マイクロチップ電気泳動装置
【課題】複数のマイクロチップを搭載して各マイクロチップで繰り返して電気泳動分析を行なうことができるマイクロチップ電気泳動装置において、マイクロチップにおける分離性能のばらつきを改善する。
【解決手段】制御部38は、試料溶液分注量設定部102、分離媒体分注量設定部104及び試料溶液/分離媒体分注量設定部106を備えている。試料溶液分注量設定部102は、4枚のマイクロチップ5−1〜5−4(図2)における電気泳動分析でそれぞれ最適な分離性能が得られるようにマイクロチップ5−1〜5−4のそれぞれに対する試料溶液分注量を個別に設定するよう構成されたものである。
【解決手段】制御部38は、試料溶液分注量設定部102、分離媒体分注量設定部104及び試料溶液/分離媒体分注量設定部106を備えている。試料溶液分注量設定部102は、4枚のマイクロチップ5−1〜5−4(図2)における電気泳動分析でそれぞれ最適な分離性能が得られるようにマイクロチップ5−1〜5−4のそれぞれに対する試料溶液分注量を個別に設定するよう構成されたものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマイクロチップ電気泳動方法及びそのマイクロチップ電気泳動方法を実行するためのマイクロチップ電気泳動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マイクロチップ電気泳動では、分離用主流路の一端側に導入されたDNA、RNA又はタンパク質などの試料をその流路の両端間に印加した電圧によりその流路の他端方向に電気泳動させることにより分離させて検出する。
マイクロチップ電気泳動において、マイクロチップを繰り返し使用して、バッファ液の充填、試料分注、電気泳動及び分離された試料成分の検出を自動で行なう装置が開発されている。
【0003】
分析の稼働率を挙げるために、複数のマイクロチップを搭載し、それらのマイクロチップにおいて繰り返して電気泳動分析を行なうことが可能なマイクロチップ電気泳動装置がある(特許文献1参照。)。マイクロチップは流路の各端部に表面に開口したリザーバをもったものを使用し、マイクロチップ処理装置に装着するときはリザーバが上面にくるようにマイクロチップを保持する。流路への分離バッファ液の充填は、分離バッファ液充填・排出部により1つのリザーバに分離バッファ液を供給し、そのリザーバ上に空気供給口を押し付けて空気を供給することにより分離バッファ液を流路に押し込むことにより行なう。流路に分離バッファ液を充填した後、他のリザーバから溢れた分離バッファ液を吸引ノズルで吸引する。その後、試料供給用のリザーバに試料を分注する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第7678254号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような装置において、従来では、各マイクロチップにおいて毎回同じ分離精度が得られることを前提として装置が構成されていた。しかし、実際には、各マイクロチップにおける分離性能にばらつきがあることがわかった。
【0006】
そこで、本発明は、複数のマイクロチップを搭載して各マイクロチップで繰り返して電気泳動分析を行なうことができるマイクロチップ電気泳動装置において、マイクロチップにおける分離性能のばらつきを改善することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明が対象とするマイクロチップ電気泳動装置は、板状部材の内部に分離流路を少なくとも含む流路を備え、それらの流路の端部に開口したリザーバが設けられた複数のマイクロチップを、リザーバが上面にくるように固定して保持するチップ保持部と、マイクロチップの流路に分離媒体となる分離バッファ液を充填するバッファ液充填機構と、試料溶液を吸入しマイクロチップの所定のリザーバに注入するための分注プローブと、分注プローブを分注すべき試料溶液の吸入位置とマイクロチップ上の分注位置との間で移動させるプローブ移動機構と、リザーバ内の液を吸引するための吸引ノズルと、マイクロチップのそれぞれにおいて使用後の分離媒体を新たな分離媒体と交換した後に新たな試料の電気泳動分離を行うことによりマイクロチップのそれぞれで電気泳動分離を繰り返すようにバッファ液充填機構、分注プローブ、プローブ移動機構及び吸引ノズルの動作を制御する制御部と、を少なくとも備えたものである。
【0008】
上記のマイクロチップ電気泳動装置に搭載されている各マイクロチップ間において分離精度にばらつきがある場合がある。その原因の一つとして、各マイクロチップの個体差が挙げられる。すなわち、加工精度などにより各マイクロチップには個体差があるため、すべてのマイクロチップに対してまったく同じ位置に自動試料注入機構(オートサンプラ)の分注ノズルを位置決めすることは困難である。そのため、各マイクロチップのリザーバへの液の分注位置にばらつきがあり、そのばらつきによって各マイクロチップのリザーバにおける試料の状態にばらつきが生じ、それが各マイクロチップにおける分離精度のばらつきの原因となっていることがわかった。そして、これは試料の分注量が微量になるほど顕著に現れることがわかった。
【0009】
そこで、本発明にかかる第1のマイクロチップ電気泳動装置では、制御部が、最適な分離性能を得るための予め求められた試料溶液分注量をマイクロチップごとに設定した試料溶液分注量設定部を備え、かつ制御部は、試料溶液分注量設定部に設定された試料溶液分注量に基づいてマイクロチップごとに分注プローブによる試料溶液の分注動作を制御するようにした。これにより、各マイクロチップに対して最適な分離性能が得られる条件で試料溶液が分注されるようになる。
【0010】
さらに、制御部は、最適な分離性能を得るための予め求められた分離媒体分注量をマイクロチップごとに設定した分離媒体分注量設定部をさらに備え、かつ制御部は、分離媒体分注量設定部に設定された分離媒体分注量に基づいてマイクロチップごとにバッファ液充填機構による分離媒体の充填動作を制御するものであることが好ましい。そうすれば、各マイクロチップに対して最適な分離性能が得られる条件で分離媒体としてのバッファ液が分注されるようになり、マイクロチップ間の分離媒体の分注精度のばらつきによる分離性能のばらつきをなくすことができる。
【0011】
また、分離媒体として異なるバッファ液を用いて電気泳動分析を行なう場合、バッファ液の種類によって表面張力や粘性などの物理的特性が異なるため、それらの特定の違いによってバッファ液の分注量が異なったリ、分注精度が低下したりする場合がある。バッファ液の分注量が変化することによって泳動流路内に充填される分離媒体の量が変化すると、電気泳動分析の結果に影響を与え、分析結果の再現性が悪くなる。しかし、従来の装置では、バッファ液の特性の違いが分注精度に与える影響について考慮された構成にはなっていなかった。
【0012】
そこで、本発明にかかる第2のマイクロチップ電気泳動装置では、制御部が、最適な分離性能を得るための予め求められた試料溶液分注量及び/又は分離媒体分注量を分離媒体の種類ごとに設定した試料溶液/分離媒体分注量設定部を備え、かつ制御部は、試料溶液/分離媒体分注量設定部に設定された試料溶液分注量及び/又は分離媒体分注量に基づいて分離媒体の種類ごとに分注プローブによる試料溶液の分注動作及び/又はバッファ液充填機構による分離媒体の充填動作を制御する。これにより、分離媒体の特性によって生じる分注精度のばらつきによる分離性能のばらつきを改善することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の第1のマイクロチップ電気泳動装置によれば、制御部が、最適な分離性能を得るための予め求められた試料溶液分注量をマイクロチップごとに設定した試料溶液分注量設定部を備え、かつ制御部は、試料溶液分注量設定部に設定された試料溶液分注量に基づいてマイクロチップごとに分注プローブによる試料溶液の分注動作を制御するので、各マイクロチップ間における分注精度のばらつきに起因する分離性能のばらつきを改善し、分析結果の再現性を高めることができる。
【0014】
