説明

マイクロニードルデバイスの製造方法

【課題】 薬剤を含有する薬液を、薬液の状態を調整し、多数の突起部を有するマイクロニードルデバイスの突起部に向け、インクジェット方式のヘッドから定量吐出することにより、該突起部のみに薬剤を定量塗着するマイクロニードルデバイスの製造方法を提供する。
【解決手段】 マイクロニードルデバイスの突起部に向け、前記インクジェット方式の吐出ヘッドを制御する工程、薬液の粘度を所定範囲に調整する工程、及び前記ヘッドから粘度を調整した薬液を定量吐出する吐出制御工程を含む方法において、該吐出ヘッドのノズル開口部をマイクロニードルデバイスの突起部の先端部に薬液を着弾可能に制御可能とし、吐出する薬液の粘度、温度状態を調整し、薬液を定量吐出可能とし、かつ薬液の吐出する量を正確に制御し、吐出する液滴の大きさを100μm以下の液滴相当の大きさに制御して該突起部に塗着させることにより、突起部に正確に塗着した薬剤を有するマイクロニードルデバイスが製造でき、経皮吸収用マイクロニードルデバイスとして優れたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロニードルデバイスと呼ばれる薬剤の経皮吸収を促進するために提案されたデバイスの製造方法に関するものである。
本発明は、具体的には、マイクロニードルデバイスに形成された数十μm〜数mmの高さを有し、皮膚の最外層である角質層を貫通できる針状等の形状を有する突起部に薬剤をコーティングする方法に特徴を有するマイクロニードルデバイスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
薬剤の投与方法として、経口投与と非経口投与の方法がある。しかし、経口投与は、消化器系を経由するので、薬剤の種類によっては患部へ効果的に到達しないなどの問題がある。また、非経口投与の一例である注射による投与は、注射針により皮下、筋肉などに直接薬剤を注入することが行われ、通常痛みを伴うなどの問題や、皮膚が損傷するなどの問題がある。
そこで、非経口投与であって、苦痛が少なくかつ広範の薬剤にも利用できる皮膚から薬剤を投与する経皮投与が求められ、開発が進められている。
【0003】
薬理活性物質等の薬剤を身体に投与する非経口投与方法として、塗り薬や貼り薬などの経皮投与がある。これらの経皮投与は、簡便であり、かつ長時間かけて投与量を調整することで、ある程度投与量を制御できるという利点がある。しかし、これらの方法では、角質層は新油性の強い薬剤であればある程度の浸透が可能であるが、親水性の薬剤では角質層のバリア機能によって浸透が妨げられてしまい、効果的な投与が困難である。
【0004】
このように、経皮経路で薬理活性物質等を投与する場合、角質層の機能によって、多くの薬理活性物質等の皮膚からの浸透性、透過性が制限を受けている。
このため、経皮吸収型の薬理活性物質等は、比較的皮膚からの浸透性、透過性の高いものが選択されており、皮膚からの浸透性、透過性の低い薬理活性物質等の経皮投与への適用は難しいとされている。
【0005】
そこで、近年、広範な薬理活性物質等を経皮投与する方法として、痛みが低減され、あるいは無痛である、微細な針状等の突起部を多数具備するマイクロニードルデバイスを用いて薬剤を経皮投与する方法が提案され、開発が進められ、注目を集めている。
このマイクロニードルデバイスは、微細な針状等の突起部により、バリア機能を有する角質層を穿刺し、表皮/あるいは真皮中に直接薬剤を投与することで、広範な薬理活性物質等の経皮投与を可能としたものである。針状等の突起部は様々な形状あるいはサイズにしたものが提案されており、非侵襲的な薬剤の投与方法、かつ従来のパッチ方式の鎮痛剤などの経皮投与とは異なり皮下注射の代替方法としても期待されている。
【0006】
このようなマイクロニードルデバイスを成型する方法としては、金型を用いインプリント法によってポリマー材料を成型する方法(特許文献1)やフォトリソグラフィによってレジストをマイクロニードルの針状等の突起部を加工する方法(特許文献2)、シリコン基板をドライエッチングやウエットエッチングすることで所望の形状に加工する方法(特許文献3)などが提案されている。
【0007】
一方で、マイクロニードルデバイスを用いて薬剤を経皮投与する際の薬剤の適用方法として、マイクロニードルデバイスの構造を溝や中空部分を含む形状とし、薬剤あるいは生体成分を透過可能とする方法(例えば特許文献4)、マイクロニードルデバイスを形成する材料内に薬剤を混合して成型し、体内で溶解させたり徐放させたりする方法(例えば非特許文献1)、マイクロニードル表面に薬剤単体、もしくはバインダー樹脂とともに、コーティングする方法(例えば特許文献5、6)など、様々な方法が提案されている。
【0008】
特許文献4に記載の直接薬液を微細な溝や中空部分を通じて浸透、供給するものでは、微細な溝や中空部分を多数にし、薬液を多量に継続的に注入できるものの、何れも高さ数十〜数百マイクロメートル程度の非常に小さな突起物を備えたデバイスであるため、溝や中空に形成することから、形成できる溝や貫通孔を微細化するには限りがあり、精緻な微細加工技術を必要とし、製造上のコスト高、効率的な薬液投与の困難性、薬液の孔や溝中への残留など解決すべき課題が多々あるのが現状である。
【0009】
薬液を針状部にコーティングするタイプのマイクロニードルデバイスにおいて、特許文献5に記載のスクリーン印刷方式によって突起部にのみコーティングしているものがある。しかし、スクリーン版方式の孔の部分には常に一定量の薬液が一定の物性で充填される必要がある。
【0010】
スクリーン印刷方式では、薬液中の溶剤が揮発・乾燥したりして、粘度が僅かに変化するだけでもコーティングの定量性が悪化することが想定される。そのため、製造時の環境は温湿度を正確に管理しながら行う必要があり、製造が煩雑である。
また、スクリーン印刷方式では、孔に充填するために版上の全面にスキージを用いてコーティングするため、ムダになる薬液量が多いことが想定される。さらに、孔に充填された薬液は、マイクロニードルデバイスの突起部にその一部が転写されるものであり、しかも、その転写量の調整は、薬液の状態、充填の加減などいろいろな要因が関与し、非常に困難で未だ所定量の薬液を制御して突起部に塗着することは困難な状況である。
【0011】
特許文献6に記載のディップコーティング法による薬剤のマイクロニードルデバイスの突起部へ選択的に適用するものにあっては、投与時に正確な量の薬剤を針状等の突起部のみに付着させようと試みられている。しかしながら、特許文献5と同様に、定量の薬剤をコーティングするには、一定量の薬剤が一定の物性で管理される必要がある。さらに、針状等の突起部のみを浸漬させる際に、正確に浸漬させるため精密な位置制御を行わなければならない。
ディップコーティング法では、その他にも、引き上げる速度の変化や引き上げ時に振動があるとコーティング量が変化することもあり、やはり製造が煩雑になる。
【0012】
薬剤は非常に高価なもの、加熱や冷却に弱いもの(例えばワクチン等)がある。その上、マイクロニードルデバイスを用いた経皮投与では、体内に吸収される薬剤は、ニードル部にコーティングされている薬剤が有効であると想定される。
上記したいろいろな試みのように、従来のマイクロニードルデバイスの薬剤の塗布方法では、前記デバイス全体に単に薬剤を塗布するものであり、無駄となる薬剤を生じさせることなく、最小限の薬剤を用いてマイクロニードルデバイスのニードル部のみに薬剤を塗着するという試みはあるものの、薬剤のムダあるいは量的に正確な制御を実現するには至っていなかった。
以上のことから、できる限り、薬剤が変質することのないように加熱や冷却をすることなく、また、薬剤の適用をニードル部のみに正確な量を制御して塗着することが求められる。
