説明

マイクロ検査チップおよび検査装置

【課題】試薬の漏れ液によって空気抜き用高抵抗流路が塞がれて流路の空気抜きができなくなることを防止し、駆動液と試薬との間に気泡が介在せず、試薬の安定した送液が行えるマイクロ検査チップおよび検査装置を提供すること。
【解決手段】試薬貯留部に貯留されている試薬の上流側界面が上流側撥水バルブに接し、下流側界面が試薬貯留部の内部の空気に接するようにすることで、試薬が上流側に漏れることがないので、試薬の漏れ液によって空気抜き用高抵抗流路が塞がれて流路の空気抜きができなくなることを防止し、駆動液と試薬との間に気泡が介在せず、試薬の安定した送液が行えるマイクロ検査チップおよび検査装置を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ検査チップおよび検査装置に関し、特に、遺伝子増幅反応、抗原抗体反応などによる生体物質の検査・分析、その他の化学物質の検査・分析、有機合成等による目的化合物の化学合成などに用いられるマイクロ検査チップおよび検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロマシン技術および超微細加工技術を駆使することにより、従来の試料調製、化学分析、化学合成などを行うための装置、手段(例えばポンプ、バルブ、流路、センサーなど)を微細化して1チップ上に集積化した分析用チップが開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
これは、μ−TAS(Micro Total Analysis System)、バイオリアクタ、ラブ・オン・チップ(Lab−on−chips)、バイオチップとも呼ばれ、医療検査・診断分野、環境測定分野、農産製造分野でその応用が期待されている。特に、遺伝子検査に見られるように煩雑な工程、熟練した手技、機器類の操作が必要とされる場合には、自動化、高速化および簡便化に優れた分析用チップは、コスト、必要試料量、所要時間のみならず、時間および場所を選ばない分析を可能とするので、その恩恵は多大と言える。
【0004】
各種の分析、検査では、これらの分析用チップにおける分析の定量性、解析の精度、経済性などが重要視される。そのためにはシンプルな構成で、高い信頼性の送液システムを確立することが課題であり、精度が高く信頼性に優れるマイクロ流体制御素子が求められている。これに好適なマイクロポンプシステムおよびその制御方法を本発明者らはすでに提案している(例えば、特許文献2〜4参照)。
【0005】
上記のような分析用チップ(以下、マイクロ検査チップと言う)では、複数の試薬を混合した混合試薬と試料との反応を行うことができることが望ましい。そのために、マイクロ検査チップでは、一つのチップ内で試薬同士の混合、試薬と試料との混合など、各種の混合操作が必要となる。この際、各試薬等の合流のタイミングを精度良く合わせること、各試薬等を所定の圧力で送液すること等、試薬等の送液に高い精度が求められる。試薬等の送液を精度良く制御できないと、反応およびその検出結果に多大の影響が生ずる。
【0006】
しかし、試薬や試料と、試薬や試料を送液するための駆動液との間に例えば空気の気泡が入ると、気泡がダンパの役割を果たすために、試薬や試料の送液が不安定になるという不具合が生ずる。
【0007】
そこで、駆動液の流路と駆動液を試薬収容室に注入する注入口との分岐部に末端が外部へ開放された空気抜き用の流路を設けることで、試薬と駆動液との間に気泡が介在することを防止可能なマイクロリアクタが提案されている(例えば、特許文献5参照)。
【特許文献1】特開2004−28589号公報
【特許文献2】特開2001−322099号公報
【特許文献3】特開2004−108285号公報
【特許文献4】特開2004−270537号公報
【特許文献5】特開2007−83191号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献5で提案された方法であっても、例えばマイクロ検査チップの温度変化や歪み等によって、試薬収容室から注入口を通って試薬が逆流し、逆流した試薬が空気に押されて空気抜き用の流路を塞いでしまうことが考えられる。こうなると、試薬と駆動液の間の気泡を抜くことができないため、上述した試薬の送液が不安定になるという不具合を防止することができない。
【0009】
この課題について、図7乃至図11を用いて説明する。図7乃至図9は上述した特許文献5で提案された方法を説明する模式図であり、図10および図11は試薬が逆流することによる不具合を説明するための模式図である。
