説明

マイクロプレート

【課題】
マイクロプレートにおいて、真空マニホールドへの装着性を改善し、かつ、ろ過液のロスを抑制することにより回収性、保存性の向上を図り、ろ過および保存に最適のマイクロプレートを提供する。
【解決手段】
複数のウェルと、前記複数のウェルの周囲に配置されるフレーム部材とを有するマイクロプレートであって、前記ウェルの開口部の端面が、フレーム部材よりも突出していることを特徴とし、ウェル部材の開口部の端面は、フレーム部材より上に突出しいることでフィルタープレート保持具に装着した際、フィルタープレート保持具の装置の厚みに影響されることなく、フィルタープレート底部とマイクロプレートウェル端面との間隙を少なくすることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料回収、保存用において用いる多検体処理用のマイクロプレートおよびその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にディープウェルプレートと呼ばれる容量拡大型のマイクロプレートは、ハイスループットスクリーニングの開発に応じて、検体溶液の保存、検体の希釈や混合作業のために開発された物であり、それまでマイクロチューブで1本づつ行われていた作業を効率的に行うため、代表的なマルチウェルプレートである96,384ウェルプレートに形状を合わせて自動システムに適応した形状となっている。
【0003】
ディープウェルプレートは、前述のように一般的に良く使用されるマルチウェルプレートを平面形状とウェルの位置やウェル間の間隔を変えずに、高さ方向に延伸した形状で、各ウェルの容量を拡大したものであり、前述の検体溶液の保存や、希釈処理などに自動分注装置との組み合わせによって活用されている。
【0004】
例えば、一般的な96ウェルプレートのサイズが、横127.6mm、奥行85.8mm、高さ14mmでウェル容量が0.4mLであるのに対し、ディープウェルプレートは、横、奥行は同じで、高さが40〜90mmでウェル容量が1〜3mLの物が市販されている。
【0005】
現在、市販されているディープウェルプレートは、前記のようにプレートを縦方向にストレッチした形状である。
【0006】
こうしたディープウェルプレートは、前記のようにハイスループットスクリーニングに用いられるが、サンプルフィルトレーションの工程においても必須の容器としても用いられる。サンプルフィルトレーションは、μL、mLスケールで多種類のサンプルのろ過を迅速に行うために96、384ウェルのウェルの底をメンブレンフィルターボトムにしたフィルタープレートを用いて行うものである。96、384ウェルのプレート(ディープウェルプレートを含むマイクロプレート)で調製した試料を必要に応じてフィルトレーションする時に、前記フィルタープレートを用いて、加圧または吸引により溶液をろ過するものであるが、この時にろ過液の受け具として、ほとんどの場合、容量が大きいことからディープウェルプレートが用いられる。
【0007】
前記フィルトレーション作業に適した真空マニホールドが開発されている。こうした治具の特徴としてはフィルタープレートの下部に、ろ過液を格納するためのマイクロウェルプレート、多くの場合はディープウェルプレートを設置し、吸引脱気することでろ過する方式が採用されている。
【0008】
吸引脱気によりろ過するためには、ディープウェルプレート全体を上部が開口しその他は密閉できる真空マニホールドの中に入れ、その上にフィルタープレートを配置する方式が取られるが、その際、吸引脱気を確実にするために容器上面にゴムなどの弾性体からなる封止材(パッキン)を設置し、その上にフィルタープレートを配置して密閉性を確保する場合が多い。
【0009】
従って、フィルタープレート、ろ過液格納のためのディープウェルプレートの間には封止材、ならびに封止材を保持するための容器部分が存在し、フィルタープレートとディープウェルプレートとは直結せずある程度の間隙を保って配置しており、それは、容器本体の厚みとそれに付随する真空マニホールドの封止材の厚みである。容器そのものは吸引脱気に対して変形を惹起しないだけの強度が必要であるため、その強度を保つための厚みが必要である。
【0010】
こうした場合、フィルタープレートによりろ過されたろ過溶液が、垂直方向にのみ滴下することなく飛沫として飛散する場合があり、その際に、装置の構造上発生しているフィルタープレートとディープウェルプレートとの隙間の存在により、隣接する他のウェルへの混入が観察され、それがハイスループットスクリーニングの精度を著しく落とす原因にもなっている。この問題点は、特に表面張力の弱い有機溶媒においては顕著である。
【0011】
こうした問題点を解決するために、特許文献1において新規な真空マニホールドの発明がなされている。これは、フィルタープレートと受け具となるマルチウェルプレートとを密着させ、ろ液が飛散しても隣接するウェルへの混入を防ぐ構造となっている。しかしながら、プレート間の勘合、ならびにマニホールドの組み立てと精度が要求され、専用のプレート、マニホールドでのみ使用可能で、既に稼動している自動分注システムから変更する必要があるなどの欠点が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008−116474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、多検体処理に用いるマイクロウェルプレートにおいて、ウェル開口部位置を改変することにより、検体の回収性、保存性の向上を図ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このような目的は、下記(1)〜(6)に記載の本発明により達成される。
