説明

マイクロチップおよびマイクロチップへの試薬の充填方法

【課題】複数の試薬収容部のそれぞれに対して同時に、必要とされる微量の試薬を迅速にかつ正確に充填でき、しかも、試薬を充填する際に試薬収容部からこれに連通する微細流路に試薬が漏れ出る事態を防止しうる、マイクロチップおよびマイクロチップへの試薬の充填方法を提供する。
【解決手段】本発明のマイクロチップは、試薬供給部、送液制御部等を備えた水性試薬を収容する試薬収容部を有し、該試薬供給部を試薬が通過する圧力は、該送液制御部を試薬が通過し始める圧力である液体保持圧力よりも高いことを特徴とする。また、本発明の試薬の充填方法は、マイクロポンプユニットに備えられたマイクロポンプにより、上記試薬供給部を通過し始めるために必要な圧力を試薬にかけ、試薬の流入を開始した後、送液制御部の液体保持圧力以下の圧力を試薬にかけることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ総合分析システムに用いられるマイクロチップ(分析用チップ)、および該マイクロチップに試薬を充填する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロマシン技術および超微細加工技術を駆使することにより、従来の試料調製、化学分析、化学合成などを行うための装置、手段(例えばポンプ、バルブ、流路、セ
ンサーなど)を微細化して1チップ上に集積化したシステムが開発されている(特許文献
1)。これは、μ−TAS(Micro total Analysis System:マイクロ総合分析システム
)、バイオリアクタ、ラブ・オン・チップ(Lab-on-chips)などとも呼ばれ、医療検査・診断分野、環境測定分野、農産製造分野でその応用が期待されている。現実には遺伝子検査に見られるように、煩雑な工程、熟練した手技、機器類の操作が必要とされる検査等に対して、自動化、高速化および簡便化されたμ−TASは、コスト、必要試料量、所要時間のみならず、時間および場所を選ばない分析を可能とするなど、多大な恩恵をもたらすといえる。
【0003】
各種の分析、検査では上記チップ(マイクロチップ)における分析の定量性、解析の精度、経済性などが重要視される。マイクロチップと組み合わせて使用される、シンプルな構成で、精度が高く、信頼性に優れる送液システムを確立するためのマイクロポンプシステムおよびその制御方法を、本発明者らはすでに提案している(特許文献2〜4)。
【0004】
上記のマイクロチップには、検体および試薬の収容部、試薬の混合部、反応部およびこれらを連通する流路などを含む一連の微細流路が形成されている。このうち試薬収容部には、分析で用いる反応方法や検出方法に応じた必要な試薬類を分析に先立ってあらかじめ所定の量だけ封入しておき、分析時にマイクロチップが即使用可能な状態になっていることが望ましい。そのため、試薬収容部に必要とされる微量の試薬を迅速にかつ正確に充填するための手法が求められている。
【0005】
また、試薬を充填する際に試薬収容部からこれに連通する微細流路に試薬が漏れてしまうと、分析時に正常な送液ができなくなるため、試薬の充填の際にはこのような事態を抑制する必要がある。さらに、正常な送液の妨げとならないよう、試薬を充填するために用いた開口から駆動液が漏出することも防止しなくてはならない。
【特許文献1】特開2004−028589号公報
【特許文献2】特開2001−322099号公報
【特許文献3】特開2004−108285号公報
【特許文献4】特開2004−270537号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、複数の試薬収容部のそれぞれに対して同時に、必要とされる微量の試薬を迅速にかつ正確に充填でき、しかも、試薬を充填する際に試薬収容部からこれに連通する微細流路に試薬が漏れ出る事態などを抑制しうるマイクロチップ、およびこのようなマイクロチップへの試薬の充填方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、マイクロ総合分析システムにおいてマイクロチップの微細流路内で検体、試薬を送液するためにも用いられるマイクロポンプおよびマイクロポンプユニットが、撥
水バルブを有する試薬収容部への試薬充填のために好適に用いることができることを見出した。さらに、試薬収容部において、試薬供給部を試薬が通過する圧力が、送液制御部を試薬が通過し始める圧力よりも高いマイクロチップを用いることにより、マイクロポンプユニットによる試薬の充填および駆動液の送液が好適に行えることを見出し、本願発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明のマイクロチップは、水性試薬を収容する試薬収容部、該試薬収容部から送液された水性試薬を検体または他の水性試薬と混合、反応させ、反応生成物を検出するための部位を含む一連の微細流路、該試薬収容部の出口と該微細流路の入口の間に設けられた送液制御部、ならびに開口および該開口と該試薬収容部とを連通する流路からなる試薬供給部を有するマイクロチップであって、
前記試薬供給部を試薬が通過する圧力は、前記送液制御部を試薬が通過し始める圧力である液体保持圧力よりも高いことを特徴とする。
【0009】
このようなマイクロチップの「試薬供給部を試薬が通過する圧力」は2〜20kPaであり、「撥水バルブの液体保持圧力」は1〜5kPaであることが好ましい。
