説明

マイクロタービンコジェネレーションシステムの遠隔監視システムおよび故障診断方法

【課題】マイクロタービンコジェネレーションシステムのように高速で運転され、分散配置される装置に好適な遠隔監視システムを提供することである。
【解決手段】マイクロタービンコジェネレーションシステムの遠隔監視システムであって、マイクロタービンコジェネレーションシステムの各種運転データを測定する手段と、各種運転データの任意の運転データを高速でサンプリングして記憶する手段と、各種運転データの任意の運転データを低速でサンプリングして記憶する手段と、高速データ及び低速データを遠隔監視センターの中央データサーバに送信する手段とを備えた遠隔監視システムである。

【発明の詳細な説明】
【先の出願との優先権関係】
【0001】
本件出願は、発明者片岡 匡史、中嶋 照幸、坂田 滋、岸川 忠彦、中川 貴博、石黒 淳により2007年5月10日に出願された米国特許出願番号60/917,218、発明の名称「マイクロタービンコジェネレーションシステム」の利益を主張するとともに、参照することによりこれを組み入れる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、マイクロタービンコジェネレーションシステムの遠隔監視システムおよび故障診断方法に係り、特にマイクロタービンコジェネレーションシステムを遠隔で監視する遠隔監視システムおよびマイクロタービンコジェネレーションシステムの緊急停止の原因を特定する診断システムに関するものである。
【背景技術】
【0003】
従来から、空気を圧縮する空気圧縮機と、空気圧縮機により圧縮された圧縮空気を用いて燃料ガスを燃焼させる燃焼器と、燃焼器において発生した燃焼ガスを受けて回転するタービンと、タービンから排出された排気ガスの熱を利用して燃焼器に供給される圧縮空気を加熱する再生器とを備えたガスタービン装置が知られている。
【0004】
このようなガスタービン装置において、空気圧縮機により圧縮された空気は、空気圧縮機と再生器とを接続する配管を通って再生器の低温側流路入口に送られる。この圧縮空気は再生器を通過する間に、タービンから排出された排気ガスと熱交換を行い加熱される。再生器において加熱された圧縮空気は、再生器と燃焼器とを接続する配管を通って燃焼器に供給され、燃料ガスと混合される。この圧縮空気と燃料ガスとの混合気は燃焼器の内部で燃焼され、この混合気の燃焼によって発生した燃焼ガスによってタービンが高速で回転する。タービンから排出された排気ガスは、タービンと再生器とを接続する配管を通って再生器の高温側流路入口に送られる。この再生器内の高温側流路を流れる排気ガスは、再生器内の低温側流路を流れる圧縮空気を加熱し、その後、再生器から排気される。
【0005】
この種のガスタービン装置は、例えばマイクロタービン発電装置に応用されている。このマイクロタービン発電装置は、極小型のタービンに極小型の発電機を直結し、タービンに燃焼ガスを供給することで、例えば毎分10万回転程度の高速で運転を行うものである。このようなマイクロタービン発電装置によれば、極小型の設備でありながら、例えば50〜100kW程度の発電電力を供給することができる。
【0006】
図1は、マイクロタービンコジェネレーションシステムの全体構成を模式的に示す系統図である。図1に示すように、マイクロタービンコジェネレーションシステムは、圧縮空気と燃料ガスとの混合気を燃焼させることにより発電を行うマイクロタービン発電装置201と、マイクロタービン発電装置201に天然ガスや液化石油ガス(LPG)などの燃料ガスを供給する燃料ガス圧縮装置202と、マイクロタービン発電装置201から排出された排気ガスから排熱を回収する温水ボイラ203とを備えている。
【0007】
マイクロタービン発電装置201は、圧縮機211、燃焼器212、タービン羽根車213、発電機214および再生器215を備えている。
マイクロタービンコジェネレーションシステムにおいては、大気から吸気した空気は圧縮機211で圧縮され、圧縮空気は燃焼器212に供給される。燃料ガスは燃料ガス圧縮機202から燃焼器212に供給される。燃焼器212では、圧縮機211から圧縮空気を供給することによって燃料ガスが燃焼される。
【0008】
燃焼器212からの燃焼ガスはタービン213に供給され、タービン213は高速で回転し発電機214を駆動する。発電機214は50〜100kW程度の電力を発電する。タービン213から排出された排気ガスは再生器215に供給され、圧縮機211からの圧縮空気を加熱する。上述したように、再生器215で加熱された圧縮空気は燃焼器212に供給される。再生器215から排出された排気ガスは温水ボイラ203の熱交換器230に供給される。温水ボイラ203では、熱交換器230によって排気ガスから排熱が回収され、温水を生成する。
【0009】
このようなマイクロタービンコジェネレーションシステムは小型であるため、分散発電に用いることができる。一方、マイクロタービンコジェネレーションシステムは小型であるために専門のオペレータ(運転監視員)をそれぞれのシステム毎に配置する事は困難である。したがって、緊急停止した際のシステムの再起動の可否も現地にメンテナンス員が派遣されなければ分からないため、すぐにシステムを再起動しても良い場合でも稼働時間が制限されてしまう。また、システムの緊急停止が故障による場合もメンテナンス員が現地に到着してからでないとシステムの緊急停止の原因が判明しないため、システムの故障に対応するまでに時間がかかってしまう。
【0010】
また、運転コストをできるだけ抑えつつシステムの稼働率を高めるには、適切なコストの部品を適切な時期に交換していく必要があるが、オペレータ(運転監視員)をそれぞれのシステムに配置できないような場合には、個々の装置、個々の部品に合わせた適切な時期の管理は困難であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような問題点に鑑みて為されたもので、マイクロタービンコジェネレーションシステムのように高速で運転され、分散配置される装置に好適な遠隔監視システムを提供することを目的とする。
【0012】
本発明の別の目的は、高速で運転されるガスタービン発電機における緊急停止の原因を特定する方法を提供することである。
【0013】
本発明の更に別の目的は、監視蓄積された運転データに基づいて、システムの健全性評価及びシステムの故障予知を行う方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述の目的を達成するため、本発明の遠隔監視システムは、マイクロタービンコジェネレーションシステムの遠隔監視システムであって、マイクロタービンコジェネレーションシステムの各種運転データを測定する手段と、前記各種運転データの任意の運転データを高速でサンプリングして記憶する手段と、前記各種運転データの任意の運転データを低速でサンプリングして記憶する手段と、前記高速データ及び前記低速データを遠隔監視センターの中央データサーバに送信する手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0015】
本発明の好ましい態様によれば、前記高速データのサンプリングは50ミリ秒以下の周期で行い、前記低速データのサンプリングは5分以上の周期で行う。
【0016】
本発明の好ましい態様によれば、前記蓄積された高速データのサンプリングデータは、マイクロタービンコジェネレーションシステムの緊急停止の前後の測定データである。
【0017】
本発明の好ましい態様によれば、前記マイクロタービンコジェネレーションシステムを制御する制御ボードと、前記マイクロタービンコジェネレーションシステムの設置場所に備えられるローカルデータサーバとを備え、前記制御ボードは前記高速サンプリングデータを蓄積し、前記ローカルデータサーバは前記低速サンプリングデータを蓄積する。
