説明

マイクロ波イオン源、及びイオン生成方法

【課題】マイクロ波イオン源のプラズマチャンバの例えば真空窓を保護する。
【解決手段】マイクロ波イオン源10は、マイクロ波を受け入れるための真空窓24を有するプラズマチャンバ12と、マイクロ波の伝搬方向またはその逆方向を向く磁場を発生させる電磁石20と、永久磁石22と、を含み、電磁石20による磁場と同一方向を向く合成磁場をプラズマチャンバ12に発生させる磁場発生器16と、を備える。永久磁石22は、合成磁場の強度分布のピークを、電磁石20による磁場の強度分布のピークよりも真空窓24に近づけるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波イオン源、及びイオン生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波をプラズマ励起源に用いるイオン源が知られている。真空のプラズマ室にマイクロ波が導入される。プラズマ室に供給された原料ガスがマイクロ波によって励起され、プラズマが発生する。プラズマからイオンが引き出される。イオン源から引き出されたイオンは例えばイオン注入処理のために使用される。また、プラズマ室に電子サイクロトロン共鳴を引き起こすための磁場を印加して、プラズマを効率的に生成する方式も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−339675号公報
【特許文献2】特開昭61−7541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
プラズマはプラズマ室の内壁面に作用しうる。例えば、マイクロ波を室内に受け入れるための壁部分がプラズマによるスパッタを受ける。この部分は通常、真空窓と呼ばれ誘電体から成っている。プラズマによる壁材料の消耗は抑制されることが好ましい。
【0005】
本発明のある態様の例示的な目的のひとつは、マイクロ波イオン源のプラズマチャンバを構成する部分、例えば真空窓へのプラズマの作用を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様は、マイクロ波イオン源である。この装置は、マイクロ波を受け入れるための窓を有するプラズマチャンバと、前記マイクロ波の伝搬方向またはその逆方向を向く磁場を発生させる主磁石と、副磁石と、を含み、前記主磁石による磁場と同一方向を向く合成磁場を前記プラズマチャンバに発生させる磁場発生器と、を備える。前記副磁石は、前記合成磁場の強度分布のピークを、前記主磁石による磁場の強度分布のピークよりも前記窓に近づけるように構成されている。
【0007】
本発明の別の態様は、マイクロ波イオン源である。この装置は、始端からマイクロ波が導入され終端からイオンが引き出されるよう構成されているプラズマチャンバと、前記プラズマチャンバの前記始端から前記終端に向かう方向またはその逆方向を向く第1磁場と、前記終端において前記第1磁場とは逆方向を向く第2磁場と、の合成磁場を発生させる磁場発生器と、を備える。
【0008】
本発明の別の態様は、マイクロ波イオン源を使用するイオン生成方法である。この方法は、プラズマを生成するために、プラズマチャンバの始端からマイクロ波を導入することと、前記プラズマチャンバの前記始端から終端に向かう方向またはその逆方向を向く第1磁場と、前記終端において前記第1磁場とは逆方向を向く第2磁場と、の合成磁場を発生させることと、前記終端からイオンを引き出すことと、を含む。
【0009】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、マイクロ波イオン源のプラズマチャンバの例えば真空窓を保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係るマイクロ波イオン源の構成を模式的に示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るマイクロ波イオン源の要部を示す図である。
【図3】図2に示すマイクロ波イオン源のA−A断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る磁場強度分布を模式的に表す図である。
【図5】一変形例に係るマイクロ波イオン源の要部を示す図である。
【図6】図5に示すマイクロ波イオン源のB−B断面図である。
【図7】一変形例に係る磁場強度分布を模式的に表す図である。
【図8】別の一変形例に係るマイクロ波イオン源の要部を示す図である。
【図9】別の一変形例に係る磁場強度分布を模式的に表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態に係るマイクロ波イオン源は、マイクロ波の伝搬方向に沿ってプラズマチャンバ内部に磁場を印加するよう構成されている。この磁場の強度分布のピークを意図的に変位させることにより、マイクロ波伝搬方向(即ち磁場方向)にプラズマを偏在させることができる。これは、磁場の弱い領域に向けて拡散するというプラズマの性質を利用している。磁場のピークをマイクロ波伝搬方向の上流側に変位させた場合には下流側の磁場が弱められることになる。よって、プラズマは下流側へ向けて拡散する。逆に、磁場のピークをマイクロ波伝搬方向の下流側に変位させた場合には上流側の磁場が弱められ、プラズマは上流側へと拡散することになる。
【0013】
