説明

マイクロ波放射機構、表面波プラズマ源および表面波プラズマ処理装置

【課題】表面波プラズマ発生用アンテナから出力される電力やアンテナ直下のプラズマ状態を、プラズマ生成するための電界分布を乱すことなく直接検出することができるマイクロ波放射機構を提供すること。
【解決手段】マイクロ波放射機構41は、表面波プラズマ発生用アンテナ81と、誘電体からなる遅波材82と、アンテナ81から放射されたマイクロ波により表面波プラズマを生成するための電界が形成される誘電体部材83と、電界センサ112またはプラズマ発光センサ113と、遅波材82および表面波プラズマ発生用アンテナ81を貫通するように設けられたセンサ挿入孔110とを具備し、センサ挿入孔110は、スロット内側に対応する領域に、同一の円周上にスロットの1以上の整数倍の個数が均等に形成されており、電界センサ112またはプラズマ発光センサ113は、センサ挿入孔110の少なくとも一つに挿入されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波放射機構、表面波プラズマ源および表面波プラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ処理は、半導体デバイスの製造に不可欠な技術であるが、近時、LSIの高集積化、高速化の要請からLSIを構成する半導体素子のデザインルールが益々微細化され、また、半導体ウエハが大型化されており、それにともなって、プラズマ処理装置においてもこのような微細化および大型化に対応するものが求められている。
【0003】
ところが、従来から多用されてきた平行平板型や誘導結合型のプラズマ処理装置では、生成されるプラズマの電子温度が高いため微細素子にプラズマダメージを生じてしまい、また、プラズマ密度の高い領域が限定されるため、大型の半導体ウエハを均一かつ高速にプラズマ処理することは困難である。
【0004】
そこで、高密度で低電子温度の表面波プラズマを均一に形成することができるRLSA(Radial Line Slot Antenna)マイクロ波プラズマ処理装置が注目されている(例えば特許文献1)。
【0005】
RLSAマイクロ波プラズマ処理装置は、表面波プラズマ発生用アンテナとしてチャンバの上部に所定のパターンで複数のスロットが形成されたラジアルラインスロットアンテナ(Radial Line Slot Antenna)を設け、マイクロ波発生源から導かれたマイクロ波を、アンテナのスロットから放射させるとともに、その下に設けられた誘電体からなるマイクロ波透過板を介して真空に保持されたチャンバ内に放射し、このマイクロ波電界によりチャンバ内で表面波プラズマを生成し、これにより半導体ウエハ等の被処理体を処理するものである。
【0006】
また、マイクロ波を複数に分配し、上記のような表面波プラズマ発生用アンテナを有するマイクロ波放射部を複数設け、それらから放射されたマイクロ波をチャンバ内に導きチャンバ内でマイクロ波を空間合成してプラズマを生成するプラズマ処理装置も提案されている(特許文献2)。
【0007】
そして、この種のプラズマ処理装置においては、プラズマを生成するためのマイクロ波の出力の検出を給電部とチューナの間の位置で行っており、また、実際のプラズマ状態の検出は、チャンバに設けられた小型窓を介して行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−294550号公報
【特許文献2】国際公開第2008/013112号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
マイクロ波の出力の検出を給電部とチューナの間の位置で行う場合には、実際に表面波プラズマ発生用アンテナから設定通りの電力が出力されているか否かを把握することが困難である。また、チャンバに設けられた小型窓を介してプラズマの状態を検出する場合には、複数のアンテナモジュールのうちプラズマが消火していたり、着火不良が生じていたりしても、それを検出することが困難である。
【0010】
このような不都合を解消するためには、表面波プラズマ発生用アンテナから出力される電力やアンテナ直下のプラズマ状態を直接検出することが考えられるが、その場合にはプラズマを生成するための電界分布を乱すおそれがある。
【0011】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、表面波プラズマ発生用アンテナから出力される電力やアンテナ直下のプラズマ状態を、プラズマ生成するための電界分布を乱すことなく直接検出することができるマイクロ波放射機構、ならびに、それを用いた表面波プラズマ源および表面波プラズマ処理装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明の第1の観点は、チャンバ内に表面波プラズマを形成するための表面波プラズマ源におけるマイクロ波出力部から出力されたマイクロ波を伝送するマイクロ波伝送路に設けられ、マイクロ波をチャンバ内に放射するマイクロ波放射機構であって、前記マイクロ波伝送路を伝送されてきたマイクロ波を、スロットを介して前記チャンバ内に放射して表面波プラズマを発生させる表面波プラズマ発生用アンテナと、前記マイクロ波伝送路の前記表面波プラズマ発生用アンテナの上流側に設けられた誘電体からなる遅波材と、前記マイクロ波伝送路の前記表面波プラズマ発生用アンテナの下流側に設けられ、前記表面波プラズマ発生用アンテナから放射されたマイクロ波により前記表面波プラズマを生成するための電界が形成される誘電体部材と、前記表面波プラズマ発生用アンテナから放射されたマイクロ波の電力を計測するために前記誘電体部材の電界を検出する電界センサ、または、前記誘電体部材を介して表面波プラズマの発光を検出するプラズマ発光センサと、前記遅波材および前記表面波プラズマ発生用アンテナを貫通するように設けられ、前記電界センサまたは前記プラズマ発光センサが挿入されるセンサ挿入孔と、を具備し、前記センサ挿入孔は、前記遅波材および前記表面波プラズマ発生用アンテナの前記スロット内側に対応する領域に、前記マイクロ波伝送路の軸を中心とした同一の円周上に前記スロットのn倍(ただし、nは1以上の整数)の個数が均等に形成されており、前記電界センサまたは前記プラズマ発光センサは、前記センサ挿入孔の少なくとも一つに挿入されていることを特徴とするマイクロ波放射機構を提供する。
【0013】
前記電界センサは、先端にモノポール部分を有する同軸ケーブルにより構成され、前記誘電体部材に前記モノポール部分を接触または近接させることにより、前記誘電体部材に生じている電界をモニタするものであることが好ましい。また、前記電界センサは、前記表面波プラズマ発生用アンテナから正常に電磁波が放射されているか否かを把握する機能、プロセスに応じて適切なプラズマ条件を得るための電力値を把握する機能、および、プラズマの着火または失火を検出する機能を有するものとすることができる。
【0014】
