説明

マイクロニードルデバイスおよびその製造方法

【課題】流体管路(貫通孔)を有するマイクロニードルデバイスにおいて、皮膚に対して小さい力で痛み無く穿刺可能で、かつ穿刺後は薬剤注入または血液、体液等の吸引を円滑に行うことが可能な高品質のマイクロニードルデバイスを提供する。
【解決手段】平坦な基板11に複数の針状突起物12が基板11と一体的に整列した状態で形成された構造体であり、針状突起物12は境界面13を境に先端部17側が体内で可溶性を示す第1の材料14aで構成され、基板11側が不溶性の第2の材料14bで構成され、針状突起物12の内部に基板11の底面側にのみ貫通した流体管路15を有するマイクロニードルデバイス10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロニードルデバイスおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロニードルデバイスは、人体の皮膚を通して薬液を体内に移送する、または体内より血液や体液を吸引する、複数の微細な針状突起物を備えた構造を有する。例えば、特許文献1、2には基板上に複数の微細な針状突起物を形成し、かつ針状突起物に貫通孔を設けたマイクロニードルデバイスにおいて、前記貫通孔の針側の開口部を針状突起物の最先端部に設けた構造のものが開示されている。
【0003】
また、人体の皮膚への穿刺性向上や複製の容易化などの理由から、貫通孔の針側開口部を針状突起物の傾斜面上に設けた構造が多く採用されている(例えば、特許文献3、4参照)。
【0004】
前記貫通孔を有するマイクロニードルデバイスの複製および成形方法は、特許文献2、4に記載されている。すなわち、1つ目の複製および成形方法は針状突起物の反転形状を有する第1のモールド型と、貫通孔の反転形状を有する支柱を針状突起物と同ピッチ設けた第2のモールド型とを対向させ、上下の半型間にシート状の樹脂材料を挟み込むように設置し、熱によって樹脂材料を溶融させつつ、上下の半型間の隙間を狭めて材料をプレスすることによって所定のマイクロニードル形状に成形する方法である。2つ目の複製および成形方法は、予め貫通孔の無いマイクロニードルデバイスを熱プレス等で成形し、貫通孔の反転形状を有する支柱を基板上に設けた剣山状の型を加熱し、剣山状の型の支柱に前記貫通孔の無いマイクロニードルの底面側より突き刺すことによって貫通孔を設ける方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2002−521222号公報
【特許文献2】特表2003−501161号公報
【特許文献3】特表2004−507371号公報
【特許文献4】特表2006−518675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、2のように貫通孔の開口部を針状突起物の最先端部に設けたマイクロニードルデバイスの場合には、構造上、皮膚との接触面積が比較的大きくなる。その結果、穿刺時の抵抗が増加して複数の針状突起物を皮膚内に確実に刺し込むために大きな力が必要となる。その上、穿刺抵抗の増大が痛みを増大させる要因にもなる。さらに、皮膚組織の一部が貫通孔に入り込んで詰まり、薬液の注入または血液、体液等の吸引が非常に困難となる。
【0007】
また、特許文献3、4のように貫通孔の開口部を針状突起物の傾斜面に設けた場合、皮膚との初期の接触面積を小さくできるため、穿刺能力は先端に開口部がある場合に比較して改善が見込める。しかしながら、穿刺後の皮膚内部では周囲に押しのけられた皮膚組織が針状突起物表面に密着するため、貫通孔の開口部が塞がれた状態となり、円滑な薬剤注入または血液、体液等の吸引が行えなくなるという課題がある。
【0008】
さらに、マイクロニードルデバイスの複製および成形方法についても課題がある。例えば、特許文献2、4のように上下に分割されたモールド間にある材料をプレスして最終形状を得るような複製および成形方法の場合では、バリ(型同士の合わせ面の隙間に樹脂が流れ込む現象)が無く一様な貫通孔を形成するために、針状突起物の反転形状を有する窪み部を備えた第1のモールド型の窪み部ピッチと、貫通孔の反転形状を有する多数の細長い支柱を備えた第2のモールド型の支柱ピッチとを高精度で合わせ込む必要がある。
【0009】
また、ピッチのみならず、支柱先端が隙間なく第1のモールド型の針状突起物の反転形状を有する窪み部分に密着していることが重要となる。すなわち、第2のモールド型の支柱上面と第1のモールド型との合わせ面の高さ位置も非常に高い精度が要求される。