よって、本発明の一実施形態に係るマイクロ波イオン源は、プラズマチャンバに磁場を印加するための主磁石に加えて、副磁石を備えてもよい。副磁石は、主磁石による磁場のピークを変位させた合成磁場を得るために設けられている。副磁石による磁場を主磁石による磁場に重ね合わせることによって、合成磁場のピーク位置が調整される。なお以下では適宜、主磁石による磁場を第1磁場と呼ぶことがあり、副磁石による磁場を第2磁場と呼ぶことがある。よって、第1磁場と第2磁場との合成磁場がプラズマチャンバに生じる。主磁石は、電磁石または永久磁石のいずれかであってもよいし、あるいは電磁石と永久磁石とを含んでもよい。副磁石は、電磁石または永久磁石のいずれかであってもよいし、あるいは電磁石と永久磁石とを含んでもよい。
【0014】
一実施例においては、合成磁場は、以下に述べる3つの機能のうち少なくとも1つを提供してもよい。(1)合成磁場は、高密度プラズマの生成を促進するために、電子サイクロトロン共鳴を引き起こす磁場であってもよい。よく知られるように、電子サイクロトロン共鳴を引き起こす磁場の強さは使用されるマイクロ波の周波数に対し一意に定まり、マイクロ波周波数が2.45GHzの場合には87.5mT(875ガウス)の磁場が必要である。よって、この場合には、合成磁場の強度分布のピークは87.5mT以上である必要がある。電子サイクロトロン共鳴を引き起こす磁場を、以下では共鳴磁場と呼ぶことがある。
【0015】
(2)合成磁場は、生成されたプラズマをプラズマチャンバ内で局所的に集中させるための磁場(いわゆるプラズマの閉じ込めのための磁場)であってもよい。これも高密度プラズマの生成に役立つ。合成磁場はその磁力線に沿ってプラズマを閉じ込める。例えば、合成磁場がマイクロ波の伝搬方向(またはその逆方向)を向く場合には、マイクロ波の伝搬方向に沿ってプラズマ密度の高い領域が形成される。つまりプラズマはプラズマチャンバ内でマイクロ波伝搬方向に沿って延びている。
【0016】
(3)合成磁場は上記のように、プラズマの拡散を促す磁場であってもよい。例えば、合成磁場のピークがプラズマチャンバの一組の対向する壁の間にあり、ピーク位置が一方の壁に近い場合には、その一方の壁における磁場強度が他方の壁における磁場強度よりも強くなる。その結果、磁場の弱い他方の壁へとプラズマが拡散する。プラズマチャンバの一組の対向する壁の間において、合成磁場のピーク位置から離れているほうの壁に向けてプラズマが偏在することになる。
【0017】
プラズマの偏在を利用して、プラズマチャンバの真空窓を保護することができる。プラズマチャンバ内に印加された磁場の強度ピークを真空窓に近づけることにより、真空窓に向かうプラズマの拡散に比べて、真空窓から離れる方向へのプラズマの拡散が強くなる。真空窓近傍でのプラズマ密度が低くなり、真空窓へのプラズマの作用(例えばスパッタ)を抑えることができる。なお同様にして、真空窓以外のプラズマチャンバの内壁部分を保護することも可能である。保護すべき内壁部分に磁場の強度ピークを近づけることにより、その部分へのプラズマの作用を抑えることができる。
【0018】
真空窓から離れる方向へのプラズマの拡散は、イオン源からのイオンビームの引き出しにも都合がよい。イオンビームを引き出すためのビーム引出系は通常、真空窓から離れた位置(例えば、真空窓からプラズマチャンバを挟んで対向する位置)に設けられている。真空窓から離れてビーム引出系の近傍に偏在したプラズマから効率的にイオンを引き出すことができる。それにより、イオンビーム電流を大きくすることができる。
【0019】
プラズマチャンバに印加された磁場の強度ピークを真空窓に近づけるには、例えば2つのアプローチが考えられる。その1つは、真空窓の近傍で磁場を強くすることである。よって、一実施例においては、副磁石は、真空窓における合成磁場の強度を、真空窓における主磁石による磁場(第1磁場)よりも大きくするように構成されていてもよい。
【0020】
もう1つは、真空窓から離れた位置(例えばビーム引出系の近傍)で磁場を弱くすることである。よって、一実施例においては、副磁石は、主磁石による磁場(第1磁場)とは逆方向を向く磁場をプラズマチャンバの終端にて発生させるように構成されていてもよい。この場合、副磁石による磁場(第2磁場)の強度は、合成磁場の向きが主磁石による磁場(第1磁場)と同一方向となるように定められていることが好ましい。それにより、合成磁場の向きがプラズマチャンバの始端と終端とで逆向きとなることを避けることができる。
【0021】
これら2つのアプローチが併用されてもよい。よって、一実施例においては、副磁石は、主磁石による磁場(第1磁場)と同一方向を向く磁場(第2磁場)をマイクロ波の伝搬方向の上流側に発生させてもよい。それとともに、副磁石は、主磁石による磁場(第1磁場)とは逆方向を向く磁場(第2磁場)をマイクロ波の伝搬方向の下流側に発生させるよう構成されていてもよい。すなわち、副磁石は、マイクロ波の伝搬方向に沿って一組の対向磁場を形成するよう構成されていてもよい。この場合にも、合成磁場の向きが主磁石による磁場と同一方向となるように、副磁石による磁場強度が定められていることが好ましい。
【0022】
そのための1つの構成例として、副磁石は、プラズマチャンバに生成されるプラズマを囲むようにマイクロ波伝搬方向に垂直な面に沿って設けられており、内側の磁極がN極(またはS極)であり外側の磁極がS極(またはN極)であってもよい。このようにすれば、比較的簡易な構成で上述の対向磁場を形成することができる。
【0023】
