説明

マイクロ波アシスト用磁気記録ヘッド

【課題】副コイルを用いて、より磁化反転アシスト効果を高めるために、強磁性共鳴周波数fRが充分に高い記録磁極材料と記録素子構造を実現する。そのためには、主磁極および後端シールドの材料の軟磁性膜のHk及びBsを大きくすればよいのであるが、主コイルの励磁により記録磁極には垂直方向の磁界も印加されており、主磁極の磁気飽和の影響を避ける。
【解決手段】主磁極と、後端シールドと、記録磁界を発生するための主コイルと、磁気記録ギャップからマイクロ波帯域の周波数の面内交流磁界を発生するための副コイルを備え、第1の軟磁性膜により構成される主磁極および後端シールドの磁気ギャップ対向面に非磁性層を形成し、さらにその表面に、第1の軟磁性膜の異方性磁界(いわゆるHk)より異方性磁界の大きい第2の軟磁性膜を積層して形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク装置、すなわち、HDD(Hard Disc Drive)用磁気記録ヘッドに関する。さらに詳細には、マイクロ波アシスト用磁気記録ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
HDDの高密度・大容量化は、記録媒体を構成する記録膜の微細粒子化や磁気異方性磁界Hkの増大、並びに記録媒体にデジタル情報を記録する磁気ヘッドの記録素子の微細化や記録素子材料の改良により実現されてきた。近年、高密度記録に適した垂直磁気記録方式のHDDが主力となり、今後も一層の高密度・大容量化が期待されている。
【0003】
一方、記録ビットや磁性粒子の微細化に伴い記録磁化の熱揺らぎが生じやすくなるため、記録膜の磁気異方性磁界Hkや保磁力Hcをより大きくすることが好ましい。
【0004】
しかしながら、記録層のHkをより大きくするとHcも5k(Oe)以上にもなる。デジタルデータを記録媒体に飽和磁気記録を行う場合には、一般的には保磁力Hcの2倍以上の記録磁界が必要と言われている。そのため、磁気ヘッドの記録素子から発生する記録磁界を高める必要があり、記録素子膜の飽和磁束密度Bsを高めてきた。しかしながらスレ―タ−・ポーリング曲線が示すように、その値は凡そ2.4(T)で頭打ちになっている。そのためデジタルデータの記録・消去が困難になり、HDDの高密度・大容量化を進めるのが困難になってきた。
【0005】
この状況を打破すべくマイクロ波アシストによる新しい記録方式が考案された。
(例えば特許文献1参照)これは垂直記録用磁気ヘッドの記録素子を構成する主磁極と後端(トレイリング)シールドの磁気ギャップ内に多層の磁性薄膜で構成されたSTO(Spin Torque Oscillator)を形成し、STOの自励発振により面内方向のマイクロ波磁界を発生させて記録媒体に印加して磁化の歳差運動を誘起し、垂直方向の磁化反転をアシストしようとするものである。具体的には多層の磁性薄膜から構成されたSTOのFGL(Field Generation Layer)を高周波で自励発振させ、その表面から発生する漏れ磁界を記録媒体に印加してマイクロ波アシストするものである。本アシスト方式を自励方式と呼ぶ(例えば特許文献1参照)。
【0006】
しかしながらSTOには、
1)磁性薄膜の多層の積層が必要でプロセスが非常に複雑、
2)STOが発振するためには磁気異方性が極めて高い磁性膜が必要である、
3)発振周波数の制御パラメータは STOに注入する電流密度だけで、僅かな電流
密度の変化により発振周波数が急変するため制御が困難、
4)注入する電流密度を増加すると発生磁界も増加するが、発振周波数も変わってし
まうため、両パラメータを任意に制御することが困難、
などの大きな技術課題がある。
【0007】
自励方式に対して、磁気ヘッドの記録素子を構成する主磁極とこれに対向する後端(トレイリング)シールドの間の磁気記録ギャップ内に副コイルを配置し、副コイルに外部からマイクロ波帯域の高周波電流を駆動して磁気記録ギャップ内に高周波面内磁界を発生させ、これを主磁極が発生する垂直記録磁界に重畳させて磁化反転をアシストする他励方式ヘッド装置が考案された。本アシスト方式を他励方式と呼ぶ。(例えば特許文献2参照)
【0008】
他励方式は、記録媒体の記録層にマイクロ波帯域の高周波の面内交流磁界を重畳印加することが可能で、そのアシスト効果により主磁極が発生する媒体記録層の磁化反転に必要な垂直記録磁界を大幅に低減することができる。また、保磁力Hcが大きい記録層にも、高速でデータを記録・消去することが可能となる。更に、面内方向のマイクロ波帯域の交流磁界は外部から副コイルに高周波電流を駆動することにより発生させる(他励)ので、
1)高周波電流の周波数数制御がppmオーダーで可能。
2)高周波電流の振幅を制御することにより面内発生磁界の制御が容易。
3)これらの結果、マイクロ波帯域の周波数と発生する面内交流磁界を独立に制御
することが可能で、記録媒体の強磁性共鳴周波数fRmにチューンした周波数の設定や、垂直記録磁界との最適配分を勘案した磁気ヘッドの最適設計が可能。
4)磁気ヘッド構造も簡明で、量産化が容易。
など、STOの自励方式にはない特長を有する。
【0009】
他励方式は前述のように、主磁極近傍に配置した主コイルにデジタルデータ系列に対応した記録電流を駆動し、主磁極から記録媒体に垂直記録磁界を発生させる。この動作と同時に、主磁極および後端(トレイリング)シールドの磁気記録ギャップ内部に配置した副コイルにマイクロ波帯域の高周波電流を印加する。磁束誘導により主磁極およびこれに対向する後端(トレイリング)シールドを形成する軟磁性膜が高周波磁化され、磁気記録ギャップ内に面内方向の高周波磁界が発生する。この高周波磁界が記録層に漏洩・印加されて垂直記録磁界と重畳し、記録層の磁化反転をアシストする。
【0010】