(1)複数のウェルと、前記複数のウェルの周囲に配置されるフレーム部材とを有するマイクロプレートであって、前記ウェルの開口部の端面が、フレーム部材よりも突出していることを特徴とするマイクロプレート。
(2)前記ウェル部材の開口部の端面は、フレーム部材よりも5mm以上30mm以下で突出しいるものである(1)に記載のマイクロプレート。
(3)前記ウェルの開口部と反対側の端は、U字状またはV字状の底部である(1)または(2)に記載のディープウェルプレート。
(4)フィルタープレートと、フィルタープレート保持具と、(1)ないし(3)のいずれかに記載のマイクロプレートで構成されている真空マニホールド
(5)フィルタープレート底部と、(1)ないし(3)のいずれかに記載のマイクロプレートのウェル上端との間隙が0.5mm以上10mm以下である(4)に記載の真空マニホールド。
(6)フィルタープレートウェル部と、(1)ないし(3)のいずれかに記載のマイクロプレートのウェル内面との間隙が0.3mm以上1mm以下である(4)に記載の真空マニホール。
(7)(1)ないし(3)のいずれかに記載のマイクロプレートが、96ウェルまたは384ウェルプレート形状であるマイクロプレート。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、マイクロプレートにおいて、真空マニホールドへの装着性を改善し、かつ、ろ過液のロスを抑制することにより回収性、保存性の向上を図り、ろ過および保存に最適のマイクロプレートを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明によるマイクロプレート斜視図
【図2】本発明によるマイクロプレート平面図
【図3】本発明によるマイクロプレート正面図
【図4】A−A‘断面図
【図5】U字状底部マイクロプレートA−A‘断面図
【図6】V字状底部マイクロプレートA−A‘断面図
【図7】真空マニホールド装着断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のマイクロプレートの詳細について説明する。
【0018】
本発明におけるマイクロプレートの形状は、複数のウェルと、前記複数のウェルの周囲に配置されるフレーム部材とを有するマイクロプレートであり、前記ウェルの開口部の端面が、フレーム部材よりも突出していることを特徴としている。その結果、ウェル開口部がプレートフレーム部上方へ延長した構造をとり、通常のプレートの上にウェル側面部が立ち上がっている形状であり、外見はフレーム部材にチューブ形状の物が多数結合している形状である。
【0019】
開口部の端面は、フレーム部材よりも5mm以上30mm以下で突出しており、好ましくは5mm以上10mm以下で突出しているものである。
【0020】
また、立ち上がっているウェルはそれぞれ独立した形状でもよいし、また一体化した形状でもかまわないが、強度的には一体化した形状であることが好ましい。
【0021】
また、立ち上がっているウェル側面の高さは、基本的には、すべてのウェルが同じ高さであることが望ましい。これは、フィルタープレートのろ過溶液の格納用途に使用するには必須である。
【0022】
しかしながら、立ち上がっているウェル側面の高さは、用途に応じて同一プレートの中で異なる高さのものがあってもかまわない。
【0023】
ウェルの開口部と反対側の端の形状は、特に限定するものではなく、通常のマイクロプレート同様、平坦になっているもの(図2)でもよいが、内溶物の回収における回収残渣を少なくする点において、下端部に向かって縮径していく断面形状がU字状またはV字状の底部であることが好適である(図3、4)。
【0024】
本発明のマイクロプレートは、6ウェル、12ウェル、24ウェル、48ウェル、96ウェル、384ウェル、1536ウェルの一般的なマイクロプレートと同じウェル数のものであればよく、これはハイスループットスクリーニングにおける分注機の操作性を良くするものである。特に、ハイクスループットスクリーニングにおいて良く使用され、専用の自動分注機が市販されている96ウェルまたは384ウェル形状のマイクロプレートが好適である。
【0025】
一般的なマイクロプレートのサイズは、横127.6mm、奥行85.8mm、高さ14mmでウェル容量が0.4mLである。本発明のマイクロプレートは、横と奥行は一般的なマイクロプレートと同サイズが好ましく、これは手動または自動分注機を使用した場合において、その分注機の設定の変更を行う必要がなく、作業性に優れるからである。また、本発明のマルチウェルプレートは、ウェルの容量が必要となるので、マイクロプレートの高さで該ウェル容量を確保している。従って、高さ40〜90mmが好ましく、好適には40〜50mmの高さである。
【0026】
本発明のマイクロプレートは、樹脂製の材料で成形することができる。この樹脂材料は、上記マイクロプレートをディスポーザルタイプにすることができるのに加え、種々の形状を容易に成形することができる。上記樹脂材料としては、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、エチレン-プロピレン共重合体等のポリオレフィン系樹脂または環状ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系樹脂等のポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂等のメタクリル系樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリアクリロニトリル等のアクリル系樹脂、プロピオネート樹脂等の繊維素系樹脂等が挙げられる。これらの中でも該マイクロプレートに求められる成形性、薬品耐性、薬品低吸着性の点においてポリプロピレン樹脂が特に好ましい。
