説明

マイクロ構造体の製造方法および放射線用吸収格子

【課題】X線吸収を大きくすることが可能な高アスペクトな金メッキ物からなるマイクロ構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】柱状の金メッキ物からなるマイクロ構造体の製造方法であって、基板上に、導電性を有するシード電極と、前記シード電極の一部が露出するようにシリコンからなる格子とが設けられたモールド基板を用意する工程と、前記シリコンからなる格子の頂上部から深さ方向に対して0度より大きな入射角にて絶縁物を斜方蒸着する工程と、前記絶縁物が斜方蒸着されたモールド基板に金メッキを行い、前記シリコンからなる格子の間隙に柱状の金メッキ物を形成する工程を有するマイクロ構造体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柱状の金メッキ物からなるマイクロ構造体の製造方法および放射線用吸収格子に関する。
【背景技術】
【0002】
周期構造を有するマイクロ構造体からなる回折格子は分光素子として様々な機器に利用されている。また、近年ではX線の吸収特性を利用した金からなるマイクロ構造体は、工業的利用として物体の非破壊検査、医療的利用としてレントゲン撮影等に用いられている。これらは、物体や生体内の構成元素や密度差によりX線透過時の吸収の違いを利用してコントラスト画像を形成するものであり、X線吸収コントラスト法と言われる。
【0003】
しかしながら、軽元素ではX線吸収が非常に小さいため、生体の構成元素である炭素、水素、酸素などからなる生体軟組織、あるいはソフトマテリアルをX線吸収コントラスト法により画像化することは困難である。
【0004】
これに対して、1990年代より、X線の位相差を用いた位相コントラスト法の研究が、放射光施設を中心に行なわれてきた。
また、実験室におけるX線管を用いた位相イメージングについても研究が行なわれ、伝播法やタルボ干渉法等が原理的に可能となっている。
【0005】
タルボ干渉を実現していくにあたりにX線吸収の大きな周期構造の金からなる吸収格子を使用する方法が一般的である。周期構造の金からなる吸収格子の作製方法としてはモールドにメッキにて金を充填していくことが好適な方法である。
【0006】
非特許文献1には、シリコンを異方性ウェットエッチングして形成された1次元モールドを用いた方法が開示されている。この方法は、1次元モールドの頂上部に斜方蒸着にてアルミニウム層を形成し、続いて指向性のある蒸着方法にて1次元モールドの底部とアルミニウム層上に金を蒸着する。続いてアルミニウム層をエッチング除去する際にアルミニウム層上の金も除去され、その後シアン系金コバルト合金メッキ液を用いて、金コバルト合金からなる吸収格子を作製するものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】“Microelectronic Engineering”,Vol.84,1172(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非特許文献1においては、シリコンを用いているためモールド自体に導電性を有する。したがって、シリコンのモールドにも金コバルト合金メッキ層が形成されている恐れがある。特にシリコンモールド頂上部はメッキ通電時において電界が集中しやすいところであり、メッキが析出する可能性が高い。シリコンモールド頂上部にメッキが析出するとモールド頂上部が塞がれメッキ液の循環が阻害されメッキされない空隙が生じる。このような空隙はX線の吸収ロスを生じるため、所望の解像度やコントラストでのイメージングは困難となる。さらに、シアン系のメッキ液を使用することは環境への負荷が大きく、使用するのにあたっては排気設備の整った場所での使用に限定されるため更なる改善が望まれている。
【0009】
本発明は、この様な背景技術に鑑みてなされたものであり、柱状の高アスペクト比の金メッキ物からなるマイクロ構造体を容易に製造する方法を提供するものである。
【0010】
