マイクロチップ
【課題】基板面積(マイクロチップ面積)が十分に小さく、流体回路の集積化、高密度化が達成されたマイクロチップを提供する。
【解決手段】第1の基板と、基板の両面に設けられた溝および厚み方向に貫通する複数の貫通穴を備える第2の基板と、第3の基板とをこの順で貼り合わせてなり、第1の基板における第2の基板側表面および第2の基板における第1の基板側表面に設けられた溝から構成される第1の流体回路と、第3の基板における第2の基板側表面および第2の基板における第3の基板側表面に設けられた溝から構成される第2の流体回路と、を備えるマイクロチップである。
【解決手段】第1の基板と、基板の両面に設けられた溝および厚み方向に貫通する複数の貫通穴を備える第2の基板と、第3の基板とをこの順で貼り合わせてなり、第1の基板における第2の基板側表面および第2の基板における第1の基板側表面に設けられた溝から構成される第1の流体回路と、第3の基板における第2の基板側表面および第2の基板における第3の基板側表面に設けられた溝から構成される第2の流体回路と、を備えるマイクロチップである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNA、タンパク質、細胞、免疫および血液等の生化学検査、化学合成ならびに、環境分析などに好適に使用されるμ−TAS(Micro Total Analysis System)などとして有用なマイクロチップに関し、より詳しくは、内部に2層の流体回路を有するマイクロチップに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療や健康、食品、創薬などの分野で、DNA(Deoxyribo Nucleic Acid)や酵素、抗原、抗体、タンパク質、ウィルスおよび細胞などの生体物質、ならびに化学物質を検知、検出あるいは定量する重要性が増してきており、それらを簡便に測定できる様々なバイオチップおよびマイクロ化学チップ(以下、これらを総称してマイクロチップと称する。)が提案されている(たとえば特許文献1)。マイクロチップは、実験室で行なっている一連の実験・分析操作を、数cm〜10cm角で厚さ数mm〜数cm程度のチップ内で行なえることから、検体および試薬が微量で済み、コストが安く、反応速度が速く、ハイスループットな検査ができ、検体を採取した現場で直ちに検査結果を得ることができるなど多くの利点を有している。
【0003】
マイクロチップはその内部に流体回路を有しており、該流体回路は、たとえば検体(その一例として血液が挙げられる)と混合あるいは反応、または該検体を処理するための液体試薬を保持するための液体試薬保持部、該検体や液体試薬を計量するための計量部、検体と液体試薬とを混合するための混合部、該混合液について検査・分析するための光学測定用のキュベット(検出部)などの各部位と、これら各部位を適切に接続する微細な流路とから主に構成される。マイクロチップは、典型的には、これに遠心力を印加可能な装置(遠心装置)に載置して使用される。マイクロチップに適切な方向の遠心力を印加することにより、検体および/または液体試薬の計量、混合、ならびに該混合液の光学測定用キュベットへの導入等を行なうことができる。光学測定用キュベットに導入された混合液の検査・分析(たとえば、混合液中の特定成分の検出)は、たとえば、混合液が収容された光学測定用キュベットへ検出光を照射し、その透過率等を測定することなどにより行なうことができる。
【0004】
上記特許文献1に示されるマイクロチップは、流体回路を構成する溝が形成された第1基板と、第2基板とを、第1基板の溝形成面が貼り合わせ面となるように貼合して作製されており、内部に1層の流体回路を有するものである。ここで、「1層」とは、マイクロチップ厚み方向に関して、1つの流体回路層のみを備えていることを意味する。
【特許文献1】特開2007−17342号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、かかる「1層タイプ」のマイクロチップは、たとえば以下に示す(1)〜(3)のような問題点を有しており、かかる問題を解決し得るマイクロチップの存在が待ち望まれていた。
【0006】
(1)1層タイプのマイクロチップにおいては、所望の流体回路を形成するために基板の面積を広くせざるを得ない。このため、(i)2枚の基板を貼り合わせる際の貼り合わせ面積が広くなり、両基板の平面性を得ることが困難となる結果、レーザ溶着、熱溶着、超音波溶着、接着剤を用いた接着等による基板の接着時に接着不良が生じやすい、(ii)2枚の基板を貼り合わせる際の貼り合わせ面積が広くなり、基板接着時の圧力均一性を得ることが困難となる結果、基板の接着時に接着不良が生じやすい、(iii)かかる接着不良を改善するために、接着時圧力を大きくしたり、多量の接着剤を用いると、基板を構成する樹脂の溶け出しや接着剤のはみ出しにより、基板表面に形成された微細パターン(溝)が閉塞することがある、および、(iv)基板を構成する樹脂の溶け出しや接着剤のはみ出し等が生じた場合、マイクロチップ間の流体回路の形状均一性が得られず、また、流体回路が有する計量部の容量が変化して、正確な計量ができなくなることがある、などの問題を招来する。このような問題のため、1層タイプのマイクロチップでは、複雑な流路パターンの形成や流体回路の集積化・高密度化は困難であった。
【0007】
(2)1層タイプのマイクロチップにおいては、1つの流体回路層内に、深い溝と浅い溝とが混在して形成されることとなる。かかる場合、(i)基板に溝を形成するための金型のアスペクト比を維持するために、当該溝を形成するリブ幅が広くなるため、接着剤や溶着時の樹脂の溶け出しによる寸法精度ズレやマイクロチップ間での寸法のバラツキが生じやすい。また、(ii)基板を射出成形やインプリントで製造する場合には、浅い溝は金型の溝の底になるため、微細流路部分に対応する金型製作は容易ではなく、量産性が悪い。さらに、(iii)1つの流体回路層内に深い溝と浅い溝とが混在する場合には、マイクロチップに占める流体回路の割合を高めることができず、流体回路の集積化・高密度化が困難である。
【0008】
上記問題点(2)について、図面を参照して、さらに詳細に説明する。図17は、従来のマイクロチップに用いられる、流体回路を構成する溝を有する基板を成形するための金型の形状を示す概略断面図である。また、図18は、図17に示される金型から得られる基板を用いて作製されたマイクロチップを示す概略断面図である。マイクロチップを構成する基板としては、たとえばプラスチック基板を用いることができ、流体回路を構成する溝を備える基板は、転写構造を有する金型を用いた射出成形により作製することが可能である。図17に示されるように、金型1701の凹凸形状(基板が備える溝の転写形状)は、エンドミルなどを用いて切削することにより形成することができる。ここで、深い溝と浅い溝の両方を備える基板を成形する場合、用いる金型に、浅い溝に相当する部分の形状を付与しようとすると、金型の奥の方まで切削を行なわなければならないため、長いエンドミル刃1702を必要とするが、その際、エンドミル刃1702は、その長さに相応する太さを有さざるを得ない。すなわち、深い溝と浅い溝の両方を備える基板を作製しようとすると、その金型を作製するために、長くて太いエンドミル刃を用いなければならない。
【0009】
その結果、図18に示されるように、図17の金型から得られた上側基板1801の浅い溝を構成するリブ1803の幅Wは、エンドミル刃の太さに起因して広くなり、これにより、上側基板1801と貼り合わせられる下側基板1802との接触面積がより大きくなる。このような接触面積の増大は、基板同士を、たとえば貼り合わせ面を融解させて溶着することにより貼合する場合、基板材料の溶け出し量が増大するため、流体回路の寸法精度ズレやマイクロチップ間での寸法のバラツキをもたらす。
【0010】
また、1つの流体回路層内に、深い溝と浅い溝とが混在して形成されると、図17に示されるように、流体回路として利用されないデッドスペースSが生じ、マイクロチップに占める流体回路の割合を高めることができず、流体回路の集積化・高密度化を図ることが困難となる。
【0011】
(3)マイクロチップへの遠心力の印加は、遠心装置が備える回転自在なステージにマイクロチップを載置し、該ステージを回転させることにより行なうことができるが、1層タイプのマイクロチップは面積が広いため、該ステージの回転半径を大きくする必要があり、結果、遠心装置の巨大化、消費電力増をもたらす。
【0012】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、基板面積(マイクロチップ面積)が十分に小さく、流体回路の集積化、高密度化が達成されたマイクロチップを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち本発明によれば、第1の基板と、基板の両面に設けられた溝および厚み方向に貫通する複数の貫通穴を備える第2の基板と、第3の基板とをこの順で貼り合わせてなり、第1の基板における第2の基板側表面および第2の基板における第1の基板側表面に設けられた溝から構成される第1の流体回路と、第3の基板における第2の基板側表面および第2の基板における第3の基板側表面に設けられた溝から構成される第2の流体回路と、を備えるマイクロチップが提供される。
【0014】
上記第1の流体回路と上記第2の流体回路とは、上記複数の貫通穴のうち、いずれか1以上の貫通穴によって連結されていることが好ましい。
【0015】
上記第1の流体回路および上記第2の流体回路はそれぞれ、液体試薬を収容するための液体試薬保持部、液体試薬を計量するための液体試薬計量部、検体を計量するための検体計量部、および検体と液体試薬とを混合するための混合部からなる群から選択される少なくとも1種の部位を有することが好ましい。
【0016】
第2の基板における第1の基板側表面に設けられた溝は、第2の基板における第3の基板側表面に設けられた溝より深いことが好ましい。
【0017】
また、本発明のマイクロチップにおいては、第1の流体回路のみが、1または複数の液体試薬保持部を有することが好ましく、第2の流体回路のみが、1または複数の液体試薬計量部および1または複数の検体計量部を有することが好ましい。
【0018】
本発明のマイクロチップは、上記複数の貫通穴のうちのいずれか1以上の貫通穴と、第1の基板における第2の基板側表面と、第3の基板における第2の基板側表面とから構成される中空部からなり、第1の流体回路または第2の流体回路に接続された1以上の検出部をさらに有することが好ましい。
【0019】
上記第1の基板、第2の基板および第3の基板は、スチレン−ブタジエン共重合体からなることが好ましい。
【0020】
上記第1の基板および上記第3の基板は透明基板であることが好ましい。また、上記第2の基板は、不透明基板であることが好ましく、より好ましくは黒色基板である。
【発明の効果】
【0021】
本発明のマイクロチップによれば、流体回路を2層としているため、流体回路の集積化および高密度化が可能となる。これにより、より複雑な流体処理が可能な流体回路を形成することが可能となる。また、流体回路を2層とすることにより、基板面積(マイクロチップ面積)を小さくすることができる。これにより、基板貼り合わせ時における各基板の平面性を確保しやすくなり、基板貼り合わせ時における基板全体にわたっての圧力均一性が得られやすくなるため、接着不良を防止または抑制することができる。接着不良の防止・抑制は、マイクロチップの量産性を向上させ得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明のマイクロチップは、各種化学合成、検査・分析等を、それが有する流体回路を用いて行なうことができるチップであり、第1の基板と、基板の両表面に設けられた溝を備える第2の基板と、第3の基板とをこの順で貼り合わせてなる。かかる3枚の基板からなる本発明のマイクロチップは、第1の基板における第2の基板に対向する側の表面および第2の基板における第1の基板に対向する側の表面に設けられた溝から構成される空洞部からなる第1の流体回路と、第3の基板における第2の基板に対向する側の表面および第2の基板における第3の基板に対向する側の表面に設けられた溝から構成される空洞部からなる第2の流体回路と、の2層の流体回路を備えている。ここで、「2層」とは、マイクロチップの厚み方向に関して異なる2つの位置に流体回路が設けられていることを意味する。第1の流体回路と第2の流体回路とは、第2の基板に形成された厚み方向に貫通する1または2以上の貫通穴によって連結されていてもよい。
【0023】
流体回路を2層とすることにより、流体回路の集積化および高密度化が可能となり、これにより、より複雑な流体処理が可能なマイクロチップを得ることができる。また、基板面積(マイクロチップ面積)を小さくすることができる。これにより、基板貼り合わせ時における各基板の平面性を確保しやすくなり、基板貼り合わせ時における基板全体にわたっての圧力均一性が得られやすくなるため、接着不良を防止または抑制することができる。
【0024】
基板同士を貼り合わせる方法としては、特に限定されるものではなく、たとえば貼り合わせる基板のうち、少なくとも一方の基板の貼り合わせ面を融解させて溶着させる方法(溶着法)、接着剤を用いて接着させる方法などを挙げることができる。溶着法としては、基板を加熱して溶着させる方法;レーザ等の光を照射して、光吸収時に発生する熱により溶着する方法;超音波を用いて溶着する方法などを挙げることができる。
【0025】
本発明のマイクロチップの大きさは、特に限定されず、たとえば縦横数cm〜10cm程度、厚さ数mm〜数cm程度とすることができる。
【0026】
本発明のマイクロチップを構成する上記各基板の材質は、特に制限されず、たとえば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリアリレート樹脂(PAR)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)、スチレン−ブタジエン樹脂(スチレン−ブタジエン共重合体)、塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリメチルペンテン樹脂(PMP)、ポリブタジエン樹脂(PBD)、生分解性ポリマー(BP)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)などの有機材料;シリコン、ガラス、石英などの無機材料等を用いることができる。なかでも、流体回路の形成のし易さ等を考慮すると、樹脂を用いることが好ましく、より好ましくは、スチレン−ブタジエン共重合体である。スチレン−ブタジエン共重合体は、スチレンに起因する良好な透明性と、ブタジエンに起因する良好な粘性とを併せ持つため、微細パターンを形成するために、樹脂と金型の接触面積が非常に高くなる場合であっても、割れることなく、形状を維持したまま、樹脂を金型から容易に離型することができる。
