説明

マイクロバブルを使用した洗米装置

【課題】マイクロバブルを用いた洗浄能力の大きな洗米装置を提供する。
【解決手段】加圧溶解式マイクロバブルを用いた従来の洗浄方式は、気泡電位が低いために米ぬか等の付着物を効率的・効果的に除去することができず、複数回の洗浄でも付着物の除去が不十分である。本発明は、加圧溶解式ではなく、衝突壁を本体パイプ内に備えたものや本体パイプ壁にスリットを備えたもののような自吸式の気液せん断方式のマイクロバブル発生器を用いることにより、大きな負電位を有するマイクロバブルを発生できるので、米の洗浄能力を大幅に向上できる。さらに、略球面等の曲面を有する米の洗浄容器を用いる。米をこの容器に入れて、容器の底部に配置されたマイクロバブル発生器からの流水により容器の曲面に沿ってゆるやかな水の流れを生じさせ、米1粒1粒にマイクロバブルを接触させて米の付着物を吸着により引き離し、水中に浮上させ除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロバブル発生器を用いた米の洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
精米した米を炊飯する前に米に付いた汚れや米ぬか等の付着物を洗浄する必要がある。家庭など少人数の場合は手作業で丁寧に洗浄することができる。しかし、給食工場や弁当工場等の一度に多量の米を炊飯する場合には、一度に多量の米を洗浄することになるので、手作業で米を洗浄するやり方では、洗米に手間がかかるだけでなく、水の使用量が多くなるし、洗浄時間も長くなり、作業能率を向上させることができないという問題が生じる。また、かき混ぜながら自動洗浄する方式では、設備が大がかりとなるので設備投資が巨大になる。さらに、水の使用量も莫大になり排水量も多くなってランニングコストも増大する。最近は炊飯前の米の洗浄が不要な無洗米の消費も増えている。この無洗米は、大量の精米を洗浄した後袋詰めしたものであるが、販売品であるため、精米の汚れや米ぬか等の付着物を洗浄して除去する必要があるとともに、米に傷等の損傷を与えないようにする必要がある。しかし、米をかき混ぜながら自動洗浄する方法では無洗米の品質を劣化させるという問題もある。
【0003】
一方、湖沼の汚染水の浄化に微細気泡やマイクロバブルを用いる研究が進んでいる。マイクロバブルは直径が数10μmの気泡であるが、このマイクロバブルを米の洗浄に使用する提案がなされている。たとえば、特許文献1において、水に加圧空気を供給することで水に空気を飽和状態に溶解させた加圧空気溶解水を洗米水として使用し、この加圧空気溶解水を容器底部から吐出させ、加圧空気溶解水から微細気泡を発生させながら米を洗浄する方法が提案されている。また、特許文献2において、水と空気を混合しながら水中に空気を略飽和状態で溶解させた空気溶解水を洗米槽の底部に導入して大気圧プラス水圧に相当する圧力まで減圧することによって発生した超微細気泡であるマイクロバブルと、加圧空気を10〜500μmの孔を通して水中に噴出させることにより発生させた微細気泡とを用いて米を洗浄する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−189077
【特許文献2】特開2006−345723
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
