説明

マイクロフォン装置、音声記録装置、及び音声記録再生装置

【課題】マイク形状以外の影響を除外し、精度良く、光等の高い周波数の電磁波を用いて音声信号を取得することが可能なマイクロフォン装置を提供する。
【解決手段】マイクロフォン装置1は、光などの高い周波数の電磁波を発生する発生元に相対して設けられた一対の電磁波検出器2a,2b、及び変換手段を備える。変換手段は、発生元と一対の電磁波検出器2a,2bとの間に存在する気体の密度差(n−Δnとn、nとn+Δn等)を、それぞれの電磁波検出器2a,2bにおいて発生元からその気体を介して受けた電磁波の検出量の差分をとることによって、1ビットのデジタル音声信号に変換して出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロフォン装置、音声記録装置、及び音声記録再生装置に関し、より詳細には、光等の高い周波数の電磁波を用いて音声信号を取得するマイクロフォン装置、並びに、該マイクロフォン装置を備えた音声記録装置及び音声記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
音は、空気中を伝わる時、音の大きさ、高さに応じた波となる。この波は、空気の密度の濃い薄いとなって伝わるので、粗密波という。この波を電気信号に変える音声入力装置(音響機械)をこのマイクロフォン装置と呼んでいる。
【0003】
図6は、従来の振動板方式のマイクロフォン装置の原理を説明するための概略図である。マイクロフォン装置50は、まず、空気の粗密波を振動板51で受ける。振動板51はダンパ52で支えられ、電気機械振動系を構成する。振動板の変位量を検出するのにマグネット−コイルによる方法、振動板間の電気容量を検出する方法等がある。それをアンプ53によって電圧増幅することで電気信号に生成するのが一般的である。
【0004】
マイクロフォン装置としては、音質を重視した自然な音の収音用に、小型で、全帯域に渡ってより指向性の鋭い超指向性マイクロフォン装置も開示されている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1に記載の超指向性マイクロフォン装置では、3個の単一指向性マイクロフォンセルを前後方向に所定の間隔を隔てて配置し、2つのマイクロフォンセルの出力信号から抽出した差分信号と、他の2つのマイクロフォンセルの出力信号から抽出した差分信号と、これらの両差分信号間の差分信号を計算して、所定の周波数より高い周波数信号を高域通過フィルタで取り出す。また、他の2つのマイクロフォンセルの出力信号から抽出した差分信号から、周波数より低い周波数信号を低域通過フィルタで取り出す。これら2つのフィルタの出力信号の帯域境界付近の位相を合わせ、イコライザ回路で補正した出力信号を得る。
【0005】
しかしながら、特許文献1のマイクロフォン装置を含む図6で説明した従来の振動板方式では、振動板51/ダンパ52が音声信号の抵抗になることや、振動板51/ダンパ52の特性は材料等により変換特性がばらつくといった問題がある。さらに、この振動板方式では、特性的にも広帯域性/広ダイナミックレンジを訴求するのに制限がある。
【0006】
図7は、現状の音環境を説明するための図である。図7に私たちの周りの音圧を示すが、現状の音環境では、基準音圧Pは2×10−5N/mで定義されており、ここで例示するだけでも、音圧レベル0dB(音圧P)〜140dB(音圧20N/m)の音を測定する必要がある。更に、図7に含まれない全ての音を表そうとすると、音圧レベル0dB以下、140dB以上の音も測定する必要があり、上述のごとき理由から従来の振動板方式では対応できない。
【0007】
図8は、可聴帯域を超える周波数帯域をもった楽器等を説明するための図である。周波数成分においては、図8(A)のトルコ鈴、図8(B)のタンバリン、図8(C)の風鈴、図8(D)の鈴で例示するように、可聴帯域20kHzを超え、100kHzを超えている楽器等が存在するのがわかる。具体的には、音響信号成分は0〜1MHzと非常に広い。従来は、振動板で空気を受けてその変位量を検出していたが、可聴帯域(〜20kHz)を検出するだけでは充分であったが、更に低い音圧・広帯域信号成分を検出するには、振動板方式では限界であった。
【0008】
