説明

マイクロ波センサ

【課題】第2の特定周波数の高周波発生用の半導体電子部品を用いて、第2の特定周波数とは異なる第1の特定周波数の電波を出力するマイクロ波センサにおいて、消費電力が低く(省電力)、高性能(高S/N比)なマイクロ波センサを提供する。
【解決手段】24GHzの電波を外部に出力するよう構成されたマイクロ波センサ1であって、24GHzとは異なる10GHzの信号を増幅するのに適して構成されたFET10と、FET10と共に24GHzの信号を増幅及び発振させると共に、発振させた24GHzの信号をFET10から外部に出力するように構成された高周波発振回路12と、を備え、高周波発振回路12は、FET10によって発生された信号のうち、24GHzの信号を増幅及び発振させると共に、10GHzの信号を減衰させるように構成された選択的増幅減衰回路20を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマイクロ波センサに関し、特に出力信号周波数とは異なる周波数に適合された高周波発生用部品を用いて構成したマイクロ波センサに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、日本国内では、民生用機器に対して10GHz帯域の電波が使用可能であるため、10GHz帯域の信号を出力するのに最適化された高周波発生用の半導体チップIC又は半導体電子部品が供給されている。例えば、図6は、このような半導体電子部品の周波数ゲイン特性の一例を示しており、10GHzを中心とした波長範囲(5〜15GHz)において高いゲインを有している。
【0003】
一方、日本及び世界の国々では、24GHz帯域(24.05〜24.25GHz)の電波も民生用機器で使用が可能である。このような24GHz帯の電波センサの周波数ゲイン特性は、図7に示すように、24GHz帯域(24.05〜24.25GHz)でのみ高いゲインを有し、他の周波数帯域では極めて低いゲインを有することが望ましい。
【0004】
しかしながら、24GHz帯域用の半導体電子部品は、特殊な用途で製造されているのみであるので、単価が非常に高く、流通量も極めて少量である。したがって、現在のところ24GHz帯域の電波センサは、市販されている10GHz帯域用の半導体電子部品を利用して開発及び製造する必要がある。
【0005】
10GHz帯域用の半導体電子部品を利用して24GHz帯域の電波センサを製造する場合、高性能、すなわち24GHz帯域で高いS/N比を有するように構成しなければならない。しかしながら、半導体電子部品自体が10GHz帯域用に最適化されているため、図6に示すように、10GHz帯域でゲインが高く、24GHz帯域でゲインが小さい。このため、単に10GHz帯域用の半導体電子部品を使用して、24GHz帯域の信号を発振させるための回路を構成しても、図8に示すようなゲインしか得られない。すなわち、24GHz帯域で得られるゲインに対して、10GHz帯域のゲインが相対的に大きくなってしまう。
【0006】
よって、ノイズ成分である10GHz帯域の電波が大きく、S/N比が低くなってしまう。また、このような、所定強度以上の10GHz帯域の電波は、24GHz帯域の電波センサにとって不要発射(スプリアス発射)であるため除去しなければならない。
【0007】
24GHz帯域の電波センサのS/N比を上げる方法としては、信号成分(24GHz帯域)を増幅する方法と、ノイズ成分(10GHz帯域等)を低減する方法がある。信号成分を増幅する方法では、増幅器等の回路構成を追加することによって、主に信号成分を増幅することが考えられる。また、ノイズ成分を低減する方法としては、出力信号の出力経路途中にノイズカットフィルタを配置することにより、所望の周波数以外のノイズ成分を除去する方法が広く知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−117132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
電波センサの省電力化を考慮しない場合は、上記方法によってS/N比を上げることが一応は可能であると考えられる。一方、電波センサの省電力化を図る場合には、信号成分の必要以上の増幅は回避しなければならないので、ノイズ成分を低減する方法のみを採用することが好ましい。
【0010】
しかしながら、出力経路にノイズカットフィルタを配置すると、ノイズ成分(10GHz帯域等)に加えて所望の信号成分(24GHz帯域)の一部も低減されてしまう。このため、省電力設計において元々低いゲインの電波信号成分が、さらにフィルタによって低減されることになるので、十分に高いS/N比を確保し難いという問題が生じることが分かった。