【0010】
図7において、マイクロ検査チップ300を構成する試薬貯留部311には、試薬321が試薬充填口317から注入されて、充填されている。試薬貯留部311の上流側には上流側撥水バルブ313が、下流側には下流側撥水バルブ315がそれぞれ設けられているので、試薬321は、試薬充填口317から注入されると、両撥水バルブの位置まで満充填されて停止する。試薬321の充填完了後、試薬充填口317は、例えば粘着シート等の充填口封止部材319によって封止される。
【0011】
この状態で、マイクロポンプ211によって、駆動液216がチップ接続部213(図示せず)を通って駆動液流路301に送液されてくる。駆動液216の送液に従って、空気309は下流へと押され、分岐部303および流路末端305を通って空気抜き用高抵抗流路307から外部へと排出される。本例では、駆動液流路301、分岐部303および流路末端305の流路幅は均一である。
【0012】
図8において、駆動液216は、分岐部303と上流側撥水バルブ313との接続部313aを超えて、流路末端305の方向へ送液され、送液に従って、空気309も空気抜き用高抵抗流路307から外部へ排出される。
【0013】
図9において、駆動液216は流路末端305まで送液されて、流路末端305を満たす。空気抜き用高抵抗流路307からは駆動液216は殆ど漏れ出さない。引き続きマイクロポンプ211によって送液が行われると、駆動液216は上流側撥水バルブ313を通って試薬貯留部311に注入され、駆動液216に押されて、試薬321が下流側撥水バルブ315を通って下流の試薬流路331へと送液される。
【0014】
このように、駆動液流路301、分岐部303および流路末端305に存在した空気309は、駆動液216の送液に従って空気抜き用高抵抗流路307から外部へと排出されるので、駆動液216と試薬321との間には気泡は介在せず、試薬321の安定した送液が行える。
【0015】
しかしながら、図10において、例えば試薬321の試薬貯留部311への充填時と実際のマイクロ検査チップ300の使用時との温度が異なると、マイクロ検査チップ300の材料の温度係数と試薬321の温度係数の違いから、試薬貯留部311の容積と試薬321の容積に差が発生する。試薬321の容積の方が大きくなると、見かけ上試薬321が膨張したようになり、試薬321が上流側撥水バルブ313あるいは下流側撥水バルブ315を通って漏れ出す。試薬321の漏れ液321aは、上流側撥水バルブ313あるいは下流側撥水バルブ315から球状に盛り上がる。
【0016】
特に、図10のように、上流側即ち分岐部303内に試薬321の漏れ液321aが逆流し、漏れ液321aが駆動液216に押された空気309によって図の矢印A方向に押されて流路末端305に移動すると、漏れ液321aによって空気抜き用高抵抗流路307が塞がれる。その場合、以後の流路内の空気抜きができなくなる。
【0017】
図11において、漏れ液321aによって空気抜き用高抵抗流路307が塞がれ、空気抜きができないために、駆動液216に押されて、空気309が上流側撥水バルブ313を通って試薬貯留部311内に注入される。駆動液216は、分岐部303と上流側撥水バルブ313との接続部313aまで送液された所で、それよりも流路末端305の方向へは送液されず、上流側撥水バルブ313を通って試薬貯留部311内に流入する。従って、駆動液316と試薬321との間に空気309の気泡が介在することになり、試薬321の安定した送液が行えないことになる。
【0018】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、試薬の漏れ液によって空気抜き用高抵抗流路が塞がれて流路の空気抜きができなくなることを防止し、駆動液と試薬との間に気泡が介在せず、試薬の安定した送液が行えるマイクロ検査チップおよび検査装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の目的は、下記構成により達成することができる。
【0020】
1.駆動液が送液される駆動液流路と、
前記駆動液流路の下流に連接する分岐部と、
前記分岐部の下流に連接する流路末端と、
前記流路末端に設けられ、流路内の空気を外部に放出するための空気抜き用高抵抗流路と、
試薬が貯留される試薬貯留部と、