アシスト効果を高めるには副コイルへ印加する高周波電流の駆動周波数を10G(Hz)、あるいはそれ以上の高周波にすることが望ましいが、磁気記録ギャップ内に発生する高周波磁界の周波数は主磁極および後端(トレイリング)シールドを形成する軟磁性膜の強磁性共鳴周波数fRが上限となり、これ以下の周波数でしか駆動できない。ここでfRは次式で示される。(例えば文献3参照)
fR= (γ/2π)・(Hk・4πMs)1/2 (1)
γ:ジャイロ磁気定数、Hk:異方性磁界、Ms:磁化
4πMs =Bs;飽和磁束密度
また、面内方向のアシスト磁界も1k(Oe)以上の強磁界が必要とされている。
式(1)からfRを高めるには軟磁性膜のHk及びBsを大きくすれば良い。磁気
ヘッドの記録素子の主磁極に実用されている軟磁性膜は主としてFeCo系であり、Bsは2〜2.4(T)と大きいが、Hkは5〜30(Oe)と小さい。(例えば特許文献4、5参照)
このため磁化反転アシストに有効な10G(Hz)前後、或いはそれ以上の高周波で副コイルに電流を駆動し、記録膜に1k(Oe)以上の面内高周波磁界を印加するためには強磁性共鳴周波数fRが充分に高い軟磁性膜、並びに記録素子構造を実現する必要があった。
【0011】
また、他励方式では、記録素子を形成する主磁極が磁気飽和してしまうとコイルの励磁電流をいくら増加しても発生磁界は頭打ちになると共に、高周波での線形応答も伴わなくなる。前述のように他励方式は、主コイルの励磁により主磁極から垂直記録磁界を発生しており、主磁極の先端部は磁気飽和している。磁気記録ギャップから面内方向に強いアシスト磁界を発生するためには、主磁極の磁気飽和の影響を避けて高周波の電流を駆動する必要がある。
【0012】
また、他励方式では、軟磁性膜のfRを更に高めるためには、軟磁性膜にバイアス磁界をかけることが有効であることが定式化されている(例えば非特許文献3)。そのパラメータhは“h=(HB+Hk)/Hk”(HB;バイアス磁界)と定義され、HBを大きくするとhも大きくなりfRが増大する。しかし、バイアス磁界の印加を実用の記録素子構造でどのように実現するかについては、いまだ明らかになってはおらず、これを具体的に明らかにする必要があった。
【0013】
次に、先行技術を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許公報6785092号
【特許文献2】特開2007−299460号公報
【特許文献4】特開2006−147786号公報
【特許文献5】特開2007−189069号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献3】L.H.Chen etal;IEEE Trans.Magn.,Vol.36,No.5,p.3418(2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
記録密度を向上させるには、より磁化反転アシスト効果を高める必要がある。そのためには、高周波で副コイルに電流を駆動して磁気記録ギャップから強い面内高周波磁界を発生させる必要があり、強磁性共鳴周波数fRが充分に高い記録磁極材料と記録素子構造を実現する必要がある。そのためには、主磁極および後端(トレイリング)シールドの材料の軟磁性膜のHk及びBsを大きくすればよいことがわかっているが、主コイルの励磁により記録磁極には垂直方向の磁界も印加されており、主磁極の磁気飽和の影響を避ける必要がある。
本発明は、以上の点を考慮してなされたもので、より磁化反転アシスト効果を高めることを目的としたマイクロ波アシスト用磁気記録ヘッドを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、主磁極と、これに対向する後端(トレイリング)シールドと、前記主磁極に垂直記録磁界を発生するための主コイルと、前記主磁極と後端シールドの間の磁気記録ギャップからマイクロ波帯域の周波数の面内交流磁界を発生するための単数または複数の副コイルを備え、第1の軟磁性膜により構成される主磁極および後端シールドの磁気ギャップ対向面に非磁性層を形成し、さらにその表面に、第1の軟磁性膜の異方性磁界(いわゆるHk)より異方性磁界の大きい第2の軟磁性膜を積層して形成することを特徴とするマイクロ波アシスト用磁気ヘッドである。
【0018】
第1の軟磁性膜と第2の軟磁性膜の製膜中に外部からトラック幅方向に直流磁界を印加して磁化容易軸を付与し、非磁性膜を介して反強磁性結合構造を成し、第1の軟磁性膜と第2の軟磁性膜に循環する閉磁路を形成する。その結果、いずれの軟磁性膜にもトラック幅方向にバイアス磁界が印加される。
【0019】
主コイルにデータ系列に対応した記録電流を駆動すると、主磁極の第1の軟磁性膜の磁極先端部は磁気飽和するが、異方性磁界Hkが大きい第2の軟磁性膜は磁気飽和せずに線形な高周波磁束応答が可能となる。
【0020】
また第1の軟磁性膜と第2の軟磁性膜は非磁性層を介して反強磁性結合構造を成しているために残留磁化状態が安定で、ポールイレージャーやサイドイレーズが軽減されHDDの信頼性が向上する。
【0021】
本発明においては、次のような構成を備えることが好ましい。
【0022】
主磁極と、後端(トレイリング)シールドと、主磁極に垂直記録磁界を発生させるための主コイルと、主磁極と後端(トレイリング)シールドとの間の磁気記録ギャップ近傍にマイクロ波帯域の面内交流磁界を発生するための単数あるいは複数の副コイルと、を有するマイクロ波アシスト用磁気ヘッド。
【0023】
前記副コイルは、磁気記録ギャップの内部あるいは後端(トレイリング)シールド
上部の磁気記録キャップ深部を含む磁気記録ギャップ近傍に配置されたことを特徴とするマイクロ波アシスト用磁気ヘッド。
【0024】
第1の軟磁性膜により構成される、主磁極と後端(トレイリング)シールドの、磁気記録ギャップ対向面にRu等の非磁性膜を形成し、さらにその表面に第1の軟磁性膜の異方性磁界より異方性磁界の大きい第2の軟磁性膜を積層して形成することを特徴とするマイクロ波アシスト用磁気ヘッド。
【0025】