【0027】
第1の基板、第2の基板および第3の基板を、レーザ溶着、熱溶着、超音波溶着等の溶着法により貼り合わせる場合には、第2の基板を構成する樹脂または樹脂組成物の融点またはガラス転移点は、第1の基板および第3の基板を構成する樹脂または樹脂組成物の融点またはガラス転移点より高いことが好ましい。これにより、貼り合わせ時における第2の基板上の溝の変形を効果的に防止することができる。
【0028】
第1の基板、第2の基板および第3の基板は透明基板であってもよく、基板を樹脂から構成し、該樹脂中にカーボンブラック等の黒色顔料を添加することにより黒色基板とするなど、不透明基板(着色基板)としてもよいが、真ん中の基板である第2の基板を黒色基板等の不透明基板とし、これを狭持する第1および第3の基板を透明基板とすることが好ましい。これにより、後述するような、検査・分析が行なわれる検体と液体試薬との混合液が収容された部位(たとえば光学測定用キュベット(検出部))に、マイクロチップ表面と略垂直な方向から光を照射して、透過する光の強度(透過率)を検出するなどの光学測定を行なうことが可能となる。
【0029】
第2の基板表面に、流体回路を構成する溝(パターン溝)を形成する方法としては、特に制限されず、転写構造を有する金型を用いた射出成形法、インプリント法などを挙げることができる。無機材料を用いて基板を形成する場合には、エッチング法などを用いることができる。
【0030】
本発明のマイクロチップにおいて、流体回路(第1の流体回路および第2の流体回路)は、流体回路内の液体に対して適切な様々な処理(以下、流体処理という。)を行なうことができるよう、流体回路内の適切な位置に配置された種々の部位を備えており、これらの部位は、微細な流路を介して適切に接続されている。
【0031】
上記流体回路を構成する部位としては、特に限定されないが、液体試薬を保持するための液体試薬保持部;流体回路内に導入された検体から特定成分を取り出すための分離部;検体を計量するための検体計量部;液体試薬を計量するための液体試薬計量部;検体と液体試薬とを混合するための混合部;得られた混合液についての検査・分析(たとえば、混合液中の特定成分の検出または定量)を行なうための光学測定用キュベット(検出部)などを挙げることができる。これらの各部位は、それぞれ1つのみであってもよいし、2以上あってもよい。また、本発明のマイクロチップは、これら例示された部位のすべてを有していてもよく、いずれか1以上を有していなくてもよい。また、これら例示された部位以外の部位を有していてもよい。
【0032】
なお、本明細書中において「液体試薬」とは、検査・分析の対象となる検体と混合または反応させるための物質(試薬)である。また、「検体」とは、流体回路内に導入される検査・分析の対象となる物質(たとえば全血)、または、マイクロチップ内において当該物質から分離された特定成分(たとえば全血から分離された血漿成分)を意味する。
【0033】
上記各部位は、第1の流体回路内、第2の流体回路内のいずれに配置されていてもよいが、深い溝から構成される部位を第1または第2の流体回路の一方に集約し、浅い溝から構成される部位を他方の流体回路に集約することが好ましい。図15は、一方の表面に複数の浅い溝を有し、他方の表面に深い溝を有する第2の基板を成形するための金型の形状を示す概略断面図である。また、図16は、図15に示される金型1501aおよび1501bから得られる第2の基板1602と第1の基板1601と第3の基板1603とを用いて作製された本発明のマイクロチップを示す概略断面図である。第1の流体回路、第2の流体回路のいずか一方に浅い溝から構成される部位を集約すると、図15に示されるように、第2の基板の浅い溝を形成するための金型1501aの凹部の切削深さは浅くてよいため、細くて短いエンドミル刃を使用することができる。これにより、浅い溝を構成するリブ1604の幅W’を狭くすることができるため(図16参照)、基板材料の溶け出し量が低減され、流体回路の寸法精度ズレやマイクロチップ間での寸法のバラツキを抑制することができる。また、一方の流体回路に深い溝から構成される部位を集約し、他方の流体回路に浅い溝から構成される部位を集約することにより、第2の基板の作製に用いる金型の微細加工が容易であり、また、金型の作製自体も容易になるため、マイクロチップの量産性が向上する。さらに、図17に示されるように、流体回路として利用されないデッドスペースSが生じないため、流体回路の集積化・高密度化を図ることができる。なお、図16に示されるマイクロチップにおいては、第1の流体回路を構成する溝の方が、第2の流体回路を構成する溝よりも深くなっている。
【0034】
上記された部位のうち、たとえば、検体計量部や液体試薬計量部は、大きな容量を必ずしも必要としない一方、より精密な寸法精度が要求される部位であり、これらの部位は、浅い溝から構成される第2の流体回路に集約させることが好ましい。また、たとえば、液体試薬保持部は、大きな容量を必要とする部位であり、第1の流体回路に集約させ、検体計量部や液体試薬計量部が配置される流体回路と異なる流体回路に配置することが好ましい。
【0035】
本発明のマイクロチップが液体試薬保持部を有する場合においては、マイクロチップ表面(典型的には第1の基板表面)には、内部の液体試薬保持部まで貫通する貫通穴である液体試薬導入口が設けられるのが通常である。このようなマイクロチップは、通常、液体試薬導入口から液体試薬が注入された後、マイクロチップ表面に当該液体試薬導入口を封止するためのラベルまたはシールが貼着されて、使用に供される。
【0036】
検体からの特定成分の抽出(不要成分の分離)、検体および/または液体試薬の計量、検体と液体試薬との混合、得られた混合液の光学測定用キュベット(検出部)への導入などのような流体回路内における種々の流体処理は、マイクロチップに対して、適切な方向の遠心力を順次印加することにより行なうことができる。マイクロチップへの遠心力の印加は、マイクロチップを、遠心力を印加可能な装置(遠心装置)に載置して行なうことができる。遠心装置は、たとえば、回転自在なステージを備えており、該ステージ上にマイクロチップを載置し、ステージを回転させることにより遠心力を印加することができる。検体と液体試薬とを混合させることによって最終的に得られた混合液は、特に限定されないが、たとえば、該混合液が収容された部位(典型的には光学測定用キュベット)に光を照射し、透過する光の強度(透過率)を検出する方法等の光学測定などに供され、検査・分析が行なわれる。
【0037】
光学測定用キュベットの構造は、特に限定されるものではないが、たとえばマイクロチップ厚み方向に延びる円柱状、四角柱状などの柱状の空洞部とすることができる。該空洞部からなる光学測定用キュベットは、第1の流体回路あるいは第2の流体回路、または、その双方に接続される。
【0038】
以下、実施の形態を示して、本発明を詳細に説明する。図1は、本発明に係るマイクロチップの一例を示す外形図であり、図1(a)は上面図、図1(b)は側面図、図1(c)は下面図である。図1に示されるマイクロチップ100は、透明基板である第1の基板101、黒色基板である第2の基板102および透明基板である第3の基板103をこの順で貼り合わせてなる(図1(b)参照)。これら基板の縦横の長さは、特に限定されないが、本実施形態においては、横(図1におけるA)およそ62mm×縦(図1におけるB)およそ30mmとしている。また、本実施形態において、第1の基板101、第2の基板102、第3の基板103の厚み(それぞれ図1のC、DおよびE)は、それぞれ約1.6mm、約9mm、約1.6mmとしている。ただし、これらに限定されるものではない。
【0039】
第1の基板101には、その厚み方向に貫通する液体試薬導入口110(本実施形態において合計11個)および検体(たとえば全血)をマイクロチップ流体回路内に導入するための検体導入口120が形成されている。本実施形態のマイクロチップは、通常、液体試薬を液体試薬導入口110から注入した後、当該液体試薬導入口110を封止用ラベル等により封止して、実使用に供される。
【0040】
第2の基板102には、その両面に形成された溝および厚み方向に貫通する複数の貫通孔が形成されており、これに第1の基板101および第3の基板103を貼り合わせることによって、マイクロチップ内部に2層の流体回路が形成されている。なお、以下では、第1の基板101における第2の基板102側表面および第2の基板102における第1の基板101側表面に設けられた溝から構成される流体回路を「第1の流体回路」、第3の基板103における第2の基板102側表面および第2の基板102における第3の基板103側表面に設けられた溝から構成される流体回路を「第2の流体回路」と称する。これら2つの流体回路は、第2の基板102に形成された厚み方向に貫通する貫通孔によって連結している。以下、第2の基板102の両面に形成された流体回路(溝)の構成について詳細に説明する。
【0041】
図2は、第2の基板102に形成された流体回路(溝)を示す斜視図であり、図2(a)は、第1の基板101側(以下、単に「上側」と称することがある。)表面に形成された流体回路を示す斜視図、図2(b)は、第3の基板103側(以下、単に「下側」と称することがある)表面に形成された流体回路を示す斜視図である。すなわち、図2(a)は、第1の流体回路を示しており、図2(b)は、第2の流体回路を示している。図2に示されるように、第2の基板102には、その表面に形成された溝および厚み方向に貫通する貫通孔によって、検体、液体試薬またはそれらの混合液の処理が行なわれる各部位とこれら部位を適切に接続する微細な流路とが形成されている。
【0042】
図3および図4に、それぞれ第2の基板102の上面図および下面図を示す。図3は、第2の基板102の上側流体回路(第1の流体回路)を示しており、図4は、下側流体回路(第2の流体回路)を示している。なお、図4では、図3に示される上側流体回路との対応関係が明確に把握できるよう、左右反転させた状態で第2の基板102の下側流体回路を示している。本実施形態のマイクロチップ100は、1つの検体について6項目の検査・分析を行なうことができる多項目チップであり、その流体回路は、6項目の検査・分析を行なうことができるよう、6つのセクション(図3におけるセクション1〜6)に分けられている(ただし、検体計量部設置領域(下側流体回路上部領域)においてこれらは互いに接続されている)。このように、本発明によれば、2層の流体回路を有するため、流体回路の集積化・高密度化が可能であり、比較的小さな面積を有しているにもかかわらず、多項目の検査・分析が可能なマイクロチップを提供できる。
【0043】
上記各セクションには、第1の流体回路(上側流体回路)内に、液体試薬が内蔵された液体試薬保持部が1つまたは2つ設けられている(図3における液体試薬保持部301a、301b、302a、302b、303a、303b、304a、304b、305a、305bおよび306aの合計11個)。図1における検体導入口120から導入された検体は、血球成分が分離除去された後、各セクションに分配されるとともに計量されると、別途計量された各セクション内の1種または2種の液体試薬と混合されて、それぞれ光学測定用キュベット(検出部)311、312、313、314、315、316に導入される。各セクションの各光学測定用キュベット(検出部)に導入された混合液は、たとえば、マイクロチップ表面と略垂直な方向から光学測定用キュベット(検出部)に光を照射し、その透過光の透過率を測定する等の光学的測定に供され、該混合液中の特定成分の検出等がなされる。これら一連の流体処理は、マイクロチップに対して適切な方向の遠心力を印加することにより、液体試薬、検体またはこれらの混合液を、各セクションに設けられた2層の流体回路内の各部位へ適切な順序で移動させていくことにより行なわれる。マイクロチップへの遠心力の印加は、たとえば上記した遠心装置に載置して行なうことができる。各液体試薬保持部は、第2の基板102を貫通する貫通穴を介して液体試薬計量部と接続されている。たとえば、セクション1の液体試薬保持部301a(図3参照)と液体試薬計量部411aとは、貫通穴21bによって接続されている。他の液体試薬保持部および液体試薬計量部についても同様である。このように、2層の流体回路を設け、これらを貫通穴によって連結させることにより、比較的面積の小さなマイクロチップであっても、第1の流体回路−第2の流体回路相互間を移動させることにより流体回路を効率的に利用することができ、複雑な液体移動等も制御可能となる。
【0044】
また、上記各セクションには、その第2の流体回路(下側流体回路)内に、検体を計量する検体計量部(図4における検体計量部401、402、403、404、405、406の合計6個)および液体試薬を計量する液体試薬計量部(図4における液体試薬計量部411a、411b、412a、412b、413a、413b、414a、414b、415a、415bおよび416aの合計11個)が設けられている。各検体計量部は、流路によって直列的に接続されている(図4参照)。
【0045】
また、本実施形態のマイクロチップ100は、マイクロチップ内に導入された検体(全決)から、血球成分を分離し、血漿成分(液体試薬と混合される成分)を取り出すための血球分離部420を備えている(図4参照)。血漿成分と血球成分との分離は、遠心分離によりなされる。
【0046】
ここで、本実施形態のマイクロチップ100においては、第2の基板102における第1の基板101側表面に設けられた溝(第1の流体回路を構成する溝)は、第2の基板102における第3の基板103側表面に設けられた溝(第2の流体回路を構成する溝)より基本的に深くしている。すなわち、より大きな深さが要求される部位または流路は、第1の流体回路内に設け、深さが必要とされないまたはより精密な寸法精度が要求される部位または流路は、第2の流体回路内に設けるようにしている。これにより、1つの流体回路内に深い溝と浅い溝とが混在することが防止されるため、金型を用いて基板を成形する際、リブ幅を狭くできる。したがって、基板溶着時の樹脂の溶け出しを防止することができるため、流体回路の寸法精度やマイクロチップ製品間の寸法バラツキを向上させることができる。また、1つの流体回路内に深い溝と浅い溝とが混在することが防止されることにより、金型の微細加工を比較的容易に行なうことができるようになるため、マイクロチップの量産性を向上させることができる。
【0047】
