説明

マイクロ波配管減肉計測システム

【課題】配管内の減肉を計測する、マイクロ波配管減肉計測システムの提供
【解決手段】マイクロ波を配管内に伝播させ、マイクロ波の波長が配管の内径に依存する特徴を利用して、配管内の減肉により発生するマイクロ波の波長変化を計測することにより、マイクロ波非破壊検査を行うものである。配管内を伝播するマイクロ波の波長の変化を高感度に計測するために、配管内のマイクロ波を共振させることにより、マイクロ波の波長変化の計測を行う。
マイクロ波の発生、マイクロ波の計測、周波数の掃引等の制御には、ネットワークアナライザ100を用いた。ネットワークアナライザ100のマイクロ波発生部102から配管内へのマイクロ波の導入、配管内からのマイクロ波の引出、計測部104への導入には同軸ケーブルセンサ108を用いた。測定対象としたのは、円筒管110である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、配管内の減肉を、マイクロ波を用いることにより非破壊的に計測することに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、配管減肉に起因した事故がたびたび報告されてきた。安全・安心な社会を構築するため、高経年エネルギー機器の状態監視技術の更なる高度化は必要不可欠である。その一環として、配管の状態監視技術の実現は、そのニーズが非常に高いにもかかわらず、いまだ確立されていない状況にある。
現状では、配管減肉の場所が想定される場合、超音波法による非破壊検査技術が確立されている(非特許文献1,2参照)。しかしながら、局部的な検査しかできず、また検査にかかる作業量が膨大であり、状態監視技術として不向きである。
したがって、広範囲・高速かつ簡便な配管非破壊検査技術の開発、さらに、配管減肉のリモート計測および配管減肉のモニタリング技術の確立は、高経年エネルギー機器の配管状態監視技術の実現に極めて重要であり、早急に解決すべき課題である。
【0003】
【非特許文献1】Leonard, K. R. and Hinders, M. K., Lamb Wave Tomography of Pipe-Like Structures, Ultrasonics, 43-7, (2005), 574-583
【非特許文献2】Cho, Y., Oh, W. D. and Lee, J. H.,A Wall Thinning Detection and Quantification Based on Guided Wave Mode Conversion Features, Key Engineering Materials, 321-323 (2006), 795-798
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明の目的は、配管内におけるマイクロ波の伝播原理に基づき、配管内の減肉を広範囲・高速に計測する、マイクロ波配管減肉計測システムの提供である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を達成するために、本発明は、配管内部の減肉をマイクロ波で計測するマイクロ波配管減肉計測システムであって、マイクロ波発生部と、マイクロ波計測部と、前記マイクロ波発生部からのマイクロ波を前記配管の内部に導入し、内部からのマイクロ波を受信し、前記マイクロ波計測部に入力するセンサと、前記マイクロ波発生部からのマイクロ波の周波数を掃引制御し、前記マイクロ波計測部からの計測結果から、共振周波数を求めて、前記配管内部の減肉を求める制御部とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
配管内を伝播するマイクロ波の波長の変化を高感度に計測するために、配管内のマイクロ波を共振させることにより、マイクロ波の波長変化の高感度計測を実現できた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本願発明を、図面を用いて以下に詳しく説明する。
<測定原理>
本発明は、マイクロ波を配管内に伝播させ、マイクロ波の波長が配管の内径に依存する特徴を利用して、配管内の減肉により発生するマイクロ波の波長変化を計測することにより、広範囲・高速なマイクロ波非破壊検査を行うものである。
配管内の減肉を高感度に検出するため、配管内を伝播するマイクロ波の波長の変化を高感度に計測するために、本発明では、配管内のマイクロ波を共振させることにより、マイクロ波の波長変化の高感度計測を実現する。
【0008】
本発明では、被検査物である配管を、マイクロ波を伝送できる円型導波管として考える。配管内に送信されたマイクロ波は、図1に示すように、二つの信号に分解され、一つは、配管中に伝播することがなく、直接受信センサに到達する。もう一つは、配管に沿って伝播して、減肉部あるいは配管の端部で反射され、同じ受信センサに到達し、受信される。受信センサに到達したこの二つの信号分量により、一定の条件で共鳴現象が誘起される。その共振周波数は、配管の内径に依存する。式(1)に配管内を伝播するマイクロ波の波長λg を示す。
【数1】