【0011】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、第2の特定周波数の高周波発生用の半導体電子部品を用いて、第2の特定周波数とは異なる第1の特定周波数の電波を出力するマイクロ波センサにおいて、消費電力が低く(省電力)、高性能(高S/N比)なマイクロ波センサを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決するために、本発明は、第1の特定周波数の電波を外部に出力するよう構成されたマイクロ波センサであって、第1の特定周波数とは異なる第2の特定周波数の信号を増幅するのに適して構成された高周波半導体部品と、高周波半導体部品と共に第1の特定周波数の信号を増幅及び発振させ、発振させた第1の特定周波数の信号を高周波半導体部品から外部に出力するように構成された高周波発振回路と、を備え、高周波発振回路は、高周波半導体部品によって発生された信号のうち、第1の特定周波数の信号を増幅及び発振させると共に、第2の特定周波数帯域の信号を減衰させるように構成された選択的増幅減衰手段を備えたことを特徴としている。
【0013】
10GHz(第2の特定周波数)用の半導体チップIC(高周波半導体部品)を用いて24GHz(第1の特定周波数)のマイクロ波センサを作製する場合、ICが24GHz用の専用部品でないため、24GHzにおいて高性能(高いS/N比)を確保できないという問題が生じる。特にICのゲインが高い10GHz帯域に大きなノイズが発生してしまう。
【0014】
マイクロ波センサの性能(S/N比)を高めるための方法として、信号成分を上げてS/N比を高める方法、又は、ノイズ成分を低減してS/N比を高める方法がある。低い消費電力でS/N比を向上させようとする場合には、ノイズ成分を低減してS/N比を高める方法が好ましい。
【0015】
また、現状、ノイズ成分の低減方法としては、出力通路にノイズカットフィルタを設ける方法が広く知られている。しかしながら、本発明者は、消費電力を抑制しS/N比を向上させようとする場合には、フィルタの設置位置によって、S/N比の向上の度合いが大きく異なることを見出した。すなわち、従来技術の欄に記載したように、出力通路にノイズカットフィルタを設けると、ノイズ成分(10GHz帯域の信号)だけでなく信号成分(24GHzの信号)も低減されてしまい、高いS/N比が得られないことが分かった。
【0016】
本発明は、所望の出力信号の周波数(第1の特定周波数)に適合された専用の高周波発生用半導体チップICを使用することなく、所望の周波数とは異なる第2の特定周波数用の半導体チップICを用いたマイクロ波センサであって、消費電力が低く(省電力)、高性能(高S/N比)なマイクロ波センサを提供することができる。
【0017】
このため、本発明では、選択的増幅減衰手段を備えており、この選択的増幅減衰手段は、半導体チップIC(高周波半導体部品)と協働して第1の特定周波数の信号を増幅及び発振させると共に、この増幅中に、第2の特定周波数帯域の信号を増幅及び発振させずに減衰させるように構成されている。これにより、高周波半導体部品の特性に起因して発振し易い第2の特定周波数帯域の不要な信号を、増幅前に減衰及び除去することができるので、出力通路にノイズカットフィルタを設ける必要がない。このため、第1の特定周波数の信号を減衰させずに外部へ取り出すことができるため、所望の第1の特定周波数の出力信号の出力値が低くても高いS/N比を確保することが可能となる。よって、必要以上に消費電力を費やして所望の信号成分(第1の特定周波数の信号)を増幅することなく、ノイズ成分(第2の特定周波数帯域の信号)を効率的に低減することによって、高性能(高S/N比)なマイクロ波センサを得ることができる。
【0018】
また、本発明において好ましくは、選択的増幅減衰手段は、第1の特定周波数帯域で共振させるために、第1の特定周波数帯域の信号を高周波半導体部品へ向けて反射させるように構成された反射手段と、高周波半導体部品から見て反射手段よりも遠位側で反射手段に接続され、第2の特定周波数帯域の信号を減衰させるように構成された不要電波除去手段と、を備えている。
【0019】
このように構成された本発明によれば、第1の特定周波数(24GHz)の信号は、反射手段によって高周波半導体部品へ向けて反射され、高周波半導体部品に再度入力するので、第1の特定周波数の信号を増幅及び発振させることができる。一方、不要な第2の特定周波数帯域の信号は、第1の特定周波数の信号と分岐して、反射手段よりも遠位側に設けられた不要電波除去手段に入力し、不要電波除去手段により除去される。これにより、不要な第2の特定周波数帯域の信号は、高周波半導体部品に再度入力されることなく、増幅及び発振を抑制することができる。
【0020】
