説明

マイクロ波帯磁気駆動機能付の薄膜磁気ヘッドを備えた磁気記録再生装置

【課題】熱を効果的に放出し、電磁波の外部への放射を抑止防止するマイクロ波帯磁気駆動機能付の薄膜磁気ヘッドを備えた磁気記録再生装置を提供する。
【解決手段】金属筐体20内に設けられた、マイクロ波帯共鳴磁界発生手段19bを有する薄膜磁気ヘッドと、書込み信号生成手段と、書込み信号伝送手段と、金属筐体20外に設けられており、マイクロ波発振手段19bと、少なくとも一部が金属筐体20外に設けられた、マイクロ波励振信号伝送手段と、マイクロ波発振手段19bとマイクロ波励振信号伝送手段の金属筐体20外に設けられている部分を覆う金属シールドカバー21を備え、金属シールドカバー21の上板には少なくとも1つの貫通穴21aが形成され、この貫通穴21aの直径dがマイクロ波励振信号の波長(自由空間における波長)をλFRとすると、d<1.84×λFRに規定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁化を熱的に安定させるために大きな保磁力を有する磁気記録媒体に、データ信号を書込むためのマイクロ波帯磁気駆動機能付の薄膜磁気ヘッドを備えた磁気記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスク駆動装置に代表される磁気記録再生装置の高記録密度化に伴い、磁気記録媒体に記録されるディジタル情報のビットセルが微細化され、その結果、いわゆる熱揺らぎによって薄膜磁気ヘッドの読出しヘッド素子から検出される信号が揺らいでS/N(信号対雑音比)が劣化し、最悪の場合、信号が消失することが起こり得る。
【0003】
このため、近年実用化されている垂直磁気記録方式を用いた磁気記録媒体においては、これを構成する記録膜の垂直磁気異方性エネルギーKuを高めることが有効となる。一方、熱揺らぎに対応する熱安定性指数Sは次式で表され、通常50以上が必要であるといわれている、
S=Ku・V/k・T (1)
ここで、Ku:垂直磁気異方性エネルギー、V:記録膜を構成する結晶粒の体積、k:ボルツマン常数、T:絶対温度である。
【0004】
いわゆるStoner−Wohlfarthモデルによれば、記録膜の異方性磁界Hkと保磁力Hcは次式で示され、Kuの増加と共に、保磁力Hcは増加する(ただし、通常の記録膜ではHk>Hc)、
H=Hc=2Ku/Ms (2)
ただし、Ms:記録膜の飽和磁化である。
【0005】
所期のデータ系列に対応した記録膜の磁化反転を行うには、薄膜磁気ヘッドの書込みヘッド素子は、最大でその記録膜の異方性磁界Hk程度の急峻な記録磁界を印加しなければならない。垂直磁気記録方式を用いて実用化された磁気ディスクドライブ(HDD)装置では、いわゆる単磁極を用いた書込みヘッド素子が用いられ、その浮上面(ABS)の表面から記録膜に垂直方向に記録磁界が印加される。この垂直記録磁界の強度は、単磁極を形成する軟磁性材料の飽和磁束密度Bsに比例するため、この飽和磁束密度Bsのできるだけ高い材料が開発され実用化されている。しかし、飽和磁束密度Bsは、いわゆるSlater−Pauling曲線から、Bs=2.4T(テスラ)が実用的な上限であり、現状は実用的限界に迫っている。また、現用の単磁極の厚さや幅は100〜200nm程度であるが、記録密度を高める場合には、厚さや幅をさらに小さくする必要があり、それに伴って、発生する垂直磁界はより低下してしまう。
【0006】
このように、書込みヘッド素子の記録能力限界から、高密度記録が難しくなっているのが現状である。このため、記録膜をレーザ光などで照射・昇温させ、記録膜の保磁力Hcを下げた状態で信号を記録するいわゆる熱アシスト磁気記録(TAMR:Thermal Assisted Magnetic Recording)方式が提案されている。
【0007】
例えば、特許文献1においては、電子放出源を用いて磁気記録媒体に電子を照射し、磁気記録媒体の記録部を加熱昇温させて保磁力を低下させた上で、磁気記録ヘッドによる磁気的情報の記録を可能としている。また、特許文献2においては、垂直磁気記録用ヘッドの主磁極に接して設けられた近接場光プローブを構成する散乱体に、ヘッド内に設けられた半導体レーザ素子を用いてレーザ光を照射して近接場光を発生させ、この近接場光を磁気記録媒体に及ぼして磁気記録媒体の加熱昇温を図る技術が開示されている。
【0008】
しかしながら、これらの熱アシスト磁気記録方式にも、技術上、種々の困難な点が生じており、問題となっている。
【0009】
例えば、1)磁気素子と光素子とを搭載した薄膜磁気ヘッドが必須となるが、これは、構造が極めて複雑であり、製造コストも高価となってしまう、2)保磁力Hcの温度特性変化の大きい記録膜の開発が必要となる、3)記録過程における熱減磁により、隣接トラック消去や記録状態の不安定性が生じるなど、大きな課題を有している。
【0010】
一方、近年、巨大磁気抵抗効果(GMR)読出しヘッド素子やトンネル磁気抵抗効果(TMR)読出しヘッド素子の高感度化を狙いに、電子伝導におけるスピンの挙動(Spin Transfer)に関する研究が活発になってきており、これを、磁気記録媒体の記録膜の磁化反転に応用し、磁化反転に必要な垂直磁界を低減させようという研究が開始されている(非特許文献1、特許文献3)。
【0011】
この技術は、磁気記録媒体の面内方向に高周波の交流磁界を垂直記録磁界と同時に印加するものであり、面内方向に印加する交流磁界の周波数数は、記録膜の強磁性共鳴周波数に対応するマイクロ波帯の超高周波(数GHz〜10GHz)である。面内方向の交流磁界と垂直記録磁界との同時印加により、垂直方向の所要反転磁界を記録膜の異方性磁界Hkの60%程度に低下させることが可能であるとの解析結果が報告されている。この技術が実用化されれば、構成が複雑なTAMR方式を用いる必要もなく、さらに、記録膜の異方性磁界Hkを高めることが可能になるので、記録密度の大幅な向上が期待される。
【0012】
【特許文献1】特開2001−250201号公報
【特許文献2】特開2004−158067号公報
【特許文献3】特開2007−299460号公報
