説明

マイクロチップとその流路構造

【課題】シース液層流によるサンプル液層流の挟み込みを流路の上下方向(深さ方向)にも行うことができ、高い分析精度を得ること可能なマイクロチップの提供。
【解決手段】シース液を通流可能な流路11を具備し、この流路11を通流するシース液層流中に、サンプル液が導入されるマイクロチップ1を提供する。このマイクロチップ1では、シース液層流中にサンプル液を導入することにより、サンプル液層流の周囲をシース液層流で取り囲んだ状態で送液される。絞込部115により、シース液層流及びサンプル液層流が、等方的に縮小して絞り込まれて送液される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロチップとその流路構造に関する。より詳しくは、化学的及び生物学的分析を行うための流路が設けられたマイクロチップであって、流路内においてサンプル液層流の周囲をシース液層流で取り囲んだ状態で送液するマイクロチップ等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体産業における微細加工技術を応用し、シリコンやガラス製の基板上に化学的及び生物学的分析を行うための領域や流路を設けたマイクロチップが開発されてきている。これらのマイクロチップは、例えば、液体クロマトグラフィーの電気化学検出器や医療現場における小型の電気化学センサーなどに利用され始めている。
【0003】
このようなマイクロチップを用いた分析システムは、μ−TAS(micro-Total-Analysis System)やラボ・オン・チップ、バイオチップ等と称され、化学的及び生物学的分析の高速化や高効率化、集積化あるいは分析装置の小型化を可能にする技術として注目されている。
【0004】
μ−TASは、少量の試料で分析が可能なことや、マイクロチップのディスポーザブルユーズ(使い捨て)が可能なことから、特に貴重な微量試料や多数の検体を扱う生物学的分析への応用が期待されている。
【0005】
μ−TASの応用例として、マイクロチップ上に配設された流路内で細胞やマイクロビーズ等の微小粒子の特性を光学的、電気的あるいは磁気的に分析する微小粒子分析技術がある。この微小粒子分析技術では、分析の結果、所定の条件を満たすポピュレーション(群)を微小粒子中から分別回収することも行われている。
【0006】
例えば、特許文献1には、「微粒子含有溶液導入流路と、当該流路の少なくとも一方の側部に配置されたシース流形成流路と、を有する微粒子分別マイクロチップ」が開示されている。この微粒子分別マイクロチップは、さらに「導入された微粒子を計測するための微粒子計測部位と、該微粒子計測部位の下流に設置された微粒子を分別回収するための2以上の微粒子分別流路と、微粒子計測部位から微粒子分別流路への流路口付近に設置された微粒子の移動方向を制御するための2以上の電極」を有するものである。
【0007】
この特許文献1に開示される微粒子分別マイクロチップは、典型的には、微粒子含有溶液導入流路と2つのシース流形成流路とからなる「三叉流路」によって、流体層流の形成を行うものである(当該文献「図1」参照)。
【0008】
図13に、一般的な三叉流路の流路構造(A)と、これにより形成されるサンプル液層流とシース液層流(B)を示す。この三叉流路では、図13(A)中、実線矢印方向に流路101を通流するサンプル液層流を、点線矢印方向から流路102,102に導入されるシース液層流で左右から挟み込むことができる。そして、これによって、図13(B)に示すように、サンプル液層流を流路中央に送液することが可能である。なお、図13(B)中、サンプル液層流は実線で、流路構造は点線で示している。
【0009】
特許文献1の微粒子分別マイクロチップでは、この三叉流路によって微粒子含有溶液をシース液で左右から挟み込んで、微粒子計測部位の流路中央に微粒子を送流している。これによって、例えば光学的に微粒子の計測を行う場合に、微粒子に対して測定光を精度良く照射することが可能とされている。
【0010】
【特許文献1】特開2003−107099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
図13に示した三叉流路によれば、サンプル液層流をシース液層流で左右から挟み込むことにより、挟み込む方向(図13中Y軸正負方向)に関しては、流路内の任意の位置にサンプル液層流を偏向させて送液することができる。しかし、それ以外の方向、例えば流路の上下方向(図13中Z軸正負方向)に関しては、サンプル液の送液位置を制御することはできなかった。すなわち、図13に示した三叉流路では、Z軸方向に縦長のサンプル液層流しか形成することができなかった。
【0012】
従って、従来の三叉流路を備えるマイクロチップでは、例えば、サンプル液として微小粒子を含む溶液を流路内に通流させて光学分析を行う場合、流路の上下方向(深さ方向)における微小粒子の送流位置にばらつきが生じていた。このため、微粒子に対して精度良く測定光を照射することができないという問題があった。
【0013】
特に、微小粒子として血球細胞などの細胞を分析する場合には、細胞が流路底面を転がるようして送流され、流路の上下方向(深さ方向)における細胞の送流位置と測定光の焦点位置とに大きなずれが生じ、分析精度が低下する要因となっていた。
【0014】
そこで、本発明は、シース液層流によるサンプル液層流の挟み込みを流路の上下方向(深さ方向)にも行うことができ、高い分析精度を得ること可能なマイクロチップを提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題解決のため、本発明は、シース液とサンプル液とが通流可能な流路を具備し、前記流路に導入されるサンプル液層流が、その周囲をシース液層流で取り囲まれた状態で送液されるマイクロチップを提供する。このマイクロチップでは、前記流路が、送液方向に対する垂直断面の面積が送液方向に従って次第に小さくなるように、前記流路底面及び/又は上面が傾斜面として形成され、かつ、流路側壁が送液方向に従って次第に狭窄された絞込部を有し、シース液層流及びサンプル液層流が、マイクロチップ上面又は下面側に偏向されながら等方的に縮小して絞り込まれて送液される。
このマイクロチップでは、前記絞込部の流路底面及び/又は上面の傾斜角度と、流路側壁の狭窄角度とが等しく形成してもよい。
前記流路の前記絞込部の下流において分岐する分岐流路を設け、分岐流路の分岐部に配置される電極によって、前記電荷を付与されたサンプル液の分岐部における送液方向を制御することもできる。
前記流路の前記分岐部の上流に少なくとも一側方から合流し、流路内へ気体又は絶縁性液体のいずれかの流体を導入する流体導入部を設けてもよい。この場合、流体導入部から導入される流体によって、流路内を通流するシース液層流及びサンプル液層流を分断し、液滴化して送液することができる。
また、液滴化され、電荷を付与された微小粒子を含むサンプル液の前記分岐部における送液方向を制御して、微小粒子の分別を行うこともできる。
また、本発明は、上記のマイクロチップが搭載され得る流体分析装置及び微小粒子分別
