説明

マイクロチップユニット及びマイクロチップユニットを用いた化合物の合成装置

【課題】すべての接液部を使い捨て可能にするマイクロチップユニット、及びこのマイクロチップユニットを用いた標識化合物の合成装置を提供する。
【解決手段】マイクロチップ1は、内部に流体の化学処理を行うマイクロ流路を有すると共に、表面にマイクロ流路に流体を導入するための供給口1a、及びマイクロ流路から排出される流体を排出するための排出口1bを有する。マイクロチップ1にはマイクロチップホルダ2−1,2−2が結合される。マイクロチップホルダ2−1,2−2にはマイクロチップ1の供給口1a及び排出口1bの少なくとも一方に接続される流路2b〜2dが形成される。マイクロチップホルダ2−1,2−2に設けられ、マイクロチップホルダ2−1,2−2の流路2b〜2dを切り替える流路切替機構9が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学物質の混合、反応、分離、検出等の化学処理を基板内部のマイクロ流路で行うマイクロチップユニット、及びこのマイクロチップユニットを用いた化合物の合成装置に関し、特にPET(positron emission tomography)システム(ポジトロン放出断層撮影法)に用いられる標識化合物の合成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野において、人体内部の状態を画像によって観察し診断する方法の一つとして、近年、陽電子を放出する物質を用いたPETシステムによる画像診断法が注目されている。PETシステムによる画像診断法は、癌診断あるいは脳機能診断に有用であることが示されている。
【0003】
PETシステムで用いる放射性薬剤としては、FDG(2-フルオロ-2-デオキシグルコース)、FLT(3’-デオキシ3’-フルオロチミジン)などのフッ素F−18で標識されたフッ素F−18標識化合物、メチオニン、ラクロプライドなどの炭素C−11で標識された炭素C−11標識化合物などが挙げられる。これらの標識化合物は、サイクロトロンを用いて製造した短半減期の放射性同位元素(フッ素F−18、炭素C−11等)を原料として、自動遠隔操作が可能な合成装置を用いて合成される。初期の合成装置は、反応容器やバルブ、配管などが固定されており、バッチ合成操作ごとに洗浄操作が必要であった。このような装置は、接液部を滅菌することができず、完全な洗浄も困難であるので、クロスコンタミネーションの問題が指摘されていた。
【0004】
PETシステムで必要とされる放射性薬剤の量はごくわずかである。このため、このような標識化合物の合成にマイクロ化学システムの適用が試みられている。マイクロ化学システムにおいては、反応操作に関して微小な反応流路内で行うことが提案されている。微小な反応流路を用いて化学反応を行う場合、マイクロチップに微小なマイクロ流路を形成し、そのマイクロ流路内で試料流体を混合して化学反応を行わせる。この場合のマイクロチップは通常、厚さ数mm程度の薄い基板に流路が形成されたものである。利点としては除熱に優れ、温度制御が容易であること、使用する試料流体や反応溶媒の量が少量ですむことなどが挙げられる。また、マイクロチップに合成プロセスを集積化することができれば、装置の小型化などの利点が得られる。
【0005】
PET用標識化合物のマイクロチップを用いた合成例は、特許文献1 特許文献2、及び非特許文献1に発表されている。しかしながら、これらの合成例は、合成の確証のための実験室レベルでの研究結果であり、実際の臨床使用のための合成装置の詳細については述べられていない。マイクロ合成を用いた合成装置は、非特許文献2に述べられている。しかしながら、これらの装置は流路の洗浄操作が必要であり、接液部すべての流路の使い捨てを可能にする装置ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2005−520827号公報
