マイクロニードルシート及びその製造方法
【課題】所望の形状のマイクロニードルが構成されたマイクロニードルシート及びその製造方法を提供する。
【解決手段】マイクロニードルシート42は、中央部Ac”と、当該中央部Ac”を取り囲む側周部Ad”と、側周部Ad”を取り囲む外縁部Ao”とを含むシート状の基材27と、中央部Ac”より第1の所定長だけ延在する所定数のニードル28と、側周部Ad”より第1の所定長より短い長さだけ延在する1つ以上の突起Pとを備える。
【解決手段】マイクロニードルシート42は、中央部Ac”と、当該中央部Ac”を取り囲む側周部Ad”と、側周部Ad”を取り囲む外縁部Ao”とを含むシート状の基材27と、中央部Ac”より第1の所定長だけ延在する所定数のニードル28と、側周部Ad”より第1の所定長より短い長さだけ延在する1つ以上の突起Pとを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚より薬物を注入するマイクロニードルシート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロニードルシートは、微小な針(マイクロニードル)をシート基体上に所定の密度で配置したものである。マイクロニードルは、一般に根元から先端までの長さがおよそ1μmから600μm、根元の径がおよそ0.3μmから400μmのおおよそ円錐形状に形成されており、その根元の径と長さとの比率が、1:1.5及至1:3と高いアスペクト比を有する。マイクロニードルシートは、人体の主として皮膚部分に当てて、マイクロニードルを皮膚の表皮部分に挿入し、薬物を注入するために用いられる。
【0003】
マイクロニードルの長さは、上述のように数百μm程度であり、ほとんど痒痛を伴わないで使用できる。また、マイクロニードルシートを皮膚から離す際に、マイクロニードルが皮膚内に残留しても人体に支障が生じないように、マイクロニードル部分は自己溶解性物質で形成される。
【0004】
図13を参照して、マイクロニードルシートの一般的な製造方法について説明する。マイクロニードルシートの製造工程は、突起を有する原版(図13(a))を用いてマイクロニードルシートの鋳型となるスタンパ(図13(b))を作製する工程と、作製されたスタンパにマイクロニードルの原料を流し込む工程(図13(c))と、スタンパに流し込まれた原料を乾燥させる工程と、乾燥して得られたマイクロニードルシートをスタンパから取り外す工程(図13(d))に大別できる。
【0005】
図13(a)に示すように、原版90は、微細機械加工や真空処理、フォトリソグラフィー等の方法で、概ね平板状の原版板91の一面にマイクロニードルの個々に対応する複数の突起92を形成して作製される。突起92は錐形状であって、その長さLは上述したように数百μm以下であり、円、角、楕円などの断面形状を有する円錐状、角錐状である。この原版90の突起92側(原版90)がスタンパの母材81(以降、「スタンパ母材」)に押しつけられて、スタンパ母材81に突起92による凹部が形成される。
【0006】
図13(b)に、原版90(突起92)によりスタンパ母材81に設けられた複数の凹部82を示す。上述のように、凹部82は、後にスタンパ80により作製されるマイクロニードルに対応する形状を有している。そして図13(c)に示すように、スタンパ80に樹脂ポリマーの溶解液又は薬物85が流し込まれ、流し込まれた樹脂ポリマー溶解液又は薬物85が乾燥されて、個々のマイクロニードルが形成される。ここで、樹脂ポリマーとしてはコンドロイチン硫酸、デキストラン、ヒアルロン酸等の水溶性洩糸性物質が好ましく、以降、樹脂ポリマー溶解液、薬物85又はそれらの混合物をマイクロニードル原料85と称する。図13(d)に示すように、形成されたマイクロニードルを固定基材88に貼り付けて、スタンパ80から剥離することにより、図13(d)に示すようなマイクロニードルシート77を得ることができる(特許文献1参照)。
【0007】
スタンパの作製方法としては、母材に原版を押しつけるのではなく、原版の周囲に溶解した樹脂を流し込んで乾燥させた後、原版から剥離する方法もある(特許文献2参照)。そして、上述の如く作製されたスタンパに、樹脂ポリマーの溶解液又は薬物を加圧充填する方法も提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−245955号公報
【特許文献2】特開2008−006178号公報
【特許文献3】特開2009−083125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
マイクロニードルは、皮膚に一定量の薬物を注入するために、その先端はできるだけ尖鋭度を高くし均一なサイズにする必要がある。そのためには、ニードルの原料が流し込まれるスタンパの凹部の底部(マイクロニードルの先端にあたる)の穴径を数マイクロメートルの単位で作製し、尖鋭度の高い凹みで、均一な深さ及び体積とする必要がある。
【0010】
しかしながら、上記スタンパ80を製造する工程において、母材81の熱変形により、形成される凹部82に歪みが生じ、後の工程において形成されるニードル間に高さ及び体積バラツキが存在する。これにより皮膚に一定量の薬物が注入できない問題が生じていた。
【0011】
特許文献1〜3において薬物の定量管理については全く記載されていないが、医薬品の定量管理は不可欠なものであり、マイクロニードルは微小なサイズであるので、これまでの注射薬、錠剤薬とは違い、濃縮された薬物が充填されているため厳しい定量管理が必要となる。
【0012】
上述のように、従来のマイクロニードルシート製造方法では、スタンパをマイクロニードルに相当する凹部をバラツキの無い均一な形状に形成することが困難であった為、薬物量の管理が徹底されていないという問題を有していた。よって、本発明においては、所望の形状のマイクロニードルが構成されたマイクロニードルシート及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明に係るマイクロニードルシートは、
中央部と、当該中央部を取り囲む側周部と、当該側周部を取り囲む外縁部とを含むシート状の基材と、
前記中央部より第1の所定長だけ延在する所定数のニードルと、
前記側周部より第1の所定長より短い長さだけ延在する1つ以上の突起とを備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、薬物量の管理が容易な、所望の形状のマイクロニードルが形成されたマイクロニードルシートを作製できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態1に係るスタンパの模式図である。
【図2】図1のスタンパの製造工程を示すフローチャートである。
【図3】図2のフローチャートにおける貫通凹部形成工程の説明図である。
【図4】本発明の実施の形態2に係るスタンパの模式図である。
【図5】図4のスタンパの貫通凹部及びダミー凹部形成に用いられるスタンパ原版の模式図である。
【図6】図4のスタンパの製造工程を示すフローチャートである。
【図7】図6のフローチャートにおける貫通凹部及びダミー凹部形成工程の説明図である。
【図8】図4のスタンパに形成される貫通凹部及びダミー凹部の配列パターンの例を示す模式図である。
【図9】図4のスタンパを用いたマイクロニードルシートの製造工程を示すフローチャートである。
【図10】図9のマイクロニードルシートの製造工程の説明図である。
【図11】本発明の実施の形態3に係るスタンパの模式図である。
【図12】図11のスタンパの貫通凹部及び環状ダミー凹部の形成に用いられるスタンパ原版の模式図である。
【図13】従来のスタンパを用いたマイクロニードルシートの製造工程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態のそれぞれについて具体的に説明する前に、まず本発明において用いられるスタンパについて簡単に述べる。図1、図4及び図11に示すように、本発明に係るスタンパ1a、1b、1cには、シート状のスタンパ母材2a、2b、2cに、スタンパ母材2a、2b、2cの一方の表面から他方の表面に向かって、先端に開口4を有するn個(nは2以上の自然数)の錐状の貫通凹部3aが形成されている。スタンパ母材2a、2b、2cの前記一方の表面と前記他方の表面とは、貫通凹部3aによって連通されている。
【0017】
(実施の形態1)
図1、図2及び図3を参照して、本発明の実施の形態1に係るマイクロニードルシート及びその製造方法について説明する。図1に、本実施の形態に係るスタンパ1aの平面と側面とを示す。スタンパ1aは、シート状のスタンパ母材2aの中央部Acに、複数の貫通凹部3aが所定のパターンで形成されている。なお、貫通凹部3aは、スタンパ母材2aの一方の表面から他方の表面に向かって、先端に開口4を有する錐状の凹部として形成されている。なお、平面図においては作図上の都合により、貫通凹部3aは表示されていない。
【0018】
説明の便宜上、スタンパ母材2aにおいて、貫通凹部3aの錐状の底部が開口している表面を上面Stとよび、貫通凹部3aの開口4が形成された面を下面Sbと呼ぶ。つまり、上面Stと下面Sbとは、貫通凹部3aによって連通されている。貫通凹部3aはスタンパ母材2aの上面Stでの開口部より、スタンパ母材2aの下面Sbでの開口4に向かって先細りに成形されている。中央部Acからスタンパ母材2aの外周端部までの領域である外縁部Aoには凹部は形成されていない。
【0019】
貫通凹部3aの開口4は、スタンパ母材2aの下面Sbにおいて、所定の径danを有する。貫通凹部3aはスタンパ1aの完成後に、マイクロニードル原料が流し込まれ、乾燥されて、マイクロニードルを形成させる鋳型として使用される。貫通凹部3aの先端の開口4は、マイクロニードルの原料が貫通凹部3aに確実に充填されるように、凹部に溜まった空気が抜ければよく、常に有限長の径の孔が空いていなくてもよい。すなわち、マイクロニードル原料の充填時に空気が抜けさえすれば、通常は閉じているように見えてもよい。この目的から、開口4の径danは、具体的には20μm若しくはそれ以下であるのが好ましい。より好ましくは、10μm以下である。
【0020】
マイクロニードルの形状、設置本数、設置密度、及び設置分布等は特に限定されるものではなく、マイクロニードルシートの用途・目的によって随時決定される。よって、スタンパ1aにおいても、貫通凹部3aは、作製されるマイクロニードルシートのマイクロニードルの形状、設置本数、設置密度や設置分布等の諸要求を満たすよう形成される。図1に於いては、紙面の都合上4本のマイクロニードルを有するマイクロニードルシートを作製するためのスタンパが例示されているが、任意のn本のニードルに対応するn個の貫通凹部3aが設けられる。なお、n個の開口4の径daはそれぞれ、必要に応じて径da1〜danとして識別される。
【0021】
次に図2及び図3を参照して、スタンパ1aの製造方法について説明する。図2に示すように、スタンパ1aの製造は、主にステップS2の「スタンパ母材及びスタンパ原版の加熱」工程、ステップS4aの「貫通凹部形成」工程、ステップS6の「母材及び原版の冷却」工程、及びステップS8の「母材からの原版の離型」工程の4つの工程に大別が出来る。以下に、図2に示す各ステップにおける工程について、図3を参照しながら具体的に説明する。
【0022】
先ず、ステップS2において、スタンパ1aの原版10a(以降、「スタンパ原版」)及びスタンパ1aの母材2a(以降、「スタンパ母材」)は、それぞれ所定範囲の温度で加熱される。本例においては、スタンパ原版10aは、図3に示す様に、シート状に形成された本体11aの下面の概ね中央部に、下面からその先端までの所定長Laを有するn個の錐状の突起12aが形成されている。ここで、所定長Laは母材2aの厚みLcより大きく、成形時にΔLだけ突出されることとなり、開口4が形成される。突起12aがスタンパ1aに形成される貫通凹部3aに対応することは上述の通りである。
【0023】
スタンパ原版10aの材質は特に限定されないものの、金属が好適である。また、錐状の突起12aは微小である為、被切削性の高い材料が好ましい。例えば、銅、アルミ、ニッケル、ステンレス、ケイ素などが利用できる。突起12aは本体11aからの削り出しによる加工のほか、フォトリソグラフィーを用いた方法で形成してもよい。
【0024】
上述の所定長Laは、突起12aが本体11aの下面から突出している長さ(以降、「突起長」)であり、1μmから600μm程度である。突起長Laは、上述のようにスタンパ1aにより作製するマイクロニードルの長さに基づいて決定される。マイクロニードルシートを用いて薬物等を注入する表皮は、角質層、顆粒層、有棘層、及び基底層で構成されるが、角質層は体の部位によって厚さが異なる。マイクロニードルの長さは、経皮投与させたい体の部位と薬物に応じて、適宜決定される。
【0025】
