マイクロスケール実験用の鍔付き筒状物
【課題】マイクロスケール実験に安全かつ安定して使用できるマイクロスケール実験部材を提供する。
【解決手段】マイクロスケール実験に使用されるマイクロスケール実験部材であって、両端が開放された筒状本体部と、前記筒状本体部の外周に形成された鍔部とからなり、前記鍔部は、前記筒状本体部の中央部と下端部との間に形成されたことを特徴とする、マイクロスケール実験用の鍔付き筒状物である。
【解決手段】マイクロスケール実験に使用されるマイクロスケール実験部材であって、両端が開放された筒状本体部と、前記筒状本体部の外周に形成された鍔部とからなり、前記鍔部は、前記筒状本体部の中央部と下端部との間に形成されたことを特徴とする、マイクロスケール実験用の鍔付き筒状物である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来のシリンジやスポイトに代えてマイクロスケール実験に安全かつ簡便に使用しうるマイクロスケール実験用部材に関し、より詳細には、水を電気分解して2:1の体積比の水素と酸素とを発生させる実験に好適に使用できるマイクロスケール実験用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、従来に比して実験スケールを1/10〜1/100程度に縮小し、使う薬品を少なくして実験する「マイクロスケール実験」が、環境に配慮するグリーンケミストリーの考えに基づいて、日本の教育現場に普及しつつある。
【0003】
このようなマイクロスケール実験として、(1)金属および金属イオンの反応、(2)酸と塩基の実験:酸性とアルカリ性、酸塩基指示薬、中和、塩の加水分解、緩衝溶液、(3)電池:ボルタ、ダニエル、鉛蓄電池、燃料電池、(4)塩化銅水溶液をはじめとするいろいろな電解質水溶液の電気分解、(5)酸化還元反応:金属のイオン化傾向、(6)化学平衡の実験、(7)化学反応の反応速度の実験、(8)水の電気分解の実験、(9)爆鳴気の実験などを例示することができる。
【0004】
水の電気分解で例示すれば、従来は、H型電気分解装置やホフマン型電気分解装置を使用し、電解質溶液である硫酸ナトリウム水溶液を使用していたが、電解質水溶液の使用量が大量であること、液だめとコックを同時操作することが難しいこと、装置などが高価であることなどの問題があった。
【0005】
しかしながら、例えばマイクロスケール実験では、図13に示すように、マルチウェルプレート(200)の1つのウェル(201)に硫酸ナトリウム水溶液(203)を2ml入れ、先端を5mm残して切断した2本のポリスポイト(210')にそれぞれマチバリ(220)を挿入し、ポリスポイトに硫酸ナトリウム水溶液を満たして前記ウェル(201)に立て、前記マチバリ(220)を電極として電源装置につなぎ約5分間、直流電圧を印加して行うことができる(非特許文献1)。マチバリ(220)に直流電圧を印加すると、約10分間の電気分解によって発生する気体の体積比、水素:酸素=2:1を観察することができる。この際、USBハブを利用した電源装置による電圧値は約5V、電流値は約10〜11mA、実験に必要な硫酸ナトリウム水溶液量は、約10mlである。従来の水の電気分解実験に比べ、電解質水溶液量が非常に少量であり、短時間で実験結果を得られる利点もある。
【0006】
このように、マイクロスケール実験によれば、実験時間の短縮と準備作業や後片付け作業の軽減することができる。また、マイクロスケール実験によれば、同一のマルチウェルプレートを使用して多種類の実験を行うことができる。更に、装置も小型であるため生徒が各人で実験でき、実験の体験により理解をより深め、各人の問題解決能力や創造力を育成することもできる。同時に、環境への配慮を考える力も身につけることが出来る。
【0007】
このようなマイクロスケール実験では、例えば、3×4にウェルが配列された市販の細胞培養用マルチプレートを使用することができ、マルチウェルプレートは、底面積が大きいため、少量の試薬を使用する実験でも高い実験操作の安定性を確保しうる。図14に、このようなマイクロスケール実験に使用しうるマルチウェルプレート(10)を示す。図14(a)はその平面図であり、図14(b)は、図14(a)のX−X'線の横断面図である。図14では、底面部(11)に、中空柱状のウェル(15)が3×4で配列され、底面部には、これに垂設される側壁部(16)が底面部の全周にわたって形成されている態様を示す。このようなマルチウェルプレート(10)は、中空柱状であればよく、柱状は円柱に限定されるものではなく、各ウェル(15)のサイズもマイクロスケール実験に好適に使用できるよう、内容量が0.5〜10mlとなるようにその高さや面積が選択され、ウェルの配列も3×4に限定されるものでなく、マイクロスケール実験に応じて適宜選択される。また、図14に示すマルチウェルプレート(10)において、底面部(11)に側壁部(16)が形成されていないものであってもよい。この態様であれば、たとえば気体が発生する実験など、ウェル(15)内での変色や沈殿、気泡の発生などがウェル(15)の側面から容易に観察できるからである。
【0008】
図15は、このような細胞培養用マルチプレートにより上記マイクロスケール実験を行っている状態を示す説明図である。硫酸ナトリウム水溶液を収納したウェル(E)に、2本のポリスポイト(210')が挿入され、各ポリスポイトに配設されたマチバリ(220)が電極となり、この電極にクリップコードを介して電源装置の陽極、陰極が連設されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】坂東 舞他3名、簡単にできる水の電気分解実験、マイクロスケール実験の応用、インターネット〈URL:http://natsci.kyokyo−u.ac.jp/〜rigaku/forum/7gou/bando7gou35−39.pdf#search=’マイクロスケール実験’>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、図15に示す水の電気分解実験では、特定のウェル(E)に立てた2本のスポイト(210')に挿入したマチバリにクリップコードを連設させるため、スポイトの直立が困難となり、また重量のあるクリップコードによってスポイトが回転するなどその位置が不安定で、これらを両手で押える必要がある。マイクロスケール実験は、生徒が各人で実験できる利点があるが、生徒の両手がふさがっては実験の安全性、確実性が損なわれる場合がある。一方、特定の支持具を配備すれば、マイクロスケール実験キットが大掛かりなものとなる。
【0011】
そこで、このようなマイクロスケール実験器具として、前記マルチウェルプレートの上部を被覆する蓋部を設け、その蓋部にマイクロスケール実験に使用する部材を支持しうる貫通孔を形成したものがある。これを図16に例示する。図16(a)は、このような蓋部(20)の平面図、図16(b)は図16(a)のX−X'線の横断面図である。図16(a)、図16(b)に示すように、蓋部(20)は、天面部(21)と側面部(23)とからなり、天面部(21)には、少なくも1つのウェル(15)と対向する位置に、マイクロスケール実験に使用する部材を支持しうる貫通孔(25)が形成されている。このような蓋部を使用すれば、両手で部材を把持することなく安定化しうる。なお、同図に示す蓋部(20)には、前記貫通孔(25)の外周に、環状突出部(27)が形成されている。環状突出部(27)により、各ウェルとの境界部を形成したり、ウェル(15)の上端部と嵌合させて蓋部(20)のガタツキを抑え、また環状突出部(27)によってウェル内の液密を確保し、溶液の蒸発などを防止することができる。便宜のため、図14に示すマルチウェルプレート(10)に、図16に示す蓋部(20)を被覆したマイクロスケール実験器具の横断面図を図17に示す。図17に示す蓋部(20)には、蓋部(20)の前記ウェル(15)に対応し、かつ前記ウェル(15)の上端部の外側に環状突出部(27)が形成されている。貫通孔(15)は、前記環状突出部(27)の内側に形成されている。なお、前記環状突出部(27)の形成は任意であり、蓋部(20)の内側に存在しなくてもよい。また、前記蓋部(20)に形成する貫通孔(25)の形状は、マイクロスケール実験部材を容易に支持しうるものであれば、特に限定はない。マイクロスケール実験では、ウェル(15)に試薬やマイクロスケール実験部材を投入して使用するため、本願明細書では、マルチウェルプレートのウェル(15)と、そのウェル(15)に対向する蓋部(20)の環状突出部(27)とを同じ符号で示す。図18に、図14に示すマルチウェルプレート(10)のウェル(15)と図16に示す蓋部(20)の環状突出部(27)との符号を対応させ、さらに、各環状突出部(27)に形成された貫通孔に番号を付した説明図を示す。以降、ウェル(A)に対応する環状突出部を環状突出部(A)と称し、前記環状突出部(A)の内側に形成される貫通孔(25)を、貫通孔(a1)、貫通孔(a2)、貫通孔(a3)などで特定して説明する。
【0012】
上記マイクロスケール実験器具を使用すれば、例えば、図18のウェル(E)に硫酸ナトリウム水溶液などの電解質溶液を収納し、ウェル(E)の上部を環状突出部(E)が被覆するように蓋部(20)を被せ、前記蓋部(20)の環状突出部(E)に形成された2つの中円形の貫通孔(e1)および貫通孔(e2)からそれぞれポリスポイト(210')を挿入することができる。このような使用例の平面図を図19に示し、その部分横断面図を図20(a)に、使用された蓋部(20)の環状突出部(E)の内側に形成された貫通孔の平面図を図20(b)に示す。図20(a)に示すように、環状突出部(E)に形成された2つの中円形の貫通孔(e1)および貫通孔(e2)によってポリスポイト(210')がそれぞれ直立に支持されるため、実験者が実験器具を把持することなく、安定してマイクロスケール実験を行うことができる。ついで、硫酸ナトリウム水溶液に浸漬する前記スポイト(210')の先端から硫酸ナトリウム水溶液を吸引し、それぞれのスポイト(210')にマチバリ(220)を挿入し、クリップコードと電極とを連結すれば水が電気分解され酸素ガスと水素ガスとを発生する。これにより、一方のスポイト(210')内に酸素ガスが、他のスポイト(210')内に酸素ガスが集積され、その割合は、水素:酸素=2:1となる。
【0013】
また、上記スポイト(210')に代えて図21に示す三方活栓付きのシリンジを使用することもできる。シリンジのフランジ部を硫酸ナトリウム水溶液に浸漬し、シリンジの上部に連設した三方活栓から吸引することで容易に、シリンジ内に硫酸ナトリウム水溶液を導入することができる。また、シリンジは透明性に優れ、かつメモリが正確であり、より正確な実験を行うことができる。このようなシリンジを使用した態様の横断面図を図22に示す。
【0014】