装置を提供する。
【0016】
併せて、本発明は、マイクロチップの内部に形成される流路構造であって、シース液とサンプル液とが通流可能な流路を具備し、前記流路に導入されるサンプル液層流が、その周囲をシース液層流で取り囲まれた状態で送液される流路構造を提供する。この流路構造において、前記流路は、送液方向に対する垂直断面の面積が送液方向に従って次第に小さくなるように、前記流路底面及び/又は上面が傾斜面として形成され、かつ、流路側壁が送液方向に従って次第に狭窄された絞込部を有し、シース液層流及びサンプル液層流は、マイクロチップ上面又は下面側に偏向されながら等方的に縮小して絞り込まれて送液される。
更に、本発明は、流路を通流するシース液層流中にサンプル液を導入し、サンプル液層流の周囲をシース液層流で取り囲んだ状態で送液し、シース液層流及びサンプル液層流を等方的に縮小して絞込みながら送液する送液方法をも提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、シース液層流によるサンプル液層流の挟み込みを流路の上下方向(深さ方向)にも行うことができ、高い分析精度を得ること可能なマイクロチップが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係るマイクロチップ1の構成を示す簡略上面図である。
【図2】マイクロチップ1の流路11内に形成されるシース液層流とサンプル液層流を示す断面模式図である。(A)は、図1拡大図中、P-P断面を示し、(B)は、図1拡大図中Q-Q断面を示す。
【図3】複数を束ねて配設した微小管14の断面模式図である。図は、図1拡大図中Q-Q断面に対応する。
【図4】マイクロチップ1の絞込部115上流(A)及び下流(B)におけるシース液層流とサンプル液層流を示す断面模式図である。(A)は、図2中R1-R1断面を示し、(B)は、図2中R2-R2断面を示す。
【図5】送液方向に対する垂直断面の面積を送液方向に従って段階的に小さく形成した絞込部115の構成を示す断面模式図である。
【図6】マイクロチップ1の製造方法の一例を説明する概念図である。
【図7】電圧を印加可能な金属によって微小管14を形成した本発明に係るマイクロチップ2を用いて、サンプル液中に含まれる微小粒子の分別を行う方法を説明する概念図である。
【図8】マイクロチップ2において、サンプル液を液滴化するための圧電素子の配設位置を説明するための断面模式図である。
【図9】検出部Dの表面を陥凹させたマイクロチップ2の構成を示す簡略斜視図である。
【図10】本発明に係るマイクロチップ3の構成を示す簡略上面図である。
【図11】マイクロチップ3の合流部117を拡大して示す模式図である。(A)は上面図であり、(B)は微小管14を含むZX平面断面図である。
【図12】本発明に係る流体分析装置(微小粒子分別装置)の構成を説明する模式図である。
【図13】一般的な三叉流路の流路構造(A)と、これにより形成される流体層流の状態(B)を示す簡略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0020】
1.マイクロチップ
図1は、本発明に係るマイクロチップの構成を示す簡略上面図である。
【0021】
図1中、符号1で示すマイクロチップには、略90度折れ曲がる曲折部111, 112, 113, 114を有する流路11が配設されている。図1中、符号12はこの流路11内にシース液を導入するためのシース液インレットを、符号13は流路11外へシース液等を排出するためのアウトレットを示す。シース液インレット12から流路11内に導入されたシース液は、曲折部111, 112, 113, 114で略90度折れ曲がって送液され、アウトレット13から排出される。
【0022】
(1-1)微小管
流路11の曲折部112には、流路11を通流するシース液層流中に、サンプル液を導入するための微小管14が配設されている。図1中、符号15はこの微小管14内にサンプル液を導入するためのサンプル液インレットを、符号141は微小管14の流路11側端の開口を、符号142はサンプル液インレット側端の開口を示す。サンプル液インレット15から開口142に供給されたサンプル液は、微小管14内を通流し、開口141から流路11を通流するシース液層流中に導入される。
【0023】
マイクロチップ1では、このように微小管14によって流路11を通流するシース液層流中にサンプル液を導入することによって、サンプル液層流の周囲を、シース液層流で取り囲んだ状態で送液することが可能とされている。
【0024】
(1-2)絞込部
図1中、符号115は、流路11に設けられた絞込部を示す。絞込部115は、送液方向に対する垂直断面の面積が、流路上流から下流へ次第に小さくなるように形成されている。すなわち、絞込部115の流路側壁は送液方向に従って図中Y軸方向に狭窄するように形成されており、絞込部115はその上面視において次第に細くなる錘形としてみることができる。この形状によって、絞込部115は、シース液層流とサンプル液層流の層流幅を、図中Y軸方向に絞り込んで送液することが可能とされている。さらに、絞込部115は、その流路底面が上流から下流に向かって深さ方向(図中Z軸方向)に高くなる傾斜面となるように形成されており、同方向にも層流幅を絞り込むことが可能とされている(次に詳しく説明する)。
【0025】
2.微小管による層流形成
図2は、流路11内に形成されるシース液層流とサンプル液層流を示す模式図である。図2(A)は、図1拡大図中、P-P断面に対応する断面模式図であり、微小管14の開口141と流路11の絞込部115を拡大して示している。また、図2(B)は、図1拡大図中Q-Q断面に対応する断面模式図であり、流路下流側から正面視した開口141を拡大して示している。
【0026】
流路11を通流するシース液層流(図中符号T参照)中に、微小管14によってサンプル液を導入することにより、図2(A)に示すように、サンプル液層流(図中符号S参照)を、シース液層流Tで取り囲んだ状態で送液することができる。
【0027】
図2では、微小管14を、その中心が流路11の中心と同軸上に位置するように配設した場合を示した。この場合、サンプル液層流Sは、流路11を通流するシース液層流Tの中心に導入されることとなる。シース液層流T中のサンプル液層流Sの形成位置は、流路11内における微小管14の配設位置を調節することによって任意に設定することができる。
【0028】
また、図2では、微小管14を1本の管として配設した場合を示した。微小管14は、これに限定されず、例えば、図3に示すように、複数の管(図では、4本)を束ねてバンドルとしたものであってもよい。微小管をバンドルとすることで、例えば、微小管14a, 14b, 14c, 14dのうち、いずれか1つからサンプル液を、その他からサンプル液やシース液以外の溶媒を導入することができる。なお、図3では、4本の微小管14a, 14b, 14c, 14dを一体に成形することによりバンドル化した場合を示している。
【0029】