また、本発明の試薬の充填方法は、上記のマイクロチップに対して、試薬だめと、マイクロポンプと、マイクロチップの試薬供給部に接続可能な開口とを有するマイクロポンプユニットにより試薬を充填することを特徴とする。
【0010】
この試薬の充填方法は、(1)マイクロチップにおける試薬供給部の開口と、マイクロポンプユニットにおける開口とを接続する工程、(2)マイクロポンプにより、試薬供給部を通過するために必要な圧力を試薬にかける工程、および(3)試薬が流入し始めた後、マイクロポンプにより、送液制御部の液体保持圧力以下の圧力を試薬にかける工程を含むことが望ましい。
【0011】
複数の試薬収容部が設けられたマイクロチップに対しては、試薬だめ、マイクロポンプ、開口および微細流路が複数組設けられたマイクロポンプユニットを使用して、複数の試薬収容部に試薬を送液することが好ましい。
【0012】
本発明で試薬を充填するために用いられるマイクロポンプとしては、流路抵抗が差圧に応じて変化する第1流路と、差圧の変化に対する流路抵抗の変化割合が第1流路よりも小さい第2流路と、第1流路および第2流路の中間に位置しこれらに連通する加圧室と、該加圧室の内部圧力を変化させるアクチュエータと、該アクチュエータを駆動する駆動装置とを備えたピエゾポンプが好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、マイクロチップの複数の試薬収容部のそれぞれに対して同時に、必要とされる微量の試薬を迅速にかつ正確に充填でき、しかも、試薬を充填する際に試薬収容部からこれに連通する微細流路に試薬が漏れ出る問題が解決されるため、予め試薬が充填されたマイクロチップを効率的に製造することが可能となる。さらに、本発明のマイクロチップは、分析時に駆動液が供給される際に、試薬を充填するために用いた試薬供給部から駆動液が漏出してしまうことを防止できるため、マイクロ総合分析システムにおいて信頼性の高い分析がなされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本明細書において、「マイクロチップ」は、合成や検査など様々な用途に用いられる、例えば生体物質を対象とした検査に用いられる、マイクロ総合分析システムにおける分析用チップのことである。「微細流路」は、本発明のマイクロチップに形成された微小な溝状の流路のことであるが、この流路と連通している試薬類などの収容部、反応部もしくは
検出部が、容量の大きい広幅の液溜め状に形成されている場合も、これらの部位を含めて「微細流路」ということがある。微細流路内を流れる流体は、実際は液体であることが多く、具体的には、各種の試薬類、試料液、変性剤液、洗浄液、駆動液などが該当する。
【0015】
マイクロ総合分析システム
マイクロ総合分析システムは、マイクロチップ以外の構成要素(分析に必要な装置類など)を一体化してシステム装置本体とし、マイクロチップを、必要に応じてチップ搬送トレイ上に載置するなどした上で、そのシステム装置本体に着脱するように構成することが望ましい。
【0016】
測定試料である検体の前処理、反応および検出などの一連の分析工程は、主としてマイクロチップに形成された微細流路内で行われる。マイクロチップには、目的とする反応方法や検出方法に応じた必要な試薬類が予め所定の量だけ封入され、使用時にその都度、試薬を必要量充填する必要はなく、即使用可能の状態になっているものが望ましい。また、分析に供する試料、検体は、システム装置本体に装着する前に予めチップに収容しておいても、装置本体に装着してからチップに収容してもよい。
【0017】
システム装置本体にチップを装着した後、マイクロポンプなどによるマイクロチップの各収容部に収容された試料および試薬類の送液、それらの合流、混合に基づく所定の反応、ならびに反応生成物の測定および測定データの収納が、一連の連続的工程として自動的に実施される形態が望ましい。
【0018】
従来の分析システムでは、異なる分析等を行う場合にはその都度、変更される内容に対応するデバイスを構成し直す必要があった。これに対して、マイクロ総合分析システムでは、脱着可能な上記チップおよびシステムの制御プログラムなどを交換することにより、各種の分析に対応することができる。
【0019】
マイクロチップ
本発明におけるマイクロチップは、一般に検査チップ、分析用チップ、マイクロリアクタ・チップなどとも称されるものと同等である。通常、このチップの縦横のサイズは数十mm、高さは数mm程度である。マイクロチップは、化学分析、各種検査、試料の処理・分離、化学合成などの用途に応じて、流路エレメント(機能部品)および構造部などを有する微細流路が機能的に適当な位置に微細加工技術により配設されている。また、上記の分析などを迅速に行うために望ましくは、必要とされる試薬類がチップの微細流路内に予め収容されている。このようなチップは、ポンプ接続部を介してマイクロポンプに接続され、マイクロポンプから送り込まれる駆動液により、検体や試薬などの液体は微細流路内を送液される。
【0020】
上記のチップは、溝形成基板および被覆基板からなる基本的基板を構造として有する態様が好ましい。少なくとも溝形成基板には、ポンプ接続部、弁基部および液溜部(試薬収容部、検体収容部などの各収容部、反応部、検出部、廃液貯留部など)、送液制御部、逆流防止部、試薬定量部、混合部などの構造部を含む、微細流路が形成されている。一方、被覆基板は、少なくとも溝形成基板における上記の構造部、流路および検出部を密着して覆う必要があり、溝形成基板の全面を覆っていてもよい。なお、微細流路はチップの片面のみに形成されていてもよいし、互いに連通した微細流路が両面に形成されていてもよい。