【特許文献2】特表2006−527367号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】SCIENCE VOL310 16 DECEMBER 2005
【非特許文献2】NSTI-Nanotech 2007, www.nsti.org, ISBN 1-4200-6184-4 Vol.3,2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、従来はマイクロチップを用いたすべての接液部を使い捨てにすることが可能な合成装置は実現できていない。この発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、すべての接液部を使い捨て可能にするマイクロチップユニット、及びこのマイクロチップユニットを用いた標識化合物の合成装置を実現化することを課題としている。より具体的には、FDG(2-フルオロ-2-デオキシグルコース)等のフッ素F−18標識化合物、メチオニン等の炭素C−11標識化合物の製造における新しいマイクロチップユニットを用いた合成装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、内部に流体の化学処理を行うマイクロ流路を有すると共に、表面に前記マイクロ流路に流体を導入するための供給口、及び前記マイクロ流路から排出される流体を排出するための排出口を有するマイクロチップと、前記マイクロチップに結合され、前記マイクロチップの前記供給口及び前記排出口の少なくとも一方に接続される流路を有するマイクロチップホルダと、前記マイクロチップホルダに設けられ、前記マイクロチップホルダの前記流路を切り替える流路切替機構と、を備えるマイクロチップユニットである。
【0010】
本発明の他の態様は、上記に記載のマイクロチップユニットと、流体を搬送するためのガスを供給するガス供給機構と、前記ガスを回収する排ガス回収機構と、を備え、上記マイクロチップユニットが使い捨て可能であるマイクロチップユニットを用いた化合物の合成装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、マイクロ流路、供給口及び排出口を有するマイクロチップにマイクロチップホルダを結合し、マイクロチップホルダに流路及び流路切替機構を持たせることによって、接液部すべての流路が使い捨て可能となり、マイクロチップユニットを用いたディスポーザブルキット式合成装置の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第一の実施形態の合成装置の概要平面図
【図2】上記第一の実施形態の合成装置の概要側面図
【図3】試薬供給ステーションとして機能するマイクロチップホルダの動作図(図中(A−1)は試薬供給機能を持ったマイクロチップホルダの動作図を示し、図中(A−2)はさらに分注機能を持ったマイクロチップホルダの動作図を示す)
【図4】マイクロチップホルダの流路切替機構の他の使用例を示す動作図(図中(B)は単一の流路を開閉する例を示し、図中(C)はマイクロチップの供給口と排出口を切り替える例を示し、図中(D)はマイクロチップホルダの二つの流路を切り替える例を示す)
【図5】本発明の第二の実施形態の合成装置の概略側面図
【図6】本発明の実施例1のF-18標識マイクロチップおよびマイクロチップホルダを示す平面図
【図7】本発明の実施例2のC-11標識マイクロチップおよびマイクロチップホルダを示す平面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態のマイクロチップユニット及びこのマイクロチップユニットを用いた化合物の合成装置を説明する。ただし、本発明は種々の形態で具体化することができ、本明細書に記載される実施形態に限定されるものではない。この実施形態は明細書の開示を十分にすることによって、当業者が発明の範囲を十分に理解できるようにする意図をもって提供されるものである。明細書を通して同一の構成には同一の符号を附す。
【0014】