しかしながら、従来のシリンジをマイクロスケール実験に使用する場合、蓋部(20)の使用により、実験者が実験器具を把持することなく安定してマイクロスケール実験を行うことができる点で優れるが、シリンジの下端部に形成されたフランジは蓋部(20)に形成した貫通孔(e1、e2)を通過することができない。このため、図22に示す態様とするには、硫酸ナトリウム水溶液が充填されたマルチウェルプレートにシリンジを挿入し、次いで、シリンジの頂部からを貫通孔(e1、e2)を貫通させてマルチウェルプレートの上部に蓋部(20)を被覆する必要があり、操作が煩雑となる。
【0015】
また、シリンジは剛性に優れるため、電極として使用するマチバリを挿入することが容易でなく、針先が曲がったりして特に小学生では極めて困難であり、教諭の介在が要求され、生徒各人が実験できる利点を十分に発揮することができない。
【0016】
更に、前記マチバリには、クリップコードを介して電源と接続させるが、陰極マチバリと陽極マチバリを把持する蓑虫クリップやワニクチクリップはシリンジに比して重量があるため、シリンジが回転してクリップ同士が接触して短絡する場合がある。また、シリンジの回転に伴ってシリンジ表面に形成されたメモリも回転し、ガス量の測定が容易でない。従って、内容量の判断を正確に行うことができ、かつ操作が安全かつ容易な実験部材の開発が望まれる。
【0017】
上記現状に鑑み、本発明は、マイクロスケール実験に使用する実験部材であって、水の電気分解によって発生する2種類の気体の発生量を安全かつ簡便に測定しうるマイクロスケール実験用部材を提供することを目的とする。
【0018】
また本発明は、上記マイクロスケール実験用部材を含むマイクロスケール実験キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、マルチウェルプレートとその上面を被覆する蓋部を使用するマイクロスケール実験、特に、このような実験器具を使用した水の電気分解実験を詳細に検討した結果、発生する酸素量と水素量とを測定する実験部材として筒状本体部の中央近傍に鍔部を形成した鍔付き筒状物を使用すれば、前記鍔部によって前記蓋部に安定して筒状物を固定させることができること、前記筒状物に電極挿入用の薄層部を形成すれば、電極の挿入位置を指定することで電極どうしの接触を回避できることなどを見出し、本発明を完成させた。
【0020】
すなわち本発明は、マイクロスケール実験に使用されるマイクロスケール実験部材であって、両端が開放された筒状本体部と、前記筒状本体部の外周に形成された鍔部とからなり、前記鍔部は、前記筒状本体部の中央部と下端部との間に形成されたことを特徴とする、マイクロスケール実験用の鍔付き筒状物を提供するものである。
【0021】
また本発明は、前記筒状本体部には、内容量を示すメモリと電極挿入用の薄層部とが形成されていることを特徴とする、上記マイクロスケール実験用の鍔付き筒状物を提供するものである。
【0022】
更に、前記マイクロスケール実験用の鍔付き筒状物が収納された、マイクロスケール実験キットを提供するものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明のマイクロスケール実験用の鍔付き筒状物によれば、マルチウェルプレートの上部に形成した蓋部に前記鍔部を載置することで筒状物を安定して固定することができるため、失敗なくマイクロスケール実験を行うことができる。
【0024】
本発明のマイクロスケール実験用の鍔付き筒状物によれば、電極挿入用の薄層部を形成したためマチバリなどの電極を小さな力で挿入することができ、しかも薄層部によって電極位置を固定できるため、電極どうしの接触による短絡を防止でき、生徒が各人で簡便にマイクロスケール実験を行うことができる。
【0025】
本発明のマイクロスケール実験用の鍔付き筒状物によれば、筒状物にメモリが形成されているため、発生するガス量の測定を容易に行うことができる。しかも、鍔部によって回転が防止されるため、メモリの判読も容易に行うことができる。
【0026】
本発明のマイクロスケール実験用の鍔付き筒状物によれば、マチバリなどの電極挿入位置が固定されているため、実験装置の統一化、規格化、標準化が可能となり、より均一なマイクロスケール実験が可能となる。このため、例えば、2本の鍔付き筒状物を使用して発生ガス量比を評価する場合には、鍔付き筒状物に収集したガス量の高さから容易にガス比を観察することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、本発明の鍔付き筒状物の好適な態様の一例であり、図1(a)はその平面図、図1(b)は正面図、図1(c)は側面図であり、図1(d)は底面図である。
【図2】図2は、図1(b)のA−A線断面図である。
【図3】図3は、図1に示す本発明の鍔付き筒状物の記薄層部(116)の断面図であり、図3(a)はA−A線断面図、図3(b)はB−B線断面図である。
【図4】図4は、図21に示すシリンジに代えて本発明の鍔付き筒状物(100)を使用した際の状態を示す説明図である。
【図5】図5(a)は、蓋部(20)に形成した貫通孔(e1、e2)に鍔付き筒状物(100)を、鍔部(120)の長尺方向を平行して直立させた場合の平面図である。また図5(b)は、鍔付き筒状物(100)の鍔部(120)に窪み(121)が形成される態様を説明する平面図である。
【図6】図6は、本発明の鍔付き筒状物の平面図(a)、正面図(b)、底面図(c)であり、図1に示す態様の鍔部(120)を90°回転させて胴体部(115)に連接させる態様を説明する図である。
【図7】図7は、蓋部(20)に形成した貫通孔(e1、e2)に図6に示す鍔付き筒状物(100)を、背面部を対向させて直立させた場合の平面図を示す。
【図8】図8は、本発明の鍔付き筒状物の平面図(a)、正面図(b)、底面図(c)である。鍔部(120)が一部が短径となった変形円である。
【図9】図9(a)は、蓋部(20)に形成した貫通孔(e1、e2)に図8に示す鍔付き筒状物(100)を、背面部を対向させて直立させた場合の平面図である。また図9(b)は、鍔付き筒状物(100)の鍔部(120)に窪み(123)が形成される態様を説明する平面図である。
【図10】図10は、図9(b)に示す鍔部(120)窪み(123)を有する鍔付き筒状物(100)を、蓋部のウェル(E)に形成した貫通孔(e1、e2)に装着した際の側面図である。
【図11】図11は、図8に示す本発明の鍔付き筒状物の薄層部(116)の断面図であり、図11(a)はA−A線断面図、図11(b)はB−B線断面図である。
【図12】本発明のマイクロスケール実験キットの斜視図である。
【図13】従来の、マルチウェルプレートの一つのウェルを使用して、水の電気分解を行う方法を説明する説明図であり、ウェルに2本のポリスポイトが倒れて挿入される態様を説明する横断面図である。
【図14】図14は、マイクロスケール実験器具を構成するマルチウェルプレートを説明する図であり、図14(a)は、底面部に中空柱状のウェルが形成されたマルチウェルプレートの平面図であり、図14(b)は、図14(a)のX−X'線の横断面図である。底面部に垂設する側壁が底面部の全周にわたって形成されている。
【図15】従来のマルチウェルプレートを使用した水の電気分解方法の平面図である。
【図16】図16は、マイクロスケール実験器具を構成する蓋部を説明する図であり、図16(a)は、蓋部の平面図、図16(b)は図16(a)のX−X'線の横断面図である。
【図17】図17は、図14に示すマルチウェルプレート(10)に、図16に示す蓋部(20)を被覆した態様の横断面図である。
【図18】図18は、図14に示すマルチウェルプレート(10)のウェル(15)と図16に示す蓋部(20)の環状突出部(27)との符号を対応させ、さらに、各環状突出部(27)に形成された貫通孔の番号を説明する図である。
【図19】図19は、図18のウェル(E)に硫酸ナトリウム水溶液などの電解質溶液を収納し、ウェル(E)の上部を環状突出部(E)が被覆するように蓋部(20)を被せ、前記蓋部(20)の環状突出部(E)に形成された2つの中円形の貫通孔(e1)および貫通孔(e2)からそれぞれポリスポイト(210')を挿入する態様を説明する図である。
【図20】図20(a)は、図19の部分横断面図であり、使用された蓋部(20)の環状突出部(E)の内側に形成された貫通孔の平面図を図20(b)に示す。
【図21】従来の、三方活栓付きのシリンジの側面図である。
【図22】図20のスポイト(210')に代えて図21に示す三方活栓付きのシリンジを使用した態様の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の第一は、マイクロスケール実験に使用されるマイクロスケール実験部材であって、両端が開放された筒状本体部と、前記筒状本体部の外周に形成された鍔部とからなり、前記鍔部は、前記筒状本体部の中央部と下端部との間に形成されたことを特徴とする、マイクロスケール実験用の鍔付き筒状物である。マイクロスケール実験は、前記図18に例示するような所定形状の貫通孔が形成された蓋部(20)を脱着自在に配設するマルチウェルプレート(10)を使用することが簡便であり、このような蓋部(20)を使用する前記マイクロスケール実験器具において、本発明の鍔付き筒状物を説明する。なお、便宜のため、図18に示すように、ウェル(E)に対応する環状突出部を環状突出部(E)と称し、前記環状突出部(E)の内側に形成される貫通孔(25)を、貫通孔(e1)、貫通孔(e2)などと特定して、以下に説明する。
(1)鍔付き筒状物
本発明の鍔付き筒状物は、マイクロスケール実験に使用する実験部材であって、例えば、水の電気分解に使用する従来のシリンジやスポイトに代えて使用しうるものである。従来のシリンジを使用する場合について説明する。図22から明らかなように、マルチウェルプレート(10)の上面に所定形状の貫通孔が形成された蓋部(20)を装着するマイクロスケール実験に従来のシリンジを使用する場合には、シリンジの端部に形成されたフランジが前記蓋部(20)の貫通孔(e1、e2)に挿入できないため、マルチウェルプレート(10)に蓋部(20)を被覆して、シリンジを挿入することができず、操作が煩雑であった。しかしながら、本発明によれば、蓋部(20)をマルチウェルプレートに被覆してから蓋部(20)の貫通孔(e1、e2)に筒状物の下端から挿入できる。このため、長尺のシリンジ上部を貫通孔(e1、e2)に通す必要がなく、簡便にマイクロスケール実験を行うことができる。また、鍔部を蓋部(20)の上面に載置することで長尺の鍔付き筒状物を安定して直立させることができる。本発明の鍔付き筒状物の好適な態様の一例を図1に示し、詳細に説明する。
本発明の鍔付き筒状物は、両端が開放された筒状本体部と、前記筒状本体部の外周に形成された鍔部とからなり、前記鍔部は、前記筒状本体部の中央部と下端部との間に形成されたことを特徴とする。更に、前記筒状本体部には、内容量を示すメモリと電極挿入用の薄層部とが形成されていてもよい。