【0013】
また、非特許文献1のようにマイクロニードルデバイスの成型加工と同時に薬剤を成形材料に混入するのは、薬剤がムダに消費すること、経皮吸収の際に身体内に吸収されず、突起部等に残留すること、成形時に薬剤が変質することなど適正な薬剤投与を実現することが困難なものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2006−341089
【特許文献2】特開2008−46507
【特許文献3】特開2008−35874
【特許文献4】特開2008−154849
【特許文献5】WO2008/139648
【特許文献6】WO2006/138719
【非特許文献1】Adv.Mater.2008,20,pp933〜938
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
以上の先行技術等の状況を考慮して、成形されたマイクロニードルデバイスに対して適用薬剤を、吸収に関わる針状等の突起部に選択的にコーティングする塗着方法が、省資源、低コストなど生産が効率的であり、しかも、定量の薬剤を確実に突起部に付着させることにより、安定的に薬剤を身体に吸収することが可能となることから、有効な手法として着目され、実現が望まれている。
【0016】
したがって、本発明は、上記従来技術の方法の状況に鑑み、薬剤が定量的にかつ選択的に、マイクロニードルデバイスの針状等の突起部にコーティングすることを実現し、また、前記突起部にのみ薬剤を適用することにより、薬剤の使用量を少なくし、かつ付着させようとした正確な薬剤の量を突起部に塗着させる方法を実現させようとするものである。
【0017】
さらに、簡易なコーティング環境下で外部環境に影響されることの少ない安定的に生産できるコーティング方法を提供するものである。
しかも、コーティングの方法を維持管理するために費用が掛からない、低コストで歩留まりに優れた生産性の高いコーティング方法及び、低コストで優れた経皮吸収性を発揮するマイクロニードルデバイスを提供することである。
【0018】
本発明は、具体的には、薬剤を含有する薬液を、薬液の状態を調整し、多数の突起部を有するマイクロニードルデバイスの突起部に、インクジェット方式の吐出ヘッドから定量吐出し、マイクロニードルデバイスの突起部のみに、必要投与量の薬剤を正確にかつ迅速に塗着することにより、マイクロニードルデバイスの突起部に薬剤を定量塗着することを特徴とするマイクロニードルデバイスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、従来の問題点を解決すべく種々検討の結果、インクジェット方式の吐出ヘッドを採用し、薬液の状態を調整し、かつ薬液を定量吐出制御してマイクロニードルデバイスの突起部に着弾させるコーティング方法を採用したものであって、マイクロニードルデバイスの突起部に向けて前記インクジェット方式の吐出ヘッドを制御する工程、薬液の粘度を所定範囲に調整する工程、及び前記ヘッドから粘度を調整した薬液を定量吐出する吐出制御工程を含む、マイクロニードルデバイスの突起部に薬剤を塗着することを特徴とするマイクロニードルデバイスの製造方法である。
【0020】
本発明は、上記インクジェット方式の吐出ヘッドを用いて、薬理活性物質等の薬剤を含有する薬液を、所定の薬液の状態とし、精度良く所定量を吐出してマイクロニードルデバイスの突起部のみに選択的に薬液を、液ダレなく、正確にかつ確実に塗着でき、しかも、迅速かつ効率的に定量塗着を繰り返し行うことができることを見出した。
そして、本発明は、インクジェット方式の吐出ヘッドを採用して塗着したことにより、突起部のみに正確な量をコーティングし、かつ使用量を少なくした上で、簡易なコーティング環境下で安定的に生産できる、低コストで、生産性の高いマイクロニードルデバイスの製造が実現可能であることを確認し、本発明を完成したものである。
【0021】
より具体的には、インクジェット方式の吐出ヘッドを採用したことにより、薬液の吐出までの薬液供給を密閉系で取り扱い、所定の薬液の状態に調整、制御し、かつ吐出する微量の薬液を、確実に定量吐出するように制御することを可能とするものである。特に、低粘度流体の薬液を微量に高精度で吐出制御し、吐出する薬剤を安定した塗布状態で塗布すること、そして、その吐出した薬液の全量をマイクロニードルデバイスの微小な突起部に確実に塗着するように塗布し、使用する薬剤を低減することを可能にするものである。
本発明は、このようにインクジェット方式の吐出ヘッドによりマイクロニードルデバイスの突起部に定量の薬剤を塗着するマイクロニードルデバイスの製造方法により従来の問題点等を解決したものである。
【0022】
さらに、本発明は、当該吐出ヘッドを用い、精緻な吐出位置制御と、微小の薬液を精密に吐出量制御を実行することにより、吐出量制御した薬液の全量をマイクロニードルデバイスの突起部の先端部から基端部のみに正確に選択的に塗着することを可能にするものである。
【0023】
また、本発明は、薬液の状態:例えば、粘度、吐出する液滴の大きさを制御することによりマイクロニードルデバイスの微細な針状等の突起部の先端部から基端部に微小な液滴を、取り巻く環境に影響されずに、正確にかつ簡単に塗着させることを実現できるものである。
【0024】
このインクジェット方式による薬液塗着方法を採用することにより、正確な薬剤の量をコーティングし、かつ薬剤の使用量を少なくした上で、簡易なコーティング環境下で安定的にマイクロニードルデバイスに薬剤を塗着することができ、低コストで生産性の高いマイクロニードルデバイスの製造方法を実現したものである。
また、必要投与量の薬剤が経皮吸収に有効な針状等の突起部の先端部から基端部に付着した経皮吸収用マイクロニードルデバイスを実現したものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明のインクジェット方式のヘッドを採用してマイクロニードルデバイスの突起部に薬液を直接塗着するマイクロニードルデバイスの製造方法は、インクジェット方式の吐出ヘッドを用いることで、精緻な吐出位置制御が可能であり、かつ微小の薬液を簡単にかつ精密に吐出量を制御することが可能であることにより、吐出量制御した薬液の全量をマイクロニードルデバイスの突起部のみに選択的にかつ正確に塗着することができる。
【0026】
すなわち、インクジェット方式の吐出ヘッドの使用により、薬液供給経路が密閉系の供給経路から構成され、かつ薬液供給系全体をコンパクトに形成できるため、粘度、温度、濃度などの薬液の状態を容易に管理することができるとともに、薬液の状態の変化が塗布結果に影響しやすい微量の薬液塗布において、薬液の状態が吐出するまで確実に安定して実行できるものである。
【0027】
また、インクジェット方式の吐出ヘッドは、供給系及び吐出系の全体をコンパクトに形成することができ、経路を少なくできるため吐出ヘッド内の供給系及び吐出系の経路内の薬液が少なくなり、全体的に薬液のムダすなわち薬剤のムダを低減でき、かつ正確な吐出量の制御及び位置制御などの機械制御を実現できることから、薬液を定量吐出し、正確な薬剤量をマイクロニードルデバイスの微小な突起部のみに正確に塗着することができ、結果、使用する薬剤を低減できる。
【0028】
本発明のインクジェット方式の吐出ヘッドを用いたコーティング方法は、マイクロニードルデバイスの突起部上に正確な薬剤量をコーティングし、かつ高価な薬剤の使用量を低減した上で、安定したコーティングを実現できるものであり、歩留まりも良く、生産性に優れた、安定した製造方法を実現できる。
【0029】