また、本発明において好ましくは、高周波発振回路は、高周波半導体部品からの信号を繰り返し高周波半導体部品へ入力することによって信号を増幅させるように構成されており、高周波半導体部品からの信号が再び高周波半導体部品に戻される前に、選択的増幅減衰手段によって、第2の特定周波数帯域の信号を減衰させるように構成されている。
【0021】
このように構成された本発明によれば、選択的増幅減衰手段を設けることにより、不要な周波数信号が高周波半導体部品に再入力され増幅される前に、不要な周波数信号を除去することが可能となり、効果的にノイズ成分を低減することができる。
【0022】
また、本発明において好ましくは、高周波半導体部品に直流の電圧及び電流を供給する電源部と、高周波半導体部品に供給される電流をグランドに逃がすための接地部と、を更に備え、電源部と接地部の少なくとも一方が、更に不要電波除去手段を備えている。
【0023】
このように構成された本発明によれば、少なくとも電源部と接地部の一方にも不要電波除去手段を設けることにより、高周波半導体部品からの出力信号に含まれる不要な周波数帯域の信号が電源部や接地部に漏えいした場合に、漏えいした信号が高周波半導体部品に入力されることによって増幅されて不要な周波数帯域の信号が増幅してしまうことを抑制することができる。本発明では、高周波半導体部品の端子に接続された電源部や接地部に不要電波除去手段を設けることにより、効果的に不要な周波数帯域の信号を低減することができる。
【0024】
また、本発明において好ましくは、選択的増幅減衰手段の反射手段は、第1の特定周波数に適合されたスタブ回路であり、このスタブ回路に接続された不要電波除去手段は、抵抗と、この抵抗に第2の特定周波数帯域の信号を誘導するように構成された誘導回路と、を備えている。
【0025】
このように構成された本発明によれば、スタブ回路、抵抗及び誘導回路によって、簡単な構成で選択的増幅減衰手段を実現することができるので、低コストで製造可能であり、小型化を図ることが可能であり、且つ省電力で作動可能なマイクロ波センサを提供することができる。
【0026】
また、本発明において好ましくは、第1の特定周波数は、第2の特定周波数より高い周波数に設定されている。
このように構成された本発明によれば、所望の第1の特定周波数を、高周波半導体部品のゲインが最も高い第2の特定周波数より高く設定することにより、第2の特定周波数帯域のノイズ成分を除去するための回路構成の設計を容易にすることができる。
【0027】
また、本発明において好ましくは、第1の特定周波数は、その低調波周波数が、高周波半導体部品の第2の特定周波数と合致しないように決定されている。
このように構成された本発明によれば、第1の特定周波数の低調波周波数が第2の特定周波数と合致しないので、高周波半導体部品のゲイン周波数特性に基づいて発生し易い第2の特定周波数のノイズ成分が、低調波によって増大されることを防止することができ、S/N比の劣化を抑制することが可能である。
【0028】
また、本発明において好ましくは、マイクロ波センサが、屋内用水回り機器に設けられ、使用者による前記水回り機器の使用を判定するためのものである。
屋内用水回り機器では、対象物(使用者)と機器との間の距離(判定距離)が近いため、本発明者は、本発明のマイクロ波センサのように第2の特定周波数の電波出力が低ゲインであっても、好適に利用できることを見出した。
また、屋内の水回り機器へ電力を供給する電源は、場所によっては電源が設置されていない場所があったり、他の機器へも電源供給を行う必要があったりするために、供給電力を確保することが困難である。そこで、本発明のように消費電力が低いマイクロ波センサを用いることにより、屋内用水回り機器で使用される水力発電機程度の電力でも容易にセンサの駆動が可能となり、好適に利用することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、第2の特定周波数の高周波発生用の半導体電子部品を用いて、第2の特定周波数とは異なる第1の特定周波数の電波を出力するマイクロ波センサにおいて、消費電力が低く(省電力)、高性能(高S/N比)なマイクロ波センサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態におけるマイクロ波センサの構成図である。
【図2】本発明の実施形態における発振器2の構成図である。
【図3】本発明の実施形態における増幅器(FET)の増幅作用の説明図である。
【図4】本発明の実施形態におけるFET及び選択的増幅減衰回路の構成図である。
【図5】本発明の実施形態における不要電波除去回路の構成図である。
【図6】本発明の実施形態におけるFETの周波数ゲイン特性である。
