説明

マイクロプレート用アダプター

【課題】マイクロプレートのウェル内に注入する試料溶液の量が僅かなものであっても、吸光度の感度を高めて正確な測定値を得ることの出来るマイクロプレート用アダプターを提供する。
【解決手段】複数のウェルが配列されたマイクロプレートに用いるマイクロプレート用アダプターにおいて、前記ウェルに挿入するための内部に貫通孔を持つ挿入部と、前記貫通孔の一方の側に前記貫通孔を覆うように配置した光学的に透明な天板と、前記天板と挿入部との間に設けられた前記貫通孔と連通する排出口と、前記排出口に接続するオーバーフローチャンバとから成るウェルモジュールを持ち、前記挿入部を前記ウェルに対応するように前記ウェルモジュールを列状に連結したマイクロプレート用アダプター。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロプレート内に充填された溶液の吸光度を測定する際に用いるマイクロプレート用アダプターに関するものであり、特に試料の濃度を特定するELISA法(Enzyme−Linked ImmunoSorbent Assay)を用いた発色測定に好適に利用できるものである。
【背景技術】
【0002】
免疫分析の代表的なものとしてELISA法がある。一般的なELISA法では抗体−抗原反応を用いたサンドイッチ法が実施される。サンドイッチ法は試料となる特定の抗原(蛋白質、ペプチド)と、抗原を特異的に結合するように作製された抗体と、測定のための標識剤を標識した抗体が用いられる。標識剤は測定原理の種類によって異なる。発色法であれば西洋ワサビペルオキシダーゼやアルカリホスフォターゼなどが、発光法であればルシフェラーゼが、電気化学発光法であればルテニウム錯体、アクリジニウム誘導体などが標識剤として用いられる。
【0003】
ELISA法の一般的な手順としては、まず抗体を物理化学的な吸着反応により、測定容器に固定化し、その後固定化していない抗体を洗浄液にて洗浄する。次にノイズとなる不必要な物理化学吸着による標識抗体などの物理化学的な非特異吸着を抑えるため、ブロッキングと呼ばれる操作を行う。実際には、スキムミルク、牛血清アルブミンやゼラチンといった蛋白質の中から、用いた抗原、抗体の反応に影響を及ぼさない蛋白質溶液で抗体が結合している部分以外を覆うように吸着させる。このように準備された測定容器に対して抗原を含む溶液(一般的にはこれが試料と呼ばれる)を加え抗原抗体反応を起こさせる。次に標識剤を標識した抗体溶液を分注し測定容器−抗体−抗原−標識抗体の複合体を形成し、種々の測定法を用いて測定することで試料である抗原の量を測定する。
【0004】
発色法の標識剤として用いられる西洋ワサビペルオキシダーゼ(以下、HRP)は、3、3’、5、5’−tetramethyl−benzidene(以下、TMB)などの発色液と反応することで、HRP濃度に比例したに発色反応を起こす。一定時間の後、塩酸や硫酸などの停止液を加えることで発色反応が停止する。上述したELISA法後に発色させた溶液は、試料濃度に依存した発色量を有する。
【0005】
ELISA法を用いた発色法では、発色後の試料溶液の吸光法を利用して吸光度をシグナルとして得ることができる。吸光度とは、試料溶液に光を透過させ、その入射光強度と透過光強度の比を常用対数で表した数値である。入射光をT0、透過光をT1、吸光係数をα、試料溶液の距離Lとしたとき、ランバート・ベールの法則として表されるlog(T1/T0)=−αLの式より、溶液の濃度と溶液の厚さに比例する。
【0006】
濃度未知の試料の濃度を定量するためには、さらに、未知の試料と同様のウェルおよび測定プロトコルで、複数の濃度の異なる濃度既知の試料の吸光度を得る。その結果より吸光度と濃度の相関を表す検量線を作成し、その検量線上に濃度未知の試料の吸光度を照らし合わせることにより、試料の濃度を定量する手段がとられている。
【0007】
ELISA法で用いられる測定容器としては、マイクロプレート、チューブ、磁気ビーズなどの種類がある。特に、マイクロプレートは一度に多くの試料を分析できるように多くのウェルを持つので、広く使用されている。このようなマイクロプレートには、96個のウェルを有する96ウェルマイクロプレートや、384個のウェルを有する384ウェルマイクロプレートがある。また、マイクロプレートの外形やウェル間ピッチなどの寸法は、事実上標準化されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2000−513819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記従来の構成では、正確な吸光度を得るためには、ウェルの容積一杯に満たす量の試料溶液が必要であり、僅かな試料溶液では吸光度の感度が低く正確な測定値が得られないという課題を有していた。