これに対し、最近、光の反射を利用したマイクロフォン・圧力センサの実験的検討がなされはじめている(例えば、非特許文献1を参照)。図9は、従来(非特許文献1)の光反射を利用したマイクロフォン装置を説明するための模式図である。この装置で採用している方式では、曲率半径Rの円柱状ガラスの側面の一部にセンサ部Sを設け、ガラス(屈折率n)と空気(屈折率n)との境界面Bにおける光の全反射を利用するものである。センサ部Sでは、図9に示すように、半径rの平行光ビームをその中心が全反射境界線h上にくるように境界面Bに入射させると、hより上部にある光は反射し、下部の光は透過する。ここで、圧力変化によって空気の屈折率が変化すると境界線の位置が変動し、その結果反射光量が変化するので、反射光量の変化をフォトダイオード回路でアナログ値として検出することにより、圧力変化、音圧を測定しようとするものである。
【0009】
なお、アナログの音声入力信号に対して適用可能な、デジタルシグマ変調1ビット符号化方式によって、入力された信号を1ビットデジタル信号に変換する装置も提案されている(例えば、特許文献2−4を参照)。
【特許文献1】特開2004−173053号公報
【特許文献2】特開平10−178346号公報
【特許文献3】特開2000−332553号公報
【特許文献4】特開2004−363771号公報
【非特許文献1】鈴木靖、城戸健一著、「光の反射を利用したマイクロホン・圧力センサの実験的検討」、日本音響学会講演論文集、2005年3月、495頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のごとく従来の振動板方式のマイクロフォン装置では、変換特性がばらつくだけでなく、広帯域性/広ダイナミックレンジを有するよう構成することは不可能である。実際、マイクロフォン装置の特性は、マイク形状と振動板とダンパによる周波数特性、アンプの特性、ADコンバータの特性により決まる。ここで、振動板/ダンパは重量/材質の選定、アンプはアナログアンプの高性能化、ADコンバータは種類によって決まるが、より広帯域性/広ダイナミックレンジを目指し、それぞれ良質なものを選択すると当然コスト高となる。
【0011】
例えば、特許文献2−4に記載のごとき装置を選択し、上述のごとき従来のマイクロフォン装置で入力したアナログの音声入力信号を1ビットのデジタル信号にAD変換した場合であっても、当然、マイクロフォン装置は振動板にてアナログ的に音声信号を取得しており、入力音声信号の品質に限界があるだけでなく、そのADコンバータ自体のコストが嵩むこととなる。
【0012】
また、非特許文献1をはじめとする従来の光を利用したマイクロフォン方式は、アナログ信号の線形性を生かした検出を目指しており、結局フォトダイオード回路などでなるセンサは、音圧検出感度が非常に小さいために増幅が必要であることや、振動の影響を受けること、さらには光の散乱の問題など、様々な要因から精度高く構成できない。事実、非特許文献1では、信号検出の結果を示せるまでに至っていない。このように、従来技術による光を利用したマイクロフォン方式では、物理的に如何にしてピックアップするかが問題となっている。
【0013】
本発明は、上述のごとき実情に鑑みてなされたものであり、マイク形状以外の影響を除外し、精度良く、光等の高い周波数の電磁波を用いて音声信号を取得することが可能なマイクロフォン装置、そのマイクロフォン装置を備え、劣化なく音声信号を記録することが可能な音声記録装置、並びに、その音声記録装置を備え、劣化なく音声信号を取得して出力することが可能な音声記録再生装置を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上述のごとき課題を解決するために、以下の各技術手段でそれぞれ構成される。
【0015】
第1の技術手段は、高い周波数の電磁波を用い、音声信号を取り出すマイクロフォン装置であって、前記電磁波の発生元に相対して設けられた一対の電磁波検出器と、前記発生元と前記一対の電磁波検出器との間に存在する気体の密度差を、それぞれの電磁波検出器において前記発生元から前記気体を介して受けた電磁波の検出量の差分をとることによって、1ビットのデジタル音声信号に変換して出力する変換手段とを備えたことを特徴としたものである。
【0016】
第2の技術手段は、第1の技術手段において、前記電磁波を発生する電磁波発生器を備えたことを特徴としたものである。
【0017】
第3の技術手段は、第1又は第2の技術手段において、前記一対の電磁波検出器は、それぞれの検出部が連続して隣り合う位置に配置されることを特徴としたものである。
【0018】