【0010】
本発明は、流体管路(貫通孔)を有するマイクロニードルデバイスにおいて、皮膚に対して小さい力で痛み無く穿刺可能で、かつ穿刺後は薬剤注入または血液、体液等の吸引を円滑に行うことが可能な高品質のマイクロニードルデバイスを提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明は分割されたモールド型の合わせ部分での高い精度を必要とせずにバリ等の少ない高品質なマイクロニードルデバイスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様によると、平坦な基板の上面に複数の円錐状または多角錐状の微細な針状突起物を前記基板と一体的に整列した構造体であって、
前記針状突起物は、内部に前記基板に対し垂直もしくは略垂直な流体管路を有し、前記流体管路は前記境界面から僅かに前記針状突起物の先端側に近い位置から前記基板の底面までを貫通して形成され、かつ
前記針状突起物は、前記基板に対して水平もしくは少なくとも90°よりも小さな角度を持った境界面を境に上下2層の異なる材料からなり、前記境界面よりも先端側部分の第1の材料が人体の皮膚に接触すると溶解する可溶性材料であり、前記境界面よりも基板側部分の第2の材料が人体の皮膚に接触しても溶解しない不溶性材料であることを特徴とするマイクロニードルデバイスが提供される。
【0013】
本発明の第2の態様によると、複数の円錐状または多角錐状の微細な針状突起物の反転形状を有する第1のモールド型の各窪み部分に人体の皮膚に接触すると溶解する可溶性材料からなる第1の材料を一定量充填する第1の工程と、
前記第1の工程により第1の材料を一定量充填した第1のモールド型の上に、前記複数の針状突起物の反転形状に対応する複数の細長い支柱を備えた第2のモールド型を、前記窪み部と前記支柱とが同じ位置となるように対向密着させ、当該モールド型の合わせ面部分に目的となる成形物の形状を有するキャビティ空間を形成する第2の工程と、
前記第2の工程により形成されたキャビティ空間内の前記第1の材料を硬化させる第3の工程と、
前記第3の工程の後、前記キャビティ空間に人体の皮膚に接触しても溶解しない不溶性材料からなる第2の材料を射出充填する第4の工程と、
前記第4の工程の後、前記第2のモールド型と前記第1のモールド型とを引き離し、互に硬化一体化した前記第1および第2の材料からなり、前記第1の態様に記載の平坦な基板の上面に複数の円錐状または多角錐状の微細な針状突起物を前記基板と一体的に整列した構造体である成形物を取り出す第5の工程と、
を含むことを特徴とするマイクロニードルデバイスの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、流体管路(貫通孔)を有するマイクロニードルデバイスにおいて、皮膚に対して小さい力で痛み無く穿刺可能で、かつ穿刺後は薬剤注入または血液、体液等の吸引を円滑に行うことが可能な高品質のマイクロニードルデバイスを提供することができる。
【0015】
また、本発明によれば分割されたモールド型の合わせ部分での高い精度を必要とせずにバリ等の少ない高品質なマイクロニードルデバイスの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係るマイクロニードルデバイスを概略的に示す縦断側面図である。
【図2】マイクロニードルデバイスの外観形態例を概略的に示す斜視図である。
【図3】マイクロニードルデバイスの製造方法を工程順に示す縦断側面図である。
【図4】マイクロニードルデバイスのアプリケータへの装着形態を概略的に示す縦断側面図である。
【図5】マイクロニードルデバイスのアプリケータへの装着形態を概略的に示す斜視図である。
【図6】マイクロニードルデバイスの皮膚への穿刺および薬液投与の手順を示す縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0018】
図1は、本発明の実施形態に係るマイクロニードルデバイスを示す概略断面図である。
【0019】
図1に示すように、実施形態に係るマイクロニードルデバイス10は平坦な基板11上に複数の針状突起物12を一体的に整列して形成した構造体を有する。
【0020】