図1は本発明の第一の実施形態の、マイクロチップユニット10が組み込まれた合成装置の平面図を示し、図2は図1の合成装置の側面図を示す。マイクロチップユニット10は使い捨てが可能になっていて、合成装置に着脱される。図2には合成装置から取り外されたマイクロチップユニット10が二点鎖線で示されている。この実施形態では、マイクロチップユニット10は、薄板状のマイクロチップ1と、マイクロチップ1の幅方向の両端部に結合される一対のマイクロチップホルダ2−1,2−2と、を備える。
【0015】
マイクロチップ1は、たとえば、ガラス、セラミックス、シリコン、あるいは樹脂製の基板からなる。マイクロチップ1に微小なマイクロ流路を形成し、そのマイクロ流路内で試料流体を混合して化学反応を行わせる。マイクロチップ1は通常、厚さ数mm程度の矩形状の薄い基板からなる。基板の内部には図示しないマイクロ流路が形成される。基板の表面にはマイクロ流路に試薬、又は試薬を搬送するためのガス等を導入するための供給口1aが形成される。また基板の表面には、マイクロ流路から排出される合成された化合物、試薬、又は試薬を搬送するためのガス等を排出するための排出口1bが形成される。
【0016】
図2に示すように、マイクロチップ1は、マイクロ流路を構成する溝が形成される基板本体1−1と、基板本体1−1に被せられ、供給口1a及び排出口1bを構成する外部接続穴が形成される薄板状の蓋体1−2と、を備える。マイクロ流路を構成する溝の幅は特に限定されるものではないが、十〜千マイクロメートルである。この溝は、例えばドリルによる加工、レーザ加工、エッチング加工などによって形成される。なお、基板本体1−1は厚さ方向にさらに、マイクロ流路を構成する溝が形成される底板、及びマイクロ流路を枠状に囲む中板に二分割されることもある。
【0017】
マイクロチップ1の端部に結合されるマイクロチップホルダ2−1,2−2は直方体形状をなす。マイクロチップホルダ2−1,2−2にはマイクロチップ1の端部が挿入される嵌合溝2aが形成される。マイクロチップホルダ2−1,2−2の嵌合溝2aの幅はマイクロチップ1の厚さと同一である。マイクロチップ1の端部を嵌合溝2aに挿入したとき、嵌合溝2aがマイクロチップ1を厚さ方向に挟む。これにより、マイクロチップホルダ2−1,2−2の嵌合溝2aの内壁面とマイクロチップ1の表面との密着性が高められる。マイクロチップホルダ2−1,2−2の内壁面とマイクロチップ1の表面との密着性が高められているので、マイクロチップホルダ2−1,2−2の流路とマイクロチップ1の供給口1a又は排出口1bとの間のシール性も高められる。
【0018】
インレット側のマイクロチップホルダ2−1は試薬供給ステーションとして機能する。このマイクロチップホルダ2−1には、試薬を貯蔵する試薬容器8を取り付ける部分2b、及びシリンジポンプ4を取り付ける部分2cが形成される。すなわち、マイクロチップホルダ2−1には、試薬容器8に接続可能な第一の流路2bが形成されると共に、シリンジポンプ4に接続可能な第二の流路2cが形成される。試薬容器8には試薬を搬送するためのガスを供給するためのガス供給機構5のチューブが接続される。シリンジポンプ4は往復アクチュエータ4aによって作動する。
【0019】
アウトレット側のマイクロチップホルダ2−2には試薬を供給するためのガスを回収する排ガス回収機構6のチューブが接続される。このマイクロチップホルダ2−2には、チューブに接続される第三の流路2dが形成される。マイクロチップホルダ2−2もマイクロチップ1を厚さ方向に挟むので、第三の流路2dとマイクロチップ1の排出口1bとの間のシール性が高められる。
【0020】
マイクロチップホルダ2−1,2−2は流路2b〜2dの途中に流路切替機構9(軸体9)を搭載しているという特徴を有している。この実施形態では、流路切替機構9はマイクロチップ1の左右に配置される。
【0021】