第2のマイクロチップ電気泳動装置では、制御部が、最適な分離性能を得るための予め求められた試料溶液分注量及び/又は分離媒体分注量を分離媒体の種類ごとに設定した試料溶液/分離媒体分注量設定部を備え、かつ制御部は、試料溶液/分離媒体分注量設定部に設定された試料溶液分注量及び/又は分離媒体分注量に基づいて分離媒体の種類ごとに分注プローブによる試料溶液の分注動作及び/又はバッファ液充填機構による分離媒体の充填動作を制御するので、分離媒体の特性によって生じる分注精度のばらつきによる分離性能のばらつきを改善し、分離媒体の特定にかかわらず高い再現性の分析結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】一実施例のマイクロチップ電気泳動装置における制御部に関する部分を概略的に示すブロック図である。
【図2】同実施例のマイクロチップ電気泳動装置の要部を概略的に示す斜視図である。
【図3】マイクロチップの一例を示す図であり、(A)と(B)はマイクロチップを構成する透明板状部材を示す平面図、(C)はマイクロチップの正面図である。
【図4】同マイクロチップの具体的な一例を示す平面図である。
【図5】同マイクロチップ電気泳動装置において分離媒体を充填する際の空気供給口とマイクロチップの接続状態を概略的に示す断面図である。
【図6】一実施例の動作を工程順に示す斜視図である。
【図7】同実施例の動作をその後の工程順に示す斜視図である。
【図8】同実施例の動作をさらにその後の工程順に示す斜視図である。
【図9】同実施例の動作をさらにその後の工程順に示す斜視図である。
【図10】同実施例の動作における処理手順を示すフローチャートである。
【図11】各マイクロチップで得られる分析結果の理論段数と試料溶液の分注量の設定値との関係を示すグラフであり、(A)はマイクロチップへの試料溶液の実際の分注量と理論段数との関係を示す実験データ、(B)はマイクロチップへの試料溶液の最適分注量が各マイクロチップで一致するように補正した後の分注量と理論段数との関係を示す実験データである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は本発明をマイクロチップ電気泳動装置1に適用した一実施例における制御部に関する部分を概略的に示すブロック図である。
分注部2は分注プローブを備えた分注プローブ駆動機構を含んでいる。分注部2の分注プローブは、シリンジポンプ4により分離バッファ液又は試料を吸入し、マイクロチップの電気泳動流路の一端に注入するものであり、複数の電気泳動流路について共通に設けられている。
【0017】
分離バッファ液充填・排出部16は電気泳動流路の一端に注入された分離バッファ液を空気圧により電気泳動流路に充填し、不用な分離バッファ液を吸引ポンプ部23により排出する。分離バッファ液充填・排出部16も、処理しようとする複数の電気泳動流路について共通に設けられている。電気泳動用高圧電源部26は電気泳動流路のそれぞれに独立して泳動用電圧を印加する。蛍光測定部31は電気泳動流路で分離された試料成分を検出する検出部の一例である。
【0018】
制御部38は、1つの電気泳動流路への分離バッファ液充填及び試料注入が終了すると次の電気泳動流路への分離バッファ液充填及び試料注入に移行するように分注部2の動作を制御し、試料注入が終了した電気泳動流路で泳動電圧を印加して電気泳動を起こさせるように電気泳動用高圧電源部26の動作を制御し、蛍光測定部31による検出動作を制御するものである。パーソナルコンピュータ40はこのマイクロチップ電気泳動装置の動作を指示したり、蛍光測定部31が得たデータを取り込んで処理したりするための外部制御装置である。制御部38は、試料溶液分注量設定部102、分離媒体分注量設定部104及び試料溶液/分離媒体分注量設定部106を備えている。これらの設定部102,104及び106については後述する。
【0019】
図2に一実施例のマイクロチップ電気泳動装置の要部を概略的に示す。マイクロチップ5−1〜5−4は保持部7に4個が固定して保持されている。マイクロチップ5−1〜5−4は後で詳しく説明するように、それぞれ1試料を処理するための1つの電気泳動流路が形成されたものである。マイクロチップ5−1〜5−4は分析操作中は保持部7に固定されている。
【0020】
それらのマイクロチップ5−1〜5−4に分離バッファ液と試料を分注するために、分注部2は、吸引と吐出を行なうシリンジポンプ4と、分注ノズルを備えた分注プローブ8と、洗浄液用の容器10とを備えており、分注プローブ8と洗浄液用の容器10は三方電磁弁6を介してシリンジポンプ4に接続されている。分離バッファ液と試料はマイクロタイタプレート12上の穴にそれぞれ収容されて、分注部2によりマイクロチップ5−1〜5−4に分注される。なお、分離バッファ液は専用の容器に収容してマイクロタイタプレート12の近くに配置してもよい。14は分注プローブ8を洗浄するための洗浄部であり、洗浄液が溢れている。
【0021】
分注部2は、三方電磁弁6を分注プローブ8とシリンジポンプ4が接続される方向に接続して分離バッファ液又は試料を分注プローブ8に吸引し、分注プローブ8をマイクロチップ5−1〜5−4上へ移動させてシリンジポンプ4によりマイクロチップ5−1〜5−4のいずれかの電気泳動流路に吐出する。分注プローブ8を洗浄する際は三方電磁弁6をシリンジポンプ4と洗浄液用の容器10を接続する方向に切り替え、シリンジポンプ4に洗浄液を吸引した後、分注プローブ8を洗浄部14の洗浄液に浸し、三方電磁弁6をシリンジポンプ4と分注プローブ8を接続する側に切り替えて分注プローブ8の内部から洗浄液を吐出することにより洗浄を行なう。
【0022】
マイクロチップ5−1〜5−4の電気泳動流路の一端のリザーバに分注された分離バッファ液を流路内に充填するために、4つのマイクロチップ5−1〜5−4について分離バッファ液充填・排出部16が共通に備えられている。分離バッファ液充填・排出部16はマイクロチップ5−1〜5−4上へ移動し、マイクロチップ5−1〜5−4のいずれかの電気泳動流路の一端のリザーバ上に空気供給口18を気密を保って押し付け、他のリザーバに吸引ノズル22を挿入し、空気供給口18から空気を吹き込んで分離バッファ液を電気泳動流路に押し込むとともに、他のリザーバから溢れた分離バッファ液をノズル22から吸引ポンプにより吸引して外部へ排出する。
【0023】
各マイクロチップ5−1〜5−4の電気泳動流路に独立して泳動用の電圧を印加するために、マイクロチップ5−1〜5−4ごとに独立した電気泳動用高圧電源26(26−1〜26−4)が設けられている。
【0024】
マイクロチップ5−1〜5−4の分離流路55で電気泳動分離された試料成分を検出するための蛍光測定部31は、マイクロチップ5−1〜5−4ごとに設けられてそれぞれの電気泳動流路の一部に励起光を照射するLED(発光ダイオード)30−1〜30−4と、電気泳動流路を移動する試料成分がLED30−1〜30−4からの励起光により励起されて発生した蛍光を受光する光ファイバ32−1〜32−4と、それらの光ファイバ32−1〜32−4からの蛍光から励起光成分を除去し、蛍光成分のみを透過させるフィルタ34−1,34−2を介して蛍光を受光する光電子増倍管36とを備えている。ここではフィルタ34−1と34−2で異なる蛍光を透過させるものを使用しているので、マイクロチップ51−1,51−2と51−3,51−4で互いに異なる蛍光を検出することができる。しかし、4つのマイクロチップ51−1〜4で同じ蛍光を検出する場合には、1つのフィルタを共通に使用することができる。LED30−1〜30−4を互いに時間をずらして発光させることにより、1つの光電子増倍管36で4つのマイクロチップ5−1〜5−4からの蛍光を識別して検出することができる。なお、励起光の光源としては、LEDに限らずLD(レーザダイオード)を用いてもよい。
【0025】
図3と図4はこの実施例におけるマイクロチップの一例を示したものである。本発明におけるマイクロチップは基板内に電気泳動流路が形成されたこのような電気泳動装置を指しており、必ずしもサイズの小さいものに限定される意味ではない。
【0026】
図3に示されるように、このマイクロチップ5は一対の透明基板(石英ガラスその他のガラス基板や樹脂基板)51,52からなり、一方の基板52の表面に、(B)に示されるように、互いに交差する泳動用キャピラリ溝54,55を形成し、他方の基板51には、(A)に示されるように、その溝54,55の端に対応する位置にリザーバ53を貫通穴として設け、両基板51,52を(C)に示すように重ねて接合し、キャピラリ溝54,55を試料の電気泳動分離用の分離流路55と、その分離流路に試料を導入するための試料導入流路54とする。
【0027】
