説明

マイクロチップの製造方法

【課題】マイクロチップの接合力と、マイクロチップの形状の維持とを両立することのできるマイクロチップの製造方法を提供する。
【解決手段】表面に流路用溝を有する樹脂製の基板と、流路用溝をカバーする樹脂製のカバー部材と、が熱接合されたマイクロチップの製造方法において、基板の表面から所定の深さより深い内部領域の密度、又は基板の表面から前記所定の深さ以内の表面領域の密度を均一にする処理工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロチップの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、微細加工技術を利用してシリコンやガラス基板上に微細な流路や回路を形成し、微小空間で核酸、タンパク質、又は血液などの液体試料の化学反応や、分離、分析などを行うマイクロチップ(マイクロ分析チップやマイクロ流体チップとも称される)、あるいはマイクロチップを用いたμTAS(Micro Total Analysis Systems)と称される装置が実用化されている。このようなマイクロチップによれば、サンプルや試薬の使用量又は廃液の排出量が軽減され、省スペースで持ち運び可能な安価なシステムの実現が可能となる。
【0003】
マイクロチップは、例えば、遺伝子診断を行うにあたっての遺伝子を増幅させる、ポリメラーゼ連鎖反応法(以下、PCR法と言う)などにおいて用いられる。
PCR法では、マイクロチップに溜池状に形成された反応部において、増幅したい遺伝子を含む検体を、複数の温度条件(例えば、約95℃の熱変性温度、約55℃のアニーリング温度、約70℃の重合温度の3つの温度条件)サイクルで増幅反応させ、このサイクルを何度も繰り返すことで遺伝子を大量に増幅させる。なお、PCR法により得た産物は、この後、電気泳動法(アガロース電気泳動法、キャピラリ電気泳動法)にかけられて標的物質の検出が行われる。
【0004】
こうしたマイクロチップは、少なくとも一方の部材に微細加工が施された2つの部材を貼り合わせることにより製造される。近年は、容易に低コストで製造するために、樹脂製のマクロチップが提案されている。より具体的には、樹脂製のマイクロチップを製造するためには、表面に流路用溝を有する樹脂製の基板と、流路用溝をカバーする樹脂製のカバー部材(例えばフィルム)とを接合する。流路用溝を有する基板には、流路用溝の終端等に、厚さ方向に貫通する貫通孔が形成されている。そして、流路用溝を内側にして、表面に流路用溝を有する基板と、カバー部材とを接合する。この接合によって、カバー部材が流路用溝の蓋として機能し、流路用溝とカバー部材とによって流路が形成される。これにより、内部に流路を有するマイクロチップが製造される。また、基板に形成された貫通孔によって、流路とマイクロチップの外部とが繋がり、貫通孔を介して、液体試料の導入や排出などが行われる。
【0005】
樹脂製の基板と樹脂製のカバー部材とを接合する方法としては、接着剤を利用する方法、溶剤で樹脂表面を溶かして接合する方法、超音波融着を利用する方法、レーザ融着を利用する方法、平板状又はロール状の加圧装置による熱融着を利用する方法などが挙げられる。
なかでも、熱融着は低コストで実施できるため、大量生産を前提とした接合方法として適している。
【0006】
このようなマイクロチップとしては、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂製の基板に、同じくアクリル系樹脂製のフィルムを熱融着させたマイクロチップが提案されている。具体的には、例えば、ポリメチルメタクリレート樹脂製の基板に、ポリメチルメタクリレート樹脂製の50μmのフィルムを、プレス圧1kg/cm2、104℃の条件で熱融着によって接合させたマイクロチップなどが提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0007】
しかし、上記特許文献1、2に記載されたマイクロチップでは、複数の温度条件サイクルで増幅反応させるPCR法を行おうとすると、溶解、変形してしまう恐れがある。
このため、基板及びカバー部材の材質に、例えば、ポリカーボネート樹脂やポリプロピレン等の耐熱性樹脂を用い、基板及びカバー部材の荷重たわみ温度や、基材とカバー部材との接合温度を使用温度より高くなるように設定が行われる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−310613号公報
【特許文献2】特開2000−310614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、耐熱性の高い材質の基板及びカバー部材を従来の熱融着により接合しようとすると、接合のために高温をかける必要があり、高温をかけると流路用溝などの構造が崩れやすくなってしまう。このように、接合力の確保と、マイクロチップの流路用溝等の構造の維持とを両立させるのが困難であるという問題があった。
【0010】
そこで、本発明は以上のような事情に鑑みてなされたものであり、マイクロチップの基板とカバー部材との接合力の確保と、マイクロチップの構造の維持とを両立させることのできるマイクロチップの製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明によれば、
表面に流路用溝を有する樹脂製の基板と、前記流路用溝をカバーする樹脂製のカバー部材と、が熱接合されたマイクロチップの製造方法において、
