説明

マイクロ波プラズマ処理装置

【課題】処理対象物の処理対象面の形状によらず、所定の改質処理を施しやすいマイクロ波プラズマ処理装置を提供することを課題とする。
【解決手段】マイクロ波プラズマ処理装置1は、内筒部30と、外筒部31と、内筒部30と外筒部31との間に配置される導波通路33と、導波通路33に連通し軸直方向幅が導波通路33よりも狭いスリット36と、プラズマ生成用ガスをスリット36に供給するガス供給部35と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、略大気圧条件下において、マイクロ波によりプラズマを発生させ、プラズマにより処理対象物に所定の表面改質処理を施すマイクロ波プラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、処理対象物の外周面を改質処理可能なマイクロ波プラズマ処理装置が開示されている。同文献記載のマイクロ波プラズマ処理装置は、外筒と、二つの内筒と、を備えている。二つの内筒は、リング状のスリットを介して、軸方向に直列に並んでいる。外筒は、二つの内筒の径方向外側に配置されている。プラズマは、スリット付近に生成する。一方、処理対象物は、二つの内筒の径方向内側を、軸方向に通過する。処理対象物がスリットの径方向内側を通過する際、処理対象物の外周面にプラズマが照射される。プラズマ照射により、当該外周面に所定の改質処理が施される。
【0003】
同文献記載のマイクロ波プラズマ処理装置によると、筒状、柱状の処理対象物の外周面に改質処理を施しやすい。しかしながら、フィルム状、板状の処理対象物の平面状の表面に改質処理を施しにくい。
【0004】
この点、特許文献2には、筒状の放電空間を有するプラズマ処理装置が開示されている。同文献記載のプラズマ処理装置は、円柱状の第一電極と、円筒状の第二電極と、円筒状の誘電部材と、を備えている。誘電部材は、第一電極の外周面に環装されている。第二電極は、誘電部材の径方向外側に、所定間隔だけ離間して配置されている。誘電部材と第二電極との間には、放電空間が区画されている。プラズマは、放電空間に生成する。放電空間には、プロセスガスが供給される。放電空間において、プロセスガスは、プラズマにより活性化される。活性化されたプロセスガス(以下、「活性ガス」と称する。)は、プラズマ処理装置の先端から軸方向に噴出される。一方、板状の処理対象物は、プラズマ処理装置の先端に対向して配置されている。当該先端から吹き付けられる活性ガスにより、処理対象物の表面に所定の改質処理が施される。
【0005】
同文献記載のプラズマ処理装置によると、フィルム状、板状の処理対象物の平面状の表面に改質処理を施しやすい。しかしながら、筒状、柱状の処理対象物の外周面に改質処理を施しにくい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−129327号公報
【特許文献2】特開2009−272165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、特許文献1のマイクロ波プラズマ処理装置は外周面専用、特許文献2のプラズマ処理装置は平面状の表面専用である。このため、双方とも汎用性に欠けている。
【0008】
仮に、特許文献1のマイクロ波プラズマ処理装置と、特許文献2のプラズマ処理装置と、の組み合わせを試みても、双方のプラズマ処理装置は、処理の方法が根本的に異なっている。すなわち、特許文献1のマイクロ波プラズマ処理装置は、プラズマ自体を処理対象物に照射することにより、処理対象物に表面改質処理を施している。一方、特許文献2のプラズマ処理装置は、プラズマにより活性化された活性ガスを処理対象物に照射することにより、処理対象物に表面改質処理を施している。このように、特許文献1のマイクロ波プラズマ処理装置がプラズマを処理に「直接」用いているのに対して、特許文献2のプラズマ処理装置はプラズマを処理に「間接的に」用いている。このため、双方のプラズマ処理装置を組み合わせることは困難である。なお、特許文献2のプラズマ処理装置は、直接プラズマを用いない分だけ、高い表面改質効果が得られにくい。
【0009】
本発明のマイクロ波プラズマ処理装置は上記課題に鑑みて完成されたものである。本発明は、処理対象物の処理対象面の形状によらず、所定の改質処理を施しやすいマイクロ波プラズマ処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上記課題を解決するため、本発明のマイクロ波プラズマ処理装置は、内筒部と、該内筒部の軸直方向外側に配置される外筒部と、該内筒部と該外筒部との間に配置され、軸方向にマイクロ波が伝播する導波通路と、該内筒部の軸方向一端と該外筒部の軸方向一端との間に配置され、該導波通路に連通し軸直方向幅が該導波通路よりも狭いスリットと、プラズマ生成用ガスを該スリットに供給するガス供給部と、を備え、略大気圧条件下において、該マイクロ波と該プラズマ生成用ガスとを該スリットに通過させることにより該マイクロ波の電界を集中させ該スリット付近に高電界を形成し、該高電界により該プラズマ生成用ガスを電離させプラズマを生成し、該プラズマを照射することにより処理対象物の処理対象面に所定の改質処理を施すことを特徴とする。ここで、「軸直方向」とは、軸方向に対して略直交する方向をいう。