そして、本発明の方法により製造される経皮吸収用マイクロニードルデバイスは、薬理活性物質等の薬剤の塗着量の精度が高く、正確かつ確実に経皮吸収に有効な突起部のみに薬剤が定量塗着されている製品が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】写真1 マイクロニードルデバイスの針状等の突起部先端に薬液を着弾させた実施例4の塗着状態
【図2】写真2 マイクロニードルデバイスの針状等の突起部側壁面に薬液を着弾させた実施例5の塗着状態
【図3】写真3 マイクロニードルデバイスの針状等の突起部先端に薬液を着弾させた比較例2の塗着状態
【図4】写真4 マイクロニードルデバイスの針状等の突起部側壁面に薬液を着弾させた比較例3の塗着状態
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明のマイクロニードルデバイスに薬剤を定量塗着するマイクロニードルデバイスの製造方法の実施の形態の一例を説明する。なお、以下の実施形態は、本発明の一態様を示すものであり、当然のことながら、この発明を限定するものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。
【0032】
本発明に係るインクジェット方式の吐出ヘッドを採用したマイクロニードルデバイスに薬剤を塗着するマイクロニードルデバイスの製造方法により製造される経皮吸収用マイクロニードルデバイスは、基本的な構造として、マイクロニードルデバイス基材と、該基材上に皮膚を穿孔可能な二次元状に配置された複数のマイクロニードルである針状等の突起部を有する。さらに、針状等の突起部には、マイクロニードルデバイスにより身体内へ経皮吸収される薬理活性物質等の薬剤を有する。
【0033】
針状等の突起部は、経皮吸収用マイクロニードルデバイスにより身体内に薬剤を経皮吸収させるために皮膚の角質層を穿刺するためものである。
針状等の突起部の形状は、穿刺に好ましい形状であることが望ましい。しかし、針状等の突起部は、ミクロン単位の微細突起体であることから、その形状は、特に限定されず、例えば、円錐状又は角錐状などの各種錐形状、円柱状や角柱状などの柱状、及びこれらに準ずる形状であってよく、あるいは別の形状でもよい。
【0034】
針状等の突起部上には、薬理活性物質等の薬剤が保持されている。マイクロニードルデバイスの突起部に薬液を保持しやすいように、例えば、前記突起部の頂部又は側部に凹所又は切り欠きを形成した形状とし、薬液を収容保持し、液ダレを防止できるようにしてもよい。
【0035】
また、突起部の表面に多数の微細な多孔又は凹凸を有するようにしてもよい。いずれにしても、突起部に薬液を確実にかつ効率よく保持するようにして、薬液が経皮吸収に関与する突起部のみに塗着しているように形成することは、本発明の目的と合致するものであり、その塗着効率を向上する限り、これに限定されない。
【0036】
該突起部は、薬理活性物質等の薬剤投与先を穿刺するために設けられるものであり、少なくとも1つあればよいが、薬剤供給効率を重視すれば、多数形成することが望ましい。
突起部の列は、列内の突起部の空間に対し実質等しい距離だけ離れているものであってもよいし、なんらかの規則性をもって配列されていてもよい。突起部は、例えば、格子状、最密充填配列、同心円状、ランダムなどの配列を採用できる。その配列の仕方は限定されない。
【0037】
針状等の突起部の密度は1〜5cm2の面積中に10から10000本の密度を有することが好ましい。10本以上の針密度があると、経皮吸収で適用される薬理活性物質等の薬剤を効率よく、必要量投与することができ、また10000本を超える突起部の密度では、ニードル同士の間隔が狭くなり成型加工が困難になることがある。
【0038】
針状等の突起部の基端部の寸法は、突起部の全体形状、薬剤供給デバイスの用途などに応じて決定することができる。具体的には、人の皮膚に適用する場合、突起部の基端部の径は、穿刺する際の突起部の先端部との関係で決まるものであり、突起部の基端部の径は20μm〜3mm程度であってよく、50〜1000μmであることが好ましい。
【0039】
該突起部の高さ(長さ)は、無痛針としての機能を保持するために、皮膚における角質層の厚さ以上、表皮の厚さ以下とすることが好ましい。また、痛みを軽減する観点から、突起部の先端が鋭く尖った高さアスペクト比の構造であることが好ましい。具体的には、突起部の高さは、50〜1500μmの範囲が好ましい。突起部の先端の径は、0.5〜50μmが好ましい。
【0040】
該突起部は、微小構造であり、突起部の高さ(長さ)を、50μm以上とするのは薬理活性物質等の経皮からの投与を確実とするためであり、1500μm以下とするのは突起部による痛みの可能性を減少させることができると同時に出血の可能性を回避するためである。また、その長さが50〜1500μmであると、皮内に入る薬理活性物質等の量を効率良く投与することができる。
【0041】
マイクロニードルデバイスの基材は、多数の針状等の突起部を保持するものであり、その形状及び構造は、突起部を支持できるものであれば、特に限定されるものではなく、基材の厚さは、その目的により適宜設定可能であり、使用する用途に応じて適宜決定すればよく、経皮吸収用マイクロニードルデバイスとして機能できるような厚さに設定すればよい。さらに、省資源、省コスト化を考慮すると、薄く形成するのが望ましい。
【0042】
そして、マイクロニードルデバイスが人の皮膚に針状等の突起部を穿刺すること及び製造効率から、該基材と前記突起部は、一体成形するのがよい。しかし、マイクロニードルデバイスの基材と突起部とは製造する際に別体であってもよい。
【0043】
マイクロニードルデバイスの基材の材料は、突起部を支持でき、皮膚へ突起部を穿刺することを可能にするものであれば、特に材料は限定されるものではなく、例えば、合成樹脂、天然樹脂、金属、セラミックなど、公知の材料を用いることができる。
【0044】
ニードルである針状等の突起部の材料は、基本的には、基材と同様に特に限定されず、基材と同じ材料を用いることができる。人の皮膚に突起部を穿刺し、薬剤を供給するマイクロニードルデバイスの突起部であり、突起部の折れなども生じることも考慮するならば、合成樹脂、天然樹脂、金属などの材料の中から、特に、生体への刺激が少ない材料、あるいは生体への親和性又は適合性のある材料を用いて作製されることが望ましい。
【0045】
針状等の突起部の材料として好ましい材料は、具体的には、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリメタクリル酸、エチレンビニルアセテート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリオキシメチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の合成樹脂素材、澱粉、セルロース、ゼラチン、ポリ乳酸、ポリグリコリド、ポリ乳酸−co−ポリグリコリド、プルラン、ヒアルロン酸、マルトース、フルクトース、デキストリンの単糖類、多糖類など糖類、カプロノラクトン、ポリ無水物等の生分解性ポリマーまたは天然樹脂素材、あるいはチタン、シリコンなどを挙げることができる。
【0046】
本発明のマイクロニードルデバイスは、針状等の突起部に薬理活性物質等の薬剤コーティングを有するものである。
薬理活性物質等の薬剤は、本発明のマイクロニードルデバイスにより、皮膚の表皮に突起部に付着した薬剤が接触することにより皮膚に薬剤が付着し、表皮内へ浸透することにより所定の薬剤が投与される。
【0047】