マイクロチップ5は基本的には図3に示したものであるが、取扱いを容易にするために、図4に示されるように、電圧を印加するための電極端子を予めチップ上に形成したものを使用する。図4はそのマイクロチップ5の平面図を示したものである。4つのリザーバ53は流路54,55に電圧を印加するためのポートでもある。ポート#1と#2は試料導入流路54の両端に位置するポートであり、ポート#3と#4は分離流路55の両端に位置するポートである。各ポートに電圧を印加するために、このチップ5の表面に形成された電極パターン61〜64がそれぞれのポートからマイクロチップ5の側端部に延びて形成されており、電気泳動用高圧電源部26−1〜26−4に接続されるようになっている。
【0028】
図5はバッファ充填・排出部16における空気供給口18とマイクロチップ5の接続状態を概略的に示したものである。空気供給口18の先端にはOリング20が設けられており、空気供給口18をマイクロチップ5の1つのリザーバ上に押し当てることにより、マイクロチップ5の電気泳動流路に対し、空気供給口18を機密を保って取り付けることができ、空気供給口18から空気を加圧して流路内に送り出すことができる。他のリザーバにはノズル22が挿入され、流路から溢れ出した不用な分離バッファ液を吸入して排出する。
【0029】
ここで、図1に戻って、制御部38の試料溶液分注量設定部102、分離媒体分注量設定部104及び試料溶液/分離媒体分注量設定部106について説明する。
試料溶液分注量設定部102は、4枚のマイクロチップ5−1〜5−4(図2)における電気泳動分析でそれぞれ最適な分離性能が得られるようにマイクロチップ5−1〜5−4のそれぞれに対する試料溶液分注量を個別に設定するよう構成されたものである。
【0030】
マイクロチップ5−1〜5−4に対する試料溶液分注量への設定値をすべて同じにしても、マイクロチップ5−1〜5−4の個体差などによって各マイクロチップ5−1〜5−4への試料溶液の分注精度などにばらつきが生じ、そのばらつきによって、各マイクロチップ5−1〜5−4での電気泳動分析の分離性能にばらつきが生じる。そのため、各マイクロチップ5−1〜5−4への試料溶液の分注量として同じ値を一律に設定して電気泳動分析を行なうと、各マイクロチップ間で分離性能の異なる結果しか得られず、分析結果の再現性が悪くなる。そのため、制御部38の試料溶液分注量設定部102は各マイクロチップ5−1〜5−4において最適な分離性能が得られる試料溶液の分注量をそれぞれ設定し、設定した量の試料溶液を分注するように分注部2を制御する。
【0031】
各マイクロチップ5−1〜5−4への試料容器分注量は、予め実験により求められた実験値に基づいて設定される。実験値は図11(A)に示されているような実験データから求めることができ、そのような実験値は、試料溶液分注量設定部102が保持していてもよいし、PC40の記憶メモリー内に記憶されていてもよい。
【0032】
図11(A)に示されている実験データは、マイクロチップ5−1〜5−4(Chip#1〜Chip#4)への試料溶液の分注量として同じ値を設定して電気泳動分析を行なったときの各マイクロチップ5−1〜5−4で得られる分析結果の理論段数と試料溶液の分注量の設定値との関係の実験データである。この実験では、分離バッファ溶液としてDNA−1000キット(株式会社島津製作所の製品)、試料溶液としてφ×174-HaeIII marker(Promega)をTE緩衝液(トリス(Tris)とエチレンジアミン四酢酸(EDTA)からなる緩衝液)(ナカライテスク社)にて100倍希釈したものを使用した。このデータにおいて、横軸が試料溶液分注量の設定値(μL)であり、縦軸が理論段数である。理論段数Nは次の式の半値幅法により算出した。なお、trは保持時間、W0.5hは半値幅である。
N=5.54(tr/W0.5h)2
【0033】
図11(A)に示されているように、それぞれのマイクロチップにおいて複数の分注量条件を設定して測定すると、設定した分注量のうちで理論段数が最大となる分注量(以下、最適分注量という)が存在するが、その最適分注量はマイクロチップ5−1〜5−4のそれぞれで異なっている。そこで、このデータに基づいて、マイクロチップ5−1〜5−4のそれぞれの最適分注量を記憶しておき、試料溶液分注量設定部102はその最適分注量を分注量設定値としてマイクロチップ5−1〜5−4に個別に設定する。
【0034】
従来のように、すべてのマイクロチップ5−1〜5−4への試料溶液の分注量を規定値(2.75μL)に一律に設定すると、マイクロチップ5−1〜5−4の理論段数は次のようになり、マイクロチップ間で分離性能にばらつきが生じる。
マイクロチップ5−1:151975
マイクロチップ5−2:117365
マイクロチップ5−3:104421
マイクロチップ5−4:111240
【0035】
これに対し、マイクロチップ5−1〜5−4それぞれへの試料溶液の分注量設定値を最適分注量に補正することにより、図11(B)に示されるように、各マイクロチップ5−1〜5−4における最適分注量が規定値(2.75μL)となるように補正でき、下に示すように、マイクロチップ間の理論段数の差が小さくなり、分離性能のばらつきが改善され、いずれのマイクロチップにおいても高い分離性能が得られる。ここで、補正とは、規定値の2.75μLを分注量として設定すると、各マイクロチップに対する分注量設定値が最適分注量になるように補正され、その最適分注量の試料溶液が分注されるということである。
マイクロチップ5−1:151975
マイクロチップ5−2:135663
マイクロチップ5−3:155572
マイクロチップ5−4:161934
【0036】
また、試料溶液と同様に、マイクロチップ5−1〜5−4の個体差などによってマイクロチップ5−1〜5−4に分離媒体として分注される分離バッファ液の分注精度にもばらつきがある。そこで、分離媒体注入量設定部104は、各マイクロチップ5−1〜5−4への分離媒体分注量を個別に設定するようになっている。分離媒体分注量は実験値に基づいて設定され、そのような実験値は試料溶液と同様に理論段数が最大となる分注量を予め測定された実験データから求める。
【0037】
また、分離バッファ液の種類によっても分注精度が変化する。そこで、試料溶液/分離媒体分注量設定部106が、分析者が使用する分離媒体の種類が入力されたときに、その分離媒体の種類に応じて最適な試料溶液及び分離媒体の分注量を設定する。最適な試料溶液及び分離媒体の分注量は、予め各分離媒体を用いて測定した理論段数と分注量との関係データから理論段数が最大となる分注量として求められる実験値に基づいて設定される。
【0038】
このマイクロチップ処理装置においてマイクロチップは移動せずに保持部7に固定された状態で繰り返し使用されるものであり、その場合の処理手順を図6から図9に示し、図10のフローチャートにより説明する。図10のフローチャート中での符号(A〜U)は図6〜図9での工程の符号を意味する。ここで行なわれる処理は、前回の分析で使用されたマイクロチップを洗浄し、流路に分離バッファ液を充填し、各リザーバにも分離バッファ液を充填した状態で流路に電流が正常に流れるか否かの泳動テストを行ない、その後試料を分注して泳動を開始し、分注プローブと吸引ノズルを洗浄する一連の工程である。
【0039】
(A)は1つのマイクロチップ5を示している。マイクロチップ5は図3及び図4に示されたものであり、分離流路55と試料導入流路54が交差するように設けられ、各流路54,55の端部にリザーバ53が形成されたものである。図4の1番から4番までのリザーバをここでは符号53−1〜53−4で示す。
【0040】
(B)前の試料の分析が終了した状態であり、流路及び各リザーバには分離バッファ液が残っており、その分離バッファ液内に分離された試料も残っている。
【0041】
(C)まず試料供給用リザーバ53−1を洗浄するために、吸引ノズル22−1のみがリザーバ53−1に挿入される。吸引ノズル22−2と吸引ノズル22−3も吸引ノズル22−1と同時に上下動するものであるが、吸引ノズル22−1の長さが他の吸引ノズル22−2,22−3よりも長くなっているために、吸引ノズル22−1のみがリザーバ53−1に挿入されてそのリザーバ53−1の底部に押しつけられた状態となるが、他の吸引ノズル22−2,22−3はそれぞれの対応するリザーバ53−2,53−3には挿入されない。その状態で吸引ノズル22−1から吸引されることによりリザーバ53−1内の分離バッファ液が吸引されて除去される。
【0042】
(D)リザーバ53−1に分注プローブ8から洗浄水が供給される。
(E)再びリザーバ53−1に吸引ノズル22−1が挿入され、洗浄水が吸引されて排出される。