加圧溶解式マイクロバブルを用いた洗浄は、単純に水を撹拌しながら米を洗浄する方法よりも米についた付着物を除去する効果は高いものの、米の洗浄方法としては不十分であり、複数回の洗浄が必要であること、しかも複数回の洗浄でも付着物を十分に除去できないこと、その結果水の使用量も余り減らないという問題がある。さらに、空気加圧用のポンプが必要となり設備が大がかりになるという問題もある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、加圧溶解式マイクロバブルを用いた洗浄方式において米の洗浄能力が小さいのは、発生したマイクロバブルの気泡電位が小さいことが原因であることを発見した。気泡電位が低いために米ぬか等の付着物が強力に付着している場合(主として電気化学的吸着が多い)にはこれらを除去することができず、複数回の洗浄でも付着物の除去が不十分となる。本発明者は、大きな負電位を有するマイクロバブルを用いることにより米の洗浄能力を飛躍的に向上できることを発見した。たとえば、加圧溶解式ではなく、衝突壁および/またはスリットを本体パイプ内に備えた自給式のマイクロバブル発生器(気液せん断方式のマイクロバブル発生器)を用いることにより、大きな負電位を有するマイクロバブルを発生できるので、これを用いて米の洗浄を行うことにより米の洗浄能力を大幅に向上できる。さらに、球面等の曲面を有する容器を用いる。米および水をこの容器に入れて、容器の底部に配置されたマイクロバブル発生器からの流水により容器の曲面に沿って水および米の流れを生じさせる。
【発明の効果】
【0007】
本体パイプ内に衝突壁および/またはスリットを備えた自吸式のマイクロバブル発生器(気液せん断方式のマイクロバブル発生器)により発生したマイクロバブルは大きな負電位を有するので、米に付いた付着物を効果的・効率的に除去することができる。さらに、容器の曲面に沿って水および米の流れを生じさせることにより、発生したマイクロバブルが効率的に米粒の周囲に接触し、米に付いた付着物を効果的に吸着除去する。また、この曲面に沿った流水および米の流れにより、付着物を吸着したマイクロバブルを水から浮上させ付着物を除去する。この結果、洗米時間を少なくすることができ、水の使用量や排水量を少なくできる。さらに大がかりな設備が不要であり設備投資を少なくできる。また、設備も小さくできるので、小規模な弁当工場や給食場、さらには家庭用の自動洗米機にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、本発明の洗米装置の実施形態を示す図である。
【図2】図2は、本発明に用いられるマイクロバブル発生器の構造を示す図である。
【図3】図3は、種々の洗浄方式によって洗浄された米の洗浄効果を示すグラフである。
【図4】図4は、洗浄水の照度を測定する方法を説明する図である。
【図5】図5は、マイクロバブル発生器により発生したマイクロバブルの気泡電位を示すグラフである。
【図6】図6は、マイクロバブルの気泡径分布をみたものである。
【図7】図7は、異なる容器における米の洗浄効果を比較するグラフである。
【図8】図8は、マイクロバブルを使用して洗米した米と、手洗いにより洗米した米をそれぞれ炊飯したときの、糖度、硬さ及び粘り気を比較した結果を示す図である。
【図9】図9は、マイクロバブルを使用して洗米した米と、手洗いにより洗米した米の吸水率を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、加圧溶解式マイクロバブルの米の洗浄力が弱いのはその気泡電位が小さいことによることを発見したことに基づくとともに、大きな負電位を有するマイクロバブルを用いることにより米の洗浄能力を飛躍的に向上できることを発見したことに基づく。
【0010】
図1は、本発明の洗米装置の一実施形態を示す図である。米および水を入れて米を洗浄する容器31の容器内にマイクロバブル発生器32が配置されている。マイクロバブル45がマイクロバブル発生器32から出る部分、すなわち開口部33は容器31の底部に来るように配置される。従って米および水を入れて洗浄するときに、マイクロバブル発生器32の開口部33は米の底部になるように配置されている。容器31の上部には水循環用の水循環チューブ(第1水循環チューブ)34が接続している。この第1水循環チューブ34はサーキュラーポンプ(水循環用ポンプ)35に接続する。第1水循環チューブ34から入った水はサーキュラーポンプ35の水循環チューブ(第2水循環チューブ)36から出ていく。