説明

マイクロチップ及び試料分析方法

【課題】分離された試料を質量分析するに当たり、マイクロチップの分離分解能を損なうことなく、高感度に質量分析可能なマイクロチップ構造及び試料分析方法を提供する。
【解決手段】マイクロチップの流路102脇に試料回収部103を設け、マイクロチップによる試料108の分離後、一旦試料回収部103に分離結果を移すことで、分離状態を破壊する溶液を滴下する工程を経ても、互いの成分が相互混入すること無くなるため、マイクロチップの分解能を損なうことなく、高感度な質量分析が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロチップ及びマイクロチップ上で処理された試料の質量分析計を用いた分析方法に関し、特に、高い空間分解能と感度を有し、マイクロチップ上の試料を質量分析可能なマイクロチップ構造及び試料分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロエレクトロメカニカルシステム(MEMS)技術の発展により、バイオチップやケミカルチップ、マイクロ流体チップの研究開発が盛んに行われている。このようなチップ技術と質量分析計を結合し、分子量情報も加えることで、更に精密な分析を実現する試みも行われている。
【0003】
特許文献1は、試料分離を行うマイクロ流体チップとMALDI(matrix-assisted laser desorption ionization)型質量分析計を結合した例である。このマイクロチップの構造を図8に示す。ガラス基板101上に十字型の溝が形成され流路102として利用される。流路の長手部分の一部に分離構造領域105が形成される。(b)は(a)において波線で示した領域の拡大図であり、(c)は(b)におけるA-A’線での断面図である。この場合、分離構造領域105は、円柱状の分離構造体106の集合体からなる。
【0004】
図9に分離構造領域105の作用を示す。試料として分子サイズの異なる2種のDNA(DeoxyriboNucleic Acid)分子を考える。DNA分子は水溶液中で負に帯電しているため、分離構造領域の右側にプラス、左側にマイナスの電圧を印加すると、右方向に向かって泳動する。分離構造領域105内を泳動中する際、DNA分子は分離構造体106に衝突し、泳動速度が低下する。分子サイズの大きいDNAの方が、高い衝突確率を有し移動度が小さいため、分子サイズによる速度差が生じる。この効果を利用することで、DNA分子のサイズ分離を行うことができる。
【0005】
図10は、DNA分子のサイズ分離を行う処理の流れを示す。まず、図10(a)に示すように、流路102にTris等の緩衝液を導入する。次に、図10(b)に示すように、短手方向の流路102の一端に試料108を導入し、流路短手間への電圧印加により、流路短手内へ試料108を導入する。次に、図10(c)に示すように、流路長手間への電圧印加により、短手−長手交差部の試料を、流路長手内へ導入する。流路長手内には、分離構造領域105が設けられており、試料108が本領域に達すると、分子サイズに応じた分離作用を受ける。試料108が2種の成分(2種のサイズのDNA分子)の混合物であれば、図10(d)に示すように、分子量の大きなDNA分子(成分1)109と、小さなDNA分子(成分2)110に分離される。
【0006】
長手流路上で分離されたDNA分子を、MALDI型質量分析計を用いて検出するためには、高分子のイオン化を補助するため、イオン化促進剤を添加し、イオン化促進剤−分子混晶を形成する必要がある。イオン化促進剤は液体であり、その添加には、スプレー法、インクジェット法、ディスペンシング法等、いくつかの方法が考えられる。
【0007】
上記のイオン化促進剤添加前に、処理を加えることも考えられる。例えば、DNAの内部配列情報を得るために、制限酵素溶液の添加により所望の配列箇所でのDNAの断片化を行い、この後にイオン化促進剤を添加することも考えられる。
【0008】
イオン化促進剤−分子混晶が形成された後は、紫外線レーザーを流路102上所望の場所に照射することで、質量スペクトルを得る。上記の場合は、試料は流路102内で分子サイズに応じて分離されているため、分子サイズをパラメータとした質量スペクトルを得ることができる。
【特許文献1】特願2003−069793
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1に開示されたマイクロチップには問題がある。これについて図を用いて説明する。図11は、流路102上の分離構造領域105にイオン化促進剤を添加した後の試料の流路内分布を、模式的に表している。イオン化促進剤は溶液状態であり、これが流路102上の試料108と十分混合するためには数秒〜数分の時間を要する。このため、イオン化促進剤が乾燥するまでの間、試料108の拡散やイオン化促進剤の移動が起こり、図11に示すように、試料108の分離状態が拡散してしまう。試料分離後に制限酵素処理を行う場合も、同様に分離状態の拡散が起こる。
