説明

マイクロ流体素子を通して流体を輸送する方法

マイクロ流体素子(10)の導管(22)を通して流体を輸送する方法が提供される。導管(22)は入口ポート(28)および出口ポート(32)を有している。導管(22)は流体で満たされている。また、入力ポート(28)の流体と出力ポート(28)の流体との間に、圧力勾配が生成される。その結果、流体は導管(22)を通って出力ポート(32)へと流れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府許可への言及
この発明は次の機関によって授与されたアメリカ合衆国の国庫補助を用いて案出された。
国防総省高等研究計画局 F30602−00−2−0570
アメリカ合衆国はこの発明の中に一定の権利を所有している。
【0002】
この発明は、広くはマイクロ流体素子に関連し、特にマイクロ流体素子の導管を通して流体を輸送(pumping)する方法に関連する。
【背景技術】
【0003】
周知のように、マイクロ流体素子はますます多くの応用例において使用されている。しかしながら、そのようなマイクロ流体素子のための使用の一層の拡大は、利用と製作の困難さおよび費用により限定的であった。マイクロ流体素子を遍在的な用具にするためには、そのようなマイクロ流体素子内の圧力に基づいた流れを生成するための効率的で単純な方法が必須であることが分かる。
【0004】
マイクロ流体素子の導管を通して流体を輸送するために、いくつかの非伝統的な輸送方法が開発されており、そのうちのいくらかは有望な結果を示している。しかしながら、実際の輸送機構(例えばシリンジ・ポンプ)にしても、輸送機構(例えばパワー増幅器)を駆動するエネルギーにしても、ほとんどすべての輸送方法には、高価であるか複雑な外部装置を必要とする短所がある。マイクロ流体素子の導管を通して流体を輸送するための理想的な素子は、半自律的であり、非常に微小な規模で組込まれるものであろう。
【0005】
マイクロ流体素子の導管を通して流体を移動させる最も一般的な方法として、動電流れ(electrokinetic flow)が知られている。動電流れは、輸送が所望されるマイクロ流体素子の導管を通して電気を通すことにより達成される。動電流れは、一定の用途では実用的であるが、マイクロ流体素子の導管を通って生物学的試料を移動させることに対しては実行可能な選択肢ではない。その理由として二つの側面がある。第一に、導管中の電気は生物分子を変質させ、死なせるか役立たなくさせる。また、第二に、生物分子はマイクロ流体素子の導管を覆う傾向があり、輸送方法を役立たなくさせる。これまでのところ、マイクロ流体素子内で生物学的機能を行なうための唯一の信頼できる方法は、圧力で動作する流れを用いることである。したがって、マイクロ流体素子の導管を通して流体を輸送するための、より手際良くより効率的な方法を提供することが非常に望まれる。
【0006】
さらに、生物学的実験はより複雑になるので、ゲノム解読された有機体の今や明白な複雑さによって必要とされる避けられない事実は、より複雑なツールが必要になるだろうということである。現在、同時に多数の生物学的実験を実施するために、多数(例えば96あるいは384のどちらか)のウェルを備えたプレートがしばしば使用される。これらのプレート中のウェルは、液体を保持する穴部にすぎない。それらの意図された用途のためには機能的であるが、これらのマルチウェルプレートはマイクロ流体素子と共に使用されてもよいし、さらにマイクロ流体素子で置き換えられてもよいことが分かる。
【0007】
既存の機器を利用するために、「シッパー(sipper)」チップが開発されている。シッパーチップは、従来の96あるいは384のウェルプレート上に保持されたマイクロ流体素子であり、毛細管を通して各ウェルからサンプル流体をすする。既存の機器と互換性がある一方で、シッパーチップは全般的な複雑さを増し、それ故、マイクロ流体素子の製造コストを増す。したがって、マイクロ流体素子の導管を通して流体を輸送するためにこれまでに利用可能であった素子および方法に対し、簡素でより安価な代案を提供することが非常に望まれる。
【発明の概要】
【0008】
したがって、マイクロ流体素子の導管を通して流体を輸送するための、簡素で安価な方法を提供することが、本発明の第一の目的および特徴である。
【0009】
マイクロ流体素子の導管を通して流体を輸送するための、半自律的で、最小限の付加的機器のみを必要とする方法を提供することが、本発明の他の目的および特徴である。
【0010】