【0029】
図1(a)は、本発明の鍔付き筒状物の平面図、図1(b)は、前記鍔付き筒状物の正面図、図1(c)は、前記鍔付き筒状物の側面図であり、図1(d)は、前記鍔付き筒状物の底面図である。
【0030】
本発明の鍔付き筒状物(100)は、図1(b)に示すように、筒状本体部(110)と鍔部(120)とからなり、前記筒状本体部(110)の両端は開放端となっている。図22に示すように、一端を硫酸ナトリウム水溶液などに挿入し、他の一端に三方活栓を接続すれば、前記三方活栓から吸引することで筒状本体部(110)内に硫酸ナトリウム水溶液を導入することができる。従って、鍔付き筒状物の一端開放部は、三方活栓が接続しうる三方活栓接続部(111)を有することが好ましい。なお、三方活栓とは例示であり、例えば三方活栓に代えてゴムチューブを連結しても同様に筒状本体部(110)内に他の内容物を導入し、クリップなどで把持することができる。従って、前記三方活栓接続部(111)は、三方活栓に限定されるものではなく他の実験部材を接続させるものであってもよい。
【0031】
また、他の一端開放部は、上記蓋部(20)に形成した貫通孔(e1、e2)に挿入しうるサイズおよび形状の、貫通孔挿入部(117)となっている。なお、貫通孔挿入部(117)の端部の外周のサイズは、使用する蓋部(20)に形成した貫通孔(e1、e2)の形状に対応させて、適宜選択することができるが、前記貫通孔挿入部(117)の端部の外周は、前記蓋部(20)の内周より小径である。
【0032】
また、筒状本体部(110)の胴体部(115)は、筒状であれば、円筒状、角筒状などであってもよい。更に、全長に亘り略同径の筒状であってもよく、前記三方活栓接続部(111)から貫通孔挿入部(117)に向かって、テーパーが形成されるものであってもよい。更に、前記貫通孔挿入部(117)も、胴体部(115)から貫通孔挿入部(117)の端部に向かって広がるテーパーが形成されるものであってもよい。本発明の鍔付き筒状物は、内容量に対応するメモリ(113)が形成されていることが好ましい。水の電気分解などで発生するガスを捕集した場合、捕集したガス量を測定するためである。図1(b)、図1(c)では、前記メモリ(113)は、胴体部(115)の上端から開始されかつ正面部にのみ形成されているが、三方活栓接続部(111)を含めてメモリ(113)を形成してもよく、また、正面部に限定されず全周にメモリ(113)が形成されるものであってもよい。全周にメモリ(123)が形成される場合には、本発明の鍔付き筒状物がいずれの方向に直立する場合でも、その観察が容易だからである。なお、前記メモリ(113)は、鍔付き筒状物(100)の表面に彫刻によって形成されるものであってもよく、印刷によって形成されるものであってもよい。更に、印刷されたメモリラベルを貼ってもよい。
【0033】
また、図1(b)、図1(c)に示すように、胴体部(115)には、薄層部(116)が形成されていることが好ましい。薄層部(116)を介してマチバリなどの電極を容易に挿入することができるからである。図1(b)のA−A線断面図を図2に示す。前記薄層部(116)の最も薄い部分の厚さ(d)は、約0.1〜0.8mmであることが好ましく、より好ましくは0.2〜0.5mmである。この範囲であれば、マチバリなどの電極の挿入が容易であり、かつ発生したガスの遺漏を防止できる。また、図3に、前記薄層部(116)の断面図を示すが、図3(a)、図3(b)に示すように、薄層部(116)は、その中心を最薄層とする均一な傾斜のすり鉢状であってもよい。なお、図3(a)は本発明の鍔付き筒状物(100)の長手方向の断面図であり、図3(b)は本発明の鍔付き筒状物(100)の幅方向の断面図である。前記薄層部(116)を構成する図3(a)、図3(b)に示す傾斜角(θa)および傾斜角(θb)は、同一でも異なっていてもよく、好ましくは30〜60°である。上記範囲であれば、マチバリなどの電極の挿入の方向づけを容易に行うことができるからである。なお、図3(a)、図3(b)では、傾斜角(θa)および傾斜角(θb)はそれぞれ左右対称である態様を示す。
【0034】
本発明の鍔付き筒状物は、鍔部(120)を有することを特徴とする。前記鍔部(120)は、前記筒状本体部(110)の中央部と下端部との間、より具体的には、前記胴体部(115)の貫通孔挿入部(117)側端部に形成されている。筒状本体部(110)の下端にある貫通孔挿入部(117)をマイクロスケール実験器具を構成する蓋部(20)の貫通孔(e1、e2)に挿入すると、前記鍔部(120)の下面と前記蓋部(20)の上面とが接触して、前記筒状物(100)を蓋部(20)の貫通孔(e1、e2)に安定して直立させることができる。
【0035】
前記鍔部(120)の形状は、鍔付き筒状物(100)を前記蓋部(20)に安定に直立しうる形状であれば、特に制限はない。従って、円形、長楕円形、方形などのいずれであってもよい。しかしながら、例えば図1(a)、図1(d)に示すように、略長楕円形であることが好ましい。図21に示すシリンジに代えて本発明の鍔付き筒状物(100)を使用した際の状態を図4に示す。図22と相違して、鍔部(120)が蓋部(20)の上面に接触し、鍔付き筒状物(100)を安定に直立させることができる。
【0036】
また、蓋部(20)に形成した貫通孔(e1、e2)に上記鍔付き筒状物(100)を、鍔部(120)の長尺方向を平行して直立させた場合の平面図を図5(a)の実線で示す。鍔部(120)の長径によって蓋部(20)の上面に安定して鍔付き筒状物(100)を載置することができ、かつ鍔部(120)の長手方向が平行する際に前記鍔部(120)の短径と短径とが接触するため前記鍔付き筒状物(100)の回転が防止され、薄層部(116)の向きが固定される。なお、前記薄層部(116)に挿入されるマチバチなどの電極は、2つの貫通孔(e1、e2)の中心を結ぶ線と直交し、かつ相互に対向して挿入することができる。これにより、マチバリなどの電極位置が接近しないように固定され、鍔付き筒状物(100)が回転することで発生する電極間の短絡を簡便に防止することができる。
【0037】
なお、本発明の鍔付き筒状物(100)は、短径どうしを接触させる配置に限定されず、図5(a)の一点斜線で示すように、鍔付き筒状物(100)の背面部を対向して貫通孔(e1、e2)に挿入してもよい。この態様であれば、薄層部(116)が2つの貫通孔(e1、e2)の中心を結ぶ線上に背中合わせに配置されるためマチバリなどの電極の挿入が容易であり、かつ前記電極の挿入方向が対向するためその接近をより確実に防止することができる。なお、このような使用を可能とするため、前記鍔部(120)の長径の突出幅(w1)は、蓋部(20)に設けた2つの貫通孔(e1、e2)の外周間(w2)未満とすることが好ましい。蓋部(120)に形成した貫通孔(e1、e2)に鍔付き筒状物を直立させた場合に、一方の鍔付き筒状物の直立を妨げることがない。更に、鍔部(120)の長尺側の端部は、図5(b)に示すように、中央部(121)に窪みが形成されるものであってもよい。このような窪み(121)と他の鍔付き筒状物(100)の胴体部(115)の外周との嵌合により鍔付き筒状物(100)の回転を確実に防止することができる。
本発明における鍔部(120)の形状は、上記に限定されるものではない。例えば、略楕円形の鍔部(120)であっても、図1に示す態様の鍔部(120)を90°回転させて胴体部(115)に連接させる態様であってもよい。これを図6に示す。図1との相違は、胴体部(115)と鍔部(120)の回転方向のみである。また、図7に、蓋部(20)に形成した貫通孔(e1、e2)に図6に示す鍔付き筒状物(100)を、背面部を対向させて直立させた場合の平面図を示す。前記図5(a)の実線で示す鍔部(120)と相違して、図7では、薄層部(116)が2つの貫通孔(e1、e2)の中心を結ぶ線上に背中合わせに形成され、電極どうしの接触による短絡をより効果的に回避することができる。なお、2つの鍔部(120)の短径と短径とが接触するため、直立する鍔付き筒状物(100)の自由回転が防止され安定する。
【0038】
更に、図8に示すように、鍔部(120)は変形したものであってもよい。図8(a)はこのような変形鍔部(120)を有する鍔付き筒状物の平面図、図8(b)は正面図、図8(c)は底面図である。図8で示す鍔付き筒状物の鍔部(120)は、一部が短径となった変形円であり、前記短径が鍔付き筒状物の正面側となるように配設される態様を示す。また、図9に、蓋部(20)に形成した貫通孔(e1、e2)に図8に示す鍔付き筒状物(100)を、背面部を対向させて直立させた場合の平面図を実線で示す。前記図7と同様に、薄層部(116)が2つの貫通孔の中心を結ぶ線上に背中合わせに形成されている。また、2つの鍔部(120)の短径と短径とが接触するため、直立する鍔付き筒状物(100)の自由回転が防止され安定し、電極どうしの接触による短絡を防止することができる。なお、鍔部(120)の長径は、蓋部(120)に形成した貫通孔(e1、e2)に鍔付き筒状物を直立させた場合、一方の鍔付き筒状物の直立を妨げるものであってはならない。このような使用を可能とするため、前記鍔部(120)の長径の突出幅(w3)は、蓋部(20)に設けた2つの貫通孔(e1、e2)の外周間(w2)未満とすることが好ましい。更に、鍔部(120)の長尺側の端部は、図9(b)に示すように、中央部に窪み(123)が形成されるものであってもよい。このような窪み(123)と他の鍔付き筒状物(100)の胴体部(115)または貫通孔挿入部(117)の外周との嵌合により鍔付き筒状物(100)の回転を確実に防止することができる。この態様を図10に示す。図10は、図9(b)に示す中央に窪み(133)が形成される鍔部(120)を有する鍔付き筒状物(α、β)の2本をウェル(E)に形成した貫通孔(e1)、貫通孔(e2)にそれぞれ装着した状態の側面図である。2つの鍔付き筒状物(100)の鍔部(120)の窪み(123)が対向するように貫通孔(e1)と貫通孔(e2)とに挿入されると、鍔付き筒状物(α)の鍔部(120)の窪み(123)が、鍔付き筒状物(β)の胴体部(115)と嵌合し、鍔付き筒状物(β)の鍔部(120)の窪み(123)が、鍔付き筒状物(α)の貫通孔挿入部(117)と嵌合してする。2つの鍔部(120)は、鍔付き筒状物(α)の鍔部(120)の下面が、鍔付き筒状物(β)の鍔部(120)の上面と接触するため段差を生じるが、相互の胴体部(115)または貫通孔挿入部(117)と窪み(123)とが嵌合するため、安定して直立することができる。なお、前記図5(b)の鍔部(120)も同様である。
【0039】
