説明

マイクロリアクターを用いるビニル置換アリール化合物の製造方法

【課題】より高効率、かつ基質によらず安定した収率で製造でき、ひいては工業的規模の生産に有用な種々のビニル置換アリール化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】一般式[ I ]で示されるハロゲン化芳香族化合物と有機リチウム試薬とを反応させ、一般式[ II ]で示されるリチオ化された芳香族化合物を得る第1の工程と、触媒量のパラジウム化合物の存在下、前記一般式[ II ]で示されるリチオ化された芳香族化合物と一般式[ III ]で示されるβ−ビニル化合物とをカップリングさせる第2の工程と、を含み、前記第1及び第2の工程を、マイクロリアクターを用いて行うことを特徴とする一般式[ IV ]で示されるビニル置換アリール化合物の製造方法。


(式中、Arは、置換基を有していてもよいアリール基を表し、Xは、ハロゲン原子を表し、Yは、ハロゲン原子又はトリフルオロメタンスルホニルオキシ基を表し、Zは、置換基を有していてもよいアリール基又は炭素数1〜10の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルキル基を表し、R及びRは夫々独立して、水素原子又は炭素数1〜6の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルキル基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビニル置換アリール化合物の製造方法に関し、更に詳しくは、医薬、農薬、液晶材料、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)材料等の合成中間体として有用なビニル置換アリール化合物をマイクロリアクターを用いることにより、高効率かつ安定した収率で製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アリール骨格を有する化合物は、種々の化学製品の合成中間体として有用な化合物であり、なかでもビニル置換アリール化合物は、医薬、農薬等のファインケミカルや、液晶、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)等の機能性材料等の合成中間体として重要な化合物の1つである。
【0003】
これらビニル置換アリール化合物の製造方法としては、具体的には、例えばマグネシウム、ホウ素、ケイ素、亜鉛、スズ又はこれらのアート錯体等からなるアリールメタル化合物とアルケニルハライド、アルケニルトリフラート等のビニル化合物とを、触媒量のニッケル、パラジウム等の有機金属化合物の存在下でクロスカップリングさせる方法等が知られている(例えば非特許文献1等)。しかしながら、上記アリールメタル化合物は、そのほとんどが原料となるアリールハライドと有機リチウム試薬とから合成されるアリールリチウム化合物のトランスメタル化を経由して調製する必要があるため、工程が煩雑になるばかりでなく、当該トランスメタル化のためには化学量論量の金属試薬が必要となるため、製造コストが高くなりやすくなる、毒性を有する金属の場合には、当該金属の完全除去に労力を要するなどの欠点があり、このような欠点は、生産スケールが大きくなるにつれて表面化しやすくなることから、工業的規模での利用にはおのずと制限があるという問題点があった。
【0004】
これに対して、リチウム化合物のトランスメタル化を経由せずに、当該リチウム化合物とアルケニルハライド等のビニル化合物とを、パラジウム、ルテニウム等の有機金属化合物の存在下で直接クロスカップリングさせて、ビニル置換アリール化合物やビニル置換アルキル化合物を合成する方法が知られている(例えば非特許文献2等)。この方法では、パラジウムやルテニウムを化学量論量用いた反応の場合には、基質によらず安定して良好な収率で目的とする化合物が得られているが、パラジウムやルテニウムを触媒量用いた反応(触媒反応)の場合には、収率に相当のばらつきが見られ、安定して目的の化合物を得るのが難しいという問題点があった。
【0005】
一方、最近では、プロセス工学の1つとして、反応設計が容易である等の利点を有するマイクロリアクターを用いて、合成反応を行う研究が盛んに行われている。例えば本発明者は、ハロゲン化合物とリチウム試薬とをマイクロリアクターを用いて反応させてリチウム化合物を得、当該リチウム化合物を引き続きマイクロリアクターを用いて連続して求電子化合物と反応させる方法を提案している(特許文献1)。また、本発明者らは、マイクロリアクターを用いて、o−ジハロ芳香族化合物のハロゲン基の1つをリチオ化(モノリチオ化)させる工程、当該モノリチオ化体を求電子置換させる工程、もう一方の(残りの)ハロゲン基をリチオ化させる工程、及び当該リチオ化体を求電子置換させる工程を、マイクロリアクターを用いて連続的に行う方法を提案している(特許文献2)。しかしながら、上記文献に記載されたマイクロリアクターを用いる反応は、リチウム化合物と求電子化合物との反応であって、アルケニルハライド等のビニル化合物とのクロスカップリング反応については考慮されていないばかりか、リチウム化合物との反応をパラジウム等の触媒を共存させて行うことについても想定していない。
【0006】
このようなことから、ファインケミカルや機能性材料等の合成中間体として有用な種々のビニル置換アリール化合物を、より高効率に、かつ基質によらず安定した収率で製造できる方法、ひいては工業的規模の生産に有用な当該ビニル置換アリール化合物の製造方法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−241065号公報
【特許文献2】特開2008−195639号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Diederich, F.; Stang, P. J., Eds. Metal-Catalyzed Cross-Coupling Reactions; Wiley-VCH: Weinheim, 1998.
【非特許文献2】J. Org. Chem., 44, 14 (1979)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、所望のビニル置換アリール化合物を、マイクロリアクターを用いることにより、従来法と比較してより簡便で短時間に、すなわち高効率に、かつ基質によらず安定した収率で製造可能な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、一般式[ I ]

(式中、Arは、置換基を有していてもよいアリール基を表し、Xは、ハロゲン原子を表す。)で示されるハロゲン化芳香族化合物と有機リチウム試薬とを反応させ、一般式[ II ]

(式中、Arは上記に同じ。)で示されるリチオ化された芳香族化合物を得る第1の工程と、
触媒量のパラジウム化合物の存在下、上記一般式[ II ]で示されるリチオ化された芳香族化合物と一般式[ III ]

(式中、R及びRは夫々独立して、水素原子又は炭素数1〜6の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルキル基を表し、Yは、ハロゲン原子又はトリフルオロメタンスルホニルオキシ基を表し、Zは、置換基を有していてもよいアリール基又は炭素数1〜10の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルキル基を表す。)で示されるβ−ビニル化合物とをカップリングさせる第2の工程と、
を含み、
上記第1及び第2の工程を、マイクロリアクターを用いて行うことを特徴とする一般式[ IV ]

(式中、R、R、Ar及びZは上記に同じ。)で示されるビニル置換アリール化合物の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、触媒量のパラジウム化合物の共存下、マイクロリアクターを用いて反応を行えば、簡便な操作でより高効率に、基質によらず安定した収率で目的とするビニル置換アリール化合物を製造することが可能となる。また、本発明の製造方法において用いられる触媒量のパラジウム化合物を、パラジウムに配位し得る化合物とマイクロリアクターで混合した後に上記第2の工程のカップリング反応系に供給すれば、より高収率で目的とするビニル置換アリール化合物を製造することが可能となる。更に、本発明の製造方法は、室温でも実施できるので、特別な冷却(加熱)装置を必要としない有用な方法であり、工業的規模の生産に有利な製造方法となり得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1で用いたマイクロリアクターを含む反応装置の模式図を反応条件と共に示す図である。
【図2】実施例1〜3で用いたT字型マイクロミキサーの内部構造を示す図である。
【図3】実施例2で用いたマイクロリアクターを含む反応装置の模式図を反応条件と共に示す図である。
【図4】実施例3で用いたマイクロリアクターを含む反応装置の模式図を反応条件と共に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
一般式[ I ]、[ II ]及び[ IV ]におけるArで示される「置換基を有していてもよいアリール基」中の「アリール基」としては、具体的には、例えばフェニル基、ピリジル基、ナフチル基、キノリル基、イソキノリル基、ナフチリジニル基、アントリル基等が挙げられ、中でもフェニル基が好ましい。
【0014】
一般式[ I ]、[ II ]及び[ IV ]におけるArで示される「置換基を有していてもよいアリール基」中の「置換基」としては、後述する第1の工程(ハロゲン−リチウム交換反応)及び第2の工程(カップリング反応)に悪影響を及ぼさない範囲のものであれば特に限定されないが、具体的には、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、sec−ペンチル基、tert−ペンチル基、ネオペンチル基、2−メチルブチル基、1,2−ジメチルプロピル基、1−エチルプロピル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、sec−ヘキシル基、tert−ヘキシル基、ネオヘキシル基、2−メチルペンチル基、1,2−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、1−エチルブチル基、シクロヘキシル基等の炭素数1〜6の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルキル基、例えばメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、シクロブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、sec−ペンチルオキシ基、tert−ペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、2−メチルブトキシ基、1,2−ジメチルプロポキシ基、1−エチルプロポキシ基、シクロペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、イソヘキシルオキシ基、sec−ヘキシルオキシ基、tert−ヘキシルオキシ基、ネオヘキシルオキシ基、2−メチルペンチルオキシ基、1,2−ジメチルブトキシ基、2,3−ジメチルブトキシ基、1−エチルブトキシ基、シクロヘキシルオキシ基等の炭素数1〜6の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルコキシ基、例えばフェニル基等が挙げられる。また、当該置換基が隣接する2つの炭素原子に導入されている場合であって、これら2つの置換基が鎖中に酸素原子又は硫黄原子を有していてもよい炭素数3〜6の脂肪族環を形成する場合において、これら置換基が結合して形成される基としては、例えばトリメチレン基、テトラメチレン基、オキシジメチレン基(オキシエチレン基)、チオジメチレン基(チオエチレン基)、オキシトリメチレン基、チオトリメチレン基、ジオキシメチレン基、ジチオメチレン基、ジオキシジメチレン基(ジオキシエチレン基)、ジチオジメチレン基(ジチオエチレン基)等の鎖中に酸素原子又は硫黄原子を有していてもよいアルキレン基等が挙げられる。
【0015】
一般式[ I ]、[ II ]及び[ IV ]におけるArとしては、「置換基を有さないアリール基」、すなわち「無置換のアリール基」が好ましく、その中でも「置換基を有さないフェニル基」、すなわち「無置換のフェニル基」がより好ましい。
【0016】
一般式[ I ]におけるXで示されるハロゲン原子としては、具体的には、例えば塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、中でも塩素原子、臭素原子が好ましく、その中でも臭素原子がより好ましい。
【0017】
一般式[ III ]におけるYで示されるハロゲン原子としては、具体的には、例えば塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、中でも臭素原子、ヨウ素原子が好ましく、その中でも臭素原子がより好ましい。
【0018】
一般式[ III ]におけるYとしては、ハロゲン原子がより好ましい。
【0019】
一般式[ III ]及び[ IV ]におけるZで示される「置換基を有していてもよいアリール基」中の「アリール基」としては、具体的には、例えばフェニル基、ピリジル基、ナフチル基、キノリル基、イソキノリル基、ナフチリジニル基、アントリル基等が挙げられ、中でもフェニル基が好ましい。
【0020】
一般式[ III ]及び[ IV ]におけるZで示される「置換基を有していてもよいアリール基」中の「置換基」としては、後述する第2の工程(カップリング反応)に悪影響を及ぼさない範囲のものであれば特に限定されないが、具体的には、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、sec−ペンチル基、tert−ペンチル基、ネオペンチル基、2−メチルブチル基、1,2−ジメチルプロピル基、1−エチルプロピル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、sec−ヘキシル基、tert−ヘキシル基、ネオヘキシル基、2−メチルペンチル基、1,2−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、1−エチルブチル基、シクロヘキシル基等の炭素数1〜6の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルキル基、例えばメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、シクロブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、sec−ペンチルオキシ基、tert−ペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、2−メチルブトキシ基、1,2−ジメチルプロポキシ基、1−エチルプロポキシ基、シクロペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、イソヘキシルオキシ基、sec−ヘキシルオキシ基、tert−ヘキシルオキシ基、ネオヘキシルオキシ基、2−メチルペンチルオキシ基、1,2−ジメチルブトキシ基、2,3−ジメチルブトキシ基、1−エチルブトキシ基、シクロヘキシルオキシ基等の炭素数1〜6の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルコキシ基、例えばフェニル基等が挙げられる。また、当該置換基が隣接する2つの炭素原子に導入されている場合であって、これら2つの置換基が鎖中に酸素原子又は硫黄原子を有していてもよい炭素数3〜6の脂肪族環を形成する場合において、これら置換基が結合して形成される基としては、例えばトリメチレン基、テトラメチレン基、オキシジメチレン基(オキシエチレン基)、チオジメチレン基(チオエチレン基)、オキシトリメチレン基、チオトリメチレン基、ジオキシメチレン基、ジチオメチレン基、ジオキシジメチレン基(ジオキシエチレン基)、ジチオジメチレン基(ジチオエチレン基)等の鎖中に酸素原子又は硫黄原子を有していてもよいアルキレン基等が挙げられる。
【0021】
一般式[ III ]及び[ IV ]におけるZで示される炭素数1〜10の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルキル基としては、鎖中に酸素原子又は硫黄原子を有していてもよく、具体的には、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、sec−ペンチル基、tert−ペンチル基、ネオペンチル基、2−メチルブチル基、1,2−ジメチルプロピル基、1−エチルプロピル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、sec−ヘキシル基、tert−ヘキシル基、ネオヘキシル基、2−メチルペンチル基、1,2−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、1−エチルブチル基、シクロヘキシル基、n−ヘプチル基、イソヘプチル基、sec−ヘプチル基、tert−ヘプチル基、ネオヘプチル基、シクロヘプチル基、n−オクチル基、イソオクチル基、sec−オクチル基、tert−オクチル基、ネオオクチル基、2−エチルヘキシル基、シクロオクチル基、n−ノニル基、イソノニル基、sec−ノニル基、tert−ノニル基、ネオノニル基、シクロノニル基、n−デシル基、イソデシル基、sec−デシル基、tert−デシル基、ネオデシル基、シクロデシル基、ヘキサヒドロインダニル基、デカヒドロナフチル基、スピロ[4,4]ノニル基、スピロ[4,5]デシル基、ノルボルニル基、アダマンチル基、メトキシメチル基、エトキシエチル基、プロポキシプロピル基、メチルチオメチル基、エチルチオエチル基、プロピルチオプロピル基、テトラヒドロフリル基等が挙げられる。
【0022】
一般式[ III ]及び[ IV ]におけるZとしては、「置換基を有していてもよいアリール基」が好ましく、その中でも「置換基を有さないアリール基」、すなわち「無置換のアリール基」がより好ましく、その中でも「置換基を有さないフェニル基」、すなわち「無置換のフェニル基」がさらに好ましい。
【0023】
一般式[ III ]及び[ IV ]におけるR及びRで示される炭素数1〜6の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルキル基としては、具体的には、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、sec−ペンチル基、tert−ペンチル基、ネオペンチル基、2−メチルブチル基、1,2−ジメチルプロピル基、1−エチルプロピル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、sec−ヘキシル基、tert−ヘキシル基、ネオヘキシル基、2−メチルペンチル基、1,2−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、1−エチルブチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0024】
一般式[ III ]及び[ IV ]におけるR及びRとしては、水素原子がより好ましい。
【0025】
次に、本発明で使用される化合物について説明する。本発明で用いられる一般式[ I ]で示されるハロゲン化芳香族化合物は、後述する第1の工程(ハロゲン−リチウム交換反応)及び第2の工程(カップリング反応)に悪影響を及ぼさない範囲で置換基を有していてもよい、芳香環上にハロゲン原子が置換しているハロゲン化ベンゼン誘導体、ハロゲン化ピリジン誘導体、ハロゲン化ナフタレン誘導体、ハロゲン化キノリン誘導体、ハロゲン化イソキノリン誘導体、ハロゲン化ナフチリジン誘導体、ハロゲン化アントラセン誘導体等である。これら一般式[ I ]で示されるハロゲン化芳香族化合物の具体例としては、例えば一般式[ V ]

(式中、p個のRは夫々独立して、炭素数1〜6の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルキル基、炭素数1〜6の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルコキシ基又はフェニル基を表し、pは0〜5の整数を表し、Wは炭素原子又は窒素原子を表し、Xは上記に同じ。なお、隣接する2つのRは、これらが結合している炭素原子と共に、鎖中に酸素原子又は硫黄原子を有していてもよい炭素数3〜6の脂肪族環を形成していてもよい。)で示されるハロゲン化ベンゼン誘導体又はハロゲン化ピリジン誘導体、一般式[ VI ]