突起12aの形状は、スタンパ1aによって形成されるマイクロニードルの形状に対応する。そのため、マイクロニードルの根元の断面径と長さとの比率が、断面径:長さ=1:1.5及至1:3の比較的高いアスペクト比を有するように、突起12aは形成される。マイクロニードルの形状も長さと同様に、使用する体の部位によって適宜決定される。突起12aの横断面形状には特に限定はなく、円形、楕円形、正方形を含む方形などである。また、突起12aの表面に溝が形成されていてもよい。その溝形状が反映されたマイクロニードルは、皮膚へのスムースな挿入を可能にする。
【0026】
次に、ステップS4aにおいて、スタンパ母材2aに複数(n個)の貫通凹部3aが形成される。具体的には、図3に示すように、ポリエチレン等からなる多孔質シート30の上に置かれたスタンパ母材2aに、スタンパ原版10aの突起12aが押しつけられ、突起12aを、スタンパ母材2aの上面Stから下面Sbに向かって挿入して所定時間保持する。この時、突起12aの先端がスタンパ母材2aの下面Sbから所定長△Lだけ露出されると共に、この露出部により貫通凹部3aの底部(先端部)に所定の径daを有する開口4が形成される。これにより、スタンパ母材2aの上面Stから下面Sbに向かって錐状の貫通凹部3aが複数(n)個形成される。スタンパ母材2aは、貫通凹部3aの形成の観点から、ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂で構成される。
【0027】
図3を参照して、本ステップにおける貫通凹部3aの形成について詳述する。先ず、図3(a)に示すように、本体11aの下面に複数の突起12aのそれぞれが適当な間隔で所定のパターンに設けられたスタンパ原版10aが、スタンパ母材2aの主面に対して本体11aの下面が平行になるように配置される。この状態で、スタンパ原版10aは、突起12aがスタンパ母材2aの主面に対して直交するように、降下される。
【0028】
図3(b)に示すように、スタンパ原版10aの突起12aがスタンパ母材2aの内部に挿入されるに従って、突起12a(の側面)によってスタンパ母材2aが押しのけられる。突起12aによって、押しのけられたスタンパ母材2aの部分を押しのけられ部2pと呼ぶ。押しのけられ部2pの体積は、突起12aの根元部で最大となり、突起12aの先端部で最小となる。
【0029】
複数の突起12aの先端がスタンパ母材2aの上面Stに挿入される際には、押しのけられ部2pは発生しておらず、突起12aの挿入に伴う突起12aの先端部により生じる押しのけられ部2pは最小である。よって、突起12aの先端部により生じる押しのけられ部2pが、隣接する突起12aの先端部に損傷を与えることはなく、突起12aの挿入が進行する。
【0030】
突起12aのスタンパ母材2a中への挿入に応じて、図3(b)において矢印で示されるように、突起12aの側面(斜面)によってスタンパ母材2aに対して下面Sb方向斜めに移動させる力が生じる。突起12aの挿入が進行するにつれて、突起12aの根元に近いより体積の大きな部分が下面Sb側に近づくので、押しのけられ部2pは大きくなると共に下面Sb側に移動させられる。なお、隣接する突起12aの間では、押しのけられ部2pはぶつかり合って互いに押し戻そうとする力が働き、互いに抵抗のより小さい方向に押し出される。押しのけられ部2pによる押し出し(押し出され)動作は、スタンパ母材2aの内部を伝播していく。
【0031】
上面St側では、突起12aの根元側であるので、近接する突起12a間の距離は小さく、さらに押しのけられ部2pの上面St側への移動は突起12aの根元部分により抑制される。そして、スタンパ母材2aの側面方向への押しのけられ部2pの移動は、外縁部Aoを伸張させる。そのため、押しのけられ部2pはスタンパ母材2aの側面側及び下面側に移動して、スタンパ母材2aの下面Sb側に膨出する。下面Sbより膨出するスタンパ母材2aは、多孔質シート30によって受け止められながら、下面Sbからはみ出して、母材はみ出し部2eとなる。なお、押しのけられ部2pは上面Stからも若干膨出するが、下面Sb側での母材はみ出し部2eに比べるとその量は無視できる程度である。つまり、突起12aのスタンパ母材2aへの挿入により生じる押しのけられ部2pは、おもに中央部Acの下面における母材はみ出し部2eを生成させる。
【0032】
上述のように、突起12aは非常に微細な形状に構成されているために、多孔質シート30は、下面Sbからはみ出す突起12aを直接、あるいは母材はみ出し部2eを介して間接的に損傷しないような柔軟性を有する可塑性樹脂で構成されている。つまり、多孔質シート30は、下面Sbから突出した突起12aを曲げたり破損したりしないで内部に円滑に収容でき、また押しのけられ部2pの移動によるスタンパ母材2aの下面Sb方向への変形に抗することによって、微細な突起12aに対して曲げ力を生じさせることのないことが求められている。
【0033】
なお、1つの突起12aから隣接する突起12aを回り込んで他の突起12aに向かって移動しようとする押しのけられ部2pの量は、中心部に位置する突起12aの周囲ほど多く、周辺部に位置する突起12aの周囲ほど少なくなる。また隣接する突起12aが存在しない最外周部に位置する突起12aの外周側では、ぶつかり合う押しのけられ部2pが存在しないので、押しのけられ部2pは下(下面Sb)方向よりもスタンパ母材2aの側面側へ移動しやすい。よって、母材はみ出し部2eのスタンパ母材2aの下面Sbからのはみ出し長さLeは、複数の突起12aの中心部で最大となり、周辺部に向かって減少する。
【0034】
図3(c)に、スタンパ原版10aが挿入された状態のスタンパ母材2aの下面Sbの様子を示す。上述のように、突起12aの先端は、スタンパ母材2aの下面Sb及び母材はみ出し部2eを超えて、スタンパ母材2aから突出することにより、貫通凹部3aを形成することができる。貫通凹部3aの長さである凹部長L(つまり、スタンパ母材2aの上面Stから貫通凹部3aの先端の開口4までの距離)は、次式(1)で表現できる。
【0035】
L=Lc+Le ・・・・ (1)
母材はみ出し部2eが生じない場合の凹部長Lは、はみ出し長さLe=0であるので、上式(1)に基づいて次式(2)で表現される。
【0036】
L=Lc+Le(=0)
=Lc ・・・・ (2)
以上より、突起12aの長さLa、スタンパ1aの厚さLd、及びスタンパ母材2aの厚さLcとの間には、次式(3)で表される関係がある。
【0037】
La>Ld≧Lc ・・・・ (3)
上述のように、突起12aが挿入されて、貫通凹部3aが形成されるスタンパ母材2aの下面Sbには母材はみ出し部2eが生じるので、凹部長Lは上式(1)で表される。貫通径daは、突起12aの、母材はみ出し部2eの端部における開口の直径である。上述のように、はみ出し長さLeは複数の突起12aの中央部で最大となり、周辺部に向かって減少している。突起12aはすべて、同一長及び同一形状であるので、凹部長L及び開口径daは、対応する突起12aにより異なる。
【0038】
つまり、凹部長Lは、中央部の突起12aで最大凹部長L(max)となり、最外周辺部で最小凹部長L(min)となる。一方、貫通径daは、突起12aの母材はみ出し部2eの端部における開口の直径であるので、中央部の突起12aで最小貫通径da(min)となり、最外周辺部で最大貫通径da(max)となる。
【0039】
図3(d)に示すように、スタンパ原版10aが挿入方向と反対方向に引き上げられて、スタンパ母材2aに上述の貫通凹部3aが形成されたスタンパ1aが作成される。貫通凹部3aの開口4の径は突起12aの貫通径daと実質的に同一であり、貫通凹部3aの凹部長Lはスタンパ母材2aの母材厚みLcと突起12aの母材はみ出し部2eに挿入されている部分の長さとの和と実質的に同一である。よって、貫通凹部3aの開口4の貫通径da及び凹部長Lの変動範囲(da(min)〜da(max)、L(min)〜L(max))は、突起12aの形状及び配列パターン(間隔)および、スタンパ母材2aに対する挿入動作(圧力や早さ)を調整することによって、許容の範囲内に収めることができる。
【0040】
なお、スタンパ母材2aはいわゆるプラスチックであるので、ステップS2において加熱された突起12aの温度がスタンパ母材2aの軟化温度より高ければ、スタンパ母材2aに容易に塑性変形を生じさせることができる。さらに、スタンパ母材2aをその軟化温度近くまで加熱することによって、押しのけられ部2pの移動が容易になる。つまり、突起12aの挿入によるスタンパ母材2aの変形(押しのけられ部2pの移動)を、スタンパ母材2aの全体で吸収することが容易となる。結果、母材はみ出し部2eのはみ出し長さLeの均一化を図ることができる。そして、貫通凹部3aの貫通径da及び凹部長Lの変動範囲(da(min)〜da(max)、L(min)〜L(max))を所望の許容範囲に収めることが容易になる。
【0041】
次に、ステップS6において、スタンパ母材2aおよびスタンパ原版10aが冷却される。具体的には、突起12aがスタンパ母材2aに挿入された状態で、スタンパ原版10aとスタンパ母材2aとが、常温付近まで冷却される。これにより、上述のステップS8の「母材から原版の離型」工程に於いて、突起12aが挿入されたスタンパ母材2aから、スタンパ原版10aを離型される際に、スタンパ母材2a、特に下面Sb部分が熱を受けて変形することの防止を図っている。
【0042】
スタンパ原版10aとスタンパ母材2aとの冷却は、短時間で行う方が、塑性変形されにくいため、ステップS8における離型後の変形が生じにくい。つまり、上述のステップS6で形成された、スタンパの下面Sbの開口4のサイズ(貫通径da)や凹部長Lを、下面Sbより貫通した状態の突起12aにより精度良く制御できる。これにより、所望のマイクロニードル形状、ニードル本数に応じて、より確実に、精度良く形成できる。本ステップにおいて、スタンパ母材2a及びスタンパ原版10aの冷却が完了して、突起12aが挿入された状態でのスタンパ母材2aの形状が安定した後に、上述のステップS8の工程が実行される。
【0043】
ステップS8において、スタンパ原版10aがスタンパ母材2aから離型される。結果、図1に示すように、スタンパ母材2aの上面Stから下面Sbに向かって貫通する貫通凹部3aが形成されたスタンパ1aが得られる。
【0044】
(実施の形態2)
以下に、図4、図5、図6、図7、図8、図9、及び図10を参照して、本発明の第2の実施の形態に係るマイクロニードルシート及びその製造方法について説明する。本実施の形態は、上述の第1の実施の形態におけるスタンパにおける母材はみ出し部の生成をより制御して、形成される貫通凹部のばらつき(|貫通径da(min)―da(max)|及び|凹部長L(min)―L(max)|)を所定の許容範囲に収めることができるスタンパを提供することによって、所望の形状のマイクロニードルを有するマイクロニードルシートの製造を可能とするものである。
【0045】
前記貫通凹部は、実施の形態1におけるのと同様に、スタンパ母材に原版の突起を挿入し、貫通させることにより形成されるので、凹部の形状及び容積は、原版の突起の、スタンパ母材に挿入されている部分の形状及び体積により決定される。従って、スタンパの厚みのばらつき、つまり母材はみ出し部のはみ出し長さのばらつきをより小さくすることができれば、突起ごとのスタンパ母材中に挿入されている部分をほぼ同一にすることができる。
【0046】
結果、凹部毎の容積のばらつきをより小さくできると共に、凹部毎の先端の開口の径のばらつきをより小さくすることができる。本実施の形態においては、特に、スタンパ母材に凹部を形成する工程で発生するスタンパ母材の厚みのばらつきをより小さくすることによって、凹部長のばらつきが抑えられたスタンパを生成し、同スタンパを用いてマイクロニードル毎の形状・体積のばらつきが抑えたマイクロニードルシートを製造するものである。
【0047】
図4に示すように、本実施の形態に係るスタンパ1bは、そのスタンパ母材2bの中央部Acに、実施の形態1に係るスタンパ1a(図1)と同様に複数の貫通凹部3aが形成され、さらに、スタンパ母材2bの中央部Acを取り囲む側周部Adに凹部3bが形成されている。つまり、スタンパ母材2bは、スタンパ母材2aにおいて中央部Acと外縁部Aoとの間に環状の側周部Adが追加され、同側周部Adにm個(mは1以上の自然数)のダミー凹部3bが形成されている。なお、ダミー凹部3bは、貫通凹部3aとは異なり、マイクロニードルの形成鋳型として用いられるのではなく、貫通凹部3aの形状のばらつきを抑えてスタンパ1bの製造過程において形成されたものである。ダミー凹部3bの形成及び機能については、後ほど図5、図6、及び図7を参照して詳しく述べる。
【0048】
次に、図5を参照して、スタンパ1bの貫通凹部3a及びダミー凹部3bを形成するために用いられるスタンパ原版10bについて説明する。スタンパ原版10bには、上述のスタンパ原版10aと同様に、シート状に形成された本体11bの下面の概ね中央部Ac’に、n個の錐状の突起12aが形成されている。そして、側周部Ad’に、突起12bが形成されている。外縁部Ao’には、スタンパ原版10aと同様に突起は設けられていない。なお、スタンパ原版10bにおける中央部Ac’、側周部Ad’、および外縁部Ao’は、それぞれスタンパ1bの中央部Ac、側周部Ad、および外縁部Aoに対応する。