【非特許文献1】J. Zhu,“Recording Well BelowMedium Coercivity Assisted by Localized Microwave Utilizing Spin Transfer”,Digest of MMM, 2005
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、磁気記録媒体の面内方向に高周波の交流磁界を垂直方向の記録磁界と同時に印加するようにしたこの磁気アシスト磁気記録方式によると、数GHz〜10GHzというマイクロ波帯の信号(マイクロ波励振信号)を薄膜磁気ヘッドへ伝送する構造であるため、磁気ディスク駆動装置に設けられるマイクロ波発振器やその伝送路であるマイクロストリップラインから、電磁波が磁気ディスク駆動装置の外部に放射される可能性がある。
【0014】
このような電磁波の不要輻射に関する規格は幾つか存在している。米国連邦通信委員会(FCC)の定めている規格が、最も高い周波数まで規定している。即ち、40GHzまでの放射レベルについて規格が定められている。この種の規格を満足させるためには、磁気ディスク駆動装置の金属筐体外に存在している部分を金属シールドカバーによって覆うことが最も効果的である。
【0015】
しかしながら、金属シールドカバーによってこれらを完全に覆ってしまうと、内部に存在する部品から放出された熱が内部にこもってしまうという大きな問題が発生し、さらに、磁気ディスク駆動装置の軽量化にも支障が生じる。
【0016】
金属ケース内の発熱を外部に逃したり、軽量化を図るためには、その金属ケースの一部に穴を開けることが行われるが、マイクロ波のシールドケースにおいては、全てを密閉することが一般的でありシールドケースに穴を開けることは非常識であり全く行われていない。その理由は、マイクロ波のように高い周波数帯では、穴自体がアンテナとなって電磁波が外部に再放射されてしまうからである。
【0017】
従って、本発明の目的は、熱を効果的に放出することができると共に電磁波の外部への放射を抑止することができるマイクロ波帯磁気駆動機能付の薄膜磁気ヘッドを備えた磁気記録再生装置を提供することにある。
【0018】
本発明の他の目的は、加熱によることなく、大きな保磁力を有する磁気記録媒体に高精度でデータ信号の書込みを行うことができるマイクロ波帯磁気駆動機能付の薄膜磁気ヘッドを備えた磁気記録再生装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明によれば、
金属筐体と、
金属筐体内に設けられており、磁気記録層を有する磁気記録媒体と、
金属筐体内に設けられており、書込み信号に応じて磁気記録層への書込み磁界を発生する書込み磁界発生手段及びマイクロ波励振信号に応じて磁気記録層の強磁性共鳴周波数F又はその近傍の周波数を有するマイクロ波帯共鳴用磁界を発生させる共鳴磁界発生手段を有する薄膜磁気ヘッドと、
書込み信号を生成する書込み信号生成手段と、
書込み信号生成手段が生成した書込み信号を書込み磁界発生手段へ印加する書込み信号伝送手段と、
金属筐体外に設けられており、マイクロ波励振信号を生成するマイクロ波発振手段と、
少なくとも一部が金属筐体外に設けられており、マイクロ波発振手段が生成したマイクロ波励振信号を共鳴磁界発生手段へ印加するマイクロ波励振信号伝送手段と、
マイクロ波発振手段とマイクロ波励振信号伝送手段の金属筐体外に設けられている部分とを覆う金属シールドカバーと
を備えており、
金属シールドカバーの上板には少なくとも1つの貫通穴が形成されており、この少なくとも1つの貫通穴の直径dがマイクロ波励振信号の波長(自由空間における波長)をλFRとすると、d<1.84×λFRに規定されている、マイクロ波帯磁気駆動機能付の薄膜磁気ヘッドを備えた磁気記録再生装置が提供される。
【0020】
金属シールドカバーに少なくとも1つの貫通穴を設けて放熱及び軽量化を図るように構成するが、その場合の貫通穴の直径dをマイクロ波励振信号の波長(自由空間における波長)をλFRとすると、d<1.84×λFRとなるように規定している。この条件を満足させれば、その貫通穴からのマイクロ波励振信号の再輻射(再放射)を防止させることが可能となる。もちろん、本発明によれば、加熱によることなく、大きな保磁力を有する磁気記録媒体に高精度でデータ信号の書込みを行うことができる。
【0021】
少なくとも1つの貫通穴が複数の貫通穴であり、複数の貫通穴間の間隔Sが、S<λFR/4であることが好ましい。貫通穴が複数の場合、貫通穴間の間隔Sをこのように設定することによって、金属シールドケースの表面導体からのマイクロ波励振信号の再輻射(再放射)を防止させることが可能となる。
【0022】
少なくとも金属シールドカバーによって形成されており、マイクロ波発振手段及びマイクロ波励振信号伝送手段の金属筐体外に設けられている部分が内部に配置されている空洞が直方体形状を有していることも好ましい。この場合、直方体形状の空洞が、金属仕切り板により直方体形状に分割された分割空洞であることがより好ましい。この直方体形状の空洞又は直方体形状の分割空洞における互いに対向する4つの内側壁のうち、長手方向の内側壁間の距離Lが、L<λFR/2であることが好ましい。直方体形状の空洞又は直方体形状の分割空洞の長手方向の内側壁間の距離Lがこの条件を満足する値に設定されることにより、内部での共振を抑止することができるので、共振によるエネルギー吸収を大幅に低減化することができる。
【0023】
書込み信号生成手段と、書込み信号伝送手段の少なくとも一部とが金属筐体外に設けられていることも好ましい。
【0024】
薄膜磁気ヘッドが、媒体対向面を有する基板の素子形成面に形成されており、書込み時に自身の媒体対向面側の端部から書込み磁界を発生する主磁極と、媒体対向面側の端部とは離隔した部分が主磁極と磁気的に接続された補助磁極と、少なくとも主磁極及び補助磁極の間を通過するように形成されており、書込み磁界発生手段及び共鳴磁界発生手段を構成するコイル手段とを有するインダクティブ書込みヘッド素子を備えていることも好ましい。
【0025】
