説明

マイクロチップ

【課題】 微細化を図ることと基板に代表される基材の接合強度を十分に確保可能なマイクロチップを提供すること。
【解決手段】 マイクロチップ101は、分離流路3を形成するための溝が形成されており、かつ互いに貼り合わされた2つの基板1を備えており、基板1には、接合面10の端縁に隣接し、かつこの端縁に対して接合面10の法線方向において内方に凹んだ凹部11が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば電気泳動法を利用した分析に用いられるマイクロチップに関する。
【背景技術】
【0002】
試料に含まれる特定成分の濃度もしくは量を分析する分析方法として、たとえば、キャピラリー電気泳動法を用いた分析方法が広く実施されている。キャピラリー電気泳動法は、断面積が比較的小である分離流路に泳動液を充填し、さらに上記分離流路の一端寄りに上記試料を導入する。上記分離流路の両端に電圧を加えると、電気泳動により上記泳動液が正極側から負極側へと移動する電気浸透流が生じる。また、上記電圧が印加されることにより、上記特定成分は、それぞれの電気泳動移動度に応じて移動しようとする。したがって、上記特定成分は、上記電気浸透流の速度ベクトルと上記電気泳動による移動の速度ベクトルとを合成した速度ベクトルにしたがって移動する。この移動によって、上記特定成分が他の成分から分離される。この分離された特定成分をたとえば光学的手法によって検出することにより、上記特定成分の量や濃度を分析することができる。
【0003】
図26は、キャピラリー電気泳動法を用いた分析装置に装てんされる従来のマイクロチップの一例を示している(たとえば、特許文献1参照)。マイクロチップ900は、基板901,902が互いに貼り合わされた構成とされている。基板901,902は、透明材料によって形成されており、具体的には、ガラス、石英、シリコンが挙げられる。基板92には、ごく細い溝が形成されており、この溝が微細流路903を構成している。基板901には、2つの貫通孔が形成されており、これらの貫通孔が導入槽904および排出槽905を構成している。導入槽904と排出槽905とは微細流路903によってつながっている。導入槽904からは、バッファと呼ばれる泳動液や試料が導入される。微細流路903に充てんされた泳動液および試料に対して図示しない電極から電圧を印加することにより電気泳動による特定成分の分離が行われる。
【0004】
電気泳動をより適切に行うためには、微細流路903の微細化が好ましい。しかしながら、基板901,902をたとえば接着剤を用いて貼り合わせる場合、この接着剤の厚さが微細流路903の微細化を阻害するおそれがある。また、基板901,902どうしを熱溶着によって貼り合わせる場合、微細流路903の形状を乱してしまうおそれがある。これにより、基板901,902の接合方法の選定が制限される。この制限によって、基板901,902どうしの接合力が十分に確保できないことがありうるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4362987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、微細化を図ることと基板に代表される基材の接合強度を十分に確保可能なマイクロチップを提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によって提供されるマイクロチップは、少なくとも一方に微細流路を形成するための溝が形成されており、かつ互いに貼り合わされた第1および第2の基材を備えており、上記第1および第2の基材の少なくとも一方には、他方との接合面の端縁の少なくとも一部に隣接し、かつこの端縁に対して上記第1および第2の基材の厚さ方向において内方に凹んだ凹部が形成されている。
【0008】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記凹部は、上記接合面の端縁につながり、かつ上記接合面の法線方向に沿う内側面と、この内側面につながり、かつ上記接合面が広がる方向において上記接合面の端縁から離間する方向に広がる底面と、を有する。
【0009】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記凹部は、上記接合面の端縁につながり、上記接合面の法線方向において内方に向かうほど上記接合面が広がる方向において上記接合面の端縁から離間する傾斜とされた傾斜面を有している。
【0010】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記凹部は、上記接合面の端縁につながり、上記接合面の法線方向において内方に凹む凹曲面を有する。
