説明

マイクロセンサを用いた細胞生命力の測定装置および方法

本発明はセンサアレイを用いて細胞生命力の測定装置および方法を含む。センサアレイは半導体チップ(1)の表面に形成され、半導体チップ(1)は複数の集積回路を含み、センサアレイの各センサ(2)の測定信号を処理するために各センサ(2)に1つの集積回路が付設されている。それらの集積回路は、半導体チップ(1)内において空間的にそれぞれ、それらの集積回路が付設されるセンサ(2)の下方に形成されており、センサアレイの隣接センサ(2)がマイクロメートル範囲の隣接センサ(2)の中心点の間隔を有する。生きている細胞(4)の周囲においてpH値および/又はpO2値が測定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロセンサを用いた細胞生命力の測定装置および方法に関する。センサアレイは半導体チップの表面に形成され、半導体チップは複数の集積回路を含み、センサアレイの各センサの測定信号を処理するために各センサに1つの集積回路が付設されている。それらの集積回路は、半導体チップ内に空間的にそれぞれ、それらの集積回路が付設されるセンサの下方に形成されている。pH値および/又はpO2値は生きている細胞の周囲において測定することができる。
【背景技術】
【0002】
マイクロ生物学において、培養細胞および抗生物質の耐性テストに基づいて病原菌を検査するための多くの方法が知られている。例えば成長もしくは細胞成長抑制のような作用が検査される「表現型の」評価が有利である。培養細胞に対する作用を介して人間又は動物に対する作用との直接的な関係が得られる。その場合に培養細胞が培養液中で数日間にわたって例えばペトリ皿の中に入れられて観察される。培養細胞の成長もしくは損傷を長時間にわたって測定されて評価される。観察に必要な長い時間がこの方法を非常に高価にし、手間をかけさせる。
【0003】
培養細胞の成長もしくは損傷を測定するためにセンサシステムを使用するとよい。生きている細胞が、例えばセンサ上で成長させられる。これは、それに基づいて細胞の生命力を、例えばインピーダンス、酸素(pO2値)又はpH値の測定によって監視するためである。センサとして、インターディジタル電極アレイ、酸素センサ又はpH値センサを使用するとよい。細胞の生命力に対する尺度は、とりわけ表面への細胞の接着、細胞の呼吸又は細胞の物質代謝である。しかし、センサ上での細胞成長は時間がかかり、センサシステムの貯蔵性を制限する。センサ上で成長した細胞は表面上で移動および/又は壊死し得る。
【0004】
細胞の生命力を酸素値又はpH値により測定するためには、生きている細胞がセンサの直近に存在することが必要である。細胞代謝の出発物質又は反応生成物の濃度変化をセンサによって記録することを保証するだけでよい。その場合に電極上での細胞の直接成長は防止しなければならない。何故ならば、例えば電気化学的センサによる確実な測定のためには、細胞壁とセンサ表面との間に液体膜が存在しなければならない。
【0005】
細胞はマイクロメートル範囲の大きさを有する。通常の電気化学的センサは、例えば櫛状にかみ合うインターディジタル電極の形に構成された円形のセンサ全周を有する金属表面からなる。このセンサの直径は一般に数ミリメートルの範囲にある。センサ同士の混信を防止するために、センサ同士は同様にミリメートル範囲にある間隔を有する。しばしばセンサ間には壁状の桟が形成されている。これは、センサの改善された相互分離とセンサ上方の領域に対する信号の割り当てを達成すると共に、混信を効果的に抑制するためである。
【0006】
個々の生きている細胞は、それらの周囲において細胞代謝によって化学的もしくは生化学的物質の僅かの濃度変化しかもたらさない。これらの僅かな濃度変化は、センサがその物質に対して高い感度を有すると共に細胞がセンサに十分に近く配置されている場合にのみ測定可能である。ミリメートル範囲の全直径を有するセンサは、個々の細胞の代謝産物を測定するに十分な感度を殆ど達成できそうもない。大きな電極面の上での副次的反応は不利な信号雑音比をもたらす。センサ間の大きな間隔は、細胞がセンサ間に配置されて細胞の信号が測定できないことをもたらす。
