説明

マイクロチップ

【課題】簡便で精度の高い分析を可能とするマイクロチップの提供。
【解決手段】流路において、流路壁の一部が変形することによって、流路内空へ突出して、流路が狭窄又は閉塞される逆流防止構造が形成されるマイクロチップを提供する。逆流防止構造が流路内に形成されることによって、ウェルに充填された溶液の逆流が妨げられ、ウェル間での溶液の通流による汚染が防止され、マイクロチップ内の複数のウェルにおいて、異なる分析を同時に行う場合であっても、精度の高い分析が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、逆流を防止することが可能なマイクロチップに関する。より詳しくは、流路壁の変形によって逆流防止が可能なマイクロチップに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体産業における微細加工技術を応用し、シリコーン製やガラス製の基板上に化学的分析又は生物学的分析を行うためのウェルや流路を設けたマイクロチップが開発されている。これらのマイクロチップは、例えば、液体クロマトグラフィーの電気化学検出器や医療現場における小型の電気化学センサなどに利用され始めている。
【0003】
このようなマイクロチップを用いた分析システムは、μ−TAS(micro−Total−Analysis System)やラボ・オン・チップ、バイオチップ等と称され、化学的及び生物学的分析の高速化や高効率化、集積化あるいは、分析装置の小型化を可能にする技術として注目されている。μ−TASは、少量の試料で分析が可能なことや、マイクロチップのディスポーザブルユーズ(使い捨て)が可能なことから、特に貴重な微量試料や多数の検体を扱う生物学的分析への応用が期待されている。
【0004】
上記のマイクロチップにおいて、精度の高い分析を行うためには、マイクロチップ内へ導入されたサンプル溶液等が、設計された順行方向に正しく送液され、意図しない流路へ通流又は逆行しないことが求められる。例えば、複数のウェルが形成されているマイクロチップでは、各々のウェルに、異なる組成や混合比からなる溶液を充填し、複数の分析を同時に行うことも可能である。そのような場合、ウェル間を溶液が逆流してしまうと、ウェル内が汚染(コンタミネーション)され、正確な分析を困難にする。
【0005】
上記の課題に対して、例えば特許文献1には、マイクロチップ内の流路断面積を上流と下流で変えることによって圧力差を形成して、溶液の逆流を防止する構造が開示されている。
【0006】
また、液体が通流する経路内空に逆流防止用の構造物が設けられる例として、浮遊弁体を流路内に保持するマイクロバルブが開示されている(特許文献2、3)。マイクロバルブ内に液体が順行方向に送液されている時、浮遊弁体は下流への通流を妨げない位置に留まるが、逆行方向へ溶液が流れる時には浮遊弁体が上流へ連通する開口部を塞ぎ、逆流が防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2006/109397号
【特許文献2】特開2006−214492号公報
【特許文献3】特開2006−214837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本技術は、逆流を防止することが可能なマイクロチップを提供することを、主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題解決のため、本技術は、溶液の導入口と、前記溶液に含まれる物質又は該物質の反応生成物の分析場となるウェルと、前記導入口に導入された前記溶液を前記ウェルへ送液する流路と、が配設され、前記流路は、一端で前記導入口に連通する主流路と、該主流路から分岐して前記ウェルに接続する分岐流路と、からなり、前記分岐流路には、流路壁の変形によって流路内空が狭窄又は閉塞される逆流防止構造が形成されるマイクロチップを提供する。前記逆流防止構造は、前記分岐流路に近接して設けられた加圧部の膨張によって前記流路壁が圧迫され、前記流路内空へ突出して形成されても良い。また、前記溶液を充填可能な前記加圧部への該溶液の導入圧によって、該加圧部が膨張するものとしても良い。
【0010】
前記マイクロチップは、一端で一又は二以上の前記加圧部と接続し、もう一端で、前記導入口から最遠方位置のウェルに連通する分岐流路との分岐の後に前記主流路と接続する、調節流路が配設されたものとすることもできる。また、前記マイクロチップは、一端で前記分岐流路と前記ウェルとの連通部と対向する位置で前記ウェルと接続し、もう一端で一又は二以上の加圧部に接続した調節流路が配設されたものとすることもできる。更に、前記マイクロチップにおいては、前記調節流路が一端で接続する前記ウェルは、前記導入口から最遠方位置に配設された1又は二以上のウェルのみであっても良い。