前記分岐部と前記試薬貯留部とを接続する上流側撥水バルブとを備えたマイクロ検査チップにおいて、
前記試薬貯留部に貯留されている前記試薬の上流側界面は前記上流側撥水バルブに接し、下流側界面は前記試薬貯留部の内部の空気に接していることを特徴とするマイクロ検査チップ。
【0021】
2.前記試薬貯留部は、試薬を充填するための試薬充填口を有し、
前記試薬充填口は、前記試薬貯留部の容積中心よりも上流側に配置されていることを特徴とする1に記載のマイクロ検査チップ。
【0022】
3.前記試薬貯留部の下流に、下流側撥水バルブを介して連接する試薬流路を備えたことを特徴とする1又は2に記載のマイクロ検査チップ。
【0023】
4.前記試薬貯留部の下流に直接連接する試薬流路を備えたことを特徴とする1又は2に記載のマイクロ検査チップ。
【0024】
5.1乃至4の何れか1項に記載のマイクロ検査チップと、
前記駆動液を送液するためのマイクロポンプユニットとを備えたことを特徴とする検査装置。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、試薬貯留部に貯留されている試薬の上流側界面が上流側撥水バルブに接し、下流側界面が試薬貯留部の内部の空気に接するようにすることで、試薬が上流側に漏れることがないので、試薬の漏れ液によって空気抜き用高抵抗流路が塞がれて流路の空気抜きができなくなることを防止し、駆動液と試薬との間に気泡が介在せず、試薬の安定した送液が行えるマイクロ検査チップおよび検査装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を図示の実施の形態に基づいて説明するが、本発明は該実施の形態に限られない。なお、図中、同一あるいは同等の部分には同一の番号を付与し、重複する説明は省略する。
【0027】
まず、本発明における検査装置について、図1を用いて説明する。図1は、本発明における検査装置の1例を示す模式図である。
【0028】
図1において、検査装置1は、マイクロ検査チップ100、マイクロポンプユニット210、加熱冷却ユニット230、検出部250および駆動制御部270等で構成される。マイクロポンプユニット210は、マイクロ検査チップ100内の検体や試薬の送液を行う。加熱冷却ユニット230は、マイクロ検査チップ100内の反応の促進および抑制のために、検体、試薬およびその混合液等の加熱および冷却を行う。検出部250は、マイクロ検査チップ100内の反応によって得られる生成液に含まれる標的物質を検出する。駆動制御部270は、検査装置1内の各部の駆動、制御、検出等を行う。
【0029】
マイクロポンプユニット210は、マイクロポンプ211、チップ接続部213、駆動液タンク215および駆動液供給部217等で構成される。マイクロポンプ211は、駆動液216の送液を行うことで、マイクロ検査チップ内の試薬や試料の送液を行う。チップ接続部213は、マイクロポンプ211とマイクロ検査チップ100とを接続する。駆動液タンク215は、送液のための駆動液216を供給する。駆動液供給部217は、駆動液タンク215からマイクロポンプ211に駆動液216を供給する。駆動液タンク215は、駆動液216の補充のために駆動液供給部217から取り外して交換可能である。マイクロポンプ211上には1個または複数個のポンプが形成されており、複数個の場合は、各々独立にあるいは連動して駆動可能である。
【0030】
加熱冷却ユニット230は、冷却部231および加熱部233等で構成される。冷却部231はペルチエ素子等で構成される。加熱部233は、ヒータ等で構成される。もちろん、加熱部もペルチエ素子で構成してもよい。検出部250は、発光ダイオード(LED)251および受光素子(PD)253等で構成され、マイクロ検査チップ内の反応によって得られる生成液に含まれる標的物質を光学的に検出する。
【0031】
マイクロ検査チップ100は、一般に分析チップ、マイクロリアクタチップなどとも称されるものと同等であり、例えば、樹脂、ガラス、シリコン、セラミックスなどを材料とし、そこに微細加工技術によりその幅および高さが数μm〜数百μmのレベルの微細な流路を形成したものである。マイクロ検査チップ100のサイズおよび形状は、通常、縦横が数十mm、厚さが数mm程度の板状である。
【0032】
マイクロ検査チップ100とマイクロポンプ211とはチップ接続部213で接続されて連通され、マイクロポンプ211が駆動されることにより、マイクロ検査チップ100内の複数の収容部に収容されている各種試薬や検体が、マイクロポンプ211からチップ接続部213を介してマイクロ検査チップ100に流入する駆動液216により送液される。