【0007】
2つのセンサの中心間の距離もしくはセンサアレイのセンサの最大可能な実装密度は、信号処理回路の電気接触および配置によって決定される。半導体基板を使用する場合に、集積回路はセンサの直下に配置されているとよい。例えばシリコン基板材料においてCMOS技術を使用する場合、集積回路がそれぞれ、1つのセンサごとにそのセンサの下方に形成されているとよい。1つの回路の大きさは、センサアレイのそれぞれ割り当てられて当該回路上に存在するセンサの最大可能な実装密度を決定する。1つのセンサの電気化学的信号を測定するための通常の集積回路は、センサアレイの基板内において、ミリメートル範囲にある占有スペースもしくは面積を有する。特に、集積回路内での演算増幅器の実現は、高いスペース占有をもたらす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、生きている細胞の信頼性のある測定を良好な信号雑音比でもって可能にする、細胞生命力の測定装置およびその装置を用いた方法を提供することにある。更に課題は、センサアレイ上に存在するほぼ全ての細胞が記録もしくは測定可能であることを保証する装置を提供することにある。更に別の課題は、センサアレイ内のセンサの高い実装密度を可能にする格別に省スペースの集積回路を提供することにある。従って、細胞生命力にとって典型的であるパラメータの迅速かつ簡単な信頼性のある測定を可能にすべきである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、細胞生命力の測定装置に関しては請求項1の特徴によって解決され、その細胞生命力の測定装置を用いる方法に関しては請求項13の特徴によって解決される。
【0010】
本発明による細胞生命力の測定方法および装置の有利な実施形態はそれぞれに付属した従属請求項からもたらされる。主請求項の特徴を従属請求項の特徴と組み合わせることができ、また従属請求項同士の特徴を組み合わせることができる。
【0011】
本発明による細胞生命力の測定装置は、1つの半導体チップの表面上に形成された1つのセンサアレイを含む。その半導体チップは複数の集積回路を含み、センサアレイの各センサの測定信号を処理するために各センサに1つの集積回路が付設されている。それらの集積回路は、半導体チップ内において空間的にそれぞれ、それらの集積回路が付設されるセンサの下方に形成されている。センサアレイの隣接センサはマイクロメートル範囲の隣接センサの中心点の間隔を有する。
【0012】
センサ相互の僅かな大きさおよび僅かな間隔が、1つのセンサ周囲における化学的もしくは生化学的物質の僅かな濃度変化の測定を可能にする。1つのセンサの僅かな面積によって、障害となる副次的反応が大きな信号をもたすことはない。従って、空間的に非常に制限された僅かの濃度変化を確実に記録および測定することができる。
【0013】
隣接センサの中心点の間隔が、生きている細胞のサイズ範囲、特に1〜100ミリメートルの範囲にあるとよい。好ましくは隣接センサの中心点の間隔が1〜10ミリメートルの範囲にあるとよく、これは細胞の通常のサイズに相当する。それによって、センサアレイ上にある全ての細胞が測定可能であることが保証されている。2つのセンサ間の中間スペースにおける細胞は、代謝産物又はそれらの代謝産物の出発物質の濃度変化を確実に良好な信号雑音比でもって測定するために、常に十分に一方のセンサに近接している。
【0014】
センサが電気化学的センサ、特に電流測定式又は電量測定式の電気化学的センサであるとよい。電気化学的センサは、非常に狭い占有スペースにおいて、化学的又は生化学的物質の濃度変化を光学的に濁った溶液中においても確実に測定することができる。磁気粒子は、例えば光学的測定の場合におけるように信号雑音比の低下をもたらすことがない。磁気装置の配置は光学的測定とは違って電気化学的測定装置の配置に障害となる影響を及ぼさない。何故ならば電気化学的測定装置は非常に省スペースで電気信号を変化させ搬送し処理するだけでよいからである。純粋な電気測定は、例えば光学的測定よりも低コストで簡単で占有スペースが少なくてすむ。インターディジタル電極は非常に高感度の電気化学的測定を可能にする。代替として、作用電極は連続的な、例えば円形の面として形成してもよい。参照電極および対向電極はセンサアレイの縁部又は作用電極間の中間スペースに配置するとよい。センサアレイの縁部への参照電極および対向電極の配置は、センサアレイの隣接する作用電極相互のより少ない間隔を可能にし、従ってセンサアレイ上に存在する全ての細胞もしくはそれらの細胞の生命力の確実な測定を可能にする。