より具体的には、例えば、微小管14aから微小粒子を含むサンプル液を、微小管14b, 14c, 14dからこの微小粒子と反応し得る物質を含む溶液をそれぞれ導入して、流路11内に形成される層流中で微小粒子と物質との反応を行なうことが考えられる。微小粒子と反応し得る物質としては、例えば、微小粒子の表面に結合する抗体や、微小粒子と化学反応する化合物等が挙げられる。
【0030】
後述するように、サンプル液として微小粒子を含む溶液を流路内に通流させて、微小粒子の光学分析や分取を行う場合、サンプル液層流の形成時に、併せて微小粒子の表面に結合する抗体を導入することで、微小粒子に結合した抗体に標識された蛍光標識に基づいて、微小粒子の分析や分取を行うことが可能となる。また、微小粒子と化学反応する化合物を導入すれば、流路11内で微小粒子と化合物との反応を検出し、その反応の有無に基づいて、微小粒子の分析や分取を行うことができる。
【0031】
束ねられる微小管の数は、2以上とでき、導入するサンプル液や溶媒の数に応じて任意に設定すればよいものとする。また、各微小管の流路11側端と反対側の開口には、サンプル液インレット15のようにそれぞれのサンプル液や溶媒を供給するための構成が設けられる。
【0032】
3.絞込部による層流幅の絞り込み
絞込部115は、送液方向に対する垂直断面の面積が、流路上流から下流へ次第に小さくなるように形成されている。すなわち、図2(A)に示すように、絞込部115は、その流路底面が上流から下流に向かって図中Z軸方向に高くなる傾斜面となるように形成されている。この形状によって、絞込部115へ送液されたシース液層流とサンプル液層流は、マイクロチップ1上面側に偏向されながら、図中Z軸方向に層流幅を絞り込まれることとなる。
【0033】
図4は、絞込部11の上流(A)及び下流(B)におけるシース液層流とサンプル液層流を示す模式図である。図4(A)は、図2中R1-R1断面に対応する断面模式図であり、図4(B)は、図2中R2-R2断面に対応する断面模式図である。
【0034】
図1において説明したように、絞込部115は、上流から下流に向かってY軸方向に次第に細くなる錘形に形成されている。また、図2で説明したように、絞込部115の流路底面は、上流から下流に向かってZ軸方向に高くなる傾斜面として形成されている。このように、絞込部115を送液方向に対する垂直断面の面積が流路上流から下流へ次第に小さくなるように形成したことにより、シース液層流Tとサンプル液層流Sを、Y軸及びZ軸方向に層流幅を絞り込みながら、マイクロチップ1上面側(図4中Z軸正方向)に偏向させて送液することが可能となる。すなわち、図4(A)に示すシース液層流Tとサンプル液層流Sは、絞込部115において、図4(B)に示すように層流幅を絞り込まれて送液される。
【0035】
このように、シース液層流とサンプル液層流の層流幅を絞り込んで送液することにより、例えば、サンプル液として微小粒子を含む溶液を流路内に通流させて、微小粒子の光学分析を行う場合、絞り込まれたサンプル液層流中の微小粒子に精度良く測定光を照射することが可能となる。特に、絞込部115によれば、マイクロチップ1の水平方向(図1中Y軸方向)のみならず、垂直方向(図2中Z軸方向)にもサンプル液層流の層流幅を絞り込むことができるため、流路11の深さ方向における測定光の焦点位置を微小粒子の送流位置と精緻に一致させることできる。このため、微小粒子に精度良く測定光を照射して高い測定感度を得ることが可能となる。
【0036】
このようなシース液層流とサンプル液層流の層流幅の絞り込みは、絞込部115の流路底面及び上面の両方を傾斜面として形成することにより行うこともできる。また、絞込部115は、図5(A)に示すように、流路上面(及び/又は底面)を、上流から下流に向かって階段状に形成してもよい。この場合、絞込部115はその上面視においてもY軸方向に段階的に細くなる階段状に形成される。このように、絞込部115の送液方向に対する垂直断面の面積を流路上流から下流へ段階的に小さくなるように形成して層流幅の絞り込みを行うと、絞込部115の成形上の利点が得られる。
【0037】
後述するように、マイクロチップ1に配設される絞込部115等の成形は、ガラス製基板層のウェットエッチングやドライエッチングによって、またプラスチック製基板層のナノインプリントや射出成型、切削加工によって行われる。このとき、絞込部115の形状が傾斜面であるよりも階段状であるほうが、絞込部115の成形が容易であり、特に機械加工や光造形による成形を簡単に行うことができる。
【0038】
例えば、機械加工の場合、絞込部115を傾斜面として形成するためには、数μmの単位でドリルを何度も往復させて切削する必要があり、非常に手間がかかる。また、ドリルの磨耗が進み易く、切削箇所にバリが発生することがある。これに対して、絞込部115を数段のみの階段状に形成すれば、切削が容易で、ドリルの磨耗も少なくバリが生じ難い。また、光造形による場合にも、絞込部115を数段のみの階段状に形成すれば、CADプロセスと光造形プロセスの反復回数を大幅に減少させることができ、製作時間及びコストを低減できる。
【0039】
絞込部115の送液方向に対する垂直断面の面積を流路上流から下流へ段階的に小さく形成して絞り込みを行う場合、図5(B)に示すように、垂直断面の面積を、絞り込み後の層流幅に対応する面積にまで、一段階で小さく形成してしまうこともできる。この場合にも、シース液層流Tとサンプル液層流Sを、乱流を生じさせることなく、Y軸及びZ軸方向に絞り込むことが可能であることが確認されている。
【0040】
ここで、流路11を十分に細い流路として形成し、この流路11を通流するシース液層流中に、径の小さい微小管14を用いてサンプル液を導入すれば、予め層流幅が絞り込まれたシース液層流とサンプル液層流を形成することが可能とも考えられる。しかしながら、この場合には、微小管14の径を小さくすることによって、サンプル液中に含まれる微小粒子が微小管14に詰まるという問題が生じ得る。
【0041】
マイクロチップ1では、絞込部115を設けたことにより、サンプル液中に含まれる微小粒子の径に対して十分に大きい径の微小管14を用いてサンプル液層流とシース液層流の形成を行った後に、層流幅の絞り込みを行うことができる。従って、上記のような微小管14の詰まりの問題を解消することが可能である。
【0042】
なお、本発明において、「微小粒子」には、細胞や微生物、リポソームなどの生体関連微小粒子、あるいはラテックス粒子やゲル粒子、工業用粒子などの合成粒子などが広く含まれるものとする。
【0043】
生体関連微小粒子には、各種細胞を構成する染色体、リポソーム、ミトコンドリア、オルガネラ(細胞小器官)などが含まれる。対象とする細胞には、動物細胞(血球系細胞など)および植物細胞が含まれる。微生物には、大腸菌などの細菌類、タバコモザイクウイルスなどのウイルス類、イースト菌などの菌類などが含まれる。さらに、生体関連微小粒子には、核酸やタンパク質、これらの複合体などの生体関連高分子も包含され得るものとする。また、工業用粒子は、例えば有機もしくは無機高分子材料、金属などであってもよい。有機高分子材料には、ポリスチレン、スチレン・ジビニルベンゼン、ポリメチルメタクリレートなどが含まれる。無機高分子材料には、ガラス、シリカ、磁性体材料などが含まれる。金属には、金コロイド、アルミなどが含まれる。これら微小粒子の形状は、一般には球形であるのが普通であるが、非球形であってもよく、また大きさや質量なども特に限定されない。