その薬理活性物質等の薬剤として、例えば、タンパク質、ポリペプチドなどのペプチド類、DNA、RNAなどの核酸、インフルエンザ、風疹、麻疹、百日咳、おたふくなどのワクチン、抗生物質、インシュリン、ペパリン、ニトログリセリン、喘息薬、鎮痛剤・医療用麻薬、局所麻酔剤、抗アナフェラキシー薬、皮膚疾患用薬、睡眠導入薬、ビタミン剤、禁煙補助剤、美容薬(例えばヒアルロン酸)等を挙げることができる。なお、薬剤は単独でも2種以上併用してもかまわない、薬剤として許容できる塩であれば、無機塩あるいは有機塩のいずれの形態でもかまわない。さらに、薬剤は、薬理学的に許容される担体などを含むものであってもよく、薬理学的に許容される担体として、賦形剤、希釈剤、滑沢剤、結合剤、安定剤などから適宜選択されるものが挙げられる。
【0048】
マイクロニードルデバイスの製造方法としては、樹脂又は金属を成形材料として用いての機械切削加工、射出成型加工、ホットエンボス加工、放電加工、レーザー加工、ダイシング加工等の精密成形加工、シリコン基板を用いたウエットエッチング加工又はドライエッチング加工等を挙げることができる。
これらの成形加工法により、突起部と該突起部を支持する基材は、一体に成形するか、別々に形成することができる。
【0049】
次に、以下、本発明に係るマイクロニードルデバイスの製造方法において、マイクロニードルデバイスの突起部のみに薬理活性物質等の薬剤を含む薬液を塗着する方法について説明する。
【0050】
本実施形態のマイクロニードルデバイスの製造工程は、マイクロニードルデバイスの材料を準備し、基材を成形する工程、成形した基材に針状等の突起部を成形する工程、及び該形成した突起部に薬理活性物質等の薬剤を塗着する工程を有するものであって、前記薬剤を塗着する工程が、薬剤を含有する薬液を、薬液の状態を調整し、多数の突起部を有するマイクロニードルデバイスの突起部に向け、インクジェット方式の吐出ヘッドから定量吐出し、前記突起部に薬剤を塗着する方法であり、具体的には、マイクロニードルデバイスの突起部に向けて前記インクジェット方式の吐出ヘッドを制御する工程、薬液の粘度を所定範囲に調整する工程、及び前記ヘッドから粘度を調整した薬液を定量吐出する吐出制御工程を有しているものである。
【0051】
本実施態様の経皮吸収用マイクロニードルデバイスの製造工程は、マイクロニードルデバイスの突起部にのみ薬剤を塗着する工程として、印刷法の一種であるインクジェット方式の吐出ヘッドにより定量の液滴を吐出することによる薬液を塗着する工程を有している。
そこで、該インクジェット方式の吐出ヘッドを採用したインクジェット方式薬剤塗布装置の概略を説明する。
【0052】
本発明のインクジェット方式の吐出ヘッドを採用した薬剤塗布装置に用いることができる装置は、X−Y軸方向駆動機構を有するインクジェット方式の吐出ヘッドと、可動テーブルとを備える。
前記装置は、インクジェット方式の吐出ヘッドをX−Y軸方向に駆動できるもので、X軸方向駆動機構及びY軸方向駆動機構と、制御装置を備えている。可動テーブルは、X−Y位置調整機構を有する、マイクロニードルデバイスを位置固定するテーブルと、基台を備えている。
【0053】
本実施形態で用いられるインクジェット方式の薬液塗布装置には、熱あるいは圧電効果を利用したインクジェット方式に基づいて薬剤を液状の薬液とし、その薬液を微小液滴として吐出するインクジェット方式の吐出ヘッド、例えば、液滴吐出ヘッドとして、ピエゾ素子(圧電素子)を用いた電気機械変換方式のインクジェット方式吐出ヘッド装置(富士フィルム社製:DMC−10000シリーズ)を用いることができる。
【0054】
インクジェット方式の吐出ヘッド装置は、薬液を収容する液体室に隣接してピエゾ素子、液体室を備えた吐出ヘッド及び液体室に薬液供給系を介して薬液を供給する薬剤収容タンクが一体化したユニット形式のカートリッジヘッドあるいは薬剤収容タンクと吐出ヘッドが分離したものなど各種形態のものを採用し得る。ここでは、ユニット形式の吐出ヘッドとしてピエゾ吐出素子について説明する。
【0055】
インクジェット方式の吐出ヘッドは、吐出する薬剤の種類に応じて塗布状態を制御するため吐出口(ノズル)の数及び配列の異なったものを準備し、さらに薬液収容タンクから吐出ヘッドまでの温度制御を精密に行えるようにし、着弾させる薬液の状態を制御して定量吐出できるようにすることができる。
【0056】
可動テーブルは、基台上に取付位置を調整可能に支持されていて、薬液塗布装置により薬液を適用するマイクロニードルデバイスを支持するものであって、該マイクロニードルデバイスの基材をステージの基準位置に固定する固定機構を備えている。
ステージへのマクロニードルデバイスの位置合わせは、目視でステージ上にセット、その後、マイクロニードルデバイス上に形成したリファレンスポイントを確認し、正確なニードル位置合わせを行った後、選択的に突起部へ薬液を吐出することができるものである。
【0057】
インクジェット方式の吐出ヘッドは、X−Y軸方向駆動機構により、吐出ヘッドの下方に位置するマイクロニードルデバイスのX−Y平面内の任意の位置に駆動可能とされている。
吐出ヘッドをX軸方向に駆動させるX軸方向駆動機構は、吐出ヘッドを取り付けるX軸方向駆動軸、X軸方向駆動モータを備え、X軸方向駆動軸に駆動モータが接続されている。このX軸方向駆動モータは、ステッピングモータ、パルスモータ等からなるもので、制御装置からX軸方向の駆動信号が供給されると、X軸方向駆動軸を回転させる。X軸方向駆動軸が回転すると、ピエゾ吐出素子からなる吐出ヘッドはX軸方向に移動する。
【0058】
吐出ヘッドをY軸方向に駆動させるY軸方向駆動機構は、Y軸方向駆動モータ、Y軸方向駆動軸を備え、Y軸方向駆動軸は、Y軸駆動モータが接続され、ステップモータ、パルスモータ等からなり、制御装置からY軸方向の駆動信号が供給されると、X軸駆動軸をテーブルのY軸方向に移動する。
【0059】
制御装置は、吐出ヘッドに薬液を定量吐出する液滴の吐出制御用の電圧を供給する。
また、制御装置は、X軸方向駆動モータに吐出ヘッドをテーブルのX軸方向への移動を制御する駆動信号を、Y軸方向駆動モータに吐出ヘッドをテーブルのY軸方向への移動を制御する駆動信号をそれぞれ供給する。
【0060】
加熱装置は、基材を加熱する手段であり、基材上に配置された薬液に含まれる溶媒の蒸発及び乾燥などを行うことに用いることができる。この加熱装置の電源の投入及び遮断も制御装置により制御される。
【0061】
薬液塗布装置は、マイクロニードルデバイスの基材を支持するテーブルに対してインクジェット方式の吐出ヘッドをX−Y軸方向に駆動させる位置決め制御をし、該吐出ヘッドの吐出ノズルが基材の突起部に対して、上方に位置するようにしつつ、薬液を吐出するものである。
【0062】
また、インクジェット方式の吐出ヘッドとして1つの吐出ノズルを有する場合についって述べたが、吐出ヘッドに多数の吐出ノズルを設けたものであっても、1つのノズルの場合と同様に、吐出させるように制御できる。
【0063】
複数の吐出ノズルを有する吐出ヘッドを用いると、個々の吐出ノズル毎に吐出の有無を制御して、各種パターンで吐出させることも、あるいは一度に複数の突起部に吐出させることも可能であり、さらに、吐出ヘッドに角度を付けることで間隔の異なる突起部配列に対応することも可能である。したがって、配列間隔が異なる複数の針状等の突起部に効率よく塗着でき、生産性が向上できるので、好ましい。
【0064】
吐出ヘッドのX−Y軸方向の駆動機構の制御装置は、吐出位置設定部、吐出位置情報制御部、吐出制御部からなる。
【0065】
吐出位置設定部は、マイクロニードルデバイス上の突起部を吐出位置として吐出ノズルの位置を設定するためのものであり、それぞれの突起部の間隔や配列等の位置情報やマイクロニードルデバイス中のリファレンスポイントとの位置関係を設定することができる。