副磁石は、マイクロ波の伝搬方向に主磁石に重なり合う位置に配設されていることが好ましい。このようにすれば、第2磁場の主要部分を第1磁場に重ね合わせることで、第1磁場を効果的に調整することが容易となる。ここで、主要部分とは磁場分布の周縁部分よりも磁場強度の強い部分を指し、例えば山型分布の山頂部分である。周縁部分は例えば山形分布の裾野部分である。仮に、副磁石が主磁石から隔てられている場合には、第2磁場の主要部分が第1磁場から離されて、第2磁場の周縁部分が第1磁場に重ね合わされるかもしれない。その場合、合成磁場のピーク位置は元の第1磁場のピーク位置からさほど変位されない結果となる。
【0024】
なお、本願において「同一方向」または「同方向」は、2つの方向が完全に一致することを必ずしも要しない。要求される役割をある程度果たす限り、それら2つの方向はいくらか異なっていてもよい。同様に、「逆方向」についても、2つの方向が完全な逆向きであることを必ずしも要しない。
【0025】
図1は、本発明の一実施形態に係るマイクロ波イオン源10の構成を模式的に示す図である。図2は、マイクロ波イオン源10の要部を示す図である。図3は、図2に示すマイクロ波イオン源10のA−A断面図である。図3はマイクロ波の入力側からビーム引出側を見たときの図である。図4は、プラズマチャンバ12における磁場強度分布を表す図である。
【0026】
本発明の一実施形態に係るマイクロ波イオン源10は、共鳴磁場よりも高い磁場を印加したプラズマチャンバ12内へ、磁力線方向にマイクロ波電力を入力して高密度プラズマを生成しイオンを引き出すイオン源である。マイクロ波イオン源10は、磁場とマイクロ波との相互作用によって原料ガスのプラズマを生成し、そのプラズマからプラズマチャンバ12の外部へイオンを引き出すように構成されている。
【0027】
マイクロ波イオン源10は、例えばイオン注入装置のためのイオン源に使用される。注入するイオンには例えば酸素がある。また、マイクロ波イオン源10は、プロトン加速器のためのイオン源、またはX線源としても使用され得る。マイクロ波イオン源10は主として、一価イオン源として使用される。
【0028】
マイクロ波イオン源10は、イオン源本体14を備える。イオン源本体14は、プラズマチャンバ12、磁場発生器16、及び真空容器18を備える。
【0029】
プラズマチャンバ12は、両端をもつ筒状の形状を有する。プラズマチャンバ12の一端から他端に向かう方向を以下では便宜上、軸方向と呼ぶことがある。また、軸方向に直交する方向を径方向と呼び、軸方向を包囲する方向を周方向と呼ぶことがある。しかしこれらは、プラズマチャンバ12が回転対称性を有する形状であることを必ずしも意味するものではない。図示の例ではプラズマチャンバ12は円筒形状を有するが、プラズマチャンバ12は、プラズマを適切に収容し得る限り、いかなる形状であってもよい。また、プラズマチャンバ12の軸方向長さは、プラズマチャンバ12の端部の径方向長さより長くてもよいし短くてもよい。
【0030】
磁場発生器16は、プラズマチャンバ12の内部に磁場を発生させるために設けられている。磁場発生器16は、プラズマチャンバ12の軸方向に磁場を発生させるよう構成されている。磁力線方向を図2に矢印Mで示す。磁場発生器16は、電磁石20と永久磁石22とを含む。電磁石20は上述の主磁石の一例であり、永久磁石22は副磁石の一例である。
【0031】
真空容器18は、プラズマチャンバ12を真空環境に収容するための筐体である。真空容器18は、磁場発生器16を保持するための構造体でもある。プラズマチャンバ12は、内部にマイクロ波を受け入れるための真空窓24を有する。プラズマチャンバ12、磁場発生器16、及び真空容器18については、更に詳しく後述する。
【0032】
マイクロ波イオン源10は、マイクロ波供給系26を備える。マイクロ波供給系26は、真空窓24を通じてプラズマチャンバ12にマイクロ波電力を入力するよう構成されている。マイクロ波供給系26は、マイクロ波源28、導波管30、及びマッチングセクション32を備える。マイクロ波源28は例えばマグネトロンである。マイクロ波源28は例えば2.45GHzの周波数のマイクロ波を出力する。導波管30は、マイクロ波源28の出力するマイクロ波をプラズマチャンバ12に伝達するための立体回路である。導波管30の一端はマイクロ波源28に接続されており、他端はマッチングセクション32を介して真空窓24に接続されている。マッチングセクション32はマイクロ波の整合のために設けられている。
【0033】
このようにして、マイクロ波供給系26から真空窓24を通じてプラズマチャンバ12にマイクロ波が導入される。導入されたマイクロ波は、真空窓24に対向するプラズマチャンバ12の端部へ向けてプラズマチャンバ12の内部を伝搬する。マイクロ波の伝搬方向を図2に矢印Pで示す。マイクロ波の伝搬方向Pは、磁場発生器16による磁力線方向Mと同一方向である。また、マイクロ波の伝搬方向Pはプラズマチャンバ12の軸方向と同一方向である。
【0034】
マイクロ波イオン源10は、ガス供給系34を備える。ガス供給系34は、プラズマの原料ガスをプラズマチャンバ12に供給するよう構成されている。ガス供給系34は、ガス源であるガスボンベ36とガス流量制御器38とを備える。原料ガスは例えばアルゴンガスである。原料ガスはイオン注入のための不純物を含有する成分を含んでもよい。ガス供給系34のガス配管40の先端が真空容器18を通じてプラズマチャンバ12に接続されている。ガス配管40は例えば、プラズマチャンバ12の側壁64に接続されている。こうして、原料ガスが、ガスボンベ36からプラズマチャンバ12へと制御された流量で供給される。
【0035】