【0049】
突起12bは、スタンパ1bの製造過程において貫通凹部3aの形状、特に貫通径daのばらつきを抑えるべく設けられている。たとえば、突起12bは、スタンパ原版10bの本体11bの下面からその先端までの所定長Lbを有する。突起12bは、突起12aより短ければ、スタンパ母材2bの厚さLc及びスタンパ1bの厚さLdより長くても短くてもよく、次式(4)で表される関係がある。
【0050】
La>Lb ・・・・ (4)
突起12aと突起12bの長さの差である離間距離DLは、次式(5)で表される。
【0051】
DL=La−Lb ・・・・ (5)
なお、本例においては、突起12bの縦断面が二等辺三角形状に形成され、突起12aを囲むように同心円状に1列に配置されている。貫通凹部3aの形状のばらつきを抑えるという目的を満たすことができればその形状や配列は任意に定めることができる。
【0052】
次に、図6、図7、及び図8を参照して、スタンパ1bの製造方法について説明する。図6に示すように、スタンパ1bの製造は、ステップS4aの「貫通凹部形成」工程が、ステップS4bの「貫通凹部及びダミー凹部形成」工程に交換されている点を除いて、図2を参照して説明したスタンパ1aの製造方法と基本的に同様である。但し、母材はみ出し部2eの厚さ(はみ出し長さLe)のばらつきがより小さいスタンパを製造するために、スタンパ原版10aに代えて、上述のスタンパ原版10bが用いられる。以下に、本実施の形態に固有の特徴に重点をおいて説明する。
【0053】
ステップS2において、スタンパ母材2bおよびスタンパ原版10bが、実施の形態1におけるのと同様に加熱される。図7(a)に示すように、スタンパ原版10bが、スタンパ母材2bの主面に対して本体11bの下面が平行になるように配置される。この状態で、スタンパ原版10bは、突起12aおよび突起12bがスタンパ母材2bの主面に対して直交するように、降下される。
【0054】
次に、ステップS4bの「貫通凹部及びダミー凹部形成」工程において、母材はみ出し部2eの厚さ(はみ出し長さLe)のばらつきを抑えて貫通凹部3aが形成される。挿入される突起12aによりスタンパ母材2bに生じる押しのけられ部2pの押し出し(押し出され)動作がスタンパ母材2bの内部を伝播することは、実施の形態1におけるのと同様である。但し、本実施の形態においては、押しのけられ部2pの押し出し(押し出され)動作のスタンパ母材2bの内部における伝播が突起12bによって制限されることによって、母材はみ出し部2eのはみ出し長さLeのばらつきが抑制される点に特徴がある。
【0055】
具体的には、図7(b)に示すように、突起12bは突起12aに対して、それぞれの長さの差である離間距離DL(La−Lb)だけ遅れて、スタンパ母材2bに挿入される。突起12bが挿入された時点では、突起12aは先端から離間距離DLだけスタンパ母材2bに挿入されており、それに応じて押しのけられ部2pが生じている。そして、次の瞬間に、突起12bのスタンパ母材2b(St)への挿入が開始される。以降、突起12aによる押しのけられ部2pと、突起12bによる押しのけられ部2pとの、2種類の押しのけられ部2pが生じる。説明の便宜上、突起12aおよび突起12bにより生じる押しのけられ部2pをそれぞれ、押しのけられ部2p(a)および押しのけられ部2p(b)として識別する。
【0056】
突起12a及び突起12bの挿入がさらに進行すると、特に最外周に位置する突起12aによる押しのけられ部2p(a)のスタンパ母材2bの側面方向への移動は、押しのけられ部2p(b)および突起12bそのものによって妨げられる。妨げられた、突起12aの周囲(特に、外周側)の押しのけられ部2pは、スタンパ母材2bの下面Sbより実施の形態1における場合よりも多く膨出する。なお、スタンパ母材2bの外周側に生じる押しのけられ部2pは外縁部Aoによって吸収される。このように、最外周部の突起12aにより生じる押しのけられ部2p(a)は、突起12bによって直接的および間接的に(押しのけられ部2p(b)による)、下面Sb側に誘導されて、その部分の母材はみ出し部2eのはみ出し長さLeが厚くなるので、貫通凹部3a毎のはみ出し長さLeのばらつきが抑えられる。
【0057】
図7(c)に、スタンパ原版10aが挿入された状態のスタンパ母材2bの下面Sbの様子を示す。上述のように、突起12aによる押しのけられ部2pは、離間距離DLだけ遅れて挿入された突起12bによって、力及び動きが制限される。つまり、突起12bによって、外周側突起12aでの母材はみ出し部2eがより下面Sbから多く膨出することにより、実施の形態1の場合と比べて最外周辺部での最小凹部長L(min)は長くなると共に、最大貫通径da(max)は小さくなる。結果、貫通径da及び凹部長Lの変動範囲(|da(min)−da(max)|、|L(min)−L(max)|)が小さくなり、実施の形態1に比べて貫通凹部の容積をより小さな許容範囲に収めることができる。
【0058】
つまり、スタンパ母材2bにおいては、貫通凹部3aの開口4が設けられた箇所のスタンパ母材2bの厚さLがほぼ均一であるため、貫通凹部3aの容積がほぼ均一になる。また、貫通凹部3aの貫通径daは、突起12aの先端がスタンパ母材2bから突出する箇所のスタンパ母材2bの厚さLにより決定される。母材厚さLが大きいと貫通径daが小さくなり、母材厚さLが小さいと貫通径daが大きくなる。本実施の形態においては、突起12aの先端が突出する箇所の母材厚さLがほぼ均一に増加(母材はみ出し部2e)するので、貫通凹部3aの貫通径daがほぼ均一になる。
【0059】
以降、ステップS6において母材及び原版が冷却される。そして、ステップS8において、図7(d)に示すように、スタンパ原版10bが挿入方向と反対方向に引き上げられて、スタンパ母材2bに貫通凹部3aとダミー凹部3bが形成されたスタンパ1bが作成される。
【0060】
スタンパ原版10bの突起12bは、その体積が、外周部に位置する突起12aによって押し出された母材の押しのけられ部2pの突起の挿入方向とほぼ直交する方向に沿った移動を規制できるように形成されていればよい。突起12bの形状は、円柱の先端に円錐が接続された形状でもよく、また円柱状や角柱状でもよい。突起12bは、スタンパ母材2bへの挿入抵抗ができるだけ小さく、かつ挿入後もなめらかにスタンパ母材2bを押しのけることができるような形状であることが望ましい。さらに、突起12bは、突起12aの外周に複数列に配置されてもよい。
【0061】
次に、スタンパ1bの平面を表す図8を参照して、突起12a及び突起12bによってスタンパ母材2bに形成される貫通凹部3a及びダミー凹部3bの配置パターンの異なる例について説明する。
【0062】
図8(a)に示す例では、貫通凹部3a及びダミー凹部3bは、同心円上に半径方向に放射状に配列されている。なお、ダミー凹部3bは一列である。
【0063】
図8(b)に示す例では、貫通凹部3a及びダミー凹部3bは、同心円上に半径方向に千鳥状に配列されている。
【0064】
その他、上述の効果を得られるのであれば、他の配列をとることもできることは勿論である。たとえば、貫通凹部3a及びダミー凹部3bを格子状に配置することも可能である。
【0065】
次に、図9及び図10を参照して、上述の如く作製されたスタンパ1bを用いた、マイクロニードルシートの製造方法を説明する。図9に示すように、マイクロニードルシート42の製造は、主にステップS12の「第1のマイクロニードル原料充填」工程、ステップS14の「第1のマイクロニードル原料乾燥」工程、ステップS16の「第2のマイクロニードル原料充填」工程、ステップS18の「第2のマイクロニードル原料乾燥」工程、ステップS20の「固定基材貼付」工程、及びステップS22の「マイクロニードルシート剥離」工程の6つの工程に大別が出来る。
【0066】
以下に、図9に示す各ステップにおける工程について、図10を参照しながら具体的に説明する。なお、図10(g)に示すように、マイクロニードルシート42は、マイクロニードルシート単位の薬物量を管理するために、マイクロニードルの先端の皮膚に貫入される部分に薬物を集中させるべく、マイクロニードルを、薬物から成る先端層28tと、非薬物から成る根元層27とを含む2層構造に形成している。なお、図10においては、作図上の都合により、貫通凹部3a及びダミー凹部3bの数はそれぞれ2つの場合が例示されているが、それらに限定されないことは上述の通りである。よって、マイクロニードルシートに形成されるマイクロニードルの数も同様に限定されない。
【0067】
まず、ステップS12において、スタンパ1b上に塗布された、マイクロニードル先端の皮膚に貫入される部分を構成するに十分な量の第1のマイクロニードル原料である薬物21(図10(a))が、スキージ20にてスタンパ1bの、マイクロニードルを形成させる鋳型として使用される貫通凹部3aに充填される(図10(b))。なお、ダミー凹部3bは、貫通凹部3aを所望の形状及びサイズに形成するために、突起12bによって形成されたものであり、マイクロニードルを形成させる鋳型として形成されたものではないことは上述のとおりである。よって、マイクロニードルシートの薬物量の管理のためには、ダミー凹部3bには、第1のマイクロニードル原料を充填することは避ける必要がある。本例において、ダミー凹部3bはその底部(先端部)に開口を有しないため、ダミー凹部3bに溜まった空気は抜けず、通常は第1のマイクロニードル原料21はダミー凹部3bには充填されない。このように、第1のマイクロニードル原料21が充填されていない状態のダミー凹部3bを、図10(b)の左部に例示する。
【0068】
しかしながら、ダミー凹部3bは貫通穴として構成することも可能であり、このような場合は、空気が抜けるので、ダミー凹部3bに第1のマイクロニードル原料21は充填可能である。また、貫通穴でない場合でも、ダミー凹部3bに第1のマイクロニードル原料21が、完全或いは不完全に充填されることがある。このように、第1のマイクロニードル原料21が充填されている状態のダミー凹部3bを、図10(b)の右部に例示する。なお、同例においては、ダミー凹部3bは非貫通穴であると共に、第1のマイクロニードル原料21が完全に充填されているが、それには限らない。なお、ダミー凹部3bに第1のマイクロニードル原料21に第1のマイクロニードル原料21などの部材の充填を完全に阻止する必要がある場合には、あらかじめダミー凹部3bをマスキングしておけばよい。
【0069】
次に、ステップS14において、貫通凹部3aに充填された薬物21を乾燥させて、ニードル先端部28tが形成される(図10(c))。貫通凹部3aに充填された薬物21は、貫通凹部3aの両開口部(上面Stでの底面開口部と下面Sbでの先端開口4)から水分が逃げ出す、つまり蒸発することにより乾燥する。この乾燥過程において、薬物21の水分を失うことにより体積を減少しながら凝固して、ニードル先端部28tが生成される。開口4は十分に小さいので、薬物21は開口4から漏れ出すことはない。なお、ダミー凹部3bに充填された第1のマイクロニードル原料21は乾燥により、若干体積を減少しながら凝固するが、作図上の都合よりそのようには表現されていない。
【0070】
続いて、ステップS16において、ニードルの根元部28r及び、ニードル間を連結するシート基体が構成される。第2のマイクロニードル原料24が、スキージ20により、既にニードル先端部28tが形成された貫通凹部3aに充填される(図10(d))。なお、ダミー凹部3bの上部にも若干第2のマイクロニードル原料24が充填されるが、作図上の都合よりそのようには表現されていない。マイクロニードル原料24は、体内に残留せずに排出される材料を用いるのが好適である。マイクロニードルシートを皮膚から剥がす際に、ニードル部分が折れたり、抜けたりする場合もあるが、ニードルが体内に残留しない材料であれば安全だからである。具体的には水溶性の洩糸性物質などを主成分とした材料であるのが好ましい。
【0071】
その後、ステップS18において、スタンパ1bに塗布された第2のマイクロニードル原料24が乾燥されて、ニードルの根元部28r及びシート基体27が形成される(図10(e))。マイクロニードル原料21及び24が充填されていないダミー凹部3b或いは、充填されているダミー凹部3bが形成されているスタンパ1b中に、ニードル28が生成されたシート基体27が完成する。
【0072】
ステップS20において、乾燥した第2のマイクロニードル原料24からなるシート基体27に、固定基材29が貼り付けられる(図10(f))。その後、ステップS22において、スタンパ1bから剥離することにより、マイクロニードルシート42を得ることができる(図10(g))。このように作製されたマイクロニードルシート42が備えるニードルは、その先端部分に、薬物21が延在して成るニードル先端層28tを有している。このようにして、中央部(Ac”)と、中央部(Ac”)を取り囲む側周部(Ad”)と、当該側周部(Ad”)を取り囲む外縁部(Ao”)とを含むシート状の基体(27)と、前記中央部(Ac”)より第1の所定長だけ延在する所定数nのニードル28とを備えるマイクロニードルシート42が完成する。なお、マイクロニードルシート42は、図10(f)に示した、スタンパ1bが剥離されていない状態でも、マイクロニードルシートしては完成している。よって、保管や輸送時の保護のためには、スタンパ1bが剥離されていない状態のマイクロニードルシート42が好ましい。