前記副コイルに高周波の交流電流を供給するための、該副コイルを含む副コイル用電気回路を備え、交流電流の周波数は記録媒体の記録層の強磁性共鳴周波数fRmと等しいか、あるいはこれに近い周波数であることを特徴とするマイクロ波アシスト用磁気ヘッド及び磁気記録方法。
【0026】
前記副コイルに5〜30G(Hz)の範囲の周波数の交流電流を供給するための副コイル駆動部を備えることを特徴とするマイクロ波アシスト用磁気ヘッド及び磁気記録方法。
【0027】
前記面内交流磁界の最大値が前記垂直記録磁界の最大値より小さいことを特徴とするマイクロ波アシスト用磁気ヘッド及び磁気記録方法。
【発明の効果】
【0028】
本マイクロ波アシスト用磁気ヘッドは、第1の軟磁性膜により構成される主磁極と後端(トレイリング)シールドの磁気記録ギャップ対向面に非磁性膜を形成し、さらにその表面に第1の軟磁性膜の異方性磁界より異方性磁界の大きい第2の軟磁性膜を積層形成することにより、強磁性共鳴周波数fRを高めて、この結果、より磁化反転アシスト効果が高いマイクロ波アシスト用磁気記録ヘッドを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本実施形態における磁気ディスク装置の斜視図である。
【図2】図1の磁気ディスク装置におけるヘッドジンバルアセンブリ先端部の断面図である。
【図3】磁気ヘッドスライダ基体の斜視図である。
【図4】本実施形態における磁気ヘッドの記録素子の平面図(積層方向)である。
【図5】実施形態1における、図4のα−α断面図である。
【図6】図4のβ−β断面図である。
【図7】実施形態2における、図4のα−α断面図である。
【図8】本実施形態における磁気ヘッド記録素子の断面図である。
【図9】図8の磁気記録ギャップ部から主磁極を見た斜視図である。
【図10】本実施形態1におけるWrap−Around構造の変形例である。
【図11】本実施形態2におけるWrap−Around構造の変形例である。
【図12a】本実施形態におけるアニール前の第2の軟磁性膜であるFeCoB磁性膜のB−H 曲線である。
【図12b】本実施形態におけるアニール後の第2の軟磁性膜であるFeCoB磁性膜のB−H 曲線である。
【図13】本実施形態における第2の軟磁性膜の飽和磁束密度をパラメータにしたときの、強磁性共鳴周波数fRのHk依存性を示す。
【図14】本実施形態における第2の軟磁性膜のバイアス磁界をパラメータにしたときの、強磁性共鳴周波数fRのHk依存性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに以下に記載した構成要素は、適宜組み合わせることができる。
なお、各図面において、同一の構成要素は、同一の参照番号を用いることにより示される。
また、図面中の構成要素内および構成要素間の寸法比は、図面を見やすくするために、必ずしも正確には記載されておらず、それぞれ任意となっている。
なお、図3以降の図面に示されるX軸方向は、トラック幅方向に相当しており、X軸方向の寸法を「幅」と称することがある。図3以降の図面に示されるY軸方向は、素子の奥行方向に相当しており、Y軸方向のうちのABS(エアベアリング面:記録媒体と対向する薄膜磁気ヘッドの面)に近い側を「前方」、その反対側(奥行側)を「後方」と称することがある。
【0031】
図3以降の図面に示されるZ軸方向は、素子を構成するに際しての積層膜を積み上げる方向に相当しており、いわゆる厚さ方向であり、磁気ディスクの進行方向(図6のMの方向)である。Z軸負の方向(リーディング側、先端側)から正の方向(トレイリング側、後端側)へ進む。積層膜を積み上げる方向を「上方」または「上側」、その反対方向を「下方」または「下側」と称することもある。
【0032】
図1は、本発明による磁気ディスク装置(HDD)(磁気記録再生装置と同義)の実施形態1における要部の構成を概略的に示す斜視図である。
図2は図1の磁気ディスク装置におけるヘッドジンバルアセンブリ(HGA)の先端の一部分を示す断面図である。
【0033】
図1には磁気ディスク装置が示されており、符号210は、スピンドルモータ211によって回転軸211aの回りを回転する複数の磁気ディスクを示している。符号212は、磁気ディスク210に対してデータ信号の書込みおよび読出しを行うための薄膜磁気ヘッド構造を含むスライダ基体1を各磁気ディスク210の表面に適切に対向させるためのヘッドジンバルアセンブリ(HGA)を示している。符号214は、薄膜磁気ヘッド構造を含むスライダ基体1を磁気ディスク210のトラック上に位置決めするためのアセンブリキャリッジ装置を示している。
【0034】
アセンブリキャリッジ装置214は、ピボットベアリング軸215を中心にして角揺動可能なキャリッジ216と、このキャリッジ216を角揺動駆動する例えばボイスコイルモータ(VCM)217とから主として構成されている。
キャリッジ216には、ピボットベアリング軸215の方向にスタックされた複数の駆動アーム218の基部が取り付けられており、各駆動アーム218の先端部にはHGA212が固着されている。なお、単数の磁気ディスク210、単数の駆動アーム218および単数のHGA212が磁気ディスク装置に設けられていても良い。
磁気ディスク210は、スピンドルモータ211およびその回転軸211aを介して接地されている。
【0035】
図1において、符号219はスライダ基体1に設けられた薄膜磁気ヘッドの記録および再生動作を制御するための制御回路である。この制御回路219の中には、本発明において用いられる副コイルに印加されるアシスト用の高周波電流の駆動源を組み込むようにしてもよい。更には、電流の振幅制御や位相の制御を可能にする制御系を組み込みようにしてもよい。ただし、これらのものの組み込み箇所は特に制御回路219の中に限定されるものではなく、設計仕様に応じて適宜、設置箇所を選択すればよい。
【0036】