【0011】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記凹部は、上記接合面の端縁につながり、上記接合面の法線方向において外方に隆起した凸曲面を有する。
【0012】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記微細分離流路の断面は、直径が25〜100μmの円形、または辺の長さが25〜100μmの矩形である。
【0013】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記第1および第2の基材は、少なくとも一方の接合面の表層を結合容易状態とした状態で接合する表層接合技術によって接合されている。
【0014】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記表層接合技術は、上記第1および第2の基材は、少なくとも一方の接合面に対してエネルギーを付与することによりこの接合面を活性化させた状態で互いを接合する。
【0015】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記第1および第2の基材は、樹脂からなる。
【0016】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記第1および第2の基材の少なくとも一方は、鋳型成型によって形成されているとともに、鋳型成型に起因して形成されるパーティングラインが、上記凹部の端縁のうち上記接合面の上記端縁から離間した部分を構成している。
【0017】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記第1および第2の基材は、同一の形状およびサイズであり、かつ同一の材料からなる。
【0018】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記第1および第2の基材の双方に、上記凹部が形成されている。
【0019】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記凹部には、接着剤が埋められている。
【0020】
このような構成によれば、上記凹部に接着剤を充てんすることにより、上記第1および第2の基材どうしの接合強度を高めることができる。
【0021】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施形態に基づくマイクロチップを示す斜視図である。
【図2】図1のII−II線に沿う断面図である。
【図3】図1のマイクロチップを示す要部拡大断面図である。
【図4】図1のIV−IV線に沿う断面図である。
【図5】図1のマイクロチップを示す要部拡大断面図である。
【図6】図1のマイクロチップを示す要部拡大断面図である。
【図7】図1のマイクロチップの基板を示す平面図である。
【図8】図1のマイクロチップの基板を示す底面図である。
【図9】図1のマイクロチップの基板を鋳型成型する工程を示す要部拡大断面図である。
【図10】図1のマイクロチップの製造方法の一例を示す斜視図である。
【図11】図1のマイクロチップを用いた分析システムの一例を示す要部平面図である。
【図12】図1のマイクロチップを用いた分析システムの一例を示す要部断面図である。
【図13】図1のマイクロチップを用いた分析システムの一例を示す要部断面図である。
【図14】図1のマイクロチップの変形例を示す要部拡大断面図である。
【図15】図1のマイクロチップの他の変形例を示す要部拡大断面図である。
【図16】図1のマイクロチップの他の変形例を示す要部拡大断面図である。
【図17】図1のマイクロチップの他の変形例を示す要部拡大断面図である。
【図18】図1のマイクロチップの他の変形例を示す要部拡大断面図である。
【図19】図1のマイクロチップの他の変形例を示す要部拡大断面図である。
【図20】本発明の第2実施形態に基づくマイクロチップを示す平面図である。
【図21】図20のマイクロチップの基板を示す平面図である。
【図22】図20のマイクロチップの基板を示す底面図である。
【図23】本発明の第3実施形態に基づくマイクロチップを示す平面図である。
【図24】図23のXXIV−XXIV線に沿う断面図である。
【図25】図23のマイクロチップを示す要部拡大断面図である。
【図26】従来のマイクロチップの一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好ましい実施の形態につき、図面を参照して具体的に説明する。
【0024】
