マイクロチップ電気泳動方法及び装置
【課題】試料を分注する前の試料供給用リザーバの状態の再現性を向上させて電気泳動分析の結果の再現性を向上させる。
【解決手段】流路に分離バッファ液を充填した後、リザーバ53−4に吸引ノズル22−4が挿入され、そのリザーバ53−4の分離バッファ液が吸引されて除去される。これにより流路内にのみ分離バッファ液が残る状態となる。分注ノズル8により試料供給用リザーバ53−1に洗浄液が供給される。試料供給用リザーバ53−1に吸引ノズル22−1が挿入され、洗浄液が吸引されて除去される。そのリザーバ53−1に分注プローブ8から試料が注入される。
【解決手段】流路に分離バッファ液を充填した後、リザーバ53−4に吸引ノズル22−4が挿入され、そのリザーバ53−4の分離バッファ液が吸引されて除去される。これにより流路内にのみ分離バッファ液が残る状態となる。分注ノズル8により試料供給用リザーバ53−1に洗浄液が供給される。試料供給用リザーバ53−1に吸引ノズル22−1が挿入され、洗浄液が吸引されて除去される。そのリザーバ53−1に分注プローブ8から試料が注入される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマイクロチップ電気泳動方法及びそのマイクロチップ電気泳動方法を実行するためのマイクロチップ電気泳動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マイクロチップ電気泳動では、分離用主流路の一端側に導入されたDNA、RNA又はタンパク質などの試料をその流路の両端間に印加した電圧によりその流路の他端方向に電気泳動させることにより分離させて検出する。
マイクロチップ電気泳動において、1つの電気泳動流路を有する単一のマイクロチップを繰り返し使用して、バッファ液の充填、試料分注、電気泳動及び分離された試料成分の検出を自動で行なう装置が開発されている(特許文献1参照。)。
【0003】
分析の稼働率を上げるために、複数の流路を備えた電気泳動装置も提案されている。その1つの装置は、12個の流路を備え、分離バッファ液の充填と試料分注を手動で行なった後、12個の流路から順次電気泳動を起こさせて分離してデータを得ている(非特許文献1参照。)。
他の装置ではキャピラリによる12個の流路を備え、分離バッファ液の充填、試料分注、電気泳動分離及びデータ取得を自動で行なうようになっている(非特許文献2参照。)。微量液体クロマトグラフィでは、マイクロチップは主流路として分離用カラムを含む送液流路を備えており、分離用カラムの一端側に導入された試料をその分離用カラムの他端方向に移動させることにより分離させて分析する(非特許文献3参照。)。
【0004】
マイクロチップは流路の各端部に表面に開口したリザーバをもったものを使用し、マイクロチップ処理装置に装着するときはリザーバが上面にくるようにマイクロチップを保持する。流路への分離バッファ液の充填は、分離バッファ液充填装置により1つのリザーバに分離バッファ液を供給し、そのリザーバ上に空気供給口を押し付けて空気を供給することにより分離バッファ液を流路に押し込むことにより行なう。流路に分離バッファ液を充填した後、他のリザーバから溢れた分離バッファ液を吸引ノズルで吸引する。その後、試料供給用のリザーバに試料を分注する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−246721号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「ぶんせき」誌、No.5,267−270頁(2002年)
【非特許文献2】Electrophoresis 2003, 24, 93-95
【非特許文献3】Anal. Chem., 70, 3790 (1998)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
マイクロチップの流路に分離バッファ液を充填した後、試料を試料供給用リザーバに分注する前に試料供給用リザーバの分離バッファ液を吸引ノズルで吸引するが、この吸引ノズルによる吸引動作では試料供給用リザーバの分離バッファ液が完全には除去されていないことがわかった。そして、その除去状況は分析操作ごとに変動し、分離バッファ液の吸引動作後の試料供給用リザーバの状態の再現性が悪く、その影響を受けて電気泳動分析の結果が変動するという問題があることがわかった。
【0008】
そこで本発明は、試料を分注する前の試料供給用リザーバの状態の再現性を向上させて電気泳動分析の結果の再現性を向上させることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかる第1のマイクロチップ電気泳動方法は、板状部材の内部に分離流路を少なくとも含む流路を備え、それらの流路の端部に開口したリザーバが設けられたマイクロチップを用い、以下の工程をその順に行なって試料を分注した後に電気泳動を行なうことを特徴とするものである。
(1)マイクロチップの所定のリザーバにバッファ液を分注するバッファ液分注工程、
(2)バッファ液分注工程で分注された分離バッファ液を流路に充填するバッファ液充填工程、
(3)試料供給用のリザーバ内の分離バッファ液を前記吸引ノズルにより吸引して除去するバッファ液除去工程、
(4)分注プローブにより試料供給用リザーバに洗浄用の液を分注した後、吸引ノズルによりその液を吸引する洗浄工程、及び、
(5)試料供給用リザーバに試料を分注する試料分注工程。
【0010】
上記第1のマイクロチップ電気泳動方法では、バッファ液充填工程(2)とバッファ液除去工程(3)の間で、全リザーバの分離バッファ液を吸引して除去した後、全リザーバに所定量の分離バッファ液を分注するバッファ液再分注工程(2A)も行なうようにしてもよい。そうすれば、試料分注前に電気泳動分析のテストを行なうことも可能になる。
【0011】
なお、洗浄工程(4)を複数回繰返すようにしてもよい。そうすれば、試料供給用リザーバに残存する分離バッファ液の除去精度が向上する。
【0012】
洗浄工程(4)で用いる洗浄用の液の一例は純水である。
【0013】
本発明にかかる第2のマイクロチップ電気泳動方法は、以下の工程を行なって試料を分注した後に電気泳動を行なうことを特徴とする。
(1)マイクロチップの所定のリザーバにバッファ液を分注するバッファ液分注工程、
(2)バッファ液分注工程で分注された分離バッファ液を流路に充填するバッファ液充填工程、
(3)試料供給用のリザーバ内の互いに異なる複数の位置に吸引用のノズルを順次移動させて各位置において一定時間バッファ液の吸引を行なうことにより試料供給用リザーバ内のバッファ液を除去するバッファ液除去工程、及び
(4)試料供給用リザーバに試料を分注する試料分注工程。
【0014】
この第2のマイクロチップ電気泳動方法においても、バッファ液充填工程(2)とバッファ液除去工程(3)の間で、全リザーバの分離バッファ液を吸引して除去した後、全リザーバに所定量の分離バッファ液を分注するバッファ液再分注工程(2A)も行なうようにしてもよい。
【0015】
さらに、第2のマイクロチップ電気泳動方法において、バッファ液除去工程(3)と試料分注工程(4)の間で、第1のマイクロチップ電気泳動方法と同様の洗浄工程(3A)を行なうようにしてもよい。
【0016】
本発明にかかる電気泳動装置は、板状部材の内部に分離流路を少なくとも含む流路を備え、それらの流路の端部に開口したリザーバが設けられたマイクロチップを、リザーバが上面にくるように保持するチップ保持部と、マイクロチップの流路に分離バッファ液を充填するバッファ液充填機構と、液を吸入しマイクロチップの所定のリザーバに注入するための分注プローブと、分注プローブを分注すべき液の吸入位置とマイクロチップ上の分注位置との間で移動させるプローブ移動機構と、リザーバ内の液を吸引するための吸引ノズルと、を少なくとも備えたものであって、バッファ液充填機構、分注プローブ、プローブ移動機構及び吸引ノズルの動作を制御して本発明にかかる第1又は第2のマイクロチップ電気泳動方法を実行するように構成された制御部を備えているものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の第1のマイクロチップ電気泳動方法によれば、試料供給用リザーバ内に試料を分注する前において、該リザーバ内の分離バッファ液の吸引を行なった後、さらに試料供給用リザーバ内を洗浄液によって洗浄するので、試料分注前の試料供給用リザーバへの分離バッファ液の残存を防止することができ、試料供給用リザーバの状態の再現性が向上して電気泳動分析の精度が向上する。