前記プラズマ発光センサは、前記誘電体部材を介してプラズマの発光を検出する受光素子を有し、受光素子が前記誘電体部材に接触または近接しているものとすることができる。
【0015】
前記センサ挿入孔のうち、前記電界センサまたは前記プラズマ発光センサが挿入されていないものについて、電磁波漏洩防止用のプラグが挿入されていることが好ましい。
【0016】
本発明の第2の観点は、マイクロ波を生成するマイクロ波生成機構および生成されたマイクロ波をチャンバ内に放射する複数のマイクロ波放射機構を有し、前記チャンバ内にマイクロ波を放射して前記チャンバ内に供給されたガスによる表面波プラズマを生成する表面波プラズマ源であって、前記のマイクロ波放射機構として、上記第1の観点のものを用いることを特徴とする表面波プラズマ源を提供する。
【0017】
本発明の第3の観点は、被処理基板を収容するチャンバと、前記チャンバ内にガスを供給するガス供給機構と、マイクロ波を生成するマイクロ波生成機構および生成されたマイクロ波を前記チャンバ内に放射する複数のマイクロ波放射機構を有し、前記チャンバ内にマイクロ波を放射して前記チャンバ内に供給されたガスによる表面波プラズマを生成する表面波プラズマ源とを具備し、前記チャンバ内の被処理基板に対して前記表面波プラズマにより処理を施す表面波プラズマ処理装置であって、前記マイクロ波放射機構として、上記第1の観点に記載のものを用いることを特徴とする表面波プラズマ処理装置を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、センサ挿入孔は、遅波材および表面波プラズマ発生用アンテナのスロット内側に対応する領域に、マイクロ波伝送路の軸を中心とした同一の円周上にスロットのn倍(ただし、nは1以上の整数)の個数が均等に形成されているので、センサ挿入孔の電磁波への影響が打ち消し合って、電界分布を乱すことなく、アンテナから出力される電力やアンテナ直下のプラズマ状態を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係るマイクロ波放射機構を有する表面波プラズマ処理装置の概略構成を示す断面図である。
【図2】図1の表面波プラズマ処理装置に用いられるマイクロ波プラズマ源の構成を示す構成図である。
【図3】図1の表面波プラズマ処理装置におけるマイクロ波放射機構を示す縦断面図である。
【図4】マイクロ波放射機構の給電機構を示す横断面図である。
【図5】チューナの本体におけるスラグと滑り部材を示す平面図である。
【図6】チューナの本体における内側導体を示す斜視図である。
【図7】表面波プラズマ発生用アンテナの一例を示す平面図である。
【図8】電界センサの構造例を示す断面図である。
【図9】電界センサによるモニタ電力を示す図である。
【図10】表面波プラズマ発生用アンテナから放射される電力とモニタ電流の二乗の値との関係を示す図である。
【図11】5個のスロットを有する表面波プラズマ発生用アンテナにセンサ挿入孔を1箇所設けた場合と、センサ挿入孔を同軸構造の導波路44の軸を中心にして同一の円周上に5個均等(等角度)に設けた場合の電界シミュレーション結果を示す図である。
【図12】センサ挿入孔を5個均等に設け、センサ挿入孔にプラグを挿入した場合における、プラグ(センサ挿入孔)の回転角度、径方向の位置、プラグ(センサ挿入孔)の直径による電界のばらつきを、プラグ(センサ挿入孔)を設けない場合、およびプラグ(センサ挿入孔)を1個のみ設けた場合と比較して調査した結果を示す図である。
【図13】電磁波(誘電体部材の裏面)からの距離と減衰定数との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0021】
<表面波プラズマ処理装置の構成>
図1は、本発明の実施形態に係るマイクロ波放射機構を有する表面波プラズマ処理装置の概略構成を示す断面図であり、図2は図1の表面波プラズマ処理装置に用いられるマイクロ波プラズマ源の構成を示す構成図である。
【0022】
表面波プラズマ処理装置100は、ウエハに対してプラズマ処理として例えばエッチング処理を施すプラズマエッチング装置として構成されており、気密に構成されたアルミニウムまたはステンレス鋼等の金属材料からなる略円筒状の接地されたチャンバ1と、チャンバ1内にマイクロ波プラズマを形成するためのマイクロ波プラズマ源2とを有している。チャンバ1の上部には開口部1aが形成されており、マイクロ波プラズマ源2はこの開口部1aからチャンバ1の内部に臨むように設けられている。
【0023】
チャンバ1内には被処理体である半導体ウエハW(以下ウエハWと記述する)を水平に支持するためのサセプタ11が、チャンバ1の底部中央に絶縁部材12aを介して立設された筒状の支持部材12により支持された状態で設けられている。サセプタ11および支持部材12を構成する材料としては、表面をアルマイト処理(陽極酸化処理)したアルミニウム等が例示される。
【0024】
また、図示はしていないが、サセプタ11には、ウエハWを静電吸着するための静電チャック、温度制御機構、ウエハWの裏面に熱伝達用のガスを供給するガス流路、およびウエハWを搬送するために昇降する昇降ピン等が設けられている。さらに、サセプタ11には、整合器13を介して高周波バイアス電源14が電気的に接続されている。この高周波バイアス電源14からサセプタ11に高周波電力が供給されることにより、ウエハW側にプラズマ中のイオンが引き込まれる。
【0025】
チャンバ1の底部には排気管15が接続されており、この排気管15には真空ポンプを含む排気装置16が接続されている。そしてこの排気装置16を作動させることによりチャンバ1内が排気され、チャンバ1内が所定の真空度まで高速に減圧することが可能となっている。また、チャンバ1の側壁には、ウエハWの搬入出を行うための搬入出口17と、この搬入出口17を開閉するゲートバルブ18とが設けられている。
【0026】
チャンバ1内のサセプタ11の上方位置には、プラズマエッチングのための処理ガスをウエハWに向けて吐出するシャワープレート20が水平に設けられている。このシャワープレート20は、格子状に形成されたガス流路21と、このガス流路21に形成された多数のガス吐出孔22とを有しており、格子状のガス流路21の間は空間部23となっている。このシャワープレート20のガス流路21にはチャンバ1の外側に延びる配管24が接続されており、この配管24には処理ガス供給源25が接続されている。
【0027】
一方、チャンバ1のシャワープレート20の上方位置には、リング状のプラズマガス導入部材26がチャンバ壁に沿って設けられており、このプラズマガス導入部材26には内周に多数のガス吐出孔が設けられている。このプラズマガス導入部材26には、プラズマガスを供給するプラズマガス供給源27が配管28を介して接続されている。プラズマ生成ガスとしてはArガスなどが好適に用いられる。
【0028】
プラズマガス導入部材26からチャンバ1内に導入されたプラズマガスは、マイクロ波プラズマ源2からチャンバ1内に導入されたマイクロ波によりプラズマ化され、このプラズマがシャワープレート20の空間部23を通過しシャワープレート20のガス吐出孔22から吐出された処理ガスを励起し、処理ガスのプラズマを形成する。