【0066】
吐出位置情報制御部は、吐出位置設定部が指定したマイクロニードルデバイス上の吐出位置情報を作成するものである。吐出位置情報制御部は、作成した吐出位置情報を吐出制御部に出力することができる。
詳細には、マイクロニードルデバイスには、マイクロニードルデバイス内の位置の基準となるリファレンスポイントを複数個設けておき、自動的にリファレンスポイントの位置を認識し、基準位置を設定できるようにする。これにより、吐出位置情報制御部は、吐出位置設定部が設定したマイクロニードルデバイス上の基準位置と実際のデバイスから認識した基準位置を同じ位置とし、基準位置から設定されている突起部の吐出位置情報を基に接触転着位置情報を作成する。この位置情報を吐出位置情報として吐出制御部に出力することができる。
【0067】
マイクロニードルデバイスをいったん取り外し、再び可動テーブルに取りつけた場合、又は、マイクロニードルデバイスを薬液塗布位置に移動させる場合にも、そのリファレンスポイントを基にしてその吐出位置情報から、ピエゾ吐出素子をマイクロニードルデバイス内の吐出位置に正確に位置決めすることができる。
【0068】
マイクロニードルデバイスを支持するテーブルは、テーブル位置調整機構により固定位置に調整するためX−Y軸平面内で移動させる際、ステージに設けたベースポイントを基に所定の位置に合わせ、固定するようにしてもよい。
さらに、マイクロニードルデバイスのステージ上の位置調整を、ベースポイントを基に吐出制御部により指示された初期設定の位置に自動的に位置決め可能にすることも、より正確な吐出ヘッドの位置決めを自動的に短時間で行うことができるので、好ましい。
すなわち、基台上の可動テーブルのテーブルにベースポイントを設けることで、マイクロニードルデバイスをステージに固定し、ピエゾ吐出素子を作動位置に自動的に位置合わせし、マイクロニードルデバイスの突起部に薬液を定量吐出し、突起部に薬剤を塗着までを自動的に行うことができるようにすることは、より正確な薬液の塗着する方法として好ましい実施態様である。
【0069】
吐出制御部は、吐出位置設定部と吐出位置情報制御部が設定したマイクロニードルデバイス上の突起部を吐出位置としてピエゾ吐出素子が突起部の上方にくるようにピエゾ吐出素子のX−Y軸位置決めを行ない、ピエゾ吐出素子による吐出動作を制御するものである。
吐出制御部はピエゾ素子の駆動電圧や波形を制御してピエゾ吐出素子から薬液を吐出制御する。
【0070】
インクジェット方式の吐出ヘッドから薬液を吐出するピエゾ吐出素子は固定でも、着脱可能になっていてもよい。吐出ヘッドのピエゾ吐出素子の吐出位置を正確に位置決めするためその位置を校正することができるようにしてもよい。校正は、吐出位置を検出し、同時に読み取ったマイクロニードルデバイス上の基準となるリファレンスポイントを基にして吐出位置の校正を行なう。
【0071】
インクジェット方式の吐出ヘッドから薬液を吐出する吐出制御部が、定量吐出機能を果たすピエゾ吐出素子に電圧を印加し、ピエゾ素子を変形させることにより薬液の吐出を行なう。
吐出制御部が、ピエゾ素子の駆動を制御するパラメータは、ピエゾ素子への印加電圧の大きさ、印加電圧立ち上がり時間、印加時間、印加電圧立下がり時間の全て、又はそのうちの少なくとも1つである。
【0072】
以上、本実施態様において、上記した薬液塗布装置を用いることで、装置の動作も併せて詳しく説明したことから、本発明において、直接マイクロニードルデバイスの突起部のみに塗布する方法が実施できることが理解できる。
そして、本実施態様の他の実施態様として、薬液を塗布する際に、マイクロニードルデバイスの突起部のみが露出するように孔を有するマスク版を採用する方法がある。
【0073】
その方法において、マスク版は、薬液に対して濡れ性が低く、さらに乾燥後の固体に対して剥離性が高く、かつ前記突起部の高さより厚みを有することが好ましい。このようにすることで、マスク版でマイクロニードルデバイスを被覆し、前記孔から露出するマイクロニードルデバイスの突起部に、定量吐出した薬液が液ダレすることなく、突起部とマスク版により形成された液溜部にとどまるようにすることができ、かつ薬液を乾燥処理した後にマスク版を容易に除去できる。
【0074】
次に、インクジェット方式の吐出ヘッドを採用した薬液塗布装置を用いることにより、マイクロニードルデバイスの突起部のみに薬液を定量塗着することを特徴とするマイクロニードルデバイスの製造方法の本実施態様について説明する。
薬液を塗着する工程は、薬剤を含有する薬液を、薬液の状態を調整し、多数の突起部を有するマイクロニードルデバイスの突起部に向け、インクジェット方式の吐出ヘッドから定量吐出し、前記突起部に薬剤を塗着する方法であって、マイクロニードルデバイスの突起部に向けて前記インクジェット方式の吐出ヘッドを制御する工程、薬液の粘度を所定範囲に調整する工程、及び前記ヘッドから粘度を調整した薬液を定量吐出する吐出制御工程を有している。
【0075】
まず、マイクロニードルデバイスの突起部に向けて前記インクジェット方式の吐出ヘッドを制御する工程について説明する。
該吐出ヘッドを制御する工程は、薬液を吐出する吐出機能を果たすピエゾ吐出素子の下端にノズルを有し、微量の薬液を定量吐出し、液滴をマイクロニードルデバイスの突起部に正確に吐出できるようにする位置調整を行うものである。
【0076】
本発明の薬液塗布装置は、インクジェット方式の吐出ヘッド装置で説明した構造を有するもので、ピエゾ吐出素子の下方には位置調整可能な可動テーブルの上にステージが配置され、該ステージ上に薬液が塗着されるマイクロニードルデバイスが載置される。
【0077】
X−Y軸方向に駆動するインクジェット方式のピエゾ吐出素子は、ピエゾ吐出素子をマイクロニードルデバイスの上方を横方向(X軸方向)に駆動するX軸駆動機構と、X軸駆動機構を支持するマイクロニードルデバイスの縦方向(Y軸方向)に駆動するY軸駆動機構とを備えていることから、ピエゾ吐出素子を、X軸駆動機構とY軸駆動機構により水平面内でX軸方向とY軸方向に移動することで、支持面上に載置されたマイクロニードルデバイスの突起部に対応する上方位置に吐出機能を有するピエゾ吐出素子のノズル開口部を位置決めする。
【0078】
本発明は、身体へ正確に薬剤を必要量投与することができるようにマイクロニードルデバイスの突起部に付着させる際、薬剤の量は正確に許容範囲内で、必要量の薬剤を正確に塗着することが求められている。
そこで、本発明において、薬液の塗着を実施するために、液状又は固体状の薬剤から薬液の状態を調整、制御して、定量塗着することができる薬液の状態に制御して塗布する必要がある。
【0079】
ここで、「薬液の状態」とは、薬液の調製を含む、薬液の濃度、粘度、温度(加温、冷却)、粘度調整剤の添加などの塗着させる薬液の性状を特定するようなものを意味するものである。
また、薬液中にはマイクロニードルデバイス上に薬剤を担持させるために高分子または/および低分子化合物をコーティング用のバインダーとして混合させることが好ましい。このようなバインダー樹脂としては、ポリエチレンオキサイド、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース系、デキストラン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、プルラン、ヒアルロン酸等の高分子化合物、塩化ナトリウムなどの塩類やグルコースなどの糖類等の低分子化合物が挙げられるが、これらに限ったものではない。特にこれらの中でも、生体適合性が高いものとして、ヒドロキシプロピルセルロース、デキストラン、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、プルラン、ヒアルロン酸等が好ましい。
