説明

マイクロ波乾燥・滅菌装置

【課題】自動整合装置と空洞共振板とを共助作用させることにより乾燥効率を向上させるとともに滅菌もできるマイクロ波乾燥・滅菌装置を提供する。
【解決手段】被乾・滅菌処理物にマイクロ波を照射して乾燥・滅菌させるためのマイクロ波乾燥・滅菌装置において、金属製乾燥槽1内に、乾燥処理対象物16を入れるマイクロ波透過材からなる容器15が配置されるとともに、金属製乾燥槽1から反射されるマイクロ波電力を減少させる位置に調整可能な空洞共振板11が配置され、マイクロ波発振器2からマイクロ波を金属製乾燥槽1に導入する導波管3に導波管内のマイクロ波の反射電力に基づいて導波管の特性インピーダンスを調整してマイクロ波発振器2と金属製乾燥槽1とのインピーダンスを整合させる自動整合装置14を配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥または滅菌処理対象物にマイクロ波を照射して乾燥・滅菌させるためのマイクロ波乾燥・滅菌装置に関する。
【背景技術】
【0002】
汚泥、生ごみ、家畜糞尿などの水分を含む乾燥処理対象物にマイクロ波を照射して乾燥させるマイクロ波乾燥装置が知られている。
【0003】
従来、水分を多く含んだ大量の乾燥処理対象物を乾燥槽に入れてマイクロ波で乾燥しようとする場合、その上面のみからマイクロ波が侵入するので不均等加熱となって内部や下部では低温であるのに上部では過熱による焼け焦げが生じてしまう問題があった。
【0004】
さらにこの場合、乾燥処理対象物の上面からマイクロ波が侵入して上部の加熱乾燥が進み、乾燥槽の上部空間の実効的大きさ形状が変化するため、反射されるマイクロ波電力が変動して加熱能率が低下する問題があった。
【0005】
そこで、乾燥処理対象物へのマイクロ波電力の侵入面積を増大させて均等に加熱乾燥することができるとともに、反射されるマイクロ波電力を小さくして加熱効率を向上させることができるマイクロ波乾燥装置が提案された(特許文献1参照)。
【0006】
特許文献1に記載されているマイクロ波乾燥装置は、減圧状態の金属製乾燥槽内に、乾燥処理対象物を入れるマイクロ波透過材からなる容器が配置されるとともに、金属製乾燥槽から反射されるマイクロ波電力を減少させる位置に位置調整可能な空洞共振板が金属製乾燥槽内の上方に配置され、さらに金属製乾燥槽に取り付けられた反射波電力モニターにより測定した反射波が小さくなるようにフィードバック制御によって金属製乾燥槽から反射されるマイクロ波電力を減少させる位置に空洞共振板の上下方向位置を調整する調整装置が配置されている。
【特許文献1】特開2006−343069号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1記載のマイクロ波乾燥装置は、乾燥対象物にマイクロ波を照射する際、空洞共振を維持するために真空排気(20To r r以下)された乾燥槽内に空洞共振板を設置しマイクロ波の反射電力を極小にするようフィードバック制御する手法を採用した。しかしながら、調整装置により機械的に空洞共振板を移動させているために時間遅れが生じることから全乾燥過程に対して完全な空洞共振を維持することができないので、乾燥効率を向上させることが困難であった。
【0008】
そこで、本発明は、自動整合装置と空洞共振板とを共助作用させることにより乾燥効率を向上させるとともに、滅菌もできるマイクロ波乾燥・滅菌装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、被乾・滅菌処理物にマイクロ波を照射して乾燥・滅菌させるためのマイクロ波乾燥・滅菌装置において、金属製乾燥槽内に、乾燥処理対象物を入れるマイクロ波透過材からなる容器が配置されるとともに、金属製乾燥槽から反射されるマイクロ波電力を減少させる位置に調整可能な空洞共振板が配置され、マイクロ波発振器からマイクロ波を金属製乾燥槽に導入する導波管に導波管内のマイクロ波の反射電力に基づいて導波管の特性インピーダンスを調整してマイクロ波発振器と金属製乾燥槽とのインピーダンスを整合させる自動整合装置を配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
