説明

マイクロ波によるスラグ厚の測定方法及び測定装置

【課題】マイクロ波レベル計のみでスラグの厚さを正確に測定する方法及び装置を提供する。
【解決手段】溶鉱炉内において溶鉄上に浮遊するスラグの厚さ測定する方法であって、上端または管内にマイクロ波送受信用のアンテナが設置されたガイドパイプを、スラグに向けて降下させながら該ガイドパイプの下端の開口を通じてマイクロ波の送受信を行い、降下位置毎に反射位置と受信強度とをモニタするとともに、最も大きな2つの受信強度のピークが現れた降下位置における前記ピークの反射位置の差をスラグの厚さにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶鉱炉内において溶鉄上に浮遊するスラグの厚さをマイクロ波より測定する方法及びそのための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
精錬工程において、溶鉄に酸素ガスを吹き込んでSiやP、Sを酸化物としてスラグ中に移行させて除去することが行われている。その際、溶鉄上に浮遊するスラグが安定して生成しているかを判断したり、酸素ガスを吹き込むためのランスの位置を制御したりするために、スラグの厚さを知ることが重要である。
【0003】
また、鉄スクラップを扱う電気炉では、電極の位置制御のためにもスラグの厚さを知ることが重要である。
【0004】
トピードカー内で上記のような脱珪処理等を行い、その後にスラグを除去することも行われている。しかし、固形状のスラグは目視により判断できるものの、溶融しているスラグについては判断が難しく、スラグの除去作業で溶融スラグがトピードカーに残存していると次の処理の際にスラグ量が過多になる。そして、この残存スラグによりスラグ量が増してフォーミング(発泡現象)が起こるようになり、フォーミング防止用のフラックスが多く必要になる。また、溶融スラグを除去しようとすると、溶鉄まで掻き出してしまうことがあり、溶鉄の歩留まり低下を招くことになる。
【0005】
スラグの厚さを測定するには、マイクロ波レベル計と渦電流レベル計とを用い、炉頂に設置したマイクロ波レベル計からマイクロ波をスラグ上面に向けて送信し、その反射波を検波してアンテナからスラグまでの距離を求めるとともに、渦電流レベル計により溶鉄の上面を検出し、スラグ上面と溶鉄上面との差からスラグの厚さを求めている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−273519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の測定方法ではマイクロ波レベル計と渦電流レベル計の2つのレベル計が必要である。また、マイクロ波レベル計は炉頂近傍に設置されており、スラグ上面から離れているため、スラグ上面のみで反射されたマイクロ波の他にも、スラグ上面で反射された後、更に炉壁により反射されたマイクロ波や、炉壁で反射されたマイクロ波も同時に受信されるためノイズが多く、スラグ上面で反射されたマイクロ波を正確に検出できないことがある。
【0008】
そこで本発明は、マイクロ波レベル計のみでスラグの厚さを正確に測定する方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明は、下記のマイクロ波によるスラグ厚の測定方法及び測定装置を提供する。
(1)溶鉱炉内において溶鉄上に浮遊するスラグの厚さをマイクロ波により測定する方法であって、
上端または管内にマイクロ波送受信用のアンテナが設置されたガイドパイプを、スラグに向けて降下させながら該ガイドパイプの下端の開口を通じてマイクロ波の送受信を行い、降下位置毎に反射位置と受信強度とをモニタするとともに、
最も大きな2つの受信強度のピークが現れた降下位置における前記ピークの反射位置の差をスラグの厚さとすることを特徴とするマイクロ波によるスラグ厚の測定方法。
(2)溶鉱炉内において溶鉄上に浮遊するスラグの厚さをマイクロ波により測定するための装置であって、
上端または管内にマイクロ波送受信用のアンテナが装着され、下端が耐熱処理されたガイドパイプと、
前記ガイドパイプの昇降手段と、
前記アンテナに連結するマイクロ波発振検波手段と、
前記マイクロ波発振検波手段の制御及び検波信号を処理するための制御手段とを備えるとともに、
炉頂近傍から前記ガイドパイプをスラグに向けて降下させながら、該ガイドパイプの下端の開口を通じてマイクロ波の送受信を行い、降下位置毎に反射位置と受信強度とをモニタするとともに、