針状突起物12は、基板11に対して水平もしくは少なくとも90°よりも小さな角度を持った境界面13を境に上下2層の異なる第1、第2の材料14a,14bで構成されている。また、針状突起物12の内部には基板11に対して垂直もしくは略垂直な流体管路15が形成されている。なお、略垂直とは垂直に対し、±20°の範囲で傾いた状態を意味する。流体管路15は、一端が基板11の底面に開口して開口部16を形成し、他端が針状突起物12の先端側の表面には開口せず、境界面13よりも僅かに先端部17に近い側の位置で止まり穴となっている。
【0021】
針状突起物12を構成する第1の材料14aは、境界面13よりも先端部17側に位置し、人体の皮膚に接触するとその体温で溶解する可溶性の材料で構成される。第2の材料14bは、境界面13よりも基板11側に位置し、人体の皮膚に接触してもその体温で溶解しない不溶性の材料で構成されている。なお、基板11の材料は、針状突起物12の下層の第2の材料(不溶性材料)14bと同じであることが望ましいが、人体の皮膚との接触で不溶であれば、これに限定するものではない。
【0022】
針状突起物12は、基板11の上面からの長さが100〜2000μmであることが好ましく、より好ましくは1500〜1800μmである。針状突起物12の第1の材料(可溶性材料)14aで構成される部分の長さは、100〜300μmであることが好ましい。
【0023】
流体管路15の止まり穴位置における内径は、10〜50μmであることが好ましい。流体管路15の開口部16内径は、流動抵抗を減らすために、少なくとも前記止まり穴位置の内径と同じか、隣り合う流体管路15のピッチ間隔以下で可能な限り大きくとることがより望ましい。また、流体管路15自体の内径は、止まり穴位置から開口部16までは段階的もしくはテーパ状に徐々に大きくなることが好ましい。
【0024】
なお、針状突起物12の先端側を構成する第1の材料(可溶性材料)14aは、人体の皮膚内の水分で比較的短時間で溶融すること、生体との適合性および高い安全性が必要となることから、例えばキトサン、ペクチン、アルギン酸塩等が挙げられる。
【0025】
針状突起物12の境界面13よりも基板11側部分および基板11を構成する第2の材料(不溶性材料)14bは、例えばポリプロピレン樹脂(PP)、ポリエチレン樹脂(PE)、ポリカーボネート樹脂(PC)などの汎用樹脂が挙げられる。また、生体との適合を考慮して、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)などの生分解性の熱可塑性プラスチックも好適である。
【0026】
実施形態に係るマイクロニードルデバイス10は、前述した図1に示す構造に限定されず、例えば以下に説明する図2の(a)〜(c)に示す構造であってもよい。
【0027】
すなわち、図2の(a)は基板11が円形で、針状突起物12が円錐形状を有するマイクロニードルデバイス10の一例を示し、後述する穿刺器具への装着を考慮して基板11の外周縁部分に段差部18が形成されている。
【0028】
図2の(b)は、同様に基板11が円形で、針状突起物12が四角錐形状を有する一例を示している。また、図2の(c)は、基板11が四角形状を有し、針状突起物12が四角錘形状を有する一例を示している。
【0029】
各例とも、針状突起物11が異なる第1、第2の材料14a,14bの2層で構成され、内部に流体管路15を備えている。流体管路15は、針状突起物12の表面には開口していないため、外観としては針先の鋭角な円錘もしくは角錐の中実構造と区別が付き難い。そのため、図2において流体管路15を破線で表した。
【0030】
次に、実施形態に係るマイクロニードルデバイス10の製造方法を図3の(a)〜(e)を参照して説明する。この製造方法の基本的な工程は、マイクロニードルデバイス10の反転形状を有する2つのモールド型を用いて材料を型取り複製する方法を採用している。なお、以下の実施形態に係るマイクロニードルデバイス10の製造方法は、好適な一例であり、この方法のみに限定するものではなく、その他の製造方法も適宜適用することが可能である。
【0031】
第1工程において、図3の(a)に示すように前記針状突起物12の反転形状の複数の窪み部21を有する第1のモールド型20を用意する。つづいて、第1のモールド型20の各窪み部21に第1の材料(可溶性材料)14aを微量吐出手段22によって一定量充填する。微量吐出手段22は、ピエゾ方式、電磁ピストン方式のような微量吐出ディスペンサ等が好適である。
【0032】