【0018】
第2のマイクロチップ電気泳動方法では、試料供給用リザーバ内に試料を分注する前の該リザーバ内の分離バッファ液の吸引において、該リザーバ内の異なる複数の位置に吸引用のノズルを順次移動させて各位置において一定時間バッファ液の吸引を行なうようにしているので、吸引動作を1回だけ行なう場合よりも分離バッファ液の吸引精度が向上し、試料供給用リザーバの状態の再現性が向上する。
【0019】
本発明のマイクロチップ電気泳動装置では、上記のマイクロチップ電気泳動方法を実行する制御部を備えているので、再現性の良い電気泳動分析を実施することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】一実施例のマイクロチップ電気泳動装置における制御部に関する部分を概略的に示すブロック図である。
【図2】同実施例のマイクロチップ電気泳動装置の要部を概略的に示す斜視図である。
【図3】マイクロチップの一例を示す図であり、(A)と(B)はマイクロチップを構成する透明板状部材を示す平面図、(C)はマイクロチップの正面図である。
【図4】同マイクロチップの具体的な一例を示す平面図である。
【図5】同マイクロチップ電気泳動装置において分離バッファ液を充填する際の空気供給口とマイクロチップの接続状態を概略的に示す断面図である。
【図6】一実施例の動作を工程順に示す斜視図である。
【図7】同実施例の動作をその後の工程順に示す斜視図である。
【図8】同実施例の動作をさらにその後の工程順に示す斜視図である。
【図9】同実施例の動作をさらにその後の工程順に示す斜視図である。
【図10】同実施例の動作における処理手順を示すフローチャートである。
【図11】マイクロチップの流路に分離バッファ液を充填した後の溢れた分離バッファ液を吸引した後、(A)は分離バッファ液の吸引直後の状態、(B)は分離バッファ液吸引後に純水による洗浄を実施した後の状態をそれぞれ撮影した画像である。
【図12】電気泳動分析における高分子マーカピーク面積値の変動係数を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は本発明をマイクロチップ電気泳動装置に適用した一実施例における制御部に関する部分を概略的に示すブロック図である。
分注部2は分注プローブを備えた分注プローブ駆動機構を含んでいる。分注部2の分注プローブは、シリンジポンプ4により分離バッファ液又は試料を吸入し、マイクロチップの電気泳動流路の一端に注入するものであり、複数の電気泳動流路について共通に設けられている。分離バッファ液充填装置16は電気泳動流路の一端に注入された分離バッファ液を空気圧により電気泳動流路に充填し、不用な分離バッファ液を吸引ポンプ部23により排出する。分離バッファ液充填装置16も、処理しようとする複数の電気泳動流路について共通に設けられている。電気泳動用高圧電源部26は電気泳動流路のそれぞれに独立して泳動用電圧を印加する。蛍光測定部31は電気泳動流路で分離された試料成分を検出する検出部の一例である。制御部38は、1つの電気泳動流路への分離バッファ液充填及び試料注入が終了すると次の電気泳動流路への分離バッファ液充填及び試料注入に移行するように分注部2の動作を制御し、試料注入が終了した電気泳動流路で泳動電圧を印加して電気泳動を起こさせるように電気泳動用高圧電源部26の動作を制御し、蛍光測定部31による検出動作を制御するものである。パーソナルコンピュータ40はこのマイクロチップ電気泳動装置の動作を指示したり、蛍光測定部31が得たデータを取り込んで処理したりするための外部制御装置である。
【0022】
図2に一実施例のマイクロチップ電気泳動装置の要部を概略的に示す。マイクロチップ5−1〜5−4は保持部7に4個が保持される。マイクロチップ5−1〜5−4は後で詳しく説明するように、それぞれ1試料を処理するための1つの電気泳動流路が形成されたものである。マイクロチップ5−1〜5−4は分析操作中は保持部7に固定されている。
【0023】
それらのマイクロチップ5−1〜5−4に分離バッファ液と試料を分注するために、分注部2は、吸引と吐出を行なうシリンジポンプ4と、分注ノズルを備えた分注プローブ8と、洗浄液用の容器10とを備えており、分注プローブ8と洗浄液用の容器10は三方電磁弁6を介してシリンジポンプ4に接続されている。分離バッファ液と試料はマイクロタイタプレート12上の穴にそれぞれ収容されて、分注部2によりマイクロチップ5−1〜5−4に分注される。なお、分離バッファ液は専用の容器に収容してマイクロタイタプレート12の近くに配置してもよい。14は分注プローブ8を洗浄するための洗浄部であり、洗浄液が溢れている。
【0024】
分注部2は、三方電磁弁6を分注プローブ8とシリンジポンプ4が接続される方向に接続して分離バッファ液又は試料を分注プローブ8に吸引し、分注プローブ8をマイクロチップ5−1〜5−4上へ移動させてシリンジポンプ4によりマイクロチップ5−1〜5−4のいずれかの電気泳動流路に吐出する。分注プローブ8を洗浄する際は三方電磁弁6をシリンジポンプ4と洗浄液用の容器10を接続する方向に切り替え、シリンジポンプ4に洗浄液を吸引した後、分注プローブ8を洗浄部14の洗浄液に浸し、三方電磁弁6をシリンジポンプ4と分注プローブ8を接続する側に切り替えて分注プローブ8の内部から洗浄液を吐出することにより洗浄を行なう。
【0025】
マイクロチップ5−1〜5−4の電気泳動流路の一端のリザーバに分注された分離バッファ液を流路内に充填するために、4つのマイクロチップ5−1〜5−4について分離バッファ液充填装置16が共通に備えられている。分離バッファ液充填装置16はマイクロチップ5−1〜5−4上へ移動し、マイクロチップ5−1〜5−4のいずれかの電気泳動流路の一端のリザーバ上に空気供給口18を気密を保って押し付け、他のリザーバに吸引ノズル22を挿入し、空気供給口18から空気を吹き込んで分離バッファ液を電気泳動流路に押し込むとともに、他のリザーバから溢れた分離バッファ液をノズル22から吸引ポンプにより吸引して外部へ排出する。
【0026】
各マイクロチップ5−1〜5−4の電気泳動流路に独立して泳動用の電圧を印加するために、マイクロチップ5−1〜5−4ごとに独立した電気泳動用高圧電源26(26−1〜26−4)が設けられている。
【0027】
マイクロチップ5−1〜5−4の分離流路55で電気泳動分離された試料成分を検出するための蛍光測定部31は、マイクロチップ5−1〜5−4ごとに設けられてそれぞれの電気泳動流路の一部に励起光を照射するLED(発光ダイオード)30−1〜30−4と、電気泳動流路を移動する試料成分がLED30−1〜30−4からの励起光により励起されて発生した蛍光を受光する光ファイバ32−1〜32−4と、それらの光ファイバ32−1〜32−4からの蛍光から励起光成分を除去し、蛍光成分のみを透過させるフィルタ34を介して蛍光を受光する光電子増倍管36とを備えている。LED30−1〜30−4を互いに時間をずらして発光させることにより、1つの光電子増倍管36で4つのマイクロチップ5−1〜5−4からの蛍光を識別して検出することができる。なお、励起光の光源としては、LEDに限らずLD(レーザダイオード)を用いてもよい。
【0028】
図3と図4はこの実施例におけるマイクロチップの一例を示したものである。本発明におけるマイクロチップは基板内に電気泳動流路が形成されたこのような電気泳動装置を指しており、必ずしもサイズの小さいものに限定される意味ではない。
【0029】