【0073】
本実施の形態に係るスタンパ1bは、マイクロニードルを形成させる鋳型として使用される貫通凹部3aの容積及び開口4の径が実施の形態1に比べてより小さな許容範囲に収められている。従って、このスタンパ1bを用いて製造されたマイクロニードルシート42が備えるニードルは、長さ及び体積が実施の形態1に比べてより小さな許容範囲に収められている。マイクロニードルシートを皮膚に挿入した時に注入される薬物の量は、マイクロニードルの先端から、皮膚に貫入される深さ(以後、貫入長)部分に延在する薬物の量である。マイクロニードルシート42は、ニードルの長さ及び体積が実施の形態1に比べてより小さな許容範囲、具体的には±5%以内に収められているため、皮膚に貫入される部分の長さ及び体積がニードルによってばらつくことがなく、皮膚に注入される薬物量を管理しやすい。なお、スタンパ1bの貫通凹部3aの容積の許容範囲は、作製されたニードルの体積の許容範囲よりも小さいことは言うまでもない。
【0074】
なお、ステップS12の「第1のマイクロニードル原料充填」工程において、スタンパ1bのダミー凹部3bにマイクロニードル原料が充填されることをより確実に防ぐには、ダミー凹部3bを板等で覆う(マスクする)とよい。特にダミー凹部3bがその底部(先端部)に開口を有している場合は、ダミー凹部3bをマスクすることによって、ダミー凹部3bに薬物が充填されることを防止できる。
【0075】
これに対し、ステップS16の「第2のマイクロニードル原料充填」工程においては、スタンパ1bのダミー凹部3bにマイクロニードル原料が充填されても、マイクロニードルシートの薬物量の管理は損なわれない。この場合、ダミー凹部3bには、第2のマイクロニードル原料24からなるニードル状の突起Pが形成される。このニードル状の突起Pは、その長さが、貫通凹部3aにより形成されるニードルの全体長と皮膚への貫入長との差より短ければ、実際上、最外周のニードル28に隣接するニードル状突起Pが皮膚に挿入されることはない。また、上述のステップS12において、ダミー凹部3bに薬物が充填されて、薬物によるニードル状突起Pが生成されるような場合でも、貫入長との差より短ければ、ニードル状突起Pの薬物が皮膚に挿入されるという問題は無視できる。
【0076】
上述のマイクロニードルシートの製造方法は、マイクロニードルを2層構造に形成する方法であるが、薬物をマイクロニードル原料とするか、薬物をマイクロニードル原料に混入して、マイクロニードルを1層構造に形成してもよい。また、スタンパ1bを用いて1層構造に形成したマイクロニードルシートに薬物を塗布して2層構造としてもよい。
【0077】
また、上述のマイクロニードルシートの製造方法において、ステップS22の「マイクロニードルシートのスタンパからの剥離」工程を行わずに、マイクロニードルがスタンパに収容された状態(図10(f))のマイクロニードルシートを完成品としてもよい。この場合、スタンパはマイクロニードルシートの保護部材として機能する。
【0078】
(実施の形態3)
以下に、図11及び図12を参照して、本発明の第3の実施の形態に係るスタンパ及びその製造方法について説明する。本実施の形態の主な特徴は、図11に示すように、本実施の形態に係るスタンパ1cは、実施の形態2における複数のダミー凹部3bの代わりに、貫通凹部3aの外周を囲む環状溝3cが形成されている。スタンパ1cの製造方法においては、スタンパによって形成されるマイクロニードルに対応する突起12aに加えて、環状溝3cに対応する円筒状に形成された環状突起12cが形成されたスタンパ原版10cを用いる。以下、本実施の形態の特徴に重点をおいて説明する。
【0079】
環状突起12cは、スタンパ原版10cのシート状に形成された本体11cの下面からその先端までの所定長Lfを有する。ここで、所定長Lfは、突起12aの所定長Laより小さい。本例において、突起12cの縦断面形状は略二等辺三角形であり、突起12aを囲むように1列に配置されている。
【0080】
次に、ステップS4bの「貫通凹部及びダミー凹部形成」工程において、スタンパ母材2cに複数の貫通凹部3a及び環状溝3cが形成される。具体的には、多孔質シート30の上に置かれたスタンパ母材2cに、スタンパ原版10cの突起12aおよび12cが所定時間挿入される。この時、突起12aにより貫通凹部3aが形成され、突起12cにより環状溝3cが形成される。突起12cの所定長Lfは母材厚みLcより小さいため、環状溝3cはその底部(先端部)に開口を有さず、スタンパ母材2c中で閉じている。つまり、次式(6)が成立する。
【0081】
Lf<Lc<La ・・・・・(6)
スタンパ原版10cの突起12aおよび12cを、スタンパ母材2cの上面Stに挿入すると、突起12aおよび12cによって母材が押し出され、押しのけられ部2pが生じる。外周部に位置する突起12aによって生じた押しのけられ部2pの、突起の挿入方向とほぼ直交する方向に沿った移動は、突起12aの外周に形成された環状突起12cがスタンパ母材2cに挿入されることによって規制される。本実施の形態においては、環状突起12cは壁状であるため、複数の突起12bに比べて、押しのけられ部2pの移動をより効果的に規制できる。
【0082】
スタンパ原版10cの突起12cは、その体積が、外周部に位置する突起12aによって生じた押しのけられ部2pの押し出された母材の、突起の挿入方向とほぼ直交する方向に沿った移動を規制できるように形成されていればよい。突起12cの縦断面形状は、上述のように、円柱の先端に円錐が接続された形状でもよく、また円柱状や角柱状でもよい。さらに、突起12cは、突起12aの外周に複数列に配置されてもよい。
【0083】
上述のように、本発明において、マイクロニードルを形成させる鋳型として使用される凹部の容積が所定の範囲に含まれるスタンパを製造することができる。また、このスタンパを用いて作製されたマイクロニードルシートが備えるニードルは、長さ及び体積が所定の範囲に含まれる。つまり、マイクロニードル及びマイクロニードルシートにおける薬効成分量の管理ができる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、薬物を表皮に注入するマイクロニードルシートのスタンパだけでなく、基材上に微小突起を形成する方法に広く利用することができる。
【符号の説明】
【0085】
1a、1b、1c、80 スタンパ
2a、2b、2c、81 母材
2e 母材はみ出し部
2p 押しのけられ部
3a 貫通凹部
3b ダミー凹部
3c 環状溝
4 開口
10a、10b、10c 原版
11a、11b、11c 原版本体
12a、12b、12c 突起
28 ニードル
30 多孔質シート
42 マイクロニードルシート
La、Lb、Lf 突起長
Lc 母材厚さ
Ld スタンパ厚さ
Le はみ出し長さ
L 凹部長
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚より薬物を注入するマイクロニードルシート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロニードルシートは、微小な針(マイクロニードル)をシート基体上に所定の密度で配置したものである。マイクロニードルは、一般に根元から先端までの長さがおよそ1μmから600μm、根元の径がおよそ0.3μmから400μmのおおよそ円錐形状に形成されており、その根元の径と長さとの比率が、1:1.5及至1:3と高いアスペクト比を有する。マイクロニードルシートは、人体の主として皮膚部分に当てて、マイクロニードルを皮膚の表皮部分に挿入し、薬物を注入するために用いられる。
【0003】
マイクロニードルの長さは、上述のように数百μm程度であり、ほとんど痒痛を伴わないで使用できる。また、マイクロニードルシートを皮膚から離す際に、マイクロニードルが皮膚内に残留しても人体に支障が生じないように、マイクロニードル部分は自己溶解性物質で形成される。
【0004】
図13を参照して、マイクロニードルシートの一般的な製造方法について説明する。マイクロニードルシートの製造工程は、突起を有する原版(図13(a))を用いてマイクロニードルシートの鋳型となるスタンパ(図13(b))を作製する工程と、作製されたスタンパにマイクロニードルの原料を流し込む工程(図13(c))と、スタンパに流し込まれた原料を乾燥させる工程と、乾燥して得られたマイクロニードルシートをスタンパから取り外す工程(図13(d))に大別できる。
【0005】
図13(a)に示すように、原版90は、微細機械加工や真空処理、フォトリソグラフィー等の方法で、概ね平板状の原版板91の一面にマイクロニードルの個々に対応する複数の突起92を形成して作製される。突起92は錐形状であって、その長さLは上述したように数百μm以下であり、円、角、楕円などの断面形状を有する円錐状、角錐状である。この原版90の突起92側(原版90)がスタンパの母材81(以降、「スタンパ母材」)に押しつけられて、スタンパ母材81に突起92による凹部が形成される。
【0006】
図13(b)に、原版90(突起92)によりスタンパ母材81に設けられた複数の凹部82を示す。上述のように、凹部82は、後にスタンパ80により作製されるマイクロニードルに対応する形状を有している。そして図13(c)に示すように、スタンパ80に樹脂ポリマーの溶解液又は薬物85が流し込まれ、流し込まれた樹脂ポリマー溶解液又は薬物85が乾燥されて、個々のマイクロニードルが形成される。ここで、樹脂ポリマーとしてはコンドロイチン硫酸、デキストラン、ヒアルロン酸等の水溶性洩糸性物質が好ましく、以降、樹脂ポリマー溶解液、薬物85又はそれらの混合物をマイクロニードル原料85と称する。図13(d)に示すように、形成されたマイクロニードルを固定基材88に貼り付けて、スタンパ80から剥離することにより、図13(d)に示すようなマイクロニードルシート77を得ることができる(特許文献1参照)。
【0007】
スタンパの作製方法としては、母材に原版を押しつけるのではなく、原版の周囲に溶解した樹脂を流し込んで乾燥させた後、原版から剥離する方法もある(特許文献2参照)。そして、上述の如く作製されたスタンパに、樹脂ポリマーの溶解液又は薬物を加圧充填する方法も提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−245955号公報
【特許文献2】特開2008−006178号公報
【特許文献3】特開2009−083125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
マイクロニードルは、皮膚に一定量の薬物を注入するために、その先端はできるだけ尖鋭度を高くし均一なサイズにする必要がある。そのためには、ニードルの原料が流し込まれるスタンパの凹部の底部(マイクロニードルの先端にあたる)の穴径を数マイクロメートルの単位で作製し、尖鋭度の高い凹みで、均一な深さ及び体積とする必要がある。
【0010】
しかしながら、上記スタンパ80を製造する工程において、母材81の熱変形により、形成される凹部82に歪みが生じ、後の工程において形成されるニードル間に高さ及び体積バラツキが存在する。これにより皮膚に一定量の薬物が注入できない問題が生じていた。
【0011】
特許文献1〜3において薬物の定量管理については全く記載されていないが、医薬品の定量管理は不可欠なものであり、マイクロニードルは微小なサイズであるので、これまでの注射薬、錠剤薬とは違い、濃縮された薬物が充填されているため厳しい定量管理が必要となる。
【0012】
上述のように、従来のマイクロニードルシート製造方法では、スタンパをマイクロニードルに相当する凹部をバラツキの無い均一な形状に形成することが困難であった為、薬物量の管理が徹底されていないという問題を有していた。よって、本発明においては、所望の形状のマイクロニードルが構成されたマイクロニードルシート及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明に係るマイクロニードルシートは、
中央部と、当該中央部を取り囲む側周部と、当該側周部を取り囲む外縁部とを含むシート状の基材と、
前記中央部より第1の所定長だけ延在する所定数のニードルと、
前記側周部より第1の所定長より短い長さだけ延在する1つ以上の突起とを備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、薬物量の管理が容易な、所望の形状のマイクロニードルが形成されたマイクロニードルシートを作製できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態1に係るスタンパの模式図である。