第2水循環チューブ36を流れた水はマイクロバブル発生器32に接続している。また、空気供給管47がマイクロバブル発生器32に接続し、空気等の気体がマイクロバブル発生器32に供給される。第2水循環チューブ36からマイクロバブル発生器に吐出された水は、空気を含みながら後述の衝突壁に衝突してマイクロバブルを発生したり、および/または本体パイプ内に設けたスリットによりマイクロバブルを発生したりして、開口部33から容器31内へマイクロバブルを含んだ流水を放出する。(このようなマイクロバブル発生器は気液せん断方式のマイクロバブル発生器に属する。)このように、本発明の洗米装置は、米および水を入れて米を洗浄する容器31、容器31の底部に配置されたマイクロバブル発生器32、容器31内の水を吸引しマイクロバブル発生器32を通して容器31内へ水を吐出する水循環用ポンプ35、容器31から水循環用ポンプ35に水を導く第1循環チューブ34、および水循環用ポンプ35からマイクロバブル発生器32へ水を導く第2循環チューブ36を備えている。
【0011】
米を洗浄するときには、容器31の蓋37をあけて米を入れ蓋37をして、水供給管38から容器内に水を入れる。米41は容器31の底に入り、容器内の水42は、容器内に入れた米41が全部充分に浸るように入れられる。第1水循環チューブ34の入り口は容器内の水42を吸引できるように容器31内の水42の中に入れる。マイクロバブル発生器32の開口部33は容器内底部であって容器に入れた米41の底部に来るように配置されている。容器31には排水管(ドレイン)40が備わり、水42の上部に浮き上がった汚れや付着物は水とともに排水管(ドレイン)40から排出される。また、浮き上がったにおいなどは空気層空間43に出て行き、空気抜きチューブ39から外部へ排出される。以上のように、洗米時は容器31に入った米は水42に十分に浸水していて、米の上部の水42は第1水循環チューブ34を通してサーキュラーポンプ35に吸引され、第2水循環チューブ36から押し出されてマイクロバブル発生器32に入り、マイクロバブル発生器の開口部33からマイクロバブル45および流水が放出され、容器31内の米41が洗浄される。米41の洗浄が終了した後は、米41を容器31から取り出して洗浄後の水や汚れをドレイン48から排出する。
【0012】
本発明に用いられるマイクロバブル発生器は、加圧水等を用いた加圧型のマイクロバブル発生器ではなく、気液せん断式タイプのマイクロバブル発生器である。すなわち、本体パイプ内に備わる衝突壁に空気を含んだ水を衝突させ、水の流れを急変させるせん断効果によりマイクロバブルを発生するマイクロバブル発生器であり、および/または本体パイプの壁に設けた複数のスリットを用いて、本体パイプ内の水の流れをスリット方向に急激に曲げることによるせん断効果と断面積の小さいスリット部において加速した流れを静止流体中に放出する際の速度勾配によるせん断効果の組合せを利用したマイクロバブルを発生するマイクロバブル発生器である。このタイプのマイクロバブル発生器は本発明者らが発明したものが利用でき、そのマイクロバブル発生器の一例を図2に示す。その詳細は、特許文献3(特開2005−334869)および特許文献4(特開2009−189912)に開示されている。
【0013】
図2に示すように、液体中へ設置されるマイクロバブル発生器1は、液体中の水を吸引するポンプ4、ポンプ4から液体中に配置される本体パイプ11内に水を吐出する液体供給管5を備え、本体パイプ11に気体供給管2を連通し、本体パイプ11内を流れる液体の流速によって本体パイプ内で発生する負圧を利用し、気体供給管2から気体を本体パイプ11内に導入し(すなわち、気体は、ポンプ等を使い供給する必要がなく自吸される)、本体パイプ11内で気体と液体を混合し、その後本体パイプ内で下流側に配置したプレート(衝突壁)18に衝突させて(せん断作用を利用して気体塊を粉砕し)マイクロバブルを発生させるものである。