【0015】
電流測定又は電量測定は同様に細胞によって代謝される物質の消費をもたらす。マイクロメートル範囲にある小さな活性センサ面は、電極での物質変換がごく僅かしか起こらないように配慮されている。細胞による物質代謝が同時に起きる場合に、電極の物質変換に対する細胞の物質代謝の比が大きな値であるならば、細胞の物質代謝を良好に測定することができ、センサは細胞生命力における変化に対して高感度である。
【0016】
電流測定又は電量測定の場合には、化学反応の際に電荷担体がセンサで変換され、その際にそれらの電荷担体が測定信号として利用される。細胞によって変換される測定すべき物質の濃度が小さい場合には、センサにおいて僅かな量の電荷担体しか変換されず、従って小さい測定信号しか生じない。僅かな測定信号の処理を可能にするためには、導体路を短く保たなければならない。何故ならば導体における電気損失が信号損失を生じるからである。従って、一般にはセンサ信号はセンサ近くで増幅又は処理される。そのために半導体材料内には1つのセンサの直下に集積回路が配置される。例えば演算増幅器又はコンデンサのような集積回路の電気構成要素は、半導体材料内において高い占有面積をもたらす。アレイの形で表面に密に実装された小さいセンサを可能にするためには、それぞれ1つのセンサのサイズ範囲にある集積回路がセンサの下方に配置されなければならない。
【0017】
1つのセンサの集積回路が、当該センサ、特に当該センサの作用電極を切り換えるために2つのスイッチングトランジスタを含む。この場合にトランジスタは、作用電極に印加される電圧を、第1電圧と第2電圧との2つの電圧値の間で切り換えることを可能にする。例えば演算増幅器又はコンデンサのような構成要素なしに主として又は専らトランジスタを含む集積回路は、半導体材料内の集積回路の僅かな占有面積をもたらす。それによって集積回路の上方に配置された小さいセンサの密な実装が可能となる。
【0018】
1つのセンサの集積回路が、電圧ホロワとしてのトランジスタと、センサアレイの行および列に従って各センサを的確に電気的に選択するための選択トランジスタとを含む。特にCMOS技術で構成されたトランジスタは半導体材料内において僅かな占有スペースしか必要としない。センサアレイの各センサは個別に制御されて読み出される。電気化学的測定自体は、スイッチングトランジスタの第1電圧から第2電圧への切り換えによって行われる。電圧ホロワとしてのトランジスタと選択トランジスタとを介してその都度1つのセンサが読み出される。
【0019】
集積回路全体は、1つのセンサの電気的ノイズ信号の抑制および電気的ドリフトの抑制のために、各センサについて、集積回路を付設されるセンサの下方に配置されている又は半導体チップの領域内であるがセンサアレイの領域外に配置されている1つの相関二重サンプリング回路(CDS)を含んでいる。半導体チップの範囲内においてセンサアレイの領域外に相関二重サンプリング回路(CDS)を配置することは、センサ下方の集積回路の格別に高い集積密度をもたらす。
【0020】
更に、本発明による装置が、センサアレイの上方に規定温度を設定する手段を含んでいるとよい。特に37℃の温度が細胞生命力にとって有利である。この温度の設定および全測定時間にわたる一定保持は、種々の測定との対比を可能にし、もしくは全測定時間にわたる対比可能な条件をもたらす。
【0021】
本発明による装置が、センサアレイのセンサの上方に、生きている細胞を固定する手段を含んでいるとよい。自由に移動可能な細胞が表面上を移動し、このことが電気化学的測定の障害となる。まさに長時間にわたる測定値の監視に関しては、センサアレイ上での細胞の移動が防止されなければならない。