第2工程において、図3の(b)に示すように前記流体管路15の反転形状を有し、かつ第1のモールド型20の窪み部21と同数、同間隔で配置された複数の細長い支柱31を備えた第2のモールド型30を用意する。つづいて、この第2のモールド型30を第1のモールド型20の上方に対向配置する。この型締めによって、第1のモールド型20の窪み部21と第2のモールド型30の支柱31とが一対一に嵌合し合うように位置決めされた状態で、かつ窪み部21の傾斜表面と支柱31の先端部とが接触することなく僅かな間隔を維持した状態で固定される。このため、第1、第2のモールド型20,30の合わせ部分に目的となる成形物であるマイクロニードルデバイス10の形状を有するキャビティ空間40が形成される。
【0033】
なお、図3の(b)に示す第2の工程における第1の材料14aの充填量は、乾燥硬化後の収縮した状態において前記支柱31の先端部を下回らないように予め調整されている。
【0034】
第3の工程において、図3の(c)に示すように前記キャビティ空間40内の第1の材料14aを硬化させる。すなわち、第1の材料14aは人体の皮膚に接触すると溶解する可溶性材料を溶液化したものであり、第1のモールド型20に設けられたゲート32もしくは図示しないベント経路を通して図示しない減圧手段によってキャビティ空間40を減圧することによって、第1の材料14aの脱気を行い、さらに図示しない加熱手段によって第1の材料14aを加熱し乾燥硬化させる。
【0035】
第4の工程において、図3の(d)に示すように前記キャビティ空間40に第2の材料14bを射出充填する。すなわち、第1のモールド型20に設けられたゲート32を通して図示しない射出手段により溶融した第2の材料14bをキャビティ空間40に高圧充填する。この充填過程において、射出された第2の材料14bはゲート32からキャビティ空間40の末端へと流れて行き、前記支柱31と前記針状突起物12の反転形状を有する窪み部21との隙間を通じて、既に硬化している第1の材料14aの位置まで到達し、最終的にキャビティ空間40の全域が第1、第2の材料14a,14bによって満たされる。
【0036】
第5の工程において、図3の(e)に示すように第1、第2のモールド型20,30から成形物であるマイクロニードルデバイス10を取り出す。すなわち、第2の材料14bの冷却硬化後、初めに第2のモールド型30が第1のモールド型20の上方向へ離れ、支柱31が成形物より抜かれる。つづいて、第2のモールド型30側に残った成形物が第2のモールド型30に組み込まれた排出ピン25によって排出される。取り出された成形物は、周囲のランナ部19を除去することによって、最終形態である平坦な基板11に2層の異なる材料からなる複数の針状突起物12を形成した、前述した図1に示す構造のマイクロニードルデバイス10が得られる。
【0037】
次に、実施形態のマイクロニードルデバイス10の実際の皮膚への穿刺時に使用するアプリケータへの装着形態について説明する。
【0038】
図4は、マイクロニードルデバイス10をアプリケータ50に装着した状態を示す。アプリケータ50は、マイクロニードルデバイス10を直接的に固定するホルダ51と、実際に薬液の注入や血液、体液の吸引を行うシリンジ52とから構成される。
【0039】
ホルダ51は、マイクロニードルデバイス10とシリンジ52とを実質的に結合する異なる内径のフランジ構造を有する支持ベース56と、マイクロニードルデバイス10を支持ベース56に密着固定するためのスリーブ55とから構成される。
【0040】
支持ベース56の大きい側の開口部の外径は、マイクロニードル10の基板寸法に合わせて設定されている。マイクロニードルデバイス10は、その裏面を支持ベース56の開口口元部に密着させた状態でスリーブ55によって固定される。固定の圧力によりマイクロニードルデバイス10と支持ベース56で囲まれたリザーバ空間59は密閉が確保される。
【0041】
支持ベース56の小さい側の円筒部外側には、ロック部57が設けられている。このロック部57によって、マイクロニードルデバイス10を含む支持ベース56とシリンジ52とを漏れなく確実に密着固定する。
【0042】
このような図4に示す構成によれば、シリンジ52内部の薬液58は、リザーバ空間59およびマイクロニードルデバイス10の流体管路15を通して人体の皮膚内に注入可能な状態となる。
【0043】