【図2】図1のスタンパの製造工程を示すフローチャートである。
【図3】図2のフローチャートにおける貫通凹部形成工程の説明図である。
【図4】本発明の実施の形態2に係るスタンパの模式図である。
【図5】図4のスタンパの貫通凹部及びダミー凹部形成に用いられるスタンパ原版の模式図である。
【図6】図4のスタンパの製造工程を示すフローチャートである。
【図7】図6のフローチャートにおける貫通凹部及びダミー凹部形成工程の説明図である。
【図8】図4のスタンパに形成される貫通凹部及びダミー凹部の配列パターンの例を示す模式図である。
【図9】図4のスタンパを用いたマイクロニードルシートの製造工程を示すフローチャートである。
【図10】図9のマイクロニードルシートの製造工程の説明図である。
【図11】本発明の実施の形態3に係るスタンパの模式図である。
【図12】図11のスタンパの貫通凹部及び環状ダミー凹部の形成に用いられるスタンパ原版の模式図である。
【図13】従来のスタンパを用いたマイクロニードルシートの製造工程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態のそれぞれについて具体的に説明する前に、まず本発明において用いられるスタンパについて簡単に述べる。図1、図4及び図11に示すように、本発明に係るスタンパ1a、1b、1cには、シート状のスタンパ母材2a、2b、2cに、スタンパ母材2a、2b、2cの一方の表面から他方の表面に向かって、先端に開口4を有するn個(nは2以上の自然数)の錐状の貫通凹部3aが形成されている。スタンパ母材2a、2b、2cの前記一方の表面と前記他方の表面とは、貫通凹部3aによって連通されている。
【0017】
(実施の形態1)
図1、図2及び図3を参照して、本発明の実施の形態1に係るマイクロニードルシート及びその製造方法について説明する。図1に、本実施の形態に係るスタンパ1aの平面と側面とを示す。スタンパ1aは、シート状のスタンパ母材2aの中央部Acに、複数の貫通凹部3aが所定のパターンで形成されている。なお、貫通凹部3aは、スタンパ母材2aの一方の表面から他方の表面に向かって、先端に開口4を有する錐状の凹部として形成されている。なお、平面図においては作図上の都合により、貫通凹部3aは表示されていない。
【0018】
説明の便宜上、スタンパ母材2aにおいて、貫通凹部3aの錐状の底部が開口している表面を上面Stとよび、貫通凹部3aの開口4が形成された面を下面Sbと呼ぶ。つまり、上面Stと下面Sbとは、貫通凹部3aによって連通されている。貫通凹部3aはスタンパ母材2aの上面Stでの開口部より、スタンパ母材2aの下面Sbでの開口4に向かって先細りに成形されている。中央部Acからスタンパ母材2aの外周端部までの領域である外縁部Aoには凹部は形成されていない。
【0019】
貫通凹部3aの開口4は、スタンパ母材2aの下面Sbにおいて、所定の径danを有する。貫通凹部3aはスタンパ1aの完成後に、マイクロニードル原料が流し込まれ、乾燥されて、マイクロニードルを形成させる鋳型として使用される。貫通凹部3aの先端の開口4は、マイクロニードルの原料が貫通凹部3aに確実に充填されるように、凹部に溜まった空気が抜ければよく、常に有限長の径の孔が空いていなくてもよい。すなわち、マイクロニードル原料の充填時に空気が抜けさえすれば、通常は閉じているように見えてもよい。この目的から、開口4の径danは、具体的には20μm若しくはそれ以下であるのが好ましい。より好ましくは、10μm以下である。
【0020】
マイクロニードルの形状、設置本数、設置密度、及び設置分布等は特に限定されるものではなく、マイクロニードルシートの用途・目的によって随時決定される。よって、スタンパ1aにおいても、貫通凹部3aは、作製されるマイクロニードルシートのマイクロニードルの形状、設置本数、設置密度や設置分布等の諸要求を満たすよう形成される。図1に於いては、紙面の都合上4本のマイクロニードルを有するマイクロニードルシートを作製するためのスタンパが例示されているが、任意のn本のニードルに対応するn個の貫通凹部3aが設けられる。なお、n個の開口4の径daはそれぞれ、必要に応じて径da1〜danとして識別される。
【0021】
次に図2及び図3を参照して、スタンパ1aの製造方法について説明する。図2に示すように、スタンパ1aの製造は、主にステップS2の「スタンパ母材及びスタンパ原版の加熱」工程、ステップS4aの「貫通凹部形成」工程、ステップS6の「母材及び原版の冷却」工程、及びステップS8の「母材からの原版の離型」工程の4つの工程に大別が出来る。以下に、図2に示す各ステップにおける工程について、図3を参照しながら具体的に説明する。
【0022】
先ず、ステップS2において、スタンパ1aの原版10a(以降、「スタンパ原版」)及びスタンパ1aの母材2a(以降、「スタンパ母材」)は、それぞれ所定範囲の温度で加熱される。本例においては、スタンパ原版10aは、図3に示す様に、シート状に形成された本体11aの下面の概ね中央部に、下面からその先端までの所定長Laを有するn個の錐状の突起12aが形成されている。ここで、所定長Laは母材2aの厚みLcより大きく、成形時にΔLだけ突出されることとなり、開口4が形成される。突起12aがスタンパ1aに形成される貫通凹部3aに対応することは上述の通りである。
【0023】
スタンパ原版10aの材質は特に限定されないものの、金属が好適である。また、錐状の突起12aは微小である為、被切削性の高い材料が好ましい。例えば、銅、アルミ、ニッケル、ステンレス、ケイ素などが利用できる。突起12aは本体11aからの削り出しによる加工のほか、フォトリソグラフィーを用いた方法で形成してもよい。
【0024】
上述の所定長Laは、突起12aが本体11aの下面から突出している長さ(以降、「突起長」)であり、1μmから600μm程度である。突起長Laは、上述のようにスタンパ1aにより作製するマイクロニードルの長さに基づいて決定される。マイクロニードルシートを用いて薬物等を注入する表皮は、角質層、顆粒層、有棘層、及び基底層で構成されるが、角質層は体の部位によって厚さが異なる。マイクロニードルの長さは、経皮投与させたい体の部位と薬物に応じて、適宜決定される。
【0025】
突起12aの形状は、スタンパ1aによって形成されるマイクロニードルの形状に対応する。そのため、マイクロニードルの根元の断面径と長さとの比率が、断面径:長さ=1:1.5及至1:3の比較的高いアスペクト比を有するように、突起12aは形成される。マイクロニードルの形状も長さと同様に、使用する体の部位によって適宜決定される。突起12aの横断面形状には特に限定はなく、円形、楕円形、正方形を含む方形などである。また、突起12aの表面に溝が形成されていてもよい。その溝形状が反映されたマイクロニードルは、皮膚へのスムースな挿入を可能にする。
【0026】
次に、ステップS4aにおいて、スタンパ母材2aに複数(n個)の貫通凹部3aが形成される。具体的には、図3に示すように、ポリエチレン等からなる多孔質シート30の上に置かれたスタンパ母材2aに、スタンパ原版10aの突起12aが押しつけられ、突起12aを、スタンパ母材2aの上面Stから下面Sbに向かって挿入して所定時間保持する。この時、突起12aの先端がスタンパ母材2aの下面Sbから所定長△Lだけ露出されると共に、この露出部により貫通凹部3aの底部(先端部)に所定の径daを有する開口4が形成される。これにより、スタンパ母材2aの上面Stから下面Sbに向かって錐状の貫通凹部3aが複数(n)個形成される。スタンパ母材2aは、貫通凹部3aの形成の観点から、ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂で構成される。
【0027】
図3を参照して、本ステップにおける貫通凹部3aの形成について詳述する。先ず、図3(a)に示すように、本体11aの下面に複数の突起12aのそれぞれが適当な間隔で所定のパターンに設けられたスタンパ原版10aが、スタンパ母材2aの主面に対して本体11aの下面が平行になるように配置される。この状態で、スタンパ原版10aは、突起12aがスタンパ母材2aの主面に対して直交するように、降下される。
【0028】
図3(b)に示すように、スタンパ原版10aの突起12aがスタンパ母材2aの内部に挿入されるに従って、突起12a(の側面)によってスタンパ母材2aが押しのけられる。突起12aによって、押しのけられたスタンパ母材2aの部分を押しのけられ部2pと呼ぶ。押しのけられ部2pの体積は、突起12aの根元部で最大となり、突起12aの先端部で最小となる。
【0029】
複数の突起12aの先端がスタンパ母材2aの上面Stに挿入される際には、押しのけられ部2pは発生しておらず、突起12aの挿入に伴う突起12aの先端部により生じる押しのけられ部2pは最小である。よって、突起12aの先端部により生じる押しのけられ部2pが、隣接する突起12aの先端部に損傷を与えることはなく、突起12aの挿入が進行する。
【0030】
突起12aのスタンパ母材2a中への挿入に応じて、図3(b)において矢印で示されるように、突起12aの側面(斜面)によってスタンパ母材2aに対して下面Sb方向斜めに移動させる力が生じる。突起12aの挿入が進行するにつれて、突起12aの根元に近いより体積の大きな部分が下面Sb側に近づくので、押しのけられ部2pは大きくなると共に下面Sb側に移動させられる。なお、隣接する突起12aの間では、押しのけられ部2pはぶつかり合って互いに押し戻そうとする力が働き、互いに抵抗のより小さい方向に押し出される。押しのけられ部2pによる押し出し(押し出され)動作は、スタンパ母材2aの内部を伝播していく。
【0031】
上面St側では、突起12aの根元側であるので、近接する突起12a間の距離は小さく、さらに押しのけられ部2pの上面St側への移動は突起12aの根元部分により抑制される。そして、スタンパ母材2aの側面方向への押しのけられ部2pの移動は、外縁部Aoを伸張させる。そのため、押しのけられ部2pはスタンパ母材2aの側面側及び下面側に移動して、スタンパ母材2aの下面Sb側に膨出する。下面Sbより膨出するスタンパ母材2aは、多孔質シート30によって受け止められながら、下面Sbからはみ出して、母材はみ出し部2eとなる。なお、押しのけられ部2pは上面Stからも若干膨出するが、下面Sb側での母材はみ出し部2eに比べるとその量は無視できる程度である。つまり、突起12aのスタンパ母材2aへの挿入により生じる押しのけられ部2pは、おもに中央部Acの下面における母材はみ出し部2eを生成させる。
【0032】
上述のように、突起12aは非常に微細な形状に構成されているために、多孔質シート30は、下面Sbからはみ出す突起12aを直接、あるいは母材はみ出し部2eを介して間接的に損傷しないような柔軟性を有する可塑性樹脂で構成されている。つまり、多孔質シート30は、下面Sbから突出した突起12aを曲げたり破損したりしないで内部に円滑に収容でき、また押しのけられ部2pの移動によるスタンパ母材2aの下面Sb方向への変形に抗することによって、微細な突起12aに対して曲げ力を生じさせることのないことが求められている。
【0033】
なお、1つの突起12aから隣接する突起12aを回り込んで他の突起12aに向かって移動しようとする押しのけられ部2pの量は、中心部に位置する突起12aの周囲ほど多く、周辺部に位置する突起12aの周囲ほど少なくなる。また隣接する突起12aが存在しない最外周部に位置する突起12aの外周側では、ぶつかり合う押しのけられ部2pが存在しないので、押しのけられ部2pは下(下面Sb)方向よりもスタンパ母材2aの側面側へ移動しやすい。よって、母材はみ出し部2eのスタンパ母材2aの下面Sbからのはみ出し長さLeは、複数の突起12aの中心部で最大となり、周辺部に向かって減少する。
【0034】
図3(c)に、スタンパ原版10aが挿入された状態のスタンパ母材2aの下面Sbの様子を示す。上述のように、突起12aの先端は、スタンパ母材2aの下面Sb及び母材はみ出し部2eを超えて、スタンパ母材2aから突出することにより、貫通凹部3aを形成することができる。貫通凹部3aの長さである凹部長L(つまり、スタンパ母材2aの上面Stから貫通凹部3aの先端の開口4までの距離)は、次式(1)で表現できる。
【0035】
L=Lc+Le ・・・・ (1)
母材はみ出し部2eが生じない場合の凹部長Lは、はみ出し長さLe=0であるので、上式(1)に基づいて次式(2)で表現される。
【0036】
L=Lc+Le(=0)
=Lc ・・・・ (2)
以上より、突起12aの長さLa、スタンパ1aの厚さLd、及びスタンパ母材2aの厚さLcとの間には、次式(3)で表される関係がある。
【0037】
La>Ld≧Lc ・・・・ (3)
上述のように、突起12aが挿入されて、貫通凹部3aが形成されるスタンパ母材2aの下面Sbには母材はみ出し部2eが生じるので、凹部長Lは上式(1)で表される。貫通径daは、突起12aの、母材はみ出し部2eの端部における開口の直径である。上述のように、はみ出し長さLeは複数の突起12aの中央部で最大となり、周辺部に向かって減少している。突起12aはすべて、同一長及び同一形状であるので、凹部長L及び開口径daは、対応する突起12aにより異なる。
