マイクロチップ
【課題】本発明は、簡単な構成で、液体の保持及び通過を制御可能なマイクロチップを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のマイクロチップは、液体を導入する導入部11と、バルブ13と、液体を排出する排出部15とを有する。ここで、導入部11は、導入部本体11a、導入部入口11b、及び導入部出口11cを備える。また、排出部15は、第1排出流路15−1と、下流側の第2排出流路15−2を有する。バルブ13は、前記導入部出口11cと第1排出流路15−1とを接続し、液体の表面張力により前記排出部15に液体を排出させないように保持する。
【解決手段】本発明のマイクロチップは、液体を導入する導入部11と、バルブ13と、液体を排出する排出部15とを有する。ここで、導入部11は、導入部本体11a、導入部入口11b、及び導入部出口11cを備える。また、排出部15は、第1排出流路15−1と、下流側の第2排出流路15−2を有する。バルブ13は、前記導入部出口11cと第1排出流路15−1とを接続し、液体の表面張力により前記排出部15に液体を排出させないように保持する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の処理を行うマイクロチップに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療、食品、創薬等の分野で、数mm、数cmの大きさの基板上で、酵素、タンパク質、ウィルス、細胞などの生体物質を分離、反応、混合、測定及び検出等するLab on Chipと呼ばれる技術が近年注目されている。Lab on Chipで用いられるチップは一般にマイクロチップと呼ばれており、例えば、臨床分析チップ、環境分析チップ、遺伝子分析チップ(DNAチップ)、たんぱく質分析チップ(プロテオームチップ)、糖鎖チップ、クロマトグラフチップ、細胞解析チップ、製薬スクリーニングチップなどがある。
【0003】
マイクロチップには、前述の分離、反応、混合、測定及び検出等を行う処理部、試薬、処理前の試料、処理後の廃液等を保持する保持部及び流路などが設けられている。流路は、処理部どうしや処理部と保持部とを接続しており、微量の液体を保持部及び処理部から移動したり、保持部及び処理部に移動する。このような液体の移動を制御するために、マイクロチップ内にはバルブが設けられている。
【0004】
図16(a)は、特許文献1に示されるバルブの一例である。図16(a)に示される特許文献1のバルブは、マイクロチップ内に形成されており、左側リザーバ1a、右側リザーバ1b及び左側リザーバ1aと右側リザーバ1bとを接続するチューブ2を含む。ここで、左側リザーバ1a及び右側リザーバ1bの断面積は、チューブ2の断面積よりも大きい。液体の接触角θが90°以上の場合は、左側リザーバ1aとチューブ2との界面での圧力は、液体を左側リザーバ1a内に留めようとする方向に働く。よって、接触角θが90°以上の場合は、左側リザーバ1a内の液体に圧力を加えることでチューブ2内に導入し、さらに所定の圧力を加えて、液体を右側リザーバ1bに導入する。一方、液体の接触角θが90°未満の場合は、毛細管力のために、界面での圧力は液体をチューブ2に引き込む方向に働き、左側リザーバ1a内の液体はチューブ2に引き込まれる。そして、所定の圧力を加えて、液体を右側リザーバ1bに導入する。このように、特許文献1では断面積の異なるリザーバ及びチャネルを接続してバルブとして機能させる。
【0005】
また、特許文献2には、溶解性のバルブを凝固させて充填することで液体を所定の場所に封入し、逆に加熱などにより溶解することにより液体を通過させる技術が開示されている。
さらに、特許文献3には、機械的に開閉を行うバルブが開示されている。特許文献3のバルブは、弾性のあるバルブダイヤフラム及びパッキンにより構成されており、バルブを圧電素子により変形させることで流路の開閉を行う。
【特許文献1】特表2001−503854号公報
【特許文献2】特許第3537813号公報
【特許文献3】特許第2995401号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載のバルブの場合、液体を左側リザーバ1aに保持する必要がある場合に、保持したままにすることが困難な場合がある。図16(b)は、壁面と壁面との間の角部を移動する液体を示す拡大図である。図16(b)に示すように、左側リザーバ1a内の液体は、表面張力によりチューブ2を構成する壁面と壁面との間の角部を移動し、チューブ2を介して右側リザーバ1bに移動してしまう。特に、接触角θが90°未満で濡れ性が高い液体の場合には、毛細管力によりチューブ2に引き込まれ、さらに表面張力により壁面と壁面との間の角部を伝って右側リザーバ1bに移動してしまう挙動が顕著である。よって、特許文献1の構成のバルブを、液体を保持し、かつ通過させるバルブとして使用するのには問題がある。
【0007】
また、特許文献2に記載のバルブは液体を保持可能であるが、液体を取り出す場合にはバルブを溶解させる必要がある。この溶解したバルブが液体やその他の試薬等と混じり合い反応し、正確な定量や検出等ができなくなる場合がある。また、溶解性があり、かつ液体や試薬等と反応しない材料を選択する必要があるため、材料が限定されてしまう。さらに、バルブを所望の場所に充填したり、溶解したりすることが必要であり、マイクロチップの取り扱いが煩雑である。
【0008】
特許文献3のバルブは、バルブダイヤフラム、パッキン及び圧電素子などを形成する必要があり、微細化が困難、製造工程が複雑、製造コストが高いなどの問題を有している。また、バルブの開閉を制御する手順が煩雑であり、バルブとして弾性のある材料を選択する必要があるなどの問題も有する。
そこで、本発明は、簡単な構成で、液体の保持及び通過を制御可能なマイクロチップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願第1発明は、上記の課題を解決するために、液体を導入する導入部と、液体を排出する排出部と、前記導入部と前記排出部とを接続し、液体の表面張力により前記排出部に液体を排出させないように保持するバルブと、を含むマイクロチップを提供する。
バルブが導入部と排出部とを接続するように形成されているため、導入部から導入された液体は必ずバルブを通って排出部に排出される。ここで、導入部の液体がバルブに排出されても、液体はまずバルブ表面と接触することにより、バルブ表面での表面張力により導入部内及び/又はバルブ表面に保持される。そのため、上述のマイクロチップ内の導入部に導入された試薬等の液体は、運搬中や保管中などのマイクロチップの使用前に排出部に排出されてしまわない。また、所定の処理を行わない場合は液体を導入部に保持し、所定の処理を行う場合には表面張力を超える遠心力を液体に印加して液体を排出部に排出し、その後は表面張力により排出部からの逆流を阻止するなど、バルブにより液体の通過及び保持を簡単に制御することができる。
【0010】
上述のバルブによれば、導入部に液体を導入すれば、バルブでの液体の表面張力により排出部への液体の排出が阻止されるため、液体の保持及び排出の制御が簡単である。また、液体の排出を阻止するのに表面張力を用いるため、開閉式など複雑な構造ではなく簡単な構造でバルブを形成することができる。よって、バルブを含むマイクロチップの製造が容易であり、また微細化を行い易い。例えば、射出成形によりPET(poly ethylene terephthalate)基板に流路等を形成するのと同時に、流路等と同材料でバルブを形成することができ、簡単な製造工程により製造コストを小さくすることができる。さらに、開閉するなどバルブの動作により液体の保持及び排出を制御する構成ではないため、屈曲疲労の影響が無く寿命が長い。さらに、バルブを開閉するための動力源となる装置等が不要であり、マイクロチップの運搬や保管などを簡便に行うことができる。また液体の排出を食い止める特定材料の充填物を詰めるなどの工程も不要である。
【0011】
本願第2発明は、第1発明において、前記バルブは、液体を前記排出部に排出する少なくとも1つの開口を有する第1流路壁を有し、前記排出部は、前記第1流路壁とは独立の第2流路壁を有しており、前記第1流路壁と前記第2流路壁との間の流路は、前記排出部の少なくとも一部を形成しているマイクロチップを提供する。
例えば、バルブの第1流路壁は、排出部の第2流路壁から所定の距離だけ離隔し、第2流路壁に取り囲まれるように形成される。ここで、導入部の液体がバルブから流出したとしても、液体はバルブを形成する第1流路壁と接触することで、その表面張力により導入部内及びバルブの第1流路壁表面に保持され、排出部の第2流路壁には到達しない。ここで、第1流路壁及び第2流路壁間の流路と、第1流路壁とにより角部が形成されている。接触角θが90°未満で濡れ性が高い液体は、導入部から第1流路壁の開口を介して流出し、表面張力によりこの角部を伝わって第1流路壁の角部全体に行き渡ろうとする。しかし、第1流路壁と第2流路壁とが独立に離隔して形成されているため、液体はこの角部に留まるのみで第2流路壁には到達できない。このように、液体の接触角θが90°未満で濡れ性が高い場合であっても、運搬中や保管中などのチップの使用前に排出部に排出されてしまわない。
【0012】
導入部内及びバルブ表面に保持されている液体を排出部に排出する場合には、例えばマイクロチップに遠心力を加える。導入部内及びバルブの第1流路壁表面に保持されている液体は、表面張力以上の遠心力が加わると、バルブの第1流路壁の開口を介して第1流路壁と第2流路壁との間の排出部の流路に排出される。さらに、排出部の第2流路壁に到達した液体は、第2流路壁を伝ってさらに排出され易くなる。
【0013】
本願第3発明は、第2発明において、前記開口のサイズは、表面張力によって液体が流出されない大きさであるマイクロチップを提供する。
開口のサイズを前述のように設計することで、導入部及びバルブ表面に液体を保持することができる。
本願第4発明は、第2発明において、前記開口の幅は、前記第1流路壁と前記第2流路壁との間の流路の流路幅よりも小さいマイクロチップを提供する。
【0014】
第1流路壁の開口は、第1流路壁と前記第2流路壁との間の流路の流路幅よりも小さいため、液体は表面張力により第1流路壁の開口内に保持される。
本願第5発明は、第2発明において、前記第1流路壁と前記第2流路壁との間の流路には、少なくとも1つの前記開口に対向する位置に隔壁が設けられているマイクロチップを提供する。
【0015】
開口に対向する位置に隔壁が設けられているため、バルブの開口を介して液体が流出た場合でも隔壁により液体が受け止められ、開口から排出部に液体が排出されるのが抑制される。
本願第6発明は、第2発明において、前記バルブの第1流路壁は複数の構造物からなり、前記構造物の表面及び/又は前記構造物間に液体が保持されるマイクロチップを提供する。
【0016】
第1流路壁は、例えば扇形形状、円柱形状、三角柱形状等の構造物から形成されている。バルブが複数の構造物で構成されることで表面積を大きくして表面張力をより大きくし、排出部に液体を排出させないようにすることができる。
本願第7発明は、第2発明において、前記バルブの第1流路壁は環状の流路壁からなり、前記第1流路壁で囲まれる空間に液体が保持されるマイクロチップを提供する。
【0017】
バルブは、環状の流路壁で囲まれる空間に液体を保持するので、試薬や試料等の排出部への排出を阻止する機能だけでなく、試薬や試料等の保持部として機能を有する。
本願第8発明は、第1発明において、液体の接触角θは90°未満であるマイクロチップを提供する。
導入部に導入される液体の接触角θが90°未満であっても、バルブにより液体が導入部内及びバルブ表面に保持され、排出部に排出されない。
【0018】
本願第9発明は、前記本願第1発明に記載のマイクロチップの使用方法であって、前記マイクロチップを、回転軸を中心として回転することにより、前記液体の表面張力よりも大きな遠心力によって、前記導入部から前記排出部に液体を排出する、マイクロチップの使用方法を提供する。
マイクロチップに遠心力を加えない場合には、液体はバルブでの表面張力により排出部に排出されない。一方、表面張力よりも大きな遠心力を液体に加えた場合には、バルブにより保持されていた液体を排出部に排出することができる。試薬や試料等の混合、計量などの処理が遠心力を用いて行われる場合には、この遠心力を用いた一連の処理の中で液体を排出部に排出することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、簡単な構成で、液体の保持及び通過を制御可能なマイクロチップを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
<発明の概要>
本発明のマイクロチップは、液体を導入する導入部と、液体を排出する排出部と、導入部と排出部とを接続するバルブとを含む。バルブは、導入部の出口と排出部の入口とを連結しており、導入部に導入された液体を、その液体の表面張力により排出部に排出させないように保持している。ここで、導入部の液体がバルブに流出したとしても、液体はまずバルブ表面と接触することによりバルブ表面での表面張力により導入部内及び/又はバルブ表面に保持される。そのため、上述のマイクロチップ内の導入部に導入された試薬等の液体は、運搬中や保管中などのチップの使用前に排出部に排出されてしまわない。
【0021】
<第1実施形態例>
(1)バルブ周辺の構成
図1(a)〜(d)は、本発明に係るマイクロチップ100内のバルブ付近の説明図であり、図1(a)は本発明に係るマイクロチップ100内のバルブの構成を示す斜視図、図1(b)は本発明に係るバルブの構成を示す平面図、図1(c)は図1(b)のA−A’における断面図、図1(d)は図1(b)のB−B’における断面図である。
【0022】
図1(a)〜(d)に示す本発明のマイクロチップ100は、3枚の第1基板21、第2基板23及び第3基板25から形成され、試料や試薬等の液体が導入される導入部11、液体が排出される排出部15及び導入部11と排出部15とを接続するバルブ13を含む。
導入部11は、液体を保持する導入部本体11a、導入部入口11b及び導入部出口11cを有する。導入部入口11bは第1基板21を貫通するように形成され、マイクロチップ100外部から試料や試薬等が導入可能となっている。導入部本体11aは、第2基板23の下面に形成されている槽と第3基板25の上面とにより、その側壁面及び底部が形成されている。また、導入部出口11cは、第2基板23を貫通するように形成され、後述のバルブ入口13cに接続されている。
【0023】
バルブ13は、バルブを構成するバルブ構造物13−1、導入部出口11cに連続して形成されるバルブ入口13c及びバルブ入口13cからの液体を排出部15に排出するためのバルブ開口13bを含む。バルブ構造物13−1は4つのバルブ構造物13−1から構成されており、バルブ構造物13−1とバルブ構造物13−1との間には、排出部15とバルブ入口13cとを接続する溝によりバルブ開口13bが形成されている。複数のバルブ構造物でバルブを形成することで、表面積を大きくして表面張力をより大きくし、排出部15に液体を排出させないようにすることができる。また、バルブ構造物13−1の上面は第1基板21に接触しており、バルブ開口13bは第1基板21の下面と第2基板23の上面に形成されている溝とにより構成されている。よって、導入部11内の液体は、バルブ入口13c及びバルブ開口13bを介してのみ、後述の第1排出流路15−1に排出される。なお、バルブ開口13bの数は4つに限定されない。
【0024】
排出部15は、バルブ13の周囲を取り囲む第1排出流路15−1と、第1排出流路15−1の下流側の第2排出流路15−2とを含む。第1排出流路15−1及び第2排出流路15−2は、第2基板23の上面に形成されている溝と第1基板21の下面とにより形成されている。第1排出流路15−1は、バルブ構造物13−1の外壁面であるバルブ側壁面13aと、排出部側壁面15aと、排出部底部15bとにより囲まれて形成される流路である。バルブ側壁面13aと排出部側壁面15aとは、表面張力及び毛細管力によりバルブ側壁面13aから排出部側壁面15aに液体が伝わらない程度の距離をおいて離隔していれば良く、間隔は一定の距離であっても良いし、不連続な距離であっても良い。第2排出流路15−2は、互いに対向する排出部側壁面15aと、排出部底部15bとにより囲まれて形成される流路である。
【0025】
(2)バルブの動作
マイクロチップ100には、マイクロチップ100の使用前に試薬等の液体が予め導入される場合がある。ここで、導入部11に導入された液体は、マイクロチップ100の運搬中や保管中には導入部本体11aに保持されるのが好ましい。しかしながら、運搬方法や保管方法によっては、導入部本体11a内の試薬等の液体がバルブ13の方へ流出する場合がある。上述の通り、バルブ13は導入部11と排出部15とを接続するようにこれらの間に形成されているため、導入部11内の液体は必ずバルブ13を通って排出部15に排出される。ここで、導入部本体11a内の液体が、導入部出口11cを通りバルブ13に到達したとする。このとき、液体は、バルブ13の表面と接触することにより、バルブ表面での表面張力により導入部11内及び/又はバルブ13の表面に保持される。
【0026】
具体的に説明すると、導入部11内の液体は、まずバルブ入口13cからバルブ開口13bに到達する。このとき、接触角θが90以上で濡れ性が低い液体は、表面張力によってバルブ開口13b内に保持される。一方、接触角θが90°未満で濡れ性が高い液体は、導入部本体11aに対して導入部出口11cの流路幅が狭いため、毛細管現象により導入部出口11cに引き込まれる。そのため、濡れ性が高い液体は、導入部出口11c、バルブ入口13c及びバルブ開口13bにまで到達する。ここで、流路断面が矩形状に形成されている場合には、バルブ側壁面13aと排出部底部15bとにより角部が形成される。濡れ性が高い液体は、表面張力によりこの角部を伝わって、角部全体に行き渡ろうとする。しかし、前述の通り、バルブ側壁面13aと排出部側壁面15aとは、排出部底部15bを介して独立に離隔して形成されているため、液体はこの角部に留まって排出部側壁面15aには到達できない。よって、導入部11からバルブ13に液体が導入されたとしても、液体は、導入部11、バルブ入口13c、バルブ開口13b及び/又はバルブ側壁面13aの角部に保持される。
【0027】
(3)バルブの設計
(3−1)バルブに液体を保持可能な寸法
バルブ開口13bの幅や深さなどは、表面張力によって液体が流出されない大きさに設定する。以下に、接触角θが90°未満の液体を表面張力により保持可能なバルブの設計について説明する。図2は、接触角θが90°未満の液体の表面張力とバルブの寸法との関係を説明するための説明図である。