最も大きな2つの受信強度のピークが現れた降下位置における前記ピークの反射位置の差をスラグの厚さとすることを特徴とするマイクロ波によるスラグ厚の測定装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、マイクロ波レベル計のみでスラグの厚さを正確に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の測定装置を電気炉に装着した状態を示す概略図であり、待機状態を示している。
【図2】本発明の測定装置を示す一部破断側面図である。
【図3】待機状態における測定結果を示す図である。
【図4】最適降下位置における測定装置を示す図である。
【図5】最適降下位置における測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に関して図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
図1は本発明の測定装置を示す概略図であるが、電気炉に応用した例を示している。図示されるように、電気炉100の炉内の溶鉄101には、ランス102から酸素ガスが吹き込まれており、炉頂から延びる電極103が没入されている。また、溶鉄101の上にはスラグ104が浮遊しており、ランス102や電極103の位置制御のためにスラグ104の厚さを知る必要があり、本発明の測定装置1が炉頂近傍に設置される。尚、炉内で発生したガスは、排気口105を通じて排気される。
【0014】
測定装置1の構成を図2に示すが、ガイドパイプ2の上端にはアンテナ3が装着されており、アンテナ3にはマイクロ波発振検波手段4が接続されている。アンテナ3とマイクロ波発振検波手段4とを長い導波管で接続することにより、マイクロ波発振検波手段4も熱的に保護することができる。また、ガイドパイプ2の下端には、耐熱性を付与するためにセラミックスを溶射してなる耐熱被膜5が所定の膜厚及び幅で成膜されている。尚、図示は省略するが、アンテナ3はガイドパイプ2の上端以外にも管内の適所に装着することができ、更にはアンテナ3に同様の耐熱被膜5を成膜するなどして耐熱処理した場合にはガイドパイプ2の下端近傍に装着することもできる。また、ガイドパイプ2を2重管構造とし、内部に空気や冷却水を循環させるようにして耐熱性を付与してもよい。
【0015】
また、マイクロ波発振検波手段4は、マイクロ波発振検波手段4の発振を制御したり、検波信号を処理したりする制御手段(図示せず)へと電気的に接続している。これにより、制御手段を熱的に保護することができる。
【0016】
図示されるように、測定装置1は、炉頂近傍の開口106にガイドパイプ2を挿通させるように装着されている。尚、開口106とガイドバイプ2との隙間は、適当なシール部材により密封されている。そして、測定に際し、測定装置1は先ずガイドパイプ2の下端がスラグ104から所定距離離れた位置にて待機する。この待機状態では、ガイドパイプ2の下端を含めて装置全体を熱的に保護するために、スラグ104からできるだけ離しておく。
【0017】
次いで、マイクロ波発振検波手段4を駆動してガイドパイプ2の下端の開口を通じてマイクロ波を送受信しながら、装置全体を降下させる。マイクロ波は、マイクロ波発振検波手段4で発振されてアンテナ3から発射され、ガイドパイプ4の管内を伝播して開口から送信される(送信波M1)。そして、スラグ104の上面で反射された反射波M2は、ガイドパイプ2の開口に入射し、ガイドパイプ4の管内を伝播してアンテナ3で受信されてマイクロ波発振検波手段4にて検波される。
【0018】
この降下の間に、反射波M2の受信強度は経時的に変化する。待機状態及びガイドパイプ2の下端がスラグ104から大きく離れているときには、炉壁による反射等種々の方向からの反射波M2が検波されるため、図3に示すように種々の距離において同程度の受信強度となり、スラグ104までの距離の判定すら難しくなる。しかし、降下を続けると図4に示すように、ある降下位置(最適降下位置)で、図5に示すような2つの大きなピークA、Bが明確に現れるようになる。ピークAは距離が近いことからスラグ104の上面までの距離であり、ピークBが溶鉄101の上面までの距離である。従って、ピークAの距離とピークBの距離との差がスラグ104の厚さとなる。
【0019】
上記において、ピークA、Bが現れた降下位置にて一旦停止し、その位置にて微小距離だけ上下させ、受信強度が最大で、かつ、ピークが安定して明確に現れる位置を求めた後、再度マイクロ波の送受信を行うことが好ましい。このような測定位置の微調整により、より正確に測定できるようになる。