マイクロ流体素子の導管を通して流体を輸送するための、既存の高処理能力ロボット装置と互換性のある方法を提供することが、本発明のさらに他の目的および特徴である。
【0011】
本発明によれば、マイクロ流体素子の導管を通してサンプル流体を輸送する方法が提供される。この方法は、導管に入口と出口を提供するステップを含んでいる。導管は導管流体で満たされている。第一の送入滴(pumping drop)が入口を通って導管に流れ込むように、サンプル流体の第一の送入滴は導管の入口に置かれる。
【0012】
第一の送入滴が導管に流れ込んだ後、サンプル流体の第二の送入滴が、導管の入口に置かれてもよい。導管の入口は、所定の半径を有している。また、第一の送入滴は、導管の入口の所定の半径とほぼ等しい半径を有している。第一の送入滴は、ある有効曲率半径を有している。また、出口における流体は、ある有効曲率半径を有している。流体出口の有効曲率半径は、第一の送入滴の有効曲率半径より大きい。
【0013】
第一の送入滴は、ユーザによって選択された体積を有しており、導管の入口に置かれた時、ある高さだけマイクロ流体素子上に突出する。第一の送入滴の半径は、次式に従って計算される。
【0014】
【数1】

【0015】
ここで、Rは、第一の送入滴の半径である。Vは、第一の送入滴の、ユーザによって選択された体積である。また、hは、第一の送入滴の、マイクロ流体素子上の高さである。
【0016】
この方法は、第一の送入滴が導管に流れ込んだ後、複数の送入滴を導管の入口に連続して置く付加的なステップを含んでいてもよい。先に置かれた送入滴が導管に流れ込む時、複数の送入滴の各々が連続して導管の入口に置かれる。第一の送入滴は、ある体積を有している。また、複数の送入滴は、第一の送入滴の体積とほぼ等しい体積を有している。導管流体がサンプル流体であることが考えられる。
【0017】
この方法は、導管内で第一の送入滴の流量を変える付加的なステップを含んでいてもよい。導管はある断面積を有している。また、導管を通る第一の送入滴の流量を変えるステップは、導管の少なくとも一部の断面積を縮小するステップを含んでいる。
【0018】
本発明のさらに他の態様によれば、流体を輸送する方法が提供される。この方法は、それを通り抜ける導管を備えたマイクロ流体素子を提供するステップを含んでいる。導管は第一の入口ポートおよび第一の出口ポートを含んでいる。導管は流体で満たされている。流体が導管を通って出口ポートへと流れるように、入口ポートにおける流体と出口ポートにおける流体との間には圧力勾配が生成される。
【0019】
圧力勾配を生成するステップは、流体の送入滴を導管の入口ポートに連続して置くステップを含んでいる。送入滴の各々は、導管の入口ポートの所定の半径とほぼ等しい半径を有している。送入滴の各々は、ある有効曲率半径を有している。また、第一の出口ポートにおける流体は、ある有効曲率半径を有している。出口ポートにおける流体の有効曲率半径は、各送入滴の有効曲率半径より大きい。
【0020】
導管はある抵抗を有している。また、送入滴の各々は、ある半径と表面自由エネルギーを有している。第一の出口ポートにおける流体はある高さと密度を有し、流体は次式に従った速度で導管を流れる。
【0021】
【数2】

【0022】
ここで、dV/dtは、導管を通って流れる流体の流速である。Zは、導管の抵抗である。ρは、第一の出口ポートにおける流体の密度である。gは、重力である。hは、出口ポートにおける流体の高さである。γは、送入滴の表面自由エネルギーである。また、Rは、送入滴の半径である。
【0023】
本発明のさらに他の態様によれば、マイクロ流体素子の導管を通して流体を輸送する方法が提供される。導管は、第一の入口ポートおよび出口ポートを有している。導管は流体で満たされている。また、入口ポートの流体と出口ポートの流体との間に圧力勾配を生成するように、導管の第一の入口ポートには、流体の送入滴が連続して置かれる。その結果、導管中の流体は、出口ポートへと流れる。
【0024】
送入滴の各々は、ある有効曲率半径を有している。また、第一の出口ポートにおける流体は、ある有効曲率半径を有している。出口ポートにおける流体の有効曲率半径は、各送入滴の有効曲率半径より大きい。さらに、送入滴の各々は、導管の入口ポートの所定の半径とほぼ等しい半径を有している。
【0025】
この方法は、導管を通る第一の送入滴の流量を変える付加的なステップを含んでいてもよい。導管は、ある断面積を有している。また、導管を通る第一の送入滴の流量を変えるステップは、導管の少なくとも一部の断面積を縮小するステップを含んでいる。
【0026】