【図7】本発明の実施形態におけるマイクロ波センサの所望の周波数ゲイン特性である。
【図8】図6の周波数ゲイン特性を有するFETを用いて構成した比較例に係るマイクロ波センサの周波数ゲイン特性である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
次に、図1乃至図7を参照して、本発明の実施形態によるマイクロ波センサを説明する。本実施形態のマイクロ波センサは、好ましくは屋内用水回り機器用の対象物検知センサに適用されるものである。
図1に示すように、本実施形態のマイクロ波センサ1は、第1の特定周波数帯域である24GHz帯域(24.05〜24.25GHz)の周波数を有する送信信号を発生する発振器2と、発振器2からの送信波(送信信号)を電波として外部へ放射し、対象物(例えば、屋内用水回り機器の利用者)で反射した反射波(受信信号)を受信するアンテナ4と、送信信号及び受信信号を混合し、ドップラー信号を検出するミキサ回路6とを備えている。
【0032】
本実施形態では、発振器2,アンテナ4及びミキサ回路6は、電子回路基板上に一体に形成されている。また、これら発振器2,アンテナ4,ミキサ回路6は、基板上で金属箔等の伝送線路によって電気的に接続されている。
【0033】
本実施形態のマイクロ波センサ1は、電波を用いて対象物の動きを検知するように構成されている。すなわち、アンテナ4から出力される送信波は、第1の特定周波数を有する電波であり、動いている対象物に当たって反射されると、対象物の動きに応じて周波数が変化する。周波数が変化した電波(すなわち、反射波)がアンテナ4で受信される。マイクロ波センサ1内では、周波数の異なる送信波と反射波とがミキサ回路6へ入力され、ミキサ回路6によって、対象物の移動情報を表す検知信号(差分信号)が出力される。マイクロ波センサ1は、この検知信号を外部へ出力する。
【0034】
図2は、本実施形態の発振器2の回路図を示す。発振器2は、FET10と、高周波発振回路12とを備えている。高周波発振回路12は、選択的増幅減衰回路20と、不要電波除去回路30,40と、高周波接地回路50と、DCカットフィルタ60等から構成されている。
【0035】
FET10は、高周波発生用の高周波半導体部品又は半導体チップICであり、図6に示すように、第2の特定周波数(10GHz)の周辺帯域である10GHz帯域(5〜15GHz)でゲインが高くなるように最適化されたものである。したがって、FET10は、本実施形態のマイクロ波センサ1が出力する第1の特定周波数(略24GHz)の周辺帯域である24GHz帯域(24.05〜24.25GHz)の電波の周波数では、ゲインが小さい。
【0036】
このように、FET10は24GHz帯域でのゲインが低いので、FET10を用いて24GHz帯域用のマイクロ波センサを省電力設計により作製しても、24GHz帯域において少ない消費電力では大きな信号出力を得ることは難しい。一方、ノイズ成分(10GHz帯域)は、10GHz帯域でゲインが高いので、ノイズ成分が大きくなるおそれがある。
【0037】
図3に示すように、FET10は、入力Xを、周波数に応じたゲインAで増幅して出力Yを得ることができ、さらにこの増幅作用を帰還回路を用いて繰り返すことにより、所望の周波数の信号を発振させることができる。図4に示すように、FET10は、3つの端子(ゲートG、ドレインD、ソースS)を有している。入力XはゲートGに入力され、出力YはドレインDから出力される。なお、FET10内には、通過回路が形成されており、この通過回路が帰還回路として機能する。通過回路は、ドレインD及びゲートG間のギャップが構成するコンデンサCである。また、通路回路は、ドレインD及びゲートG間に設けた外部通路であってもよい。
【0038】
FET10の増幅作用の概略は以下の通りである。まず、FET10に電源を供給することにより、様々な周波数信号を含んだ信号が発生し、これら信号がゲートGへ流れ、下流の回路(選択的増幅減衰回路20)へ伝送される。次に、後述するように、24GHz帯の信号はゲートGへ戻され、ゲートGへ入力する。ゲートGへ入力した信号は、FET10の増幅作用によって増幅され、出力段であるドレインDから出力される。そして、ドレインDから出力された信号の一部が帰還回路を介して、入力段であるゲートGへ戻る。このように、24GHz帯の信号は、増幅を繰り返すことにより所定の大きさまで増幅され、最終的に、出力段であるドレインDから出力回路へ出力される。
【0039】