前記基板の表面から所定の深さより深い内部領域の密度、又は前記基板の表面から前記所定の深さ以内の表面領域の密度を均一にする処理工程を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、基板の表面から深さが所定の深さより深い内部領域の密度、又は基板の表面から深さが前記所定の深さ以内の表面領域の密度を均一にする処理工程を有するため、基板とカバー部材とを熱接合する際に、圧力と熱を均一に加えることが可能となり、接合力と、構造の維持とを両立したマイクロチップを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】検査装置の外観構成を示す図である。
【図2】検査装置の内部構成を示す模式図である。
【図3】マイクロチップの概略構成を示す図であり、(a)は平面図、(b),(c)は側方から見た内部形状を示す透視図である。
【図4】マイクロチップの概略構成を示す図であり、(a)は平面図、(b),(c)は側方から見た内部形状を示す透視図である。
【図5】マイクロチップの概略構成を示す図であり、(a)は平面図、(b),(c)は側方から見た内部形状を示す透視図である。
【図6】基板の成形装置を示す側面図である。
【図7】基板の成形型を示す断面図である。
【図8】マイクロチップの製造工程を示すフローチャートである。
【図9】図8の基板の製造工程を示すフローチャートである。
【図10】保圧の効果を示す図である。
【図11】アニールの効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を図示の実施の形態に基づいて説明するが、本発明は該実施の形態に限られない。なお、図中、同一あるいは同等の部分には同一の番号を付与し、重複する説明は省略する。
【0015】
(1.検査装置)
最初に、本実施の形態における検査装置について、図1および図2を用いて説明する。
図1は検査装置1の外観構成の一例を示す斜視図であり、図2は検査装置1の内部構成の一例を示す模式図である。
【0016】
図1に示すように、検査装置1は、マイクロチップ2を載置するためのトレイ10と、図示しないローディング機構によってトレイ10上からマイクロチップ2が搬入される搬送口11と、検査内容や検査対象のデータ等を入力するための操作部12と、検査結果を表示するための表示部13等とを備えている。
【0017】
また、この検査装置1は、図2に示すように、送液部14と、加熱部15と、電圧印加部18と、検出部16と、駆動制御部17等とを備えている。
【0018】
(1−1.送液部)
送液部14は、マイクロチップ2内の送液を行うためのユニットであり、搬送口11から検査装置1内に搬入されるマイクロチップ2と接続されるようになっている。この送液部14は、マイクロポンプ140、チップ接続部141、駆動液タンク142および駆動液供給部143等を有している。
【0019】
このうち、マイクロポンプ140は、送液部14に1つ以上具備されており、マイクロチップ2内に駆動液146を注入したり、マイクロチップ2内から分析試料などの流体を吸引したりすることで、マイクロチップ2内の送液を行う。なお、マイクロポンプ140が複数具備される場合は、各々のマイクロポンプ140は独立に、或いは連動して駆動可能である。なお、マイクロチップに予め媒質や検体、試薬等を注入してある場合は、必ずしも駆動液を使った送液は不要であり、マイクロポンプのみを動作させて媒質の移動を補助してもよい。試薬や検体の投入のみにマイクロポンプを使用してもよい。
チップ接続部141は、マイクロポンプ140とマイクロチップ2とを接続して連通させる。
【0020】
駆動液タンク142は、駆動液146を貯留しつつ、駆動液供給部143に供給する。この駆動液タンク142は、駆動液146の補充のために駆動液供給部143から取り外して交換可能である。
駆動液供給部143は、駆動液タンク142からマイクロポンプ140に駆動液146を供給する。
【0021】
以上の送液部14においては、チップ接続部141によってマイクロチップ2とマイクロポンプ140とが接続されて連通される。そして、マイクロポンプ140が駆動されると、チップ接続部141を介して駆動液146がマイクロチップ2に注入されるか、或いはマイクロチップ2から吸引される。このとき、マイクロチップ2内の複数の収容部に収容されている検体や試薬等は、駆動液146によってマイクロチップ2内で送液される。これにより、マイクロチップ2内の検体と試薬とが混合されて反応する結果、目的物質の検出や病気の判定等の検査が行われる。
【0022】
(1−2.加熱部)
加熱部15は、マイクロチップ2を特定の複数の温度に加熱するために発熱する。例えば、約95℃の熱変性温度、約55℃のアニーリング温度、約70℃の重合温度の3つの温度にマイクロチップ2を加熱する。これにより、PCR法による遺伝子増幅を行う。加熱部15は、ヒータやペルチエ素子等の通電によって温度を上昇できる素子、通水によって温度を低下させられる素子等で構成される。
【0023】
なお、PCR法は、例えば、増幅対象であるDNA(標的DNA)、DNA合成酵素(DNAポリメラーゼ)及び大量のプライマー(オリゴヌクレオチド)を予め混合した溶液を検体として用意し、この検体に対する加熱/冷却を繰り返すことによりDNAを増幅する技術である。
PCR法では、2本鎖DNAを含む溶液を高温(例えば95℃程度)で加熱することにより1本鎖DNAに変性させ、その後、この1本鎖DNAとなった溶液を例えば55℃程度まで冷却していく。これにより、長い1本鎖DNAの一部にプライマーが結合する(アニーリング)。この状態で、プライマーの分離が起きずかつDNAポリメラーゼの活性に適した温度(例えば70℃程度)まで加熱すると、プライマーが結合した部分を起点として1本鎖部分と相補的なDNAが合成される。
PCR法では、このような加熱/冷却工程を短周期で繰り返すヒートサイクル操作を行うことにより、DNA合成を繰り返し、標的DNAを増幅・培養することができる。