【0010】
分離状態が拡散することにより、主に2つの問題が発生する。1つ目は、分離情報の喪失である。説明の便宜のために、図11では2成分を含む試料について示したが、実際には数10〜数1000種類の成分が含まれる。従って、分離状態の拡散が起こると、互いの成分が混じり合い分離情報が失われる問題が生じる。2つ目は、イオン化効率の低下である。レーザー照射によるイオン化の際、1つのレーザースポット内に複数の成分が存在すると、レーザーエネルギーが多数成分の間に分配された結果、一成分あたりの信号量が減少してしまう。
【0011】
本発明はこのような実情を鑑みてなされたものであり、分離された試料を質量分析するに当たり、高空間分解能と高感度を実現するマイクロチップ及び試料分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のマイクロチップは、単一又は複数の部材からなり、その上に流路が形成されるマイクロチップであって、流路から距離を置くと共に、流路に沿って試料回収部が形成され、試料回収部は、互いに接続されていないことを特徴とする。
【0013】
本発明のマイクロチップは、試料回収部は、凹部から形成されることを特徴とする。
【0014】
本発明のマイクロチップは、試料回収部は、凸部に囲まれることにより形成されることを特徴とする。
【0015】
本発明のマイクロチップは、試料回収部は、底面が親水性であることを特徴とする。
【0016】
本発明のマイクロチップは、試料回収部は、側面が親水性であることを特徴とする。
【0017】
本発明のマイクロチップは、試料回収部は、側面が疎水性であることを特徴とする。
【0018】
本発明のマイクロチップは、流路及び試料回収部以外の領域が疎水性であることを特徴とする。
【0019】
本発明のマイクロチップは、試料回収部の凹部底面は、前記流路底面よりも低いことを特徴とする。
【0020】
本発明の試料分析方法は、上記マイクロチップを用いる試料分析方法であって、流路に溶液を滴下する工程と、溶液の滴下時の流れにより、流路上に存在する試料を試料回収部内部へ導く工程と、イオン化促進剤を添加する工程と、を備え、前記試料の質量分析を行うことを特徴とする。
【0021】
本発明の試料分析方法は、上記マイクロチップを用いる試料分析方法であって、流路に溶液を滴下する工程と、溶液の滴下時の流れにより、流路上に存在する試料を試料回収部内部へ導く工程と、酵素処理により試料の断片化を行う工程と、イオン化促進剤を添加する工程と、を備え、試料の質量分析を行うことを特徴とする。
【0022】
本発明の試料分析方法は、上記マイクロチップを用いる試料分析方法であって、流路にイオン化促進剤を滴下する工程と、イオン化促進剤の滴下時の流れにより、流路上に存在する試料とイオン化促進剤の一部を試料回収部内部へ導く工程と、イオン化促進剤乾燥後に試料回収内部へレーザーを照射することで試料のイオン化を行う工程と、を備え、質量分析計にて分析を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、マイクロチップ上の流路102内で分離された試料を一旦試料回収領域103に移動させ、各成分間のミキシングを防ぐことにより、質量分析時の高空間分解能と高感度を実現することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に本発明の実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0025】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態に係るマイクロチップの構成例を示す。本発明の実施の形態について、図1を用いて詳細に説明する。図示するように、ガラス基盤101上に溝が形成され、流路102が構成される。流路102の一部には分離構造領域105が存在し、分離構造領域105の近接した領域に試料回収部103が存在する。試料回収部103は、互いに離れた複数の凹部104から構成される。図1(b)に示すように、分離構造領域105は、複数の分離構造体106より構成されている。
【0026】