【0010】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、マイクロプレートのウェル内に注入する試料溶液の量が僅かなものであっても、吸光度の感度を高めて正確な測定値を得ることの出来るマイクロプレート用アダプターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記従来の課題を解決するために、本発明のマイクロプレート用アダプターは、複数のウェルが配列されたマイクロプレートに用いるマイクロプレート用アダプターにおいて、前記ウェルに挿入するための内部に貫通孔を持つ挿入部と、前記貫通孔の一方の側に前記貫通孔を覆うように配置した光学的に透明な天板と、前記天板と挿入部との間に設けられた前記貫通孔と連通する排出口と、前記排出口に接続するオーバーフローチャンバとから成るウェルモジュールを持ち、前記挿入部を前記ウェルに対応するように前記ウェルモジュールを列状に連結したことを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のマイクロプレート用アダプターによれば、既存のマイクロプレートに装着するだけで、少ない量の試料溶液の吸光度を増加できるので、試料濃度の検出感度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のマイクロプレートおよびマイクロプレート用アダプターの全体図
【図2】(a)本発明のマイクロプレート用アダプターの斜視図(b)本発明のマイクロプレートモジュールの断面図(c)本発明のウェルモジュール201のA−A’方向の断面図
【図3】マイクロプレートを使った吸光度測定の条件を示す図
【図4】本発明のマイクロプレート用アダプターの効果を示す図
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明のマイクロプレート用アダプターの実施の形態を図面とともに詳細に説明する。
(実施の形態1)
図1を用いて、本発明の実施の形態1でのマイクロプレート用アダプターを説明する。図1(a)に、マイクロプレート101の斜視図を示す。このマイクロプレート101は、8連ストリップ102とプレート103との二つの部材から出来ており、8連ストリップ102は、図のように8個のウェル104が一列に連結されており、その両端にフレーム面105とを持っている。フレーム面105は、8連ストリップ102とプレート103との位置決めに用いる。ウェル104は、その内部に試料溶液を収納するための凹部であり、上部が開放された円筒形状である。本実施例では、ウェル104の最上部の内径を7mm、底部106の内径を6.5mm、その肉厚を約1mmとした。また、その材質は透明のPP(Polypropylene)、あるいはPE(Polyethylene)などが良い。また、測定光がウェル104の内部を透過できれば良いので、底板106が透明であればウェルの外周面107の色は黒など透明でなくても良い。
【0015】
プレート103は、嵌め込み部108と、プレート103から構成される。嵌め込み部108は、8連ストリップ102を嵌め込むためのもので、プレート103上に12個設けられている。本実施例では、フレーム109の外形を127mm×85mm、高さを15mmとした。このプレート103には、ウェル104内に試料溶液が充填された8連ストリップ102を設置して、吸光度を測定する為の汎用吸光度計などに使用することができる。図1(b)に、本発明のマイクロプレート用アダプター109を示す。これを、後述するように8連ストリップ102の上方から挿入して使用する。
【0016】
図2(a)は、本発明の実施例1におけるマイクロプレート用アダプターを上方から見た斜視図である。図に示すように、マイクロプレート用アダプター109は、8連ストリップ102のウェル104に対応するように、ウェルモジュール201が配置されている。ウェルモジュール201は、本体202で連結され、その上部に貫通孔205を塞ぐように天板203が配置されている。この部位には、図2(c)で述べるように、貫通孔205との間に僅かな隙間を設け貫通孔205内部の余分な試料溶液を排出するための排出口が設けられている。本体202の材質は、黒色のPOM(Polyacetal)であるが、他のプラスチック、および金属、ガラス等であっても良いが、天板203は入射光の強度を損なわないガラスやPMMAなどの透過率の高い材料でないといけない。