図3に示されるように、このマイクロチップ5は一対の透明基板(石英ガラスその他のガラス基板や樹脂基板)51,52からなり、一方の基板52の表面に、(B)に示されるように、互いに交差する泳動用キャピラリ溝54,55を形成し、他方の基板51には、(C)に示されるように、その溝54,55の端に対応する位置にリザーバ53を貫通穴として設け、両基板51,52を(C)に示すように重ねて接合し、キャピラリ溝54,55を試料の電気泳動分離用の分離流路55と、その分離流路に試料を導入するための試料導入流路54とする。
【0030】
マイクロチップ5は基本的には図3に示したものであるが、取扱いを容易にするために、図4に示されるように、電圧を印加するための電極端子を予めチップ上に形成したものを使用する。図4はそのマイクロチップ5の平面図を示したものである。4つのリザーバ53は流路54,55に電圧を印加するためのポートでもある。ポート#1と#2は試料導入流路54の両端に位置するポートであり、ポート#3と#4は分離流路55の両端に位置するポートである。各ポートに電圧を印加するために、このチップ5の表面に形成された電極パターン61〜64がそれぞれのポートからマイクロチップ5の側端部に延びて形成されており、電気泳動用高圧電源部26−1〜26−4に接続されるようになっている。
【0031】
図5はバッファ充填・排出部16における空気供給口18とマイクロチップ5の接続状態を概略的に示したものである。空気供給口18の先端にはOリング20が設けられており、空気供給口18をマイクロチップ5の1つのリザーバ上に押し当てることにより、マイクロチップ5の電気泳動流路に対し、空気供給口18を機密を保って取り付けることができ、空気供給口18から空気を加圧して流路内に送り出すことができる。他のリザーバにはノズル22が挿入され、流路から溢れ出した不用な分離バッファ液を吸入して排出する。
【0032】
このマイクロチップ処理装置においてマイクロチップは移動せずに保持部7に固定された状態で繰り返し使用されるものとした場合の処理手順を図6から図9に示し、図10のフローチャートにより説明する。図10のフローチャート中での符号(A〜U)は図6〜図9での工程の符号を意味する。ここで行なわれる処理は、前回の分析で使用されたマイクロチップを洗浄し、流路に分離バッファ液を充填し、各リザーバにも分離バッファ液を充填した状態で流路に電流が正常に流れるか否かの泳動テストを行ない、その後試料を分注して泳動を開始し、分注プローブと吸引ノズルを洗浄する一連の工程である。
【0033】
(A)は1つのマイクロチップ5を示している。マイクロチップ5は図3及び図4に示されたものであり、分離流路55と試料導入流路54が交差するように設けられ、各流路54,55の端部にリザーバ53が形成されたものである。図4の1番から4番までのリザーバをここでは符号53−1〜53−4で示す。
【0034】
(B)前の試料の分析が終了した状態であり、流路及び各リザーバには分離バッファ液が残っており、その分離バッファ液内に分離された試料も残っている。
【0035】
(C)まず試料供給用リザーバ53−1を洗浄するために、吸引ノズル22−1のみがリザーバ53−1に挿入される。吸引ノズル22−2と吸引ノズル22−3も吸引ノズル22−1と同時に上下動するものであるが、吸引ノズル22−1の長さが他の吸引ノズル22−2,22−3よりも長くなっているために、吸引ノズル22−1のみがリザーバ53−1に挿入されてそのリザーバ53−1の底部に押しつけられた状態となるが、他の吸引ノズル22−2,22−3はそれぞれの対応するリザーバ53−2,53−3には挿入されない。その状態で吸引ノズル22−1から吸引されることによりリザーバ53−1内の分離バッファ液が吸引されて除去される。
【0036】
(D)リザーバ53−1に分注プローブ8から洗浄水が供給される。
(E)再びリザーバ53−1に吸引ノズル22−1が挿入され、洗浄水が吸引されて排出される。
(F)リザーバ53−1に分注プローブ8から再び洗浄水が供給される。
【0037】
(G)次に、リザーバ53−1〜53−3にそれぞれ吸引ノズル22−1〜22−3が挿入される。このとき3つの吸引ノズル22−1〜22−3はそれぞれのリザーバ53−1〜53−3に挿入され、押しつけられることによってそれぞれのリザーバの底に当接する。それらの3つの吸引ノズル22−1〜22−3から同時に液が吸引されて除去される。分注プローブ8はリンスポート100に挿入されて分注プローブ8内の洗浄水の全量が吐出されるとともに、分注プローブ8の内外が洗浄される。
【0038】
(H)他の一つのリザーバ53−4に4番目の吸引ノズル22−4が挿入される。この吸引ノズル22−4(図2には示されていない)は3本の吸引ノズル22−1〜22−3とは別に設けられ、図2に示された空気供給口用のシリンダ18の近くに配置されたものである。吸引ノズル22−4も押しつけられることによりリザーバ53−4の底に当接する。吸引ノズル22−4からリザーバ53−4内の分離バッファ液が吸引されて除去される。分注プローブ8はバッファ液を入れた試薬容器91から分離バッファ液を吸引する。
【0039】
(I)分注プローブ8をリザーバ53−4へ移動させ、分離バッファ液を分注する。
(J)リザーバ53−4上に空気供給口18が気密を保って押しつけられ、空気がリザーバ53−4から流路に供給される。他のリザーバ53−1〜53−3にはそれぞれ吸引ノズル22−1〜22−3が挿入され、流路からそれぞれのリザーバ53−1〜53−3に溢れ出した分離バッファ液が吸引されて除去される。
【0040】
(K)リザーバ53−4に吸引ノズル22−4が挿入され、そのリザーバ53−4の分離バッファ液が吸引されて除去される。これにより流路内にのみ分離バッファ液が残る状態となる。
(L)〜(O)リザーバ53−1〜53−4に分注プローブ8により分離バッファ液が順次分注される。
【0041】
(P)それぞれのリザーバに電極が挿入され、泳動テストが行なわれる。ここでは電極間の電流値を検出することにより流路にゴミや気泡が混入していないかどうかを確認する。ここで流路に印加する電圧は、試料を分離するための泳動電圧と同じであってもよいが、それよりも低電圧としてもよい。
分離バッファ液を分注した分注プローブ8はリンスポート100に挿入され、分注プローブ8内の分離バッファ液が全量吐出されるとともに分注プローブ8の内外が洗浄される。
【0042】
この泳動テスト工程で流路への分離バッファの充填が正常に行なわれたと判定されたときは、試料を注入して分析を行なうために次の工程(Q)へ進むが、流路への分離バッファの充填が正常に行なわれたと判定されなかったときは、流路への分離バッファ液の充填をし直すために工程(B)に戻る。
【0043】
流路への分離バッファ液の充填のし直しを許容する回数(N)を予め設定しておき、その回数だけ分離バッファ液の充填し直しを行なっても流路への分離バッファの充填が正常に行なわれたと判定されないときは、そのマイクロチップを保持部7から取り外し、別のマイクロチップに交換した後、工程(B)に戻る。分離バッファ液の充填のし直し許容する回数Nは特に限定されるものではないが、例えば2又は3が適当である。
【0044】
(Q)試料供給用リザーバ53−1にのみ吸引ノズル22−1が挿入され、そのリザーバ53−1の分離バッファ液が吸引されて除去される。この分離バッファ液の吸引動作では、吸引ノズル22−1を試料供給用リザーバ53−1内の複数の位置に順次移動させていき、各位置において先端からの吸引動作を一定時間ずつ行なうようにしてもよい。この場合のノズル22−1の移動方法としては、例えばリザーバ53−1の底面の中心位置を初期位置として外側へ一定距離ずつ、例えば100μmずつ移動させていく方法が挙げられる。このように、バッファ液の除去を互いに異なる位置における複数回の吸引によって行なうことで、1箇所のみで1回の吸引によって行なう場合よりもバッファ液の除去効率が向上する。これを示す実験結果を図12に示すが、図12については後述する。
【0045】
(R)分注ノズル8により試料供給用リザーバ53−1に洗浄液が供給される。洗浄液は例えば純水である。
(S)試料供給用リザーバ53−1に吸引ノズル22−1が挿入され、洗浄液が吸引されて除去される。