【0028】
図2に示すように、液体が、導入部出口11c及びバルブ入口13cを介して、バルブ開口13bに導入され、さらに排出部側壁面15aまで到達したとする。この場合、表面張力によってA点に働くラプラス圧PAは、以下の式(1)により算出される。
PA=γ×CA ・・・(1)
ここで、γは液体の表面張力であり、CAはA点における面曲率であり、以下の式(2)で表される。
【0029】
【数1】
R1及びR2は、図2に示すように、A点のバルブ開口13bにおける流路断面の深さd1及び幅w1それぞれに対応する曲率半径であり、以下の式(3)、(4)で表される。
【0030】
【数2】
よって、式(1)〜式(4)に基づいて、A点でのラプラス圧は次の式(5)で表される。
【0031】
【数3】
同様に、B点の第1排出流路15−1における流路断面の深さ及び幅を、それぞれ深さd2及び幅w2とすると、B点でのラプラス圧は次の式(6)で表される。
【0032】
【数4】
液体が排出部側壁面15aには到達せずにバルブ13に保持されるためには、以下の式(7)を満たす必要がある。
PA>PB ・・・(7)
つまり、以下の式(8)を満たす必要があり、式(8)から式(9)の関係式が求まる。
【0033】
【数5】
以上の式(9)を満たすようにバルブ13を設計することで、接触角θが90°未満の液体は、第1排出流路15−1に排出されることなく、バルブ13内に保持される。なお、バルブ開口13bの深さd1及び第1排出流路15−1の深さd2が同じ場合は、バルブ開口13bの幅W1を第1排出流路15−1の幅W2より小さく設計すれば良い。
【0034】
(3−2)実験例
上記関係式(9)を満たすバルブを、バルブ開口13bの幅w1を変えて作成した。作成したバルブ13に、接触角θが15°であるトータルコレステロール検査試薬(E−ChoA液)を導入して、常温で高さ2mからの落下試験を幅W1それぞれにおいて20回行った。図3(a)は、落下試験の結果であり、バルブ開口13bの幅w1(μm)と、落下耐性(%)との関係を示す関係図である。落下耐性は、20回の試験のうちバルブから液体が流出しない割合(%)を示すものである。図3(a)のグラフによると、バルブ開口13bの幅w1が500μmの場合は落下耐性は50%であり、バルブ開口13bの幅w1が400μmの場合は落下耐性は80%であり、バルブ開口13bの幅w1が300μm以下の場合は落下耐性は100%である。落下耐性が50%以下ではバルブとしての信頼性が低いので、バルブ開口13bの幅w1は500μm以下であるのが好ましい。また、バルブ開口13bの幅w1が400μm以下の場合はより落下耐性を高めることができ好ましい。さらには、バルブ開口13bの幅w1が300μm以下であると、高さ2mからマイクロチップを落下させた場合でも液体の流出を阻止することができ好ましい。
【0035】
次に、前述の落下試験と同様のマイクロチップを作成し、マイクロチップに遠心力を印加する遠心力印加試験行った。図3(b)は、遠心力印加試験の結果であり、バルブ開口13bの幅w1(μm)と、バルブがバースト遠心加速度(m/s2)との関係を示す関係図である。ここで、バルブがバーストする遠心加速度とは、バルブにより液体を保持することができなくなる遠心加速度である。図3(b)のグラフによると、バルブ開口13bの幅w1が500μmの場合は、バルブがバーストする遠心加速度は約500m/s2である。また、バルブ開口13bの幅w1が500μm以下の場合は、バーストする遠心加速度はいずれも約500m/s2以上である。よって、約500m/s2以下の遠心加速度の場合には、幅w1が500μm以下のバルブ開口13bを有するマイクロチップを2mの高さから落下したとしてもバルブ13により液体を保持することができることが確かめられた。
【0036】
なお、上記では、人間の身長を考慮し高さ2mの場合を採り上げて落下試験及び遠心力印加試験を行ってバルブ開口13bの幅w1の限界値を算出した。しかし、マイクロチップの使用環境に応じた高さを採り上げて、その高さに応じてバルブ開口13bの幅w1の限界値を算出しても良い。
(4)変形例
図4(a)〜(d)は、第1実施形態例に係るマイクロチップ100の変形例であり、図4(a)は本発明に係るマイクロチップ100内のバルブの構成を示す斜視図、図4(b)は本発明に係るバルブの構成を示す平面図、図4(c)は図4(b)のC−C’における断面図、図4(d)は図4(c)のD−D’における断面図である。
【0037】
前述の図1(a)〜(d)に示すバルブ13と異なる点は、前述の図1(a)〜(d)ではバルブ13が槽からなる導入部11と流路である排出部15との間に接続されているが、図4(a)〜(d)ではバルブ13が流路と流路との間に設けられている点である。流路71は、流路本体71a及び流路出口71bを含む。バルブ13のバルブ入口13cは、流路出口71bと接続されている。その他の構成は前述と同様であるので説明を省略する。このように、バルブ13は、槽の出口や入口に設けられても良いし、流路と流路との間に設けられても良い。
【0038】
その他、前述の図1(a)〜(d)のバルブ構造物13−1の上面は第1基板21に接触しているが、バルブ13により液体の保持及び通過を制御できれば、バルブ構造物13−1の上面と第1基板21の下面との間に隙間が設けられていてもよい。
(5)マイクロチップ全体
(5−1)マイクロチップの構成
図5は、上記バルブ13を適用したマイクロチップ全体の構成の一例を示す構成図である。マイクロチップ100は、第3基板25を底部とし、第2基板23に槽、流路及びバルブ等が形成され、上部となる第1基板21にはマイクロチップ外部に貫通する貫通孔が適宜形成される。以下に、図5を用いてマイクロチップ100の構成の一例について、検査対象として血液が導入されるものとして説明を行う。
【0039】
図5に示すマイクロチップ100の第1基板21と第2基板23との間には、血液導入部31、遠心分離管33、血球分離部35、バルブV2、バルブV3、バルブV3と廃液溜43とを接続する流路42、バルブV2と混合部51とを接続する流路47、バルブV4、バルブV5、混合部51、及び混合部51とバルブV6とを接続する流路53が形成されている。これらの流路、槽、バルブ等は、図1等の第1排出流路15−1と同様に第1基板21の下面と第2基板23の上面に形成されている溝等により形成される。
【0040】
一方、第1基板23と第2基板25との間には、バルブV1、バルブV1と計量部39とを接続する流路37、計量部39、計量部39とバルブV3とを接続する流路41、廃液溜43、計量部39とバルブV2とを接続する流路45、試薬溜49−1,49−2、バルブV6、検出路55及び取出口57が形成されている。これらの流路、槽、バルブ等は、図1等の導入部本体11aと同様に第2基板23の下面に形成されている溝等と第3基板23の上面とにより構成される。
【0041】
マイクロチップ100では、例えば遠心力を用いて各種処理が行われる。そのため、処理に応じて図5に示す中心1、中心2及び中心3を中心として、マイクロチップ100を回転する。以下に、マイクロチップ100の各部の構成を詳細に説明する。
血液導入部31は、マイクロチップ100外部から血液を取り込む。
遠心分離管33は、概ねU字形をしており、一方の開口した一端はバルブV1に接続されており、他方の開口した端部は血液導入部31に接続されている。また、遠心分離管33は、中心1を中心とする回転により血液導入部31から血液を取り込み、かつ血液から対象成分を含む血漿を遠心分離する。ここで、中心1を中心とする回転とは、中心1を中心としてマイクロチップ100を回転し、マイクロチップ100内部の液体に所定方向の遠心力を印加することを意味する。中心2及び中心3についても同様である。
【0042】
血球分離部35は、遠心分離管33のU字形の底部に設けられており、中心1とする遠心分離により、血液から対象成分以外の成分(以下、非対象成分という)である血球を分離し保持する。血球分離部35を設けることにより、対象成分を含む血漿と非対象成分である血球とを効率よく分離することができる。
計量部39は、遠心分離管33に続く流路37、廃液溜43に続く流路41及び混合部51に続く流路45と接続されており、所定の容積を有する。また、廃液溜43に続く流路41は、計量部39により所定量の血漿を計量可能なように計量部39の所定の位置に接続されている。計量部39には、中心2を中心とする回転により遠心分離管33から血漿が導入される。そして、計量部39から溢れ出た過剰量の血漿は、流路41及びバルブV3を介して廃液溜43に導入される。このようにして、所定量の血漿を正確に計量することができる。
【0043】
廃液溜43は、バルブV3を介して計量部39に接続され、前述のように過剰量の血漿を保持する。
試薬溜49−1、49−2は、それぞれバルブV4及びバルブV5を介して混合部51に接続されており、マイクロチップ100の使用前に試薬が予め導入されている。試薬溜49−1、49−2内の試薬は、遠心分離の際の中心1を中心とする回転により混合部51に導入される。
【0044】
混合部51は、バルブV4及びバルブV5を介して試薬溜49−1、49−2に接続され、流路47及びバルブV2を介して計量部39に接続され、流路53及びバルブV6を介して検出路55に接続されている。混合部51には、遠心分離の際の中心1を中心とする回転により試薬が導入されている。そして、中心2を中心とする回転により所定量の血漿が計量部39で計量された後、中心1を中心とする回転により所定量の血漿がバルブV2及び流路47を介して混合部51に導入される。次に、混合部51は、中心1及び中心2を中心とする回転により試薬と対象成分を含む血漿とを混合する。
【0045】
検出路55は、バルブV6を介して混合部51に接続されており、試薬と血漿との混合試料が導入される。例えば、検出を光学的に行う場合には、検出路55の一端から検出路55に光を導入し、検出路55を通過後の光を他端から取り出す。そして、光の透過量を測定することで、対象成分の定量を行う。検出路55は、Al等の光反射率が高い物質によりコーティングされていると好ましい。
【0046】
取出口57は、検出路55から検出終了後の血漿等を取り出す。
バルブV1〜バルブV6の個々の構成は、前述のバルブ13と同様の構成であるので詳細な説明は省略する。バルブV1は、遠心分離管33に対して下層に位置している。バルブV1では、上層の遠心分離管33の一端とバルブ入口13cとが、第2基板23を貫通する流路(図示せず)により接続されている。バルブV2は、計量部39に対して上層に位置し、流路45の一端とバルブ入口13cとが、第2基板23を貫通する流路(図示せず)により接続されている。バルブV3は、計量部39に対して上層に位置し、流路41の一端とバルブ入口13cとが、第2基板23を貫通する流路(図示せず)により接続されている。バルブV4及びバルブV5は試薬溜49−1、49−2に対して上層に位置し、試薬溜49−1、49−2の上部にバルブ入口13cまで第2基板23を貫通する流路(図示せず)が形成されている。バルブV6は、混合部51に対して下層に位置し、流路53の一端とバルブ入口13cとが、第2基板23を貫通する流路(図示せず)により接続されている。これらのバルブV1〜バルブV6は、マイクロチップ100に遠心力が印加されていない場合の液体の移動や遠心力方向と無関係の方向への液体の移動などの意図しない移動を阻止する。
【0047】
(5−2)マイクロチップの動作
次に、マイクロチップの使用方法及びマイクロチップ内での各種処理の手順を説明する。図6は、マイクロチップでの使用方法及びマイクロチップ内での各種処理の手順を示すフローチャートの一例である。
(a)血液導入
マイクロチップ100の試薬溜49−1,49−2には、予め試薬が保持されている。まず、血液導入部31に血液が導入される。
【0048】
(b)血球分離
次に、中心1を中心とする回転により、マイクロチップ100内の液体に矢印方向(同図(b)参照)の遠心力を印加する。これにより、まず、血液は、血液導入部31から遠心分離管33に導入される。さらなる中心1を中心とする回転により、血液中の血球は血球分離部35の底部に導入され、血漿が上澄みとして分離される。この中心1と中心とする遠心分離の際に、試薬溜49−1,49−2に保持されている試薬が、バルブV4及びバルブV5を介して混合部51に導入される。
【0049】
(c)血漿の計量
次に、中心2を中心とする回転により矢印方向(同図(c)参照)の遠心力を印加し、遠心分離管33及び血球分離部35内の血漿をバルブV1及び流路37を介して計量部39に導入する。血球及び/又は血漿の一部は、血球分離部35に保持され計量部39には導入されない。計量部39に導入された血漿のうち所定量以上の血漿は、計量部39から流路41、バルブV3及び流路42を介して廃液溜43に廃棄される。血漿の計量が終了すると、中心2を中心とする回転を終了する。
【0050】
(d)混合1
次に、中心1を中心とする回転により矢印方向(同図(d)参照)の遠心力を印加し、計量部39で計量された血漿を混合部51に導入し、血漿と試薬とを混合する。
(e)混合2
回転中心を変えて、中心2を中心とする回転により矢印方向(同図(e)参照)の遠心力を印加し、血漿と試薬とを混合する。
【0051】
(f)混合3
さらに、再び中心1を中心とする回転により矢印方向(同図(f)参照)の遠心力を印加し、血漿と試薬とをさらに混合する。
(g)検出路への導入
次に、中心3を中心とする回転により矢印方向(同図(g)参照)の遠心力を印加し、血漿と試薬との混合試料を検出路55に導入する。
【0052】
(h)比色測定
最後に、混合試料が導入された検出路55に光を透過させて、検出路55を通過後の光光の透過量を測定することで、対象成分の定量を行う。
(5−3)各バルブの機能
次に、各バルブV1からV6の機能を説明する。
【0053】
(a)バルブV1
バルブV1は、血漿の計量の処理(図6(c)参照)の場合に、血球分離部35及び遠心分離管33から流路37及び計量部39へ血漿を導入し、血漿の計量以外の処理において血球分離部35及び計量部39からの血球及び血漿の意図しない移動を阻止する。バルブV1による血球及び血漿の意図しない移動を阻止する仕組みを以下に説明する。
【0054】
(i)遠心分離管33から流路37への流出の阻止
血球分離の処理(図6(b)参照)が終了した後は、血球分離部35及び遠心分離管33内には血球及び血漿が分離して存在している。次のステップである血漿の計量の処理(図6(c)参照)までの間は、血漿を計量部39で正確に計量するために、血漿及び血球を血球分離部35及び遠心分離管33に留めておくのが好ましい。例えば、血漿が遠心分離管33、流路37等を伝って流出した場合には、さらにバルブV2につながる流路47にも血漿が導入され、所望量の血漿を正確に計量出来なくなってしまうからである。ここで、血球分離部35からバルブV1に続く遠心分離管33は、血球分離部35より流路幅が狭い。そのため、回転が終了して遠心力が印加されていない場合であっても、血球分離部35内の血球及び血漿は、毛細管現象によりバルブV1の方へ伝わって行こうとする。そして、表面張力によりバルブV1のバルブ側壁面13aと排出部底部15bとの角部を伝わって、角部全体に行き渡ろうとする。しかし、バルブV1のバルブ側壁面13aが、排出部側壁面15aとは離隔しているため、血球分離部35内の血球及び血漿は、表面張力によりバルブ側壁面13aと排出部底部15bとの角部に留まってバルブV1から流路37へされない。このときの排出部15とは流路37であり、排出部側壁面15aとはバルブ側壁面13aと対向するように流路37に連続して形成されている側壁面である。
【0055】
次に、血漿の計量の処理(図6(c)参照)が終了した後は、血球分離部35内には血球及び/又は血漿の一部が残留し、計量部39には血漿が存在している。遠心力が印加されていない場合であっても、上述と同様の作用により、血球分離部35内に残留している血球及び/又は血漿の一部は、毛細管現象及び表面張力により遠心分離管33の角部を伝わってバルブV1に到達しようとする。しかし、バルブ側壁面13aが、排出部側壁面15aとは離隔しているため、血球分離部35内の血球及び/又は血漿の一部はバルブV1から流路37へ排出されない。
【0056】
なお、マイクロチップ100に遠心力が印加されており、血球分離部35から流路37に向かう方向と遠心力方向とが異なる場合であっても、血球分離部35内の血球及び/又は血漿は、表面張力及び毛細管力により血球分離部35からバルブV1へ移動し得る。つまり、血球分離部35内の血球及び/又は血漿は、その表面張力及び毛細管力によって、遠心力方向に逆らって血球分離部35からバルブV1へ移動する場合もあり得る。しかし、前述のようにバルブV1のバルブ側壁面13aと、排出部側壁面15aとが離隔して独立に形成されているため、血漿の計量以外の処理において、血球分離部35から計量部39へ血漿が排出されるのが阻止される。
【0057】
(ii)計量部39から流路37への逆流の阻止
流路37は計量部39より流路幅が狭いため、回転が終了して遠心力が印加されていない場合であっても、計量部39内の血漿は、毛細管現象によりバルブV1に向かって流路37を伝わって行こうとする。そして、表面張力により排出部側壁面15aと排出部底部15bとの角部を伝わって、角部全体に行き渡ろうとする。このときの排出部底部15bとは、流路37に連続して形成されている流路底部である。しかし、排出部側壁面15aは、バルブV1のバルブ側壁面13aとは離隔しているため、血漿は、表面張力により排出部側壁面15aと排出部底部15bとの角部に留まってバルブV1から遠心分離管33の方へ逆流しない。
【0058】
なお、マイクロチップ100に遠心力が印加されているおり、計量部39からバルブV1へ向かう方向と遠心力方向とが異なる場合であっても、血漿は、表面張力及び毛細管力により計量部39からバルブV1へ移動し得る。つまり、計量部39内の血漿は、その表面張力及び毛細管力によって、遠心力方向に逆らって計量部39からバルブV1へ移動する場合もある。しかし、前述のようにバルブV1のバルブ側壁面13aと排出部側壁面15aとが離隔して独立に形成されているため、計量部39からバルブV1への血漿の逆流を阻止することができる。
【0059】
(b)バルブV2
バルブV2は、混合1の処理(図6(d)参照)の場合に計量部39から混合部51に血漿を導入し、混合1以外の処理において計量部39及び混合部51からの血漿及び混合試料の意図しない移動を阻止する。バルブV2による血漿及び混合試料の意図しない移動を阻止する仕組みは、バルブV1の場合とほぼ同様の仕組みであるので以下に簡単に説明する。