添付の図面は、上記の利点および特徴が明瞭に開示される本発明の好ましい構造を示しているとともに、図解された実施例の以下の記述から容易に理解される他の構造も同様に示している。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、マイクロ流体素子の上面に液体の滴を置くためのロボットマイクロピペット装置の概略図である。
【図2】図2は、マルチウェルプレートのウェルに液体の滴を置く、図1のロボットマイクロピペット装置の概略図である。
【図3】図3は、マイクロピペットによってマイクロ流体素子の上面に液体の滴を置く状況を示す、図1のロボットマイクロピペット装置の拡大概略図である。
【図4】図4は、マイクロピペットによってマイクロ流体素子の上面に置かれた液体の滴を示す、図3に類似する概略図である。
【図5】図5は、マイクロピペットによってマイクロ流体素子の導管に流れ込む液体の滴を示す、図3および4に類似する概略図である。
【図6】図6は、マイクロピペットによってマイクロ流体素子の上面に置かれた液体の滴の寸法を示す拡大概略図である。
【図7】図7は、本発明の方法で使用されるマイクロ流体素子の代替の実施例のアイソメトリック図である。
【図8】図8は、図7の8−8線に沿って得られたマイクロ流体素子の断面図である。
【図9】図9は、本発明の方法で使用されるマイクロ流体素子のさらなる実施例の上平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1および3〜6において、本発明の方法で使用されるマイクロ流体素子は、一般的に参照数字10で示されている。マイクロ流体素子10は、以下に述べられる理由により、ポリジメチルシロキサン(PDMS)から形成されていてもよく、それぞれ第一と第二の端部12および14を有し、またそれぞれ上面および下面18および20を有する。導管22はマイクロ流体素子10を通り抜けて伸び、マイクロ流体素子10の上面18と連通する入口ポート28で末端をなす第一の垂直部26と、同様にマイクロ流体素子10の上面18と連通する出口ポート32で末端をなす第二の垂直部30とを含んでいる。導管22の第一と第二の垂直部26および30はそれぞれ、導管22の水平部分34によって相互に連結され、導管22の水平部分34と連通している。入口ポート28と出口ポート32を接続している導管22の寸法は任意である。
【0029】
ロボットマイクロピペット装置31が提供される。このロボットマイクロピペット装置31は、以下に述べられる理由により、マイクロ流体素子10の上面18に、例えば送入滴36および貯留滴38のような液体の滴を置くためのマイクロピペット33を含んでいる。例えばロボットマイクロピペット装置31のような最新の高処理能力システムは、高度の速度、精度および再現性で、トレー(つまり、図2のマルチウェルプレート35、あるいは図1のマイクロ流体素子10)の位置を決め、かつユーザにより所望された位置(つまり、マルチウェルプレート35のウェル34、あるいはマイクロ流体素子10の導管22の入口ポート28と出口ポート32の各々)において、マイクロリットル程度の量の滴をそのトレーへ分配するか、あるいはそのトレーから抜き取るために専ら設計されたロボットシステムである。
【0030】
気体と液体の界面において、液体の送入滴36内に存在する圧力の量は、次のヤング−ラプラス方程式によって与えられる。
【0031】
【数3】

【0032】
ここで、γは、液体の表面自由エネルギーである。また、RlとR2は、送入滴の表面の曲率を表す、互いに垂直な2つの軸についての曲率半径である。
【0033】
球状の滴については、式(数3)は次のように書き換えられてもよい。
【0034】
【数4】

【0035】
ここで、Rは、図6の球状の送入滴36の半径である。
【0036】
式(数4)から、より小さな滴にはより大きな滴よりも高い内圧があることが理解される。したがって、もし異なる寸法の2つの滴が、液体で満たされたチューブ(つまり導管22)によって接続されれば、小さい方の滴は縮み、その一方で大きい方は寸法が拡大する。この結果が明示しているのは、大きな肺胞が成長し続ける一方で、小さい方は縮む状態である「肺胞の不安定性」と呼ばれる肺の現象である。上記を考慮すると、導管22の入口ポート28および出口ポート32とともに、送入滴36の表面張力を用いることにより、導管22を通して流体を輸送できることが分かる。
【0037】