【0027】
上記樹脂材料から本発明のマイクロプレートを製造する場合、例えば射出成形、ブロー成形、インジェクションブロー成形により、製造することができる。
【0028】
前記マイクロプレートは、成形状態のままでも良いし、必要に応じて表面処理を実施することも可能である。また、滅菌を行っても良い。
【0029】
表面処理には、検体成分のプレートへの物理化学吸着を抑制するために、ウェル内面を超親水化処理、または疎水性処理をしても良い。
【0030】
表面親水化処理は、親水性樹脂の塗布や、表面において親水性モノマーをグラフト重合させる方法等があり、どの方法も取ることできるが、作業性、親水性の安定性の観点から、親水性樹脂の塗布が最も簡便である。
【0031】
塗布する親水性樹脂としては、ポリエチレングリコール鎖を含むポリマーや、ホスホリルコリン基を含むポリマー等が挙げられる。
【0032】
使用可能な滅菌は、放射線滅菌、エチレンオキサイドガス(EOG)滅菌、低温プラズマ滅菌、蒸気滅菌などが挙げられるが、使用する樹脂により選択すれば良い。一般的には、滅菌のバリデーション、在留物質の管理等を考慮すると放射線滅菌を用いることが好ましい。
【0033】
次にフィルトレーション時の本発明の特徴を図7より説明する。
図7(a)は本発明のマイクロプレートを用いた真空マニホールドの断面形状、また図7(b)に従前のマイクロプレートを用いた場合の真空マニホールドの断面形状を示す。
【0034】
本発明におけるマイクロプレート(3)を受け具として、フィルタープレート保持具(5)に装着し、フィルタープレート(4)をその上部に装着してなる真空マニホールドにおいて、ウェル開口部がフレーム部より上方に位置しているため、フィルタープレート保持具(5)の装置の厚みに影響されることなく、フィルタープレート底部とマイクロプレートウェル端面との間隙を少なくすることが可能で、ろ過時のろ液飛散による汚染やロスをなくすことが可能である。この場合のフィルタープレート底部とマイクロプレートウェル端面との間に、0.5mm以上10mm以下の間隙が存在することが好ましく、より好ましくは0.5mm以上3mm以下である。このフィルタープレート底部とマイクロプレートウェル間の間隙は、両プレートのすべてのウェルにおいて存在する必要があるが、真空脱気時において気体が通れば良く。すべてのウェルの少なくとも一部分において間隙が存在すれば良く、残りの部分が接触していても良い。
【0035】
また、フィルタープレートウェル端面が縮径した形状である場合には、マイクロプレートウェル内にフィルタープレート端面が入る場合がある。この場合においては、フィルタープレートウェル部と、マイクロプレートのウェル内面との間隙が0.3mm以上1mm以下であることが好ましく、好適には0.3mm以上0.7mm以下である。こちらの形状においても前述と同様で、すべてのウェルの少なくとも一部分において間隙が存在すれば良く、残りの部分が接触していても良い。
【0036】
前記マイクロプレートを積み重ねたときに積み重ね上部のウェル底部外側形状をが、積み重ね下部のプレートのウェル開口部に合致するように径を減縮させるとことで、下部マイクロプレートのウェルを封止することが可能となる。
【0037】
通常マルチウェルプレートはプレートシールで開口部をシールする、またはプレート専用のキャップを作製しはめることでウェルに蓋をして保存することが一般的であるが、前記のようにするとプレートを重ね合わせることでウェルに蓋をすることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明のマイクロプレートを用いることによって、真空マニホールドへの装着性を改善しろ過および保存に最適のマイクロプレートを作製できる。
【符号の説明】
【0039】
1 ウェル
2 フレーム部
3 マイクロプレート
4 フィルタープレート
5 フィルタープレート保持具
6 封止材(パッキン)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のウェルと、前記複数のウェルの周囲に配置されるフレーム部材とを有するマイクロプレートであって、前記ウェルの開口部の端面が、フレーム部材よりも突出していることを特徴とするマイクロプレート。
【請求項2】
前記ウェル部材の開口部の端面は、フレーム部材よりも5mm以上30mm以下で突出しいるものである請求項1に記載のマイクロプレート。
【請求項3】
前記ウェルの開口部と反対側の端は、U字状またはV字状の底部である請求項1または2に記載のディープウェルプレート。
【請求項4】
フィルタープレートと、フィルタープレート保持具と、請求項1ないし3のいずれかに記載のマイクロプレートで構成されている真空マニホールド。
【請求項5】
フィルタープレート底部と、請求項1ないし3のいずれかに記載のマイクロプレートのウェル上端との間隙が0.5mm以上10mm以下である請求項4に記載の真空マニホールド。
【請求項6】
フィルタープレートウェル端部と、請求項1ないし3のいずれかに記載のマイクロプレートのウェル内面との間隙が0.3mm以上1mm以下である請求項4に記載の真空マニホールド。
【請求項7】
請求項1ないし3のいずれかに記載のマイクロプレートが、96ウェルまたは384ウェルプレート形状であるマイクロプレート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−209084(P2011−209084A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−76552(P2010−76552)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】