一方、比較的浅い溝から構成され、寸法精度や製品間の寸法バラツキが防止・抑制が要求される部位は、第2の流体回路に集約している。これにより、1つの流体回路内に深い溝と浅い溝とが混在する場合と比較して、金型の微細加工が容易となり、要求される寸法精度を満たす流体回路を作製しやすくなる。
【0048】
具体的には、本実施形態においては、比較的大きな容量(したがって、比較的大きな深さ)を必要とする液体試薬保持部を第1の流体回路に集約し、寸法精度や製品間の寸法バラツキが防止・抑制が要求される検体計量部および液体試薬計量部を第2の流体回路に集約している。検体計量部および液体試薬計量部の寸法精度を向上させ、製品間の寸法バラツキが防止・抑制することにより、計量精度が向上し、計量バラツキが抑制されるため、マイクロチップの性能、信頼性を向上させることができる。このような部位や流路に要求される構造に基づく集約化は、各流体回路の深さの均一化をもたらす。これにより、マイクロチップに占める流体回路の割合を高めることができ、流体回路の集積化・高密度が達成可能となる。
【0049】
なお、本発明のマイクロチップにおいては、図3に示されるように、計量時において検体計量部から溢れ出た検体を収容するための溢出検体収容部330および計量時において液体試薬計量部から溢れ出た液体試薬を収容するための溢出試薬収容部331a、331b、332a、332b、333a、333b、334a、334b、335a、335bおよび336aが設けられていてもよい。溢出検体収容部330は、流路16a(図4参照)、厚み方向に貫通する貫通穴26aおよび流路16b(図3参照)を介して検体計量部406に接続されている。また、各溢出試薬収容部は、対応する各液体試薬計量部に、流路および貫通穴を介して接続されている。たとえば、セクション1において、液体試薬保持部301a内に収容される液体試薬を計量するための液体試薬計量部411aと、溢れ出た液体試薬を収容する溢出試薬収容部331aとは、流路11a(図4参照)、厚み方向に貫通する貫通穴21aおよび流路11b(図3参照)を介して接続されている。他の溢出試薬収容部についても同様である。
【0050】
このように、マイクロチップが、溢出検体収容部および溢出試薬収容部(以下、まとめて溢出液収容部と称することがある。)を備えることにより、当該溢出液収容部における溢出液の有無を検出することによって、検体または液体試薬が遠心操作により確実に検体計量部または液体試薬計量部に移送され、かつ当該検体計量部または液体試薬計量部が、検体または液体試薬で満たされたかどうかを容易に確認することができる。すなわち、溢出液収容部に溢出液が存在することが検知されれば、検体計量部または液体試薬計量部において検体または液体試薬が正確に計量されたことが保証される。これにより、検体についての検査・分析の信頼性が向上するとともに、計量異常が確認されれば、得られた検査・分析データについては採用しないという判断を下すことが可能となる。計量異常としては、たとえば、装置誤動作により検体または液体試薬が検体計量部または液体試薬計量部に導入されていない;液体試薬の蒸発、ユーザーの誤使用による検体導入量不足、マイクロチップ製造時における基板貼り合わせ不良などにより、計量されるべき量の検体または液体試薬が計量されていない、などの場合を挙げることができる。
【0051】
ここで、溢出液収容部内に、溢れ出た検体または液体試薬が存在するか否かを検知する方法としては、特に制限されないが、たとえば、当該溢出液収容部に対して、透明基板である第1の基板101側から光を照射し、その反射光の強度を測定する方法を好ましく用いることができる。用いる光は、特に制限されず、たとえば波長400〜1000nm程度の単色光(たとえばレーザ光)であってもよいし、白色光等の混合光であってもよい。反射光の強度の測定は、たとえば市販の反射センサなどを用いて行なうことができる。
【0052】
上記反射光強度の測定を行なうことにより溢出液の有無を検知する方法においては、基本的には、溢出液収容部内に溢出液が導入される前に、溢出液収容部に対して、第1の基板側から光を照射することにより得られる反射光強度と、検体計量部または液体試薬計量部に検体または液体試薬が導入された後に、溢出液収容部に対して、第1の基板側から光を照射することにより得られる反射光強度との比を求め、当該強度比から溢出液の有無を検知する。すなわち、当該比(導入後の反射光強度/導入前の反射光強度)が1より小さい場合(導入後の反射光強度がより小さい場合)には、溢出液収容部内に、溢出液が存在すると判断される。ただし、マイクロチップ間の製造振れが小さく、溢出液導入前の反射光強度が、マイクロチップ間でほぼ一定とみなすことができる場合には、溢出液導入前における反射光強度の測定は省略することが可能である。
【0053】
図5は、溢出液収容部内に溢出液が導入される前後(図5(a)が導入前、図5(b)が導入後)における、入射光強度と反射光強度との関係を説明する図である。第1の基板501および第2の基板502の屈折率を1.57、第1の基板501側から入射光強度Iの光を入射したときの、第1の基板501表面、第1の基板501と溢出液収容部510との界面、溢出液収容部510と第2の基板502との界面における光反射率を、それぞれR1、R2、R3、光透過率を、それぞれT1、T2、T3、溢出液収容部510に収容される液体(または空気)の光透過率をT4と仮定すると、反射光の強度は、下記式(1)で表される。
【0054】
【数1】
【0055】
ここで、上記式(1)における右辺の第1項は、図5(a)および(b)に示される反射光X(第1の基板501表面からの反射)に起因する強度であり、第2項は反射光Y(第1の基板501と溢出液収容部510との界面における反射)に起因する強度であり、第3項は反射光Z(溢出液収容部510と第2の基板502との界面における反射)に起因する強度である。
【0056】
溢出液収容部510内に、溢出液が存在せず空気のみが存在する場合(図5(a)の場合)、R1はおよそ0.05と算出され、さらに、R1=R2=R3であり、したがってT1=T2=0.95となるから、上記式(1)の右辺にこれらを代入すると、反射光強度=2.72×R1Iを得る。
【0057】
一方、溢出液収容部510内に、たとえば水(屈折率1.33)が導入されると(図5(b)の場合)、R2は0.0068(したがって、T2=0.9932)と計算されるから、同様に上記式(1)の右辺に代入すると、反射光強度=1.24×R1Iを得る。上記計算結果は、導入後の反射光強度/導入前の反射光強度比が0.45になることを示している。このように、溢出液収容部510内に溢出液が導入されることにより、反射光強度が低下する(上記計算例の場合、55%低下)ため、この反射光強度低下を測定することによって、溢出液の有無を容易に検知することができる。実際に、上記屈折率を有する熱可塑性樹脂を用いてマイクロチップを作製し、波長800nmの単色光を照射したところ、水導入前後における反射光強度比は0.425であった。
【0058】
ここで、第2の基板502を不透明基板(たとえば黒色基板)とした場合には、上記式(1)における第3項(溢出液収容部510と第2の基板502との界面における反射)は実質的に0となるため、溢出液導入前後の反射光強度値の相違は、実質的に第2項(第1の基板501と溢出液収容部510との界面における反射)の強度差のみに依存することとなる。第2項の強度は、溢出液の透明、不透明に左右されないため、第2の基板502を不透明基板(たとえば黒色基板)とした場合には、溢出液が不透明であるかどうかに関わらず、溢出液の有無を検知することができる。一方、第2の基板502を透明基板とした場合、上記式(1)における第3項の寄与が発生するため、反射光強度の測定を複雑化させ得る次のような要因が招来する。まず、溢出液収容部に収容される液体(溢出液)の透過率によって反射光強度が変わる(上記式(1)に示されるように、第3項の寄与が発生する結果、反射光強度はT4に依存する。)ため、複数の溢出液収容部に対して一定の反射光強度が得られない場合がある。したがって、溢出液有無を判定する閾値を溢出液収容部に収容される液体の種類ごとに決める必要がある。また、第2の基板502を透明基板とした場合、検知したい液体が、透過率が一定の不透明な液体であっても、溢出液収容部の厚さ(深さ)によって反射光強度が変動し得る。したがって、溢出液有無を判定する閾値は、収容される液体の種類だけでなく、溢出液収容部の厚さ(深さ)に応じてそれぞれ決める必要が生じる。第2の基板502を不透明基板(たとえば黒色基板)とした場合には、不透明な液体が溢出液収容部に収容される場合であっても、一定した反射光強度値を得ることが可能となるため、透明液体の場合と同じ溢出液有無を判定する閾値を用いて、溢出液収容部内の液体の有無を検知することができる。
【0059】
上記反射光強度の測定による液体が存在するかどうか(あるいは存在しないかどうか)を検知する手法は、溢出液収容部に限らず、マイクロチップの他の部位にも適用することができる。たとえば、マイクロチップ実使用前に液体試薬保持部に対して光を照射し、その反射光強度を測定することにより、液体試薬が液体試薬保持部内に存在するかどうかを確認することができるため、輸送時の衝撃等による流出や蒸発などにより液体試薬が液体試薬保持部に収容されていないという異常を検知することができる。また、検体計量部、液体試薬計量部および検体と液体試薬とが混合される混合部等に対して光を照射し、その反射光強度を測定することにより、計量部および混合部に確実に検体、液体試薬またはその混合液が存在することを確認できるため、遠心力印加により、確実に所定の処理が行なわれていることを保証することができる。さらに、下記に示す血球分離、液体試薬計量工程以前などの段階(たとえば、マイクロチップ実使用直前)で、液体試薬計量部、混合部、検出部に光を照射し、その反射光強度を測定することにより、これらの部位に液体試薬や検体が存在しないことを確認することができるため、輸送中の落下や製造不良により液漏れが生じて液体試薬や検体が無いはずのところへ流出しているという異常を検知することができる。
【0060】
なお、溢出液収容部内に、溢れ出た検体または液体試薬が存在するか否かを検知する他の方法としては、溢出液収容部に光を照射し、その透過光を測定する方法を挙げることができるが、上記反射光を測定する方法は、透過光を測定する方法と比較して次の点で有利であり、上記反射光を測定する方法が好ましく用いられる。
(i)マイクロチップの厚さ分の液量を要しないため、微小量での検出が可能である。
(ii)反射光を測定する場合には、光を入射する側の基板が透明であればよく、不透明な基板も使用することができる(たとえば、上記本発明の実施形態における第2の基板)。
(iii)光が通過する領域(光学領域)の作製が容易であり、また光学領域の構成を簡素化することができる。すなわち、本発明のように、マイクロチップに2層の流体回路を設ける場合においても、両方の層にまたがって光学領域を形成する必要がない。これにより、設計の自由度が増すとともに、光学領域の占有面積を低減することができる。一方、透過光を測定する場合においては、光学領域を両方の層に形成する必要があるため、光学領域の占有面積が上昇するとともに、これらの光学領域の位置が合うように、設計上の位置合わせを行なう煩雑さが生じる。
(iv)上記したように、第2の基板502を不透明基板(たとえば黒色基板)とした場合には、不透明な液体が溢出液収容部に収容される場合であっても、一定した反射光強度値を得ることが可能となるため、透明液体の場合と同じ溢出液有無を判定する閾値を用いて、溢出液収容部内の液体の有無を検知することができる。
【0061】
本実施形態のマイクロチップ100は、上記したように、各液体試薬に対応する合計11個の溢出試薬収容部と1個の溢出検体収容部を有しているが、これらはすべて第1の流体回路(上側流体回路)内に形成されていることが好ましい(図3参照)。すべての溢出液収容部を一方の流体回路に形成することにより、反射光強度測定の際、マイクロチップを裏返す必要がなく、簡便かつ迅速にすべての収容部における溢出液の有無を検知することができる。また、これらの溢出液収容部は、第2の基板表面に形成された一方の流体回路内において、同一円の円周上に配置されることが好ましい(図3参照)。当該円は、マイクロチップに遠心力を付与するためにマイクロチップを公転させる際の公転中心を中心とする円であることが好ましい。より具体的には、マイクロチップは、通常、回転自在な円形状ステージを有する遠心装置の該円形状ステージ上に載置されて遠心力が印加されることから、公転中心を中心とする円とは、当該円形状ステージの回転中心を中心とする円ともいうことができる。このように、同一円の円周上にすべての溢出液収容部を配置することにより、固定された光源(または光源と反射光強度測定手段とが一体化された装置)から光を照射するとともに、マイクロチップを載置した円形状ステージを回転させて、各溢出液収容部を、当該照射光の光軸上に順に配置していくことにより反射光強度を測定することができるため、反射光強度の測定を簡便かつ迅速に行なうことができる。
【0062】
図1を参照して、本実施形態のマイクロチップ100において、第1の基板101の表面上には、第1の流体回路(上側流体回路)の溢出液収容部の直上に相当する位置に、凹部130が形成されている(合計12個)。このような凹部を形成することにより、指紋付着による溢出液収容部内に溢出液が導入される前の反射光強度の低下を防止することができる。上記したように、溢出液導入前の反射光強度が、マイクロチップ間でほぼ一定とみなすことができる場合、溢出液導入前の反射光強度の測定を省略することができるが、指紋の付着により、実際には反射光強度の低下が生じていた場合、溢出液の有無の判定に誤りが生じ得る。当該凹部130の深さは、特に制限されないが、第1の基板101の厚みが1.6mmである場合、たとえば1.1mm以下程度とすることができる。なお、本実施形態のマイクロチップ100においては、第1の基板101の表面上には、第1の流体回路の光学測定用キュベットの直上に相当する位置に、上記と同様の理由から、同様の凹部が形成されている(合計6個)。ただし、これらの凹部は本発明において必須のものではない。
【0063】
次に、本実施形態のマイクロチップ100を用いた流体処理の一例を、図6〜12を参照して説明する。図6〜12は、流体処理の各工程における第2の基板102の上面(第1の基板側表面)の液体(検体、液体試薬およびその混合液)の状態および下面(第3の基板側表面)の液体の状態を示す図である。各図における(a)が第2の基板上面(第1の流体回路)の液体の状態を示す図であり、(b)が第2の基板下面(第2の流体回路)の液体の状態を示す図である。なお、図6(b)〜12(b)においては、図4と同様に、図6(a)〜12(a)に示される上側流体回路との対応関係が明確に把握できるよう、左右反転させた状態で第2の基板102の下側流体回路を示している。また、以下の説明においては、セクション1の流体回路における流体処理についてのみ説明するが、他のセクションについても同様の処理がなされており、このことは、図面を参照することにより明確に理解することができる。さらに、以下では、検体が全血(以下では、上で定義したように、全血から分離された血漿成分をも検体と称することがある。)である場合を例に説明するが、検体の種類はこれに限定されるものではない。