第4の技術手段は、第1乃至第3のいずれかの技術手段において、前記変換手段は、前記発生元と前記一対の電磁波検出器との間に存在する気体の密度差を、それぞれの電磁波検出器において前記発生元から前記気体を介して受けた電磁波の検出量の差分を求める差分手段と、該差分手段で得られた差分を所定の閾値で閾値処理して1ビットのデジタル信号列を出力する閾値処理手段とを有し、前記1ビットのデジタル信号列を前記デジタル音声信号として出力することを特徴としたものである。
【0019】
第5の技術手段は、第4の技術手段において、前記閾値処理手段は、前記閾値処理後のアナログ信号を前記発生元の電磁波の発生周波数又は該発生周波数と同等の周波数によりリシェイプして、前記1ビットのデジタル信号列を前記デジタル音声信号として出力することを特徴としたものである。
【0020】
第6の技術手段は、第1乃至第5のいずれかの技術手段において、前記変換手段で出力された1ビットのデジタル音声信号をマルチビットのデジタル信号にするフィルタをさらに備えたことを特徴としたものである。
【0021】
第7の技術手段は、第1乃至第6のいずれかの技術手段において、前記電磁波は光であることを特徴としたものである。
【0022】
第8の技術手段は、第7の技術手段において、前記電磁波を発生する発生元として、前記高い周波数のパルス信号を発生する信号発生器と、該信号発生器で発生したパルス信号に基づき、レーザ光を発生する光パルス信号発生器とを備えたことを特徴としたものである。
【0023】
第9の技術手段は、第1乃至第8のいずれかの技術手段におけるマイクロフォン装置と、前記変換手段で出力された1ビットのデジタル音声信号を、前記発生元の電磁波の発生周波数又は該発生周波数と同等の周波数により駆動して記録する1ビット記録手段とを備えた音声記録装置である。
【0024】
第10の技術手段は、第9の技術手段における音声記録装置と、該音声記録装置で記録された1ビットのデジタル音声信号を、前記発生元の電磁波の発生周波数又は該発生周波数と同等の周波数により駆動して1ビットのデジタル音声信号で出力する音声出力手段とを備えた音声記録再生装置である。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係るマイクロフォン装置によれば、マイク形状以外の影響を除外し、精度良く、光等の高い周波数の電磁波を用いて音声信号を取得することが可能となる。また、本発明に係る音声記録装置によれば、そのマイクロフォン装置を備え、劣化なく音声信号を記録することが可能となる。さらに、本発明に係る音声記録再生装置によれば、その音声記録装置を備え、劣化なく音声信号を取得して出力することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
図1は、本発明の一実施形態に係るマイクロフォン装置の一構成例を示す図で、図2は、音声の粗密によって変わる媒体としての気体の屈折率の変化を概略的に説明するための図である。図1において、1はマイクロフォン装置、2a,2bは一対の光検出器である。
【0027】
以下、本発明に関し、より好ましい形態である、光を発生させてそれを光検出器2a,2bで受光する例についてのみ説明するが、本発明は、音波に比べて高い周波数の電磁波を発生する発生元(例えば電磁波発生器)に対し、そこから発生した電磁波を検出する一対の電磁波検出器を備えた形態であっても適用可能である。本発明で利用する電磁波として、光が好ましいのは、光が一番、空気の密度変化に対して曲がり易いためである。また、光の中でもより高い周波数の光が分解能の点で好ましく、また、検出精度の面から単色のレーザ光であることが好ましい。光以外の電磁波を利用する場合には、一対の光検出器2a,2bの代わりに一対の電気変換器等の電磁波検出器を採用すればよい。
【0028】
マイクロフォン装置1は、光(以下、レーザ光Lで説明する)を発生する発生元に相対して設けられた一対の光検出器2a,2b、及び、次の変換手段を備える。この変換手段は、発生元と一対の光検出器2a,2bとの間に存在する気体の密度差(n−Δnとn、nとn+Δn等)を、それぞれの光検出器2a,2bにおいて発生元からその気体(音波により粗密のある気体)を介して受けた光の検出量の差分をとることによって、1ビットのデジタル音声信号に変換して出力する。
【0029】
このようなデジタル音声信号の取得が可能となる原理について、図2を併せて参照して説明する。なお、図2において、気体としては、通常のマイクロフォン装置1の使用形態を鑑みると通常空気が該当するが、空気である必要はなく他の気体であっても、音声によって粗密が生じるものであればよい。
【0030】