【0080】
本発明の突起部に塗着する薬液を調整する工程は、塗布される薬液の状態として、薬液の濃度、粘度がコーティング精度に影響することから、薬液の状態を制御して塗着状態を安定かつ正確なものとするための工程である。
【0081】
使用する薬剤は、すでに述べたとおりの薬理活性物質等であり、薬液の調整では溶媒を使用する。
その溶媒として、微量に残留しても人体に害の少ない、水、エタノール、イソプロパノール、ジエチレングリコール、グリセリンのようなアルコール系などの水性溶媒を用いることが考えられる。その他溶媒として、脂肪族炭化水素系、トルエンのような芳香族炭化水素系、ハロゲン炭化水素系、酢酸エチル、酢酸プロピルのようなエステル系、ニトリル系、アミド系などの1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0082】
薬液の状態として、薬液の粘度は、インクジェット方式の吐出ヘッドの吐出ノズル開口部に、どの程度の容量で吐出されるか、外部環境の影響を受けずに、正確に容量制御を可能にするために重要である。
【0083】
また、薬液の粘度は、薬液がマイクロニードルデバイスの突起部に正確に塗着されて、突起部に留まるか、液ダレしてマイクロニードルデバイス基材の方にまで薬液が付着するか、すなわち、突起部の先端部から基端部の範囲に塗着した薬液が、無駄なく、その全量を経皮吸収に有効に利用され、必要投与量の薬液を正確に塗着することを可能にするために重要である。
【0084】
本発明において、薬液の粘度については、薬剤の濃度、温度又は薬剤と薬理学的に許容される添加剤を添加することなどにより変動することから、例えば前記バインダー樹脂の種類や濃度を調整するか、その他の増粘・減粘剤の粘度調整剤などにより粘度の状態を調整する必要がある。
【0085】
本発明において、定量吐出し、かつ突起部の先端へ薬液が液ダレを起こさずに塗着させるには、薬液が液ダレすることのないような粘度を有していることが重要であり、かつインクジェット方式の吐出ヘッドを用いて、塗着可能な液滴として吐出するためにも適正な粘度を有していることが重要である。
【0086】
その粘度として0.1〜500cp程度である。より好ましくは、1〜50cp、さらに、好ましくは、5〜25cpである。薬液の粘度がこの範囲にあることにより、マイクロニードルデバイスの突起部の材質に依存することなく、前記突起部の先端部から基端部に所定量の薬液を効率よく、有効に塗着することができる。なお、粘度に関しては例えばJIS K7117−2に規定されている方式による25℃下で測定した値であることが好ましい。本発明中ではJIS K7117−2に準拠し、測定温度は25℃下にて付属書B(規程)円すい−平板システムに記載されている内容を用いて測定した値として記載することとする。
【0087】
また、表面張力も制御することでより安定に吐出し、塗着できる。その表面張力として20〜75mN/m、より好ましくは30〜50mN/mである。薬液の表面張力を調整するために、適宜界面活性剤を添加することもできる。例えば、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、Tween 20およびTween 80などのポリソルベート、ソルビタンラウラートなどのその他のソルビタン誘導体などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0088】
本発明の方法において、薬液は薬液収容タンクと吐出ノズルとが近接したコンパクトな構造となり、閉鎖系で薬液を吐出ヘッドまで供給することができる。
また、その構造により、吐出する薬液が安定した状態で塗布可能であり、薬液の温度を、薬液収容タンク及び又は吐出ヘッドのノズル開口部までを定温状態に、容易に維持制御可能とすることができ、薬液塗布装置を取り巻く外部環境に影響されることなく、薬液を調整し、塗着できる。
【0089】
また、吐出する薬液の温度変動がなく、安定した薬液の状態で、薬液を定量吐出することにより、所定の均一な吐出液滴が得られる。
薬液の吐出時の温度は、外部環境に影響されないように、温度制御して所定の温度範囲に維持することが好ましいが、薬液塗布装置全体を断熱状態に保護することで、格別な温度制御をせずに、薬液を塗着するようにしてもよい。
温度制御の必要性は、薬液の粘度に直接影響を与えることから、定量の薬液を吐出するためあるいは液ダレしても突起部の先端部から基端部の範囲に薬液が塗着するように所定の温度範囲に維持することが好ましい。
【0090】
しかし、薬液の定量状態で吐出するためあるいは突起部上での液ダレを防ぐために、薬液の温度を制御して、薬液の粘度を安定した状態に維持することは、薬液の状態を調整することに含まれる。
【0091】
また、濃度が与える影響として、上記内容の粘度内に調整できる濃度でできるだけ濃い濃度のほうが、一回の吐出でコーティングできる薬剤量が多くなり生産効率を向上させることができるため好ましい。一方で、インクジェット方式では薬液中の固形分濃度が高すぎるとノズルからの吐出が不安定になることもあり、使用する薬剤や添加剤によって適宜調整する必要がある。特に粘度や生産性に影響が大きいものはバインダーであり、これらのバインダーの濃度は1〜60%程度、さらには3〜30%程度であることが好ましい。これらに合わせて適宜、薬剤や各種添加剤の濃度も調整する必要がある。
【0092】
次に、本発明の薬液を定量吐出する吐出制御工程について説明する。
吐出制御工程として、初めに、本発明のインクジェット方式の吐出ヘッドによる薬液塗着の動作システムは、薬液塗布装置に配置されている吐出制御部が、所定の手順にしたがい動作を開始する。
【0093】
吐出制御部は主にどのようなタイミングでどの位置の薬液ピエゾ吐出素子を動作させるのか制御を行うものである。その信号は、薬液ピエゾ吐出素子に伝えられる。
【0094】
また、吐出される薬液は、薬液収容タンクより薬液供給系を経由して薬液ピエゾ吐出素子に供給される。薬液は、薬液吐出ヘッドの吐出ノズル開口部から定量吐出し、微小液滴として空間に吐出され、液滴となってマイクロニードルデバイスの突起部へ着弾し、突起部のみに塗布される。こうして塗布された薬液は、微小液滴として塗着し、かつ乾燥処理と相俟って液ダレすることなく突起部の先端部から基端部に塗着される。
そして、X−Y軸方向にピエゾ吐出素子を移動させて多数の吐出位置で薬液の吐出を繰り返す。
【0095】
本発明の吐出制御工程において、インクジェット方式の吐出ヘッドを採用することで、該吐出ヘッドのピエゾ素子を備えた駆動部により、薬液収容タンクからヘッド先端のノズル開口部の孔につながる閉鎖系の流路に設けた液体室内の薬液を押圧することにより、閉鎖系の前記吐出ヘッドのノズル開口部からの微量の定量吐出を正確に制御する。
【0096】
具体的なその薬液の定量吐出を制御する方法は、薬液を収容する液体室に設けたピエゾ素子に印加する印加電圧の大きさ、印加電圧立ち上がり時間、印加時間、印加電圧立下がり時間、波形の全て、又はそのうちの少なくとも1つを制御することにより、吐出ヘッドのノズル開口部から正確に定量吐出することができ、薬液を突起部に塗着することができる。
【0097】
本発明では、薬液を定量吐出する際の薬液量は、ノズル開口部から吐出された時の薬液の量が、径が100μm以下の液滴の大きさとなるようにピエゾ吐出素子の印加電圧等を制御することが重要であり、30μm以下の液滴に相当する大きさとなるように制御することが好ましい。
