説明

マイクロチャネルスクラバー

【課題】小型で安価でありながら極低濃度のガスをリアルタイムに測定するためのガス捕集装置を提供する。
【解決手段】ハニカム構造のマイクロチャネルを形成し、その上に疎水性のガス透過性膜を固着する。ポリジメチルシロキサン(PDMS)を、マイクロチャネルを作成する基材に用いれば、その重合固化の過程でガス透過性膜を固着する。単純なマイクロチャネルではなくハニカム型にすることによって極薄の液層を広い面積にわたって形成することができる。そのためにガスの吸収効率が上がり、短い吸収時間でも吸収液層にガス成分を捕集濃縮することができるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は空気中に存在する極微量の成分を捕集し、連続的あるいは間欠的に測定に関わるものであり、環境科学、医療診断などの分野において簡便で高感度な測定を提供するものである。
【従来技術】
【0002】
従来の湿式ガス分析では、インピンジャー内に設置した吸収溶液に試料ガスを通気して取り込む方法が使われており、JISでもこの方法が定められている。排ガスのように目的成分が高濃度に含まれる場合はこの方法で構わないが、大気中の成分を調べる場合は長時間の捕集が必要となる。しかし、理想的には短時間の捕集あるいは連続的な分析をすることが望まれる。そこで、ガスケットを切り抜いて吸収液の流路を形成しその上にガス透過性の素材で覆ったいわゆるガスケットタイプの平面型ガス捕集装置もよく使われている。例えば非特許文献1のような例がある。また、特許文献1のように、チャネルをシリコーン膜で覆ったガスの捕集器も報告した。
【特許文献1】特願2003−045742 マイクロガス捕集器
【非特許文献1】Analytical Chemistry、74、5890(2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
大気などに含まれる微量ガス成分を湿式で分析する場合、インピンジャーに試料ガスを通気し、吸収液に捕集し、その後反応生成物を測定する。この場合、測定に十分な濃度を吸収液中に得るには長時間の捕集を要していた。また測定にも大型の装置を要していたので現場で分析することも困難であった。
【0004】
これらの問題を解決するために、ガスケット型のガス捕集装置がある。ここでさらに感度を上げようとすると、ガスケットの厚みを小さくする必要があった。分析種の吸収後の濃度が液層の厚みに反比例するからである。しかし、任意の厚みのガスケットを取り揃えることは現実的でなく、また薄くするにも入手できるガスケットの素材に限りがあった。
【0005】
液層を薄くしたときのもうひとつの問題は、この厚みを一定に背御することが難しいということである。基材やガス透過性の素材が少しでも曲がると液層厚みが変化し、場合によっては基材と透過性素材が密着してしまい、吸収液が流れなくなってしまうこともある。
【0006】
そのような問題を解決するため、幅の狭い溝、すなわちマイクロチャネル中にガスを取り込む装置を考案(特願2003−045742)したが、有効な吸収面積を得るには、チャネルを長くする必要があった。そのため、流れ抵抗が大きく吸収液を流すのが困難であり、また必要とされる吸収液流量も2マイクロリッター毎分程度と極めて小さく、既存のものでは流量の制御が極めて困難であった。また、吸収面積に関しても、気液との接触面積がガス捕集面の全面積に対して5%程度と不足していた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ポリジメチルシロキサン(PDMS)製板の表面にハニカム構造のマイクロチャネルを形成し、吸収液を蓄える場とした。そのマイクロチャネル上には疎水性メンブランを固着する。マイクロチャネルに吸収液あるいは吸収反応溶液を流し、疎水性メンブランの外側に大気試料を導入し、目的性分を疎水性膜を介して取り込む。
【発明の効果】
【0008】
ハニカム構造のマイクロチャネルによって、極薄の液層を一定の厚みで得ることができる。しかもガスの吸収面積を広くすることが可能である。また、吸収反応液はハニカムの溝に従って液の分岐と集合を繰り返しながら、吸収面に一様に広がっていく。チャネルのどこかに欠陥があってもその周りのチャネルに吸収反応液が回り込んで流れるので全体の特性に与える影響も少ない。
【0009】
高い効率でガスを捕集するのでリアルタイムもしくは短時間の捕集で極低濃度のガスを測定することができる。また、吸収反応溶液の流量が10から100マイクロリッター毎分とハンドリングしやすく簡便に吸収反応溶液を供給できる。
【0010】
マイクロチャネルにはPDMS製の基材を用いるので、PDMSの重合固化の過程でガス透過性膜を固着することができる。その為、接着剤を用いずに固定することが出来る。接着剤を用いて固定した例も報告されているが、この場合接着剤がチャネルに流れ込み微小構造のマイクロチャネルに大きな影響を与えてしまう。