【0029】
マイクロ波プラズマ源2は、チャンバ1の上部に設けられた支持リング29により支持されており、これらの間は気密にシールされている。図2に示すように、マイクロ波プラズマ源2は、複数経路に分配してマイクロ波を出力するマイクロ波出力部30と、マイクロ波出力部30から出力されたマイクロ波を伝送しチャンバ1内に放射するためのマイクロ波供給部40とを有している。
【0030】
マイクロ波出力部30は、マイクロ波電源31と、マイクロ波発振器32と、発振されたマイクロ波を増幅するアンプ33と、増幅されたマイクロ波を複数に分配する分配器34とを有している。
【0031】
マイクロ波発振器32は、所定周波数(例えば、915MHz)のマイクロ波を例えばPLL発振させる。分配器34では、マイクロ波の損失ができるだけ起こらないように、入力側と出力側のインピーダンス整合を取りながらアンプ33で増幅されたマイクロ波を分配する。なお、マイクロ波の周波数としては、915MHzの他に、700MHzから3GHzを用いることができる。
【0032】
マイクロ波供給部40は、分配器34にて分配されたマイクロ波を主に増幅する複数のアンプ部42と、複数のアンプ部42のそれぞれに接続されたマイクロ波放射機構41とを有している。
【0033】
アンプ部42は、位相器45と、可変ゲインアンプ46と、ソリッドステートアンプを構成するメインアンプ47と、アイソレータ48とを有している。
【0034】
位相器45は、マイクロ波の位相を変化させることができるように構成されており、これを調整することにより放射特性を変調させることができる。例えば、各アンテナモジュール毎に位相を調整することにより指向性を制御してプラズマ分布を変化させることや、後述するように隣り合うアンテナモジュールにおいて90°ずつ位相をずらすようにして円偏波を得ることができる。また、位相器45は、アンプ内の部品間の遅延特性を調整し、チューナ内での空間合成を目的として使用することができる。ただし、このような放射特性の変調やアンプ内の部品間の遅延特性の調整が不要な場合には位相器45は設ける必要はない。
【0035】
可変ゲインアンプ46は、メインアンプ47へ入力するマイクロ波の電力レベルを調整し、個々のアンテナモジュールのばらつきを調整またはプラズマ強度調整のためのアンプである。可変ゲインアンプ46を各アンテナモジュール毎に変化させることによって、発生するプラズマに分布を生じさせることもできる。
【0036】
ソリッドステートアンプを構成するメインアンプ47は、例えば、入力整合回路と、半導体増幅素子と、出力整合回路と、高Q共振回路とを有する構成とすることができる。
【0037】
アイソレータ48は、マイクロ波放射機構41で反射してメインアンプ47に向かう反射マイクロ波を分離するものであり、サーキュレータとダミーロード(同軸終端器)とを有している。サーキュレータは、後述するマイクロ波放射機構41のアンテナ部43で反射したマイクロ波をダミーロードへ導き、ダミーロードはサーキュレータによって導かれた反射マイクロ波を熱に変換する。
【0038】
マイクロ波放射機構41は、図3の縦断面図、図4の横断面図に示すように、マイクロ波を伝送する同軸構造の導波路44と、導波路44を伝送されたマイクロ波をチャンバ1内に放射するアンテナ部43とを有している。そして、マイクロ波放射機構41からチャンバ1内に放射されたマイクロ波がチャンバ1内の空間で合成され、チャンバ1内で表面波プラズマが形成されるようになっている。
【0039】
導波路44は、筒状の外側導体52およびその中心に設けられた棒状の内側導体53が同軸状に配置されて構成されており、導波路44の先端にアンテナ部43が設けられている。導波路44は、内側導体53が給電側、外側導体52が接地側となっている。外側導体52および内側導体53の上端は反射板58となっている。
【0040】
導波路44の基端側にはマイクロ波(電磁波)を給電する給電機構54が設けられている。給電機構54は、導波路44(外側導体52)の側面に設けられたマイクロ波電力を導入するためのマイクロ波電力導入ポート55を有している。マイクロ波電力導入ポート55には、アンプ部42から増幅されたマイクロ波を供給するための給電線として、内側導体56aおよび外側導体56bからなる同軸線路56が接続されている。そして、同軸線路56の内側導体56aの先端には、外側導体52の内部に向けて水平に伸びる給電アンテナ90が接続されている。
【0041】
給電アンテナ90は、例えば、アルミニウム等の金属板を削り出し加工した後、テフロン(登録商標)等の誘電体部材の型にはめて形成される。反射板58から給電アンテナ90までの間には、反射波の実効波長を短くするためのテフロン(登録商標)等の誘電体からなる遅波材59が設けられている。なお、2.45GHz等の周波数の高いマイクロ波を用いた場合には、遅波材59は設けなくてもよい。このとき、給電アンテナ90から放射される電磁波を反射板58により反射させることで、最大の電磁波を同軸構造の導波路44内に伝送させる。その場合、給電アンテナ90から反射板58までの距離を約λg/4の半波長倍に設定する。ただし、周波数の低いマイクロ波では、径方向の制約のため、これに当てはまらない場合もある。その場合には、給電アンテナ90より発生させる電磁波の腹を給電アンテナ90ではなく、給電アンテナ90の下方に誘起させるように、給電アンテナの形状を最適化することが好ましい。
【0042】
給電アンテナ90は、図4に示すように、マイクロ波電力導入ポート55において同軸線路56の内側導体56aに接続され、電磁波が供給される第1の極92および供給された電磁波を放射する第2の極93を有するアンテナ本体91と、アンテナ本体91の両側から、内側導体53の外側に沿って延び、リング状をなす反射部94とを有し、アンテナ本体91に入射された電磁波と反射部94で反射された電磁波とで定在波を形成するように構成されている。アンテナ本体91の第2の極93は内側導体53に接触している。
【0043】
給電アンテナ90がマイクロ波(電磁波)を放射することにより、外側導体52と内側導体53との間の空間にマイクロ波電力が給電される。そして、給電機構54に供給されたマイクロ波電力がアンテナ部43に向かって伝播する。
【0044】
導波路44にはチューナ60が設けられている。チューナ60は、チャンバ1内の負荷(プラズマ)のインピーダンスをマイクロ波出力部30におけるマイクロ波電源の特性インピーダンスに整合させるものであり、外側導体52と内側導体53との間に設けられた2つのスラグ61a,61bと、反射板58の外側(上側)に設けられたスラグ駆動部70とを有している。
【0045】
これらスラグのうち、スラグ61aはスラグ駆動部70側に設けられ、スラグ61bはアンテナ部43側に設けられている。また、内側導体53の内部空間には、その長手方向に沿って例えば台形ネジが形成された螺棒からなるスラグ移動用の2本のスラグ移動軸64a,64bが設けられている。