【0033】
次に、本発明におけるマイクロ検査チップの第1の実施の形態について、図2乃至図4を用いて説明する。図2乃至図4は、本発明におけるマイクロ検査チップの第1の実施の形態を示す模式図である。
【0034】
図2において、マイクロ検査チップ100は、駆動液流路101、分岐部103、流路末端105、空気抜き用高抵抗流路107、上流側撥水バルブ113、試薬貯留部111、下流側撥水バルブ115および試薬流路131等で構成されている。ここでは「試薬」として述べているが、これに限られるものではなく、例えば検体等の「試料」であってもよい。
【0035】
駆動液流路101の下流には分岐部103が、分岐部103の下流には流路末端105が連接され、流路末端105には空気抜き用高抵抗流路107が設けられている。分岐部103には、上流側撥水バルブ113を介して試薬貯留部111が連接されており、試薬貯留部111の下流には、下流側撥水バルブ115を介して試薬流路131が連接されている。
【0036】
微細流路である空気抜き用高抵抗流路107、上流側撥水バルブ113および下流側撥水バルブ115を除く駆動液流路101、分岐部103、流路末端105、試薬貯留部111および試薬流路131は同一のエッチング工程によって型が形成されるので、通常は流路の深さは同一である。よって、流路の容積は、流路の幅によって決定される。
【0037】
試薬貯留部111には、試薬貯留部111の容積中心CTよりも上流側に、試薬充填口117が設けられている。試薬121は、試薬貯留部111の容積よりも少ない量だけ定量されて注入される。試薬充填口117から試薬貯留部111内に試薬121の注入が開始されると、試薬121は試薬貯留部111内に流入し、図示したような扇形形状に広がっていく。ここに、容積中心CTは、上流側撥水バルブ113から下流側撥水バルブ115に向かって、試薬貯留部111の容積の1/2に相当する位置のことである。
【0038】
図3において、試薬121の上流側の界面121nは上流側撥水バルブ113に達して、上流側撥水バルブ113に接する。試薬121の量は試薬貯留部111の容積よりも少ないため、下流側の界面121mは下流側撥水バルブ115の位置に達することはなく、試薬貯留部111の途中で停止して試薬貯留部111内の空気に接している。試薬121の充填完了後、試薬充填口117は例えば粘着シート等からなる充填口封止部材119によって封止される。ここでは「空気」として述べているが、事前に充填された窒素や不活性ガス等の「気体」であってもよい。
【0039】
この状態で、マイクロポンプ211からチップ接続部213(図示せず)を通って、駆動液216が駆動液流路101に送液されてくる。駆動液216の送液に従って、駆動液流路101、分岐部103および流路末端105内の空気109は、順次、空気抜き用高抵抗流路107から外部へと排出される。
【0040】
図3において、試薬121の上流側の界面121nは上流側撥水バルブ113に接しているので、上流側の界面121nの液体保持力は非常に大きい。一方、下流側の界面121mは試薬貯留部111内の空気に接しているので、下流側の界面121mの液体保持力は小さい。
【0041】
従って、例えば試薬121の試薬貯留部111への充填時と、マイクロ検査チップ100の保存時、あるいはマイクロ検査チップ100の使用時との温度差がある場合や、マイクロ検査チップ100の取り扱い時に指で押さえられたりして外部からの力が加わり、試薬貯留部111に歪みが発生しても、試薬121の上流側の界面121nは動かず、下流側の界面121mが図の矢印M方向に動くことで、温度差や歪みによる試薬121の見かけ上の容積変動を吸収することができる。よって、試薬121が上流側即ち分岐部103内に漏れ出すことはない。
【0042】
図4において、駆動液216は流路末端105まで送液されて、流路末端105を満たす。空気抜き用高抵抗流路107からは駆動液216は殆ど漏れ出さない。引き続きマイクロポンプ211によって送液が行われると、駆動液216は上流側撥水バルブ113を通って試薬貯留部111に注入され、駆動液216に押されて、試薬121が下流側撥水バルブ115を通って下流の試薬流路131へと送液される。試薬121と駆動液216との間に気泡が介在することはない。
【0043】