(式中、q個のRは夫々独立して、炭素数1〜6の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルキル基、炭素数1〜6の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルコキシ基又はフェニル基を表し、qは0〜7の整数を表し、U及びUは、共に炭素原子を表すか又はU及びUの何れか一方が窒素原子を表す場合は他方が炭素原子を表し、V及びVは、共に炭素原子を表すか又はV及びVの何れか一方が窒素原子を表す場合は他方が炭素原子を表し、Xは上記に同じ。なお、隣接する2つのRは、これらが結合している炭素原子と共に、鎖中に酸素原子又は硫黄原子を有していてもよい炭素数3〜6の脂肪族環を形成していてもよい。)で示されるハロゲン化ナフタレン誘導体、ハロゲン化キノリン誘導体、ハロゲン化イソキノリン誘導体又はハロゲン化ナフチリジン誘導体、或いは一般式[ VII ]

(式中、r個のRは夫々独立して、炭素数1〜6の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルキル基、炭素数1〜6の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルコキシ基又はフェニル基を表し、rは0〜9の整数を表す。なお、隣接する2つのRは、これらが結合している炭素原子と共に、鎖中に酸素原子又は硫黄原子を有していてもよい炭素数3〜6の脂肪族環を形成していてもよい。)で示されるハロゲン化アントラセン誘導体等が挙げられる。
【0026】
一般式[ V ]、[ VI ]及び[ VII ]におけるR、R及びRで示される炭素数1〜6の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルキル基としては、具体的には、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、sec−ペンチル基、tert−ペンチル基、ネオペンチル基、2−メチルブチル基、1,2−ジメチルプロピル基、1−エチルプロピル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、sec−ヘキシル基、tert−ヘキシル基、ネオヘキシル基、2−メチルペンチル基、1,2−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、1−エチルブチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0027】
一般式[ V ]、[ VI ]及び[ VII ]におけるR、R及びRで示される炭素数1〜6の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルコキシ基としては、具体的には、例えばメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、シクロブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、sec−ペンチルオキシ基、tert−ペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、2−メチルブトキシ基、1,2−ジメチルプロポキシ基、1−エチルプロポキシ基、シクロペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、イソヘキシルオキシ基、sec−ヘキシルオキシ基、tert−ヘキシルオキシ基、ネオヘキシルオキシ基、2−メチルペンチルオキシ基、1,2−ジメチルブトキシ基、2,3−ジメチルブトキシ基、1−エチルブトキシ基、シクロヘキシルオキシ基等が挙げられる。
【0028】
一般式[ V ]におけるpとしては、0〜3の整数が好ましく、中でも0がより好ましい。
【0029】
一般式[ V ]におけるWとしては、炭素原子が好ましい。
【0030】
一般式[ VI ]におけるqとしては、0〜5の整数が好ましく、中でも0〜3の整数がより好ましく、その中でも0がさらに好ましい。
【0031】
一般式[ VI ]におけるU、U、V及びVとしては、すべて炭素原子であるか、何れか1つが窒素原子であるのが好ましく、中でもすべて炭素原子であるのがより好ましい。
【0032】
一般式[ VII ]におけるrとしては、0〜7の整数が好ましく、中でも0〜5の整数がより好ましく、その中でも0〜3の整数がさらに好ましく、さらにその中でも0が特に好ましい。
【0033】
一般式[ V ]、[ VI ]及び[ VII ]におけるR、R及びRで示される「隣接する2つのR(2つのR、2つのR又は2つのR)は、これらが結合している炭素原子と共に、鎖中に酸素原子又は硫黄原子を有していてもよい炭素数3〜6の脂肪族環を形成していてもよい」中の「炭素数3〜6の脂肪族環」としては、具体的には、例えばシクロペンタン環、シクロヘキサン環、テトラヒドロフラン環、テトラヒドロピラン環、テトラヒドロチオフェン環、テトラヒドロチオフラン環、1,3−ジオキサシクロペンタン環、1,3−ジオキサシクロヘキサン環、1,4−ジオキサシクロヘキサン環等が挙げられる。なお、これら脂肪族環を構成する炭素原子の炭素数は、当該脂肪族環と縮環している芳香環を構成する2つの炭素原子を含む炭素数を意味する。
【0034】
一般式[ V ]で示されるハロゲン化ベンゼン誘導体及びハロゲン化ピリジン誘導体の具体例としては、例えばクロロベンゼン、ブロモベンゼン、ヨードベンゼン、クロロトルエン、ブロモトルエン、ヨードトルエン、クロロキシレン、ブロモキシレン、ヨードキシレン、クロロメシチレン、ブロモメシチレン、ヨードメシチレン、クロロクメン、ブロモクメン、ヨードクメン、クロロシメン、ブロモシメン、ヨードシメン、クロロヘキシルベンゼン、ブロモヘキシルベンゼン、ヨードヘキシルベンゼン、クロロメトキシベンゼン、ブロモメトキシベンゼン、ヨードメトキシベンゼン、クロロヘキシルオキシベンゼン、ブロモヘキシルオキシベンゼン、ヨードヘキシルオキシベンゼン、クロロインダン、ブロモインダン、ヨードインダン、クロロクロマン、ブロモクロマン、ヨードクロマン、クロロイソクロマン、ブロモイソクロマン、ヨードイソクロマン、クロロチオクロマン、ブロモチオクロマン、ヨードチオクロマン、クロロメチレンジオキシベンゼン、ブロモメチレンジオキシベンゼン、ヨードメチレンジオキシベンゼン等のハロゲン化ベンゼン誘導体、例えばクロロピリジン、ブロモピリジン、ヨードピリジン、クロロメチルピリジン、ブロモメチルピリジン、ヨードメチルピリジン、クロロジメチルピリジン、ブロモジメチルピリジン、ヨードジメチルピリジン、クロロトリメチルピリジン、ブロモトリメチルピリジン、ヨードトリメチルピリジン、クロロエチルピリジン、ブロモエチルピリジン、ヨードエチルピリジン、クロロイソプロピルピリジン、ブロモイソプロピルピリジン、ヨードイソプロピルピリジン、クロロヘキシルピリジン、ブロモヘキシルピリジン、ヨードヘキシルピリジン、クロロメトキシピリジン、ブロモメトキシピリジン、ヨードメトキシピリジン、クロロヘキシルオキシピリジン、ブロモヘキシルオキシピリジン、ヨードヘキシルオキシピリジン等のハロゲン化ピリジン誘導体が挙げられ、中でも例えばクロロベンゼン、ブロモベンゼン、ヨードベンゼン、クロロトルエン、ブロモトルエン、ヨードトルエン、クロロキシレン、ブロモキシレン、ヨードキシレン、クロロメシチレン、ブロモメシチレン、ヨードメシチレン、クロロクメン、ブロモクメン、ヨードクメン、クロロシメン、ブロモシメン、ヨードシメン、クロロヘキシルベンゼン、ブロモヘキシルベンゼン、ヨードヘキシルベンゼン、クロロメトキシベンゼン、ブロモメトキシベンゼン、ヨードメトキシベンゼン、クロロヘキシルオキシベンゼン、ブロモヘキシルオキシベンゼン、ヨードヘキシルオキシベンゼン、クロロインダン、ブロモインダン、ヨードインダン、クロロクロマン、ブロモクロマン、ヨードクロマン、クロロイソクロマン、ブロモイソクロマン、ヨードイソクロマン、クロロチオクロマン、ブロモチオクロマン、ヨードチオクロマン、クロロメチレンジオキシベンゼン、ブロモメチレンジオキシベンゼン、ヨードメチレンジオキシベンゼン等のハロゲン化ベンゼン誘導体が好ましく、その中でもクロロベンゼン、ブロモベンゼン、ヨードベンゼン等の無置換のハロゲン化ベンゼン誘導体がより好ましく、さらにその中でもブロモベンゼンがさらに好ましい。また、これらハロゲン化ベンゼン誘導体及びハロゲン化ピリジン誘導体におけるハロゲン原子の結合位置は特に限定されず、当該ハロゲン原子は、芳香環上の炭素原子であれば何れの炭素原子に結合していてもよく、更に当該ハロゲン化ベンゼン誘導体及びハロゲン化ピリジン誘導体における置換基の結合位置も特に限定されず、当該置換基は、ハロゲン原子の結合していない炭素原子であれば、何れの炭素原子に結合していてもよい。なお、上記の具体例はあくまで一例であって、本発明の製造方法に係る化合物がこれらの例によって何ら限定されるものではなく、これらのハロゲン化ベンゼン誘導体及びハロゲン化ピリジン誘導体は、市販のものを用いるか、常法により合成したものを適宜用いればよい。
【0035】
念のため付記すれば、上記一般式[ I ]において、上記一般式[ V ]で示されるハロゲン化ベンゼン誘導体及びハロゲン化ピリジン誘導体は、当該一般式[ I ]におけるArが、一般式[ VIII ]

(式中、R、p及びWは上記に同じ。)で示される、置換基を有していてもよいフェニル基又はピリジル基であるものに相当する。
【0036】
一般式[ VI ]で示されるハロゲン化ナフタレン誘導体、ハロゲン化キノリン誘導体、ハロゲン化イソキノリン誘導体及びハロゲン化ナフチリジン誘導体の具体例としては、例えばクロロナフタレン、ブロモナフタレン、ヨードナフタレン、クロロメチルナフタレン、ブロモメチルナフタレン、ヨードメチルナフタレン、クロロジメチルナフタレン、ブロモジメチルナフタレン、ヨードジメチルナフタレン、クロロトリメチルナフタレン、ブロモトリメチルナフタレン、ヨードトリメチルナフタレン、クロロエチルナフタレン、ブロモエチルナフタレン、ヨードエチルナフタレン、クロロイソプロピルナフタレン、ブロモイソプロピルナフタレン、ヨードイソプロピルナフタレン、クロロヘキシルナフタレン、ブロモヘキシルナフタレン、ヨードヘキシルナフタレン、クロロメトキシナフタレン、ブロモメトキシナフタレン、ヨードメトキシナフタレン、クロロヘキシルオキシナフタレン、ブロモヘキシルオキシナフタレン、ヨードヘキシルオキシナフタレン等のハロゲン化ナフタレン誘導体、例えばクロロキノリン、ブロモキノリン、ヨードキノリン、クロロメチルキノリン、ブロモメチルキノリン、ヨードメチルキノリン、クロロジメチルキノリン、ブロモジメチルキノリン、ヨードジメチルキノリン、クロロトリメチルキノリン、ブロモトリメチルキノリン、ヨードトリメチルキノリン、クロロエチルキノリン、ブロモエチルキノリン、ヨードエチルキノリン、クロロイソプロピルキノリン、ブロモイソプロピルキノリン、ヨードイソプロピルキノリン、クロロヘキシルキノリン、ブロモヘキシルキノリン、ヨードヘキシルキノリン、クロロメトキシキノリン、ブロモメトキシキノリン、ヨードメトキシキノリン、クロロヘキシルオキシキノリン、ブロモヘキシルオキシキノリン、ヨードヘキシルオキシキノリン等のハロゲン化キノリン誘導体、例えばクロロイソキノリン、ブロモイソキノリン、ヨードイソキノリン、クロロメチルイソキノリン、ブロモメチルイソキノリン、ヨードメチルイソキノリン、クロロジメチルイソキノリン、ブロモジメチルイソキノリン、ヨードジメチルイソキノリン、クロロトリメチルイソキノリン、ブロモトリメチルイソキノリン、ヨードトリメチルイソキノリン、クロロエチルイソキノリン、ブロモエチルイソキノリン、ヨードエチルイソキノリン、クロロイソプロピルイソキノリン、ブロモイソプロピルイソキノリン、ヨードイソプロピルイソキノリン、クロロヘキシルイソキノリン、ブロモヘキシルイソキノリン、ヨードヘキシルイソキノリン、クロロメトキシイソキノリン、ブロモメトキシイソキノリン、ヨードメトキシイソキノリン、クロロヘキシルオキシイソキノリン、ブロモヘキシルオキシイソキノリン、ヨードヘキシルオキシイソキノリン等のハロゲン化イソキノリン誘導体、例えばクロロナフチリジン、ブロモナフチリジン、ヨードナフチリジン、クロロメチルナフチリジン、ブロモメチルナフチリジン、ヨードメチルナフチリジン、クロロジメチルナフチリジン、ブロモジメチルナフチリジン、ヨードジメチルナフチリジン、クロロトリメチルナフチリジン、ブロモトリメチルナフチリジン、ヨードトリメチルナフチリジン、クロロエチルナフチリジン、ブロモエチルナフチリジン、ヨードエチルナフチリジン、クロロイソプロピルナフチリジン、ブロモイソプロピルナフチリジン、ヨードイソプロピルナフチリジン、クロロヘキシルナフチリジン、ブロモヘキシルナフチリジン、ヨードヘキシルナフチリジン、クロロメトキシナフチリジン、ブロモメトキシナフチリジン、ヨードメトキシナフチリジン、クロロヘキシルオキシナフチリジン、ブロモヘキシルオキシナフチリジン、ヨードヘキシルオキシナフチリジン等のハロゲン化ナフチリジン誘導体等が挙げられ、中でも例えばクロロナフタレン、ブロモナフタレン、ヨードナフタレン、クロロメチルナフタレン、ブロモメチルナフタレン、ヨードメチルナフタレン、クロロジメチルナフタレン、ブロモジメチルナフタレン、ヨードジメチルナフタレン、クロロトリメチルナフタレン、ブロモトリメチルナフタレン、ヨードトリメチルナフタレン、クロロエチルナフタレン、ブロモエチルナフタレン、ヨードエチルナフタレン、クロロイソプロピルナフタレン、ブロモイソプロピルナフタレン、ヨードイソプロピルナフタレン、クロロヘキシルナフタレン、ブロモヘキシルナフタレン、ヨードヘキシルナフタレン、クロロメトキシナフタレン、ブロモメトキシナフタレン、ヨードメトキシナフタレン、クロロヘキシルオキシナフタレン、ブロモヘキシルオキシナフタレン、ヨードヘキシルオキシナフタレン等のハロゲン化ナフタレン誘導体が好ましく、その中でもクロロナフタレン、ブロモナフタレン、ヨードナフタレン等の無置換のハロゲン化ナフタレン誘導体がより好ましく、さらにその中でもブロモナフタレンがさらに好ましい。また、これらハロゲン化ナフタレン誘導体、ハロゲン化キノリン誘導体、ハロゲン化イソキノリン誘導体及びハロゲン化ナフチリジン誘導体におけるハロゲン原子の結合位置は特に限定されず、当該ハロゲン原子は、芳香環上の1位〜8位の炭素原子であれば何れの炭素原子に結合していてもよく、更に当該ハロゲン化ナフタレン誘導体、ハロゲン化キノリン誘導体、ハロゲン化イソキノリン誘導体及びハロゲン化ナフチリジン誘導体における置換基の結合位置も特に限定されず、当該置換基は、ハロゲン原子の結合していない1位〜8位の炭素原子であれば、何れの炭素原子に結合していてもよい。なお、上記の具体例はあくまで一例であって、本発明の製造方法に係る化合物がこれらの例によって何ら限定されるものではなく、これらのハロゲン化ナフタレン誘導体、ハロゲン化キノリン誘導体、ハロゲン化イソキノリン誘導体及びハロゲン化ナフチリジン誘導体は、市販のものを用いるか、常法により合成したものを適宜用いればよい。
【0037】
念のため付記すれば、上記一般式[ I ]において、上記一般式[ VI ]で示されるハロゲン化ナフタレン誘導体、ハロゲン化キノリン誘導体、ハロゲン化イソキノリン誘導体及びハロゲン化ナフチリジン誘導体は、当該一般式[ I ]におけるArが、一般式[ IX ]