マイクロチップホルダ2−1,2−2の流路2b〜2dの途中には円筒状の空洞部2eが形成される。この空洞部2eには、流路切替機構を構成する回転コック等の軸体9が挿入される。軸体9には、中心線方向に伸びたり、中心線と直交する方向に伸びたりする軸体流路9aが形成される。軸体9をその中心線の回りに回転させることによって、マイクロチップホルダ2−1,2−2の流路2b〜2dが切り替わる。具体的な流路2b〜2dの切替方法については後述する。
【0022】
なお、軸体9に閉じた断面の軸体流路9aを形成する替わりに、軸体9の外周面に開いた断面の軸体流路構成溝を形成してもよい。この場合、軸体9の軸体流路構成溝とマイクロチップホルダ2−1,2−2の空洞部2eの側面との間に軸体流路が形成される。
【0023】
合成装置は、上記マイクロチップユニット10、モータ等の回転アクチュエータ3、シリンジポンプ4、試薬を搬送等するためのガスを供給するガス供給機構5、ガスを回収する排ガス回収機構6、マイクロチップ1を加熱冷却する加熱冷却機構7を備える。
【0024】
回転アクチュエータ3は軸体9の一端部にカップリング3aを介して連結される。軸体9はその中心線の回りにのみ回転し、プランジャーポンプのように中心線の方向に移動することはない。このため、回転アクチュエータ3と軸体9とのカップリングを簡単に行うことができ、迅速なマイクロチップ1およびマイクロチップホルダ2−1,2−2の交換が可能となる。回転アクチュエータに連結することで、軸体を遠隔で自動操作することができる。
【0025】
シリンジポンプ4は吸引、吐出することにより、試薬の分注、マイクロチップ1への供給を行う。ガス供給機構5は、マイクロチップに窒素やヘリウム等のガスを供給し、試薬の移送、流路のパージ等を行う。排ガス回収機構6は、施設の排ガス回収装置に接続され、排ガスを回収する。マイクロチップ1の下部には加熱冷却機構7が設けられ、マイクロチップ1の反応部の加熱・冷却を行う。
【0026】
図3(A−1)は、試薬供給ステーションとして機能するマイクロチップホルダ2−1の流路切替機構9の動作図を示す。マイクロチップ1への試薬の供給操作は、例えば、以下のように行われる。まず、図3(A−1)に示すように、試薬容器8とシリンジラインが開いた状態(すなわち、第一の流路2bと第二の流路2cとが接続された状態)で、試薬容器8内の試薬をシリンジポンプ4で吸引する。この場合、シリンジポンプ4が試薬に接するのを防止するためにシリンジポンプ4までは試薬は吸引されない。その後、軸体9を180度回転させ、第二の流路2cとマイクロチップ1の供給口1aとを接続した状態にする。シリンジポンプ4が試薬を吐出すると、試薬がマイクロチップ1に供給される。なお、シリンジポンプ4を用いなくても、あらかじめ定量された試薬を試薬容器8に貯蔵し、ガス圧等により試薬容器8から直接マイクロチップ1に供給することも可能である。
【0027】
図3(A−2)は、試薬供給ステーションとして機能するマイクロチップホルダ2−1にさらに試薬分注機能を持たせた例を示す。マイクロチップホルダ2−1には、ループ状の試薬分注用チューブ31に接続可能なチューブ入出流路2f,2gが形成される。軸体9にはチューブ入出流路2f,2gに繋がる軸体流路9bが形成される。試薬容器8とシリンジポンプ4とは試薬分注用チューブ31を介して接続されている。試薬容器8内の試薬をシリンジポンプ4で吸引するとき、試薬容器8内の試薬は試薬分注用チューブ31に流れる。軸体9を180度回転させ、シリンジポンプ4が試薬を吐出すると、マイクロチップ1に試薬が分注される。
【0028】
図4は、流路切替機構9の他の使用例を示す。図4(B)は、アウトレット側のマイクロチップホルダ2−2に組み込まれる軸体9を示す。この軸体9はその中心線の回りに回転することによって、単一の第三の流路2dを開閉する。図4(B)の左側に示す第三の流路2dを閉じた状態から、軸体9を180度回転させることによって、図4(B)の右側に示す第三の流路2dを開いた状態にすることができる。第三の流路2dを開くことで、排ガスを回収することが可能になる。
【0029】