入力部であるゲートGには選択的増幅減衰回路20が接続されている。出力部であるドレインDには、電源63(例えば、3VDC)及びアンテナ4への出力回路(DCカットフィルタ60、インピーダンス整合回路61,62、伝送線路)が接続されている。ソースSには、不要電波除去回路40及び高周波接地回路50が接続されている。ソースSは、高周波接地回路50により、24GHz帯域の信号に対して実質的に接地されている。したがって、FET10は、電源63からドレインDを介して給電され、選択的増幅減衰回路20と共に24GHz帯域の信号をゲートGに繰り返し入力させることによって24GHz帯域の信号を増幅し、増幅した出力信号をドレインDから出力回路へ出力するように構成されている。
【0040】
選択的増幅減衰回路20は、反射回路22と、FET10に対して反射回路22の遠位側又は下流側で反射回路22に接続された不要電波除去回路24とを備えている。
反射回路22は、矩形状の伝送線路22aと、伝送線路22aから枝分かれする矩形状の反射スタブ22bから構成されている。本実施形態では、反射スタブ22bは、先端が開放されたオープンスタブである。
【0041】
伝送線路22aは、FET10のゲートGに接続されており、ゲートGから反射スタブ22bまでの長さLaが、24GHzの信号波長λに対して略0.75λに設定されている。24GHzの信号波長λは、24GHzの信号が伝送線路を伝送する際の波長である。また、反射スタブ22bの長さLbは、略0.25λに設定されている。なお、長さLa及びLbは、それぞれ独立に0.25λの奇数倍の長さ(0.25λ×(2n−1)。ただし、n=1,2,3・・・)であってよい。
なお、反射スタブ22bを先端が短絡されたショートスタブで構成する場合は、その長さを、0.5λ×n(ただし、n=1,2,3・・・)とすることができる。
【0042】
このように反射回路22を構成することにより、24GHz帯域の信号が伝送線路22aを下流側(不要電波除去回路24へ向かう方向)へ伝送されると、24GHz帯域の信号は反射スタブ22bと下流側回路との分岐点で、2方向に分割される。反射スタブ22bへ伝送する信号は、反射スタブ22bの端部で同相全反射して分岐点に戻る。
【0043】
分岐点に戻った反射信号は、ゲートGへ向かう方向と下流側回路へ向かう方向との2方向に分かれる。2方向に分かれた反射信号のうち、ゲートGへ向かう反射信号は、FET10へ戻る。ゲートGへ向かう反射信号は、ゲートGから分岐点へ向けて伝送される信号と位相が揃うため、これらは互いに強め合う。一方、分岐点に戻った反射信号のうち、下流側回路へ向かう反射信号は、ゲートGから分岐点を経て下流側へ向けて伝送される信号と打ち消し合う。このため、24GHz帯の信号は、FET10と反射スタブ22bとの間を伝送するが、反射スタブ22bから下流側へは伝送されない。
【0044】
不要電波除去回路24は、反射回路22の下流側に設けられており、誘導回路24aと抵抗24bによって構成されている。
上述のように、FET10が発生する信号には、様々な周波数の信号が含まれるので、ゲートGから分岐点へ向けて伝送される信号には、10GHz帯域の信号も含まれている。10GHz帯域の信号がFET10へ戻されると、10GHz帯域の信号が大きなゲインで増幅されてしまうので、不要電波除去回路24は、主に10GHz帯域の信号を増幅される前に除去するように構成されている。
【0045】
ゲートGから伝送される信号のうち、24GHz帯域の信号を確実にFET10へ戻すためには、反射回路22はゲートGに直結されていることが望ましい。このため、不要電波除去回路24は、反射回路22の後段(下流側)に設けることが望ましい。
また、10GHz帯域の信号は、グランドに流れ込ませるだけではグランド中に保持されてしまうので、熱へエネルギー変換して確実に消費することが望ましい。
【0046】
このため、本実施形態では、主に10GHz帯域の不要な信号を効率的に抵抗24bに引き込むように誘導回路24aが最適化されており、抵抗24bに引き込まれた10GHz帯域の不要な信号は抵抗24bによって熱に変換して除去される。
なお、本実施形態では、ゲート電位を形成するために設けられている抵抗24bを不要電波除去回路の一部として用いているため、装置の大型化を抑制することができる。
【0047】
本実施形態では、不要電波除去回路24に入力した10GHz帯域の信号がFET10へ戻ってこないように構成するため、反射回路22から不要電波除去回路24への接続点において、10GHz帯域における電圧定在波比(VSWR)を小さい値に設定している。具体的には、VSWRが1.4以下であると、10GHz帯域の信号を抵抗24bへ少ない反射で伝送することができる。
【0048】