【0021】
マイクロチップは、加工成形性、非吸水性、耐薬品性、耐熱性、廉価性などに優れていることが望まれており、チップの構造、用途、検出方法などを考慮して、チップの材料を適切に選択することが求められる。その材料としては従来公知の様々なものが使用可能で
あり、個々の材料特性に応じて通常は1以上の材料を適宜組み合わせて、基板および流路エレメントが成形される。
【0022】
例えば、多数の測定検体、とりわけ汚染、感染のリスクのある臨床検体を対象とするチップはディスポーサブルタイプであることが望ましい。そのため、量産可能であり、軽量で衝撃に強く、焼却廃棄が容易なプラスチック樹脂、なかでも、透明性、機械的特性および成型性に優れて微細加工がしやすいポリスチレンが好ましく用いられる。また、ポリプロピレンはタンパク質の吸着が少なく、酸やアルカリなどの耐薬品性にも優れ、価格も安価であるため好ましく用いられる。
【0023】
分析においてチップを100℃近くまで加熱する必要がある場合には、耐熱性に優れる樹脂(例えばポリカーボネートなど)を用いることが好ましい。樹脂やガラスなどは熱伝導率が小さく、マイクロチップの局所的に加熱される領域にこれらの材料を用いることにより、面方向への熱伝導が抑制され、加熱領域のみ選択的に加熱することができる。
【0024】
また、微細流路の検出部では、蛍光物質または呈色反応の生成物などの光学的な検出が行われるため、少なくともこの部位の基板には光透過性の材料を用いる必要がある。光透過性の材料としては、アルカリガラス、石英ガラス、透明プラスチック類が使用可能であるが、透明プラスチック類が好ましい。
【0025】
マイクロチップの微細流路は、基板上に目的に応じて予め設計された流路配置に従って形成される。流体が流れる流路は、例えば幅数〜数百μm、好ましくは10〜500μm、深さ10〜1000μm程度、好ましくは10〜300μmに形成されるマイクロメーターオーダー幅の微細流路である。流路幅が5μm未満であると、流路抵抗が増大し、流体の送出および検出上不都合である。幅500μmを超える流路ではマイクロスケール空間の利点が薄まる。なお、微細流路における前述の構造部の幅、深さは、必要に応じて、構造部同士を連通する流路とは異なるサイズとしてもよく、上記のサイズに限定されるものではない。
【0026】
微細流路の形成方法は、従来の微細加工技術を用いることができるが、典型的にはフォトリソグラフィ技術が好適である。この技術により、感光性樹脂への微細構造の転写および不要部分の除去などが行われ、微細流路が形成される。この際の溝成形基板の材料となる感光性樹脂としては、サブミクロンの構造も正確に転写でき、機械的特性の良好なプラスチックが好ましく用いられる。ポリスチレン、ポリジメチルシロキサンなどは形状転写性に優れる。また、必要であれば射出成形、押し出し成形などによる加工を使用してもよい。
【0027】
試薬収容部周辺の構造
図1は、複数の試薬収容部を備えたマイクロチップの一実施態様を示した上面図である。また、図2(i)および(ii)は、マイクロチップの一実施態様における試薬収容部周
辺を表した断面図である。以下、これらの図を参照しながら説明を行う。
【0028】
試薬収容部18は、反応や検出に用いられる試薬を収容するための微細流路中の部位である。試薬収容部18の容積は用いられる試薬に応じて適宜調整され、他の微細流路より幅広に形成されることもあるが、例えば3〜10μL程度である。
【0029】
試薬収容部18の上流側末端および下流側末端には、送液制御部34aおよび34bが設けられている。試薬収容部18および送液制御部34aのさらに上流側には、駆動液を供給するためのマイクロポンプユニットと接続されるポンプ接続部12と、空気抜き用開口13とを備えた微細流路が存在する。分析の際には、ポンプ接続部から駆動液が供給され、送液制御部
34aを通過して試薬収容部18に流れ込み、試薬収容部の試薬はこの駆動液と共に送液制御部34bを通過して下流側の微細流路33へ押し出され、さらに送液されてゆく。
【0030】
試薬収容部18および送液制御部34aのさらに下流側には、例えば、試薬同士、または検体と試薬とを混合し、反応させ、反応生成物を検出するための構造部を含む一連の微細流路が存在する。このような構造部は、目的とする機能を果たすために所定の構造を有することがあり、例えば、図1に示すような合流部29は、複数の試薬収容部と連通し、やや幅広い流路となっている。上記の微細流路33は、このような構造部を構成する流路自体である場合も、構造部と送液制御部34bとを介在する流路である場合もある。
【0031】
<試薬供給部>
試薬供給部30は、マイクロポンプユニットの流路に連通させるための開口31、および該開口31と試薬収容部18とを連通する流路32からなる構造を有する。
【0032】
試薬供給部30において、後述するマイクロポンプを用いて試薬に所定以上の圧力をかけることにより、試薬は試薬供給部30の開口31および流路32を通過し、試薬供給部18へと流入する。本発明において、この試薬供給部30を試薬が通過する圧力は、後述する送液制御部の液体保持圧力よりも高いものとされ、好ましくは2〜20kPaであり、より好ましくは4〜10kPaである。なお、本発明において「試薬供給部を試薬が通過する」とは、供給される試薬の先端が流路32と試薬収容部18との境界を越えて試薬収容部18に入り込み、以後、そのときにかけた圧力よりも小さな圧力をかけ続けるだけで試薬の流入が持続するようになることをいう。