【0022】
そのために、生きている細胞を固定する手段として、センサアレイのセンサに流体接触させられて配置されているフィルタ膜が使用されているとよい。フィルタ膜の交換によって、壊死した細胞を測定後に除去し、センサアレイ上に新鮮な生きている細胞を有する新たなフィルタ膜を置くことによって細胞生命力測定装置を他の測定のために再生もしくは準備することができる。
【0023】
代替として、本発明による装置が、センサアレイのセンサの上方に磁場を発生するように構成された少なくとも1つの磁場発生装置を含むとよい。生きている細胞が磁気粒子に結合され、磁場によってセンサアレイ上方に固定されるとよい。これが、磁気粒子からなり磁気粒子のマトリックス中に埋め込まれた細胞を有するほぼ一様な厚さの層の形で行なわれるならば、測定にとって格別に有利である。
【0024】
磁場が磁場の投入状態と磁場の遮断状態とに切換可能であるとよい。それによって、磁場の遮断状態において例えば液体の流れにより、死んだ又は傷んだ細胞を取り除くことができる。
【0025】
半導体チップが貫流セルに含まれ、センサアレイのセンサがその貫流セルの貫流通路に流体接触させられて配置されているとよい。これは細胞生命力の測定装置のための格別に簡単な測定構造をもたらす。
【0026】
上述の装置を用いた本発明による細胞生命力の測定方法は、センサアレイの少なくとも1つのセンサによって、1つの生きている細胞の周囲におけるpH値および/又はpO2値が測定されることを含む。代替として、タンパク質も測定可能である。これらの物質は細胞代謝の出発物質又は反応生成物である。1つの細胞によって引き起こされる物質濃度の僅かな変化の測定は、センサアレイにおけるセンサの僅かな大きさと密な実装とによってはじめて可能にされる。マイクロメートル範囲にある2つの隣接センサの中心点の間隔によって、1つのセンサによる例えば酸素の消費が大幅に低減されるので、当該センサ付近の1つの細胞による例えば酸素の僅かな消費が測定可能である。
【0027】
センサアレイの上方に細胞生命力にとって最適な温度、特に37℃の範囲の温度が設定されること、および/又は細胞生命力を促進もしくは維持する物質、特に培養液および/又は酸素が細胞に供給されること、および/又は細胞生命力を低下させる物質、特に抗生物質が細胞に供給されるとよい。
【0028】
既述の装置を用いて細胞生命力を測定するための方法に関連する利点は、細胞生命力の測定装置に関して既に述べた利点に類似している。
【0029】
以下において、図面に基づいて、従属請求項に記載の特徴に従った有利な発展的構成を有する本発明の好ましい実施形態を更に詳細に説明する。しかし、本発明はそれに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1はセンサアレイのセンサとその上に位置し細胞を埋め込まれ磁気粒子からなる層とを有する半導体チップの概略断面図である。
【図2】図2は従来技術に基づくセンサを有する電気化学的測定のための集積回路の概略図である。
【図3】図3はCDS回路を用いたセンサアレイを有する電気化学的測定のための集積回路の概略図である。
【図4】図4は専らトランジスタから構成されたセンサアレイのセンサを有する電気化学的測定のための本発明による省スペースの集積回路の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1には、磁気粒子3のマトリックス中に配置された細胞4がセンサアレイのセンサ2上に配置されている様子が断面図で示されている。センサアレイは、センサ2により電気化学的測定を行うための集積回路を含む半導体チップ1の上に形成されている。磁気粒子3は、図示されていない磁場を発生する手段によって、チップ1の表面上にほぼ一様な厚さの層の形で磁気的に固定されている。細胞4は磁気粒子3に、例えば抗体によって結合されているか、又は粒子上に成長させられている。磁気粒子3はマイクロメートル又はナノメートルの範囲の大きさを有し、細胞は数マイクロメートルの範囲の大きさを有する。生きている細胞の場合、細胞4の直接周囲5において、代謝産物を測定することができ、また、例えば酸素のような代謝に必要な物質の消費をも測定することができる。