【0011】
本発明のマイクロ波プラズマ処理装置によると、内筒部の軸方向一端と外筒部の軸方向一端との間にスリットが配置されている。プラズマはスリット付近に生成される。このため、処理対象物の処理対象面をスリット付近に配置し、処理対象面にプラズマを照射することにより、当該処理対象面に所定の改質処理を施すことができる。
【0012】
また、本発明のマイクロ波プラズマ処理装置によると、内筒部の軸方向一端と、外筒部の軸方向一端と、の軸方向位置関係を調整することにより、プラズマの照射方向を調整することができる。
【0013】
すなわち、軸直方向外側または軸直方向内側から見て、内筒部の軸方向一端と、外筒部の軸方向一端と、を軸方向に揃えて配置すると、スリットが軸方向外側だけを向く。このため、プラズマの照射方向を軸方向外側に向けることができる。したがって、処理対象物の処理対象面をスリットの軸方向外側に配置することにより、当該処理対象面に所定の改質処理を施すことができる。
【0014】
また、軸直方向外側または軸直方向内側から見て、内筒部の軸方向一端を、外筒部の軸方向一端に対して、軸方向内側に配置すると、スリットが軸方向外側および軸直方向内側を向く。このため、プラズマの照射方向を軸方向外側および軸直方向内側に向けることができる。したがって、処理対象物の処理対象面をスリットの軸方向外側および軸直方向内側に配置することにより、当該処理対象面に所定の改質処理を施すことができる。また、内筒部の軸方向一端と、外筒部の軸方向一端と、のずれ量を調整することにより、プラズマの照射方向を微調整することができる。
【0015】
反対に、軸直方向外側または軸直方向内側から見て、内筒部の軸方向一端を、外筒部の軸方向一端に対して、軸方向外側に配置すると、スリットが軸方向外側および軸直方向外側を向く。このため、プラズマの照射方向を軸方向外側および軸直方向外側に向けることができる。したがって、処理対象物の処理対象面をスリットの軸方向外側および軸直方向外側に配置することにより、当該処理対象面に所定の改質処理を施すことができる。また、内筒部の軸方向一端と、外筒部の軸方向一端と、のずれ量を調整することにより、プラズマの照射方向を微調整することができる。
【0016】
このように、本発明のマイクロ波プラズマ処理装置によると、内筒部の軸方向一端と、外筒部の軸方向一端と、の軸方向位置関係を調整することにより、プラズマの照射方向を自在に調整することができる。このため、処理対象物の処理対象面の形状によらず、所定の改質処理を施しやすい。
【0017】
また、本発明のマイクロ波プラズマ処理装置によると、プラズマ照射の際、プラズマが電界などにより加速されない。このため、プラズマが処理対象面を荒らしにくい。
【0018】
また、本発明のマイクロ波プラズマ処理装置によると、導波通路よりもスリットの方が軸直方向幅が狭い。このため、マイクロ波を導波通路からスリットに導入する際に、通路断面積が小さくなる。したがって、スリット付近において、マイクロ波の電界強度を高くすることができる。よって、減圧条件下でなくても、言い換えると略大気圧条件下であっても、確実に、プラズマ生成用ガスを電離させることができる。このように、本発明のマイクロ波プラズマ処理装置によると、真空設備が不要である。このため、設備構造が簡単である。
【0019】
また、本発明のマイクロ波プラズマ処理装置によると、マイクロ波は、誘電体基板ではなく、導波通路(空間)を伝播する。このため、誘電体基板は不要である。したがって、本発明のマイクロ波プラズマ処理装置によると、設備構造が簡単になる。
【0020】
また、本発明のマイクロ波プラズマ処理装置によると、特許文献1のマイクロ波プラズマ処理装置と比較して、二つの内筒の位置合わせ(調芯)を行う必要がない。この点においても、設備構造が簡単になる。
【0021】
(1−1)好ましくは、上記(1)の構成において、前記スリットは、前記マイクロ波の波長の倍数(1/2波長、1/4波長を含む)に相当する部分に配置されている構成とする方がよい。
【0022】
本構成によると、定在波による共振現象が起こる部分に、スリットが配置されている。このため、マイクロ波の電界強度を、より高くすることができる。また、マイクロ波の入力電力が小さくても、プラズマを生成することができる。
【0023】
また、本構成によると、特許文献1のマイクロ波プラズマ処理装置と比較して、内筒部、外筒部の軸方向長さを調整することにより、スリットの位置を調整することができる。このため、設備構造が簡単になる。
【0024】
(1−2)好ましくは、上記(1)の構成において、前記外筒部は、前記スリットに向かって縮径するテーパ部を有する構成とする方がよい。本構成によると、マイクロ波の照射領域を小さくすることができる。
【0025】
(1−3)好ましくは、上記(1)の構成において、前記内筒部は、前記スリットに向かって拡径する逆テーパ部を有する構成とする方がよい。本構成によると、マイクロ波の照射領域を大きくすることができる。
【0026】