イオン源本体14は、引出電極系42を備える。引出電極系42は、プラズマチャンバ12のイオン引出開口66を通じてプラズマからイオンを引き出すよう構成されている。引出電極系42は、第1電極44と第2電極46を含む。第1電極44はプラズマチャンバ12と第2電極46との間に設けられている。イオン引出開口66を有する終端部62と第1電極44とは隙間を隔てて配列され、第1電極44と第2電極46とは隙間を隔てて配列されている。第1電極44及び第2電極46は、それぞれ例えば環状に形成されており、プラズマチャンバ12から引き出されたイオンを通すための開口部分を中心部に有する。
【0036】
第1電極44は、プラズマから陽イオンを引き出すとともに、ビームライン52からプラズマチャンバ12への電子の戻りを妨げるために設けられている。そのために、第1電極44には負の高電圧が印加されている。第1電極44に負の高電圧を印加するために、第1引出電源48が設けられている。第2電極46は接地されている。また、真空容器18には正の高電圧が印加されている。真空容器18に正の高電圧を印加するために、第2引出電源50が設けられている。真空容器18に印加される正の高電圧の絶対値は、第1電極44に印加される負の高電圧の絶対値よりも大きい。このようにして、プラズマチャンバ12から陽イオンのイオンビームBが引き出される。プラズマチャンバ12からのイオンビームBの引出方向はマイクロ波の伝搬方向Pと同一方向である。
【0037】
マイクロ波イオン源10には、引出電極系42によって引き出されたイオンビームBを輸送するためのビームライン52が設けられている。ビームライン52は、マイクロ波供給系26とは反対側にイオン源本体14に連結されている。ビームライン52は、真空容器18に連通されている真空容器である。ビームライン52は、イオン源本体14の真空容器18に対し絶縁されて真空容器18に取り付けられている。そのために、ビームライン52と真空容器18の間にブッシング54が設けられている。
【0038】
ブッシング54は、ビームライン52及び真空容器18内の真空を維持しつつ、真空容器18とグラウンド側との間の耐電圧を保持する。ブッシング54は絶縁材料で形成されている。ブッシング54は環状の形状を有し、引出電極系42を囲んでいる。ブッシング54は、ビームライン52及びイオン源本体14それぞれの真空容器の取付フランジ間に挟まれて取り付けられている。
【0039】
真空容器18及びプラズマチャンバ12に真空環境を提供するための真空排気系56が設けられている。図示の例においては真空排気系56はビームライン52に設けられている。ビームライン52は真空容器18及びプラズマチャンバ12に連通されているので、真空排気系56は真空容器18及びプラズマチャンバ12の真空排気をすることができる。真空排気系56は例えばクライオポンプまたはターボ分子ポンプ等の高真空ポンプを含む。
【0040】
マイクロ波イオン源10は、イオンビームBの出力を制御するための制御装置Cを備えてもよい。制御装置Cは、マイクロ波イオン源10の各構成要素を制御する。制御装置Cは、例えば、マイクロ波供給系26、ガス供給系34、コイル電源76の動作を制御するよう構成されている。制御装置Cは例えば、原料ガスの流量、マイクロ波パワー、及び電磁石20による磁場強度の少なくとも1つを調整することにより、イオンビームBの出力を制御してもよい。
【0041】
プラズマチャンバ12は、その内部空間にプラズマを生成し維持するよう構成されている。プラズマチャンバ12の内部空間を以下では、プラズマ収容空間58と呼ぶことがある。
【0042】
プラズマチャンバ12は、始端部60、終端部62、及び側壁64を含む。始端部60と終端部62とはプラズマ収容空間58を挟んで対向している。側壁64はプラズマ収容空間58を囲み、始端部60と終端部62とを接続している。このようにして、始端部60、終端部62、及び側壁64によってプラズマ収容空間58が真空容器18の内部に画定されている。プラズマチャンバ12が円筒形状である場合、始端部60及び終端部62は円板形状であり、側壁64は円筒であり、始端部60及び終端部62の外周部に側壁64の末端が固定されている。
【0043】
始端部60は真空窓24を有する。真空窓24は始端部60の全体を占めていてもよいし、始端部60の一部(例えば中心部)に形成されていてもよい。真空窓24の一方の側がプラズマ収容空間58に面しており、真空窓24の他方の側がマイクロ波供給系26に向けられている。真空窓24はプラズマチャンバ12の内部を真空に封じる。マイクロ波の伝搬方向Pは真空窓24に垂直である。真空窓24は誘電体損の低い誘電体(例えばアルミナまたは窒化ホウ素等)で形成されている。なおプラズマチャンバ12の真空窓24以外の部分は例えば非磁性金属材料で形成されている。
【0044】
終端部62には少なくとも1つのイオン引出開口66が形成されている。イオン引出開口66は、プラズマ収容空間58を挟んで真空窓24に対向する位置に形成されている。すなわち、真空窓24、プラズマ収容空間58、及びイオン引出開口66は、プラズマチャンバ12の軸方向に沿って配列されている。
【0045】
真空容器18は、プラズマチャンバ12が一体に形成された二重の筒構造を有する。すなわち、プラズマチャンバ12が真空容器18の内筒であり、その外側にプラズマチャンバ12を収容する外筒68が設けられている。外筒68はプラズマチャンバ12と同軸の円筒形状であってもよい。外筒68とプラズマチャンバ12の側壁64との間には隙間があり、この隙間に上述のガス供給系34のガス配管40の先端部が進入し側壁64に取り付けられている。真空容器18は例えば非磁性金属材料で形成されている。
【0046】