【0011】
本技術はまた、熱膨張部材を保持可能な前記加圧部への加熱によって、該加圧部が膨張するマイクロチップを提供する。前記熱膨張部材は、コイル状の金属又は熱膨張性樹脂からなるものであっても良い。
【0012】
本技術により、流路内に逆流防止構造が形成され、逆流の防止によって分析対象の汚染が防がれ、精度の高い分析を可能とするマイクロチップが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本技術の第一実施形態に係るマイクロチップAの構成を説明する上面模式図である。
【図2】マイクロチップAにおける逆流防止構造を説明する断面模式図(図1、P−P’断面)である。
【図3】本技術の第一実施形態の変形例における逆流防止構造を説明する断面模式図である。
【図4】本技術の第一実施形態の変形例における構成を説明する部分模式図である。
【図5】本技術の第一実施形態の変形例における構成を説明する部分模式図である。
【図6】本技術の第二実施形態に係るマイクロチップBの構成を説明する上面模式図である。
【図7】マイクロチップBにおける逆流防止構造を説明する断面模式図(図6、Q−Q’断面)である。
【図8】本技術の第二実施形態の変形例における逆流防止構造を説明する断面模式図である。
【図9】本技術の第三実施形態における逆流防止構造を説明する部分模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本技術を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本技術の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。説明は以下の順序で行う。

1.本技術における第一実施形態について
(1)マイクロチップAの構成
(2)逆流防止構造の形成
(3)第一実施形態の変形例の構成
2.本技術における第二実施形態について
(1)マイクロチップBの構成
(2)逆流防止構造の形成
3.本技術における第三実施形態について

【0015】
1.本技術における第一実施形態について
(1)マイクロチップAの構成
本技術に係るマイクロチップの第一実施形態を図1に模式的に示す。符号Aで示すマイクロチップは、外部から溶液が導入される導入口1と、溶液に含まれる物質又は物質の反応生成物の分析場となるウェル6と、一端において導入口1に連通する主流路21と、主流路21から分岐してウェル6に連通する分岐流路22と、からなる。
【0016】
また、マイクロチップAには調節流路23が形成され、一端で主流路21と連通し、もう一端は分岐して複数の加圧部4に連通している。図1に示すマイクロチップAでは、調節流路23の一部に溶液を一時的に貯留する貯留部3を備えている。このように、調節流路23は一部に断面積や構造の変化した部分が設けられていても良い。
【0017】
図1においては、1本の主流路21に対して5個のウェル6が配設され、1個のマイクロチップAについて5本の主流路21が配設された場合を例示するが、本実施形態に係るマイクロチップAに配設される主流路21及びウェル6は、図1に示す数に限定されない。また、分岐流路22等もウェル6等の数に応じて、適宜配設されるものとできる。
【0018】
マイクロチップAに導入する溶液とは、分析対象物、又は他の物質と反応して分析対象物を生成する物質を含む溶液を指す。分析対象物としては、DNAやRNA等の核酸、ペプチド、抗体等を含めたタンパク質など、を挙げることができる。また血液等、前記の分析対象物を含んだ生体試料自体、又はその希釈溶液も、本技術に係るマイクロチップに導入する溶液とすることができる。
【0019】
マイクロチップAは複数の基板層から構成される。基板層の材質は、ガラスや各種プラスチック(ポリプロピレン、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ポリジメチルシロキサン等)とすることができる。マイクロチップAを構成する基板層は複数であるが、枚数は限定されない。また、ガラスからなる基板層にプラスチックの基板層を貼り合わせるといった、異なる材質からなる基板層を貼り合わせて成るマイクロチップAとすることもできる。なお、分岐流路22と加圧部4が形成される基板層は、各々弾性を有する材質がからなるものであることが好ましい。