磁気記録媒体の磁気記録層の位置において、書込み磁界が磁気記録層の表層面に垂直又は略垂直な方向を有し、共鳴用磁界が磁気記録層の表層面の面内又は略面内の方向を有するように設定されていることも好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、放熱及び軽量化を図ることができると共に、貫通穴からのマイクロ波励振信号の再放射を防止させることが可能となる。もちろん、本発明によれば、加熱によることなく、大きな保磁力を有する磁気記録媒体に高精度でデータ信号の書込みを行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図面において、同一の構成要素は、同一の参照番号を用いて示されている。また、図面中の構成要素内及び構成要素間の寸法比は、図面の見易さのため、それぞれ任意となっている。
【0028】
図1は本発明による磁気記録再生装置の一実施形態における要部の構成を金属筐体を省略して概略的に示す斜視図であり、図2は図1の磁気記録再生装置について金属筐体及び金属シールドケースを含めて概略的に示す(A)平面図及び(B)側断面図であり、図3は図1の磁気記録再生装置におけるヘッドジンバルアセンブリ(HGA)の部分の断面図である。
【0029】
図1及び図2には磁気記録再生装置として磁気ディスクドライブ装置が示されており、これらの図において、10はスピンドルモータ11によってその回転軸11aの回りを回転する単数又は複数の磁気ディスク、12は磁気ディスク10に対してデータ信号の書込み及び読出しを行うための薄膜磁気ヘッド(磁気ヘッドスライダ)13を各磁気ディスク10の表面に適切に対向させるためのHGA、14は磁気ヘッドスライダ13を磁気ディスク10のトラック上に位置決めするためのアセンブリキャリッジ装置をそれぞれ示している。
【0030】
アセンブリキャリッジ装置14は、ピボットベアリング軸15を中心にして角揺動可能なキャリッジ16と、このキャリッジ16を角揺動駆動する例えばボイスコイルモータ(VCM)17とから主として構成されている。キャリッジ16には、ピボットベアリング軸15の方向にスタックされた単数又は複数の駆動アーム18の基部が取り付けられており、駆動アーム18の先端部にはHGA12が固着されている。なお、図2に示すように、単数の磁気ディスク10、単数の駆動アーム18及び単数のHGA12が磁気記録再生装置に設けられていても良い。
【0031】
図1において、さらに、19は薄膜磁気ヘッド13の書込み及び読出し動作を制御すると共に、後述する強磁性共鳴用のマイクロ波励振信号を制御するための記録再生及び共鳴制御回路を示している。
【0032】
図2に示すように、金属筐体20はこの磁気ディスクドライブ装置の磁気ディスク10、スピンドルモータ11、HGA12、薄膜磁気ヘッド13及びアセンブリキャリッジ装置14等を内部に収容している。記録再生及び共鳴制御回路19は、金属筐体20の外部であるその上面外側に設けられている。ただし、記録再生及び共鳴制御回路19と薄膜磁気ヘッド13とを電気的に接続する配線部材の一部(本発明における書込み信号伝送手段の一部及びマイクロ波励振信号伝送手段の一部に対応)は、金属筐体20の内部に設けられている。
【0033】
記録再生及び共鳴制御回路19は、電子回路プリント配線基板(電子回路PCB)19aとその上に装着された電子回路部品とから主として構成されており、この電子回路PCB19aの特にマイクロ波信号を扱う回路部分、例えばモノリシックマイクロ波集積回路(MMIC)及びインピーダンス整合回路等によって構成されるマイクロ波発振器19b(本発明のマイクロ波発振手段に対応)並びにこのマイクロ波発振器19bに接続された方向性結合器19cの部分(本発明のマイクロ波励振信号伝送手段の一部に対応)は、金属シールドケース21の上面及び側面によって覆われている。ただし、図2の例では、金属シールドケース21の1つの側面が金属筐体20の内壁で代用されている。金属シールドケースが1つの上面と4つの側面とから構成されていても、1つの上面と2つの側面と2つの代用内壁とから構成されていても、1つの上面と1つの側面と3つの代用内壁とから構成されていても良いことは明らかである。
【0034】
金属シールドケース21の上面には、この例では、複数の貫通穴21aが設けられている。この金属シールドケース21の貫通穴の構造等については、後に詳しく説明する。
【0035】
図3に示すように、HGA12は、薄膜磁気ヘッド13と、この薄膜磁気ヘッド13を支持するための金属導電材料によるロードビーム30及びフレクシャ31と、薄膜磁気ヘッド13の書込みヘッド素子に印加される書込み信号及びマイクロ波励振信号を流すための伝送線路である書込みヘッド素子用配線部材32とを備えている。なお、図示されていないが、HGA12は、読出しヘッド素子に定電流を印加して読出し出力電圧を取り出すための読出しヘッド素子用配線部材も設けられている。
【0036】
薄膜磁気ヘッド13、弾性を有するフレクシャ31の一端に取り付けられており、このフレクシャ31とその他端が取り付けられたロードビーム30とによって、薄膜磁気ヘッド13支持するサスペンションが構成されている。
【0037】
書込みヘッド素子用配線部材32は、その多くの部分が上下に接地導体を有するストリップ線路で構成されている。即ち、図3に示すように、下側接地導体を構成するロードビーム30と上側接地導体32aとの間に、例えばポリイミド等の誘電体材料による誘電体層32b及び32cを介して銅(Cu)等による導体線路32dを挟んだ構成となっている。書込みヘッド素子用配線部材32としては、このストリップ線路がロードビーム表面と平行に1対形成されている。ストリップ線路の磁気ヘッド側の先端は、本実施形態では、ワイヤ33を用いたワイヤボンディングによって書込みヘッド素子の端子電極に接続されている。一方、図示されていないが、読出しヘッド素子用配線部材は、通常のリード導体から形成されており、その先端は本実施形態ではワイヤボンディングによって読出しヘッド素子の端子電極に接続されている。ワイヤボンディングを用いることなくボールボンディングによって配線部材と端子電極とを接続するように構成しても良い。
【0038】
図4は本実施形態における薄膜磁気ヘッド13の全体を概略的に示す斜視図であり、図5はこの薄膜磁気ヘッドの書込みコイルの構造を示す斜視図である。
【0039】