【0024】
(1−3.電圧印加部)
電圧印加部18は、複数の電極を有している。これらの電極は、マイクロチップ2内の液体試料に挿入されて当該液体試料に直接電圧を印加するか、あるいは後述の通電部40に接触して当該通電部40を介して液体試料に電圧を印加することにより、マイクロチップ2内の液体試料に電気泳動を行わせるようになっている。
【0025】
(1−4.検出部)
検出部16は、発光ダイオード(LED)やレーザ等の光源と、フォトダイオード(PD)やフォトマル等の受光部等とで構成され、マイクロチップ2内の反応によって得られる生成液に含まれる標的物質を、マイクロチップ2上の所定位置(後述の検出領域200)で光学的に検出する。光源と受光部との配置は透過型と反射型とがあり、必要に応じて決定されればよい。
【0026】
(1−5.駆動制御部)
駆動制御部17は、図示しないマイクロコンピュータやメモリ等で構成され、検査装置1内の各部の駆動、制御、検出等を行う。
【0027】
(2.マイクロチップ)
続いて、本実施の形態におけるマイクロチップ2について、図3を用いて説明する。
図3は、マイクロチップ2を示す図であり、図3(a)は平面図、図3(b),(c)は側方から見た内部形状を示す透視図である。
【0028】
図3(a),(b)に示すように、マイクロチップ2は、互いに貼り合わされた基板3とカバー部材4とを備えている。
【0029】
(2−1.基板)
基板3は、樹脂製の板状部材である。
基板3は、カバー部材4に対する接合面(以下、内側面3Aとする)に流路用溝30を有している。この流路用溝30は、基板3とカバー部材4とが貼り合わされた場合に、カバー部材4と協働して微細流路20を形成する。この微細流路20には、検査装置1の検出部16による標的物質の検出対象領域として、検出領域200が設けられている。なお、微細流路20(流路用溝30)の形状は、分析試料、試薬の使用量を少なくできること、成形金型の作製精度、転写性、離型性などを考慮して、幅、深さともに、10μm〜200μmの範囲内の値であることが好ましいが、特に限定されるものではない。また、微細流路20の幅と深さは、マイクロチップの用途によって決めれば良い。なお、微細流路20の断面の形状は矩形状でも良いし、曲面状でも良い。
【0030】
また、基板3は、厚さ方向に貫通する貫通孔31を複数有している。これらの貫通孔31は、流路用溝30の端部や中途部に形成されており、基板3とカバー部材4とが貼り合わされた場合に、微細流路20とマイクロチップ2の外部とを接続する開口部21を形成する。この開口部21は、検査装置1の送液部14に設けられたチップ接続部141(チューブやノズル)と接続されて、ゲルや液体試料、緩衝液などを微細流路20に導入したり、微細流路20から排出したりする。また、この開口部21には、検査装置1における電圧印加部18の電極が挿入可能となっている。なお、開口部21(貫通孔31)の形状は、円形状や矩形状の他、様々な形状であっても良い。また、例えば図3(c)に示すように、基板3における内側面3Aとは反対側の面(以下、外側面3Bとする)において貫通孔31の周囲を筒状に突出させ、チップ接続部141を接続しやすくしても良い。
【0031】
また、基板3には、PCR法による遺伝子増幅を行う反応室用凹部80が設けられている。反応室用凹部80は、流路用溝30の端部に形成されており、その上面(基板3の内側面3A)にカバー部材4が備えられた状態で反応室を形成する。なお、反応室用凹部80の容積は、反応を好適に行うため、10mm3〜100mm3の範囲内の値であることが好ましいが、特に限定されるものではない。
【0032】
(2−2.カバー部材)
カバー部材4は、例えば、樹脂製のフィルムである。なお、カバー部材4は、フィルムに限定されず、シート状(板状)の部材でもよい。
カバー部材4にも微細流路や孔を設けてもよいが、基板3との接合を確実に行うため、カバー部材4は厚くなり過ぎないことが好ましい。検体や試薬、あるいは検査の種類によって必要な時は、電圧印加部18の電極を開口部21(貫通孔31)に挿入して電圧を印加することにより、微細流路20内の試料に電気泳動を行わせる。
【0033】
なお、開口部21の位置や形状は、例えば図4(a),(b)や図5(a),(b)に示すように、他の態様としても良い。ここで、図4(b),図5(b)は、図4(a),図5(a)において太線で囲まれた部分の内部形状を模式的に示す断面図である。図4のマイクロチップ2では、導電性の通電部40がカバー部材4における基板3との対向面のうち、貫通孔31との対向位置からカバー部材4の縁部までに亘って設けられている。この通電部40は、カバー部材4に対して、印刷等によりパターンニングするとよい。このようなマイクロチップ2によれば、貫通孔31(開口部21)に電極を挿入することなく、カバー部材4の縁部から通電部40を介して微細流路20内の流体に電圧を印加することができるため(図4(b)中、右側の矢印記号を参照)、複数のマイクロチップ2を順に使用する場合であっても、電極に液体試料が付着して次回のマイクロチップ2に混入してしまうのを防止することができる。また、図5のマイクロチップ2では、貫通孔31が流路用溝30の各端部と、当該端部の隣接位置とに並んで設けられるとともに、通電部40が、隣接する2つの貫通孔31の対向位置に亘って設けられている。このようなマイクロチップ2によれば、流路用溝30の端部の貫通孔31(開口部21)を用いて液体試料などの供給・排出を行い(図5(b)中、左側の矢印記号を参照)、隣接する貫通孔31(開口部21)から通電部40を介して微細流路20内の流体に電圧を印加することができるため(図5(b)中、右側の矢印記号を参照)、複数のマイクロチップ2を順に使用する場合であっても、電極に液体試料が付着して次回のマイクロチップ2に混入してしまうのを防止することができる。これらの場合であっても、図4(c),図5(c)に示すように、基板3の外側面3Bにおいては、貫通孔31の周囲を筒状に突出させ、チップ接続部141を接続しやすくしても良い。