真空容器18は、プラズマチャンバ12と一体に形成されていなくてもよい。真空容器18とプラズマチャンバ12とがそれぞれ別体であり分割可能であってもよい。また、真空容器18自体がプラズマチャンバ12を成していてもよい。このように真空容器18がプラズマチャンバ12を兼用する場合には、外筒68のビームライン52側にイオン引出開口66を有する端板を取り付ければよい。
【0047】
真空容器18の一端は端板70により閉塞され、他端はビームライン52に向けて開放されている。端板70の中心部にプラズマチャンバ12の始端部60が形成されている。端板70の外周部は径方向に外筒68の外側まで延びている。ビームライン52側の真空容器18の端部には、ブッシング54のための取付フランジ72が設けられている。取付フランジ72は外筒68から径方向に外側に延びている。真空容器18とプラズマチャンバ12とは軸方向長さが等しく、取付フランジ72とプラズマチャンバ12の終端部62とは軸方向位置が一致している。真空容器18とプラズマチャンバ12とは軸方向長さが異なっていてもよい。
【0048】
真空容器18には、磁場発生器16を保持するための磁石保持部74が形成されている。磁石保持部74は例えば、真空容器18の外筒68の外表面に形成されている。本実施例においては磁場発生器16は真空容器18の外側に(即ち大気中に)設けられている。磁場発生器16は真空容器18を取り囲むように配置されている。しかし、別の例では、真空容器18は、磁場発生器16を真空容器18の内部に(即ち真空中に)保持するための磁石保持部74を備えてもよい。この場合にも本例と同様の効果を得ることができる。このようにして、磁場発生器16は、プラズマ収容空間58を包囲するように配置されている。
【0049】
磁場発生器16は上述のように、電磁石20と永久磁石22とを備える。電磁石20及び永久磁石22はプラズマチャンバ12の軸方向に垂直な面に沿って配置されている。電磁石20及び永久磁石22はともにプラズマ収容空間58を包囲するように配置されている。本例においてはプラズマチャンバ12及び真空容器18は円筒形状であり、電磁石20及び永久磁石22はともに環状に形成されている。電磁石20と永久磁石22とは同軸に配置されている。プラズマチャンバ12の中心軸とも電磁石20及び永久磁石22は同軸に配置されている。
【0050】
図示の例においては、電磁石20が永久磁石22を包囲し、永久磁石22が真空容器18(即ちプラズマチャンバ12及びプラズマ収容空間58)を包囲する。しかし、電磁石20と永久磁石22の径方向位置は可換である。よって、永久磁石22が電磁石20を包囲し、電磁石20が真空容器18を包囲してもよい。この場合にも本例と同様の合成磁場を得ることができる。また、図示の例では、電磁石20と永久磁石22とは径方向に密着しているが、電磁石20と永久磁石22とは径方向に分離されていてもよい。
【0051】
電磁石20と永久磁石22とはプラズマチャンバ12の軸方向に重なり合って配設されている。図示の例においては、電磁石20と永久磁石22とが軸方向に同一の位置に配設されている。別の例では、永久磁石22の軸方向位置は電磁石20の軸方向位置からオフセットを有して、電磁石20と永久磁石22とが軸方向に少なくとも一部が重なり合うように配設されていてもよい。電磁石20と永久磁石22とが軸方向に重複または近接している場合には、そうではない場合に比べて、永久磁石22が電磁石20の磁場に与える影響を大きくすることができる。しかし、所望の合成磁場を得られるのであれば、電磁石20と永久磁石22とが必ずしも軸方向に重なり合っていなくてもよい(つまり、電磁石20と永久磁石22とが軸方向に並置され、それぞれがプラズマ収容空間58を包囲していてもよい)。
【0052】
電磁石20は、プラズマチャンバ12の軸方向を向く磁場を発生させるよう構成されたコイルであり、周方向に導線が巻かれている。磁場発生器16は、電磁石20に電流方向Iに電流を流すためのコイル電源76を含む。図2及び図3に示されるように、電磁石20には、マイクロ波入力側から見たときに時計回りに電流が流される。よって、電磁石20によってプラズマチャンバ12に生じる磁場は、図2に矢印Mで示すように、プラズマチャンバ12の始端部60から終端部62へと向けられている。
【0053】
図4はプラズマチャンバ12の中心軸上の磁場分布を模式的に示す。真空窓24及びイオン引出開口66の軸方向位置をそれぞれ符号a、bで示す。図において両端をa、bとする区間がプラズマチャンバ12の軸方向長さを示す。電磁石20による軸方向の磁場強度分布(第1磁場G1)が図4の上部に示されている。図示されるように、電磁石20による磁場は1つのピークP1をもつ対称な分布である。永久磁石22が設けられていない場合にはこの磁場分布がプラズマ収容空間58に現れる。この場合、真空窓24及びイオン引出開口66における磁場強度は等しくかつ磁場分布が対称であるため、生成されたプラズマは軸方向に両側に等しく拡散することになる。
【0054】
永久磁石22は、軸方向に対向する磁場を生成するよう構成されている。磁力線方向を図2に一組の矢印mで示す。すなわち、永久磁石22は、始端部60側に電磁石20と同方向の軸方向磁場を発生させ、終端部62側に電磁石20とは逆方向の軸方向磁場を発生させるよう構成されている。そのために、永久磁石22の磁化方向Dは全周にわたって径方向外向きとされている。すなわち、永久磁石22は、内側の磁極がS極であり、外側の磁極がN極である。永久磁石22の磁場の強さは周方向に均一とされている。
【0055】