【0060】
(i)計量部39から流路47への流出の阻止
血漿の計量の処理(図6(c)参照)が終了した後は、計量部39には血漿が存在している。ここで、計量部39からバルブV2に続く流路45は、計量部39より流路幅が狭い。そのため、回転が終了して遠心力が印加されていない場合であっても、計量部39内の血漿は、毛細管現象及び表面張力によりバルブV2のバルブ側壁面13aに到達する。しかし、バルブV2のバルブ側壁面13aが排出部側壁面15aとは離隔しているため、血漿は、表面張力によりバルブ側壁面13aと排出部底部15bとの角部に留まってバルブV2から流路47へ排出されない。このときの排出部15とは流路47であり、排出部側壁面15aとはバルブ側壁面13aと対向するように流路47に連続して形成されている側壁面である。
【0061】
このように、混合1の処理までは血漿を計量部39に留めることで、混合部51に血漿を導入するタイミングを制御して血漿と試薬との混合時間等を精度良く制御できる。また、混合部53に所望量の血漿を導入することができる。
なお、計量部39内の血漿は、その表面張力及び毛細管力によって、遠心力方向に逆らって計量部39からバルブV2へ移動する場合もあり得る。しかし、前述のようにバルブV2のバルブ側壁面13aと排出部側壁面15aとが離隔して独立に形成されているため、混合1以外の処理において、計量部39から混合部51へ血漿が排出されるのが阻止される。
【0062】
(ii)混合部51から流路47への逆流の阻止
血球分離の処理(図6(b)参照)が終了した後は、試薬溜49−1,49−2内の試薬が混合部51に導入されている。ここで、混合部51からバルブV2に続く流路47は、混合部51より流路幅が狭いため、回転が終了して遠心力が印加されていない場合であっても、混合部51内の試薬は、毛細管現象によりバルブV2に向かって流路47を伝わって行こうとする。そして、表面張力により排出部側壁面15aと排出部底部15bとの角部を伝わって、角部全体に行き渡ろうとする。このときの排出部底部15bとは、流路47に連続して形成されている流路底部である。しかし、排出部側壁面15aは、バルブV2のバルブ側壁面13aとは離隔しているため、試薬は、表面張力により排出部側壁面15aと排出部底部15bとの角部に留まってバルブV2から流路45の方へ逆流しない。
【0063】
混合1の処理(図6(d)参照)が終了した後は、混合部51内には、試薬と血漿との混合試料が存在している。前述と同様に、排出部側壁面15aは、バルブV2のバルブ側壁面13aとは離隔しているため、混合試料は、表面張力により排出部側壁面15aと排出部底部15bとの角部に留まってバルブV2から流路45の方へ逆流しない。
なお、混合部51内の試薬及び混合試料は、遠心力方向に逆らって混合部51からバルブV2へ移動する場合もあり得るが、バルブV2のバルブ側壁面13aと排出部側壁面15aとが離隔して独立に形成されているため、バルブV2から流路45の方へ逆流しない。
【0064】
(c)バルブV3
バルブV3は、血漿の計量の処理(図6(c)参照)の場合に、計量部39から廃液溜43へ血漿を導入し、血漿の計量以外の処理において計量部39及び廃液溜43からの血漿の意図しない移動を阻止する。バルブV3による血漿の意図しない移動を阻止する仕組みは、前述のバルブV1等の場合とほぼ同様の仕組みであるので以下に簡単に説明し、詳細な説明は省略する。
【0065】
(i)計量部39から流路42への流出の阻止
血漿の計量の処理(図6(c)参照)が終了した後は、計量部39には血漿が存在している。バルブV3は、血漿の計量までは血漿を計量部39に留め、計量部39から廃液溜43への血漿の流出を阻止する。これにより、計量部39において、血漿を正確に計量することができる。
【0066】
(ii)廃液溜43から流路41への逆流の阻止
血漿の計量の処理(図6(c)参照)が終了した後は、廃液溜43には計量部39から溢れ出た血漿が排出されているが、バルブV3は、排出された血漿を廃液溜43に留め、廃液溜43から計量部39への血漿の逆流を阻止する。これによっても、計量部39において、血漿を正確に計量することができる。
【0067】
(d)バルブV4、バルブV5
バルブV4は、血球の分離の処理(図6(b)参照)の場合に、試薬溜49−1、49−2から混合部51へ試薬を導入し、血球の分離以外の処理において試薬溜49−1、49−2及び混合部51からの試薬及び混合試料の意図しない移動を阻止する。バルブV4、バルブV5による試薬及び混合試料の意図しない移動を阻止する仕組みは、前述のバルブV1等の場合とほぼ同様の仕組みであるので以下に簡単に説明し、詳細な説明は省略する。
【0068】
(i)試薬溜49−1、49−2から混合部51への流出の阻止
試薬溜49−1、49−2には、予め試薬が導入されている。バルブV4、バルブV5は、血球の分離までは試薬を試薬溜49−1、49−2に留め、運搬中等のマイクロチップの使用前において試薬溜49−1、49−2から混合部51に試薬が流出するのを阻止する。
【0069】
(ii)混合部51から試薬溜49−1、49−2への逆流の阻止
血球の分離の処理(図6(b)参照)が終了した後は混合部51に試薬が存在し、また混合1の処理(図6(d)参照)が終了した後は混合部51に混合試料が存在している。バルブV4、バルブV5は、混合部51内の試薬及び混合試料が混合部51から試薬溜49−1、49−2に逆流するのを阻止する。
【0070】
(e)バルブV6
バルブV6は、検出路への導入の処理(図6(g)参照)の場合に、混合部51から検出路55に混合試料を導入し、検出路への導入以外の処理において混合部51及び検出路55からの試薬及び混合試料の意図しない移動を阻止する。バルブV6による試薬及び混合試料の意図しない移動を阻止する仕組みは、前述のバルブV1等の場合とほぼ同様の仕組みであるので以下に簡単に説明し、詳細な説明は省略する。
【0071】
(i)混合部51から検出路55への流出の阻止
血球の分離の処理(図6(b)参照)が終了した後は混合部51に試薬が存在し、また混合1の処理(図6(d)参照)が終了した後は混合部51に混合試料が存在している。バルブV6は、検出路への導入の処理(図6(g)参照)までは試薬及び混合試料を混合部51に留め、混合部51内の血漿及び混合試料が混合部51から検出路55に流出するのを阻止する。これにより、試薬のみが検出路55に流出したり、混合が未完全の試薬及び血漿が検出路55に流出するのを阻止することができる。よって、検出路55において、対象成分を正確に定量することができる。
【0072】
(ii)検出路55から混合部51への逆流の阻止
バルブV6は、検出路への導入の処理後に、検出路55内の混合試料が混合部51に逆流するのを阻止する。
(6)製造方法
次に、上記バルブ13を有するマイクロチップ100の製造方法について説明する。マイクロチップ100は、当該分野で公知の射出成形を用いることにより、簡便に製造することができる。図7は、バルブ13を有するマイクロチップ100の製造方法を示す説明図である。図7では、バルブ13周辺のみの製造方法を示しているが、その他の流路、槽及び溜部も同様に形成される。
【0073】
第3基板25をマイクロチップ100の底部とし、第2基板23に導入部本体11a、導入部出口11c、バルブ13及び排出部15を射出成形により形成し、第1基板21には導入部入口11bを射出成形により形成してマイクロチップ100の上部とする。これらの第1基板21、第2基板23及び第3基板25を互いに張り合わせることでマイクロチップ100が完成する。
【0074】
なお、射出成形は、導入部11、バルブ13及び排出部15に対応する形状を有する金型を準備しておき、第2基板23及び第1基板21に金型を押し当てることにより行われる。
例えば、金型としては三菱レーヨン製ダイアナイトMA521を用い、基板としてPET(poly ethylene terephthalate)を用いた。また、PET及び三菱レーヨン製ダイアナイトMA521を熱風式乾燥機により150℃で5〜10時間乾燥して除湿し、成形温度(シリンダー温度)275℃、樹脂圧15kg/cm2により射出成形を行った。さらに、第3基板25〜第1基板21の張り合わせには熱圧着を用い、例えば基板上下側から加圧する金属プレートの温度を80℃に設定し、0.1MPaで3〜5分加圧して基板を張り合わせた。
【0075】
基板材料としては、PET基板以外に、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PMMA(ポリメチルメタアクリレート)、PC(ポリカーボネート)、PS(ポリスチレン)、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PAR(ポリアリレート樹脂)、ABS(アクリルにトリル・ブタジエン・スチレン樹脂)、PVC(塩化ビニル樹脂)、PMP(ポリメチルペンテン樹脂)、PBD(ポリブタジエン樹脂)、BP(生物分解性ポリマー)、COP(シクロオレフィンポリマー)、PDMS(ポリジメチルシロキサン)などを使用しても良い。
【0076】
また、基板の張り合わせには、粘着材、接着剤を用いても良く、超音波及びレーザー法による融着法を用いても良い。
また、金型を用いた射出成型法の他に、モールディングあるいはインプリント法等を利用してもよい。
さらに、平板基板の一方又は双方に、フォトリソグラフィー工程、機械的加工等を直接施して、導入部11、バルブ13及び排出部15に対応するパターンが転写された基板を得てもよい。
【0077】
(7)作用効果
以上より、マイクロチップ100内の導入部11に導入された試薬等の液体は、運搬中や保管中などのチップの使用前に排出部15に排出されてしまわない。また、バルブ13は、使用前に導入部11内に液体を保持するだけでなく、排出部15から導入部11への液体の逆流を防止することもできる。例えば、所定の処理を行わない場合は液体を導入部11に保持し、所定の処理を行う場合には表面張力を超える遠心力を液体に印加して液体を排出部15に排出する。その後、バルブ13表面の表面張力により排出部15からの逆流を阻止する。このように、バルブ13を用いれば、液体の通過及び保持を簡単に制御することができる。特に、接触角θが90°未満で濡れ性が高い液体がマイクロチップに導入される場合であっても、上記バルブをマイクロチップ100に適用することで液体の通過及び保持を簡単に精度良く制御することができる。
【0078】
また、液体は、マイクロチップ内の導入部、排出部、流路等の壁面と接していると、時間の経過ともに濡れ性が徐々に高くなりその接触角θが小さくなる。よって、濡れ性が低いことを利用して液体の移動を阻止する撥水性バルブよりも、本願のような濡れ性が高い液体であっても、また時間の経過により濡れ性が高くなる液体であっても適用可能な親水性バルブの方が好ましい。
【0079】
また、上述のバルブ13によれば、液体の排出を阻止するのに表面張力を用いるため、開閉式など複雑な構造ではなく簡単な構造でバルブを形成することができる。よって、バルブ13を含むマイクロチップ100の製造が容易であり、また微細化を行い易い。例えば、射出成形によりPET(poly ethylene terephthalate)基板に流路等を形成するのと同時に、かつ流路等と同材料でバルブを形成することができ、簡単な製造工程により製造コストを小さくすることができる。さらに、開閉するなどバルブの動作により液体の保持及び排出を制御する構成ではないため、屈曲疲労の影響が無く寿命が長い。さらに、バルブを開閉するための動力源となる装置等が不要であり、マイクロチップ100の運搬や保管などを簡便に行うことができる。また液体の排出を食い止める特定材料の充填物を詰めるなどの工程も不要である。
【0080】
<第2実施形態例>
(1)バルブ周辺の構成
図8(a)〜(d)は、本発明に係るマイクロチップ200内のバルブ付近の説明図であり、図8(a)は本発明に係るマイクロチップ200内のバルブの構成を示す斜視図、図8(b)は本発明に係るバルブの構成を示す平面図、図8(c)は図8(b)のE−E’における断面図、図8(d)は図8(b)のF−F’における断面図である。
【0081】
図8(a)〜(d)に示す本発明のマイクロチップ200は、2枚の第1基板91及び第2基板93から形成され、試料や試薬等の液体が導入される導入部83、液体が排出される排出部85及び導入部81と排出部85とを接続するバルブ83を含む。
導入部81は第1基板91を貫通するように形成され、後述のバルブ入口83cに接続されている。この導入部81を介して、マイクロチップ100外部からバルブ83に試料や試薬等が導入可能となっている。
【0082】
バルブ83は、環状のバルブ構造壁83−1により形成されており、環状に取り囲まれた空間が試料等の液体が導入され保持されるバルブ入口83cとなる。また、環状のバルブ構造壁83−1は、バルブ入口83cに取り込まれた液体を排出部85に排出するためのバルブ開口83bを有する。また、バルブ構造壁83−1の上面は第1基板91に接触しており、バルブ開口83bは第1基板91の下面と第2基板93の上面に形成されている溝とにより構成されている。よって、バルブ入口83c内の液体は、バルブ開口83bを介してのみ、後述の第1排出流路85−1に排出される。なお、バルブ開口83bの数は1つに限られず複数設けても良い。また、バルブ開口83bを形成する位置は、図8に示すように第2排出流路85−2に対向する位置に限定されない。しかし、バルブ開口83bを第2排出流路85−2に対向する位置に形成することで、例えばマイクロチップ200に、バルブ開口83bから第2排出流路85−2に向かう方向の遠心力を印加する場合には効率よく液体を排出することができる。
【0083】
排出部85は、環状のバルブ構造壁83−1の周囲を取り囲む第1排出流路85−1と、第1排出流路85−1の下流側の第2排出流路85−2とを含む。第1排出流路85−1及び第2排出流路85−2は、第2基板93の上面に形成されている溝と第1基板91の下面とにより形成されている。第1排出流路85−1は、バルブ構造壁83−1の外壁面であるバルブ側壁面83aと、排出部側壁面85aと、排出部底部85bとにより囲まれて形成される流路である。バルブ側壁面83aと排出部側壁面85aとは、表面張力及び毛細管力によりバルブ側壁面83aから排出部側壁面85aに液体が伝わらない程度の距離をおいて離隔していれば良く、間隔は一定の距離であっても良いし、不連続な距離であっても良い。第2排出流路85−2は、互いに対向する排出部側壁面85aと、排出部底部85bとにより囲まれて形成される流路である。
【0084】
なお、この第2実施形態例に示すバルブ83を含む構成を第1実施形態例の図5のマイクロチップに適用しても良い。
(2)バルブの動作
マイクロチップ200には、マイクロチップ200の使用前に試薬等の液体が予め導入される。ここで、導入部81を介してバルブ入口83cに導入された液体は、マイクロチップ200の運搬中や保管中にはバルブ入口83cに保持されるのが好ましい。しかしながら、運搬方法や保管方法によっては、バルブ入口83c内の試薬等の液体が排出部85の方へ流出する場合がある。上述の通り、バルブ83は導入部81と排出部85とを接続するようにこれらの間に形成されているため、導入部81から導入される液体は必ずバルブ83を通って排出部85に排出される。このとき、液体は、バルブ構造壁83−1の内壁面と接触することにより、内壁面での表面張力によりバルブ入口83c内に保持される。
【0085】
具体的に説明すると、導入部81からバルブ入口83cに導入された液体は、内壁面を伝わってバルブ開口83bに到達する。このとき、接触角θが90以上で濡れ性が低い液体は、表面張力によってバルブ開口83b内に保持される。一方、接触角θが90°未満で濡れ性が高い液体は、バルブ入口83cよりもバルブ開口83bの流路幅が狭いため、毛細管現象によりバルブ開口83bに引き込まれる。ここで、流路断面が矩形状に形成されている場合には、バルブ側壁面83aと排出部底部85bとにより角部が形成される。濡れ性が高い液体は、表面張力によりこの角部を伝わって、角部全体に行き渡ろうとする。しかし、前述の通り、バルブ側壁面83aと排出部側壁面85aとは、排出部底部85bを介して独立に離隔して形成されているため、液体はこの角部に留まって排出部側壁面85aには到達できない。よって、導入部81からバルブ入口83cに液体が導入されたとしても、液体は、バルブ入口83c、バルブ開口83b及び/又はバルブ側壁面83aの角部に保持される。
【0086】
(3)バルブの設計
次に、接触角θが90°未満の液体を表面張力により保持可能なバルブの設計について説明する。図9は、接触角θが90°未満の液体の表面張力とバルブの寸法との関係を説明するための説明図である。
A点のバルブ入口83cにおける流路断面の深さ及び幅をそれぞれ深さd3及び幅w3とし、B点の第1排出流路85−1における流路断面の深さ及び幅をそれぞれ深さd4及び幅w4とする。これらの値を、前述の第1実施形態例で算出した関係式(9)を適用すると、以下の関係式(10)となる。
【0087】
【数6】
ここで、バルブ入口83cの幅W3が、深さd3に比べて十分に大きい場合には、以下の関係式(11)となる。
【0088】
【数7】
以上の式(10)及び(11)を満たすようにバルブ13を設計することで、接触角θが90°未満の液体は、第1排出流路85−1に排出されることなく、バルブ入口83c内に保持される。
【0089】
(4)変形例
図10(a)〜(c)は、第2実施形態例に係るマイクロチップ200の変形例であり、図10(a)は本発明に係るマイクロチップ200内のバルブの構成を示す斜視図、図10(b)は本発明に係るバルブの構成を示す平面図、図10(c)は図10(b)のG−G’における断面図である。図10に示すように、第1排出流路85−1の排出部底部85bにおいて、バルブ開口83bに対向する位置に隔壁87を設けても良い。その他の構成は、図8と同様であるので説明を省略する。
【0090】
図11は、液体が隔壁87によりバルブ入口83c内及びバルブ開口83bに保持されている様子を示す説明図である。図11に示すように、バルブ入口83c内の液体がバルブ開口83b介して第1排出流路85−1に流出しても、隔壁87に阻まれて排出部側壁面85aには到達できない。このとき、バルブ開口83bから流出した液体は、例えば表面張力により隔壁87に引き付けられている。
【0091】
なお、バルブ開口83bと隔壁87との距離は、隔壁87によりバルブ入口83c内に液体を保持できる距離であれば特に限定されない。
また、隔壁87は、バルブ開口83bの数に応じて設けても良いし、第2排出流路85−2に対向する位置のバルブ開口83bにのみ設けても良い。
(5)製造方法