マイクロバブルは衝突壁18よりも上流側に配置された本体パイプ11に形成した開口部12〜17から水中へ放出される。(すなわち、開口部12〜17は気体供給管2よりも下流側で本体パイプ11に形成され、衝突壁18は開口部12〜17よりさらに下流側に配置されている。)図1に示されている第2水循環チューブ36およびサーキュラーポンプ(水循環用ポンプ)35が図2に示される液体供給管5およびポンプ4にそれぞれ対応する。また、図1おける空気供給管47が図2における気体供給管2に対応する。図2においては、開口12〜17はスリット状である。スリット状の開口を用いた時には、本体パイプ11の他端が閉じている場合には衝突壁18は必ずしも必要がない。衝突壁を用いた場合やスリット構造を用いた場合も、いずれも気液界面でのせん断効果を得てマイクロバブルを発生させる。特に、スリット構造においては、スリット部において渦流が発生してスリット出口で渦崩壊を起こすなどしてせん断効果を高めている。
図2においては、開口12〜17はスリット状に示されているが、特許文献3や4に記載されているように本体パイプに形成された他の開口、複数の孔や種々の形状をした開口でも良い。或いはこれらを組み合わせたものでも良い。また、図2に示されているようなマイクロバブル発生器に気体供給管を接続配置するタイプではなく、特許文献3に記載されているようなポンプの上流側で気体を液体内に混入できるタイプでも良い。すなわち、特許文献3および特許文献4に記載されたマイクロバブル発生器はどれでも本発明に使用できるし、さらには、他のマイクロバブル発生器でも負電位の大きなマイクロバブルを発生するマイクロバブル発生器は本発明に適用できる。
【0014】
本発明の容器31は、米の入る部分を曲面にしている。この曲面は、たとえば球面状、楕円体面状、双曲面形状、放物面状やこれらに近似した曲面であり、或いはこれらの組み合わせである。水流により米が曲面の略径方向または略曲率方向に動くので、マイクロバブルが1個1個の米の周囲を取り囲むことができる。たとえば、図1に示すマイクロバブル発生器32の開口部33から流れ出る水およびマイクロバブルがボールの底を容器の曲面の略径方向に流れていく。また容器内の米も流水方向に動いていくので、マイクロバブル45はこの流れに乗りながら容器内の米全体および米1粒1粒に接触しながら上昇していく。米を取り囲んだマイクロバブルは大きな負電位を有するので、米ぬか等の付着物を確実に吸着する。付着物を吸着したマイクロバブルは負電位も小さくなるので合体等もしながら浮上し米41の上部の水中42を上昇してドレイン40から外部へ排出される。尚、図1においては、水や空気が通るチューブ内の流体の流れる方向を矢印で示している。
【0015】
図3は、本発明の洗米方式の一形態(マイクロバブル発生器は開口部がスリットであるタプ、いわゆるスリット方式マイクロバブル発生器(図2に示すタイプ)を使用)を用いて米を洗浄した後で、洗浄した米55をメッシュ状のネット袋52に入れ、水槽56内のきれいな水の中に米55が入ったメッシュ状ネット袋52を浸漬して撹拌した後に、米55が入ったメッシュ状ネット袋52を水槽56から取り出して、水槽56内の水の照度を見たものである。その測定方法を図4に示す。LED光源51からLED光を水槽内の水53を通して照射し、照度計54でその透過光の照度を測定する。この方法により米に付いた米ぬか等の付着物の落ち具合を評価できる。図3の縦軸は、きれいな水を基準とした無次元数で示す。すなわち、米を入れない状態のきれいな水の照度I(Lux)と洗米後の米を入れて撹拌した後の水の照度Ix(Lux)との比Iを示す。I=Ix/Iであり、Iは無次元数となる。本発明の方式の洗米効果を把握するために、加圧溶解式マイクロバブルを用いた場合、金魚用水槽等で用いられるミリバブル(気泡のサイズがミリサイズ)を用いた場合、流水だけを用いた場合、および何もしない場合も合わせて示す。
【0016】