前記特許文献1の乾燥装置においては、空洞共振板のみで完全に反射電力を最小に出来れば最良である。しかしながら空洞共振板の位置調整装置が大掛かりになるため、即応性が悪いので時間遅れが発生する。一方、自動整合器は含水率が小さくなって、乾燥度が上がると制御不能になる。本発明は、含水率の高い領域から低い全領域にわたって自動整合器が動作するよう予め空洞共振板の位置を設定しておくことにより、含水率の全領域に対して反射電力を最小にすることができる。また、乾燥の途中で自動整合器の動作範囲を逸脱した場合には空洞共振板を調整し自動整合器の動作範囲に入れることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は本発明のマイクロ波乾燥滅菌装置の全体図、図2は金属製乾燥槽の断面を示す概略図である。
【0012】
図1において、ステンレスなどの金属からなる金属製乾燥槽1にはマイクロ波発振器2が導波管3を介して接続されている。マイクロ波発振器2で発生したマイクロ波は導波管3を通って金属製乾燥槽1に導入される。
【0013】
金属製乾燥槽1は排気管6を介して水溜容器4と排気装置5に接続されている。水溜容器4の入側の排気管6に締切バルブ18が設けられるとともに、排気管6の締切バルブ18の手前から分岐した、排気装置5に通じるバイパス管に締切バルブ17が設けられている。排気装置5により金属製乾燥槽1内の水蒸気を含む空気を吸引し、締切バルブ17,18を開閉することにより、水溜容器4を通して水蒸気を除去して排出したり、あるいは、水溜容器4を通すことなく排気装置5から排気したりする。
【0014】
水溜容器4の内部には凝結器7が設けられている。水冷却装置8と循環ポンプ9により凝結器7により水蒸気を凝結するようにしている。水溜容器4には凝結水を排出できる排水栓4aを設けている。
【0015】
図2において、金属製乾燥槽1は、対象物を乾燥するときは槽内を減圧するために真空排気される。また滅菌処理するときは17,18を閉じ窒素ガス等で1.2〜1.7気圧に加圧保持される。被乾燥・滅菌処理物16は非金属製容器15に収容される。
【0016】
金属製乾燥槽1の上部には開閉可能な蓋10を備え、この蓋10には金属製乾燥槽1内の上方には空洞共振板11が配置され、空洞共振板11の上下方向位置は、金属製乾燥槽1外に配置された空洞共振調整装置12により調整する。
【0017】
空洞共振調整装置12は導波管3に取り付けられた反射波電力モニター13により測定した反射波が小さくなるようにフィードバック制御によって空洞共振板11の位置を調整するように構成されている。この構成により、金属製乾燥槽1内に導入されたマイクロ波電力は、空洞共振板11を上下動させることにより空洞共振状態あるいはこれに近い状態にしてマイクロ波の反射電力を小さくし、入力電力を効率よく吸収させることによって加熱効率を向上させる。
【0018】
なお、金属製乾燥槽1は、金属製乾燥槽内の圧力、温度を測定する圧力計、温度センサーが配置され、真空破壊弁を備えている。
【0019】
導波管3には自動整合装置14が設けられている。入射電力と反射電力のごく一部を取り出し大きさを測定する方向性結合器を備えた反射波電力モニター13により反射電力を測定し、自動整合装置14によりマイクロ波発振器2側と負荷側である金属製乾燥槽1を整合させて、金属製乾燥槽1からの反射を最小にする。
【0020】
図3は自動整合装置の一例を示す概略図である。
【0021】
図3において、導波管3に所定間隔で配設された複数の分岐導波管21が配設されている。本実施例では、4本の分岐導波管A〜Dが設けられている。導波管3内を伝搬するマイクロ波の管内波長をλgとすると、分岐導波管a,b間はλg/4、分岐導波管b,c間は(λg/8)、分岐導波管c,d間はλg/4となっている。分岐導波管3の内部には、分岐導波管内を伝搬するマイクロ波を反射するモータM、Mによって移動可能な短絡板22を備えている。
【0022】