次に、上記バルブ83を有するマイクロチップ200の製造方法について説明する。図12は、バルブ83を有するマイクロチップ200の製造方法を示す説明図である。図12では、バルブ83周辺のみの製造方法を示しているが、その他の流路、槽及び溜部も同様に形成される。また、マイクロチップ200の製造方法は第1実施形態と同様であるので、以下に簡単に説明する。
【0092】
第2基板93にバルブ83及び排出部85を射出成形により形成し、第1基板91には導入部81を射出成形により形成してマイクロチップ200の上部とする。これらの第1基板91及び第2基板93を互いに張り合わせることでマイクロチップ200が完成する。
(6)作用効果
以上より、第2実施形態例のマイクロチップ200は、第1実施形態例と同様の作用効果を奏する。以下に簡単に説明する。
【0093】
マイクロチップ200内のバルブ入口83cに導入された試薬等の液体は、運搬中や保管中などのチップの使用前に排出部85に排出されてしまわない。また、バルブ83は、使用前にバルブ入口83c内に液体を保持するだけでなく、排出部15からバルブ入口83cへの液体の逆流を防止することもできる。特に、接触角θが90°未満で濡れ性が高い液体がマイクロチップに導入される場合であっても、上記バルブ83をマイクロチップに適用することで液体の通過及び保持を簡単に精度良く制御することができる。
【0094】
また、液体は、時間の経過ともに濡れ性が徐々に高くなりその接触角が小さくなるため、本願のような濡れ性が高い液体であっても、また時間の経過により濡れ性が高くなる液体であっても適用可能な親水性バルブの方が好ましい。
また、簡単な製造工程により製造コストを小さくすることができる。特に、第2実施形態例のマイクロチップ200は、2枚の基板のみを用いて簡単にバルブを形成することができる点によっても、製造工程の簡略化、製造コストの低下、マイクロチップの小型化などを図ることができる。
【0095】
<第3実施形態例>
(1)バルブ周辺の構成
図13(a)〜(d)は、本発明に係るマイクロチップ300内のバルブ付近の説明図であり、図13(a)は本発明に係るマイクロチップ300内のバルブの構成を示す斜視図、図13(b)は本発明に係るバルブの構成を示す平面図、図13(c)は図13(b)のH−H’における断面図、図13(d)は図13(b)のI−I’における断面図である。
【0096】
図13(a)〜(d)に示す本発明のマイクロチップ300は、第1実施形態例と同様に3枚の基板により形成されている。具体的に、マイクロチップ300は、第1基板111、第2基板113及び第3基板115から形成され、試料や試薬等の液体が導入される導入部101、液体が排出される排出部105及び導入部101と排出部105とを接続するバルブ103を含む。
【0097】
導入部101は、流路本体101a及び流路出口101bを有する。流路本体101aには、図示しない流路入口を介して、マイクロチップ300外部から試料や試薬等が導入可能となっている。流路本体101aは、第2基板113の下面に形成されている流路と第3基板115の上面とにより、その側壁面及び底部が形成されている。また、流路出口101bは、第2基板113を貫通するように形成され、後述のバルブ入口103cに接続されている。
【0098】
バルブ103は、三角形のトライアングル形状のバルブ構造壁103−1により形成されている。バルブ入口103cは、トライアングル形状のバルブ構造壁103−1の内壁に取り囲まれた空間により形成されており、この空間は流路出口101bと接続されている。よって、バルブ入口103cは、流路出口101bから導入された液体を保持可能である。また、トライアングル形状のバルブ構造壁103−1は、その頂点の1つに、バルブ入口103cに取り込まれた液体を排出部105に排出するためのバルブ開口103bを有する。ここで、バルブ構造物103−1の上面は第1基板111に接触しており、バルブ開口103bは第1基板111の下面と第2基板113の上面に形成されている溝とにより構成されている。よって、バルブ入口103c内の液体は、バルブ開口103bを介してのみ、後述の第1排出流路105−1に排出される。
【0099】
また、バルブ開口103bの数は1つに限られず複数設けても良い。また、バルブ開口103bを形成する位置は、図13に示すように第2排出流路105−2に対向する位置に限定されない。しかし、バルブ開口103bを第2排出流路105−2に対向する位置に形成することで、例えばマイクロチップ300に、バルブ開口103bから第2排出流路105−2に向かう方向の遠心力を印加する場合には効率よく液体を排出することができる。
【0100】
排出部105は、バルブ103の周囲を取り囲む第1排出流路105−1と、第1排出流路105−1の下流側の第2排出流路105−2とを含む。第1排出流路105−1及び第2排出流路105−2は、第2基板113の上面に形成されている溝と第1基板111の下面とにより形成されている。第1排出流路105−1は、バルブ構造物103−1の外壁面であるバルブ側壁面103aと、排出部側壁面105aと、排出部底部105bとにより囲まれて形成される流路である。バルブ側壁面103aと排出部側壁面105aとは、表面張力及び毛細管力によりバルブ側壁面103aから排出部側壁面105aに液体が伝わらない程度の距離をおいて離隔していれば良く、間隔は一定の距離であっても良いし、不連続な距離であっても良い。第2排出流路105−2は、互いに対向する排出部側壁面105aと、排出部底部105bとにより囲まれて形成される流路である。
【0101】
(2)バルブの動作
マイクロチップ300には、マイクロチップ300の使用前に試薬等の液体が予め導入される場合がある。ここで、例え、運搬中や保管中に導入部101を介してバルブ入口103cに液体が導入されたとしても、バルブ入口103cに液体が保持されるのが好ましい。しかしながら、運搬方法や保管方法によっては、液体がバルブ入口103cから排出部105の方へ流出する場合がある。上述の通り、バルブ103は導入部101と排出部105とを接続するようにこれらの間に形成されているため、導入部101から導入される液体は必ずバルブ103を通って排出部105に排出される。このとき、液体は、バルブ構造壁103−1の内壁面と接触することにより、内壁面での表面張力によりバルブ入口103c内に保持される。また、バルブ側壁面103aと排出部側壁面105aとは、排出部底部105bを介して独立に離隔して形成されている。そのため、例え接触角θが90°未満で濡れ性が高い液体がマイクロチップに導入される場合であっても、液体は、バルブ側壁面103aと排出部側壁面105aとの角部に留まり、排出部側壁面105aには到達しない。よって、導入部101からバルブ入口103cに液体が導入されたとしても、液体は、バルブ入口103c、バルブ開口103b及び/又はバルブ側壁面103aの角部に保持される。
【0102】
(3)バルブの設計、製造方法
バルブ103の寸法の決定方法及び製造方法は、前述の第1及び第2実施形態例と同様であるので説明を省略する。
(4)作用効果
以上より、第3実施形態例のマイクロチップ200は、第1及び第2実施形態例と同様の作用効果を奏する。以下に簡単に説明する。
【0103】
マイクロチップ300内のバルブ入口103cに導入された試薬等の液体は、運搬中や保管中などのチップの使用前に排出部105に排出されてしまわない。また、バルブ103は、使用前に導入部101内に液体を保持するだけでなく、排出部105から導入部101への液体の逆流を防止することもできる。特に、接触角θが90°未満で濡れ性が高い液体がマイクロチップに導入される場合であっても、上記バルブ103をマイクロチップに適用することで液体の通過及び保持を簡単に精度良く制御することができる。また、簡単な製造工程により製造コストを小さくすることができる。
【0104】
また、液体は、時間の経過ともに濡れ性が徐々に高くなりその接触角が小さくなるため、本願のような濡れ性が高い液体であっても、また時間の経過により濡れ性が高くなる液体であっても適用可能な親水性バルブの方が好ましい。
また、第1排出流路105−1及び第2排出流路105−2がY字に類似した形状に形成されることで、液体を排出部105に排出する際に液体が排出流路に残留しにくい。
【0105】
<その他の実施形態例>
(a)
図14は、バルブ構造物の別の一例を示す斜視図である。第1実施形態例では、扇形形状のバルブ構造物によりバルブを構成しているが、バルブ構造物の形状はこれに限定されない。例えば、図14に示すような、複数の円柱状のバルブ構造物によりバルブを構成しても良い。バルブが複数のバルブ構造物で構成されることで表面積を大きくして表面張力をより大きくし、排出部に液体を排出させないようにすることができる。図14では、排出部125は、第1排出流路125−1及び第2排出流路125−2を含む。導入部121の導入部出口121aは、第1排出流路125−1の排出部底部125bに開口するように形成されている。バルブ123は複数の円柱状のバルブ構造物123−1により構成されており、バルブ構造物123−1は導入部出口121aを取り囲むように排出部底部125bに設けられている。ここで、導入部121から液体が第1排出流路125−1に導入されたとしても、表面張力によりバルブ構造物123−1どうしの隙間に液体が保持される。このように液体を保持できるのは、バルブ構造物123−1が、第1排出流路125−1の排出部側壁面125aとは、排出部底部125bを介して独立に離隔して形成されているためである。
【0106】
(b)
図15は、バルブの取り付け位置の別の一例を示す説明図である。第1実施形態例では、排出部と導入部とが上下関係となるように形成されている。つまり、バルブ入口が上下方向に基板を貫通するように、バルブを配置している。しかし、図15に示すように、排出部と導入部とが水平関係となるように、図1と比較して90度回転させてバルブを配置しても良い。図15では、導入部131は基板の水平方向に延在するように形成され、排出部135は導入部131の延長方向に延在するように形成されている。バルブ133は、複数のバルブ構造物133−1により構成されている。バルブ構造物133−1は、排出部135側に突出するように、バルブ土台基板133d上に形成されている。また、バルブ土台基板133dには、バルブ入口133cがバルブ土台基板133dを貫通するように形成されている。この複数のバルブ構造物133−1どうしの隙間には、バルブ開口133bが形成されており、液体は導入部131からバルブ開口133bを介して排出部135に排出される。
【0107】
ここで、液体が導入部131からバルブ入口133cに導入されても、バルブ構造物133−1の外壁面のバルブ側壁面133a及びバルブ開口133bでの表面張力により液体がバルブ133に保持される。これは、バルブ構造物133−1のバルブ側壁面133aと、排出部135の排出部側壁面135aとが、バルブ土台基板133dを介して独立に離隔して形成されているためである。
【0108】
(c)
第1実施形態例においても、第1排出流路15−1の排出部底部15bにおいて、バルブ開口13bに対向する位置に、第2実施形態例の図10に示す隔壁を設けても良い。また、第3実施形態例においても、第1排出流路105−1の排出部底部105bにおいて、バルブ開口103bに対向する位置に隔壁を設けても良い。
【0109】
(d)
上記第1実施形態例では、バルブ開口13bにおける流路断面の深さd1と、第1排出流路15−1における流路断面の深さd2とが異なる。しかし、深さd1及び深さd2を同じにしてマイクロチップの製造を容易にしても良い。
(e)
マイクロチップに導入される液体としては、全血や血漿などの試料や分析に用いる試薬等などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0110】
(f)
検出方法は、光学的な検出方法だけではなく、例えば電気化学的な検出方法を用いても良い。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明は、医療、食品、創薬等の分野で使用される、臨床分析チップ、環境分析チップ、遺伝子分析チップ(DNAチップ)、たんぱく質分析チップ(プロテオームチップ)、糖鎖チップ、クロマトグラフチップ、細胞解析チップ、製薬スクリーニングチップなどと称される気体及び液体等に適用することができる種々の基板に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】(a)本発明に係るマイクロチップ100内のバルブの構成を示す斜視図。(b)本発明に係るバルブの構成を示す平面図。(c)図1(b)のA−A’における断面図。(d)図1(b)のB−B’における断面図。
【図2】接触角θが90°未満の液体の表面張力とバルブの寸法との関係を説明するための説明図。
【図3】(a)落下試験の結果であり、バルブ開口13bの幅w1(μm)と、落下耐性(%)との関係を示す関係図。(b)遠心力印加試験の結果であり、バルブ開口13bの幅w1(μm)と、バルブがバースト遠心加速度(m/s2)との関係を示す関係図。
【図4】(a)本発明に係るマイクロチップ100内のバルブの構成を示す斜視図。(b)本発明に係るバルブの構成を示す平面図。(c)図4(b)のC−C’における断面図。(d)図4(c)のD−D’における断面図。
【図5】本発明のバルブを適用したマイクロチップ全体の構成の一例を示す構成図。
【図6】(a)マイクロチップでの使用方法及びマイクロチップ内での各種処理の手順を示すフローチャートの一例(1)。(b)マイクロチップでの使用方法及びマイクロチップ内での各種処理の手順を示すフローチャートの一例(2)。(c)マイクロチップでの使用方法及びマイクロチップ内での各種処理の手順を示すフローチャートの一例(3)。(d)マイクロチップでの使用方法及びマイクロチップ内での各種処理の手順を示すフローチャートの一例(4)。(e)マイクロチップでの使用方法及びマイクロチップ内での各種処理の手順を示すフローチャートの一例(5)。(f)マイクロチップでの使用方法及びマイクロチップ内での各種処理の手順を示すフローチャートの一例(6)。(g)マイクロチップでの使用方法及びマイクロチップ内での各種処理の手順を示すフローチャートの一例(7)。(h)マイクロチップでの使用方法及びマイクロチップ内での各種処理の手順を示すフローチャートの一例(8)。
【図7】バルブ13を有するマイクロチップ100の製造方法を示す説明図。
【図8】(a)本発明に係るマイクロチップ200内のバルブの構成を示す斜視図。(b)本発明に係るバルブの構成を示す平面図。(c)図8(b)のE−E’における断面図。(d)図8(b)のF−F’における断面図。
【図9】接触角θが90°未満の液体の表面張力とバルブの寸法との関係を説明するための説明図。
【図10】(a)本発明に係るマイクロチップ200内のバルブの構成を示す斜視図。(b)本発明に係るバルブの構成を示す平面図。(c)図10(b)のG−G’における断面図。
【図11】液体が隔壁87によりバルブ入口83c内及びバルブ開口83bに保持されている様子を示す説明図。
【図12】バルブ83を有するマイクロチップ200の製造方法を示す説明図。
【図13】(a)本発明に係るマイクロチップ300内のバルブの構成を示す斜視図。(b)本発明に係るバルブの構成を示す平面図。(c)図13(b)のH−H’における断面図。(d)図13(b)のI−I’における断面図。
【図14】バルブ構造物の別の一例を示す斜視図。
【図15】バルブの取り付け位置の別の一例を示す説明図。
【図16】(a)特許文献1に示されるバルブの一例。(b)壁面と壁面との間の角部を移動する液体を示す拡大図。
【符号の説明】
【0113】
11、81、101、121:導入部
11a:導入部本体
11b:導入部入口
11c、121a:導入部出口
13、V1〜V6、83、103、123、133:バルブ
13−1、123−1、133−1:バルブ構造物
13a、83a、103a、133a:バルブ側壁面
13b、83b、103b、133b:バルブ開口
13c、83c、103c、133c:バルブ入口
15、85、105、125、135:排出部
15−1、85−1、105−1、125−1:第1排出流路
15−2、85−2、105−2、125−2:第2排出流路
15a、85a、105a、125a、135a:排出部側壁面
15b、85b、105b、125b:排出部底部
21、91、111:第1基板
23、93、113:第2基板
25、115:第3基板
31:血液導入部
33:遠心分離管
35:血球分離部
37、47、41、45、47、53:流路
39:計量部
43:廃液溜
49−1、49−2:試薬溜
51:混合部
55:検出路
57:取出口
71:流路
71a:流路本体
71b:流路出口
101a:流路本体
101b:流路出口
83−1、103−1:バルブ構造壁
133d:バルブ土台基板
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の処理を行うマイクロチップに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療、食品、創薬等の分野で、数mm、数cmの大きさの基板上で、酵素、タンパク質、ウィルス、細胞などの生体物質を分離、反応、混合、測定及び検出等するLab on Chipと呼ばれる技術が近年注目されている。Lab on Chipで用いられるチップは一般にマイクロチップと呼ばれており、例えば、臨床分析チップ、環境分析チップ、遺伝子分析チップ(DNAチップ)、たんぱく質分析チップ(プロテオームチップ)、糖鎖チップ、クロマトグラフチップ、細胞解析チップ、製薬スクリーニングチップなどがある。
【0003】
マイクロチップには、前述の分離、反応、混合、測定及び検出等を行う処理部、試薬、処理前の試料、処理後の廃液等を保持する保持部及び流路などが設けられている。流路は、処理部どうしや処理部と保持部とを接続しており、微量の液体を保持部及び処理部から移動したり、保持部及び処理部に移動する。このような液体の移動を制御するために、マイクロチップ内にはバルブが設けられている。
【0004】
図16(a)は、特許文献1に示されるバルブの一例である。図16(a)に示される特許文献1のバルブは、マイクロチップ内に形成されており、左側リザーバ1a、右側リザーバ1b及び左側リザーバ1aと右側リザーバ1bとを接続するチューブ2を含む。ここで、左側リザーバ1a及び右側リザーバ1bの断面積は、チューブ2の断面積よりも大きい。液体の接触角θが90°以上の場合は、左側リザーバ1aとチューブ2との界面での圧力は、液体を左側リザーバ1a内に留めようとする方向に働く。よって、接触角θが90°以上の場合は、左側リザーバ1a内の液体に圧力を加えることでチューブ2内に導入し、さらに所定の圧力を加えて、液体を右側リザーバ1bに導入する。一方、液体の接触角θが90°未満の場合は、毛細管力のために、界面での圧力は液体をチューブ2に引き込む方向に働き、左側リザーバ1a内の液体はチューブ2に引き込まれる。そして、所定の圧力を加えて、液体を右側リザーバ1bに導入する。このように、特許文献1では断面積の異なるリザーバ及びチャネルを接続してバルブとして機能させる。