【0038】
つまり、凹部長Lは、中央部の突起12aで最大凹部長L(max)となり、最外周辺部で最小凹部長L(min)となる。一方、貫通径daは、突起12aの母材はみ出し部2eの端部における開口の直径であるので、中央部の突起12aで最小貫通径da(min)となり、最外周辺部で最大貫通径da(max)となる。
【0039】
図3(d)に示すように、スタンパ原版10aが挿入方向と反対方向に引き上げられて、スタンパ母材2aに上述の貫通凹部3aが形成されたスタンパ1aが作成される。貫通凹部3aの開口4の径は突起12aの貫通径daと実質的に同一であり、貫通凹部3aの凹部長Lはスタンパ母材2aの母材厚みLcと突起12aの母材はみ出し部2eに挿入されている部分の長さとの和と実質的に同一である。よって、貫通凹部3aの開口4の貫通径da及び凹部長Lの変動範囲(da(min)〜da(max)、L(min)〜L(max))は、突起12aの形状及び配列パターン(間隔)および、スタンパ母材2aに対する挿入動作(圧力や早さ)を調整することによって、許容の範囲内に収めることができる。
【0040】
なお、スタンパ母材2aはいわゆるプラスチックであるので、ステップS2において加熱された突起12aの温度がスタンパ母材2aの軟化温度より高ければ、スタンパ母材2aに容易に塑性変形を生じさせることができる。さらに、スタンパ母材2aをその軟化温度近くまで加熱することによって、押しのけられ部2pの移動が容易になる。つまり、突起12aの挿入によるスタンパ母材2aの変形(押しのけられ部2pの移動)を、スタンパ母材2aの全体で吸収することが容易となる。結果、母材はみ出し部2eのはみ出し長さLeの均一化を図ることができる。そして、貫通凹部3aの貫通径da及び凹部長Lの変動範囲(da(min)〜da(max)、L(min)〜L(max))を所望の許容範囲に収めることが容易になる。
【0041】
次に、ステップS6において、スタンパ母材2aおよびスタンパ原版10aが冷却される。具体的には、突起12aがスタンパ母材2aに挿入された状態で、スタンパ原版10aとスタンパ母材2aとが、常温付近まで冷却される。これにより、上述のステップS8の「母材から原版の離型」工程に於いて、突起12aが挿入されたスタンパ母材2aから、スタンパ原版10aを離型される際に、スタンパ母材2a、特に下面Sb部分が熱を受けて変形することの防止を図っている。
【0042】
スタンパ原版10aとスタンパ母材2aとの冷却は、短時間で行う方が、塑性変形されにくいため、ステップS8における離型後の変形が生じにくい。つまり、上述のステップS6で形成された、スタンパの下面Sbの開口4のサイズ(貫通径da)や凹部長Lを、下面Sbより貫通した状態の突起12aにより精度良く制御できる。これにより、所望のマイクロニードル形状、ニードル本数に応じて、より確実に、精度良く形成できる。本ステップにおいて、スタンパ母材2a及びスタンパ原版10aの冷却が完了して、突起12aが挿入された状態でのスタンパ母材2aの形状が安定した後に、上述のステップS8の工程が実行される。
【0043】
ステップS8において、スタンパ原版10aがスタンパ母材2aから離型される。結果、図1に示すように、スタンパ母材2aの上面Stから下面Sbに向かって貫通する貫通凹部3aが形成されたスタンパ1aが得られる。
【0044】
(実施の形態2)
以下に、図4、図5、図6、図7、図8、図9、及び図10を参照して、本発明の第2の実施の形態に係るマイクロニードルシート及びその製造方法について説明する。本実施の形態は、上述の第1の実施の形態におけるスタンパにおける母材はみ出し部の生成をより制御して、形成される貫通凹部のばらつき(|貫通径da(min)―da(max)|及び|凹部長L(min)―L(max)|)を所定の許容範囲に収めることができるスタンパを提供することによって、所望の形状のマイクロニードルを有するマイクロニードルシートの製造を可能とするものである。
【0045】
前記貫通凹部は、実施の形態1におけるのと同様に、スタンパ母材に原版の突起を挿入し、貫通させることにより形成されるので、凹部の形状及び容積は、原版の突起の、スタンパ母材に挿入されている部分の形状及び体積により決定される。従って、スタンパの厚みのばらつき、つまり母材はみ出し部のはみ出し長さのばらつきをより小さくすることができれば、突起ごとのスタンパ母材中に挿入されている部分をほぼ同一にすることができる。
【0046】
結果、凹部毎の容積のばらつきをより小さくできると共に、凹部毎の先端の開口の径のばらつきをより小さくすることができる。本実施の形態においては、特に、スタンパ母材に凹部を形成する工程で発生するスタンパ母材の厚みのばらつきをより小さくすることによって、凹部長のばらつきが抑えられたスタンパを生成し、同スタンパを用いてマイクロニードル毎の形状・体積のばらつきが抑えたマイクロニードルシートを製造するものである。
【0047】
図4に示すように、本実施の形態に係るスタンパ1bは、そのスタンパ母材2bの中央部Acに、実施の形態1に係るスタンパ1a(図1)と同様に複数の貫通凹部3aが形成され、さらに、スタンパ母材2bの中央部Acを取り囲む側周部Adに凹部3bが形成されている。つまり、スタンパ母材2bは、スタンパ母材2aにおいて中央部Acと外縁部Aoとの間に環状の側周部Adが追加され、同側周部Adにm個(mは1以上の自然数)のダミー凹部3bが形成されている。なお、ダミー凹部3bは、貫通凹部3aとは異なり、マイクロニードルの形成鋳型として用いられるのではなく、貫通凹部3aの形状のばらつきを抑えてスタンパ1bの製造過程において形成されたものである。ダミー凹部3bの形成及び機能については、後ほど図5、図6、及び図7を参照して詳しく述べる。
【0048】
次に、図5を参照して、スタンパ1bの貫通凹部3a及びダミー凹部3bを形成するために用いられるスタンパ原版10bについて説明する。スタンパ原版10bには、上述のスタンパ原版10aと同様に、シート状に形成された本体11bの下面の概ね中央部Ac’に、n個の錐状の突起12aが形成されている。そして、側周部Ad’に、突起12bが形成されている。外縁部Ao’には、スタンパ原版10aと同様に突起は設けられていない。なお、スタンパ原版10bにおける中央部Ac’、側周部Ad’、および外縁部Ao’は、それぞれスタンパ1bの中央部Ac、側周部Ad、および外縁部Aoに対応する。
【0049】
突起12bは、スタンパ1bの製造過程において貫通凹部3aの形状、特に貫通径daのばらつきを抑えるべく設けられている。たとえば、突起12bは、スタンパ原版10bの本体11bの下面からその先端までの所定長Lbを有する。突起12bは、突起12aより短ければ、スタンパ母材2bの厚さLc及びスタンパ1bの厚さLdより長くても短くてもよく、次式(4)で表される関係がある。
【0050】
La>Lb ・・・・ (4)
突起12aと突起12bの長さの差である離間距離DLは、次式(5)で表される。
【0051】
DL=La−Lb ・・・・ (5)
なお、本例においては、突起12bの縦断面が二等辺三角形状に形成され、突起12aを囲むように同心円状に1列に配置されている。貫通凹部3aの形状のばらつきを抑えるという目的を満たすことができればその形状や配列は任意に定めることができる。
【0052】
次に、図6、図7、及び図8を参照して、スタンパ1bの製造方法について説明する。図6に示すように、スタンパ1bの製造は、ステップS4aの「貫通凹部形成」工程が、ステップS4bの「貫通凹部及びダミー凹部形成」工程に交換されている点を除いて、図2を参照して説明したスタンパ1aの製造方法と基本的に同様である。但し、母材はみ出し部2eの厚さ(はみ出し長さLe)のばらつきがより小さいスタンパを製造するために、スタンパ原版10aに代えて、上述のスタンパ原版10bが用いられる。以下に、本実施の形態に固有の特徴に重点をおいて説明する。
【0053】
ステップS2において、スタンパ母材2bおよびスタンパ原版10bが、実施の形態1におけるのと同様に加熱される。図7(a)に示すように、スタンパ原版10bが、スタンパ母材2bの主面に対して本体11bの下面が平行になるように配置される。この状態で、スタンパ原版10bは、突起12aおよび突起12bがスタンパ母材2bの主面に対して直交するように、降下される。
【0054】
次に、ステップS4bの「貫通凹部及びダミー凹部形成」工程において、母材はみ出し部2eの厚さ(はみ出し長さLe)のばらつきを抑えて貫通凹部3aが形成される。挿入される突起12aによりスタンパ母材2bに生じる押しのけられ部2pの押し出し(押し出され)動作がスタンパ母材2bの内部を伝播することは、実施の形態1におけるのと同様である。但し、本実施の形態においては、押しのけられ部2pの押し出し(押し出され)動作のスタンパ母材2bの内部における伝播が突起12bによって制限されることによって、母材はみ出し部2eのはみ出し長さLeのばらつきが抑制される点に特徴がある。
【0055】
具体的には、図7(b)に示すように、突起12bは突起12aに対して、それぞれの長さの差である離間距離DL(La−Lb)だけ遅れて、スタンパ母材2bに挿入される。突起12bが挿入された時点では、突起12aは先端から離間距離DLだけスタンパ母材2bに挿入されており、それに応じて押しのけられ部2pが生じている。そして、次の瞬間に、突起12bのスタンパ母材2b(St)への挿入が開始される。以降、突起12aによる押しのけられ部2pと、突起12bによる押しのけられ部2pとの、2種類の押しのけられ部2pが生じる。説明の便宜上、突起12aおよび突起12bにより生じる押しのけられ部2pをそれぞれ、押しのけられ部2p(a)および押しのけられ部2p(b)として識別する。
【0056】
突起12a及び突起12bの挿入がさらに進行すると、特に最外周に位置する突起12aによる押しのけられ部2p(a)のスタンパ母材2bの側面方向への移動は、押しのけられ部2p(b)および突起12bそのものによって妨げられる。妨げられた、突起12aの周囲(特に、外周側)の押しのけられ部2pは、スタンパ母材2bの下面Sbより実施の形態1における場合よりも多く膨出する。なお、スタンパ母材2bの外周側に生じる押しのけられ部2pは外縁部Aoによって吸収される。このように、最外周部の突起12aにより生じる押しのけられ部2p(a)は、突起12bによって直接的および間接的に(押しのけられ部2p(b)による)、下面Sb側に誘導されて、その部分の母材はみ出し部2eのはみ出し長さLeが厚くなるので、貫通凹部3a毎のはみ出し長さLeのばらつきが抑えられる。
【0057】
図7(c)に、スタンパ原版10aが挿入された状態のスタンパ母材2bの下面Sbの様子を示す。上述のように、突起12aによる押しのけられ部2pは、離間距離DLだけ遅れて挿入された突起12bによって、力及び動きが制限される。つまり、突起12bによって、外周側突起12aでの母材はみ出し部2eがより下面Sbから多く膨出することにより、実施の形態1の場合と比べて最外周辺部での最小凹部長L(min)は長くなると共に、最大貫通径da(max)は小さくなる。結果、貫通径da及び凹部長Lの変動範囲(|da(min)−da(max)|、|L(min)−L(max)|)が小さくなり、実施の形態1に比べて貫通凹部の容積をより小さな許容範囲に収めることができる。
【0058】
つまり、スタンパ母材2bにおいては、貫通凹部3aの開口4が設けられた箇所のスタンパ母材2bの厚さLがほぼ均一であるため、貫通凹部3aの容積がほぼ均一になる。また、貫通凹部3aの貫通径daは、突起12aの先端がスタンパ母材2bから突出する箇所のスタンパ母材2bの厚さLにより決定される。母材厚さLが大きいと貫通径daが小さくなり、母材厚さLが小さいと貫通径daが大きくなる。本実施の形態においては、突起12aの先端が突出する箇所の母材厚さLがほぼ均一に増加(母材はみ出し部2e)するので、貫通凹部3aの貫通径daがほぼ均一になる。
【0059】
以降、ステップS6において母材及び原版が冷却される。そして、ステップS8において、図7(d)に示すように、スタンパ原版10bが挿入方向と反対方向に引き上げられて、スタンパ母材2bに貫通凹部3aとダミー凹部3bが形成されたスタンパ1bが作成される。
【0060】
スタンパ原版10bの突起12bは、その体積が、外周部に位置する突起12aによって押し出された母材の押しのけられ部2pの突起の挿入方向とほぼ直交する方向に沿った移動を規制できるように形成されていればよい。突起12bの形状は、円柱の先端に円錐が接続された形状でもよく、また円柱状や角柱状でもよい。突起12bは、スタンパ母材2bへの挿入抵抗ができるだけ小さく、かつ挿入後もなめらかにスタンパ母材2bを押しのけることができるような形状であることが望ましい。さらに、突起12bは、突起12aの外周に複数列に配置されてもよい。
【0061】