また、本発明は、上記の製造方法により製造された柱状の金メッキ物からなるマイクロ構造体を用いた放射線用吸収格子を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するマイクロ構造体の製造方法は、柱状の金メッキ物からなるマイクロ構造体の製造方法であって、基板上に、導電性を有するシード電極と、前記シード電極の一部が露出するようにシリコンからなる格子とが設けられたモールド基板を用意する工程と、前記シリコンからなる格子の頂上部から深さ方向に対して0度より大きな入射角にて絶縁物を斜方蒸着する工程と、前記絶縁物が斜方蒸着されたモールド基板に金メッキを行い、前記シリコンからなる格子の間隙に柱状の金メッキ物を形成する工程を有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、上記の製造方法により製造された柱状の金メッキ物からなるマイクロ構造体を用いた放射線用吸収格子である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、柱状の高アスペクト比の金メッキ物からなるマイクロ構造体を容易に製造する方法を提供することができる。
また、本発明によれば、上記の製造方法により製造された柱状の金メッキ物からなるマイクロ構造体を用いた放射線用吸収格子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のマイクロ構造体の製造方法の一実施態様を示す工程図である。
【図2】本発明における斜方蒸着を説明するための模式図である。
【図3】本発明のマイクロ構造体の製造方法の他の実施態様を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明に係るマイクロ構造体の製造方法は、柱状の金メッキ物からなるマイクロ構造体の製造方法であって、基板上に、導電性を有するシード電極と、前記シード電極の一部が露出するようにシリコンからなる格子とが設けられたモールド基板を用意する工程と、前記シリコンからなる格子の頂上部から深さ方向に対して0度より大きな入射角にて絶縁物を斜方蒸着する工程と、前記絶縁物が斜方蒸着されたモールド基板に金メッキを行い、前記シリコンからなる格子の間隙に柱状の金メッキ物を形成する工程を有することを特徴とする。
【0016】
本発明の柱状の高アスペクト比の金メッキ物からなるマイクロ構造体の製造方法は、基板上に導電性を有するシード電極上に、シード電極の一部が露出するようにシリコンからなる格子が設けられたモールド基板を用意する工程を有する。そして、前記シリコンからなる格子の頂上部から深さ方向に対して0度より大きな入射角にて絶縁物を斜方蒸着する。これにより、電界が集中しやすいシリコンからなるモールドのエッジ部分が絶縁物によって被覆される。さらに、斜方蒸着のためシード電極上には絶縁物を形成させないことが可能になる。これによりシード電極とメッキ液との導通は確保できる。その後、絶縁物が斜方蒸着されたモールド基板のシード電極上に金メッキを行う。これによりシリコンからなるモールドのエッジ部分並びにモールド側壁からの金メッキ物の析出が抑制されるため、高アスペクト比の金メッキ物からなるマイクロ構造体を製造することが可能になる。
【0017】
なお、本発明において、シリコンからなるモールド基板とは、シード電極上にシリコンの柱状の高アスペクト比の構造体が設けられた基板を表す。
前記絶縁物が斜方蒸着されたモールド基板の表面の一部にシランカップリング剤にてアルキルシリル基を導入することが好ましい。これによりシリコンと金との置換反応が抑制され、シリコンモールド側壁への金の析出が抑制される効果を奏する。
【0018】
前記シード電極が金からなることが好ましい。シード電極が耐食性のある金であるため、メッキ液中での溶解が回避できるため安定して高アスペクト比の金メッキ物からなるマイクロ構造体が製造できる。
【0019】
前記絶縁物はSiOであることが好ましい。SiOは絶縁性の高い材料であり、金メッキ液への耐性も高いためシリコンモールド頂上部からモールド側壁にかけて金メッキ物が析出してしまうことを回避することができる。
【0020】
以下、図面を参照しつつ、本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明の柱状の高アスペクト比の金メッキ物からなるマイクロ構造体の製造方法の概要を説明するための工程図である。
【0021】
本発明のマイクロ構造体の製造方法は、まず、図1(a)に示す様に、基板7上に、導電性を有するシード電極2と、前記シード電極の一部が露出するようにシリコンからなる格子8とが設けられたモールド基板1を用意する。
【0022】