図1〜図6は、本発明の第1実施形態に基づくマイクロチップを示している。本実施形態のマイクロチップ101は、2枚の基板1が貼り合わされた構造とされており、位置決め領域2、分離流路3、導入槽41、排出槽42、発光側凹部5、および受光側凹部6がそれぞれ2つずつ形成されている。マイクロチップ101は、図1における上面側および下面側に、キャピラリー電気泳動法を用いた分析を行うための分析経路が2組形成された構成とされている。本分析の分析対象となる特定成分としては、たとえば試料として血液を用いた場合、A1cに代表されるヘモグロビンが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0025】
基板1は、透明な樹脂からなる長矩形状の板状部材であり、マクロチップ101の本体となるものである。透明な樹脂としては、PDMS(シリコーン樹脂)、PMMA(アクリル樹脂)、PS(ポリスチレン樹脂)、PC(ポリカーボネート樹脂)が挙げられる。さらに、基板1の材料としては、石英ガラスなどのガラスが挙げられる。基板1のサイズは、たとえばその長さが58mm程度、幅が9mm程度、厚さが1.5mm程度とされる。
【0026】
2つの基板1は、たがいの接合面10どうしが重なり合うように接合されている。この接合には、表層接合技術が用いられている。本発明でいう表層接合技術とは、2つの基板1の少なくとも一方の接合面10の表層を結合容易とした状態で接合する技術をいい、この接合によっては、たとえば、1分子によって構成される最外表層といったごく表層のみが改質をうけうるのみであり、この表層以外の部分はまったく変質を受けない。このような表層接合技術としては、たとえばエネルギーを付与することによって接合面10を活性化させることにより接合容易状態とするものとして、特表2003−509251号公報に開示された放射線を照射する方法や、特開2006−187730号公報に開示された真空紫外線を照射する方法が挙げられるが、これらに限定されるものではない。エネルギーを付与する方法のほかには、たとえば、架橋剤を利用した方法が含まれる。具体的には、まず、接合面10に架橋剤を共有結合させることによって導入する。これらの架橋剤は、一方の架橋剤と共有結合可能な複数の官能基を他方の架橋剤が有している。そして、これらの架橋剤どうしを共有結合させることにより、2つの基板1の接合面10どうしが接合される。
【0027】
基板1には、凹部11が設けられている。本実施形態においては、凹部11は、基板1の外周に設けられている。図6によく表れているように、凹部11は、接合面10の端縁10aにつながっている。凹部11は、基板1の厚さ方向に凹んだ形状とされており、内側面13および底面14を有している。内側面13は、端縁10aから基板1の厚さ方向に沿った面である。底面14は、内側面13から基板1の厚さ方向に対して直角に広がる面である。底面14(凹部11)の外周端縁には、パーティングライン12が配置されている。パーティングライン12は、後述する鋳型成型において生じるものであり、線状のごく微小な突起である。内側面13の厚さ方向寸法は、たとえば0.1mm程度である。また、底面14の図中左右寸法は、たとえば1.0mm程度である。2つの基板1の凹部11どうしが向かい合うことにより、マイクロチップ101の側周面には、細い溝が形成された格好となっている。
【0028】
位置決め領域2は、マイクロチップ101の製造時、および使用時において位置決めに用いられるものであり、本実施形態においては、位置決め凹部26および位置決め面22を含んでいる。位置決め凹部26は、2つの基板1それぞれに形成されており、幅方向に凹んでいる。本実施形態においては、位置決め凹部26は、基板1の長手方向における開口長さが3mm程度、深さが0.5mm程度とされており、基板1の厚さ方向においては一定形状とされている。位置決め凹部26の底面は、位置決め面21とされている。位置決め面21は、基板1の幅方向と直角な面であり、基板1の長さ方向における寸法が1mm程度とされている。位置決め面22は、基板1の長手方向一端面であり、基板1の長手方向に直角である。位置決め面21,22の寸法精度は、1〜5μm程度である。
【0029】
分離流路3は、基板1の長手方向に長く延びており、キャピラリー電気泳動法において分析対象となる特定成分を分離するために用いられる。分離流路3は、たとえば断面形状が40μm角の矩形状とされており、その長さが30mm程度とされている。本実施形態においては、マイクロチップ101には、互いに平行である2つの分離流路3が形成されている。図5に示すように、一方の分離流路3は、一方の基板1に入り込むような形態とされている。また、他方の分離流路3は、他方の基板1に入り込むような形態とされている。なお、分離流路3は、断面形状が矩形状の場合一辺の長さが25〜100μm、断面形状が円形の場合、直径が25〜100μmであることが好ましい。
【0030】