この(R),(S)の工程は試料供給用リザーバ53−1内に残存する分離バッファ液を除去するための洗浄工程である。この洗浄動作は必要に応じて複数回繰返し行なわれるようにしてもよい。
【0046】
なお、上記の洗浄工程(R),(S)は、その前の分離バッファ液除去工程(Q)が吸引ノズル22−1による1回の吸引動作を行なうものである場合には必須の工程であるが、分離バッファ液除去工程(Q)が上述のように吸引ノズル22−1を試料供給用リザーバ53−1内の複数の位置に順次移動させていき、各位置において先端からの吸引動作を一定時間ずつ行なうものである場合には必ずしも行なう必要はない。すなわち、分離バッファ液除去工程(Q)においてリザーバ53−1内の分離バッファ液が十分に除去されている場合には洗浄工程(R),(S)を省略してもよい。
【0047】
(T)試料供給用リザーバ53−1に分注プローブ8から試料が注入される。
(U)それぞれのリザーバ53−1〜53−4に電極が挿入されて試料供給用の電圧が印加され、試料が流路54と55の交差位置へ導かれる。
【0048】
(V)印加電圧が泳動分離用の電圧に切り換えられ、試料が分離流路55でリザーバ53−4の方向に電気泳動されて分離する。
(W)分析終了後、各吸引ノズル22−1〜22−4がリンスプール102に挿入されて洗浄液が吸引され、ノズル内外が洗浄されるとともに、プローブ8がリンスポート100に挿入されて内外が洗浄される。
【0049】
図11はマイクロチップの流路への分離バッファ液の充填後の試料供給用リザーバからの分離バッファ液吸引後に撮影した試料供給用リザーバの底面の状態である。(A)は試料供給用リザーバから分離バッファ液を吸引した直後に撮影したものであり、(B)は試料供給用リザーバから分離バッファ液を吸引し、その後に純水で洗浄を行なった後で撮影したものである。(A)では12枚の画像が存在するが、これは流路への分離バッファ液の充填、試料供給用リザーバからの分離バッファ液の吸引の動作を12回行なってその直後にそれぞれ1回ずつ撮影したものである。(B)は(A)の試料供給用リザーバからの分離バッファ液の吸引後に試料供給用リザーバの洗浄を行なってから撮影したものである。
【0050】
図11(A)に示されているように、分離バッファ液の吸引を行なった直後であるにもかかわらずリザーバ53−1の底面縁部にバッファ液が残存しており、その残存量も不均一である。これに対し、(B)に示されているように、分離バッファ液の吸引を行なった後に純水による洗浄工程を加えるとリザーバ底面の縁部にバッファ液の残存が見られなかった。
【0051】
図12は電気泳動分析における高分子マーカピーク面積値の変動係数(%)を示したものである。変動係数は(標準偏差/平均値)によって求めたものである。この測定では、マイクロチップ5−1〜5−4(図中では1〜4と表示)の4枚を用い、試料供給用リザーバに試料を分注する前のバッファ液除去工程において、吸引ノズルを複数の位置に移動させながら各位置において一定時間ずつバッファ液の吸引を行なった場合、試料供給用リザーバに試料を分注する前に純水による洗浄工程を実施した場合、純水の代わりに試料自体による洗浄工程を実施した場合、分離バッファ除去工程を1回の吸引によって行なうとともに洗浄工程を実施しなかった場合についてそれぞれ3回の測定を行なった。なお、この実験において、吸引ノズルを移動させて複数回の吸引を行なった場合には洗浄工程を実施していない。
【0052】
図12の実験の結果、純水による洗浄又は試料による洗浄を実施した場合にいずれの洗浄も実施しない場合よりも変動係数が低く抑えられ、測定結果の再現性が向上していることがわかった。また、分離バッファ液除去工程を複数回の吸引に分けて実施した場合にも1回の吸引によって実施した場合に比べて変動係数が低く抑えられ、測定結果の再現性が向上していることがわかった。これにより、洗浄工程の実施と分離バッファ液除去工程における複数位置での吸引動作の実施はいずれか一方のみでも電気泳動分析の再現性を向上させる効果があり、その効果をさらに高めるために両者を組み合わせることも可能である。
【0053】
上記の実施例では試料の分注を行なう前に純水による洗浄を実施するように構成されているが、試料による洗浄を実施するようにしてもよい。図12に示されているように、試料による洗浄を実施した場合にも純水による洗浄を実施した場合と変動係数に大きな差は見られなかった。しかし、試料による洗浄を実施すると試料の消費量が増えるため、希少試料である場合などには試料による洗浄は実施することができない。
【符号の説明】
【0054】
2 分注部
4 シリンジポンプ
5,5−1〜5−4 マイクロチップ
8 分注プローブ
8b 溝
16 分離バッファ液充填装置
22−1〜22−4 吸引ノズル
26(26−1〜26−4) 電気泳動用高圧電源部
38 制御部
【技術分野】
【0001】
本発明はマイクロチップ電気泳動方法及びそのマイクロチップ電気泳動方法を実行するためのマイクロチップ電気泳動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マイクロチップ電気泳動では、分離用主流路の一端側に導入されたDNA、RNA又はタンパク質などの試料をその流路の両端間に印加した電圧によりその流路の他端方向に電気泳動させることにより分離させて検出する。
マイクロチップ電気泳動において、1つの電気泳動流路を有する単一のマイクロチップを繰り返し使用して、バッファ液の充填、試料分注、電気泳動及び分離された試料成分の検出を自動で行なう装置が開発されている(特許文献1参照。)。
【0003】
分析の稼働率を上げるために、複数の流路を備えた電気泳動装置も提案されている。その1つの装置は、12個の流路を備え、分離バッファ液の充填と試料分注を手動で行なった後、12個の流路から順次電気泳動を起こさせて分離してデータを得ている(非特許文献1参照。)。
他の装置ではキャピラリによる12個の流路を備え、分離バッファ液の充填、試料分注、電気泳動分離及びデータ取得を自動で行なうようになっている(非特許文献2参照。)。微量液体クロマトグラフィでは、マイクロチップは主流路として分離用カラムを含む送液流路を備えており、分離用カラムの一端側に導入された試料をその分離用カラムの他端方向に移動させることにより分離させて分析する(非特許文献3参照。)。
【0004】
マイクロチップは流路の各端部に表面に開口したリザーバをもったものを使用し、マイクロチップ処理装置に装着するときはリザーバが上面にくるようにマイクロチップを保持する。流路への分離バッファ液の充填は、分離バッファ液充填装置により1つのリザーバに分離バッファ液を供給し、そのリザーバ上に空気供給口を押し付けて空気を供給することにより分離バッファ液を流路に押し込むことにより行なう。流路に分離バッファ液を充填した後、他のリザーバから溢れた分離バッファ液を吸引ノズルで吸引する。その後、試料供給用のリザーバに試料を分注する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−246721号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「ぶんせき」誌、No.5,267−270頁(2002年)
【非特許文献2】Electrophoresis 2003, 24, 93-95
【非特許文献3】Anal. Chem., 70, 3790 (1998)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
マイクロチップの流路に分離バッファ液を充填した後、試料を試料供給用リザーバに分注する前に試料供給用リザーバの分離バッファ液を吸引ノズルで吸引するが、この吸引ノズルによる吸引動作では試料供給用リザーバの分離バッファ液が完全には除去されていないことがわかった。そして、その除去状況は分析操作ごとに変動し、分離バッファ液の吸引動作後の試料供給用リザーバの状態の再現性が悪く、その影響を受けて電気泳動分析の結果が変動するという問題があることがわかった。
【0008】