【0064】
(1)血球分離、液体試薬計量工程
まず、本工程において、図3および4に示される状態にあるマイクロチップに対して、図6における下向き(以下、単に下向きという。図7〜12についても同様であり、また、他の方向についても同様である。)に遠心力を印加する。これにより、第1の基板101の検体導入口120(図1参照)から導入された全血は、貫通穴20aを通って下側流体回路に移動し、血球分離部420に導入される(図6(b)参照)。血球分離部420に導入された全血600は、血球分離部420にて遠心分離され、血漿成分(上層)と血球成分(下層)とに分離される。血球分離部420から溢れた全血は、貫通穴20bを通って上側流体回路に移動し、廃液溜め430に収容される(図6(a)参照)。また、この下向きの遠心力印加により、液体試薬保持部301a、301b内の液体試薬は、それぞれ貫通穴21b、21cを通って液体試薬計量部411a、411bに至り、計量される(図6(b)参照)。各液体試薬計量部から溢れた液体試薬は、それぞれ貫通穴21a、21dを通って、上面側流体回路内の溢出試薬収容部331a、331bに収容される(図6(a)参照)。この段階で、液体試薬に関し液量異常がない場合、溢出試薬収容部332bを除いてすべての溢出試薬収容部内に液体試薬が存在することとなる。なお、本工程に先立ち、液体試薬保持部に光を照射して、その反射光強度を測定することにより、液体試薬の存在を確認してもよい。また、血球分離、液体試薬計量工程以前の段階で、液体試薬計量部、混合部、検出部に光を照射し、その反射光強度を測定することにより、これらの部位に液体試薬や検体が存在しないかどうかを確認してもよい。
【0065】
(2)検体計量工程
次に、左向きの遠心力を印加する。これにより、血球分離部420において分離された血漿成分は、検体計量部401に導入され(同時に検体計量部402、403、404および405,406にも導入される)、計量される(図7(b)参照)。計量部から溢れた血漿成分は、貫通穴26aを通って上側流体回路内に移動される(図7(a)参照)。この左向きの遠心力により、液体試薬計量部411a内の液体試薬は、混合部441aに移動し、液体試薬計量部411b内の液体試薬は、流路12aに移動する。なお、この段階で、各検体計量部に光を照射して、その反射光強度を測定することにより、検体計量部における血漿成分の存在を確認してもよい。
【0066】
(3)第1混合工程
次に、下向きの遠心力を印加する。これにより、計量された液体試薬(液体試薬保持部301aに保持されていた液体試薬)と、検体計量部401にて計量された血漿成分とが、液体試薬計量部411aにおいて混合される(第1混合工程第1ステップ、図8(b)参照)。この際、下側流体回路の混合部441aには、液体試薬が残存している。なお、この段階で、各液体試薬計量部に光を照射して、その反射光強度を測定することにより、液体試薬計量部における混合液の存在を確認してもよい。また、この段階で溢出検体収容部の反射光強度を測定することにより、検体導入不足等の不具合をいち早く検知することができる。次に、左向きの遠心力を印加することにより、混合液は、混合部441aに残存していた液体試薬とさらに混合される(第1混合工程第2ステップ、図9(b)参照)。これら第1ステップおよび第2ステップを必要に応じて複数回行ない、確実に混合を行なう。最終的に、図9に示される状態と同様の状態を得る。
【0067】
(4)第2混合工程
次に、上向きの遠心力を印加する。これにより、混合部441a内の混合液は、貫通穴21eを通って混合部441bに至り、計量されたもう一方の液体試薬(液体試薬保持部301b内に保持されていた液体試薬)もまた、貫通穴21eを通って混合部441bに至り、これらは混合される(第2混合工程第1ステップ、図10(a)参照)。なお、この段階で、各混合部に光を照射して、その反射光強度を測定することにより、混合部における混合液の存在を確認してもよい。次に、右向きの遠心力を印加することにより、図11(a)に示されるように、混合液は混合部441b内を移動し、混合が促進される(第2混合工程第2ステップ、図11(a)参照)。また、この右向きの遠心力により、溢出試薬収容部332bに液体試薬が収容されることとなる(図11(a)参照)。これら第1ステップおよび第2ステップを必要に応じて複数回行ない、確実に混合を行なう。最終的に、図11に示される状態と同様の状態を得る。
【0068】
(5)検出部導入工程
最後に、下向きの遠心力を印加する。これにより、混合液は光学測定用キュベット(検出部)311に導入される(他の混合液についても同様、図12(a)および(b)参照)。また、溢出試薬収容部331a、331bおよび溢出検体収容部330には、液体試薬または検体(血漿成分)が収容された状態となる。他の溢出試薬収容部についても同様である。光学測定用キュベット(検出部)に充填された混合液は、光学測定に供され、検体(血漿成分)の検査・分析が行なわれる。たとえば、マイクロチップ表面に対して略垂直な方向から光を照射し、その透過光を測定することにより、混合液中の特定成分の検出等がなされる。また、この際、溢出検体収容部および各溢出試薬収容部に光を照射し、その反射光の強度を測定することにより、検体または液体試薬の有無を確認する。検体または液体試薬の有無の確認は必ずしもこの段階で行なわれる必要はないが、検体または液体試薬が、すべての溢出検体収容部および溢出試薬収容部に収容され得る状態となるのはこの段階であるため、操作の簡略化のためには、検出部導入工程後に検体または液体試薬の有無の確認を行なうことが好ましい。
【0069】
以上、本発明のマイクロチップを好ましい一例を挙げて説明したが、本発明のマイクロチップは、上記実施形態に限定されるものではない。たとえば、本発明のマイクロチップは、必ずしも多項目チップである必要はなく、1種類の検査・分析のみを行なう単項目チップであってもよい。また、本発明においては、上記した各部位のすべてを有している必要はなく、いずれか1種以上の部位を有していなくてもよい。あるいは、上記されていない他の部位を有していてもよい。また、マイクロチップが備える各部位の数も特に限定されるものではない。
【0070】
さらに、本発明のマイクロチップが有する流体回路(第1の流体回路および第2の流体回路)は、上記実施形態の構造に限定されるものではなく、種々の構造を採り得る。図13および図14は、それぞれ本発明のマイクロチップの別の一例に係る第2の基板の上面図および下面図である。図13は、第2の基板の上側流体回路(第1の流体回路)を示しており、図14は、下側流体回路(第2の流体回路)を示している。
【0071】
図13および14に示されるマイクロチップは、多項目チップであり、1つのセクションについて説明すると、その第1の流体回路に、液体試薬保持部1301aおよび1301b、ならびに混合部1302aを備える(図13参照)。また、第2の流体回路は、検体計量部1303、液体試薬計量部1304aおよび1304b、血球分離部1305、ならびに混合部1302bを備える。さらに、このマイクロチップは、光学測定用キュベット(検出部)1306を有する。図13および14に示されるように、本発明のマイクロチップは、上記した実施形態と異なる流体回路構造および形状を有していてもよい。
【0072】
本発明において、第3の基板は、必ずしも透明基板である必要はないが、少なくとも検出部を構成する表面領域については、入射した光の透過光が測定できるよう、透明であることが好ましい。第1の基板、第2の基板および第3の基板を貼り合わせる方法として、基板の貼り合わせ面に光を照射して融解させることによって貼合する等の溶着法を用いる場合には、入射した光をより効率的に吸収できるよう、第2の基板を不透明基板(好ましくは黒色基板)とし、第3の基板を透明基板とすることが好ましい。これにより、第3の基板側から光を照射して、第2の基板の貼り合わせ面を融解させることによって、第2の基板と第3の基板との貼合を容易に行なうことができる。第1の基板と第2の基板との貼合についても同様である。
【0073】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明に係るマイクロチップの一例を示す外形図である。
【図2】本発明に係るマイクロチップの第2の基板に形成された流体回路の一例を示す斜視図である。
【図3】本発明に係るマイクロチップの第2の基板の一例を示す上面図である。
【図4】本発明に係るマイクロチップの第2の基板の一例を示す下面図である。
【図5】溢出液収容部内に溢出液が導入される前後における、入射光強度と反射光強度との関係を説明する図である。
【図6】血球分離、液体試薬計量工程における第2の基板の上面(第1の基板側表面)の液体の状態および下面(第3の基板側表面)の液体の状態を示す図である。
【図7】検体計量工程における第2の基板の上面(第1の基板側表面)の液体の状態および下面(第3の基板側表面)の液体の状態を示す図である。
【図8】第1混合工程第1ステップにおける第2の基板の上面(第1の基板側表面)の液体の状態および下面(第3の基板側表面)の液体の状態を示す図である。
【図9】第1混合工程第2ステップにおける第2の基板の上面(第1の基板側表面)の液体の状態および下面(第3の基板側表面)の液体の状態を示す図である。
【図10】第2混合工程第1ステップにおける第2の基板の上面(第1の基板側表面)の液体の状態および下面(第3の基板側表面)の液体の状態を示す図である。
【図11】第2混合工程第2ステップにおける第2の基板の上面(第1の基板側表面)の液体の状態および下面(第3の基板側表面)の液体の状態を示す図である。
【図12】検出部導入工程における第2の基板の上面(第1の基板側表面)の液体の状態および下面(第3の基板側表面)の液体の状態を示す図である。
【図13】本発明に係るマイクロチップの第2の基板の別の一例を示す上面図である。
【図14】本発明に係るマイクロチップの第2の基板の別の一例を示す下面図である。
【図15】一方の表面に複数の浅い溝を有し、他方の表面に深い溝を有する第2の基板を成形するための金型の形状を示す概略断面図である。
【図16】図15に示される金型から得られる第2の基板と第1の基板と第3の基板とを用いて作製された本発明のマイクロチップを示す概略断面図である。
【図17】従来のマイクロチップに用いられる、流体回路を構成する溝を有する基板を成形するための金型の形状を示す概略断面図である。
【図18】図17に示される金型から得られる基板を用いて作製されたマイクロチップを示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0075】
100 マイクロチップ、101,501,1601 第1の基板、102,502,1602 第2の基板、103,1603 第3の基板、110 液体試薬導入口、120 検体導入口、130 凹部、301a,301b,302a,302b,303a,303b,304a,304b,305a,305b,306a,1301a,1301b 液体試薬保持部、311,312,313,314,315,316,1306 光学測定用キュベット(検出部)、330 溢出検体収容部、331a,331b,332a,332b,333a,333b,334a,334b,335a,335b,336a 溢出試薬収容部、401,402,403,404,405,406,1303 検体計量部、411a,411b,412a,412b,413a,413b,414a,414b,415a,415b,416a,1304a,1304b 液体試薬計量部、420,1305 血球分離部、430 廃液溜め、441a,441b,1302a,1302b 混合部、11a,11b,12a,16a,16b 流路、20a,20b,21a,21b,21c,21d,21e,26a 貫通穴、510 溢出液収容部、600 全血、1501a,1501b,1701 金型、1502,1702 エンドミル刃、1801 上側基板、1802 下側基板、1604,1803 リブ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNA、タンパク質、細胞、免疫および血液等の生化学検査、化学合成ならびに、環境分析などに好適に使用されるμ−TAS(Micro Total Analysis System)などとして有用なマイクロチップに関し、より詳しくは、内部に2層の流体回路を有するマイクロチップに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療や健康、食品、創薬などの分野で、DNA(Deoxyribo Nucleic Acid)や酵素、抗原、抗体、タンパク質、ウィルスおよび細胞などの生体物質、ならびに化学物質を検知、検出あるいは定量する重要性が増してきており、それらを簡便に測定できる様々なバイオチップおよびマイクロ化学チップ(以下、これらを総称してマイクロチップと称する。)が提案されている(たとえば特許文献1)。マイクロチップは、実験室で行なっている一連の実験・分析操作を、数cm〜10cm角で厚さ数mm〜数cm程度のチップ内で行なえることから、検体および試薬が微量で済み、コストが安く、反応速度が速く、ハイスループットな検査ができ、検体を採取した現場で直ちに検査結果を得ることができるなど多くの利点を有している。
【0003】
マイクロチップはその内部に流体回路を有しており、該流体回路は、たとえば検体(その一例として血液が挙げられる)と混合あるいは反応、または該検体を処理するための液体試薬を保持するための液体試薬保持部、該検体や液体試薬を計量するための計量部、検体と液体試薬とを混合するための混合部、該混合液について検査・分析するための光学測定用のキュベット(検出部)などの各部位と、これら各部位を適切に接続する微細な流路とから主に構成される。マイクロチップは、典型的には、これに遠心力を印加可能な装置(遠心装置)に載置して使用される。マイクロチップに適切な方向の遠心力を印加することにより、検体および/または液体試薬の計量、混合、ならびに該混合液の光学測定用キュベットへの導入等を行なうことができる。光学測定用キュベットに導入された混合液の検査・分析(たとえば、混合液中の特定成分の検出)は、たとえば、混合液が収容された光学測定用キュベットへ検出光を照射し、その透過率等を測定することなどにより行なうことができる。