Iの値が大きいほど、きれいな水に近くなるので、米の洗浄効果が大きい。図3に示されるように、本発明の洗浄効果Aが最も高いことが分かる。何もしない場合Eに比べれば、ミリバブルを用いた場合Cや流水を用いた場合Dでも洗浄効果はある。また、加圧溶解式マイクロバブルを用いた場合BはCやDよりも効果は大である。本発明の方式の場合Aはさらに洗浄効果が大きい。比較照度の値Iの大きさだけで見れば、何もしない場合Eを1とすると、CおよびDは約2、Bは約3.5である。これらに対して、Aは約8であり、本発明の方式は格段の洗浄効果がある。
【0017】
図5は本発明の方式に使われるスリット方式のマイクロバブル発生器により発生したマイクロバブルの気泡電位を示すグラフである。マイクロバブルの気泡電位は、ゼータ電位により評価し、ゼータ電位は電気詠動法により測定した。また、マイクロバブルの直径はマイクロスコープによる直接測定をするとともに、光透過法により測定した。縦軸は気泡電位(ゼータ電位)、横軸は気泡の大きさである。比較のために図4で用いた加圧溶解式マイクロバブル発生器により発生したマイクロバブルの気泡電位(ゼータ電位)も示す。菱形印がスリット方式であり、四角印が加圧溶解式である。気泡電位は両方式とも負電位であるが、加圧溶解式マイクロバブルの気泡電位は、その大部分(90%以上)が−20mV以下と小さい。これに対して、本発明に用いられるスリット方式のマイクロバブルの気泡電位は、その大部分(90%以上)が−20mV〜−80mVであり、非常に大きい。本発明の気液せん断方式のマイクロバブルは、空気を含んだ水が衝突壁に激しく衝突することによるせん断作用、および/または本体パイプの壁に設けた複数のスリットを用いて、本体パイプ内の水の流れをスリット方向に急激に曲げることによるせん断作用や断面積の小さいスリット部において加速した流れを静止流体中に放出する際の速度勾配によるせん断作用を利用して、気体塊を粉砕しマイクロバブルを発生するときに、大きな負電位を有すると考えられる。さらに、スリット式は圧損が小さいため、効率的にせん断効果が得られる。
【0018】
この気泡電位の大きな差が米の洗浄力の違いを生じさせる。米ぬか等の米に付いた付着物はプラスの電荷をもって米に付着していると考えられる。従って、本発明のマイクロバブルは大きな負電位の気泡電位を有するため、米の周囲にマイクロバブルが近付くか接触すると米に付着したプラス電荷を持つ付着物を米から引き離して気泡に付着物が吸着する。すなわち、電位の高いマイクロバブルは米に付着した付着物を効果的に吸着する。付着物を伴ったマイクロバブルは米から離れて水の上方へ(自らの浮力あるいは流水の流れに乗って)移動していく。これに対して、加圧式マイクロバブルの気泡電位は低いため、米の付着物を効率的に取り込めないで上方へ浮かんでいく。すなわち、スリット式のマイクロバブルは、気泡電位(ゼータ電位)が−20V以上の大きな負電位帯に分布している。一方、従来の加圧型マイクロバブルの気泡電位(ゼータ電位)が−20V以下の小さい負電位帯に分布している。電位の高いマイクロバブルは米に付着した付着物を効果的に吸着するので、スリット式のマイクロバブルは加圧型マイクロバブルよりはるかに洗米効果が高くなる。
【0019】
以上のように、本発明の洗米方式は非常に有効な方法である。しかも電気化学的に米の付着物を除去しているので、機械的方法(或いは、物理的な方法)のように、米を傷めることはなく米にやさしい洗浄方法であるとともに、非常に洗浄効果の大きな方法である。
【0020】