(2)好ましくは、上記(1)の構成において、前記処理対象面は、前記スリットに対して、相対的に移動可能であり、該スリットは、周方向に無端環状に延在している構成とする方がよい。本構成によると、処理対象面のうち、広い面積を占める部分に対して、一度に処理を施すことができる。このため、処理の効率が向上する。
【0027】
(3)好ましくは、上記(1)または(2)の構成において、前記内筒部と前記外筒部とは、軸直方向断面の外形が互いに略相似形であると共に、略同軸上に配置されている構成とする方がよい。本構成によると、内筒部と外筒部との間に、導波通路を略均等に配置することができる。このため、スリットの位置によりプラズマが不均一になるのを抑制することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によると、処理対象物の処理対象面の形状によらず、所定の改質処理を施しやすいマイクロ波プラズマ処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】第一実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置の透過斜視図である。
【図2】同マイクロ波プラズマ処理装置の前後方向断面図である。
【図3】図2の枠III内の拡大図である。
【図4】第二実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置のスリット付近の拡大断面図である。
【図5】第三実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置のスリット付近の拡大断面図である。
【図6】第四実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置のスリット付近の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明のマイクロ波プラズマ処理装置の実施の形態について説明する。
【0031】
<第一実施形態>
[マイクロ波プラズマ処理装置の構成]
まず、本実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置の構成について説明する。本実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置は、略大気圧(=1.013×10Paあるいは当該圧力付近の圧力)条件下において、処理対象物の平面状の処理対象面に、改質処理を施すものである。
【0032】
図1に、本実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置の透過斜視図を示す。図2に、同マイクロ波プラズマ処理装置の前後方向断面図を示す。図1、図2に示すように、本実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置1は、第一導波管2と、第二導波管3と、を備えている。
【0033】
第一導波管2は、角筒部20と、プランジャー21と、保持部22と、第一導波通路23と、を備えている。角筒部20は、金属製である。角筒部20は、前後方向に延在している。角筒部20の下壁には、内筒部保持孔200が穿設されている。角筒部20の上壁には、外筒部取付孔201が穿設されている。内筒部保持孔200と外筒部取付孔201とは、上下方向に対向している。プランジャー21は、金属製であって、前方から角筒部20に挿入されている。プランジャー21は、前後方向に移動可能である。角筒部20の内部には、第一導波通路23が区画されている。第一導波通路23の前後方向の通路長は、プランジャー21により調整可能である。
【0034】
図2に示すように、マイクロ波電源90はマイクロ波を発生する。パルス発生装置95は、当該マイクロ波の出力を変調する。具体的には、マイクロ波電源90の出力のデューティー比を変化させる。第一導波通路23には、マイクロ波電源90から、入射側のパワーモニタ91→アイソレータ92→反射側のパワーモニタ93→整合器94を介して、マイクロ波が伝播する。
【0035】
保持部22は、金属製であって、下方から上方に向かって尖るテーパ筒状を呈している。保持部22は、角筒部20の下壁上面(内面)から立設されている。保持部22は、内筒部保持孔200の口縁に配置されている。
【0036】
第二導波管3は、内筒部30と、外筒部31と、第二導波通路33と、スペーサー34と、ガス供給部35と、スリット36と、を備えている。第二導波通路33は、本発明の「導波通路」の概念に含まれる。第二導波管3は、第一導波管2に対して、略直角に連なっている。
【0037】
内筒部30は、金属製であって、円筒状を呈している。内筒部30は、上下方向に延在している。内筒部30の下端は、角筒部20の外筒部取付孔201および内筒部保持孔200を貫通している。すなわち、内筒部30の下端は、角筒部20から、下方に突出している。内筒部30の下端付近の外周面は、内筒部保持孔200の内周縁、および保持部22により、固定されている。このように、内筒部30は、角筒部20の下壁に固定されている。
【0038】