【0020】
弾性を有する材質としては、ポリジメチルシロキサン等のシリコーン系エラストマーの他、アクリル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、フッ素系エラストマー、スチレン系エラストマー、エポキシ系エラストマー、天然ゴムなどが挙げられる。ウェル6内に保持された物質を光学的に分析する場合においては、基板層の材質は、光透過性を有し、自家蛍光が少なく波長分散が小さいことで光学誤差の少ない材料を選択することが好ましい。
【0021】
基板層への各流路、ウェル6、加圧部4等の成形は、例えばガラス製基板層のウェットエッチングやドライエッチングによって、又はプラスチック製基板層のナノインプリントや射出成型、切削加工等の方法によって行うことができる。基板層の貼り合わせには、例えば接着剤や粘着性を有したシートを用いる方法や、熱融着、陽極接合、超音波接合等の方法を用いることができる。また、基板層の表面を酸素プラズマ処理や真空紫外光処理により活性化して貼り合わせることも可能である。
【0022】
ポリジメチルシロキサン等のプラスチックの場合、ガラスとの親和性が高く、表面を酸素プラズマ処理等によって活性化し接触させると、ダングリングボンドが反応して強固な共有結合であるSi−O−Siシラノール結合を形成し、十分な強度の接合が得られる。また複数の基板層の貼り合わせを、大気圧に対して負圧下で行うことにより、主流路21、分岐流路22、調節流路23、貯留部3、加圧部4、ウェル6等のマイクロチップA内の各領域が、大気圧に対して負圧となって気密に封止される。この場合、マイクロチップ内を負圧下に保持するために、導入口1は封止されていることが好ましい。また、導入口1の封止には、溶液の穿刺注入が可能でかつ注入後に注入口が自己の弾性変形による復元力によって封止可能な弾性材質の材料を用いることが好ましい。
【0023】
マイクロチップAの使用時、溶液は、導入口1に注入される際に加えられる圧力によってマイクロチップA内に設けられた各領域へ送液される。また複数の基板層を負圧下で貼り合わせて作製されたマイクロチップAにおいては、マイクロチップの内側と外側の圧力差によって、溶液は、導入後マイクロチップ内に形成されたウェル6等の各領域へ加圧せずとも通流される。
【0024】
加圧による導入、マイクロチップの内外の圧力差による導入、の何れによる導入方法で行っても、マイクロチップAにおいて、溶液が導入口1から導入されると、溶液は主流路21を通流し、分岐流路22を経て、各々ウェル6に充填される。分岐流路22へ分岐しなかった一部の溶液は、主流路21を経て、調節流路23に通流し、調節流路23の途中に設けられた貯留部3に集まる。溶液は貯留部3を充填させた後、調節流路23の端部から各加圧部4へ充填される(図1参照)。
【0025】
(2)逆流防止構造の形成
図2及び図3は、マイクロチップA及びその変形例における逆流防止構造の形成を説明する図である。図2は、加圧部4が分岐流路22の近傍に、ウェル6の底面に対して水平方向に1カ所形成された例を示す。図3は、加圧部4が分岐流路22の近傍に、ウェル6の底面に対して垂直方向に2カ所形成された例を示す。
【0026】
図2(A)に示すP−P’は、図1に示すP−P’の部分断面に対応する。マイクロチップAは、分岐流路22及び加圧部4が形成された基板層aと基板層aとが貼り合わされた、2層の基板層から構成される。分岐流路22及び加圧部4が形成された基板層aは弾性を有する材質からなるものであることが望ましい。図2(A)は、溶液が図1に示す流路等を経て加圧部4に到達する前の状態である。分岐流路22は狭窄も閉塞もされず溶液が通流可能な状態である。
【0027】
一方、図2(B)は、加圧部4に溶液が充填された状態を示す。溶液の導入圧によって、加圧部4は膨張し、分岐流路22の流路壁を圧迫する。加圧部4による圧迫により、分岐流路22の流路壁が変形され流路内空へ突出し、分岐流路22は狭窄、又は閉塞される。すなわち分岐流路22に逆流防止構造が形成された状態である。マイクロチップAにおいて、図2(B)に示す逆流防止構造が形成されることで、分岐流路22を介した溶液の逆流を防ぐことが可能となる。
【0028】