図4(C)は、流路切替機構9のさらに他の使用例を示す。この例では、マイクロチップ1の排出口1bとマイクロチップホルダ2−2の排出流路2hとを接続した状態と、マイクロチップ1の排出口1bと供給口1aとを接続した状態とを切り替えている。まず図4(C)の左側に示すように、マイクロチップ1の排出口1bとマイクロチップホルダ2−2の排出流路2hとが接続された状態にある。軸体9を180度回転させると、マイクロチップ1の排出口1bと供給口1aとが接続された状態に切り替わる。
【0030】
図4(D)は、流路切替機構9のさらに他の使用例を示す。この例では、マイクロチップホルダ2−2に二つの排出流路2i,2jが形成され、マイクロチップ1の排出口1bに接続される流路を二つの排出流路2i,2jに切り換える。まず図4(D)の左側に示すように、マイクロチップ1の排出口1bとマイクロチップホルダ2−2右側の排出流路2jが接続された状態にある。軸体を180度回転させると、マイクロチップ1の排出口1bと左側の排出経路2iが接続された状態に切り替わる。
【0031】
以上のように、マイクロチップ1に流路切替機構9を備えるマイクロチップホルダ2−1,2−2を結合することで、接液部すべての流路の小型キット化が実現される。このため、使い捨てマイクロチップユニットを用いた化合物の合成が可能となる。
【0032】
図5は、本発明の第二の実施形態の化合物の合成装置を示す。この実施形態では、マイクロチップ1の上面にマイクロ流路に試薬を供給する供給口1aが形成され、マイクロチップ1の底面に排ガスを排出する排出口1bが形成される。マイクロチップホルダ2はマイクロチップ1の一方の端部(図5の右側の端部)にのみ設けられていて、流路切替機構9がマイクロチップ1の上下に配置される。試薬容器8、シリンジポンプ4、回転アクチュエータ3、ガス供給機構5、排ガス回収機構6の構成は第一の実施形態の合成装置と同一であるので、同一の符号を附してその説明を省略する。マイクロチップホルダ2には、試薬容器8に接続される第一の流路2b、シリンジポンプ4のチューブに接続される第二の流路2c、及び排ガス回収機構6のチューブに接続される第三の流路2dが形成される。
【実施例1】
【0033】
以下に実施例を示し、マイクロチップ11およびマイクロチップホルダ12を用いたPET用標識化合物の合成操作をさらに詳しく説明する。勿論、以下の実施例によって本発明がPET用標識化合物の合成操作に限定されることはない。
【0034】
図6は、マイクロチップ11およびマイクロチップホルダ12を用いたフッ素F-18標識反応のフローを示す。マイクロチップ11は、試薬溶液の供給口13、排出口14、樹脂の充填部15、反応部16より構成される。マイクロチップホルダ12は、分注試薬溶液供給用流路切替コック17−1〜17−4、試薬溶液供給用流路切替コック18−1〜18−2、廃棄/目的物を切り替えるための流路切替コック19−1〜19−2を備える。マイクロチップホルダ12には、シリンジポンプ20−1〜20−4が接続される。
【0035】
マイクロチップ11およびマイクロチップホルダ12を用いて、フッ素F−18標識化合物であるFDG(2-フルオロ-2-デオキシグルコース)の合成操作を行った。
【0036】
ターゲットよりバイアルに回収したフッ素F-18イオンを含むO-18濃縮水を切替コック18−1を切り替えることにより、窒素ガスにより圧送する。このときフッ素F-18イオンは樹脂充填部15にトラップされる。次に溶離液である炭酸カリウム/クリプトフィックス溶液をシリンジポンプ20−1により吸引し、切替コック17−1、切替コック19−1を切り替え、トラップされたフッ素F-18イオンを、シリンジポンプ20−1を吐出することにより溶離し、反応部16に導く。反応部16を加熱し、溶媒を留去する。次にアセトニトリルをシリンジポンプ20−2により吸引し、切替コック17−2を切り替え、シリンジポンプ20−2を吐出することにより反応部16に供給する。その後、ガスを流しながら、溶媒を留去し、蒸発乾固させる。次に前駆体であるマンノーストリフレート溶液をシリンジポンプ20−3により吸引し、切替コック17−3を切り替え、シリンジポンプ20−3を吐出することにより反応部16に供給する。100℃で3分間反応させる。その後、ガスを流しながら、溶媒を留去し、濃縮する。次に水酸化ナトリウム水溶液をシリンジポンプ20−4により吸引し、切替コック17−4を切り替え、シリンジポンプ20−4を吐出することにより反応部16に供給する。室温で1.5分間反応させる。その後、切替コック18−2,19−2を切り替え、窒素ガスにより圧送して、フッ素F-18標識FDG溶液を回収する。