以上に述べたように、本発明の第1の実施の形態によれば、試薬貯留部111の容積中心CTよりも上流側に設けられた試薬充填口117から、試薬貯留部111の容積よりも少ない量の試薬121を定量して注入する。これによって、試薬121の上流側の界面121nが上流側撥水バルブ113に接し、下流側の界面121mが試薬貯留部111内の空気に接するようにすることができる。
【0044】
そうすることによって、温度差や外力による歪み等が加わっても、下流側の界面121mの位置が変化することで温度差や歪みによる試薬121の見かけ上の容積変動を吸収することができ、試薬121が分岐部103内に漏れ出すことを防止することができる。よって、試薬の漏れ液によって空気抜き用高抵抗流路が塞がれることがないので、駆動液と試薬との間に気泡が介在せず、試薬の安定した送液が行えるマイクロ検査チップおよび検査装置を提供することができる。
【0045】
次に、本発明におけるマイクロ検査チップの第2の実施の形態について、図5および図6を用いて説明する。図5および図6は、本発明におけるマイクロ検査チップの第2の実施の形態を示す模式図である。
【0046】
図5において、本第2の実施の形態では、第1の実施の形態とは異なり、試薬貯留部111は下流側撥水バルブ115を備えておらず、試薬貯留部111と試薬流路131とは直結されている。それ以外の構造は第1の実施の形態と同じである。
【0047】
この場合においても、試薬貯留部111の容積中心CTよりも上流側に設けられた試薬充填口117から、試薬貯留部111の容積よりも少ない量の試薬121を定量して注入することで、試薬121の上流側の界面121nが上流側撥水バルブ113に接し、下流側の界面121mが試薬貯留部111内の空気に接するようにすることができる。下流側撥水バルブ115がなくても、試薬121の下流側の界面121mの状態は第1の実施の形態と同じである。
【0048】
ここに、容積中心CTは、上流側撥水バルブ113から下流側撥水バルブ115に向かって、試薬貯留部111の容積の1/2に相当する位置のことであるが、例えば試薬貯留部111と試薬流路131とが同じ幅で境界が明確でない場合には、上流側撥水バルブ113から試薬流路131に向かって、試薬貯留部111に定量して注入される試薬121の容積の1/2に相当する位置としてもよい。
【0049】
図6において、駆動液216は流路末端105まで送液されて、流路末端105を満たす。空気抜き用高抵抗流路107からは駆動液216は殆ど漏れ出さない。引き続きマイクロポンプ211によって送液が行われると、駆動液216は上流側撥水バルブ113を通って試薬貯留部111に注入され、駆動液216に押されて、試薬121が下流の試薬流路131へと送液される。試薬121と駆動液216との間に気泡が介在することはない。
【0050】
以上に述べたように、本発明の第2の実施の形態によれば、試薬貯留部111が下流側撥水バルブ115を備えていなくても、試薬貯留部111の容積中心CTよりも上流側に設けられた試薬充填口117から、試薬貯留部111の容積よりも少ない量の試薬121を定量して注入することで、試薬121が分岐部103内に漏れ出すことを防止することができる。よって、試薬の漏れ液によって空気抜き用高抵抗流路が塞がれることがないので、駆動液と試薬との間に気泡が介在せず、試薬の安定した送液が行えるマイクロ検査チップおよび検査装置を提供することができる。
【0051】
次に、上述した実施の形態に用いられるマイクロポンプ211の1例について、図12を用いて説明する。マイクロポンプ211は、アクチュエータを設けた弁室の流出入孔に逆止弁を設けた逆止弁型のポンプなど各種のものが使用できるが、圧電素子を駆動源とするピエゾポンプを用いることが好適である。図12は、マイクロポンプ211の構成の1例を示す模式図で、図12(a)はピエゾポンプの1例を示した断面図、図12(b)はその上面図、図12(c)はピエゾポンプの他の例を示した断面図である。
【0052】
図12(a)および(b)において、マイクロポンプ211は、第1液室408、第1流路406、加圧室405、第2流路407および第2液室409が形成された基板402、基板402上に積層された上側基板401、上側基板401上に積層された振動板403、振動板403の加圧室405と対向する側に積層された圧電素子404と、圧電素子404を駆動するための図示しない駆動部とが設けられている。駆動部と圧電素子404の両面上の2つの電極とは、フレキシブルケーブル等による配線で接続されており、該配線を通じて駆動部の駆動回路により圧電素子404に駆動電圧を印加する構成となっている。