(式中、R、q、U、U、V及びVは上記に同じ。)で示される、置換基を有していてもよいナフチル基、キノリル基、イソキノリル基又はナフチリジニル基であるものに相当する。
【0038】
一般式[ VI ]で示されるハロゲン化アントラセン誘導体の具体例としては、例えばクロロアントラセン、ブロモアントラセン、ヨードアントラセン、クロロメチルアントラセン、ブロモメチルアントラセン、ヨードメチルアントラセン、クロロジメチルアントラセン、ブロモジメチルアントラセン、ヨードジメチルアントラセン、クロロトリメチルアントラセン、ブロモトリメチルアントラセン、ヨードトリメチルアントラセン、クロロエチルアントラセン、ブロモエチルアントラセン、ヨードエチルアントラセン、クロロイソプロピルアントラセン、ブロモイソプロピルアントラセン、ヨードイソプロピルアントラセン、クロロヘキシルアントラセン、ブロモヘキシルアントラセン、ヨードヘキシルアントラセン、クロロメトキシアントラセン、ブロモメトキシアントラセン、ヨードメトキシアントラセン、クロロヘキシルオキシアントラセン、ブロモヘキシルオキシアントラセン、ヨードヘキシルオキシアントラセン等のハロゲン化アントラセン誘導体等が挙げられ、中でもクロロアントラセン、ブロモアントラセン、ヨードアントラセン等の無置換のハロゲン化アントラセン誘導体が好ましく、その中でもブロモアントラセンがより好ましい。また、これらハロゲン化アントラセン誘導体におけるハロゲン原子の結合位置は特に限定されず、当該ハロゲン原子は、芳香環上の1位〜10位の炭素原子であれば何れの炭素原子に結合していてもよく、更に当該ハロゲン化アントラセン誘導体における置換基の結合位置も特に限定されず、当該置換基は、ハロゲン原子の結合していない1位〜10位の炭素原子であれば、何れの炭素原子に結合していてもよい。なお、上記の具体例はあくまで一例であって、本発明の製造方法に係る化合物がこれらの例によって何ら限定されるものではなく、これらのハロゲン化アントラセン誘導体は、市販のものを用いるか、常法により合成したものを適宜用いればよい。
【0039】
念のため付記すれば、上記一般式[ I ]において、上記一般式[ VII ]で示されるハロゲン化アントラセン誘導体は、当該一般式[ I ]におけるArが、一般式[ X ]

(式中、R及びrは上記に同じ。)で示される、置換基を有していてもよいアントリル基であるものに相当する。
【0040】
ハロゲン化芳香族化合物の使用量は、後述する第2の工程で使用される一般式[ III ]で示されるβ−ビニル化合物に対して、通常0.5〜10当量、好ましくは0.5〜5当量、より好ましくは0.8〜3当量である。0.5当量未満の場合には、後述する第2の工程におけるカップリング反応が十分に進行せず、一方、10当量を超える量のハロゲン化芳香族化合物を使用すると、経済性が損なわれる等の問題が生ずるので望ましくない。なお、ここで言う上記ハロゲン化芳香族化合物の使用量とは、後述するマイクロリアクターの第1の工程において該ハロゲン化芳香族化合物と後述する有機リチウム試薬とが反応して生ずる一般式[ II ]で示されるリチオ化された芳香族化合物が、第2の工程のマイクロミキサー内でβ−ビニル化合物と反応する際における見かけ上の当量、言い換えれば、後述するマイクロリアクターの第2の工程のマイクロミキサー内において、β−ビニル化合物と、該ハロゲン化芳香族化合物がリチオ化されて生ずる一般式[ II ]で示されるリチオ化された芳香族化合物とが反応する際の見かけ上の当量で定義される。
【0041】
本発明の製造方法においては、本発明で用いられる一般式[ I ]で示されるハロゲン化芳香族化合物は、液体であること又は溶液状態で用いることができることが求められる。したがって、上記一般式[ I ]で示されるハロゲン化芳香族化合物が液体でない場合には、少なくとも後述する第1及び第2の工程における反応に対して不活性な有機溶媒に溶解させる必要がある。また、一般式[ I ]で示されるハロゲン化芳香族化合物が液体であっても、粘性が高い液体のハロゲン化芳香族化合物を使用する場合や、反応性が高いハロゲン化芳香族化合物を使用する場合等、液体のハロゲン化芳香族化合物であってもそのままの使用が難しい場合には、適宜有機溶媒に希釈させて使用することが望ましい。当該有機溶媒としては、具体的には、例えばn−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、石油エーテル等の脂肪族炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチル−tert−ブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジメトキシエタン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系溶媒、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒等が挙げられ、中でもn−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン等の脂肪族炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチル−tert−ブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジメトキシエタン、ジオキサン等のエーテル系溶媒が好ましく、その中でもジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチル−tert−ブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジメトキシエタン、ジオキサン等のエーテル系溶媒がより好ましい。また、これらの有機溶媒は、夫々単独又は2種以上を組み合わせて用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いる際の混合比は任意に定めることができる。
【0042】
これらの有機溶媒は、一般式[ I ]で示されるハロゲン化芳香族化合物の溶液のモル濃度、すなわち後述するマイクロリアクターに供給される溶液のモル濃度が、通常0.01〜20mol/L、好ましくは0.02〜10mol/L、より好ましくは0.05〜5mol/Lとなるように、適宜用いられる。なお、0.01mol/L未満の場合には、相対的に有機溶媒の量が多くなり、後述するマイクロリアクター中での流量が多く(流速が速く)なりすぎるわりに、目的とする上記一般式[ IV ]で示されるビニル置換アリール化合物の収量が少なく、生産性が低下する等の問題が生ずるので望ましくない。
【0043】
本発明で用いられる有機リチウム試薬は、従来公知の有機リチウム試薬を使用することができ、具体的には、例えばメチルリチウム、エチルリチウム、プロピルリチウム、ブチルリチウム、ペンチルリチウム、ヘキシルリチウム、メトキシメチルリチウム、エトキシメチルリチウム等のアルキルリチウムが挙げられ、中でもメチルリチウム、エチルリチウム、n−プロピルリチウム、イソプロピルリチウム、n−ブチルリチウム、イソブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム、n−ペンチルリチウム、n−ヘキシルリチウムが好ましく、中でもn−ブチルリチウムがより好ましい。また、これらの有機リチウム試薬は、夫々単独又は2種以上を組み合わせて用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いる際の混合比は任意に定めることができる。なお、これらの有機リチウム試薬は、市販のものを用いれば足りる。
【0044】
有機リチウム試薬の使用量は、使用される一般式[ I ]で示されるハロゲン化芳香族化合物の種類によって変動するが、当該ハロゲン化芳香族化合物に対して、通常0.5〜10当量、好ましくは0.5〜5当量、より好ましくは0.8〜3当量である。0.5当量未満の場合には、後述する第1の工程におけるハロゲン−リチウム交換反応が十分に進行せず、一方、10当量を超える量の有機リチウム試薬を使用すると、例えばアルコキシ基が置換したハロゲン化芳香族化合物のo−リチオ化が進行したり、経済性が損なわれる等の問題が生ずるので望ましくない。なお、ここで言う上記有機リチウム試薬の使用量とは、一般式[ I ]で示されるハロゲン化芳香族化合物と有機リチウム試薬との反応時における見かけ上の当量、言い換えれば、後述するマイクロリアクターの第1の工程のマイクロミキサー内において、一般式[ I ]で示されるハロゲン化芳香族化合物と有機リチウム試薬とが反応する際の見かけ上の当量で定義される。
【0045】
上記有機リチウム試薬は、市販のものであれば、通常は溶液状態であるので、そのまま使用することができるが、上記の有機リチウム試薬の使用量と上記の一般式[ I ]で示されるハロゲン化芳香族化合物の溶液のモル濃度とを考慮して、有機リチウム試薬のモル濃度を決定するのが望ましい。このため、後述するマイクロリアクターに供給される有機リチウム試薬のモル濃度を決定する際に、市販の有機リチウム試薬を少なくとも後述する第1及び第2の工程における反応に対して不活性な有機溶媒で希釈したものを用いてもよい。ここで希釈のために使用される有機溶媒の具体例としては、上述の一般式[ I ]で示されるハロゲン化芳香族化合物を溶液状態にするために用いられる有機溶媒と同様の有機溶媒を挙げることができ、好ましい具体例としては、中でもn−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン等の脂肪族炭化水素系溶媒を挙げることができる。また、その使用量は、後述する有機リチウム試薬のモル濃度に応じて適宜調節すればよい。
【0046】
有機リチウム試薬のモル濃度、すなわち後述するマイクロリアクターに供給される溶液のモル濃度は、一般式[ I ]で示されるハロゲン化芳香族化合物に対する有機リチウム試薬の使用量、一般式[ I ]で示されるハロゲン化芳香族化合物の溶液のモル濃度、及び有機リチウム試薬のマイクロリアクター中での流量(流速)等を考慮して決定すればよく、例えば通常0.01〜20mol/L、好ましくは0.02〜10mol/L、より好ましくは0.05〜5mol/Lである。なお、0.01mol/L未満の場合には、相対的に有機溶媒の量が多くなり、後述するマイクロリアクター中での流量が多く(流速が速く)なりすぎるため、生産性が低下する等の問題が生ずるので望ましくない。
【0047】
本発明で用いられる一般式[ III ]で示されるβ−ビニル化合物は、ビニル基のβ位にハロゲン原子又はトリフルオロメタンスルホニルオキシ基が置換しているアリールビニル化合物又はアルキルビニル化合物であって、当該化合物のビニル基上及び/又は当該化合物のアリール基上には、後述する第2の工程(カップリング反応)に悪影響を及ぼさない範囲で置換基を有していてもよい。これら一般式[ III ]で示されるβ−ビニル化合物の具体例としては、例えば一般式[ XI ]

(式中、s個のRは夫々独立して、炭素数1〜6の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルキル基、炭素数1〜6の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルコキシ基又はフェニル基を表し、sは0〜5の整数を表し、Jは炭素原子又は窒素原子を表し、R、R及びY上記に同じ。なお、隣接する2つのRは、これらが結合している炭素原子と共に、鎖中に酸素原子又は硫黄原子を有していてもよい炭素数3〜6の脂肪族環を形成していてもよい。)で示されるビニルベンゼン誘導体(スチレン誘導体)若しくはビニルピリジン誘導体、一般式[ XII ]

(式中、t個のRは夫々独立して、炭素数1〜6の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルキル基、炭素数1〜6の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルコキシ基又はフェニル基を表し、tは0〜7の整数を表し、Q及びQは、共に炭素原子を表すか又はQ及びQの何れか一方が窒素原子を表す場合は他方が炭素原子を表し、T及びTは、共に炭素原子を表すか又はT及びTの何れか一方が窒素原子を表す場合は他方が炭素原子を表し、R、R及びY上記に同じ。なお、隣接する2つのRは、これらが結合している炭素原子と共に、鎖中に酸素原子又は硫黄原子を有していてもよい炭素数3〜6の脂肪族環を形成していてもよい。)で示されるビニルナフタレン誘導体、ビニルキノリン誘導体、ビニルイソキノリン誘導体若しくはビニルナフチリジン誘導体、又は一般式[ XIII ]

(式中、u個のRは夫々独立して、炭素数1〜6の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルキル基、炭素数1〜6の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルコキシ基又はフェニル基を表し、uは0〜9の整数を表し、R、R及びY上記に同じ。なお、隣接する2つのRは、これらが結合している炭素原子と共に、鎖中に酸素原子又は硫黄原子を有していてもよい炭素数3〜6の脂肪族環を形成していてもよい。)で示されるビニルアントラセン等のアリールビニル化合物、或いは一般式[ XIV ]