シリコンからなる格子8は、シリコンを異方性のエッチング方法にて形成されたものを用いる。異方性のエッチング方法としては水酸化カリウム水溶液等の強アルカリ性の水溶液を用い、シリコンの結晶方位面を利用した異方性エッチングを用いることができる。また、ICP−RIE(イオンカップリングプラズマ−反応性イオンエッチング)も使用することも可能であり、ICP−RIEを用いれば1次元のみならず2次元のシリコンからなる格子を形成することが可能である。
シード電極2は、互いに金が成膜されたシリコンウエハ面同士を金の成膜面を合わせて接合し、一方のシリコンウエハ面から金からなるシード電極2が露出されるまで、シリコンの異方性エッチングを行うことによって形成することができる。また、シリコンからなる格子を形成した後、電子ビーム蒸着や真空スパッタや化学堆積法等のドライプロセスや無電解メッキによるウェットプロセスにて金属等を成膜し半導体フォトリソグラフィにて選択的にシード電極2を形成しても良い。
【0023】
本発明において、シリコンからなる格子とは、立体状の格子からなる凹凸構造を表す。格子の平面から見た形状は、例えば正方形、長方形などの四角形、円形、楕円形等の凹部が設けられ、前記凹部の周囲は凸部である形状が挙げられる。
【0024】
次に、前記シリコンからなる格子の頂上部から深さ方向に対して0度より大きな入射角にて絶縁物を斜方蒸着する。
本発明ではシリコンからなる格子の頂上部3から、図1(b)に示すように深さ方向に対して0度より大きな入射角にて絶縁物を斜方蒸着する。入射角Θはシリコンからなる格子の高さと、格子の間隙10の幅の大きさから適宜決定することにより、シード電極2上には絶縁物は形成されず格子の頂上部3とモールド側壁4に選択的に絶縁物5にて被覆することができる。
【0025】
図2は、本発明における斜方蒸着を説明するための模式図である。図2に示すように、入射角θは、格子の間隙10の幅A、格子の高さBとした場合、
tanθ≧A/B
の関係を満たす入射角に設定することが好ましい。入射角θは、深さ方向に対して0度以上、好ましくは0度以上30度以下、さらに好ましくは0度以上10度以下である。また、入射角の大きさは、必ずしもモールド側壁4の全面が絶縁物5によって被覆されるように設定する必要はない。
【0026】
次に、前記絶縁物が斜方蒸着されたモールド基板に金メッキを行い、図1(c)に示す様に、前記シリコンからなる格子の間隙に柱状の金メッキ物を充填して金メッキ層6を形成する。
【0027】
本発明では、特に形状的に電界が集中しやすく金メッキ物が析出しやすい格子の頂上部3のエッジ部分に、斜方蒸着によって絶縁膜4が形成されることによって、エッジ部分への金メッキの析出が回避される。これにより、モールド頂上部が塞がれることを防止でき、シード電極2上から金メッキ成長を妨げないため柱状の高アスペクト比の金メッキ物からなるマイクロ構造体の製造が可能になる。
【0028】
金メッキ物からなるマイクロ構造体は、高アスペクト比の金のマイクロ構造体からなる。金メッキ層の金メッキ物の高さは10μm以上200μm以下で、短辺の幅は1μm以上8μm以下が好ましい。また、アスペクト比は、金メッキ層の金メッキ物の高さ/短辺の幅の比は、好ましくは5から50である。
【0029】
本発明における斜方蒸着方法としては、指向性のある蒸着方法を用いる。指向性のある蒸着方法としては電子ビーム蒸着や抵抗加熱蒸着が挙げられる。また、遮蔽板を用いることによってスパッタリングやイオンプレティング法の指向性成分のみを成膜する方法をとっても良い。
【0030】
本発明では、斜方蒸着されたモールド基板表面の一部にシランカップリング剤にてアルキルシリル基を導入することが好ましい。そうすることによってシリコンモールド側壁に形成された自然酸化膜のシラノール基(Si−OH)を修飾することができ、シリコンと金との置換反応を抑制することを本発明者らが鋭意検討した結果見出した。その結果、斜方蒸着によって絶縁膜が形成されなかったシリコンモールド側壁への金の析出が抑制され、ボイドの発生を回避することができる。また、アルキルシリル基を有するシランカップリングと金とはカップリング反応が起こらないため共有結合を形成しない。したがってシード電極に金を用いた場合、シード電極とメッキ液との導電性を損なうことはない。
【0031】
本発明で用いることができるシランカップリング剤としてはトリアルキル、ジアルキル、モノアルキルのシランカップリング剤を用いることができる。
モノアルキルのシランカップリング剤としては、ヘキサメチルジシラザン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルブロムシラン、トリメチルクロロシラン、トリエチルメトキシシラン、トリエチルエトキシシラン、トリエチルブロムシラン、トリエチルクロロシラン、トリエチルメトキシシラン、トリエチルエトキシシランを用いることができる。