【0005】
また、特許文献2には、溶解性のバルブを凝固させて充填することで液体を所定の場所に封入し、逆に加熱などにより溶解することにより液体を通過させる技術が開示されている。
さらに、特許文献3には、機械的に開閉を行うバルブが開示されている。特許文献3のバルブは、弾性のあるバルブダイヤフラム及びパッキンにより構成されており、バルブを圧電素子により変形させることで流路の開閉を行う。
【特許文献1】特表2001−503854号公報
【特許文献2】特許第3537813号公報
【特許文献3】特許第2995401号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載のバルブの場合、液体を左側リザーバ1aに保持する必要がある場合に、保持したままにすることが困難な場合がある。図16(b)は、壁面と壁面との間の角部を移動する液体を示す拡大図である。図16(b)に示すように、左側リザーバ1a内の液体は、表面張力によりチューブ2を構成する壁面と壁面との間の角部を移動し、チューブ2を介して右側リザーバ1bに移動してしまう。特に、接触角θが90°未満で濡れ性が高い液体の場合には、毛細管力によりチューブ2に引き込まれ、さらに表面張力により壁面と壁面との間の角部を伝って右側リザーバ1bに移動してしまう挙動が顕著である。よって、特許文献1の構成のバルブを、液体を保持し、かつ通過させるバルブとして使用するのには問題がある。
【0007】
また、特許文献2に記載のバルブは液体を保持可能であるが、液体を取り出す場合にはバルブを溶解させる必要がある。この溶解したバルブが液体やその他の試薬等と混じり合い反応し、正確な定量や検出等ができなくなる場合がある。また、溶解性があり、かつ液体や試薬等と反応しない材料を選択する必要があるため、材料が限定されてしまう。さらに、バルブを所望の場所に充填したり、溶解したりすることが必要であり、マイクロチップの取り扱いが煩雑である。
【0008】
特許文献3のバルブは、バルブダイヤフラム、パッキン及び圧電素子などを形成する必要があり、微細化が困難、製造工程が複雑、製造コストが高いなどの問題を有している。また、バルブの開閉を制御する手順が煩雑であり、バルブとして弾性のある材料を選択する必要があるなどの問題も有する。
そこで、本発明は、簡単な構成で、液体の保持及び通過を制御可能なマイクロチップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願第1発明は、上記の課題を解決するために、液体を導入する導入部と、液体を排出する排出部と、前記導入部と前記排出部とを接続し、液体の表面張力により前記排出部に液体を排出させないように保持するバルブと、を含むマイクロチップを提供する。
バルブが導入部と排出部とを接続するように形成されているため、導入部から導入された液体は必ずバルブを通って排出部に排出される。ここで、導入部の液体がバルブに排出されても、液体はまずバルブ表面と接触することにより、バルブ表面での表面張力により導入部内及び/又はバルブ表面に保持される。そのため、上述のマイクロチップ内の導入部に導入された試薬等の液体は、運搬中や保管中などのマイクロチップの使用前に排出部に排出されてしまわない。また、所定の処理を行わない場合は液体を導入部に保持し、所定の処理を行う場合には表面張力を超える遠心力を液体に印加して液体を排出部に排出し、その後は表面張力により排出部からの逆流を阻止するなど、バルブにより液体の通過及び保持を簡単に制御することができる。
【0010】
上述のバルブによれば、導入部に液体を導入すれば、バルブでの液体の表面張力により排出部への液体の排出が阻止されるため、液体の保持及び排出の制御が簡単である。また、液体の排出を阻止するのに表面張力を用いるため、開閉式など複雑な構造ではなく簡単な構造でバルブを形成することができる。よって、バルブを含むマイクロチップの製造が容易であり、また微細化を行い易い。例えば、射出成形によりPET(poly ethylene terephthalate)基板に流路等を形成するのと同時に、流路等と同材料でバルブを形成することができ、簡単な製造工程により製造コストを小さくすることができる。さらに、開閉するなどバルブの動作により液体の保持及び排出を制御する構成ではないため、屈曲疲労の影響が無く寿命が長い。さらに、バルブを開閉するための動力源となる装置等が不要であり、マイクロチップの運搬や保管などを簡便に行うことができる。また液体の排出を食い止める特定材料の充填物を詰めるなどの工程も不要である。
【0011】
本願第2発明は、第1発明において、前記バルブは、液体を前記排出部に排出する少なくとも1つの開口を有する第1流路壁を有し、前記排出部は、前記第1流路壁とは独立の第2流路壁を有しており、前記第1流路壁と前記第2流路壁との間の流路は、前記排出部の少なくとも一部を形成しているマイクロチップを提供する。
例えば、バルブの第1流路壁は、排出部の第2流路壁から所定の距離だけ離隔し、第2流路壁に取り囲まれるように形成される。ここで、導入部の液体がバルブから流出したとしても、液体はバルブを形成する第1流路壁と接触することで、その表面張力により導入部内及びバルブの第1流路壁表面に保持され、排出部の第2流路壁には到達しない。ここで、第1流路壁及び第2流路壁間の流路と、第1流路壁とにより角部が形成されている。接触角θが90°未満で濡れ性が高い液体は、導入部から第1流路壁の開口を介して流出し、表面張力によりこの角部を伝わって第1流路壁の角部全体に行き渡ろうとする。しかし、第1流路壁と第2流路壁とが独立に離隔して形成されているため、液体はこの角部に留まるのみで第2流路壁には到達できない。このように、液体の接触角θが90°未満で濡れ性が高い場合であっても、運搬中や保管中などのチップの使用前に排出部に排出されてしまわない。
【0012】
導入部内及びバルブ表面に保持されている液体を排出部に排出する場合には、例えばマイクロチップに遠心力を加える。導入部内及びバルブの第1流路壁表面に保持されている液体は、表面張力以上の遠心力が加わると、バルブの第1流路壁の開口を介して第1流路壁と第2流路壁との間の排出部の流路に排出される。さらに、排出部の第2流路壁に到達した液体は、第2流路壁を伝ってさらに排出され易くなる。
【0013】
本願第3発明は、第2発明において、前記開口のサイズは、表面張力によって液体が流出されない大きさであるマイクロチップを提供する。
開口のサイズを前述のように設計することで、導入部及びバルブ表面に液体を保持することができる。
本願第4発明は、第2発明において、前記開口の幅は、前記第1流路壁と前記第2流路壁との間の流路の流路幅よりも小さいマイクロチップを提供する。
【0014】
第1流路壁の開口は、第1流路壁と前記第2流路壁との間の流路の流路幅よりも小さいため、液体は表面張力により第1流路壁の開口内に保持される。
本願第5発明は、第2発明において、前記第1流路壁と前記第2流路壁との間の流路には、少なくとも1つの前記開口に対向する位置に隔壁が設けられているマイクロチップを提供する。
【0015】
開口に対向する位置に隔壁が設けられているため、バルブの開口を介して液体が流出た場合でも隔壁により液体が受け止められ、開口から排出部に液体が排出されるのが抑制される。
本願第6発明は、第2発明において、前記バルブの第1流路壁は複数の構造物からなり、前記構造物の表面及び/又は前記構造物間に液体が保持されるマイクロチップを提供する。
【0016】
第1流路壁は、例えば扇形形状、円柱形状、三角柱形状等の構造物から形成されている。バルブが複数の構造物で構成されることで表面積を大きくして表面張力をより大きくし、排出部に液体を排出させないようにすることができる。
本願第7発明は、第2発明において、前記バルブの第1流路壁は環状の流路壁からなり、前記第1流路壁で囲まれる空間に液体が保持されるマイクロチップを提供する。
【0017】
バルブは、環状の流路壁で囲まれる空間に液体を保持するので、試薬や試料等の排出部への排出を阻止する機能だけでなく、試薬や試料等の保持部として機能を有する。
本願第8発明は、第1発明において、液体の接触角θは90°未満であるマイクロチップを提供する。
導入部に導入される液体の接触角θが90°未満であっても、バルブにより液体が導入部内及びバルブ表面に保持され、排出部に排出されない。
【0018】
本願第9発明は、前記本願第1発明に記載のマイクロチップの使用方法であって、前記マイクロチップを、回転軸を中心として回転することにより、前記液体の表面張力よりも大きな遠心力によって、前記導入部から前記排出部に液体を排出する、マイクロチップの使用方法を提供する。
マイクロチップに遠心力を加えない場合には、液体はバルブでの表面張力により排出部に排出されない。一方、表面張力よりも大きな遠心力を液体に加えた場合には、バルブにより保持されていた液体を排出部に排出することができる。試薬や試料等の混合、計量などの処理が遠心力を用いて行われる場合には、この遠心力を用いた一連の処理の中で液体を排出部に排出することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、簡単な構成で、液体の保持及び通過を制御可能なマイクロチップを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
<発明の概要>
本発明のマイクロチップは、液体を導入する導入部と、液体を排出する排出部と、導入部と排出部とを接続するバルブとを含む。バルブは、導入部の出口と排出部の入口とを連結しており、導入部に導入された液体を、その液体の表面張力により排出部に排出させないように保持している。ここで、導入部の液体がバルブに流出したとしても、液体はまずバルブ表面と接触することによりバルブ表面での表面張力により導入部内及び/又はバルブ表面に保持される。そのため、上述のマイクロチップ内の導入部に導入された試薬等の液体は、運搬中や保管中などのチップの使用前に排出部に排出されてしまわない。
【0021】
<第1実施形態例>
(1)バルブ周辺の構成
図1(a)〜(d)は、本発明に係るマイクロチップ100内のバルブ付近の説明図であり、図1(a)は本発明に係るマイクロチップ100内のバルブの構成を示す斜視図、図1(b)は本発明に係るバルブの構成を示す平面図、図1(c)は図1(b)のA−A’における断面図、図1(d)は図1(b)のB−B’における断面図である。
【0022】
図1(a)〜(d)に示す本発明のマイクロチップ100は、3枚の第1基板21、第2基板23及び第3基板25から形成され、試料や試薬等の液体が導入される導入部11、液体が排出される排出部15及び導入部11と排出部15とを接続するバルブ13を含む。
導入部11は、液体を保持する導入部本体11a、導入部入口11b及び導入部出口11cを有する。導入部入口11bは第1基板21を貫通するように形成され、マイクロチップ100外部から試料や試薬等が導入可能となっている。導入部本体11aは、第2基板23の下面に形成されている槽と第3基板25の上面とにより、その側壁面及び底部が形成されている。また、導入部出口11cは、第2基板23を貫通するように形成され、後述のバルブ入口13cに接続されている。
【0023】
バルブ13は、バルブを構成するバルブ構造物13−1、導入部出口11cに連続して形成されるバルブ入口13c及びバルブ入口13cからの液体を排出部15に排出するためのバルブ開口13bを含む。バルブ構造物13−1は4つのバルブ構造物13−1から構成されており、バルブ構造物13−1とバルブ構造物13−1との間には、排出部15とバルブ入口13cとを接続する溝によりバルブ開口13bが形成されている。複数のバルブ構造物でバルブを形成することで、表面積を大きくして表面張力をより大きくし、排出部15に液体を排出させないようにすることができる。また、バルブ構造物13−1の上面は第1基板21に接触しており、バルブ開口13bは第1基板21の下面と第2基板23の上面に形成されている溝とにより構成されている。よって、導入部11内の液体は、バルブ入口13c及びバルブ開口13bを介してのみ、後述の第1排出流路15−1に排出される。なお、バルブ開口13bの数は4つに限定されない。
【0024】
排出部15は、バルブ13の周囲を取り囲む第1排出流路15−1と、第1排出流路15−1の下流側の第2排出流路15−2とを含む。第1排出流路15−1及び第2排出流路15−2は、第2基板23の上面に形成されている溝と第1基板21の下面とにより形成されている。第1排出流路15−1は、バルブ構造物13−1の外壁面であるバルブ側壁面13aと、排出部側壁面15aと、排出部底部15bとにより囲まれて形成される流路である。バルブ側壁面13aと排出部側壁面15aとは、表面張力及び毛細管力によりバルブ側壁面13aから排出部側壁面15aに液体が伝わらない程度の距離をおいて離隔していれば良く、間隔は一定の距離であっても良いし、不連続な距離であっても良い。第2排出流路15−2は、互いに対向する排出部側壁面15aと、排出部底部15bとにより囲まれて形成される流路である。
【0025】
(2)バルブの動作
マイクロチップ100には、マイクロチップ100の使用前に試薬等の液体が予め導入される場合がある。ここで、導入部11に導入された液体は、マイクロチップ100の運搬中や保管中には導入部本体11aに保持されるのが好ましい。しかしながら、運搬方法や保管方法によっては、導入部本体11a内の試薬等の液体がバルブ13の方へ流出する場合がある。上述の通り、バルブ13は導入部11と排出部15とを接続するようにこれらの間に形成されているため、導入部11内の液体は必ずバルブ13を通って排出部15に排出される。ここで、導入部本体11a内の液体が、導入部出口11cを通りバルブ13に到達したとする。このとき、液体は、バルブ13の表面と接触することにより、バルブ表面での表面張力により導入部11内及び/又はバルブ13の表面に保持される。
【0026】
具体的に説明すると、導入部11内の液体は、まずバルブ入口13cからバルブ開口13bに到達する。このとき、接触角θが90以上で濡れ性が低い液体は、表面張力によってバルブ開口13b内に保持される。一方、接触角θが90°未満で濡れ性が高い液体は、導入部本体11aに対して導入部出口11cの流路幅が狭いため、毛細管現象により導入部出口11cに引き込まれる。そのため、濡れ性が高い液体は、導入部出口11c、バルブ入口13c及びバルブ開口13bにまで到達する。ここで、流路断面が矩形状に形成されている場合には、バルブ側壁面13aと排出部底部15bとにより角部が形成される。濡れ性が高い液体は、表面張力によりこの角部を伝わって、角部全体に行き渡ろうとする。しかし、前述の通り、バルブ側壁面13aと排出部側壁面15aとは、排出部底部15bを介して独立に離隔して形成されているため、液体はこの角部に留まって排出部側壁面15aには到達できない。よって、導入部11からバルブ13に液体が導入されたとしても、液体は、導入部11、バルブ入口13c、バルブ開口13b及び/又はバルブ側壁面13aの角部に保持される。
【0027】
(3)バルブの設計
(3−1)バルブに液体を保持可能な寸法
バルブ開口13bの幅や深さなどは、表面張力によって液体が流出されない大きさに設定する。以下に、接触角θが90°未満の液体を表面張力により保持可能なバルブの設計について説明する。図2は、接触角θが90°未満の液体の表面張力とバルブの寸法との関係を説明するための説明図である。
【0028】
図2に示すように、液体が、導入部出口11c及びバルブ入口13cを介して、バルブ開口13bに導入され、さらに排出部側壁面15aまで到達したとする。この場合、表面張力によってA点に働くラプラス圧PAは、以下の式(1)により算出される。
PA=γ×CA ・・・(1)
ここで、γは液体の表面張力であり、CAはA点における面曲率であり、以下の式(2)で表される。
【0029】
【数1】
R1及びR2は、図2に示すように、A点のバルブ開口13bにおける流路断面の深さd1及び幅w1それぞれに対応する曲率半径であり、以下の式(3)、(4)で表される。
【0030】
【数2】
よって、式(1)〜式(4)に基づいて、A点でのラプラス圧は次の式(5)で表される。
【0031】
【数3】
同様に、B点の第1排出流路15−1における流路断面の深さ及び幅を、それぞれ深さd2及び幅w2とすると、B点でのラプラス圧は次の式(6)で表される。
【0032】
【数4】
液体が排出部側壁面15aには到達せずにバルブ13に保持されるためには、以下の式(7)を満たす必要がある。
PA>PB ・・・(7)
つまり、以下の式(8)を満たす必要があり、式(8)から式(9)の関係式が求まる。
【0033】
【数5】
以上の式(9)を満たすようにバルブ13を設計することで、接触角θが90°未満の液体は、第1排出流路15−1に排出されることなく、バルブ13内に保持される。なお、バルブ開口13bの深さd1及び第1排出流路15−1の深さd2が同じ場合は、バルブ開口13bの幅W1を第1排出流路15−1の幅W2より小さく設計すれば良い。
【0034】
(3−2)実験例
上記関係式(9)を満たすバルブを、バルブ開口13bの幅w1を変えて作成した。作成したバルブ13に、接触角θが15°であるトータルコレステロール検査試薬(E−ChoA液)を導入して、常温で高さ2mからの落下試験を幅W1それぞれにおいて20回行った。図3(a)は、落下試験の結果であり、バルブ開口13bの幅w1(μm)と、落下耐性(%)との関係を示す関係図である。落下耐性は、20回の試験のうちバルブから液体が流出しない割合(%)を示すものである。図3(a)のグラフによると、バルブ開口13bの幅w1が500μmの場合は落下耐性は50%であり、バルブ開口13bの幅w1が400μmの場合は落下耐性は80%であり、バルブ開口13bの幅w1が300μm以下の場合は落下耐性は100%である。落下耐性が50%以下ではバルブとしての信頼性が低いので、バルブ開口13bの幅w1は500μm以下であるのが好ましい。また、バルブ開口13bの幅w1が400μm以下の場合はより落下耐性を高めることができ好ましい。さらには、バルブ開口13bの幅w1が300μm以下であると、高さ2mからマイクロチップを落下させた場合でも液体の流出を阻止することができ好ましい。
【0035】