【0033】
上記の試薬供給部30を試薬が通過する圧力は、試薬供給部30が形成される基板の材質に応じて、開口31および流路32の断面積等を調節することにより所望のものとすることができる。一例を挙げれば、プラスチック材料の基板に試薬供給部30が形成され、その開口31および流路32の垂直断面が40μm×25μm、長さが1mm程度である場合、試薬供給部30を試薬が通過する圧力は、16.5kPa程度である。
【0034】
開口31および流路32は通常、図2(i)および(ii)に見られるような試薬収容部18の
直上面などの試薬供給部近傍に設けられるが、試薬収容部に適切に試薬が供給される限り、適宜好ましい位置に設けることができる。また、一般的には溝形成基板17よりも被覆基板16の方が薄いため、試薬供給部30は、被覆基板16を貫通するよう試薬収容部18の上面側に設けることが好ましいが、溝形成基板17を貫通するよう下面側に設けてもよい。
【0035】
さらに、開口31および流路32の形状、大きさなどは、上述のような試薬供給部30を試薬が通過し始める圧力に加えて、試薬供給用のマイクロポンプユニットとの接続性、マイクロチップの微細流路の形態などを考慮し、好ましい態様とすることができる。例えば、図2(ii)のように、開口31を流路32の垂直断面よりも広くすることにより、マイクロポンプユニットとの接続性を高めるようにしてもよい。
【0036】
試薬供給部30の開口31は、マイクロチップと後述するマイクロポンプユニットとを位置あわせをした上で重ね合わせ、密着させた際に、マイクロポンプユニットに設けられた開口に接続される。この開口31の周辺には、試薬の漏出を防止するために必要なシール性を確保する手段を備えることが望ましい。例えば、柔軟性(弾性、形状追随性)をもつ樹脂によって密着面が形成されることが好ましい。このような密着面は、マイクロチップの構成基板(被覆基板16、溝形成基板17)の少なくとも開口周辺をポリテトラフルオロエチレン、シリコーン樹脂などの柔軟性を持つ樹脂で形成することによってもよく、また、開口の周囲にそのような樹脂からなる別途の部材を貼着することによってもよい。
【0037】
<送液制御部>
送液制御部34a,34bは、試薬などの送液のタイミングを制御する機能を有する構造部である。送液制御部は、試薬収容部の少なくとも一方の末端に形成され、一般的には図2のように、試薬収容部の上流側末端および下流側末端の両方に形成される。
【0038】
上記の送液制御部は、「撥水バルブ」(「疎水性バルブ」ともいう。)により構成されることが望ましい。この撥水バルブは、上流側および下流側の流路(図2においては試薬収容部18および微細流路33)よりも断面積の小さな流路である「絞り流路」からなる。このような構造により、送液圧力が所定圧(液体保持圧力)に達しない場合、水性の駆動液および水性試薬といった上流側から到達した流体は撥水バルブを通過できず、撥水バルブで停止する。
【0039】
撥水バルブの上流側から下流側へ流体を送液するためには、マイクロポンプによって液体保持圧力以上の送液圧力を加えればよい。これにより流路壁との表面張力の差に抗して流体が絞り流路から下流側の通路へ押し出される。一旦流体が流路へ流出した後は、流体の先端部を下流側の流路へ押し出すのに要した送液圧力を維持せずとも、液が下流側の流路へ流れていく。
【0040】
マイクロポンプ(ピエゾポンプ)による発生圧力性能や、試薬供給時または駆動液による送液時の充分な液体保持能力などを考慮すると、送液制御部の液体保持圧力は、1〜5kPaとすることが好ましい。
【0041】
このような液体保持圧力は、流路壁の材質に応じて、撥水バルブの垂直断面の大きさ等を調節することにより所望のものとすることができる。一例としては、ポリスチレンやポリプロピレンなどのプラスチック材料で形成されたマイクロチップにおいて、上流側の流路および下流側の流路の垂直断面の縦横が150μm×300μm程度であり、絞り流路の寸法が25×25μmであれば、この撥水バルブの液体保持圧力は2kPa程度となる。
【0042】
撥水バルブおよびこれに連通する流路の撥水性が劣ると、流体の止まりが悪くなり、流体が少しずつ流れ出てしまう。このため、微細流路の壁面はプラスチック樹脂などの疎水性の高い材質で形成されていることが望ましい。流路壁がガラスなどの親水性の材質で形成されている場合には、少なくとも絞り流路の内面に、撥水性のコーティング、例えばフッ素系のコーティングを施す必要がある。
【0043】
なお、このような撥水バルブの形成は試薬収容部だけに限らず、例えば、試薬混合部や検体収容部の合流部側の端部などにも設けられ、その先の流路への送液開始のタイミングを制御するために用いられることがある。このような撥水バルブを設けることにより、ポンプの駆動停止時に、毛管力により流体が下流側に勝手に移動してしまうことを防止できる。
【0044】
マイクロポンプユニットの構造