【0032】
ジアルキルのシランカップリング剤としては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジクロロシラン、ジメチルジブロモシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジクロロシラン、ジエチルジブロモシランを用いることができる。
【0033】
トリアルキルのシランカップリング剤としては、トリメトキシメチルシラン、トリエトキシメチルシラン、トリクロロメチルシラン、トリブロモメチルシラン、トリメトキシエチルシラン、トリエトキシエチルシラン、トリクロロエチルシラン、トリブロモエチルシラン、トリメトキシプロピルシラン、トリエトキシプロピルシラン、トリクロロプロピルシラン、トリブロモプロピルシラン、トリメトキシブチルシラン、トリエトキシブチルシラン、トリクロロブチルシラン、トリブロモブチルシラン、デシルトリクロロシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリクロロシラン、n−ドデシルトリエトキシシラン、n−オクチルトリクロロシラン、n−オクチルトリエトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、ペンチルトリエトキシシランを用いることができるがこれらに限定されない。
【0034】
本発明では、シード電極が金であることが好ましい。シード電極2は互いに金の成膜されたシリコンウエハ面同士を接合し、一方の面からシード電極2が露出されるまでシリコンの異方性エッチングを行うことによってモールド基板を作製することができる。また、シード電極に金を用いることにより比抵抗が小さいためシード電極とメッキ液との導電性を確保することができる。また、金は容易に空気酸化されなく、メッキ液に対して耐食性も高いため金メッキ核の発生が均一になり、成長バラツキの小さな金メッキ層を形成することができる。
【0035】
本発明では、絶縁物はSiOであることが好ましい。SiOはメッキ液に対して耐食性を有し絶縁性が維持されるため、SiO上では金メッキ液中の金イオンとの通電による還元反応は起こらない。したがって特に形状的に電界が集中しやすく金メッキ物が析出しやすい格子の頂上部3のエッジ部分に、斜方蒸着によって絶縁膜としてSiOが形成されることによって、エッジ部分への金メッキの析出が回避される。これにより、モールド頂上部が塞がれることを防止でき、シード電極2上から金メッキ成長を妨げないため高アスペクト比の金メッキ物からなるマイクロ構造体の製造が可能になる。
【0036】
次に、本発明の柱状の金メッキ物からなるマイクロ構造体の製造方法の他の実施態様を示す。図3に示す様に、前記シード電極が、前記シリコンからなる格子の絶縁物が斜方蒸着されていない部分のシリコンからなることを特徴とする。具体的には、基板上に、シリコンからなる格子が設けられたモールド基板1を用意する工程を行う。次に、前記シリコンからなる格子の頂上部から深さ方向に対して0度より大きな入射角にて絶縁物5を斜方蒸着する工程を行う。この工程において、前記シリコンからなる格子の絶縁物が斜方蒸着されていない部分を残し、そのシリコンからなる部分をシード電極2として用いる。
【0037】
次に、前記絶縁物が斜方蒸着されたモールド基板に金メッキを行い、シリコンからなる部分のシード電極2から金を形成して行き、前記シリコンからなる格子の間隙に柱状の金メッキ物からなる金メッキ層6を形成する工程を行う。
【0038】
本発明の放射線用吸収格子は、上記の製造方法により製造された柱状の金メッキ物からなるマイクロ構造体を用いた放射線用吸収格子である。
本発明のマイクロ構造体は、高アスペクト比の金メッキ物からなるためX線の吸収が大きいため、X線透過領域が小さく、空間的可干渉性が向上されたイメージングを可能にする放射線用吸収格子になる。
【実施例1】
【0039】
以下、具体的な実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。