【0046】
スラグ61aは、図5に示すように、誘電体からなる円環状をなし、その内側に滑り性を有する樹脂からなる滑り部材63が嵌め込まれている。滑り部材63にはスラグ移動軸64aが螺合するねじ穴65aとスラグ移動軸64bが挿通される通し穴65bが設けられている。一方、スラグ61bは、スラグ61aと同様、ねじ穴65aと通し穴65bとを有しているが、スラグ61aとは逆に、ねじ穴65aはスラグ移動軸64bに螺合され、通し穴65bにはスラグ移動軸64aが挿通されるようになっている。これによりスラグ移動軸64aを回転させることによりスラグ61aが昇降移動し、スラグ移動軸64bを回転させることによりスラグ61bが昇降移動する。すなわち、スラグ移動軸64a,64bと滑り部材63とからなるねじ機構によりスラグ61a,61bが昇降移動される。
【0047】
図6に示すように、内側導体53には長手方向に沿って等間隔に3つのスリット53aが形成されている。一方、滑り部材63は、これらスリット53aに対応するように3つの突出部63aが等間隔に設けられている。そして、これら突出部63aがスラグ61a,61bの内周に当接した状態で滑り部材63がスラグ61a,61bの内部に嵌め込まれる。滑り部材63の外周面は、内側導体53の内周面と遊びなく接触するようになっており、スラグ移動軸64a,64bが回転されることにより、滑り部材63が内側導体53を滑って昇降するようになっている。すなわち内側導体53の内周面がスラグ61a,61bの滑りガイドとして機能する。なお、スリット53aの幅は5mm以下とすることが好ましい。これにより、後述するように内側導体53の内部へ漏洩するマイクロ波電力を実質的になくすことができ、マイクロ波電力の放射効率を高く維持することができる。
【0048】
滑り部材63を構成する樹脂材料としては、良好な滑り性を有し、加工が比較的容易な樹脂、例えばポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂を好適なものとして挙げることができる。
【0049】
上記スラグ移動軸64a,64bは、反射板58を貫通してスラグ駆動部70に延びている。スラグ移動軸64a,64bと反射板58との間にはベアリング(図示せず)が設けられている。また、内側導体53の下端には、導体からなる底板67が設けられている。スラグ移動軸64a,64bの下端は、駆動時の振動を吸収するために、通常は開放端となっており、これらスラグ移動軸64a,64bの下端から2〜5mm程度離隔して底板67が設けられている。なお、この底板67を軸受け部としてスラグ移動軸64a,64bの下端をこの軸受け部にて軸支させてもよい。
【0050】
スラグ駆動部70は筐体71を有し、スラグ移動軸64aおよび64bは筐体71内に延びており、スラグ移動軸64aおよび64bの上端には、それぞれ歯車72aおよび72bが取り付けられている。また、スラグ駆動部70には、スラグ移動軸64aを回転させるモータ73aと、スラグ移動軸64bを回転させるモータ73bが設けられている。モータ73aの軸には歯車74aが取り付けられ、モータ73bの軸には歯車74bが取り付けられており、歯車74aが歯車72aに噛合し、歯車74bが歯車72bに噛合するようになっている。したがって、モータ73aにより歯車74aおよび72aを介してスラグ移動軸64aが回転され、モータ73bにより歯車74bおよび72bを介してスラグ移動軸64bが回転される。なお、モータ73a,73bは例えばステッピングモータである。
【0051】
なお、スラグ移動軸64bはスラグ移動軸64aよりも長く、より上方に達しており、したがって、歯車72aおよび72bの位置が上下にオフセットしており、モータ73aおよび73bも上下にオフセットしている。これにより、モータおよび歯車等の動力伝達機構のスペースを小さくすることができ、これらを収容する筐体71を外側導体52と同じ径にすることが可能となる。
【0052】
モータ73aおよび73bの上には、これらの出力軸に直結するように、それぞれスラグ61aおよび61bの位置を検出するためのインクリメント型のエンコーダ75aおよび75bが設けられている。
【0053】
スラグ61aおよび61bの位置は、スラグコントローラ68により制御される。具体的には、図示しないインピーダンス検出器により検出された入力端のインピーダンス値と、エンコーダ75aおよび75bにより検知されたスラグ61aおよび61bの位置情報に基づいて、スラグコントローラ68がモータ73aおよび73bに制御信号を送り、スラグ61aおよび61bの位置を制御することにより、インピーダンスを調整するようになっている。スラグコントローラ68は、終端が例えば50Ωになるようにインピーダンス整合を実行させる。2つのスラグのうち一方のみを動かすと、スミスチャートの原点を通る軌跡を描き、両方同時に動かすと位相のみが回転する。
【0054】
アンテナ部43は、マイクロ波を放射するスロットを有し平面状をなす、表面波プラズマを発生するための表面波プラズマ発生用アンテナ81と、表面波プラズマ発生用アンテナ81の上面に設けられた遅波材82とを有している。遅波材82の中心には導体からなる円柱部材82aが貫通して底板67と表面波プラズマ発生用アンテナ81とを接続している。したがって、内側導体53が底板67および円柱部材82aを介して表面波プラズマ発生用アンテナ81に接続されている。遅波材82および表面波プラズマ発生用アンテナ81は、外側導体52よりも大径の円板状をなしている。外側導体52の下端は遅波材82の表面まで延びており、遅波材82および表面波プラズマ発生用アンテナ81および後述する天板83の周囲は被覆導体84により覆われている。
【0055】
遅波材82は、真空よりも大きい誘電率を有しており、例えば、石英、セラミックス、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂やポリイミド系樹脂により構成されており、真空中ではマイクロ波の波長が長くなることから、マイクロ波の波長を短くしてアンテナを小さくする機能を有している。遅波材82は、その厚さによりマイクロ波の位相を調整することができ、表面波プラズマ発生用アンテナ81が定在波の「はら」になるようにその厚さを調整する。これにより、反射が最小で、表面波プラズマ発生用アンテナ81の放射エネルギーが最大となるようにすることができる。
【0056】
表面波プラズマ発生用アンテナ81のさらに先端側には、表面波プラズマを生成するために電界が形成され、かつ真空シールするための誘電体部材、例えば石英やセラミックス等からなる天板83が配置されている。そして、メインアンプ47で増幅されたマイクロ波が内側導体53と外側導体52の周壁の間を通って表面波プラズマ発生用アンテナ81から天板83を透過してチャンバ1内の空間に放射される。
【0057】