更に、本発明の鍔付き筒状物において、前記薄層部(116)は、図3の態様に限定されるものではなく、図8(b)に示すように、端部が太くなるしずく状であってもよい。図11に薄層部(116)の断面図を示す。図11(a)は、このような薄層部(116)のA−A線断面図、図11(b)はB−B線縦断面図である。本発明の鍔付き筒状物(100)を、貫通孔挿入部(117)を下に向けて直立させた際の水平線に対し、前記薄層部の貫通孔挿入部(117)側の傾斜角(θ1)と三方活栓接続部(111)側の傾斜角(θ2)とを異ならせている。前記傾斜角(θ1)は、50〜85°であることが好ましく、一方傾斜角(θ2)は3〜10°であることが好ましい。図11(a)に示すように、縦方向の一方になだらかな傾斜角(θ1)を形成させ、マチバリなどの電極をこの傾斜に沿って挿入することができる。なお、このような薄層部(116)の形状は、図8に示す鍔付き筒状物に限定して形成されるものではなく、図1、図6などの鍔付き筒状物において形成されるものであってもよい。
(4)蓋部の貫通孔
前記したように、蓋部(20)に形成する貫通孔(25)の形状は、マイクロスケール実験部材を容易に支持しうるものであれば、特に限定はない。図18に示す貫通孔で例示すれば、環状突出部の内側に線状の貫通孔が少なくとも2つ形成された環状突出部(A)を有する蓋部(20)を使用して、ボルタ電池の実験を行うことができる。図18のウェル(A)に希硫酸をいれ、ウェル(A)の上部を環状突出部(A)が被覆するように蓋部(20)を被せ、環状突出部(A)に形成された線状の貫通孔(a2)から亜鉛板(240)を挿入し、環状突出部(A)に形成された線状の貫通孔(a4)から銅板(250)を挿入する。電圧計で前記亜鉛板(240)と銅板(250)とをつなぎ、電圧を測定することができる。なお、メロディをつなぐと音をならすことができる。
【0040】
また、環状突出部の内側に線状の貫通孔が少なくとも2つ形成された環状突出部(B)、環状突出部(C)とを有する蓋部(20)を使用して、ろ紙片の塩橋を使用したダニエル電池の実験を行うことができる。図18のウェル(B)に硫酸銅溶液と銅板(250)とを入れ、ウェル(C)に硫酸亜鉛溶液と亜鉛板(240)を入れ、ウェル(B)、ウェル(C)の上部を環状突出部(B)、環状突出部(C)が被覆するように蓋部(20)を被せ、前記蓋部(20)の環状突出部(B)に形成された線状の貫通孔(b2)から銅板(250)を挿入し、環状突出部(C)に形成された線状の貫通孔(c4)から亜鉛板(240)を挿入し、環状突出部(B)や環状突出部(C)の内側に形成された線状の貫通孔(b4、c2)から、ウェル(B)、ウェル(C)をまたぐ様にろ紙の塩橋(260)を挿入する。
【0041】
また、環状突出部の内側に小円形の貫通孔が2つと、線状の貫通孔が少なくとも1つ形成された環状突出部(D)を有する蓋部(20)を使用して、指示薬などを加えた水溶液の電気分解の実験を行うことができる。図18のウェル(D)に硫酸ナトリウム水溶液とフェノールフタレインをいれ、ウェル(D)の上部を環状突出部(D)が被覆するように蓋部(20)を被せ、環状突出部(D)に形成された小円形の貫通孔(d1)、貫通孔(d5)に鉛筆の芯などからなる電極(270)をそれぞれ挿入し、線状の貫通孔(d3)からろ紙(280)を挿入して前記電極(270)を仕切り、前記電極(270)に電流電圧を印加する。硫酸ナトリウムが電気分解され、ろ紙で仕切った一方の電極側に水酸化ナトリウムが生成されると、フェノールフタレインによる赤色を観察することができる。
【0042】
また、環状突出部の内側に小円形の貫通孔が形成された環状突出部(F)と、環状突出部の内側に大円形の貫通孔が形成された環状突出部(H)とを有する蓋部(20)を使用して、爆鳴気と呼ばれる燃焼実験を行うことができる。図18のウェル(F)に洗剤液を入れ、ウェル(F)、ウェル(H)の上部を環状突出部(F)、環状突出部(H)が被覆するように蓋部(20)を被せ、前記蓋部(20)の環状突出部(H)に形成された大円形の貫通孔(h)からウェル(H)にポリスポイト(210')を挿入し、ポリスポイト(210')の先端を環状突出部(F)の貫通孔(f2)から洗剤液を入れたウェル(F)に導入して、実験をすることができる。電極に直流電圧を印加し、ウェル(F)に溜まった気体を洗剤液の泡に閉じ込め、この泡に点火すればよい。
【0043】
更に、環状突出部の内側に弧状の貫通孔と線状の貫通孔とが形成された環状突出部(G)を有する蓋部(20)を使用して、半透膜を使用するダニエル電池の実験を行うことができる。図18に示すウェル(G)に硫酸銅水溶液をいれ、ウェル(G)の上部を環状突出部(G)が被覆するように蓋部(20)を被せ、前記蓋部(20)の環状突出部(G)に形成された弧状の貫通孔(g2)からウェル(G)に亜鉛板(240)が挿入された前記半透膜(230)を挿入し、線状の貫通孔(g1)に銅板(250)を挿入する。
【0044】
また、環状突出部の内側に中円形の貫通孔が2つと、線状の貫通孔が1つ形成された環状突出部(I)を有する蓋部(20)を使用して、指示薬などを加えた水溶液の電気分解の実験を行うことができる。図18のウェル(I)に硫酸ナトリウム水溶液とフェノールフタレインをいれ、ウェル(I)の上部を環状突出部(I)が被覆するように蓋部(20)を被せ、環状突出部(I)に形成された中円形の貫通孔(i1)、貫通孔(i3)に炭素棒などからなる電極(270)をそれぞれ挿入し、線状の貫通孔(i2)からろ紙(280)を挿入し、前記電極に電流を流す。硫酸ナトリウムが電気分解され、水酸化ナトリウムが生成されると、フェノールフタレインによる赤色を観察することができる。
【0045】
また、環状突出部の内側に2つの中円形の貫通孔が形成された環状突出部(J)が形成された蓋部を使用して塩化銅水溶液の電気分解の実験を行うことができる。図18のウェル(J)に塩化銅水溶液を入れ、ウェル(J)の上部を環状突出部(J)が被覆するように蓋部(20)を被せ、前記蓋部(20)の環状突出部(J)に形成された中円形の貫通孔(j1)、貫通孔(j3)からウェル(J)に電極(270)を挿入して、電極を固定することができる。
(5)製造方法
本発明の鍔付き筒状物は、射出成形などの型抜き成形で製造することができる。
【0046】
本発明の鍔付き筒状物を構成する部材としては、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂やポリアミド系樹脂、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ABS、ASなどの透明樹脂を例示することができる。
【0047】
なお、メモリ(113)や薄層部(116)を金型に形成することで、簡便に成形することができる。
(6)マイクロスケール実験キット
本発明の第二は、前記マイクロスケール実験用の鍔付き筒状物が収納された、マイクロスケール実験キットである。
【0048】
マイクロスケール実験は、各学年に適した実験を構成することができ、前記した水の電気分解と爆鳴気、ダニエル電池、塩化銅水溶液の電気分解の他にも指示薬などを加えた水溶液の電気分解の実験などが例示できる。本発明では、このようなマイクロスケール実験に使用する部材として上記鍔付き筒状物(100)を収納し、および他の実験部材や試薬、前記マルチウェルプレートと蓋部を収納し、マイクロスケール実験キットとすることができる。
【0049】
マイクロスケール化学の実験例として、水の電気分解実験および爆鳴気として、前記マイクロスケール実験器具、9V乾電池、ワニ口クリップ(赤黒)、ポリピペット、ステンレス待ち針、水酸化ナトリウムや炭酸ナトリウムなどの電解質、石鹸水を使用する。また、体積比に関する実験としては、前記マイクロスケール実験器具、9V乾電池、ワニ口クリップ(赤黒)、注射器A、注射器B、ステンレス針、ゴム管、三方活栓、水酸化ナトリウムや炭酸ナトリウムなどの電解質を使用する。また、ダニエル電池に関する実験として、前記マイクロスケール実験器具、亜鉛板、銅板、半透膜、硫酸銅水溶液、硫酸亜鉛水溶液、電圧計、メロディを使用する。また、鉛蓄電池に関する実験として、前記マイクロスケール実験器具、9V乾電池、ワニ口クリップ(赤黒)、鉛板、硫酸、電圧計、メロディを使用する。また、ボルタ電池に関する実験として、前記マイクロスケール実験器具、亜鉛板、銅板、硫酸、電圧計、メロディを使用する。また、指示薬などを加えた水溶液の電気分解の実験として、前記マイクロスケール実験器具、9V乾電池、ワニ口クリップ(赤黒)、炭素棒、硫酸ナトリウム、BTB、フェノールフタレイン溶液を使用する。本発明の好適なマイクロスケール実験キットの斜視図を、図12に示す。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、従来のマイクロスケール実験に使用するマルチウェルプレートとして、ウェルの上部に所定形状の貫通孔が形成された蓋部を装着してマイクロスケール実験器具とすることができ、安価に安全性と操作性に優れるマイクロスケール実験キットを調製することができ、有用である。
【符号の説明】
【0051】
10・・・マルチウェルプレート、
11・・・マルチウェルプレートの底面部、
15・・・中空柱状のウェル、
16・・・マルチウェルプレートの側壁部、
20・・・マルチウェルプレートに装着しうる蓋部、
21・・・蓋部の天面部、
23・・・蓋部の側面部、
25・・・蓋部の貫通孔、
27・・・蓋部の環状突出部、
100・・・本発明の鍔付き筒状物、
110・・・本発明の鍔付き筒状物の筒状本体部、
111・・・筒状本体部のの三方活栓接続部、
113・・・筒状本体部に形成したメモリ
115・・・筒状本体部の胴体部、
116・・・筒状本体部に形成した薄層部、
117・・・筒状本体部の貫通孔挿入部、
120・・・本発明の鍔付き筒状物の鍔部、
121,123・・・本発明の鍔付き筒状物の窪み、
200・・・マルチウェルプレート、
201・・・ウェル、
203・・・硫酸ナトリウム水溶液、
210・・・鍔付き筒状物
210'・・・ポリスポイト、
220・・・マチバリ,
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来のシリンジやスポイトに代えてマイクロスケール実験に安全かつ簡便に使用しうるマイクロスケール実験用部材に関し、より詳細には、水を電気分解して2:1の体積比の水素と酸素とを発生させる実験に好適に使用できるマイクロスケール実験用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、従来に比して実験スケールを1/10〜1/100程度に縮小し、使う薬品を少なくして実験する「マイクロスケール実験」が、環境に配慮するグリーンケミストリーの考えに基づいて、日本の教育現場に普及しつつある。
【0003】
このようなマイクロスケール実験として、(1)金属および金属イオンの反応、(2)酸と塩基の実験:酸性とアルカリ性、酸塩基指示薬、中和、塩の加水分解、緩衝溶液、(3)電池:ボルタ、ダニエル、鉛蓄電池、燃料電池、(4)塩化銅水溶液をはじめとするいろいろな電解質水溶液の電気分解、(5)酸化還元反応:金属のイオン化傾向、(6)化学平衡の実験、(7)化学反応の反応速度の実験、(8)水の電気分解の実験、(9)爆鳴気の実験などを例示することができる。