図2(B)に示す逆流防止構造の形成の適時は、図1に示す溶液が通流する流路の構成によって調節されている。溶液は主流路21を通流し、ウェル6へ連通する分岐流路22と接続した後に、調節流路23に到達する。調節流路23には貯留部3が備わっているため、溶液が貯留部3に充填されるまでの一定時間、溶液は調節流路23内保持される。一定時間後、溶液は再び調節流路23を通流し、加圧部4に充填される。このように調節流路23及び貯留部3を設けることによって、一定時間後に逆流防止構造が形成されることとなり、溶液のウェル6への充填以前に分岐流路22が狭窄、又は閉塞されてしまうことが防止されている。なお、貯留部3は調節流路23に必須の構成要素ではない。貯留部3を備えない調節流路23については、溶液がウェル6に充填されたのちに加圧部4に到達するように、流路長や流路径を構成すれば良い。
【0029】
上記のように、逆流防止構造の形成の適時は、前述の調節流路23及び貯留部3の構成によって適時が調節されているため、溶液をマイクロチップAへ加圧によって導入する場合であっても、マイクロチップの内外の圧力差によって導入する場合であっても、逆流防止構造の形成は、溶液の導入後、追加の操作を必要とせず、自動的に行われる。
【0030】
本実施形態の変形例における加圧部4及び分岐流路22の部分断面図を、図3(A)及び(B)に示す。図3に示す断面部分において、マイクロチップは、4層の基板層、a、a、a、aから構成される。加圧部4が形成された基板層a及びaと分岐流路22が形成された基板層aと、が貼り合わされ、基板層aによって加圧部4が封止されている。なお、図2と同様に加圧部4及び分岐流路22が形成される基板層a、a、及びaは、弾性を有する材質からなるものであることが望ましい。図3(A)は、溶液が図1に示す各流路を経て加圧部4に到達する前の状態である。分岐流路22は狭窄も閉塞されず、溶液が通流可能な状態となっている。
【0031】
一方、図3(B)は、加圧部4に溶液が充填され、膨張した状態を示す。加圧部4の膨張によって分岐流路22の流路壁が圧迫され変形し、流路内空に突出し、分岐流路22は狭窄、又は閉塞される。加圧部4が、分岐流路22が形成された基板層とは異なる基板層に形成された場合であっても、加圧部4に溶液が充填されて膨張することによって、図3(B)に示す分岐流路22の流路壁への圧迫を生じ、マイクロチップ内に逆流防止構造を設けることが可能である。逆流防止構造の形成の適時の調節は、前述の図2の場合と同様に、調節流路23及び貯留部3をマイクロチップ内に形成することによって行われる。また、マイクロチップAと同様に本変形例においても逆流防止構造は、溶液のマイクロチップ内への導入操作の後、追加の操作を必要とせず、自動的に形成される。
【0032】
上記のように、マイクロチップにおける逆流防止構造の形成は、加圧部4への溶液の導入圧によって加圧部4が膨張して分岐流路22を外側から圧迫し、分岐流路22の流路壁が変形され流路内空へ突出することによって行われる(図2(B)、図3(B)参照)。また、加圧部4は、分岐流路22に近接していれば何れの基板層に形成されても良く、1本の分岐流路に対して設ける加圧部4の数も限定されない。
【0033】
(3)第一実施形態の変形例の構成
本技術に係るマイクロチップの、第一実施形態の調節流路及び加圧部の構成における変形例について図4(A)−(D)に示す。
【0034】
本実施形態において、調節流路23は、主流路21ではなく、ウェル6と接続している構成としても良い。図4(A)に示す調節流路23は、導入口1(図4(A)では省略)から最遠方位置のウェル6において、分岐流路22とウェル6の連通部と対向する位置で接続している。溶液はマイクロチップに導入後、主流路21を通流し分岐流路22を経てウェル6に到達する。導入口1から最遠方位置のウェル6に溶液が到達し、ウェル6が充填された後、溶液の一部は調節流路23を通流し、各分岐流路22に対して逆流防止構造を形成するために設けられた加圧部4に充填される。このような構成においては、調節流路23への溶液の通流は、1本の主流路21によって溶液が充填される全てのウェル6に溶液が充填された後に行われることとなり、マイクロチップAの場合と同様に逆流防止構造の形成の適時が調整される。
【0035】
本実施形態において、調節流路23が接続するウェル6は、必ずしも導入口1から最遠方位置のウェル6のみとは限らず、マイクロチップに配設された全てのウェル6に各々調節流路23が接続している構成とすることもできる。図4(B)及び(C)に示すように、調節流路23は、一端で分岐流路22とウェル6との連通部と対向する位置でウェル6に接続し、もう一端でその接続しているウェル6からの逆流を防止する逆流防止構造を形成するための加圧部4と連通している。
【0036】