【0034】
また、基板3及びカバー部材4の外形形状は、ハンドリング、分析しやすい形状であれば良く、平面視において正方形や長方形などの形状が好ましい。1例として、10mm角〜200mm角の大きさであれば良い。また、10mm角〜100mm角の大きさであっても良い。また、流路用溝30を有する基板3の板厚は、成形性を考慮して、0.2mm〜5mmが好ましく、0.5mm〜2mmがより好ましい。流路用溝を覆うための蓋として機能するカバー部材4の厚さは、30μm〜300μmであることが好ましく、50μm〜150μmであることがより好ましい。
【0035】
(2−3.物性値)
基板3及びカバー部材4は、樹脂によって形成される。基板3及びカバー部材4に用いられる樹脂に関しては、耐熱性が高いこと、成形性(転写性、離型性)が良いこと、透明性が高いこと、紫外線、可視光、近赤外光に対する自家蛍光の発生効率が低いことなどが条件として挙げられる。
具体的に、基板3とカバー部材4には、例えば、2種類の単量体を重合させて得られるポリカーボネート樹脂や、3種類以上の単量体を重合させて得られるポリカーボネート樹脂などが用いられる。また、硬度等の物性を制御する目的で、所定の官能基を側鎖に持つ単量体を用いて重合することにより、分子主鎖に対して前記所定の官能基を導入したポリカーボネート樹脂であってもよいし、ポリカーボネート基とエステル結合(例えば、ジカルボン酸とジオールとのエステル等)とを分子主鎖に含む重合体であってもよい。
これにより、荷重たわみ温度などの物性値が所定の値となるように制御されている。市販のポリカーボネート樹脂としては、三菱エンジニアリングプラスチックス製ユーピロンシリーズ(例えば、ユーピロンH−4000、ユーピロンH−3000)、帝人化成製パンライトAD5503などを用いることができる。
また、基板3とカバー部材4とを同じ材料にしたり、同じ種類に分類される樹脂を(例えば、分子主鎖が同じで側鎖のみが異なる複数の樹脂、用いる単量体の一部が異なる複数の重合体など)を用いた材料としたり、あるいは、同じ樹脂や同じ種類に分類される樹脂を母材として添加剤の種類や量を異ならせた材料を用いたりすることで、互いの相溶性がよくなり、溶融した後に結合し易くすることができる。
【0036】
より具体的には、基板3とカバー部材4は、その荷重たわみ温度(HDT)℃が下記式(A)の関係を満たすようにすることが好ましい。
HDTf>HDTm>増幅反応温度・・・(A)
但し、HDTf:カバー部材の荷重たわみ温度(℃)
HDTm:基板の荷重たわみ温度(℃)
増幅反応温度:PCR法における増幅反応時の加熱温度(℃)
なお、荷重たわみ温度(HDT)とは、ISO規格75−1、75−2(ASTE D648、JIS7191)に規定された、樹脂の熱的特性(耐熱性など)を表わす指標の一つであり、試験法規格に決められた荷重を与えた状態で試料の温度を上げていった場合、撓みの大きさが一定の値になる温度を示すものである。本件明細書においては、ISO規格75−2(0.45MPa)での荷重たわみ温度を示すものとする。
【0037】
ここで、カバー部材4の荷重たわみ温度(HDTf)℃が、基板3の荷重たわみ温度(HDTm)℃より低い場合、熱接合時にカバー部材4の接合面が変形しやすくなる傾向があり、流路用溝30にはみ出しやすくなる恐れがある。
しかしながら、前記式(A)の関係を満たすことによって、熱接合時にカバー部材4が流路用溝30に撓みこむのを確実に防止することができるようになっている。
また、基板3とカバー部材4の荷重たわみ温度は、PCR法における増幅反応時の加熱温度より高いため、マイクロチップにおいてPCR法を実行する際に、流路用溝30にカバー部材4が撓みこむのを抑制することができる。
即ち、基板3とカバー部材4の荷重たわみ温度が、かかる式(A)の関係を満たすことで、熱接合時に熱がかかった場合にもPCR法においてマイクロチップ2が加熱された場合にも、流路用溝30にカバー部材4が撓みこんで、流路形状が崩れるのを防止することができるようになっている。
【0038】
また、基板3は、メルトマスフローレートが5〜50g/10minのものが好適に用いられる。
なお、メルトマスフローレートとは、ISO規格1133(JIS K7210、JIS K7390、ASTM D1238)に規定された、熱可塑性樹脂の溶融時の流動性を表わす数値の一つである。メルトマスフローレートは、シリンダ内で溶融した樹脂を一定の温度のもと定荷重をかけ、シリンダ底部に設置された規定口径のダイスから10分間あたり押し出される樹脂量が測定されたものである。
メルトマスフローレートが50g/10minより大きい基板3では、流動性が高いため成形は容易となるが、熱接合時に内側面3Aが変形し、流路用溝30が潰れ易くなる。
一方、メルトマスフローレートが5g/10minより小さい基板3では、流動性が低すぎて接合が難しくなる。
即ち、基板3のメルトマスフローレートを5〜50g/10minとすることで、成形し易さと接合し易さを両立することができる。
【0039】
更に、基板3は、これに限るものではないが、表面の鉛筆硬度がH〜4Hのものを用いると変形をより抑えやすくなるため好ましい。
なお、鉛筆硬度とは、JIS−K5600−5−4に従い測定されるものであり、既知の硬さの鉛筆を一定の条件で押し付けて引っかき、どの硬度の鉛筆で引っかいた時に傷がつかなかったかを表わしたものである。
硬度が小さくなりすぎると、熱接合時の荷重で内側面3Aが変形し、流路用溝30が潰れ易くなるが、硬度をある程度高くすることで、好適には鉛筆硬度がH以上の基板3を用いることで、外力による変形を抑えやすくなる。