【0004】
水の電気分解で例示すれば、従来は、H型電気分解装置やホフマン型電気分解装置を使用し、電解質溶液である硫酸ナトリウム水溶液を使用していたが、電解質水溶液の使用量が大量であること、液だめとコックを同時操作することが難しいこと、装置などが高価であることなどの問題があった。
【0005】
しかしながら、例えばマイクロスケール実験では、図13に示すように、マルチウェルプレート(200)の1つのウェル(201)に硫酸ナトリウム水溶液(203)を2ml入れ、先端を5mm残して切断した2本のポリスポイト(210')にそれぞれマチバリ(220)を挿入し、ポリスポイトに硫酸ナトリウム水溶液を満たして前記ウェル(201)に立て、前記マチバリ(220)を電極として電源装置につなぎ約5分間、直流電圧を印加して行うことができる(非特許文献1)。マチバリ(220)に直流電圧を印加すると、約10分間の電気分解によって発生する気体の体積比、水素:酸素=2:1を観察することができる。この際、USBハブを利用した電源装置による電圧値は約5V、電流値は約10〜11mA、実験に必要な硫酸ナトリウム水溶液量は、約10mlである。従来の水の電気分解実験に比べ、電解質水溶液量が非常に少量であり、短時間で実験結果を得られる利点もある。
【0006】
このように、マイクロスケール実験によれば、実験時間の短縮と準備作業や後片付け作業の軽減することができる。また、マイクロスケール実験によれば、同一のマルチウェルプレートを使用して多種類の実験を行うことができる。更に、装置も小型であるため生徒が各人で実験でき、実験の体験により理解をより深め、各人の問題解決能力や創造力を育成することもできる。同時に、環境への配慮を考える力も身につけることが出来る。
【0007】
このようなマイクロスケール実験では、例えば、3×4にウェルが配列された市販の細胞培養用マルチプレートを使用することができ、マルチウェルプレートは、底面積が大きいため、少量の試薬を使用する実験でも高い実験操作の安定性を確保しうる。図14に、このようなマイクロスケール実験に使用しうるマルチウェルプレート(10)を示す。図14(a)はその平面図であり、図14(b)は、図14(a)のX−X'線の横断面図である。図14では、底面部(11)に、中空柱状のウェル(15)が3×4で配列され、底面部には、これに垂設される側壁部(16)が底面部の全周にわたって形成されている態様を示す。このようなマルチウェルプレート(10)は、中空柱状であればよく、柱状は円柱に限定されるものではなく、各ウェル(15)のサイズもマイクロスケール実験に好適に使用できるよう、内容量が0.5〜10mlとなるようにその高さや面積が選択され、ウェルの配列も3×4に限定されるものでなく、マイクロスケール実験に応じて適宜選択される。また、図14に示すマルチウェルプレート(10)において、底面部(11)に側壁部(16)が形成されていないものであってもよい。この態様であれば、たとえば気体が発生する実験など、ウェル(15)内での変色や沈殿、気泡の発生などがウェル(15)の側面から容易に観察できるからである。
【0008】
図15は、このような細胞培養用マルチプレートにより上記マイクロスケール実験を行っている状態を示す説明図である。硫酸ナトリウム水溶液を収納したウェル(E)に、2本のポリスポイト(210')が挿入され、各ポリスポイトに配設されたマチバリ(220)が電極となり、この電極にクリップコードを介して電源装置の陽極、陰極が連設されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】坂東 舞他3名、簡単にできる水の電気分解実験、マイクロスケール実験の応用、インターネット〈URL:http://natsci.kyokyo−u.ac.jp/〜rigaku/forum/7gou/bando7gou35−39.pdf#search=’マイクロスケール実験’>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、図15に示す水の電気分解実験では、特定のウェル(E)に立てた2本のスポイト(210')に挿入したマチバリにクリップコードを連設させるため、スポイトの直立が困難となり、また重量のあるクリップコードによってスポイトが回転するなどその位置が不安定で、これらを両手で押える必要がある。マイクロスケール実験は、生徒が各人で実験できる利点があるが、生徒の両手がふさがっては実験の安全性、確実性が損なわれる場合がある。一方、特定の支持具を配備すれば、マイクロスケール実験キットが大掛かりなものとなる。
【0011】
そこで、このようなマイクロスケール実験器具として、前記マルチウェルプレートの上部を被覆する蓋部を設け、その蓋部にマイクロスケール実験に使用する部材を支持しうる貫通孔を形成したものがある。これを図16に例示する。図16(a)は、このような蓋部(20)の平面図、図16(b)は図16(a)のX−X'線の横断面図である。図16(a)、図16(b)に示すように、蓋部(20)は、天面部(21)と側面部(23)とからなり、天面部(21)には、少なくも1つのウェル(15)と対向する位置に、マイクロスケール実験に使用する部材を支持しうる貫通孔(25)が形成されている。このような蓋部を使用すれば、両手で部材を把持することなく安定化しうる。なお、同図に示す蓋部(20)には、前記貫通孔(25)の外周に、環状突出部(27)が形成されている。環状突出部(27)により、各ウェルとの境界部を形成したり、ウェル(15)の上端部と嵌合させて蓋部(20)のガタツキを抑え、また環状突出部(27)によってウェル内の液密を確保し、溶液の蒸発などを防止することができる。便宜のため、図14に示すマルチウェルプレート(10)に、図16に示す蓋部(20)を被覆したマイクロスケール実験器具の横断面図を図17に示す。図17に示す蓋部(20)には、蓋部(20)の前記ウェル(15)に対応し、かつ前記ウェル(15)の上端部の外側に環状突出部(27)が形成されている。貫通孔(15)は、前記環状突出部(27)の内側に形成されている。なお、前記環状突出部(27)の形成は任意であり、蓋部(20)の内側に存在しなくてもよい。また、前記蓋部(20)に形成する貫通孔(25)の形状は、マイクロスケール実験部材を容易に支持しうるものであれば、特に限定はない。マイクロスケール実験では、ウェル(15)に試薬やマイクロスケール実験部材を投入して使用するため、本願明細書では、マルチウェルプレートのウェル(15)と、そのウェル(15)に対向する蓋部(20)の環状突出部(27)とを同じ符号で示す。図18に、図14に示すマルチウェルプレート(10)のウェル(15)と図16に示す蓋部(20)の環状突出部(27)との符号を対応させ、さらに、各環状突出部(27)に形成された貫通孔に番号を付した説明図を示す。以降、ウェル(A)に対応する環状突出部を環状突出部(A)と称し、前記環状突出部(A)の内側に形成される貫通孔(25)を、貫通孔(a1)、貫通孔(a2)、貫通孔(a3)などで特定して説明する。
【0012】
上記マイクロスケール実験器具を使用すれば、例えば、図18のウェル(E)に硫酸ナトリウム水溶液などの電解質溶液を収納し、ウェル(E)の上部を環状突出部(E)が被覆するように蓋部(20)を被せ、前記蓋部(20)の環状突出部(E)に形成された2つの中円形の貫通孔(e1)および貫通孔(e2)からそれぞれポリスポイト(210')を挿入することができる。このような使用例の平面図を図19に示し、その部分横断面図を図20(a)に、使用された蓋部(20)の環状突出部(E)の内側に形成された貫通孔の平面図を図20(b)に示す。図20(a)に示すように、環状突出部(E)に形成された2つの中円形の貫通孔(e1)および貫通孔(e2)によってポリスポイト(210')がそれぞれ直立に支持されるため、実験者が実験器具を把持することなく、安定してマイクロスケール実験を行うことができる。ついで、硫酸ナトリウム水溶液に浸漬する前記スポイト(210')の先端から硫酸ナトリウム水溶液を吸引し、それぞれのスポイト(210')にマチバリ(220)を挿入し、クリップコードと電極とを連結すれば水が電気分解され酸素ガスと水素ガスとを発生する。これにより、一方のスポイト(210')内に酸素ガスが、他のスポイト(210')内に酸素ガスが集積され、その割合は、水素:酸素=2:1となる。
【0013】
また、上記スポイト(210')に代えて図21に示す三方活栓付きのシリンジを使用することもできる。シリンジのフランジ部を硫酸ナトリウム水溶液に浸漬し、シリンジの上部に連設した三方活栓から吸引することで容易に、シリンジ内に硫酸ナトリウム水溶液を導入することができる。また、シリンジは透明性に優れ、かつメモリが正確であり、より正確な実験を行うことができる。このようなシリンジを使用した態様の横断面図を図22に示す。
【0014】
しかしながら、従来のシリンジをマイクロスケール実験に使用する場合、蓋部(20)の使用により、実験者が実験器具を把持することなく安定してマイクロスケール実験を行うことができる点で優れるが、シリンジの下端部に形成されたフランジは蓋部(20)に形成した貫通孔(e1、e2)を通過することができない。このため、図22に示す態様とするには、硫酸ナトリウム水溶液が充填されたマルチウェルプレートにシリンジを挿入し、次いで、シリンジの頂部からを貫通孔(e1、e2)を貫通させてマルチウェルプレートの上部に蓋部(20)を被覆する必要があり、操作が煩雑となる。
【0015】
また、シリンジは剛性に優れるため、電極として使用するマチバリを挿入することが容易でなく、針先が曲がったりして特に小学生では極めて困難であり、教諭の介在が要求され、生徒各人が実験できる利点を十分に発揮することができない。
【0016】
更に、前記マチバリには、クリップコードを介して電源と接続させるが、陰極マチバリと陽極マチバリを把持する蓑虫クリップやワニクチクリップはシリンジに比して重量があるため、シリンジが回転してクリップ同士が接触して短絡する場合がある。また、シリンジの回転に伴ってシリンジ表面に形成されたメモリも回転し、ガス量の測定が容易でない。従って、内容量の判断を正確に行うことができ、かつ操作が安全かつ容易な実験部材の開発が望まれる。
【0017】
上記現状に鑑み、本発明は、マイクロスケール実験に使用する実験部材であって、水の電気分解によって発生する2種類の気体の発生量を安全かつ簡便に測定しうるマイクロスケール実験用部材を提供することを目的とする。
【0018】