図2に示されるように、HGA212は、スライダ基体1と、このスライダ基体1を支持するための金属導電材料によるロードビーム220およびフレクシャ221と、アシスト用の高周波電流を印加するための配線部材を含む各種の配線部材222を備えている。図2に示される実施形態では、各種の配線部材222は、ワイヤ223を用いたワイヤボンディングによってスライダ基体1の端子電極に接続されている。
【0037】
なお、HGA212には、スライダ基体1に形成された薄膜磁気ヘッドの記録素子に印加される記録電流を駆動するため、および再生素子に定電流を印加して再生出力電圧を取り出すためのヘッド素子用配線部材も配設されている。
スライダ基体1は、弾性を有するフレクシャ221の一端に取り付けられており、このフレクシャ221とその他端が取り付けられたロードビーム220とによって、スライダ基体1を支持するサスペンションが構成されている。
【0038】
(実施形態のマイクロ波アシスト用磁気ヘッドの構造の説明)
本実施形態のマイクロ波アシスト用磁気ヘッドは、その構成の要部として、主磁極の先端部位である記録磁極部の周辺に配置された単数、あるいは複数の副コイルを備え、これらに印加される高周波の交流電流によって、媒体面に平行な面内方向のアシスト磁界を発生させる構造を有する。つまり、副コイルに外部からマイクロ波帯域の高周波電流を駆動して磁気記録ギャップ内に高周波の媒体面に平行な面内磁界を発生させ、これを主磁極から発生する媒体面に垂直な垂直磁界に重畳させて磁化反転をアシストするものである。もちろん、磁気ヘッドとして基本的な構造部位である記録磁極部や、記録磁極部に記録磁界を発生させるための主コイル等も備えている。
【0039】
以下、本実施形態のマイクロ波アシスト用磁気ヘッド(以下、単に「磁気ヘッド」と称する場合がある)の構成を分かり易く説明するために、いわゆる磁気ヘッドの基本となる一般的な構成部位の説明と、本実施形態の構成の要部の説明と、に分けて説明する。
【0040】
(磁気ヘッドの基本となる一般的な構成部位についての説明)
まず、最初に磁気ヘッドの基本となる一般的な構成部位の構造について図3〜図7を参照しつつ説明する。これらの図面には、紙面の大きさの関係から、微細な線体構造を有する本実施形態の構成の要部の記載は省略されていることに留意されたい。
図3は磁気ヘッドの全体構造を模式的に示した斜視図である。図4は、磁気ヘッドの記録ヘッド部の平面図であり、図5は図4のα−α断面図であり、図6は図4のβ−β断面図である。
【0041】
図3に示されるように、磁気ヘッドは、略直方体構造のスライダ基体1を有する。スライダ基体1は、浮上特性に直接関与するABS(エアベアリング面)70を有しており、図3や図6の空気の流れ方向M(ディスク形状の磁気記録媒体の実質的な線移動方向と同じ)に対して空気流出端側(トレイリングエッジ側、後端側)に存在する側端面に、記録素子100B、再生素子100Aを備えている。
【0042】
記録素子100Bおよび再生素子100Aの詳細が、図4〜図6に示される。図3〜図6に示される磁気ヘッドは、記録および再生の双方を実行可能な複合型ヘッドとして構成されている。当該磁気ヘッドは、スライダ基体1上に、絶縁膜2と、磁気抵抗効果(MR:Magneto−Resistive effect)を利用した再生素子100Aと、分離膜9と、垂直記録方式の記録動作を実行する記録素子100Bと、オーバーコート膜となる非磁性膜21とが、この順に積層された状態で構成されている。
【0043】
(再生素子100Aの説明)
再生素子100Aは、例えば、下部リードシールド膜3と、シールドギャップ膜4と、上部リードシールド膜30とがこの順に積層されて構成される。シールドギャップ膜4には、エアベアリング面70に露出するように再生ヘッド素子(MR素子8)が埋設されている(図5参照)。なお、再生の意味でリードを用いている。
【0044】
下部リードシールド膜3および上部リードシールド膜30は、いずれもMR素子8を周辺から磁気的に分離するものであり、エアベアリング面70から後方に向かって延びて構成されている。下部リードシールド膜3は、例えば、ニッケル鉄合金(NiFe)などの磁性材料により構成されている。上部リードシールド膜30は、例えば、非磁性膜6を挟んで2つの上部リードシールド膜部分5、7が積層されて構成されている。上部リードシールド膜部分5、7は、例えば、いずれもニッケル鉄合金などの磁性材料により構成されている。非磁性膜6は、例えば、ルテニウム(Ru)またはアルミナなどの非磁性材料により構成されている。なお、上部リードシールド膜30は、上記の3層構造に限定されることなく、例えば、ニッケル鉄合金(NiFe)などの磁性材料により構成された1層からなる構造のものであってもよい。
【0045】
シールドギャップ膜4は、MR素子8を周辺から電気的に分離するものであり、例えばアルミナなどの非磁性絶縁材料により構成される。MR素子8は、例えば、巨大磁気抵抗効果(GMR:Giant Magneto−Resistive effect)またはトンネル磁気抵抗効果(TMR:Tunneling Magneto−Resistive effect)などの素子から構成される。
【0046】
(記録素子100Bの説明)
記録素子100Bは、非磁性膜11と、磁極膜50と、磁気連結用の開口部(バックギャップ16BG)が設けられた磁気記録ギャップ膜16と、絶縁膜19の内部に埋設されたコイル膜18と、磁性膜60と、Wrap−Around構造におけるいわゆるライトシールド膜のうちの、第1のライトシールド膜(サイドシールド)15と、第2のライトシールド膜(後端シールド)17とを含んでいる。なお、記録の意味でライトを用いている。
【0047】
図5で、非磁性膜11は、補助磁極膜10を周囲から電気的および磁気的に分離するものであり、例えば、アルミナなどの非磁性材料により構成されている。