【0053】
1例として、基板402として、厚さ500μmの感光性ガラス基板を用い、深さ100μmに達するまでエッチングを行なうことにより、第1液室408、第1流路406、加圧室405、第2流路407および第2液室409を形成している。第1流路406は幅を25μm、長さを20μmとしている。また、第2流路407は幅を25μm、長さを150μmとしている。
【0054】
ガラス基板である上側基板401を基板402上に積層することにより、第1液室408、第1流路406、第2液室409および第2流路407の上面が形成される。上側基板401の加圧室405の上面に当たる部分は、エッチングなどにより加工されて貫通している。
【0055】
上側基板401の上面には、厚さ50μmの薄板ガラスからなる振動板403が積層され、その上に、例えば厚さ50μmのチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)セラミックス等からなる圧電素子404が積層され貼付されている。駆動部からの駆動電圧により、圧電素子404とこれに貼付された振動板403が振動し、これにより加圧室405の体積が増減する。
【0056】
第1流路406と第2流路407とは、幅および深さが同じで、長さが第1流路406よりも第2流路407の方が長くなっており、第1流路406では、差圧が大きくなると流路の出入り口およびその周辺で乱流が発生し、流路抵抗が増加する。一方、第2流路407では流路の長さが長いので差圧が大きくなっても層流になり易く、第1流路406に比べて差圧の変化に対する流路抵抗の変化割合が小さくなる。すなわち、差圧の大小によって第1流路406と第2流路407との液体の流れ易さの関係が変化する。これを利用して、圧電素子404に対する駆動電圧波形を制御して送液を行っている。
【0057】
例えば、圧電素子404に対する駆動電圧により、加圧室405の内方向へ素早く振動板403を変位させて、大きい差圧を与えながら加圧室405の体積を減少させ、次いで加圧室405から外方向へゆっくり振動板403を変位させて、小さい差圧を与えながら加圧室405の体積を増加させると、流体は加圧室405から第2液室409の方向(図12(a)のB方向)へ送液される。
【0058】
逆に、加圧室405の外方向へ素早く振動板403を変位させて、大きい差圧を与えながら加圧室405の体積を増加させ、次いで加圧室405から内方向へゆっくり振動板403を変位させて、小さい差圧を与えながら加圧室405の体積を減少させると、流体は加圧室405から第1液室408の方向(図12(a)のA方向)へ送液される。
【0059】
なお、第1流路406と第2流路407における差圧の変化に対する流路抵抗の変化割合の相違は、必ずしも流路の長さの違いによる必要はなく、他の形状的な相違に基づくものであってもよい。
【0060】
上記のように構成されたマイクロポンプ211によれば、ポンプの駆動電圧および周波数を変えることによって、所望する流体の送液方向、送液速度を制御できるようになっている。図12(a)(b)には図示されていないが、第1液室408には駆動液タンク215につながるポートが設けられており、第1液室408は「リザーバ」の役割を演じ、ポートで駆動液タンク215から駆動液の供給を受けている。第2液室409はマイクロポンプユニット210の流路を形成し、その先にチップ接続部213があり、マイクロ検査チップと繋がる。
【0061】
図12(c)において、マイクロポンプ211は、シリコン基板471、圧電素子404、基板474および図示しないフレキシブル配線で構成される。シリコン基板471は、シリコンウエハをフォトリソグラフィ技術により所定の形状に加工したものであり、エッチングにより加圧室405、ダイヤフラム403、第1流路406、第1液室408、第2流路407、および第2液室409が形成されている。
【0062】
基板474には、第1液室408の上部にポート472が、第2液室409の上部にポート473がそれぞれ設けられており、例えばこのマイクロポンプ211をマイクロ検査チップ100と別体とする場合には、ポート473を介してマイクロ検査チップ100のポンプ接続部と連通させることができる。例えば、ポート472、473が穿孔された基板474と、マイクロ検査チップ100のポンプ接続部近傍とを上下に重ね合わせることによって、マイクロポンプ211をマイクロ検査チップ100に接続することができる。
【0063】