永久磁石22は、周方向に配列されている複数の磁石78を含む。各磁石78は周方向に隣接している。各磁石78は同一の磁場強度及び磁化方向Dをもつ。図4の下部に示す合成磁場G3を得るためには、磁化方向Dは電磁石20の電流方向Iに応じて一義に決まる。磁石78の径方向内側の磁極がS極であり、径方向外側の磁極がN極である。磁石78は例えばセグメント磁石またはC型磁石である。つまり、永久磁石22は、1つの環状の磁石を周方向に分割した構成をもつ。図示の例では、永久磁石22は、均等に分割されている12個の磁石により構成されている。
【0056】
効率的に強い磁場を生成するためには永久磁石22は全周に設けられていることが好ましい。しかし、所望の磁場を得られる場合には、永久磁石22は、周方向に互いに分離されて配置されている複数の磁石から構成されていてもよい。この場合例えば、図3に示す12個の磁石78に代えて、1つおきに配置された6個の磁石で永久磁石22を構成してもよい。
【0057】
永久磁石22による軸方向の磁場強度分布(第2磁場G2)を図4の中央に示す。図示されるように、プラズマチャンバ12の中心軸上の磁場は、始端部60側で電磁石20の磁場と同方向であり、終端部62側で電磁石20の磁場と逆方向である。永久磁石22による磁場分布は、始端部60側に1つのピークP2をもち、終端部62側に逆向きのピークP3をもつ。本例においては電磁石20と永久磁石22とで軸方向位置が一致している。そのため、軸線上で永久磁石22の磁場方向が入れ替わり磁場強度がゼロとなる位置Qに、電磁石20による磁場のピークP1の位置が一致している。
【0058】
プラズマチャンバ12の中心軸上の合成磁場G3の強度分布を図4の下部に示す。理解を容易にするために、合成磁場G3を実線で示し、第1磁場G1及び第2磁場G2を破線で示している。破線で示す第1磁場G1及び第2磁場G2は、図4の上部及び中央に示す分布と同一である。
【0059】
図示されるように、第1磁場G1は対称な形状であったのに対して、合成磁場G3の磁場分布は第2磁場G2の重ね合わせにより非対称化されている。具体的には、第1磁場G1のピークP1よりも、合成磁場G3のピークP4は真空窓24(軸方向位置a)に近づけられている。また、真空窓24においては合成磁場G3の強度のほうが第1磁場G1よりも大きくなり、イオン引出開口66(軸方向位置b)においては合成磁場G3の強度のほうが第1磁場G1よりも小さくなっている。なお、真空窓24からイオン引出開口66へ向けてのプラズマの拡散作用をより高めるためには、合成磁場G3のピークP4をなるべく真空窓24に接近させ、好ましくは真空窓24に一致させてもよい。場合によっては、合成磁場G3のピークP4が真空窓24の外側にまで変位されてもよい。
【0060】
第2磁場G2の磁場強度は、プラズマ収容空間58の軸線上の全域で合成磁場G3の向きが第1磁場G1と同一方向となるように定められていることが好ましい。それにより、合成磁場G3の向きがプラズマチャンバ12の始端部60と終端部62とで逆向きとなるのを避けることができる。そのために例えば、永久磁石22は、第2磁場G2の終端部62側のピークP3の磁場強度が当該軸方向位置での第1磁場G1の強度よりも小さくなるように構成されていてもよい。
【0061】
本実施例においては、磁場発生器16は、プラズマチャンバ12の軸線上の少なくとも一部分に共鳴磁場よりも高い磁場を発生させるよう構成されている。そのために、磁場発生器16は、第1磁場G1と第2磁場G2との重ね合わせによって合成磁場G3が共鳴磁場以上の高磁場を与えるように構成されていてもよい。あるいは、磁場発生器16は、第1磁場G1と合成磁場G3のそれぞれが共鳴磁場以上の高磁場を与えるように構成されていてもよい。
【0062】
本発明の一実施形態に係るマイクロ波イオン源10の動作を説明する。マイクロ波イオン源10の動作が停止されているときには、プラズマチャンバ12のプラズマ収容空間58に永久磁石22の静磁場(第2磁場G2)が生じている。この磁場は、図2及び図3に示す磁化方向Dを有する永久磁石22が発生させる図4の中央に示す磁場である。すなわち、プラズマチャンバ12の上流側(始端部60側)には上流から下流へと向けられた磁場が生じており、プラズマチャンバ12の下流側(終端部62側)には逆に下流から上流へと向けられた磁場が生じている。これら対向する一組の磁場は対称である。
【0063】
例えば操作者の操作により(または制御装置Cによる制御のもとで)、マイクロ波イオン源10の動作が開始される。原料ガスがガス供給系34からプラズマチャンバ12に供給される。コイル電源76から電磁石20に電流が供給される。それによってプラズマ収容空間58には、永久磁石22の磁場(第2磁場G2)に電磁石20の磁場(第1磁場G1)が重ね合わされた合成磁場G3が生じる。合成磁場G3は図4の下部に示すように、軸線上における強度ピークが真空窓24に近接(または一致)しており、プラズマチャンバ12の上流側のほうが下流側よりも強められている。真空窓24における合成磁場G3は第1磁場G1よりも強化され、イオン引出開口66における合成磁場G3は第1磁場G1よりも弱められている。合成磁場G3の強度ピークは共鳴磁場以上とされており、本例の場合具体的には87.5mTより大きい。
【0064】
マイクロ波がマイクロ波供給系26から真空窓24を通じてプラズマチャンバ12に導入される。マイクロ波の周波数は本例においては2.45GHzである。マイクロ波はプラズマチャンバ12の軸方向に沿って入射しプラズマ収容空間58を伝搬する。プラズマ収容空間58にはマイクロ波によって、軸方向に垂直な方向に電界が生じる。合成磁場G3は軸方向に向けられており、磁場とマイクロ波の電界とは直交する。
【0065】