磁極膜50は、エアベアリング面70から後方に向かって延びており、補助磁極膜10および主磁極膜40を含んでいる。補助磁極膜10および主磁極膜40は設計仕様によっては、上下(Z方向)逆に配置することもできる。また、磁気連結用の連結ヨーク20aに形成された連結用の磁性層は、磁気連結用の開口部としてバックギャップ16BGと称することもある。
【0048】
補助磁極膜10は、エアベアリング面70よりも後退した位置から連結ヨーク20aまで延びている。この補助磁極膜10は、例えば、主磁極膜40に対してリーディング(前端)側に配置されていると共に、図4に示されるように、矩形型の平面形状(幅寸法W2)を有している。補助磁極膜10は、前述したように主磁極膜40のトレーリング(後端)側に配置されていてもよい。
【0049】
主磁極膜40は、エアベアリング面70から連結ヨーク20aまで延びている。この主磁極膜40は、例えば、図4に示されるように、エアベアリング面70から後方に向かって延びる幅の狭い記録磁極部40Aと、その記録磁極部40Aの後方に連なる幅の広いボディ部40Bとを含んでいる。記録磁極部40Aは、実質的な磁束の放出部分(いわゆる磁極膜)であり、記録トラック幅を規定する一定幅寸法W1を有している。ボディ部40Bは、記録磁極部40Aに磁束を供給する部分であり、幅寸法W1よりも大きな幅寸法W2を有している。このボディ部40Bの幅は、前方において主磁極の先端部位である記録磁極部40Aへ近づくにしたがって次第に狭まっている。この主磁極膜40の幅寸法が、幅寸法W1から幅寸法W2へ拡がり始める位置は、いわゆるフレアポイントFPである。
【0050】
主磁極膜40は、エアベアリング面70に近い側における端面40Mが、後端(トレイリング)側に位置する長辺および前端側に位置する短辺をそれぞれ上底および下底とする台形形状である。この台形形状の上端縁(長辺側)が、実質的な記録箇所である。磁気記録ギャップ膜16は、磁極膜50と磁性膜60とを磁気的に分離するためのギャップであり、例えば、アルミナなどの非磁性絶縁材料またはルテニウムなどの非磁性導電性材料により構成されている。
【0051】
主コイル膜18は、記録媒体への磁気記録のための垂直記録磁界を発生させるものであり、例えば、銅(Cu)などの高導電性材料により構成されている。この主コイル膜18は、図4に示されるように、連結ヨーク20a(バックギャップ16BG)を中心として巻回された巻回構造(スパイラル構造)を有している。
絶縁膜19は、主コイル膜18を周辺から電気的に分離するものであり、例えば、加熱時に流動性を示すフォトレジストまたはスピンオングラス(SOG:Spin On Glass)などの非磁性絶縁材料により構成されている。この絶縁膜19の最前端位置はスロートハイトゼロ位置TPであり、そのスロートハイトゼロ位置TPとエアベアリング面70との間の距離はいわゆるスロートハイトTHである。図4では、スロートハイトゼロ位置TPがフレアポイントFPに一致している場合を示している。
【0052】
磁性膜60は、磁極膜50から放出される磁束のうち、その広がり成分を取り込むことにより垂直記録磁界の勾配を急峻化させると共に、記録媒体から戻る磁束を取り込むことにより、記録素子100Bと記録媒体との間において磁束を循環させるものである。磁性膜60は、磁極膜50のトレーリング(後端)側においてエアベアリング面70から後方に向かって延びることにより、前方において磁気記録ギャップ膜16により磁極膜50から隔てられていると共に、後方において連結ヨーク20aを通じて磁極膜50に連結されている。エアベアリング面70に近い側における磁性膜60の端面60Mは、例えば、図4に示されるように、幅寸法W1よりも大きな幅寸法W3を有する矩形形状である。この磁性膜60は、例えば、互いに別体をなす第2のライトシールド(後端シールド)膜17およびリターンヨーク膜20を含んでいる。
【0053】
第1及び第2のライトシールド膜15、17は、主に、垂直記録磁界勾配の増大機能を担うものであり、例えば、ニッケル鉄合金または鉄系合金などの高飽和磁束密度磁性材料により構成されている。第1及び第2のライトシールド膜15、17は、いわゆるWrap−Around構造を構成する。そして、これらの膜は、磁性膜20も含めてトレイリング側にあるので後端シールドと称されることがある。
【0054】
(本実施形態の構成の要部の説明)
図5に示されるWrap−Around構造の実施形態1の構造について説明する。主磁極膜40の先端部位である記録磁極部40Aの媒体対向面側の両側面に、磁気ギャップ膜41を介して、第1のライトシールド膜15が隣接する。したがって、記録磁極部40Aの両側部には、ライトシールド膜15によるサイドシールド膜が形成される。また、記録磁極部40Aの媒体対向面側の上面に、磁気記録ギャップ膜16を介して、第2のライトシールド膜17が隣接する。第2のライトシールド膜17は、ペデスタル・ヨーク(Pedestal Yoke)とも称されるもので、第2のライトシールド(後端シールド)膜17と、記録磁極部40Aの上面との間に挟まれた膜が磁気記録ギャップ膜16となる。
【0055】
第1及び第2のライトシールド膜15、17は、上述した配置により、磁極膜50から放出された磁束の広がり成分を取り込み、垂直磁界の磁界勾配を増大させ、記録幅を狭める。第2のライトシールド(後端シールド)膜17は、磁気記録ギャップ膜16に隣接しながらエアベアリング面70から後方に向かって延びており、その後端において絶縁膜19に隣接している。これにより、ライトシールド膜17は、絶縁膜19の最前端位置(スロートハイトゼロ位置TP)を規定する役割を担っている。
【0056】
リターンヨーク膜20は、磁束の循環機能を担うものであり、例えば、ライトシールド(後端シールド)膜17と同様の磁性材料により構成されている。このリターンヨーク膜20は、 図6に示されるように、ライトシールド膜17のトレーリング(後端)側において、エアベアリング面70から絶縁膜19上を経由して連結ヨーク20aまで延びており、前方においてライトシールド膜17に連結されていると共に後方において連結ヨーク20aを通じて磁極膜50に連結されている。非磁性膜21は、磁気ヘッドを保護するものであり、例えば、アルミナなどの非磁性絶縁材料により構成されている。