【実施例2】
【0037】
以下にマイクロチップ21およびマイクロチップホルダ22を用いたC-11標識反応の合成操作の実施例を説明する。図7は、マイクロチップ21およびマイクロチップホルダ22を用いたC-11標識反応のフローを示す。マイクロチップ21は、ガスの供給口23、排出口24、樹脂の充填部25、反応部26より構成される。マイクロチップホルダ12は、分注試薬溶液供給用流路切替コック27−1〜27−4、試薬溶液およびガス供給用流路切替コック28−2〜28−2、廃棄/目的物を切り替えるための流路切替コック29−1〜29−2を備える。マイクロチップホルダ22にはシリンジポンプ30−1〜30−4が接続される。
【0038】
マイクロチップ21およびマイクロチップホルダ22を用いて、炭素C−11標識化合物であるメチオニンの合成操作を行った。あらかじめ、還元剤であるリチウム水素化アルミニウム溶液をシリンジポンプ30−1により吸引し、切替コック27−1を切り替え、シリンジポンプ30−1を吐出することにより−10℃に冷却された反応部26に導く。また、反応前駆体であるホモシステインチオラクトン溶液をシリンジポンプ30−3により吸引し、切替コック27−3を切り替え、シリンジポンプ30−3を吐出することにより樹脂充填部25に導く。
【0039】
切替コック28−1を切り替え、ターゲットより得られた炭素C-11二酸化炭素を反応部26に供給する。このとき炭素C-11二酸化炭素は、反応部26のリチウム水素化アルミニウム容液にトラップされる。次にガスを流しながら、溶媒を留去し、蒸発乾固させる。次によう化水素酸溶液をシリンジポンプ30−2により吸引し、切替コック27−2を切り替え、シリンジポンプ30−2を吐出することにより反応部26に供給する。
【0040】
反応部を100℃に加熱する。このとき切替コック29−1,29−2を切り替え、生成した炭素C-11よう化メチルを蒸留し、樹脂充填部25に導き、室温でトラップさせ、前駆体と反応させる。
【0041】
次に、酢酸溶液をシリンジポンプ30−4により吸引し、切替コック27−4を切り替え、シリンジポンプ30−4を吐出することにより樹脂充填部25に供給する。その後、切替コック28−2,29−2を切り替えて、水を窒素ガスにより圧送して、炭素C-11標識メチオニン溶液を回収する。
【符号の説明】
【0042】
1…マイクロチップ
1−1…マイクロチップ基板本体
1−2…マイクロチップ蓋体
1a…供給口
1b…排出口
2,2−1,2−2…マイクロチップホルダ
2a…嵌合溝
2b…第一の流路
2c…第二の流路
2d…第三の流路
2e…空洞部
2f,2g…チューブ入出流路
2h,2i,2j…排出流路
3…回転アクチュエータ
3a…カップリング
4…シリンジポンプ
5…ガス供給機構
6…排ガス回収機構
7…加熱冷却機構
8…試薬容器
9…流路切替機構(軸体)
9a…軸体流路
9b…軸体流路
10…マイクロチップユニット




【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に流体の化学処理を行うマイクロ流路を有すると共に、表面に前記マイクロ流路に流体を導入するための供給口、及び前記マイクロ流路から排出される流体を排出するための排出口を有するマイクロチップと、
前記マイクロチップに結合され、前記マイクロチップの前記供給口及び前記排出口の少なくとも一方に接続される流路を有するマイクロチップホルダと、
前記マイクロチップホルダに設けられ、前記マイクロチップホルダの前記流路を切り替える流路切替機構と、を備えるマイクロチップユニット。
