説明

マイクロ波透過性容器入りとうもろこし粒含有液状食品の製造方法

【課題】電子レンジによる加熱時にとうもろこし粒が砕けることを抑制することができ、加熱後もとうもろこし粒が適度な食感を保持できる、とうもろこし粒含有液状食品を製造できる方法を提供すること。
【解決手段】とうもろこし粒を酸性水溶液に浸漬して軟化させる酸処理工程、軟化したとうもろこし粒をカルシウムイオン含有水溶液に浸漬するカルシウム処理工程、カルシウム処理されたとうもろこし粒を液状食品に加えてとうもろこし粒含有液状食品を調製する工程、及びとうもろこし粒含有液状食品をマイクロ波透過性容器に充填密封する工程とを含むマイクロ波透過性容器入りとうもろこし粒含有液状食品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子レンジによる加熱時にとうもろこし粒が砕けるのを抑制することができるマイクロ波透過性容器入りとうもろこし粒含有液状食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロ波透過性容器に食品を収容してなり、電子レンジで加熱するだけで簡単に調理することができる種々の容器入り食品が市販されている。これらの容器入り食品のうち、固形具材を含むスープを容器に収容した商品も種々市販されているが、固形具材の種類によっては、電子レンジによる加熱時に、固形部材が砕けてしまい、固形部材本来の食感や味が損なわれてしまう場合があった。
このような問題を解決するために、固形具材の細胞壁等に存在するペクチンの性質を変えることで硬化させ、この硬化処理がなされた固形具材をスープ液材に混入した状態で高温短時間殺菌処理する方法が提案されている(特許文献1)。特許文献1の実施例では、固形具材としてジャガイモを用い、ペクチンの性質を変える硬化処理として、酢酸水溶液に60分間温浴される方法、塩化カルシウム水溶液に60分間温浴される方法、精製ペクチンメチルエステラーゼ酵素を添加した水溶液に60分間温浴される方法を採用している。
又、固形具材を予めカルシウム塩水溶液に浸漬することによりレトルト殺菌時の煮崩れを防止する方法も知られている(特許文献2)。
しかしながら、固形具材として、とうもろこし粒を用いた場合、これらの方法では、電子レンジによる加熱時にとうもろこし粒が砕けるのを十分抑制するのが困難であることが判明した。
【0003】
【特許文献1】特開2005−130709号公報
【特許文献2】特公平3−71102号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、電子レンジによる加熱時にとうもろこし粒が砕けることを抑制することができ、加熱後もとうもろこし粒が適度な食感を保持できる、とうもろこし粒含有液状食品を製造できる方法を提供することを目的とする。
本発明は、又、上記液状食品に具材として好適に用いることができるカルシウム処理されたとうもろこし粒の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、とうもろこし粒を酸性水溶液に浸漬して軟化させる酸処理工程と軟化したとうもろこし粒をカルシウムイオン含有水溶液に浸漬するカルシウム処理工程を組み合わせて採用すると、上記課題を解決できるとの知見に基づいてなされたものである。
すなわち、本発明は、とうもろこし粒を酸性水溶液に浸漬して軟化させる酸処理工程、
軟化したとうもろこし粒をカルシウムイオン含有水溶液に浸漬するカルシウム処理工程、
カルシウム処理されたとうもろこし粒を液状食品に加えてとうもろこし粒含有液状食品を調製する工程、及び
とうもろこし粒含有液状食品をマイクロ波透過性容器に充填密封する工程とを含むことを特徴とするマイクロ波透過性容器入りとうもろこし粒含有液状食品の製造方法を提供する。
本発明は、又、とうもろこし粒を酸性水溶液に浸漬して軟化させ、次いで軟化したとうもろこし粒をカルシウムイオン含有水溶液に浸漬することを特徴とするカルシウム処理されたとうもろこし粒の製造方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明では、とうもろこし粒として、生のものや乾燥したものなどを用いることができる。品質安定の点からブランチングしたものを使用するのがよい。ブランチング処理としては、90〜98℃の熱水に浸漬する方法や蒸気を直接吹き付ける方法があげられる。