また本発明は、上記マイクロスケール実験用部材を含むマイクロスケール実験キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、マルチウェルプレートとその上面を被覆する蓋部を使用するマイクロスケール実験、特に、このような実験器具を使用した水の電気分解実験を詳細に検討した結果、発生する酸素量と水素量とを測定する実験部材として筒状本体部の中央近傍に鍔部を形成した鍔付き筒状物を使用すれば、前記鍔部によって前記蓋部に安定して筒状物を固定させることができること、前記筒状物に電極挿入用の薄層部を形成すれば、電極の挿入位置を指定することで電極どうしの接触を回避できることなどを見出し、本発明を完成させた。
【0020】
すなわち本発明は、マイクロスケール実験に使用されるマイクロスケール実験部材であって、両端が開放された筒状本体部と、前記筒状本体部の外周に形成された鍔部とからなり、前記鍔部は、前記筒状本体部の中央部と下端部との間に形成されたことを特徴とする、マイクロスケール実験用の鍔付き筒状物を提供するものである。
【0021】
また本発明は、前記筒状本体部には、内容量を示すメモリと電極挿入用の薄層部とが形成されていることを特徴とする、上記マイクロスケール実験用の鍔付き筒状物を提供するものである。
【0022】
更に、前記マイクロスケール実験用の鍔付き筒状物が収納された、マイクロスケール実験キットを提供するものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明のマイクロスケール実験用の鍔付き筒状物によれば、マルチウェルプレートの上部に形成した蓋部に前記鍔部を載置することで筒状物を安定して固定することができるため、失敗なくマイクロスケール実験を行うことができる。
【0024】
本発明のマイクロスケール実験用の鍔付き筒状物によれば、電極挿入用の薄層部を形成したためマチバリなどの電極を小さな力で挿入することができ、しかも薄層部によって電極位置を固定できるため、電極どうしの接触による短絡を防止でき、生徒が各人で簡便にマイクロスケール実験を行うことができる。
【0025】
本発明のマイクロスケール実験用の鍔付き筒状物によれば、筒状物にメモリが形成されているため、発生するガス量の測定を容易に行うことができる。しかも、鍔部によって回転が防止されるため、メモリの判読も容易に行うことができる。
【0026】
本発明のマイクロスケール実験用の鍔付き筒状物によれば、マチバリなどの電極挿入位置が固定されているため、実験装置の統一化、規格化、標準化が可能となり、より均一なマイクロスケール実験が可能となる。このため、例えば、2本の鍔付き筒状物を使用して発生ガス量比を評価する場合には、鍔付き筒状物に収集したガス量の高さから容易にガス比を観察することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、本発明の鍔付き筒状物の好適な態様の一例であり、図1(a)はその平面図、図1(b)は正面図、図1(c)は側面図であり、図1(d)は底面図である。
【図2】図2は、図1(b)のA−A線断面図である。
【図3】図3は、図1に示す本発明の鍔付き筒状物の記薄層部(116)の断面図であり、図3(a)はA−A線断面図、図3(b)はB−B線断面図である。
【図4】図4は、図21に示すシリンジに代えて本発明の鍔付き筒状物(100)を使用した際の状態を示す説明図である。
【図5】図5(a)は、蓋部(20)に形成した貫通孔(e1、e2)に鍔付き筒状物(100)を、鍔部(120)の長尺方向を平行して直立させた場合の平面図である。また図5(b)は、鍔付き筒状物(100)の鍔部(120)に窪み(121)が形成される態様を説明する平面図である。
【図6】図6は、本発明の鍔付き筒状物の平面図(a)、正面図(b)、底面図(c)であり、図1に示す態様の鍔部(120)を90°回転させて胴体部(115)に連接させる態様を説明する図である。
【図7】図7は、蓋部(20)に形成した貫通孔(e1、e2)に図6に示す鍔付き筒状物(100)を、背面部を対向させて直立させた場合の平面図を示す。
【図8】図8は、本発明の鍔付き筒状物の平面図(a)、正面図(b)、底面図(c)である。鍔部(120)が一部が短径となった変形円である。
【図9】図9(a)は、蓋部(20)に形成した貫通孔(e1、e2)に図8に示す鍔付き筒状物(100)を、背面部を対向させて直立させた場合の平面図である。また図9(b)は、鍔付き筒状物(100)の鍔部(120)に窪み(123)が形成される態様を説明する平面図である。
【図10】図10は、図9(b)に示す鍔部(120)窪み(123)を有する鍔付き筒状物(100)を、蓋部のウェル(E)に形成した貫通孔(e1、e2)に装着した際の側面図である。
【図11】図11は、図8に示す本発明の鍔付き筒状物の薄層部(116)の断面図であり、図11(a)はA−A線断面図、図11(b)はB−B線断面図である。
【図12】本発明のマイクロスケール実験キットの斜視図である。
【図13】従来の、マルチウェルプレートの一つのウェルを使用して、水の電気分解を行う方法を説明する説明図であり、ウェルに2本のポリスポイトが倒れて挿入される態様を説明する横断面図である。
【図14】図14は、マイクロスケール実験器具を構成するマルチウェルプレートを説明する図であり、図14(a)は、底面部に中空柱状のウェルが形成されたマルチウェルプレートの平面図であり、図14(b)は、図14(a)のX−X'線の横断面図である。底面部に垂設する側壁が底面部の全周にわたって形成されている。
【図15】従来のマルチウェルプレートを使用した水の電気分解方法の平面図である。
【図16】図16は、マイクロスケール実験器具を構成する蓋部を説明する図であり、図16(a)は、蓋部の平面図、図16(b)は図16(a)のX−X'線の横断面図である。
【図17】図17は、図14に示すマルチウェルプレート(10)に、図16に示す蓋部(20)を被覆した態様の横断面図である。
【図18】図18は、図14に示すマルチウェルプレート(10)のウェル(15)と図16に示す蓋部(20)の環状突出部(27)との符号を対応させ、さらに、各環状突出部(27)に形成された貫通孔の番号を説明する図である。
【図19】図19は、図18のウェル(E)に硫酸ナトリウム水溶液などの電解質溶液を収納し、ウェル(E)の上部を環状突出部(E)が被覆するように蓋部(20)を被せ、前記蓋部(20)の環状突出部(E)に形成された2つの中円形の貫通孔(e1)および貫通孔(e2)からそれぞれポリスポイト(210')を挿入する態様を説明する図である。
【図20】図20(a)は、図19の部分横断面図であり、使用された蓋部(20)の環状突出部(E)の内側に形成された貫通孔の平面図を図20(b)に示す。
【図21】従来の、三方活栓付きのシリンジの側面図である。
【図22】図20のスポイト(210')に代えて図21に示す三方活栓付きのシリンジを使用した態様の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の第一は、マイクロスケール実験に使用されるマイクロスケール実験部材であって、両端が開放された筒状本体部と、前記筒状本体部の外周に形成された鍔部とからなり、前記鍔部は、前記筒状本体部の中央部と下端部との間に形成されたことを特徴とする、マイクロスケール実験用の鍔付き筒状物である。マイクロスケール実験は、前記図18に例示するような所定形状の貫通孔が形成された蓋部(20)を脱着自在に配設するマルチウェルプレート(10)を使用することが簡便であり、このような蓋部(20)を使用する前記マイクロスケール実験器具において、本発明の鍔付き筒状物を説明する。なお、便宜のため、図18に示すように、ウェル(E)に対応する環状突出部を環状突出部(E)と称し、前記環状突出部(E)の内側に形成される貫通孔(25)を、貫通孔(e1)、貫通孔(e2)などと特定して、以下に説明する。
(1)鍔付き筒状物
本発明の鍔付き筒状物は、マイクロスケール実験に使用する実験部材であって、例えば、水の電気分解に使用する従来のシリンジやスポイトに代えて使用しうるものである。従来のシリンジを使用する場合について説明する。図22から明らかなように、マルチウェルプレート(10)の上面に所定形状の貫通孔が形成された蓋部(20)を装着するマイクロスケール実験に従来のシリンジを使用する場合には、シリンジの端部に形成されたフランジが前記蓋部(20)の貫通孔(e1、e2)に挿入できないため、マルチウェルプレート(10)に蓋部(20)を被覆して、シリンジを挿入することができず、操作が煩雑であった。しかしながら、本発明によれば、蓋部(20)をマルチウェルプレートに被覆してから蓋部(20)の貫通孔(e1、e2)に筒状物の下端から挿入できる。このため、長尺のシリンジ上部を貫通孔(e1、e2)に通す必要がなく、簡便にマイクロスケール実験を行うことができる。また、鍔部を蓋部(20)の上面に載置することで長尺の鍔付き筒状物を安定して直立させることができる。本発明の鍔付き筒状物の好適な態様の一例を図1に示し、詳細に説明する。
本発明の鍔付き筒状物は、両端が開放された筒状本体部と、前記筒状本体部の外周に形成された鍔部とからなり、前記鍔部は、前記筒状本体部の中央部と下端部との間に形成されたことを特徴とする。更に、前記筒状本体部には、内容量を示すメモリと電極挿入用の薄層部とが形成されていてもよい。
【0029】
図1(a)は、本発明の鍔付き筒状物の平面図、図1(b)は、前記鍔付き筒状物の正面図、図1(c)は、前記鍔付き筒状物の側面図であり、図1(d)は、前記鍔付き筒状物の底面図である。
【0030】
本発明の鍔付き筒状物(100)は、図1(b)に示すように、筒状本体部(110)と鍔部(120)とからなり、前記筒状本体部(110)の両端は開放端となっている。図22に示すように、一端を硫酸ナトリウム水溶液などに挿入し、他の一端に三方活栓を接続すれば、前記三方活栓から吸引することで筒状本体部(110)内に硫酸ナトリウム水溶液を導入することができる。従って、鍔付き筒状物の一端開放部は、三方活栓が接続しうる三方活栓接続部(111)を有することが好ましい。なお、三方活栓とは例示であり、例えば三方活栓に代えてゴムチューブを連結しても同様に筒状本体部(110)内に他の内容物を導入し、クリップなどで把持することができる。従って、前記三方活栓接続部(111)は、三方活栓に限定されるものではなく他の実験部材を接続させるものであってもよい。
【0031】
また、他の一端開放部は、上記蓋部(20)に形成した貫通孔(e1、e2)に挿入しうるサイズおよび形状の、貫通孔挿入部(117)となっている。なお、貫通孔挿入部(117)の端部の外周のサイズは、使用する蓋部(20)に形成した貫通孔(e1、e2)の形状に対応させて、適宜選択することができるが、前記貫通孔挿入部(117)の端部の外周は、前記蓋部(20)の内周より小径である。
【0032】