一方、鉛筆硬度が4Hより大きい基板3では、素材が硬すぎるため接合自体が困難となる恐れがある。鉛筆硬度を4Hよりも大きくしようとすれば、一般的には、成形材料中にポリカーボネート重合体とは異なる材料(添加剤、モノマー)を添加することになる。そのため、ポリカーボネートの割合や構造が大きく変化することになり、流路用溝30はつぶれにくくなるものの、基板3とカバー部材4の相溶性が悪化して接合強度が低下してしまう恐れがある。
基板3の表面の鉛筆硬度をH〜4Hとすることで、樹脂が柔らかくなりやすい高温(後述の接合温度(Lt))で接合する場合でも、流路用溝30を潰れにくいものとすることができる。
【0040】
(3.マイクロチップの製造装置)
続いて、マイクロチップ2の製造装置について説明する。
【0041】
マイクロチップ2の製造装置は、基板3及びフィルム4をそれぞれ形成した後、両者を接合することでマイクロチップ2を製造するようになっており、図6に示すように、基板3の成形装置5等を備えている。
【0042】
この成形装置5は、ベース50上に固定側プラテン51及び可動側プラテン52を有している。
固定側プラテン51は、ベース50に立設された平板状の部材である。この固定側プラテン51の4隅には柱状のタイバー53が設けられており、固定側プラテン51に対して垂直に延在している。
【0043】
また、可動側プラテン52は、固定側プラテン51に対向して配設された平板状の部材であり、固定側プラテン51に設けられたタイバー53によって4隅で支持されている。この可動側プラテン52は、タイバー53によってガイドされつつ、図示しない駆動機構によって水平方向(図中の矢印A,A’方向)、つまり固定側プラテン51との接離方向に移動自在となっている。
【0044】
以上の固定側プラテン51及び可動側プラテン52の間には、成形型6が配設されており、可動側プラテン52が矢印A方向に移動することにより成形型6が型締めされ、可動側プラテン52が矢印A’方向に移動することにより成形型6が型開きされるようになっている。
【0045】
(3−1.成形型)
図7は、成形型6の概略構成を示す断面図であり、成形空間に樹脂が充填された状態を示している。
【0046】
この図に示すように、成形型6は、第1型である固定型60と、当該固定型60に対して接離可能に設けられた第2型である可動型61とを備える射出成形型であり、これら固定型60及び可動型61が当接することによって、溶融樹脂Jを基板3の形状に成形するための成形空間64と、当該成形空間64に溶融樹脂Jを導入するランナ62及びゲート63とを互いとの間に形成するようになっている。なお、ランナ62には、図示しないスプルーを介して射出ユニットが接続されており、当該ランナ62からゲート63を介して成形空間64に溶融樹脂Jを充填するようになっている。
【0047】
ここで、固定型60は、基板3の内側面3A(フィルム4側の面)を成形するものであり、固定側プラテン51に固定されている。なお、図7では、固定型60の中央部と外周部とが異なる部材で構成されている様子を図示しているが、単一の部材で構成されることとしても良い。
【0048】
一方、可動型61は、基板3における外側面3B(内側面3Aとは反対側の面)を成形するものであり、可動側プラテン52に固定されている。
この可動型61は、環状の外周型610と、外周型610の内部に嵌め込まれた中央型611とを有している。
【0049】
このうち、外周型610は基板3における外側面3Bの外周部と、基板3の側周面とを成形するようになっており、中央型611は外側面3Bの中央部分を成形するようになっている。以上の可動型61には、成形面から出没可能なイジェクトピン(図示せず)が設けられており、成形品を可動型61から離型させるようになっている。
【0050】
なお、以上のように固定型60や可動型61を中央型と外周型とで構成することにより、流路などの微細構造を有する中央型のみを交換することができ、型全体のコスト低減や流路構成の変更に対応させやすくなるという利点がある。
【0051】
(3−2.マイクロチップの製造方法)
続いて、マイクロチップの製造方法について説明する。
マイクロチップの製造方法は、図8に示すように、基板の製造工程(ステップS1)と、接合工程(ステップS2)と、を有している。このうち基板の製造工程(ステップS1)は、図9に示すように、注入工程(ステップS11)と、保圧工程(ステップS12)と、離型工程(ステップS13)と、アニール工程(ステップS14)と、を有している。
【0052】
(3−2−1.基板の製造方法)
まず、上記した成形型6を用い、基板3の製造を行う(基板の製造工程:図8のステップS1)。
【0053】
基板の製造工程では、まず、溶融樹脂Jをランナ62からゲート63、成形空間64に注入する(ステップS11)。
【0054】
次に、溶融樹脂Jを成形空間64内で加圧して一定時間保持(即ち、保圧)する(保圧工程(ステップS12)、処理工程)。
このとき、溶融樹脂Jに対して、下記式(1)の関係を満たす保圧力を印加する。
限界圧力+10≦保圧力(MPa)≦200・・・(1)
但し、限界圧力とは、予め設定された成形ひけ(成形収縮によって生じるへこみや窪み)が発生しない圧力(MPa)である。
例えば、限界圧力(MPa)が50MPaであれば、60MPa〜200MPaの範囲内の圧力にて保圧を行う。
これにより、基板の表面から所定の深さ(ここでは、成形物の表面から100μmとする)より深い内部領域(成形物の表面から100μmより深い部分)の密度を高く、均一にすることができる。このため、成形物の内部領域の局所歪みの発生を抑えることができ、基板3とカバー部材4との熱接合の際に基板3(成形物)に圧力と熱を均一に加えることが可能となるため、マイクロチップ2内の接合力と流路深さの均一性を確保することができる。また、マイクロチップ2内の接合力と流路深さの安定性、再現性の確保が可能となる。