導波管3には導波管内のマイクロ波の電力を検出する検波ダイオード23が設けられている。検波ダイオード23により検出された導波管内のマイクロ波の反射電力に基づいて、制御装置(図示せず)に制御されたモータM、Mが、短絡板22をそれぞれ適当な位置に変化させ、各分岐導波管A〜Dに備えられた短絡板22の位置を調整することにより、導波管3の特性インピーダンスを変化させる。その結果、導波管3の特性インピーダンスが調整されて導波管3の両端に接続されたマイクロ波発振器2と負荷である金属製乾燥槽1とのインピーダンスが整合される。
【実施例1】
【0023】
試験例1
図4は自動整合装置のON−OFFと空洞共振板の調整の有無との組合せによる加熱時間と含水率の関係を示すグラフ、図5は空洞共振調整の相違に対する反射電力の相違を示すグラフである。
【0024】
グラフから、含水率60%以上では反射は殆どないのでどの方式でも差異はない。しかしながら、自動整合装置を設置し、空洞共振板と共助作用させることを図った結果乾燥率を向上させることが可能となった。
【0025】
一方自動整合装置のみでは乾燥の進展に伴い乾燥対象物の誘電率が大幅に変化すること、乾燥対象物の収縮やクラック発生のため通常乾燥前の含水率(約80%)から含水率10%以下の広範囲にわたって制御することは不可能であった。このことから、空洞共振板と共用することが不可欠である。
【実施例2】
【0026】
乾燥槽内を窒素ガス等で1.2〜1.7気圧に加圧しマイクロ波で過熱する。空洞共振板を予め調整して位置を固定する。反射電力は自動整合装置により殆ど零に保持される。乾燥槽内は加熱により蒸発する高温の蒸気で充満し滅菌作用が起きる。表1に実施結果を示す。
【0027】
【表1】

【0028】
この表1から菌は完全に除去されることがわかる。媒体資料として、おから、コーヒー糟等を用いれば注射器等医療廃棄物の滅菌に応用できるので安易な処理手法となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明のマイクロ波乾燥滅菌装置の全体図である。
【図2】金属製乾燥槽の断面を示す概略図である。
【図3】自動整合装置の一例を示す概略図である。
【図4】自動整合装置のON−OFFと空洞共振板の調整の有無との組合せによる加熱時間と含水率の関係を示すグラフである。
【図5】空洞共振調整の相違に対する反射電力の相違を示すグラフである。
【符号の説明】
【0030】
1:金属製乾燥槽 2:マイクロ波発振器
3:導波管 4:水溜容器
4a:排水栓
5:排気装置 6:排気管
7:凝結器 8:水冷却装置
9:循環ポンプ 10:蓋
11:空洞共振板 12:空洞共振調整装置
13:反射波電力モニター 14:自動整合器
15:非金属性容器 16:被乾燥滅菌処理物
17:締切バルブ 18:締切バルブ
21:分岐導波管
22:短絡板
23:検出ダイオード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被乾燥・滅菌処理物にマイクロ波を照射して乾燥・滅菌させるためのマイクロ波乾燥・滅菌装置において、
金属製乾燥槽内に、乾燥または滅菌処理対象物を入れるマイクロ波透過材からなる容器が配置されるとともに、金属製乾燥槽から反射されるマイクロ波電力を減少させる位置に調整可能な空洞共振板が配置され、
マイクロ波発振器からマイクロ波を金属製乾燥槽に導入する導波管に導波管内のマイクロ波の反射電力に基づいて導波管の特性インピーダンスを調整してマイクロ波発振器と金属製乾燥槽とのインピーダンスを整合させる自動整合装置を配置したことを特徴とするマイクロ波乾燥・滅菌装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−71490(P2010−71490A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−236743(P2008−236743)
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年3月19日 財団法人電気学会発行の「平成20年電気学会全国大会講演論文集」に発表
【出願人】(000164438)九州電力株式会社 (245)
【出願人】(505219130)
【Fターム(参考)】