上記表面波プラズマ発生用アンテナ81は、例えば図7に示すように、全体が円板状(平面状)をなすとともに、6個のスロット131が全体形状が円周状になるように形成されている。これらスロット131は全て同じ形状であり、円周に沿って細長い形状に形成されている。これらスロット131のうち隣接するもの同士の継ぎ目部分は、一方のスロット131の端部と他方のスロット131の端部とが内外で重なるように構成されている。すなわち、スロット131の中央部は、外側にある一方の端部と内側にある他方の端部を繋いだ状態となっており、6個のスロット131を内包する二点鎖線で示す円環領域132において外周と一致する一方の端部と内周と一致する他方の端部の間を斜めに結ぶようになっており、円周方向に隣接するスロットとスロットとの継ぎ目部分が、スロットに覆われるように構成され、周方向にスロットのない部分が存在しないようにしている。
【0058】
スロット131は、(λg/2)−δの長さを有する。ただし、λgはマイクロ波の実効波長であり、δは円周方向(角度方向)に電界強度の均一性が高くなるように微調整する微調整成分(0を含む)である。なお、スロット131の長さは約λg/2に限らず、λg/2の整数倍から微調整成分(0を含む)を引いたものであればよい。スロット131は、中央部と、その両側の一方の端部および他方の端部(オーバーラップ部分)とがほぼ均等な長さを有している。すなわち、中央部が(λg/6)−δ、その両側の端部がそれぞれ(λg/6)−δおよび(λg/6)−δの長さとなる。ただし、δ,δ、δは円周方向(角度方向)に電界強度の均一性が高くなるように微調整する微調整成分(0を含む)である。隣接するスロットがオーバーラップする部分の長さは等しいほうが好ましいので、δ=δであることが好ましい。本実施形態の場合、一つのスロット131の長さが約λg/2であり、それが6個であるから合計の長さが約3λgであるが、そのうちオーバーラップ部分は(λg/6)×6=λgであり、全体の長さは2λgとなるから、アンテナとしては、長さが約λg/2のスロットを円周状に4つ配置した従来のアンテナとほぼ等価なものとなる。スロット131は、その内周が、表面波プラズマ発生用アンテナ81の中心から(λg/4)±δ′の位置になるように形成される。ただし、δ′は径方向の電界強度分布を均一にするために微調整する微調整成分(0を含む)である。なお、中心からスロット内周までの長さは約λg/4に限らず、λg/4の整数倍に微調整成分(0を含む)を加えたものであればよい。
【0059】
このような表面波プラズマ発生用アンテナ81は、スロットとスロットの継ぎ目部分で電磁波強度が弱くなることを回避することができ、周方向(角度方向)のプラズマ均一性を良好にすることができる。
【0060】
ただし、スロットの数は6個に限らず、例えば5個や4個、また7個以上であっても同様の効果を得ることができる。また、表面波プラズマ発生用アンテナ81のスロット形状は図7のものに限らず、例えば複数の円弧状のスロットが円周上に均等に形成されたものであってもよい。
【0061】
図3および図7に示すように、遅波材82および表面波プラズマ発生用アンテナ81には、スロット131の内側に対応する領域に、これらを貫通して天板83の表面に達するセンサ挿入孔110が設けられている。このセンサ挿入孔110の個数は、表面波プラズマ発生用アンテナ81のスロット131の数のn倍(nは1以上の整数)であり、同軸構造の導波路44の軸を中心にして同一の円周上に均等(等角度)に設けられている。図7の場合には、スロット131の数が6個であり、センサ挿入孔110の個数は6個(n=1)である。
【0062】
センサ挿入孔110の少なくとも一つには、円筒状の金属からなる反射皮111を介して電界センサ112またはプラズマ発光センサ113が挿入される(図3参照)。電界センサ112またはプラズマ発光センサ113が挿入されないセンサ挿入孔110には、電磁波漏洩防止用のプラグ(ダミープラグ)を挿入してもよい。
【0063】
電界センサ112は、同軸ケーブル状をなし、先端がモノポールアンテナとなっている。具体的には、電界センサ112は、図8に示すように、内部導体121と、その外側の外部導体122と、これらの間に設けられたテフロン(登録商標)等の誘電体123とからなり、先端の3mm程度が外部導体122が存在しない切欠部124となっており、先端が内部導体121のみのモノポールアンテナを構成している。そして、この電界センサ112の先端125を天板83の裏面に接触または近接させることにより、先端の切欠部124から電磁波が入力され、信号を取り出すことができる。
【0064】
センサ挿入孔110の径としては、例えば3mm程度を用いることができる。これにより、電界センサ112として規格品の同軸ケーブル(内部導体:φ0.51mm、外部導体:φ2.19mm、誘電体:φ1.67mm)を用いることができる。
【0065】
本実施形態の場合、単一モードの表面波プラズマが生成され、そのため、天板83を構成する誘電体内に生成する定在波は同じパターンであり、定在波の腹節の位置は固定され、定在波の大きさはアンテナ出力パワーとともに大きくなる。電界センサ112はこれを利用するものである。つまり、電界センサ112を定在波の腹および節の位置を避けて天板83の裏面に接触または近接させれば、表面波プラズマ発生用アンテナ81からの出力パワーを直接モニタすることができることとなる。
【0066】
この場合のモニタ電力は、例えば図9に示すようになる。この場合に、モニタ線路に流れるモニタ電流は先端のモノポール部分の長さによって変化するため、モノポール部分の長さを調整することで、所望のモニタ電力を抽出することができる。また、電界センサ112の先端部と誘電体の天板83の裏面との距離を調整することにより検出する電界の強度を調整することでも検出電流の強さを調整することができる。
【0067】
モニタ線路を流れるモニタ電流値は電界に比例するが、天板83を通過する電力は電界の2乗に比例するため、モニタ電流値の2乗がこの通過電力に比例することとなり、例えば図10の関係が得られる。なお、電源から天板83まで電力が伝搬までの電力損失が無視できるくらい小さく、ほぼ全てのエネルギーがプラズマへ吸収されるとすると、入力電力と、天板83での通過電力はほぼ等しくなる。
【0068】
電界センサ112により検出された信号は、計測部126により計測され、計測部126に予め記憶された所定の値と比較することにより、表面波プラズマ発生用アンテナ81から正常に電磁波が放射されているか否かを把握することができる。また、電界センサ112は、天板83を介してプラズマと接しているので、例えばプラズマの条件(ガス種、圧力等)を変化したときの表面波プラズマ発生用アンテナ81の出力電界値の変化をモニタすることにより、プラズマのインピーダンスの変化を把握することができる。さらに、プラズマの着火・失火検出手段として用いることもできる。
【0069】
センサ挿入孔110に挿入するセンサがプラズマ発光センサ113の場合には、マイクロ波放射機構41がマイクロ波を放射しているときに、実際にプラズマが着火しているか否かを検出することができる。プラズマ発光センサ113としては、一般的な光学的センサが用いられ、受光素子により天板83を通してプラズマの発光を直接検出する。これにより十分な発光強度を得ることができ、高い検出精度を得ることができる。