また、上述したように、マイクロポンプ211は、シリコンウエハをフォトリソグラフィ技術により所定の形状に加工したものであるため、1枚のシリコン基板上に複数のマイクロポンプ211を形成することも可能である。この場合、マイクロ検査チップ100と接続するポート473の反対側のポート472には、駆動液タンク215が接続されていることが望ましい。マイクロポンプ211が複数個ある場合、それらのポート472は、共通の駆動液タンク215に接続されていてもよい。
【0064】
上述したマイクロポンプ211は、小型で、マイクロポンプ211からマイクロ検査チップ100までの配管等によるデッドボリュームが小さく、圧力変動が少ないうえに瞬時に正確な吐出圧力制御が可能なことから、駆動制御部270での正確な送液制御が可能である。
【0065】
本発明におけるマイクロ検査チップ100の第1の実施の形態では、試薬充填部111の上流側に上流側撥水バルブ113を、下流側に下流側撥水バルブ115をそれぞれ設けている。また第2の実施の形態でも、試薬充填部111の上流側に上流側撥水バルブ113を設けている。
【0066】
ここで、撥水バルブの構造と動作について、図13を用いて説明する。図13は、撥水バルブの構造と動作について説明するための模式図で、図13(a)は液体の送液が撥水バルブで遮断されている状態を、図13(b)は撥水バルブを越えて送液されている状態を示す。
【0067】
図13(a)において、撥水バルブ501は、細径の送液制御通路511で構成されている。送液制御通路511とは、その断面積S1(送液方向に対して垂直な断面の断面積)が、上流側流路521の断面積S2および下流側流路523の断面積S3よりも小さい細流路である。
【0068】
流路壁531がプラスチック樹脂などの疎水性の材質で形成されている場合には、上流側流路521内に充填された液体541は、弱い送液圧力P1(例えば3kPa程度)で送液制御通路511内に流入し、送液制御通路511と下流側流路523との境界部の流路壁531との表面張力の差によって、下流側流路523へ通過することが規制される。
【0069】
図13(b)において、下流側流路523へ液体541を流出させる際には、マイクロポンプ(図示せず)によって所定圧力以上の送液圧力P2(例えば10kPa程度)を加え、これによって表面張力に抗して液体541を送液制御通路511から下流側流路523へ押し出す。液体541が下流側流路523へ流出した後は、液体541の先端部を下流側流路523へ押し出すのに要した送液圧力P2を維持せずとも、液体541が下流側流路523へ流れていく。
【0070】
すなわち、上流側流路521から下流側流路523への正方向への送液圧力が、所定圧力P2に達するまでは送液制御通路511から先への液体541の通過が遮断され、所定圧力P2以上の送液圧力が加わることにより、液体541は送液制御通路511を通過する。
【0071】
流路壁531がガラスなどの親水性の材質で形成されている場合には、少なくとも送液制御通路511の内面に撥水性のコーティング、例えばフッ素系のコーティングを施す必要がある。
【0072】
上述したように、上流側流路521および下流側流路523と送液制御通路511のサイズとは、上流側流路521および下流側流路523への液体541の通過を規制できれば特に限定されないが、一例として、縦横が150μm×300μmの上流側流路521および下流側流路523に対して、縦横が25μm×25μm程度となるように送液制御通路511が形成される。
【0073】
また、液体541が送液制御通路511を通過するのを規制するための送液圧力差(P2−P1)を大きくするために、下流側流路523の送液制御通路511と接する部分の流路壁531の壁面531aは、図13に示したように、送液制御通路511に対して直角に立ち上がっていることが望ましい。
【0074】
以上に述べたように、本発明によれば、試薬貯留部に貯留されている試薬の上流側界面が上流側撥水バルブに接し、下流側界面が試薬貯留部の内部の空気に接するようにすることで、試薬が上流側に漏れることがないので、試薬の漏れ液によって空気抜き用高抵抗流路が塞がれて流路の空気抜きができなくなることを防止し、駆動液と試薬との間に気泡が介在せず、試薬の安定した送液が行えるマイクロ検査チップおよび検査装置を提供することができる。
【0075】
尚、本発明に係るマイクロ検査チップおよび検査装置を構成する各構成の細部構成および細部動作に関しては、本発明の趣旨を逸脱することのない範囲で適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明における検査装置の1例を示す模式図である。