薬液が、吐出ヘッドのノズル開口部から100μm以上の液滴の大きさに吐出されると、突起部以外の他の領域への液ダレを生じたり、あるいは他の領域へ広く塗着が見られた
りするなど、定量吐出した薬液を確実に突起部に塗着することが妨げられることがある。吐出した薬液の量が多くなり、液滴の大きさが大きくなるほどこの現象が助長される。
【0098】
また、吐出ヘッドのノズル開口をマイクロニードルデバイスの突起部に位置合わせした際に、突起部の先端を正確に選択し、位置合わせし、薬液を先端に着弾するように吐出することにより、突起部の先端部から基端部までの側面に着弾した薬液が均一に塗膜を形成することができ、位置合わせを精緻に実行し、突起部先端に薬液を吐出することが好ましい。
【0099】
次に、他の実施態様であるマスク版を採用する方法は、マイクロニードルデバイスをマスク版で被覆する工程が新たに工程として挿入された塗着方法である点で、今までの実施の態様とは異なる。
【0100】
このようにすることで、針状等の突起部にインクジェット方式の吐出ヘッドから吐出した定量の薬液が、該突起部に着弾、塗布された際、着弾地点が突起部の側面あるいは塗布方向が少しズレ、塗布されてもマスク版が突起部の側面部と協働して液溜部として機能し、液ダレすることなく、またマイクロニードルデバイスの他の領域に薬液が広がることがない。そして、薬液が突起部に乾燥塗着するまでの時間、その液溜部に薬液を確実に保持することができ、確実に定量塗着した薬液中の薬剤が突起部に塗着させることができる。
【0101】
すなわち、薬液の粘度が小さくなってもあるいは薬液の吐出される量が多くなっても、マスク版が突起部と一緒になって液溜部を形成するので、液ダレすることなく、また他の領域へ流れ広がることのなく、薬液を接触している突起部に塗着することができる。
このことにより、薬液の状態を厳密に調整する必要がなくなり、製造方法としてより簡易に工程を管理することができる。
【0102】
マスク版は、薬液に対して濡れ性が低く、乾燥後の固体に対して剥離性を有し、かつ前記突起部の高さより厚みを有するものを選択することが好ましい。このようなマスク版を用いくることマイクロニードルデバイスの突起部に塗着された定量吐出した薬液が液ダレして、突起部以外の他の領域に広がることなく、突起部とマスク版により形成された液溜部にとどまるようにできることから、薬剤が、該突起部により正確に定量塗着され、かつ塗着した薬剤を確実に突起部に付着させることができる。
【実施例】
【0103】
本発明を以下の実施例に基づいて説明する。しかしながら、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
本発明における実施例は、下記のようにピエゾ吐出素子を用いてマイクロニードルデバイスに薬液を塗着する実験を行い、記載のような測定又は評価方法を用いて塗布結果を測定又は観察を行い、評価した。
【0104】
(マイクロニードルデバイスの製造)
本発明において、薬剤の定量塗着を測定、評価するために使用したマイクロニードルデバイスは、以下の公知の製造方法により製造した。
まず、アルミ金属板を切削加工にて底辺が0.25×0.25mm、高さ0.5mmの四角錘形状のニードルを1mmピッチで縦横に10本ずつ配置した100本のマイクロニードルのマスター形状を作製した。次に、作成したマイクロニードルデバイスのマイクロニードルの突起部を複製するために作成したマスターを母型とし、該母型から複製版を造るため電鋳を行うことでマスター形状とは逆の凹版を複製した。
ここで、マイクロニードルデバイスの基材として、ポリ乳酸(ユニチカ社製:テラマックTP−4000)を成形材料として圧縮成形により厚さ1mmのシートに成形したものを準備した。
【0105】
該ポリ乳酸のシートを電鋳で複製した該凹版に重ね、前記ポリ乳酸の基材に対して熱をかけながらプレスし、プレスしながら徐冷し室温付近まで冷えてから垂直に剥離することで、ポリ乳酸からなるマイクロニードルデバイスを得た。このように作成したポリ乳酸マイクロニードルデバイスを用いて以下の実験を行った。
【0106】
本発明について、以下に実施例を挙げてさらに具体的に説明する。
(実施例1)
次のような薬液を調整、調製して、インクジェット方式の吐出装置(富士フィルム社製:ダイマティックス・マテリアル・プリンター DMP−2831)を用い、インクジェットヘッドは富士フィルム社製:DMC−10000シリーズを採用し、薬液をノズル開口部に定量吐出し、マイクロニードルデバイスの突起部に吐出し、塗着させた。吐出された液滴サイズは付属のカメラで観察し、安定的に吐出されていることや100μm以下の液滴であることを確認した。
調製した薬液は、ヒドロキシプロピルセルロース(日本曹達社製:HPC−M)2.5g、モデル製剤のカフェイン2.0g、表面張力調整剤としてラウリル硫酸ナトリウム3.0gを、精製水100mlに溶解させたものを用いた。
該薬液をインクジェット方式の吐出ヘッドの薬液収容タンク内に充填し、インクジェット装置をセットし、ポリ乳酸製マイクロニードルデバイスの基材上のマーキングした箇所を原点(リファレンスポイント)として100本のマイクロニードルの突起部に対してインクジェットによりノズル開口部に所定の定量吐出し、塗着を行った。インクジェット塗布は1本のニードルに対してそれぞれ20回になるように繰り返し行った。
【0107】
インクジェット方式の吐出ヘッドからの薬液塗布条件は以下のとおりである。
印加電圧:15V
吐出ヘッドの開口部口径:20μm
周囲雰囲気温度:25℃
薬液の温度:25℃
薬液の粘度:4.2cp
薬液の表面張力:36.0mN/m
マイクロニードルデバイスの基材保持温度:室温
【0108】
(実施例2)
実施例1で使用した薬液のヒドロキシプロピルセルロースの使用量を調整して粘度を下記粘度条件に変更した以外は、実施例1と同様の方法によりマイクロニードルデバイスの突起部に薬液を塗着した。
薬液の粘度:0.5cpとした以外は実施例1と同じ。
【0109】
(実施例3)
実施例1で使用した薬液のヒドロキシプロピルセルロースの使用量を調整して粘度を下記粘度条件に変更した以外は、実施例1と同様の方法によりマイクロニードルデバイスの突起部に薬液を塗着した。
薬液の粘度:400cpとした以外は実施例と同じ。
【0110】
(実施例4)
マイクロジェット社製のDropMeasure−800で高速度撮影し、撮影画像から液滴サイズを確認した。確認方法としては装置付属のインクジェット方式の吐出ヘッドを用いて5回定量吐出し、高速度撮影を実施し、液滴の大きさを、撮影画像から直接測定し、5回の平均値を以て液滴の大きさを求めた。
さらに、マイクロニードルデバイスの一本の突起部先端が写るように装置やカメラをセットし、吐出した薬液の液滴が突起部に着弾する瞬間を観察し、着弾箇所と挙動を観察した。薬液は実施例1と同じものを用いた。
液滴サイズ:平均値 97μm
着弾箇所 :突起部先端
薬液の粘度:4.2cp
上記塗着状態を着弾時の挙動と合わせて、塗布後の製品を光学顕微鏡で観察し、液ダレの有無、突起部以外の他の領域への塗着状態も合わせて確認し塗着の適否を評価した。
【0111】
(実施例5)
実施例4とは、以下の条件を変えて、実施例4と同様の方法によりマイクロニードルデバイスの突起部への薬液着弾挙動を観察し、評価した。
液滴サイズ:平均値 29μm
着弾箇所:突起部側面
【0112】
(比較例1)
実施例1で使用した薬液のヒドロキシプロピルセルロースの使用量を調整して粘度を下記粘度条件に変更した以外は、実施例1と同様の方法によりマイクロニードルデバイスの突起部に薬液を塗着した。
薬液の粘度:1000cp以外は実施例と同じ。
【0113】