図4に示すように、薄膜磁気ヘッド13は、適切な浮上量を得るように加工されたABS40aを有するスライダ基板40と、ABS40aを底面とした際の1つの側面に相当しておりこのABS40aと垂直な素子形成面40bに設けられた磁気ヘッド素子41と、磁気ヘッド素子41を覆うように素子形成面40b上に設けられた被覆部42と、被覆部42の層面から露出している4つの端子電極43、44、45及び46とを備えている。
【0040】
ここで、磁気ヘッド素子41は、磁気ディスクからデータ信号を読出すための磁気抵抗効果(MR)読出しヘッド素子41aと、磁気ディスクにデータ信号を書込むためのインダクティブ書込みヘッド素子41bとから構成されており、端子電極43及び44はMR読出しヘッド素子41aに電気的に接続されており、端子電極45及び46はインダクティブ書込みヘッド素子41bに電気的に接続されている。なお、端子電極43、44、45及び46は、図4に示された位置に限定されるものではなく、この素子形成面40bのどの位置にどのような配列で設けても良いし、また、例えば、ABS40aとは反対側の面におけるスライダ端面40cに設けられていても良い。
【0041】
MR読出しヘッド素子41a及びインダクティブ書込みヘッド素子41bにおいては、各素子の一端がABS40a側の面におけるスライダ端面40dに達している。ここでスライダ端面40dとは、薄膜磁気ヘッド13の磁気ディスクに対向する媒体対向面のうちABS40a以外の面であって主に被覆部42の端面からなる面である。これらMR読出しヘッド素子41a及びインダクティブ書込みヘッド素子41bの一端が磁気ディスクと対向することによって、信号磁界の感受によるデータ信号の読出しと信号磁界の印加によるデータ信号の書込みとが行われる。なお、スライダ端面40dに達した各素子の一端及びその近傍には、保護のために極めて薄いダイヤモンドライクカーボン(DLC)等のコーティングが施されていてもよい。
【0042】
図5に示すように、インダクティブ書込みヘッド素子41bは、データ信号の書込み時に自身のABS40a(スライダ端面40d)側の端部から書込み磁界の発生する主磁極としての主磁極層50と、ABS40a(スライダ端面40d)側の端部とは離隔した部分が主磁極層50と磁気的に接続された補助磁極としての補助磁極層51と、渦巻き形状を有しており、少なくとも1ターンの間に主磁極層50及び補助磁極層51の間を通過するように形成された書込みコイル52とを備えている。
【0043】
書込みコイル52は、本実施形態では、その全体が書込み磁界発生用及び共鳴磁界発生用の共用コイルとなっている。ここで、端子電極45及び46からリード層53及び54を介して書込みコイル52に書込み信号を流すことによって、主磁極層50及び補助磁極層51が形成する磁気回路に書込み磁界となる磁束を発生させることができる。さらに、この書込みコイル52に、マイクロ波励振信号を流すことによって、磁気ディスクの磁気記録層の強磁性共鳴周波数F又はその近傍の周波数を有するマイクロ波帯域の高周波磁界である共鳴用磁界が発生する。
【0044】
このように、書込みコイル52を書込み磁界発生用及び共鳴磁界発生用の共用コイルとすることによって、構成が簡単となり、しかも、共鳴磁界発生用のコイルと書込み磁界発生用のコイルとを離隔して設ける場合に比べて、駆動電流の干渉を大幅に低減することがきる。また、共鳴磁界発生用のコイル及び書込み磁界発生用のコイル自体を共に、トレーリングギャップに十分に近接させることができるため、書込み磁界及び共鳴用磁界の発生効率が向上する。
【0045】
なお、書込み磁界発生用のコイル及び共鳴磁界発生用のコイルを一部のみ共用としても良いし、全く別個に設けても良い。
【0046】
図6は本実施形態における薄膜磁気ヘッド13の全体を概略的に示しており、図4のA−A線断面図である。
【0047】
同図において、40はアルティック(Al−TiC)等からなるスライダ基板であり、磁気ディスク表面に対向するABS40aを有している。このスライダ基板40の素子形成面40b上に、MR読出しヘッド素子41aと、インダクティブ書込みヘッド素子41bと、これらの素子を保護する被覆部42とが主に形成されている。
【0048】
MR読出しヘッド素子41aは、MR積層体41aと、この積層体を挟む位置に配置されている下部シールド層41a及び上部シールド層41aとを含んでいる。MR積層体41aは、面内通電型(CIP)GMR多層膜、垂直通電型(CPP)GMR多層膜、又はTMR多層膜からなっており、非常に高い感度で磁気ディスクからの信号磁界を感受する。下部シールド層41a及び上部シールド層41aは、MR積層体41aが雑音となる外部磁界の影響を受けることを防止する。
【0049】
このMR積層体41aがCIP−GMR多層膜からなる場合、下部シールド層41a及び上部シールド層41aの各々とMR積層体41aとの間に絶縁用の下部シールドギャップ層及び上部シールドギャップ層がそれぞれ設けられる。さらに、MR積層体41aにセンス電流を供給して再生出力を取り出すためのMRリード導体層が形成される。一方、MR積層体41aがCPP-GMR多層膜又はTMR多層膜からなる場合、下部シールド層41a及び上部シールド層41aはそれぞれ上部及び下部の電極層としても機能する。この場合、下部シールドギャップ層、上部シールドギャップ層及びMRリード導体層は不要である。なお、図示されていないが、MR積層体41aのトラック幅方向の両側には、絶縁層か、又は磁区構造を安定させる縦バイアス磁界を印加するためのバイアス絶縁層及びハードバイアス層が形成される。
【0050】
MR積層体41aは、例えば、TMR多層膜を含む場合、イリジウムマンガン(IrMn)、プラチナマンガン(PtMn)、ニッケルマンガン(NiMn)又はルテニウムロジウムマンガン(RuRhMn)等からなる厚さ5〜15nm程度の反強磁性層と、例えば2つのコバルト鉄(CoFe)等の強磁性膜がルテニウム(Ru)等の非磁性金属膜を挟んだ3層膜から構成されており、反強磁性層によって磁化方向が固定されている磁化固定層と、例えばアルミニウム(Al)、アルミニウム銅(AlCu)又はマグネシウム(Mg)等からなる厚さ0.5〜1nm程度の金属膜が真空装置内に導入された酸素によって又は自然酸化によって酸化された非磁性誘電膜からなるトンネルバリア層と、例えばCoFe等からなる厚さ1nm程度の強磁性膜とニッケル鉄(NiFe)等からなる厚さ3〜4nm程度の強磁性膜との2層膜から構成されており、トンネルバリア層を介して磁化固定層との間でトンネル交換結合をなす磁化自由層とが、順次積層された構造を有している。