まず、発生元からパルス駆動により発生したレーザ光Lに相対して一対の光検出器(2分割受光器とも言える)2a,2bを配置しておく。その間の気体に被測定音声Aを通過させる。被測定音声Aは所定の周波数で振動しており、密度差が生じる。その結果、屈折率の差が発生し、光の進行方向が変えられる。これが基本原理である。
【0031】
図2に示すように、疎密波として空気を伝播する音声Aによって、媒体である空気は、時間T−Δt,T,T+Δtに対し、その屈折率がそれぞれn−Δn,n,n+Δnと変化する。図1に示すようにレーザ光Lは照射される空気の屈折率により、例えば屈折率の大きい下部(光検出器2bの受光部側)に光の重心が移り、屈折光L′となる。その結果、光検出器2bの受光量(出力をA2信号とする)は、屈折率の小さい上部(光検出器2aの受光部側)の受光量(出力をA1信号とする)より多くなる。なお、光はガウス分布をしており、そのセンタがシフトする。例えば、屈折率がnの波がレーザ光Lの光路にきたときに真っ直ぐに、屈折率がn+Δnの波がレーザ光Lの光路にきたときには図1において下に曲がる。このように、レーザ光Lは、密度差によって、平均値に対して相対的に上にいったり下にいったりする。そして、それらの信号成分A1,A2の差を、1ビットのデジタル信号として取り出す。
【0032】
このように、本発明に係る検出方法では、従来のごとくアナログの線形性で取り出すような発想ではなく、デジタル信号として直接で取り出すようにしている。従って、本発明に係るマイクロフォン装置によれば、振動板/ダンパの影響は無くなり、アンプ回路は簡易でよく、マイク形状以外の影響を除外し、精度良く、光等の高い周波数の光を用いてデジタル音声信号を取得することが可能となる。例えば、本発明によると、振動板やダンパの影響が無くなり、被測定音声Aとしては、広い音圧範囲(140dB以上)且つ広帯域(0〜1MHz、原理的には1GHzやそれ以上の周波数でも可)の粗密波に対しても測定が可能であり、さらにはばらつきが少ないマイクロフォン装置の設計が可能となる。
【0033】
また、一対の光検出器2a,2bは、それぞれの検出部が連続して隣り合う位置に配置されることが好ましい。例えば、光検出器2aと光検出器2bとが同じ数のフォトセンサからなる検出器であった場合、それらの境界におけるフォトセンサ間の間隔は、好ましくは光検出器2a(及び光検出器2b)内のフォトセンサの間隔と同じに配設するとよい。
【0034】
図3は、図1のマイクロフォン装置の回路構成の一例を示す図で、図中、10はマイクロフォン装置1の一例としてのマイクロフォン装置、11は信号発生器の一例としての高速信号発生器、12は光パルス信号発生器の一例としてのレーザダイオード、13は光検出器2a,2bの一例としての2分割受光器、14a,14bは増幅器(アンプ)、15a,15bはスイッチ、16a,16bはコンデンサ、17は差分演算処理回路、18はリシェイプ処理回路、19はデシメーションフィルタである。
【0035】
上述した変換手段としては、光発生器、差分手段、並びに閾値処理手段を備え、1ビットのデジタル信号列をデジタル音声信号として出力することが好ましい。光発生器としては、10MHz等の高速のパルスを発生させる高速信号発生器11、及び、高速信号発生器11で発生したパルスで駆動され、そのパルスに応じたレーザ光Lを発生させるレーザダイオード12等で構成される。
【0036】
なお、高速信号発生器11での振動数が、音声信号の信号密度に対応することになる。従って、本発明に係るマイクロフォン装置10(後述するように1ビットADコンバータを具備)を実現するには、可能な限り高サンプリングであることが好ましい。ここでは、再生メディアSACDは2.8MHz、1ビットデジタルアンプでは10MHzで実現されているので、コーデイング系ではサンプリング周波数は、例えば最低10MHzとすることが好ましい。
【0037】
差分手段とは、2分割受光器(一対の光検出器2a,2b)との間に存在する気体の密度差を、それぞれの受光部において光発生器から受けた光の検出量の差分を求める手段であり、スイッチ15a,15b及びコンデンサ16a,16bで例示するサンプルホールド部と差分演算処理回路17とで例示する。
【0038】