本発明では、試薬収容部に試薬を充填するためにマイクロポンプユニットを使用するが、このマイクロポンプユニットは、試薬だめと、マイクロポンプと、前記マイクロチップにおける試薬供給部に接続可能な開口と、これらの試薬だめ、マイクロポンプおよび開口を連通する微細流路とが形成されたチップ状のマイクロポンプユニットであることが望ましい。マイクロチップに設けられた複数の試薬収容部を同時に対象とする場合は、試薬だめ、マイクロポンプ、開口および微細流路が複数組設けられた態様のマイクロポンプユニットを使用することが好適である。また、分析時にマイクロチップに駆動液を供給するためにも、同様のマイクロポンプユニットを使用することができる。
【0045】
図3および図4に、そのようなマイクロポンプユニットの一例を示す。図3は、マイクロポンプユニットの一実施形態を示した斜視図であり、図4は、マイクロポンプの一実施形態における断面図である。
【0046】
マイクロポンプユニット9は、シリコン製の基板37と、その上のガラス製の基板38と、
さらにその上のガラス製の基板39との3つの基板から構成されている。基板37と基板38とは陽極接合などにより、基板38と基板39とはシーリングガラス、熱融着またはフッ酸接合などにより貼り合わせられている。
【0047】
このようなマイクロポンプユニット9の作成にあたっては、フォトリソグラフィ技術に
より加工された、マイクロポンプを構成する基板37、流路溝および接続用開口が形成されている基板39を用いることが好適であるが、マイクロポンプユニットの作成方法はこれに限定されるものではない。例えば、マイクロポンプの構造をエッチングにより形成したシリコン基板、感光性ガラス基板等の上にガラス基板を積層し、その上にPDMSを貼り合わせ、さらにその上に、プラスチック、ガラス、シリコン、セラミックスなどからなり流路溝と接続用開口とが形成された基板を貼り合わせることにより、同様にマイクロポンプユニットを構成することができる。さらに、マイクロポンプユニットに設けられるマイクロポンプは、ピエゾポンプ以外のもの、例えば逆止弁型のマイクロポンプなどであってもよい。
【0048】
なお、従来は駆動液を送液するために用いられており、本発明において試薬を充填するためにも好適に用いることのできるマイクロポンプを本発明者らはすでに提案しており、その詳細は特開2001-322099号公報、特開2004-108285号公報、特開2004-270537号公報な
どを参照することができる。
【0049】
<マイクロポンプの機構>
上記基板37および基板38の間の内部空間により、マイクロポンプ40(ピエゾポンプ)が構成されている。第1流路46と第2流路47の幅および高さを等しくすると共に、第1流路46の長さを第2流路47の長さよりも短くすることにより、第2流路47における差圧の変化に対する流路抵抗の変化割合は第1流路46のそれよりも小さくなっている。すなわち、第1流路46では、差圧が大きくなると流路内で渦を巻くように乱流が発生し、流路抵抗が増加するが、第2流路47は流路幅が長いため、差圧が大きくなっても層流になりやすく、第1流路46に比べて流路抵抗の増加する割合が小さい。なお、第1流路46と第2流路47における、差圧の変化に対する流路抵抗の変化割合の相違は、必ずしも流路の長さの違いによる必要はなく、他の形状的な相違に基づくものであってもよい。
【0050】
また、加圧室45の位置には、基板37を加工することによりダイヤフラム(薄膜状の振動板)が形成され、その外側表面にはアクチュエータの一態様として、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)セラミックスなどからなる圧電素子44が貼着されている。圧電素子44表面上の2つの電極は、フレキシブルケーブルなどによる配線で駆動部に接続されている。この圧電素子44に対して所定の波形の電圧を印加することにより、ダイヤフラムを振動させ、加圧室45の容積を変化させることが可能である。加圧室45の容積が増加する方向へのダイヤフラムの変異速度と、加圧室45の容積が減少する方向へのダイヤフラムの変異速度が異なるように圧電素子44への電圧を制御することにより、ポンプが機能し、試薬が輸送されるようになっている。
【0051】
すなわち、加圧室45からその外側へ向かう方向へ素早くダイヤフラムを変位させて大きい差圧を与えながら加圧室45の体積を増加させ、次いで加圧室45の内部へ向かう方向へゆっくりとダイヤフラムを変位させて小さい差圧を与えながら加圧室45の体積を減少させると、試薬は同図の左から右への順方向(矢印の向き)に送液される。この逆の操作により
、同図の右から左への逆方向に試薬を送液することも可能である。
【0052】
上記の圧電素子44の駆動のための2つの電極は、フレキシブル配線と接続される。一例として、ダイヤフラムの表面に透明電極膜であるITO膜を形成し、ITO膜の上に接着剤で圧電素子の片方の面を接着することによって、圧電素子の片方の電極がITO膜と電気的に接続され、そのITO膜とフレキシブル配線とが接続される。また、圧電素子の他方の面には金メッキが施され、その金メッキ部分にフレキシブル配線を直接に接続する。
【0053】
<試薬が送液される流路>
基板39には、流路50がパターニングされている。一例として、流路50の断面の寸法および形状は、幅が150μm程度、深さが300μm程度の矩形状である。図示したように、マイクロポンプユニットの基板上の適切な位置に流路および開口を設けることにより、マイクロチップにおける所望の位置に形成された試薬供給部へ試薬を送液することが可能となる。また、複数箇所への試薬の供給が、短時間で効率よく簡便に行うことができる。