【0044】
微小管14の内径は、分析対象とするサンプル液中に含まれる微小粒子の径に応じて適宜設定することができる。例えば、サンプル液として血液を用い、血球細胞の分析を行う場合には、好適な微小管14の内径は10〜500μm程度である。また、流路11の幅及び深さは、分析対象とする微小粒子の径を反映した微小管14の外径に応じて適宜設定すればよい。例えば、微小管14の内径が10〜500μm程度である場合、流路11の幅及び深さはそれぞれ100〜2000μm程度が好適である。なお、微小管の断面形状は、円形以外にも、楕円形や四角形、三角形など任意の形状とすることができる。
【0045】
絞込部115における絞り込み前のシース液層流とサンプル液層流の層流幅は、上記の流路11の幅及び深さと微小管14の径に依存して変化し得るが、絞込部115の送液方向に対する垂直断面の面積を適宜調整することによって任意の層流幅にまで絞り込みを行うことが可能である。例えば、図2において、絞込部115の流路長をL、流路底面の傾斜角度をθZとした場合、絞込部115におけるシース液層流Tとサンプル液層流Sの層流幅の絞り込み幅はL・tanθZとなる。従って、流路長L及び傾斜角度θZを適宜調整することによって任意の絞り込み幅を設定することが可能である。さらに、図1中、絞込部115流路側壁のY軸方向における狭窄角度をそれぞれθY1、θY2とし、これらと上記θZを等しく形成することにより、図4(A)及び(B)に示したように、シース液層流Tとサンプル液層流Sを等方的に縮小して絞り込むことが可能となる。
【0046】
4.マイクロチップ1の製造方法
マイクロチップ1の材質は、ガラスや各種プラスチック(PP,PC,COP、PDMS)とすることができる。マイクロチップ1を用いた分析を光学的に行う場合には、光透過性を有し、自家蛍光が少なく、波長分散が小さいために光学誤差の少ない材質を選択する。
【0047】
マイクロチップ1の光透過性を維持するため、その表面には光ディスクに用いられる、いわゆるハードコート層を積層することが望ましい。マイクロチップ1の表面、特に光検出部(後述の図7「検出部D」参照)表面に指紋等の汚れが付着すると、透過光量が減少して、光学分析精度が低下するおそれがある。マイクロチップ1の表面に透明性及び防汚性に優れたハードコート層を積層することで、この分析精度の低下を防止することが可能である。
【0048】
ハードコート層は、通常使用されるハードコート剤を用いて製膜でき、例えば、フッ素系又はシリコン系防汚添加剤等の指紋付着防止剤を添加したUV硬化型ハードコート剤等を使用して製膜できる。特開2003-157579号公報には、ハードコード剤として、活性エネルギ線によって重合しうる重合性官能基を2個以上有する多官能性化合物(A)、メルカプト基を有する有機基と加水分解性基または水酸基とがケイ素原子に結合しているメルカプトシラン化合物で表面修飾された平均粒径1〜200nmの修飾コロイド状シリカ(B)、および、光重合開始剤(C)を含む活性エネルギ線硬化性組成物(P)が開示されている。
【0049】
マイクロチップ1に配設される流路11等の成形は、ガラス製基板層のウェットエッチングやドライエッチングによって、またプラスチック製基板層のナノインプリントや射出成型、切削加工によって行うことができる。そして、流路11等を成形した基板層を、同じ材質又は異なる材質の基板層でカバーシールすることで、マイクロチップ1を形成することができる。
【0050】
図6は、マイクロチップ1の製造方法の一例を説明する概念図である。マイクロチップ1は、金型を用いた射出成形等によって、一枚の基板層を成形するのみで簡便に製造することができる。なお、図6は、図1拡大図中、P-P断面に対応する断面模式図となっている。
【0051】
まず、基板層1aに対して、曲折部111〜114と絞込部115を有する流路11の形状及びサンプルインレット15等の形状を備える金型を射出成形機にセットし、基板層1aへの形状転写を行う。射出成形された基板層1aには、曲折部111〜114と絞込部115を有する流路11の形状及びサンプルインレット15等の形状が形成されている(図6(A)参照)。
【0052】
次に、図6(B)に示すように、微小管14を配置する。微小管14は、サンプルインレット15と流路11との間にこれらを連絡するように形成された溝に嵌め込むようにして配置し、サンプルインレット15に導入されるサンプル液が微小管14によって流路11内に送液されるよう配置する。
【0053】
微小管14の配置後、図6(C)に示すように、基板層1aに基板層1bを貼り合わせる。基板層1aへの基板層1bの貼り合わせは、従来公知の手法を適宜用いることができる。例えば、熱融着、接着剤、陽極接合、粘着シートを用いた接合、プラズマ活性化結合、超音波接合等を適宜用いることができる。図6(C)中、符号cは、微小管14を基板層1a及び1bに固定するための接着剤を示す。この接着剤cは、微小管14が嵌め込まれた溝を封止して、サンプルインレット15と流路11とを分断する役割も果たす。これにより、サンプルインレット15と流路11とが微小管14内部を介してのみ連絡されるようになり、サンプルインレット15に導入されたサンプル液が微小管14によって流路11内に送液されるようになる。
【0054】
以上の方法により得られたマイクロチップ1は、その表裏を無関係に使用することができる。従って、図6(C)に示すマイクロチップ1では、基板層1aが上面に、基板層1bが下面となる状態で使用することも当然に可能である。図6(C)の状態では、絞込部115は、その流路底面が上流から下流に向かって徐々に高くなる傾斜面として形成されているが、マイクロチップ1を裏返しにすれば、絞込部115は、その流路上面が上流から下流に向かって流路深さ方向に低くなる傾斜面としてみることができる。この場合、絞込部115へ送液されたシース液層流とサンプル液層流は、マイクロチップ1下面側に偏向されながら、層流幅を絞り込まれることとなる。これは、図5で説明したように、絞込部115の流路上面(及び/又は底面)を階段状に形成した場合も同様である。
【0055】
微小管14には金属やガラス、セラミックス、各種プラスチック(PP,PC,COP、PDMS)製のチューブを採用でき、その材質は特に限定されない。一例として、微小管14としてシリカチューブを採用することができる。シリカチューブは、内径が数十〜数百μmのものが市販されており、適宜好適な径のチューブを利用できる。シリカチューブは高い耐熱性を有するため、基板層の熱圧着時安定したマイクロチップを形成することが可能である。
【0056】