【0051】
また、下部シールド層41a及び上部シールド層41aは、例えば、フレームめっき法を含むパターンめっき法等を用いて形成された厚さ0.1〜3μm程度のNiFe(パーマロイ等)、コバルト鉄ニッケル(CoFeNi)、CoFe、窒化鉄(FeN)又は窒化鉄ジルコニウム(FeZrN)膜等から構成される。
【0052】
インダクティブ書込みヘッド素子41bは、垂直磁気記録用であり、主磁極層41b(50)と、トレーリングギャップ層41bと、書込みコイル41b(52)と、書込みコイル絶縁層41bと、補助磁極層41b(51)と、補助シールドとしての補助シールド層41bと、リーディングギャップ層41bとを備えている。
【0053】
主磁極層41bは、書込みコイル41bに書込み電流が印加されることによって発生した磁束を、書込みがなされる磁気ディスクの磁気記録層まで収束させながら導くための導磁路であり、主磁極ヨーク層41b11及び主磁極主要層41b12から構成されている。ここで、主磁極層41bのABS40a(スライダ端面40d)側の端部における層厚方向の長さ(厚さ)は、この主磁極主要層41b12のみの層厚に相当しており小さくなっている。その結果、データ信号の書込み時には、この端部から高記録密度化に対応した微細な書込み磁界を発生させることができる。主磁極ヨーク層41b11及び主磁極主要層41b12は、例えば、スパッタリング法、フレームめっき法を含むパターンめっき法等を用いて形成された、それぞれ厚さ0.5〜3.5μm程度及び厚さ0.1〜1μm程度のNiFe、CoFeNi、CoFe、FeN又はFeZrN膜等から構成される。
【0054】
補助磁極層41b及び補助シールド層41bは、それぞれ、主磁極層41bのトレーリング側及びリーディング側に配置されている。補助磁極層41bは、上述したように、ABS40a(スライダ端面40d)側の端部とは離隔した部分が主磁極層41bと磁気的に接続されているが、補助シールド層41bは、本実施形態においては主磁極層41bと磁気的に接続されていない。
【0055】
補助磁極層41b及び補助シールド層41bのスライダ端面40d側の端部は、それぞれ、他の部分よりも層断面が広いトレーリングシールド部41b51及びリーディングシールド部41b61となっている。トレーリングシールド部41b51は、主磁極層41bのスライダ端面40d側の端部とトレーリングギャップ層41bを介して対向している。また、リーディングシールド部41b61は、主磁極層41bのスライダ端面40d側の端部とリーディングギャップ層41bを介して対向している。このようなトレーリングシールド部41b51及びリーディングシールド部41b61を設けることにより、磁束のシャント効果によって、トレーリングシールド部41b51と主磁極層41bの端部との間、及びリーディングシールド部41b61の端部と主磁極層41bの端部との間における書込み磁界の磁界勾配がより急峻になる。この結果、信号出力のジッタが小さくなって読出し時のエラーレートを小さくすることができる。
【0056】
なお、トレーリングシールド部41b51及びリーディングシールド部41b61の層厚方向の長さ(厚さ)は、主磁極層31bの同方向の厚さの数十〜数百倍程度に設定されることが好ましい。また、トレーリングギャップ層41bのギャップ長は、10〜100nm程度であることが好ましく、20〜50nm程度であれば、より好ましい。また、リーディングギャップ層41bのギャップ長は、0.1μm以上であることが好ましい。
【0057】
補助磁極層41b及び補助シールド層41bは、例えば、フレームめっき法を含むパターンめっき法等を用いて形成された厚さ0.5〜4μm程度のNiFe、CoFeNi、CoFe、FeN又はFeZrN膜等から構成されている。また、トレーリングギャップ層41b又はリーディングギャップ層41bは、例えば、スパッタリング法、CVD法等を用いて形成された厚さ0.1〜3μm程度のアルミナ(Al)、酸化シリコン(SiO)、窒化アルミニウム(AlN)又はDLC膜等から構成されている。
【0058】
本実施形態では、書込みコイル41bに書込み信号のみならず、マイクロ波励振信号を流すことによって、後述するように、主磁極層41bの端部とトレーリングシールド部41b51との間に長手方向(磁気ディスク表面の面内又は略面内方向であってトラック方向)の共鳴用磁界が発生する。この共鳴用磁界は、磁気ディスクの磁気記録層の強磁性共鳴周波数F又はその近傍の周波数を有するマイクロ波帯域の高周波磁界である。書込み時にこの長手方向の共鳴用磁界を磁気記録層に印加することによって、書込みに必要となる垂直方向(磁気記録層の表層面に垂直又は略垂直な方向)の書込み磁界強度を大幅に低減することができる。
【0059】
書込みコイル絶縁層41bは、書込みコイル41bを取り囲んでおり、書込みコイル41bを周囲の磁性層等から電気的に絶縁するために設けられている。書込みコイル41b(50)、並びにリード層53及び54(図5参照)は、例えば、フレームめっき法、スパッタリング法等を用いて形成された厚さ0.1〜5μm程度のCu膜等から構成されている。また、書込みコイル絶縁層41bは、例えば、フォトリソグラフィ法等を用いて形成された厚さ0.5〜7μm程度の加熱キュアされたフォトレジスト等で構成されている。
【0060】
以上、薄膜磁気ヘッド13の構成について詳細に説明したが、本発明の薄膜磁気ヘッドは上述した構成に限定されるものではなく、他の種々の構成をとり得ることは明らかである。
【0061】
図7は本発明による強磁性共鳴用の磁界を用いた磁気記録方法の原理を説明すると共に上述した実施形態のヘッドモデルを示すための断面図である。
【0062】