このため、誘導回路24aは、10GHz帯域において、抵抗24bと反射回路22の端面との間でインピーダンス整合を取るためのインピーダンス整合回路を構成している。具体的には、上述のように、VSWRが1.4以下となるように誘導回路24aを構成している。なお、誘導回路24aは、抵抗24bの素子抵抗値やサイズに応じて適宜に設定される。このように構成することにより、反射回路22から不要電波除去回路24に入力した10GHz帯域の信号は、ほとんどFET10へ反射されることなく、抵抗24bへ伝送され、熱として消費され除去される。しかも、本実施形態では、10GHz帯域の信号を増幅する前に不要電波除去回路24によって除去するので、従来のように、増幅後に、出力経路に配置したノイズカットフィルタによって不要な信号を除去する必要がない。このため、所望の24GHz帯域の信号をノイズカットフィルタによって減衰させてしまうことを防止することができる。
【0049】
図5に示すように、不要電波除去回路30は、電源部を構成しており、FET10の出力部であるドレインDに接続された伝送線路31と、伝送線路31の先端部に接続された反射スタブ32と、伝送線路31の先端部(反射スタブ32の基端部)で矩形状の反射スタブ32と枝分かれする伝送線路33と、電源63へ接続された抵抗34とを備えている。
この不要電波除去回路30は、FET10から出力された24GHz帯域の信号を電源63側へ伝送しないようにすると共に、FET10から出力された10GHz帯域の不要信号を除去するものである。
【0050】
伝送線路31は、24GHzの信号波長λに対して略0.25λの奇数倍の長さLc(0.25λ×(2n−1)。ただし、n=1,2,3・・・)に設定されている。
また、反射スタブ32も略0.25λの奇数倍の長さLd(0.25λ×(2n−1)。ただし、n=1,2,3・・・)に設定されている。
【0051】
反射スタブ32の端面は開放面であるため、端部32aはオープン面となる。一方、端部32bは、信号の位相がλ/4ずれるのでショート面となる。さらに、伝送線路31の基端部31aは、端部32bから信号の位相がλ/4ずれるのでオープン面となる。よって、伝送線路31及び反射スタブ32を設けることにより、24GHz帯域の信号にとっては、伝送線路31とFET10との接続面がオープン面になるので、24GHz帯域の信号は、反射スタブ32へ向けて伝送されない。これにより、出力信号である24GHz帯域の信号が電源63側へ伝送され、減衰されてしまうことを抑制することができる。
【0052】
一方、10GHz帯域の信号は、伝送線路31から抵抗34へ向けて伝送し、一部が反射してFET10側へ戻ろうとする。しかしながら、本実施形態では、10GHz帯域の信号が抵抗34ですべて消費(除去)されるように、反射スタブ32の幅Wと、反射スタブ32の基端部に接続された伝送線路33の長さLeが設定されている。
【0053】
すなわち、本実施形態では、反射スタブ32の基端部と伝送線路33がインピーダンス整合回路(誘導回路)を構成している。なお、幅W及び長さLeは、抵抗34の素子抵抗値やサイズに応じて適宜に設定される。これにより、10GHz帯域の信号は、ほとんど反射されることなく、伝送線路31から反射スタブ32及び伝送線路33を介して、抵抗34へ伝送されるため、10GHz帯域の信号を抵抗34で除去することができる。
【0054】
また、不要電波除去回路40は、接地部を構成しており、伝送線路41,反射スタブ42,伝送線路43,抵抗44から構成されている。抵抗44は接地されている。不要電波除去回路40は、接地によりFET10へ供給される電流をグランドに逃がすことができる。不要電波除去回路40は、電源63に接続されずに接地されていることを除けば、不要電波除去回路30と同様であるので説明を省略する。
なお、不要電波除去回路30,40の双方又は一方を設けない構成としてもよい。
【0055】
高周波接地回路50は、24GHz帯域の信号に対して、FET10のソースSを接地するためのものである。本実施形態では、高周波接地回路50は、ソースSに並列に接続された反射スタブ51,52を有している。
【0056】
仮に、すべての周波数の信号についてソースSが接地されるように、高周波接地回路50が設計されると(例えば、ソースSを直接的に接地)、FET10は10GHz帯域の信号を発振し易くなり、高いS/N比の出力信号(24GHz帯域の信号)を得ることができなくなる。
【0057】
したがって、高周波接地回路50は、不要な周波数帯域の信号が発振し難くするために、不要な周波数帯域の信号に対してはグランドとならず、且つ、必要な周波数帯域(24GHz帯域)の信号が発振し易くするために、必要な周波数帯域の信号に対してはグランドとなるような接地構造となっている。
【0058】
また、FET10のドレインDには、インピーダンス整合回路61を介して、DCカットフィルタ60が接続されている。さらに、DCカットフィルタ60は、インピーダンス整合回路62を介して、アンテナ4及びミキサ回路6に接続されている。