【0032】
代謝産物および/又は代謝産物の出発物質を電気化学的に測定するセンサ2は金属、例えば金から構成されている。薄い金層が基板材料としてのチップ1上に形成されており、例えば中間層が金層と基板材料との間の接着促進剤として使用されるとよい。例えば金層からなるセンサ2は、円の中心に相当する中心点を有する円形に形成されている。円形センサ2がアレイとして行および列にチップ表面に配置され、センサ2の中心点がそれぞれアレイの行および列の交点に配置されている。基板材料は例えばシリコンのような半導体材料からなり、その材料の中に、センサ2で測定された電気化学信号を制御および処理するための集積回路が形成されている。この回路は例えば半導体材料内のCMOS技術によって実現するとよい。
【0033】
図2には従来技術から知られているような、1つのセンサを有する制御および電気化学的測定回路が示されている。簡略化のために参照電極および対向電極は示されていない。作用電極WEがセンサ2を形成し、円形に又はインターディジタル電極として構成することができる。一実施例では、チップ表面の行および列に配置されたセンサからなるセンサアレイにより、液体中のpO2値として酸素を測定することができる。pO2値は、1つのセンサ2の近くに存在する生きている細胞4の生命力に関する尺度である。生きている細胞4が物質代謝の際に酸素を消費し、その細胞近くの酸素濃度の減少が測定可能である。
【0034】
そのためにアレイ表面に、空気の満ちた培養液が供給される。液体の流れが短時間だけ止められ、センサ2により酸素濃度がpO2値として測定される。pO2値は一定のままである。ただし、生きている細胞4での酸素消費がpO2値を局所的に低下させる場合は別である。これは次の前提のもとで最も近くに置かれたセンサ2によって記録される。この前提は、測定時のセンサ2による酸素消費が細胞4の酸素消費に比べて僅かであるか又は全くなく、かつ細胞4とセンサ2との間の距離が僅かであるという前提である。センサアレイ内のセンサ2の位置により、生きている細胞4の位置を推定することができる。このようにしてセンサアレイ上の生きている細胞4が空間的に識別される。
【0035】
引続いて抗生物質を混合された培養液がセンサアレイ上に流され、そして液体の流れが止められる。前もって空間的に識別された細胞4がそれぞれ当該抗生物質に対して敏感に反応する場合、それぞれ最も近くに置かれているセンサ2ではpO2値の低下が測定されない。当該抗生物質に対して敏感に反応しない生きている細胞4が配置されているセンサ位置では、相変わらず細胞代謝に応じたpO2値の減少が測定される。
【0036】
電流測定又は電量測定(クーロン測定)においてセンサ2自体の酸素消費によるpO2値の測定値誤差を防止又は低減するためには、パルス法を使用するとよい。電気化学においては、酸素分圧が典型的には電流測定法により測定され、即ちファラデー電流が酸素濃度の尺度として使用される。電量測定においては、ファラデー電流が時間により積分される。その場合に酸素が電極つまりセンサ2において変換され、従って消費される。これは酸素濃度の変化を生じ、それゆえ細胞4による酸素消費の測定値に誤差を生じる。短い測定時間の使用、即ちパルス法によってこの作用を低減することができる。センサ2が測定のために陰極分極させられるのは短時間のみである。
【0037】
しかし、短いパルスの場合、分極がセンサ2を介する液体もしくは電解質の二重層容量の再充電による電流の流れを生じる。この過程は速やかに終了するので、短い電流の流れしか起きない。この電流の流れはセンサ2の面積に関係する。センサ2の電気化学的な活性面積が小さいほど、二重層の再充電による障害作用が少なくなり、二重層の再充電によって引き起こされる電流の流れが迅速に終了する。二重層の再充電による容量性の電流の流れが減衰した後に、発生する電流の流れは酸素分圧の尺度として使用することができる。引続いて、電極による更なる酸素変換を回避するために、センサ2つまり電極が開回路電位に接続される。