まず、同図を用いて磁気ディスク10の構造について説明する。磁気ディスク10は、垂直磁気記録用であり、ディスク基板10a上に、磁化配向層10bと、磁束ループ回路の一部として働く軟磁性裏打ち層10cと、中間層10dと、磁気記録層10eと、保護層10fとを順次積層した多層構造となっている。磁化配向層10bは、軟磁性裏打ち層10cにトラック幅方向の磁気異方性を付与することによって、軟磁性裏打ち層10cの磁区構造を安定させて、再生出力波形におけるスパイク状ノイズの抑制を図っている。また、中間層10dは、磁気記録層10eの磁化の配向及び粒径を制御する下地層の役割を果たしている。
【0063】
ここで、ディスク基板10aは、ガラス、ニッケルリン(NiP)被覆Al合金、シリコン(Si)等から形成されている。磁化配向層10bは、反強磁性材料であるPtMn等から形成されている。軟磁性裏打ち層10cは、軟磁性材料であるコバルトジルコニウムニオブ(CoZrNb)等のコバルト(Co)系アモルファス合金、鉄(Fe)合金、軟磁性フェライト等、又は軟磁性膜/非磁性膜の多層膜等から形成されている。中間層10dは、非磁性材料であるRu合金等から形成されている。ここで、中間層10dは、磁気記録層10eの垂直磁気異方性を制御可能であれば、その他の非磁性金属若しくは合金、又は低透磁率の合金等でもよい。保護層10fは、化学的蒸着(CVD)法等によるカーボン(C)材料等から形成されている。
【0064】
磁気記録層10eは、例えば、コバルトクロムプラチナ(CoCrPt)系合金、CoCrPt−SiO、鉄プラチナ(FePt)系合金、又はCoPt/パラジウム(Pd)系の人工格子多層膜等から形成されている。また、この磁気記録層11eにおいては、磁化の熱揺らぎを抑制するため、垂直磁気異方性エネルギーが、例えば1×10erg/cc(0.1J/m)以上に調整されていることが好ましい。この場合、磁気記録層10eの保磁力の値は、例えば、5kOe(400kA/m)程度又はそれ以上となる。さらに、この磁気記録層10eの強磁性共鳴周波数Fは、磁気記録層10eを構成する磁性粒子の形状、サイズ、構成元素等により決定される固有の値であるが、概ね1〜15GHz程度となっている。この強磁性共鳴周波数Fは、1つだけ存在する場合もあれば、スピン波共鳴が生じた際のように、複数存在する場合もある。
【0065】
次いで、同図を用いて、本発明による磁気記録方法の原理を説明する。書込みコイル41b(52)へのマイクロ波励振信号の通電によって発生する共鳴用磁界に対応する磁束70は、マイクロ波帯域の高周波であるので、表皮効果によって、主磁極層41bのトレーリング側の表面から磁気記録層10e内を介してトレーリングシールド部41b51のリーディング側の表面に至る領域に多く分布することになる。例えば、周波数が10GHz程度の場合、主磁極層41b及びトレーリングシールド部41b51の表面における磁束70の侵入深さは50nm程度である。その結果、共鳴用磁界は、磁気記録層10eよりもディスク基板10a側の領域には大きな強度を持たず、磁気記録層10e内において同層面にほぼ平行な成分が主となる。
【0066】
ここで、磁気記録層10eの磁化は、自身の層面に垂直又は略垂直な方向を有している。この磁気記録層10eに、磁束70に対応する同層面内方向の共鳴用磁界が印加される場合、共鳴用磁界の周波数を磁気記録層の強磁性共鳴周波数F又はその近傍の周波数とすることによって、書込みに必要な、磁束71による垂直方向の書込み磁界の値を大幅に低減することが可能となる。ここで、書込み磁界の低減効果が見込まれる強磁性共鳴周波数Fの近傍の範囲は、プラスマイナス0.5GHz程度である。
【0067】
実際、磁気記録層の強磁性共鳴周波数Fを有する共鳴用磁界を印加することによって、例えば、磁気記録層10eの磁化を反転させることができる垂直方向の書込み磁界を40%程度低減し、60%程度とすることが可能となる。すなわち、共鳴用磁界を印加する前における磁気記録層10eの保磁力が
5kOe(400kA/m)程度であっても、磁気記録層の面内方向の共鳴用磁界を印加することにより、この保磁力を実効的に2.4kOe(192kA/m)程度にまで低減することが可能となる。
【0068】
なお、共鳴用磁界の強度は、磁気記録層の異方性磁界をHとして、0.1H〜0.2H程度であることがより好ましく、その周波数は、磁気記録層10eの構成材料及び層厚等によるが、1〜15GHz程度であることが好ましい。
【0069】
以上、上述した磁気記録方法によれば、いわゆる熱アシスト(加熱)によることなく、大きな保磁力を有する磁気ディスクに高精度でデータ信号の書込みを行うことができることが理解される。さらに、以上に述べた薄膜磁気ヘッドによれば、電子放出源、レーザ光源等の大きな負担となる特別の素子を用いることなく、このような磁気記録方法を実現することができ、コンパクト化及び低コスト化が可能となる。特に、本実施形態においては、新たなコイルを設ける必要もないので、コンパクト化及び低コスト化をより一層確実にする。
【0070】
図8は本実施形態における磁気ディスクドライブ装置の電気的構成を概略的に示すブロック図である。
【0071】
同図において、11は磁気ディスク10を回転駆動するスピンドルモータ、80はこのスピンドルモータ11のドライバであるモータドライバ、81はVCM17のドライバであるVCMドライバ、82はコンピュータ83の制御に従ってモータドライバ80を及びVCMドライバ81を制御するハードディスクコントローラ(HDC)、84は薄膜磁気ヘッド13のヘッドアンプ84a及びリードライトチャネル84bを含むリードライトIC回路、85は前述のマイクロ波発振器19bから主として構成されており、マイクロ波励振信号を供給するマイクロ波供給回路、86は前述の方向性結合器19cから主として構成されており、薄膜磁気ヘッド13の書込みヘッド素子への伝送線路(書込みヘッド素子用配線部材32)に設けられた結合回路をそれぞれ示している。
【0072】
次に、本実施形態における金属シールドケース21について詳細に説明する。
【0073】
図9に示すように、本実施形態においては、金属シールドケース21の上面21bに複数(この例では11個)の貫通穴21aが設けられている。同図では、これら貫通穴21aが全て同一の直径を有するように示されているが、本発明では、各貫通穴21aの直径は互いに異なっていても良い。ただし、その直径dがマイクロ波励振信号の波長(自由空間における波長)をλFRとすると、d<1.84×λFRとなるように設定されていることが必須である。この条件を満足させれば、その貫通穴からのマイクロ波励振信号の再輻射(再放射)を防止させることができる。