【0018】
本発明の好ましい態様によれば、前記各種運転データの任意の運転データを中速でサンプリングして記憶する手段と、前記中速データを遠隔監視センターの中央データサーバに送信する手段を備えた。
【0019】
本発明の好ましい実施形態では、マイクロタービンコジェネレーションシステムの緊急停止の原因を特定する方法であって、前記マイクロタービンコジェネレーションシステムの緊急停止の前後のマイクロタービンの回転速度と圧縮機の出口圧力の測定データを蓄積し、前記測定データを前記マイクロタービンの回転速度を表わす軸と前記圧縮機の出口圧力を表わす軸によって規定される2次元平面にプロットし、プロットされた軌跡の形状に基づいて前記緊急停止の原因を特定することを特徴とするマイクロタービンコジェネレーションシステムの緊急停止の原因特定方法である。
【0020】
好ましい態様によれば、前記軌跡が、連続運転点から速度が上昇すると共に圧力も増加し、前記速度が最高速度に達した後に、前記速度と前記圧力が共に直線的に低下する軌跡である場合に、系統電力の異常であると判断する。
【0021】
好ましい態様によれば、前記軌跡が、連続運転点から圧力が変化せずに速度が低下し、その後前記速度の上昇がほとんどないまま前記圧力が低下する軌跡である場合に、センサ信号の異常であると判断する。
【0022】
好ましい態様によれば、前記軌跡が、連続運転点から速度が若干上昇しながら圧力が急激に低下し、その後前記速度が低下すると共に前記圧力が上昇する軌跡である場合に、前記圧縮機のストールであると判断する。
【0023】
システムの診断方法の好ましい態様では、所定の関係にある少なくとも2つの測定データを測定し、その測定されたデータを蓄積し、前記少なくとも2つの測定データを前記所定の関係に基づいて正規化し、前記正規化されたデータを時間軸に沿って、イレギュラーな変化があるか否かを監視する。
前記所定の関係は、前記少なくとも2つの測定データの測定対象の関係が、線形関係で表される、もしくは、線形関係で近似される関係である。
前記システムはマイクロタービンコジェネレーションシステムであって、前記少なくとも2つの測定データは、マイクロタービンの吸気温度と発電出力である。
前記システムはマイクロタービンコジェネレーションシステムであって、前記少なくとも2つの測定データは、マイクロタービンの潤滑油温度と潤滑油圧力である。
前記システムはマイクロタービンコジェネレーションシステムであって、前記少なくとも2つの測定データは、マイクロタービンの吸気温度と潤滑油温度である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、マイクロタービンコジェネレーションシステムの全体構成を模式的に示す系統図である。
【図2】図2は、パッケージの断面図である。
【図3】図3は、マイクロタービンコジェネレーションパッケージの外観を示す図である。
【図4】図4は、再生器の熱交換コアを示す図である。
【図5】図5は、再生器の外観を示す図である。
【図6】図6は、燃料ガス圧縮機の概略図である。
【図7】図7は、温水ヒータの外観を示す図である。
【図8】図8は、温水ヒータのフローダイアグラムである。
【図9】図9は、試験装置の断面図である。
【図10】図10は、タービンロータ破壊後のハウジングの外観を示す図である。
【図11】図11は、過速度トリップ試験の結果を示すグラフである。
【図12】図12は、ドロップロード試験の結果を示すグラフである。
【図13】図13は、図の上部に再生器エレメントの計算範囲を示し、図の下部に再生器エレメントの外観を示す概略図である。
【図14】図14は、試験装置の配置図である。
【図15】図15は、系統電圧位相が10°変化した時の測定結果を示すグラフである。
【図16】図16は、騒音スペクトルの測定結果を示す図である。
【図17】図17は、振動スペクトルの測定結果を示す図である。
【図18】図18は、病院の建物の屋上に設置されたマイクロタービンパッケージを示す写真である。
【図19】図19は、パッケージの総合性能を示すグラフである。
【図20】図20は、遠隔監視システムのハードウェア構成を示す図式である。
【図21】図21は、遠隔監視システムのデータの流れを示す図である。
【図22】図22は、系統異常による緊急停止の例を示すグラフである。
【図23】図23は、系統異常による緊急停止の他の例を示すグラフである。
【図24】図24は、ドロップロードによるシャットダウン時の、ロータ速度(NR)と圧縮機吐出圧力(CDP)の関係を示すグラフである。
【図25】図25は、発電出力80kWで運転中のマイクロタービンエンジンが、”フレームアウト”により緊急停止をした前後の、高速過渡データを示すグラフである。
【図26】図26は、この停止のロータ速度(NR)と圧縮機吐出圧力(CDP)の関係を示すグラフである。
【図27】図27は、発電出力80kWで運転中のマイクロタービンエンジンが“ロータ加速度過大”により緊急停止をした前後の、高速過渡データを示すグラフである。
【図28】図28は、この停止のロータ速度(NR)と圧縮機吐出圧力(CDP)の関係を示すグラフである。
【図29】図29は、エンジンが停止する前に圧力低下が3回繰り返したことを示すグラフである。
【図30】図30は、典型的な冷間起動時の中速過渡データを示すグラフである。
【図31】図31は、好ましくない冷間起動の例を示すグラフである。
【図32】図32は、再生器交換前後のデータの比較を示すグラフである。
【図33】図33は、あるマイクロタービンエンジンの発電出力(POW)と吸気温度の約2ヵ月半にわたる長期トレンドを示すグラフである。
【図34】図34は、発電出力と吸気温度との関係を示すグラフである。
【図35】図35は、DSTのトレンドを示すグラフである。
【図36】図36は、あるマイクロタービンエンジンの潤滑油圧力と潤滑油温度の約一年間にわたる長期トレンドを示すグラフである。
【図37】図37は、潤滑油圧力と潤滑油温度の関係を示すグラフである。
【図38】図38は、NLPのトレンドを示すグラフである。
【図39】図39は、あるマイクロタービンエンジンの吸気温度、潤滑油温度および潤滑油戻り温度の約3ヶ月にわたる長期トレンドを示すグラフである。
【図40】図40は、潤滑油温度、潤滑油戻り温度および吸気温度の関係を示すグラフである。
【図41】図41は、NLTのトレンドを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
マイクロタービンコジェネレーションシステムの一実施形態として、日本市場用のマイクロタービンコジェネレーションパッケージについて図2乃至図19を参照して説明する。
【0026】
本実施形態において、日本国の法律、基準と規格に適合したマイクロタービンコジェネレーションパッケージの仕様、設計、検証試験および性能について述べる。このパッケージにはマイクロタービンエンジンが搭載され、低騒音エンクロージャ、再生器、パワーコンディショナ(PCS)、燃料ガス圧縮機、排熱回収装置などの周辺機器が開発された。検査機関の監督下で、強度計算と、コンテイメントテスト、過速度トリップ試験、負荷低下試験、圧力試験などの検証試験が行われ、発電用ガスタービンおよびマイクロタービンの日本の技術基準に適合していることが認証された。さらに、PCSおよび燃料ガス圧縮機の他の検証試験が行われ、電力会社およびガス会社から各機器がそれぞれの技術基準に適合することが認められた。また、本明細書によって、低騒音、低振動、温水と蒸気のいずれかが供給ができる排熱回収装置、容易なエンジニアリング、容易な設置、容易なメンテナンスなどいくつかの新規性のある特長を持つパッケージが提示される。
【0027】