導入槽41は、キャピラリー電気泳動法に用いられるバッファと呼ばれる泳動液や分析対象の試料が導入される槽であり、図3に示すように、分離流路3の一端に繋がっている。上記泳動液の一例としては、たとえば100mMりんご酸−アルギニンバッファ(pH5.0)+1.5%コンドロイチン硫酸Cナトリウムが挙げられる。上記試料は、たとえば血液である。本実施形態においては、導入槽41は、片方の基板1を貫通しており、その断面形状は、長手方向寸法が5.6mm、幅寸法が1.2mmの略楕円形状とされている。
【0031】
排出槽42は、キャピラリー電気泳動法に用いられるバッファと呼ばれる泳動液や分析対象の試料が排出される槽であり、図2に示すように、分離流路3の他端に繋がっている。本実施形態においては、排出槽42は、片方の基板1を貫通しており、その断面形状は、長手方向寸法が5.6mm、幅寸法が1.2mmの略楕円形状とされている。
【0032】
発光側凹部5は、基板1の表面から厚さ方向に凹んだ形状とされており、キャピラリー電気泳動法を用いた分析を行うための光が入射する部位である。図4に示すように、発光側凹部5は、外側凹部51および内側凹部52からなる。
【0033】
外側凹部51は、基板1の表面から凹んだ部分であり、断面形状が直径3mm程度の円形、深さが0.8mm程度とされている。内側凹部52は、外側凹部51の底面から凹んだ部分であり、断面形状が直径0.6mm程度の円形、深さが0.2mm程度とされている。内側凹部52の底面は、透光面521とされている。透光面521は、分析用の光が透過する面である。基板1の厚さ方向視において、内側凹部52は、分離流路3と重なっている。各内側凹部52は、基板1の厚さ方向視において重なる位置関係である分離流路3が入り込んだ側の基板1とは反対側の基板1に形成されている。
【0034】
受光側凹部6は、基板1の表面から厚さ方向に凹んだ形状とされており、キャピラリー電気泳動法を用いた分析を行うための光が出射する部位である。本実施形態においては、受光側凹部6は、略円錐台とされており、開口部が直径2mm程度の円形、深さが0.13mm程度とされている。
【0035】
図4に示すように、受光側凹部6は、透過面61および反射面62を有している。透過面61は、受光側凹部6の底面であり、直径33μm程度の円形である。反射面62は、円錐台の側面に当たる面である。各受光側凹部6は、分離流路3を挟んで発光側凹部5とは反対側に形成されている。基板1の厚さ方向視において、透過面61の中心と分離流路3の中心線とは一致するように正対している。各受光側凹部6は、透過面61が正対する分離流路3が入り込んだ側の基板1に形成されている。
【0036】
次に、マイクロチップ101の製造方法について、図6〜図8を参照しつつ以下に説明する。
【0037】
まず、図7および図8に示す基板1を2つ用意する。これらの基板1は、同一の構成とされており、たとえば樹脂材料を用いた鋳型成型によって形成される。基板1には、凹部11、位置決め領域2、溝31、導入槽41、排出槽42、発光側凹部5、および受光側凹部6が1つずつ形成されている。
【0038】
図7に示すように、基板1の表面側には、導入槽41、排出槽42、発光側凹部5、および受光側凹部6が現れている。これらのうち導入槽41、排出槽42、および発光側凹部5が、基板1の長手方向に直列に配置されている。
【0039】
一方、図8に示すように、基板1の裏面側には、接合面10、凹部11、導入槽41、排出槽42、および溝31が現れている。溝31は、上述した分離流路3を構成するための部位である。本実施形態においては、凹部11は接合面10を囲んでいる。
【0040】
図9は、基板1を鋳型成型する工程を示す要部拡大断面図である。この鋳型成型には、たとえば鋳型750が用いられる。鋳型750は、第1ブロック751および第2ブロック752を有している。第1ブロック751および第2ブロック752の間に設けられたキャビティにたとえば透明な樹脂材料を充てんし、これを硬化させることにより基板1を形成する。本実施形態の場合、第2ブロック752に分離流路3を形作るための微細な突起などが高精度で形成されている。基板1には、第1ブロック751と第2ブロック752との境界あたる部分にパーティングライン12が生じる。パーティングライン12は、第1ブロック751と第2ブロック752との境界に上記樹脂材料が浸透することにより生じる。パーティングライン12は、鋳型成型の具体的な構成によってその大きさが左右される。たとえば、断面形状が25〜100μm角程度の矩形状である分離流路3を明瞭に形成することを指向すると、パーティングライン12も明瞭に生じやすいという相関がある。
【0041】
次いで、図10に示すように、2つの基板1を互いの裏面どうしが正対するように貼り合わせる。この貼り合わせには、上述した表層接合技術を用いる。2つの基板1どうしの位置決めには、位置決め手段700を用いる。位置決め手段700は、位置決めブロック711,712を含んでいる。
【0042】