【0070】
プラズマ発光センサ113により検出された信号は、計測部126において電源アンプ制御基板に取り込まれるようになっており、電源がONしてから所定時間(例えば5秒)以内に検出信号が検出できなければ、プラズマが着火していないとして電源をOFFするという制御が考えられる。
【0071】
本実施形態において、メインアンプ47と、チューナ60と、表面波プラズマ発生用アンテナ81とは近接配置している。そして、チューナ60と表面波プラズマ発生用アンテナ81とは1/2波長内に存在する集中定数回路を構成しており、かつ表面波プラズマ発生用アンテナ81、遅波材82、天板83は合成抵抗が50Ωに設定されているので、チューナ60はプラズマ負荷に対して直接チューニングしていることになり、効率良くプラズマへエネルギーを伝達することができる。
【0072】
表面波プラズマ処理装置100における各構成部は、マイクロプロセッサを備えた制御部140により制御されるようになっている。制御部140は表面波プラズマ処理装置100のプロセスシーケンスおよび制御パラメータであるプロセスレシピを記憶した記憶部や、入力手段およびディスプレイ等を備えており、選択されたプロセスレシピに従ってプラズマ処理装置を制御するようになっている。
【0073】
<表面波プラズマ処理装置の動作>
次に、以上のように構成される表面波プラズマ処理装置100における動作について説明する。
まず、ウエハWをチャンバ1内に搬入し、サセプタ11上に載置する。そして、プラズマガス供給源27から配管28およびプラズマガス導入部材26を介してチャンバ1内にプラズマガス、例えばArガスを導入しつつ、マイクロ波プラズマ源2からマイクロ波をチャンバ1内に導入して表面波プラズマを生成する。
【0074】
このようにして表面波プラズマを生成した後、処理ガス、例えばClガス等のエッチングガスが処理ガス供給源25から配管24およびシャワープレート20を介してチャンバ1内に吐出される。吐出された処理ガスは、シャワープレート20の空間部23を通過してきたプラズマにより励起されてプラズマ化し、この処理ガスのプラズマによりウエハWにプラズマ処理、例えばエッチング処理が施される。
【0075】
上記表面波プラズマを生成するに際し、マイクロ波プラズマ源2では、マイクロ波出力部30のマイクロ波発振器32から発振されたマイクロ波電力はアンプ33で増幅された後、分配器34により複数に分配され、分配されたマイクロ波電力はマイクロ波供給部40へ導かれる。マイクロ波供給部40においては、このように複数に分配されたマイクロ波電力は、ソリッドステートアンプを構成するメインアンプ47で個別に増幅され、マイクロ波放射機構41の導波路44に給電され、チューナ60によりインピーダンスが自動整合され、電力反射が実質的にない状態で、アンテナ部43の表面波プラズマ発生用アンテナ81および天板83を介してチャンバ1内に放射されて空間合成される。
【0076】
マイクロ波放射機構41の導波路44への給電は、同軸構造の導波路44の軸の延長線上にスラグ駆動部70が設けられているため、側面から行われる。すなわち、同軸線路56から伝播してきたマイクロ波(電磁波)が、導波路44の側面に設けられたマイクロ波電力導入ポート55において給電アンテナ90の第1の極92に到達すると、アンテナ本体91に沿ってマイクロ波(電磁波)が伝播して行き、アンテナ本体91の先端の第2の極93からマイクロ波(電磁波)を放射する。また、アンテナ本体91を伝播するマイクロ波(電磁波)が反射部94で反射し、それが入射波と合成されることにより定在波を発生させる。給電アンテナ90の配置位置で定在波が発生すると、内側導体53の外壁に沿って誘導磁界が生じ、それに誘導されて誘導電界が発生する。これらの連鎖作用により、マイクロ波(電磁波)が導波路44内を伝播し、アンテナ部43へ導かれる。
【0077】
このとき、導波路44において、給電アンテナ90から放射されるマイクロ波(電磁波)を反射板58で反射させることで最大のマイクロ波(電磁波)電力を同軸構造の導波路44に伝送することができるが、その場合、反射波との合成を効果的に行うために給電アンテナ90から反射板58までの距離が約λg/4の半波長倍になるようにすることが好ましい。
【0078】
マイクロ波放射機構41は、アンテナ部43とチューナ60とが一体となっているので、極めてコンパクトである。このため、マイクロ波プラズマ源2自体をコンパクト化することができる。さらに、メインアンプ47、チューナ60および表面波プラズマ発生用アンテナ81が近接して設けられ、特にチューナ60と表面波プラズマ発生用アンテナ81とは集中定数回路として構成することができ、かつ表面波プラズマ発生用アンテナ81、遅波材82、天板83の合成抵抗を50Ωに設計することにより、チューナ60により高精度でプラズマ負荷をチューニングすることができる。また、チューナ60は2つのスラグ61a,61bを移動することによりインピーダンス整合を行うことができるスラグチューナを構成しているのでコンパクトで低損失である。さらに、このようにチューナ60と表面波プラズマ発生用アンテナ81とが近接し、集中定数回路を構成してかつ共振器として機能することにより、表面波プラズマ発生用アンテナ81に至るまでのインピーダンス不整合を高精度で解消することができ、実質的に不整合部分をプラズマ空間とすることができるので、チューナ60により高精度のプラズマ制御が可能となる。
【0079】
さらにまた、スラグを駆動ささせるための駆動伝達部、駆動ガイド部、保持部に相当するものを内側導体53の内部に設けたので、スラグ61a,61bの駆動機構を小型化することができ、マイクロ波放射機構41を小型化することができる。
【0080】
ところで、本実施形態のようにプラズマを生成するために電磁波をアンテナより放射する装置において、実際にアンテナから放射されている実効電力を知ることは極めて重要である。従来は、アンテナから放射する電力ではなく、電源から出力されている電力、または電源とチューナとの間の電力を検出していた。しかしながら、例えば、チューナとアンテナとの間で電力損失や電磁界漏洩が生じたりする場合、電源から例えば1000W出力されている電力が出力されていても、アンテナからは例えば500Wしか放射されていな場合もあり得る。このような場合、部材の変質、変形、焼損などが起こる可能性がある。
【0081】
一方、プラズマ源をONした際に、プラズマが実際に着火しているか否かを監視することは極めて重要である。なぜならば、プラズマが着火しなかったり、着火していてもその後失火したりした場合には、そのままプロセスを進行すると、実際には処理が行われていないウエハがプロセスを行ったものとして次のプロセスに移り、不良品となってしまう。またプラズマが点灯していない状態で電力がチャンバへ送られる場合には、ほとんど負荷のない状態で電力が送られている状態になるので、場合によっては過度な反射電力がチャンバから電源に送られ、電源または電源とチャンバを繋ぐ線路に多大なダメージを及ぼす可能性がある。従来は、このようなプラズマの着火不良、失火等を検出する手段としてチャンバ側面などに形成された窓にプラズマ発光センサが用いられていた。しかしながら、このようなプラズマ発光センサの場合、全体のプラズマの着火の有無は把握できても、本実施形態のような複数のマイクロ波放射機構41を用いる場合には、その中の一部にプラズマが着火(点灯)していないものがあってもそれを検出することは困難である。