図5は、前記アプリケータ50の実体を示している。マイクロニードルデバイス10は、ホルダ51を介してシリンジ52に装着可能に設けられている。このようなアプリケータ50において、マイクロニードルデバイス10の針状突起物12部分のみがホルダ51のスリーブ55の円柱形状断面側に突出したような形態となるため、通常の注射針と比較して針を差し込む深さおよび角度に細かく配慮することなく、スキルレスに穿刺可能になる。
【0044】
次に、マイクロニードルデバイス10を用いて実際に皮膚に穿刺して、薬液を体内に投与する状況を図6の(a)〜(d)を参照して説明する。
【0045】
最初に、図6の(a)に示すようにホルダ51に装着されたマイクロニードルデバイス10を皮膚60に穿刺する。皮膚60は、表面の角質層を含む表皮61(厚さ0.2mm程度)と、毛細血管や神経、汗腺などがある真皮62(厚さ1.5〜2.0mm程度)、およびその下の主に脂肪等からなる皮下組織63で構成される。第1の材料(可溶性材料)14aからなる針状突起物12の先端部17は、未だこの時点では溶融しておらず、鋭角な状態を保っているため、比較的硬い表皮61を容易に貫くことが可能である。
【0046】
次いで、図6の(b)に示すようにマイクロニードルデバイス10の針状突起物12は表皮60に貫通して、真皮62もしくは皮下組織63の上面まで達する。この状態を僅かな時間維持することで、第1の材料14aからなる針状突起物12の先端部17が皮膚内に溶融し始める。
【0047】
次いで、図6の(c)に示すように第1の材料14aからなる針状突起物12の先端部17のほぼ全体が溶融し、針状突起物12内の流体管路15が皮膚60内に露出する。その結果、体内とリザーバ空間59とがマイクロニードルデバイス10の流体管路15を通して直接導通する。この状態で図示しないシリンジの加圧することによって、リザーバ空間59内に満たされた薬液58を小さい力で容易に体内に注入することが可能になる。
【0048】
次いで、図6の(d)に示すようにマイクロニードルデバイス10を皮膚60から引き抜いく。引き抜き直後には、皮膚60に穿刺痕65として微細な穴が残るが、通常、短時間でこの穴は塞がり、注入した薬液58などの流出は殆ど起きない。
【0049】
以上説明したように実施形態に係るマイクロニードルデバイス10によれば、平坦な基板11上に複数の針状突起物12を基板11と一体的に整列して形成した構造体であり、人体を含む生体の皮膚に針状突起物12を穿刺することによって内部に設けた流体管路15を通して体内に薬液を移送することが可能となり、体内からの血液、体液等を吸引することも可能なマイクロニードルデバイス10を提供することができる。
【0050】
また、針状突起物12が基板11に対して水平もしくは少なくとも90°よりも小さな角度を持った境界面13を境に上下2層の異なる第1、第2の材料14a,14bからなり、境界面13よりも先端側の第1の材料14aが人体の皮膚に接触すると溶解する可溶性材料であり、境界面13よりも基板11側の第2の材料14bが人体の皮膚に接触しても溶解しない不溶性材料で構成され、さらに針状突起物12の内部の流体管路15が境界面13から僅かに針状突起物12の先端側に近い位置から基板11の底面までを貫通する構造にすることにより、針状突起物12において、その表面が滑らかな連続面で覆われた円錐状もしくは多角錐状の一体の鋭利な針形状とすることができる。その結果、皮膚への穿刺は小さい力で円滑に行うことができるようになり、穿刺に伴う痛みも大幅に低減することが可能となる。
【0051】
また、穿刺後は針状突起物12の先端部が皮膚内で溶融し、流体管路15が皮膚内で開口、露出することによって、基板11の裏面すなわち皮膚外部から皮膚内部までが流体管路15を通して導通された状態となるため、体内への薬液の移送や、体内からの血液、体液の吸引を非常にスムーズかつ効率的に行うことが可能となる。
【0052】
さらに、実施形態に係るマイクロニードルデバイス10の製造方法によれば、図3の(a)〜(e)に示す第1の工程〜第5の工程からなるために、基板11上に複数の針状突起物12が形成されたマイクロニードルデバイス10を容易に製造することができる。
【0053】
特に、図3の(b)に示す第2の工程において、第2のモールド型30の支柱31の先端部が充填された第1の材料14a内に少なくとも僅かに沈み込み、かつ第1のモールド型20の窪み部分21の側壁には接触しない位置に保たれているために、第1のモールド型20の窪み部21と第2のモールド型30の支柱31との間に高い位置合わせ精度は必要なくなり、針状突起物12および内部の流体管路15にバリ等が発生するのを防止できる。