位置決めブロック711は、基板1の厚さ方向に長く延びており、基板1の幅方向に直角である位置決め面721を有している。位置決め面721は、基板1の長手方向寸法がたとえば0.9mm程度とされている。位置決めブロック712は、基板1の厚さ方向に長く延びており、基板1の長手方向に直角である位置決め面722を有している。位置決めブロック711,712は、たとえばステンレスなどの金属からなる。
【0043】
2つの基板1を重ね合わせる際には、位置決めブロック711を2つの基板1の幅方向片方側に配置し、位置決めブロック712を基板1の長手方向片方側に位置させる。そして、位置決め面721と2つの基板1の位置決め面21とを当接させ、かつ位置決め面722と2つの基板1の位置決め面22とを当接させる。この状態で2つの基板1を貼り合わせる。これにより、上述したマイクロチップ101が得られる。マイクロチップ101においては、2つの基板1の位置決め面21どうし、および位置決め面22どうしがそれぞれ面一となる。
【0044】
次に、本発明に係る分析システムの一例について、図11〜13を参照しつつ説明する。
【0045】
同図に示された分析システム800は、分析装置801およびマイクロチップ101からなる。分析装置801は、たとえばキャピラリー電気泳動法を用いた分析を行う装置であり、装てんされたマイクロチップ101を用いて、泳動液および試料の導入、電圧印加による分離、および光学的手法を用いた計測を行う。分析装置801は、図示された位置決め手段850のほか、図示しない導入ノズル、分析部、および制御部などを備える。
【0046】
位置決め手段850は、マイクロチップ101を分析装置801に対して位置決めするためのものであり、位置決めブロック851,852,853からなる。位置決めブロック851は、位置決め面855を有している。位置決め面855は、マイクロチップ101の位置決め面21に当接する。なお、上述した基板1を用いて形成されたマイクロチップ101には、幅方向両側に位置決め凹部26が設けられている。位置決め面855が当接させられる位置決め面21は、図10において、位置決めブロック711の位置決め面721が当接していた位置決め面21である。
【0047】
位置決めブロック853は、マイクロチップ101を挟んで位置決めブロック851とは反対側に位置している。位置決めブロック853は、図中下方に位置する位置決め凹部26に向けて進退動自在とされている。位置決めブロック853は、マイクロチップ101を位置決めブロック851に押し当てるためのものである。
【0048】
位置決め面ブロック852は、マイクロチップ101に対して長手方向一端に隣接する位置にあり、位置決め面856を有している。位置決め面856は、マイクロチップ101の長手方向に対して直角であり、位置決め面22に当接する。位置決めブロック851,852,853は、たとえばステンレスなどの金属からなる。
【0049】
マイクロチップ101の位置決め面21,22が分析装置801の位置決め面855,856に当接されることにより、マイクロチップ101が分析装置801に対して位置決めされる。
【0050】
図12に示すように、分析装置801は、分析部810を備えている。分析部810は、たとえば吸光度測定または蛍光測定による特定成分の分析をおこなうためのものであり、照射手段811および検出手段820を有する。
【0051】
照射手段811は、図示しない光源から発せられた光を発光用凹部5の透光面521へと照射するためのものであり、光ファイバ814、保持具817、ケース818、およびバネ819からなる。上記光源は、たとえば青色光を発するLEDまたはレーザを備えている。
【0052】
光ファイバ814は、上記光源からの光を伝送するものであり、コア815および被覆816からなる。コア815は、透明な樹脂からなるごく細い線材である。被覆816は、コア815を進行する光を全反射させるためのものであり、コア815よりも屈折率が高い材料からなる。
【0053】
保持具817は、光ファイバ814の先端部分を保持しており、一般的にフェルールと称される。保持具817の先端寄り部分は、マイクロチップ101の外側凹部51に嵌合する直径とされている。この部分の外側面が、位置決め面857とされており、保持具817は、本実施形態における位置決め手段850を構成している。
【0054】
ケース818は、略円筒形状であり、保持具817が挿通されている。バネ819は、保持具817とケース818とに挟まれており、保持具817に対してケース818が相対的に下降したときに、保持具817を下方に押し付ける弾性力を発揮する。
【0055】
検出手段820は、マイクロチップ101を透過した光を受光し、受光した光に応じた電気信号を生成する。この電気信号は、試料に含まれる特定成分の量や濃度に対応するものであり、試料の分析に利用される。
【0056】