(式中、Z’は、炭素数1〜10の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルキル基を表し、R、R及びY上記に同じ。)で示されるアルキルビニル化合物が挙げられる。
【0048】
一般式[ XI ]、[ XII ]及び[ XIII ]におけるR、R及びRで示される炭素数1〜6の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルキル基としては、具体的には、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、sec−ペンチル基、tert−ペンチル基、ネオペンチル基、2−メチルブチル基、1,2−ジメチルプロピル基、1−エチルプロピル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、sec−ヘキシル基、tert−ヘキシル基、ネオヘキシル基、2−メチルペンチル基、1,2−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、1−エチルブチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0049】
一般式[ XI ]、[ XII ]及び[ XIII ]におけるR、R及びRで示される炭素数1〜6の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルコキシ基としては、具体的には、例えばメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、シクロブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、sec−ペンチルオキシ基、tert−ペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、2−メチルブトキシ基、1,2−ジメチルプロポキシ基、1−エチルプロポキシ基、シクロペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、イソヘキシルオキシ基、sec−ヘキシルオキシ基、tert−ヘキシルオキシ基、ネオヘキシルオキシ基、2−メチルペンチルオキシ基、1,2−ジメチルブトキシ基、2,3−ジメチルブトキシ基、1−エチルブトキシ基、シクロヘキシルオキシ基等が挙げられる。
【0050】
一般式[ XI ]におけるsとしては、0〜3の整数が好ましく、中でも0がより好ましい。
【0051】
一般式[ XI ]におけるJとしては、炭素原子が好ましい。
【0052】
一般式[ XII ]におけるtとしては、0〜5の整数が好ましく、中でも0〜3の整数がより好ましく、その中でも0がさらに好ましい。
【0053】
一般式[ XII ]におけるQ、Q、T及びTとしては、すべて炭素原子であるか、何れか1つが窒素原子であるのが好ましく、中でもすべて炭素原子であるのがより好ましい。
【0054】
一般式[ XIII ]におけるuとしては、0〜7の整数が好ましく、中でも0〜5の整数がより好ましく、その中でも0〜3の整数がさらに好ましく、さらにその中でも0が特に好ましい。
【0055】
一般式[ XI ]、[ XII ]及び[ XIII ]におけるR、R及びRで示される「隣接する2つのR(2つのR、2つのR又は2つのR)は、これらが結合している炭素原子と共に、鎖中に酸素原子又は硫黄原子を有していてもよい炭素数3〜6の脂肪族環を形成していてもよい」中の「炭素数3〜6の脂肪族環」としては、具体的には、例えばシクロペンタン環、シクロヘキサン環、テトラヒドロフラン環、テトラヒドロピラン環、テトラヒドロチオフェン環、テトラヒドロチオフラン環、1,3−ジオキサシクロペンタン環、1,3−ジオキサシクロヘキサン環、1,4−ジオキサシクロヘキサン環等が挙げられる。なお、これら脂肪族環を構成する炭素原子の炭素数は、当該脂肪族環と縮環している芳香環を構成する2つの炭素原子を含む炭素数を意味する。
【0056】
一般式[ XIV ]におけるZ’で示される炭素数1〜10の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルキル基としては、鎖中に酸素原子又は硫黄原子を有していてもよく、具体的には、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、sec−ペンチル基、tert−ペンチル基、ネオペンチル基、2−メチルブチル基、1,2−ジメチルプロピル基、1−エチルプロピル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、sec−ヘキシル基、tert−ヘキシル基、ネオヘキシル基、2−メチルペンチル基、1,2−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、1−エチルブチル基、シクロヘキシル基、n−ヘプチル基、イソヘプチル基、sec−ヘプチル基、tert−ヘプチル基、ネオヘプチル基、シクロヘプチル基、n−オクチル基、イソオクチル基、sec−オクチル基、tert−オクチル基、ネオオクチル基、2−エチルヘキシル基、シクロオクチル基、n−ノニル基、イソノニル基、sec−ノニル基、tert−ノニル基、ネオノニル基、シクロノニル基、n−デシル基、イソデシル基、sec−デシル基、tert−デシル基、ネオデシル基、シクロデシル基、ヘキサヒドロインダニル基、デカヒドロナフチル基、スピロ[4,4]ノニル基、スピロ[4,5]デシル基、ノルボルニル基、アダマンチル基、メトキシメチル基、エトキシエチル基、プロポキシプロピル基、メチルチオメチル基、エチルチオエチル基、プロピルチオプロピル基、テトラヒドロフリル基等が挙げられる。
【0057】
一般式[ XI ]で示されるビニルベンゼン誘導体(スチレン誘導体)及びビニルピリジン誘導体の具体例としては、例えばβ−クロロスチレン、β−ブロモスチレン、β−ヨードスチレン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシスチレン、β−クロロメチルスチレン、β−ブロモメチルスチレン、β−ヨードメチルスチレン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシメチルスチレン、β−クロロジメチルスチレン、β−ブロモジメチルスチレン、β−ヨードジメチルスチレン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシジメチルスチレン、β−クロロトリメチルスチレン、β−ブロモトリメチルスチレン、β−ヨードトリメチルスチレン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシトリメチルスチレン、β−クロロエチルスチレン、β−ブロモエチルスチレン、β−ヨードエチルスチレン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシエチルスチレン、β−クロロイソプロピルスチレン、β−ブロモイソプロピルスチレン、β−ヨードイソプロピルスチレン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシイソプロピルスチレン、β−クロロヘキシルスチレン、β−ブロモヘキシルスチレン、β−ヨードヘキシルスチレン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシヘキシルスチレン、β−クロロメトキシスチレン、β−ブロモメトキシスチレン、β−ヨードメトキシスチレン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシメトキシスチレン、β−クロロヘキシルオキシスチレン、β−ブロモヘキシルオキシスチレン、β−ヨードヘキシルオキシスチレン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシヘキシルオキシスチレン、β−クロロ−α−メチルスチレン、β−ブロモ−α−メチルスチレン、β−ヨード−α−メチルスチレン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシ−α−メチルスチレン、β−クロロ−β−メチルスチレン、β−ブロモ−β−メチルスチレン、β−ヨード−β−メチルスチレン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシ−β−メチルスチレン等のビニルベンゼン誘導体(スチレン誘導体)、例えばβ−クロロビニルピリジン、β−ブロモビニルピリジン、β−ヨードビニルピリジン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルピリジン、β−クロロビニルメチルピリジン、β−ブロモビニルメチルピリジン、β−ヨードビニルメチルピリジン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルメチルピリジン、β−クロロビニルジメチルピリジン、β−ブロモビニルジメチルピリジン、β−ヨードビニルジメチルピリジン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルジメチルピリジン、β−クロロビニルトリメチルピリジン、β−ブロモビニルトリメチルピリジン、β−ヨードビニルトリメチルピリジン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルトリメチルピリジン、β−クロロビニルエチルピリジン、β−ブロモビニルエチルピリジン、β−ヨードビニルエチルピリジン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルエチルピリジン、β−クロロビニルイソプロピルピリジン、β−ブロモビニルイソプロピルピリジン、β−ヨードビニルイソプロピルピリジン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルイソプロピルピリジン、β−クロロビニルヘキシルピリジン、β−ブロモビニルヘキシルピリジン、β−ヨードビニルヘキシルピリジン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルヘキシルピリジン、β−クロロビニルメトキシピリジン、β−ブロモビニルメトキシピリジン、β−ヨードビニルメトキシピリジン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルメトキシピリジン、β−クロロビニルヘキシルオキシピリジン、β−ブロモビニルヘキシルオキシピリジン、β−ヨードビニルヘキシルオキシピリジン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルヘキシルオキシピリジン、β−クロロ−α−メチルビニルピリジン、β−ブロモ−α−メチルビニルピリジン、β−ヨード−α−メチルビニルピリジン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシ−α−メチルビニルピリジン、β−クロロ−β−メチルビニルピリジン、β−ブロモ−β−メチルビニルピリジン、β−ヨード−β−メチルビニルピリジン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシ−β−メチルビニルピリジン等のビニルピリジン誘導体等が挙げられ、中でも例えばβ−クロロスチレン、β−ブロモスチレン、β−ヨードスチレン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシスチレン、β−クロロメチルスチレン、β−ブロモメチルスチレン、β−ヨードメチルスチレン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシメチルスチレン、β−クロロジメチルスチレン、β−ブロモジメチルスチレン、β−ヨードジメチルスチレン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシジメチルスチレン、β−クロロトリメチルスチレン、β−ブロモトリメチルスチレン、β−ヨードトリメチルスチレン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシトリメチルスチレン、β−クロロエチルスチレン、β−ブロモエチルスチレン、β−ヨードエチルスチレン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシエチルスチレン、β−クロロイソプロピルスチレン、β−ブロモイソプロピルスチレン、β−ヨードイソプロピルスチレン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシイソプロピルスチレン、β−クロロヘキシルスチレン、β−ブロモヘキシルスチレン、β−ヨードヘキシルスチレン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシヘキシルスチレン、β−クロロメトキシスチレン、β−ブロモメトキシスチレン、β−ヨードメトキシスチレン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシメトキシスチレン、β−クロロヘキシルオキシスチレン、β−ブロモヘキシルオキシスチレン、β−ヨードヘキシルオキシスチレン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシヘキシルオキシスチレン、β−クロロ−α−メチルスチレン、β−ブロモ−α−メチルスチレン、β−ヨード−α−メチルスチレン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシ−α−メチルスチレン、β−クロロ−β−メチルスチレン、β−ブロモ−β−メチルスチレン、β−ヨード−β−メチルスチレン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシ−β−メチルスチレン等のビニルベンゼン誘導体(スチレン誘導体)が好ましく、その中でもβ−クロロスチレン、β−ブロモスチレン、β−ヨードスチレン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシスチレン等の無置換のビニルベンゼン誘導体(スチレン誘導体)がより好ましく、さらにその中でもβ−ブロモスチレンがさらに好ましい。また、これらビニルベンゼン誘導体(スチレン誘導体)及びビニルピリジン誘導体における芳香環に対するビニル基の結合位置は特に限定されず、当該ビニル基は、芳香環上の炭素原子であれば何れの炭素原子に結合していてもよく、更に当該ビニルベンゼン誘導体(スチレン誘導体)及びビニルピリジン誘導体における芳香環上の置換基の結合位置も特に限定されず、当該置換基は、ビニル基の結合していない炭素原子であれば、何れの炭素原子に結合していてもよい。更にまた、これらビニルベンゼン誘導体(スチレン誘導体)及びビニルピリジン誘導体は、(E)体又は(Z)体の何れか一方に限定されるものではなく、(E)体及び(Z)体の何れの誘導体であっても差し支えない。なお、上記の具体例はあくまで一例であって、本発明の製造方法に係る化合物がこれらの例によって何ら限定されるものではなく、これらのビニルベンゼン誘導体(スチレン誘導体)及びビニルピリジン誘導体は、市販のものを用いるか、常法により合成したものを適宜用いればよい。
【0058】
念のため付記すれば、上記一般式[ III ]において、上記一般式[ XI ]で示されるビニルベンゼン誘導体(スチレン誘導体)及びビニルピリジン誘導体は、当該一般式[ III ]におけるZが、一般式[ XV ]

(式中、R、s及びJは上記に同じ。)で示される、置換基を有していてもよいフェニル基又はピリジル基であるものに相当する。
【0059】
一般式[ XII ]で示されるビニルナフタレン誘導体、ビニルキノリン誘導体、ビニルイソキノリン誘導体及びビニルナフチリジン誘導体の具体例としては、例えばβ−クロロビニルナフタレン、β−ブロモビニルナフタレン、β−ヨードビニルナフタレン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルナフタレン、β−クロロビニルメチルナフタレン、β−ブロモビニルメチルナフタレン、β−ヨードビニルメチルナフタレン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルメチルナフタレン、β−クロロビニルジメチルナフタレン、β−ブロモビニルジメチルナフタレン、β−ヨードビニルジメチルナフタレン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルジメチルナフタレン、β−クロロビニルトリメチルナフタレン、β−ブロモビニルトリメチルナフタレン、β−ヨードビニルトリメチルナフタレン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルトリメチルナフタレン、β−クロロビニルエチルナフタレン、β−ブロモビニルエチルナフタレン、β−ヨードビニルエチルナフタレン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルエチルナフタレン、β−クロロビニルイソプロピルナフタレン、β−ブロモビニルイソプロピルナフタレン、β−ヨードビニルイソプロピルナフタレン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルイソプロピルナフタレン、β−クロロビニルヘキシルナフタレン、β−ブロモビニルヘキシルナフタレン、β−ヨードビニルヘキシルナフタレン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルヘキシルナフタレン、β−クロロビニルメトキシナフタレン、β−ブロモビニルメトキシナフタレン、β−ヨードビニルメトキシナフタレン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルメトキシナフタレン、β−クロロビニルヘキシルオキシナフタレン、β−ブロモビニルヘキシルオキシナフタレン、β−ヨードビニルヘキシルオキシナフタレン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルヘキシルオキシナフタレン、β−クロロ−α−メチルビニルナフタレン、β−ブロモ−α−メチルビニルナフタレン、β−ヨード−α−メチルビニルナフタレン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシ−α−メチルビニルナフタレン、β−クロロ−β−メチルビニルナフタレン、β−ブロモ−β−メチルビニルナフタレン、β−ヨード−β−メチルビニルナフタレン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシ−β−メチルビニルナフタレン等のビニルナフタレン誘導体、例えばβ−クロロビニルキノリン、β−ブロモビニルキノリン、β−ヨードビニルキノリン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルキノリン、β−クロロビニルメチルキノリン、β−ブロモビニルメチルキノリン、β−ヨードビニルメチルキノリン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルメチルキノリン、β−クロロビニルジメチルキノリン、β−ブロモビニルジメチルキノリン、β−ヨードビニルジメチルキノリン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルジメチルキノリン、β−クロロビニルトリメチルキノリン、β−ブロモビニルトリメチルキノリン、β−ヨードビニルトリメチルキノリン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルトリメチルキノリン、β−クロロビニルエチルキノリン、β−ブロモビニルエチルキノリン、β−ヨードビニルエチルキノリン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルエチルキノリン、β−クロロビニルイソプロピルキノリン、β−ブロモビニルイソプロピルキノリン、β−ヨードビニルイソプロピルキノリン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルイソプロピルキノリン、β−クロロビニルヘキシルキノリン、β−ブロモビニルヘキシルキノリン、β−ヨードビニルヘキシルキノリン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルヘキシルキノリン、β−クロロビニルメトキシキノリン、β−ブロモビニルメトキシキノリン、β−ヨードビニルメトキシキノリン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルメトキシキノリン、β−クロロビニルヘキシルオキシキノリン、β−ブロモビニルヘキシルオキシキノリン、β−ヨードビニルヘキシルオキシキノリン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルヘキシルオキシキノリン、β−クロロ−α−メチルビニルキノリン、β−ブロモ−α−メチルビニルキノリン、β−ヨード−α−メチルビニルキノリン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシ−α−メチルビニルキノリン、β−クロロ−β−メチルビニルキノリン、β−ブロモ−β−メチルビニルキノリン、β−ヨード−β−メチルビニルキノリン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシ−β−メチルビニルキノリン等のビニルキノリン誘導体、例えばβ−クロロビニルイソキノリン、β−ブロモビニルイソキノリン、β−ヨードビニルイソキノリン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルイソキノリン、β−クロロビニルメチルイソキノリン、β−ブロモビニルメチルイソキノリン、β−ヨードビニルメチルイソキノリン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルメチルイソキノリン、β−クロロビニルジメチルイソキノリン、β−ブロモビニルジメチルイソキノリン、β−ヨードビニルジメチルイソキノリン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルジメチルイソキノリン、β−クロロビニルトリメチルイソキノリン、β−ブロモビニルトリメチルイソキノリン、β−ヨードビニルトリメチルイソキノリン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルトリメチルイソキノリン、β−クロロビニルエチルイソキノリン、β−ブロモビニルエチルイソキノリン、β−ヨードビニルエチルイソキノリン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルエチルイソキノリン、β−クロロビニルイソプロピルイソキノリン、β−ブロモビニルイソプロピルイソキノリン、β−ヨードビニルイソプロピルイソキノリン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルイソプロピルイソキノリン、β−クロロビニルヘキシルイソキノリン、β−ブロモビニルヘキシルイソキノリン、β−ヨードビニルヘキシルイソキノリン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルヘキシルイソキノリン、β−クロロビニルメトキシイソキノリン、β−ブロモビニルメトキシイソキノリン、β−ヨードビニルメトキシイソキノリン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルメトキシイソキノリン、β−クロロビニルヘキシルオキシイソキノリン、β−ブロモビニルヘキシルオキシイソキノリン、β−ヨードビニルヘキシルオキシイソキノリン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルヘキシルオキシイソキノリン、β−クロロ−α−メチルビニルイソキノリン、β−ブロモ−α−メチルビニルイソキノリン、β−ヨード−α−メチルビニルイソキノリン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシ−α−メチルビニルイソキノリン、β−クロロ−β−メチルビニルイソキノリン、β−ブロモ−β−メチルビニルイソキノリン、β−ヨード−β−メチルビニルイソキノリン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシ−β−メチルビニルイソキノリン等のビニルイソキノリン誘導体、例えばβ−クロロビニルナフチリジン、β−ブロモビニルナフチリジン、β−ヨードビニルナフチリジン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルナフチリジン、β−クロロビニルメチルナフチリジン、β−ブロモビニルメチルナフチリジン、β−ヨードビニルメチルナフチリジン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルメチルナフチリジン、β−クロロビニルジメチルナフチリジン、β−ブロモビニルジメチルナフチリジン、β−ヨードビニルジメチルナフチリジン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルジメチルナフチリジン、β−クロロビニルトリメチルナフチリジン、β−ブロモビニルトリメチルナフチリジン、β−ヨードビニルトリメチルナフチリジン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルトリメチルナフチリジン、β−クロロビニルエチルナフチリジン、β−ブロモビニルエチルナフチリジン、β−ヨードビニルエチルナフチリジン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルエチルナフチリジン、β−クロロビニルイソプロピルナフチリジン、β−ブロモビニルイソプロピルナフチリジン、β−ヨードビニルイソプロピルナフチリジン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルイソプロピルナフチリジン、β−クロロビニルヘキシルナフチリジン、β−ブロモビニルヘキシルナフチリジン、β−ヨードビニルヘキシルナフチリジン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルヘキシルナフチリジン、β−クロロビニルメトキシナフチリジン、β−ブロモビニルメトキシナフチリジン、β−ヨードビニルメトキシナフチリジン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルメトキシナフチリジン、β−クロロビニルヘキシルオキシナフチリジン、β−ブロモビニルヘキシルオキシナフチリジン、β−ヨードビニルヘキシルオキシナフチリジン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルヘキシルオキシナフチリジン、β−クロロ−α−メチルビニルナフチリジン、β−ブロモ−α−メチルビニルナフチリジン、β−ヨード−α−メチルビニルナフチリジン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシ−α−メチルビニルナフチリジン、β−クロロ−β−メチルビニルナフチリジン、β−ブロモ−β−メチルビニルナフチリジン、β−ヨード−β−メチルビニルナフチリジン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシ−β−メチルビニルナフチリジン等のビニルナフチリジン誘導体等が挙げられ、中でも例えばβ−クロロビニルナフタレン、β−ブロモビニルナフタレン、β−ヨードビニルナフタレン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルナフタレン、β−クロロビニルメチルナフタレン、β−ブロモビニルメチルナフタレン、β−ヨードビニルメチルナフタレン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルメチルナフタレン、β−クロロビニルジメチルナフタレン、β−ブロモビニルジメチルナフタレン、β−ヨードビニルジメチルナフタレン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルジメチルナフタレン、β−クロロビニルトリメチルナフタレン、β−ブロモビニルトリメチルナフタレン、β−ヨードビニルトリメチルナフタレン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルトリメチルナフタレン、β−クロロビニルエチルナフタレン、β−ブロモビニルエチルナフタレン、β−ヨードビニルエチルナフタレン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルエチルナフタレン、β−クロロビニルイソプロピルナフタレン、β−ブロモビニルイソプロピルナフタレン、β−ヨードビニルイソプロピルナフタレン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルイソプロピルナフタレン、β−クロロビニルヘキシルナフタレン、β−ブロモビニルヘキシルナフタレン、β−ヨードビニルヘキシルナフタレン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルヘキシルナフタレン、β−クロロビニルメトキシナフタレン、β−ブロモビニルメトキシナフタレン、β−ヨードビニルメトキシナフタレン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルメトキシナフタレン、β−クロロビニルヘキシルオキシナフタレン、β−ブロモビニルヘキシルオキシナフタレン、β−ヨードビニルヘキシルオキシナフタレン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルヘキシルオキシナフタレン、β−クロロ−α−メチルビニルナフタレン、β−ブロモ−α−メチルビニルナフタレン、β−ヨード−α−メチルビニルナフタレン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシ−α−メチルビニルナフタレン、β−クロロ−β−メチルビニルナフタレン、β−ブロモ−β−メチルビニルナフタレン、β−ヨード−β−メチルビニルナフタレン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシ−β−メチルビニルナフタレン等のビニルナフタレン誘導体が好ましく、その中でもβ−クロロビニルナフタレン、β−ブロモビニルナフタレン、β−ヨードビニルナフタレン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルナフタレン等の無置換のビニルナフタレン誘導体がより好ましく、
さらにその中でもβ−ブロモビニルナフタレンがさらに好ましい。また、これらビニルナフタレン誘導体、ビニルキノリン誘導体、ビニルイソキノリン誘導体及びビニルナフチリジン誘導体における芳香環に対するビニル基の結合位置は特に限定されず、当該ビニル基は、芳香環上の1位〜8位の炭素原子であれば何れの炭素原子に結合していてもよく、更に当該ビニルナフタレン誘導体、ビニルキノリン誘導体、ビニルイソキノリン誘導体及びビニルナフチリジン誘導体における芳香環上の置換基の結合位置も特に限定されず、当該置換基は、ビニル基の結合していない1位〜8位の炭素原子であれば、何れの炭素原子に結合していてもよい。更にまた、これらビニルナフタレン誘導体、ビニルキノリン誘導体、ビニルイソキノリン誘導体及びビニルナフチリジン誘導体は、(E)体又は(Z)体の何れか一方に限定されるものではなく、(E)体及び(Z)体の何れの誘導体であっても差し支えない。なお、上記の具体例はあくまで一例であって、本発明の製造方法に係る化合物がこれらの例によって何ら限定されるものではなく、これらのビニルナフタレン誘導体、ビニルキノリン誘導体、ビニルイソキノリン誘導体及びビニルナフチリジン誘導体は、市販のものを用いるか、常法により合成したものを適宜用いればよい。
【0060】
念のため付記すれば、上記一般式[ III ]において、上記一般式[ XII ]で示されるビニルナフタレン誘導体、ビニルキノリン誘導体、ビニルイソキノリン誘導体及びビニルナフチリジン誘導体は、当該一般式[ III ]におけるZが、一般式[ XVI ]