外筒部31は、金属製であって、円筒状を呈している。外筒部31は、内筒部30の径方向(軸直方向)外側に配置されている。外筒部31と内筒部30とは、略同軸上に配置されている。外筒部31の下端は、角筒部20の外筒部取付孔201の口縁に取り付けられている。すなわち、外筒部31は、角筒部20の上壁に固定されている。外筒部31には、ガス供給部取付孔310が穿設されている。外筒部31の上部には、下方から上方に向かって尖るテーパ部311が形成されている。
【0039】
スペーサー34は、誘電体(例えば、石英、アルミナなど)製であって、リング状を呈している。スペーサー34は、内筒部30の外周面と、外筒部31の内周面と、の間に介装されている。スペーサー34は、内筒部30と外筒部31とを略同軸上に調芯している。
【0040】
ガス供給部35は、ステンレス鋼製であって管状を呈している。ガス供給部35は、外筒部31のガス供給部取付孔310の口縁に取り付けられている。ガス供給部35の内部には、ヘリウムガスが流れている。ヘリウムガスは、本発明の「プラズマ生成用ガス」の概念に含まれる。
【0041】
第二導波通路33は、外筒部31の内周面と、内筒部30の外周面と、の間に区画されている。すなわち、第二導波通路33を形成する空間は、円筒状を呈している。第二導波通路33は、外筒部取付孔201を介して、第一導波通路23に略直角に連なっている。
【0042】
図3に、図2の枠III内の拡大図を示す。図3に示すように、スリット36は、内筒部30の上端(軸方向一端)と、外筒部31(具体的にはテーパ部311)の上端(軸方向一端)と、の間に配置されている。スリット36は、第二導波通路33と連通している。スリット36は、マイクロ波の波長の倍数(1/2波長、1/4波長含む)に相当する部分に配置されている。スリット36は、周方向に延在するリング状を呈している。スリット36の径方向幅A1は、第二導波通路33の径方向幅A2よりも小さい。径方向外側または径方向内側から見て、内筒部30の上端は、外筒部31の上端に対して、ずれ量A3だけ、下方(軸方向内側)にずれて配置されている。このため、スリット36は、上方および径方向内側を向いている。スリット36の上方および径方向内側には、図3に点線ハッチングで示すように、リング状のプラズマPが生成される。
【0043】
処理対象物80は、フィルム状を呈している。処理対象面800は、平面状を呈している。処理対象面800は、スリット36の上方に配置されている。図2に示すように、処理対象物80は、スリット36に対して、水平方向に移動可能である。
【0044】
[マイクロ波プラズマ処理装置の動き]
次に、本実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置1の表面改質処理を施す際の動きについて説明する。まず、図2に示すように、マイクロ波電源90をオンにし、マイクロ波を発生する。マイクロ波の出力は、パルス発生装置95により適宜変調される。マイクロ波は、入射側のパワーモニタ91→アイソレータ92→反射側のパワーモニタ93→整合器94を介して、第一導波通路23に導入される。
【0045】
この際、入射側のパワーモニタ91により、発生したマイクロ波の出力をモニタリングする。また、反射側のパワーモニタ93により、反射されたマイクロ波の出力をモニタリングする。また、アイソレータ92により、反射されたマイクロ波の出力を減衰させる。また、整合器94により、マイクロ波の反射量を調整する。
【0046】
次に、マイクロ波は、第一導波通路23から、第二導波通路33に導入される。導入された、マイクロ波は、第二導波通路33を、スペーサー34を貫通しながら、下方から上方に向かって伝播する。続いて、マイクロ波は、スリット36に進入する。ここで、スリット36の通路断面積(径方向断面積)は、第二導波通路33の通路断面積(径方向断面積)と比較して、極めて小さい。このため、第二導波通路33からスリット36に進入する際、マイクロ波の電界強度は、極めて高くなる。
【0047】
一方、ガス供給部35からは、ガス供給部取付孔310を介して、第二導波通路33に、ヘリウムガスが供給される。ヘリウムガスは、マイクロ波と共に、スリット36に進入する。スリット36を通過する際、ヘリウムガスは、スリット36付近に形成されたマイクロ波の高電界により、電離する。そして、スリット36の上方および径方向内側に、プラズマPが生成される。
【0048】
それから、処理対象物80を水平方向に移動させながら、処理対象面800にプラズマPを、あたかも走査するように、連続的に照射する。このようにして、処理対象面800に改質処理が施される。
【0049】
[作用効果]
次に、本実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置1の作用効果について説明する。本実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置1によると、内筒部30の軸方向一端と外筒部31の軸方向一端との間にスリット36が配置されている。プラズマPはスリット36付近に生成される。このため、処理対象物80の処理対象面800をスリット36付近に配置し、処理対象面800にプラズマPを照射することにより、処理対象面800に所定の改質処理を施すことができる。
【0050】