(F)リザーバ53−1に分注プローブ8から再び洗浄水が供給される。
【0043】
(G)次に、リザーバ53−1〜53−3にそれぞれ吸引ノズル22−1〜22−3が挿入される。このとき3つの吸引ノズル22−1〜22−3はそれぞれのリザーバ53−1〜53−3に挿入される。吸引ノズル22−1〜22−3はばね機構により伸縮できるようになっており、吸引ノズル22−1〜22−3の先端が何かに当接しない状態では吸引ノズル22−1が最も長くなるように取りつけられている。吸引ノズル22−1〜22−3の先端がリザーバ53−1〜53−3の底に押しつけられることによって、吸引ノズル22−1〜22−3はそれぞれのリザーバ53−1〜53−3の底に当接する。それらの3つの吸引ノズル22−1〜22−3から同時に液が吸引されて除去される。分注プローブ8はリンスポート100に挿入されて分注プローブ8内の洗浄水の全量が吐出されるとともに、分注プローブ8の内外が洗浄される。
【0044】
(H)他の一つのリザーバ53−4に4番目の吸引ノズル22−4が挿入される。この吸引ノズル22−4(図2には示されていない)は3本の吸引ノズル22−1〜22−3とは別に設けられ、図2に示された空気供給口用のシリンダ18の近くに配置されたものである。吸引ノズル22−4も押しつけられることによりリザーバ53−4の底に当接する。吸引ノズル22−4からリザーバ53−4内の分離バッファ液が吸引されて除去される。分注プローブ8はバッファ液を入れた試薬容器91から分離バッファ液を吸引する。
【0045】
(I)分注プローブ8をリザーバ53−4へ移動させ、分離バッファ液を分離媒体として分注する。分離バッファ液の分注量は、分離媒体分注量設定部104(図1)によりマイクロチップごとに設定された量である。
(J)リザーバ53−4上に空気供給口18が気密を保って押しつけられ、空気がリザーバ53−4から流路に供給される。他のリザーバ53−1〜53−3にはそれぞれ吸引ノズル22−1〜22−3が挿入され、流路からそれぞれのリザーバ53−1〜53−3に溢れ出した分離バッファ液が吸引されて除去される。
【0046】
(K)リザーバ53−4に吸引ノズル22−4が挿入され、そのリザーバ53−4の分離バッファ液が吸引されて除去される。これにより流路内にのみ分離バッファ液が残る状態となる。
(L)〜(O)リザーバ53−1〜53−4に分注プローブ8により分離バッファ液が順次分注される。
【0047】
(P)それぞれのリザーバに電極が挿入され、泳動テストが行なわれる。ここでは電極間の電流値を検出することにより流路にゴミや気泡が混入していないかどうかを確認する。ここで流路に印加する電圧は、試料を分離するための泳動電圧と同じであってもよいが、それよりも低電圧としてもよい。
分離バッファ液を分注した分注プローブ8はリンスポート100に挿入され、分注プローブ8内の分離バッファ液が全量吐出されるとともに分注プローブ8の内外が洗浄される。
【0048】
この泳動テスト工程で流路への分離バッファの充填が正常に行なわれたと判定されたときは、試料を注入して分析を行なうために次の工程(Q)へ進むが、流路への分離バッファの充填が正常に行なわれたと判定されなかったときは、流路への分離バッファ液の充填をし直すために工程(B)に戻る。
【0049】
流路への分離バッファ液の充填のし直しを許容する回数(N)を予め設定しておき、その回数だけ分離バッファ液の充填し直しを行なっても流路への分離バッファの充填が正常に行なわれたと判定されないときは、そのマイクロチップを保持部7から取り外し、別のマイクロチップに交換した後、工程(B)に戻る。分離バッファ液の充填のし直しを許容する回数Nは特に限定されるものではないが、例えば2又は3が適当である。
【0050】
(Q)試料供給用リザーバ53−1にのみ吸引ノズル22−1が挿入され、そのリザーバ53−1の分離バッファ液が吸引されて除去される。
(R)分注ノズル8により試料供給用リザーバ53−1に洗浄液が供給される。洗浄液は例えば純水である。
(S)試料供給用リザーバ53−1に吸引ノズル22−1が挿入され、洗浄液が吸引されて除去される。
【0051】
(T)試料供給用リザーバ53−1に分注プローブ8から所定量の試料溶液が分注される。試料溶液の分注量は、試料溶液分注量設定部102(図1)によりマイクロチップごとに設定された量である。
(U)それぞれのリザーバ53−1〜53−4に電極が挿入されて試料供給用の電圧が印加され、試料が流路54と55の交差位置へ導かれる。
【0052】
(V)印加電圧が泳動分離用の電圧に切り換えられ、試料が分離流路55でリザーバ53−4の方向に電気泳動されて分離する。
(W)分析終了後、各吸引ノズル22−1〜22−4がリンスプール102に挿入されて洗浄液が吸引され、ノズル内外が洗浄されるとともに、プローブ8がリンスポート100に挿入されて内外が洗浄される。
なお、実施例では、制御部38は、試料溶液分注量設定部102、分離媒体分注量設定部104及び試料溶液/分離媒体分注量設定部106のすべてを備えているが、そのうちの1つ又は2つを備えるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0053】
2 分注部
4 シリンジポンプ
5,5−1〜5−4 マイクロチップ
8 分注プローブ
8b 溝
16 分離バッファ液充填・排出部
22−1〜22−4 吸引ノズル
26(26−1〜26−4) 電気泳動用高圧電源部
38 制御部
102 試料溶液分注量設定部
104 分離媒体分注量設定部
106 試料溶液/分離媒体分注量設定部
【技術分野】
【0001】
本発明はマイクロチップ電気泳動方法及びそのマイクロチップ電気泳動方法を実行するためのマイクロチップ電気泳動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マイクロチップ電気泳動では、分離用主流路の一端側に導入されたDNA、RNA又はタンパク質などの試料をその流路の両端間に印加した電圧によりその流路の他端方向に電気泳動させることにより分離させて検出する。
マイクロチップ電気泳動において、マイクロチップを繰り返し使用して、バッファ液の充填、試料分注、電気泳動及び分離された試料成分の検出を自動で行なう装置が開発されている。
【0003】
分析の稼働率を挙げるために、複数のマイクロチップを搭載し、それらのマイクロチップにおいて繰り返して電気泳動分析を行なうことが可能なマイクロチップ電気泳動装置がある(特許文献1参照。)。マイクロチップは流路の各端部に表面に開口したリザーバをもったものを使用し、マイクロチップ処理装置に装着するときはリザーバが上面にくるようにマイクロチップを保持する。流路への分離バッファ液の充填は、分離バッファ液充填・排出部により1つのリザーバに分離バッファ液を供給し、そのリザーバ上に空気供給口を押し付けて空気を供給することにより分離バッファ液を流路に押し込むことにより行なう。流路に分離バッファ液を充填した後、他のリザーバから溢れた分離バッファ液を吸引ノズルで吸引する。その後、試料供給用のリザーバに試料を分注する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第7678254号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような装置において、従来では、各マイクロチップにおいて毎回同じ分離精度が得られることを前提として装置が構成されていた。しかし、実際には、各マイクロチップにおける分離性能にばらつきがあることがわかった。
【0006】
そこで、本発明は、複数のマイクロチップを搭載して各マイクロチップで繰り返して電気泳動分析を行なうことができるマイクロチップ電気泳動装置において、マイクロチップにおける分離性能のばらつきを改善することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明が対象とするマイクロチップ電気泳動装置は、板状部材の内部に分離流路を少なくとも含む流路を備え、それらの流路の端部に開口したリザーバが設けられた複数のマイクロチップを、リザーバが上面にくるように固定して保持するチップ保持部と、マイクロチップの流路に分離媒体となる分離バッファ液を充填するバッファ液充填機構と、試料溶液を吸入しマイクロチップの所定のリザーバに注入するための分注プローブと、分注プローブを分注すべき試料溶液の吸入位置とマイクロチップ上の分注位置との間で移動させるプローブ移動機構と、リザーバ内の液を吸引するための吸引ノズルと、マイクロチップのそれぞれにおいて使用後の分離媒体を新たな分離媒体と交換した後に新たな試料の電気泳動分離を行うことによりマイクロチップのそれぞれで電気泳動分離を繰り返すようにバッファ液充填機構、分注プローブ、プローブ移動機構及び吸引ノズルの動作を制御する制御部と、を少なくとも備えたものである。