本実施例ではシリコンからなる格子が設けられたモールド基板を次のように用意した。4インチ(100mmΦ)で厚さ300μmと150μmのシリコンウエハを用意し、電子ビーム蒸着装置にてチタン、金の順番でそれぞれ10nm、300nm成膜した。互いの成膜面の金同士を接合装置を用いて接合し接合基板を作製した。接合基板の一方の面に保護マスク層として電子ビーム蒸着装置にてチタン、金の順番でそれぞれ10nm、500nm成膜した。保護マスク層の形成されていない面を水酸化カリウム水溶液にて厚さ100μmエッチングした。
【0040】
エッチングされた面上に電子ビーム蒸着装置にてクロムを200nm成膜した。その上にポジ型レジストを塗布し、半導体フォトリソグラフィにてラインアンドスペース4μmの1次元のストライプ状にパターニングを行った。その後、クロムエッチング水溶液にてクロムをエッチングしシリコンを露出させ、ラインアンドスペース4μmの1次元のストライプ状にパターニングをした。続いて、ICP−RIEにて露出したシリコンを異方性の深堀りエッチングを行った。50μmの深堀りエッチングを行ったところで接合面の金が露出し、その時点で深堀りエッチングを停止した。これにより高さ50μmのシリコンからなる1次元格子が形成された。続いて、UVオゾンアッシングとクロムエッチング水溶液にてレジストとクロムを除去した基板を本実施例のモールド基板として用いた。
【0041】
モールド基板のシリコンからなる格子の頂上部から深さ方向に対して10度の入射角にてSiOを200nmの膜厚で斜方蒸着した。続いて、ヘキサメチルジシラザンの気相雰囲気中に投入し、SiOの斜方蒸着膜が成膜されていないシリコンからなる側壁シラノール基にトリメチルシリル基を導入した。
【0042】
次にノンシアン金メッキ液(ミクロファブAu1101、日本エレクトロプレイティング・エンジニアヤース)にてメッキ液温度60℃、電流密度0.2A/dmにて7時間のメッキを行った。
【0043】
基板を切断し、断面を観察したところ金メッキ層にボイドは確認されなかった。これにより幅4μm、高さ50μmの高アスペクト比の金メッキ物からなるマイクロ構造体が得られた。
【0044】
この金メッキ物からなるマイクロ構造体を格子の頂上部からX線顕微鏡にて観察したところシリコンの格子部分はX線が透過し、金メッキ層部分はX線を吸収しコントラストが大きかった。
【0045】
(比較例1)
本比較例では、斜方蒸着にて絶縁膜を成膜しなかった以外は上述の第1の実施例と同様の条件で、金メッキ物からなるマイクロ構造体の作製を行った。
【0046】
メッキ終了後、基板を切断し、断面を観察したところ格子頂上部が金メッキ物によって塞がれたており、メッキ層内にボイドが確認された。
【実施例2】
【0047】
本実施例ではシリコンからなる格子が設けられたモールド基板を次のように用意する。4インチ(100mmΦ)で厚さ300μmのシリコンウエハを2枚を用意し、電子ビーム蒸着装置にてチタン、金の順番でそれぞれ5nm、100nm成膜する。互いの成膜面の金同士を接合装置を用いて接合し接合基板を作製する。接合基板の一方の面に保護マスク層として電子ビーム蒸着装置にてチタン、金の順番でそれぞれ5nm、500nm成膜した。保護マスク層の形成されていない面を水酸化カリウム水溶液にて厚さ150μmエッチングする。
【0048】
エッチングされた面上に電子ビーム蒸着装置にてクロムを100nm成膜する。その上にポジ型レジストを塗布し、半導体フォトリソグラフィにて4μm角のパターンが4μmピッチで2次元状に配置されるようにパターニングを行なう。その後、クロムエッチング水溶液にてクロムをエッチングしシリコンを露出させ、4μm角のパターンが4μmのピッチで2次元状に配置されたシリコンの露出面が形成される。続いて、ICP−RIEにて露出したシリコンを異方性の深堀りエッチングを行う。150μmの深堀りエッチングを行ったところで接合面の金が露出し、その時点で深堀りエッチングを停止する。これにより高さ150μmのシリコンからなる2次元格子が形成される。続いて、UVオゾンアッシングとクロムエッチング水溶液にてレジストとクロムを除去した基板を本実施例のモールド基板として用いる。
【0049】
モールド基板のシリコンからなる格子の頂上部から深さ方向に対して5度の入射角にてSiOを200nmの膜厚で斜方蒸着する。続いて、ジメチルイエトキキシランの気相雰囲気中に投入し、SiOの斜方蒸着膜が成膜されていないシリコンからなる側壁シラノール基にジメチルシリル基が導入される。
【0050】
次にノンシアン金メッキ液(ミクロファブAu1101、日本エレクトロプレイティング・エンジニアヤース)にてメッキ液温度60℃、電流密度0.2A/dmにて14時間のメッキを行なう。