本発明では、所望により、とうもろこし粒から付着物や汚れをとるための洗浄処理などを行なった後、酸処理工程によりとうもろこし粒を軟化させる。酸処理工程は、好ましくはpH1〜4の酸性水溶液を用い、この水溶液にとうもろこし粒を、好ましくは50〜100℃、より好ましくは80〜100℃で、1〜10時間浸漬させるのが好ましい。酸としては、乳酸やクエン酸などの有機酸や硫酸などの無機酸を用いるのがよく、なかでも有機酸を用いるのが好ましく、特に乳酸を用いるのが好ましい。
本発明では、次いで、酸性水溶液からとうもろこし粒を取り出して、カルシウムイオン含有水溶液に浸漬するカルシウム処理工程に進むのが好ましい。酸性水溶液からとうもろこし粒を取り出した後、カルシウムイオン含有水溶液に浸漬する前に、とうもろこし粒を水洗するのが好ましい。
【0007】
カルシウム処理工程では、軟化したとうもろこし粒をカルシウムイオン含有水溶液に、好ましくは50〜70℃で10分間以上(より好ましくは20分〜1時間)浸漬するのがよい。使用するカルシウムイオン含有水溶液としては、pH6〜8のものが好ましく、カルシウムイオンがカルシウムの無機塩及び/又は有機塩からもたらされるのが好ましく、特に乳酸カルシウムからもたらされるのが好ましい。又、カルシウムイオン含有水溶液中のカルシウムイオンがカルシウムの無機塩及び/又は有機塩からもたらされる場合、カルシウムイオン含有水溶液中のカルシウムの無機塩及び/又は有機塩の濃度は23〜183mMであるのがよい。又、例えばカルシウムイオンが塩化カルシウムからもたらされる場合、カルシウムイオン含有水溶液中の塩化カルシウムの濃度は0.25〜2.0重量%であるのが好ましい。又、カルシウムイオンが乳酸カルシウムからもたらされる場合、カルシウムイオン含有水溶液中の乳酸カルシウムの濃度は0.5〜4.0重量%であるのが好ましい。
【0008】
本発明では、次いで、カルシウムイオン含有水溶液からとうもろこし粒を取り出して、液状食品に加えるとうもろこし粒含有液状食品調製工程に進むのが好ましい。尚、カルシウムイオン含有水溶液からとうもろこし粒を取り出した後、液状食品に加える前に、とうもろこし粒を水洗するのが好ましい。
とうもろこし粒含有液状食品調製工程では、カルシウム処理されたとうもろこし粒を液状食品の中に加えてもよいし、逆にカルシウム処理されたとうもろこし粒に液状食品を加えてもよく、あるいはカルシウム処理されたとうもろこし粒と液状食品とが同時に接触するようにしてとうもろこし粒含有液状食品を調製してもよい。この際、攪拌するのが好ましい。カルシウム処理されたとうもろこし粒と液状食品の割合は、最終商品に応じて適宜決定することができる。
【0009】
本発明では、次に、とうもろこし粒含有液状食品をマイクロ波透過性容器に充填密封する。この充填密封工程は、通常の操作により行なうことができる。本発明では、とうもろこし粒含有液状食品にUHT殺菌などの加熱殺菌を施し、次いで容器に充填密封してもよく、又は、とうもろこし粒含有液状食品を容器に充填密封し、次いでレトルト殺菌やチルド殺菌などの加熱殺菌を施してもよい。
本発明では、合成樹脂製のパウチや成形容器などのマイクロ波透過性容器を用いる。本発明で対象とするマイクロ波透過性容器入りとうもろこし粒含有液状食品としては、ポタージュ等のスープ、パスタソース、シチューなどがあげられる。
次に、実施例及び比較例を示して本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0010】
実施例1
冷凍コーン(とうもろこし粒)に、下記の酸処理(軟化)工程、カルシウム処理工程、とうもろこし粒含有液状食品調製工程、及び充填密封工程を適用して容器入りポタージュを製造した。
酸処理(軟化)工程
90℃の温水に乳酸を加えてpH2.5となる0.45重量%の乳酸溶液を調製し、この乳酸溶液300kgに冷凍コーン(とうもろこし粒)300kgを投入して攪拌しながら乳酸溶液の温度が90℃に達するまで加熱し、90℃に達したらこの温度を保持しながら、コーンを乳酸溶液に4時間浸漬した。その後、乳酸溶液からコーンを分離した。
カルシウム処理工程
60℃の温水に乳酸カルシウムを加えて2重量%の乳酸カルシウム溶液を調製し、この乳酸カルシウム溶液600kgに軟化処理したコーン300kgを投入し、乳酸カルシウム溶液の温度を60℃に保持しながら、コーンを乳酸カルシウム溶液に25分間浸漬した。その後、乳酸カルシウム溶液からコーンを分離した。
【0011】
とうもろこし粒含有液状食品調製工程