【請求項2】
前記流路切替機構は、前記マイクロチップホルダの前記流路に接続される筒状の空洞部に収容され、軸体流路又は軸体流路構成溝が形成される軸体を備え、
前記軸体をその中心線の回りに回転させることによって、前記マイクロチップホルダの前記流路が切り替わることを特徴とする請求項1に記載のマイクロチップユニット。
【請求項3】
前記マイクロチップホルダの前記流路は、試薬を貯蔵する試薬容器に接続可能な第一の流路と、シリンジポンプに接続可能な第二の流路と、を備え、
前記流路切替機構は、前記試薬容器から前記シリンジポンプに向かって試薬が移動できるように前記第一の流路と前記第二の流路を接続する状態、及び前記シリンジポンプから前記マイクロチップの前記供給口に試薬を供給できるように前記第二の流路と前記供給口とを接続する状態に切り替えることを特徴とする請求項1又は2に記載のマイクロチップユニット。
【請求項4】
前記マイクロチップホルダに形成される前記流路はさらに、試薬分注用チューブに接続可能なチューブ入出流路を備え、
前記流路切替機構は、前記試薬容器から前記シリンジポンプに向かって移動する試薬を前記試薬分注用チューブに分注できるように前記第一の流路と前記第二の流路とを接続すると共に、前記試薬分注用チューブに分注された試薬を前記シリンジポンプから前記マイクロチップの前記供給口に供給できるように前記第二の流路と前記供給口とを接続することを特徴とする請求項3に記載のマイクロチップユニット。
【請求項5】
前記マイクロチップは、前記マイクロ流路を構成する溝が形成される基板本体と、前記基板本体に被せられ、前記供給口及び前記排出口の少なくとも一方を構成する外部接続穴が形成される蓋体と、を備え、
前記マイクロチップホルダには前記マイクロチップの端部が挿入される嵌合溝が形成され、前記マイクロチップホルダの前記嵌合溝が前記マイクロチップの端部を厚さ方向に挟むことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のマイクロチップユニット。
【請求項6】
請求項1に記載のマイクロチップユニットと、
流体を搬送するためのガスを供給するガス供給機構と、
前記ガスを回収する排ガス回収機構と、を備え、
前記マイクロチップユニットが使い捨て可能であることを特徴とするマイクロチップユニットを用いた化合物の合成装置。
【請求項7】
請求項2に記載のマイクロチップユニットと、
カップリングを介して前記流路切替機構の前記軸体をその中心線の回りに回転させる回転アクチュエータと、
流体を搬送するためのガスを供給するガス供給機構と、
前記ガスを回収する排ガス回収機構と、を備え、
前記マイクロチップユニットが使い捨て可能であることを特徴とするマイクロチップユニットを用いた化合物の合成装置。
【請求項8】
請求項3に記載のマイクロチップユニットと、
試薬を貯蔵する試薬容器と、
試薬を前記マイクロチップの前記マイクロ流路に供給するためのシリンジポンプと、
試薬を搬送するためのガスを供給するガス供給機構と、
前記ガスを回収する排ガス回収機構と、を備え、
前記マイクロチップユニットが使い捨て可能であることを特徴とするマイクロチップユニットを用いた化合物の合成装置。
【請求項9】
前記合成装置は、PET(positron emission tomography)用の標識化合物を合成することを特徴とする請求項6ないし8のいずれかに記載のマイクロチップユニットを用いた化合物の合成装置。







【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−229968(P2012−229968A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−97846(P2011−97846)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(511104657)JFEテクノス株式会社 (2)
【Fターム(参考)】