説明

マイクロ流路デバイス及び液体の送液方法

【課題】用途に応じて流路パターンを自在に変化させて対応することができ、簡便で使い易さを向上すること。
【解決手段】一方側から他方側に液体Wを送液するものであって、基板5と、該基板上に被膜され、特定温度を境にして親水性と疎水性とが反転する性質を有すると共に液体が供給されてくる温度応答性高分子膜6と、該温度応答性高分子膜を特定温度以上に加熱して、親水性領域と疎水性領域とを区分けさせる加熱手段7とを備え、該加熱手段が、加熱を行う際に、温度応答性高分子膜の全面領域をマトリックス状に複数に小分けした各微小エリアのうち、所望する微小エリアのみを加熱するマイクロ流路デバイス1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応原液、希釈液、反応生成物溶液、検査原液、緩衝液、血液、体液、細胞を含んだ溶液やタンパク質等の有機化合物を含んだ溶液等の各種の液体を、所望する方向に送液させるマイクロ流路デバイス及び液体の送液方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体の製造技術等が進歩することで、近年、微小な構造や機械、さらにはシステム等の技術分野が注目されている。また、これらの技術分野を用いて、微小な流路(マイクロ流路)やチャンバ、ポンプ等を製作し、化学実験や環境分析等に応用され始めている。そうすることで、例えば、化学実験において、実験装置類のマイクロ化により、試料や廃液を少なくでき反応の高速化を図ることができると共に、爆発等の危険が伴うものであったとしても、安全に実験することができる。
特に、創薬研究の分野において、タンパク質の発現・機能解析やスクリーニング等が、創薬に直結する重要なテーマとされている。そのため、ハンドリングせずに、例えば、まず、細胞を流して所定の位置に持っていき、その細胞に向けてタンパク質を含む溶液を送液させたりすることが求められている。
【0003】
このような装置として、微小な流体、例えば、液滴状の溶液を送液することが可能なマイクロ流路を備えたマイクロ流路デバイスが知られている。このマイクロ流路デバイスは、サンプル溶液等を反応槽に供給して化学反応させるための手段としてマイクロ流路を利用している。また、マイクロ流路デバイスは、さらにサンプル溶液の種類に応じて該溶液の切り替えを行えるように、バルブ等の切替手段も備えている。
【0004】
ところで、サンプル溶液等の液体を送液するマイクロ流路としては、様々なものが現在提供されている。例えば、表面張力を利用して液体を一方向に送液するマイクロ液滴輸送デバイスが知られている(例えば、特許文献1参照)。
このマイクロ液滴輸送デバイスは、親水面と疎水面とで構成された流路を備えており、親水面に対して疎水面を除した値を、上流から下流に向けて連続的に増加させている。このマイクロ液滴輸送デバイスによれば、上流から下流に向けて親水面の割合が徐々に増加するので、液体、即ち、マイクロ液体が流路に沿って送液される。
【0005】
また、同様に親水領域と疎水領域とで流路を形成して、該流路に沿って液体を送液する微小流路システムや液体輸送デバイス(例えば、特許文献2及び3参照)も知られている。更に、流路が微小な複数の単位ブロックに小分けされ、これら単位ブロックをユーザが任意に組み合わせて所望するパターンとなるように流路を形成するものも知られている。
【特許文献1】特開2005−744号公報
【特許文献2】特開2005−270925号公報
【特許文献3】特開2000−42402号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来のマイクロ流路では、以下の課題が残されていた。
即ち、従来のマイクロ流路は、予め設計段階で決めたパターン、若しくは、ユーザが予め任意に選択したパターン通りに、流路パターンが形成されるので、液滴や液体をそのパターン通りにしか送液することができない。ここで、サンプル溶液等の分析や実験を行う際に、例えば、多角的な反応や複数の反応を行わせるために、流路パターンを変化させたいというニーズがあるが、従来のものはこのようなニーズに応えることができない。そのため、複数の異なるパターンのマイクロ流路を予め多数用意し、分析や実験の用途に応じて、その都度取り替える必要があった。そのため、手間と時間がかかると共に、使い難く、効率のよい分析、実験を行うことができなかった。
【0007】
この発明は、このような事情を考慮してなされたもので、その目的は、用途に応じて流路パターンを自在に変化させて対応することができ、簡便で使い易いマイクロ流路デバイス及び液体の送液方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、この発明は以下の手段を提供している。