マイクロチップ101を分析装置801の所定位置に載置した後に、発光用凹部5に向けて照射手段811を下降させる。そして、保持具817の先端を外側凹部51に嵌合させることにより、図13に示すように、マイクロチップ101の分析装置801に対する位置決めがなされる。この位置決めと、図11に示した位置決めブロック852および位置決め面22による位置決めとは、併用してもよいし、いずれかのみを実施してもよい。
【0057】
また、分析装置801は、1対の位置決めブロック860を備えている。位置決めブロック860は、マイクロチップ101の両側方に位置している。位置決めブロック860には、突起861が形成されている。突起861は、マイクロチップ101の凹部11にはまり込むサイズおよび形状とされている。これにより、分析装置801に対して、マクロチップ101の位置決めをより正確に行うことができる。
【0058】
こののちは、上述した導入ノズルによる泳動液および試料の導入、分離流路3を挟んだ電圧の印加による特定成分の分離、および分析部810を用いた計測を含むキャピラリー電気泳動法を用いた分析が、上記制御部の制御のもと実行される。
【0059】
次に、マイクロチップ101の作用について説明する。
【0060】
本実施形態によれば、2つの基板1どうしは、上述した表層接合技術によって接合されているため、分離流路3を形成するための溝の形状が不当に乱されてしまうおそれが少ない。また、接着剤を用いることなく接合面10どうしを接合するため、分離流路3が接着剤によって意図せず埋まってしまうおそれがない。したがって、たとえば一辺が25〜100μm程度のごく細い分離流路3を明瞭に形成することができる。これは、電気泳動による分析を行うのに好ましい。
【0061】
この表面接合技術を用いた接合は、分離流路3を適切に形成できるという利点がある反面、その接合強度は必ずしも十分に高いとは限らない。マイクロチップ101においては、2つの基板1の境界に凹部11が形成されている。このため、接合強度を補強する手段として、たとえば図14に示すように凹部11に接着剤18を充てんする構成が挙げられる。この接着剤18は、上述した表層接合技術による接合工程を経たのちに充てんされるため、分離流路3に流れ込むおそれが少ない。したがって、電気泳動に適した分離流路3を形成しつつ、2つの基板1どうしの接合強度を高めることができる。互いに平行に向かい合う底面14を有する構成であることにより、毛細管現象によって接着剤18を凹部11に行き渡らせやすいという効果が期待できる。
【0062】
また、図12および図13に示すように、凹部11に突起861をはめ込むことにより、分析装置801に対してマイクロチップ101を正確に位置決めすることができる。特に、マイクロチップ101の側周面に形成された凹部11は、マイクロチップ101の厚さ方向における位置決めに好適である。また、マイクロチップ101を搬送する際に、凹部11を利用して、搬送の効率向上を図ることができる。具体的には、マイクロチップ101がはまり込む程度の大きさの複数の開口が形成された搬送用フィルムを用意し、このフィルムの上記開口端を凹部11にはめ込む。これにより、上記フィルムに複数のマイクロチップ101を容易かつ確実に保持させることができる。
【0063】
さらに、本実施形態においては、図6に示すように、パーティングライン12が接合面10の端縁10aから離間した、端縁10aに対して反対側に位置する凹部11の端縁とされている。これにより、2つの基板1を接合した状態において、一方の基板1のパーティングライン12が他方の基板1に接触することがない。一般的に、分離流路3の寸法が小さいほど、パーティングライン12は急峻に隆起しやすいという相関がある。したがって、分離流路3の寸法を小としつつ、パーティングライン12によって2つの基板1どうしがわずかに離間してしまうといった不具合を回避することができる。
【0064】
本実施形態においては、同一の基板1を2つ用いることにより、2つの分離流路3を構成している。これは、1つのマイクロチップ101によって分析する系を2つ実現できるという利点がある。また、単一仕様の基板1のみを用いる構成は、部品の作り分けといった煩わしさが低減され、製造効率の向上やコスト低減に有利である。
【0065】
図15〜19は、マイクロチップ101の変形例を示している。なお、これらの図において、上記実施形態と同一または類似の要素には、上記実施形態と同一の符号を付している。
【0066】
図15は、凹部11の一変形例を示している。本変形例においては、凹部11は、傾斜面15を有している。傾斜面15は、接合面10の端縁10aから図中右方に離間するほど、基板1の厚さ方向において他方の基板1から離間するように傾斜している。基板1にこのような凹部11が形成されていることにより、マイクロチップ101の側周面には、断面V字状の溝が形成された格好となっている。
【0067】