【0054】
流路50の下流側には、基板39の片面から外部へ開放され、マイクロチップの微細流路に連通させるための開口51aが設けられている。開口51aは、マイクロチップの開口との位置あわせを適切に行うために必要であれば、流路50の幅よりも大きいサイズとしてもよい。一方、流路50の上流側は、基板38の貫通口52aを介し、第2液室49を通り加圧室45および第1液室48に連通している。第1液室48には試薬が貯留されており、この試薬はマイクロポンプ40により押し出され、基板39の開口51aからマイクロチップの試薬供給部へと送液される。
【0055】
また、第1液室48は、基板38の開口52b、基板39の開口51b、および必要に応じてポリジメチルシロキサン(PDMA)のパッキンなどを介して、別途の試薬タンク(図示せず)などに接続されている。マイクロポンプユニットに設けられた複数の第1液室48の試薬はそれぞれ、対応する試薬の貯蔵された試薬タンクから供給される。
【0056】
<駆動電圧の制御>
図5は、圧電素子に印加する駆動電圧の波形の一例を示す。上記のマイクロポンプによる発生圧力および流量の制御は、圧電素子に印加する電圧を調整することにより行うことができる。一般的には、上記電圧が高くなるにつれ、上記発生圧力および流量も増加する傾向にある。圧電素子へ印加する最大電圧は、数ボルトから数十ボルト程度、最大で100ボルト程度である。また、一例として、時間t1は60μs程度、時間t2は20μs程度であり、駆動電圧の周波数は11kHz程度である。
【0057】
なお、送液の流量は、圧電素子が接されているポンプ室の大きさを調整することによっても制御することが可能である。例えば、ポンプ室の容積を大きくすることにより、送液される流量はより増加する。
【0058】
圧電素子44へ印加する駆動電圧の制御は、マイクロポンプユニットの機能を制御する別途の装置により行うことが望ましい。この制御装置により、試薬の送液の開始や、必要量の試薬を送液した後に送液を停止するといった動作を制御することができる。
【0059】
マイクロチップの複数の試薬収容部に、複数のマイクロポンプを用いて同時に試薬を充填する際には、駆動電圧の制御によりマイクロポンプの発生圧力および試薬の流量を適宜調節することにより、試薬収容部の容積がそれぞれ異なる場合であっても、ほぼ同時に試薬の充填を完了させることが可能である。
【0060】
また、マイクロポンプユニットにおける流路50は、それぞれ同一の加圧室45の容積、駆
動電圧などを備えたマイクロポンプに連通する流路が複数本合流し、一つの開口51aに連通するような態様であってもよい。このような流路において複数のマイクロポンプから送液される試薬の流量は、単独のマイクロポンプに連通する流路における場合と比較して、マイクロポンプの使用台数の量比で増加する。このような方法を用いて流量を調節することにより、複数の試薬収容部への試薬充填完了のタイミングを合わせることもできる。
【0061】
試薬の充填方法
本発明の試薬の充填方法は、(工程1)マイクロチップにおける試薬供給部の開口と、マイクロポンプユニットにおける開口とを接続する工程と、(工程2)マイクロポンプにより、試薬供給部を通過するために必要な圧力を試薬にかける工程と、(工程3)マイクロポンプにより、送液制御部の液体保持圧力以下の圧力を試薬にかける工程とを含むことを特徴とする。以下、これらの工程について順次説明する。
【0062】
<工程1>
図6は、試薬の充填の際におけるマイクロチップとマイクロポンプユニットとの重ね合わせの一態様を示した図である。
【0063】
マイクロチップの試薬供給部の開口31と、その開口に対応するマイクロポンプユニットの開口51aとは、マイクロチップとマイクロポンプユニットとを所定の位置関係で重ね合わせて固定することにより、対応するもの同士が互いに接続される。なお、図6におけるマイクロチップ2は、図2で示したマイクロチップ2とは上下を逆にして、マイクロポンプユニット11と重ね合わせられている。この重ね合わせを適切に行うために、例えば、両者の基板表面に位置決め用のガイド部材を設けて移動を案内させる方法、凹部と凸部と設けて嵌め合わせる方法などを用いることができる。また、開口周辺の液漏れを防止するために、マイクロポンプユニットの開口51aの周辺にパッキン101のような部材を設置し、さ
らに両側から充分に加圧してシール性を確保することが好ましい。
【0064】
このようにして開口同士を接続することにより、試薬タンクなどに貯留された試薬102
を、マイクロポンプユニットの開口51bおよび52b、マイクロポンプ40、マイクロポンプユニットの流路50、マイクロチップとマイクロポンプユニットとの接続部分などを経由して試薬収容部18に送達させるための一連の流路が連通する。
【0065】
<工程2・3>
上記工程1に続いて、マイクロポンプにより、試薬供給部を通過する圧力(以下「圧力α」とよぶ。)以上の圧力を試薬にかけることにより、試薬収容部に試薬が流入し始める。この工程2において試薬にかける圧力を、以下「圧力A」とよぶ。なお、撥水バルブにおける原理と同様に、一度試薬が試薬供給部を通過し始めれば、それ以降は上記圧力αよりも低い圧力(以下「圧力α'」とよぶ。)をかけるだけで注入が続く。
【0066】