差分演算処理回路17は、このサンプルホールド部によって、時間的にディレイを生じさせ、A1信号及びA2信号の入力に対し、差分をとる。このディレイは、高速信号発生器11の発生信号によってスイッチ15a,15bを交互にスイッチングすることで生じさせている。また、このスイッチングによって、オン期間に、それぞれコンデンサ16a,16bに蓄えられた電荷が、差分演算処理回路17に入力され、それらの差がアナログ信号として差分演算処理回路17から出力される。コンデンサ16a,16bにより、標本化がなされているとも言える。A1信号,A2信号に対し、高速信号発生器11の発生周期の間で受光する総受光量分の電荷が、それぞれコンデンサ16a,16bに蓄えられ、差分演算処理回路17に出力されることとなる。また、図3の例では、それぞれの受光部で受光した受光量の信号A1,A2が弱いときなどにも対応可能なよう、それぞれアンプ14a,14bを介して信号を増幅している。
【0039】
また、閾値処理手段は、この差分手段で得られた差分を所定の閾値で閾値処理して1ビットのデジタル信号列を出力する手段であり、差分演算処理回路17から出力されたアナログ信号を、高速信号発生器11の発生周波数又はそれと同等の周波数(同期をとる必要はある)でリシェイプして、1ビットのデジタル信号列をデジタル音声信号として出力するリシェイプ処理回路18で例示している。なお、閾値処理手段は、リシェイプ処理回路18だけでなく、上述のサンプルホールド部の一機能も含まれるとも考えられる。
【0040】
上述のごとき構成により、マイクロフォン装置10では、振動板を用いず、音圧を直接、粗密波で測定するものである。このマイクロフォン装置10は、高速パルス信号発生器11(10MHz)で発生した信号により、レーザをパルス駆動し、それに相対して配置した2分割受光器13とレーザ光Lの発生元との間を被測定空気が通過し、密度差により、屈折率が変り、光の進行方向が曲げられ、それに従い受光部13の2分割受光では曲がる方向により得られる光信号(A1信号及びA2信号)を生成する。さらに、マイクロフォン装置10は、生成した光信号をアンプ14a,14bで増幅して、サンプルホールド部で、高速信号発生器11の発生周波数でサンプルホールドされたそれらのサンプルホールド信号を、差分演算処理回路17で差分演算処理する。
【0041】
リシェイプ処理回路18では、最初の高速パルス信号により波形整形処理して、1ビットのデジタル信号列を出力する。リシェイプ処理回路18は、差分演算処理回路17から出力されたアナログ信号を、高速信号発生器11の高速パルス信号(ここでは10MHz)により、A1>A2のときに“1”、A1<A2のときに“0”、といった具合に波形整形処理する。なお、図1の例では、A2信号のほうが信号成分が大きい瞬間であり“0”が出力される。ここで生成・出力されるデジタル信号列は、高速の1ビットストリーム信号であり、高速信号発生器11での発生周波数に基づく速さをもっている。
【0042】
このように、本発明の方式は、受光器13、アンプ14a,14b、スイッチ15a,15b、コンデンサ16a,16b、差分演算処理回路17、及びリシェイプ処理回路18によって、上述のストリーミング列が高速1ビットADコンバータ信号となる1ビットADコンバータを構成しているとも言える。従って、本発明に係るマイクロフォン装置10は、光で検出すること、並びにそれをADコンバータで変換することの2点の特徴をもち、さらにそのADコンバータは1ビットADコンバータである。このように、本発明は、1ビット技術をシステムの中に取り込んだものであり、結果として高性能化が図れる。本発明に係るマイクロフォン装置10は、振動板を用いず、高速光パルス信号によって駆動する1ビットADコンバータ内蔵のマイクロフォン装置、或いは1ビットADデジタルマイクロフォンであるとも言える。
【0043】
また、このマイクロフォン装置10は、ディレイが高速信号発生器11の周期分しか、例えば10MHzでサンプリングした場合10Mビットのディレイしか存在しないので、品質的にアナログに近い信号であるだけでなく、デジタル信号であるので、ラインを通した際、記録や再生する際でも、アナログ信号のように劣化を生じない。
【0044】
また、後述するような1ビットデジタル信号の記録装置や再生装置が一般的に使用されるまでは、このままの信号では、処理できない装置の場合に対応可能とする必要がある。そのため、マイクロフォン装置10は、デシメーションフィルタ19を備えることが好ましい。デシメーションフィルタ19は、上述の変換手段出力された1ビットのデジタル音声信号(図3ではリシェイプ処理回路18から出力された信号)をマルチビットのデジタル信号にするフィルタ(符号化フィルタとも言える)であり、間引き処理を行うフィルタであっても、平滑化を行うフィルタであってもよく、その形態は問わない。
【0045】