(比較例2)
実施例4とは、以下の条件を変えて、実施例4と同様の方法によりマイクロニードルデバイスの突起部への薬液着弾挙動を観察し、評価した。
液滴サイズ:平均値 144μm
着弾箇所 :突起部先端
【0114】
(比較例3)
実施例4とは、以下の条件を変えて、実施例4と同様の方法によりマイクロニードルデバイスの突起部への薬液着弾挙動を観察し、評価した。
液滴サイズ:平均値 95μm
着弾箇所:突起部側面
【0115】
(結果の評価)
上記本発明の各実施例及び比較例成の薬液を突起部にインクジェット方式の吐出ヘッドから定量吐出し薬剤の塗着状態について、塗膜の形成状態を上記測定方法又は評価方法に従い測定し、それぞれの評価を行った結果は、表1及び2にまとめたとおりである。
上記実施例1〜3、及び比較例1における塗着結果について、表1にまとめた。
【0116】
【表1】

【0117】
実施例1〜3において、薬液の粘度を変更してインクジェット方式の吐出ヘッドから薬液を吐出したところ、吐出された薬液の大きさは実施例1〜3で、約100μmとほぼ一定の大きさの液滴の吐出が可能であった。
薬液の粘度が高くなるに従い、一旦連続吐出を停止するとノズルが汚れることで、次の吐出を開始する前にノズル付近を洗浄しないと安定的に吐出できないなどの現象が見られるが、洗浄を行えば塗着結果は表に示すとおり良好な結果が得られた。
比較例1に示したとおり、粘度を1000cpとすると、粘度が高くなりすぎ、ピエゾ素子の振動では液滴として吐出し塗着することはできなかった。また、薬液の粘度が低いと薬液の液滴の径が上記程度では、液ダレが生じることなく、インクジェット方式で吐出しても問題なく、突起部に塗着できた。
上記の結果より、インクジェット方式におけるマイクロニードルデバイスの突起部への塗着は、0.1〜500cp程度が妥当であり、薬液の粘度が高すぎると安定した吐出が困難になることが確認された。
次に、実施例4、5と比較例2、3の結果について表2にまとめた。
【0118】
【表2】

【0119】
本発明の実施例4及び5並びに比較例2及び3の結果は、表2に示したとおりである。また、それぞれの着弾時の液滴画像を図1〜4の写真1〜4に示した。
実施例4及び5についての図1及び2に示した写真1及び2は、吐出した液滴の大きさは異なるが、突起部の先端又は突起部の円錐状側面に直接、吐出した薬液の液滴の塗着状態を示すもので、マイクロニードルデバイスの針状等の突起部またはその一部の表面に液ダレせず安定して付着した状態を示していることがわかる。
【0120】
比較例2及び3についての結果は、図3及び4に写真3及び4に示すとおり、突起部の先端又は突起部の円錐状側面に直接、吐出した薬液の液滴は、液ダレしている。
突起部の先端部に着弾した場合、液ダレが生じても突起部の経皮吸収に有効な領域に薬剤が塗着できる確率が高かった。
【0121】
表2の結果をみると、薬液の液滴サイズが100μmを超えると、着弾位置が突起部先端であっても薬液が液ダレを起こし、また、100μmであって着弾位置が突起部の先端部を外すと、液ダレが生じ、塗着する箇所が経皮吸収に有効な領域以外のところにも塗着された。
一方、薬液の液滴サイズが30μm以下に吐出した場合は、着弾点が突起部の先端部に限らなくても、突起部に薬液を有効に塗着できた。
【0122】
以上のように、本発明では、薬液を吐出し、マイクロニードルデバイスの突起部のどこの位置に着弾させ、塗着させるかは、該突起部のみに薬剤を塗着することにとって重要であることがわかる。
また、該突起部の先端部に着弾させることが、薬剤を突起部以外への塗着を効率的に防ぐことが可能であり、また、薬液の液滴の大きさを制御して吐出したとき、好ましくは、30μm以下とした場合、突起部の着弾位置に関わりなく、液ダレがなく、突起部への選択的塗着が容易に行えることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明のマイクロニードルデバイスの製造方法において、インクジェット方式の吐出ヘッドを採用して、薬液の状態を調整し、薬液を定量吐出し、突起部に吐出、塗着することにより、マイクロニードルデバイスの突起部に薬剤を定量塗着するマイクロニードルデバイスの製造方法は、歩留まり、生産効率がよく、かつ低コストで、経皮吸収に有効に機能できるマイクロニードルデバイスを、制御して安定的に製造できる。
また、得られたマイクロニードルデバイスは、マイクロニードルデバイス上の突起部の先端部から基端部に薬剤が定量塗着している、優れた経皮吸収効率を発揮できるものである。
本発明のインクジェット方式により定量塗着するマイクロニードルデバイスの製造方法は、薬剤を定量塗着した経皮吸収用マイクロニードルデバイスの製造及びその用途に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤を含有する薬液を、薬液の状態を調整し、多数の突起部を有するマイクロニードルデバイスの突起部に向け、インクジェット方式のヘッドから定量吐出することにより、マイクロニードルデバイスの突起部に薬剤を塗着することを特徴とするマイクロニードルデバイスの製造方法。
【請求項2】
マイクロニードルデバイスの突起部に向け、前記インクジェット方式のヘッドを制御する工程、
薬液の粘度を所定範囲に調整する工程、及び
前記ヘッドから粘度を調整した薬液を定量吐出する吐出制御工程
を含む、請求項1に記載のマイクロニードルデバイスの突起部に薬剤を定量塗着することを特徴とするマイクロニードルデバイスの製造方法。
【請求項3】
薬液の状態が、吐出ノズルの開口部で粘度が、0.1〜500cpとなるように調整する、請求項1又は2に記載のマイクロニードルデバイスの突起部に薬剤を定量塗着することを特徴とするマイクロニードルデバイスの製造方法。
【請求項4】
吐出制御工程が、薬液の液滴サイズを100μm以下となるように調節する、請求項1〜3のいずれか一項に記載のマイクロニードルデバイスの製造方法。
【請求項5】
吐出制御工程が、薬液の液滴サイズを100μm以下となるように調節し、該液滴を突起部先端に着滴させる、請求項1〜3のいずれか一項に記載のマイクロニードルデバイスの突起部に薬剤を定量塗着することを特徴とするマイクロニードルデバイスの製造方法。
【請求項6】
吐出制御工程が、薬液の液滴サイズが、30μm以下となるように調節する、請求項1〜5のいずれか一項に記載のマイクロニードルデバイスの突起部に薬剤を定量塗着することを特徴とするマイクロニードルデバイスの製造方法。
【請求項7】
さらに、薬液を吐出する前に、マイクロニードルデバイスの突起部が、マスク基体に形成した孔に挿入され、孔内に露出するようにマスク基体をマイクロニードルデバイスに被覆する工程を含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載のマイクロニードルデバイスの突起部に薬剤を定量塗着することを特徴とするマイクロニードルデバイスの製造方法。
【請求項8】
マイクロニードルデバイスの突起部が孔内に露出するマスク基体が、薬液に対する濡れ性が低く、かつ前記突起部の高さより厚みを有する、請求項7に記載のマイクロニードルデバイスの突起部に薬剤を定量塗着することを特徴とするマイクロニードルデバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−43034(P2013−43034A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184486(P2011−184486)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】