本発明の輸送方法によれば、流体はマイクロ流体素子10の導管22に供給される。その後、大きな貯留滴38(例えば100μL)が、図3の導管22の出口ポート32上に、マイクロピペット33によって置かれる。貯留滴38の半径は、出口ポート32の半径より大きく、導管22の出口ポート32における圧力が本質的にゼロとなるのに十分な寸法である。貯槽滴38より著しく小さい寸法の送入滴36(例えば0.5〜5μL)が、図1のロボットマイクロピペット装置31のマイクロピペット33によって、図4および6の導管22の入口ポート28に置かれる。送入滴36は、半球形であってもよいし、あるいは他の形であってもよい。そのため、送入滴36の形状および体積は、本発明の方法の輸送時間を延長するために、入口ポート28を取り囲む表面の疎水性/親水性のパターニングによって決まることが考えられる。これまでに述べたように、高い疎水性を有するとともに、それぞれ入口ポート28、出口ポート32上の送入滴36、貯留滴38の半球形状を維持する傾向があるPDMSから、マイクロ流体素子10は形成されている。導管22の中の流体、送入滴36および貯留滴38が、同じ液体である場合も、異なる液体である場合も、本発明の範囲に含まれることが意図される。
【0038】
送入滴36は貯留滴38よりも小さな半径を有しているので、導管22の入口ポート28にはより大きな圧力が存在する。結果として生じる圧力勾配は、図5において、送入滴36を、入口ポート28から導管22を通して導管22の出口ポート32上の貯留滴38へと流れさせる。ロボットマイクロピペット装置31のマイクロピペット33によって、導管22の入口ポート28に追加の送入滴36を連続して置くことによって、結果として生じる圧力勾配が、入口ポート28上に置かれた送入滴36を、導管22を通して導管22の出口ポート32上の貯留滴38へと流れさせることが理解される。その結果、流体は導管22を通って入口ポート28から出口ポート32へと流れる。
【0039】
再び図6を参照すると、導管22の入口ポート28の所与の半径Rにとって到達可能な最も高い圧力は、導管22の入口ポート28の半径rと等しい半径を持つ半球状の滴である。この寸法からのどんな偏りも、この寸法より大きくても小さくても、より低い圧力に帰着する。そのため、各送入滴36の半径が入口ポート28の半径とほぼ等しいことが好ましい。送入滴36の半径(つまり、圧力を決定する半径)は、送入滴36がそれに対応するポート(つまり、導管22の入口ポート28)の上に立ち上がる高さhについてまず解くことにより、決定することができる。送入滴36の半径は、次式に従って計算できる。
【0040】
【数5】

【0041】
ここで、Rは、送入滴36の半径である。Vは、第一の送入滴の、ユーザによって選択された体積である。また、hは、マイクロ流体素子10の上面18の上の送入滴36の高さである。
【0042】
球状のキャップの半径が分かっていれば、体積Vの送入滴36の高さが分かる。本応用例では、入口ポート28の半径は球状のキャップの半径である。そのため、送入滴36の高さは、次式に従って計算される。
【0043】
【数6】

【0044】
ここで、a=3r(rは、入口ポート28の半径)である。また、b=6V/π(Vは、入口ポート28に置かれた送入滴36の体積)である。
【0045】
導管22の入口ポート28から導管22の出口ポート32に流れ込む流体の体積流量は、送入滴36の体積に基づいて変わる。したがって、体積流量あるいは時間に対する体積の変化は、次式を用いて計算できる。
【0046】
【数7】

【0047】
ここで、dV/dtは、導管22を通って流れる流体の流速である。Zは、導管22の流れ抵抗である。ρは、送入滴36の密度である。gは、重力である。hは、貯槽滴38の高さである。γは、送入滴36の表面自由エネルギーである。また、Rは、送入滴36の半径である。
【0048】
本発明の方法の種々の応用は、本発明から逸脱することなく可能であると考えられる。例えば、導管22の長さ方向に沿って多数の入口ポートを形成することができる。そのようなポートの一つを出口ポートとして指定することによって、導管22の長さ方向に沿う異なる入口ポートに送入滴を置くことにより、(導管抵抗の差により)異なる流量を達成することができる。さらに、流体を流れ込ませ、混合させ、次に、順番に他の出口ポート32へ輸送させるために、一時的な出口ポート32が用いられてもよい。本発明の輸送方法は、水と生体液を含む多種類の流体を扱うことが分かる。そのような流体として、細胞とウシ胎児血清を含む媒体が、細胞を導管22を下って傷つけることなく繰り返し流すために用いられてもよい。
【0049】