本発明のマイクロ流路デバイスは、一方側から他方側に液体を送液するマイクロ流路デバイスであって、基板と、該基板上に被膜され、特定温度を境にして親水性と疎水性とが反転する性質を有すると共に前記液体が供給されてくる温度応答性高分子膜と、該温度応答性高分子膜を前記特定温度以上に加熱して、親水性領域と疎水性領域とを区分けさせる加熱手段とを備え、該加熱手段が、前記加熱を行う際に、前記温度応答性高分子膜の全面領域をマトリックス状に複数に小分けした各微小エリアのうち、所望する微小エリアのみを加熱するマイクロ流路デバイスを特徴とするものである。
【0009】
この発明に係るマイクロ流路デバイスにおいては、基板上に被膜された温度応答性高分子膜(例えば、PIPAAm;ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド)上の一端側に、分析や実験の対象物である液体が供給されてくる。また、これと同時に加熱手段によって、温度応答性高分子膜を特定温度(例えば、32℃)以上に加熱する。この際、温度応答性高分子膜の全面領域をマトリックス状(格子状)に複数小分けした各微小エリアのうち、所望する微小エリアのみを加熱する。これにより、温度応答性高分子膜は、加熱された部分のみが親水性から疎水性に切り替わる。つまり、温度応答性高分子膜には、所望する微小エリアに沿って疎水性領域が形成される。
【0010】
そして、この疎水性領域を、例えば、一定の間隔を空けた状態で平行に並んで形成することで、親水性領域を間に挟んだ状態で2つの疎水性領域を形成することができる。これにより、温度応答性高分子膜の一端側に供給されてくる液体を、この2つの疎水性領域で挟まれた親水性領域に沿わせながら他端側に向けて送液することができる。つまり、液体は、疎水性領域に触れた時点で弾かれて再度親水性領域側に戻ってくるので、結果的に親水性領域に沿って進むことになる。
また、油性の液体の場合には、疎水性領域上を流れる性質を有しているので、疎水性領域を1つ形成すれば良い。この場合には、油性の液体は、親水性領域に触れた時点で弾かれて疎水性領域側に戻ってくるので、結果的に疎水性領域に沿って進む。
【0011】
いずれの場合にしても、加熱手段により温度応答性高分子膜の選択した微小エリアを特定温度以上に加熱することで、親水性領域と疎水性領域とで形成される流路を作ることができる。特に、加熱するだけで、容易且つ自在に所望するパターンの流路を形成することができるので、用途に応じて予め複数パターンの流路を用意していた従来のものとは異なり、分析や実験の用途等に応じて、その都度流路パターンを変化させて対応することができる。また、分析や実験中であっても、流路パターンを刻々と変化させることもできる。
このように、本発明に係るマイクロ流路デバイスによれば、用途に応じて流路パターンを自在に変化させて対応することができるので、簡便で使い易く、効率のよい分析、実験を行うことができる。
【0012】
また、本発明のマイクロ流路デバイスは、上記本発明のマイクロ流路デバイスにおいて、前記加熱手段が、前記複数の微小エリアのそれぞれに対向するように配された複数のヒータと、該複数のヒータをそれぞれ制御する加熱制御部とを備えていることを特徴とするものである。
【0013】
この発明に係るマイクロ流路デバイスにおいては、加熱制御部により各ヒータをそれぞれ制御することで、温度応答性高分子膜の所望する各微小エリアのみを、正確に加熱することができる。つまり、各ヒータが発した熱は、それぞれのヒータに対向するように配された各微小エリアに伝わって、これら微小エリアを局所的に加熱する。よって、各微小エリアのみを正確に加熱することができる。よって、温度応答性高分子膜に、親水性領域と疎水性領域とからなる流路パターンを容易且つ確実に形成することができる。
【0014】
また、本発明のマイクロ流路デバイスは、上記本発明のマイクロ流路デバイスにおいて、前記基板が、前記ヒータから前記温度応答性高分子膜に向かう厚み方向への熱伝導性が、該厚み方向に直交する平面方向よりも優れている異方性の基板であることを特徴とするものである。
【0015】
この発明に係るマイクロ流路デバイスにおいては、基板が熱伝導性の異なる異方性の基板、即ち、厚み方向への熱伝導性が平面方向よりも優れている基板であるので、ヒータが発した熱は、基板を通過して温度応答性高分子膜に伝わる際に、水平方向に対して拡散し難い。よって、より確実に所望する各微小エリアのみを局所的に加熱でき、余分な領域を加熱してしまうことを防止できる。その結果、流路パターンを狙い通り高精度に形成することができる。