そこで本発明は、試料を分注する前の試料供給用リザーバの状態の再現性を向上させて電気泳動分析の結果の再現性を向上させることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかる第1のマイクロチップ電気泳動方法は、板状部材の内部に分離流路を少なくとも含む流路を備え、それらの流路の端部に開口したリザーバが設けられたマイクロチップを用い、以下の工程をその順に行なって試料を分注した後に電気泳動を行なうことを特徴とするものである。
(1)マイクロチップの所定のリザーバにバッファ液を分注するバッファ液分注工程、
(2)バッファ液分注工程で分注された分離バッファ液を流路に充填するバッファ液充填工程、
(3)試料供給用のリザーバ内の分離バッファ液を前記吸引ノズルにより吸引して除去するバッファ液除去工程、
(4)分注プローブにより試料供給用リザーバに洗浄用の液を分注した後、吸引ノズルによりその液を吸引する洗浄工程、及び、
(5)試料供給用リザーバに試料を分注する試料分注工程。
【0010】
上記第1のマイクロチップ電気泳動方法では、バッファ液充填工程(2)とバッファ液除去工程(3)の間で、全リザーバの分離バッファ液を吸引して除去した後、全リザーバに所定量の分離バッファ液を分注するバッファ液再分注工程(2A)も行なうようにしてもよい。そうすれば、試料分注前に電気泳動分析のテストを行なうことも可能になる。
【0011】
なお、洗浄工程(4)を複数回繰返すようにしてもよい。そうすれば、試料供給用リザーバに残存する分離バッファ液の除去精度が向上する。
【0012】
洗浄工程(4)で用いる洗浄用の液の一例は純水である。
【0013】
本発明にかかる第2のマイクロチップ電気泳動方法は、以下の工程を行なって試料を分注した後に電気泳動を行なうことを特徴とする。
(1)マイクロチップの所定のリザーバにバッファ液を分注するバッファ液分注工程、
(2)バッファ液分注工程で分注された分離バッファ液を流路に充填するバッファ液充填工程、
(3)試料供給用のリザーバ内の互いに異なる複数の位置に吸引用のノズルを順次移動させて各位置において一定時間バッファ液の吸引を行なうことにより試料供給用リザーバ内のバッファ液を除去するバッファ液除去工程、及び
(4)試料供給用リザーバに試料を分注する試料分注工程。
【0014】
この第2のマイクロチップ電気泳動方法においても、バッファ液充填工程(2)とバッファ液除去工程(3)の間で、全リザーバの分離バッファ液を吸引して除去した後、全リザーバに所定量の分離バッファ液を分注するバッファ液再分注工程(2A)も行なうようにしてもよい。
【0015】
さらに、第2のマイクロチップ電気泳動方法において、バッファ液除去工程(3)と試料分注工程(4)の間で、第1のマイクロチップ電気泳動方法と同様の洗浄工程(3A)を行なうようにしてもよい。
【0016】
本発明にかかる電気泳動装置は、板状部材の内部に分離流路を少なくとも含む流路を備え、それらの流路の端部に開口したリザーバが設けられたマイクロチップを、リザーバが上面にくるように保持するチップ保持部と、マイクロチップの流路に分離バッファ液を充填するバッファ液充填機構と、液を吸入しマイクロチップの所定のリザーバに注入するための分注プローブと、分注プローブを分注すべき液の吸入位置とマイクロチップ上の分注位置との間で移動させるプローブ移動機構と、リザーバ内の液を吸引するための吸引ノズルと、を少なくとも備えたものであって、バッファ液充填機構、分注プローブ、プローブ移動機構及び吸引ノズルの動作を制御して本発明にかかる第1又は第2のマイクロチップ電気泳動方法を実行するように構成された制御部を備えているものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の第1のマイクロチップ電気泳動方法によれば、試料供給用リザーバ内に試料を分注する前において、該リザーバ内の分離バッファ液の吸引を行なった後、さらに試料供給用リザーバ内を洗浄液によって洗浄するので、試料分注前の試料供給用リザーバへの分離バッファ液の残存を防止することができ、試料供給用リザーバの状態の再現性が向上して電気泳動分析の精度が向上する。
【0018】
第2のマイクロチップ電気泳動方法では、試料供給用リザーバ内に試料を分注する前の該リザーバ内の分離バッファ液の吸引において、該リザーバ内の異なる複数の位置に吸引用のノズルを順次移動させて各位置において一定時間バッファ液の吸引を行なうようにしているので、吸引動作を1回だけ行なう場合よりも分離バッファ液の吸引精度が向上し、試料供給用リザーバの状態の再現性が向上する。
【0019】
本発明のマイクロチップ電気泳動装置では、上記のマイクロチップ電気泳動方法を実行する制御部を備えているので、再現性の良い電気泳動分析を実施することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】一実施例のマイクロチップ電気泳動装置における制御部に関する部分を概略的に示すブロック図である。
【図2】同実施例のマイクロチップ電気泳動装置の要部を概略的に示す斜視図である。
【図3】マイクロチップの一例を示す図であり、(A)と(B)はマイクロチップを構成する透明板状部材を示す平面図、(C)はマイクロチップの正面図である。
【図4】同マイクロチップの具体的な一例を示す平面図である。
【図5】同マイクロチップ電気泳動装置において分離バッファ液を充填する際の空気供給口とマイクロチップの接続状態を概略的に示す断面図である。
【図6】一実施例の動作を工程順に示す斜視図である。
【図7】同実施例の動作をその後の工程順に示す斜視図である。
【図8】同実施例の動作をさらにその後の工程順に示す斜視図である。
【図9】同実施例の動作をさらにその後の工程順に示す斜視図である。
【図10】同実施例の動作における処理手順を示すフローチャートである。
【図11】マイクロチップの流路に分離バッファ液を充填した後の溢れた分離バッファ液を吸引した後、(A)は分離バッファ液の吸引直後の状態、(B)は分離バッファ液吸引後に純水による洗浄を実施した後の状態をそれぞれ撮影した画像である。
【図12】電気泳動分析における高分子マーカピーク面積値の変動係数を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は本発明をマイクロチップ電気泳動装置に適用した一実施例における制御部に関する部分を概略的に示すブロック図である。
分注部2は分注プローブを備えた分注プローブ駆動機構を含んでいる。分注部2の分注プローブは、シリンジポンプ4により分離バッファ液又は試料を吸入し、マイクロチップの電気泳動流路の一端に注入するものであり、複数の電気泳動流路について共通に設けられている。分離バッファ液充填装置16は電気泳動流路の一端に注入された分離バッファ液を空気圧により電気泳動流路に充填し、不用な分離バッファ液を吸引ポンプ部23により排出する。分離バッファ液充填装置16も、処理しようとする複数の電気泳動流路について共通に設けられている。電気泳動用高圧電源部26は電気泳動流路のそれぞれに独立して泳動用電圧を印加する。蛍光測定部31は電気泳動流路で分離された試料成分を検出する検出部の一例である。制御部38は、1つの電気泳動流路への分離バッファ液充填及び試料注入が終了すると次の電気泳動流路への分離バッファ液充填及び試料注入に移行するように分注部2の動作を制御し、試料注入が終了した電気泳動流路で泳動電圧を印加して電気泳動を起こさせるように電気泳動用高圧電源部26の動作を制御し、蛍光測定部31による検出動作を制御するものである。パーソナルコンピュータ40はこのマイクロチップ電気泳動装置の動作を指示したり、蛍光測定部31が得たデータを取り込んで処理したりするための外部制御装置である。
【0022】
図2に一実施例のマイクロチップ電気泳動装置の要部を概略的に示す。マイクロチップ5−1〜5−4は保持部7に4個が保持される。マイクロチップ5−1〜5−4は後で詳しく説明するように、それぞれ1試料を処理するための1つの電気泳動流路が形成されたものである。マイクロチップ5−1〜5−4は分析操作中は保持部7に固定されている。