微小管14として金属製のチューブを採用した場合には、この微小管14を介して内部を通流するサンプル液に電荷を付与することができる。これにより、例えば、上記特許文献1に記載される「導入された微粒子を計測するための微粒子計測部位と、該微粒子計測部位の下流に設置された微粒子を分別回収するための2以上の微粒子分別流路と、微粒子計測部位から微粒子分別流路への流路口付近に設置された微粒子の移動方向を制御するための2以上の電極」をマイクロチップ1に設け、微小粒子の分別を行うことが可能となる。
【0057】
また、本発明に係るマイクロチップには、後述するマイクロチップ3のように、流路11に少なくとも一側方から合流し、流路11内へ気体又は絶縁性液体のいずれかの流体を導入する流体導入部を設けることができる。この流体導入部も、流路11等と同様に、ウェットエッチングやドライエッチング、ナノインプリント、射出成型、機器加工によって成形される。
【0058】
5.マイクロチップによる微小粒子の分別方法
(5-1)マイクロチップ2
図7は、電圧を印加可能な金属によって微小管14を形成したマイクロチップ2を用いて、サンプル液中に含まれる微小粒子の分別を行う方法を説明する概念図である。マイクロチップ2は、以下に特に説明する構成を除いて、マイクロチップ1と同様の構成を有する。
【0059】
マイクロチップ2の流路11は、絞込部115の下流の分岐部116において分岐する分岐流路11a, 11bを備え、微小管14から流路11に導入されるサンプル液中に含まれる微小粒子を分岐流路11a, 11bの一方に選択的に送流することが可能とされている。
【0060】
図7中、符号143は、微小管14に電圧を印加する荷電部を示す。荷電部143は、内部を通流する微小粒子を含むサンプル液に正又は負の電荷を付与する。分岐部116における微小粒子の送流方向の制御は、この荷電部143によって微小粒子を含むサンプル液に付与された電荷に基づいて行うことができる。
【0061】
より具体的には、例えば、流路11へのサンプル液の導入時に微小管14にわずかな圧力差を加えることによって、図7に示すように、サンプル液を、微小粒子を一つ又は所定数ずつ含む液滴Pとして、流路11を通流するシース液層流中に送出する。同時に、荷電部143に印加する電圧の正負を切り換えることによって、シース液層流中に送出される液滴Pに正又は負の電荷を付与する。このとき、液滴P同士を電気的に絶縁するために、シース液は電気的絶縁性を有するものを用いることが望ましい。
【0062】
微小管14に圧力差を加えるための方法は、例えば、微小管14に当接させて微小振動可能な圧電素子(微小振動素子)を配設する方法や、サンプル液インレット15の内部に臨んで圧電素子を配設する方法を採用できる。
【0063】
図8は、サンプル液を液滴化するための圧電素子の配設位置を説明するための図である。図は、図6(C)に対応する断面模式図である。ここでは、圧電素子をサンプル液インレット15の底面に配設する場合を示した。
【0064】
図中、符号151で示す圧電素子は、サンプル液インレット15の底面に、サンプル液インレット15内に臨んで配設されている。圧電素子151は電圧を印加されると変形し、サンプル液インレット15内を通流するサンプル液に圧力を加える。そして、この圧力によって、サンプル液インレット15に連通する微小管14内のサンプル液にも圧力が加わる。この際、圧電素子151に印加する電圧をパルス電圧として圧電素子151を振動させ、微小管14内のサンプル液への圧力を周期的に変化させると、サンプル液は液滴状となって微小管14から流路11内に吐出される。
【0065】
このような圧電素子151を用いた液滴化は、例えば、インクジェットプリンタで採用されるピエゾ振動素子を用いたインクの滴状吐出と同様にして行うことができる。ここでは、サンプル液インレット15の内部に臨んで圧電素子151を配設した場合を説明したが、圧電素子151は、例えば、微小管14の外壁に当接するように配設して、変形した圧電素子151による圧力を直接微小管14に加えて、サンプル液の液滴化を行ってもよい。なお、圧力差を加えるための圧電素子への印加信号と、微小管14へ電圧を加えるための印加信号は、同期することにより、任意のタイミングでの液滴の形成と、その液滴の荷電が可能となる。
【0066】
分岐部116には、流路11の両側に対向して一対の電極1161, 1162が配置されている(図7参照)。この電極1161, 1162は正又は負に帯電し得るものであり、液滴Pに付与された電荷との電気的な反発力(又は吸引力)によって、液滴Pを分岐流路11a, 11bのいずれかに誘導する。電極1161, 1162は、予めマイクロチップ2に配設されていてもよく、またマイクロチップ2が搭載される微小粒子分取装置に、搭載されたマイクロチップ2の分岐部116に位置するように配設されていてもよい。また、電極1161, 1162は、後述するマイクロチップ3のように、分岐流路11a, 11bの分岐部116近傍を金属製チューブにより形成し、これを電極として機能させることもできる。
【0067】
微小粒子の分別は、図7中符号Dで示す検出部において、微小粒子の特性を判定し、その結果に基づいて行う。ここでは、検出部Dを光学検出系として構成し、導入路11内の微小粒子に対するレーザー光の照射によって発生する光を検出することで微小粒子の光学特性を判定する場合を例に説明する。光学検出系及び微小粒子分別装置は、従来のマイクロチップを用いた微小粒子の分析システムと同様に構成することができる。具体的には、レーザー光源と、微小粒子に対しレーザー光を集光・照射するための集光レンズやダイクロイックミラー、バンドパスフィルター等と、レーザー光の照射によって微小粒子から発生する光を検出する検出器と、によって構成される。検出器には、例えば、PMT(photo multiplier tube)や、CCDやCMOS素子等のエリア撮像素子等が用いられる。
【0068】
検出部Dを光学検出系として構成する場合には、上述した指紋等の汚れ付着による分析精度の低下を防止するため、図9に示すように、検出部Dの表面をマイクロチップ2の他の部位表面に比べて陥凹させて、検出部D表面への指先や汚れの接触を防止することが望ましい。図9(A)は、マイクロチップ2の表面の検出部D部分に窪みを形成した場合、図9(B)は、マイクロチップ2の表面に検出部D部分の表面を含む溝を形成した場合を示す。
【0069】
微小粒子の光学特性判定のためのパラメーターは、対象とする微小粒子及び分取目的に応じて、微小粒子の大きさを測定する前方散乱光や、構造を測定する側方散乱光、レイリー散乱やミー散乱等の散乱光や蛍光などとすることができる。検出部Dは、これらのパラメーターにより検出された光を解析し、微小粒子が所定の光学特性を有するか否かについて判定を行う。
【0070】
そして、例えば、微小粒子を含むサンプル液の液滴Pに荷電部143によって付与された電荷が正である場合に、その微小粒子が所定の光学特性を有すると判定されたときは、電極1161を負に、電極1162を正に帯電させ、電気的な反発力によって液滴Pを分岐流路11aへ誘導する。また、逆に、その微小粒子が所定の光学特性を有しないと判定されたときは、電極1161を正に、電極1162を負に帯電させ、電気的な反発力によって液滴を分岐流路11bへ誘導する。これによって、所定の光学特性を有する微小粒子のみを分岐流路11aへ誘導し、分取することが可能となる。