【0008】
上記のマイクロチップ電気泳動装置に搭載されている各マイクロチップ間において分離精度にばらつきがある場合がある。その原因の一つとして、各マイクロチップの個体差が挙げられる。すなわち、加工精度などにより各マイクロチップには個体差があるため、すべてのマイクロチップに対してまったく同じ位置に自動試料注入機構(オートサンプラ)の分注ノズルを位置決めすることは困難である。そのため、各マイクロチップのリザーバへの液の分注位置にばらつきがあり、そのばらつきによって各マイクロチップのリザーバにおける試料の状態にばらつきが生じ、それが各マイクロチップにおける分離精度のばらつきの原因となっていることがわかった。そして、これは試料の分注量が微量になるほど顕著に現れることがわかった。
【0009】
そこで、本発明にかかる第1のマイクロチップ電気泳動装置では、制御部が、最適な分離性能を得るための予め求められた試料溶液分注量をマイクロチップごとに設定した試料溶液分注量設定部を備え、かつ制御部は、試料溶液分注量設定部に設定された試料溶液分注量に基づいてマイクロチップごとに分注プローブによる試料溶液の分注動作を制御するようにした。これにより、各マイクロチップに対して最適な分離性能が得られる条件で試料溶液が分注されるようになる。
【0010】
さらに、制御部は、最適な分離性能を得るための予め求められた分離媒体分注量をマイクロチップごとに設定した分離媒体分注量設定部をさらに備え、かつ制御部は、分離媒体分注量設定部に設定された分離媒体分注量に基づいてマイクロチップごとにバッファ液充填機構による分離媒体の充填動作を制御するものであることが好ましい。そうすれば、各マイクロチップに対して最適な分離性能が得られる条件で分離媒体としてのバッファ液が分注されるようになり、マイクロチップ間の分離媒体の分注精度のばらつきによる分離性能のばらつきをなくすことができる。
【0011】
また、分離媒体として異なるバッファ液を用いて電気泳動分析を行なう場合、バッファ液の種類によって表面張力や粘性などの物理的特性が異なるため、それらの特定の違いによってバッファ液の分注量が異なったリ、分注精度が低下したりする場合がある。バッファ液の分注量が変化することによって泳動流路内に充填される分離媒体の量が変化すると、電気泳動分析の結果に影響を与え、分析結果の再現性が悪くなる。しかし、従来の装置では、バッファ液の特性の違いが分注精度に与える影響について考慮された構成にはなっていなかった。
【0012】
そこで、本発明にかかる第2のマイクロチップ電気泳動装置では、制御部が、最適な分離性能を得るための予め求められた試料溶液分注量及び/又は分離媒体分注量を分離媒体の種類ごとに設定した試料溶液/分離媒体分注量設定部を備え、かつ制御部は、試料溶液/分離媒体分注量設定部に設定された試料溶液分注量及び/又は分離媒体分注量に基づいて分離媒体の種類ごとに分注プローブによる試料溶液の分注動作及び/又はバッファ液充填機構による分離媒体の充填動作を制御する。これにより、分離媒体の特性によって生じる分注精度のばらつきによる分離性能のばらつきを改善することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の第1のマイクロチップ電気泳動装置によれば、制御部が、最適な分離性能を得るための予め求められた試料溶液分注量をマイクロチップごとに設定した試料溶液分注量設定部を備え、かつ制御部は、試料溶液分注量設定部に設定された試料溶液分注量に基づいてマイクロチップごとに分注プローブによる試料溶液の分注動作を制御するので、各マイクロチップ間における分注精度のばらつきに起因する分離性能のばらつきを改善し、分析結果の再現性を高めることができる。
【0014】
第2のマイクロチップ電気泳動装置では、制御部が、最適な分離性能を得るための予め求められた試料溶液分注量及び/又は分離媒体分注量を分離媒体の種類ごとに設定した試料溶液/分離媒体分注量設定部を備え、かつ制御部は、試料溶液/分離媒体分注量設定部に設定された試料溶液分注量及び/又は分離媒体分注量に基づいて分離媒体の種類ごとに分注プローブによる試料溶液の分注動作及び/又はバッファ液充填機構による分離媒体の充填動作を制御するので、分離媒体の特性によって生じる分注精度のばらつきによる分離性能のばらつきを改善し、分離媒体の特定にかかわらず高い再現性の分析結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】一実施例のマイクロチップ電気泳動装置における制御部に関する部分を概略的に示すブロック図である。
【図2】同実施例のマイクロチップ電気泳動装置の要部を概略的に示す斜視図である。
【図3】マイクロチップの一例を示す図であり、(A)と(B)はマイクロチップを構成する透明板状部材を示す平面図、(C)はマイクロチップの正面図である。
【図4】同マイクロチップの具体的な一例を示す平面図である。
【図5】同マイクロチップ電気泳動装置において分離媒体を充填する際の空気供給口とマイクロチップの接続状態を概略的に示す断面図である。
【図6】一実施例の動作を工程順に示す斜視図である。
【図7】同実施例の動作をその後の工程順に示す斜視図である。
【図8】同実施例の動作をさらにその後の工程順に示す斜視図である。
【図9】同実施例の動作をさらにその後の工程順に示す斜視図である。
【図10】同実施例の動作における処理手順を示すフローチャートである。
【図11】各マイクロチップで得られる分析結果の理論段数と試料溶液の分注量の設定値との関係を示すグラフであり、(A)はマイクロチップへの試料溶液の実際の分注量と理論段数との関係を示す実験データ、(B)はマイクロチップへの試料溶液の最適分注量が各マイクロチップで一致するように補正した後の分注量と理論段数との関係を示す実験データである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は本発明をマイクロチップ電気泳動装置1に適用した一実施例における制御部に関する部分を概略的に示すブロック図である。
分注部2は分注プローブを備えた分注プローブ駆動機構を含んでいる。分注部2の分注プローブは、シリンジポンプ4により分離バッファ液又は試料を吸入し、マイクロチップの電気泳動流路の一端に注入するものであり、複数の電気泳動流路について共通に設けられている。
【0017】
分離バッファ液充填・排出部16は電気泳動流路の一端に注入された分離バッファ液を空気圧により電気泳動流路に充填し、不用な分離バッファ液を吸引ポンプ部23により排出する。分離バッファ液充填・排出部16も、処理しようとする複数の電気泳動流路について共通に設けられている。電気泳動用高圧電源部26は電気泳動流路のそれぞれに独立して泳動用電圧を印加する。蛍光測定部31は電気泳動流路で分離された試料成分を検出する検出部の一例である。
【0018】
制御部38は、1つの電気泳動流路への分離バッファ液充填及び試料注入が終了すると次の電気泳動流路への分離バッファ液充填及び試料注入に移行するように分注部2の動作を制御し、試料注入が終了した電気泳動流路で泳動電圧を印加して電気泳動を起こさせるように電気泳動用高圧電源部26の動作を制御し、蛍光測定部31による検出動作を制御するものである。パーソナルコンピュータ40はこのマイクロチップ電気泳動装置の動作を指示したり、蛍光測定部31が得たデータを取り込んで処理したりするための外部制御装置である。制御部38は、試料溶液分注量設定部102、分離媒体分注量設定部104及び試料溶液/分離媒体分注量設定部106を備えている。これらの設定部102,104及び106については後述する。
【0019】
図2に一実施例のマイクロチップ電気泳動装置の要部を概略的に示す。マイクロチップ5−1〜5−4は保持部7に4個が固定して保持されている。マイクロチップ5−1〜5−4は後で詳しく説明するように、それぞれ1試料を処理するための1つの電気泳動流路が形成されたものである。マイクロチップ5−1〜5−4は分析操作中は保持部7に固定されている。
【0020】