【0074】
以下、貫通穴が真円の断面を有する円形導波管であるとして、電磁波が再輻射されないための直径の条件について説明する。
【0075】
【数1】

【0076】
【数2】

【0077】
【数3】

【0078】
【表1】

【0079】
前述したようにこのモードはTEモードであり、n及びmはモードの次数を示している。即ちTEnmモードである。表1において、解の数値が最も小さいのは、TE11モードとなり、このモードが円形導波管における基本モードとなる。この解に使用するマイクロ波励振信号の波長λFRを乗算したものが、管内波長となるため、円形導波管の直径dがこの管内波長より小さくなるように設定すれば、円形導波管より電磁波は輻射されないこととなる。即ち、d<1.84×λFRとなる。
【0080】
また、互いに隣接する貫通穴21a間の間隔Sが、マイクロ波励振信号の波長(自由空間における波長)の1/4より小さくなるように、即ちS<λFR/4と設定すれば金属シールドケース21の表面導体からのマイクロ波励振信号の再輻射(再放射)を防止させることができる。導体上の共振現象は、信号の1/4波長が最小の波長となる。従って、貫通穴21a間の間隔Sがこれより小さくなるように設定すれば、その部分で共振が生ぜず、その結果、金属シールドケース21の表面導体上に高周波電流が乗ってアンテナと同一の働きを行うことによって電磁波が放射することを抑止できるのである。使用信号の1/4波長では、片側短絡で片側解放となり、集中定数回路における並列共振に相当する。また1/2波長では、両側とも解放又は短絡の直列共振となる。
【0081】
なお、貫通穴21aの数は、この例のように11に限定されることなく、放熱及び/又は軽量化に必要とする数に設定される。またそれらの配置位置も任意であるが、発熱の大きい電子回路、例えばマイクロ波発振器、の上方に配置することが放熱のためには効果的である。本実施形態の変更態様においては、図11に示すように、金属シールドケース111の放熱が必要な箇所のみに、例えばマイクロ波発振器の上方のみに、単一の貫通穴111aが設けられている。その場合も、貫通穴111aの直径dがマイクロ波励振信号の波長(自由空間における波長)をλFRとすると、d<1.84×λFRとなるように設定される。ただし、この場合、貫通穴間の間隔は設定されない。
【0082】
図2に示すように、本実施形態においては、金属シールドケース21内の空洞が直方体形状を有しているが、この場合、直方体形状の空洞における互いに対向する4つの内側壁のうち、長手方向の内側壁間の距離Lが、L<λFR/2を満足する値に設定されている。この条件を満足させれば、内部での共振を抑止することができるので、共振によるエネルギー吸収を大幅に低減化することができる。即ち、この条件は、長手方向の内側壁間の距離Lをマイクロ波励振信号の1/2波長未満とすることであり、矩形の金属壁で囲まれた場合に電磁波として伝搬する条件は、長手方向が1/2波長以上であるから1/2波長未満では伝搬が生じないので共振も生じないのである。
【0083】
図12は本発明の他の実施形態における金属シールドケースの構成を示す斜視図である。
【0084】
この実施形態においては、金属シールドケース121内に金属仕切り板121bを設けられて、金属シールドケース121内の空洞が直方体形状の分割空洞121c及び121dに分割されている。そして、このように分割された分割空洞121c及び121dそれぞれの長手方向の内側壁間の距離が2L<λFRの条件を満たすように設定されている。
【0085】
このように本実施形態によれば、金属シールドケース21の上面21bに設けられた複数の貫通穴21aの直径dがマイクロ波励振信号の波長(自由空間における波長)をλFRとすると、d<1.84×λFRとなるように設定されているので、これら貫通穴からのマイクロ波励振信号の再輻射(再放射)を防止させることができる。また、互いに隣接する貫通穴21a間の間隔Sが、S<λFR/4と設定されているので、金属シールドケース21の表面導体からのマイクロ波励振信号の再輻射(再放射)を防止させることができる。さらに、金属シールドケース21内の直方体形状の空洞における互いに対向する4つの内側壁のうち、長手方向の内側壁間の距離Lが、L<λFR/2に設定されているので、内部で伝搬が生じることがなく共振を抑止することができるので、共振によるエネルギー吸収を大幅に低減化することができる。もちろん、本実施形態によれば、加熱によることなく、大きな保磁力を有する磁気ディスクに高精度でデータ信号の書込みを行うことができる。
【0086】
以上述べた実施形態は全て本発明を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、本発明は他の種々の変形態様及び変更態様で実施することができる。従って本発明の範囲は特許請求の範囲及びその均等範囲によってのみ規定されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明による磁気記録再生装置の一実施形態における要部の構成を金属筐体を省略して概略的に示す斜視図である。
【図2】図1の磁気記録再生装置について金属筐体及び金属シールドケースを含めて概略的に示す平面図及び側断面図である。
【図3】図1及び図2の磁気記録再生装置におけるHGAの部分の断面図である。
【図4】図1及び図2の実施形態における薄膜磁気ヘッドの全体を概略的に示す斜視図である。
【図5】図4の薄膜磁気ヘッドの書込みコイルの構造を示す斜視図である。
【図6】図1及び図2の実施形態における薄膜磁気ヘッドの全体を概略的に示しており、図4のA−A線断面図である。
【図7】本発明による磁気記録方法の原理を説明すると共に図1及び図2の実施形態のヘッドモデルを示す断面図である。
【図8】図1及び図2の実施形態における磁気ディスクドライブ装置の電気的構成を概略的に示すブロック図である。
【図9】図1及び図2の実施形態における金属シールドケースの構成を示す斜視図である。
【図10】円形導波管の座標軸を説明する図である。
【図11】図1及び図2の実施形態の変更態様における金属シールドケースの構成を示す斜視図である。