【0038】
センサ2の陰極分極の代わりに、センサ2つまり電極の短時間の陽極分極によって、例えばH22のような反応生成物の酸素へのリサイクルが行なわれてもよい。開回路電位の代わりに、変換された酸素の少なくとも一部を取り戻すべくセンサ2の適切な陽極分極が行なわれてもよい。
【0039】
図1に示されているように磁気粒子つまり磁気ビーズ3の「格子」つまりマトリックスの中に細胞4を埋め込むことによって、粒子3もしくは細胞4とセンサ2との間に定まった液体空間が形成される。磁気粒子3から成り細胞4を埋め込まれている層の層厚が1つの細胞4の物質代謝によって発生される測定量の変化の領域5内にある場合には、その細胞の生命力の高感度の電気化学的検出が保証されている。細胞4の周囲における液体空間を磁気粒子3により狭くすることによって、磁気粒子3なしに液体中に自由に存在する細胞4に比べて、測定感度が高められる。
【0040】
pO2値の代わりに、酸のような細胞の代謝産物をpH値により測定することもできる。細胞4を取り囲む液体体積が小さければ小さいほど、pH値の変化はpO2値と同様に大きくなる。
【0041】
センサ2の電流信号は、従来技術に基づく図2に示された回路により電圧信号に変換することができる。積分回路は、センサ2における分極のパルス化された印加後の規定の時間インターバルで電流を積分し、その結果を電圧に変換する。
【0042】
オフセット信号の抑制のために、図3に示されているように、二重サンプリング回路又は相関二重サンプリング回路(CDS)が使用される。その場合に測定信号に対する狭い時間的相関で零点作用が検出される。これは測定信号の検出の直前又は直後に行なわれる。これによって、CDS回路の前に生じる全てのドリフトおよびノイズ成分が有効的に抑制される。センサアレイの場合、各センサ2は必ずしも専用のCDS回路を必要としない。むしろCDS回路はセンサアレイ面の外側においてチップ1の縁部領域に配置されているとよい。その場合に各CDS回路が例えばセンサアレイの1つの列に付設されている。
【0043】
センサアレイを用いた測定のための集積回路の本発明による構成が図4に示されている。CDS回路は半導体チップ1の縁部に配置され、図4においては簡略化のために図示されていない。場合によっては、これらのCDS回路は省略してもよい。
【0044】
図4に示された集積回路において、センサ2つまり作用電極WEXの電圧は、図2と同じように増幅器6によって調節されるのではなく、センサ2つまり作用電極WEXはスイッチによって直接的に所望の電圧V WE 0およびV WE 1に接続される。それによって、例えばトランジスタのような構成素子やチップ面積もしくはチップ表面積の最小必要量で、センサ回路が実現される。各集積回路上に配置されるセンサ2を従来技術に比べて高い集積密度で配置することができ、従ってセンサアレイを構成するために小さいセンサ面積および/又は僅かなセンサ間隔を選ぶことができる。これは前述の利点を有する。即ち、小さい層厚の前提のもとでは、磁気粒子マトリックス内においてセンサ2間には、センサ2によって細胞生命力もしくは細胞代謝の測定ができない細胞4が全く配置されていていない。電気化学的に活性な小さいセンサ表面は、センサ2自体の物質変換なしに、もしくは障害とはならない僅かな物質変換のもとで、例えば細胞代謝の影響を受ける酸素変換量又はその他の変量の高感度の測定をもたらす。
【0045】