それらのマイクロチップ5−1〜5−4に分離バッファ液と試料を分注するために、分注部2は、吸引と吐出を行なうシリンジポンプ4と、分注ノズルを備えた分注プローブ8と、洗浄液用の容器10とを備えており、分注プローブ8と洗浄液用の容器10は三方電磁弁6を介してシリンジポンプ4に接続されている。分離バッファ液と試料はマイクロタイタプレート12上の穴にそれぞれ収容されて、分注部2によりマイクロチップ5−1〜5−4に分注される。なお、分離バッファ液は専用の容器に収容してマイクロタイタプレート12の近くに配置してもよい。14は分注プローブ8を洗浄するための洗浄部であり、洗浄液が溢れている。
【0021】
分注部2は、三方電磁弁6を分注プローブ8とシリンジポンプ4が接続される方向に接続して分離バッファ液又は試料を分注プローブ8に吸引し、分注プローブ8をマイクロチップ5−1〜5−4上へ移動させてシリンジポンプ4によりマイクロチップ5−1〜5−4のいずれかの電気泳動流路に吐出する。分注プローブ8を洗浄する際は三方電磁弁6をシリンジポンプ4と洗浄液用の容器10を接続する方向に切り替え、シリンジポンプ4に洗浄液を吸引した後、分注プローブ8を洗浄部14の洗浄液に浸し、三方電磁弁6をシリンジポンプ4と分注プローブ8を接続する側に切り替えて分注プローブ8の内部から洗浄液を吐出することにより洗浄を行なう。
【0022】
マイクロチップ5−1〜5−4の電気泳動流路の一端のリザーバに分注された分離バッファ液を流路内に充填するために、4つのマイクロチップ5−1〜5−4について分離バッファ液充填・排出部16が共通に備えられている。分離バッファ液充填・排出部16はマイクロチップ5−1〜5−4上へ移動し、マイクロチップ5−1〜5−4のいずれかの電気泳動流路の一端のリザーバ上に空気供給口18を気密を保って押し付け、他のリザーバに吸引ノズル22を挿入し、空気供給口18から空気を吹き込んで分離バッファ液を電気泳動流路に押し込むとともに、他のリザーバから溢れた分離バッファ液をノズル22から吸引ポンプにより吸引して外部へ排出する。
【0023】
各マイクロチップ5−1〜5−4の電気泳動流路に独立して泳動用の電圧を印加するために、マイクロチップ5−1〜5−4ごとに独立した電気泳動用高圧電源26(26−1〜26−4)が設けられている。
【0024】
マイクロチップ5−1〜5−4の分離流路55で電気泳動分離された試料成分を検出するための蛍光測定部31は、マイクロチップ5−1〜5−4ごとに設けられてそれぞれの電気泳動流路の一部に励起光を照射するLED(発光ダイオード)30−1〜30−4と、電気泳動流路を移動する試料成分がLED30−1〜30−4からの励起光により励起されて発生した蛍光を受光する光ファイバ32−1〜32−4と、それらの光ファイバ32−1〜32−4からの蛍光から励起光成分を除去し、蛍光成分のみを透過させるフィルタ34−1,34−2を介して蛍光を受光する光電子増倍管36とを備えている。ここではフィルタ34−1と34−2で異なる蛍光を透過させるものを使用しているので、マイクロチップ51−1,51−2と51−3,51−4で互いに異なる蛍光を検出することができる。しかし、4つのマイクロチップ51−1〜4で同じ蛍光を検出する場合には、1つのフィルタを共通に使用することができる。LED30−1〜30−4を互いに時間をずらして発光させることにより、1つの光電子増倍管36で4つのマイクロチップ5−1〜5−4からの蛍光を識別して検出することができる。なお、励起光の光源としては、LEDに限らずLD(レーザダイオード)を用いてもよい。
【0025】
図3と図4はこの実施例におけるマイクロチップの一例を示したものである。本発明におけるマイクロチップは基板内に電気泳動流路が形成されたこのような電気泳動装置を指しており、必ずしもサイズの小さいものに限定される意味ではない。
【0026】
図3に示されるように、このマイクロチップ5は一対の透明基板(石英ガラスその他のガラス基板や樹脂基板)51,52からなり、一方の基板52の表面に、(B)に示されるように、互いに交差する泳動用キャピラリ溝54,55を形成し、他方の基板51には、(A)に示されるように、その溝54,55の端に対応する位置にリザーバ53を貫通穴として設け、両基板51,52を(C)に示すように重ねて接合し、キャピラリ溝54,55を試料の電気泳動分離用の分離流路55と、その分離流路に試料を導入するための試料導入流路54とする。
【0027】
マイクロチップ5は基本的には図3に示したものであるが、取扱いを容易にするために、図4に示されるように、電圧を印加するための電極端子を予めチップ上に形成したものを使用する。図4はそのマイクロチップ5の平面図を示したものである。4つのリザーバ53は流路54,55に電圧を印加するためのポートでもある。ポート#1と#2は試料導入流路54の両端に位置するポートであり、ポート#3と#4は分離流路55の両端に位置するポートである。各ポートに電圧を印加するために、このチップ5の表面に形成された電極パターン61〜64がそれぞれのポートからマイクロチップ5の側端部に延びて形成されており、電気泳動用高圧電源部26−1〜26−4に接続されるようになっている。
【0028】
図5はバッファ充填・排出部16における空気供給口18とマイクロチップ5の接続状態を概略的に示したものである。空気供給口18の先端にはOリング20が設けられており、空気供給口18をマイクロチップ5の1つのリザーバ上に押し当てることにより、マイクロチップ5の電気泳動流路に対し、空気供給口18を機密を保って取り付けることができ、空気供給口18から空気を加圧して流路内に送り出すことができる。他のリザーバにはノズル22が挿入され、流路から溢れ出した不用な分離バッファ液を吸入して排出する。
【0029】
ここで、図1に戻って、制御部38の試料溶液分注量設定部102、分離媒体分注量設定部104及び試料溶液/分離媒体分注量設定部106について説明する。
試料溶液分注量設定部102は、4枚のマイクロチップ5−1〜5−4(図2)における電気泳動分析でそれぞれ最適な分離性能が得られるようにマイクロチップ5−1〜5−4のそれぞれに対する試料溶液分注量を個別に設定するよう構成されたものである。
【0030】
マイクロチップ5−1〜5−4に対する試料溶液分注量への設定値をすべて同じにしても、マイクロチップ5−1〜5−4の個体差などによって各マイクロチップ5−1〜5−4への試料溶液の分注精度などにばらつきが生じ、そのばらつきによって、各マイクロチップ5−1〜5−4での電気泳動分析の分離性能にばらつきが生じる。そのため、各マイクロチップ5−1〜5−4への試料溶液の分注量として同じ値を一律に設定して電気泳動分析を行なうと、各マイクロチップ間で分離性能の異なる結果しか得られず、分析結果の再現性が悪くなる。そのため、制御部38の試料溶液分注量設定部102は各マイクロチップ5−1〜5−4において最適な分離性能が得られる試料溶液の分注量をそれぞれ設定し、設定した量の試料溶液を分注するように分注部2を制御する。
【0031】
各マイクロチップ5−1〜5−4への試料容器分注量は、予め実験により求められた実験値に基づいて設定される。実験値は図11(A)に示されているような実験データから求めることができ、そのような実験値は、試料溶液分注量設定部102が保持していてもよいし、PC40の記憶メモリー内に記憶されていてもよい。
【0032】
図11(A)に示されている実験データは、マイクロチップ5−1〜5−4(Chip#1〜Chip#4)への試料溶液の分注量として同じ値を設定して電気泳動分析を行なったときの各マイクロチップ5−1〜5−4で得られる分析結果の理論段数と試料溶液の分注量の設定値との関係の実験データである。この実験では、分離バッファ溶液としてDNA−1000キット(株式会社島津製作所の製品)、試料溶液としてφ×174-HaeIII marker(Promega)をTE緩衝液(トリス(Tris)とエチレンジアミン四酢酸(EDTA)からなる緩衝液)(ナカライテスク社)にて100倍希釈したものを使用した。このデータにおいて、横軸が試料溶液分注量の設定値(μL)であり、縦軸が理論段数である。理論段数Nは次の式の半値幅法により算出した。なお、trは保持時間、W0.5hは半値幅である。
N=5.54(tr/W0.5h)2
【0033】
図11(A)に示されているように、それぞれのマイクロチップにおいて複数の分注量条件を設定して測定すると、設定した分注量のうちで理論段数が最大となる分注量(以下、最適分注量という)が存在するが、その最適分注量はマイクロチップ5−1〜5−4のそれぞれで異なっている。そこで、このデータに基づいて、マイクロチップ5−1〜5−4のそれぞれの最適分注量を記憶しておき、試料溶液分注量設定部102はその最適分注量を分注量設定値としてマイクロチップ5−1〜5−4に個別に設定する。