次に、前述の落下試験と同様のマイクロチップを作成し、マイクロチップに遠心力を印加する遠心力印加試験行った。図3(b)は、遠心力印加試験の結果であり、バルブ開口13bの幅w1(μm)と、バルブがバースト遠心加速度(m/s2)との関係を示す関係図である。ここで、バルブがバーストする遠心加速度とは、バルブにより液体を保持することができなくなる遠心加速度である。図3(b)のグラフによると、バルブ開口13bの幅w1が500μmの場合は、バルブがバーストする遠心加速度は約500m/s2である。また、バルブ開口13bの幅w1が500μm以下の場合は、バーストする遠心加速度はいずれも約500m/s2以上である。よって、約500m/s2以下の遠心加速度の場合には、幅w1が500μm以下のバルブ開口13bを有するマイクロチップを2mの高さから落下したとしてもバルブ13により液体を保持することができることが確かめられた。
【0036】
なお、上記では、人間の身長を考慮し高さ2mの場合を採り上げて落下試験及び遠心力印加試験を行ってバルブ開口13bの幅w1の限界値を算出した。しかし、マイクロチップの使用環境に応じた高さを採り上げて、その高さに応じてバルブ開口13bの幅w1の限界値を算出しても良い。
(4)変形例
図4(a)〜(d)は、第1実施形態例に係るマイクロチップ100の変形例であり、図4(a)は本発明に係るマイクロチップ100内のバルブの構成を示す斜視図、図4(b)は本発明に係るバルブの構成を示す平面図、図4(c)は図4(b)のC−C’における断面図、図4(d)は図4(c)のD−D’における断面図である。
【0037】
前述の図1(a)〜(d)に示すバルブ13と異なる点は、前述の図1(a)〜(d)ではバルブ13が槽からなる導入部11と流路である排出部15との間に接続されているが、図4(a)〜(d)ではバルブ13が流路と流路との間に設けられている点である。流路71は、流路本体71a及び流路出口71bを含む。バルブ13のバルブ入口13cは、流路出口71bと接続されている。その他の構成は前述と同様であるので説明を省略する。このように、バルブ13は、槽の出口や入口に設けられても良いし、流路と流路との間に設けられても良い。
【0038】
その他、前述の図1(a)〜(d)のバルブ構造物13−1の上面は第1基板21に接触しているが、バルブ13により液体の保持及び通過を制御できれば、バルブ構造物13−1の上面と第1基板21の下面との間に隙間が設けられていてもよい。
(5)マイクロチップ全体
(5−1)マイクロチップの構成
図5は、上記バルブ13を適用したマイクロチップ全体の構成の一例を示す構成図である。マイクロチップ100は、第3基板25を底部とし、第2基板23に槽、流路及びバルブ等が形成され、上部となる第1基板21にはマイクロチップ外部に貫通する貫通孔が適宜形成される。以下に、図5を用いてマイクロチップ100の構成の一例について、検査対象として血液が導入されるものとして説明を行う。
【0039】
図5に示すマイクロチップ100の第1基板21と第2基板23との間には、血液導入部31、遠心分離管33、血球分離部35、バルブV2、バルブV3、バルブV3と廃液溜43とを接続する流路42、バルブV2と混合部51とを接続する流路47、バルブV4、バルブV5、混合部51、及び混合部51とバルブV6とを接続する流路53が形成されている。これらの流路、槽、バルブ等は、図1等の第1排出流路15−1と同様に第1基板21の下面と第2基板23の上面に形成されている溝等により形成される。
【0040】
一方、第1基板23と第2基板25との間には、バルブV1、バルブV1と計量部39とを接続する流路37、計量部39、計量部39とバルブV3とを接続する流路41、廃液溜43、計量部39とバルブV2とを接続する流路45、試薬溜49−1,49−2、バルブV6、検出路55及び取出口57が形成されている。これらの流路、槽、バルブ等は、図1等の導入部本体11aと同様に第2基板23の下面に形成されている溝等と第3基板23の上面とにより構成される。
【0041】
マイクロチップ100では、例えば遠心力を用いて各種処理が行われる。そのため、処理に応じて図5に示す中心1、中心2及び中心3を中心として、マイクロチップ100を回転する。以下に、マイクロチップ100の各部の構成を詳細に説明する。
血液導入部31は、マイクロチップ100外部から血液を取り込む。
遠心分離管33は、概ねU字形をしており、一方の開口した一端はバルブV1に接続されており、他方の開口した端部は血液導入部31に接続されている。また、遠心分離管33は、中心1を中心とする回転により血液導入部31から血液を取り込み、かつ血液から対象成分を含む血漿を遠心分離する。ここで、中心1を中心とする回転とは、中心1を中心としてマイクロチップ100を回転し、マイクロチップ100内部の液体に所定方向の遠心力を印加することを意味する。中心2及び中心3についても同様である。
【0042】
血球分離部35は、遠心分離管33のU字形の底部に設けられており、中心1とする遠心分離により、血液から対象成分以外の成分(以下、非対象成分という)である血球を分離し保持する。血球分離部35を設けることにより、対象成分を含む血漿と非対象成分である血球とを効率よく分離することができる。
計量部39は、遠心分離管33に続く流路37、廃液溜43に続く流路41及び混合部51に続く流路45と接続されており、所定の容積を有する。また、廃液溜43に続く流路41は、計量部39により所定量の血漿を計量可能なように計量部39の所定の位置に接続されている。計量部39には、中心2を中心とする回転により遠心分離管33から血漿が導入される。そして、計量部39から溢れ出た過剰量の血漿は、流路41及びバルブV3を介して廃液溜43に導入される。このようにして、所定量の血漿を正確に計量することができる。
【0043】
廃液溜43は、バルブV3を介して計量部39に接続され、前述のように過剰量の血漿を保持する。
試薬溜49−1、49−2は、それぞれバルブV4及びバルブV5を介して混合部51に接続されており、マイクロチップ100の使用前に試薬が予め導入されている。試薬溜49−1、49−2内の試薬は、遠心分離の際の中心1を中心とする回転により混合部51に導入される。
【0044】
混合部51は、バルブV4及びバルブV5を介して試薬溜49−1、49−2に接続され、流路47及びバルブV2を介して計量部39に接続され、流路53及びバルブV6を介して検出路55に接続されている。混合部51には、遠心分離の際の中心1を中心とする回転により試薬が導入されている。そして、中心2を中心とする回転により所定量の血漿が計量部39で計量された後、中心1を中心とする回転により所定量の血漿がバルブV2及び流路47を介して混合部51に導入される。次に、混合部51は、中心1及び中心2を中心とする回転により試薬と対象成分を含む血漿とを混合する。
【0045】
検出路55は、バルブV6を介して混合部51に接続されており、試薬と血漿との混合試料が導入される。例えば、検出を光学的に行う場合には、検出路55の一端から検出路55に光を導入し、検出路55を通過後の光を他端から取り出す。そして、光の透過量を測定することで、対象成分の定量を行う。検出路55は、Al等の光反射率が高い物質によりコーティングされていると好ましい。
【0046】
取出口57は、検出路55から検出終了後の血漿等を取り出す。
バルブV1〜バルブV6の個々の構成は、前述のバルブ13と同様の構成であるので詳細な説明は省略する。バルブV1は、遠心分離管33に対して下層に位置している。バルブV1では、上層の遠心分離管33の一端とバルブ入口13cとが、第2基板23を貫通する流路(図示せず)により接続されている。バルブV2は、計量部39に対して上層に位置し、流路45の一端とバルブ入口13cとが、第2基板23を貫通する流路(図示せず)により接続されている。バルブV3は、計量部39に対して上層に位置し、流路41の一端とバルブ入口13cとが、第2基板23を貫通する流路(図示せず)により接続されている。バルブV4及びバルブV5は試薬溜49−1、49−2に対して上層に位置し、試薬溜49−1、49−2の上部にバルブ入口13cまで第2基板23を貫通する流路(図示せず)が形成されている。バルブV6は、混合部51に対して下層に位置し、流路53の一端とバルブ入口13cとが、第2基板23を貫通する流路(図示せず)により接続されている。これらのバルブV1〜バルブV6は、マイクロチップ100に遠心力が印加されていない場合の液体の移動や遠心力方向と無関係の方向への液体の移動などの意図しない移動を阻止する。
【0047】
(5−2)マイクロチップの動作
次に、マイクロチップの使用方法及びマイクロチップ内での各種処理の手順を説明する。図6は、マイクロチップでの使用方法及びマイクロチップ内での各種処理の手順を示すフローチャートの一例である。
(a)血液導入
マイクロチップ100の試薬溜49−1,49−2には、予め試薬が保持されている。まず、血液導入部31に血液が導入される。
【0048】
(b)血球分離
次に、中心1を中心とする回転により、マイクロチップ100内の液体に矢印方向(同図(b)参照)の遠心力を印加する。これにより、まず、血液は、血液導入部31から遠心分離管33に導入される。さらなる中心1を中心とする回転により、血液中の血球は血球分離部35の底部に導入され、血漿が上澄みとして分離される。この中心1と中心とする遠心分離の際に、試薬溜49−1,49−2に保持されている試薬が、バルブV4及びバルブV5を介して混合部51に導入される。
【0049】
(c)血漿の計量
次に、中心2を中心とする回転により矢印方向(同図(c)参照)の遠心力を印加し、遠心分離管33及び血球分離部35内の血漿をバルブV1及び流路37を介して計量部39に導入する。血球及び/又は血漿の一部は、血球分離部35に保持され計量部39には導入されない。計量部39に導入された血漿のうち所定量以上の血漿は、計量部39から流路41、バルブV3及び流路42を介して廃液溜43に廃棄される。血漿の計量が終了すると、中心2を中心とする回転を終了する。
【0050】
(d)混合1
次に、中心1を中心とする回転により矢印方向(同図(d)参照)の遠心力を印加し、計量部39で計量された血漿を混合部51に導入し、血漿と試薬とを混合する。
(e)混合2
回転中心を変えて、中心2を中心とする回転により矢印方向(同図(e)参照)の遠心力を印加し、血漿と試薬とを混合する。
【0051】
(f)混合3
さらに、再び中心1を中心とする回転により矢印方向(同図(f)参照)の遠心力を印加し、血漿と試薬とをさらに混合する。
(g)検出路への導入
次に、中心3を中心とする回転により矢印方向(同図(g)参照)の遠心力を印加し、血漿と試薬との混合試料を検出路55に導入する。
【0052】
(h)比色測定
最後に、混合試料が導入された検出路55に光を透過させて、検出路55を通過後の光光の透過量を測定することで、対象成分の定量を行う。
(5−3)各バルブの機能
次に、各バルブV1からV6の機能を説明する。
【0053】
(a)バルブV1
バルブV1は、血漿の計量の処理(図6(c)参照)の場合に、血球分離部35及び遠心分離管33から流路37及び計量部39へ血漿を導入し、血漿の計量以外の処理において血球分離部35及び計量部39からの血球及び血漿の意図しない移動を阻止する。バルブV1による血球及び血漿の意図しない移動を阻止する仕組みを以下に説明する。
【0054】
(i)遠心分離管33から流路37への流出の阻止
血球分離の処理(図6(b)参照)が終了した後は、血球分離部35及び遠心分離管33内には血球及び血漿が分離して存在している。次のステップである血漿の計量の処理(図6(c)参照)までの間は、血漿を計量部39で正確に計量するために、血漿及び血球を血球分離部35及び遠心分離管33に留めておくのが好ましい。例えば、血漿が遠心分離管33、流路37等を伝って流出した場合には、さらにバルブV2につながる流路47にも血漿が導入され、所望量の血漿を正確に計量出来なくなってしまうからである。ここで、血球分離部35からバルブV1に続く遠心分離管33は、血球分離部35より流路幅が狭い。そのため、回転が終了して遠心力が印加されていない場合であっても、血球分離部35内の血球及び血漿は、毛細管現象によりバルブV1の方へ伝わって行こうとする。そして、表面張力によりバルブV1のバルブ側壁面13aと排出部底部15bとの角部を伝わって、角部全体に行き渡ろうとする。しかし、バルブV1のバルブ側壁面13aが、排出部側壁面15aとは離隔しているため、血球分離部35内の血球及び血漿は、表面張力によりバルブ側壁面13aと排出部底部15bとの角部に留まってバルブV1から流路37へされない。このときの排出部15とは流路37であり、排出部側壁面15aとはバルブ側壁面13aと対向するように流路37に連続して形成されている側壁面である。
【0055】
次に、血漿の計量の処理(図6(c)参照)が終了した後は、血球分離部35内には血球及び/又は血漿の一部が残留し、計量部39には血漿が存在している。遠心力が印加されていない場合であっても、上述と同様の作用により、血球分離部35内に残留している血球及び/又は血漿の一部は、毛細管現象及び表面張力により遠心分離管33の角部を伝わってバルブV1に到達しようとする。しかし、バルブ側壁面13aが、排出部側壁面15aとは離隔しているため、血球分離部35内の血球及び/又は血漿の一部はバルブV1から流路37へ排出されない。
【0056】
なお、マイクロチップ100に遠心力が印加されており、血球分離部35から流路37に向かう方向と遠心力方向とが異なる場合であっても、血球分離部35内の血球及び/又は血漿は、表面張力及び毛細管力により血球分離部35からバルブV1へ移動し得る。つまり、血球分離部35内の血球及び/又は血漿は、その表面張力及び毛細管力によって、遠心力方向に逆らって血球分離部35からバルブV1へ移動する場合もあり得る。しかし、前述のようにバルブV1のバルブ側壁面13aと、排出部側壁面15aとが離隔して独立に形成されているため、血漿の計量以外の処理において、血球分離部35から計量部39へ血漿が排出されるのが阻止される。
【0057】
(ii)計量部39から流路37への逆流の阻止
流路37は計量部39より流路幅が狭いため、回転が終了して遠心力が印加されていない場合であっても、計量部39内の血漿は、毛細管現象によりバルブV1に向かって流路37を伝わって行こうとする。そして、表面張力により排出部側壁面15aと排出部底部15bとの角部を伝わって、角部全体に行き渡ろうとする。このときの排出部底部15bとは、流路37に連続して形成されている流路底部である。しかし、排出部側壁面15aは、バルブV1のバルブ側壁面13aとは離隔しているため、血漿は、表面張力により排出部側壁面15aと排出部底部15bとの角部に留まってバルブV1から遠心分離管33の方へ逆流しない。
【0058】
なお、マイクロチップ100に遠心力が印加されているおり、計量部39からバルブV1へ向かう方向と遠心力方向とが異なる場合であっても、血漿は、表面張力及び毛細管力により計量部39からバルブV1へ移動し得る。つまり、計量部39内の血漿は、その表面張力及び毛細管力によって、遠心力方向に逆らって計量部39からバルブV1へ移動する場合もある。しかし、前述のようにバルブV1のバルブ側壁面13aと排出部側壁面15aとが離隔して独立に形成されているため、計量部39からバルブV1への血漿の逆流を阻止することができる。
【0059】
(b)バルブV2
バルブV2は、混合1の処理(図6(d)参照)の場合に計量部39から混合部51に血漿を導入し、混合1以外の処理において計量部39及び混合部51からの血漿及び混合試料の意図しない移動を阻止する。バルブV2による血漿及び混合試料の意図しない移動を阻止する仕組みは、バルブV1の場合とほぼ同様の仕組みであるので以下に簡単に説明する。
【0060】
(i)計量部39から流路47への流出の阻止
血漿の計量の処理(図6(c)参照)が終了した後は、計量部39には血漿が存在している。ここで、計量部39からバルブV2に続く流路45は、計量部39より流路幅が狭い。そのため、回転が終了して遠心力が印加されていない場合であっても、計量部39内の血漿は、毛細管現象及び表面張力によりバルブV2のバルブ側壁面13aに到達する。しかし、バルブV2のバルブ側壁面13aが排出部側壁面15aとは離隔しているため、血漿は、表面張力によりバルブ側壁面13aと排出部底部15bとの角部に留まってバルブV2から流路47へ排出されない。このときの排出部15とは流路47であり、排出部側壁面15aとはバルブ側壁面13aと対向するように流路47に連続して形成されている側壁面である。
【0061】
このように、混合1の処理までは血漿を計量部39に留めることで、混合部51に血漿を導入するタイミングを制御して血漿と試薬との混合時間等を精度良く制御できる。また、混合部53に所望量の血漿を導入することができる。
なお、計量部39内の血漿は、その表面張力及び毛細管力によって、遠心力方向に逆らって計量部39からバルブV2へ移動する場合もあり得る。しかし、前述のようにバルブV2のバルブ側壁面13aと排出部側壁面15aとが離隔して独立に形成されているため、混合1以外の処理において、計量部39から混合部51へ血漿が排出されるのが阻止される。
【0062】
(ii)混合部51から流路47への逆流の阻止
血球分離の処理(図6(b)参照)が終了した後は、試薬溜49−1,49−2内の試薬が混合部51に導入されている。ここで、混合部51からバルブV2に続く流路47は、混合部51より流路幅が狭いため、回転が終了して遠心力が印加されていない場合であっても、混合部51内の試薬は、毛細管現象によりバルブV2に向かって流路47を伝わって行こうとする。そして、表面張力により排出部側壁面15aと排出部底部15bとの角部を伝わって、角部全体に行き渡ろうとする。このときの排出部底部15bとは、流路47に連続して形成されている流路底部である。しかし、排出部側壁面15aは、バルブV2のバルブ側壁面13aとは離隔しているため、試薬は、表面張力により排出部側壁面15aと排出部底部15bとの角部に留まってバルブV2から流路45の方へ逆流しない。
【0063】
混合1の処理(図6(d)参照)が終了した後は、混合部51内には、試薬と血漿との混合試料が存在している。前述と同様に、排出部側壁面15aは、バルブV2のバルブ側壁面13aとは離隔しているため、混合試料は、表面張力により排出部側壁面15aと排出部底部15bとの角部に留まってバルブV2から流路45の方へ逆流しない。
なお、混合部51内の試薬及び混合試料は、遠心力方向に逆らって混合部51からバルブV2へ移動する場合もあり得るが、バルブV2のバルブ側壁面13aと排出部側壁面15aとが離隔して独立に形成されているため、バルブV2から流路45の方へ逆流しない。
【0064】
(c)バルブV3