図4に示された集積回路は、センサ2つまり電極WEXごとに4つのトランジスタM1〜M4で間に合わせている。トランジスタM1およびM2はスイッチングトランジスタもしくはスイッチとして使用されており、これらを介して、作用電極WEXつまりセンサ2Xはそれぞれ選択的に電圧V WE 0又はV WE 1を供給される。なお、Xは制御すべきセンサ2Xの行を表している。1つのセンサ2Xによる測定開始時にスイッチM1のオンにより電極WEXつまりセンサ2Xの電気化学的活性面が電位V WE 0に接続される。電位V WE 0は、作用電極WEXにおいて細胞生命力にとって典型的な測定量の電気化学的反応が行なわれないように選ばれている。その後、スイッチM1がオフにされてスイッチM2のオンによって電極WEXが電位V WE 1にもたらされる。引続いてスイッチM2が再びオフにされる。電気化学的反応によって、二重層静電容量および電気化学的電流によって決まる時定数で電極WEXが放電する。規定時間後に電極WEXの電圧がトランジスタM3およびM4を介して読み出される。その場合にM3は電圧ホロワとして働き、M4はセンサアレイにおいて位置Xを有するセンサ2を選択して出力端Column Outに接続する選択トランジスタである。読み出された電圧は出力端Column Outにおいて後処理のために使用することができる。零点抑制のために出力端Column Outに図3のCDS回路が接続されてもよい。
【0046】
図4の回路により、10μmまでの隣接センサ2X,2X+1の中心点の間隔もしくはアレイ格子を有するセンサアレイが実現される。例えば演算増幅器6又はコンデンサCiのような電気構成要素は各センサ2の直下の集積回路内で実現する必要はなく、それによりセンサ2の直下の回路の高い集積密度が達成される。他の信号処理を可能にする集積回路は、チップ1上において、例えばその縁領域に含まれているとよい。例えばポテンショスタットのような集積回路又は電流測定のための集積回路はチップ1上においてセンサアレイの領域外に配置するとよい。
【0047】
細胞生命力の測定装置および方法は、例えば有毒物質を識別するために、環境検査および薬物検査に使用することができる。従って、例えば水中又は空気中の有害物質が検査され、又は例えば腫瘍細胞に対する薬剤の効果が検査される。その場合に規定個数の生きている細胞をセンサアレイに供給し、測定後には傷んだ又は死んだ細胞を再び除去するとよい。その後、新鮮な生きている細胞の供給によって更なる測定を行なうことができる。
【0048】
しかし、細胞生命力の測定装置および方法は健康検査にも使用することができる。その場合に、例えば黄色ブドウ球菌のような特定細胞の不特定個数の識別がマイクロ生物学検査と同様に培養基上で行なわれるとよい。この識別は、高感度測定技術に基づいて、光学的に光マイクロスコープで見ることができるまで細胞培養を行なうことによる時間のかかる検出よりも遥かに迅速に行なうことができる。高いセンサ実装密度を有するセンサアレイを使用することによって、ペトリ皿におけると似たように、局所的な病原菌を、それらから生じるコロニーを介して、まさに高い空間分解能を有する病原菌の細胞を介して識別することができる。病原菌において、例えばMRSAを認識するための抗生物質耐性検査を、上昇する濃度の特定抗生物質の供給および細胞生命力の測定によって行なうことができる。
【符号の説明】
【0049】
1 半導体チップ
2 センサ
3 磁気粒子
4 細胞
5 細胞の直接周囲
6 演算増幅器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体チップ(1)の表面に形成されているセンサアレイを用いて細胞生命力を測定する装置であって、半導体チップ(1)が複数の集積回路を含み、センサアレイの各センサ(2)の測定信号を処理するために各センサ(2)に1つの集積回路が付設され、それらの集積回路は、半導体チップ(1)内において空間的にそれぞれ、それらの集積回路が付設されるセンサ(2)の下方に形成されている装置において、センサアレイの隣接センサ(2)がマイクロメートル範囲の隣接センサ(2)の中心点の間隔を有することを特徴とする細胞生命力の測定装置。
【請求項2】
隣接センサ(2)の中心点の間隔が、生きている細胞(4)のサイズ範囲、特に1〜100ミリメートルの範囲、好ましくは1〜10ミリメートルの範囲にあることを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項3】
センサ(2)が電気化学的センサ、特に電流測定式又は電量測定式の電気化学的センサであること、および/又はセンサ(2)がそれぞれ少なくとも1つのインターディジタル電極を作用電極として含むことを特徴とする請求項1又は2記載の装置。