【0071】
このように、マイクロチップ2では、微小管14を金属製とすることで、微小粒子を含むサンプル液の液滴Pを、流路11を通流するシース液層流Tの中心に送出すると同時に、電荷を付与することができ、この電荷に基づいて微小粒子の分別を行うことが可能となる。
【0072】
また、マイクロチップ2では、絞込部115によって、シース液層流及びサンプル液の液滴Pの層流幅をマイクロチップ2の水平方向及び垂直方向に絞り込んで検出部Dに送液することで、測定光の焦点位置を微小粒子の送流位置と精緻に一致させることできる。このため、微小粒子に対し精度良く測定光を照射することができ、微小粒子の光学特性を高感度に検出することが可能となる。
【0073】
さらに、マイクロチップ2では、微小管14及び絞込部115によって、微小粒子を含むサンプル液の液滴Pを、絞り込まれた層流中に略一列で配列させることができる。液滴Pを略一列で配列させることで、分岐部116において、所定の特性を有する微小粒子を含む液滴Pに対し、電極1161, 1162からの電気的な反発力を加え易い。また、分岐部116における層流幅が十分に絞り込まれていることで、小さな反発力を電極1161, 1162により加えるのみで、液滴Pを分岐流路11a又は11bに誘導できる。
【0074】
ここでは、検出部Dを光学検出系として構成し、微小粒子の特性を光学的に測定する場合について説明したが、微小粒子の特性測定は電気的又は磁気的に行うこともできる。すなわち、微小粒子の電気的物性及び磁気特性の測定を行う場合には、検出部Dに微小電極を配し、例えば抵抗値、容量値(キャパシタンス値)、インダクタンス値、インピーダンス、電極間の電界の変化値等、あるいは、例えば微小粒子に関する磁化、磁界変化、磁場変化等を測定する。これらの特性は二以上を同時に測定することもでき、例えば、微小粒子として磁気ビーズ等を蛍光色素で標識したものを測定する場合には、光学特性と磁気特性の測定が同時に行われる。
【0075】
マイクロチップ2によれば、微小粒子の電気的又は磁気的特性を測定する場合においても、検出部Dに配設された微小電極の測定位置と微小粒子の送流位置とを精緻に一致させ、微小粒子の特性を高感度に検出することが可能である。
【0076】
(5-2)マイクロチップ3
次に、流路11に少なくとも一側方から合流し、流路11内へ気体又は絶縁性液体のいずれかの流体を導入する流体導入部を設けたマイクロチップ3を用いて、サンプル液中に含まれる微小粒子の分別を行う方法を説明する。
【0077】
図10は、本発明に係るマイクロチップ3の構成を示す簡略上面図である。マイクロチップ3は、以下に特に説明する構成を除いて、マイクロチップ1及びマイクロチップ2と同様の構成を有する。
【0078】
図10中、符号91, 92は、流路11内に気体又は絶縁性液体のいずれかの流体を導入するための流体導入部を示す。流体導入部91, 92は、その一端において流路11に連通し、他端には流体が供給される流体インレット911, 912が設けられている。図示しない加圧ポンプによって流体インレット911, 912から流体導入部91, 92に供給された気体又は絶縁性液体(以下、「気体等」という)は、符号117で示す合流部において流路11内に導入される。
【0079】
マイクロチップ3では、この流体導入部91, 92から合流部117に導入される流体によって、流路11を通流する液体を分断し、液滴化して、分岐流路11a, 11bの分岐部116に送流することができる。
【0080】
図11は、合流部117を拡大して示す模式図である。図11(A)は上面図であり、(B)は微小管14を含むZX平面断面図である。図は、微小管14及び絞込部115を経て、合流部117に送液されたシース液層流T及びサンプル液層流Sを分断して、液滴化する場合を示している。
【0081】
すなわち、合流部117において、送液されてくるシース液層流T及びサンプル液層流Sに対して、流体導入部91, 92から所定のタイミングで気体等を導入すると、導入された気体等によってシース液層流T及びサンプル液層流Sは、図に示すように分断され、液滴化される。これにより、シース液層流T及びサンプル液層流Sを、流路11内において液滴化して、分岐部116に送流することができる(図11、液滴P参照)。そして、サンプル液として微小粒子を含む液体を通流させ、所定のタイミングで気体等を導入すれば、微小粒子を一つ又は所定数ずつ含む液滴Pを形成することができる。
【0082】
ここで、図10及び図11では、流体導入部を流路11の両側に、それぞれ1つずつ設けた場合を示したが、気体導入部は流路11の少なくとも一側方に1つ設けられていればよい。さらに、合流部117において、2以上の流体導入部を合流させることもできる。また、図10及び図11では、流体導入部が流路11に対して直角に合流されているが、流体導入部の合流角度は任意に設定できるものとする。
【0083】
マイクロチップ2では、分岐部116には、流路11の両側に対向して一対の電極1161, 1162を配置していた。これに対して、マイクロチップ3では、分岐流路11a, 11bの分岐部116近傍を金属製チューブ1163, 1164として形成し、これを電極として機能させる構成を採用している。金属製チューブ1163, 1164は、正又は負に帯電し得るものであり、液滴Pに付与された電荷との電気的な反発力(又は吸引力)によって、液滴Pを分岐流路11a, 11bのいずれかに誘導する。
【0084】
すなわち、マイクロチップ2で説明したように、微小粒子を含むサンプル液の液滴Pに荷電部143(図7参照)によって付与された電荷が正である場合に、その微小粒子が所定の光学特性を有すると判定されたときは、金属製チューブ1163を負に、金属製チューブ1164を正に帯電させ、電気的な反発力によって液滴Pを分岐流路11aへ誘導する。また、逆に、その微小粒子が所定の光学特性を有しないと判定されたときは、金属製チューブ1163を正に、金属製チューブ1164を負に帯電させ、電気的な反発力によって液滴を分岐流路11bへ誘導する。なお、図中、符号131, 132は、それぞれ分岐流路11a, 11bに分取された微小粒子をチップ外へ取り出すためのアウトレットを示している。
【0085】
このように、マイクロチップ3では、流体導入部91, 92を設けることで、微小粒子を含むサンプル液を液滴化すると同時に、微小管14により電荷を付与することができ、この電荷に基づいて微小粒子の分別を行うことが可能とされている。
【0086】