また、本実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置1によると、内筒部30の軸方向一端と、外筒部31の軸方向一端と、の軸方向位置関係を調整することにより、プラズマPの照射方向を調整することができる。また、内筒部30の軸方向一端と、外筒部31の軸方向一端と、のずれ量A3を調整することにより、プラズマPの照射方向を微調整することができる。このように、本実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置1によると、内筒部30の軸方向一端と、外筒部31の軸方向一端と、の軸方向位置関係を調整することにより、プラズマPの照射方向を自在に調整することができる。このため、処理対象物80の処理対象面800の形状によらず、所定の改質処理を施すことができる。
【0051】
また、本実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置1によると、プラズマ照射の際、プラズマPが電界などにより加速されない。このため、プラズマPが処理対象面800を荒らしにくい。
【0052】
また、本実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置1によると、スリット36の径方向幅A1は、第二導波通路33の径方向幅A2よりも小さい。このため、マイクロ波を第二導波通路33からスリット36に導入する際に、通路断面積が小さくなる。したがって、スリット36付近において、マイクロ波の電界強度を高くすることができる。よって、減圧条件下でなくても、言い換えると略大気圧条件下であっても、確実に、プラズマ生成用ガスを電離させることができる。このように、本実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置1によると、真空設備が不要である。このため、設備構造が簡単である。
【0053】
また、本実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置1によると、マイクロ波は、誘電体基板ではなく、第二導波通路33(空間)を伝播する。このため、誘電体基板は不要である。したがって、本実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置1によると、設備構造が簡単になる。
【0054】
また、スリット36は、マイクロ波の波長の倍数(1/2波長、1/4波長を含む)に相当する部分に配置されている。すなわち、定在波による共振現象が起こる部分に、スリット36が配置されている。このため、マイクロ波の電界強度を、より高くすることができる。また、マイクロ波の入力電力が小さくても、プラズマPを生成することができる。
【0055】
また、本実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置1によると、特許文献1のマイクロ波プラズマ処理装置と比較して、内筒部30、外筒部31の軸方向長さを調整することにより、スリット36の位置を調整することができる。このため、設備構造が簡単になる。
【0056】
また、本実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置1によると、外筒部31がスリット36に向かって縮径するテーパ部311を備えている。このため、マイクロ波の照射領域を小さくすることができる。
【0057】
また、本実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置1によると、処理対象面800がスリット36に対して、相対的に移動可能である。並びに、スリット36は、無端環状に延在している。このため、処理対象面800のうち、広い面積を占める部分に対して、一度に改質処理を施すことができる。このため、改質処理の効率が向上する。
【0058】
また、本実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置1によると、内筒部30と外筒部31とは、径方向断面の外形が互いに略相似形であり、略同軸上に配置されている。このため、内筒部30と外筒部31との間に、第二導波通路33を略均等に配置することができる。したがって、スリット36の周方向位置によりプラズマPが不均一になるのを抑制することができる。
【0059】
<第二実施形態>
本実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置と、第一実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置との相違点は、処理対象物が長軸円筒状を呈している点である。ここでは、相違点についてのみ説明する。
【0060】
図4に、本実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置のスリット付近の拡大断面図を示す。なお、図3と対応する部位については、同じ符号で示す。図4に示すように、処理対象物80は、長軸円筒状を呈している。処理対象物80は、内筒部30の径方向内側を、下方から上方に向かって通過する。処理対象物80がスリット36の径方向内側を通過する際、処理対象面800にプラズマPが照射される。この際、処理対象面800に全周的に同時に改質処理が施される。