また、筒状本体部(110)の胴体部(115)は、筒状であれば、円筒状、角筒状などであってもよい。更に、全長に亘り略同径の筒状であってもよく、前記三方活栓接続部(111)から貫通孔挿入部(117)に向かって、テーパーが形成されるものであってもよい。更に、前記貫通孔挿入部(117)も、胴体部(115)から貫通孔挿入部(117)の端部に向かって広がるテーパーが形成されるものであってもよい。本発明の鍔付き筒状物は、内容量に対応するメモリ(113)が形成されていることが好ましい。水の電気分解などで発生するガスを捕集した場合、捕集したガス量を測定するためである。図1(b)、図1(c)では、前記メモリ(113)は、胴体部(115)の上端から開始されかつ正面部にのみ形成されているが、三方活栓接続部(111)を含めてメモリ(113)を形成してもよく、また、正面部に限定されず全周にメモリ(113)が形成されるものであってもよい。全周にメモリ(123)が形成される場合には、本発明の鍔付き筒状物がいずれの方向に直立する場合でも、その観察が容易だからである。なお、前記メモリ(113)は、鍔付き筒状物(100)の表面に彫刻によって形成されるものであってもよく、印刷によって形成されるものであってもよい。更に、印刷されたメモリラベルを貼ってもよい。
【0033】
また、図1(b)、図1(c)に示すように、胴体部(115)には、薄層部(116)が形成されていることが好ましい。薄層部(116)を介してマチバリなどの電極を容易に挿入することができるからである。図1(b)のA−A線断面図を図2に示す。前記薄層部(116)の最も薄い部分の厚さ(d)は、約0.1〜0.8mmであることが好ましく、より好ましくは0.2〜0.5mmである。この範囲であれば、マチバリなどの電極の挿入が容易であり、かつ発生したガスの遺漏を防止できる。また、図3に、前記薄層部(116)の断面図を示すが、図3(a)、図3(b)に示すように、薄層部(116)は、その中心を最薄層とする均一な傾斜のすり鉢状であってもよい。なお、図3(a)は本発明の鍔付き筒状物(100)の長手方向の断面図であり、図3(b)は本発明の鍔付き筒状物(100)の幅方向の断面図である。前記薄層部(116)を構成する図3(a)、図3(b)に示す傾斜角(θa)および傾斜角(θb)は、同一でも異なっていてもよく、好ましくは30〜60°である。上記範囲であれば、マチバリなどの電極の挿入の方向づけを容易に行うことができるからである。なお、図3(a)、図3(b)では、傾斜角(θa)および傾斜角(θb)はそれぞれ左右対称である態様を示す。
【0034】
本発明の鍔付き筒状物は、鍔部(120)を有することを特徴とする。前記鍔部(120)は、前記筒状本体部(110)の中央部と下端部との間、より具体的には、前記胴体部(115)の貫通孔挿入部(117)側端部に形成されている。筒状本体部(110)の下端にある貫通孔挿入部(117)をマイクロスケール実験器具を構成する蓋部(20)の貫通孔(e1、e2)に挿入すると、前記鍔部(120)の下面と前記蓋部(20)の上面とが接触して、前記筒状物(100)を蓋部(20)の貫通孔(e1、e2)に安定して直立させることができる。
【0035】
前記鍔部(120)の形状は、鍔付き筒状物(100)を前記蓋部(20)に安定に直立しうる形状であれば、特に制限はない。従って、円形、長楕円形、方形などのいずれであってもよい。しかしながら、例えば図1(a)、図1(d)に示すように、略長楕円形であることが好ましい。図21に示すシリンジに代えて本発明の鍔付き筒状物(100)を使用した際の状態を図4に示す。図22と相違して、鍔部(120)が蓋部(20)の上面に接触し、鍔付き筒状物(100)を安定に直立させることができる。
【0036】
また、蓋部(20)に形成した貫通孔(e1、e2)に上記鍔付き筒状物(100)を、鍔部(120)の長尺方向を平行して直立させた場合の平面図を図5(a)の実線で示す。鍔部(120)の長径によって蓋部(20)の上面に安定して鍔付き筒状物(100)を載置することができ、かつ鍔部(120)の長手方向が平行する際に前記鍔部(120)の短径と短径とが接触するため前記鍔付き筒状物(100)の回転が防止され、薄層部(116)の向きが固定される。なお、前記薄層部(116)に挿入されるマチバチなどの電極は、2つの貫通孔(e1、e2)の中心を結ぶ線と直交し、かつ相互に対向して挿入することができる。これにより、マチバリなどの電極位置が接近しないように固定され、鍔付き筒状物(100)が回転することで発生する電極間の短絡を簡便に防止することができる。
【0037】
なお、本発明の鍔付き筒状物(100)は、短径どうしを接触させる配置に限定されず、図5(a)の一点斜線で示すように、鍔付き筒状物(100)の背面部を対向して貫通孔(e1、e2)に挿入してもよい。この態様であれば、薄層部(116)が2つの貫通孔(e1、e2)の中心を結ぶ線上に背中合わせに配置されるためマチバリなどの電極の挿入が容易であり、かつ前記電極の挿入方向が対向するためその接近をより確実に防止することができる。なお、このような使用を可能とするため、前記鍔部(120)の長径の突出幅(w1)は、蓋部(20)に設けた2つの貫通孔(e1、e2)の外周間(w2)未満とすることが好ましい。蓋部(120)に形成した貫通孔(e1、e2)に鍔付き筒状物を直立させた場合に、一方の鍔付き筒状物の直立を妨げることがない。更に、鍔部(120)の長尺側の端部は、図5(b)に示すように、中央部(121)に窪みが形成されるものであってもよい。このような窪み(121)と他の鍔付き筒状物(100)の胴体部(115)の外周との嵌合により鍔付き筒状物(100)の回転を確実に防止することができる。
本発明における鍔部(120)の形状は、上記に限定されるものではない。例えば、略楕円形の鍔部(120)であっても、図1に示す態様の鍔部(120)を90°回転させて胴体部(115)に連接させる態様であってもよい。これを図6に示す。図1との相違は、胴体部(115)と鍔部(120)の回転方向のみである。また、図7に、蓋部(20)に形成した貫通孔(e1、e2)に図6に示す鍔付き筒状物(100)を、背面部を対向させて直立させた場合の平面図を示す。前記図5(a)の実線で示す鍔部(120)と相違して、図7では、薄層部(116)が2つの貫通孔(e1、e2)の中心を結ぶ線上に背中合わせに形成され、電極どうしの接触による短絡をより効果的に回避することができる。なお、2つの鍔部(120)の短径と短径とが接触するため、直立する鍔付き筒状物(100)の自由回転が防止され安定する。
【0038】
更に、図8に示すように、鍔部(120)は変形したものであってもよい。図8(a)はこのような変形鍔部(120)を有する鍔付き筒状物の平面図、図8(b)は正面図、図8(c)は底面図である。図8で示す鍔付き筒状物の鍔部(120)は、一部が短径となった変形円であり、前記短径が鍔付き筒状物の正面側となるように配設される態様を示す。また、図9に、蓋部(20)に形成した貫通孔(e1、e2)に図8に示す鍔付き筒状物(100)を、背面部を対向させて直立させた場合の平面図を実線で示す。前記図7と同様に、薄層部(116)が2つの貫通孔の中心を結ぶ線上に背中合わせに形成されている。また、2つの鍔部(120)の短径と短径とが接触するため、直立する鍔付き筒状物(100)の自由回転が防止され安定し、電極どうしの接触による短絡を防止することができる。なお、鍔部(120)の長径は、蓋部(120)に形成した貫通孔(e1、e2)に鍔付き筒状物を直立させた場合、一方の鍔付き筒状物の直立を妨げるものであってはならない。このような使用を可能とするため、前記鍔部(120)の長径の突出幅(w3)は、蓋部(20)に設けた2つの貫通孔(e1、e2)の外周間(w2)未満とすることが好ましい。更に、鍔部(120)の長尺側の端部は、図9(b)に示すように、中央部に窪み(123)が形成されるものであってもよい。このような窪み(123)と他の鍔付き筒状物(100)の胴体部(115)または貫通孔挿入部(117)の外周との嵌合により鍔付き筒状物(100)の回転を確実に防止することができる。この態様を図10に示す。図10は、図9(b)に示す中央に窪み(133)が形成される鍔部(120)を有する鍔付き筒状物(α、β)の2本をウェル(E)に形成した貫通孔(e1)、貫通孔(e2)にそれぞれ装着した状態の側面図である。2つの鍔付き筒状物(100)の鍔部(120)の窪み(123)が対向するように貫通孔(e1)と貫通孔(e2)とに挿入されると、鍔付き筒状物(α)の鍔部(120)の窪み(123)が、鍔付き筒状物(β)の胴体部(115)と嵌合し、鍔付き筒状物(β)の鍔部(120)の窪み(123)が、鍔付き筒状物(α)の貫通孔挿入部(117)と嵌合してする。2つの鍔部(120)は、鍔付き筒状物(α)の鍔部(120)の下面が、鍔付き筒状物(β)の鍔部(120)の上面と接触するため段差を生じるが、相互の胴体部(115)または貫通孔挿入部(117)と窪み(123)とが嵌合するため、安定して直立することができる。なお、前記図5(b)の鍔部(120)も同様である。
【0039】
更に、本発明の鍔付き筒状物において、前記薄層部(116)は、図3の態様に限定されるものではなく、図8(b)に示すように、端部が太くなるしずく状であってもよい。図11に薄層部(116)の断面図を示す。図11(a)は、このような薄層部(116)のA−A線断面図、図11(b)はB−B線縦断面図である。本発明の鍔付き筒状物(100)を、貫通孔挿入部(117)を下に向けて直立させた際の水平線に対し、前記薄層部の貫通孔挿入部(117)側の傾斜角(θ1)と三方活栓接続部(111)側の傾斜角(θ2)とを異ならせている。前記傾斜角(θ1)は、50〜85°であることが好ましく、一方傾斜角(θ2)は3〜10°であることが好ましい。図11(a)に示すように、縦方向の一方になだらかな傾斜角(θ1)を形成させ、マチバリなどの電極をこの傾斜に沿って挿入することができる。なお、このような薄層部(116)の形状は、図8に示す鍔付き筒状物に限定して形成されるものではなく、図1、図6などの鍔付き筒状物において形成されるものであってもよい。
(4)蓋部の貫通孔
前記したように、蓋部(20)に形成する貫通孔(25)の形状は、マイクロスケール実験部材を容易に支持しうるものであれば、特に限定はない。図18に示す貫通孔で例示すれば、環状突出部の内側に線状の貫通孔が少なくとも2つ形成された環状突出部(A)を有する蓋部(20)を使用して、ボルタ電池の実験を行うことができる。図18のウェル(A)に希硫酸をいれ、ウェル(A)の上部を環状突出部(A)が被覆するように蓋部(20)を被せ、環状突出部(A)に形成された線状の貫通孔(a2)から亜鉛板(240)を挿入し、環状突出部(A)に形成された線状の貫通孔(a4)から銅板(250)を挿入する。電圧計で前記亜鉛板(240)と銅板(250)とをつなぎ、電圧を測定することができる。なお、メロディをつなぐと音をならすことができる。
【0040】