日本国では発電用ガスタービンへの要求事項は電気事業法及び経済産業省(METI)が告示した発電用火力設備の技術基準を規定する省令に定められている。さらにマイクロタービンの要件は経済産業省告示第333号第1条第5項に示されており、コンテイメントテストなどいくつかの条件を満たせば、従来のガスタービンに不可欠である有資格技術者の選任を不要としている。また系統連系の際に要求される電力品質や系統連系保護装置に関する基本的な要件は、電気設備の技術基準に示されている。その他にも、日本ガス協会規格、労働安全衛生法、消防法などがマイクロタービン製品に関係している。
【0028】
2000年代の初め、日本市場でのマイクロタービンの拡販が始まった際には、METIをはじめ各方面で従来の基準を見直し、規制を緩和して、マイクロタービンの普及を促す努力がなされた。また、海外のマイクロタービンメーカと提携した日本の販売代理会社らは、日本の基準に適合させるための機能追加や、日本市場の要求に合わせた製品開発を行った。しかしながらそのような努力にもかかわらず、日本の技術基準や日本市場で要求される品質レベルに適応できず、販売を断念した製品があったのも事実である。
【0029】
本実施形態では、日本市場向けに開発したマイクロタービンコジェネレーションパッケージが提示される。このパッケージには、エリオットエナジーシステムズ社(EESI)社製マイクロタービンエンジンが搭載され、その他の低騒音エンクロージャ、再生器、パワーコンディショナ(PCS)、燃料ガス圧縮機、排熱回収装置、遠隔監視システムなどは全て独自に開発された。本実施形態では、各機器の設計仕様と特長が日本の基準との関連において述べられ、つぎに発電用ガスタービンとマイクロタービンの技術基準への適合性検証試験結果および系統連系の技術水準への適合性試験結果が述べられ、最後にパッケージ性能が述べられる。
【0030】
パッケージ設計においては、日本国の法規、標準と規定に従った。主要な構成品に関連する標準と規定を以下に示す。
・マイクロタービンおよびその機器類 電気事業法、発電用火力設備の技術基準、経済産業省(METI)告示第333号第1条第5号 [1]
・エンクロージャー 消防法、消防法施行令 [2]
・パワーコンディショナ(PCS) 電気事業法、電気設備に関する技術水準、社団法人日本電気協会規格 [3]
・燃料ガス圧縮機 ガス事業法、社団法人日本ガス協会規格 [4]
・排熱回収装置 労働安全衛生法、ボイラー及び圧力容器安全規則 [5]
【0031】
マイクロタービンはMETI告示によって、有資格技術者の選任が不要なので、パッケージに内蔵する温水ヒータ、蒸気ボイラーも、有資格技術者が不要な設計にした。同時に、遠隔監視機能を充実させ、運用と保守について顧客をサポートできるようにした。またパッケージ設計には市場の要求や設置条件などを考慮した。マイクロタービンは、ビルの屋上や狭い空き地、住居近接地に、よく設置されるため、屋外設置を基本とした低騒音、低振動、耐候性パッケージとし、消防法で規定される非常用電源の仕様にも対応した。さらに、設置工事を容易にするために、パッケージは、外部の付帯設備が不要なシステム設計とした。また、メンテナンスを容易にするために、PCSや燃料ガス圧縮機などの各構成機器は独立したモジュールとして、単独での試験とモジュール交換を可能にした。
【0032】
図2にパッケージの断面図を示し、図3にパッケージの外観を示す。また、パッケージの主要諸元を表1に示す。図2に示すように、パッケージは、吸気フィルタ1、操作盤2、潤滑油クーラ3、マイクロタービンエンジン4、吸気サイレンサ5、パワーコンディショナ(PCS)6、バッテリー7、再生器8、燃料ガス圧縮機9、排気サイレンサ10、熱回収装置11を有している。マイクロタービンエンジン4は、圧縮機、燃焼器、タービン羽根車および発電機を有している。圧縮機、タービン羽根車および発電機は共通の軸に装着されている。パッケージの構造は、上下2段に分割されており、吸気および排気サイレンサはユニットの上部に配置されている。上段にはマイクロタービンエンジン、再生器などの高温機器を配置し、下段にはPCS、燃料ガス圧縮機を配置している。サイレンサ吸気口からオイルクーラファンで吸気し、上段の機器を冷却し、前面扉に設けた吸気口からPCSのファンで吸気し、下段の機器を冷却する。各機器を冷却して暖かくなった空気は背面扉上部の換気口から排気される。電気、信号配線は前面下部に、ガス及び温水配管は背面下部にインターフェースを設けた。マイクロタービンエンジン、PCS、燃料ガス圧縮機、排熱回収装置は簡易なツールによって前面扉または背面扉から出し入れが可能な構造とした。このデザインにより複数台のパッケージの隣接設置が可能になった。
【表1】

【0033】
エンクロージャは消防法で規定される非常用発電装置の認定対象となるキュービクル構造にするため、以下の構造になっている。エンクロージャパネルは厚さを2.3mmの鋼板とし、内部機器設置高さを防水要件を満足する床面から180mm以上とし、給排気口には10mm以下のメッシュの金網を設け、マイクロタービンエンジン下床面には潤滑油全量を受けることができる容量のオイルパンを設けた。遮音措置として、マイクロタービン吸排気音に対しては流路形状及び流路長を最適化した吸気サイレンサと排気サイレンサを設け、マイクロタービンエンジン、潤滑油ポンプ、燃料ガス圧縮機及び排熱回収装置のポンプ等からの伝播音に対しては、高密度グラスウールをエンクロージャ内部に隙間無く貼り付け、扉にゴムパッキンを取り付けて音漏れを防止した。この対策により、騒音値は機側1m、床上1.2mにて68dB(A)以下になった。
【0034】
マイクロタービンはMETI告示によって、発電出力が300kW未満、発電機と一体の筐体に収められ、最高使用圧力が1000kPa以下、最高使用温度が1400℃以下、損壊事故時に破片が外部に飛散しないものと定義されている。採用されたマイクロタービンエンジンは、定格発電出力105kW、定格回転速度68000rpm、最高使用圧力350kPa、タービン入口ガス温度(TIT)920℃である。発電用火力設備の技術基準により、ロータ速度、圧縮機吐出圧力、TIT、潤滑油圧力、軸受潤滑油戻り温度の計測が要求されるので、圧力センサ及び潤滑油温度センサを追加設置した。TITはタービン出口ガス温度の計測で代替することが認められた。さらに以下のような要求に対しては、検証試験及び強度計算により適合性を証明した。その結果は以下に述べられる。
(1) 損壊事故時に、破片が外部に飛散してはならない。
(2) 過速度停止及び過昇温停止の状態でも十分な強度を有しなければならない。
(3) 定格負荷を遮断した場合、ロータ速度が過速度停止に達してはいけない。
(4) 潤滑油圧力が極端に低下しても、ガスタービンエンジンは安全に停止できなければならない。
(5) ガスタービン及び付属設備は、最高使用圧力の1.5倍の水圧または最高使用圧力の1.25倍の気圧に耐えなければならない。
【0035】
なお、日本の温暖な気候を考慮して、定格発電出力を95kWとして、マイクロタービンの定格性能に対してマージンを持たせた設定にしている。
【0036】
再生器
図4は、再生器の熱交換コアを示す。
再生器は高密度オフセットフィンをブレージング(ろう付け)で接合したプレート&フィンタイプの熱交換コア8−1を有している(図4参照)。コア材料には、SUS430をベースにMo、Nb、Si、Mn等を添加しCを極めて低く抑え、耐熱性、耐酸化性、耐粒界腐食性を向上させた改良フェライトが使われた。
【0037】
再生器8の外観を図5に示す。再生器8とマイクロタービンエンジン4とのインターフェースはユニークな三重管(TCC)構造とした。三重管の最も外側の流路は圧縮機出口に接続し、圧縮空気が通り再生器8に流入する。三重管の中間の流路を、再生器8で予熱された空気が通り燃焼器に流入する。中心の流路から排気ガスが通り再生器8に流入する。三重管の外側の流路の圧力は内側の流路の圧力より高く、内側の流路の温度が外側の流路の温度より高いため、高温の空気や排ガスが外部に漏れることは無く、断熱性が高い構造になっている。当再生器の最高使用温度は650℃、熱効率は約92%である。
