいずれでもかまわない。即ち、制御流体は、分岐後の主流路を流れる被制御流体、又は、分岐点よりも上流を流れる被制御流体に合流させることが出来る。尚、制御流体と被制御流体との合流の様式に特に制限はなく、例えば、実施例に記載されているように、被制御流体を制御流体と斜めに合流させることが可能である。
【0014】
本発明法で使用する刺激感応物質としては、例えば、温度等の外界からの適当な刺激により粘度変化する当業者に公知の任意の物質を使用することが出来る。例えば、種々の高分子化合物から、微小流路に流す試料や溶媒等の他の物質と反応したり、影響を与えたりしないものを選択できる。特に好ましくは、弱い刺激に対して急激な粘度変化を示す物質であるが、このような性質を示す物質として、刺激によりゾル−ゲル転移を起こす高分子があげられる。特に温度に対し敏感な反応を示す、熱可逆性高分子ゲルでは、常温では高分子は水和して溶液中に存在する粘度の低いゾルであり、この溶液を転移温度以上の温度に加熱すると一般に疎水的結合によって架橋を形成し、粘度の高いゲルに転移するものがある。このようなゾル−ゲル転移を加熱刺激により起こす物質の好適例としては、約55℃で可逆的なゾル−ゲル転移を起こすメチルセルロース、特開平5−262882号公報に開示されている、ゾル−ゲル転移のヒステリシスが非常に低いメビオール(登録商標)ジェルがある。
【0015】
温度変化は当業者に公知の任意の方法で起こすことができる。例えば、吸収波長に応じた光源を利用した局所照明された赤外線等の光線を制御流体が吸収することによって起こすことも可能である。あるいは、流路に付加されたマイクロヒーターによって温度変化を引き起こすことが出来る。このような場合に、マイクロヒーターによる温度変化を局所照射された光線をマイクロヒーターが吸収することによって制御することが出来る。尚、マイクロヒーターの材料はAu、Pt、Cr等の各種一般的な電極材料を用いることが出来る。又、これらの刺激を与える部位は目的に応じた箇所、個数を制御することができる。
【0016】
本発明方法において、被制御流体をシース液(シースフロー形成流)と合流させ、それで囲むことによってシースフロー状態を形成させることも出来る。このようなシースフローの形成は、例えば、特許文献2に記載のような当業者に公知の任意の方法で行うことが出来る。
【0017】
又、被制御流体としては、反応の目的に応じて様々な種類の溶液等を使用することが出来る。被制御流体が微粒子含溶液である場合には、本明細書の実施例に記載されたように、本発明方法を利用して、微粒子の回収流路への流入の可・不可を瞬間的な刺激によって、選択的に制御し、微粒子を分別することができる。
【0018】
本発明の上記のマイクロシステムにおける流体の制御方法および微粒子分別方法では、基板は各種の微細加工技術により微細流路や加熱部位を加工、設置できるものであればよく、シリコン、ガラス、ポリマー材料等各種のものから選択できる。特にポリマー材料などの熱伝導率の低いものでもこの発明では制限されない。
【0019】
例えば、微粒子を光学的手段により計測する場合には、検出に用いる光源に対し吸収のないものを材料に選ぶことが好ましい。また、加熱部位は金属膜等の設置及び光源を用いた局所的な加熱もある。この基板の大きさは特に限定されず、少なくとも上記マイクロシステム構成部は分別する微粒子の大きさや種類に応じて1μm〜500μm程度の大きさであれば良いが、これに限らない。
【0020】
このマイクロシステムの流路は目的に応じて矩形、半円、円形とさまざまな流路断面をもつことができる。また、流路に親水性、疎水性などの表面処理を施すことで微粒子の吸着を制御することもできる。
【0021】
本発明のマイクロシステムの微細流路はシリコンやガラスにおけるフォトリソグラフィー、エッチングによる加工、ポリマー材料における構造体のモールディング加工、エンボス加工等の微細加工技術を用いて作製されるものであるが、当業者に公知の他の機械加工等の製造方法でも作製可能である。
【0022】
尚、本発明のマイクロシステムは制御流体導入部及び被制御流体導入部を有し、制御流体は分岐した被制御流体の主流路から出るか、又は、制御流体と被制御流体とが合流後に再び分かれ、制御流体は被制御流体の主流路とは別の流路から排出される構造をとることも可能である。
【0023】