【0057】
図7に示されるWrap−Around構造の実施形態2の構造について説明する。この例では、主磁極膜40の先端部位である記録磁極部40Aの全周を、材料や膜厚は同じであって連続する磁気ギャップ膜41及び上部磁気記録ギャップ膜16によって覆い、その周辺に第1及び第2のライトシールド(15、17)に相当するライトシールド膜15が配置されている。即ち、記録磁極部40Aを、ライトシールド膜15の内部に埋設した構造であり記録磁極部40Aの両側に位置するシールド膜がサイドシールド膜として機能し、上側に位置するシールド膜が、図3〜図6における第2のライトシールド(後端シールド)膜として機能する。なお、Wrap−Around構造については、上記の形態に限定されることなく種々の形態が採択され得る。また、後述の説明からも分かるように、本発明の要部の構成は、Wrap−Around構造のヘッドにのみ適用されるものではない。
【0058】
ところで、先に述べたように、従来の副コイルを用いたマイクロ波アシスト用磁気ヘッドの磁化反転アシストにより有効な10G(Hz)前後、あるいはそれ以上の高周波で副コイルに電流を駆動して磁気記録ギャップから媒体面に平行な面内高周波磁界を発生させるためには、強磁性共鳴周波数fRが充分に高い記録磁極材料と記録素子構造を実現する必要があるが、主コイルの励磁により記録磁極には媒体面に垂直な垂直方向の磁界も印加されているので、強い面内高周波磁界を発生するには主磁極の磁気飽和の影響を避ける必要があること。および、記録磁極材料のfRを更に高めるには、記録磁極のトラック幅方向にバイアス磁界を印加することが可能な記録素子構造を実現する必要があること、という課題があった。
【0059】
図8は、実施形態1および実施形態2におけるマイクロ波アシスト用磁気ヘッドの記録素子部100Bの磁気ヘッド走行方向(Z方向)の断面構造例を示す。
記録素子部は、第1の軟磁性膜で形成される主磁極膜40及び後端(トレイリング)シールド膜17と、主コイル18と、複数の副コイル51とを含んでいる。第1の軟磁性膜で形成される主磁極膜40と後端(トレイリング)シールド膜17との表面にはRu、Rh,Cr,Re、Au、AgまたはPtからなる1〜5(nm)の極薄の非磁性膜52と、第2の軟磁性膜53が積層形成される。第1の軟磁性膜はFeとCoを主成分とし、異方性磁界は5〜30(Oe)、飽和磁束密度は2.2〜2.4(T)である。第2の軟磁性膜はFe、Co、Bを主成分とし、Bの添加量は5〜20(at%),膜面に平行に異方性を持ちその異方性磁界は40〜800(Oe)、飽和磁束密度は2.0〜2.4(T)、膜厚は5〜20(nm)である。第2の軟磁性膜は第1の軟磁性膜に比べて異方性磁界Hkが大きい。大きな異方性磁界は軟磁性膜の強磁性共鳴周波数fRを大きくする効果がある。
【0060】
単数または複数の副コイル51は、主磁極膜40の先端部位である記録磁極部40Aの周辺に、前記主磁極膜40と後端シールド膜17の間に、主磁極膜40と後端(トレイリング)シールド膜17との連結部20a(図6)を取り巻くように、配置されている。ただし、必ずしも巻線である必要はない。
【0061】
主コイル18にデータ系列に対応した記録電流を駆動し、記録磁極部40Aから媒体の垂直方向に記録磁界を印加する。この記録動作により、第1の軟磁性膜で形成される主磁極膜40の先端の記録磁極部40Aは磁気飽和するが、第2の軟磁性膜で形成される記録磁極部40Aは異方性磁界Hkが大きいために磁気飽和せずに線形な磁束応答が可能である。
記録動作と同時に単数あるいは複数の副コイル51に高周波の交流電流を印加し、磁気記録ギャップ16の先端から媒体面に平行な面内方向の高周波磁界が発生する。面内方向の高周波磁界を媒体面に垂直な垂直方向の記録磁界に重畳させ、磁化反転をアシストする。
【0062】
図9は、実施形態1および実施形態2におけるマイクロ波アシスト用磁気ヘッドの主磁極部40のクロストラック方向(X方向)の斜視構造例を示す。第1の軟磁性膜40と第2の軟磁性膜53には、成膜中に外部からトラック幅方向に直流磁界を印加して磁化容易軸54を付与してあるため、Ru、Rh,Cr,Re、Au、AgまたはPtからなる1〜5(nm)の極薄の非磁性膜52を介して反強磁性結合構造が形成される。この結果、第1の軟磁性膜40と第2の軟磁性膜53に循環する閉磁路が形成され、いずれの軟磁性膜にもトラック幅方向にバイアス磁界55が印加される。印加されたバイアス磁界は強磁性共鳴周波数fRを更に高める効果がある。副コイル51に駆動する交流電流の周波数は軟磁性膜の強磁性共鳴周波数fRが上限となるが、軟磁性膜の異方性磁界Hk を大きくするとともに、バイアス磁界を印加することにfR が増加し、副コイルに駆動する交流電流の周波数をより高めることが可能となる。
【0063】
第1の軟磁性膜と第2の軟磁性膜の製膜中に、外部からそのトラック幅方向に直流磁界を印加して磁化容易軸を付与し、非磁性膜を介して反強磁性結合構造を成し、第1の軟磁性膜と第2の軟磁性膜に循環する閉磁路を形成する。この結果、いずれの軟磁性膜にもトラック幅方向にバイアス磁界が印加される。このため第2の磁性膜のfRは更に増大し、副コイルに駆動する高周波電流の周波数を10〜30G(Hz)程度にまで更に高めることが可能となる。
【0064】
主コイルにデータ系列に対応した記録電流を印加すると、主磁極先端の磁極先端部の第1の軟磁性膜は磁気飽和するが、Hkの大きい第2の軟磁性膜は磁気飽和せずに、線形な高周波磁束応答が可能となる。この結果、後端(トレイリング)シールドと磁気記録ギャップの近傍に配置した副コイルに10〜30G(Hz)の高周波電流で駆動しても磁気記録ギャップから1k(Oe)程度の強い面内高周波磁界の発生が可能となり、記録媒体の磁化反転をアシストして高密度記録が実現できる。
【0065】