(式中、R、t、Q、Q、T及びTは上記に同じ。)で示される、置換基を有していてもよいナフチル基、キノリル基、イソキノリル基又はナフチリジニル基であるものに相当する。
【0061】
一般式[ XIII ]で示されるビニルアントラセン誘導体の具体例としては、例えばβ−クロロビニルアントラセン、β−ブロモビニルアントラセン、β−ヨードビニルアントラセン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルアントラセン、β−クロロビニルメチルアントラセン、β−ブロモビニルメチルアントラセン、β−ヨードビニルメチルアントラセン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルメチルアントラセン、β−クロロビニルジメチルアントラセン、β−ブロモビニルジメチルアントラセン、β−ヨードビニルジメチルアントラセン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルジメチルアントラセン、β−クロロビニルトリメチルアントラセン、β−ブロモビニルトリメチルアントラセン、β−ヨードビニルトリメチルアントラセン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルトリメチルアントラセン、β−クロロビニルエチルアントラセン、β−ブロモビニルエチルアントラセン、β−ヨードビニルエチルアントラセン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルエチルアントラセン、β−クロロビニルイソプロピルアントラセン、β−ブロモビニルイソプロピルアントラセン、β−ヨードビニルイソプロピルアントラセン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルイソプロピルアントラセン、β−クロロビニルヘキシルアントラセン、β−ブロモビニルヘキシルアントラセン、β−ヨードビニルヘキシルアントラセン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルヘキシルアントラセン、β−クロロビニルメトキシアントラセン、β−ブロモビニルメトキシアントラセン、β−ヨードビニルメトキシアントラセン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルメトキシアントラセン、β−クロロビニルヘキシルオキシアントラセン、β−ブロモビニルヘキシルオキシアントラセン、β−ヨードビニルヘキシルオキシアントラセン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルヘキシルオキシアントラセン、β−クロロ−α−メチルビニルアントラセン、β−ブロモ−α−メチルビニルアントラセン、β−ヨード−α−メチルビニルアントラセン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシ−α−メチルビニルアントラセン、β−クロロ−β−メチルビニルアントラセン、β−ブロモ−β−メチルビニルアントラセン、β−ヨード−β−メチルビニルアントラセン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシ−β−メチルビニルアントラセン等のビニルアントラセン誘導体等が挙げられ、中でもβ−クロロビニルアントラセン、β−ブロモビニルアントラセン、β−ヨードビニルアントラセン、β−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルアントラセン等の無置換のビニルアントラセン誘導体が好ましく、その中でもβ−ブロモビニルアントラセンがより好ましい。また、これらビニルアントラセン誘導体における芳香環に対するビニル基の結合位置は特に限定されず、当該ビニル基は、芳香環上の1位〜10位の炭素原子であれば何れの炭素原子に結合していてもよく、更に当該ビニルアントラセン誘導体における芳香環上の置換基の結合位置も特に限定されず、当該置換基は、ビニル基の結合していない1位〜10位の炭素原子であれば、何れの炭素原子に結合していてもよい。更にまた、これらビニルアントラセン誘導体は、(E)体又は(Z)体の何れか一方に限定されるものではなく、(E)体及び(Z)体の何れの誘導体であっても差し支えない。なお、上記の具体例はあくまで一例であって、本発明の製造方法に係る化合物がこれらの例によって何ら限定されるものではなく、これらのビニルアントラセン誘導体は、市販のものを用いるか、常法により合成したものを適宜用いればよい。
【0062】
念のため付記すれば、上記一般式[ III ]において、上記一般式[ XIII ]で示されるビニルアントラセン誘導体は、当該一般式[ III ]におけるZが、一般式[ XVII ]