また、マイクロフォン装置1としては、上述のごとく光発生器は必須でなく、外部の光発生装置と接続されていてもよいが、少なくとも光検出器2a,2bに対して固定されている必要がある。なお、本明細書中では、マイクの形状(音声を受ける部分の形状)は問わないが、マイクの形状としては、レーザ光Lを照射する部分を音が入らないように覆い、音声通過部分を上手く他の部分と分けておくとよい。
【0046】
図4は、本発明の他の実施形態に係る音声記録装置の回路構成例を示す図で、図中、20は1ビット記録手段の一例としての記録媒体駆動装置、30は記録ディスクである。ここで、図3と同じ構成要素には同じ符号を付して、その応用を含めた説明を省略する。
【0047】
本発明に係る音声記録装置は、上述のごときマイクロフォン装置10を備え、変換手段で出力された1ビットのデジタル音声信号を、光発生器における光の発生周波数(又は発生周波数と同等の周波数;但し同期の必要あり)により駆動して記録する1ビット記録手段とを備えるものとする。
【0048】
図4では、この1ビット記録手段の一例として記録媒体駆動装置20(及びその記録対象の記録ディスク30)を備えた例を示している。記録媒体駆動装置20は、高速信号発生器11の発生周波数を駆動クロックとして用いるか、或いは同期が必要であるが同等の周波数を駆動クロックとして用いる。記録ディスク30としては、DVDやCD、Blu−rayディスクなど、様々なディスクメディアが挙げられるが、他の形状のメディアであってもよい。また、記録ディスク30の代わりに、記録媒体駆動装置20がハードディスクドライブ(HDD)及びそのコントローラであり、記録媒体がHDである場合も適用可能である。
【0049】
また、本発明に係る音声記録装置によれば、上述のマイクロフォン装置を備えており、その1ビットデジタル信号をそのまま記録するので、劣化なく音声信号を記録することが可能となる。また、この音声記録装置は、デシメーションフィルタ19を備えた形態であっても適用可能であるが、フィルタ通過後の信号がマルチビット信号となる。
【0050】
図5は、本発明の他の実施形態に係る音声記録再生装置の回路構成例を示す図で、図中、21は1ビット記録手段兼音声出力手段の一例としての記録媒体駆動装置、22はアンプ、23はローパスフィルタ(LPF)、24はスピーカである。ここで、図3及び図4と同じ構成要素には同じ符号を付して、その応用を含めた説明を省略する。
【0051】
本発明に係る音声記録再生装置は、図4で説明のごとき音声記録装置を備え、音声記録装置で記録された1ビットのデジタル音声信号を、光発生器における光の発生周波数(又は発生周波数と同等の周波数;但し同期の必要あり)により駆動して読み出して、1ビットのデジタル音声信号で出力する音声出力手段を備えるものとする。
【0052】
図5では、この1ビット記録手段兼音声出力手段の一例として記録媒体駆動装置21(及びその記録/読出対象の記録ディスク30)を備えた例を示している。記録媒体駆動装置21において、1ビット記録手段として記録部を、音声出力手段として再生部を例示している。記録媒体駆動装置21は、高速信号発生器11の発生周波数を駆動クロックとして用いるか、或いは同期が必要であるが同等の周波数を駆動クロックとして用いる。記録ディスク30も、図4で説明したものと同様であり、また記録媒体がHDである場合も適用可能である。
【0053】
さらに、図5の例では、記録媒体駆動装置21における再生部から出力した1ビットデジタル信号をアンプ22で増幅し、LPF23を経て、アナログ信号に変換して、スピーカ24で音声として再生している。
【0054】
このように、本発明に係る音声記録再生装置によれば、上述の音声記録装置を備え、劣化なく音声信号を取得して記録し、それを出力することが可能となる。また、この音声記録再生装置は、デシメーションフィルタ19を備えた形態であっても適用可能であるが、フィルタ通過後の信号がマルチビット信号となる。このように、マイクロフォン装置からの記録のサンプリングと、同じサンプリング周波数で再生する一体型のシステムを構築することで、入力から出力まで、一番良い状態でデジタル保存できる。ここで、例えば再生系が20MHzなら発生器も20MHzなど、等価にすることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の一実施形態に係るマイクロフォン装置の一構成例を示す図である。
【図2】音声の粗密によって変わる媒体としての気体の屈折率の変化を概略的に説明するための図である。
【図3】図1のマイクロフォン装置の回路構成の一例を示す図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係る音声記録装置の回路構成例を示す図である。