また第1の軟磁性層と第2の軟磁性層は非磁性層を介して反強磁性結合構造を形成している ため残留磁化状態が安定で、ポールイレージャーやサイドイレーズが軽減される。この結果、記録されたデータの長期安定保持が可能となり、HDDの信頼性が向上する。
【0066】
図10は、実施形態1(図5)におけるABS面から見た構造例を示す。本構造例では、ABS面70からみた主磁極膜の形状は、後端(トレイリング)側を長辺とする台形状になっている。主磁極膜40の先端部位である記録磁極部40Aの媒体対向面側の両側面に、磁気ギャップ膜41を介して、ライトシールド膜15が配置されている。
【0067】
記録磁極部40Aの後端には極薄の非磁性膜52と第2の軟磁性膜53が積層される。極薄の非磁性膜52と第2の軟磁性膜53の積層幅は、記録磁極部40Aの後端幅(図10の台形の長辺側)より大きく、本構造例では、記録媒体の記録トラック幅は記録磁極部40Aの大きいほうの後端幅で決定される。
【0068】
図11は、実施形態1(図5)におけるABS面から見た、別の、構造例を示す。本構造例でも、ABS面70からみた主磁極膜の形状は、後端(トレイリング)側を長辺とする台形状になっている。記録磁極部40Aの後端には極薄の非磁性膜52と第2の軟磁性膜53が積層される。極薄の非磁性膜52と第2の軟磁性膜53の積層幅は、記録磁極部40Aの後端幅より小さく、本構造例では、記録媒体の記録トラック幅は極薄の非磁性膜52と第2の軟磁性膜53の積層幅で決定される。なお、第2の軟磁性膜53の積層幅が、記録磁極部40Aの後端幅と同じ場合でも、同様に記録トラック幅が決定される。
【0069】
実施形態2(図7)の、Wrap−Around構造において、記録磁極部40Aの後端に極薄の非磁性膜52と第2の軟磁性膜53を積層した場合、図10、図11の磁気記録ギャップ膜16が磁気ギャップ膜41に置き換わることで、実施形態2(図7)のような、記録磁極部40Aを、ライトシールド膜15の内部に埋設した構造になる。本構造例においても、記録媒体の記録トラック幅は、前述の図10、図11の場合と同様に決定される。
【0070】
以上、実施形態と、Wrap−Around構造への適用について実施例を示したが、この組み合わせは必ずしも固定的なものではなく、プロセス形態の差異によりその組み合わせを変えることは可能である。
【実施例】
【0071】
図12a,12bは、実施形態1および実施形態2において、膜面の面内方向に加えて膜面の垂直方向にも磁気異方性をもつ第2の軟磁性膜53のFeCoB膜53の製膜例を示す。
【0072】
図12aは、めっき法で製膜後、アニール処理する前の第2の軟磁性膜53のFeCoB膜53のB−H 曲線である。図中の“//O.F.”は膜面の面内方向の磁気異方性ヒステリシス曲線を示し、“⊥O.F.”は膜面の垂直方向の磁気異方性ヒステリシス曲線を示している。このときの、面内方向のHcは33.8(Oe)であり、垂直方向のHcは31.3(Oe)であった。この段階では、まだ膜面の面内方向に加えて膜面の垂直方向にも磁気異方性は付与されていないことがわかる。
【0073】
図12bは、めっき法で製膜後、アニール処理した後の第2の軟磁性膜53のFeCoB膜53のB−H 曲線である。めっき法で製膜後、アニール処理することにより膜面の面内方向に加えて膜面の垂直方向にも磁気異方性を付与することができていることがわかる。すなわち、第2の軟磁性膜53はFe、Co、Bを主成分とし、Bの添加量は5〜20(at%),膜面に平行ならびに垂直方向にも異方性を持ち、その実効異方性磁界は60〜800(Oe)、飽和磁束密度は2.0〜2.4(T)、膜厚は5〜20(nm)である。このときの、面内方向のHcは50.2(Oe)であり、垂直方向のHcは44.1(Oe)であった。配向性が高く、凡そHc≒Hkであり、計算によると、実効異方性磁界Hkeffは ((50.2)2 +(44.1)21/2 =66.8(Oe)となり、前述のアニール処理前の面内だけのHc=33.8(Oe)に比べて、66.8−33.8=33(%)も増大する。本手法は、強磁性共鳴周波数fRを増大するために有効な製造手法である。
【0074】
図13は、実施形態1および2において、第2の軟磁性膜の飽和磁束密度Bsをパラメータに、異方性磁界Hkと強磁性共鳴周波数fRの関係を示す。横軸のHkを100(Oe)以上に増加すると縦軸のfRは急増し、3つのパラメータ曲線で示したBsが大きいほど増加の割合も大きいことがわかる。例えばHkを600(Oe)程度に増大することにより、fRを10G(Hz)前後にまで高めることができる。
【0075】
図14は、実施形態1および2において、第2の軟磁性膜に印加されるバイアス磁界の度合いを表すhをパラメータに、異方性磁界 Hkと強磁性共鳴周波数fRの関係を示す。ここで hは、“h=(HB+Hk)/Hk”と定義される。(HB;バイアス磁界) 図13と同様に横軸のHkを100(Oe)以上に増加すると縦軸のfRは急増し、しかも3つのパラメータ曲線で示したhが大きいほど増加の割合も大きいことがわかる。 HBを増加してh=2.44に高め、さらにHkを800(Oe)程度にまで増大すれば、fRを30G(Hz)前後の高周波にまで高めることができる。
【符号の説明】
【0076】
1 スライダー基体
2 非磁性膜
3 下部リードシールド膜
4 シールドギャップ膜
5 上部リードシールド膜
6 非磁性膜
7 上部リードシールド膜
9 分離膜
10 補助磁極膜
11 非磁性膜
15 第1のライトシールド膜(サイドシールド膜)、第1の軟磁性膜
16 磁気記録ギャップ膜、
17 第2のライトシールド膜(後端シールド膜)、第1の軟磁性膜
18 コイル膜
19 絶縁膜
20 リターンヨーク膜
20a 連結ヨーク
21 非磁性膜
30 上部リードシールド膜
40 主磁極膜、第1の軟磁性膜
40A 記録磁極部
40B ボディ部
41 磁気ギャップ
50 磁極膜
51 副コイル
52 非磁性膜、磁気ギャップ