【請求項4】
1つのセンサ(2)の集積回路が、そのセンサ(2)、特に各センサ(2)の作用電極を第1電圧と第2電圧との2つの電圧値の間で切り換えるために、2つのスイッチングトランジスタを含むことを特徴とする請求項1乃至3の1つに記載の装置。
【請求項5】
1つのセンサ(2)の集積回路が、電圧ホロワとしてのトランジスタと、センサアレイの行および列に従って各センサ(2)を的確に電気的に選択するための選択トランジスタとを含むことを特徴とする請求項4記載の装置。
【請求項6】
集積回路は、1つのセンサ(2)の電気的ノイズ信号および電気的ドリフトの抑制のために、各センサ(2)について、集積回路が付設されるセンサ(2)の下方に配置された又は半導体チップ(1)の領域内でセンサアレイの領域外に配置された1つの相関二重サンプリング回路(CDS)を含むことを特徴とする請求項5記載の装置。
【請求項7】
前記装置がセンサアレイの上方に規定温度を設定する手段を含むことを特徴とする請求項1乃至6の1つに記載の装置。
【請求項8】
前記装置がセンサアレイのセンサ(2)の上方に生きている細胞を固定する手段を含むことを特徴とする請求項1乃至6の1つに記載の装置。
【請求項9】
生きている細胞(4)を固定する手段として、センサアレイのセンサ(2)に流体接触するフィルタ膜が配置されていることを特徴とする請求項8記載の装置。
【請求項10】
前記装置が、センサアレイのセンサ(2)の上方に磁場を発生するように構成された少なくとも1つの磁場発生装置を含み、生きている細胞(4)が磁気粒子(3)に結合されていることを特徴とする請求項8記載の装置。
【請求項11】
生きている細胞(4)が、磁気粒子(3)からなり磁気粒子(3)のマトリックス中に埋め込まれた細胞(4)を有するほぼ一様な厚さの層の形で、磁場によってセンサアレイの上方に固定されていることを特徴とする請求項10記載の装置。
【請求項12】
磁場が、死んだ又は傷んだ細胞(4)を特に磁場の遮断状態において取り除くために、磁場の投入状態と磁場の遮断状態とに切換可能であることを特徴とする請求項11記載の装置。
【請求項13】
半導体チップ(1)が貫流セルに含まれ、センサアレイのセンサ(2)がその貫流セルの貫流通路に流体接触するように配置されていることを特徴とする請求項1乃至12の1つに記載の装置。
【請求項14】
請求項1乃至13の1つに記載の装置を用いて細胞生命力を測定する方法において、センサアレイの少なくとも1つのセンサ(2)によって、1つの生きている細胞(4)の周囲におけるpH値および/又はpO2値を測定することを特徴とする細胞生命力の測定方法。
【請求項15】
センサアレイの上方に細胞生命力にとって最適な温度、特に37℃の範囲の温度を設定すること、および/又は細胞生命力を促進する物質、特に培養液および/又は酸素を細胞(4)に供給すること、および/又は細胞生命力を低下させる物質、特に抗生物質を細胞(4)に供給することを特徴とする請求項14記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−506821(P2013−506821A)
【公表日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−531404(P2012−531404)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【国際出願番号】PCT/EP2010/064437
【国際公開番号】WO2011/039242
【国際公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(390039413)シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト (2,104)
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Wittelsbacherplatz 2, D−80333 Muenchen, Germany