【0004】
上記特許文献1に示されるマイクロチップは、流体回路を構成する溝が形成された第1基板と、第2基板とを、第1基板の溝形成面が貼り合わせ面となるように貼合して作製されており、内部に1層の流体回路を有するものである。ここで、「1層」とは、マイクロチップ厚み方向に関して、1つの流体回路層のみを備えていることを意味する。
【特許文献1】特開2007−17342号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、かかる「1層タイプ」のマイクロチップは、たとえば以下に示す(1)〜(3)のような問題点を有しており、かかる問題を解決し得るマイクロチップの存在が待ち望まれていた。
【0006】
(1)1層タイプのマイクロチップにおいては、所望の流体回路を形成するために基板の面積を広くせざるを得ない。このため、(i)2枚の基板を貼り合わせる際の貼り合わせ面積が広くなり、両基板の平面性を得ることが困難となる結果、レーザ溶着、熱溶着、超音波溶着、接着剤を用いた接着等による基板の接着時に接着不良が生じやすい、(ii)2枚の基板を貼り合わせる際の貼り合わせ面積が広くなり、基板接着時の圧力均一性を得ることが困難となる結果、基板の接着時に接着不良が生じやすい、(iii)かかる接着不良を改善するために、接着時圧力を大きくしたり、多量の接着剤を用いると、基板を構成する樹脂の溶け出しや接着剤のはみ出しにより、基板表面に形成された微細パターン(溝)が閉塞することがある、および、(iv)基板を構成する樹脂の溶け出しや接着剤のはみ出し等が生じた場合、マイクロチップ間の流体回路の形状均一性が得られず、また、流体回路が有する計量部の容量が変化して、正確な計量ができなくなることがある、などの問題を招来する。このような問題のため、1層タイプのマイクロチップでは、複雑な流路パターンの形成や流体回路の集積化・高密度化は困難であった。
【0007】
(2)1層タイプのマイクロチップにおいては、1つの流体回路層内に、深い溝と浅い溝とが混在して形成されることとなる。かかる場合、(i)基板に溝を形成するための金型のアスペクト比を維持するために、当該溝を形成するリブ幅が広くなるため、接着剤や溶着時の樹脂の溶け出しによる寸法精度ズレやマイクロチップ間での寸法のバラツキが生じやすい。また、(ii)基板を射出成形やインプリントで製造する場合には、浅い溝は金型の溝の底になるため、微細流路部分に対応する金型製作は容易ではなく、量産性が悪い。さらに、(iii)1つの流体回路層内に深い溝と浅い溝とが混在する場合には、マイクロチップに占める流体回路の割合を高めることができず、流体回路の集積化・高密度化が困難である。
【0008】
上記問題点(2)について、図面を参照して、さらに詳細に説明する。図17は、従来のマイクロチップに用いられる、流体回路を構成する溝を有する基板を成形するための金型の形状を示す概略断面図である。また、図18は、図17に示される金型から得られる基板を用いて作製されたマイクロチップを示す概略断面図である。マイクロチップを構成する基板としては、たとえばプラスチック基板を用いることができ、流体回路を構成する溝を備える基板は、転写構造を有する金型を用いた射出成形により作製することが可能である。図17に示されるように、金型1701の凹凸形状(基板が備える溝の転写形状)は、エンドミルなどを用いて切削することにより形成することができる。ここで、深い溝と浅い溝の両方を備える基板を成形する場合、用いる金型に、浅い溝に相当する部分の形状を付与しようとすると、金型の奥の方まで切削を行なわなければならないため、長いエンドミル刃1702を必要とするが、その際、エンドミル刃1702は、その長さに相応する太さを有さざるを得ない。すなわち、深い溝と浅い溝の両方を備える基板を作製しようとすると、その金型を作製するために、長くて太いエンドミル刃を用いなければならない。
【0009】
その結果、図18に示されるように、図17の金型から得られた上側基板1801の浅い溝を構成するリブ1803の幅Wは、エンドミル刃の太さに起因して広くなり、これにより、上側基板1801と貼り合わせられる下側基板1802との接触面積がより大きくなる。このような接触面積の増大は、基板同士を、たとえば貼り合わせ面を融解させて溶着することにより貼合する場合、基板材料の溶け出し量が増大するため、流体回路の寸法精度ズレやマイクロチップ間での寸法のバラツキをもたらす。
【0010】
また、1つの流体回路層内に、深い溝と浅い溝とが混在して形成されると、図17に示されるように、流体回路として利用されないデッドスペースSが生じ、マイクロチップに占める流体回路の割合を高めることができず、流体回路の集積化・高密度化を図ることが困難となる。
【0011】
(3)マイクロチップへの遠心力の印加は、遠心装置が備える回転自在なステージにマイクロチップを載置し、該ステージを回転させることにより行なうことができるが、1層タイプのマイクロチップは面積が広いため、該ステージの回転半径を大きくする必要があり、結果、遠心装置の巨大化、消費電力増をもたらす。
【0012】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、基板面積(マイクロチップ面積)が十分に小さく、流体回路の集積化、高密度化が達成されたマイクロチップを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち本発明によれば、第1の基板と、基板の両面に設けられた溝および厚み方向に貫通する複数の貫通穴を備える第2の基板と、第3の基板とをこの順で貼り合わせてなり、第1の基板における第2の基板側表面および第2の基板における第1の基板側表面に設けられた溝から構成される第1の流体回路と、第3の基板における第2の基板側表面および第2の基板における第3の基板側表面に設けられた溝から構成される第2の流体回路と、を備えるマイクロチップが提供される。
【0014】
上記第1の流体回路と上記第2の流体回路とは、上記複数の貫通穴のうち、いずれか1以上の貫通穴によって連結されていることが好ましい。
【0015】
上記第1の流体回路および上記第2の流体回路はそれぞれ、液体試薬を収容するための液体試薬保持部、液体試薬を計量するための液体試薬計量部、検体を計量するための検体計量部、および検体と液体試薬とを混合するための混合部からなる群から選択される少なくとも1種の部位を有することが好ましい。
【0016】
第2の基板における第1の基板側表面に設けられた溝は、第2の基板における第3の基板側表面に設けられた溝より深いことが好ましい。
【0017】
また、本発明のマイクロチップにおいては、第1の流体回路のみが、1または複数の液体試薬保持部を有することが好ましく、第2の流体回路のみが、1または複数の液体試薬計量部および1または複数の検体計量部を有することが好ましい。
【0018】
本発明のマイクロチップは、上記複数の貫通穴のうちのいずれか1以上の貫通穴と、第1の基板における第2の基板側表面と、第3の基板における第2の基板側表面とから構成される中空部からなり、第1の流体回路または第2の流体回路に接続された1以上の検出部をさらに有することが好ましい。
【0019】
上記第1の基板、第2の基板および第3の基板は、スチレン−ブタジエン共重合体からなることが好ましい。
【0020】
上記第1の基板および上記第3の基板は透明基板であることが好ましい。また、上記第2の基板は、不透明基板であることが好ましく、より好ましくは黒色基板である。
【発明の効果】
【0021】
本発明のマイクロチップによれば、流体回路を2層としているため、流体回路の集積化および高密度化が可能となる。これにより、より複雑な流体処理が可能な流体回路を形成することが可能となる。また、流体回路を2層とすることにより、基板面積(マイクロチップ面積)を小さくすることができる。これにより、基板貼り合わせ時における各基板の平面性を確保しやすくなり、基板貼り合わせ時における基板全体にわたっての圧力均一性が得られやすくなるため、接着不良を防止または抑制することができる。接着不良の防止・抑制は、マイクロチップの量産性を向上させ得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明のマイクロチップは、各種化学合成、検査・分析等を、それが有する流体回路を用いて行なうことができるチップであり、第1の基板と、基板の両表面に設けられた溝を備える第2の基板と、第3の基板とをこの順で貼り合わせてなる。かかる3枚の基板からなる本発明のマイクロチップは、第1の基板における第2の基板に対向する側の表面および第2の基板における第1の基板に対向する側の表面に設けられた溝から構成される空洞部からなる第1の流体回路と、第3の基板における第2の基板に対向する側の表面および第2の基板における第3の基板に対向する側の表面に設けられた溝から構成される空洞部からなる第2の流体回路と、の2層の流体回路を備えている。ここで、「2層」とは、マイクロチップの厚み方向に関して異なる2つの位置に流体回路が設けられていることを意味する。第1の流体回路と第2の流体回路とは、第2の基板に形成された厚み方向に貫通する1または2以上の貫通穴によって連結されていてもよい。
【0023】
流体回路を2層とすることにより、流体回路の集積化および高密度化が可能となり、これにより、より複雑な流体処理が可能なマイクロチップを得ることができる。また、基板面積(マイクロチップ面積)を小さくすることができる。これにより、基板貼り合わせ時における各基板の平面性を確保しやすくなり、基板貼り合わせ時における基板全体にわたっての圧力均一性が得られやすくなるため、接着不良を防止または抑制することができる。
【0024】
基板同士を貼り合わせる方法としては、特に限定されるものではなく、たとえば貼り合わせる基板のうち、少なくとも一方の基板の貼り合わせ面を融解させて溶着させる方法(溶着法)、接着剤を用いて接着させる方法などを挙げることができる。溶着法としては、基板を加熱して溶着させる方法;レーザ等の光を照射して、光吸収時に発生する熱により溶着する方法;超音波を用いて溶着する方法などを挙げることができる。
【0025】
本発明のマイクロチップの大きさは、特に限定されず、たとえば縦横数cm〜10cm程度、厚さ数mm〜数cm程度とすることができる。
【0026】
本発明のマイクロチップを構成する上記各基板の材質は、特に制限されず、たとえば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリアリレート樹脂(PAR)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)、スチレン−ブタジエン樹脂(スチレン−ブタジエン共重合体)、塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリメチルペンテン樹脂(PMP)、ポリブタジエン樹脂(PBD)、生分解性ポリマー(BP)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)などの有機材料;シリコン、ガラス、石英などの無機材料等を用いることができる。なかでも、流体回路の形成のし易さ等を考慮すると、樹脂を用いることが好ましく、より好ましくは、スチレン−ブタジエン共重合体である。スチレン−ブタジエン共重合体は、スチレンに起因する良好な透明性と、ブタジエンに起因する良好な粘性とを併せ持つため、微細パターンを形成するために、樹脂と金型の接触面積が非常に高くなる場合であっても、割れることなく、形状を維持したまま、樹脂を金型から容易に離型することができる。
【0027】
第1の基板、第2の基板および第3の基板を、レーザ溶着、熱溶着、超音波溶着等の溶着法により貼り合わせる場合には、第2の基板を構成する樹脂または樹脂組成物の融点またはガラス転移点は、第1の基板および第3の基板を構成する樹脂または樹脂組成物の融点またはガラス転移点より高いことが好ましい。これにより、貼り合わせ時における第2の基板上の溝の変形を効果的に防止することができる。
【0028】
第1の基板、第2の基板および第3の基板は透明基板であってもよく、基板を樹脂から構成し、該樹脂中にカーボンブラック等の黒色顔料を添加することにより黒色基板とするなど、不透明基板(着色基板)としてもよいが、真ん中の基板である第2の基板を黒色基板等の不透明基板とし、これを狭持する第1および第3の基板を透明基板とすることが好ましい。これにより、後述するような、検査・分析が行なわれる検体と液体試薬との混合液が収容された部位(たとえば光学測定用キュベット(検出部))に、マイクロチップ表面と略垂直な方向から光を照射して、透過する光の強度(透過率)を検出するなどの光学測定を行なうことが可能となる。
【0029】
第2の基板表面に、流体回路を構成する溝(パターン溝)を形成する方法としては、特に制限されず、転写構造を有する金型を用いた射出成形法、インプリント法などを挙げることができる。無機材料を用いて基板を形成する場合には、エッチング法などを用いることができる。
【0030】
本発明のマイクロチップにおいて、流体回路(第1の流体回路および第2の流体回路)は、流体回路内の液体に対して適切な様々な処理(以下、流体処理という。)を行なうことができるよう、流体回路内の適切な位置に配置された種々の部位を備えており、これらの部位は、微細な流路を介して適切に接続されている。
【0031】
上記流体回路を構成する部位としては、特に限定されないが、液体試薬を保持するための液体試薬保持部;流体回路内に導入された検体から特定成分を取り出すための分離部;検体を計量するための検体計量部;液体試薬を計量するための液体試薬計量部;検体と液体試薬とを混合するための混合部;得られた混合液についての検査・分析(たとえば、混合液中の特定成分の検出または定量)を行なうための光学測定用キュベット(検出部)などを挙げることができる。これらの各部位は、それぞれ1つのみであってもよいし、2以上あってもよい。また、本発明のマイクロチップは、これら例示された部位のすべてを有していてもよく、いずれか1以上を有していなくてもよい。また、これら例示された部位以外の部位を有していてもよい。
【0032】
なお、本明細書中において「液体試薬」とは、検査・分析の対象となる検体と混合または反応させるための物質(試薬)である。また、「検体」とは、流体回路内に導入される検査・分析の対象となる物質(たとえば全血)、または、マイクロチップ内において当該物質から分離された特定成分(たとえば全血から分離された血漿成分)を意味する。
【0033】