【0055】
次に、成形物が所定温度まで冷却されたら、可動型61を固定型60から離間させることにより、固定型60から成形物を離型させ、さらに、可動型61からイジェクトピンを突出させることにより、可動型61からも成形物を離型させる。そして、金型のゲート部63により成形された部分を成形物からカットする(ステップS13)。
【0056】
次に、成形物を、所定の温度で所定時間アニールする(アニール工程(ステップS14)、処理工程)。
このとき、下記式(2)の関係を満たすアニール温度(AT)でアニールが行われる。
HDTm−20≦AT(℃)≦HDTm+10・・・(2)
但し、HDTmは、基材の荷重撓み温度(℃)である。
例えば、荷重たわみ温度が138℃であれば、118℃〜148℃の範囲内の温度にてアニールを行う。
これにより、基板の表面から所定の深さ(ここでは、成形物の表面から100μmとする)以内の成形物の表面領域(成形物の表面から100μm以内の部分)の密度を高く、均一にすることができる。このため、成形物の表面領域の局所歪みの発生を抑えることができ、基板3とカバー部材4との熱接合の際に基板3(成形物)に圧力と熱を加えたときに、微細流路30の形状を維持しやすくすることが可能となる。よって、マイクロチップ2内の接合力と流路深さの均一性を確保することができる。また、マイクロチップ2内の接合力と流路深さの安定性、再現性の確保が可能となる。
【0057】
なお、本実施形態においては、射出成形により成形物を製造する場合を例示しているが、成形方法はこれに限定されない。即ち、如何なる成形方法であっても、成形物(基板3)の成形後であってカバー部材4との接合前に、上記のアニール処理を行うことで、成形物の表面領域の密度を高めることが可能である。
【0058】
(3−2−2.接合方法)
次に、上記のように製造した基板3と、カバー部材4とを接合する(接合工程:図8のステップS2)。
具体的に、基板3とカバー部材4とを、熱融着によって接合する。
例えば、熱板、熱風、熱ロール、超音波、振動、又はレーザなどを用いて、基板3とカバー部材4とを所定の接合温度(Lt)℃にて加熱することで接合する。一例として、熱プレス機を用いて、加熱された熱板によって基板3とカバー部材4とを挟み、熱板によって圧力を加えて所定時間保持することで、基板3とカバー部材4とを接合する。これにより、カバー部材4が流路用溝30の蓋として機能し、流路用溝30とカバー部材4とによって微細流路20が形成されて、マイクロチップ2が製造される。なお、基板3とカバー部材4とを熱融着するためには、基板3とカバー部材4の界面さえ加熱できればよく、超音波、振動、レーザを用いれば界面のみを加熱できる可能性がある。
【0059】
ここで、基板3とカバー部材4とを接合する際の接合温度(Lt)℃は、下記式(3)の関係を満たしている。
Lt>HDTf>HDTm ・・・(3)
但し、Lt :基板とカバー部材との接合温度(℃)
HDTf:カバー部材の荷重たわみ温度(℃)
HDTm:基板の荷重たわみ温度(℃)
かかる式(3)の条件を満たすことによって、基板3とカバー部材4とを熱接合する際に、流路用溝30へカバー部材4が撓みこむのを抑制することができるようになっている。
【0060】
以上のように、本実施形態のマイクロチップの製造方法によれば、表面に流路用溝30を有する樹脂製の基板3と、流路用溝30をカバーする樹脂製のカバー部材4と、が熱接合されたマイクロチップ2の製造方法において、基板3の表面から所定の深さ(例えば、100μm)より深い内部領域の密度、又は基板3の表面から前記所定の深さ以内の表面領域の密度を均一にする処理工程を有している。
このため、基板3とカバー部材4とを熱接合する際に、圧力と熱を均一に加えることが可能となり、基板3とカバー部材4との接合力と、マイクロチップ2の流路形状の維持とを両立するマイクロチップ2を製造することができる。
【0061】
また、本実施形態のマイクロチップの製造方法によれば、処理工程は、基板3を成形する射出成形時に、溶融樹脂Jに対して、下記式(1)の関係を満たす保圧力を印加する保圧工程を有している。
限界圧力+10≦保圧力(MPa)≦200・・・(1)
但し、限界圧力:予め設定された成形ひけが発生しない圧力
このため、射出成形時に、成形空間64内の溶融樹脂Jに対して、所定の範囲内の圧力にて保圧を行うことで、基板3の表面から深さが100μmより深い内部領域の密度を高めることができる。このため、他の部位に比べて充填がされにくいような部位に局所的な歪みを生じたままで成形されることが防止されるものと推測される。
よって、基板3とカバー部材4とを熱接合する際に、局所的な歪みが開放される現象の発生が回避され、圧力と熱を均一に加えることが可能となり、基板3とカバー部材4との接合力と、マイクロチップ2の流路形状の維持とを両立するマイクロチップ2を製造することができる。
【0062】
また、本実施形態のマイクロチップの製造方法によれば、処理工程は、基板3の成形後であってカバー部材4との接合前に、下記式(2)の関係を満たすアニール温度(AT)でアニールするアニール工程を有している。
HDTm−20≦AT(℃)≦HDTm+10・・・(2)
但し、HDTm:基材の荷重撓み温度(℃)
このため、基板3の成形後であってカバー部材4との接合前に、所定の範囲内の温度にてアニールを行うことで、基板3の表面から深さが100μm以内の表面領域の密度を高めることができる。よって、基板の表面に近い部位に局所的な歪みを生じたままになることが防止されるものと推測される。