さらに、上に置かれた送入滴36および貯留滴38の対応する形状を変更するために、マイクロ流体素子10の上面18の、入口ポート28および(または)出口ポート32の外周の周りに、パターンをそれぞれエッチングすることが考えられる。送入滴36および貯留滴38の形状をそれぞれ変更することによって、マイクロ流体素子10の導管22を通る流体の体積流量が変更されうることが分かる。さらに、マイクロ流体素子10の上面18にパターンをエッチングすることによって、マイクロ流体素子10の導管22を通して流体の輸送が行われる時間が、ユーザによって希望される時間まで増加され、あるいは減少されうることが分かる。
【0050】
述べたように、本発明の輸送方法を用いることには、いくつかの利点がある。例えば、本発明の輸送方法は、高処理能力のロボット分析システムをマイクロ流体素子10と直接接続し、マイクロピペット33のみを使用して液体を輸送することを可能にする。実験室におけるセッティングでは、手動のピペットも使用することができ、これにより高価なポンプ輸送装置の必要性をなくすことができる。本発明の方法は表面張力効果に依存するので、物理的あるいは電気的ノイズが存在する環境中のマイクロ流体素子10中での流体の輸送を可能にするには十分に頑強である。輸送量は、導管22の入口ポート28上に存在する送入滴36の体積によって決定され、それは、最新のロボットマイクロピペット装置31を用いて高精度に制御可能である。これらの要因の組合せは、様々な状況および用途での使用に適した輸送方法を可能にする。
【0051】
図7および8において、本発明の方法で使用されるマイクロ流体素子の代替の実施例は、一般的に参照数字50で示されている。マイクロ流体素子50は、以下に述べられる理由により、ポリジメチルシロキサン(PDMS)から形成されていてもよく、それぞれ第一と第二の端部52および54を有し、またそれぞれ上面および下面58および60を有する。導管62はマイクロ流体素子50を通り抜けて伸び、マイクロ流体素子50の上面58と連通する入口ポート68で末端をなす第一の垂直部66と、同様にマイクロ流体素子50の上面58と連通する出口ポート72で末端をなす第二の垂直部70とを含んでいる。導管62の第一と第二の垂直部66および70はそれぞれ、導管62の水平部分74によって相互に連結され、導管62の水平部分74と連通している。
【0052】
本発明の輸送方法によれば、流体はマイクロ流体素子50の導管62に供給される。導管62の入口ポート68と実質的に同じ寸法の送入滴76は、図1のロボットマイクロピペット装置31のマイクロピペット33によって、その上に置かれる。送入滴76は、半球形であってもよいし、あるいは他の形であってもよい。そのため、送入滴76の形状および体積は、本発明の方法の輸送時間を延長するために、入口ポート68を取り囲む表面の疎水性/親水性のパターニングによって決まることが考えられる。これまでに述べたように、マイクロ流体素子60は、高い疎水性を有するとともに、入口ポート68上の送入滴76の半球形状を維持する傾向があるPDMSから形成される。
【0053】
以下に述べられる理由により、入口ポート68に置かれた送入滴76は、導管62の出口ポート72における流体の有効曲率半径未満である、所定の有効曲率半径を有することが考えられる。周知のように、滴の有効曲率半径は、次式によって計算できる。
【0054】
【数8】

【0055】
ここで、RCは、曲率半径である。また、RlとR2は、直交する軸上の滴の半径である。円の場合には、RlとR2が等しい。楕円については、RlとR2はそれぞれ長軸および短軸の半径になる。
【0056】
上記式(数3)および(数4)を参照すると、より小さな曲率半径を持つ滴が、より高い内圧を有していることが分かる。したがって、流体で満たされた管(つまり、導管62)によって送入滴76が出口ポート72に接続されれば、送入滴76は縮むであろう。また、入口ポート68における送入滴76が出口ポート72における流体のメニスカスよりも小さな曲率半径を有していれば、出口ポート72における流体は成長するだろう。以前に言及されたように、導管62の入口ポート68の圧力滴76の所与の半径Rにとって到達可能な最も高い圧力は、導管62の入口ポート68の半径rと等しい半径を持つ半球状の滴である。そのため、入口ポート68に送入滴76を置くことによって、送入滴76の内圧は、送入滴76を入口ポート68から導管62を通して導管62の貯留出口ポート72へと流れさせる圧力勾配を生成する。ロボットマイクロピペット装置31のマイクロピペット33によって、導管62の入口ポート68に追加の送入滴76を連続して置くことによって、結果として生じる圧力勾配が、入口ポート68上に置かれた送入滴76を、導管62を通して導管62の出口ポート72上の貯留滴68へと流れさせることが理解される。その結果、流体は導管62を通って入口ポート68から出口ポート72へと流れる。