【0023】
それらのマイクロチップ5−1〜5−4に分離バッファ液と試料を分注するために、分注部2は、吸引と吐出を行なうシリンジポンプ4と、分注ノズルを備えた分注プローブ8と、洗浄液用の容器10とを備えており、分注プローブ8と洗浄液用の容器10は三方電磁弁6を介してシリンジポンプ4に接続されている。分離バッファ液と試料はマイクロタイタプレート12上の穴にそれぞれ収容されて、分注部2によりマイクロチップ5−1〜5−4に分注される。なお、分離バッファ液は専用の容器に収容してマイクロタイタプレート12の近くに配置してもよい。14は分注プローブ8を洗浄するための洗浄部であり、洗浄液が溢れている。
【0024】
分注部2は、三方電磁弁6を分注プローブ8とシリンジポンプ4が接続される方向に接続して分離バッファ液又は試料を分注プローブ8に吸引し、分注プローブ8をマイクロチップ5−1〜5−4上へ移動させてシリンジポンプ4によりマイクロチップ5−1〜5−4のいずれかの電気泳動流路に吐出する。分注プローブ8を洗浄する際は三方電磁弁6をシリンジポンプ4と洗浄液用の容器10を接続する方向に切り替え、シリンジポンプ4に洗浄液を吸引した後、分注プローブ8を洗浄部14の洗浄液に浸し、三方電磁弁6をシリンジポンプ4と分注プローブ8を接続する側に切り替えて分注プローブ8の内部から洗浄液を吐出することにより洗浄を行なう。
【0025】
マイクロチップ5−1〜5−4の電気泳動流路の一端のリザーバに分注された分離バッファ液を流路内に充填するために、4つのマイクロチップ5−1〜5−4について分離バッファ液充填装置16が共通に備えられている。分離バッファ液充填装置16はマイクロチップ5−1〜5−4上へ移動し、マイクロチップ5−1〜5−4のいずれかの電気泳動流路の一端のリザーバ上に空気供給口18を気密を保って押し付け、他のリザーバに吸引ノズル22を挿入し、空気供給口18から空気を吹き込んで分離バッファ液を電気泳動流路に押し込むとともに、他のリザーバから溢れた分離バッファ液をノズル22から吸引ポンプにより吸引して外部へ排出する。
【0026】
各マイクロチップ5−1〜5−4の電気泳動流路に独立して泳動用の電圧を印加するために、マイクロチップ5−1〜5−4ごとに独立した電気泳動用高圧電源26(26−1〜26−4)が設けられている。
【0027】
マイクロチップ5−1〜5−4の分離流路55で電気泳動分離された試料成分を検出するための蛍光測定部31は、マイクロチップ5−1〜5−4ごとに設けられてそれぞれの電気泳動流路の一部に励起光を照射するLED(発光ダイオード)30−1〜30−4と、電気泳動流路を移動する試料成分がLED30−1〜30−4からの励起光により励起されて発生した蛍光を受光する光ファイバ32−1〜32−4と、それらの光ファイバ32−1〜32−4からの蛍光から励起光成分を除去し、蛍光成分のみを透過させるフィルタ34を介して蛍光を受光する光電子増倍管36とを備えている。LED30−1〜30−4を互いに時間をずらして発光させることにより、1つの光電子増倍管36で4つのマイクロチップ5−1〜5−4からの蛍光を識別して検出することができる。なお、励起光の光源としては、LEDに限らずLD(レーザダイオード)を用いてもよい。
【0028】
図3と図4はこの実施例におけるマイクロチップの一例を示したものである。本発明におけるマイクロチップは基板内に電気泳動流路が形成されたこのような電気泳動装置を指しており、必ずしもサイズの小さいものに限定される意味ではない。
【0029】
図3に示されるように、このマイクロチップ5は一対の透明基板(石英ガラスその他のガラス基板や樹脂基板)51,52からなり、一方の基板52の表面に、(B)に示されるように、互いに交差する泳動用キャピラリ溝54,55を形成し、他方の基板51には、(C)に示されるように、その溝54,55の端に対応する位置にリザーバ53を貫通穴として設け、両基板51,52を(C)に示すように重ねて接合し、キャピラリ溝54,55を試料の電気泳動分離用の分離流路55と、その分離流路に試料を導入するための試料導入流路54とする。
【0030】
マイクロチップ5は基本的には図3に示したものであるが、取扱いを容易にするために、図4に示されるように、電圧を印加するための電極端子を予めチップ上に形成したものを使用する。図4はそのマイクロチップ5の平面図を示したものである。4つのリザーバ53は流路54,55に電圧を印加するためのポートでもある。ポート#1と#2は試料導入流路54の両端に位置するポートであり、ポート#3と#4は分離流路55の両端に位置するポートである。各ポートに電圧を印加するために、このチップ5の表面に形成された電極パターン61〜64がそれぞれのポートからマイクロチップ5の側端部に延びて形成されており、電気泳動用高圧電源部26−1〜26−4に接続されるようになっている。
【0031】
図5はバッファ充填・排出部16における空気供給口18とマイクロチップ5の接続状態を概略的に示したものである。空気供給口18の先端にはOリング20が設けられており、空気供給口18をマイクロチップ5の1つのリザーバ上に押し当てることにより、マイクロチップ5の電気泳動流路に対し、空気供給口18を機密を保って取り付けることができ、空気供給口18から空気を加圧して流路内に送り出すことができる。他のリザーバにはノズル22が挿入され、流路から溢れ出した不用な分離バッファ液を吸入して排出する。
【0032】
このマイクロチップ処理装置においてマイクロチップは移動せずに保持部7に固定された状態で繰り返し使用されるものとした場合の処理手順を図6から図9に示し、図10のフローチャートにより説明する。図10のフローチャート中での符号(A〜U)は図6〜図9での工程の符号を意味する。ここで行なわれる処理は、前回の分析で使用されたマイクロチップを洗浄し、流路に分離バッファ液を充填し、各リザーバにも分離バッファ液を充填した状態で流路に電流が正常に流れるか否かの泳動テストを行ない、その後試料を分注して泳動を開始し、分注プローブと吸引ノズルを洗浄する一連の工程である。
【0033】
(A)は1つのマイクロチップ5を示している。マイクロチップ5は図3及び図4に示されたものであり、分離流路55と試料導入流路54が交差するように設けられ、各流路54,55の端部にリザーバ53が形成されたものである。図4の1番から4番までのリザーバをここでは符号53−1〜53−4で示す。
【0034】
(B)前の試料の分析が終了した状態であり、流路及び各リザーバには分離バッファ液が残っており、その分離バッファ液内に分離された試料も残っている。
【0035】
(C)まず試料供給用リザーバ53−1を洗浄するために、吸引ノズル22−1のみがリザーバ53−1に挿入される。吸引ノズル22−2と吸引ノズル22−3も吸引ノズル22−1と同時に上下動するものであるが、吸引ノズル22−1の長さが他の吸引ノズル22−2,22−3よりも長くなっているために、吸引ノズル22−1のみがリザーバ53−1に挿入されてそのリザーバ53−1の底部に押しつけられた状態となるが、他の吸引ノズル22−2,22−3はそれぞれの対応するリザーバ53−2,53−3には挿入されない。その状態で吸引ノズル22−1から吸引されることによりリザーバ53−1内の分離バッファ液が吸引されて除去される。
【0036】
(D)リザーバ53−1に分注プローブ8から洗浄水が供給される。
(E)再びリザーバ53−1に吸引ノズル22−1が挿入され、洗浄水が吸引されて排出される。
(F)リザーバ53−1に分注プローブ8から再び洗浄水が供給される。
【0037】
(G)次に、リザーバ53−1〜53−3にそれぞれ吸引ノズル22−1〜22−3が挿入される。このとき3つの吸引ノズル22−1〜22−3はそれぞれのリザーバ53−1〜53−3に挿入され、押しつけられることによってそれぞれのリザーバの底に当接する。それらの3つの吸引ノズル22−1〜22−3から同時に液が吸引されて除去される。分注プローブ8はリンスポート100に挿入されて分注プローブ8内の洗浄水の全量が吐出されるとともに、分注プローブ8の内外が洗浄される。
【0038】