流路102へのTris緩衝液の添加の様子を図2に示す。ここでは、Tris緩衝液添加の方法として、ディスペンサーを用いている。ディスペンサーは、圧力により、細い針状構造体の先から液体を吐出する装置であり、接着剤の塗布等で広く用いられている装置である。図2では、針状構造体を溶液吐出部107として図示している。溶液吐出部107からTris緩衝液を吐出することにより、流路102上に存在する試料はTris緩衝液の流れに乗って四方に搬送される(図2(a)参照)。その中で、試料回収部103方向に移動したTris緩衝液と試料は、凹部104に導入される。図2(b)は、図2(a)のB-B’線断面を示す図であるが、凹部104に導入される様子を模式的に示している。尚、Tris緩衝液と試料を円滑に導入するために、凹部104の底面は親水性にしてもよい。
【0027】
本実施形態のマイクロチップを用いて、図10と同様の電気泳動分離を行った後の、試料分布を図3(a)に示す。電気泳動分離を行った後、ディスペンサーにより、流路102上にTris緩衝液を添加した後の試料の分布を図3(b)に模式的に示す。Tris緩衝液(イオン化促進剤)が乾燥する間、Tris緩衝液自身の移動とTris緩衝液内部での成分の拡散により、流路102における成分1 109及び成分2 110の分布は大きく広がってしまうが、Tris緩衝液の吐出時に凹部104へ導入されたものは、凹部104間で移動や拡散が起きないため、その広がりは押さえられる。この後、ディスペンサーにより、各凹部104へイオン化促進剤を添加することで、試料の拡散を押さえながら、イオン化促進剤−試料の混晶を形成することが可能となる。
【0028】
(製法の説明)
次に、本発明の実施形態に係るマイクロチップの製造方法について説明する。初めに、厚さ0.5mm程度のガラス基板101に電子線描画用レジストを塗布し、電子線描画装置を用いて電子線照射を行い、現像の後、レジストパターンを得る。この場合、流路幅として0.1〜5mm、長手方向の流路長として10〜100mmであり、短手方向の流路長として長手方向の流路長の数分の1とする。また、分離構造106として、円柱の直径を50〜1000nm、最近接の円柱間距離を50〜1000nm程度とする。長手方向の流路102と凹部104間の距離としては、数ミクロン〜数10ミクロンが適当である。また、長手方向及びこれと垂直方向の凹部104の長さは、共に数ミクロンから数百ミクロンである。凹部104間距離としては、数ミクロン〜数10ミクロンが適当である。次に、レジストをマスクとして、CF4ガス等による反応性イオンエッチングによりガラス基板101表面に50〜10μmの深さの溝を形成し、アッシング処理によりレジストを剥離する。
【0029】
適当な凹部104間の距離、長手方向及び短手方向等について上述したが、これらは全て上述した値に限定するわけではなく、適宜変更することが可能である。また、試料回収部103の長さは限定されず、例えば分離構造領域105を10分割するような長さでもよい。また、分離構造領域105を細かく分割するように、1つ1つの試料回収部103(凹部104)の長さを短くすれば、より正確に分離情報を保存することが可能である。
【0030】
本実施形態により、マイクロチップ上の流路102内で分離された試料108を一旦試料回収領域103に移動させ、各成分間のミキシングを防ぐことにより、質量分析時の高空間分解能と高感度を実現することが可能となる。具体的には、分離作用を受けた流路102上の試料108は、試料回収部103内の凹部104へ導入されるため、試料108が乾燥するまでに時間を要しても、合い異なる凹部104内に存在する試料間で混合が起こらないためである。
【0031】
また、凹部104の底面を親水性とすることで、Tris緩衝液を円滑に導入することが可能となり、すなわち試料108も凹部104に円滑に導入することが可能となる。
【0032】
(実施形態2)
図4は、本発明の実施形態に係るマイクロチップの構成例を示す。本実施形態では、上述した実施形態1とは別のマイクロチップの構成例について、図4を用いて詳細に説明する。上述した実施形態1との違いは、図4に示すように、流路102及び凹部104以外の領域が、疎水性膜113で覆われていることである。
【0033】
(製法の説明)
図4に示すマイクロチップ作製のためには、上述した実施形態1のマイクロチップ製造方法において、電子線描画用レジスト塗布前に、酸素プラズマ処理、疎水性膜塗布、ベークの工程を加えればよい。
【0034】
本実施形態により、流路102及び凹部104以外の領域が、疎水性膜103で覆われていて、疎水性膜は水溶液を弾くため、流路102から凹部104へ試料を移動させる際、上述した実施形態1よりも、流路102−凹部104間に試料が残りにくくすることが可能となる。
【0035】
(実施形態3)