バルブV3は、血漿の計量の処理(図6(c)参照)の場合に、計量部39から廃液溜43へ血漿を導入し、血漿の計量以外の処理において計量部39及び廃液溜43からの血漿の意図しない移動を阻止する。バルブV3による血漿の意図しない移動を阻止する仕組みは、前述のバルブV1等の場合とほぼ同様の仕組みであるので以下に簡単に説明し、詳細な説明は省略する。
【0065】
(i)計量部39から流路42への流出の阻止
血漿の計量の処理(図6(c)参照)が終了した後は、計量部39には血漿が存在している。バルブV3は、血漿の計量までは血漿を計量部39に留め、計量部39から廃液溜43への血漿の流出を阻止する。これにより、計量部39において、血漿を正確に計量することができる。
【0066】
(ii)廃液溜43から流路41への逆流の阻止
血漿の計量の処理(図6(c)参照)が終了した後は、廃液溜43には計量部39から溢れ出た血漿が排出されているが、バルブV3は、排出された血漿を廃液溜43に留め、廃液溜43から計量部39への血漿の逆流を阻止する。これによっても、計量部39において、血漿を正確に計量することができる。
【0067】
(d)バルブV4、バルブV5
バルブV4は、血球の分離の処理(図6(b)参照)の場合に、試薬溜49−1、49−2から混合部51へ試薬を導入し、血球の分離以外の処理において試薬溜49−1、49−2及び混合部51からの試薬及び混合試料の意図しない移動を阻止する。バルブV4、バルブV5による試薬及び混合試料の意図しない移動を阻止する仕組みは、前述のバルブV1等の場合とほぼ同様の仕組みであるので以下に簡単に説明し、詳細な説明は省略する。
【0068】
(i)試薬溜49−1、49−2から混合部51への流出の阻止
試薬溜49−1、49−2には、予め試薬が導入されている。バルブV4、バルブV5は、血球の分離までは試薬を試薬溜49−1、49−2に留め、運搬中等のマイクロチップの使用前において試薬溜49−1、49−2から混合部51に試薬が流出するのを阻止する。
【0069】
(ii)混合部51から試薬溜49−1、49−2への逆流の阻止
血球の分離の処理(図6(b)参照)が終了した後は混合部51に試薬が存在し、また混合1の処理(図6(d)参照)が終了した後は混合部51に混合試料が存在している。バルブV4、バルブV5は、混合部51内の試薬及び混合試料が混合部51から試薬溜49−1、49−2に逆流するのを阻止する。
【0070】
(e)バルブV6
バルブV6は、検出路への導入の処理(図6(g)参照)の場合に、混合部51から検出路55に混合試料を導入し、検出路への導入以外の処理において混合部51及び検出路55からの試薬及び混合試料の意図しない移動を阻止する。バルブV6による試薬及び混合試料の意図しない移動を阻止する仕組みは、前述のバルブV1等の場合とほぼ同様の仕組みであるので以下に簡単に説明し、詳細な説明は省略する。
【0071】
(i)混合部51から検出路55への流出の阻止
血球の分離の処理(図6(b)参照)が終了した後は混合部51に試薬が存在し、また混合1の処理(図6(d)参照)が終了した後は混合部51に混合試料が存在している。バルブV6は、検出路への導入の処理(図6(g)参照)までは試薬及び混合試料を混合部51に留め、混合部51内の血漿及び混合試料が混合部51から検出路55に流出するのを阻止する。これにより、試薬のみが検出路55に流出したり、混合が未完全の試薬及び血漿が検出路55に流出するのを阻止することができる。よって、検出路55において、対象成分を正確に定量することができる。
【0072】
(ii)検出路55から混合部51への逆流の阻止
バルブV6は、検出路への導入の処理後に、検出路55内の混合試料が混合部51に逆流するのを阻止する。
(6)製造方法
次に、上記バルブ13を有するマイクロチップ100の製造方法について説明する。マイクロチップ100は、当該分野で公知の射出成形を用いることにより、簡便に製造することができる。図7は、バルブ13を有するマイクロチップ100の製造方法を示す説明図である。図7では、バルブ13周辺のみの製造方法を示しているが、その他の流路、槽及び溜部も同様に形成される。
【0073】
第3基板25をマイクロチップ100の底部とし、第2基板23に導入部本体11a、導入部出口11c、バルブ13及び排出部15を射出成形により形成し、第1基板21には導入部入口11bを射出成形により形成してマイクロチップ100の上部とする。これらの第1基板21、第2基板23及び第3基板25を互いに張り合わせることでマイクロチップ100が完成する。
【0074】
なお、射出成形は、導入部11、バルブ13及び排出部15に対応する形状を有する金型を準備しておき、第2基板23及び第1基板21に金型を押し当てることにより行われる。
例えば、金型としては三菱レーヨン製ダイアナイトMA521を用い、基板としてPET(poly ethylene terephthalate)を用いた。また、PET及び三菱レーヨン製ダイアナイトMA521を熱風式乾燥機により150℃で5〜10時間乾燥して除湿し、成形温度(シリンダー温度)275℃、樹脂圧15kg/cm2により射出成形を行った。さらに、第3基板25〜第1基板21の張り合わせには熱圧着を用い、例えば基板上下側から加圧する金属プレートの温度を80℃に設定し、0.1MPaで3〜5分加圧して基板を張り合わせた。
【0075】
基板材料としては、PET基板以外に、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PMMA(ポリメチルメタアクリレート)、PC(ポリカーボネート)、PS(ポリスチレン)、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PAR(ポリアリレート樹脂)、ABS(アクリルにトリル・ブタジエン・スチレン樹脂)、PVC(塩化ビニル樹脂)、PMP(ポリメチルペンテン樹脂)、PBD(ポリブタジエン樹脂)、BP(生物分解性ポリマー)、COP(シクロオレフィンポリマー)、PDMS(ポリジメチルシロキサン)などを使用しても良い。
【0076】
また、基板の張り合わせには、粘着材、接着剤を用いても良く、超音波及びレーザー法による融着法を用いても良い。
また、金型を用いた射出成型法の他に、モールディングあるいはインプリント法等を利用してもよい。
さらに、平板基板の一方又は双方に、フォトリソグラフィー工程、機械的加工等を直接施して、導入部11、バルブ13及び排出部15に対応するパターンが転写された基板を得てもよい。
【0077】
(7)作用効果
以上より、マイクロチップ100内の導入部11に導入された試薬等の液体は、運搬中や保管中などのチップの使用前に排出部15に排出されてしまわない。また、バルブ13は、使用前に導入部11内に液体を保持するだけでなく、排出部15から導入部11への液体の逆流を防止することもできる。例えば、所定の処理を行わない場合は液体を導入部11に保持し、所定の処理を行う場合には表面張力を超える遠心力を液体に印加して液体を排出部15に排出する。その後、バルブ13表面の表面張力により排出部15からの逆流を阻止する。このように、バルブ13を用いれば、液体の通過及び保持を簡単に制御することができる。特に、接触角θが90°未満で濡れ性が高い液体がマイクロチップに導入される場合であっても、上記バルブをマイクロチップ100に適用することで液体の通過及び保持を簡単に精度良く制御することができる。
【0078】
また、液体は、マイクロチップ内の導入部、排出部、流路等の壁面と接していると、時間の経過ともに濡れ性が徐々に高くなりその接触角θが小さくなる。よって、濡れ性が低いことを利用して液体の移動を阻止する撥水性バルブよりも、本願のような濡れ性が高い液体であっても、また時間の経過により濡れ性が高くなる液体であっても適用可能な親水性バルブの方が好ましい。
【0079】
また、上述のバルブ13によれば、液体の排出を阻止するのに表面張力を用いるため、開閉式など複雑な構造ではなく簡単な構造でバルブを形成することができる。よって、バルブ13を含むマイクロチップ100の製造が容易であり、また微細化を行い易い。例えば、射出成形によりPET(poly ethylene terephthalate)基板に流路等を形成するのと同時に、かつ流路等と同材料でバルブを形成することができ、簡単な製造工程により製造コストを小さくすることができる。さらに、開閉するなどバルブの動作により液体の保持及び排出を制御する構成ではないため、屈曲疲労の影響が無く寿命が長い。さらに、バルブを開閉するための動力源となる装置等が不要であり、マイクロチップ100の運搬や保管などを簡便に行うことができる。また液体の排出を食い止める特定材料の充填物を詰めるなどの工程も不要である。
【0080】
<第2実施形態例>
(1)バルブ周辺の構成
図8(a)〜(d)は、本発明に係るマイクロチップ200内のバルブ付近の説明図であり、図8(a)は本発明に係るマイクロチップ200内のバルブの構成を示す斜視図、図8(b)は本発明に係るバルブの構成を示す平面図、図8(c)は図8(b)のE−E’における断面図、図8(d)は図8(b)のF−F’における断面図である。
【0081】
図8(a)〜(d)に示す本発明のマイクロチップ200は、2枚の第1基板91及び第2基板93から形成され、試料や試薬等の液体が導入される導入部83、液体が排出される排出部85及び導入部81と排出部85とを接続するバルブ83を含む。
導入部81は第1基板91を貫通するように形成され、後述のバルブ入口83cに接続されている。この導入部81を介して、マイクロチップ100外部からバルブ83に試料や試薬等が導入可能となっている。
【0082】
バルブ83は、環状のバルブ構造壁83−1により形成されており、環状に取り囲まれた空間が試料等の液体が導入され保持されるバルブ入口83cとなる。また、環状のバルブ構造壁83−1は、バルブ入口83cに取り込まれた液体を排出部85に排出するためのバルブ開口83bを有する。また、バルブ構造壁83−1の上面は第1基板91に接触しており、バルブ開口83bは第1基板91の下面と第2基板93の上面に形成されている溝とにより構成されている。よって、バルブ入口83c内の液体は、バルブ開口83bを介してのみ、後述の第1排出流路85−1に排出される。なお、バルブ開口83bの数は1つに限られず複数設けても良い。また、バルブ開口83bを形成する位置は、図8に示すように第2排出流路85−2に対向する位置に限定されない。しかし、バルブ開口83bを第2排出流路85−2に対向する位置に形成することで、例えばマイクロチップ200に、バルブ開口83bから第2排出流路85−2に向かう方向の遠心力を印加する場合には効率よく液体を排出することができる。
【0083】
排出部85は、環状のバルブ構造壁83−1の周囲を取り囲む第1排出流路85−1と、第1排出流路85−1の下流側の第2排出流路85−2とを含む。第1排出流路85−1及び第2排出流路85−2は、第2基板93の上面に形成されている溝と第1基板91の下面とにより形成されている。第1排出流路85−1は、バルブ構造壁83−1の外壁面であるバルブ側壁面83aと、排出部側壁面85aと、排出部底部85bとにより囲まれて形成される流路である。バルブ側壁面83aと排出部側壁面85aとは、表面張力及び毛細管力によりバルブ側壁面83aから排出部側壁面85aに液体が伝わらない程度の距離をおいて離隔していれば良く、間隔は一定の距離であっても良いし、不連続な距離であっても良い。第2排出流路85−2は、互いに対向する排出部側壁面85aと、排出部底部85bとにより囲まれて形成される流路である。
【0084】
なお、この第2実施形態例に示すバルブ83を含む構成を第1実施形態例の図5のマイクロチップに適用しても良い。
(2)バルブの動作
マイクロチップ200には、マイクロチップ200の使用前に試薬等の液体が予め導入される。ここで、導入部81を介してバルブ入口83cに導入された液体は、マイクロチップ200の運搬中や保管中にはバルブ入口83cに保持されるのが好ましい。しかしながら、運搬方法や保管方法によっては、バルブ入口83c内の試薬等の液体が排出部85の方へ流出する場合がある。上述の通り、バルブ83は導入部81と排出部85とを接続するようにこれらの間に形成されているため、導入部81から導入される液体は必ずバルブ83を通って排出部85に排出される。このとき、液体は、バルブ構造壁83−1の内壁面と接触することにより、内壁面での表面張力によりバルブ入口83c内に保持される。
【0085】
具体的に説明すると、導入部81からバルブ入口83cに導入された液体は、内壁面を伝わってバルブ開口83bに到達する。このとき、接触角θが90以上で濡れ性が低い液体は、表面張力によってバルブ開口83b内に保持される。一方、接触角θが90°未満で濡れ性が高い液体は、バルブ入口83cよりもバルブ開口83bの流路幅が狭いため、毛細管現象によりバルブ開口83bに引き込まれる。ここで、流路断面が矩形状に形成されている場合には、バルブ側壁面83aと排出部底部85bとにより角部が形成される。濡れ性が高い液体は、表面張力によりこの角部を伝わって、角部全体に行き渡ろうとする。しかし、前述の通り、バルブ側壁面83aと排出部側壁面85aとは、排出部底部85bを介して独立に離隔して形成されているため、液体はこの角部に留まって排出部側壁面85aには到達できない。よって、導入部81からバルブ入口83cに液体が導入されたとしても、液体は、バルブ入口83c、バルブ開口83b及び/又はバルブ側壁面83aの角部に保持される。
【0086】
(3)バルブの設計
次に、接触角θが90°未満の液体を表面張力により保持可能なバルブの設計について説明する。図9は、接触角θが90°未満の液体の表面張力とバルブの寸法との関係を説明するための説明図である。
A点のバルブ入口83cにおける流路断面の深さ及び幅をそれぞれ深さd3及び幅w3とし、B点の第1排出流路85−1における流路断面の深さ及び幅をそれぞれ深さd4及び幅w4とする。これらの値を、前述の第1実施形態例で算出した関係式(9)を適用すると、以下の関係式(10)となる。
【0087】
【数6】
ここで、バルブ入口83cの幅W3が、深さd3に比べて十分に大きい場合には、以下の関係式(11)となる。
【0088】
【数7】
以上の式(10)及び(11)を満たすようにバルブ13を設計することで、接触角θが90°未満の液体は、第1排出流路85−1に排出されることなく、バルブ入口83c内に保持される。
【0089】
(4)変形例
図10(a)〜(c)は、第2実施形態例に係るマイクロチップ200の変形例であり、図10(a)は本発明に係るマイクロチップ200内のバルブの構成を示す斜視図、図10(b)は本発明に係るバルブの構成を示す平面図、図10(c)は図10(b)のG−G’における断面図である。図10に示すように、第1排出流路85−1の排出部底部85bにおいて、バルブ開口83bに対向する位置に隔壁87を設けても良い。その他の構成は、図8と同様であるので説明を省略する。
【0090】
図11は、液体が隔壁87によりバルブ入口83c内及びバルブ開口83bに保持されている様子を示す説明図である。図11に示すように、バルブ入口83c内の液体がバルブ開口83b介して第1排出流路85−1に流出しても、隔壁87に阻まれて排出部側壁面85aには到達できない。このとき、バルブ開口83bから流出した液体は、例えば表面張力により隔壁87に引き付けられている。
【0091】
なお、バルブ開口83bと隔壁87との距離は、隔壁87によりバルブ入口83c内に液体を保持できる距離であれば特に限定されない。
また、隔壁87は、バルブ開口83bの数に応じて設けても良いし、第2排出流路85−2に対向する位置のバルブ開口83bにのみ設けても良い。
(5)製造方法
次に、上記バルブ83を有するマイクロチップ200の製造方法について説明する。図12は、バルブ83を有するマイクロチップ200の製造方法を示す説明図である。図12では、バルブ83周辺のみの製造方法を示しているが、その他の流路、槽及び溜部も同様に形成される。また、マイクロチップ200の製造方法は第1実施形態と同様であるので、以下に簡単に説明する。
【0092】
第2基板93にバルブ83及び排出部85を射出成形により形成し、第1基板91には導入部81を射出成形により形成してマイクロチップ200の上部とする。これらの第1基板91及び第2基板93を互いに張り合わせることでマイクロチップ200が完成する。
(6)作用効果
以上より、第2実施形態例のマイクロチップ200は、第1実施形態例と同様の作用効果を奏する。以下に簡単に説明する。
【0093】
マイクロチップ200内のバルブ入口83cに導入された試薬等の液体は、運搬中や保管中などのチップの使用前に排出部85に排出されてしまわない。また、バルブ83は、使用前にバルブ入口83c内に液体を保持するだけでなく、排出部15からバルブ入口83cへの液体の逆流を防止することもできる。特に、接触角θが90°未満で濡れ性が高い液体がマイクロチップに導入される場合であっても、上記バルブ83をマイクロチップに適用することで液体の通過及び保持を簡単に精度良く制御することができる。
【0094】
また、液体は、時間の経過ともに濡れ性が徐々に高くなりその接触角が小さくなるため、本願のような濡れ性が高い液体であっても、また時間の経過により濡れ性が高くなる液体であっても適用可能な親水性バルブの方が好ましい。
また、簡単な製造工程により製造コストを小さくすることができる。特に、第2実施形態例のマイクロチップ200は、2枚の基板のみを用いて簡単にバルブを形成することができる点によっても、製造工程の簡略化、製造コストの低下、マイクロチップの小型化などを図ることができる。
【0095】
<第3実施形態例>
(1)バルブ周辺の構成
図13(a)〜(d)は、本発明に係るマイクロチップ300内のバルブ付近の説明図であり、図13(a)は本発明に係るマイクロチップ300内のバルブの構成を示す斜視図、図13(b)は本発明に係るバルブの構成を示す平面図、図13(c)は図13(b)のH−H’における断面図、図13(d)は図13(b)のI−I’における断面図である。
【0096】
図13(a)〜(d)に示す本発明のマイクロチップ300は、第1実施形態例と同様に3枚の基板により形成されている。具体的に、マイクロチップ300は、第1基板111、第2基板113及び第3基板115から形成され、試料や試薬等の液体が導入される導入部101、液体が排出される排出部105及び導入部101と排出部105とを接続するバルブ103を含む。
【0097】
導入部101は、流路本体101a及び流路出口101bを有する。流路本体101aには、図示しない流路入口を介して、マイクロチップ300外部から試料や試薬等が導入可能となっている。流路本体101aは、第2基板113の下面に形成されている流路と第3基板115の上面とにより、その側壁面及び底部が形成されている。また、流路出口101bは、第2基板113を貫通するように形成され、後述のバルブ入口103cに接続されている。