DCカットフィルタ60は、電源63によるDC電圧がアンテナ4等へ伝わることを遮断するためのものである。また、DCカットフィルタ60は、24GHz帯域の良好な通過特性を確保するように構成されている。
【0059】
次に、本実施形態のマイクロ波センサ1の作用について説明する。
上述のように電源63から給電されると、FET10は、様々な周波数信号を含んだ信号を発生し、これら信号がゲートGへ流れ、選択的増幅減衰回路20へ伝送される。ここで、10GHz帯域の信号と24GHz帯域の信号に注目すると、これらの信号は、FET10の出力部(ドレインD)から入力部(ゲートG)へ戻されると、選択的増幅減衰回路20を下流方向へ伝送する。
【0060】
そして、反射スタブ22bの分岐箇所において、24GHz帯域の信号と10GHz帯域の信号が2方向へ分岐される。上述のように、24GHz帯域の信号は、反射スタブ22b内へ伝送し、端部で反射され、FET10の入力部へ再入力する、一方、10GHz帯域の信号は、不要電波除去回路24がインピーダンス整合されているので、反射することなく不要電波除去回路24内へ伝送し、不要電波除去回路24によって除去される。
【0061】
ゲートGへ戻された24GHz帯域の信号は、FET10によって増幅され、ドレインDから出力されるが、出力された信号の一部が帰還回路を通ってゲートGへ戻され、再び選択的増幅減衰回路20へ伝送される。これにより、24GHz帯域の信号は、反射回路22とFET10とが協働することによって増幅が繰り返され、発振する。所定値まで増幅された24GHz帯域の信号が、FET10の出力部であるドレインDから出力回路を通って、アンテナ4及びミキサ回路6へ伝送される。
【0062】
一方、選択的増幅減衰回路20において、FET10が発生する様々な周波数信号のうち、24GHz帯域以外の信号は、不要電波除去回路24内に伝送し、反射されることなく抵抗bによって熱エネルギーに変換され除去される。すなわち、24GHz帯以外の信号(特に10GHz帯域の信号)は、24GHz帯域の信号の増幅及び発振中において、増幅されることなく、減衰される。
【0063】
このように、本実施形態のマイクロ波センサ1では、FET10の特性上、ゲインが高い不要な周波数帯域の信号(本例では、10GHz帯域の信号)を、増幅した後にノイズカットフィルタによって除去するのではなく、FET10による増幅段階で、24GHz帯域の信号を増幅しつつ、10GHz帯域の信号を増幅させることなく除去している。この構成によって、本実施形態では、省電力で生成した24GHz帯域の信号を、ノイズカットフィルタによって減衰させることなく外部へ出力することが可能である。
【0064】
また、本実施形態では、不要電波除去回路30(反射スタブ32)が電源63とドレインDとの間に設けられているため、FET10のドレインDから出力した24GHz帯域の出力信号は、ドレインDに接続された電源63へ向けて伝送することが防止され、これにより出力信号の減衰が抑制される。一方、24GHz帯以外の不要信号(特に10GHz帯域の信号)が不要電波除去回路30へ漏えいした場合、不要信号を不要電波除去回路30によって減衰させることができる。
【0065】
本実施形態では、このように構成することにより、ドレインDから出力段へ出力された信号に含まれる10GHz帯域の不要な信号を、24GHz帯域の信号が通過しない回路内で減衰させることができる。
【0066】
また、本実施形態では、24GHz帯域に適した高周波接地回路50がグランドとソースSとの間に設けられているため、24GHz帯域の信号を効率的に発振させることができる。一方、ソースSとグランドとの間には、不要電波除去回路40が設けられているため、24GHz帯以外の不要信号(特に10GHz帯域の信号)が不要電波除去回路40へ漏えいした場合、不要信号を不要電波除去回路40によって減衰させることができる。
本実施形態では、このように構成することにより、ソースSからグランドへ向けて出力された信号に含まれる10GHz帯域の不要な信号を減衰させることができる。
【0067】
本実施形態では、24GHzの低調波のうち、8GHz及び12GHzの低調波は、比較的発生し易いが、FET10のゲインが最も高い10GHzとは周波数が合致せず、10GHzからずれている。これにより、最もゲインが高い周波数におけるノイズ成分が、低調波によって増幅されてしまうことを防止することができる。また、8GHz及び12GHzの低調波は、不要電波除去回路24によって除去できるので、これら低調波がスプリアス発射として外部へ放射されることを抑制することができる。
【0068】
また、本実施形態では、第1の特定周波数(略24GHz)が第2の特定周波数(10GHz)より高い周波数に設定されている。第1の特定周波数は、ゲインが最も高い第2の特定周波数より高いため、第2の特定周波数帯域のノイズ成分を除去するための回路構成の設計を容易にすることができる。