【実施例】
【0011】
ハニカム構造のマイクロチャネルガス捕集器に硫化水素や二酸化硫黄を取り込み、その後マイクロ検出器で両ガスの検出を行った。硫化水素の場合はフルオレッセイン酢酸水銀溶液を用い、下流でフルオレッセイン酢酸水銀の蛍光を測定した。一方、二酸化硫黄は導電率検出から算出した。応答の例を図2に示す。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】ハニカム構造のマイクロチャネルにガス透過性のメンブランを取り付けた様子を模式的に表したものである。
【図2】図1にガス捕集器を使って硫化水素と二酸化硫黄を同時に測定した例である。硫化水素によってフルオレッセイン酢酸水銀の蛍光シグナルが減少し、また二酸化硫黄によって導電率シグナルが上昇するのが見られる。ppbのオーダーでも十分な応答が得られている。
【符号の説明】
1 ガス透過膜
2 マイクロチャネル
3 マイクロチャネルブロック
4 吸収液入口
5 吸収液出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気液との接触面積がガス捕集面の全面積に対して30%以上となることを特徴とするマイクロチャネル2と、そのマイクロチャネル2が表面に設けられたブロック3、及びマイクロチャネル2上に設けられた厚さ30μm以下のガス透過膜1とからなるマイクロガス捕集器。
【請求項2】
マイクロチャネル2が、ハニカム状に形成されていることを特徴とする請求項1記載のマイクロガス捕集器。
【請求項3】
マイクロチャネル2の流路の深さが、10〜200μm、巾が40〜1000μmであることを特徴とする請求項1〜2記載のマイクロガス捕集器。
【請求項4】
ブロック3が、ポリジメチルシロキサン、ポリシリコーン、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂などの樹脂製ブロック、あるいは石英、ガラス、シリコン、アルミナなどの無機系の基板であることを特徴とする請求項1〜3記載のマイクロガス捕集器。
【請求項5】
透過膜が、多孔性のテフロン膜であることを特徴とする請求項1〜4記載のマイクロガス捕集器。
【請求項6】
透過膜が、ブロックに固着された1枚の膜であることを特徴とする請求項1〜5記載のマイクロガス捕集器。
【請求項7】
透過膜が、ブロックに熱接着法により固着されていることを特徴とする請求項1〜6記載のマイクロガス捕集器。
【請求項8】
透過膜作成用基板が、透過膜とブロックとを接着した後、基板から透過膜を剥離するために、表面を予めフッ素化シランで表面処理してなるものであることを特徴とする請求項1〜7記載のマイクロガス捕集器。
【請求項9】
請求項1記載のマイクロチャネルに吸収液あるいは吸収反応溶液を流し、大気試料の目的成分を透過膜を介して取り込むことを特徴とするガス分析方法
【請求項10】
請求項9記載の大気試料が硫化水素であり、吸収反応溶液がアルカリ性のフルオレッセイン酢酸水銀であることを特徴とするガス分析方法。
【請求項11】
請求項9記載の大気試料が二酸化硫黄であり、吸収反応溶液が微硫酸酸性の過酸化水素溶液であることを特徴とするガス分析方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−139733(P2007−139733A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−359555(P2005−359555)
【出願日】平成17年11月14日(2005.11.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年4月30日 社団法人日本分析化学会発行の「第66回 分析化学討論会講演要旨集」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年7月2日 日本化学会九州支部、日本農芸化学会西日本支部、高分子学会九州支部、日本分析化学会九州支部、電気化学会九州支部、有機合成化学協会九州山口支部、繊維学会西部支部、化学工学会九州支部共催の「第42回 化学関連支部合同九州大会 外国人研究者交流国際シンポジウム」において文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年8月31日 社団法人日本分析化学会発行の「日本分析化学会 第54年会講演要旨集」に発表
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(504083686)
【出願人】(505460765)
【Fターム(参考)】