【0082】
そこで、本実施形態では、各マイクロ波放射機構41にセンサ挿入孔110を設け、そのセンサ挿入孔110に電界センサ112またはプラズマ発光センサ113を挿入して、一つのマイクロ波放射機構41の表面波プラズマ発生用アンテナ81から放射されるマイクロ波の電力の値、または、一つのマイクロ波放射機構41におけるプラズマの着火(点灯)の有無を把握する。
【0083】
電界センサ112は、上述したように、同軸ケーブルの先端に外部導体122が存在しない切欠部124を設けてモノポールアンテナ構造とすることにより、先端の切欠部124を介して天板83からの電磁波を入力することにより、天板83の電界を検出し、これにより、表面波プラズマ発生用アンテナ81からの出力パワーを直接モニタすることができる。
【0084】
電界センサ112により検出された信号は、計測部126により計測され、計測部126に予め記憶された所定の値と比較することにより、表面波プラズマ発生用アンテナ81から正常に電磁波が放射されているか否かを把握することができる。例えば、電源から電力を1000W供給しているときに適切な電子密度が得られ、適切なプロセス結果が得られているとすると、そのときに電界センサ112が検出した電界値(例えば、ピーク値や実効値)をモニタしておけば、その値と実測値とを比較することにより、正常な電力が表面波プラズマ発生用アンテナ81から放射しているか否かの判断を行うことができる。
【0085】
また、電界センサ112は、マイクロ波が照射された側に位置し、天板83を介してプラズマと接しているので、例えばプラズマの条件(ガス種、圧力等)を変化したときの表面波プラズマ発生用アンテナ81の出力電界値の変化をモニタすることにより、プラズマのインピーダンスの変化を把握することができる。プラズマインピーダンスの値が高くなれば電界値は高くなる。これにより、プロセスに応じて適切なプラズマ条件を得るための電力値を把握することが可能となる。
【0086】
さらに、電界センサ112をプラズマの着火・失火検出手段として用いることもできる。具体的には、電界センサ112からの信号と予め測定しておいた着火時の信号とを比較することで、着火・失火を判断することができる。これにより、従来のようにチャンバ側面に窓を設置することが不要であり、従来よりも単純な構造で遙かに安価な着火・失火検出手段を実現することができる。
【0087】
プラズマ発光センサ113は、受光素子により天板83を通してプラズマの発光を直接検出するので十分な発光強度を得ることができ、各マイクロ波放射機構41の直下のプラズマ着火または失火を高い精度で検出することができる。
【0088】
この場合に、高精度に電力の値やプラズマの着火の有無を把握するためには、表面波プラズマ発生用アンテナ81のスロットの内側に対応する位置でこれらを検出することが好ましい。そのためには、遅波材82および表面波プラズマ発生用アンテナ81のスロットの内側に対応する位置にセンサ挿入孔を設ける必要があるが、スロットの内側に対応する位置に1箇所のセンサ挿入孔を形成すると、遅波材82内の電磁波を乱し、プラズマ中へ不均一な電磁波を放射してしまい、電界分布が偏心してしまう。
【0089】
例えば、図11(a)には、スロットが5つの表面波プラズマ発生用アンテナを用い、センサ挿入孔を1箇所設けた場合の電界シミュレーションの結果を示すが、電界分布がセンサ挿入孔側に偏心しているのがわかる。
【0090】
そこで、本実施形態では、表面波プラズマ発生用アンテナ81のスロット131の数のn倍(nは1以上の整数)の個数のセンサ挿入孔110を、同軸構造の導波路44の軸を中心にして同一の円周上に均等(等角度)に設け、これらの少なくとも一つに電界センサ112またはプラズマ発光センサ113を挿入することとしている。これにより、センサ挿入孔の電磁波への影響が打ち消し合って、電界分布を乱すことなく、アンテナから出力される電力やアンテナ直下のプラズマ状態を検出することができる。
【0091】
図11(b)は、5個のスロットを有する表面波プラズマ発生用アンテナにおいて、センサ挿入孔を同軸構造の導波路44の軸を中心にして同一の円周上に5個均等(等角度)に設けた場合の電界シミュレーション結果であるが、このように本実施形態に従ってセンサ挿入孔110を形成することにより、電界分布の偏心を防止することができることが確認された。
【0092】
センサ挿入孔を5個均等に設け、センサ挿入孔にプラグを挿入した場合における、プラグ(センサ挿入孔)の回転角度、径方向の位置、プラグ(センサ挿入孔)の直径による電界のばらつきを調査した。比較のため、プラグ(センサ挿入孔)を設けない場合、およびプラグ(センサ挿入孔)を1個のみ設けた場合についても同様に電界のばらつきを調査した。その際の回転角度、径方向の位置、プラグ直径の説明および電界のばらつきの結果を図12(a),(b)に示す。なお、図12(b)におけるサークル1はアンテナ中心から半径65mmの領域の電界のばらつきであり、サークル2はアンテナ中心から半径37.5mmの領域の電界のばらつきである。
【0093】
図12(b)において、No.1はプラグを設けない場合、No.2はプラグを1個のみ設けた場合、No.3〜13はプラグを5個設けた場合であり、No.3〜7は回転角度を変化させたもの、No.8〜10は径方向位置を変化させたもの、No.11〜13はプラグ径を変化させたものである。図12(b)に示すように、プラグが1個のみの場合には、サークル2において円周方向のばらつきが大きくなっているが、プラグを5個設けた場合には、プラグが導波路中心軸を中心とする円の同一円周上にあり、スロットと同じ数均等に設けられていれば、回転角度、径方向の位置、プラグ直径とは関係なく、プラグがない場合と同等の電界分布が得られることがわかる。
【0094】
また、センサ挿入孔110の先端は天板83に接するため、センサ挿入孔110内部から電磁波(マイクロ波)が漏洩し、センサによる計測に悪影響を与えることが懸念される。しかし、電磁波は距離が大きくなると減衰するため、電磁波の影響が懸念される部分、すなわち電界センサ112の場合には計測基板、プラズマ発光センサ113の場合には受光素子を、天板83の裏面からある程度離すことによりそのような悪影響を回避することができる。例えば、マイクロ波の波長が348mm(周波数860MHz)で、センサ挿入孔110の径が3.0mmの場合、図13に示すように、接触面から4.0mm離れた位置で減衰定数が50dBとなり、十分な減衰定数が得られる。したがって、この場合には、電界センサ112の計測基板、またはプラズマ発光センサ113の受光素子を天板83の裏面から4.0mm以上離せば、天板83からの電磁波の影響を回避することができる。また、使用波長に比べて十分にセンサ挿入孔110の径を小さくすることによってもこのような悪影響を回避することができる。