【0034】
従来のように、すべてのマイクロチップ5−1〜5−4への試料溶液の分注量を規定値(2.75μL)に一律に設定すると、マイクロチップ5−1〜5−4の理論段数は次のようになり、マイクロチップ間で分離性能にばらつきが生じる。
マイクロチップ5−1:151975
マイクロチップ5−2:117365
マイクロチップ5−3:104421
マイクロチップ5−4:111240
【0035】
これに対し、マイクロチップ5−1〜5−4それぞれへの試料溶液の分注量設定値を最適分注量に補正することにより、図11(B)に示されるように、各マイクロチップ5−1〜5−4における最適分注量が規定値(2.75μL)となるように補正でき、下に示すように、マイクロチップ間の理論段数の差が小さくなり、分離性能のばらつきが改善され、いずれのマイクロチップにおいても高い分離性能が得られる。ここで、補正とは、規定値の2.75μLを分注量として設定すると、各マイクロチップに対する分注量設定値が最適分注量になるように補正され、その最適分注量の試料溶液が分注されるということである。
マイクロチップ5−1:151975
マイクロチップ5−2:135663
マイクロチップ5−3:155572
マイクロチップ5−4:161934
【0036】
また、試料溶液と同様に、マイクロチップ5−1〜5−4の個体差などによってマイクロチップ5−1〜5−4に分離媒体として分注される分離バッファ液の分注精度にもばらつきがある。そこで、分離媒体注入量設定部104は、各マイクロチップ5−1〜5−4への分離媒体分注量を個別に設定するようになっている。分離媒体分注量は実験値に基づいて設定され、そのような実験値は試料溶液と同様に理論段数が最大となる分注量を予め測定された実験データから求める。
【0037】
また、分離バッファ液の種類によっても分注精度が変化する。そこで、試料溶液/分離媒体分注量設定部106が、分析者が使用する分離媒体の種類が入力されたときに、その分離媒体の種類に応じて最適な試料溶液及び分離媒体の分注量を設定する。最適な試料溶液及び分離媒体の分注量は、予め各分離媒体を用いて測定した理論段数と分注量との関係データから理論段数が最大となる分注量として求められる実験値に基づいて設定される。
【0038】
このマイクロチップ処理装置においてマイクロチップは移動せずに保持部7に固定された状態で繰り返し使用されるものであり、その場合の処理手順を図6から図9に示し、図10のフローチャートにより説明する。図10のフローチャート中での符号(A〜U)は図6〜図9での工程の符号を意味する。ここで行なわれる処理は、前回の分析で使用されたマイクロチップを洗浄し、流路に分離バッファ液を充填し、各リザーバにも分離バッファ液を充填した状態で流路に電流が正常に流れるか否かの泳動テストを行ない、その後試料を分注して泳動を開始し、分注プローブと吸引ノズルを洗浄する一連の工程である。
【0039】
(A)は1つのマイクロチップ5を示している。マイクロチップ5は図3及び図4に示されたものであり、分離流路55と試料導入流路54が交差するように設けられ、各流路54,55の端部にリザーバ53が形成されたものである。図4の1番から4番までのリザーバをここでは符号53−1〜53−4で示す。
【0040】
(B)前の試料の分析が終了した状態であり、流路及び各リザーバには分離バッファ液が残っており、その分離バッファ液内に分離された試料も残っている。
【0041】
(C)まず試料供給用リザーバ53−1を洗浄するために、吸引ノズル22−1のみがリザーバ53−1に挿入される。吸引ノズル22−2と吸引ノズル22−3も吸引ノズル22−1と同時に上下動するものであるが、吸引ノズル22−1の長さが他の吸引ノズル22−2,22−3よりも長くなっているために、吸引ノズル22−1のみがリザーバ53−1に挿入されてそのリザーバ53−1の底部に押しつけられた状態となるが、他の吸引ノズル22−2,22−3はそれぞれの対応するリザーバ53−2,53−3には挿入されない。その状態で吸引ノズル22−1から吸引されることによりリザーバ53−1内の分離バッファ液が吸引されて除去される。
【0042】
(D)リザーバ53−1に分注プローブ8から洗浄水が供給される。
(E)再びリザーバ53−1に吸引ノズル22−1が挿入され、洗浄水が吸引されて排出される。
(F)リザーバ53−1に分注プローブ8から再び洗浄水が供給される。
【0043】
(G)次に、リザーバ53−1〜53−3にそれぞれ吸引ノズル22−1〜22−3が挿入される。このとき3つの吸引ノズル22−1〜22−3はそれぞれのリザーバ53−1〜53−3に挿入される。吸引ノズル22−1〜22−3はばね機構により伸縮できるようになっており、吸引ノズル22−1〜22−3の先端が何かに当接しない状態では吸引ノズル22−1が最も長くなるように取りつけられている。吸引ノズル22−1〜22−3の先端がリザーバ53−1〜53−3の底に押しつけられることによって、吸引ノズル22−1〜22−3はそれぞれのリザーバ53−1〜53−3の底に当接する。それらの3つの吸引ノズル22−1〜22−3から同時に液が吸引されて除去される。分注プローブ8はリンスポート100に挿入されて分注プローブ8内の洗浄水の全量が吐出されるとともに、分注プローブ8の内外が洗浄される。
【0044】
(H)他の一つのリザーバ53−4に4番目の吸引ノズル22−4が挿入される。この吸引ノズル22−4(図2には示されていない)は3本の吸引ノズル22−1〜22−3とは別に設けられ、図2に示された空気供給口用のシリンダ18の近くに配置されたものである。吸引ノズル22−4も押しつけられることによりリザーバ53−4の底に当接する。吸引ノズル22−4からリザーバ53−4内の分離バッファ液が吸引されて除去される。分注プローブ8はバッファ液を入れた試薬容器91から分離バッファ液を吸引する。
【0045】
(I)分注プローブ8をリザーバ53−4へ移動させ、分離バッファ液を分離媒体として分注する。分離バッファ液の分注量は、分離媒体分注量設定部104(図1)によりマイクロチップごとに設定された量である。
(J)リザーバ53−4上に空気供給口18が気密を保って押しつけられ、空気がリザーバ53−4から流路に供給される。他のリザーバ53−1〜53−3にはそれぞれ吸引ノズル22−1〜22−3が挿入され、流路からそれぞれのリザーバ53−1〜53−3に溢れ出した分離バッファ液が吸引されて除去される。
【0046】
(K)リザーバ53−4に吸引ノズル22−4が挿入され、そのリザーバ53−4の分離バッファ液が吸引されて除去される。これにより流路内にのみ分離バッファ液が残る状態となる。
(L)〜(O)リザーバ53−1〜53−4に分注プローブ8により分離バッファ液が順次分注される。
【0047】
(P)それぞれのリザーバに電極が挿入され、泳動テストが行なわれる。ここでは電極間の電流値を検出することにより流路にゴミや気泡が混入していないかどうかを確認する。ここで流路に印加する電圧は、試料を分離するための泳動電圧と同じであってもよいが、それよりも低電圧としてもよい。
分離バッファ液を分注した分注プローブ8はリンスポート100に挿入され、分注プローブ8内の分離バッファ液が全量吐出されるとともに分注プローブ8の内外が洗浄される。
【0048】
この泳動テスト工程で流路への分離バッファの充填が正常に行なわれたと判定されたときは、試料を注入して分析を行なうために次の工程(Q)へ進むが、流路への分離バッファの充填が正常に行なわれたと判定されなかったときは、流路への分離バッファ液の充填をし直すために工程(B)に戻る。
【0049】
流路への分離バッファ液の充填のし直しを許容する回数(N)を予め設定しておき、その回数だけ分離バッファ液の充填し直しを行なっても流路への分離バッファの充填が正常に行なわれたと判定されないときは、そのマイクロチップを保持部7から取り外し、別のマイクロチップに交換した後、工程(B)に戻る。分離バッファ液の充填のし直しを許容する回数Nは特に限定されるものではないが、例えば2又は3が適当である。
【0050】
(Q)試料供給用リザーバ53−1にのみ吸引ノズル22−1が挿入され、そのリザーバ53−1の分離バッファ液が吸引されて除去される。
(R)分注ノズル8により試料供給用リザーバ53−1に洗浄液が供給される。洗浄液は例えば純水である。
(S)試料供給用リザーバ53−1に吸引ノズル22−1が挿入され、洗浄液が吸引されて除去される。
【0051】