図5は、本発明の実施形態に係るマイクロチップの構成例を示す。本実施形態では、上述した実施形態1とは別のマイクロチップの構成例について、図5を用いて詳細に説明する。上述した実施形態1との違いは、図5に示すように、凹部104の深さが流路102の深さよりも深いことである。
【0036】
(製法の説明)
図5に示すマイクロチップを作製するためには、上述した実施形態1のマイクロチップ製造方法において、流路102と凹部104の同時形成をやめればよい。即ち、それぞれ単独に電子線リソグラフィーと反応性イオンエッチングを行うことで、流路102と凹部104の深さを自由に変更することが可能である。
【0037】
本実施形態により、上述した実施形態1よりも、凹部104において、単位面積当たりの試料量を増やすことができ、質量分析時のシグナル共同を向上することが可能となる。
【0038】
(実施形態4)
図6は、本発明の実施形態に係るマイクロチップの構成例を示す。本実施形態では、上述した実施形態1とは別のマイクロチップの構成例について、図6を用いて詳細に説明する。上述した実施形態1との違いは、図6に示すように、試料回収部103の形状が、深くなるにつれ断面積が小さくなる形状であるということである。
【0039】
本実施形態により、試料回収部103の形状は、深くなるにつれ断面積が小さくなる形状であるため、試料の乾燥に伴って試料が試料回収部103の底面に集まるため、試料の濃縮効率を高くすることが可能となる。
【0040】
(実施形態5)
図7は、本発明の実施形態に係るマイクロチップの構成例を示す。本実施形態では、上述した実施形態1とは別のマイクロチップの構成例について、図7を用いて詳細に説明する。上述した実施形態1との違いは、図7に示すように、試料回収部103の形状が、深くなるにつれ断面積が小さくなる形状であるということに加え、試料回収部103の側面が疎水性になっているということである。
【0041】
本実施形態により、試料回収部103の側面が疎水性であるため、試料回収部103側面への試料の付着を減少させ、より多くの資料を底面に回収することができるため、試料の濃縮効率を高くすることが可能となる。
【0042】
(実施形態6)
本実施形態では、試料分離後に制限酵素処理を行う場合の処理の例について説明する。上述した実施形態1との違いは、凹部104に試料を回収した後、ディスペンサーで制限酵素を添加し、DNA分子の断片化を行うことである。制限酵素としてEcoRIを用いて、37℃で1時間程度インキュベートし、その後、ディスペンサーでDHBA(イオン化促進剤)を凹部104に添加し、質量分析を行うことで、断片化されたDNAの信号を検出することができる。また、使用するマイクロチップとしては、上記実施形態のマイクロチップの何れでも適用することが可能である。
【0043】
尚、本実施形態では制限酵素としてEcoRIを例にあげて説明したが、制限酵素は断片化を所望する配列箇所により適宜選択することが可能である。また、制限酵素の種類によりインキュベートに適する温度及び時間が異なるので、使用する制限酵素に適した方法を適宜選択する必要がある。
【0044】
本実施形態により、制限酵素溶液の添加により所望の配列箇所でのDNAの断片化を行い、断片化されたDNAにより、DNAの内部配列情報を得ることが可能となる。
【0045】
(実施形態7)
本実施形態では、凹部104への試料の移動にイオン化促進剤を用いる場合の処理の例について説明する。上述した実施形態1との違いは、Tris緩衝液の代わりにイオン化促進剤を用いて、凹部104への試料の移動を行う点である。ディスペンサーでDHBAを流路102に添加することで、流路102上の試料108を凹部104内に導入する。流路102内にレーザー照射することで、DNA由来の信号を得ることができる。また、使用するマイクロチップとしては、上記実施形態のマイクロチップの何れでも適用することが可能である。
【0046】
本実施形態により、凹部104への試料の移動にTris緩衝液ではなく、直接イオン化促進剤を用いることで、ディスペンサーを用いる回数を減らすことが可能となり、操作性を向上することが可能となる。
【実施例】
【0047】
(実施例1)
上述した実施形態1の製法にてマイクロチップを作製した。長手方向、短手方向の流路長として、それぞれ40mm及び20mmであり、幅及び深さは、それぞれ1mm、0.4ミクロンである。また、長手部一端から10mmの距離で、長手部と短手部が交差しており、本交差点から1mmのオフセットを持って、長さ25mmの分離構造領域105が形成された。分離構造領域105は図1(b)に示すような円柱型の分離構造106のアレイ配列からなっており、円柱の直径は200nm、最近接の円柱の間隔は100nmであった。また、凹部104と流路102との間隔は0.5mm、流路102長手方向、およびそれと垂直方向の凹部104の長さは共に0.4mmであり、隣接した凹部104間の距離は0.1mmであった。