よって、基板3とカバー部材4とを熱接合する際に、局所的な歪みが開放される現象の発生が回避され、圧力と熱を均一に加えることが可能となり、基板3とカバー部材4との接合力と、マイクロチップ2の流路形状の維持とを両立するマイクロチップ2を製造することができる。
【0063】
また、本実施形態のマイクロチップの製造方法によれば、基板3とカバー部材4とを、下記式(3)の関係を満たす接合温度(Lt)℃にて接合する接合工程を有している。
Lt>HDTf>HDTm・・・(3)
但し、Lt:基板とカバー部材との接合温度(℃)
HDTf:カバー部材の荷重撓み温度(℃)
HDTm:基材の荷重撓み温度(℃)
このため、カバー部材4の荷重たわみ温度が、基板3の荷重たわみ温度より高温であり、基板3とカバー部材4との接合温度が、基板3とカバー部材4の荷重たわみ温度より高温であるため、基板3とカバー部材4とを熱接合する際に、流路用溝30にカバー部材3が撓みこむのを抑制することができる。
【0064】
また、本実施形態のマイクロチップの製造方法によれば、2種類の単量体を重合させて得られポリカーボネート樹脂を用いで基板を作製することにより、意図したような基本的物性を有する樹脂基板を比較的容易に得ることができる。
【0065】
また、本実施形態のマイクロチップの製造方法によれば、分子主鎖にカーボネート基とエステル結合とを含む重合体を用いて基板を作製することにより、使用に適した物性がより確実に付与された樹脂基板を得ることができる。
【0066】
なお、本発明を適用可能な実施形態は、上述した実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0067】
例えば、上記実施形態においては、保圧工程とアニール工程の両者を実行した場合を例示して説明したが、保圧工程とアニール工程の何れか一方を実行すれば良い。
保圧工程とアニール工程の基板3とカバー部材4が、ポリカーボネート樹脂製であることとして説明したが、基板3の荷重たわみ温度(HDTm)℃と、カバー部材4の荷重たわみ温度(HDTf)℃が、上記(A)式を満たすものであれば、その材質は限定されない。
【実施例】
【0068】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0069】
(基板の成形)
実施例及び比較例の基板として、下記の基板を成形した。
ユーピロンH−3000(三菱エンジニアリングブラスチックス製、ポリカーボネート:商品名)を用いて、樹脂温度300℃、金型温度135℃の成形条件にて、基板の成形を行った。基板のサイズは、縦40mm、横30mm、厚さ2mmであり、深さ20μm、幅50μmの流路と、流路に接続する、深さ20μm、体積40mm3の反応室用凹部とが表面に形成されている。
【0070】
[実施例1〜4]
上記のように成形した基板を、限界圧力より10MPa高い60MPaの保圧力で保圧した(実施例1)。
上記のように成形した基板を、限界圧力より50MPa高い100MPaの保圧力で保圧した(実施例2)。
上記のように成形した基板を、限界圧力より100MPa高い150MPaの保圧力で保圧した(実施例3)。
上記のように成形した基板を、限界圧力より150MPa高い200MPaの保圧力で保圧した(実施例4)。
【0071】
[実施例5〜8]
上記のように成形した基板を、限界圧力より5MPa高い55MPaの保圧力で保圧し、更に、基板の荷重撓み温度より−20℃低い118℃でアニールした(実施例5)。
上記のように成形した基板を、限界圧力より5MPa高い55MPaの保圧力で保圧し、更に、基板の荷重撓み温度より−10℃低い128℃でアニールした(実施例6)。
上記のように成形した基板を、限界圧力より5MPa高い55MPaの保圧力で保圧し、更に、基板の荷重撓み温度と等温の138℃でアニールした(実施例7)。
上記のように成形した基板を、限界圧力より5MPa高い55MPaの保圧力で保圧し、更に、基板の荷重撓み温度より10℃高い148℃でアニールした(実施例8)。
【0072】
[比較例1〜4]
上記のように成形した基板を、限界圧力より5MPa高い55MPaの保圧力で保圧した(比較例1)。
上記のように成形した基板を、限界圧力より200MPa高い250MPaの保圧力で保圧した(比較例2)。
上記のように成形した基板を、限界圧力より5MPa高い55MPaの保圧力で保圧し、更に、基板の荷重撓み温度より25℃低い113℃でアニールした(比較例3)。
上記のように成形した基板を、限界圧力より5MPa高い55MPaの保圧力で保圧し、更に、基板の荷重撓み温度より15℃高い1153℃でアニールした(比較例4)。
【0073】
上記の実施例1〜8及び比較例1〜4の基板の評価を下記の方法により行った。
【0074】
[流路状態評価]
上記の実施例1〜8及び比較例1〜4の基板に対して、流路の変形距離を測定し、下記3段階基準により、流路変形を評価した。評価結果は表1に示す。
○:流路変形が2μm未満である
△:流路変形が2μm〜5μmである
×:流路変形が5μmより多い
【0075】
(接合)
次に、上記の実施例1〜8及び比較例1〜4の基板に対して、パンライトD−92(帝人化成製、ポリカーボネート:商品名)のフィルム状のカバー部材を、接合温度165℃、接合圧力2MPaの接合条件にて、接合を行った。
【0076】
[流路深さ評価]
接合されたマイクロチップに対して、流路深さを測定し、下記3段階基準により評価した。評価結果は表1に示す。
○:流路潰れ量が5μm未満である
△:流路潰れ量が5μm〜10μmである
×:流路潰れ量が10μmより多い
【0077】
[接合力評価]
接合されたマイクロチップに対して、接合力を測定し、下記3段階基準により評価した。評価結果は表1に示す。
○:3N/cmより大きい