上記各部位は、第1の流体回路内、第2の流体回路内のいずれに配置されていてもよいが、深い溝から構成される部位を第1または第2の流体回路の一方に集約し、浅い溝から構成される部位を他方の流体回路に集約することが好ましい。図15は、一方の表面に複数の浅い溝を有し、他方の表面に深い溝を有する第2の基板を成形するための金型の形状を示す概略断面図である。また、図16は、図15に示される金型1501aおよび1501bから得られる第2の基板1602と第1の基板1601と第3の基板1603とを用いて作製された本発明のマイクロチップを示す概略断面図である。第1の流体回路、第2の流体回路のいずか一方に浅い溝から構成される部位を集約すると、図15に示されるように、第2の基板の浅い溝を形成するための金型1501aの凹部の切削深さは浅くてよいため、細くて短いエンドミル刃を使用することができる。これにより、浅い溝を構成するリブ1604の幅W’を狭くすることができるため(図16参照)、基板材料の溶け出し量が低減され、流体回路の寸法精度ズレやマイクロチップ間での寸法のバラツキを抑制することができる。また、一方の流体回路に深い溝から構成される部位を集約し、他方の流体回路に浅い溝から構成される部位を集約することにより、第2の基板の作製に用いる金型の微細加工が容易であり、また、金型の作製自体も容易になるため、マイクロチップの量産性が向上する。さらに、図17に示されるように、流体回路として利用されないデッドスペースSが生じないため、流体回路の集積化・高密度化を図ることができる。なお、図16に示されるマイクロチップにおいては、第1の流体回路を構成する溝の方が、第2の流体回路を構成する溝よりも深くなっている。
【0034】
上記された部位のうち、たとえば、検体計量部や液体試薬計量部は、大きな容量を必ずしも必要としない一方、より精密な寸法精度が要求される部位であり、これらの部位は、浅い溝から構成される第2の流体回路に集約させることが好ましい。また、たとえば、液体試薬保持部は、大きな容量を必要とする部位であり、第1の流体回路に集約させ、検体計量部や液体試薬計量部が配置される流体回路と異なる流体回路に配置することが好ましい。
【0035】
本発明のマイクロチップが液体試薬保持部を有する場合においては、マイクロチップ表面(典型的には第1の基板表面)には、内部の液体試薬保持部まで貫通する貫通穴である液体試薬導入口が設けられるのが通常である。このようなマイクロチップは、通常、液体試薬導入口から液体試薬が注入された後、マイクロチップ表面に当該液体試薬導入口を封止するためのラベルまたはシールが貼着されて、使用に供される。
【0036】
検体からの特定成分の抽出(不要成分の分離)、検体および/または液体試薬の計量、検体と液体試薬との混合、得られた混合液の光学測定用キュベット(検出部)への導入などのような流体回路内における種々の流体処理は、マイクロチップに対して、適切な方向の遠心力を順次印加することにより行なうことができる。マイクロチップへの遠心力の印加は、マイクロチップを、遠心力を印加可能な装置(遠心装置)に載置して行なうことができる。遠心装置は、たとえば、回転自在なステージを備えており、該ステージ上にマイクロチップを載置し、ステージを回転させることにより遠心力を印加することができる。検体と液体試薬とを混合させることによって最終的に得られた混合液は、特に限定されないが、たとえば、該混合液が収容された部位(典型的には光学測定用キュベット)に光を照射し、透過する光の強度(透過率)を検出する方法等の光学測定などに供され、検査・分析が行なわれる。
【0037】
光学測定用キュベットの構造は、特に限定されるものではないが、たとえばマイクロチップ厚み方向に延びる円柱状、四角柱状などの柱状の空洞部とすることができる。該空洞部からなる光学測定用キュベットは、第1の流体回路あるいは第2の流体回路、または、その双方に接続される。
【0038】
以下、実施の形態を示して、本発明を詳細に説明する。図1は、本発明に係るマイクロチップの一例を示す外形図であり、図1(a)は上面図、図1(b)は側面図、図1(c)は下面図である。図1に示されるマイクロチップ100は、透明基板である第1の基板101、黒色基板である第2の基板102および透明基板である第3の基板103をこの順で貼り合わせてなる(図1(b)参照)。これら基板の縦横の長さは、特に限定されないが、本実施形態においては、横(図1におけるA)およそ62mm×縦(図1におけるB)およそ30mmとしている。また、本実施形態において、第1の基板101、第2の基板102、第3の基板103の厚み(それぞれ図1のC、DおよびE)は、それぞれ約1.6mm、約9mm、約1.6mmとしている。ただし、これらに限定されるものではない。
【0039】
第1の基板101には、その厚み方向に貫通する液体試薬導入口110(本実施形態において合計11個)および検体(たとえば全血)をマイクロチップ流体回路内に導入するための検体導入口120が形成されている。本実施形態のマイクロチップは、通常、液体試薬を液体試薬導入口110から注入した後、当該液体試薬導入口110を封止用ラベル等により封止して、実使用に供される。
【0040】
第2の基板102には、その両面に形成された溝および厚み方向に貫通する複数の貫通孔が形成されており、これに第1の基板101および第3の基板103を貼り合わせることによって、マイクロチップ内部に2層の流体回路が形成されている。なお、以下では、第1の基板101における第2の基板102側表面および第2の基板102における第1の基板101側表面に設けられた溝から構成される流体回路を「第1の流体回路」、第3の基板103における第2の基板102側表面および第2の基板102における第3の基板103側表面に設けられた溝から構成される流体回路を「第2の流体回路」と称する。これら2つの流体回路は、第2の基板102に形成された厚み方向に貫通する貫通孔によって連結している。以下、第2の基板102の両面に形成された流体回路(溝)の構成について詳細に説明する。
【0041】
図2は、第2の基板102に形成された流体回路(溝)を示す斜視図であり、図2(a)は、第1の基板101側(以下、単に「上側」と称することがある。)表面に形成された流体回路を示す斜視図、図2(b)は、第3の基板103側(以下、単に「下側」と称することがある)表面に形成された流体回路を示す斜視図である。すなわち、図2(a)は、第1の流体回路を示しており、図2(b)は、第2の流体回路を示している。図2に示されるように、第2の基板102には、その表面に形成された溝および厚み方向に貫通する貫通孔によって、検体、液体試薬またはそれらの混合液の処理が行なわれる各部位とこれら部位を適切に接続する微細な流路とが形成されている。
【0042】
図3および図4に、それぞれ第2の基板102の上面図および下面図を示す。図3は、第2の基板102の上側流体回路(第1の流体回路)を示しており、図4は、下側流体回路(第2の流体回路)を示している。なお、図4では、図3に示される上側流体回路との対応関係が明確に把握できるよう、左右反転させた状態で第2の基板102の下側流体回路を示している。本実施形態のマイクロチップ100は、1つの検体について6項目の検査・分析を行なうことができる多項目チップであり、その流体回路は、6項目の検査・分析を行なうことができるよう、6つのセクション(図3におけるセクション1〜6)に分けられている(ただし、検体計量部設置領域(下側流体回路上部領域)においてこれらは互いに接続されている)。このように、本発明によれば、2層の流体回路を有するため、流体回路の集積化・高密度化が可能であり、比較的小さな面積を有しているにもかかわらず、多項目の検査・分析が可能なマイクロチップを提供できる。
【0043】
上記各セクションには、第1の流体回路(上側流体回路)内に、液体試薬が内蔵された液体試薬保持部が1つまたは2つ設けられている(図3における液体試薬保持部301a、301b、302a、302b、303a、303b、304a、304b、305a、305bおよび306aの合計11個)。図1における検体導入口120から導入された検体は、血球成分が分離除去された後、各セクションに分配されるとともに計量されると、別途計量された各セクション内の1種または2種の液体試薬と混合されて、それぞれ光学測定用キュベット(検出部)311、312、313、314、315、316に導入される。各セクションの各光学測定用キュベット(検出部)に導入された混合液は、たとえば、マイクロチップ表面と略垂直な方向から光学測定用キュベット(検出部)に光を照射し、その透過光の透過率を測定する等の光学的測定に供され、該混合液中の特定成分の検出等がなされる。これら一連の流体処理は、マイクロチップに対して適切な方向の遠心力を印加することにより、液体試薬、検体またはこれらの混合液を、各セクションに設けられた2層の流体回路内の各部位へ適切な順序で移動させていくことにより行なわれる。マイクロチップへの遠心力の印加は、たとえば上記した遠心装置に載置して行なうことができる。各液体試薬保持部は、第2の基板102を貫通する貫通穴を介して液体試薬計量部と接続されている。たとえば、セクション1の液体試薬保持部301a(図3参照)と液体試薬計量部411aとは、貫通穴21bによって接続されている。他の液体試薬保持部および液体試薬計量部についても同様である。このように、2層の流体回路を設け、これらを貫通穴によって連結させることにより、比較的面積の小さなマイクロチップであっても、第1の流体回路−第2の流体回路相互間を移動させることにより流体回路を効率的に利用することができ、複雑な液体移動等も制御可能となる。
【0044】
また、上記各セクションには、その第2の流体回路(下側流体回路)内に、検体を計量する検体計量部(図4における検体計量部401、402、403、404、405、406の合計6個)および液体試薬を計量する液体試薬計量部(図4における液体試薬計量部411a、411b、412a、412b、413a、413b、414a、414b、415a、415bおよび416aの合計11個)が設けられている。各検体計量部は、流路によって直列的に接続されている(図4参照)。
【0045】
また、本実施形態のマイクロチップ100は、マイクロチップ内に導入された検体(全決)から、血球成分を分離し、血漿成分(液体試薬と混合される成分)を取り出すための血球分離部420を備えている(図4参照)。血漿成分と血球成分との分離は、遠心分離によりなされる。
【0046】
ここで、本実施形態のマイクロチップ100においては、第2の基板102における第1の基板101側表面に設けられた溝(第1の流体回路を構成する溝)は、第2の基板102における第3の基板103側表面に設けられた溝(第2の流体回路を構成する溝)より基本的に深くしている。すなわち、より大きな深さが要求される部位または流路は、第1の流体回路内に設け、深さが必要とされないまたはより精密な寸法精度が要求される部位または流路は、第2の流体回路内に設けるようにしている。これにより、1つの流体回路内に深い溝と浅い溝とが混在することが防止されるため、金型を用いて基板を成形する際、リブ幅を狭くできる。したがって、基板溶着時の樹脂の溶け出しを防止することができるため、流体回路の寸法精度やマイクロチップ製品間の寸法バラツキを向上させることができる。また、1つの流体回路内に深い溝と浅い溝とが混在することが防止されることにより、金型の微細加工を比較的容易に行なうことができるようになるため、マイクロチップの量産性を向上させることができる。
【0047】
一方、比較的浅い溝から構成され、寸法精度や製品間の寸法バラツキが防止・抑制が要求される部位は、第2の流体回路に集約している。これにより、1つの流体回路内に深い溝と浅い溝とが混在する場合と比較して、金型の微細加工が容易となり、要求される寸法精度を満たす流体回路を作製しやすくなる。
【0048】
具体的には、本実施形態においては、比較的大きな容量(したがって、比較的大きな深さ)を必要とする液体試薬保持部を第1の流体回路に集約し、寸法精度や製品間の寸法バラツキが防止・抑制が要求される検体計量部および液体試薬計量部を第2の流体回路に集約している。検体計量部および液体試薬計量部の寸法精度を向上させ、製品間の寸法バラツキが防止・抑制することにより、計量精度が向上し、計量バラツキが抑制されるため、マイクロチップの性能、信頼性を向上させることができる。このような部位や流路に要求される構造に基づく集約化は、各流体回路の深さの均一化をもたらす。これにより、マイクロチップに占める流体回路の割合を高めることができ、流体回路の集積化・高密度が達成可能となる。
【0049】
なお、本発明のマイクロチップにおいては、図3に示されるように、計量時において検体計量部から溢れ出た検体を収容するための溢出検体収容部330および計量時において液体試薬計量部から溢れ出た液体試薬を収容するための溢出試薬収容部331a、331b、332a、332b、333a、333b、334a、334b、335a、335bおよび336aが設けられていてもよい。溢出検体収容部330は、流路16a(図4参照)、厚み方向に貫通する貫通穴26aおよび流路16b(図3参照)を介して検体計量部406に接続されている。また、各溢出試薬収容部は、対応する各液体試薬計量部に、流路および貫通穴を介して接続されている。たとえば、セクション1において、液体試薬保持部301a内に収容される液体試薬を計量するための液体試薬計量部411aと、溢れ出た液体試薬を収容する溢出試薬収容部331aとは、流路11a(図4参照)、厚み方向に貫通する貫通穴21aおよび流路11b(図3参照)を介して接続されている。他の溢出試薬収容部についても同様である。
【0050】
このように、マイクロチップが、溢出検体収容部および溢出試薬収容部(以下、まとめて溢出液収容部と称することがある。)を備えることにより、当該溢出液収容部における溢出液の有無を検出することによって、検体または液体試薬が遠心操作により確実に検体計量部または液体試薬計量部に移送され、かつ当該検体計量部または液体試薬計量部が、検体または液体試薬で満たされたかどうかを容易に確認することができる。すなわち、溢出液収容部に溢出液が存在することが検知されれば、検体計量部または液体試薬計量部において検体または液体試薬が正確に計量されたことが保証される。これにより、検体についての検査・分析の信頼性が向上するとともに、計量異常が確認されれば、得られた検査・分析データについては採用しないという判断を下すことが可能となる。計量異常としては、たとえば、装置誤動作により検体または液体試薬が検体計量部または液体試薬計量部に導入されていない;液体試薬の蒸発、ユーザーの誤使用による検体導入量不足、マイクロチップ製造時における基板貼り合わせ不良などにより、計量されるべき量の検体または液体試薬が計量されていない、などの場合を挙げることができる。
【0051】