【0057】
これまでに述べたように、導管62の入口ポート68から導管62の出口ポート72に流れ込む流体の体積流量は、送入滴76の体積に基づいて変わる。したがって、体積流量あるいは時間に対する体積の変化は、次式を用いて計算できる。
【0058】
【数9】

【0059】
ここで、dV/dtは、導管62を通って流れる流体の流速である。Zは、導管62の流れ抵抗である。ρは、出口ポート72における流体の密度である。gは、重力である。hは、出口ポート72における流体の高さ(メニスカス)である。γは、送入滴76の表面自由エネルギーである。また、Rは、送入滴76の半径である。
【0060】
導管の流れ抵抗を変えることによって、導管の入口ポートからマイクロ流体素子を通って導管の出口ポートへ流れる流体の体積流量を変えることが考えられる。図9を参照すると、本発明による方法を実施するためのマイクロ流体素子のさらに他の実施例は、一般的に参照数字80で示されている。マイクロ流体素子80は、第一と第二の端部82および84をそれぞれ含んでおり、また、第一と第二の側面86および88を含んでいる。例えば、ほぼ正弦波状に形作られた導管92が、マイクロ流体素子80を通して伸びている。導管92は、本発明の範囲から逸脱することなく、他の構成を有していてもよいことが理解される。導管92は、マイクロ流体素子80の上面94と連通する出口ポート96で末端をなす。導管92は、複数の拡径部96a〜96dおよび複数の縮径部98a〜98cをさらに含んでいる。以下に述べられる理由により、拡径部96a〜96dは、対応する縮径部98a〜98cと交互に位置している。
【0061】
入口ポート90a〜90cは、マイクロ流体素子80の上面94と連通し、導管92の対応する縮径98a〜98cとそれぞれ連通している。入口ポート100a〜100dは、マイクロ流体素子80の上面94と連通し、導管92の対応する拡径部96a〜96dとそれぞれ連通している。入口ポート90a〜90cおよび100a〜100dは、ほぼ同一の寸法を有している。図9に描かれるように、入口ポート90a〜90cおよび100a〜100dの各々が、出口ポート96から相応する所定距離であるように、入口ポート90a〜90cおよび100a〜100dは、導管92の正弦波状経路に沿って一定間隔で配置されている。
【0062】
運用の際は、流体はマイクロ流体素子80の導管92に供給される。導管92の入口ポート90a〜90cおよび100a〜100dと実質的に同じ寸法の送入滴は、図1のロボットマイクロピペット装置31のマイクロピペット33によって、入口ポート90a〜90cおよび100a〜100dのうちの1つに置かれる。これまでに述べたように、送入滴は、半球形であってもよいし、あるいは他の形であってもよい。そのため、送入滴76の形状および体積は、本発明の方法の輸送時間を延長するために、送入滴が上に置かれた入口ポート68を取り囲む表面の疎水性/親水性のパターニングによって決まることが考えられる。以前に言及されたように、マイクロ流体素子80は、高い疎水性を有するとともに、対応する入口ポート上の送入滴76の半球形状を維持する傾向があるPDMSから形成される。
【0063】
選択された入口ポート90a〜90cおよび100a〜100d上に置かれた送入滴は、導管92の出口ポート96における流体の有効曲率半径未満である所定の有効曲率半径を有するものと考えられる。以前に言及されたように、導管92の選択された入口ポート90a〜90cおよび100a〜100cの圧力滴の所与の半径Rにとって到達可能な最も高い圧力は、導管92の選択された入口ポートの半径rと等しい半径を持つ半球状の滴である。選択された入口ポートに送入滴を置くことによって、選択された入口ポート上の送入滴の内圧は、選択された入口ポートから導管92を通して導管92の出口ポート96へと送入滴を流れさせる圧力勾配を生成する。入口ポート90a〜90cおよび100a〜100dは同一の寸法を有するので、流体は選択されていない入口ポートには流れ込まない。ロボットマイクロピペット装置31のマイクロピペット33によって、導管92の選択された入口ポートに追加の送入滴を連続して置くことにより、流体は選択された入口ポートから出口ポート96へと導管92を通って流れることが理解される。
【0064】