(式中、R8及びuは上記に同じ。)で示される、置換基を有していてもよいアントリル基であるものに相当する。
【0063】
一般式[ XIV ]で示されるアルキルビニル化合物の具体例としては、例えば1−クロロプロピレン、1−ブロモプロピレン、1−ヨードプロピレン、1−トリフルオロメタンスルホニルオキシプロピレン、1−クロロ−1−ブテン、1−ブロモ−1−ブテン、1−ヨード−1−ブテン、1−トリフルオロメタンスルホニルオキシ−1−ブテン、1−クロロ−3−メチル−1−ブテン、1−ブロモ−3−メチル−1−ブテン、1−ヨード−3−メチル−1−ブテン、1−トリフルオロメタンスルホニルオキシ−3−メチル−1−ブテン、1−クロロビニルシクロペンタン、1−ブロモビニルシクロペンタン、1−ヨードビニルシクロペンタン、1−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルシクロペンタン、1−クロロビニルシクロヘキサン、1−ブロモビニルシクロヘキサン、1−ヨードビニルシクロヘキサン、1−トリフルオロメタンスルホニルオキシビニルシクロヘキサン、1−クロロ−1−メチルプロピレン、1−ブロモ−1−メチルプロピレン、1−ヨード−1−メチルプロピレン、1−トリフルオロメタンスルホニルオキシ−1−メチルプロピレン、1−クロロ−2−メチルプロピレン、1−ブロモ−2−メチルプロピレン、1−ヨード−2−メチルプロピレン、1−トリフルオロメタンスルホニルオキシ−2−メチルプロピレン等のアルキルビニル化合物が挙げられる。また、これらのアルキルビニル化合物は、(E)体又は(Z)体の何れか一方に限定されるものではなく、(E)体及び(Z)体の何れの誘導体であっても差し支えない。なお、上記の具体例はあくまで一例であって、本発明の製造方法に係る化合物がこれらの例によって何ら限定されるものではなく、これらのアルキルビニル化合物は、市販のものを用いるか、常法により合成したものを適宜用いればよい。
【0064】
本発明の製造方法においては、本発明で用いられる一般式[ III ]で示されるβ−ビニル化合物は、液体であること又は溶液状態で用いることができることが求められる。したがって、上記一般式[ III ]で示されるβ−ビニル化合物が液体でない場合には、少なくとも後述する第2の工程における反応に対して不活性な有機溶媒に溶解させる必要がある。また、一般式[ III ]で示されるβ−ビニル化合物が液体であっても、粘性が高い液体のβ−ビニル化合物を使用する場合や、反応性が高いβ−ビニル化合物を使用する場合等、液体のβ−ビニル化合物であってもそのままの使用が難しい場合には、適宜有機溶媒に希釈させて使用することが望ましい。当該有機溶媒の具体例としては、上述の一般式[ I ]で示されるハロゲン化芳香族化合物を溶液状態にするために用いられる有機溶媒と同様の有機溶媒を挙げることができ、好ましい具体例及びより好ましい具体例も上述の一般式[ I ]で示されるハロゲン化芳香族化合物を溶液状態にするために用いられる好ましい有機溶媒及びより好ましい有機溶媒を挙げることができる。
【0065】
β−ビニル化合物のモル濃度、すなわち後述するマイクロリアクターに供給される溶液のモル濃度は、β−ビニル化合物に対する一般式[ II ]で示されるリチオ化された芳香族化合物の使用量、一般式[ II ]で示されるリチオ化された芳香族化合物の溶液のモル濃度、及びβ−ビニル化合物のマイクロリアクター中での流量(流速)等を考慮して決定すればよく、例えば通常0.01〜20mol/L、好ましくは0.02〜10mol/L、より好ましくは0.05〜5mol/Lである。なお、0.01mol/L未満の場合には、相対的に有機溶媒の量が多くなり、後述するマイクロリアクター中での流量が多く(流速が速く)なりすぎるわりに、目的とする上記一般式[ IV ]で示されるビニル置換アリール化合物の収量が少なく、生産性が低下する等の問題が生ずるので望ましくない。
【0066】
本発明で用いられるパラジウム化合物は、従来公知の、例えば市販されている均一系の0価又は2価のパラジウム化合物を使用することができ、具体的には、例えばテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ビス(トリ−tert−ブチルホスフィン)パラジウム、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウム、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム等の0価のパラジウム化合物、酢酸パラジウム、トリフルオロ酢酸パラジウム、ビス(アセトニトリル)パラジウムジクロリド、ビス(アセチルアセトナート)パラジウム、アリルパラジウムクロリド、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムジクロリド、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムジアセテート等の2価のパラジウム化合物が挙げられ、中でも0価のパラジウム化合物であるビス(トリ−tert−ブチルホスフィン)パラジウム、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウム、2価のパラジウム化合物である酢酸パラジウムが好ましく、その中でもビス(トリ−tert−ブチルホスフィン)パラジウム、酢酸パラジウムがより好ましい。なお、後述するように、例えば酢酸パラジウム等の2価のパラジウム化合物と、例えばトリフェニルホスフィン、トリ−tert−ブチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン等のパラジウムに配位し得る化合物を混合したものを、パラジウム化合物(混合パラジウム化合物)として用いることも可能であり、そのような場合には、マイクロリアクターの外で予め混合したものを用いてもよいが、パラジウム化合物とパラジウムに配位し得る化合物との混合をマイクロリアクターの中で行ったものを用いるのが望ましい。
【0067】
パラジウム化合物の使用量、すなわち、当該パラジウム化合物中のパラジウムのモル換算での使用量は、後述する第2の工程で用いられる上記一般式[ III ]で示されるβ−ビニル化合物1molに対して、通常0.001〜20mol%、好ましくは0.01〜20mol%、より好ましくは0.1〜20mol%である。0.001mol%未満の場合には、後述する第2の工程におけるカップリング反応が十分に進行せず、一方、20mol%を超える量のパラジウム化合物を使用すると、経済性が損なわれる等の問題が生ずるので望ましくない。なお、ここで言う上記パラジウム化合物の使用量とは、後述するように、マイクロミキサー内で一般式[ III ]で示されるβ−ビニル化合物と当該パラジウム化合物とを接触させるようにした場合には、β−ビニル化合物とパラジウム化合物との反応時における見かけ上のパラジウム換算でのmol%、言い換えれば、後述するマイクロリアクターの第2の工程のマイクロミキサー内において、β−ビニル化合物とパラジウム化合物とが反応する際の見かけ上のパラジウム換算でのmol%で定義され、一般式[ III ]で示されるβ−ビニル化合物の溶液に予め当該パラジウム化合物を溶解させるようにした場合やβ−ビニル化合物が共存する溶液中で、パラジウム化合物とパラジウムに配位し得る化合物とを混合させるようにした場合には、当該溶液中でのパラジウム化合物中のパラジウム換算でのmol%で定義される。
【0068】
パラジウム化合物は、一般式[ III ]で示されるβ−ビニル化合物の溶液とは別に、市販のパラジウム化合物を上で述べたような不活性の有機溶媒に溶解させて、当該パラジウム化合物のモル濃度を適宜調節した溶液を用意しておき、後述するマイクロリアクターの第2の工程のマイクロミキサー内でβ−ビニル化合物とパラジウム化合物とを接触させるようにしてもよいし、一般式[ III ]で示されるβ−ビニル化合物の溶液に予め市販のパラジウム化合物を溶解させた溶液を第2の工程のマイクロミキサー内に供給するようにしてもよいが、パラジウム化合物とパラジウムに配位し得る化合物とを混合したものをパラジウム化合物(混合パラジウム化合物)として用いる場合には、マイクロリアクターの中で混合したものを用いることが好ましい。すなわち、マイクロリアクターにおいて、パラジウム化合物とパラジウムに配位し得る化合物とを混合させる工程(配位子混合工程)を設け、当該配位子混合工程を経た溶液を第2の工程のマイクロミキサー内に供給するのが好ましい。このように、パラジウム化合物とパラジウムに配位し得る化合物とをマイクロリアクターの中で混合したものをカップリング反応に用いた場合には、市販のパラジウム化合物をそのままカップリング反応に用いた場合に比較して、目的とする上記一般式[ IV ]で示されるビニル置換アリール化合物の収率の向上が期待できる。なお、パラジウム化合物とパラジウムに配位し得る化合物とを混合したものとしては、パラジウム化合物とパラジウムに配位し得る化合物とが単に混合された状態であるもの、パラジウム化合物のパラジウムの一部又は全部にパラジウムに配位し得る化合物が配位した状態であるもの等が考えられるが、何れの状態のものも本発明に含まれる。更に付記すれば、上記「配位した状態」とは、パラジウム化合物中のパラジウムに、パラジウムに配位し得る化合物が単に配位した状態、或いは0価のパラジウムに、パラジウムに配位し得る化合物が配位した状態等も含む意味である。また、このような混合は、β−ビニル化合物の共存下で行って、パラジウム化合物とパラジウムと配位し得る化合物とβ−ビニル化合物との混合溶液を第2の工程のマイクロミキサー内に供給するのが、β−ビニル化合物専用の、いわゆるβ−ビニル化合物を要すれば有機溶媒に溶解させた溶液のみを流通させるためのマイクロチューブを用意しなくて済むという点で、すなわち、マイクロリアクターの小型化が図れるという点で好ましい。
【0069】
パラジウム化合物とパラジウムに配位し得る化合物とを混合させて第2の工程の反応系(カップリング反応)に供給する場合において、使用されるパラジウム化合物としては、具体的には、例えば酢酸パラジウム等の2価のパラジウム化合物等が挙げられる。一方、パラジウムに配位し得る化合物としては、具体的には、例えばトリフェニルホスフィン、トリ−tert−ブチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン等のホスフィン化合物等が挙げられ、中でもトリ−tert−ブチルホスフィンが好ましい。また、パラジウム化合物とパラジウムに配位し得る化合物との混合時に使用されるパラジウムに配位し得る化合物(ホスフィン化合物)の使用量は、用いられるパラジウム化合物の量によって決定され、具体的には、パラジウム化合物中のパラジウムに対して、通常1.0〜20当量、好ましくは1.5〜10当量、より好ましくは1.8〜8当量である。1.0当量未満の場合には、目的の混合パラジウム化合物が効率よく調製できず、一方、20当量を超える量のパラジウムに配位し得る化合物(ホスフィン化合物)を使用すると、経済性が損なわれる等の問題が生ずるので望ましくない。なお、ここで言う上記パラジウムに配位し得る化合物(ホスフィン化合物)の使用量とは、パラジウム化合物中のパラジウム換算での当量で定義される。
【0070】
本発明の製造方法においては、本発明で用いられるパラジウム化合物は、液体であること又は溶液状態で用いることができることが求められるが、通常、パラジウム化合物のほとんどが固体状態であるため、後述する第2の工程における反応に対して不活性な有機溶媒に溶解させる必要がある。当該有機溶媒の具体例としては、上述の一般式[ I ]で示されるハロゲン化芳香族化合物を溶液状態にするために用いられる有機溶媒と同様の有機溶媒を挙げることができ、好ましい具体例及びより好ましい具体例も上述の一般式[ I ]で示されるハロゲン化芳香族化合物を溶液状態にするために用いられる好ましい有機溶媒及びより好ましい有機溶媒を挙げることができる。また、パラジウム化合物に混合する際に用いられるパラジウムに配位し得る化合物(ホスフィン化合物)も固体である場合がほとんどであるので、後述する第2の工程及び配位子混合工程における反応に対して不活性な有機溶媒に溶解させる必要がある。ここで挙げられる第2の工程及び配位子混合工程における反応に対して不活性な有機溶媒も、上述のパラジウム化合物を溶解させるために使用される有機溶媒と同様のものを挙げることができる。
【0071】
パラジウム化合物のモル濃度、すなわち後述するマイクロリアクターに供給されるパラジウム化合物の溶液のモル濃度は、一般式[ III ]で示されるβ−ビニル化合物の使用量、当該ビニル化合物の溶液のモル濃度及びβ−ビニル化合物のマイクロリアクター中での流量(流速)等を考慮して決定すればよく、例えば通常0.0001〜5mol/L、好ましくは0.001〜3mol/L、より好ましくは0.01〜1mol/Lである。なお、0.0001mol/L未満の場合には、相対的に有機溶媒の量が多くなり、後述するマイクロリアクター中での流量が多く(流速が速く)なりすぎ、効率的ではなくなる等の問題が生ずるので望ましくない。
【0072】
本発明の製造方法においては、後述するように必要に応じて更なる工程として反応停止工程を含むようにしてもよく、当該反応停止工程では、反応停止液が使用される。反応停止液の具体例としては、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール等のアルコール系有機溶媒等の極性プロトン性有機溶媒、例えば水、塩化アンモニウム水溶液、塩酸水溶液等の水系溶媒が挙げられ、中でもメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール等のアルコール系有機溶媒が好ましく、中でもメタノールがより好ましい。また、これらの反応停止液は、夫々単独又は2種以上を組み合わせて用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いる際の混合比は任意に定めることができる。
【0073】
反応停止液の使用量は、後述する第2の工程後(カップリング反応後)の反応液を後処理できれば特に制限はなく、任意に調節すればよい。また、当該反応停止液は、前述したような不活性な有機溶媒で希釈することなく、そのまま用いればよい。
【0074】
本発明の製造方法においては、後述する第1の工程で使用される有機リチウム試薬や後述する第1の工程で生成する上記一般式[ II ]で示されるリチオ化された芳香族化合物を活性化するために、例えばテトラメチルエチレンジアミン、ヘキサメチルリン酸トリアミド等のキレート剤を添加することができる。当該キレート剤の使用量は、有機リチウム試薬及びリチオ化された芳香族化合物に対して、通常0.01〜10当量、好ましくは0.1〜5当量、より好ましくは0.8〜3当量である。なお、ここで言う上記キレート剤の使用量とは、有機リチウム試薬又はリチオ化された芳香族化合物と当該キレート剤との接触時における見かけ上の当量、言い換えれば、後述するマイクロリアクターの第1の工程のマイクロミキサー内において、有機リチウム試薬又はリチオ化された芳香族化合物と当該キレート剤とが接触して、キレート剤が金属リチウムをキレートする際の見かけ上の当量で定義される。
【0075】
次に、本発明で使用されるマイクロリアクターについて説明する。本発明の製造方法に係るマイクロリアクターとは、複数の液体を接触、混合させる混合部、いわゆるマイクロミキサーと、当該混合部の後部に接続される反応部、いわゆるチューブリアクターとも呼ばれるチューブからなる微小な流通式反応器を意味し、混合部の流路断面の最小長さが数μmから数千μmのものであって、さらに反応部の等価直径が数μmから数千μmのものであり、必要に応じて、流路断面の最小長さや等価直径を適宜選択することができる。なお、ここで言う等価直径とは、流路断面を円形に換算した場合の直径を意味する。
【0076】
マイクロリアクター中の混合部、いわゆるマイクロミキサーにおける流路断面の形状は特に制限されず、目的に応じて適宜選択すればよい。より具体的には、例えば円形、矩形、半円形、三角形等が挙げられる。また、液体を内部で複数の流路に分けて流通させることもできる。また、上記マイクロリアクターの反応部、いわゆるチューブリアクターとも呼ばれるチューブにおける流路(流通)方向の長さや形状については、特に制限されず、後述するようにマイクロリアクターに送液される液体の流速や反応時間等に応じて適宜選択することができる。更に、上記マイクロリアクターを複数連結して用いたり、複数のマイクロリアクターを組み込んだ装置を用いることにより、本発明の製造方法に係る工程にさらに他の工程(反応)を含むようにしてもよい。
【0077】
マイクロリアクターは、当該マイクロリアクターの全部又はその一部を恒温槽等の恒温装置内に設置したり、流路付近に加熱機器又は冷却機器を設置したり、或いは流路近傍に設置した別の流路内に熱媒又は冷媒を流通させる等を採用採用することにより、後述する各工程での反応温度を制御すればよい。
【0078】
マイクロミキサーは、通常数mm以下、好ましくは1000μmより小さな等価直径の微小流路(マイクロチャンネル)を有し、その微小流路内で接触及び混合を行い、反応を開始させる装置として定義され、小型流動反応器、または静的マイクロミキサー(スタティックマイクロミキサー)を使用して定常状態で反応を実施するための反応装置である。静的マイクロミキサーとは、例えばWO96/30113号に記載されているような、混合のための微細な流路を有しているミキサーに代表される装置であり、また「“マイクロリアクターズ” 第3章、W.Ehrfeld、V.Hessel、H.Lowe著、Wiley−VCH社刊」に記載されている混合機(ミキサー)である。
【0079】
このようなマイクロリアクターにおいては、流路がマイクロスケールであり、液体の流速も小さいため、バッチ式反応装置における乱流支配ではなく、層流支配の流れを考慮する必要がある。この際、液体(流体)同士間には安定な界面が形成され、その界面を通した分子拡散だけで接触、混合しながら反応が起こる。このように層流間での界面で反応が起こるために、比表面積(反応に関与する液体(流体)の単位体積当たりの表面積)が大きくなり、反応効率が増大するという特徴がある。また、流路の幅が小さいため、熱交換効率が高く、反応を行う際の温度制御を精密に行うことができるばかりか、マイクロリアクターでは、通常フロー状態で反応が行われるため、反応物(反応に関与する化合物同士)がチューブリアクターに滞在する時間(滞留時間)で反応を制御できるという特徴もある。
【0080】
本発明の製造方法に係るマイクロリアクターは、従来公知のマイクロミキサーを備えるマイクロリアクターや市販のマイクロリアクターを用いることができる。市販のマイクロミキサー及びマイクロリアクターの具体例としては、例えばインスティチュート・フュール・マイクロテクニック・マインツ(IMM)社製シングルミキサー及びキャタピラーミキサー、ミクログラス社製ミクログラスリアクター、YMC社製サイトス、山武社製YM−1・YM−2型ミキサー、島津GLC社製ミキシングティー及びティー(T字コネクタ)、マイクロ化学技研社製IMTチップリアクター、東レエンジニアリング開発品マイクロ・ハイ・ミキサー、ヒタチプラントテクノロジー社製マイクロミキシングサーバー、三幸精機工業社製T字型マイクロミキサー等が挙げられ、何れも本発明で使用することができる。なお、本発明の製造方法のために、新規に設計し試作されたものを使用することもできる。
【0081】
上でも少し述べたように、本発明で用いられるマイクロリアクターの最小構成単位は、混合部(マイクロミキサー)と反応部(チューブリアクターとも呼ばれるチューブ)であり、当該マイクロリアクターは、マイクロミキサーを少なくとも2個、チューブリアクターを複数個接続し、2工程以上を実施し得るマイクロリアクターである。フロー反応では、マイクロリアクターを組み込んだ反応装置を構築する必要があり、その場合の装置構成は、マイクロミキサー及びチューブリアクターを含むマイクロリアクター、マイクロリアクターに原料又は試薬の溶液を供給するための供給ポンプ、恒温槽等の恒温装置及び循環サーキュレータ、温度調整のための熱交換器、温度センサー、流量センサー、配管内圧力を測定するための圧力センサー、生成物溶液を貯蔵するための製品タンク等である。
【0082】
本発明で用いられるマイクロミキサーは、液体の化合物又は有機溶媒に溶解させた化合物を互いに混合するための小さな流路を有することが好ましい。マイクロミキサーの内部では接触、混合により反応が開始され、それと同時に反応による発熱が発生する。このため、流路断面積が大きい従来型のケニック型スタティックミキサーは、流路サイズが広いために混合反応において十分な混合性能が得られず、また反応時に発生する発熱量の徐熱能力も不十分であり、本発明で用いられるマイクロミキサーとは区別されるが、2つのサブストリームを混合させる単純なT字型流路のティーであっても、十分な混合性能が得られ、除熱能力が十分にあれば、本発明においてマイクロミキサーとして使用することができる。また、2つのサブストリームを混合させて反応を行う場合、通常、サブストリームの断面積は用いるミキサーの流路の断面積で決定される。本発明のマイクロミキサーの流路は通常は100μm〜16mm、好ましくは1000μm〜4mm、より好ましくは10000μm〜2mm、特に好ましくは100000μm〜1mmの断面積を有する。
【0083】
混合部であるマイクロミキサーの後部に、反応部として接続されるチューブリアクターとも呼ばれるチューブは、化合物同士の拡散及び混合により生じる反応熱を除去する機能を有する。チューブの内径はより小さい方が拡散距離が短くなるために反応速度は大きくなりやすくなることから、反応時間を短縮するためには有利に働くばかりでなく、熱交換能力が大きくなり、大きな発熱を伴う反応にも有利に働く。しかしながら、チューブの内径が小さいほど、液体を流す際の圧力損失が増加するため、使用するポンプやチューブを特別な高耐圧仕様のものにしなければならず、また送液流量が制限されるのでマイクロミキサーの構造をも制限することになり、不都合が生じる。このため、本発明におけるチューブは、通常100μm〜4000μm、好ましくは250μm〜3000μm、より好ましくは300μm〜2000μm、特に好ましくは500μm〜1500μmの等価直径を有するものである。
【0084】
マイクロリアクターの材質、すなわち、マイクロミキサーとチューブリアクターの材質は特に制限されず、耐熱性、耐圧性、耐溶剤性、加工容易性等の要望に応じて、適宜選択すればよい。具体的には、例えばステンレス鋼、チタン、銅、ニッケル、アルミニウム等の金属、ガラス、フォチュランガラス、各種セラミックス、ピーク樹脂、プラスチック、シリコン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)等のテフロン(登録商標)樹脂等を好適に使用できる。
【0085】
マイクロリアクターの作製方法は特に制限されず、目的に応じて適宜選択すればよい。マイクロリアクターは微細加工技術によって作製されるが、マイクロリアクターに適した微細加工技術の具体例としては、例えば次のようなものがある。
(a)X線リソグラフィと電気メッキを組み合わせたLIGA技術
(b)EPON SU8を用いた高アスペクト比フォトリソグラフィ法
(c)機械的マイクロ切削加工(ドリル径がマイクロオーダのドリルを高速回転させるマイクロドリル加工等)
(d)Deep RIEによるシリコンの高アスペクト比加工法
(e)Hot Emboss加工法
(f)光造形法
(g)レーザー加工法
(h)イオンビーム法
本発明で用いるマイクロリアクターは上記のどの微細加工技術を用いていてもよく、特に制限されない。
【0086】
本発明の製造方法に係る各工程と当該工程におけるマイクロリアクターの条件について説明する。本発明の製造方法に係る工程の一例として以下に反応式[ A ]を挙げ順に説明する。