【0048】
試料108としては、蛍光体(YOYO-1)でラベルされた2種のDNA(配列長1kbpと10kbp)をTris緩衝液に溶解した物を用いた。図10で示した処理の手順に従い、試料108の電気泳動を行った。長手方向の流路102端に白金電極を挿入し、200Vの電圧を印加することで、DNAの電気泳動を行った。5分間の電気泳動後、試料を乾燥させ、マイクロチップに紫外線を照射した。流路交差点から、10.3mmの位置に1.5mm幅の10kbp DNAによる蛍光領域、19.5mmの位置に1.6mm幅の1kbp DNAによる蛍光領域を観測した。この後、ディスペンサーにてTris緩衝液を滴下しながら、その適下位置を分離構造領域105に沿って移動させた。Tris緩衝液の乾燥後(5分後)、再び紫外線を照射し、蛍光にて分離パターンの確認を行った。流路102内における1kbp及び10kbp DNAの分布が大きく広がった結果、蛍光分布が1つになってしまっていることが分かった。
【0049】
一方で、1kbp及び10kbpの分離位置に隣接した凹部104は、それぞれ5個、6個分が蛍光しており、これらの蛍光を発している凹部104の間の、12個分の凹部104は蛍光を発しておらず、流路102内と異なり、凹部104においては、相異なる2成分のミキシングが起きていないことが分かった。
【0050】
(実施例2)
上述した実施形態2の製法にてマイクロチップを作成した。すなわち、上述した実施形態1のマイクロチップとは異なり、流路102及び凹部104以外の領域に疎水性膜113を設けた。このことにより、チップ表面への試料残りをほぼ完全になくすことができた。
【0051】
(実施例3)
上述した実施形態3の製法にてマイクロチップを作成した。すなわち、上述した実施形態1のマイクロチップと異なり、流路102の深さよりも深い、1ミクロンの深さの凹部104を形成した。Tris緩衝液により凹部104に導かれたDNAに対し、ディスペンサーによりイオン化促進剤としてDHBAを添加することで、流路102と同じ深さ(0.4ミクロン)の場合に比べ、1kbp、10kbpの分子共々約3倍の信号強度を得た。
【0052】
以上本発明の実施形態について説明したが、いずれも分離構造106の集合体からなる分離構造領域105を有した十字型流路を用いている。また、分離構造領域105では、分子の大きさにより分離が行われる。しかし、本発明は、上記の形態を有するマイクロチップや、分子の大きさを元にした分離方法に限定されるものではない。また、対象分子としてDNAに限定されることもない。
【0053】
例えば、マイクロチップ上で等電点分離を行うことは可能であり、この場合、十字型ではなく一直線型の流路を用いることができる。試料と共に良性担体を流路に導入し、流路両端に酸とアルカリの試薬を導入し、電圧を印加することで、タンパク質をその等電点に応じ、空間的に分離することができる。この場合、上記実施形態で用いた分離構造106は不要となる。
【0054】
尚、上述した実施形態では、マイクロチップの基本材料として、ガラスを用いたが、シリコン酸化膜被服付きのシリコン基板や、プラスチック等の材料も利用可能である。
【0055】
尚、上述した実施形態では、試料回収部103として凹部104を用いて説明したが、試料回収部103は、凹部104に限定されるものではなく、凹んでいる形状でいなくても適用することが可能である。また、本発明では、試料回収部103の形状が、凸部に囲まれることにより形成される形状であることにも限定することはしない。
【0056】
以上好適な実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上述したマイクロチップ及び試料分析方法に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であるということは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明のマイクロチップの実施の形態の例を示す上面図(a)、(a)における破線領域拡大図(b)、(b)におけるB-B’線断面図(c)、(b)におけるA-A’線断面図(d)である。
【図2】本発明の実施形態に係るマイクロチップのへの溶液吐出の例を示す上面図(a)、(a)におけるB-B’線断面図(b)である。
【図3】本発明の実施形態に係るマイクロチップにおいて、Tris緩衝液を滴下する前(a)と後(b)の、成分1及び成分2の分布模式の例を示す図である。
【図4】本発明のマイクロチップの実施の形態の例を示す上面図(a)、(a)におけるB-B’線断面図(b)、(a)におけるA-A’線断面図(c)である。