【0061】
本実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置と、第一実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置とは、構成が共通する部分に関しては、同様の作用効果を有する。本実施形態のように、長軸円筒状(または長軸円柱状)の処理対象物80を内筒部30の径方向内側に挿通し、外周面である処理対象面800に、連続的に改質処理を施してもよい。
【0062】
<第三実施形態>
本実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置と、第一実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置との相違点は、外筒部が直管状を呈している点である。並びに、内筒部が逆テーパ部を備えている点である。ここでは、相違点についてのみ説明する。
【0063】
図5に、本実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置のスリット付近の拡大断面図を示す。なお、図3と対応する部位については、同じ符号で示す。図5に示すように、外筒部31は直管状を呈している。また、内筒部30の上部には、下方から上方に向かって拡がる逆テーパ部301が形成されている。
【0064】
スリット36は、内筒部30(具体的には逆テーパ部301)の上端(軸方向一端)と、外筒部31の上端(軸方向一端)と、の間に配置されている。スリット36は、第二導波通路33と連通している。スリット36は、周方向に延在するリング状を呈している。スリット36の径方向幅A1は、第二導波通路33の径方向幅A2よりも小さい。径方向外側または径方向内側から見て、内筒部30の上端は、外筒部31の上端に対して、ずれ量A3だけ、上方(軸方向外側)にずれて配置されている。このため、スリット36は、上方および径方向外側を向いている。スリット36の上方および径方向外側には、図5に点線ハッチングで示すように、リング状のプラズマPが生成される。
【0065】
本実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置と、第一実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置とは、構成が共通する部分に関しては、同様の作用効果を有する。また、本実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置によると、内筒部30がスリット36に向かって拡径する逆テーパ部301を備えている。このため、マイクロ波の照射領域を大きくすることができる。また、マイクロ波の照射領域を上方および径方向外側に向けることができる。
【0066】
<第四実施形態>
本実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置と、第一実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置との相違点は、内筒部が逆テーパ部を備えている点である。ここでは、相違点についてのみ説明する。
【0067】
図6に、本実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置のスリット付近の拡大断面図を示す。なお、図3と対応する部位については、同じ符号で示す。図6に示すように、外筒部31の上部には、下方から上方に向かって狭まるテーパ部311が形成されている。また、内筒部30の上部には、下方から上方に向かって拡がる逆テーパ部301が形成されている。
【0068】
スリット36は、内筒部30(具体的には逆テーパ部301)の上端(軸方向一端)と、外筒部31(具体的にはテーパ部311)の上端(軸方向一端)と、の間に配置されている。スリット36は、第二導波通路33と連通している。スリット36は、周方向に延在するリング状を呈している。スリット36の径方向幅A1は、第二導波通路33の径方向幅A2よりも小さい。径方向外側または径方向内側から見て、内筒部30の上端と外筒部31の上端とは略面一に揃っている。このため、スリット36は、上方を向いている。スリット36の上方には、図6に点線ハッチングで示すように、リング状のプラズマPが生成される。
【0069】
本実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置と、第一実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置とは、構成が共通する部分に関しては、同様の作用効果を有する。また、本実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置によると、マイクロ波の照射領域を上方に向けることができる。
【0070】
<その他>