(式中、Ar、X、Y、Z、R及びRは上記に同じ。)
【0087】
本発明の製造方法は、少なくとも上記一般式[ I ]で示されるハロゲン化芳香族化合物と有機リチウム試薬とを反応させて、上記一般式[ II ]で示されるリチオ化された芳香族化合物を得る第1の工程と、当該第1の工程で得られたリチオ化された芳香族化合物と上記一般式[ III ]で示されるβ−ビニル化合物とをカップリングさせる第2の工程とを、マイクロリアクターを用いて行うことを特徴とするものである。また、上記第2の工程で使用されるパラジウム化合物は市販のものをそのまま用いてもよいが、パラジウム化合物とパラジウムに配位し得る化合物とを混合させたもの(混合パラジウム化合物)を用い、加えてパラジウム化合物とパラジウムに配位し得る化合物とを混合させる工程(配位子混合工程)をマイクロリアクターの中に設けるようにして、上記第1及び第2の工程にさらに当該配位子混合工程をもマイクロリアクターを用いて行うと、混合後の溶液をそのまま上記第2の工程の反応系に供給でき、この使用直前に混合されたものを用いることで、目的とする上記一般式[ IV ]で示されるビニル置換アリール化合物の収率が向上するので好ましい。更に、カップリングさせた後(第2の工程後)の反応溶液は、目的とする上記一般式[ IV ]で示されるビニル置換アリール化合物が分解しないような条件であれば、例えば当該反応溶液をチューブリアクター(チューブ)から前述の反応停止液を満たしたフラスコ等の容器内へ送り、そこで後処理操作を行うようなバッチ式処理でもよいが、上記第1及び第2の工程にさらに当該反応溶液を反応停止液で処理する反応停止工程をもマイクロリアクターを用いて行えば、処理操作も室温等で安全に行え、操作自体も容易であるので好ましい。
【0088】
マイクロリアクターにおける第1及び第2の工程、さらに必要に応じて適宜実施される配位子混合工程及び/又は反応停止工程の混合部(マイクロミキサー)に送液される液体の流量(送液速度)は、流路の大きさや形状、長さ、温度等によって適宜選択されるが、具体的には、例えばマイクロミキサーの1種であるT字型マイクロミキサー(内径Φ250μm、500μm)と内径Φ1000μmのチューブを組み合わせて用いる場合、通常0.01mL/min〜100mL/minであり、好ましくは0.05mL/min〜50mL/min、より好ましくは0.1mL/min〜30mL/min、特に好ましくは0.2mL/min〜20ml/minの範囲である。なお、本発明で使用される各々の化合物の複数個あるマイクロリアクターに供給される流速は、各々が同じ流量であっても異なる流量であってもよいが、上述した本発明で使用される各々の化合物のモル濃度、化合物同士の当量数を考慮して決定することが望ましい。また、送液用のポンプは工業的に使用される送液ポンプの何れでも使用できるが、できるだけ送液時に脈動を生じない機種が好ましく、具体的には、例えばプランジャーポンプ、ギアポンプ、ロータリーポンプ、ダイヤフラムポンプ、シリンジポンプ等が挙げられる。
【0089】
マイクロリアクター内では、液体の化合物又は有機溶媒に溶解させた化合物同士の界面を通した分子拡散によって混合されることにより反応が開始されるが、必要に応じてマイクロリアクターの外部から振動エネルギーなどの混合促進のためのエネルギーを加えてもよい。混合は、流速や反応器の形状(流体同士の接触部分の三次元形状や流路の屈曲などの形状、壁面の粗さ等)によって、層流支配から乱流支配へと変化させることができ、層流又は乱流の何れで混合してもよい。
【0090】
本発明の第1及び第2の工程におけるマイクロリアクターでの反応温度は、具体的には、通常−78℃〜60℃、好ましくは−30℃〜50℃、より好ましくは−20℃〜40℃である。本発明の製造方法においては、例えば−78℃等のバッチ式反応で通常実施される低温であっても、第1の工程(ハロゲン−リチウム交換反応)の反応が進行するが、本発明は、室温程度であっても反応がすみやかに進行し、なおかつホモカップリング等の副反応が抑えられるという点にも特徴を有するので、特別な冷却(加熱)装置を必要としない−20℃〜40℃の温度範囲が好ましい。また、配位子混合工程におけるマイクロリアクターでの反応温度は、具体的には、通常−78℃〜60℃、好ましくは−30℃〜50℃、より好ましくは−20℃〜40℃である。パラジウム化合物とパラジウムに配位し得る化合物とを混合する工程である配位子混合工程は、通常室温でも反応が効率よく進行するので、特別な冷却(加熱)装置を必要としない−20℃〜40℃の温度範囲が好ましい。更に、反応停止工程におけるマイクロリアクターでの処理温度は、具体的には、通常−78℃〜60℃、好ましくは−30℃〜50℃、より好ましくは−20℃〜40℃である。バッチ式処理では後処理時の発熱等が問題になるが、本発明の製造方法においては、反応停止工程として反応溶液の処理をマイクロリアクターで行うことにより、後処理時の発熱を抑えることができるので、特別な冷却装置を必要としない−20℃〜40℃の温度範囲が好ましい。
【0091】
本発明の各工程における反応時間は、上述した化合物又は試薬の混合部(マイクロミキサー)での混合が開始され、当該混合部の後部に接続された反応部(チューブリアクターとも呼ばれるチューブ)を通って、反応部の出口から次工程の混合部に供給されるまでか、或いは反応部から外へ排出されるまでの滞留時間で表される。より具体的には、第1の工程の反応時間は、第1の工程のマイクロミキサー内で一般式[ I ]で示されるハロゲン化芳香族化合物と有機リチウム試薬との混合が開始され、当該マイクロミキサーの後部に接続されたチューブを通って、第2の工程のマイクロミキサー内で次反応の原料(一般式[ III ]で示されるβ−ビニル化合物)と混合されるまでの滞留時間で表される。また、第2の工程の反応時間は、第2の工程のマイクロミキサー内で一般式[ II ]で示されるリチオ化された芳香族化合物とパラジウム化合物と一般式[ III ]で示されるβ−ビニル化合物との混合が開始され、当該マイクロミキサーの後部に接続されたチューブを通って出口から外へ排出されるまでか、或いは反応停止工程のマイクロミキサー内で反応停止溶液と混合されるまでの滞留時間で表される。更に、配位子混合工程の反応時間は、配位子混合工程のマイクロミキサー内でパラジウム化合物とパラジウムに配位し得る化合物との混合が開始され、当該マイクロミキサーの後部に接続されたチューブを通って、第2の工程のマイクロミキサー内で次反応の原料(一般式[ II ]で示されるリチオ化された芳香族化合物)に供給されるまでの滞留時間で表される。更にまた、反応停止工程の処理時間は、反応停止工程のマイクロミキサー内で上記第2の工程の反応溶液と反応停止液とが混合を開始し、マイクロミキサーの後部に接続されたチューブを通って出口から外へ排出されるまでの滞留時間で表される。そして更に、総反応時間とは、第1の工程の反応時間と第2の工程の反応時間の和で表されるか、或いは反応停止工程を含む場合には、第1の工程の反応時間と第2の工程の反応時間と反応停止工程の処理時間の総和で表される。本発明では、マイクロリアクターに供給される化合物、試薬等の流量を変えて反応時間を調節することもできるが、マイクロミキサーは混合に適した流量範囲が予め設定されていることが多いので、マイクロリアクターに供給される化合物、試薬等の溶液の流量に応じて、適切な滞留時間が得られるようにチューブの長さと等価直径を変える方法で反応時間を設定する方が望ましい。マイクロリアクター内での滞留時間は、ハロゲン化芳香族化合物、有機リチウム試薬及びβ−ビニル化合物の反応性、これらのモル濃度、反応温度、パラジウム化合物の種類等のパラメーターによって異なる場合がある。
【0092】
本発明に係る第1の工程(ハロゲン−リチウム交換反応)は極めて速い反応であり、かつ生成するリチウム中間体は熱安定性が低い場合が多いため、第1の工程における滞留時間は、通常0.001秒〜60秒、好ましくは0.01秒〜30秒が望ましい。あまりに反応時間が短いと反応が十分に進行せず、逆に長すぎても一般式[ II ]で示されるリチオ化された芳香族化合物の分解が進行しやすくなるからである。
【0093】
本発明に係る第2の工程(カップリング反応)における滞留時間は、通常0.1秒〜60秒、好ましくは1秒〜30秒が望ましい。あまりに反応時間が短いと反応が十分に進行せず、逆に長すぎても目的とする一般式[ IV ]で示されるビニル置換アリール化合物からの分解が進行しやすくなるからである。
【0094】
本発明に係る配位子混合工程における滞留時間は、通常0.1秒〜60秒、好ましくは0.5秒〜30秒が望ましい。あまりに混合時間が短いとパラジウム化合物とパラジウムに配位し得る化合物との混合が十分でなく、逆に長すぎても目的とする一般式[ IV ]で示されるビニル置換アリール化合物の収率の向上が期待しにくくなるからである。
【0095】
本発明に係る反応停止工程における滞留時間は、通常0.2秒以上、好ましくは0.2秒〜120秒が望ましい。あまりに処理時間が短いと後処理が十分に進行しないからである。
【0096】
本発明においては、マイクロリアクターの流路内で反応を行うと、マイクロ流路がマイクロ反応場として働き、高速かつ効率的な拡散と混合が起こる。このため、本発明は、目的とする一般式[ IV ]で示されるビニル置換アリール化合物を効率よく、高収率、高選択的に製造できる。当該マイクロリアクターにおける混合部(マイクロミキサー)の流路断面最小長さは、第1の工程におけるマイクロミキサーでは、通常100μm〜1000μm、好ましくは100μm〜800μm、より好ましくは100μm〜500μmであり、第2の工程におけるマイクロミキサーでは、通常100μm〜1000μm、好ましくは100μm〜950μm、より好ましくは100μm〜800μmであり、配位子混合工程におけるマイクロミキサーでは、通常100μm〜1000μm、好ましくは100μm〜800μm、より好ましくは100μm〜500μmであり、反応停止工程におけるマイクロミキサーでは、通常100μm〜1000μm、好ましくは100μm〜950μm、より好ましくは100μm〜800μmである。また、本発明においては、第1の工程におけるマイクロミキサー、要すればさらに配位子混合工程におけるマイクロミキサーの流路断面最小長さを、第2の工程におけるマイクロミキサー、要すればさらに反応停止工程におけるマイクロミキサーよりも小さくするのが好ましい。なお、第2の工程及び反応停止工程におけるマイクロミキサーでは流路断面最小長さの大小関係は圧力損失の増大が問題とならない範囲でできるだけ小さなものとするのが好ましい。
【0097】
マイクロリアクターにおける反応部(チューブリアクターとも呼ばれるチューブ)の流路長は、上記マイクロリアクター中での反応液の反応時間(滞留時間)や流速により適宜調節されるが、具体的には、第1の工程(ハロゲン−リチウム交換反応)のチューブでは、通常10mm〜5000mm、好ましくは10mm〜1000mmであり、第2の工程のチューブでは、通常10mm〜5000mm、好ましくは10mm〜3000mmであり、配位子混合工程のチューブでは、通常10mm〜5000mm、好ましくは10mm〜1000mmであり、反応停止工程のチューブでは、通常50mm〜5000mmである。
【0098】
本発明では、反応の経過は公知の種々の分析機器を使用してモニターすることができる。反応率は、例えば高速液体クロマトグラフィー、キャピラリーガスクロマトグラフィー等で確認することができる。また、オンラインFT−IR分光分析計やオンラインNIR分光分析計を用いて吸光度の変化を追跡することにより、反応をオンラインでモニタリングすることが可能である。
【0099】
このようにして得られる上記一般式[ IV ]で示されるビニル置換アリール化合物は、公知の方法で単離することができる。例えば、有機溶媒を用いた抽出、蒸留、有機溶媒や水又は有機溶媒と水との混合溶液を用いた再結晶、或いはカラムクロマトグラフィー等を、必要に応じて単独又は適宜組み合わせる手法により、単離精製することが可能である。
【0100】
ここまで述べてきた方法により得られる上記一般式[ IV ]で示されるビニル置換アリール化合物は、医薬、農薬、液晶材料、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)材料等の合成中間体として用いることができるが、これらの用途に制限されるものではない。
【実施例】
【0101】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。なお、目的物である一般式[ IV ]で示されるビニル置換アリール化合物の反応率、原料化合物の残存率及び副生成物の生成率は、ガスクロマトグラフィー(GC)により標準物質との面積比から算出して定量分析を行って求めたものである。
【0102】
実施例1 パラジウム化合物として酢酸パラジウムを用いたマイクロリアクターによる(E)−スチルベンの合成
n−ブチルリチウムとブロモベンゼンによるフェニルリチウムの合成、及びそれに続く酢酸パラジウム(Pd(OAc))を触媒として用いた(E)−β−ブロモスチレンとの反応を、図1に示すマイクロリアクターを用いて行い、(E)−スチルベンを合成した。
3つのT字型マイクロミキサー(M1、M2及びM3;株式会社三幸精機工業社製ステンレス製T字型マイクロミキサー;図2)と3つのチューブリアクター(R1、R2及びR3;ジーエルサイエンス株式会社製ステンレスチューブ(外径1/16インチ(1.58mm)、内径1000μm))から構成されるマイクロリアクターと、プレクーリングのための4つのチューブリアクター(P1、P2、P3及びP4;ジーエルサイエンス株式会社製ステンレスチューブ(外径1/16インチ(1.58mm)、内径1000μm))とで構成される反応装置を水浴に埋没させて、24℃に設定した。なお、プレクーリングのための4つのチューブリアクター(P1、P2、P3及びP4)から供給される溶液は、すべてガスタイトシリンジに吸い上げた後、ハーバード社製シリンジポンプを用いて、所定の流速で各工程におけるマイクロミキサーに供給した。また、滞留時間は、液体の流量(送液速度)を変えずにチューブリアクター(R1、R2及びR3)の長さを変えて調節した。
第1の工程におけるT字型マイクロミキサーM1(内径250μm)には、ブロモベンゼン(和光純薬工業株式会社製)をTHFで希釈したブロモベンゼンのTHF溶液(0.10M)をチューブリアクターP1から、市販の2.60Mn−ブチルリチウムのn−ヘキサン溶液(関東化学株式会社製)をn−ヘキサンで希釈したn−ブチルリチウムのn−ヘキサン溶液(0.50M)をチューブリアクターP2から、各々3.0mL/min(0.30mmol/min)、0.6mL/min(0.30mmol/min)の流速で送液した。第2の工程におけるT字型マイクロミキサーM2(内径500μm)には、市販のβ−ブロモスチレン(和光純薬工業株式会社製)を予め文献(L. J. Dolby, C. Wilkins, T. G. Frey, J. Org. Chem. 1966, 31, 1110.)に従って精製した(E)−β−ブロモスチレンと酢酸パラジウム(Pd(OAc))(アルドリッチ社製)とをTHFで希釈或いは溶解させた(E)−β−ブロモスチレンと酢酸パラジウムとのTHF溶液((E)−β−ブロモスチレン;0.133M、酢酸パラジウム;13.3mM)をチューブリアクターP3から、1.5mL/min((E)−β−ブロモスチレン;0.20mmol/min、酢酸パラジウム;0.020mmol/min)の流速で送液した。反応停止工程におけるT字型マイクロミキサーM3(内径500μm)には、メタノール溶液(neat)をチューブリアクターP4から、1.5mL/minの流速で送液した。チューブリアクターR1(長さ32.5cm)における滞留時間は4.3秒、チューブリアクターR2(長さ50cm)における滞留時間は4.6秒、チューブリアクターR3(長さ50cm)における滞留時間は3.6秒であった。なお、プレクーリングのためのチューブリアクター(P1、P2、P3及びP4)はすべて長さ100cmのものを用いた。このようにして、R3の出口から排出される一般式[ IV ]で示されるビニル置換アリール化合物、すなわち(E)−スチルベンを含む反応溶液は、反応が安定するまでの最初の数分間の溶液は廃棄して、その後の溶液をサンプリング管に30秒間採取し、次いでサンプリング管に採取した溶液についてGC(CBP1カラム;0.25mm×25m、開始温度50℃、昇温速度10℃/分)で標準物質を用いる内部標準法により定量分析を行い、本反応の反応率を求めた。分析の結果、(E)−スチルベン(GC保持時間;21.8分)が78%((E)−β−ブロモスチレン基準)の収率で得られた。また、原料である(E)−β−ブロモスチレン(GC保持時間;14.7分(収率;0%((E)−β−ブロモスチレン基準)))や、副生成物であるビフェニル(GC保持時間;17.4分(収率;9%(ブロモベンゼン基準)))、1,4−ジフェニル−1,3−ブタジエン(GC保持時間;25.3分(収率;4%((E)−β−ブロモスチレン基準)))の定量も同様の方法によりGCから求めた。
【0103】
実施例2 パラジウム化合物としてビス(トリ−tert−ブチルホスフィン)パラジウムを用いたマイクロリアクターによる(E)−スチルベンの合成
n−ブチルリチウムとブロモベンゼンによるフェニルリチウムの合成、及びそれに続くビス(トリ−tert−ブチルホスフィン)パラジウム(Pd(BuP))を触媒として用いた(E)−β−ブロモスチレンとの反応を、図3に示すマイクロリアクターを用いて行い、(E)−スチルベンを合成した。
3つのT字型マイクロミキサー(M1、M2及びM3;株式会社三幸精機工業社製ステンレス製T字型マイクロミキサー;図2)とチューブリアクター(R1、R2、及びR3;ジーエルサイエンス株式会社製ステンレスチューブ(外径1/16インチ(1.58mm)、内径1000μm))から構成されるマイクロリアクターと、プレクーリングのための4つのチューブリアクター(P1、P2、P3及びP4;ジーエルサイエンス株式会社製ステンレスチューブ(外径1/16インチ(1.58mm)、内径1000μm))とで構成される反応装置を水浴に埋没させて、24℃に設定した。なお、プレクーリングのための4つのチューブリアクター(P1、P2、P3及びP4)から供給される溶液は、すべてガスタイトシリンジに吸い上げた後、ハーバード社製シリンジポンプを用いて、所定の流速で各工程におけるマイクロミキサーに供給した。また、滞留時間は、液体の流量(送液速度)を変えずにチューブリアクター(R1、R2及びR3)の長さを変えて調節した。
第1の工程におけるT字型マイクロミキサーM1(内径250μm)には、ブロモベンゼン(和光純薬工業株式会社製)をTHFで希釈したブロモベンゼンのTHF溶液(0.10M)をチューブリアクターP1から、市販の2.60Mn−ブチルリチウムのn−ヘキサン溶液(関東化学株式会社製)をn−ヘキサンで希釈したn−ブチルリチウムのn−ヘキサン溶液(0.50M)をチューブリアクターP2から、各々3.0mL/min(0.30mmol/min)、0.6mL/min(0.30mmol/min)の流速で送液した。第2の工程におけるT字型マイクロミキサーM2(内径500μm)には、市販のβ−ブロモスチレン(和光純薬工業株式会社製)を予め文献(L. J. Dolby, C. Wilkins, T. G. Frey, J. Org. Chem. 1966, 31, 1110.)に従って精製した(E)−β−ブロモスチレンとビス(トリ−tert−ブチルホスフィン)パラジウム(Pd(BuP))(アルドリッチ社製)とをTHFで希釈或いは溶解させた(E)−β−ブロモスチレンと酢酸パラジウムとのTHF溶液((E)−β−ブロモスチレン;0.133M、ビス(トリ−tert−ブチルホスフィン)パラジウム;6.67mM)をチューブリアクターP3から、1.5mL/min((E)−β−ブロモスチレン;0.20mmol/min、ビス(トリ−tert−ブチルホスフィン)パラジウム;0.010mmol/min)の流速で送液した。反応停止工程におけるT字型マイクロミキサーM3(内径500μm)には、メタノール溶液(neat)をチューブリアクターP4から、1.5mL/minの流速で送液した。チューブリアクターR1(長さ32.5cm)における滞留時間は4.3秒、チューブリアクターR2(長さ12.5cm)における滞留時間は1.2秒、チューブリアクターR3(長さ50cm)における滞留時間は3.6秒であった。なお、プレクーリングのためのチューブリアクター(P1、P2、P3及びP4)はすべて長さ100cmのものを用いた。このようにして、R3の出口から排出される一般式[ IV ]で示されるビニル置換アリール化合物、すなわち(E)−スチルベンを含む反応溶液は、反応が安定するまでの最初の数分間の溶液は廃棄して、その後の溶液をサンプリング管に30秒間採取し、次いでサンプリング管に採取した溶液についてGC(CBP1カラム;0.25mm×25m、開始温度50℃、昇温速度10℃/分)で標準物質を用いる内部標準法により定量分析を行い、本反応の反応率を求めた。分析の結果、(E)−スチルベン(GC保持時間;21.8分)が74%((E)−β−ブロモスチレン基準)の収率で得られた。また、原料である(E)−β−ブロモスチレン(GC保持時間;14.7分(収率;0%((E)−β−ブロモスチレン基準)))や、副生成物であるビフェニル(GC保持時間;17.4分(収率;2%(ブロモベンゼン基準)))、1,4−ジフェニル−1,3−ブタジエン(GC保持時間;25.3分(収率;1%((E)−β−ブロモスチレン基準)))の定量も同様の方法によりGCから求めた。
【0104】
実施例3 マイクロリアクターを用いてパラジウム化合物とパラジウムに配位し得る化合物とを混合させたものを用いたマイクロリアクターによる(E)−スチルベンの合成
n−ブチルリチウムとブロモベンゼンによるフェニルリチウムの合成、及びそれに続く酢酸パラジウム(Pd(OAc))にトリ−tert−ブチルホスフィン(BuP)を作用させて調製した混合パラジウム化合物を触媒として用いた(E)−β−ブロモスチレンとの反応を、図4に示すマイクロリアクターを用いて行い、(E)−スチルベンを合成した。
3つのT字型マイクロミキサー(M1、M2及びM3;株式会社三幸精機工業社製ステンレス製T字型マイクロミキサー;図2)と3つのチューブリアクター(R1、R2及びR3;ジーエルサイエンス株式会社製ステンレスチューブ(外径1/16インチ(1.58mm)、内径1000μm))から構成されるマイクロリアクターと、プレクーリングのための4つのチューブリアクター(P1、P2、P3及びP4;ジーエルサイエンス株式会社製ステンレスチューブ(外径1/16インチ(1.58mm)、内径1000μm))とで構成される反応装置を水浴に埋没させて、24℃に設定した。なお、プレクーリングのための4つのチューブリアクター(P1、P2、P3及びP4)から供給される溶液は、すべてガスタイトシリンジに吸い上げた後、ハーバード社製シリンジポンプを用いて、所定の流速で各工程におけるマイクロミキサーに供給した。また、滞留時間は、液体の流量(送液速度)を変えずにチューブリアクター(R1、R2及びR3)の長さを変えて調節した。
第1の工程におけるT字型マイクロミキサーM1(内径250μm)には、ブロモベンゼン(和光純薬工業株式会社製)をTHFで希釈したブロモベンゼンのTHF溶液(0.10M)をチューブリアクターP1から、市販の2.60Mn−ブチルリチウムのn−ヘキサン溶液(関東化学株式会社製)をn−ヘキサンで希釈したn−ブチルリチウムのn−ヘキサン溶液(0.50M)をチューブリアクターP2から、各々6.0mL/min(0.60mmol/min)、1.2mL/min(0.60mmol/min)の流速で送液した。配位子混合工程におけるT字型マイクロミキサーM2(内径250μm)には、市販のβ−ブロモスチレン(和光純薬工業株式会社製)を予め文献(L. J. Dolby, C. Wilkins, T. G. Frey, J. Org. Chem. 1966, 31, 1110.)に従って精製した(E)−β−ブロモスチレンと酢酸パラジウム(Pd(OAc))(アルドリッチ社製)とをTHFで希釈或いは溶解させた(E)−β−ブロモスチレンと酢酸パラジウムとのTHF溶液((E)−β−ブロモスチレン;0.133M、酢酸パラジウム;6.67mM)をチューブリアクターP3から、市販のトリ−tert−ブチルホスフィン(アルドリッチ社製)をTHFで溶解させたトリ−tert−ブチルホスフィンのTHF溶液(0.025M)をチューブリアクターP4から、各々3.0mL/min((E)−β−ブロモスチレン;0.40mmol/min、酢酸パラジウム;0.020mmol/min)、1.6mL/min(0.040mmol/min)の流速で送液した。チューブリアクターR1(長さ32.5cm)における滞留時間は2.1秒、チューブリアクターR2(長さ12.5cm)における滞留時間は1.3秒、チューブリアクターR3(長さ200cm)における滞留時間は8.0秒であった。なお、プレクーリングのためのチューブリアクター(P1、P2、P3及びP4)はすべて長さ100cmのものを用いた。このようにして、R3の出口から排出される一般式[ IV ]で示されるビニル置換アリール化合物、すなわち(E)−スチルベンを含む反応溶液は、反応が安定するまでの最初の数分間の溶液は廃棄して、その後の溶液をメタノール(neat)1.5mLで反応をクエンチしながらサンプリング管に30秒間採取し、次いでサンプリング管に採取した溶液についてGCで標準物質(CBP1カラム;0.25mm×25m、開始温度50℃、昇温速度10℃/分)で標準物質を用いる内部標準法により定量分析を行い、本反応の反応率を求めた。分析の結果、(E)−スチルベン(GC保持時間;21.8分)が95%((E)−β−ブロモスチレン基準)の収率で得られた。また、原料である(E)−β−ブロモスチレン(GC保持時間;14.7分(収率;0%((E)−β−ブロモスチレン基準)))や、副生成物であるビフェニル(GC保持時間;17.4分(収率;8%(ブロモベンゼン基準)))、1,4−ジフェニル−1,3−ブタジエン(GC保持時間;25.3分(収率;0%((E)−β−ブロモスチレン基準)))の定量も同様の方法によりGCから求めた。
【0105】
実施例1〜3の結果から、第1の工程であるハロゲン−リチウム交換反応と、第2の工程であるカップリング反応とを連続して行うことができるばかりでなく、通常のバッチ式反応では、アリールリチウム化合物を、一旦−78℃等の低温で反応(ハロゲン−リチウム交換反応)を行って調製した後、次工程のカップリング反応を行う必要があったものが、これらを連続して室温で行うことができるため、生産のためのエネルギーコストが節約できることが判った。また、配位子混合工程を含むようにし、使用前にパラジウム化合物とパラジウムに配位し得る化合物とを混合させたものを第2の工程の反応系に供給すれば、目的とするビニル置換アリール化合物の収率が向上することが判った。更に反応停止工程を含むようにすれば、後処理に要する作業時間をなくすことができ、生産性向上の面から優れた製造方法であることが判る。このようなことから、本発明は、種々のビニル置換アリール化合物を、高効率で、かつ安定した収率で製造し得ることが期待できる製造方法である。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の製造方法は、例えば医薬、農薬、液晶材料、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)材料等の合成中間体として有用なビニル置換アリール化合物を、高効率かつ安定した収率製造できるため、ひいては工業的規模の生産等に有用な製造方法となり得るものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式[ I ]