【0051】
基板を切断し、断面を観察すると金メッキ層にボイドは確認されない。これにより幅4μm、高さ100μmの高アスペクト比の金メッキ物が2次元に配置されたマイクロ構造体が得られる。
【実施例3】
【0052】
本実施例は図3を用いて説明する。
本実施例ではシリコンからなる格子が設けられたモールド基板を次のように用意する。4インチ(100mmΦ)で厚さ300μmの低抵抗なシリコンウエハを用意し、電子ビーム蒸着装置にてクロムを100nm成膜する。その上にポジ型レジストを塗布し、半導体フォトリソグラフィにてラインアンドスペース4μmの1次元のストライプ状にパターニングを行なう。その後、クロムエッチング水溶液にてクロムをエッチングしシリコンを露出させ、ラインアンドスペース4μmの1次元のストライプ状にパターニングをする。続いて、ICP−RIEにて露出したシリコンを異方性の深堀りエッチングを行う。50μmの深堀りエッチングを行ったところで深堀りエッチングを停止する。これにより高さ50μmのシリコンからなる1次元格子が形成される(図3(a))。続いて、UVオゾンアッシングとクロムエッチング水溶液にてレジストとクロムを除去した基板を本実施例のモールド基板として用いる。
【0053】
モールド基板のシリコンからなる格子の頂上部から深さ方向に対して3度の入射角にて1方向のみからSiOを200nmの膜厚で斜方蒸着する。これによって各シリコンからなる格子の側壁の一方の面のみ絶縁膜が形成される(図3(b))。もう一方の絶縁膜が形成されない各シリコンからなる格子の側壁のシリコン面を本実施例ではシード電極として用いる。次にノンシアン金メッキ液(ミクロファブAu1101、日本エレクトロプレイティング・エンジニアヤース)にてメッキ液温度60℃、電流密度0.2A/dmにてメッキを行なう。金メッキ層は絶縁層で覆われていない面のシリコンからなる格子側面から形成される(図3(c))。
【0054】
基板を切断し、断面を観察すると金メッキ層にボイドは確認されない。これにより幅2μm、高さ100μmの高アスペクト比の金メッキ物からなるマイクロ構造体が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の製造方法により製造された柱状の金メッキ物からなるマイクロ構造体は、放射線用吸収格子、遮光マスク、耐食性電極に利用することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 モールド基板
2 シード電極
3 格子の頂上部
4 モールド側壁
5 絶縁物
6 金メッキ層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱状の金メッキ物からなるマイクロ構造体の製造方法であって、基板上に、導電性を有するシード電極と、前記シード電極の一部が露出するようにシリコンからなる格子とが設けられたモールド基板を用意する工程と、前記シリコンからなる格子の頂上部から深さ方向に対して0度より大きな入射角にて絶縁物を斜方蒸着する工程と、前記絶縁物が斜方蒸着されたモールド基板に金メッキを行い、前記シリコンからなる格子の間隙に柱状の金メッキ物を形成する工程を有することを特徴とするマイクロ構造体の製造方法。
【請求項2】
前記絶縁物はSiOであることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ構造体の製造方法。
【請求項3】
前記絶縁物が斜方蒸着されたモールド基板の表面の一部にシランカップリング剤にてアルキルシリル基を導入することを特徴とする請求項1または2に記載のマイクロ構造体の製造方法。
【請求項4】
前記シード電極が金からなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかの項に記載のマイクロ構造体の製造方法。
【請求項5】
前記シード電極が、前記シリコンからなる格子の絶縁物が斜方蒸着されていない部分のシリコンからなることを特徴とする請求項1または2に記載のマイクロ構造体の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の製造方法により製造された柱状の金メッキ物からなるマイクロ構造体を用いた放射線用吸収格子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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