カルシウム処理したコーン15重量部と別途調製したポタージュスープ85重量部とを混合し、コーン入りのポタージュを調製した。このコーン入りのポタージュを、かき取り式熱交換機を用いて133℃まで昇温させてから133℃で3分間保持し、煮込み調理を兼ねた高温殺菌処理を施し、その後15℃にまで冷却した。
充填密封工程
無菌雰囲気内で、ポリプロピレン製のカップ容器(200ml容)に、ポタージュを160mlずつ充填密封し、容器入りポタージュを製造した。
【0012】
実施例2
酸性水溶液として0.45重量%の乳酸溶液に代えて、0.4重量のクエン酸水溶液(pH2.5)を用いた以外は実施例1と同様にして容器入りポタージュを製造した。
実施例3
酸性水溶液として0.45重量%の乳酸溶液に代えて、0.015重量%の硫酸水溶液(pH2.5)を用いた以外は実施例1と同様にして容器入りポタージュを製造した。
【0013】
比較例1
60℃の温水に塩化カルシウムを加えて2.0重量%の塩化カルシウム溶液を調製し、この塩化カルシウム溶液に、冷凍コーンを塩化カルシウム溶液の温度を60℃に保持しながら、コーンを塩化カルシウム溶液に28分間浸漬した。その後、塩化カルシウム溶液からコーンを分離した。その後、実施例1と同様に、とうもろこし粒含有液状食品調製工程、及び充填密封工程を経て容器入りポタージュを製造した。
比較例2
塩化カルシウムの代わりに、乳酸カルシウムを用いた以外は比較例1と同様にして容器入りポタージュを製造した。
【0014】
カルシウム処理工程直後のとうもろこし粒及び充填密封工程を経て製造された容器入りポタージュの特性を以下の方法で測定した。
とうもろこし粒子の硬さ
カルシウム処理工程直後のとうもろこし粒子の硬さを、レオメーターで破断応力を測定することにより調べた。具体的には、(株)山電製のレオメーターに、Ф20mmのプランジャーを用い、速度1.0mm/sの条件で硬さを測定した。
電子レンジによる加熱調理時の変化
1900Wの電子レンジで容器入りポタージュを30秒間加熱した後に容器を開封し、内部のとうもろこし粒について、その形状が崩れたものがあるか否かを評価した。
結果をまとめて表1に示す。
【0015】
表1

表1の結果から、本発明によれば、電子レンジによる加熱時にとうもろこし粒が砕けるのを抑制することができることがわかる。又、実施例の容器入りポタージュを電子レンジにより加熱し、喫食したところ、とうもろこし粒が適度な食感を保持していることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
とうもろこし粒を酸性水溶液に浸漬して軟化させる酸処理工程、
軟化したとうもろこし粒をカルシウムイオン含有水溶液に浸漬するカルシウム処理工程、
カルシウム処理されたとうもろこし粒を液状食品に加えてとうもろこし粒含有液状食品を調製する工程、及び
とうもろこし粒含有液状食品をマイクロ波透過性容器に充填密封する工程とを含むことを特徴とするマイクロ波透過性容器入りとうもろこし粒含有液状食品の製造方法。
【請求項2】
酸性水溶液のpHが1〜4である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
酸性水溶液が乳酸水溶液である請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
カルシウムイオンがカルシウムの無機塩及び/又は有機塩からもたらされる請求項1〜3のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項5】
カルシウムイオンが乳酸カルシウムからもたらされる請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
とうもろこし粒含有液状食品を加熱殺菌してマイクロ波透過性容器に充填密封する、請求項1〜5のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項7】
とうもろこし粒を酸性水溶液に浸漬して軟化させ、次いで軟化したとうもろこし粒をカルシウムイオン含有水溶液に浸漬することを特徴とするカルシウム処理されたとうもろこし粒の製造方法。

【公開番号】特開2009−201475(P2009−201475A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−49928(P2008−49928)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(000111487)ハウス食品株式会社 (262)
【Fターム(参考)】