【0098】
バルブ103は、三角形のトライアングル形状のバルブ構造壁103−1により形成されている。バルブ入口103cは、トライアングル形状のバルブ構造壁103−1の内壁に取り囲まれた空間により形成されており、この空間は流路出口101bと接続されている。よって、バルブ入口103cは、流路出口101bから導入された液体を保持可能である。また、トライアングル形状のバルブ構造壁103−1は、その頂点の1つに、バルブ入口103cに取り込まれた液体を排出部105に排出するためのバルブ開口103bを有する。ここで、バルブ構造物103−1の上面は第1基板111に接触しており、バルブ開口103bは第1基板111の下面と第2基板113の上面に形成されている溝とにより構成されている。よって、バルブ入口103c内の液体は、バルブ開口103bを介してのみ、後述の第1排出流路105−1に排出される。
【0099】
また、バルブ開口103bの数は1つに限られず複数設けても良い。また、バルブ開口103bを形成する位置は、図13に示すように第2排出流路105−2に対向する位置に限定されない。しかし、バルブ開口103bを第2排出流路105−2に対向する位置に形成することで、例えばマイクロチップ300に、バルブ開口103bから第2排出流路105−2に向かう方向の遠心力を印加する場合には効率よく液体を排出することができる。
【0100】
排出部105は、バルブ103の周囲を取り囲む第1排出流路105−1と、第1排出流路105−1の下流側の第2排出流路105−2とを含む。第1排出流路105−1及び第2排出流路105−2は、第2基板113の上面に形成されている溝と第1基板111の下面とにより形成されている。第1排出流路105−1は、バルブ構造物103−1の外壁面であるバルブ側壁面103aと、排出部側壁面105aと、排出部底部105bとにより囲まれて形成される流路である。バルブ側壁面103aと排出部側壁面105aとは、表面張力及び毛細管力によりバルブ側壁面103aから排出部側壁面105aに液体が伝わらない程度の距離をおいて離隔していれば良く、間隔は一定の距離であっても良いし、不連続な距離であっても良い。第2排出流路105−2は、互いに対向する排出部側壁面105aと、排出部底部105bとにより囲まれて形成される流路である。
【0101】
(2)バルブの動作
マイクロチップ300には、マイクロチップ300の使用前に試薬等の液体が予め導入される場合がある。ここで、例え、運搬中や保管中に導入部101を介してバルブ入口103cに液体が導入されたとしても、バルブ入口103cに液体が保持されるのが好ましい。しかしながら、運搬方法や保管方法によっては、液体がバルブ入口103cから排出部105の方へ流出する場合がある。上述の通り、バルブ103は導入部101と排出部105とを接続するようにこれらの間に形成されているため、導入部101から導入される液体は必ずバルブ103を通って排出部105に排出される。このとき、液体は、バルブ構造壁103−1の内壁面と接触することにより、内壁面での表面張力によりバルブ入口103c内に保持される。また、バルブ側壁面103aと排出部側壁面105aとは、排出部底部105bを介して独立に離隔して形成されている。そのため、例え接触角θが90°未満で濡れ性が高い液体がマイクロチップに導入される場合であっても、液体は、バルブ側壁面103aと排出部側壁面105aとの角部に留まり、排出部側壁面105aには到達しない。よって、導入部101からバルブ入口103cに液体が導入されたとしても、液体は、バルブ入口103c、バルブ開口103b及び/又はバルブ側壁面103aの角部に保持される。
【0102】
(3)バルブの設計、製造方法
バルブ103の寸法の決定方法及び製造方法は、前述の第1及び第2実施形態例と同様であるので説明を省略する。
(4)作用効果
以上より、第3実施形態例のマイクロチップ200は、第1及び第2実施形態例と同様の作用効果を奏する。以下に簡単に説明する。
【0103】
マイクロチップ300内のバルブ入口103cに導入された試薬等の液体は、運搬中や保管中などのチップの使用前に排出部105に排出されてしまわない。また、バルブ103は、使用前に導入部101内に液体を保持するだけでなく、排出部105から導入部101への液体の逆流を防止することもできる。特に、接触角θが90°未満で濡れ性が高い液体がマイクロチップに導入される場合であっても、上記バルブ103をマイクロチップに適用することで液体の通過及び保持を簡単に精度良く制御することができる。また、簡単な製造工程により製造コストを小さくすることができる。
【0104】
また、液体は、時間の経過ともに濡れ性が徐々に高くなりその接触角が小さくなるため、本願のような濡れ性が高い液体であっても、また時間の経過により濡れ性が高くなる液体であっても適用可能な親水性バルブの方が好ましい。
また、第1排出流路105−1及び第2排出流路105−2がY字に類似した形状に形成されることで、液体を排出部105に排出する際に液体が排出流路に残留しにくい。
【0105】
<その他の実施形態例>
(a)
図14は、バルブ構造物の別の一例を示す斜視図である。第1実施形態例では、扇形形状のバルブ構造物によりバルブを構成しているが、バルブ構造物の形状はこれに限定されない。例えば、図14に示すような、複数の円柱状のバルブ構造物によりバルブを構成しても良い。バルブが複数のバルブ構造物で構成されることで表面積を大きくして表面張力をより大きくし、排出部に液体を排出させないようにすることができる。図14では、排出部125は、第1排出流路125−1及び第2排出流路125−2を含む。導入部121の導入部出口121aは、第1排出流路125−1の排出部底部125bに開口するように形成されている。バルブ123は複数の円柱状のバルブ構造物123−1により構成されており、バルブ構造物123−1は導入部出口121aを取り囲むように排出部底部125bに設けられている。ここで、導入部121から液体が第1排出流路125−1に導入されたとしても、表面張力によりバルブ構造物123−1どうしの隙間に液体が保持される。このように液体を保持できるのは、バルブ構造物123−1が、第1排出流路125−1の排出部側壁面125aとは、排出部底部125bを介して独立に離隔して形成されているためである。
【0106】
(b)
図15は、バルブの取り付け位置の別の一例を示す説明図である。第1実施形態例では、排出部と導入部とが上下関係となるように形成されている。つまり、バルブ入口が上下方向に基板を貫通するように、バルブを配置している。しかし、図15に示すように、排出部と導入部とが水平関係となるように、図1と比較して90度回転させてバルブを配置しても良い。図15では、導入部131は基板の水平方向に延在するように形成され、排出部135は導入部131の延長方向に延在するように形成されている。バルブ133は、複数のバルブ構造物133−1により構成されている。バルブ構造物133−1は、排出部135側に突出するように、バルブ土台基板133d上に形成されている。また、バルブ土台基板133dには、バルブ入口133cがバルブ土台基板133dを貫通するように形成されている。この複数のバルブ構造物133−1どうしの隙間には、バルブ開口133bが形成されており、液体は導入部131からバルブ開口133bを介して排出部135に排出される。
【0107】
ここで、液体が導入部131からバルブ入口133cに導入されても、バルブ構造物133−1の外壁面のバルブ側壁面133a及びバルブ開口133bでの表面張力により液体がバルブ133に保持される。これは、バルブ構造物133−1のバルブ側壁面133aと、排出部135の排出部側壁面135aとが、バルブ土台基板133dを介して独立に離隔して形成されているためである。
【0108】
(c)
第1実施形態例においても、第1排出流路15−1の排出部底部15bにおいて、バルブ開口13bに対向する位置に、第2実施形態例の図10に示す隔壁を設けても良い。また、第3実施形態例においても、第1排出流路105−1の排出部底部105bにおいて、バルブ開口103bに対向する位置に隔壁を設けても良い。
【0109】
(d)
上記第1実施形態例では、バルブ開口13bにおける流路断面の深さd1と、第1排出流路15−1における流路断面の深さd2とが異なる。しかし、深さd1及び深さd2を同じにしてマイクロチップの製造を容易にしても良い。
(e)
マイクロチップに導入される液体としては、全血や血漿などの試料や分析に用いる試薬等などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0110】
(f)
検出方法は、光学的な検出方法だけではなく、例えば電気化学的な検出方法を用いても良い。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明は、医療、食品、創薬等の分野で使用される、臨床分析チップ、環境分析チップ、遺伝子分析チップ(DNAチップ)、たんぱく質分析チップ(プロテオームチップ)、糖鎖チップ、クロマトグラフチップ、細胞解析チップ、製薬スクリーニングチップなどと称される気体及び液体等に適用することができる種々の基板に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】(a)本発明に係るマイクロチップ100内のバルブの構成を示す斜視図。(b)本発明に係るバルブの構成を示す平面図。(c)図1(b)のA−A’における断面図。(d)図1(b)のB−B’における断面図。
【図2】接触角θが90°未満の液体の表面張力とバルブの寸法との関係を説明するための説明図。
【図3】(a)落下試験の結果であり、バルブ開口13bの幅w1(μm)と、落下耐性(%)との関係を示す関係図。(b)遠心力印加試験の結果であり、バルブ開口13bの幅w1(μm)と、バルブがバースト遠心加速度(m/s2)との関係を示す関係図。
【図4】(a)本発明に係るマイクロチップ100内のバルブの構成を示す斜視図。(b)本発明に係るバルブの構成を示す平面図。(c)図4(b)のC−C’における断面図。(d)図4(c)のD−D’における断面図。
【図5】本発明のバルブを適用したマイクロチップ全体の構成の一例を示す構成図。
【図6】(a)マイクロチップでの使用方法及びマイクロチップ内での各種処理の手順を示すフローチャートの一例(1)。(b)マイクロチップでの使用方法及びマイクロチップ内での各種処理の手順を示すフローチャートの一例(2)。(c)マイクロチップでの使用方法及びマイクロチップ内での各種処理の手順を示すフローチャートの一例(3)。(d)マイクロチップでの使用方法及びマイクロチップ内での各種処理の手順を示すフローチャートの一例(4)。(e)マイクロチップでの使用方法及びマイクロチップ内での各種処理の手順を示すフローチャートの一例(5)。(f)マイクロチップでの使用方法及びマイクロチップ内での各種処理の手順を示すフローチャートの一例(6)。(g)マイクロチップでの使用方法及びマイクロチップ内での各種処理の手順を示すフローチャートの一例(7)。(h)マイクロチップでの使用方法及びマイクロチップ内での各種処理の手順を示すフローチャートの一例(8)。
【図7】バルブ13を有するマイクロチップ100の製造方法を示す説明図。
【図8】(a)本発明に係るマイクロチップ200内のバルブの構成を示す斜視図。(b)本発明に係るバルブの構成を示す平面図。(c)図8(b)のE−E’における断面図。(d)図8(b)のF−F’における断面図。
【図9】接触角θが90°未満の液体の表面張力とバルブの寸法との関係を説明するための説明図。
【図10】(a)本発明に係るマイクロチップ200内のバルブの構成を示す斜視図。(b)本発明に係るバルブの構成を示す平面図。(c)図10(b)のG−G’における断面図。
【図11】液体が隔壁87によりバルブ入口83c内及びバルブ開口83bに保持されている様子を示す説明図。
【図12】バルブ83を有するマイクロチップ200の製造方法を示す説明図。
【図13】(a)本発明に係るマイクロチップ300内のバルブの構成を示す斜視図。(b)本発明に係るバルブの構成を示す平面図。(c)図13(b)のH−H’における断面図。(d)図13(b)のI−I’における断面図。
【図14】バルブ構造物の別の一例を示す斜視図。
【図15】バルブの取り付け位置の別の一例を示す説明図。
【図16】(a)特許文献1に示されるバルブの一例。(b)壁面と壁面との間の角部を移動する液体を示す拡大図。
【符号の説明】
【0113】
11、81、101、121:導入部
11a:導入部本体
11b:導入部入口
11c、121a:導入部出口
13、V1〜V6、83、103、123、133:バルブ
13−1、123−1、133−1:バルブ構造物
13a、83a、103a、133a:バルブ側壁面
13b、83b、103b、133b:バルブ開口
13c、83c、103c、133c:バルブ入口
15、85、105、125、135:排出部
15−1、85−1、105−1、125−1:第1排出流路
15−2、85−2、105−2、125−2:第2排出流路
15a、85a、105a、125a、135a:排出部側壁面
15b、85b、105b、125b:排出部底部
21、91、111:第1基板
23、93、113:第2基板
25、115:第3基板
31:血液導入部
33:遠心分離管
35:血球分離部
37、47、41、45、47、53:流路
39:計量部
43:廃液溜
49−1、49−2:試薬溜
51:混合部
55:検出路
57:取出口
71:流路
71a:流路本体
71b:流路出口
101a:流路本体
101b:流路出口
83−1、103−1:バルブ構造壁
133d:バルブ土台基板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を導入する導入部と、
液体を排出する排出部と、
前記導入部と前記排出部とを接続し、液体の表面張力により前記排出部に液体を排出させないように保持するバルブと、
を含むマイクロチップ。
【請求項2】
前記バルブは、液体を前記排出部に排出する少なくとも1つの開口を有する第1流路壁を有し、
前記排出部は、前記第1流路壁とは独立の第2流路壁を有しており、
前記第1流路壁と前記第2流路壁との間の流路は、前記排出部の少なくとも一部を形成している、請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項3】
前記開口のサイズは、表面張力によって液体が流出されない大きさである、請求項2に記載のマイクロチップ。
【請求項4】
前記開口の幅は、前記第1流路壁と前記第2流路壁との間の流路の流路幅よりも小さい、請求項2に記載のマイクロチップ。
【請求項5】
前記第1流路壁と前記第2流路壁との間の流路には、少なくとも1つの前記開口に対向する位置に隔壁が設けられている、請求項2に記載のマイクロチップ。
【請求項6】
前記バルブの第1流路壁は複数の構造物からなり、前記構造物の表面及び/又は前記構造物間に液体が保持される、請求項2に記載のマイクロチップ。
【請求項7】
前記バルブの第1流路壁は環状の流路壁からなり、前記第1流路壁で囲まれる空間に液体が保持される、請求項2に記載のマイクロチップ。
【請求項8】
液体の接触角θは90°未満である、請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項9】
前記請求項1に記載のマイクロチップの使用方法であって、
前記マイクロチップを、回転軸を中心として回転することにより、前記液体の表面張力よりも大きな遠心力によって、前記導入部から前記排出部に液体を排出する、マイクロチップの使用方法。
【請求項1】
液体を導入する導入部と、
液体を排出する排出部と、
前記導入部と前記排出部とを接続し、液体の表面張力により前記排出部に液体を排出させないように保持するバルブと、
を含むマイクロチップ。
【請求項2】
前記バルブは、液体を前記排出部に排出する少なくとも1つの開口を有する第1流路壁を有し、
前記排出部は、前記第1流路壁とは独立の第2流路壁を有しており、
前記第1流路壁と前記第2流路壁との間の流路は、前記排出部の少なくとも一部を形成している、請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項3】
前記開口のサイズは、表面張力によって液体が流出されない大きさである、請求項2に記載のマイクロチップ。
【請求項4】
前記開口の幅は、前記第1流路壁と前記第2流路壁との間の流路の流路幅よりも小さい、請求項2に記載のマイクロチップ。
【請求項5】
前記第1流路壁と前記第2流路壁との間の流路には、少なくとも1つの前記開口に対向する位置に隔壁が設けられている、請求項2に記載のマイクロチップ。
【請求項6】
前記バルブの第1流路壁は複数の構造物からなり、前記構造物の表面及び/又は前記構造物間に液体が保持される、請求項2に記載のマイクロチップ。
【請求項7】
前記バルブの第1流路壁は環状の流路壁からなり、前記第1流路壁で囲まれる空間に液体が保持される、請求項2に記載のマイクロチップ。
【請求項8】
液体の接触角θは90°未満である、請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項9】
前記請求項1に記載のマイクロチップの使用方法であって、
前記マイクロチップを、回転軸を中心として回転することにより、前記液体の表面張力よりも大きな遠心力によって、前記導入部から前記排出部に液体を排出する、マイクロチップの使用方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
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【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2007−285792(P2007−285792A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−111672(P2006−111672)
【出願日】平成18年4月14日(2006.4.14)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年4月14日(2006.4.14)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】
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