一の調節流路23と接続される加圧部4の数は、一とすることも(図4(B))、複数とすることも(図4(C))可能であり、数は限定されない。このような構成においても、調節流路23への溶液の通流は、ウェル6への溶液の充填が完了した後となり、マイクロチップAの場合と同様に逆流防止構造の形成の適時が調整される。
【0037】
前述の逆流防止構造のように、マイクロチップに配設された全てのウェル6に、各々調節流路23が接続されている場合、調節流路23が連通する加圧部4は、各々の調節流路23が接続するウェル6からの逆流を防止する逆流防止機構を形成するための加圧部4には限定されない。
【0038】
図4(D)は本実施形態の変形例についての部分模式図である。ウェル6aとウェル6bとは隣接して配設されており、各々に連通する分岐流路を介して同一の主流路21から溶液が充填される。導入口1に対しては、ウェル6bがウェル6aに比べ、遠方に位置する(図4(D)では主流路及び分岐流路の一部を省略)。分岐流路22bを経てウェル6bに到達した溶液は、ウェル6bを充填した後、調節流路23bへ通流される。調節流路23bは、加圧部4bに接続しており、加圧部4bへ溶液が充填されることよって、ウェル6aからの逆流が防止される。上記のように、導入口1からより遠方に形成されたウェル6bから調節流路23bに通流する溶液が、導入口1により近いウェル6aに連通する分岐流路に対して逆流防止構造を形成する加圧部4bに充填されることで、溶液の充填が完了していないウェルに連通する分岐流路に逆流防止構造が形成されることが防止される。従って、上記の調節流路等の構成においても、マイクロチップAの場合と同様に、逆流防止構造の形成の適時が調整される。
【0039】
本実施形態においては、図5に示すようにウェル6に溶液が充填される順序と同じ順序で、加圧部4に溶液が到達して逆流防止構造が形成されるように、調節流路23を形成しても良い。図5(A)は、調節流路23が主流路21に連通する例を示し、図5(B)は、調節流路23がウェル6に連通する例を示す。何れの構成であっても、図示する調節流路23の配設によって、加圧部4の膨張による逆流防止構造の形成は、導入口1に近いウェルと連通する分岐流路から、順に行われる(図5(A)、(B)では、主流路の一部を省略)。従って、上記の調節流路23等の構成においてもマイクロチップAの場合と同様に逆流防止構造の形成の適時が調整される。
【0040】
上述したように、本実施形態であるマイクロチップA及びその変形例においては、マイクロチップ内へ溶液が導入されることにより、溶液の一部が加圧部4に到達し、溶液の導入圧によって加圧部4が膨張され、分岐流路22の流路壁を圧迫し、流路壁が変形して流路内空へ突出し、分岐流路22が狭窄、又は閉塞される。この逆流防止構造の形成は、マイクロチップへの溶液導入の後、自動で行われ、上述した調節流路等の構成により形成の適時が調節される。そのため、逆流防止構造を形成するための煩雑な操作や専用の用具を必要としない。逆流防止構造の形成の適時の調整は、溶液がウェルの充填後に加圧部4に到達するように、調節流路23を各ウェル6又は主流路21等と連通されていれば良く、上述した実施形態の構成に限定されない。
【0041】
本実施形態のマイクロチップにおいては、溶液導入後に自動的にウェルに連通する分岐流路22内に逆流防止構造が形成され、ウェル6からの逆流が防止されるため、ウェル6間での溶液の移動等によるウェル6の汚染が生じない。そのため、本技術に係るマイクロチップを用いて、精度の高い分析が可能となる。
【0042】
核酸増幅反応等、反応時又は反応後の溶液の分析にマイクロチップを用いる場合、予め反応に必要な物質の一部を反応場であるウェル6内に保持させておくことによって、マイクロチップの使用時に、反応に必要な残りの物質のみを導入して反応を開始させることが可能となり、操作が簡便となる。また、組成の異なる物質を、各ウェルに保持しておくことで、同時に複数の分析が行えるようになる。しかし、各ウェルに、組成の異なる物質が保持されていると、分析開始時にウェル内に導入された溶液が逆流して、ウェルと他のウェルとの間で溶液が汚染された場合、精度の高い分析が困難となる。本技術に係るマイクロチップにおける逆流防止構造の形成は、上記のような組成の異なる物質が保持されたウェルを備えるマイクロチップで分析を行う場合、ウェル間での汚染を防ぎ、精度の高い分析を可能とする。すなわち、本技術に係る、逆流防止構造が形成可能なマイクロチップによって、複数の分析を1個のマイクロチップ内で同時に行うことを可能とし、分析における簡便性が向上する。
【0043】
2.本技術における第二実施形態について
(1)マイクロチップBの構成