【0020】
尚、受信強度が最大となるピークA、Bの判定は、降下中に測定した反射強度をメモリに記憶しておき、その中から最大値を見つければよい。
【0021】
そして、測定後は、装置全体を待機位置まで上昇させる。
【0022】
上記の降下及び上昇には昇降手段(図示せず)を用いるが、例えばガイドパイプ2の外周面に螺旋状の溝を設け、回転により昇降するようにすればよい。
【0023】
また、距離の算出は、例えばFM−CW方式により行うことができ、送信波M1と反射波M2とをミキシングし、差の周波数を持った受信信号波形を取り出し、この波形をフーリエ変換(FFT)し、差の周波数を距離信号として取り出す。
【0024】
ところで、スラグ104の誘電率は空気の誘電率よりも大きいため、その分、測定したピークAの距離とピークBの距離との差から求めたスラグ104の厚さが、実際のスラグ104の厚さよりも大きくなる。このような誤差は、スラグ104が厚くなるほど顕著になる。
【0025】
そこで、最初に鉄棒をスラグ104に突き入れてスラグ104の実際の厚さ(真値)を求めておき、次いで上記の測定により同じスラグ104の厚さ(測定値)を測定し、真値と測定値との比率を補正係数とする。スラグ104は、精錬条件により組成が異なり、誘電率も異なるため、精錬条件が異なるたびにこのような補正係数を求めて、データベース化しておく。そして、新たに測定して得られた測定値に、そのときの精錬条件に合わせてデータベースから補正係数を抽出し、測定値に乗じて補正する。
【符号の説明】
【0026】
1 測定装置
2 ガイドパイプ
3 アンテナ
4 マイクロ波発振検波手段
100 電気炉
101 溶鉄
102 ランス
103 電極
104 スラグ
105 排気管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶鉱炉内において溶鉄上に浮遊するスラグの厚さをマイクロ波により測定する方法であって、
上端または管内にマイクロ波送受信用のアンテナが設置されたガイドパイプを、スラグに向けて降下させながら該ガイドパイプの下端の開口を通じてマイクロ波の送受信を行い、降下位置毎に反射位置と受信強度とをモニタするとともに、
最も大きな2つの受信強度のピークが現れた降下位置における前記ピークの反射位置の差をスラグの厚さとすることを特徴とするマイクロ波によるスラグ厚の測定方法。
【請求項2】
精錬条件ごとに鉄棒をスラグに突き入れて測定したスラグの厚さと、マイクロ波により測定したスラグの厚さとの比率を補正係数として蓄積したデータベースから、測定時の精錬条件に合った補正係数を抽出して測定値に乗じて補正することを特徴とする請求項1記載のマイクロ波によるスラグ厚の測定方法。
【請求項3】
溶鉱炉内において溶鉄上に浮遊するスラグの厚さをマイクロ波により測定するための装置であって、
上端または管内にマイクロ波送受信用のアンテナが装着され、下端が耐熱処理されたガイドパイプと、
前記ガイドパイプの昇降手段と、
前記アンテナに連結するマイクロ波発振検波手段と、
前記マイクロ波発振検波手段の制御及び検波信号を処理するための制御手段とを備えるとともに、
炉頂近傍から前記ガイドパイプをスラグに向けて降下させながら、該ガイドパイプの下端の開口を通じてマイクロ波の送受信を行い、降下位置毎に反射位置と受信強度とをモニタするとともに、
最も大きな2つの受信強度のピークが現れた降下位置における前記ピークの反射位置の差をスラグの厚さとすることを特徴とするマイクロ波によるスラグ厚の測定装置。
【請求項4】
前記制御手段において、精錬条件ごとに鉄棒をスラグに突き入れて測定したスラグの厚さと、マイクロ波により測定したスラグの厚さとの比率を補正係数として蓄積したデータベースから、測定時の精錬条件に合った補正係数を抽出して測定値に乗じて補正することを特徴とする請求項3記載のマイクロ波によるスラグ厚の測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−43343(P2011−43343A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−189916(P2009−189916)
【出願日】平成21年8月19日(2009.8.19)
【出願人】(593207271)株式会社ワイヤーデバイス (15)
【Fターム(参考)】