図16は、凹部11の他の変形例を示している。本変形例においては、凹部11は、凹曲面16を有している。凹曲面16は、接合面10の端縁10aにつながっており、基板1の内方にくぼんでいる。基板1にこのような凹部11が形成されていることにより、マイクロチップ101の側周面には、断面半楕円形状の溝が形成された格好となっている。
【0068】
図17は、凹部11の他の変形例を示している。本変形例においては、凹部11は、凸曲面17を有している。凸曲面17は、接合面10の端縁10aにつながっており、なだらかに隆起した局面である。
【0069】
図15〜図17に示した変形例によっても、マイクロチップ101の接合強度向上や位置決めの高精度化といった効果を奏することができる。図15〜図17に示した変形例において、図14に示したように接着剤18を充てんしてもよい。
【0070】
図18は、凹部11のさらに他の変形例を示している。本変形例においては、凹部11は、傾斜面15を有している。この傾斜面15は、たとえば図15に示した変形例と比較して接合面10に対する角度が大きく、基板1の厚さ方向に対する角度がごくわずかである。このような傾斜面15は、たとえばパーティングライン12を挟んで対峙する鋳型750の第1のブロック751および第2のブロック752に設定されるいわゆる抜き角度によって実現される。
【0071】
このようなわずかな凹部11であっても、たとえば接着剤18の塗布において、パーティングライン12が接着剤18に対して大きな表面張力を発揮することにより、接着剤18がパーティングライン12を超えて不当に流れ出してしまうことを防止することができる。
【0072】
図19は、導入槽41に関する変形例を示している。本変形例においては、導入槽41の下部に凹部11が形成されている。この凹部11は、たとえば傾斜面15を有している。この傾斜面15は、図18に示した傾斜面15と同様のものである。このような変形例であっても、パーティングライン12が接合面10から離間することによる分離流路3の形状明瞭化という効果が期待できる。
【0073】
図20〜図25は、本発明の他の実施形態を示している。なお、これらの図において、上記実施形態と同一または類似の要素には、上記実施形態と同一の符号を付している。
【0074】
図20は、本発明の第2実施形態に基づくマイクロチップを示している。本実施形態のマイクロチップ102は、凹部11が形成されている範囲が、上述した実施形態と異なっている。本実施形態においては、図中の領域19においてのみ、2つの基板1に凹部11が形成されており、それ以外の領域においては、2つの基板1のいずれか一方にのみ凹部11が形成されている。
【0075】
本実施形態においても、図21および図22に示す基板1を2つ貼り合わせることによりマイクロチップ102が製造されている。これらの図によく表れているように、凹部11は、基板1の全周には形成されておらず、半周を若干超える領域に形成されている。このような基板1であっても、2つを貼り合せることによりマイクロチップ102の側周面の全領域に凹部11を設けることができる。
【0076】
図23〜図25は、本発明の第3実施形態に基づくマイクロチップを示している。本実施形態のマイクロチップ103は、基板1とシート1’とによって構成されている点が上述した実施形態と異なっている。
【0077】
基板1は、上述した実施形態における基板1と同様の材料からなり、分離流路3を構成するための溝や導入槽41および排出槽42を構成するための貫通孔が形成されている。シート1’は、平滑な薄板あるいは薄膜であり、たとえばPETなどの樹脂からなる。基板1とシート1’とは、たとえば上述した表層接合技術を用いることにより接合されている。
【0078】
図25に示すように、基板1の全周には、凹部11が形成されている。このように、シート1’などかならずしも鋳型成型された部材と貼り合せる構成でなくても、基板1に適切な凹部11を設けておくことにより、上述した接合強度の向上や分離流路3の形状明瞭化といった効果を奏することができる。また、シート1’は、大きなサイズのシート材料を切断することによって形成されることが多い。この場合、シート1’の端縁には、切断によるバリが存在する。このバリは、たとえば分離流路3の寸法よりも大となりうる。本実施形態においては、凹部11を設けることにより、シート1’のバリが基板1に不当に接触してしまうことを防止可能であり、基板1とシート1’とを適切に接合することができる。
【0079】
本発明に係るマイクロチップは、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係るマイクロチップの具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【符号の説明】
【0080】
101〜103 マイクロチップ
1 基板(基材)
1’ シート(基材)
10 接合面