【図12】本発明の他の実施形態における金属シールドケースの構成を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0088】
10 磁気ディスク
10a ディスク基板
10b 磁化配向層
10c 軟磁性裏打ち層
10d 中間層
10e 磁気記録層
10f 保護層
11 スピンドルモータ
12 HGA
13 薄膜磁気ヘッド
14 アセンブリキャリッジ装置
15 ピボットベアリング軸
16 キャリッジ
17 VCM
18 駆動アーム
19 記録再生及び共鳴制御回路
19a 電子回路PCB
19b マイクロ波発振器
19c 方向性結合器
20 金属筐体
21 金属シールドケース
21a 貫通穴
30 ロードビーム
31 フレクシャ
32 書込みヘッド素子用配線部材
32a 上側接地導体
32b、32c 誘電体層
32d 導体線路
33 ワイヤ
40 スライダ基板
40a ABS
40b 素子形成面
40c、40d スライダ端面
41 磁気ヘッド素子
41a MR読出しヘッド素子
41a MR積層体
41a 下部シールド層
41a 上部シールド層
41b インダクティブ書込みヘッド素子
41b、50 主磁極層
41b11 主磁極ヨーク層
41b12 主磁極主要層
41b トレーリングギャップ層
41b、52 書込みコイル
41b 書込みコイル絶縁層
41b、51 補助磁極層
41b51 トレーリングシールド部
41b 補助シールド層
41b61 リーディングシールド部
41b リーディングギャップ層
42 被覆部
43、44、45、46 端子電極
53、54 リード層
70、71 磁束
80 モータドライバ
81 VCMドライバ
82 HDC
83 コンピュータ
84 リードライトIC回路
84a ヘッドアンプ
84b リードライトチャネル
85 マイクロ波供給回路
86 結合回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属筐体と、
該金属筐体内に設けられており、磁気記録層を有する磁気記録媒体と、
前記金属筐体内に設けられており、書込み信号に応じて前記磁気記録層への書込み磁界を発生する書込み磁界発生手段及びマイクロ波励振信号に応じて前記磁気記録層の強磁性共鳴周波数F又はその近傍の周波数を有するマイクロ波帯共鳴用磁界を発生させる共鳴磁界発生手段を有する薄膜磁気ヘッドと、
前記書込み信号を生成する書込み信号生成手段と、
該書込み信号生成手段が生成した書込み信号を前記書込み磁界発生手段へ印加する書込み信号伝送手段と、
前記金属筐体外に設けられており、前記マイクロ波励振信号を生成するマイクロ波発振手段と、
少なくとも一部が前記金属筐体外に設けられており、前記マイクロ波発振手段が生成したマイクロ波励振信号を前記共鳴磁界発生手段へ印加するマイクロ波励振信号伝送手段と、
前記マイクロ波発振手段と前記マイクロ波励振信号伝送手段の前記金属筐体外に設けられている部分とを覆う金属シールドカバーと
を備えており、
該金属シールドカバーの上板には少なくとも1つの貫通穴が形成されており、該少なくとも1つの貫通穴の直径dが、前記マイクロ波励振信号の波長をλFRとすると、
d<1.84×λFR
に規定されていることを特徴とするマイクロ波帯磁気駆動機能付の薄膜磁気ヘッドを備えた磁気記録再生装置。
【請求項2】
前記少なくとも1つの貫通穴が複数の貫通穴であり、該複数の貫通穴間の間隔Sが、
S<λFR/4
であることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録再生装置。
【請求項3】
少なくとも前記金属シールドカバーによって形成されており、前記マイクロ波発振手段及び前記マイクロ波励振信号伝送手段の前記金属筐体外に設けられている部分が内部に配置されている空洞が直方体形状を有していることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気記録再生装置。
【請求項4】
前記直方体形状の空洞が、金属仕切り板により直方体形状に分割された分割空洞であることを特徴とする請求項3に記載の磁気記録再生装置。
【請求項5】
前記直方体形状の空洞又は前記直方体形状の分割空洞における互いに対向する4つの内側壁のうち、長手方向の内側壁間の距離Lが、
L<λFR/2
であることを特徴とする請求項3又は4に記載の磁気記録再生装置。
【請求項6】
前記書込み信号生成手段と前記書込み信号伝送手段の少なくとも一部とが、前記金属筐体外に設けられていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の磁気記録再生装置。
【請求項7】
前記薄膜磁気ヘッドが、媒体対向面を有する基板の素子形成面に形成されており、書込み時に自身の媒体対向面側の端部から書込み磁界を発生する主磁極と、媒体対向面側の端部とは離隔した部分が該主磁極と磁気的に接続された補助磁極と、少なくとも該主磁極及び該補助磁極の間を通過するように形成されており、前記書込み磁界発生手段及び前記共鳴磁界発生手段を構成するコイル手段とを有するインダクティブ書込みヘッド素子を備えていることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の磁気記録再生装置。
【請求項8】
前記磁気記録媒体の前記磁気記録層の位置において、前記書込み磁界が該磁気記録層の表層面に垂直又は略垂直な方向を有し、前記共鳴用磁界が該磁気記録層の表層面の面内又は略面内の方向を有するように設定されていることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の磁気記録再生装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2010−3329(P2010−3329A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−158716(P2008−158716)
【出願日】平成20年6月18日(2008.6.18)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】