また、環状突出部の内側に線状の貫通孔が少なくとも2つ形成された環状突出部(B)、環状突出部(C)とを有する蓋部(20)を使用して、ろ紙片の塩橋を使用したダニエル電池の実験を行うことができる。図18のウェル(B)に硫酸銅溶液と銅板(250)とを入れ、ウェル(C)に硫酸亜鉛溶液と亜鉛板(240)を入れ、ウェル(B)、ウェル(C)の上部を環状突出部(B)、環状突出部(C)が被覆するように蓋部(20)を被せ、前記蓋部(20)の環状突出部(B)に形成された線状の貫通孔(b2)から銅板(250)を挿入し、環状突出部(C)に形成された線状の貫通孔(c4)から亜鉛板(240)を挿入し、環状突出部(B)や環状突出部(C)の内側に形成された線状の貫通孔(b4、c2)から、ウェル(B)、ウェル(C)をまたぐ様にろ紙の塩橋(260)を挿入する。
【0041】
また、環状突出部の内側に小円形の貫通孔が2つと、線状の貫通孔が少なくとも1つ形成された環状突出部(D)を有する蓋部(20)を使用して、指示薬などを加えた水溶液の電気分解の実験を行うことができる。図18のウェル(D)に硫酸ナトリウム水溶液とフェノールフタレインをいれ、ウェル(D)の上部を環状突出部(D)が被覆するように蓋部(20)を被せ、環状突出部(D)に形成された小円形の貫通孔(d1)、貫通孔(d5)に鉛筆の芯などからなる電極(270)をそれぞれ挿入し、線状の貫通孔(d3)からろ紙(280)を挿入して前記電極(270)を仕切り、前記電極(270)に電流電圧を印加する。硫酸ナトリウムが電気分解され、ろ紙で仕切った一方の電極側に水酸化ナトリウムが生成されると、フェノールフタレインによる赤色を観察することができる。
【0042】
また、環状突出部の内側に小円形の貫通孔が形成された環状突出部(F)と、環状突出部の内側に大円形の貫通孔が形成された環状突出部(H)とを有する蓋部(20)を使用して、爆鳴気と呼ばれる燃焼実験を行うことができる。図18のウェル(F)に洗剤液を入れ、ウェル(F)、ウェル(H)の上部を環状突出部(F)、環状突出部(H)が被覆するように蓋部(20)を被せ、前記蓋部(20)の環状突出部(H)に形成された大円形の貫通孔(h)からウェル(H)にポリスポイト(210')を挿入し、ポリスポイト(210')の先端を環状突出部(F)の貫通孔(f2)から洗剤液を入れたウェル(F)に導入して、実験をすることができる。電極に直流電圧を印加し、ウェル(F)に溜まった気体を洗剤液の泡に閉じ込め、この泡に点火すればよい。
【0043】
更に、環状突出部の内側に弧状の貫通孔と線状の貫通孔とが形成された環状突出部(G)を有する蓋部(20)を使用して、半透膜を使用するダニエル電池の実験を行うことができる。図18に示すウェル(G)に硫酸銅水溶液をいれ、ウェル(G)の上部を環状突出部(G)が被覆するように蓋部(20)を被せ、前記蓋部(20)の環状突出部(G)に形成された弧状の貫通孔(g2)からウェル(G)に亜鉛板(240)が挿入された前記半透膜(230)を挿入し、線状の貫通孔(g1)に銅板(250)を挿入する。
【0044】
また、環状突出部の内側に中円形の貫通孔が2つと、線状の貫通孔が1つ形成された環状突出部(I)を有する蓋部(20)を使用して、指示薬などを加えた水溶液の電気分解の実験を行うことができる。図18のウェル(I)に硫酸ナトリウム水溶液とフェノールフタレインをいれ、ウェル(I)の上部を環状突出部(I)が被覆するように蓋部(20)を被せ、環状突出部(I)に形成された中円形の貫通孔(i1)、貫通孔(i3)に炭素棒などからなる電極(270)をそれぞれ挿入し、線状の貫通孔(i2)からろ紙(280)を挿入し、前記電極に電流を流す。硫酸ナトリウムが電気分解され、水酸化ナトリウムが生成されると、フェノールフタレインによる赤色を観察することができる。
【0045】
また、環状突出部の内側に2つの中円形の貫通孔が形成された環状突出部(J)が形成された蓋部を使用して塩化銅水溶液の電気分解の実験を行うことができる。図18のウェル(J)に塩化銅水溶液を入れ、ウェル(J)の上部を環状突出部(J)が被覆するように蓋部(20)を被せ、前記蓋部(20)の環状突出部(J)に形成された中円形の貫通孔(j1)、貫通孔(j3)からウェル(J)に電極(270)を挿入して、電極を固定することができる。
(5)製造方法
本発明の鍔付き筒状物は、射出成形などの型抜き成形で製造することができる。
【0046】
本発明の鍔付き筒状物を構成する部材としては、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂やポリアミド系樹脂、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ABS、ASなどの透明樹脂を例示することができる。
【0047】
なお、メモリ(113)や薄層部(116)を金型に形成することで、簡便に成形することができる。
(6)マイクロスケール実験キット
本発明の第二は、前記マイクロスケール実験用の鍔付き筒状物が収納された、マイクロスケール実験キットである。
【0048】
マイクロスケール実験は、各学年に適した実験を構成することができ、前記した水の電気分解と爆鳴気、ダニエル電池、塩化銅水溶液の電気分解の他にも指示薬などを加えた水溶液の電気分解の実験などが例示できる。本発明では、このようなマイクロスケール実験に使用する部材として上記鍔付き筒状物(100)を収納し、および他の実験部材や試薬、前記マルチウェルプレートと蓋部を収納し、マイクロスケール実験キットとすることができる。
【0049】
マイクロスケール化学の実験例として、水の電気分解実験および爆鳴気として、前記マイクロスケール実験器具、9V乾電池、ワニ口クリップ(赤黒)、ポリピペット、ステンレス待ち針、水酸化ナトリウムや炭酸ナトリウムなどの電解質、石鹸水を使用する。また、体積比に関する実験としては、前記マイクロスケール実験器具、9V乾電池、ワニ口クリップ(赤黒)、注射器A、注射器B、ステンレス針、ゴム管、三方活栓、水酸化ナトリウムや炭酸ナトリウムなどの電解質を使用する。また、ダニエル電池に関する実験として、前記マイクロスケール実験器具、亜鉛板、銅板、半透膜、硫酸銅水溶液、硫酸亜鉛水溶液、電圧計、メロディを使用する。また、鉛蓄電池に関する実験として、前記マイクロスケール実験器具、9V乾電池、ワニ口クリップ(赤黒)、鉛板、硫酸、電圧計、メロディを使用する。また、ボルタ電池に関する実験として、前記マイクロスケール実験器具、亜鉛板、銅板、硫酸、電圧計、メロディを使用する。また、指示薬などを加えた水溶液の電気分解の実験として、前記マイクロスケール実験器具、9V乾電池、ワニ口クリップ(赤黒)、炭素棒、硫酸ナトリウム、BTB、フェノールフタレイン溶液を使用する。本発明の好適なマイクロスケール実験キットの斜視図を、図12に示す。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、従来のマイクロスケール実験に使用するマルチウェルプレートとして、ウェルの上部に所定形状の貫通孔が形成された蓋部を装着してマイクロスケール実験器具とすることができ、安価に安全性と操作性に優れるマイクロスケール実験キットを調製することができ、有用である。
【符号の説明】
【0051】
10・・・マルチウェルプレート、
11・・・マルチウェルプレートの底面部、
15・・・中空柱状のウェル、
16・・・マルチウェルプレートの側壁部、
20・・・マルチウェルプレートに装着しうる蓋部、
21・・・蓋部の天面部、
23・・・蓋部の側面部、
25・・・蓋部の貫通孔、
27・・・蓋部の環状突出部、
100・・・本発明の鍔付き筒状物、
110・・・本発明の鍔付き筒状物の筒状本体部、
111・・・筒状本体部のの三方活栓接続部、
113・・・筒状本体部に形成したメモリ
115・・・筒状本体部の胴体部、
116・・・筒状本体部に形成した薄層部、
117・・・筒状本体部の貫通孔挿入部、
120・・・本発明の鍔付き筒状物の鍔部、
121,123・・・本発明の鍔付き筒状物の窪み、
200・・・マルチウェルプレート、
201・・・ウェル、
203・・・硫酸ナトリウム水溶液、
210・・・鍔付き筒状物
210'・・・ポリスポイト、
220・・・マチバリ,
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロスケール実験に使用されるマイクロスケール実験部材であって、
両端が開放された筒状本体部と、前記筒状本体部の外周に形成された鍔部とからなり、
前記鍔部は、前記筒状本体部の中央部と下端部との間に形成されたことを特徴とする、マイクロスケール実験用の鍔付き筒状物。
【請求項2】
前記鍔部は、略長楕円形であることを特徴とする、請求項1記載のマイクロスケール実験用の鍔付き筒状物。
【請求項3】
前記筒状本体部には、内容量を示すメモリと電極挿入用の薄層部とが形成されていることを特徴とする、請求項1または2記載のマイクロスケール実験用の鍔付き筒状物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のマイクロスケール実験用の鍔付き筒状物が収納された、マイクロスケール実験キット。
【請求項1】
マイクロスケール実験に使用されるマイクロスケール実験部材であって、
両端が開放された筒状本体部と、前記筒状本体部の外周に形成された鍔部とからなり、
前記鍔部は、前記筒状本体部の中央部と下端部との間に形成されたことを特徴とする、マイクロスケール実験用の鍔付き筒状物。
【請求項2】
前記鍔部は、略長楕円形であることを特徴とする、請求項1記載のマイクロスケール実験用の鍔付き筒状物。
【請求項3】
前記筒状本体部には、内容量を示すメモリと電極挿入用の薄層部とが形成されていることを特徴とする、請求項1または2記載のマイクロスケール実験用の鍔付き筒状物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のマイクロスケール実験用の鍔付き筒状物が収納された、マイクロスケール実験キット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
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【図8】
【図9】
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【図11】
【図12】
【図13】
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【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
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【公開番号】特開2011−131197(P2011−131197A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−295691(P2009−295691)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
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