マイクロ波によって原料ガスが励起され、プラズマチャンバ12にプラズマが生成される。また、マイクロ波と合成磁場G3との作用によって電子サイクロトロン共鳴が生じ、電子のマイクロ波エネルギーの吸収がより促進される。これによってもプラズマチャンバ12にプラズマが生成される。引出電極系42によってイオン引出開口66を通じてプラズマからイオンが引き出される。引き出されたイオンはビームライン52へと供給される。このようにして、マイクロ波イオン源10を使用するイオン生成方法、またはマイクロ波イオン源10の運転方法が提供される。
【0066】
プラズマは、合成磁場G3の作用により局所的に集中される。磁場が軸方向に向けられているため、プラズマは径方向に閉じ込められる。それにより、プラズマチャンバ12の軸線に沿って延びる領域のプラズマ密度が高められる。プラズマチャンバ12の下流側の磁場が上流側よりも弱められているため、軸線上の高密度プラズマは、プラズマチャンバ12の下流側へと拡散され、真空窓24から離れてイオン引出開口66の近傍に偏在する。このようにして、真空窓24近傍でのプラズマ密度は低下する一方、イオン引出開口66近傍でのプラズマ密度は増加される。
【0067】
よって、本発明の一実施形態に係るマイクロ波イオン源10によれば、真空窓24へのプラズマによるスパッタは緩和され、真空窓24を保護することができる。真空窓24の消耗速度が小さくなり、真空窓24を長寿命化することができる。こうして、マイクロ波イオン源10の真空窓24の保護方法が提供される。
【0068】
また、イオン引出開口66に向けて高密度プラズマを偏在させることができるので、イオンの引き出しが容易となる。マイクロ波イオン源10の出力するイオンビーム電流をより大きくすることができる。
【0069】
永久磁石22は、電磁石20による磁場のピーク強度をかさ上げする補助磁石としても役立っている。結果として得られる合成磁場G3と同等の強度をもつ磁場を電磁石20のみによって発生させる場合に比べて、電磁石20への供給電流を小さくすることができる。それにより、例えばコイル電源76の電流容量を減らすことができる。電磁石20のための絶縁トランスの容量を下げることもできる。こうして電磁石20及びその関連部品を小型化することができる。その結果としてマイクロ波イオン源10の外形も小さくすることができる。
【0070】
図5乃至図7を参照して、マイクロ波イオン源10の一変形例を説明する。この実施例は、合成磁場G3が逆向きであることを除いて、図1乃至図4を参照して説明した上述の実施例と同様である。そのため、以下の説明では同様の箇所については冗長を避けるため説明を適宜省略する。図1乃至図4に付随して説明された各変形例は、以下に述べる実施例にも適宜組み合わせることが可能である。
【0071】
図5は、一変形例に係るマイクロ波イオン源10の要部を示す図である。図6は、図5に示すマイクロ波イオン源10のB−B断面図である。図7は、プラズマチャンバ12における磁場強度分布を模式的に表す図である。
【0072】
図示されるように、本変形例における磁場発生器16の構成は、図1乃至図4の実施例と同一である。磁場発生器16は電磁石20と永久磁石22とを備え、プラズマチャンバ12を包囲して配置されている。電磁石20と永久磁石22とはともにプラズマチャンバ12に同軸に設けられている。
【0073】
図5及び図6に示されるように、電磁石20には、マイクロ波入力側から見たときに反時計回りに電流I’が流される。よって、電磁石20によってプラズマチャンバ12に生じる磁場は、図5に矢印M’で示すように、プラズマチャンバ12の終端部62から始端部60へと向けられている。
【0074】
永久磁石22は、始端部60側に電磁石20と同方向の軸方向磁場を発生させ、終端部62側に電磁石20とは逆方向の軸方向磁場を発生させるよう構成されている。そのために、永久磁石22の磁化方向D’は全周にわたって径方向内向きとされている。すなわち、永久磁石22は、内側の磁極がN極であり、外側の磁極がS極である。永久磁石22は、周方向に分割された複数の磁石78からなり、各磁石78の径方向内側の磁極がN極であり、径方向外側の磁極がS極である。磁力線方向を図2に一組の矢印m’で示す。
【0075】
図7には電磁石20と永久磁石22との合成磁場G3が実線で示されている。電磁石20の磁場(第1磁場G1)及び永久磁石22の磁場(第2磁場G2)は破線で示す。本例においては電磁石20の電流方向及び永久磁石22の磁化方向が反転されているため、図7に示す合成磁場G3は、図4に示す合成磁場G3とは逆向きとなっている。しかし、磁場が真空窓24側では強化されイオン引出開口66側では弱められている点では同様である。よって、この変形例においても、図1乃至図4の実施例と同様の効果を得ることができる。
【0076】
図8及び図9を参照して、マイクロ波イオン源10の更なる一変形例を説明する。この実施例は、主磁石80が複数の電磁石80a、80bを備える点を除いて、図1乃至図4を参照して説明した上述の実施例と同様である。以下の説明では同様の箇所については冗長を避けるため説明を適宜省略する。図1乃至図7を参照して説明した実施例及びそれに付随して説明した各変形例は、以下に述べる実施例にも適宜組み合わせることが可能である。
【0077】
図8は、一変形例に係るマイクロ波イオン源10の要部を示す図である。主磁石80は、マイクロ波の伝搬方向Pに配列された複数の電磁石80a、80bを備える。図示の例においては、2つの電磁石80a、80bがプラズマチャンバ12の軸方向に並置されている。主磁石80はいわば、軸方向に分割されている。複数の電磁石80a、80bはそれぞれが永久磁石22を取り囲んでいる。電磁石80a、80bは永久磁石22に同軸に配設されている。主磁石80の電流方向Iと永久磁石22の磁化方向Dとの組み合わせは、図2及び図3に示す実施例と同じである。図5及び図6に示す反転方向の組み合わせを本例に採用することもできる。