【0038】
再生器8は、マイクロタービンの起動、停止や負荷変動時に発生する排ガス温度変化による低サイクル疲労、高温排ガスによる高温酸化腐食、クリープ疲労等の種々の悪条件にさらされる。そのため、熱サイクルテスト、圧力サイクルテスト、クリープテストなど各種試験により再生器8の耐久性を検証した。
【0039】
パワーコンディショナ(PCS)
分散型電源の系統連系のための要件は、電気事業法及び電気設備技術基準で定められており、電気技術指針JEAG9701でより具体的に示されている。日本の電力線は三相三線が一般的であり三相四線を基本とする欧米と異なる。また系統連系においては単一力率が要求され、受動及び能動の2種類の単独運転検知機能が要求されるなど、電力品質および系統連系保護機能の要件が細部において欧米と異なっている。開発したPCSは、JEAG9701に準拠して計画され、系統連系シミュレータを用いた定常特性試験、連系保護機能試験、単独運転検出試験、過渡応答試験などの検証試験が実施された。電力会社による書類審査、立会試験により本製品(PCS)が日本の技術基準を満足するものであることが認められた。検証試験の結果は以下に述べられる。
【0040】
パッケージで使われたパワーコンディショナ(PCS)6の定格発電出力は100kVA、定格電圧は400/440/480V、三相三線または三相四線、電力変換効率は約95%である。パワーコンディショナ(PCS)6は、過電圧保護、不足電圧保護、過周波数保護、不足周波数保護、過電流保護、受動式単独運転検出、能動式単独運転検出などの系統連系保護機能、インバータモジュール保護、ブースター回路保護などの自己保護機能を持つ。さらに、PCS6は、自立運転機能、バッテリースタート機能があり、常用非常用発電兼用システムのアプリケーションの実績もある。また、システムは、車輪付きの筐体に収められていて、メンテナンス時にはパッケージへの搭載、取り出しが容易にできる。
【0041】
燃料ガス圧縮機
燃料ガス圧縮機は油冷式スクリュコンプレッサを用いている。図6に示すように、燃料ガス圧縮機9は、操作盤91、潤滑油フィルタ92、潤滑油クーラ93、燃料ガス入口圧力スイッチ94、潤滑油セパレータ95、潤滑油タンク96、スクリューコンプレッサ97、インバータ98、燃料ガス遮断弁99およびモータ100を有している。燃料ガス圧縮機9の吐出し圧力と流量は、可変速制御とアンロード制御により調整される。圧縮機は、高圧ガスレシーバタンクを持たないけれども、マイクロタービンの起動停止、負荷変動など広範な運転に対応できる。
【0042】
燃料ガス圧縮機には、ガス供給管内のガス圧力が変動し、他のガス機器に影響を与えることがないよう、圧力脈動が十分に小さいことが要求される。また、地震などによりガス供給管に設置された遮断弁が閉じた際に、吸入圧力の低下を検知して自動停止する機能が求められる。この機能を得るために、燃料ガス圧縮機は、吸込み側に圧力スイッチを有し、ガス吸入圧力が500Pa以下になると、瞬時に緊急遮断弁を閉じ自動停止し、ガス供給管内の真空を避ける。
【0043】
このパッケージに用いられた燃料ガス圧縮機は東京ガス株式会社において検証試験が行われ、ガス供給管に発生する圧力変動が規定内にあること、ガス供給が遮断されたときに安全に停止できることが確認された。
【0044】
排熱回収装置
パッケージに内蔵する排熱回収装置11には、温水ヒータ、蒸気ボイラーがある。温水ヒータと蒸気ボイラーの基準と規格は、労働安全衛生法とボイラー及び圧力容器安全規則に規定されている。これらの基準と規格に、圧力や伝熱面積による区分、設計要件や検査方法、有資格技術者の要否などが定められている。
【0045】
表2は、温水ヒータの仕様を示す。温水ヒータは、排熱回収熱交換器にアルミフィン付きステンレス管を使った無圧貫流型とした。無圧貫流型は、官庁検査及び有資格技術者などが不要である。図7は温水ヒータの外観を示す図であり、図8はフローダイアグラムである。温水ヒータは、排熱回収熱交換器113、温水熱交換器112、排ガスバイパス弁アクチュエータ114、排ガスバイパス弁、循環水バイパス弁、内部循環ポンプ111、温水タンク117、空冷フィン付コンデンサ115、排ガス温度センサ、循環水温度センサおよび制御盤116から構成される。排熱回収熱交換器113で排ガスと熱交換された高温水が大気開放された温水タンクを通る。内部循環ポンプ111は水を循環し、温水熱交換器112は外部のポンプで供給される水を加熱する。循環水は大気圧に保たれているため、異常な圧力上昇を起すことはなく、安全弁、膨張タンクなどの過圧防止装置が不要である。更に、循環水は95℃までの昇温が可能である。循環水の温度は排ガスバイパス弁で制御される。外部の熱負荷が減り循環水温度が上昇した場合には、循環水バイパス弁によって排熱回収熱交換器113への水循環が止められ、排ガスと循環水との熱交換を遮断する。これにより、従来システムでは安全装置として不可欠であった放熱装置が不要になった。温水ヒータは、排ガス温度を検知する専用の制御装置を持ち、マイクロタービンの制御とは独立している。
【表2】

【0046】
蒸気ボイラーは伝熱面積5m以下の多管式貫流ボイラーであり、簡易ボイラーに区分され、官庁による検査が不要で、有資格技術者も不要である。蒸気ボイラーは、アルミフィン付き炭素鋼鋼管を用いた排熱回収熱交換器、エコノマイザ、排ガスバイパス弁、リリーフ弁、給水ポンプ、排ガス温度センサ、ボイラ圧力センサ、水位センサ及び制御盤から構成される。蒸気圧力は排ガスバイパス弁によって制御される。
【0047】
なお、排ガス直接投入吸収式冷温水器を分離して設置する場合には、排気ガスダクトが接続され、排気ガスを冷温水器に供給する。排ガス直接投入吸収式冷温水器は、冷凍能力40RTと60RTの2機種がある。
【0048】
遠隔監視システム
マイクロタービンコジェネレーションパッケージは、技術基準で要求される監視項目をはじめ、吸気温度や燃料制御弁開度、発電電力やインバータ温度、排熱回収量などを監視できる機能を有した遠隔監視システムを備えている。マイクロタービンコジェネレーションパッケージはデータを一時的に蓄えるローカルデータサーバーを有し、ISDN回線で遠隔監視センター又はデータセンターの中央データサーバーにデータを転送する。パッケージの異常発生の有無は監視センターのスタッフにより24時間監視され、異常発生時には専門の技術者がデータを分析し適切な処置がとられる。また、顧客もインターネットを経由してデータベースにアクセスすることができ、運転記録の出力などに利用している。
【0049】
実証試験と結果
マイクロタービンの基準と規格
発電用火力設備技術基準及び経済産業省告示第333号第1条第5項への適合性検証は、発電技術検査協会(JAPEIC)の監督下で行われ認証された。また試験レポートが経済産業省に提出され受理された。以下に、主要な試験結果を示す。
【0050】
コンテイメントテスト
スピンテスターにタービンロータとハウジング、その他の部品を組み付けて、空気タービンでタービンロータを駆動してタービンロータが破壊するまで試験を行った。タービンホイールには予め微小なスリットを設け、ほぼ均等に三分割するようにした。図9に試験装置の断面を示し、図10にタービンロータ破壊後のハウジングを示す。タービンロータは75859rpmで破壊したが、破片がハウジングの外部に飛散しないことが確認された。
【0051】
過速度トリップ試験