流入が開始したら、さらに、試薬収容部に設けられた送液制御部の液体保持圧力(以下「圧力β」とよぶ。)以下の圧力を、必要量の試薬が試薬収容部に充填されるまでかけ続ける。この工程3において試薬にかける圧力を、以下「圧力B」とよぶ。試薬収容部に液体保持力の異なる複数の送液制御部が設けられている場合は、それらのうちの最も低い液体保持圧力が上記圧力βとなる。
【0067】
上記圧力Bが上記圧力β以下であれば、試薬収容部が試薬で満杯になった時点で送液制御部から試薬が漏れることなく充填は完了する。しかし、上記圧力Bが圧力βより大きい場合、注入された試薬が試薬収容部から送液制御部を通過して微細流路に漏れ出すことになり、分析時に試薬の送液が正常に行われなくなるため、きわめて不適切である。
【0068】
これらの圧力α、α’、β、AおよびBは、マイクロポンプやマイクロチップの態様などにより変動しうるものであるが、本発明の試薬の充填方法において、圧力Aが圧力α以上であり、圧力Bが圧力α’以上かつ圧力β以下という条件が満たされている限り、圧力AおよびBの大きさは適宜調節することができる。
【0069】
<試薬にかける圧力の制御方法>
本発明の充填方法では、マイクロチップの試薬充填部の開口と接続する、マイクロポンプユニットの開口において試薬にかかる圧力Pは、前述の駆動電圧を制御することにより調整することが可能である。すなわち、以下のような原理に基づき、上記工程2の時点での圧力Pが前記の圧力Aとなるよう、また、上記工程3の時点での圧力Pが前記の圧力Bとなるよう、マイクロポンプの発生圧力P0など適切に調整すればよい。
【0070】
上記の圧力Pは、マイクロポンプによる発生圧力P0から、流路を流体が流れることに
より生じる圧力損失ΔPを減じて求められる(すなわちP=P0−ΔP)。このΔPは、
マイクロポンプユニットの内部流路抵抗R[N・s/m5]に、流路を単位時間に流れる流
体の体積である流量Qを乗じて求められ(すなわちΔP=R×Q)、さらにRは、流路内で層流が支配的であるならば、下記式により求められる:
R=∫[32×η/(S×φ2)]dL
ここで、ηは粘度、Sは流路断面積、φは等価直径(流路断面が幅a、高さbの長方形である場合、φ=(a×b)/[(a+b)/2]で算出される)、Lは流路長さである。
【0071】
なお、液の流れが層流かどうかは、レイノルズ数(=密度×速度×代表寸法÷粘度)から推測でき、概ね、レイノルズ数が2000以下であれば層流である。
したがって、上記のような圧力Pに影響を及ぼす各要素を適宜調節することにより、圧力Pを所望のものとすることが可能である。例えば、駆動電圧を高めて圧電素子の変位量を大きくし、発生圧力P0が増加するように制御することにより試薬への圧力Pは高まり
、逆に発生圧力P0が減少するようにすれば試薬への圧力Pは低まる。
【0072】
また、圧力Pは上記の式により導かれるが、予め実験などによって求めておくことも可能である。その方法としては、例えば、マイクロポンプユニットの流路を試薬で満たした後、圧電素子に印加してマイクロポンプを駆動させると同時に、マイクロポンプユニットの開口の外側から圧縮空気などを供給して圧力を加え、マイクロポンプの駆動にも拘わらず液体の送出が停止したときの圧縮空気の圧力を測定することが挙げられる。この測定を種々の駆動電圧について行うことにより、駆動電圧と圧力Pとの特性を求めることができる。
【0073】
<任意工程>
以上の方法によりマイクロチップに試薬を充填した後は、その試薬の蒸発、漏失、汚染、変性または気泡の混入を防止するため、試薬充填部の開口をシール部材などで直ちに封止することが望ましい。
【0074】
さらに、このような問題をより確実に防止するため、試薬の充填に先立って、封止剤を封入することが望ましい。
上記の封止剤は、マイクロチップの使用前に保管される冷蔵条件下では固化またはゲル化しており、試薬の流出を防ぐが、室温にすると融解し流動状態となり、送液時に容易に排出することができるものである。このような封止剤としては、例えば、水に対する溶解度が1%以下であり、かつ融点が8℃〜室温(約25℃)である油脂などが挙げられる。このような封止剤は、試薬収容部の上流側および下流側を封止する形態であれば、試薬収容部とこれに連通する微細流路との間に充填してもよく、封止剤用に設けられた貯留部に充填してもよい。
【0075】
<充填の対象となる試薬類>
本発明の試薬の充填方法は、マイクロポンプによる送出が可能で、充填工程が行われる温度環境において過度の粘性を持たない液状の試薬類、代表的には、水性溶媒を用いた溶液、分散液といった水性試薬を対象とする。本発明における送液制御部(撥水バルブ)等による送液を制御する上で、試薬は水性であることが求められる。
【0076】
検体中の生体物質を分析する場合に必要な試薬類は、基本的には従来と同じものである。例えば、遺伝子検査用の各種の試薬類としては、遺伝子増幅反応で使用されるもの(DNAポリメラーゼ、反応停止液、変性液など)、検出反応で使用されるもの(ハイブリダイゼーションバッファー、プローブDNA、金コロイド、インターナルコントロール用プローブDNA、ポジティブコントロール、ネガティブコントロール等のプローブ類、発色試薬など)、さらに洗浄液等が挙げられる。また、検体に存在する抗原を分析する場合は、それに対する標識化された抗体(好ましくはモノクローナル抗体)を含有する試薬などが使用される。さらに、必要であれば、検体の前処理に使用する前処理試薬(例えば、1%SDS混合液などの溶菌剤)なども含まれる。
【0077】
駆動液の漏出防止