以上、本発明のマイクロ波プラズマ処理装置の実施の形態について説明した。しかしながら、実施の形態は上記形態に特に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することも可能である。
【0071】
マイクロ波の周波数は特に限定しない。例えば、300MHz以上3THz以下であればよい。例えば、2.45GHz、915MHzであってもよい。周波数の低いマイクロ波(例えば915MHzのマイクロ波)を用いると、プラズマPのリング径を大径化することができる。このため、マイクロ波プラズマ処理装置1が一度に処理できる面積が広くなる。マイクロ波の発振には、マグネトロン、クライストロン、進行波管、ジャイロトロン、ガンダイオードなどを用いてもよい。マイクロ波の出力のデューティー比は特に限定しない。
【0072】
また、第一導波管2として、同軸ケーブル状の柔軟性を有する導波管を用いてもよい。この場合、固定された処理対象面800に対して、あたかもスプレーガンのように第二導波管3を走査的に移動させ、処理を施してもよい。
【0073】
また、内筒部30と外筒部31とを相対的に変位可能に配置してもよい。こうすると、ずれ量A3を自在に調整することができる。つまり、スリット36の向き(プラズマPの生成位置)を自在に調整することができる。
【0074】
また、内筒部30、外筒部31は、円筒状の他、三角筒状、四角筒状、五角筒状などの角筒状であってもよい。また、内筒部30と外筒部31とが略同軸上に配置されていなくてもよい。
【0075】
また、角筒部20とプランジャー21は、好ましくは、強度を保つために、ステンレス鋼製もしくはアルミ製とする方がよい。また、マイクロ波の反射を小さくするために、角筒部20の内面を、導電率が高い銅や銀などでメッキするとよい。同様に、マイクロ波の反射を小さくするために、プランジャー21のマイクロ波が当たる面を、導電率の高い銅や銀などでメッキするとよい。また、保持部22と内筒部30と外筒部31は、好ましくは、導電率の高い銅やアルミ製とする方がよい。
【0076】
また、上記実施形態においては、プラズマ生成用ガスとして、ヘリウムガスを用いた。しかしながら、ガスの種類は特に限定しない。例えば、アルゴン、ネオン、クリプトンおよびキセノンからなる希ガスや、水素、窒素、酸素等からなる分子性ガスの中から、一種類あるいは二種類以上のガスを適宜選び、選択した当該ガスをプラズマ生成用ガスとしてもよい。また、生成したプラズマを安定させるために、プラズマ生成用ガスに加えて、アセトン等の有機溶剤を気化混入させてもよい。
【0077】
また、プラズマ生成用ガスの流量は特に限定しない。プラズマPが安定して生成する流量であればよい。また、処理対象物80の処理対象面800に対する、プラズマPの照射時間も特に限定しない。例えば、照射時間は、1秒以上30秒以下としてもよい。
【符号の説明】
【0078】
1:マイクロ波プラズマ処理装置、2:第一導波管、3:第二導波管。
20:角筒部、21:プランジャー、22:保持部、23:第一導波通路、30:内筒部、31:外筒部、33:第二導波通路(導波通路)、34:スペーサー、35:ガス供給部、36:スリット、80:処理対象物、90:マイクロ波電源、91:パワーモニタ、92:アイソレータ、93:パワーモニタ、94:整合器、95:パルス発生装置。
200:内筒部保持孔、201:外筒部取付孔、301:逆テーパ部、310:ガス供給部取付孔、311:テーパ部、800:処理対象面。
A1:径方向幅、A2:径方向幅、A3:ずれ量、P:プラズマ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内筒部と、
該内筒部の軸直方向外側に配置される外筒部と、
該内筒部と該外筒部との間に配置され、軸方向にマイクロ波が伝播する導波通路と、
該内筒部の軸方向一端と該外筒部の軸方向一端との間に配置され、該導波通路に連通し軸直方向幅が該導波通路よりも狭いスリットと、
プラズマ生成用ガスを該スリットに供給するガス供給部と、
を備え、
略大気圧条件下において、該マイクロ波と該プラズマ生成用ガスとを該スリットに通過させることにより該マイクロ波の電界を集中させ該スリット付近に高電界を形成し、該高電界により該プラズマ生成用ガスを電離させプラズマを生成し、該プラズマを照射することにより処理対象物の処理対象面に所定の改質処理を施すマイクロ波プラズマ処理装置。
【請求項2】
前記処理対象面は、前記スリットに対して、相対的に移動可能であり、
該スリットは、周方向に無端環状に延在している請求項1に記載のマイクロ波プラズマ処理装置。
【請求項3】
前記内筒部と前記外筒部とは、軸直方向断面の外形が互いに略相似形であると共に、略同軸上に配置されている請求項1または請求項2に記載のマイクロ波プラズマ処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−109875(P2013−109875A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252325(P2011−252325)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)