ロータ速度を過速度限界まで上昇させてトリップさせた。図11に、試験時のデータを示す。ロータの速度を72500rpm近傍で約4秒間保持した後、ロータ速度制限に達し、燃料制御弁及び燃料遮断弁が閉止し、ロータが停止した。停止後のロータに変形や破壊などの異状が無いことが確認された。
【0052】
図11において、横軸は時間(秒)を表し、縦軸は圧縮機吐出圧力(CDP)(kPa)、排ガス温度(EGT)(℃)、燃料制御弁開度(FCV)(%)およびロータ速度(NR)(×100rpm)を表す。
【0053】
ドロップロード試験
定格出力で運転中に、負荷を瞬時に遮断した。図12に、試験データを示す。ロータ速度は負荷遮断によって上昇するが、燃料制御弁及び燃料遮断弁が閉止して、速度上昇が過速度限界を超えないことが確認された。
【0054】
図12において、横軸は時間(秒)を表し、縦軸は圧縮機吐出圧力(CDP)(kPa)、排ガス温度(EGT)(℃)、燃料制御弁開度(FCV)(%)およびロータ速度(NR)(×100rpm)を表す。
【0055】
潤滑油ポンプトリップ試験
定格出力で運転中に潤滑油ポンプを強制的にトリップさせ、軸受に損傷を与えないかどうかを検証した。潤滑油ポンプ停止により、潤滑油圧力の低下が検出されて燃料遮断弁が閉止され、約100秒後にロータが停止した。これを4回繰り返し、トリップ前後の潤滑油中の微小な摩耗紛をフェログラフ分析にかけた。分析の結果、軸受の異状は見られず、エンジンが安全に停止できることが確認された。
【0056】
圧力試験
マイクロタービンのハウジング及び再生器に、最高使用圧力の1.25倍の空気圧力をかけて5分間保持し、部品に変形や破壊が無いことを確認した。また、最高使用圧力、最高使用温度における再生器のエレメントの発生応力を有限要素法による計算で求め(図13参照)、それが材料の許容応力内であることを確認した。図13において、図面の上部に再生器エレメントの計算範囲を示し、図面の下部において再生器エレメントの外観を示している。
【0057】
系統連系ガイドライン
PCSの性能及び系統連系保護機能を検証するため、マイクロタービンパッケージについて、系統シミュレータと負荷抵抗器、各種計測器を用いて以下の試験を行った。試験装置の構成を図14に示す。試験方法及び評価基準は、JEAG9701及び電気安全環境研究所(JET)の小型太陽電池認証試験を参考にして定めた。
【0058】
定常状態特性
綜合電流歪率(THD)、力率、漏洩電流、電圧上昇抑制機能、ソフトスタート機能、ソフトストップ機能、系統電圧追従性、系統周波数追従性を確認した。定格出力運転時のTHDは約2.5%、力率は0.99以上であり、全ての特性が判定基準を満足した。
【0059】
系統連系保護
系統の過電圧、不足電圧、過周波数、不足周波数などの異常を擬似的に作り、異常発生から解列までの時間、電圧、周波数を測定した。各検出機能とも、判定基準内に作動することが確認された。
【0060】
単独運転検出
系統の停電を擬似的に発生させ、単独運転を検出して解列するまでの時間を計測した。受動式単独運転検知は0.3秒以上、0.5秒以内に作動すること、能動式単独運転検知は0.5秒以上、1.0秒以内に作動し、いずれも判定基準を満足することが確認された。
【0061】
過渡特性
系統電圧、系統電圧位相、系統電圧不平衡を急変させたときに出力電圧が過度に変動しないことを確認した。これらの条件のもとで、電流の変動が定格電流の150%以下で電流変動時間が0.5秒以下であることが要求される。図15は、系統電圧位相が10°変化した時の測定結果を示す。測定結果は、電流歪が定格電流の100%以下、変動時間が1サイクル以内であり、判定基準を満足していることを示している。
【0062】
パッケージ性能
パッケージから1mの距離、1.2mの高さでの騒音スペクトルの測定結果を図16に示す。結果は、500Hzオクターブバンドにピークがみられ、高周波成分は減衰していることを示している。騒音はパッケージの前面でやや大きい値を示しているが、全体として65dB前後を示している。図17にパッケージ底面の振動スペクトルの測定結果を示す。中心周波数バンドは62Hzにあり、35dB前後の値を示している。マイクロタービンパッケージは低騒音、低振動、軽量という特長により、病院やホテル、コンサートホールなど静粛性を要求される建物の屋上に設置されている(図18参照)。
【0063】
図19にパッケージの総合性能を示す。図19において、横軸は吸気温度(℃)を表し、右側の縦軸は電気効率および総合効率(%)を示し、左側の縦軸は電気出力(kW)および熱出力(kW)を示している。このデータは東京ガス株式会社の評価試験において得られたものである。定格発電出力95kWにおいて、155kWの温水出力が得られており、発電効率は約28%、総合効率は約74%を示している。なお、温水の出口温度は70℃、戻り温度は60℃である。吸気温度が25℃前後まで定格発電出力が得られており、パッケージは、日本の比較的温暖な気候においても、夏季の一時期を除いて長期にわたり定格発電出力を出すことができる。
【0064】
図2乃至図19で示される実施形態においては、日本の法律、基準および規格に適合するように設計され製造されたマイクロタービンコジェネレーションパッケージを説明したが、マイクロタービンコジェネレーションパッケージの使用の地域は日本に限るものではない。
【0065】
マイクロタービンコジェネレーションシステムの遠隔監視および故障診断
上述のマイクロタービンコジェネレーションシステムに適用可能な遠隔監視および故障診断の実施形態を図20乃至図41を参照して説明する。
【0066】
本実施形態は、マイクロタービンコジェネレーションシステムの故障検知と故障診断、予知保全の実践について提示する。また、大容量高速データの獲得と保存、ならびにインターネットによるデータの共有を可能にした遠隔監視システムを提示する。さらに、本実施形態は、マイクロタービン緊急停止時や起動失敗時の根本原因究明のための高速過渡データを用いた故障診断、適切なメンテナンスを実現するための長期間トレンドデータを用いた故障予知を提示する。
【0067】
マイクロタービンコジェネレーションシステムは、ガスタービンエンジン、発電機、パワーコンディショナ(PCS)、燃料ガス圧縮機、排熱回収装置など多くの機器や部品で構成された、いわば発電プラントである。小規模分散型発電装置としてのマイクロタービンには、専任のオペレータやメンテナンス要員が配置されることは無いが、一方で、高い稼働率、日々の起動・停止運転における高い起動信頼性、低メンテナンスコストが要求されている。高稼働率を得るためには、機器や部品に高品質と高耐久性が要求されるが、高稼働率の維持と低価格での製品提供という矛盾を抱えている。適切なコストで最大の運用効率を得るために、産業用ガスタービンや航空エンジンでは、燃焼器やタービンブレードなどの主要部品の劣化や損傷の進行状況を逐次点検し、適切な時期に補修または交換する状態監視保全(condition based maintenance)の手法が採られている。マイクロタービンでは熟練技術者による運転監視や日常点検を期待できないので、遠隔監視システムによる運用とメンテナンスのサポートが不可欠である。
【0068】
遠隔監視の第一の目的は、緊急停止時の原因分析と再起動の可否判断である。緊急停止は、機器の故障のほかにも、瞬時停電や燃料供給の遮断など様々な要因で発生し、すぐに再起動して差し支えない場合が少なくない。また電力会社とユーザ間の契約によっては、マイクロタービンによる発電停止中に電力消費が契約量を超えると、高額な付加料金が課されたり契約料金が上げられる。従って、緊急停止時には、速やかに再起動可否の判定が行われ、その結果がユーザに通知されなければならない。
【0069】
第二の目的は、故障の根本原因の究明と再発の防止である。故障の部位と原因は様々であり、かつ複雑であるため、故障発生前後のシステムの状況を詳細に分析することによって、故障の根本原因の特定と有効な対策が可能になる。