次に、スタンパ1bの平面を表す図8を参照して、突起12a及び突起12bによってスタンパ母材2bに形成される貫通凹部3a及びダミー凹部3bの配置パターンの異なる例について説明する。
【0062】
図8(a)に示す例では、貫通凹部3a及びダミー凹部3bは、同心円上に半径方向に放射状に配列されている。なお、ダミー凹部3bは一列である。
【0063】
図8(b)に示す例では、貫通凹部3a及びダミー凹部3bは、同心円上に半径方向に千鳥状に配列されている。
【0064】
その他、上述の効果を得られるのであれば、他の配列をとることもできることは勿論である。たとえば、貫通凹部3a及びダミー凹部3bを格子状に配置することも可能である。
【0065】
次に、図9及び図10を参照して、上述の如く作製されたスタンパ1bを用いた、マイクロニードルシートの製造方法を説明する。図9に示すように、マイクロニードルシート42の製造は、主にステップS12の「第1のマイクロニードル原料充填」工程、ステップS14の「第1のマイクロニードル原料乾燥」工程、ステップS16の「第2のマイクロニードル原料充填」工程、ステップS18の「第2のマイクロニードル原料乾燥」工程、ステップS20の「固定基材貼付」工程、及びステップS22の「マイクロニードルシート剥離」工程の6つの工程に大別が出来る。
【0066】
以下に、図9に示す各ステップにおける工程について、図10を参照しながら具体的に説明する。なお、図10(g)に示すように、マイクロニードルシート42は、マイクロニードルシート単位の薬物量を管理するために、マイクロニードルの先端の皮膚に貫入される部分に薬物を集中させるべく、マイクロニードルを、薬物から成る先端層28tと、非薬物から成る根元層27とを含む2層構造に形成している。なお、図10においては、作図上の都合により、貫通凹部3a及びダミー凹部3bの数はそれぞれ2つの場合が例示されているが、それらに限定されないことは上述の通りである。よって、マイクロニードルシートに形成されるマイクロニードルの数も同様に限定されない。
【0067】
まず、ステップS12において、スタンパ1b上に塗布された、マイクロニードル先端の皮膚に貫入される部分を構成するに十分な量の第1のマイクロニードル原料である薬物21(図10(a))が、スキージ20にてスタンパ1bの、マイクロニードルを形成させる鋳型として使用される貫通凹部3aに充填される(図10(b))。なお、ダミー凹部3bは、貫通凹部3aを所望の形状及びサイズに形成するために、突起12bによって形成されたものであり、マイクロニードルを形成させる鋳型として形成されたものではないことは上述のとおりである。よって、マイクロニードルシートの薬物量の管理のためには、ダミー凹部3bには、第1のマイクロニードル原料を充填することは避ける必要がある。本例において、ダミー凹部3bはその底部(先端部)に開口を有しないため、ダミー凹部3bに溜まった空気は抜けず、通常は第1のマイクロニードル原料21はダミー凹部3bには充填されない。このように、第1のマイクロニードル原料21が充填されていない状態のダミー凹部3bを、図10(b)の左部に例示する。
【0068】
しかしながら、ダミー凹部3bは貫通穴として構成することも可能であり、このような場合は、空気が抜けるので、ダミー凹部3bに第1のマイクロニードル原料21は充填可能である。また、貫通穴でない場合でも、ダミー凹部3bに第1のマイクロニードル原料21が、完全或いは不完全に充填されることがある。このように、第1のマイクロニードル原料21が充填されている状態のダミー凹部3bを、図10(b)の右部に例示する。なお、同例においては、ダミー凹部3bは非貫通穴であると共に、第1のマイクロニードル原料21が完全に充填されているが、それには限らない。なお、ダミー凹部3bに第1のマイクロニードル原料21に第1のマイクロニードル原料21などの部材の充填を完全に阻止する必要がある場合には、あらかじめダミー凹部3bをマスキングしておけばよい。
【0069】
次に、ステップS14において、貫通凹部3aに充填された薬物21を乾燥させて、ニードル先端部28tが形成される(図10(c))。貫通凹部3aに充填された薬物21は、貫通凹部3aの両開口部(上面Stでの底面開口部と下面Sbでの先端開口4)から水分が逃げ出す、つまり蒸発することにより乾燥する。この乾燥過程において、薬物21の水分を失うことにより体積を減少しながら凝固して、ニードル先端部28tが生成される。開口4は十分に小さいので、薬物21は開口4から漏れ出すことはない。なお、ダミー凹部3bに充填された第1のマイクロニードル原料21は乾燥により、若干体積を減少しながら凝固するが、作図上の都合よりそのようには表現されていない。
【0070】
続いて、ステップS16において、ニードルの根元部28r及び、ニードル間を連結するシート基体が構成される。第2のマイクロニードル原料24が、スキージ20により、既にニードル先端部28tが形成された貫通凹部3aに充填される(図10(d))。なお、ダミー凹部3bの上部にも若干第2のマイクロニードル原料24が充填されるが、作図上の都合よりそのようには表現されていない。マイクロニードル原料24は、体内に残留せずに排出される材料を用いるのが好適である。マイクロニードルシートを皮膚から剥がす際に、ニードル部分が折れたり、抜けたりする場合もあるが、ニードルが体内に残留しない材料であれば安全だからである。具体的には水溶性の洩糸性物質などを主成分とした材料であるのが好ましい。
【0071】
その後、ステップS18において、スタンパ1bに塗布された第2のマイクロニードル原料24が乾燥されて、ニードルの根元部28r及びシート基体27が形成される(図10(e))。マイクロニードル原料21及び24が充填されていないダミー凹部3b或いは、充填されているダミー凹部3bが形成されているスタンパ1b中に、ニードル28が生成されたシート基体27が完成する。
【0072】
ステップS20において、乾燥した第2のマイクロニードル原料24からなるシート基体27に、固定基材29が貼り付けられる(図10(f))。その後、ステップS22において、スタンパ1bから剥離することにより、マイクロニードルシート42を得ることができる(図10(g))。このように作製されたマイクロニードルシート42が備えるニードルは、その先端部分に、薬物21が延在して成るニードル先端層28tを有している。このようにして、中央部(Ac”)と、中央部(Ac”)を取り囲む側周部(Ad”)と、当該側周部(Ad”)を取り囲む外縁部(Ao”)とを含むシート状の基体(27)と、前記中央部(Ac”)より第1の所定長だけ延在する所定数nのニードル28とを備えるマイクロニードルシート42が完成する。なお、マイクロニードルシート42は、図10(f)に示した、スタンパ1bが剥離されていない状態でも、マイクロニードルシートしては完成している。よって、保管や輸送時の保護のためには、スタンパ1bが剥離されていない状態のマイクロニードルシート42が好ましい。
【0073】
本実施の形態に係るスタンパ1bは、マイクロニードルを形成させる鋳型として使用される貫通凹部3aの容積及び開口4の径が実施の形態1に比べてより小さな許容範囲に収められている。従って、このスタンパ1bを用いて製造されたマイクロニードルシート42が備えるニードルは、長さ及び体積が実施の形態1に比べてより小さな許容範囲に収められている。マイクロニードルシートを皮膚に挿入した時に注入される薬物の量は、マイクロニードルの先端から、皮膚に貫入される深さ(以後、貫入長)部分に延在する薬物の量である。マイクロニードルシート42は、ニードルの長さ及び体積が実施の形態1に比べてより小さな許容範囲、具体的には±5%以内に収められているため、皮膚に貫入される部分の長さ及び体積がニードルによってばらつくことがなく、皮膚に注入される薬物量を管理しやすい。なお、スタンパ1bの貫通凹部3aの容積の許容範囲は、作製されたニードルの体積の許容範囲よりも小さいことは言うまでもない。
【0074】
なお、ステップS12の「第1のマイクロニードル原料充填」工程において、スタンパ1bのダミー凹部3bにマイクロニードル原料が充填されることをより確実に防ぐには、ダミー凹部3bを板等で覆う(マスクする)とよい。特にダミー凹部3bがその底部(先端部)に開口を有している場合は、ダミー凹部3bをマスクすることによって、ダミー凹部3bに薬物が充填されることを防止できる。
【0075】
これに対し、ステップS16の「第2のマイクロニードル原料充填」工程においては、スタンパ1bのダミー凹部3bにマイクロニードル原料が充填されても、マイクロニードルシートの薬物量の管理は損なわれない。この場合、ダミー凹部3bには、第2のマイクロニードル原料24からなるニードル状の突起Pが形成される。このニードル状の突起Pは、その長さが、貫通凹部3aにより形成されるニードルの全体長と皮膚への貫入長との差より短ければ、実際上、最外周のニードル28に隣接するニードル状突起Pが皮膚に挿入されることはない。また、上述のステップS12において、ダミー凹部3bに薬物が充填されて、薬物によるニードル状突起Pが生成されるような場合でも、貫入長との差より短ければ、ニードル状突起Pの薬物が皮膚に挿入されるという問題は無視できる。
【0076】
上述のマイクロニードルシートの製造方法は、マイクロニードルを2層構造に形成する方法であるが、薬物をマイクロニードル原料とするか、薬物をマイクロニードル原料に混入して、マイクロニードルを1層構造に形成してもよい。また、スタンパ1bを用いて1層構造に形成したマイクロニードルシートに薬物を塗布して2層構造としてもよい。
【0077】
また、上述のマイクロニードルシートの製造方法において、ステップS22の「マイクロニードルシートのスタンパからの剥離」工程を行わずに、マイクロニードルがスタンパに収容された状態(図10(f))のマイクロニードルシートを完成品としてもよい。この場合、スタンパはマイクロニードルシートの保護部材として機能する。
【0078】
(実施の形態3)
以下に、図11及び図12を参照して、本発明の第3の実施の形態に係るスタンパ及びその製造方法について説明する。本実施の形態の主な特徴は、図11に示すように、本実施の形態に係るスタンパ1cは、実施の形態2における複数のダミー凹部3bの代わりに、貫通凹部3aの外周を囲む環状溝3cが形成されている。スタンパ1cの製造方法においては、スタンパによって形成されるマイクロニードルに対応する突起12aに加えて、環状溝3cに対応する円筒状に形成された環状突起12cが形成されたスタンパ原版10cを用いる。以下、本実施の形態の特徴に重点をおいて説明する。
【0079】
環状突起12cは、スタンパ原版10cのシート状に形成された本体11cの下面からその先端までの所定長Lfを有する。ここで、所定長Lfは、突起12aの所定長Laより小さい。本例において、突起12cの縦断面形状は略二等辺三角形であり、突起12aを囲むように1列に配置されている。
【0080】
次に、ステップS4bの「貫通凹部及びダミー凹部形成」工程において、スタンパ母材2cに複数の貫通凹部3a及び環状溝3cが形成される。具体的には、多孔質シート30の上に置かれたスタンパ母材2cに、スタンパ原版10cの突起12aおよび12cが所定時間挿入される。この時、突起12aにより貫通凹部3aが形成され、突起12cにより環状溝3cが形成される。突起12cの所定長Lfは母材厚みLcより小さいため、環状溝3cはその底部(先端部)に開口を有さず、スタンパ母材2c中で閉じている。つまり、次式(6)が成立する。
【0081】
Lf<Lc<La ・・・・・(6)
スタンパ原版10cの突起12aおよび12cを、スタンパ母材2cの上面Stに挿入すると、突起12aおよび12cによって母材が押し出され、押しのけられ部2pが生じる。外周部に位置する突起12aによって生じた押しのけられ部2pの、突起の挿入方向とほぼ直交する方向に沿った移動は、突起12aの外周に形成された環状突起12cがスタンパ母材2cに挿入されることによって規制される。本実施の形態においては、環状突起12cは壁状であるため、複数の突起12bに比べて、押しのけられ部2pの移動をより効果的に規制できる。
【0082】
スタンパ原版10cの突起12cは、その体積が、外周部に位置する突起12aによって生じた押しのけられ部2pの押し出された母材の、突起の挿入方向とほぼ直交する方向に沿った移動を規制できるように形成されていればよい。突起12cの縦断面形状は、上述のように、円柱の先端に円錐が接続された形状でもよく、また円柱状や角柱状でもよい。さらに、突起12cは、突起12aの外周に複数列に配置されてもよい。
【0083】
上述のように、本発明において、マイクロニードルを形成させる鋳型として使用される凹部の容積が所定の範囲に含まれるスタンパを製造することができる。また、このスタンパを用いて作製されたマイクロニードルシートが備えるニードルは、長さ及び体積が所定の範囲に含まれる。つまり、マイクロニードル及びマイクロニードルシートにおける薬効成分量の管理ができる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、薬物を表皮に注入するマイクロニードルシートのスタンパだけでなく、基材上に微小突起を形成する方法に広く利用することができる。