ここで、溢出液収容部内に、溢れ出た検体または液体試薬が存在するか否かを検知する方法としては、特に制限されないが、たとえば、当該溢出液収容部に対して、透明基板である第1の基板101側から光を照射し、その反射光の強度を測定する方法を好ましく用いることができる。用いる光は、特に制限されず、たとえば波長400〜1000nm程度の単色光(たとえばレーザ光)であってもよいし、白色光等の混合光であってもよい。反射光の強度の測定は、たとえば市販の反射センサなどを用いて行なうことができる。
【0052】
上記反射光強度の測定を行なうことにより溢出液の有無を検知する方法においては、基本的には、溢出液収容部内に溢出液が導入される前に、溢出液収容部に対して、第1の基板側から光を照射することにより得られる反射光強度と、検体計量部または液体試薬計量部に検体または液体試薬が導入された後に、溢出液収容部に対して、第1の基板側から光を照射することにより得られる反射光強度との比を求め、当該強度比から溢出液の有無を検知する。すなわち、当該比(導入後の反射光強度/導入前の反射光強度)が1より小さい場合(導入後の反射光強度がより小さい場合)には、溢出液収容部内に、溢出液が存在すると判断される。ただし、マイクロチップ間の製造振れが小さく、溢出液導入前の反射光強度が、マイクロチップ間でほぼ一定とみなすことができる場合には、溢出液導入前における反射光強度の測定は省略することが可能である。
【0053】
図5は、溢出液収容部内に溢出液が導入される前後(図5(a)が導入前、図5(b)が導入後)における、入射光強度と反射光強度との関係を説明する図である。第1の基板501および第2の基板502の屈折率を1.57、第1の基板501側から入射光強度Iの光を入射したときの、第1の基板501表面、第1の基板501と溢出液収容部510との界面、溢出液収容部510と第2の基板502との界面における光反射率を、それぞれR1、R2、R3、光透過率を、それぞれT1、T2、T3、溢出液収容部510に収容される液体(または空気)の光透過率をT4と仮定すると、反射光の強度は、下記式(1)で表される。
【0054】
【数1】
【0055】
ここで、上記式(1)における右辺の第1項は、図5(a)および(b)に示される反射光X(第1の基板501表面からの反射)に起因する強度であり、第2項は反射光Y(第1の基板501と溢出液収容部510との界面における反射)に起因する強度であり、第3項は反射光Z(溢出液収容部510と第2の基板502との界面における反射)に起因する強度である。
【0056】
溢出液収容部510内に、溢出液が存在せず空気のみが存在する場合(図5(a)の場合)、R1はおよそ0.05と算出され、さらに、R1=R2=R3であり、したがってT1=T2=0.95となるから、上記式(1)の右辺にこれらを代入すると、反射光強度=2.72×R1Iを得る。
【0057】
一方、溢出液収容部510内に、たとえば水(屈折率1.33)が導入されると(図5(b)の場合)、R2は0.0068(したがって、T2=0.9932)と計算されるから、同様に上記式(1)の右辺に代入すると、反射光強度=1.24×R1Iを得る。上記計算結果は、導入後の反射光強度/導入前の反射光強度比が0.45になることを示している。このように、溢出液収容部510内に溢出液が導入されることにより、反射光強度が低下する(上記計算例の場合、55%低下)ため、この反射光強度低下を測定することによって、溢出液の有無を容易に検知することができる。実際に、上記屈折率を有する熱可塑性樹脂を用いてマイクロチップを作製し、波長800nmの単色光を照射したところ、水導入前後における反射光強度比は0.425であった。
【0058】
ここで、第2の基板502を不透明基板(たとえば黒色基板)とした場合には、上記式(1)における第3項(溢出液収容部510と第2の基板502との界面における反射)は実質的に0となるため、溢出液導入前後の反射光強度値の相違は、実質的に第2項(第1の基板501と溢出液収容部510との界面における反射)の強度差のみに依存することとなる。第2項の強度は、溢出液の透明、不透明に左右されないため、第2の基板502を不透明基板(たとえば黒色基板)とした場合には、溢出液が不透明であるかどうかに関わらず、溢出液の有無を検知することができる。一方、第2の基板502を透明基板とした場合、上記式(1)における第3項の寄与が発生するため、反射光強度の測定を複雑化させ得る次のような要因が招来する。まず、溢出液収容部に収容される液体(溢出液)の透過率によって反射光強度が変わる(上記式(1)に示されるように、第3項の寄与が発生する結果、反射光強度はT4に依存する。)ため、複数の溢出液収容部に対して一定の反射光強度が得られない場合がある。したがって、溢出液有無を判定する閾値を溢出液収容部に収容される液体の種類ごとに決める必要がある。また、第2の基板502を透明基板とした場合、検知したい液体が、透過率が一定の不透明な液体であっても、溢出液収容部の厚さ(深さ)によって反射光強度が変動し得る。したがって、溢出液有無を判定する閾値は、収容される液体の種類だけでなく、溢出液収容部の厚さ(深さ)に応じてそれぞれ決める必要が生じる。第2の基板502を不透明基板(たとえば黒色基板)とした場合には、不透明な液体が溢出液収容部に収容される場合であっても、一定した反射光強度値を得ることが可能となるため、透明液体の場合と同じ溢出液有無を判定する閾値を用いて、溢出液収容部内の液体の有無を検知することができる。
【0059】
上記反射光強度の測定による液体が存在するかどうか(あるいは存在しないかどうか)を検知する手法は、溢出液収容部に限らず、マイクロチップの他の部位にも適用することができる。たとえば、マイクロチップ実使用前に液体試薬保持部に対して光を照射し、その反射光強度を測定することにより、液体試薬が液体試薬保持部内に存在するかどうかを確認することができるため、輸送時の衝撃等による流出や蒸発などにより液体試薬が液体試薬保持部に収容されていないという異常を検知することができる。また、検体計量部、液体試薬計量部および検体と液体試薬とが混合される混合部等に対して光を照射し、その反射光強度を測定することにより、計量部および混合部に確実に検体、液体試薬またはその混合液が存在することを確認できるため、遠心力印加により、確実に所定の処理が行なわれていることを保証することができる。さらに、下記に示す血球分離、液体試薬計量工程以前などの段階(たとえば、マイクロチップ実使用直前)で、液体試薬計量部、混合部、検出部に光を照射し、その反射光強度を測定することにより、これらの部位に液体試薬や検体が存在しないことを確認することができるため、輸送中の落下や製造不良により液漏れが生じて液体試薬や検体が無いはずのところへ流出しているという異常を検知することができる。
【0060】
なお、溢出液収容部内に、溢れ出た検体または液体試薬が存在するか否かを検知する他の方法としては、溢出液収容部に光を照射し、その透過光を測定する方法を挙げることができるが、上記反射光を測定する方法は、透過光を測定する方法と比較して次の点で有利であり、上記反射光を測定する方法が好ましく用いられる。
(i)マイクロチップの厚さ分の液量を要しないため、微小量での検出が可能である。
(ii)反射光を測定する場合には、光を入射する側の基板が透明であればよく、不透明な基板も使用することができる(たとえば、上記本発明の実施形態における第2の基板)。
(iii)光が通過する領域(光学領域)の作製が容易であり、また光学領域の構成を簡素化することができる。すなわち、本発明のように、マイクロチップに2層の流体回路を設ける場合においても、両方の層にまたがって光学領域を形成する必要がない。これにより、設計の自由度が増すとともに、光学領域の占有面積を低減することができる。一方、透過光を測定する場合においては、光学領域を両方の層に形成する必要があるため、光学領域の占有面積が上昇するとともに、これらの光学領域の位置が合うように、設計上の位置合わせを行なう煩雑さが生じる。
(iv)上記したように、第2の基板502を不透明基板(たとえば黒色基板)とした場合には、不透明な液体が溢出液収容部に収容される場合であっても、一定した反射光強度値を得ることが可能となるため、透明液体の場合と同じ溢出液有無を判定する閾値を用いて、溢出液収容部内の液体の有無を検知することができる。
【0061】
本実施形態のマイクロチップ100は、上記したように、各液体試薬に対応する合計11個の溢出試薬収容部と1個の溢出検体収容部を有しているが、これらはすべて第1の流体回路(上側流体回路)内に形成されていることが好ましい(図3参照)。すべての溢出液収容部を一方の流体回路に形成することにより、反射光強度測定の際、マイクロチップを裏返す必要がなく、簡便かつ迅速にすべての収容部における溢出液の有無を検知することができる。また、これらの溢出液収容部は、第2の基板表面に形成された一方の流体回路内において、同一円の円周上に配置されることが好ましい(図3参照)。当該円は、マイクロチップに遠心力を付与するためにマイクロチップを公転させる際の公転中心を中心とする円であることが好ましい。より具体的には、マイクロチップは、通常、回転自在な円形状ステージを有する遠心装置の該円形状ステージ上に載置されて遠心力が印加されることから、公転中心を中心とする円とは、当該円形状ステージの回転中心を中心とする円ともいうことができる。このように、同一円の円周上にすべての溢出液収容部を配置することにより、固定された光源(または光源と反射光強度測定手段とが一体化された装置)から光を照射するとともに、マイクロチップを載置した円形状ステージを回転させて、各溢出液収容部を、当該照射光の光軸上に順に配置していくことにより反射光強度を測定することができるため、反射光強度の測定を簡便かつ迅速に行なうことができる。
【0062】
図1を参照して、本実施形態のマイクロチップ100において、第1の基板101の表面上には、第1の流体回路(上側流体回路)の溢出液収容部の直上に相当する位置に、凹部130が形成されている(合計12個)。このような凹部を形成することにより、指紋付着による溢出液収容部内に溢出液が導入される前の反射光強度の低下を防止することができる。上記したように、溢出液導入前の反射光強度が、マイクロチップ間でほぼ一定とみなすことができる場合、溢出液導入前の反射光強度の測定を省略することができるが、指紋の付着により、実際には反射光強度の低下が生じていた場合、溢出液の有無の判定に誤りが生じ得る。当該凹部130の深さは、特に制限されないが、第1の基板101の厚みが1.6mmである場合、たとえば1.1mm以下程度とすることができる。なお、本実施形態のマイクロチップ100においては、第1の基板101の表面上には、第1の流体回路の光学測定用キュベットの直上に相当する位置に、上記と同様の理由から、同様の凹部が形成されている(合計6個)。ただし、これらの凹部は本発明において必須のものではない。
【0063】
次に、本実施形態のマイクロチップ100を用いた流体処理の一例を、図6〜12を参照して説明する。図6〜12は、流体処理の各工程における第2の基板102の上面(第1の基板側表面)の液体(検体、液体試薬およびその混合液)の状態および下面(第3の基板側表面)の液体の状態を示す図である。各図における(a)が第2の基板上面(第1の流体回路)の液体の状態を示す図であり、(b)が第2の基板下面(第2の流体回路)の液体の状態を示す図である。なお、図6(b)〜12(b)においては、図4と同様に、図6(a)〜12(a)に示される上側流体回路との対応関係が明確に把握できるよう、左右反転させた状態で第2の基板102の下側流体回路を示している。また、以下の説明においては、セクション1の流体回路における流体処理についてのみ説明するが、他のセクションについても同様の処理がなされており、このことは、図面を参照することにより明確に理解することができる。さらに、以下では、検体が全血(以下では、上で定義したように、全血から分離された血漿成分をも検体と称することがある。)である場合を例に説明するが、検体の種類はこれに限定されるものではない。
【0064】
(1)血球分離、液体試薬計量工程
まず、本工程において、図3および4に示される状態にあるマイクロチップに対して、図6における下向き(以下、単に下向きという。図7〜12についても同様であり、また、他の方向についても同様である。)に遠心力を印加する。これにより、第1の基板101の検体導入口120(図1参照)から導入された全血は、貫通穴20aを通って下側流体回路に移動し、血球分離部420に導入される(図6(b)参照)。血球分離部420に導入された全血600は、血球分離部420にて遠心分離され、血漿成分(上層)と血球成分(下層)とに分離される。血球分離部420から溢れた全血は、貫通穴20bを通って上側流体回路に移動し、廃液溜め430に収容される(図6(a)参照)。また、この下向きの遠心力印加により、液体試薬保持部301a、301b内の液体試薬は、それぞれ貫通穴21b、21cを通って液体試薬計量部411a、411bに至り、計量される(図6(b)参照)。各液体試薬計量部から溢れた液体試薬は、それぞれ貫通穴21a、21dを通って、上面側流体回路内の溢出試薬収容部331a、331bに収容される(図6(a)参照)。この段階で、液体試薬に関し液量異常がない場合、溢出試薬収容部332bを除いてすべての溢出試薬収容部内に液体試薬が存在することとなる。なお、本工程に先立ち、液体試薬保持部に光を照射して、その反射光強度を測定することにより、液体試薬の存在を確認してもよい。また、血球分離、液体試薬計量工程以前の段階で、液体試薬計量部、混合部、検出部に光を照射し、その反射光強度を測定することにより、これらの部位に液体試薬や検体が存在しないかどうかを確認してもよい。
【0065】
(2)検体計量工程
次に、左向きの遠心力を印加する。これにより、血球分離部420において分離された血漿成分は、検体計量部401に導入され(同時に検体計量部402、403、404および405,406にも導入される)、計量される(図7(b)参照)。計量部から溢れた血漿成分は、貫通穴26aを通って上側流体回路内に移動される(図7(a)参照)。この左向きの遠心力により、液体試薬計量部411a内の液体試薬は、混合部441aに移動し、液体試薬計量部411b内の液体試薬は、流路12aに移動する。なお、この段階で、各検体計量部に光を照射して、その反射光強度を測定することにより、検体計量部における血漿成分の存在を確認してもよい。
【0066】
(3)第1混合工程
次に、下向きの遠心力を印加する。これにより、計量された液体試薬(液体試薬保持部301aに保持されていた液体試薬)と、検体計量部401にて計量された血漿成分とが、液体試薬計量部411aにおいて混合される(第1混合工程第1ステップ、図8(b)参照)。この際、下側流体回路の混合部441aには、液体試薬が残存している。なお、この段階で、各液体試薬計量部に光を照射して、その反射光強度を測定することにより、液体試薬計量部における混合液の存在を確認してもよい。また、この段階で溢出検体収容部の反射光強度を測定することにより、検体導入不足等の不具合をいち早く検知することができる。次に、左向きの遠心力を印加することにより、混合液は、混合部441aに残存していた液体試薬とさらに混合される(第1混合工程第2ステップ、図9(b)参照)。これら第1ステップおよび第2ステップを必要に応じて複数回行ない、確実に混合を行なう。最終的に、図9に示される状態と同様の状態を得る。