【0078】
図9は、図8に示すプラズマチャンバ12における磁場強度分布を模式的に表す図である。図9には主磁石80と永久磁石22との合成磁場G3を実線で示し、主磁石80の磁場(第1磁場G1)及び永久磁石22の磁場(第2磁場G2)をそれぞれ破線で示す。図9に示す合成磁場G3は図4と同様に、磁場が真空窓24側では強化されイオン引出開口66側では弱められている。よって、この変形例においても、図1乃至図7の実施例と同様の効果を得ることができる。
【0079】
なお、主磁石80による磁場分布は単峰型であり、2つの分割された電磁石80a、80bそれぞれの磁場ピークは明瞭に識別されていない。これは、電磁石80a、80bがヨークに覆われていないからである。この構成により、主磁石80は軸方向に全体的に高磁場を与えることができる。
【0080】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。
【0081】
上述の実施例においては、第1磁場G1を発生させる主磁石として電磁石20が用いられている。しかし、主磁石は永久磁石であってもよい。プラズマチャンバ12に一定の磁場を生成することが望まれる場合には、構成が簡素化されるという点で、主磁石は永久磁石であることが好ましいかもしれない。
【0082】
上述の実施例においては、第2磁場G2を発生させる副磁石として永久磁石22が用いられている。しかし、副磁石は電磁石であってもよい。合成磁場G3を柔軟に調整することが望まれる場合には、副磁石は電磁石であることが好ましいかもしれない。また、上述の実施例においては、副磁石は、真空窓24側の磁場を強める役割とイオン引出開口66側の磁場を弱める役割の両方を果たしている。しかし、本発明はこれに限られず、副磁石は、それら2つの役割の一方を果たすよう構成されていてもよい。この場合においても、副磁石は電磁石でも永久磁石でもよい。
【符号の説明】
【0083】
10 マイクロ波イオン源、 12 プラズマチャンバ、 14 イオン源本体、 16 磁場発生器、 20 電磁石、 22 永久磁石、 24 真空窓、 58 プラズマ収容空間、 60 始端部、 62 終端部、 66 イオン引出開口、 78 磁石。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波を受け入れるための窓を有するプラズマチャンバと、
前記マイクロ波の伝搬方向またはその逆方向を向く磁場を発生させる主磁石と、副磁石と、を含み、前記主磁石による磁場と同一方向を向く合成磁場を前記プラズマチャンバに発生させる磁場発生器と、を備え、
前記副磁石は、前記合成磁場の強度分布のピークを、前記主磁石による磁場の強度分布のピークよりも前記窓に近づけるように構成されていることを特徴とするマイクロ波イオン源。
【請求項2】
前記副磁石は、前記窓における前記合成磁場の強度を、前記窓における前記主磁石による磁場よりも大きくするように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波イオン源。
【請求項3】
前記副磁石は、前記マイクロ波の伝搬方向の上流側に前記主磁石による磁場と同一方向を向く磁場を発生させ、かつ前記マイクロ波の伝搬方向の下流側に前記主磁石による磁場とは逆方向を向く磁場を発生させるよう構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のマイクロ波イオン源。
【請求項4】
前記副磁石は、前記プラズマチャンバに生成されるプラズマを囲むように前記マイクロ波の伝搬方向に垂直な面に沿って設けられており、内側の磁極がN極またはS極であり外側の磁極がS極またはN極であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のマイクロ波イオン源。
【請求項5】
前記副磁石は、前記マイクロ波の伝搬方向に前記主磁石に重なり合う位置に配設されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のマイクロ波イオン源。
【請求項6】
前記主磁石は、前記マイクロ波の伝搬方向に配列された複数の磁石を備えることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のマイクロ波イオン源。
【請求項7】
始端からマイクロ波が導入され終端からイオンが引き出されるよう構成されているプラズマチャンバと、
前記プラズマチャンバの前記始端から前記終端に向かう方向またはその逆方向を向く第1磁場と、前記終端において前記第1磁場とは逆方向を向く第2磁場と、の合成磁場を発生させる磁場発生器と、を備えることを特徴とするマイクロ波イオン源。
【請求項8】
マイクロ波イオン源を使用するイオン生成方法であって、
プラズマを生成するために、プラズマチャンバの始端からマイクロ波を導入することと、
前記プラズマチャンバの前記始端から終端に向かう方向またはその逆方向を向く第1磁場と、前記終端において前記第1磁場とは逆方向を向く第2磁場と、の合成磁場を発生させることと、
前記終端からイオンを引き出すことと、を含むことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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