(H)他の一つのリザーバ53−4に4番目の吸引ノズル22−4が挿入される。この吸引ノズル22−4(図2には示されていない)は3本の吸引ノズル22−1〜22−3とは別に設けられ、図2に示された空気供給口用のシリンダ18の近くに配置されたものである。吸引ノズル22−4も押しつけられることによりリザーバ53−4の底に当接する。吸引ノズル22−4からリザーバ53−4内の分離バッファ液が吸引されて除去される。分注プローブ8はバッファ液を入れた試薬容器91から分離バッファ液を吸引する。
【0039】
(I)分注プローブ8をリザーバ53−4へ移動させ、分離バッファ液を分注する。
(J)リザーバ53−4上に空気供給口18が気密を保って押しつけられ、空気がリザーバ53−4から流路に供給される。他のリザーバ53−1〜53−3にはそれぞれ吸引ノズル22−1〜22−3が挿入され、流路からそれぞれのリザーバ53−1〜53−3に溢れ出した分離バッファ液が吸引されて除去される。
【0040】
(K)リザーバ53−4に吸引ノズル22−4が挿入され、そのリザーバ53−4の分離バッファ液が吸引されて除去される。これにより流路内にのみ分離バッファ液が残る状態となる。
(L)〜(O)リザーバ53−1〜53−4に分注プローブ8により分離バッファ液が順次分注される。
【0041】
(P)それぞれのリザーバに電極が挿入され、泳動テストが行なわれる。ここでは電極間の電流値を検出することにより流路にゴミや気泡が混入していないかどうかを確認する。ここで流路に印加する電圧は、試料を分離するための泳動電圧と同じであってもよいが、それよりも低電圧としてもよい。
分離バッファ液を分注した分注プローブ8はリンスポート100に挿入され、分注プローブ8内の分離バッファ液が全量吐出されるとともに分注プローブ8の内外が洗浄される。
【0042】
この泳動テスト工程で流路への分離バッファの充填が正常に行なわれたと判定されたときは、試料を注入して分析を行なうために次の工程(Q)へ進むが、流路への分離バッファの充填が正常に行なわれたと判定されなかったときは、流路への分離バッファ液の充填をし直すために工程(B)に戻る。
【0043】
流路への分離バッファ液の充填のし直しを許容する回数(N)を予め設定しておき、その回数だけ分離バッファ液の充填し直しを行なっても流路への分離バッファの充填が正常に行なわれたと判定されないときは、そのマイクロチップを保持部7から取り外し、別のマイクロチップに交換した後、工程(B)に戻る。分離バッファ液の充填のし直し許容する回数Nは特に限定されるものではないが、例えば2又は3が適当である。
【0044】
(Q)試料供給用リザーバ53−1にのみ吸引ノズル22−1が挿入され、そのリザーバ53−1の分離バッファ液が吸引されて除去される。この分離バッファ液の吸引動作では、吸引ノズル22−1を試料供給用リザーバ53−1内の複数の位置に順次移動させていき、各位置において先端からの吸引動作を一定時間ずつ行なうようにしてもよい。この場合のノズル22−1の移動方法としては、例えばリザーバ53−1の底面の中心位置を初期位置として外側へ一定距離ずつ、例えば100μmずつ移動させていく方法が挙げられる。このように、バッファ液の除去を互いに異なる位置における複数回の吸引によって行なうことで、1箇所のみで1回の吸引によって行なう場合よりもバッファ液の除去効率が向上する。これを示す実験結果を図12に示すが、図12については後述する。
【0045】
(R)分注ノズル8により試料供給用リザーバ53−1に洗浄液が供給される。洗浄液は例えば純水である。
(S)試料供給用リザーバ53−1に吸引ノズル22−1が挿入され、洗浄液が吸引されて除去される。
この(R),(S)の工程は試料供給用リザーバ53−1内に残存する分離バッファ液を除去するための洗浄工程である。この洗浄動作は必要に応じて複数回繰返し行なわれるようにしてもよい。
【0046】
なお、上記の洗浄工程(R),(S)は、その前の分離バッファ液除去工程(Q)が吸引ノズル22−1による1回の吸引動作を行なうものである場合には必須の工程であるが、分離バッファ液除去工程(Q)が上述のように吸引ノズル22−1を試料供給用リザーバ53−1内の複数の位置に順次移動させていき、各位置において先端からの吸引動作を一定時間ずつ行なうものである場合には必ずしも行なう必要はない。すなわち、分離バッファ液除去工程(Q)においてリザーバ53−1内の分離バッファ液が十分に除去されている場合には洗浄工程(R),(S)を省略してもよい。
【0047】
(T)試料供給用リザーバ53−1に分注プローブ8から試料が注入される。
(U)それぞれのリザーバ53−1〜53−4に電極が挿入されて試料供給用の電圧が印加され、試料が流路54と55の交差位置へ導かれる。
【0048】
(V)印加電圧が泳動分離用の電圧に切り換えられ、試料が分離流路55でリザーバ53−4の方向に電気泳動されて分離する。
(W)分析終了後、各吸引ノズル22−1〜22−4がリンスプール102に挿入されて洗浄液が吸引され、ノズル内外が洗浄されるとともに、プローブ8がリンスポート100に挿入されて内外が洗浄される。
【0049】
図11はマイクロチップの流路への分離バッファ液の充填後の試料供給用リザーバからの分離バッファ液吸引後に撮影した試料供給用リザーバの底面の状態である。(A)は試料供給用リザーバから分離バッファ液を吸引した直後に撮影したものであり、(B)は試料供給用リザーバから分離バッファ液を吸引し、その後に純水で洗浄を行なった後で撮影したものである。(A)では12枚の画像が存在するが、これは流路への分離バッファ液の充填、試料供給用リザーバからの分離バッファ液の吸引の動作を12回行なってその直後にそれぞれ1回ずつ撮影したものである。(B)は(A)の試料供給用リザーバからの分離バッファ液の吸引後に試料供給用リザーバの洗浄を行なってから撮影したものである。
【0050】
図11(A)に示されているように、分離バッファ液の吸引を行なった直後であるにもかかわらずリザーバ53−1の底面縁部にバッファ液が残存しており、その残存量も不均一である。これに対し、(B)に示されているように、分離バッファ液の吸引を行なった後に純水による洗浄工程を加えるとリザーバ底面の縁部にバッファ液の残存が見られなかった。
【0051】
図12は電気泳動分析における高分子マーカピーク面積値の変動係数(%)を示したものである。変動係数は(標準偏差/平均値)によって求めたものである。この測定では、マイクロチップ5−1〜5−4(図中では1〜4と表示)の4枚を用い、試料供給用リザーバに試料を分注する前のバッファ液除去工程において、吸引ノズルを複数の位置に移動させながら各位置において一定時間ずつバッファ液の吸引を行なった場合、試料供給用リザーバに試料を分注する前に純水による洗浄工程を実施した場合、純水の代わりに試料自体による洗浄工程を実施した場合、分離バッファ除去工程を1回の吸引によって行なうとともに洗浄工程を実施しなかった場合についてそれぞれ3回の測定を行なった。なお、この実験において、吸引ノズルを移動させて複数回の吸引を行なった場合には洗浄工程を実施していない。
【0052】
図12の実験の結果、純水による洗浄又は試料による洗浄を実施した場合にいずれの洗浄も実施しない場合よりも変動係数が低く抑えられ、測定結果の再現性が向上していることがわかった。また、分離バッファ液除去工程を複数回の吸引に分けて実施した場合にも1回の吸引によって実施した場合に比べて変動係数が低く抑えられ、測定結果の再現性が向上していることがわかった。これにより、洗浄工程の実施と分離バッファ液除去工程における複数位置での吸引動作の実施はいずれか一方のみでも電気泳動分析の再現性を向上させる効果があり、その効果をさらに高めるために両者を組み合わせることも可能である。
【0053】
上記の実施例では試料の分注を行なう前に純水による洗浄を実施するように構成されているが、試料による洗浄を実施するようにしてもよい。図12に示されているように、試料による洗浄を実施した場合にも純水による洗浄を実施した場合と変動係数に大きな差は見られなかった。しかし、試料による洗浄を実施すると試料の消費量が増えるため、希少試料である場合などには試料による洗浄は実施することができない。