導管92の流れ抵抗を変えることによって、導管92の選択された入口ポートからマイクロ流体素子を通って導管92の出口ポート96へ流れる流体の体積流量を変えることが考えられる。導管92の流れ抵抗は、選択される入口ポート90a〜90cおよび100a〜100d依存することが分かる。より具体的には、導管92の流れ抵抗は縮径部98a〜98cでより大きくなる。その結果、送入滴が入口ポート100dに置かれる場合、導管92を流れる流体の最も速い体積流量が生じる。他方では、流体が縮径部98a〜98cを通り抜けなければならない入口ポート100dに送入滴が置かれる場合、導管92を流れる流体の最も遅い体積流量が生じる。入口ポート90a〜90cおよび100b〜100cに送入滴を置くことによって、導管92を通って流れる流体の体積流量は、最も速い流量と最も遅い流量との間で調節できることが分かる。
【0065】
発明を実施するための種々の態様は、主題を詳細に指摘し明確に要求する、発明としてみなされる以下の請求項の範囲に含まれるものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導管に入口と出口を提供するステップと、
前記導管を導管流体で満たすステップと、
サンプル流体の第一の送入滴を前記導管の前記入口に、該第一の送入滴が前記入口を通って前記導管へと流れ込むように置くステップと
を含み、
前記第一の送入滴は有効曲率半径を有し、前記出口における前記流体は有効曲率半径を有し、この流体の有効曲率半径は前記第一の送入滴の有効曲率半径より大きい、
マイクロ流体素子の導管を通してサンプル流体を送る方法。
【請求項2】
前記第一の送入滴が前記導管に流れ込んだ後に、前記サンプル流体の第二の送入滴を前記導管の前記入口に置く付加的なステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記導管の前記入口は所定の半径を有し、また、前記第一の送入滴は、前記導管の前記入口の所定の半径とほぼ等しい半径を有している、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第一の送入滴は、ユーザによって選択された体積を有するとともに、前記導管の前記入口に置かれた時に前記マイクロ流体素子上にある高さだけ突出し、前記第一の送入滴の前記半径は次式:
【数10】

によって計算され、式中、Rは前記第一の送入滴の半径であり、Vは前記第一の送入滴のユーザによって選択された体積であり、また、hは前記第一の送入滴の前記マイクロ流体素子上の高さである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記第一の送入滴が前記導管に流れ込んだ後、複数の送入滴を前記導管の前記入口に連続して置く付加的なステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
先に置かれた前記送入滴が前記導管に流れ込むように、前記複数の送入滴の各々は、連続して前記導管の前記入口に置かれる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記第一の送入滴は、ある体積を有するとともに、前記複数の送入滴は、前記第一の送入滴の体積とほぼ等しい体積を有している、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記導管流体が前記サンプル流体である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記導管を通る前記第一の送入滴の流量を変える付加的なステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記導管はある断面積を有するとともに、前記導管を通る前記第一の送入滴の流量のステップは、前記導管の少なくとも一部の前記断面積を縮小するステップを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記導管の前記出口がほぼ円形の形状を有している、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記出口に隣接している領域が疎水性である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記出口における前記流体はメニスカスを有し、前記出口における前記流体の前記曲率半径は前記メニスカスで取得される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