【図5】本発明の他の実施形態に係る音声記録再生装置の回路構成例を示す図である。
【図6】従来の振動板方式のマイクロフォン装置の原理を説明するための概略図である。
【図7】現状の音環境を説明するための図である。
【図8】可聴帯域を超える周波数帯域をもった楽器等を説明するための図である。
【図9】従来(非特許文献1)の光反射を利用したマイクロフォン装置を説明するための模式図である。
【符号の説明】
【0056】
1,10…マイクロフォン装置、2a,2b…光検出器、11…高速信号発生器、12…レーザダイオード、13…2分割受光器、14a,14b,22…増幅器(アンプ)、15a,15b…スイッチ、16a,16b…コンデンサ、17…差分演算処理回路、18…リシェイプ処理回路、19…デシメーションフィルタ、20,21…記録媒体駆動装置、23…ローパスフィルタ(LPF)、24…スピーカ、30…記録ディスク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高い周波数の電磁波を用い、音声信号を取り出すマイクロフォン装置であって、前記電磁波の発生元に相対して設けられた一対の電磁波検出器と、前記発生元と前記一対の電磁波検出器との間に存在する気体の密度差を、それぞれの電磁波検出器において前記発生元から前記気体を介して受けた電磁波の検出量の差分をとることによって、1ビットのデジタル音声信号に変換して出力する変換手段とを備えたことを特徴とするマイクロフォン装置。
【請求項2】
前記電磁波を発生する電磁波発生器を備えたことを特徴とする請求項1に記載のマイクロフォン装置。
【請求項3】
前記一対の電磁波検出器は、それぞれの検出部が連続して隣り合う位置に配置されることを特徴とする請求項1又は2に記載のマイクロフォン装置。
【請求項4】
前記変換手段は、前記発生元と前記一対の電磁波検出器との間に存在する気体の密度差を、それぞれの電磁波検出器において前記発生元から前記気体を介して受けた電磁波の検出量の差分を求める差分手段と、該差分手段で得られた差分を所定の閾値で閾値処理して1ビットのデジタル信号列を出力する閾値処理手段とを有し、前記1ビットのデジタル信号列を前記デジタル音声信号として出力することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のマイクロフォン装置。
【請求項5】
前記閾値処理手段は、前記閾値処理後のアナログ信号を前記発生元の電磁波の発生周波数又は該発生周波数と同等の周波数によりリシェイプして、前記1ビットのデジタル信号列を前記デジタル音声信号として出力することを特徴とする請求項4に記載のマイクロフォン装置。
【請求項6】
前記変換手段で出力された1ビットのデジタル音声信号をマルチビットのデジタル信号にするフィルタをさらに備えたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のマイクロフォン装置。
【請求項7】
前記電磁波は光であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のマイクロフォン装置。
【請求項8】
前記電磁波を発生する発生元として、前記高い周波数のパルス信号を発生する信号発生器と、該信号発生器で発生したパルス信号に基づき、レーザ光を発生する光パルス信号発生器とを備えたことを特徴とする請求項7に記載のマイクロフォン装置。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載のマイクロフォン装置と、前記変換手段で出力された1ビットのデジタル音声信号を、前記発生元の電磁波の発生周波数又は該発生周波数と同等の周波数により駆動して記録する1ビット記録手段とを備えた音声記録装置。
【請求項10】
請求項9に記載の音声記録装置と、該音声記録装置で記録された1ビットのデジタル音声信号を、前記発生元の電磁波の発生周波数又は該発生周波数と同等の周波数により駆動して1ビットのデジタル音声信号で出力する音声出力手段とを備えた音声記録再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−36690(P2007−36690A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−217316(P2005−217316)
【出願日】平成17年7月27日(2005.7.27)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】