ここで, fはマイクロ波の周波数,dは配管の内径,μとεは、はそれぞれ配管内媒質の透磁率および誘電率である。
式(1)から分かるように,減肉によって、配管一部の内径が大きくなる場合、配管内の減肉部に伝播するマイクロ波の波長が小さくなる。したがって、減肉を有する配管内のマイクロ波を共振させるため、より長い波長の波が必要となる。つまり、減肉が発生する場合、減肉の量に応じて、配管内マイクロ波の共振周波数が低くなる。
したがって、共振周波数の変化を測定することによって、減肉に起因したマイクロ波の波長の変化を高精度に測定することが可能となり、減肉を定量評価することができる。
【実施例】
【0009】
ここで、図2に示すようなマイクロ波配管減肉計測システムの構成で、実際に減肉を模した配管を測定した。
マイクロ波配管減肉計測システム100のマイクロ波発生部102から配管内へのマイクロ波の導入、配管内からのマイクロ波の引出、計測部104への導入には同軸ケーブルセンサ108を用いた。測定対象としたのは、円筒管110で、終端には、マイクロ波を反射させるキャップ112と、減肉を模したジョイント114を取り付けた。制御部106では、周波数の掃引の制御や、計測部104からの計測結果の演算・表示等の制御を行う。
今回の計測では、マイクロ波配管減肉計測システムにおけるマイクロ波の発生,マイクロ波の計測,周波数の掃引等の制御には、ネットワークアナライザを用いた。
【0010】
実際に計測した配管110の材質は銅であり、長さは900mm,内径は17mm,肉厚は1mmである。配管の一端は、前述のマイクロ波同軸ケーブルセンサ108と接続され(図3の写真参照)、もう一端は異なる減肉を導入するため、減肉ジョイント114と接続されている(図4の写真参照)。また、配管内に伝播するマイクロ波を反射させるため、ジョイント114の端部にキャップ112をつけることによって、短絡端を形成した。図5に、実施例において用いたジョイントおよびキャップの写真を示す。ジョイント114を利用して配管に導入した減肉の量を表1に示す。
【表1】

【0011】
図6に配管の一端を開放して、無共振状態での測定結果のグラフを示す。縦軸は測定されたマイクロ波信号の振幅、横軸は掃引したマイクロ波の周波数である。図7は、異なる減肉量の配管減肉試験片に対してマイクロ波計測を実施した結果を示すグラフである。図7において、振幅が急激に大きくなる箇所が共振周波数を示す。
図7のグラフにより、減肉量の増加に伴い、マイクロ波の共振周波数が減少していくことが分かる。図7に示すような共振周波数を測定することによって、配管内の減肉を高感度に検出することができる。また、配管中を伝播するマイクロ波の減衰が非常に小さいため、今回の測定により、さらに遠く離れた場所においても減肉の非破壊検出が可能と考えられる。
【0012】
図8は、図7からまとめたマイクロ波の共振周波数と配管減肉量との関係を示すグラフある。10%tの減肉量を変化する場合、共振周波数の変化は6MHz以上である。本計測システムの周波数分解能は1Hzであるため、マイクロ波の共振周波数を計測することにより、図8に示すような共振周波数と減肉との関係から、配管減肉を高精度に定量評価することができる。また、今回の測定では、配管長さ900mmの検査範囲で10%t以上の減肉を検出できることが確認された。さらに、配管長さ900mmの検査範囲で0.2mmの精度で減肉を測定できることが確認された。
【0013】
上述のように、マイクロ波配管減肉計測システムを構築し、人工減肉配管試験片を用いてマイクロ波による減肉の検出および評価の有効性について検証した。計測結果により、配管に導入したマイクロ波の共振周波数と減肉とは相関があり、共振周波数を計測することにより、広い検査範囲での配管減肉の高感度検出および高精度評価が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】配管中のマイクロ波の伝播を示す図である。
【図2】実施例で用いたマイクロ波配管減肉計測システムの構成を示す図である。
【図3】配管の一端がマイクロ波同軸ケーブルセンサと接続されることを示す写真である。
【図4】減肉を導入するために減肉ジョイントと接続されていることを示す写真である。
【図5】実施例において用いたジョイントおよびキャップを示す写真である。
【図6】配管の一端を開放して、無共振状態での測定結果のグラフである。
【図7】異なる減肉量の配管減肉試験片に対してマイクロ波計測を実施した結果を示すグラフである。
【図8】図7からまとめたマイクロ波の共振周波数と配管減肉量との関係を示すグラフある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配管内部の減肉をマイクロ波で計測するマイクロ波配管減肉計測システムであって、
マイクロ波発生部と、
マイクロ波計測部と、
前記マイクロ波発生部からのマイクロ波を前記配管の内部に導入し、内部からのマイクロ波を受信し、前記マイクロ波計測部に入力するセンサと、
前記マイクロ波発生部からのマイクロ波の周波数を掃引制御し、前記マイクロ波計測部からの計測結果から、共振周波数を求めて、前記配管内部の減肉を求める制御部と
を備えることを特徴とするマイクロ波配管減肉計測システム。

【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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