該導管は第一の入口ポートおよび第一の出口ポートを含む、導管が通り抜けるマイクロ流体素子を提供するステップと、
前記導管を導管流体で満たすステップと、
前記流体が前記導管を通って前記出口ポートへと流れるように、前記入口ポートにおける前記流体と前記出口ポートにおける前記流体との間に圧力勾配を生成するステップと
を含み、
前記圧力勾配を生成する前記ステップは、流体の送入滴を前記導管の前記入口ポートに連続して置くステップを含み、
前記送入滴の各々は有効曲率半径を有し、前記第一の出口ポートにおける前記流体は有効曲率半径を有し、前記出口ポートにおけるこの流体の有効曲率半径は各送入滴の前記有効曲率半径より大きい、
流体を送る方法。
【請求項15】
前記送入滴の各々は、前記導管の前記入口ポートの所定の半径とほぼ等しい半径を有している、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記導管は抵抗を有し、
前記送入滴の各々は半径と表面自由エネルギーを有し、
前記出口ポートにおける前記流体は、次式:
【数11】

に従った速度で前記導管を流れるような高さと密度を有し、式中、dV/dtは前記導管を流れる前記流体の流速であり、Zは前記導管の前記抵抗であり、ρは前記出口ポートにおける前記流体の前記密度であり、gは重力であり、hは前記出口ポートにおける前記流体の高さであり、γは前記送入滴の前記表面自由エネルギーであり、また、Rは前記送入滴の半径である、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記導管の前記出口ポートがほぼ円形の形状を有している、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記出口ポートに隣接している領域が疎水性である、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記出口ポートにおける前記流体はメニスカスを有し、前記出口における前記流体の前記曲率半径は前記メニスカスで取得される、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
マイクロ流体素子の導管を通して流体を輸送する方法であって、前記導管は第一の入口ポートと出口ポートとを有し、該方法は、
前記導管を導管流体で満たすステップと、
前記入口ポートにおける前記流体と前記出口ポートにおける前記流体との間に圧力勾配を生成するように、前記導管の前記第一の入口ポートに前記流体の送入滴を置くステップを含み、
前記送入滴の各々は有効曲率半径を有し、前記第一の出口ポートにおける前記流体は、各送入滴の前記有効曲率半径より大きな有効曲率半径を有しており、
その結果、前記導管中の流体は前記出口ポートへと流れる、
方法。
【請求項21】
前記送入滴の各々は、前記導管の前記入口ポートの所定の半径とほぼ等しい半径を有している、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記導管を通る前記第一の送入滴の流量を変える付加的なステップを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記導管はある断面積を有するとともに、前記導管を通る前記第一の送入滴の流量のステップは、前記導管の少なくとも一部の前記断面積を縮小するステップを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
前記出口ポートにおける前記流体はメニスカスを有し、前記出口における前記流体の前記曲率半径は前記メニスカスで取得される、請求項20に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2010−531971(P2010−531971A)
【公表日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−553736(P2009−553736)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【国際出願番号】PCT/US2008/056621
【国際公開番号】WO2008/127818
【国際公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(507164412)ウィスコンシン・アラムナイ・リサーチ・ファウンデーション (4)
【氏名又は名称原語表記】WISCONSIN ALUMNI RESEARCH FOUNDATION
【Fターム(参考)】