本発明は更に、このようなマイクロシステムを含有する、流れの制御装置及び微粒子を分別するための微粒子分離・回収装置をも提供する。
【0024】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な態様を説明する。尚、本発明の技術的範囲は以下の好適な態様及び実施例に限定されるものではない。
【0025】
本発明によるマイクロシステムにおける間接的流体制御方法は、例えば、図1に示すように、マイクロシステム(1)の基板(2)上に、被制御流体導入部(3)、被制御流体分岐部(4)、分岐後の主流路(5a)および副流路(5b)、分岐後の主流路に接続された制御流導入部(6)および制御流合流部(7)からなる。
【0026】
このマイクロシステム上において、図1aにあるように被制御流体導入部を流れる被制御流体の分岐前流れ(8)は、分岐部において主流路を流れる被制御流体主流路の流れ(10)と副流路を流れる被制御流副流路の流れ(11)に分けられる。このとき、主流路の流れの流量と副流路の流れの流量は、主流路の流路抵抗と副流路の流路抵抗の比で決定される。図1では主流路の抵抗を副流路の抵抗よりも小さくしているため、被制御流体主流路の流れの流量は被制御流体副流路の流れの流量よりも大きい。
【0027】
即ち、円形マイクロ流路における流量Qはハーゲン・ポアズイユの法則を用いて以下に示される。
【0028】
【化1】

【0029】
ここで、ΔP, μ, L, rはそれぞれ、流路端部の圧力差、流れる流体の粘性率、流路長、流路断面の半径である。この式を用いれば容易に各流路に流れ込む流量を導くことが出来る。
【0030】
一方で図1bにあるように、主流路下流において制御流体(9)の合流直後に赤外線(12)、または光線を照射したマイクロヒーターにより熱刺激を与えることにより局所的に制御流体(溶液)の温度が上昇し、制御溶液の粘度が上昇する(13)。これにより主流路の流路抵抗は瞬間的に上昇し、結果としてその上流に位置する被制御流分岐部において副流路の流れの流量は主流路の流れの流量よりも大きくなる。赤外線または光線の照射を停止すると、熱拡散に従い制御流体の粘度は定常値に戻り、被制御流分岐部における主流路と副流路の流れの流量比は速やかに初期値に復帰する。
【0031】
このような方法によって、被制御流体自体は一度も刺激を受けることなく、間接的に流れの切り替えが行われる。
【0032】
又、本発明の別の態様である、マイクロシステムにおける間接的流体制御方法を利用した微粒子分別方法では、例えば、図2に示すように、マイクロシステム(1)の基板上(2)に、ターゲット粒子及び非ターゲット粒子を含む微粒子含溶液(被制御流体)導入部(3)、当該流路の側部に配置されたシースフロー液導入部(4)、微粒子含溶液分岐部(5)、分岐部の下流に配置された微粒子を分別するための微粒子回収流路(6a)及び微粒子廃棄流路(6b)、微粒子廃棄流路に接続された制御流体導入部(7)および制御流体合流部(8)、微粒子を計測するための微粒子計測部(9)からなる。微粒子計測部(9)は具体的には蛍光による計測、吸光による計測、化学発光による計測などが挙げられるがこれに制限されない。
【0033】
このマイクロシステム上において、微粒子含溶液分岐部における微粒子含溶液の流れ(10)は分岐後の微粒子回収流路と微粒子廃棄流路の流路抵抗比、及びシースフロー液(11)の流量によって制御され、非ターゲット粒子(12)は微粒子廃棄流路に導入される。一方で、微粒子計測部(9)においてターゲット粒子(13)が検出された場合、微粒子廃棄流路下流の制御流体合流部(8)直後に赤外線(14)、または光線を照射したマイクロヒーターにより熱刺激を与えることにより局所的に溶液の温度が上昇し、制御溶液の粘度が上昇する(15)。これにより粘度の高い制御溶液の流れ(16)が微粒子廃棄流路(6b)に大きく張り出すことも影響し、微粒子廃棄流路の流路抵抗は瞬間的に上昇する。結果としてその上流に位置する微粒子含溶液分岐部において、ターゲットである微粒子を含む微粒子含溶液の流れは微粒子廃棄流路(6b)よりも流路抵抗の低くなった微粒子回収流路(6a)に導入される。赤外線または光線の照射を停止すると、熱拡散に従い制御溶液の粘度および微粒子廃棄流路(6b)の流路抵抗値は定常値に戻り、非ターゲット粒子を含む微粒子含溶液分岐部における微粒子含溶液の流れは、再び微粒子廃棄流路(6b)に流れ込むようになる。このような一連の作業を断続的に繰り返すことによってターゲット粒子と非ターゲット粒子が混在する微粒子含溶液からターゲット粒子のみを微粒子回収流路(6a)に分別してくることが可能となる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例に即して本発明を更に説明する。