本技術に係るマイクロチップの第二実施形態を図6に模式的に示す。符号Bで示すマイクロチップは、外部から溶液が導入される導入口1と、溶液に含まれる物質又は物質の反応生成物の分析場となるウェル6と、一端において導入口1に連通する主流路21と、主流路21から分岐してウェル6に連通する分岐流路22からなる。また、マイクロチップBには、分岐流路22に近接して加圧部4が配設されている。図6においては、1本の主流路21に対して5個のウェル6が配設され、1個のマイクロチップBについて5本の主流路21が配設された場合を例示したが、本実施形態に係るマイクロチップBに配設される主流路21及びウェル6は、図6に示す数に限定されない。また、分岐流路22等も、ウェル6の数に応じて適宜配設されるものとできる。
【0044】
マイクロチップBは複数の基板層から構成される。基板層の材質、基板層への流路等の形成方法及び基板層を貼り合わせる方法については、前述の第一実施形態におけるマイクロチップAと同様の材質及び方法を用いることができる。一方、マイクロチップBの加圧部4内には、熱膨張部材5が保持されている。熱膨張部材5とは、熱が加わることによって膨張する性質を有する材質からなるものである。本実施形態に係るマイクロチップBに内蔵される熱膨張部材としては、例えば、コイル状に成形した金属等のように熱膨張性を有する材質のみからなるものであっても、有機溶媒等をマイクロカプセルに封入させた熱膨張粒子等のように熱膨張性を有する材質と他の材質のものとを組み合わせた複合材であっても良い。
【0045】
(2)逆流防止構造の形成
図7及び図8は、マイクロチップB及びその変形例における逆流防止構造の形成を説明する図である。図7は加圧部4が分岐流路22の近傍に、ウェル6の底面に対して水平方向に2カ所形成された例を示す。図8は加圧部4が分岐流路22の近傍に、ウェル6の底面に対して垂直方向に2カ所形成された例を示す。
【0046】
図7(A)に示すQ−Q’は、図6のQ−Q’の部分断面に対応する。マイクロチップBは、分岐流路22及び加圧部4が形成された基板層aと基板層aとが貼り合わされた、2層の基板層から構成される。分岐流路22及び加圧部4が形成された基板層aは弾性を有する材質からなるものであることが望ましい。図7(A)は、加圧部4に保持された熱膨張部材5が加熱される前の状態である。分岐流路22は狭窄も閉塞もされず、溶液が通流可能な状態である。
【0047】
一方、図7(B)は、マイクロチップBが加熱され、加圧部4に保持された熱膨張部材5が膨張した状態を示す。熱膨張部材5の膨張によって、加圧部4は分岐流路22の流路壁を圧迫する。加圧部4による圧迫により、分岐流路22の流路壁が変形し、流路内空へ突出して、分岐流路22が狭窄、又は閉塞される。すなわち分岐流路22に逆流防止構造が形成された状態である。このように、マイクロチップBにおいて、図7(B)に示す逆流防止構造が形成されることによって、分岐流路22を介した溶液の逆流を防ぐことが可能となる。
【0048】
図7(B)に示す逆流防止構造の形成は、マイクロチップBに保持された熱膨張部材5が加熱されることによって行われる。そのため、マイクロチップBにおける逆流防止構造の形成の適時は、操作者によって決定される。また、マイクロチップBを用いて、温度サイクルを実施する従来のPCR(Polymerase Chain Reaction)法や、温度サイクルを伴わない各種等温増幅法等の核酸増幅反応を行う場合、マイクロチップB内に導入された溶液の加熱が必要となる。核酸増幅反応におけるこの加熱手順を利用して、熱膨張部材5を膨張させて、図7(B)に示す逆流防止構造を形成することもできる。
【0049】
本実施形態の変形例における加圧部4及び分岐流路22の形成部分の断面図を、図8(A)及び(B)に示す。図8に示す断面部分においてマイクロチップは4層の基板層、a、a、a、aから構成される。加圧部4が形成された基板層a及びaと、分岐流路22が形成された基板層aとが貼り合わされ、基板層aによって加圧部4が封止されている。なお、図7と同様に加圧部4及び分岐流路22が形成される基板層a、a、及びaは、弾性を有する材質からなるものであることが望ましい。図8(A)は加圧部4に保持された熱膨張部材5が加熱される前の状態である。分岐流路22は狭窄も閉塞もされず溶液が通流可能な状態である。
【0050】