(T)試料供給用リザーバ53−1に分注プローブ8から所定量の試料溶液が分注される。試料溶液の分注量は、試料溶液分注量設定部102(図1)によりマイクロチップごとに設定された量である。
(U)それぞれのリザーバ53−1〜53−4に電極が挿入されて試料供給用の電圧が印加され、試料が流路54と55の交差位置へ導かれる。
【0052】
(V)印加電圧が泳動分離用の電圧に切り換えられ、試料が分離流路55でリザーバ53−4の方向に電気泳動されて分離する。
(W)分析終了後、各吸引ノズル22−1〜22−4がリンスプール102に挿入されて洗浄液が吸引され、ノズル内外が洗浄されるとともに、プローブ8がリンスポート100に挿入されて内外が洗浄される。
なお、実施例では、制御部38は、試料溶液分注量設定部102、分離媒体分注量設定部104及び試料溶液/分離媒体分注量設定部106のすべてを備えているが、そのうちの1つ又は2つを備えるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0053】
2 分注部
4 シリンジポンプ
5,5−1〜5−4 マイクロチップ
8 分注プローブ
8b 溝
16 分離バッファ液充填・排出部
22−1〜22−4 吸引ノズル
26(26−1〜26−4) 電気泳動用高圧電源部
38 制御部
102 試料溶液分注量設定部
104 分離媒体分注量設定部
106 試料溶液/分離媒体分注量設定部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状部材の内部に分離流路を少なくとも含む流路を備え、それらの流路の端部に開口したリザーバが設けられた複数のマイクロチップを、前記リザーバが上面にくるように固定して保持するチップ保持部と、
前記マイクロチップの流路に分離媒体となる分離バッファ液を充填するバッファ液充填機構と、
試料溶液を吸入し前記マイクロチップの所定のリザーバに注入するための分注プローブと、
前記分注プローブを分注すべき試料溶液の吸入位置と前記マイクロチップ上の分注位置との間で移動させるプローブ移動機構と、
前記リザーバ内の液を吸引するための吸引ノズルと、
前記マイクロチップのそれぞれにおいて使用後の分離媒体を新たな分離媒体と交換した後に新たな試料の電気泳動分離を行うことにより前記マイクロチップのそれぞれで電気泳動分離を繰り返すように前記バッファ液充填機構、分注プローブ、プローブ移動機構及び吸引ノズルの動作を制御する制御部と、を少なくとも備えたマイクロチップ電気泳動装置において、
前記制御部は、最適な分離性能を得るための予め求められた試料溶液分注量を前記マイクロチップごとに設定した試料溶液分注量設定部を備え、かつ
前記制御部は、前記試料溶液分注量設定部に設定された試料溶液分注量に基づいて前記マイクロチップごとに前記分注プローブによる試料溶液の分注動作を制御することを特徴とするマイクロチップ電気泳動装置。
【請求項2】
前記制御部は、最適な分離性能を得るための予め求められた分離媒体分注量を前記マイクロチップごとに設定した分離媒体分注量設定部をさらに備え、かつ
前記制御部は、前記分離媒体分注量設定部に設定された分離媒体分注量に基づいて前記マイクロチップごとに前記バッファ液充填機構による分離媒体の充填動作を制御する請求項1に記載のマイクロチップ電気泳動装置。
【請求項3】
板状部材の内部に分離流路を少なくとも含む流路を備え、それらの流路の端部に開口したリザーバが設けられた複数のマイクロチップを、前記リザーバが上面にくるように保持するチップ保持部と、
前記マイクロチップの流路に分離媒体となる分離バッファ液を充填するバッファ液充填機構と、
試料溶液を吸入し前記マイクロチップの所定のリザーバに注入するための分注プローブと、
前記分注プローブを分注すべき試料溶液の吸入位置と前記マイクロチップ上の分注位置との間で移動させるプローブ移動機構と、
前記リザーバ内の液を吸引するための吸引ノズルと、
前記マイクロチップのそれぞれにおいて使用後の分離媒体を新たな分離媒体と交換した後に新たな試料の電気泳動分離を行うことにより前記マイクロチップのそれぞれで電気泳動分離を繰り返すように前記バッファ液充填機構、分注プローブ、プローブ移動機構及び吸引ノズルの動作を制御する制御部と、を少なくとも備えたマイクロチップ電気泳動装置において、
前記制御部は、最適な分離性能を得るための予め求められた試料溶液分注量及び/又は分離媒体分注量を分離媒体の種類ごとに設定した試料溶液/分離媒体分注量設定部を備え、かつ
前記制御部は、前記試料溶液/分離媒体分注量設定部に設定された試料溶液分注量及び/又は分離媒体分注量に基づいて分離媒体の種類ごとに前記分注プローブによる試料溶液の分注動作及び/又は前記バッファ液充填機構による分離媒体の充填動作を制御することを特徴とするマイクロチップ電気泳動装置。
【請求項1】
板状部材の内部に分離流路を少なくとも含む流路を備え、それらの流路の端部に開口したリザーバが設けられた複数のマイクロチップを、前記リザーバが上面にくるように固定して保持するチップ保持部と、
前記マイクロチップの流路に分離媒体となる分離バッファ液を充填するバッファ液充填機構と、
試料溶液を吸入し前記マイクロチップの所定のリザーバに注入するための分注プローブと、
前記分注プローブを分注すべき試料溶液の吸入位置と前記マイクロチップ上の分注位置との間で移動させるプローブ移動機構と、
前記リザーバ内の液を吸引するための吸引ノズルと、
前記マイクロチップのそれぞれにおいて使用後の分離媒体を新たな分離媒体と交換した後に新たな試料の電気泳動分離を行うことにより前記マイクロチップのそれぞれで電気泳動分離を繰り返すように前記バッファ液充填機構、分注プローブ、プローブ移動機構及び吸引ノズルの動作を制御する制御部と、を少なくとも備えたマイクロチップ電気泳動装置において、
前記制御部は、最適な分離性能を得るための予め求められた試料溶液分注量を前記マイクロチップごとに設定した試料溶液分注量設定部を備え、かつ
前記制御部は、前記試料溶液分注量設定部に設定された試料溶液分注量に基づいて前記マイクロチップごとに前記分注プローブによる試料溶液の分注動作を制御することを特徴とするマイクロチップ電気泳動装置。
【請求項2】
前記制御部は、最適な分離性能を得るための予め求められた分離媒体分注量を前記マイクロチップごとに設定した分離媒体分注量設定部をさらに備え、かつ
前記制御部は、前記分離媒体分注量設定部に設定された分離媒体分注量に基づいて前記マイクロチップごとに前記バッファ液充填機構による分離媒体の充填動作を制御する請求項1に記載のマイクロチップ電気泳動装置。
【請求項3】
板状部材の内部に分離流路を少なくとも含む流路を備え、それらの流路の端部に開口したリザーバが設けられた複数のマイクロチップを、前記リザーバが上面にくるように保持するチップ保持部と、
前記マイクロチップの流路に分離媒体となる分離バッファ液を充填するバッファ液充填機構と、
試料溶液を吸入し前記マイクロチップの所定のリザーバに注入するための分注プローブと、
前記分注プローブを分注すべき試料溶液の吸入位置と前記マイクロチップ上の分注位置との間で移動させるプローブ移動機構と、
前記リザーバ内の液を吸引するための吸引ノズルと、
前記マイクロチップのそれぞれにおいて使用後の分離媒体を新たな分離媒体と交換した後に新たな試料の電気泳動分離を行うことにより前記マイクロチップのそれぞれで電気泳動分離を繰り返すように前記バッファ液充填機構、分注プローブ、プローブ移動機構及び吸引ノズルの動作を制御する制御部と、を少なくとも備えたマイクロチップ電気泳動装置において、
前記制御部は、最適な分離性能を得るための予め求められた試料溶液分注量及び/又は分離媒体分注量を分離媒体の種類ごとに設定した試料溶液/分離媒体分注量設定部を備え、かつ
前記制御部は、前記試料溶液/分離媒体分注量設定部に設定された試料溶液分注量及び/又は分離媒体分注量に基づいて分離媒体の種類ごとに前記分注プローブによる試料溶液の分注動作及び/又は前記バッファ液充填機構による分離媒体の充填動作を制御することを特徴とするマイクロチップ電気泳動装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−242128(P2012−242128A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109625(P2011−109625)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
[ Back to top ]