【0095】
本実施形態では、センサとして電界センサ112を用いる場合、天板83に対してセンサ挿入孔110を形成することにより、大気中へ細穴空間を形成して、そこから電力を取り出すこととなるため、そこでの電力損失が懸念される。しかし、取り出す電力はセンサ挿入孔110の径、電界センサ112のモノポールアンテナを最適化することにより電源出力電力に対して十分に減衰(例えば−60dB)させることができるので、電力損失を十分に小さくしつつ十分な電力を取り出すことができる。
【0096】
<他の適用>
なお、本発明は上記実施形態に限定されることなく、本発明の思想の範囲内において種々変形可能である。例えば、マイクロ波出力部30やマイクロ波供給部40の構成等は、上記実施形態に限定されるものではない。具体的には、アンテナから放射されるマイクロ波の指向性制御を行ったり円偏波にしたりする必要がない場合には、位相器は不要である。
【0097】
また、上記実施形態においては、プラズマ処理装置としてエッチング処理装置を例示したが、これに限らず、成膜処理、酸窒化膜処理、アッシング処理等の他のプラズマ処理にも用いることができる。さらに、被処理基板は半導体ウエハWに限定されず、LCD(液晶ディスプレイ)用基板に代表されるFPD(フラットパネルディスプレイ)基板や、セラミックス基板等の他の基板であってもよい。
【符号の説明】
【0098】
1;チャンバ
2;マイクロ波プラズマ源
11;サセプタ
12;支持部材
15;排気管
16;排気装置
17;搬入出口
20;シャワープレート
30;マイクロ波出力部
31;マイクロ波電源
32;マイクロ波発振器
40;マイクロ波供給部
41;マイクロ波放射機構
43;アンテナ部
44;導波路
52;外側導体
53;内側導体
54;給電機構
55;マイクロ波電力導入ポート
56;同軸線路
58;反射板
60;チューナ
81;表面波プラズマ発生用アンテナ
82;遅波材
83;天板
100;表面波プラズマ処理装置
110;センサ挿入孔
112;電界センサ
113;プラズマ発光センサ
140;制御部
W;半導体ウエハ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバ内に表面波プラズマを形成するための表面波プラズマ源におけるマイクロ波出力部から出力されたマイクロ波を伝送するマイクロ波伝送路に設けられ、マイクロ波をチャンバ内に放射するマイクロ波放射機構であって、
前記マイクロ波伝送路を伝送されてきたマイクロ波を、スロットを介して前記チャンバ内に放射して表面波プラズマを発生させる表面波プラズマ発生用アンテナと、
前記マイクロ波伝送路の前記表面波プラズマ発生用アンテナの上流側に設けられた誘電体からなる遅波材と、
前記マイクロ波伝送路の前記表面波プラズマ発生用アンテナの下流側に設けられ、前記表面波プラズマ発生用アンテナから放射されたマイクロ波により前記表面波プラズマを生成するための電界が形成される誘電体部材と、
前記表面波プラズマ発生用アンテナから放射されたマイクロ波の電力を計測するために前記誘電体部材の電界を検出する電界センサ、または、前記誘電体部材を介して表面波プラズマの発光を検出するプラズマ発光センサと、
前記遅波材および前記表面波プラズマ発生用アンテナを貫通するように設けられ、前記電界センサまたは前記プラズマ発光センサが挿入されるセンサ挿入孔と、
を具備し、
前記センサ挿入孔は、前記遅波材および前記表面波プラズマ発生用アンテナの前記スロット内側に対応する領域に、前記マイクロ波伝送路の軸を中心とした同一の円周上に前記スロットのn倍(ただし、nは1以上の整数)の個数が均等に形成されており、
前記電界センサまたは前記プラズマ発光センサは、前記センサ挿入孔の少なくとも一つに挿入されていることを特徴とするマイクロ波放射機構。
【請求項2】
前記電界センサは、先端にモノポール部分を有する同軸ケーブルで構成され、前記誘電体部材に前記モノポール部分を接触または近接させることにより、前記誘電体部材に生じている電界をモニタすることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波放射機構。
【請求項3】
前記電界センサは、前記表面波プラズマ発生用アンテナから正常に電磁波が放射されているか否かを把握する機能、プロセスに応じて適切なプラズマ条件を得るための電力値を把握する機能、および、プラズマの着火または失火を検出する機能を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のマイクロ波放射機構。
【請求項4】
前記プラズマ発光センサは、前記誘電体部材を介してプラズマの発光を検出する受光素子を有し、受光素子が前記誘電体部材に接触または近接していることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波放射機構。
【請求項5】
前記センサ挿入孔のうち、前記電界センサまたは前記プラズマ発光センサが挿入されていないものについて、電磁波漏洩防止用のプラグが挿入されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のマイクロ波放射機構。
【請求項6】
マイクロ波を生成するマイクロ波生成機構および生成されたマイクロ波をチャンバ内に放射する複数のマイクロ波放射機構を有し、前記チャンバ内にマイクロ波を放射して前記チャンバ内に供給されたガスによる表面波プラズマを生成する表面波プラズマ源であって、
前記のマイクロ波放射機構として、請求項1から請求項5のいずれかに記載のものを用いることを特徴とする表面波プラズマ源。
【請求項7】
被処理基板を収容するチャンバと、
前記チャンバ内にガスを供給するガス供給機構と、
マイクロ波を生成するマイクロ波生成機構および生成されたマイクロ波を前記チャンバ内に放射する複数のマイクロ波放射機構を有し、前記チャンバ内にマイクロ波を放射して前記チャンバ内に供給されたガスによる表面波プラズマを生成する表面波プラズマ源と
を具備し、
前記チャンバ内の被処理基板に対して前記表面波プラズマにより処理を施す表面波プラズマ処理装置であって、
前記マイクロ波放射機構として、請求項1から請求項5のいずれかに記載のものを用いることを特徴とする表面波プラズマ処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図13】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−77441(P2013−77441A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216540(P2011−216540)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】