53 第2の軟磁性膜
54 磁化容易軸
55 内部直流磁界
60 磁性膜
70 ABS(エアベアリング面)
100B 記録素子
100A 再生素子
210 磁気ディスク
211 スピンドルモータ
212 ヘッドジンバルアセンブリ(HGA)
214 アセンブリキャリッジ装置
215 ピボットベアリング軸
216 キャリッジ
217 ボイスコイルモータ(VCM)
218 駆動アーム
219 制御回路
220 ロードビーム
221 フレクシャ
223 ワイヤ
















【特許請求の範囲】
【請求項1】
主磁極と、後端シールドと、前記主磁極に垂直記録磁界を発生するための主コイルと、前記主磁極と後端シールドの間の磁気記録ギャップからマイクロ波帯域の周波数の面内交流磁界を発生するための単数または複数の副コイルを備え、
第1の軟磁性膜により構成される主磁極および後端シールドの磁気ギャップ対向面に非磁性層を形成し、さらにその表面に第2の軟磁性膜を積層し、
前記第2の軟磁性膜は、第1の軟磁性膜の異方性磁界よりも、異方性磁界が大きいことを特徴とするマイクロ波アシスト用磁気ヘッド。
【請求項2】
前記第1の軟磁性膜および第2の軟磁性膜のトラック幅方向に磁化容易軸を付与し、非磁性層を介して反強磁性結合構造を成し、第1の軟磁性膜と第2の軟磁性膜に循環する閉磁路を形成することを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波アシスト用磁気ヘッド。
【請求項3】
前記主磁極の後端に形成された非磁性膜と第2の軟磁性膜のトラック幅方向の積層幅が、主磁極の後端幅より大きいことを特徴とする請求項1から2のいずれかに記載のマイクロ波アシスト用磁気ヘッド。
【請求項4】
前記主磁極の後端に形成された非磁性膜と第2の軟磁性膜のトラック幅方向の積層幅が、主磁極の後端幅の後端幅と同じ、または小さいことを特徴とする請求項1から2のいずれかに記載のマイクロ波アシスト用磁気ヘッド。
【請求項5】
前記主磁極の周囲が連続する磁気ギャップ膜及び磁気記録ギャップ膜により覆われており、その周辺にライトシールド膜が配置されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のマイクロ波アシスト用磁気ヘッド。
【請求項6】
前記主磁極の記録媒体対向面が主磁極の後端側を長辺とする台形状であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のマイクロ波アシスト用磁気ヘッド。
【請求項7】
前記第1の軟磁性膜はFeとCoを主成分とし、異方性磁界は5〜30(Oe)、飽和磁束密度は2.2〜2.4(T)であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のマイクロ波アシスト用磁気ヘッド。
【請求項8】
前記第2の軟磁性膜はFe、Co、Bを主成分とし、Bの添加量は5〜20(at%),膜面に平行に異方性を持ちその異方性磁界は40〜800(Oe)、飽和磁束密度は2.0〜2.4(T)、膜厚は5〜20(nm)であることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載のマイクロ波アシスト用磁気ヘッド。
【請求項9】
前記第2の軟磁性膜はFe、Co、Bを主成分とし、Bの添加量は5〜20(at%),膜面に平行ならびに垂直方向にも異方性を持ち、その異方性磁界は60〜800(Oe)、飽和磁束密度は2.0〜2.4(T)、膜厚は5〜20(nm)であることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載のマイクロ波アシスト用磁気ヘッド。
【請求項10】
前記第1の軟磁性膜の磁気記録ギャップ対向面に形成する非磁性膜の材料はRu、Rh,Cr,Re、Au、AgまたはPtとし、その膜厚が1〜5(nm)であることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載のマイクロ波アシスト用磁気ヘッド。
【請求項11】
TMR素子またはGMR素子のいずれかの磁気抵抗素子を有する再生素子を備えていることを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載のマイクロ波アシスト用磁気ヘッド。
【請求項12】
請求項1から11のいずれかのマイクロ波アシスト用磁気ヘッドを用いた磁気記録方法であって、主コイルにデータ系列に対応した記録電流を駆動して主磁極先端の記録磁極部から記録媒体に垂直記録磁界を発生させると同時に、副コイルにマイクロ波帯域の交流電流を駆動して主磁極と後シールドの磁気ギャップから面内交流磁界を発生させて記録媒体の磁化反転をアシストすることを特徴とする磁気記録方法。
【請求項13】
請求項1から11のいずれかのマイクロ波アシスト用磁気ヘッドを用いた磁気記録方法であって、副コイルに駆動する交流電流の周波数は、記録媒体の強磁性共鳴周波数と等しいか、あるいはこれに近い概ね5〜30G(Hz)の帯域の高周波とし、発生する面内交流磁界は垂直記録磁界より小さいことを特徴とする磁気記録方法。






































【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12a】
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【図12b】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−4152(P2013−4152A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136318(P2011−136318)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】