【0070】
遠隔監視の第三の目的は健全性評価および故障予知の実施である。蓄積されたデータベースとの比較により運転状態の良否が判定される。また、故障や緊急停止が発生する前に、潜在する異状が発見され、事前に処置することが可能になる。さらに、長期にわたる時系列データの変化傾向から、監視システムにより修理の要否と時期が決定され、メンテナンスの最適化がはかられる。
【0071】
本発明者らは、表3に記載された仕様のマイクロタービンコジェネレーションパッケージの開発にあたり、大容量高速データの獲得と保存、ならびにインターネットによるデータの共有を可能にした遠隔監視システムを同時に開発した。一日24時間一年中サポートできるサービス体制とするためには、この遠隔監視システムを販売した全てのパッケージに標準装備することが好ましい。このシステムにより、99.5%の年間平均稼働率と起動信頼性が達成される。本実施形態では、最初に遠隔監視システムの構成と機能について説明する。つぎに、高速過渡データを用いた故障診断手法と長期間トレンドデータを用いた故障予知手法について説明する。
【表3】

【0072】
遠隔監視システム
遠隔監視システムのハードウェア構成が図20に示される。マイクロタービンコジェネレーションシステムは、PCS制御ボード、マイクロタービンエンジン制御ボード、システム制御ボードの3枚のマイクロプロセッサ搭載制御ボードを持つ。それぞれの制御ボードはRS485データ通信バスで接続され、システム制御ボードはRS232C通信バスでローカルデータサーバ(LDS)に接続される。3つの制御ボードは、マイクロタービンコジェネレーションシステム内に配置されており、マイクロタービンコジェネレーションシステムの運転を制御する。LDSもマイクロタービンコジェネレーションシステム内に配置されるか、またはマイクロタービンコジェネレーションシステムの近傍に設置される。
【0073】
複数のマイクロタービンコジェネレーションシステムが1つの現場に設置されている場合には、その現場のすべてのマイクロタービンコジェネレーションシステムに対して一つのLDSが設置される。それぞれの制御ボードが持つセンサ信号、制御信号、設定値、状態値、警報メッセージなどの各種データは、ローカルデータサーバから長距離通信回線としてのISDN回線、通信サーバを経由して、データセンターの中央データサーバ(CDS)に転送される。監視サービススタッフや担当技術者は、認証サーバを経由して中央データサーバにアクセスしデータを閲覧することができる。契約された顧客もインターネット経由で中央データサーバにアクセスすることができる。
【0074】
遠隔監視システムのデータの流れが図21に示される。マイクロタービンのロータ速度、温度、圧力、パッケージ内部温度、PCSの発電出力、電流、電圧、温度、系統電圧、受電電力、燃料流量、温水流量、積算運転時間、積算発電電力量など、総計で80点のアナログデータ、288点のデジタルデータが収集される。エンジン制御ボードでは、リアルタイムデータが10msecごとに更新される。緊急停止発生時には、事象発生前30秒間と発生後10秒間、合計40秒間分の10msec周期の高速サンプリングデータが自動的に保存される。このサンプリング周期は、100msec以下であることが望ましい。以下特に断りがない限り単に高速データといった場合はこの100msec以下のサンプリング周期によるデータを示す。ローカルデータサーバでは、最新30分間の0.5秒周期の高速データ(中速データ)および最新10日間の15分周期の長期データが保存され、常に更新されている。このサンプリング周期は、5分以上であることが望ましく、また、最長でも1時間程度であることが望ましい。さらに、ローカルデータサーバでは、装置の起動停止や緊急停止の時刻、警報メッセージなど、最新の300事象の情報を保存している。これら中速データ及び長期データは自動的に中央データサーバに送られる。中央データサーバはこれらのデータを蓄積し、0.5秒周期の高速(中速)データベースおよび長期データベースを構築する。これらのデータを用いて、日報、月報形式の帳票が作成される。他のデータは、認証されたユーザの運用に従って中央データサーバに転送・保存される。顧客は、中央データサーバのデータを、個々のPCにおいて標準インターネットブラウザーソフトで閲覧することができ、リアルタイムデータの監視、帳票の印刷、PCにデータを転送して分析することなどが可能である。
【0075】
遠隔監視システムは、マイクロタービンコジェネレーションシステムで緊急停止などが発生したときに、自動的に事象の発生のメッセージを通報する機能を持っている。事象発生時には、監視サービススタッフと担当技術者が通報を受け、速やかにデータの収集と分析を行い対策を決定する。スタッフは、また、定期的に運転状況を確認し、データを分析して装置の健全性評価を行っている。
【0076】
さらに、遠隔監視システムは、各種の制御パラメータや、警報設定値、運転スケジュールなどを遠隔で変更できる機能を持っている。この機能により、制御パラメータの微調整や、各種の設定変更を現地に赴くことなく行うことができる。
【0077】
高速データによる診断
系統異常
マイクロタービンエンジンが93kWの発電出力で運転されているときに起こった“ロータ加速度過大”による緊急停止の前後の、10msecサイクルサンプリングの高速過渡データが図22に示される。系統電圧(GV)および発電出力(POW)が約70msec遅れ時間をもってマイクロタービンエンジン制御ボードに記録される。というのは、これら系統電圧と発電出力はPCS制御ボードを介して転送されるからである。10msec高速データの場合には、この遅れ時間を考慮に入れなければいけない。図は、ロータ加速度(ACC)が突然上昇し、一旦低下した後再び上昇して、それから徐々に低下していることを示している。ロータ加速度上昇とほぼ同時に燃料制御弁(FCV)が閉じ、若干遅れて、発電出力が低下し、ロータ速度(NR)が上昇している。系統電圧と発電出力は移動平均処理が行われているため、階段状の変化を示している。しかしながら、実際の系統電圧と発電電力は急激に変化している。これは、ドロップロードが発生した時の典型的な過渡データを示している。この際、系統電圧(GV)の450Vから400V以下への一時的な低下が確認され(図22参照)、系統電圧変動による緊急停止であると判断された。ロータ速度のコーストダウンの様子や潤滑油温度の変化などから、機械的な損傷がないことが確認され、ユーザに再起動可能が通知された。図22に示す停止の際、現地では強い雷が発生していたとの報告があり、それが系統電圧変動の原因と推定された。
【0078】
図23に、系統異常による緊急停止の他の例を示す。発電出力80kWで連続運転中に、ロータ加速度が急変してマイクロタービンエンジンが“ロータ加速度過大”により停止した。前の例と同様に、ロータ加速度(ACC)上昇と同時に燃料制御弁(FCV)が閉じ、発電出力(POW)が低下し、ロータ速度(NR)が上昇している。この際、同時に系統電圧(GV)が低下してゼロになっており、停電による系統異常であることが分かった。マイクロタービンのPCSは、停電の場合に単独運転を検知する機能を持っている。この場合は、その機能が作動するよりも先に、加速度上昇を検知してマイクロタービンは停止した。このマイクロタービンは、系統復電後に運転に復帰させられた。
【0079】
図22および図23における緊急停止前後の高速データは、緊急停止が起きたときにコントロールボードからLDSを経由してCDSに送信され、CDS内の10msecサイクル高速データベースに蓄積される。CDSからは遠隔監視センターの監視員やメンテナンス員などの関係者に緊急停止の警告メッセージが送られるが、これと同時に蓄積された高速データを警告メッセージに添付しても良い。監視員やメンテナンス員はこの高速データを閲覧することで装置の再起動が可能かどうかを判断することができる。