10a 端縁
11 凹部
12 パーティングライン
13 内側面
14 底面
15 傾斜面
16 凹曲面
17 凸曲面
18 接着剤
2 位置決め領域
21,21’,22,23,24,25 位置決め面
26,26’,29 位置決め凹部
27,28 位置決め孔
3 分離流路(微細流路)
31 溝
41 導入槽
42 排出槽
5 発光側凹部
51 外側凹部
52 内側凹部
521 透光面
6 受光側凹部
61 透光面
62 反射面
700 位置決め手段
711,712,713,714 位置決めブロック
721,722,723,724 位置決め面
730 押圧バネ
740 クリップ
741 位置決め面
750 鋳型
751 第1ブロック
752 第2ブロック

800 分析システム
801 分析装置
810 分析部
811 照射手段
812 光源
813 照射部
814 光ファイバ
815 コア
816 被覆
817 保持具
818 ケース
819 バネ
820 検出手段
850 位置決め手段
851,852,853 位置決めブロック
855,856 位置決め面
860 位置決めブロック
861 突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方に微細流路を形成するための溝が形成されており、かつ互いに貼り合わされた第1および第2の基材を備えており、
上記第1および第2の基材の少なくとも一方には、他方との接合面の端縁の少なくとも一部に隣接し、かつこの端縁に対して上記第1および第2の基材の厚さ方向において内方に凹んだ凹部が形成されている、マイクロチップ。
【請求項2】
上記凹部は、上記接合面の端縁につながり、かつ上記接合面の法線方向に沿う内側面と、この内側面につながり、かつ上記接合面が広がる方向において上記接合面の端縁から離間する方向に広がる底面と、を有する、請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項3】
上記凹部は、上記接合面の端縁につながり、上記接合面の法線方向において内方に向かうほど上記接合面が広がる方向において上記接合面の端縁から離間する傾斜とされた傾斜面を有している、請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項4】
上記凹部は、上記接合面の端縁につながり、上記接合面の法線方向において内方に凹む凹曲面を有する、請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項5】
上記凹部は、上記接合面の端縁につながり、上記接合面の法線方向において外方に隆起した凸曲面を有する、請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項6】
上記微細流路の断面は、直径が25〜100μmの円形、または辺の長さが25〜100μmの矩形である、請求項1ないし5のいずれかに記載のマイクロチップ。
【請求項7】
上記第1および第2の基材は、少なくとも一方の接合面の表層を結合容易状態とした状態で接合する表層接合技術によって接合されている、請求項1ないし6のいずれかに記載のマイクロチップ。
【請求項8】
上記表層接合技術は、上記第1および第2の基材は、少なくとも一方の接合面に対してエネルギーを付与することによりこの接合面を活性化させた状態で互いを接合する、請求項7に記載の分析装置用マイクロチップ。
【請求項9】
上記第1および第2の基材は、樹脂からなる、請求項1ないし8のいずれかに記載のマイクロチップ。
【請求項10】
上記第1および第2の基材の少なくとも一方は、鋳型成型によって形成されているとともに、鋳型成型に起因して形成されるパーティングラインが、上記凹部の端縁のうち上記接合面の上記端縁から離間した部分を構成している、請求項1ないし9のいずれかに記載のマイクロチップ。
【請求項11】
上記第1および第2の基材は、同一の形状およびサイズであり、かつ同一の材料からなる、請求項1ないし10のいずれかに記載のマイクロチップ。
【請求項12】
上記第1および第2の基材の双方に、上記凹部が形成されている、請求項1ないし11のいずれかに記載のマイクロチップ。
【請求項13】
上記凹部には、接着剤が埋められている、請求項1ないし12のいずれかに記載のマイクロチップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2012−93285(P2012−93285A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−242034(P2010−242034)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(000141897)アークレイ株式会社 (288)
【Fターム(参考)】