液路11内で液滴化されたサンプル液の電荷を維持するため、流体導入部91, 92から導入される流体には気体を用いることが好ましい。この際、液路11内におけるシース液層流及びサンプル液層流の分断が不完全で、隣接する液滴が一部で連通する状態となると、液滴の電荷が消失してしまう。この場合には、分岐部116内における送流方向の制御が不能となったり、不正確となったりするおそれがある。従って、導入した気体によってシース液層流及びサンプル液層流を完全に分断し、分断された液滴間の絶縁性を維持するため、流路11の表面(特には、合流部117の下流)には撥水性を付与することが望ましい。さらに、流路11の表面に電気的絶縁性を付与して、分断された液滴間で電荷の移動を阻止することも有効である。電気的絶縁性は、例えば、流路表面に絶縁性を備える物質を塗布または成膜することにより付与し得る。また、流路表面に超純水等の絶縁性を有する液体を流すことで、液滴間の通電を阻止することもできる。
【0087】
また、液路11内で液滴化されたサンプルの電荷を維持するため、流体として、電気的に絶縁性を有する液体(「絶縁性液体」)を用いてもよい。この絶縁性液体には、例えば、上記の超純水等を用いる。これにより、分断された液滴間の電荷の移動を阻止することができる。
【0088】
6.流体分析装置(微小粒子分別装置)
図12は、本発明に係る流体分析装置の構成を説明する模式図である。この流体分析装置は、微小粒子の特性を分析し、分析結果に基づいて微小粒子の分別を行う微小粒子分取装置として好適に使用されるものである。以下、この流体分析装置(微小粒子分取装置)の各構成を、上記のマイクロチップ3を搭載した場合を例として説明する。
【0089】
図12に示す微小粒子分析装置は、マイクロチップ3の合流部117上流において、流路11内部を通流する微小粒子を検出するための光学検出系(照射部102、検出部103)と、合流部117の下流において微小粒子の光学特性を判定するための光学検出系(照射部104、検出部105)と、マイクロチップ3の流体インレット911, 921に気体等を供給する加圧ポンプ106と、を備える。図中、符号101は、これらの光学検出系及び加圧ポンプと、微小管14及び金属製チューブ1163, 1164に印加される電圧を制御するための全体制御部を示す。
【0090】
さらに、微小粒子分取装置は、図示しない液体供給手段を備え、マイクロチップ3のシース液インレット12からシース液層流を、サンプル液インレット15からサンプル液層流を供給する。マイクロチップ3に供給されたシース液及びサンプル液は、微小管14及び絞込部115によって、サンプル液層流がシース液層流によって取り囲まれ、かつ、層流幅を絞り込まれた状態で、合流部117に送液される(図2参照)。
【0091】
(6-1)微小粒子の検出
微小粒子分取装置は、合流部117の上流において、サンプル液層流中に含まれる微小粒子を光学的に検出するための光学検出系を備えている。この光学検出系は、従来のマイクロチップを用いた微小粒子の分析システムと同様に構成することができる。具体的には、レーザー光源と、微小粒子に対しレーザー光を集光・照射するための集光レンズなどからなる照射部102と、レーザー光の照射によって微小粒子から発生する光をダイクロイックミラー、バンドパスフィルター等を用いて検出する検出部103と、によって構成される。検出部は、例えば、PMT(photo multiplier tube)や、CCDやCMOS素子等のエリア撮像素子等によって構成される。
【0092】
マイクロチップ3では、絞込部115によって、シース液層流及びサンプル液層流の層流幅を絞り込んで、照射部102のレーザー光照射部位に送液することができる。このため、照射部102からのレーザー光の焦点位置と、流路11内における微小粒子の送流位置とを、精緻に一致させることできる。これにより、微小粒子に対し精度良くレーザー光を照射して、微小粒子を高感度に検出することが可能とされている。
【0093】
検出部103によって検出された微小粒子から発生する光は、電気信号に変換され、全体制御部101に出力される。検出部103によって検出する光は、微小粒子の前方散乱光や側方散乱光、レイリー散乱やミー散乱等の散乱光や蛍光などであってよい。
【0094】
全体制御部101は、この電気信号に基づいて、流路11を送流されるサンプル液層流中の微小粒子を検出する。そして、所定のタイミングで加圧ポンプ106を制御して、流体インレット911, 912及び流体導入部91, 92から合流部117に気体等を導入し、シース液層流及びサンプル液層流を分断・液滴化する(図11参照)。
【0095】
合流部117への流体導入のタイミングは、例えば、検出部103からの電気信号に基づいて微小粒子が1つ検出される度に、一定時間をおいて気体等を導入するようにする。微小粒子検出から流体導入までの時間は、照射部102のレーザー光照射部位と合流部117との間の距離、及び、流路11内のサンプル液の送液速度によって規定される。この時間を適宜調整した上で、微小粒子が1つ検出される度に合流部117に気体等を導入することで、シース液層流及びサンプル液層流を微小粒子1つ毎に分断し、液滴化することができる。
【0096】
この場合、各液滴には1つずつ微小粒子が含まれることとなるが、各液滴に含まれる微小粒子の数は、合流部117への流体導入のタイミングを適宜調整することにより、任意に設定できる。すなわち、所定数の微小粒子が検出される度に気体等を導入すれば、微小粒子をその数毎に液滴化することができる。
【0097】
ここでは、サンプル液層流中に含まれる微小粒子を検出するための検出を光学検出系により行う場合について説明した。微小粒子の検出は、光学的手段に限定されず、電気的又は磁気的手段によっても行うことができる。微小粒子を電気的又は磁気的に検出する場合には、合流部117の上流に微小電極を配し、例えば抵抗値、容量値(キャパシタンス値)、インダクタンス値、インピーダンス、電極間の電界の変化値等、あるいは、例えば微小粒子に関する磁化、磁界変化、磁場変化等を測定する。そして、測定結果を電気信号として出力することにより、この信号に基づいて全体制御部101での微小粒子の検出を行う。
【0098】
マイクロチップ3では、微小粒子を電気的又は磁気的に検出する場合においても、配設された微小電極の測定位置と微小粒子の送流位置とを精緻に一致させ、微小粒子を高感度に検出することが可能である。
【0099】
なお、ここで、微小粒子が磁性を有するものである場合には、特に、マイクロチップ3の金属製チューブ1163, 1164を磁極として構成することにより、磁気的力に基づいて分岐部116における微小粒子の送流方向を制御することも考えられる。
【0100】
(6-2)微小粒子の光学特性の判定
微小粒子分取装置は、合流部117の下流においても、照射部104と検出部105とからなる光学検出系を備える。この光学検出系は、微小粒子の特性を判定するためのものであるが、照射部104及び検出部105の構成そのものは、先に説明した照射部102及び検出部104と同様とできる。
【0101】
照射部104は、合流部117において形成された液滴中に含まれる微小粒子に対してレーザー光を照射する。これによって、微小粒子から発生する光は、検出部105によって検出される。検出部103によって検出する光は、微小粒子の前方散乱光や側方散乱光、レイリー散乱やミー散乱等の散乱光や蛍光などであってよく、これらは電気信号に変換されて全体制御部101に出力される。
【0102】