【0067】
(4)第2混合工程
次に、上向きの遠心力を印加する。これにより、混合部441a内の混合液は、貫通穴21eを通って混合部441bに至り、計量されたもう一方の液体試薬(液体試薬保持部301b内に保持されていた液体試薬)もまた、貫通穴21eを通って混合部441bに至り、これらは混合される(第2混合工程第1ステップ、図10(a)参照)。なお、この段階で、各混合部に光を照射して、その反射光強度を測定することにより、混合部における混合液の存在を確認してもよい。次に、右向きの遠心力を印加することにより、図11(a)に示されるように、混合液は混合部441b内を移動し、混合が促進される(第2混合工程第2ステップ、図11(a)参照)。また、この右向きの遠心力により、溢出試薬収容部332bに液体試薬が収容されることとなる(図11(a)参照)。これら第1ステップおよび第2ステップを必要に応じて複数回行ない、確実に混合を行なう。最終的に、図11に示される状態と同様の状態を得る。
【0068】
(5)検出部導入工程
最後に、下向きの遠心力を印加する。これにより、混合液は光学測定用キュベット(検出部)311に導入される(他の混合液についても同様、図12(a)および(b)参照)。また、溢出試薬収容部331a、331bおよび溢出検体収容部330には、液体試薬または検体(血漿成分)が収容された状態となる。他の溢出試薬収容部についても同様である。光学測定用キュベット(検出部)に充填された混合液は、光学測定に供され、検体(血漿成分)の検査・分析が行なわれる。たとえば、マイクロチップ表面に対して略垂直な方向から光を照射し、その透過光を測定することにより、混合液中の特定成分の検出等がなされる。また、この際、溢出検体収容部および各溢出試薬収容部に光を照射し、その反射光の強度を測定することにより、検体または液体試薬の有無を確認する。検体または液体試薬の有無の確認は必ずしもこの段階で行なわれる必要はないが、検体または液体試薬が、すべての溢出検体収容部および溢出試薬収容部に収容され得る状態となるのはこの段階であるため、操作の簡略化のためには、検出部導入工程後に検体または液体試薬の有無の確認を行なうことが好ましい。
【0069】
以上、本発明のマイクロチップを好ましい一例を挙げて説明したが、本発明のマイクロチップは、上記実施形態に限定されるものではない。たとえば、本発明のマイクロチップは、必ずしも多項目チップである必要はなく、1種類の検査・分析のみを行なう単項目チップであってもよい。また、本発明においては、上記した各部位のすべてを有している必要はなく、いずれか1種以上の部位を有していなくてもよい。あるいは、上記されていない他の部位を有していてもよい。また、マイクロチップが備える各部位の数も特に限定されるものではない。
【0070】
さらに、本発明のマイクロチップが有する流体回路(第1の流体回路および第2の流体回路)は、上記実施形態の構造に限定されるものではなく、種々の構造を採り得る。図13および図14は、それぞれ本発明のマイクロチップの別の一例に係る第2の基板の上面図および下面図である。図13は、第2の基板の上側流体回路(第1の流体回路)を示しており、図14は、下側流体回路(第2の流体回路)を示している。
【0071】
図13および14に示されるマイクロチップは、多項目チップであり、1つのセクションについて説明すると、その第1の流体回路に、液体試薬保持部1301aおよび1301b、ならびに混合部1302aを備える(図13参照)。また、第2の流体回路は、検体計量部1303、液体試薬計量部1304aおよび1304b、血球分離部1305、ならびに混合部1302bを備える。さらに、このマイクロチップは、光学測定用キュベット(検出部)1306を有する。図13および14に示されるように、本発明のマイクロチップは、上記した実施形態と異なる流体回路構造および形状を有していてもよい。
【0072】
本発明において、第3の基板は、必ずしも透明基板である必要はないが、少なくとも検出部を構成する表面領域については、入射した光の透過光が測定できるよう、透明であることが好ましい。第1の基板、第2の基板および第3の基板を貼り合わせる方法として、基板の貼り合わせ面に光を照射して融解させることによって貼合する等の溶着法を用いる場合には、入射した光をより効率的に吸収できるよう、第2の基板を不透明基板(好ましくは黒色基板)とし、第3の基板を透明基板とすることが好ましい。これにより、第3の基板側から光を照射して、第2の基板の貼り合わせ面を融解させることによって、第2の基板と第3の基板との貼合を容易に行なうことができる。第1の基板と第2の基板との貼合についても同様である。
【0073】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明に係るマイクロチップの一例を示す外形図である。
【図2】本発明に係るマイクロチップの第2の基板に形成された流体回路の一例を示す斜視図である。
【図3】本発明に係るマイクロチップの第2の基板の一例を示す上面図である。
【図4】本発明に係るマイクロチップの第2の基板の一例を示す下面図である。
【図5】溢出液収容部内に溢出液が導入される前後における、入射光強度と反射光強度との関係を説明する図である。
【図6】血球分離、液体試薬計量工程における第2の基板の上面(第1の基板側表面)の液体の状態および下面(第3の基板側表面)の液体の状態を示す図である。
【図7】検体計量工程における第2の基板の上面(第1の基板側表面)の液体の状態および下面(第3の基板側表面)の液体の状態を示す図である。
【図8】第1混合工程第1ステップにおける第2の基板の上面(第1の基板側表面)の液体の状態および下面(第3の基板側表面)の液体の状態を示す図である。
【図9】第1混合工程第2ステップにおける第2の基板の上面(第1の基板側表面)の液体の状態および下面(第3の基板側表面)の液体の状態を示す図である。
【図10】第2混合工程第1ステップにおける第2の基板の上面(第1の基板側表面)の液体の状態および下面(第3の基板側表面)の液体の状態を示す図である。
【図11】第2混合工程第2ステップにおける第2の基板の上面(第1の基板側表面)の液体の状態および下面(第3の基板側表面)の液体の状態を示す図である。
【図12】検出部導入工程における第2の基板の上面(第1の基板側表面)の液体の状態および下面(第3の基板側表面)の液体の状態を示す図である。
【図13】本発明に係るマイクロチップの第2の基板の別の一例を示す上面図である。
【図14】本発明に係るマイクロチップの第2の基板の別の一例を示す下面図である。
【図15】一方の表面に複数の浅い溝を有し、他方の表面に深い溝を有する第2の基板を成形するための金型の形状を示す概略断面図である。
【図16】図15に示される金型から得られる第2の基板と第1の基板と第3の基板とを用いて作製された本発明のマイクロチップを示す概略断面図である。
【図17】従来のマイクロチップに用いられる、流体回路を構成する溝を有する基板を成形するための金型の形状を示す概略断面図である。
【図18】図17に示される金型から得られる基板を用いて作製されたマイクロチップを示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0075】
100 マイクロチップ、101,501,1601 第1の基板、102,502,1602 第2の基板、103,1603 第3の基板、110 液体試薬導入口、120 検体導入口、130 凹部、301a,301b,302a,302b,303a,303b,304a,304b,305a,305b,306a,1301a,1301b 液体試薬保持部、311,312,313,314,315,316,1306 光学測定用キュベット(検出部)、330 溢出検体収容部、331a,331b,332a,332b,333a,333b,334a,334b,335a,335b,336a 溢出試薬収容部、401,402,403,404,405,406,1303 検体計量部、411a,411b,412a,412b,413a,413b,414a,414b,415a,415b,416a,1304a,1304b 液体試薬計量部、420,1305 血球分離部、430 廃液溜め、441a,441b,1302a,1302b 混合部、11a,11b,12a,16a,16b 流路、20a,20b,21a,21b,21c,21d,21e,26a 貫通穴、510 溢出液収容部、600 全血、1501a,1501b,1701 金型、1502,1702 エンドミル刃、1801 上側基板、1802 下側基板、1604,1803 リブ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の基板と、基板の両面に設けられた溝および厚み方向に貫通する複数の貫通穴を備える第2の基板と、第3の基板とをこの順で貼り合わせてなり、
前記第1の基板における前記第2の基板側表面および前記第2の基板における前記第1の基板側表面に設けられた溝から構成される第1の流体回路と、
前記第3の基板における前記第2の基板側表面および前記第2の基板における前記第3の基板側表面に設けられた溝から構成される第2の流体回路と、
を備えるマイクロチップ。
【請求項2】
前記第1の流体回路と前記第2の流体回路とは、前記複数の貫通穴のうち、いずれか1以上の貫通穴によって連結されている請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項3】
前記第1の流体回路および前記第2の流体回路はそれぞれ、液体試薬を収容するための液体試薬保持部、前記液体試薬を計量するための液体試薬計量部、検体を計量するための検体計量部、および前記検体と前記液体試薬とを混合するための混合部からなる群から選択される少なくとも1種の部位を有する請求項1または2に記載のマイクロチップ。
【請求項4】
前記第2の基板における前記第1の基板側表面に設けられた溝は、前記第2の基板における前記第3の基板側表面に設けられた溝より深い請求項1〜3のいずれかに記載のマイクロチップ。
【請求項5】
前記第1の流体回路のみが、1または複数の液体試薬試薬保持部を有する請求項3または4に記載のマイクロチップ。
【請求項6】
前記第2の流体回路のみが、1または複数の液体試薬計量部および1または複数の検体計量部を有する請求項3〜5のいずれかに記載のマイクロチップ。
【請求項7】
前記複数の貫通穴のうちのいずれか1以上の貫通穴と、前記第1の基板における前記第2の基板側表面と、前記第3の基板における前記第2の基板側表面とから構成される中空部からなり、
前記第1の流体回路または前記第2の流体回路に接続された1以上の検出部をさらに有する請求項1〜6のいずれかに記載のマイクロチップ。
【請求項8】
前記第1の基板、第2の基板および第3の基板は、スチレン−ブタジエン共重合体からなる請求項1〜7のいずれかに記載のマイクロチップ。
【請求項9】
前記第1の基板および前記第3の基板は透明基板である請求項1〜8のいずれかに記載のマイクロチップ。
【請求項10】
前記第2の基板は、不透明基板である請求項1〜9のいずれかに記載のマイクロチップ。
【請求項11】
前記第2の基板は、黒色基板である請求項10に記載のマイクロチップ。
【請求項1】
第1の基板と、基板の両面に設けられた溝および厚み方向に貫通する複数の貫通穴を備える第2の基板と、第3の基板とをこの順で貼り合わせてなり、
前記第1の基板における前記第2の基板側表面および前記第2の基板における前記第1の基板側表面に設けられた溝から構成される第1の流体回路と、
前記第3の基板における前記第2の基板側表面および前記第2の基板における前記第3の基板側表面に設けられた溝から構成される第2の流体回路と、
を備えるマイクロチップ。
【請求項2】
前記第1の流体回路と前記第2の流体回路とは、前記複数の貫通穴のうち、いずれか1以上の貫通穴によって連結されている請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項3】
前記第1の流体回路および前記第2の流体回路はそれぞれ、液体試薬を収容するための液体試薬保持部、前記液体試薬を計量するための液体試薬計量部、検体を計量するための検体計量部、および前記検体と前記液体試薬とを混合するための混合部からなる群から選択される少なくとも1種の部位を有する請求項1または2に記載のマイクロチップ。
【請求項4】
前記第2の基板における前記第1の基板側表面に設けられた溝は、前記第2の基板における前記第3の基板側表面に設けられた溝より深い請求項1〜3のいずれかに記載のマイクロチップ。
【請求項5】
前記第1の流体回路のみが、1または複数の液体試薬試薬保持部を有する請求項3または4に記載のマイクロチップ。
【請求項6】
前記第2の流体回路のみが、1または複数の液体試薬計量部および1または複数の検体計量部を有する請求項3〜5のいずれかに記載のマイクロチップ。
【請求項7】
前記複数の貫通穴のうちのいずれか1以上の貫通穴と、前記第1の基板における前記第2の基板側表面と、前記第3の基板における前記第2の基板側表面とから構成される中空部からなり、
前記第1の流体回路または前記第2の流体回路に接続された1以上の検出部をさらに有する請求項1〜6のいずれかに記載のマイクロチップ。
【請求項8】
前記第1の基板、第2の基板および第3の基板は、スチレン−ブタジエン共重合体からなる請求項1〜7のいずれかに記載のマイクロチップ。
【請求項9】
前記第1の基板および前記第3の基板は透明基板である請求項1〜8のいずれかに記載のマイクロチップ。
【請求項10】
前記第2の基板は、不透明基板である請求項1〜9のいずれかに記載のマイクロチップ。
【請求項11】
前記第2の基板は、黒色基板である請求項10に記載のマイクロチップ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2009−133805(P2009−133805A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−8154(P2008−8154)
【出願日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】
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