△:1N/cm〜3N/cmである
×:1N/cm未満である
【0078】
【表1】

【0079】
表1より、実施例2、3、6、7は、成形品(基板)及び接合品(マイクロチップ)共に、良好な結果が得られていることがわかる。
また、実施例1は、保圧力がやや低いため、接合時に一部流路潰れが発生したと考えられる。また、実施例4は、保圧力がやや高いため、基板の成形時の流路形状が変形したと考えられる。また、実施例5は、アニール温度がやや低いため、接合時に一部流路潰れが発生したと考えられる。また、実施例8は、アニール温度がやや高いため、基板の成形時の流路形状がやや変形したと考えられる。
【0080】
また、表1より、比較例1は、保圧力が低すぎ、接合時に流路が潰れが発生したと考えられる。また、比較例2は、保圧力が高すぎ、基板の成形時に流路形状が変形したと考えられる。また、比較例3は、アニール温度が低すぎ、接合時に流路潰れが発生したと考えられる。また、比較例4は、アニール温度が高すぎ、基板の成形時の流路形状が変形したと考えられる。
【0081】
ここで、図10(a)は、比較例1の成形物の複屈折を示す図であり、図10(b)は、実施例2の複屈折を示す図である。
なお、2枚の直交する偏光板の間に成形品を挟み、成形品を置いていない部分の色を黒になるように偏光板を微調整し(おおよそ90度になる)、成形品の色を観察した場合、黒一色であれば複屈折は存在しないか、存在してもごくわずかといえる。逆に黒以外の色が見える場合は複屈折が存在し、虹のように幾重にも重なって見える場合は複屈折が非常に大きいといえる。
図10(b)では、ほぼ黒色であり、複屈折が存在しないのがわかる。一方、図10(a)では、黒色以外の色が存在し、複屈折が非常に大きいことがわかる。
複屈折は、成形物に局所歪みが存在することを示す。よって、実施例2では、保圧により、成形物に局所歪みがほぼ存在しないことがわかる。
【0082】
また、図11(a)は、比較例3の成形物の複屈折を示す図であり、図11(b)は、実施例7の複屈折を示す図である。
図11(b)では、ほぼ黒色であり、複屈折が存在しないのがわかる。一方、図11(a)では、黒色以外の色が存在し、複屈折が非常に大きいことがわかる。
複屈折は、成形物に局所歪みが存在することを示す。よって、実施例7では、アニールにより、成形物に局所歪みがほぼ存在しないことがわかる。
【符号の説明】
【0083】
1 検査装置
2 マイクロチップ
3 基板
3A 内側面
3B 外側面
4 フィルム
10 トレイ
11 搬送口
12 操作部
13 表示部
14 送液部
15 加熱部
16 検出部
17 駆動制御部
18 電圧印加部
20 微細流路
21 開口部
30 流路用溝
31 貫通孔
40 通電部
80 反応室用凹部
200 検出領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に流路用溝を有する樹脂製の基板と、前記流路用溝をカバーする樹脂製のカバー部材と、が熱接合されたマイクロチップの製造方法において、
前記基板の表面から所定の深さより深い内部領域の密度、又は前記基板の表面から前記所定の深さ以内の表面領域の密度を均一にする処理工程を有することを特徴とするマイクロチップの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のマイクロチップの製造方法において、
前記処理工程は、
前記基板を成形する射出成形時に、溶融樹脂に対して、下記式(1)の関係を満たす保圧力を印加する保圧工程を有することを特徴とするマイクロチップの製造方法。
限界圧力+10≦保圧力(MPa)≦200・・・(1)
但し、限界圧力:予め設定された成形ひけが発生しない圧力
【請求項3】
請求項1に記載のマイクロチップの製造方法において、
前記処理工程は、
前記基板の成形後であって前記カバー部材との接合前に、下記式(2)の関係を満たすアニール温度(AT)でアニールするアニール工程を有することを特徴とするマイクロチップの製造方法。
HDTm−20≦AT(℃)≦HDTm+10・・・(2)
但し、HDTm:基材の荷重撓み温度(℃)
【請求項4】
請求項2又は3に記載のマイクロチップの製造方法において、
前記基板と前記カバー部材とを、下記式(3)の関係を満たす接合温度(Lt):℃にて接合する接合工程を有することを特徴とするマイクロチップの製造方法。
Lt>HDTf>HDTm・・・(3)
但し、Lt:基板とカバー部材との接合温度(℃)
HDTf:カバー部材の荷重撓み温度(℃)
HDTm:基材の荷重撓み温度(℃)
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項に記載のマイクロチップの製造方法において、
前記基板は、ポリカーボネート樹脂を含み、
前記基板に用いられるポリカーボネート樹脂は、2種類の単量体を重合させて得られるものであることを特徴とするマイクロチップの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4の何れか一項に記載のマイクロチップの製造方法において、
前記基板は、ポリカーボネート樹脂を含み、
前記基板に用いられるポリカーボネート樹脂は、分子主鎖にカーボネート基とエステル結合とを含む重合体であることを特徴とするマイクロチップの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−98074(P2012−98074A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−244059(P2010−244059)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】