【0017】
図2(b)は、本発明のマイクロプレート用アダプターを底面側から見た斜視図である。挿入部204は8連ストリップ102のウェル104に挿入するための挿入部であり、挿入部の先端には位置決め面208と導入口206とが設けられている。導入口206には、貫通孔205が設けられている。導入口206の周縁部は、試料溶液を貫通孔205に導入する時に気泡が混入しないように1mmのアール形状をしている。また、導入口206の先端はテーパ形状をしており、本実施例では、先端のテーパを1°とし、導入口206の外径をφ6.5mmとした。位置決め面208は、導入口206の底部であり、ウェルモジュール201を8連ストリップ102のウェル104に挿入した際に位置決め面208とウェル104が接触することで、ウェルモジュール201とウェル104との位置関係を拘束する。また、ウェルモジュール201の高さを11mmとし、貫通孔205は、内径φ2.8mm、天板203までの距離13.3mmの貫通穴とした。これは、マイクロプレート用アダプターを挿入する8連ストリップ102の寸法に合わせて適宜、設計すればよい。
【0018】
図2(c)に、一つのウェルモジュール201のA−A’方向の断面図を示す。本体202の内部には、導入口206から天板203に向かう貫通孔205があり、天板203と本体202には僅かの隙間を設けた排出口207によりオーバーフローチャンバ209と連通している。排出口207と貫通孔205との接続部には、試料溶液を貫通孔205に排出する時の気泡の混入を防ぐため、1mmのアール形状が付けられている。また、貫通孔205の内面は光の散乱を避ける為、平滑で、かつ黒色であることが望ましい。オーバーフローチャンバ209は、排出口207から排出された試料溶液を貯留するためのチャンバであり、本実施例では、容量を50ulとした。天板203は、耐薬品性の高い紫外線硬化樹脂などの接着剤を用いて、貫通孔205の最上部に接着されている。導入口206からである。
【0019】
本発明の第1の形態における有効性を確認する為に、上述したマイクロプレートおよびマイクロプレート用アダプターを使用して、以下のような実験を行った。図3にマイクロプレートを使った吸光度測定の条件を示す。
【0020】
図3(a)は、マイクロプレート用アダプターを使用しない、すなわち、従来の技術を使用した測定条件を示す。図3(a)において、8連ストリップ102のウェル104内に充填された試料溶液が200ulのとき、試料溶液の高さ(装着前)301は、5.6mmであった。この状態で、汎用の吸光度計にセットし、ウェル104の上下に発光面302、受光面303を配置する。こうして測定された受光面303による吸光度の測定結果を従来例とした。
【0021】
図3(b)は、マイクロプレートに本願発明のマイクロプレート用アダプターを装着した図である。マイクロプレート用アダプター109の挿入部204を、マイクロプレート用アダプター109を位置決め面208がマイクロプレートのウェル104の底部106に接触するまで挿入する。すると、ウェル104内の試料溶液は、マイクロプレート用アダプター109の導入口206を介して貫通孔205に充填される。もし、ウェル104内に充填された試料溶液が貫通孔205の体積よりも多ければ、余分な試料溶液は排出口207を通してオーバーフローチャンバ209に貯留される。このように、マイクロプレートにマイクロプレート用アダプター109を装着した状態で、測定された受光面303による吸光度の測定結果を実施例とした。
【0022】
吸光度測定に用いる試料には、EPSON製インクジェットプリンター用インク(型番:ICY50)を用い、これを蒸留水で希釈したものを試料溶液とした。マイクロプレートには、Nunc製96穴マイクロプレート(型番:469957)を用い、このウェルに、試料溶液を各200μlずつ注入した。その後、ウェル内の試料溶液の吸光度を、バイオテック社製全自動比色計(Immuno Mini NJ−2300)により測定した。測定波長620nmと測定波長420nmの吸光度をそれぞれ測定し、両者の差分を本実施例での吸光度とした。この測定を、従来例と実施例とで、合計160ウェル分(8ウェル×4列×5回)行った。
【0023】
以上の様にして測定した従来例と実施例における160ウェル分の吸光度の平均とCVとを表1に示す。また、平均値を図4にグラフ化した。