【0080】
ドロップロードによる停止時の、ロータ速度(NR)と圧縮機吐出圧力(CDP)の関係が図24に示される。ロータ速度が68000rpmの連続運転点から、ドロップロードにより70000rpm以上まで上昇する。その間、CDPはやや増加する。ロータ速度が最大回転数まで到達した後、ロータ速度とCDPはほぼ均等に、直線的に低下する。この図は緊急停止時の要因分析に有効であり、後で、他の緊急停止の要因との比較が示される。
【0081】
センサ信号異常
発電出力80kWで運転中のマイクロタービンエンジンが、”フレームアウト”により緊急停止した前後の、高速過渡データが図25に示される。ロータ加速度(ACC)が急減し、同時に燃料制御弁(FCV)が全開になり、すぐに全閉になっている。少し遅れて、発電出力(POW)が低下し、ロータ速度(NR)が上昇している。制御ロジックは、燃料制御弁(FCV)が全開になったのを、”フレームアウト”と判断して緊急停止した。この際、ロータ速度(NR)が瞬時、低下し復帰しているのがみられた。圧縮機吐出圧力(CDP)に、それに関連した変化がみられないことから、実際にはロータ速度は変化しておらず、ロータ速度信号の一時的な欠落が原因であると判断された。
【0082】
図26は、この緊急停止での、ロータ速度(NR)と圧縮機吐出圧力(CDP)の関係を示す。図26には、比較のため図24の例を細線で示してある。ロータ速度低下時にCDPは変化せず、また停止時にロータ速度がほとんど上昇せず、ドロップロードと明らかに異なる軌跡を描いている。
【0083】
この場合、機械的な損傷の兆候がでないことが確認されたので、ユーザに再起動可能が通知された。さらなる調査により、ロータ速度信号ケーブルとコネクタの接触不良がこの緊急停止の根本原因であることが判明したので、この現場を含め、運転している全てのマイクロタービンのロータ速度信号ケーブルとコネクタが改良品に交換された。
【0084】
圧縮機のストール
マイクロタービンエンジンが80KWの発電出力で運転されているときに起こった“ロータ加速度過大”による緊急停止の前後の、高速過渡データが図27に示される。ロータ加速度(ACC)上昇と同時に燃料制御弁(FCV)が閉じ、発電出力(POW)が低下し、ロータ速度(NR)が一旦低下した後上昇している。この際、圧縮機吐出圧力(CDP)が一時的に、280kPaから100kPa近くまで急低下している。図28に、この緊急停止の、ロータ速度(NR)と圧縮機吐出圧力(CDP)の関係を示す。連続運転点から、ロータ速度がわずかに増加しながらCDPが急低下し、その後回転速度の低下と共に圧力が回復するサイクルを描いている。これは、図29に示された過去のデータとの比較により、圧縮機のストールによる緊急停止と判断された。図29の場合、圧力低下を3回繰り返してエンジンが停止している。図28の場合には、強化されたドロップロード検知機能によって、初めの圧力低下で停止され、機械的な損傷が防がれている。コーストダウン時のロータ速度、潤滑油温度の推移などから、再起動可能との判断がユーザに通知され、運転が復帰された。
【0085】
図24等に示すNR−CDPの高速データの軌跡は、CDSにより生成される。これらのデータは緊急停止の警報メッセージと共に関係者に送信されても良いし、関係者の要求により生成されたデータを提供するようにしても良い。これにより関係者は故障の原因の特定をすることができる。
【0086】
また、CDSは、NR−CDPの軌跡を自動的に解析して、故障の原因を特定してその情報を提供するようにしても良い。
【0087】
起動プロファイルの改良
典型的な冷間起動時の中速過渡データを図30に示す。15000rpmで40秒間パージした後、燃料を供給して着火させ、28000rpmで60秒間保たれた後、定格ロータ速度68000rpmまで昇速される。その後、発電出力(POW)が定格負荷まで上昇される。
【0088】
図31は、好ましくない冷間起動の例である。定格回転速度までの加速中に、排気ガス温度(EGT)が450℃に達しており、燃料供給過多が懸念された。遠隔操作で、起動制御パラメータの調整が行われ、起動状況は改善された。状況が改善されなかった場合には、何らかの故障であると判断される。この場合は、現地での検査により、マイクロタービンと再生器のインターフェースからの圧縮空気漏れが原因と判断され、再生器が交換された。
【0089】
再生器交換前後の起動データの比較が図32に示される。データの比較を容易にするため、横軸をロータ速度(NR)にして、燃料制御弁開度(FCV)、排気ガス温度(EGT)、圧縮機吐出圧力(CDP)がグラフに示されている。再生器交換後は、ロータ速度が28000rpmから68000rpmまで加速する間のFCVが全体に低下しており、EGTが全体にわたって50℃低下して正常範囲に入っている。さらに、CDPが全体に高くなっており、圧縮空気漏れが改善されたことが伺える。
【0090】
長期データによる故障予知
性能低下
あるマイクロタービンエンジンの発電出力(POW)と吸気温度の約2ヵ月半にわたる、CDSに蓄積された長期トレンドを、図33に示す。発電出力は吸気温度の影響を受けるので、日毎に変化しながら緩やかに推移しているが、特段の問題はないように思われる。これを横軸に吸気温度、縦軸に出力をとって示すと、図34になる。ガスタービンは、吸気温度が上がると発電出力が下がる、いわゆる出力低下特性を持つので、データは右下がりの傾向を示している。しかし、通常は、データが一つの線に沿って分布するはずのものが、図34のグラフでは広い範囲に分布している。この分布傾向を時系列で分析するために、他の条件にかかわらず出力低下の傾きを一定として、個々のデータから出力低下開始点温度(DST)を計算で求めた。図35は、DSTのトレンドを示す。DSTは途中まで25℃前後の一定値を保持しているが、ある時点から明確な低下傾向を示しており、一ヶ月後には15℃以下になっている。総合的な分析から、燃焼器の劣化が予想されたので、マイクロタービンを計画停止して点検が行われ、劣化した燃焼器が交換された。燃焼器交換後は性能が回復した。
【0091】
潤滑油圧力低下
あるマイクロタービンエンジンの潤滑油圧力と潤滑油温度の約一年間にわたる長期トレンドを、図36に示す。潤滑油温度と圧力は調節弁によってある程度制御されているが、長期的には吸気温度の影響を受けて変化する。潤滑油温度が冬季は下がり、夏季は上がるため、潤滑油圧力は逆に冬季に高く、夏季に低くなる。図36は、冬季から夏季にかけて潤滑油圧が緩慢に低下しているのを示しており、特に異状はないように見受けられる。これを、横軸に潤滑油温度、縦軸に潤滑油圧力をとると、図37のように示される。潤滑油温度と圧力は、本来リニアな関係にあるので、データは一直線上に分布するはずだが、図には広い分布が示されている。この分布傾向を時系列で分析するために、他の条件に拘らず圧力低下の傾きを一定として、個々のデータから潤滑油温度60℃で正規化した潤滑油圧力(NLP)を計算で求めた。図38は、NLPのトレンドを示す。ほぼ一定で推移していたNLPが、ある時点から低下傾向を示しているのが、明確にわかる。潤滑油の発泡(oil foaming)による潤滑油タンクの潤滑油レベルの低下があり潤滑油ポンプの吐出圧力の低下があったので、低下傾向を示してから約一ヶ月半後に、マイクロタービンが計画停止され整備が行われた。潤滑油の補充と潤滑油シール分離エアバッファラインの洗浄を行った。整備後、圧力は回復し、一定値を保持するようになった。
【0092】
潤滑油冷却問題