【0069】
本実施形態のマイクロ波センサ1は、屋内用水回り機器用の対象物検知センサに適用することができる。屋内用水回り機器は、例えば、自動水洗器や、トイレの便座機構等であり、マイクロ波センサ1は、使用者の使用を判定するために利用することができる。本実施形態のマイクロ波センサ1は、24GHzの出力電波の強度が微弱であるので、対象物までの判定距離が短い屋内用水回り機器で好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0070】
1 マイクロ波センサ
2 発振器
4 アンテナ
6 ミキサ回路
10 FET(高周波半導体部品)
12 高周波発振回路
20 選択的増幅減衰回路(選択的増幅減衰手段)
22 反射回路(反射手段、スタブ回路)
22a 伝送線路
22b 反射スタブ
24 不要電波除去回路
24b 抵抗
24a 誘導回路
30,40 不要電波除去回路
31,41 伝送線路
32,42 反射スタブ
33,43 伝送線路
34,44 抵抗
50 高周波接地回路
51,52 反射スタブ
60 カットフィルタ
61,62 インピーダンス整合回路
63 電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の特定周波数の電波を外部に出力するよう構成されたマイクロ波センサであって、
第1の特定周波数とは異なる第2の特定周波数の信号を増幅するのに適して構成された高周波半導体部品と、
前記高周波半導体部品と共に前記第1の特定周波数の信号を増幅及び発振させ、発振させた前記第1の特定周波数の信号を前記高周波半導体部品から外部に出力するように構成された高周波発振回路と、を備え、
前記高周波発振回路は、前記高周波半導体部品によって発生された信号のうち、前記第1の特定周波数の信号を増幅及び発振させると共に、前記第2の特定周波数帯域の信号を減衰させるように構成された選択的増幅減衰手段を備えたことを特徴とするマイクロ波センサ。
【請求項2】
前記選択的増幅減衰手段は、
前記第1の特定周波数帯域で共振させるために、前記第1の特定周波数帯域の信号を前記高周波半導体部品へ向けて反射させるように構成された反射手段と、
前記高周波半導体部品から見て前記反射手段よりも遠位側で前記反射手段に接続され、前記第2の特定周波数帯域の信号を減衰させるように構成された不要電波除去手段と、を備えていることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波センサ。
【請求項3】
前記高周波発振回路は、前記高周波半導体部品からの信号を繰り返し前記高周波半導体部品へ入力することによって信号を増幅させるように構成されており、前記高周波半導体部品からの信号が再び前記高周波半導体部品に戻される前に、前記選択的増幅減衰手段によって、前記第2の特定周波数帯域の信号を減衰させるように構成されていることを特徴とする請求項2に記載のマイクロ波センサ。
【請求項4】
前記高周波半導体部品に直流の電圧及び電流を供給する電源部と、
前記高周波半導体部品に供給される電流をグランドに逃がすための接地部と、を更に備え、
前記電源部と前記接地部の少なくとも一方が、更に不要電波除去手段を備えたことを特徴とする請求項3に記載のマイクロ波センサ。
【請求項5】
前記選択的増幅減衰手段の反射手段は、前記第1の特定周波数に適合されたスタブ回路であり、
このスタブ回路に接続された前記不要電波除去手段は、抵抗と、この抵抗に前記第2の特定周波数帯域の信号を誘導するように構成された誘導回路と、を備えていることを特徴とする請求項3に記載のマイクロ波センサ。
【請求項6】
前記第1の特定周波数は、前記第2の特定周波数より高い周波数に設定されていることを特徴とする請求項5に記載のマイクロ波センサ。
【請求項7】
前記第1の特定周波数は、その低調波周波数が、前記高周波半導体部品の前記第2の特定周波数と合致しないように決定されていることを特徴とする請求項6に記載のマイクロ波センサ。
【請求項8】
前記マイクロ波センサが、屋内用水回り機器に設けられ、使用者による前記水回り機器の使用を判定するためのものであることを特徴とする請求項7に記載のマイクロ波センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−184946(P2012−184946A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−46462(P2011−46462)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】