【0024】
【表1】

【0025】
表1及び図4に示した実験結果より、同濃度の試料溶液において、従来例のシグナル(吸光度)0.63と比較して、実施例のシグナルは1.55と、約2.5倍高い値を示している。これは本発明による実施例が、試料溶液の高さを増加させることで、従来例に比べて高いシグナルが得られたことを示している。
【0026】
また、従来例の4.7%に対して実施例である本発明のCVは、2.2%と2.5%良化していた。これは本発明のマイクロプレート用アダプターを使用すると、マイクロプレートのウェル内部の試料溶液の高さを揃えることが出来るので、従来例に比べて測定の精度が向上したことを示している。
【0027】
以上のように、本発明のマイクロプレート用アダプターを使用すると、ウェル104にウェル104の内径よりも細い貫通孔205を有するマイクロプレート用アダプター109を装着することにより、少ない試料溶液でも、得られる吸光度を約2.5倍上昇させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明にかかるマイクロプレート用アダプターは、マイクロプレートのウェル内に充填された試料溶液の容量を増加させることなく溶液の厚みを増加させ、得られる吸光度を上昇させることにより、試料濃度の検出感度を向上させることができる機能を有し、マイクロプレート内に充填された溶液の吸光度を測定する際に有用である。
【0029】
本発明にかかるマイクロプレート用アダプターは、マイクロプレートのウェル内に充填された試料溶液の容量を増加させることなく溶液の厚みを増加させ、得られる吸光度を上昇させることにより、試料濃度の検出感度を向上が必要な試料の濃度を特定するELISA法(Enzyme−Linked ImmunoSorbent Assay)を用いた発色測定等の用途にも適用できる。
【符号の説明】
【0030】
101 マイクロプレート
102 8連ストリップ
103 プレート
104 ウェル
105 フレーム面
106 底板
107 外周面
108 嵌め込み部
109 マイクロプレート用アダプター
201 ウェルモジュール
202 本体
203 天板
204 挿入部
205 貫通孔
206 導入口
207 排出口
208 位置決め面
209 オーバーフローチャンバ
301 試料溶液の高さ(装着前)
302 発光面
303 受光面
304 試料溶液の高さ(装着後)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のウェルが配列されたマイクロプレートに用いるマイクロプレート用アダプターにおいて、
前記ウェルに挿入するための内部に貫通孔を持つ挿入部と、
前記貫通孔の一方の側に前記貫通孔を覆うように配置した光学的に透明な天板と、
前記天板と挿入部との間に設けられた前記貫通孔と連通する排出口と、
前記排出口に接続するオーバーフローチャンバとから成るウェルモジュールを持ち、
前記挿入部を前記ウェルに対応するように前記ウェルモジュールを列状に連結したマイクロプレート用アダプター。
【請求項2】
前記ウェルモジュールの挿入部の先端には、前記マイクロプレート用アダプターと前記マイクロプレートとを接続するときの位置決めをおこなう位置決め面とを備える請求項1に記載のマイクロプレート用アダプター。
【請求項3】
前記貫通孔と前記排出口との接続部が、R面で滑らかに形成されている請求項1に記載のマイクロプレート用アダプター。
【請求項4】
前記挿入部の外径が、前記ウェルの内径よりも小さい請求項1に記載のマイクロプレート用アダプター。
【請求項5】
前記挿入部の前記ウェルに挿入する挿入長さが、前記ウェルの深さより大きい請求項1に記載のマイクロプレート用アダプター。
【請求項6】
前記貫通孔の内壁は、光を反射しない色である請求項1に記載のマイクロプレート用アダプター。
【請求項7】
前記天板が光の透過率が90%以上である材料で構成される請求項3に記載のマイクロプレート用アダプター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−257210(P2011−257210A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−130717(P2010−130717)
【出願日】平成22年6月8日(2010.6.8)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】