<実施例1>
図2に示されるような3又の微粒子含溶液導入部(3)(幅10μm、深さ5μm)及びシースフロー形成流導入部(4)(幅20μm、深さ20μm)とその下流に位置するト型の微粒子含溶液分岐部(5)及び微粒子回収流路(6a)、微粒子廃棄流路(6b)、さらに微粒子廃棄流路に接続された制御溶液(制御流体)導入部(7)(それぞれ幅20μm、深さ5μm)の鋳型形状を、ネガ型フォトレジスト(SU-8 3005およびSU-8 3025、Si基板上にPDMS(polydimethylsiloxane)に形成し、カバーガラスに接着することで微小流路とした。
【0035】
この微小流路に、直径0.5μmの蛍光ラテックスビーズ及び溶液流可視化のための蛍光色素(フロオロセイン1μM)を含む微粒子含溶液、純水のみからなるシースフロー形成溶液を流速0.1μL/minで導入し、微粒子含溶液を中央に配置したシースフローを形成させた。さらに制御溶液流として流れ可視化のための蛍光色素を含む7.5重量%のメビオール(登録商標)ジェル溶液を流速0.01μL/min程度で流した。この流路における流体の流れをCCDカメラにより33ms積算像として撮影し(テキサスインスツルメンツ社製MC681SPD)、蛍光ラテックスビーズの輝線を重ね合わせた図3(b)により、微小流路中を微粒子含溶液および微粒子が廃棄流路に流れる様子が観察された。
【0036】
次に、検出部位において、光電子増倍管(浜松ホトニクス社製、H7421-40)によって蛍光強度を計測し、直径0.5μmの蛍光ラテックスビーズが検出された場合には制御溶液流合流部下流(15)に、波長1480nmの赤外線を照射した。赤外線が照射された部分のメビオール(登録商標)ジェルのゲル化によって、粘度上昇、流路抵抗上昇が引き起こされ、廃棄流路に流れる流量が減少し、回収流路に流れる流量が増加することで、微粒子含溶液および微粒子が分別流路側に一時的に流された。そのときの様子を蛍光ラテックスビーズの輝線を重ね合わせた図3(b)により示す。
【0037】
以上の結果より、流体中のメビオール(登録商標)ジェルが赤外線の断続的な照射にすばやく応答し、流路抵抗を変化させることによって、メビオール(登録商標)ジェルを含まない、シース液及びシース液に挟まれた微粒子含溶液の流れを高速に制御できることが示された。
【0038】
<実施例2>
以下に示す要領で本発明のマイクロシステム(図4)を構成した。
分離部: 深さ:20μm(濃い部分)、赤部 深さ:5μm(薄い部分)、合流部から分岐部までの距離:300μm。尚、試料溶液(被制御流体)を制御溶液(制御流体)と斜めに合流させ、よどみをつけた。制御流と試料溶液流が並行して流れる部分の流路幅を20μmに狭めた。
【0039】
実験条件:
試料溶液;φ0.5μm 蛍光ビーズ(1/1000希釈)+ Fluorescein 1μM、
シース液:MQ、
制御溶液:LCST 36℃ メビオールジェル 7.5% w/v + Fluorescein 1 μM。
送液圧力:試料溶液及びシース液 2kPa、制御溶液 2kPa以下、
IR照射:20 x 対物レンズ、表示部0.5W、照射時間21ms。
【0040】
この流路における流体の流れをCCDカメラにより33ms積算像として撮影し(テキサスインスツルメンツ社製MC681SPD)、蛍光ラテックスビーズの輝線を重ね合わせた図5(a)により、微小流路中を微粒子含溶液および微粒子が定常的に廃棄流路に流れる様子が観察された。
【0041】
次に、検出部位において、光電子増倍管(浜松ホトニクス社製、H7421-40)によって蛍光強度を計測し、直径0.5μmの蛍光ラテックスビーズが検出された場合には制御溶液流合流部下流に、波長1480nmの赤外線を21ms間照射した。赤外線が照射された部分のメビオール(登録商標)ジェルのゲル化によって、粘度上昇、流路抵抗上昇が引き起こされ、廃棄流路に流れる流量が減少し、回収流路に流れる流量が増加することで、微粒子含溶液および微粒子が分別流路側に一時的に流された。そのときの様子を蛍光ラテックスビーズの輝線を重ね合わせた図5(b)により示す。