全体制御部101は、入力された電気信号に基づき、微小粒子を前方散乱光や側方散乱光、レイリー散乱やミー散乱等の散乱光や蛍光をパラメーターとして微小粒子の光学特性を判定する。この光学特性判定のためのパラメーターは、対象とする微小粒子及び分取目的に応じて、微小粒子の大きさを判定する場合には前方散乱光を、構造を判定する場合には側方散乱光を、微小粒子に標識された蛍光物質の有無を判定する場合には蛍光を採用する。
【0103】
全体制御部101は、これらのパラメーターにより検出された光を解析し、微小粒子が所定の光学特性を有するか否かについて判定を行う。
【0104】
ここでは、液滴中に含まれる微小粒子の特性を光学的に判定する場合について説明したが、微小粒子の特性判定は、電気的又は磁気的に行うこともできる。微小粒子の電気的物性及び磁気特性の測定を行う場合には、合流部117の下流に微小電極を配し、例えば抵抗値、容量値(キャパシタンス値)、インダクタンス値、インピーダンス、電極間の電界の変化値等、あるいは、例えば微小粒子に関する磁化、磁界変化、磁場変化等を測定する。これらの特性は二以上を同時に測定することもでき、例えば、微小粒子として磁気ビーズ等を蛍光色素で標識したものを測定する場合には、光学特性と磁気特性の測定が同時に行われる。
【0105】
(6-3)微小粒子の分取
全体制御部101は、微小粒子の特性の判定結果に基づいて、微小管14及び金属製チューブ1163, 1164に印加する電圧を制御して、所定の特性を備えた微小粒子を含む液滴を分岐流路11a, 11bのいずれかに誘導することにより、微小粒子の分別・分取を行う。
【0106】
例えば、液滴中に含まれる微小粒子が所定の特性を有すると判定された場合において、その微小粒子を含む液滴に対して微小管14により正電荷が付与されている場合には、金属製チューブ1163を負に、金属製チューブ1164を正に帯電させる。これにより、分岐部116における液滴の移動方向を分岐流路11aへと誘導し、所定の特性を有する微小粒子をアウトレット131から回収する。
【0107】
また、逆に、液滴中に含まれる微小粒子が所定の特性を有しないと判定された場合には、金属製チューブ1163を正に、金属製チューブ1164を負に帯電させることによって、液滴を分岐流路11bへ誘導し、微小粒子をアウトレット132から排出する。
【0108】
このように本発明に係る微小粒子分別装置では、微小粒子の特性の判定結果に応じて、その微小粒子を含む液滴に付与する電荷及び電極に印加する電圧を、適宜正又は負に切換えて制御することにより、微小粒子を任意に選択される一の分岐流路に誘導、分取することができる。
【0109】
ここでは、流路11を通流するサンプル液層流中の微小粒子を検出して液滴化するための光学検出系(照射部102、検出部103)と、液滴中に含まれる微小粒子の光学特性を判定するための光学検出系(照射部104、検出部105)と、を合流部15の上流と下流に別々に設けたが、これらは一体に構成することも可能である。
【符号の説明】
【0110】
1, 2, 3 マイクロチップ
1a, 1b, 2a, 2b 基板層
11 流路
11a, 11b 分岐流路
111, 112, 113, 114 曲折部
115 絞込部
116 分岐部
1161, 1162 電極
1163, 1164 金属製チューブ
117 合流部
12 シース液インレット
13, 131, 132 アウトレット
14, 14a, 14b, 14c, 14d 微小管
141 開口(流路側)
142 開口(サンプル液インレット側)
143 荷電部
15 サンプル液インレット
151 圧電素子
91, 92 流体導入部
911, 921 流体インレット
102, 104 照射部
103, 105 検出部
101 全体制御部
106 加圧ポンプ
c 接着剤
D 検出部
P サンプル液液滴
S サンプル液層流
T シース液層流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シース液とサンプル液とが通流可能な流路を具備し、
前記流路に導入されるサンプル液層流が、その周囲をシース液層流で取り囲まれた状態で送液され、
前記流路は、送液方向に対する垂直断面の面積が送液方向に従って次第に小さくなるように、前記流路底面及び/又は上面が傾斜面として形成され、かつ、流路側壁が送液方向に従って次第に狭窄された絞込部を有し、
シース液層流及びサンプル液層流が、マイクロチップ上面又は下面側に偏向されながら等方的に縮小して絞り込まれて送液されるマイクロチップ。
【請求項2】
前記絞込部の流路底面及び/又は上面の傾斜角度と、流路側壁の狭窄角度とが等しく形成された請求項1記載のマイクロチップ。
【請求項3】
前記流路の前記絞込部の下流において分岐する分岐流路を備え、
分岐流路の分岐部に配置される電極によって、前記電荷を付与されたサンプル液の分岐部における送液方向を制御し得る請求項2記載のマイクロチップ。
【請求項4】
前記流路の前記分岐部の上流に少なくとも一側方から合流し、流路内へ気体又は絶縁性液体のいずれかの流体を導入する流体導入部を備え、
流体導入部から導入される流体によって、流路内を通流するシース液層流及びサンプル液層流を分断し、液滴化して送液する請求項3記載のマイクロチップ。
【請求項5】
液滴化され、電荷を付与された微小粒子を含むサンプル液の前記分岐部における送液方向を制御して、微小粒子の分別を行い得る請求項4記載のマイクロチップ。
【請求項6】
マイクロチップの内部に形成される流路構造であって、
シース液とサンプル液とが通流可能な流路を具備し、
前記流路に導入されるサンプル液層流が、その周囲をシース液層流で取り囲まれた状態で送液され、
前記流路は、送液方向に対する垂直断面の面積が送液方向に従って次第に小さくなるように、前記流路底面及び/又は上面が傾斜面として形成され、かつ、流路側壁が送液方向に従って次第に狭窄された絞込部を有し、
シース液層流及びサンプル液層流が、マイクロチップ上面又は下面側に偏向されながら等方的に縮小して絞り込まれて送液される流路構造。
【請求項7】
請求項1記載のマイクロチップが搭載された流体分析装置。
【請求項8】
請求項5記載のマイクロチップが搭載された微小粒子分別装置。
【請求項9】
流路を通流するシース液層流中にサンプル液を導入し、サンプル液層流の周囲をシース液層流で取り囲んだ状態で送液し、
シース液層流及びサンプル液層流を等方的に縮小して絞込みながら送液する送液方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−64706(P2011−64706A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291785(P2010−291785)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【分割の表示】特願2008−288896(P2008−288896)の分割
【原出願日】平成20年11月11日(2008.11.11)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】