【符号の説明】
【0085】
1a、1b、1c、80 スタンパ
2a、2b、2c、81 母材
2e 母材はみ出し部
2p 押しのけられ部
3a 貫通凹部
3b ダミー凹部
3c 環状溝
4 開口
10a、10b、10c 原版
11a、11b、11c 原版本体
12a、12b、12c 突起
28 ニードル
30 多孔質シート
42 マイクロニードルシート
La、Lb、Lf 突起長
Lc 母材厚さ
Ld スタンパ厚さ
Le はみ出し長さ
L 凹部長
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロニードルシート製造用のスタンパの製造に用いられる原版であって、
中央部と、当該中央部を取り囲む側周部と、当該側周部を取り囲む外縁部とを含むシート状の本体と、
前記中央部より第1の所定長だけ延在する第1の所定数の第1の突起と、
前記側周部より第2の所定長だけ延在する第2の所定数の第2の突起とを備え、
前記第2の所定長は前記第1の所定長未満であることを特徴とする、スタンパの原版。
【請求項2】
前記第1の所定長は、前記スタンパの母材の厚さより大きいことを特徴とする、請求項1に記載のスタンパの原版。
【請求項3】
前記第1の突起と前記第2の突起が前記スタンパの母材に挿入された時に、前記第2の突起は、前記第2の突起側に位置する第1の突起によって押し出された母材を前記挿入方向に移動するように誘導することを特徴とする、請求項1に記載のスタンパの原版。
【請求項4】
第1の突起の径が20μm以下の部分が、前記挿入方向に移動するように誘導された母材の底面より突出することを特徴とする、請求項3に記載のスタンパの原版。
【請求項5】
前記第2の突起は、円錐形状部を有することを特徴とする、請求項1〜請求項4の何れか1項に記載のスタンパの原版。
【請求項6】
前記第2の突起は、前記第1の突起を囲む円筒状に形成されていることを特徴とする、請求項1〜請求項4の何れか1項に記載のスタンパの原版。
【請求項7】
請求項1〜請求項6の何れか1項に記載のスタンパ原版を用いた、スタンパの製造方法であって、
前記母材と、前記スタンパ原版とを、第1の所定温度で加熱する加熱工程と、
前記第1の突起をスタンパの母材に所定時間挿入して前記第1の突起を前記母材から貫通させ、当該母材の第1の表面から、当該第1の表面に対向する第2の表面に向かって、所定長だけ先細りに延在する錐状の第1の凹部を形成すると共に、前記第2の突起を前記母材の第1の表面に所定時間挿入して第2の凹部を形成する工程と、
前記第1及び第2の突起が前記母材に挿入されたスタンパ原版と当該母材とを、前記第1の所定温度より低い第2の所定温度まで冷却する冷却工程と、
前記冷却工程の後に、前記原版を、前記母材から離型する離型工程とを備える、スタンパの製造方法。
【請求項8】
マイクロニードルシートの製造に用いられるスタンパであって、
対向する第1の表面と第2の表面によって規定される所定厚のシート状に形成され、中央部と、当該中央部を取り囲む側周部と、当該側周部を取り囲む外縁部とを含むシート状の母材を備え、
前記中央部には、前記第1の表面から前記第2の表面にむかって、第1の所定長だけ先細りに延在し、前記第2の表面において開口を有する錐状の第1の凹部が形成され、
前記側周部には、前記第1の表面から前記第2の表面に向かって第2の所定長だけ延在する第2の凹部が形成され、
前記第2の所定長は、前記所定厚以下であることを特徴とするスタンパ。
【請求項9】
前記第1の所定長は、1μm以上600μm以下であることを特徴とする、請求項8に記載のスタンパ。
【請求項10】
前記第1の凹部は円錐形状であり、その最大径と前記第1の所定長との比が、1:1.5から1:3の範囲内であることを特徴とする、請求項8に記載のスタンパ。
【請求項11】
前記第2の凹部は、円錐形状であることを特徴とする、請求項8に記載のスタンパ。
【請求項12】
前記第2の凹部は、前記第1の凹部を囲む環状溝であることを特徴とする請求項8に記載のスタンパ。
【請求項13】
前記開口の径は、20μm以下であることを特徴とする、請求項8に記載のスタンパ。
【請求項14】
請求項8〜請求項13の何れか1項に記載のスタンパを用いた、マイクロニードルシートの製造方法であって、
前記第1の凹部に、第1のマイクロニードル原料を充填する工程と、
前記第1の凹部に充填された第1のマイクロニードル原料を乾燥させて、前記第1の所定長より短い第3の所定長だけ延在するニードル先端層を形成する工程とを備えるマイクロニードルシートの製造方法。
【請求項15】
前記第2の凹部の表面側の開口部をマスキングする工程をさらに備える、請求項14に記載のマイクロニードルシートの製造方法。
【請求項16】
前記ニードル先端層の上に、第2のマイクロニードル原料を充填する工程(S6)と、
前記充填された第2のマイクロニードル原料を乾燥させて、前記ニードル先端層に連続するシート基体を形成する工程とをさらに備える、請求項14〜請求項15の何れか1項に記載のマイクロニードルシートの製造方法。
【請求項17】
前記シート基体に固定基材を貼り付ける工程をさらに備える、請求項16に記載のマイクロニードルシートの製造方法。
【請求項18】
前記ニードル先端層が形成された前記シート基体と共に、前記固定基材をスタンパから剥離する工程をさらに備える、請求項17に記載のマイクロニードルシートの製造方法。
【請求項19】
中央部と、当該中央部を取り囲む側周部と、当該側周部を取り囲む外縁部とを含むシート状の基材と、
前記中央部より第1の所定長だけ延在する所定数のニードルと、
前記側周部より第1の所定長より短い長さだけ延在する1つ以上の突起とを備える、マイクロニードルシート。
【請求項20】
前記ニードルは、
第1のマイクロニードル材料で形成されて、第4の所定長延在する根元部と、
第2のマイクロニードル材料で形成されて、当該根元部より延在する先端部とを含み、
前記突起は、前記第4の所定長より短いことを特徴とする、請求項19に記載のマイクロニードルシート。
【請求項1】
マイクロニードルシート製造用のスタンパの製造に用いられる原版であって、
中央部と、当該中央部を取り囲む側周部と、当該側周部を取り囲む外縁部とを含むシート状の本体と、
前記中央部より第1の所定長だけ延在する第1の所定数の第1の突起と、
前記側周部より第2の所定長だけ延在する第2の所定数の第2の突起とを備え、
前記第2の所定長は前記第1の所定長未満であることを特徴とする、スタンパの原版。
【請求項2】
前記第1の所定長は、前記スタンパの母材の厚さより大きいことを特徴とする、請求項1に記載のスタンパの原版。
【請求項3】
前記第1の突起と前記第2の突起が前記スタンパの母材に挿入された時に、前記第2の突起は、前記第2の突起側に位置する第1の突起によって押し出された母材を前記挿入方向に移動するように誘導することを特徴とする、請求項1に記載のスタンパの原版。
【請求項4】
第1の突起の径が20μm以下の部分が、前記挿入方向に移動するように誘導された母材の底面より突出することを特徴とする、請求項3に記載のスタンパの原版。
【請求項5】
前記第2の突起は、円錐形状部を有することを特徴とする、請求項1〜請求項4の何れか1項に記載のスタンパの原版。
【請求項6】
前記第2の突起は、前記第1の突起を囲む円筒状に形成されていることを特徴とする、請求項1〜請求項4の何れか1項に記載のスタンパの原版。
【請求項7】
請求項1〜請求項6の何れか1項に記載のスタンパ原版を用いた、スタンパの製造方法であって、
前記母材と、前記スタンパ原版とを、第1の所定温度で加熱する加熱工程と、
前記第1の突起をスタンパの母材に所定時間挿入して前記第1の突起を前記母材から貫通させ、当該母材の第1の表面から、当該第1の表面に対向する第2の表面に向かって、所定長だけ先細りに延在する錐状の第1の凹部を形成すると共に、前記第2の突起を前記母材の第1の表面に所定時間挿入して第2の凹部を形成する工程と、
前記第1及び第2の突起が前記母材に挿入されたスタンパ原版と当該母材とを、前記第1の所定温度より低い第2の所定温度まで冷却する冷却工程と、
前記冷却工程の後に、前記原版を、前記母材から離型する離型工程とを備える、スタンパの製造方法。
【請求項8】
マイクロニードルシートの製造に用いられるスタンパであって、
対向する第1の表面と第2の表面によって規定される所定厚のシート状に形成され、中央部と、当該中央部を取り囲む側周部と、当該側周部を取り囲む外縁部とを含むシート状の母材を備え、
前記中央部には、前記第1の表面から前記第2の表面にむかって、第1の所定長だけ先細りに延在し、前記第2の表面において開口を有する錐状の第1の凹部が形成され、
前記側周部には、前記第1の表面から前記第2の表面に向かって第2の所定長だけ延在する第2の凹部が形成され、
前記第2の所定長は、前記所定厚以下であることを特徴とするスタンパ。
【請求項9】
前記第1の所定長は、1μm以上600μm以下であることを特徴とする、請求項8に記載のスタンパ。
【請求項10】
前記第1の凹部は円錐形状であり、その最大径と前記第1の所定長との比が、1:1.5から1:3の範囲内であることを特徴とする、請求項8に記載のスタンパ。
【請求項11】
前記第2の凹部は、円錐形状であることを特徴とする、請求項8に記載のスタンパ。
【請求項12】
前記第2の凹部は、前記第1の凹部を囲む環状溝であることを特徴とする請求項8に記載のスタンパ。
【請求項13】
前記開口の径は、20μm以下であることを特徴とする、請求項8に記載のスタンパ。
【請求項14】
請求項8〜請求項13の何れか1項に記載のスタンパを用いた、マイクロニードルシートの製造方法であって、
前記第1の凹部に、第1のマイクロニードル原料を充填する工程と、
前記第1の凹部に充填された第1のマイクロニードル原料を乾燥させて、前記第1の所定長より短い第3の所定長だけ延在するニードル先端層を形成する工程とを備えるマイクロニードルシートの製造方法。
【請求項15】
前記第2の凹部の表面側の開口部をマスキングする工程をさらに備える、請求項14に記載のマイクロニードルシートの製造方法。
【請求項16】
前記ニードル先端層の上に、第2のマイクロニードル原料を充填する工程(S6)と、
前記充填された第2のマイクロニードル原料を乾燥させて、前記ニードル先端層に連続するシート基体を形成する工程とをさらに備える、請求項14〜請求項15の何れか1項に記載のマイクロニードルシートの製造方法。
【請求項17】
前記シート基体に固定基材を貼り付ける工程をさらに備える、請求項16に記載のマイクロニードルシートの製造方法。
【請求項18】
前記ニードル先端層が形成された前記シート基体と共に、前記固定基材をスタンパから剥離する工程をさらに備える、請求項17に記載のマイクロニードルシートの製造方法。
【請求項19】
中央部と、当該中央部を取り囲む側周部と、当該側周部を取り囲む外縁部とを含むシート状の基材と、
前記中央部より第1の所定長だけ延在する所定数のニードルと、
前記側周部より第1の所定長より短い長さだけ延在する1つ以上の突起とを備える、マイクロニードルシート。
【請求項20】
前記ニードルは、
第1のマイクロニードル材料で形成されて、第4の所定長延在する根元部と、
第2のマイクロニードル材料で形成されて、当該根元部より延在する先端部とを含み、
前記突起は、前記第4の所定長より短いことを特徴とする、請求項19に記載のマイクロニードルシート。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−55343(P2012−55343A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198366(P2010−198366)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)本発明は独立行政法人科学技術振興機構が(株)バイオセレンタックに委託した平成20年度独創的シーズ展開事業 革新的ベンチャー活用開発一般プログラムに係る「2層マイクロニードル製造装置」の成果によるものであり、産業技術力強化法第19条の適用を受けるものである。
【出願人】(000219314)東レエンジニアリング株式会社 (505)
【出願人】(502414389)株式会社バイオセレンタック (24)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)本発明は独立行政法人科学技術振興機構が(株)バイオセレンタックに委託した平成20年度独創的シーズ展開事業 革新的ベンチャー活用開発一般プログラムに係る「2層マイクロニードル製造装置」の成果によるものであり、産業技術力強化法第19条の適用を受けるものである。
【出願人】(000219314)東レエンジニアリング株式会社 (505)
【出願人】(502414389)株式会社バイオセレンタック (24)
【Fターム(参考)】
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