一方、図8(B)は、マイクロチップが加熱され、加圧部4に保持された熱膨張部材5が膨張した状態を示す。加圧部4の膨張によって、分岐流路22の流路壁が圧迫され変形し、流路内空に突出し、分岐流路22は狭窄、又は閉塞される。加圧部4を、分岐流路22を形成した基板層とは異なる基板層に形成した場合であっても、マイクロチップの加熱によって加圧部4に保持された熱膨張部材5が膨張し、図8(B)に示す分岐流路22の流路壁への圧迫を生じ、流路壁の変形による流路内空への突出を形成して、逆流防止構造が設けられる。本実施形態における逆流防止構造の形成の適時は、前述の図7の場合と同様、操作者が決定する。
【0051】
上述したように本実施形態であるマイクロチップB及びその変形例においては、加圧部に保持された熱膨張部材5が、加熱によって膨張することで加圧部4が膨張され、分岐流路22の流路壁を圧迫し、流路壁が変形して流路内空へ突出し、分岐流路22が狭窄、又は閉塞される(図7、8)。本実施形態のマイクロチップにおいて、熱膨張部材5を保持する加圧部4の形成位置は、膨張時に分岐流路の流路壁を圧迫することが可能な位置であれば何れの基板層であっても良く、1本の分岐流路22に対して設ける加圧部4の数も限定されない。
【0052】
上記逆流防止構造の形成は、マイクロチップの加熱のみで生じるため、操作者が決めた時期にマイクロチップを加熱する操作のみが必要であり、逆流防止構造を形成するための煩雑な操作や専用の用具を必要としない。
【0053】
本実施形態のマイクロチップにおいては、溶液導入後の適時に操作者による加熱操作で、ウェル6に連通する分岐流路22内に逆流防止構造が形成され、ウェル6からの逆流が防止されるため、ウェル6間での溶液の移動等によるウェル6の汚染が生じない。そのため、本技術に係るマイクロチップを用いて、精度の高い分析が可能となる。またウェル6の汚染を防ぐことにより、複数のウェル6で同時に異なる分析が可能となり、分析の簡便性が向上する。このため、本技術に係る、逆流防止構造の形成が可能なマイクロチップは、予め複数のウェルに、分析に必要な物質が保持されているマイクロチップとして使用する際、分析精度を高めるため、特に有効である。
【0054】
3.本技術における第三実施形態について
本技術に係る第三実施形態であるマイクロチップCは、前述した第一実施形態や第二実施形態におけるマイクロチップA及びマイクロチップBと同様に、外部から溶液が導入される導入口と、溶液に含まれる物質又は物質の反応生成物の分析場となるウェルと、一端において導入口に連通する主流路と、主流路から分岐して前記ウェルに連通する分岐流路から構成される。一方、マイクロチップA又はマイクロチップBと異なり、加圧部、調節流路、貯留部は、必須の構成ではない。また、マイクロチップCを構成する基板層について、基板層の材質、基板層への流路等の形成方法及び基板層を貼り合わせる方法は、前述の第一実施形態におけるマイクロチップAと同様の方法を用いることができる。
【0055】
図9に、マイクロチップCにおける逆流防止構造の形成を模式的に示す。図9(A)はマイクロチップCに溶液が導入される前の分岐流路22の状態である。分岐流路22は、逆止弁7によって閉塞状態にある。逆止弁7は、流路断面が四角形の分岐流路22に対して四辺で接着しているが、三辺の厚みは残りの一辺に比べ薄く、流路壁との接着面積が少ないため、三辺の流路壁への接着力は脆弱である。
【0056】
マイクロチップCへの溶液の導入は、前述の加圧による導入であっても、マイクロチップの内外の圧力差による導入であっても良い。何れの場合であってもマイクロチップC内に溶液が導入され、図9(B)示す矢印Fの方向に、分岐流路22内へ溶液が流入すると、逆止弁7を境に圧力差が生じる。逆止弁7は、接着力が脆弱な三辺において流路壁との接着が破綻し、低圧側に倒れることで分岐流路22が開通される。溶液導入後、溶液が分岐流路22の下流に設けられたウェルまで到達し、ウェル内の充填が完了すると、分岐流路22内は等圧となり、逆止弁7は流路壁と接着している一辺を軸に、図9(A)に示す逆止弁7の成形時の状態に戻り、再び分岐流路22を閉塞状態にする。これにより、溶液導入後、分岐流路22内に逆流防止構造が形成される。
【0057】
逆止弁7は、マイクロチップCを構成する基板層の何れか一層と一体に成形されたものであっても良く、一部品として作製してから分岐流路22に設置しても良い。逆止弁7と分岐流路22の壁面との接着部分は、三辺の脆弱な接着部分を除いて、弾性変形による復元力を有する材質から構成されることが好ましく、弾性を有する材質で分岐流路22と一体成形されているものが好適である。
【0058】
図9においては分岐流路22の断面を四角形としたが、円形、多角形等何れの形であっても良く、流路断面の形に応じて、逆止弁7の形状を選択すれば良い。また、逆止弁7の接着力が脆弱な部分は、図9に示すように接着面積を減少することによって形成する方法の他、破断線を逆止弁に設ける方法でも良い。