【符号の説明】
【0054】
2 分注部
4 シリンジポンプ
5,5−1〜5−4 マイクロチップ
8 分注プローブ
8b 溝
16 分離バッファ液充填装置
22−1〜22−4 吸引ノズル
26(26−1〜26−4) 電気泳動用高圧電源部
38 制御部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状部材の内部に分離流路を少なくとも含む流路を備え、それらの流路の端部に開口したリザーバが設けられたマイクロチップを用い、以下の工程をその順に行なって試料を分注した後に電気泳動を行なうことを特徴とするマイクロチップ電気泳動方法。
(1)マイクロチップの所定のリザーバにバッファ液を分注するバッファ液分注工程、
(2)前記バッファ液分注工程で分注された分離バッファ液を前記流路に充填するバッファ液充填工程、
(3)試料供給用のリザーバ内の分離バッファ液を前記吸引ノズルにより吸引して除去するバッファ液除去工程、
(4)前記試料供給用リザーバに洗浄用の液を分注した後、その液を吸引する洗浄工程、及び、
(5)前記試料供給用リザーバに試料を分注する試料分注工程。
【請求項2】
前記バッファ液充填工程(2)とバッファ液除去工程(3)の間で、
全リザーバの分離バッファ液を吸引して除去した後、全リザーバに所定量の分離バッファ液を分注するバッファ液再分注工程(2A)も行なう請求項1に記載のマイクロチップ電気泳動方法。
【請求項3】
前記洗浄工程(4)を複数回繰り返す請求項1又は2に記載のマイクロチップ電気泳動方法。
【請求項4】
前記洗浄用の液は純水である請求項1から3のいずれか一項に記載のマイクロチップ電気泳動方法。
【請求項5】
板状部材の内部に分離流路を少なくとも含む流路を備え、それらの流路の端部に開口したリザーバが設けられたマイクロチップを用い、以下の工程をその順に行なって試料を分注した後に電気泳動を行なうことを特徴とするマイクロチップ電気泳動方法。
(1)前記マイクロチップの所定のリザーバにバッファ液を分注するバッファ液分注工程、
(2)前記バッファ液分注工程で分注された分離バッファ液を前記流路に充填するバッファ液充填工程、
(3)試料供給用のリザーバ内の互いに異なる複数の位置に吸引用のノズルを順次移動させて各位置において一定時間前記バッファ液の吸引を行なうことにより前記試料供給用リザーバ内のバッファ液を除去するバッファ液除去工程、及び
(4)前記試料供給用リザーバに試料を分注する試料分注工程。
【請求項6】
前記バッファ液充填工程(2)とバッファ液除去工程(3)の間で、
全リザーバの分離バッファ液を吸引して除去した後、全リザーバに所定量の分離バッファ液を分注するバッファ液再分注工程(2A)も行なう請求項4に記載のマイクロチップ電気泳動方法。
【請求項7】
前記バッファ液除去工程(3)と試料分注工程(4)の間で、
前記試料供給用リザーバに洗浄用の液を分注した後、前記吸引ノズルによりその液を吸引する洗浄工程(3A)も行なう請求項5又は6に記載のマイクロチップ電気泳動方法。
【請求項8】
板状部材の内部に分離流路を少なくとも含む流路を備え、それらの流路の端部に開口したリザーバが設けられたマイクロチップを、前記リザーバが上面にくるように保持するチップ保持部と、前記マイクロチップの流路に分離バッファ液を充填するバッファ液充填機構と、液を吸入し前記マイクロチップの所定のリザーバに注入するための分注プローブと、前記分注プローブを分注すべき液の吸入位置と前記マイクロチップ上の分注位置との間で移動させるプローブ移動機構と、前記リザーバ内の液を吸引するための吸引ノズルと、を少なくとも備えたマイクロチップ電気泳動装置において、
前記バッファ液充填機構、分注プローブ、プローブ移動機構及び吸引ノズルの動作を制御して、請求項1から7のいずれか一項に記載のマイクロチップ電気泳動方法を実行するように構成された制御部を備えているマイクロチップ電気泳動装置。
【請求項1】
板状部材の内部に分離流路を少なくとも含む流路を備え、それらの流路の端部に開口したリザーバが設けられたマイクロチップを用い、以下の工程をその順に行なって試料を分注した後に電気泳動を行なうことを特徴とするマイクロチップ電気泳動方法。
(1)マイクロチップの所定のリザーバにバッファ液を分注するバッファ液分注工程、
(2)前記バッファ液分注工程で分注された分離バッファ液を前記流路に充填するバッファ液充填工程、
(3)試料供給用のリザーバ内の分離バッファ液を前記吸引ノズルにより吸引して除去するバッファ液除去工程、
(4)前記試料供給用リザーバに洗浄用の液を分注した後、その液を吸引する洗浄工程、及び、
(5)前記試料供給用リザーバに試料を分注する試料分注工程。
【請求項2】
前記バッファ液充填工程(2)とバッファ液除去工程(3)の間で、
全リザーバの分離バッファ液を吸引して除去した後、全リザーバに所定量の分離バッファ液を分注するバッファ液再分注工程(2A)も行なう請求項1に記載のマイクロチップ電気泳動方法。
【請求項3】
前記洗浄工程(4)を複数回繰り返す請求項1又は2に記載のマイクロチップ電気泳動方法。
【請求項4】
前記洗浄用の液は純水である請求項1から3のいずれか一項に記載のマイクロチップ電気泳動方法。
【請求項5】
板状部材の内部に分離流路を少なくとも含む流路を備え、それらの流路の端部に開口したリザーバが設けられたマイクロチップを用い、以下の工程をその順に行なって試料を分注した後に電気泳動を行なうことを特徴とするマイクロチップ電気泳動方法。
(1)前記マイクロチップの所定のリザーバにバッファ液を分注するバッファ液分注工程、
(2)前記バッファ液分注工程で分注された分離バッファ液を前記流路に充填するバッファ液充填工程、
(3)試料供給用のリザーバ内の互いに異なる複数の位置に吸引用のノズルを順次移動させて各位置において一定時間前記バッファ液の吸引を行なうことにより前記試料供給用リザーバ内のバッファ液を除去するバッファ液除去工程、及び
(4)前記試料供給用リザーバに試料を分注する試料分注工程。
【請求項6】
前記バッファ液充填工程(2)とバッファ液除去工程(3)の間で、
全リザーバの分離バッファ液を吸引して除去した後、全リザーバに所定量の分離バッファ液を分注するバッファ液再分注工程(2A)も行なう請求項4に記載のマイクロチップ電気泳動方法。
【請求項7】
前記バッファ液除去工程(3)と試料分注工程(4)の間で、
前記試料供給用リザーバに洗浄用の液を分注した後、前記吸引ノズルによりその液を吸引する洗浄工程(3A)も行なう請求項5又は6に記載のマイクロチップ電気泳動方法。
【請求項8】
板状部材の内部に分離流路を少なくとも含む流路を備え、それらの流路の端部に開口したリザーバが設けられたマイクロチップを、前記リザーバが上面にくるように保持するチップ保持部と、前記マイクロチップの流路に分離バッファ液を充填するバッファ液充填機構と、液を吸入し前記マイクロチップの所定のリザーバに注入するための分注プローブと、前記分注プローブを分注すべき液の吸入位置と前記マイクロチップ上の分注位置との間で移動させるプローブ移動機構と、前記リザーバ内の液を吸引するための吸引ノズルと、を少なくとも備えたマイクロチップ電気泳動装置において、
前記バッファ液充填機構、分注プローブ、プローブ移動機構及び吸引ノズルの動作を制御して、請求項1から7のいずれか一項に記載のマイクロチップ電気泳動方法を実行するように構成された制御部を備えているマイクロチップ電気泳動装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図11】
【公開番号】特開2011−185714(P2011−185714A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50618(P2010−50618)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】
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