【図5】本発明のマイクロチップの実施の形態の例を示す上面図(a)、(a)におけるB-B’線断面図(b)、(a)におけるA-A’線断面図(c)である。
【図6】本発明のマイクロチップの実施の形態の例を示す上面図(a)、(a)におけるB-B’線断面図(b)、(a)におけるA-A’線断面図(c)である。
【図7】本発明のマイクロチップの実施の形態の例を示す上面図(a)、(a)におけるB-B’線断面図(b)、(a)におけるA-A’線断面図(c)である。
【図8】従来のマイクロチップの上面図(a)、(a)における破線領域拡大図(b)、(b)におけるA-A’線断面図(c)である。
【図9】従来のマイクロチップにおける分離構造領域中における電気泳動速度の分子サイズ依存性を示す図である。
【図10】従来のマイクロチップにおける電気泳動のステップを示す図であり、バッファ液導入(a)、短手流路への試料導入(b)、電気泳動開始(c)、電気泳動終了(d)を示す。
【図11】図10(d)において、流路上にイオン化促進剤を添加した後の、試料分布の模式図である。
【符号の説明】
【0058】
101 ガラス基板
102 流路
103 試料回収部
104 凹部
105 分離構造領域
106 分離構造
107 溶液吐出部
108 試料
109 成分1
110 成分2
111 大分子
112 小分子
113 疎水膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一又は複数の部材からなり、その上に流路が形成されるマイクロチップであって、
前記流路から距離を置くと共に、前記流路に沿って試料回収部が形成され、
該試料回収部は、互いに接続されていないことを特徴とするマイクロチップ。
【請求項2】
前記試料回収部は、凹部から形成されることを特徴とする請求項1記載のマイクロチップ。
【請求項3】
前記試料回収部は、凸部に囲まれることにより形成されることを特徴とする請求項1記載のマイクロチップ。
【請求項4】
前記試料回収部は、底面が親水性であることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載のマイクロチップ。
【請求項5】
前記試料回収部は、側面が親水性であることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載のマイクロチップ。
【請求項6】
前記試料回収部は、側面が疎水性であることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載のマイクロチップ。
【請求項7】
前記流路及び試料回収部以外の領域が疎水性であることを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載のマイクロチップ。
【請求項8】
前記試料回収部は、底面が前記流路底面よりも低いことを特徴とする請求項1から7の何れか1項に記載のマイクロチップ。
【請求項9】
請求項1から8の何れか1項に記載のマイクロチップを用いる試料分析方法であって、
前記流路に溶液を滴下する工程と、
該溶液の滴下時の流れにより、前記流路上に存在する試料を試料回収部内部へ導く工程と、
イオン化促進剤を添加する工程と、を備え、前記試料の質量分析を行うことを特徴とする試料分析方法。
【請求項10】
請求項1から8の何れか1項に記載のマイクロチップを用いる試料分析方法であって、
前記流路に溶液を滴下する工程と、
該溶液の滴下時の流れにより、前記流路上に存在する試料を試料回収部内部へ導く工程と、
酵素処理により試料の断片化を行う工程と、
イオン化促進剤を添加する工程と、を備え、試料の質量分析を行うことを特徴とする試料分析方法。
【請求項11】
請求項1から8の何れか1項に記載のマイクロチップを用いる試料分析方法であって、
前記流路にイオン化促進剤を滴下する工程と、
該イオン化促進剤の滴下時の流れにより、前記流路上に存在する試料とイオン化促進剤の一部を試料回収部内部へ導く工程と、
イオン化促進剤乾燥後に該試料回収内部へレーザーを照射することで試料のイオン化を行う工程と、を備え、質量分析計にて分析を行うことを特徴とする試料分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−244182(P2009−244182A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−92900(P2008−92900)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】