【0059】
上記の何れの形状であっても、逆止弁7は、流路壁との接着が、一部を残して脆弱であるため、分岐流路22への溶液導入時に破綻して、分岐流路22が開通し、かつ逆止弁7の流路壁に対する一部の接着が導入圧に耐え得る接着力であることにより、分岐流路22の所定の位置に留まり、溶液の充填後に復元して逆流防止構造の形成が可能である。また、マイクロチップ内への溶液の導入によって同様の動作をする逆止弁7であれば、上記の構成に限定されない。逆止弁7の配設位置は分岐流路22に限らず、主流路や導入口と主流路との連通部でとすることもできる。
【0060】
本実施形態のマイクロチップCにおいては、逆支弁7を設けた流路内に、自動的に逆流防止構造が形成され、分岐流路22における逆流が防止される。ウェルに連通する分岐流路22に逆支弁7を設けた場合は、溶液導入後のウェル間での溶液の移動等によるウェルの汚染が生じない。そのため、本実施形態のマイクロチップCを用いて、精度の高い分析が可能となる。また、ウェルの汚染を防ぐことにより、複数のウェルにおいて同時に異なる分析が可能となり、マイクロチップにおける分析の簡便性が向上する。このため、本技術における逆流防止構造は、予め複数のウェルに分析に必要な物質が保持されているマイクロチップを使用する際に、分析精度を高めるために特に有効である。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本技術に係るマイクロチップにおいては、流路壁が変形して流路内空へ突出することにより流路を狭窄、又は閉塞して溶液の逆流を防止する逆流防止構造が形成され、溶液の逆流によるウェル等領域間での汚染が防止できる。従って、本技術に係るマイクロチップによれば、ウェル毎に異なる分析を同時に行う場合においても高精度な分析を行うことができる。そのため、医療分野や公衆衛生分野等において疾患の診断や感染病原体判定のために用いられ得る。
【符号の説明】
【0062】
A、B:マイクロチップ、a、a、a、a:基板層、1:導入口、21:主流路、22、22b:分岐流路、23、23b:調節流路、3:貯留部、4、4b、4c:加圧部、5:熱膨張部材、6、6a、6b:ウェル、7:逆止弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液の導入口と、
前記溶液に含まれる物質又は該物質の反応生成物の分析場となるウェルと、前記導入口に導入された前記溶液を前記ウェルへ送液する流路と、が配設され、
前記流路は、一端で前記導入口に連通する主流路と、該主流路から分岐して前記ウェルに接続する分岐流路と、からなり、
前記分岐流路には、流路壁の変形によって流路内空が狭窄又は閉塞される逆流防止構造が形成されるマイクロチップ。
【請求項2】
前記逆流防止構造は、前記分岐流路に近接して設けられた加圧部の膨張によって前記流路壁が圧迫され、前記流路内空へ突出して形成される
請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項3】
前記溶液を充填可能な前記加圧部への該溶液の導入圧によって、該加圧部が膨張する、
請求項2に記載のマイクロチップ。
【請求項4】
一端で一又は二以上の前記加圧部と接続し、もう一端で、前記導入口から最遠方位置のウェルに連通する分岐流路との分岐の後に前記主流路と接続する、調節流路が配設された、
請求項3に記載のマイクロチップ。
【請求項5】
一端で前記分岐流路と前記ウェルとの連通部と対向する位置で前記ウェルと接続し、もう一端で一又は二以上の加圧部に接続した調節流路が配設された、
請求項3に記載のマイクロチップ。
【請求項6】
前記調節流路が一端で接続する前記ウェルは、前記導入口から最遠方位置に配設された1又は二以上のウェルのみである、
請求項5に記載のマイクロチップ。
【請求項7】
熱膨張部材を保持可能な前記加圧部への加熱によって、該加圧部が膨張する、
請求項2に記載のマイクロチップ。
【請求項8】
前記熱膨張部材が、コイル状の金属又は熱膨張性樹脂からなる、請求項7に記載のマイクロチップ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−101081(P2013−101081A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245809(P2011−245809)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】