【図2】本発明におけるマイクロ検査チップの第1の実施の形態を示す模式図(1/3)である。
【図3】本発明におけるマイクロ検査チップの第1の実施の形態を示す模式図(2/3)である。
【図4】本発明におけるマイクロ検査チップの第1の実施の形態を示す模式図(3/3)である。
【図5】本発明におけるマイクロ検査チップの第2の実施の形態を示す模式図(1/2)である。
【図6】本発明におけるマイクロ検査チップの第2の実施の形態を示す模式図(2/2)である。
【図7】特許文献5で提案された方法を説明するための模式図(1/3)である。
【図8】特許文献5で提案された方法を説明するための模式図(2/3)である。
【図9】特許文献5で提案された方法を説明するための模式図(3/3)である。
【図10】試薬が逆流することによる不具合を説明するための模式図(1/2)である。
【図11】試薬が逆流することによる不具合を説明するための模式図(2/2)である。
【図12】マイクロポンプの構成の1例を示す模式図である。
【図13】撥水バルブの構造と動作について説明するための模式図である。
【符号の説明】
【0077】
1 検査装置
100 マイクロ検査チップ
101 駆動液流路
103 分岐部
105 流路末端
107 空気抜き用高抵抗流路
111 試薬貯留部
113 上流側撥水バルブ
115 下流側撥水バルブ
117 試薬充填口
119 充填口封止部材
121 試薬
131 試薬流路
210 マイクロポンプユニット
211 マイクロポンプ
213 チップ接続部
215 駆動液タンク
216 駆動液
217 駆動液供給部
230 加熱冷却ユニット
231 冷却部
233 加熱部
250 検出部
251 発光ダイオード(LED)
253 受光素子(PD)
270 駆動制御部
401 上側基板
402 基板
403 振動板
404 圧電素子
405 加圧室
406 第1流路
407 第2流路
408 第1液室
409 第2液室
471 シリコン基板
472 ポート
473 ポート
474 基板
501 撥水バルブ
511 送液制御通路
521 上流側流路
523 下流側流路
531 流路壁
541 液体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動液が送液される駆動液流路と、
前記駆動液流路の下流に連接する分岐部と、
前記分岐部の下流に連接する流路末端と、
前記流路末端に設けられ、流路内の空気を外部に放出するための空気抜き用高抵抗流路と、
試薬が貯留される試薬貯留部と、
前記分岐部と前記試薬貯留部とを接続する上流側撥水バルブとを備えたマイクロ検査チップにおいて、
前記試薬貯留部に貯留されている前記試薬の上流側界面は前記上流側撥水バルブに接し、下流側界面は前記試薬貯留部の内部の空気に接していることを特徴とするマイクロ検査チップ。
【請求項2】
前記試薬貯留部は、試薬を充填するための試薬充填口を有し、
前記試薬充填口は、前記試薬貯留部の容積中心よりも上流側に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ検査チップ。
【請求項3】
前記試薬貯留部の下流に、下流側撥水バルブを介して連接する試薬流路を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載のマイクロ検査チップ。
【請求項4】
前記試薬貯留部の下流に直接連接する試薬流路を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載のマイクロ検査チップ。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載のマイクロ検査チップと、
前記駆動液を送液するためのマイクロポンプユニットとを備えたことを特徴とする検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−19890(P2009−19890A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−180743(P2007−180743)
【出願日】平成19年7月10日(2007.7.10)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】