図6は、本発明に用いられるマイクロバブルの気泡径(直径)分布をみたものである。比較として加圧溶解式マイクロバブルの粒径分布も示す。横軸に気泡の直径を、縦軸にその気泡の存在比率(PDF)を取っている。四角印で示す加圧溶解式マイクロバブルの平均粒径は約30μmであり、菱形印で示すスリット方式のマイクロバブルの平均気泡径約50μmに比べてかなり小さい。しかも加圧溶解式マイクロバブルの直径の分散は、スリット方式マイクロバブルの直径の分散に比べると非常に小さい。気泡サイズが小さいと水中に漂う時間が長くなるので(従って、米の周りに長く存在するので)、気泡サイズが小さいマイクロバブルの方が米に付いた付着物を吸着しやすいと考えられるが、逆にマイクロバブルのサイズが小さいと水中での上昇速度が小さくなり、たとえ米から付着物を吸着したとしても米の付近に漂っている時間が長く浮上に時間がかかるので、効果的に付着物を除去できないと予想される。すなわち、付着物を完全に除去するためには容器下部に存在する米の中にあるマイクロバブルが米の存在しない上部の水中(図1の42)まで運搬されなければならないので、加圧溶解式マイクロバブルは米に付いた付着物を効果的に上部にある水中へ運ぶことができない。これに対して、本発明のスリット方式マイクロバブルは約10μm〜約80μmの直径を持つマイクロバブルが広く分布しているので、米に付いた付着物を吸着した40μm以下の小さなマイクロバブルがより大きなマイクロバブルと一緒に浮上していき、米の上部にある水中へ運ばれていき効果的に付着物が除去される。(このほかに上述した容器の形状による流水効果もある)本発明の洗米方式によるマイクロバブルは上述した大きな負電位を持つだけでなく、このようなブロードな直径分布を持つために効果的に米に付いた付着物を除去できる。(米に付いた付着物を気泡が吸着するためには、長時間米の付近を漂う気泡径のより小さなマイクロバブル(気泡径が小さい方が水の粘性や表面張力に影響を及ぼしやすい)が好ましいと考えられるが、それよりは本発明のような大きな負電位を持つマイクロバブルの方が効果的に米に付いた付着物を吸着できると考えられる。)
【0021】
本発明の洗米方式は曲面を持つ容器に米と水を入れた後に、容器の底部に配置されたマイクロバブル発生器を用いて、マイクロバブルを容器の底部から注入する。マイクロバブルは1個1個の米粒の周囲を取り巻くようにすることにより米粒に付いた付着物を効果的にマイクロバブルに吸着させることができる。マイクロバブル発生器の開口部33および先端部44から流水が流れ出る。この流水の流れの向きが容器の略径方向または略曲率方向になるように開口部33および先端部44の向きを調節することにより、流水の流れに沿って米が容器の略径方向等に動きながら、流水中のマイクロバブルと接触する。上述のスリット式マイクロバブル発生器の場合には、先端部44は閉じているので、開口部のスリットから出る流水の向きを容器の略径方向または略曲率方向に合わせるようにすれば良い。1個1個の米粒が大きな負電位を持つマイクロバブルと満遍なく接触することにより、米粒に付いた付着物をマイクロバブルが吸着して、米粒の付着物が引き離される。曲面は好適には略球面であるが、他の曲面、たとえば略楕円面、略放物面、略双曲面などであっても良い。さらに言えば、米が一か所に留まらないような容器の形状と流水の流れを選択することにより、マイクロバブルと米を満遍なく接触させることができる。
【0022】
図7は米と水を入れた袋の底にマイクロバブル発生器を入れてマイクロバブルと流水を出して洗米した後に、その洗浄した米を照度測定用袋に入れきれいな水を入れて撹拌した後における袋中の水の照度を無次元数で見たグラフ(Fで示すデータ)である。比較のために球面を有する容器を用いた本発明によるデータ(図3と同じAのデータ)と洗米していないデータ(図3におけるEのデータ)を一緒に示す。洗米をしないデータEよりは良いが、球面を有する容器を用いた本発明よりもはるかに洗浄効果は小さい。無次元数の大きさで比較すると、袋に入れたものは本発明より洗浄効果が1/4程度である。このことは、米を入れる容器も重要であり、球面の容器を有する本発明の洗米効果が大きいということを示す。略球面以外にも略楕円体面、略双曲面や略放物面も同様の効果がある。このような曲面と流水およびマイクロバブル効果の相乗効果により上述したように本発明の洗米方式の米洗浄能力が大きくなる。図3〜図7に示すデータは、スリット方式のマイクロバブル発生装置を用いて得られたものであるが、特許文献3や4に記載された他のマイクロバブル発生器についても同様の洗浄効果がある。