あるマイクロタービンエンジンの潤滑油温度と潤滑油戻り温度、吸気温度の約3ヶ月にわたる長期トレンドを、図39に示す。潤滑油温度は軸受に送る潤滑油の温度であり、潤滑油戻り温度は軸受での潤滑を終えて温度の上昇した潤滑油の温度である。潤滑油温度は吸気温度の影響を受けて変化し、潤滑油温度と潤滑油戻り温度の差は軸受や発電機に異状がなければほぼ一定を保つ。図39に示された各温度は、ほぼ一定の関係を持って推移しており、特に問題は無いように見受けられる。これを、横軸に吸気温度、縦軸に潤滑油温度をとると、図40のように示される。潤滑油温度と潤滑油戻り温度とも、ほぼ一直線上に分布しているが、それぞれ約10℃高い位置に分布しているグループがあることがわかる。この分布傾向を時系列で分析するために、他の条件に拘らず吸気温度と潤滑油温度とが成す傾きが一定である前提で、個々のデータから吸気温度15℃で正規化した潤滑油温度(NLT)を計算で求めた。図41は、NLTのトレンドを示す。ほぼ一定値で推移しているNLTが、ある時期だけ高い値を示しているのが分かる。また、潤滑油温度と潤滑油戻り温度の両方が同時に変化していることから、軸受や発電機の問題ではなく、潤滑油冷却系のトラブルが予想された。運転休止日に点検が行われ、潤滑油冷却ファンドライバの劣化が確認され、交換された。
【0093】
以上のように、所定の関係にある2つの測定対象に対して、測定結果をその所定の関係に基づいて、一方の測定対象の所定値で正規化する。所定の関係とは、つまり、2つの測定対象の一方が変化するとそれに対応してもう一方も変化する関係であり、両者の関係を関数で表せるもしくは近似できる関係である。典型的には、両者の関係を線形関数で表せるもしくは近似できる関係がこれに相当する。正規化した測定結果の変化を見ることで、故障の診断、メンテナンス時期の予測が可能になる。測定結果の正規化は、データセンター内の中央データサーバで行われる。中央データサーバは、この変化を監視してイレギュラーな変化があれば、典型的には正規化した測定結果の変化が所定の閾値を上回った/下回った場合に、そのような変化があったことを監視サービススタッフや担当技術者へ伝えることができる。監視サービススタッフや担当技術者は、そのデータを確認して適切なタイミングでメンテナンスを行うことができ、マイクロタービンコジェネシステムの効率の低下、故障を抑制することができる。長期データを利用した正規化データの監視を行うのは、具体的には上述した発電出力と吸気温度との関係、潤滑油温度と潤滑油圧力との関係、潤滑油温度と吸気温度との関係が挙げられるが、これに限られるものではない。具体例を挙げると、吸気温度と装置内を冷却した冷却空気の出口温度との関係、吸気温度とPCS内のインバータの温度との関係などがある。
【0094】
また、上述の図41に示した潤滑油温度と潤滑油戻り温度とのように、同一の要素における測定個所の異なる測定対象を同一の測定対象を用いて正規化すると、システムの運転が安定している限り2つの正規化した値は互いに決まった差をもって変動する。この正規化した値同士の差が変化していないかも監視することで、異なる測定個所に挟まれた部位に異常の原因があるのかどうかがはっきり判断することができる。図41の例では、潤滑油温度を正規化した値と潤滑油戻り温度を、同じ吸気温度との関係において正規化した値との差を監視することで、軸受に異常がないかを判断できることになる。
【0095】
本実施形態は、大容量高速データの獲得と保存、ならびにインターネットによるデータの共有を可能にした、マイクロタービンコジェネレーションシステムの遠隔監視と故障診断が実践されたことを示している。
【0096】
10msecサイクルの高速サンプリングデータによる故障診断手法が考案され、各種の故障診断事例が蓄積されることによって、緊急停止時の再起動可否判断が迅速に行われるようになり、停止時間(down time)の短縮が行われ、マイクロタービンコジェネレーションシステムの稼働率向上に貢献した。
【0097】
15分サイクルで獲得した長期間トレンドデータの正規化手法が確立され、機器の劣化の進行が明確に把握できるようになった。これによって、機器の故障予知と状態監視保全(condition based maintenance)の可能性が広げられた。正規化手法は、マイクロタービンコジェネレーションシステムにのみ適用可能であるわけではなく、他のシステムや装置においても監視される2つの測定データに対して行うことにより、そのようなシステムや装置の診断を行うことができる。
【0098】
以上、本発明の実施形態においてマイクロタービンコジェネレーションシステムとして記載、説明したが、マイクロタービンコジェネレーションシステムという記載も、広くマイクロタービン発電システムといった概念を含むものとして解釈されなければならない。
【符号の説明】
【0099】
1 吸気フィルタ
2 操作盤
3 潤滑油クーラ
4 マイクロタービンエンジン
5 吸気サイレンサ
6 パワーコンディショナ(PCS)
7 バッテリ
8 再生器
9 ガス圧縮機
10 サイレンサ
11 排熱回収装置
91 操作盤
92 潤滑油フィルタ
93 潤滑油クーラ
94 燃料ガス入口圧力スイッチ
95 潤滑油セパレータ
96 潤滑油タンク
97 スクリューコンプレッサ
98 インバータ
99 燃料ガス遮断弁
100 モータ
111 循環ポンプ
112 温水熱交換器
113 排熱回収熱交換器
114 排気ガスバイパス弁アクチュエータ
115 コンデンサ
116 制御盤
117 温水タンク
201 マイクロタービン発電装置
202 燃料ガス圧縮機
203 温水ボイラ
211 圧縮機
212 燃焼器
213 タービン羽根車
214 発電機
215 再生器
230 熱交換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロタービンコジェネレーションシステムの遠隔監視システムであって、
マイクロタービンコジェネレーションシステムの各種運転データを測定する手段と、
前記各種運転データの任意の運転データを高速でサンプリングして記憶する手段と、
前記各種運転データの任意の運転データを低速でサンプリングして記憶する手段と、
前記高速データ及び前記低速データを遠隔監視センターの中央データサーバに送信する手段とを備えたことを特徴とする遠隔監視システム。
【請求項2】
前記高速データのサンプリングは50ミリ秒以下の周期で行い、前記低速データのサンプリングは5分以上の周期で行うことを特徴とする請求項1に記載の遠隔監視システム。
【請求項3】
前記蓄積された高速データのサンプリングデータは、マイクロタービンコジェネレーションシステムの緊急停止の前後の測定データであることを特徴とする請求項1に記載の遠隔監視システム。
【請求項4】
前記マイクロタービンコジェネレーションシステムを制御する制御ボードと、
前記マイクロタービンコジェネレーションシステムの設置場所に備えられるローカルデータサーバとを備え、
前記制御ボードは前記高速サンプリングデータを蓄積し、前記ローカルデータサーバは前記低速サンプリングデータを蓄積することを特徴とする請求項1に記載の遠隔監視システム。
【請求項5】
前記各種運転データの任意の運転データを中速でサンプリングして記憶する手段と、前記中速データを遠隔監視センターの中央データサーバに送信する手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載の遠隔監視システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【公開番号】特開2013−7388(P2013−7388A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−224127(P2012−224127)
【出願日】平成24年10月9日(2012.10.9)
【分割の表示】特願2008−123447(P2008−123447)の分割
【原出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)