【0054】
さらに、図3の(c)に示す第3の工程において、キャビティ空間40内を減圧および加熱することによって、第1の材料14aの脱泡および乾燥硬化を促進させることが可能となるため、基板11上に複数の針状突起物12が形成された高品質のマイクロニードルデバイス10を安価かつ容易に製造することができる。
【符号の説明】
【0055】
10…マイクロニードルデバイス、11…基板、12…針状突起物、13…境界面、14a…第1の材料(可溶性材料)、14b…第2の材料(不溶性材料)、15…流体管路、16…開口部、17…先端部、18…段差部、20…第1のモールド型、21…窪み部、30…第2のモールド型、31…支柱、40…キャビティ空間、50…アプリケータ、51…ホルダ、52…シリンジ、55…スリーブ、56…支持ベース、57…ロック部、58…薬液、59…リザーバ空間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平坦な基板の上面に複数の円錐状または多角錐状の微細な針状突起物を前記基板と一体的に整列した構造体であって、
前記針状突起物は、内部に前記基板に対し垂直もしくは略垂直な流体管路を有し、前記流体管路は前記境界面から僅かに前記針状突起物の先端側に近い位置から前記基板の底面までを貫通して形成され、かつ
前記針状突起物は、前記基板に対して水平もしくは少なくとも90°よりも小さな角度を持った境界面を境に上下2層の異なる材料からなり、前記境界面よりも先端側部分の第1の材料が人体の皮膚に接触すると溶解する可溶性材料であり、前記境界面よりも基板側部分の第2の材料が人体の皮膚に接触しても溶解しない不溶性材料であることを特徴とするマイクロニードルデバイス。
【請求項2】
前記第1の材料は、キトサン、ペクチン、アルギン酸塩から選ばれることを特徴とする請求項1記載のマイクロニードルデバイス。
【請求項3】
前記第2の材料は、汎用樹脂またはポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸から選ばれることを特徴とする請求項1または2記載のマイクロニードルデバイス。
【請求項4】
複数の円錐状または多角錐状の微細な針状突起物の反転形状を有する第1のモールド型の各窪み部に人体の皮膚に接触すると溶解する可溶性材料からなる第1の材料を一定量充填する第1の工程と、
前記第1の工程により第1の材料を一定量充填した第1のモールド型の上に、前記複数の針状突起物の反転形状に対応する複数の細長い支柱を備えた第2のモールド型を、前記窪み部と前記支柱とが同じ位置となるように対向密着させ、当該モールド型の合わせ面部分に目的となる成形物の形状を有するキャビティ空間を形成する第2の工程と、
前記第2の工程により形成されたキャビティ空間内の前記第1の材料を硬化させる第3の工程と、
前記第3の工程の後、前記キャビティ空間に人体の皮膚に接触しても溶解しない不溶性材料からなる第2の材料を射出充填する第4の工程と、
前記第4の工程の後、前記第2のモールド型と前記第1のモールド型とを引き離し、内部に前記基板に対し垂直もしくは略垂直な流体管路互に硬化一体化した前記第1および第2の材料からなり、請求項1記載の平坦な基板の上面に複数の円錐状または多角錐状の微細な針状突起物を前記基板と一体的に整列した構造体である成形物を取り出す第5の工程と、
を含むことを特徴とするマイクロニードルデバイスの製造方法。
【請求項5】
前記第2の工程において、前記第2のモールド型の前記支柱の先端部が充填された前記第1の材料内に少なくとも僅かに食い込み、かつ前記第1のモールド型の前記窪み部分の側壁には接触しない位置に保たれていることを特徴とする請求項4記載のマイクロニードルデバイスの製造方法。
【請求項6】
前記第3の工程において、前記キャビティ空間内を減圧および加熱して前記第1の材料を脱泡および乾燥硬化させることを特徴とする請求項4または5記載のマイクロニードルデバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−90808(P2013−90808A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234831(P2011−234831)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】