【0023】
さらに容器内にマイクロバブル発生器を複数設置することにより、より多くのマイクロバブルを発生させて米に接触させることができるので、さらに米の洗浄能力が増大する。その場合、複数のマイクロバブル発生器からの流水の向きを容器の略径方向等にそろえて、米を滞留させずにマイクロバブルを満遍なく米に接触させることが重要である。また、容器内にマイクロバブル発生器を埋めこんで、容器とマイクロバブル発生器を一体物としても良い。この場合にはマイクロバブル発生器の開口部は容器の内側に開放されていなければならないし、好適には、流水の向きが容器の略径方向等になるようにマイクロバブルの開口部が配置されている必要がある。容器内にマイクロバブル発生器を取り込み容器内に余分な障害物を配置しないことによって、容器内の流水や米の動きがスムーズになり、米の滞留をさらに起こりにくくすることができる。この結果、マイクロバブルと米との接触がさらに充分に起こりやすくなり米の洗浄能力をさらに高めることができる。
【0024】
図8は、本発明の洗米装置によりマイクロバブルを使用して5分間洗米した米と、マイクロバブルを使用せずに手洗いで5分間洗米した米とを、それぞれ炊飯した場合に、糖度、硬さ及び粘り気を測定し、比較した結果を示す図である。
糖度は、糖度計(PAL-1、ATAGO社製)を用いて測定した。すなわち、炊飯した米10gに水20ccを加え一分間撹拌し、上澄みをとり、糖度計のプリズム面に上澄みを滴下し、計測を行った。
また、硬さと粘りとは、テクスチュロメータを用いて測定を行った。すなわち、炊飯した米をテクスチョロメータのセルに3粒入れて、上から力を加え、米が押されるときに計測される反発力を「硬さ」とし、戻すときに計測される食いつきの力を「粘り」とした。
図8に示される結果から明らかなように、マイクロバブルを使用して洗米した米は、手洗いにより洗米した米や、洗米していない米と比較して、炊飯したときに、糖度と粘り気が向上し、硬さが小さくなった。すなわち、マイクロバブルを使用して洗米することにより、米飯の食味が向上することが明らかとなった。
図9は、マイクロバブルにより洗米した米と、手洗いにより洗米した米を水に浸した際の吸水率を測定したものである。横軸は時間(分)を表し、縦軸は洗米した米が吸水した水の重量を、米の重さで割った吸水率を表す。
図9に示される結果から明らかなように、マイクロバブルを使用して洗米した米は、手洗いにより洗米した米よりも吸水率が向上しており、これが食味の向上にも影響していることが考えられる。
【0025】
本発明を概略すれば、本発明はマイクロバブルを用いた洗浄能力の大きな洗米装置を提供することであり、加圧溶解式マイクロバブルを用いた従来の洗浄方式は、気泡電位が低いために米ぬか等の付着物を効率的・効果的に除去することができず、複数回の洗浄でも付着物の除去が不十分である。これに対して、本発明は、加圧溶解式ではなく、衝突壁を本体パイプ内に備えた自吸式のマイクロバブル発生器、および/またはスリット方式のマイクロバブル発生器を用いることにより、大きな負電位を有するマイクロバブルを発生できるので、米の洗浄能力を大幅に向上できる。さらに、略球面等の曲面を有する米の洗浄容器を用い、米をこの容器に入れて、容器の底部に配置されたマイクロバブル発生器からの流水により容器の曲面に沿ってゆるやかな水の流れを生じさせ、米1粒1粒にマイクロバブルを接触させて米の付着物を吸着により引き離し、水中に浮上させ除去する。また、ゆるやかな水の流れであるから米同士が激しく衝突したりこすれあったりすることは少ないため米が傷ついたりして損傷することは少ない。
【0026】