図7は、マイクロチップの試薬収容部周辺での駆動液による送液の様子を示した図である。分析の際、マイクロチップ2に設けられた前出のポンプ接続部に、駆動液を供給する
ための(前述のような試薬の充填に用いたものとは別途の)マイクロポンプユニットを接続することにより、マイクロポンプにより送液圧力P'をかけられた駆動液103が微細流路内に送液される。この駆動液103は、送液制御部34aを通過して試薬収容部18に流入し、
試薬収容部に収容された試薬102を送液制御部34bから押し出す。
【0078】
本発明のマイクロチップにおいて、試薬供給部を通過する圧力(前記圧力α)は、送液制御部の液体保持圧力(前記圧力β)の2〜10倍程度である。これにsより、βよりも大きな送液圧力P'を駆動液にかけて試薬収容部内に送液しても、殆ど全ての駆動液103を送液制御部34bを通過する方向に送液させることができ、試薬供給部32を通過して開口31から溢れ出るものはほとんどない。なお、前述のように、充填した試薬の変質等を防止するために開口31がシール部材などで封止されている場合、駆動液103が送液圧力P'により開口31から漏出してしまう危険性をさらに低めることになる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】図1は、複数の試薬収容部を備えたマイクロチップの一実施態様を示した上面図である。
【図2】図2(i)および(ii)は、試薬収容部周辺の一実施態様を表した断面図である。
【図3】図3は、マイクロポンプユニットの一実施形態を示した斜視図である。
【図4】図4は、マイクロポンプ(ピエゾポンプ)の一実施形態における断面図である。
【図5】図5は、圧電素子に印加する駆動電圧の波形の一例を示す。
【図6】図6は、試薬の充填の際におけるマイクロチップとマイクロポンプユニットとの重ね合わせの一態様を示した図である。
【図7】図7は、マイクロチップの試薬収容部周辺での駆動液による送液の様子を示した図である。
【符号の説明】
【0080】
2 マイクロチップ
11 マイクロポンプユニット
12 ポンプ接続部(開口)
13 空気抜き用開口
15 微細流路
16 被覆基板
17 溝形成基板
18 試薬収容部
29 合流部
30 試薬供給部
31 開口
32 流路
33 混合反応流路
34a,34b 送液制御部(撥水バルブ)
37 基板
38 基板
39 基板
44 圧電素子
45 加圧室
46 第1流路
47 第2流路
48 第1液室
49 第2液室
50 流路
51a,51b 開口
52a,52b 開口
101 パッキン
102 試薬
103 駆動液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性試薬を収容する試薬収容部、
該試薬収容部から送液された水性試薬を検体または他の水性試薬と混合、反応させ、反応生成物を検出するための部位を含む一連の微細流路、
該試薬収容部の出口および該微細流路の入口の間に設けられた送液制御部、ならびに
開口および該開口と該試薬収容部とを連通する流路からなる試薬供給部
を有するマイクロチップであって、
該試薬供給部を試薬が通過する圧力は、該送液制御部を試薬が通過し始める圧力である液体保持圧力よりも高いことを特徴とするマイクロチップ。
【請求項2】
前記試薬供給部を試薬が通過する圧力は2〜20kPaであり、前記送液制御部の液体保持圧力は1〜5kPaであることを特徴とする、請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のマイクロチップの試薬収容部に、
試薬だめと、マイクロポンプと、請求項1または2に記載のマイクロチップの試薬供給部に接続可能な開口とを有するマイクロポンプユニットを通じて試薬を充填することを特徴とする、試薬の充填方法。
【請求項4】
(1)前記マイクロチップにおける試薬供給部の開口と、前記マイクロポンプユニットにおける開口とを接続する工程、
(2)前記マイクロポンプにより、試薬供給部を試薬が通過する圧力以上の圧力を試薬にかける工程、および
(3)上記(2)の工程により試薬が流入し始めた後、前記マイクロポンプにより、送液制御部の液体保持圧力以下の圧力を試薬にかける工程、
を含むことを特徴とする、請求項3に記載の試薬の充填方法。
【請求項5】
上記マイクロポンプユニットは、試薬だめ、マイクロポンプ、開口および微細流路が複数組設けられたものであり、このマイクロポンプユニットを用いて、マイクロチップに設けられた複数の試薬収容部に試薬を送液することを特徴とする、請求項3または4に記載の試薬の充填方法。
【請求項6】
前記マイクロポンプは、流路抵抗が差圧に応じて変化する第1流路と、差圧の変化に対する流路抵抗の変化割合が第1流路よりも小さい第2流路と、第1流路および第2流路の中間に位置しこれらに連通する加圧室と、該加圧室の内部圧力を変化させるアクチュエータと、該アクチュエータを駆動する駆動装置とを備えたピエゾポンプであることを特徴とする、請求項3〜5のいずれかに記載の試薬の充填方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−322284(P2007−322284A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−153903(P2006−153903)
【出願日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】