【0042】
この分離をビデオに撮影し、画像解析によって検出部位、廃棄流路、回収流路の各白抜き矢印部分における輝度解析を行った結果を図6に示す。初め1分間は閾値を高くし、蛍光ビーズが検出されないようにした。この図6より、検出されない場合は微粒子及び微粒志願溶液は廃棄流路に流され、検出された場合は高い精度で回収側に分離されることが示された。回収率は0.986(148/150)であり、分離に失敗した粒子はIR照射時間内に連続して流れてきたものであった。
【0043】
本発明のマイクロシステム全体の一例を図7に示す。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の従来技術と比較して優れた点を以下に列挙する。
(1)簡便性
本発明は複雑なバルブ構造や流量・圧力の変化による制御を必要としない。またチップを構成する素材にも制限がない。また刺激感応物質への刺激も光や熱など多くの手段が考えられる。したがって本発明を基にして作られたシステムは他の機能を持ったシステムと容易に統合が可能である。
(2)高速性・正確性
流体制御の速度は制御流体含まれる刺激感応物質の粘度等の変化速度にのみ依存している。例えばメビオールゲル(登録商標)が数ms以内の応答速度を示し、刺激感応物質として望ましい特性を有している。これらとの組み合わせにより非常に高速な制御が可能である。また高速性は正確な流体制御に直結し、既存のマイクロシステムと同等かそれ以上の精度が発揮されると考えられる。
(3)被制御流体の自由度
本発明は被制御流体として何を用いてもよく、また制御後も被制御流体の刺激感応物質とほとんど混合しない。これにより特に生体試料の分離などへの応用を考慮した際に非常に有利な点になると考えられる。さらに被制御流体へ刺激感応物質を加える必要がないので、煩雑な前処理をする必要もなく、マイクロシステムの使い勝手を向上させるものである。更に、被制御流体としてシースフローを用いれば、特定の微粒子のみを正確かつ素早く別の流路に流し込む高精度分離、あるいはシースフロー中央の流れを任意の長さに切り取る定量吐出等に幅広い応用が可能であると考えられる。
【符号の説明】
【0045】
1:マイクロチップ全体(20mm x 30mm)
2:微粒子含溶液導入口
3:シースフロー形成流導入口
4:制御溶液導入口
5:回収液排出口
6:排気液排出口
7:制御溶液排出口
8:検出・分離部
9:フィルター構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主流路及び副流路に分岐した被制御流体流路を有するマイクロシステムにおいて被制御流体の流れを制御する方法であって、該主流路には被制御流体及び刺激感応物質を含む制御流体が流れ、該副流路には被制御流体のみが流れ、被制御流体には刺激感応物質が含まれておらず、分岐前の被制御流体流路を流れる該被制御流体に該制御流体を合流させ、分岐後に該被制御流体と並行する該制御流体に刺激を与えることによって該主流路における該被制御流体の流量を一時的に制御し、それによって該被制御流体の該副流路における流量を間接的に制御する方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法によって、被制御流体の流量を間接的に制御するマイクロシステム。
【請求項3】
請求項2記載のマイクロシステムを含有する装置。

【図6】
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【図7】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−8383(P2013−8383A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−181254(P2012−181254)
【出願日】平成24年8月18日(2012.8.18)
【分割の表示】特願2008−89110(P2008−89110)の分割
【原出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(596175810)公益財団法人かずさDNA研究所 (40)
【Fターム(参考)】