以上説明したように、本発明のマイクロバブルを用いた洗米装置において、マイクロバブル発生器として大きな負電位の気泡電位を有するマイクロバブルを発生する装置を用いること、略球面等の曲面を持つ米洗浄用の容器を使用すること、およびマイクロバブル発生器を容器の底部に設置して流水とマイクロバブルを米および水の底部から流出することにより、非常に効率が良く洗浄能力の大きい洗米が可能となる。本発明の洗米装置は装置構造が極めて簡単であり小型化が容易であるから、設備投資費用が少なくて済む。また、洗浄水の交換も不要で、水使用量や排水量を少なくすることが可能となる。さらに、使用するエネルギー(装置稼働エネルギーなど)も小さく環境負荷の小さい装置であり、ランニングコストも小さい。さらに、本発明を用いて実際に洗浄した米は食味も向上する。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、米の洗浄装置として使用できる。
【符号の説明】
【0028】
1・・・マイクロバブル発生器、2・・・気体供給管、3・・・開閉コック、
4・・・ポンプ、5・・・液体供給管、6・・・流量調整バルブ、
10・・・マイクロバブル発生手段、11・・・本体パイプ、
12、13、14、15、16、17・・・開口部(スリット)、18・・・プレート、
31・・・容器、32・・・マイクロバブル発生器、33・・・開口部、
34・・・第1水循環チューブ、35・・・サーキュラーポンプ、
36・・・第2水循環チューブ、37・・・蓋、38・・・水供給管、
39・・・空気抜きチューブ、40・・・ドレイン、41・・・米、42・・・水、
43・・・空気層空間、44・・・先端部、45・・・マイクロバブル、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
米および水を入れて米を洗浄する容器、前記容器の底部に配置されたマイクロバブル発生器、前記容器内の水を吸引し前記マイクロバブル発生器を通して前記容器内へ水を吐出する水循環用ポンプ、前記容器から前記ポンプに水を導く第1水循環チューブ、および前記ポンプから前記マイクロバブル発生器へ水を導く第2水循環チューブを備えた洗米装置であって、前記マイクロバブル発生器は負電位の大きい気泡電位を有するマイクロバブルを発生することを特徴とする、洗米装置。
【請求項2】
前記マイクロバブル発生器が発生するマイクロバブルの90%以上は、−20mVより大きい負電位の気泡電位を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の洗米装置。
【請求項3】
前記マイクロバブル発生器は、容器内に配置される本体パイプ、前記本体パイプに連通した気体供給管、前記気体供給管よりも下流側で本体パイプに形成した開口部、および前記本体パイプ内に水を吐出する液体供給管を備えていることを特徴とする、請求項1または2に記載の洗米装置。
【請求項4】
前記開口部は複数のスリットを含むことを特徴とする、請求項3に記載の洗米装置。
【請求項5】
前記開口部よりもさらに下流側に衝突壁を配置したことを特徴とする、請求項3または4に記載の洗米装置。
【請求項6】
前記容器は、略球面、略楕円面、略双曲面、または略放物面から選択される曲面を有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかの項に記載の洗米装置。
【請求項7】
前記マイクロバブル発生器の開口部から出る流水の向きが前記容器の曲面の略径方向または略曲率方向になるように、前記開口部が配置されていることを特徴とする、請求項6に記載の洗米装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−200858(P2011−200858A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43165(P2011−43165)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(504409543)国立大学法人秋田大学 (210)
【出願人】(509192684)株式会社山王電機製作所 (1)
【Fターム(参考)】