(式中、Arは、置換基を有していてもよいアリール基を表し、Xは、ハロゲン原子を表す。)で示されるハロゲン化芳香族化合物と有機リチウム試薬とを反応させ、一般式[ II ]

(式中、Arは前記に同じ。)で示されるリチオ化された芳香族化合物を得る第1の工程と、
触媒量のパラジウム化合物の存在下、前記一般式[ II ]で示されるリチオ化された芳香族化合物と一般式[ III ]

(式中、R及びRは夫々独立して、水素原子又は炭素数1〜6の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルキル基を表し、Yは、ハロゲン原子又はトリフルオロメタンスルホニルオキシ基を表し、Zは、置換基を有していてもよいアリール基又は炭素数1〜10の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルキル基を表す。)で示されるβ−ビニル化合物とをカップリングさせる第2の工程と、
を含み、
前記第1及び第2の工程を、マイクロリアクターを用いて行うことを特徴とする一般式[ IV ]

(式中、R、R、Ar及びZは前記に同じ。)で示されるビニル置換アリール化合物の製造方法。
【請求項2】
前記第1及び第2の工程が、連続的に行われるものである請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記パラジウム化合物が、パラジウムに配位し得る化合物と混合させて、前記第2の工程の反応系に供給されるものである請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記パラジウム化合物と前記パラジウムに配位し得る化合物との混合(以下、配位子混合工程と略記する。)を、マイクロリアクターで行わせて前記第2の工程の反応系に供給されるものである請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
さらに、前記カップリングさせた後の反応溶液を、反応停止液で処理する工程(以下、反応停止工程と略記する。)を含むものである請求項1又は4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記反応停止工程が、前記第1及び第2の工程と共にマイクロリアクターで連続的に行われるものである請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記マイクロリアクターの第1の工程における混合部の流路断面最小長さが、100μm〜1000μmであって、かつ前記マイクロリアクターの第2の工程における混合部の流路断面最小長さが、100μm〜1000μmである請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
前記マイクロリアクターの第1の工程における混合部の流路断面最小長さが、100μm〜1000μmであり、前記マイクロリアクターの第2の工程における混合部の流路断面最小長さが、100μm〜1000μmであって、かつ前記マイクロリアクターの配位子混合工程における混合部の流路断面最小長さが、100μm〜1000μmである請求項4に記載の製造方法。
【請求項9】
前記マイクロリアクターの第1の工程における混合部の流路断面最小長さが、100μm〜1000μmであり、前記マイクロリアクターの第2の工程における混合部の流路断面最小長さが、100μm〜1000μmであって、かつ前記マイクロリアクターの反応停止工程における混合部の流路断面最小長さが、100μm〜1000μmである請求項6に記載の製造方法。
【請求項10】
前記マイクロリアクターの第1の工程における混合部の流路断面最小長さが、100μm〜1000μmであり、前記マイクロリアクターの第2の工程における混合部の流路断面最小長さが、100μm〜1000μmであり、前記マイクロリアクターの配位子混合工程における混合部の流路最小断面長さが、100μm〜1000μmであって、かつ前記マイクロリアクターの反応停止工程における混合部の流路断面最小長さが、100μm〜1000μmである請求項6に記載の製造方法。
【請求項11】
前記マイクロリアクターの第1の工程における滞留時間が、0.001秒〜60秒であって、かつ前記マイクロリアクターの第2の工程における滞留時間が、0.1秒〜60秒である請求項1に記載の製造方法。
【請求項12】
前記マイクロリアクターの第1の工程における滞留時間が、0.001秒〜60秒であり、前記マイクロリアクターの第2の工程における滞留時間が、0.1秒〜60秒であって、かつ前記マイクロリアクターの配位子混合工程における滞留時間が、0.1秒〜60秒である請求項4に記載の製造方法。
【請求項13】
前記マイクロリアクターの第1の工程における滞留時間が、0.001秒〜60秒であり、前記マイクロリアクターの第2の工程における滞留時間が、0.1秒〜60秒であって、かつ前記マイクロリアクターの反応停止工程における滞留時間が、0.2秒〜120秒である請求項6に記載の製造方法。
【請求項14】
前記マイクロリアクターの第1の工程における滞留時間が、0.001秒〜60秒であり、前記マイクロリアクターの第2の工程における滞留時間が、0.1秒〜60秒であり、前記マイクロリアクターの配位子混合工程における滞留時間が、0.1秒〜60秒であって、かつ前記マイクロリアクターの反応停止工程における滞留時間が、0.2秒〜120秒である請求項6に記載の製造方法。
【請求項15】
前記第1及び第2の工程を、−20℃〜40℃の温度範囲で行う請求項1に記載の製造方法。
【請求項16】
前記第1及び第2の工程並びに配位子混合工程を、−20℃〜40℃の温度範囲で行う請求項4に記載の製造方法。
【請求項17】
前記第1及び第2の工程並びに反応停止工程を、−20℃〜40℃の温度範囲で行う請求項6に記載の製造方法。
【請求項18】
前記第1及び第2の工程、配位子混合工程並びに反応停止工程を、−20℃〜40℃の温度範囲で行う請求項6に記載の製造方法。
【請求項19】
前記パラジウム化合物が、0価及び2価のパラジウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種以上である請求項1に記載の製造方法。
【請求項20】
前記パラジウム化合物が、ビス(トリ−tert−ブチルホスフィン)パラジウム、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウム及び酢酸パラジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種以上である請求項1に記載の製造方法。
【請求項21】
前記パラジウム化合物が、ビス(トリ−tert−ブチルホスフィン)パラジウム又は酢酸パラジウムである請求項1に記載の製造方法。
【請求項22】
前記パラジウム化合物が、酢酸パラジウムであって、かつ前記パラジウムに配位し得る化合物が、トリ−tert−ブチルホスフィンである請求項3に記載の製造方法。
【請求項23】
前記一般式[ I ]、[ II ]及び[ IV ]におけるArで示される置換基を有していてもよいアリール基が、一般式[ VIII ]

(式中、p個のRは夫々独立して、炭素数1〜6の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルキル基、炭素数1〜6の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルコキシ基又はフェニル基を表し、pは0〜5の整数を表し、Wは炭素原子又は窒素原子を表す。なお、隣接する2つのRは、これらが結合している炭素原子と共に、鎖中に酸素原子又は硫黄原子を有していてもよい炭素数3〜6の脂肪族環を形成していてもよい。)で示されるもの、一般式[ IX ]

(式中、q個のRは夫々独立して、炭素数1〜6の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルキル基、炭素数1〜6の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルコキシ基又はフェニル基を表し、qは0〜7の整数を表し、U及びUは、共に炭素原子を表すか又はU及びUの何れか一方が窒素原子を表す場合は他方が炭素原子を表し、V及びVは、共に炭素原子を表すか又はV及びVの何れか一方が窒素原子を表す場合は他方が炭素原子を表す。なお、隣接する2つのRは、これらが結合している炭素原子と共に、鎖中に酸素原子又は硫黄原子を有していてもよい炭素数3〜6の脂肪族環を形成していてもよい。)で示されるもの、或いは一般式[ X ]

(式中、r個のRは夫々独立して、炭素数1〜6の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルキル基、炭素数1〜6の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルコキシ基又はフェニル基を表し、rは0〜9の整数を表す。なお、隣接する2つのRは、これらが結合している炭素原子と共に、鎖中に酸素原子又は硫黄原子を有していてもよい炭素数3〜6の脂肪族環を形成していてもよい。)で示されるものである請求項1に記載の製造方法。
【請求項24】
前記一般式[ III ]及び[ IV ]に於けるZで示される置換基を有していてもよいアリール基が、一般式[ XV ]

(式中、s個のRは夫々独立して、炭素数1〜6の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルキル基、炭素数1〜6の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルコキシ基又はフェニル基を表し、sは0〜5の整数を表し、Jは炭素原子又は窒素原子を表す。なお、隣接する2つのRは、これらが結合している炭素原子と共に、鎖中に酸素原子又は硫黄原子を有していてもよい炭素数3〜6の脂肪族環を形成していてもよい。)で示されるもの、一般式[ XVI ]

(式中、t個のRは夫々独立して、炭素数1〜6の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルキル基、炭素数1〜6の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルコキシ基又はフェニル基を表し、tは0〜7の整数を表し、Q及びQは、共に炭素原子を表すか又はQ及びQの何れか一方が窒素原子を表す場合は他方が炭素原子を表し、T及びTは、共に炭素原子を表すか又はT及びTの何れか一方が窒素原子を表す場合は他方が炭素原子を表す。なお、隣接する2つのRは、これらが結合している炭素原子と共に、鎖中に酸素原子又は硫黄原子を有していてもよい炭素数3〜6の脂肪族環を形成していてもよい。)で示されるもの、或いは一般式[ XVII ]

(式中、u個のRは夫々独立して、炭素数1〜6の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルキル基、炭素数1〜6の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルコキシ基又はフェニル基を表し、uは0〜9の整数を表す。なお、隣接する2つのRは、これらが結合している炭素原子と共に、鎖中に酸素原子又は硫黄原子を有していてもよい炭素数3〜6の脂肪族環を形成していてもよい。)で示されるものである請求項1に記載の製造方法。
【請求項25】
前記一般式[ I ]、[ II ]及び[ IV ]におけるArで示される置換基を有していてもよいアリール基が、フェニル基であり、前記一般式[ III ]及び[ IV ]におけるZで示される置換基を有していてもよいアリール基が、フェニル基である請求項1に記載の製造方法。
【請求項26】
前記パラジウム化合物の使用量が、前記一般式[ III ]で示されるβ−ビニル化合物1molに対して、0.001mol%〜20mol%である請求項1に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−180184(P2010−180184A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−26804(P2009−26804)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度・平成20年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新的マイクロ反応場利用部材技術開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000252300)和光純薬工業株式会社 (105)
【Fターム(参考)】