【0016】
また、本発明のマイクロ流路デバイスは、上記本発明のマイクロ流路デバイスにおいて、前記加熱手段が、前記所望する微小エリアに対して、レーザ光を照射して加熱させるレーザ光源と、該レーザ光源を制御する加熱制御部とを備えていることを特徴とするものである。
【0017】
この発明に係るマイクロ流路デバイスにおいては、加熱制御部によりレーザ光源を制御してレーザ光を狙い通りに照射させることで、温度応答性高分子膜の所望する各微小エリアのみを、局所的に加熱することができる。これにより、温度応答性高分子膜に、親水性領域と疎水性領域とからなる流路パターンを容易且つ確実に形成することができる。特に、レーザ光を利用するので、基板から離間した位置からでも、熱応答性高分子膜に対して熱を局所的に正確に与えることができる。そのため、基板とレーザ光源とを近接した位置に配置する必要がないので、設計の自由度を向上することができる。
【0018】
また、本発明のマイクロ流路デバイスは、上記本発明のいずれかのマイクロ流路デバイスにおいて、前記基板及び前記温度応答性高分子膜を2つ備え、該温度応答性高分子膜が前記液体を挟んだ状態で、一定の距離を空けて対向配置されていることを特徴とするものである。
【0019】
この発明に係るマイクロ流路デバイスにおいては、2つの温度応答性高分子膜が一定の距離を空けて対向するように配置されているので、液体を両温度応答性高分子膜の間に挟み込んだ状態で送液することができる。よって、液体の流路抵抗を減らすことができ、より正確に液体を流路パターンに沿って送液させることができると共に、より速やかに送液を行うことができる。
【0020】
また、本発明のマイクロ流路デバイスは、上記本発明のいずれかのマイクロ流路デバイスにおいて、前記温度応答性高分子膜の加熱状態を測定する温度測定部を備えていることを特徴とするものである。
【0021】
この発明に係るマイクロ流路デバイスにおいては、温度測定部により熱応答性高分子膜の加熱状態を測定することで、加熱手段によって加熱された場所が、狙い通りに正確に加熱されているか否かを判断することができる。つまり、親水性領域と疎水性領域とからなる流路パターンが正確に形成されているか否かを判断することができる。よって、より高精度な流路パターン形成に繋げることができる。
【0022】
また、本発明のマイクロ流路デバイスは、上記本発明のマイクロ流路デバイスにおいて、前記温度測定部による測定結果に基づいて、前記加熱手段をフィードバック制御する制御部を備えていることを特徴とするものである。
【0023】
この発明に係るマイクロ流路デバイスにおいては、制御部が温度測定部で測定された測定結果に基づいて、加熱手段をフィードバック制御するので、仮に何らかの原因により加熱手段で加熱した通りに温度応答性高分子膜が加熱されていなかったり、加熱温度が特定温度に達していなかったりしたとしても、これらの不具合を解消することができる。その結果、より高精度且つ確実に流路パターンを形成することができる。
【0024】
また、本発明の液体の送液方法は、一方側から他方側に液体を送液する液体の送液方法であって、基板上に被膜され、特定温度を境にして親水性と疎水性とが反転する性質を有する温度応答性高分子膜上に液体を供給する供給工程と、前記温度応答性高分子膜を前記特定温度以上に加熱して、親水性領域と疎水性領域とを区分けして流路パターンを形成し、該流路パターンに沿って前記液体を送液させる加熱工程とを備え、該加熱工程が、温度応答性高分子膜の全面領域をマトリックス状に複数に小分けした各微小エリアのうち、所望する微小エリアのみを加熱することを特徴とするものである。
【0025】
この発明に係る液体の送液方法においては、まず、供給工程により、基板上に被膜された温度応答性高分子膜(例えば、PIPAAm;ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド)上の一端側に、分析や実験の対象物である液体を供給する。
また、この供給工程と同時に、温度応答性高分子膜を特定温度(例えば、32℃)以上に加熱する加熱工程を行う。この際、温度応答性高分子膜の全面領域をマトリックス状(格子状)に複数小分けした各微小エリアのうち、所望する微小エリアのみを加熱する。これにより、温度応答性高分子膜は、加熱された部分のみが親水性から疎水性に反転して切り替わる。つまり、温度応答性高分子膜には、所望する微小エリアに沿って疎水性領域が形成される。
【0026】
そして、この疎水性領域を、例えば、一定の間隔を空けた状態で平行に並んで形成することで、親水性領域を間に挟んだ状態で2つの疎水性領域を形成することができる。これにより、温度応答性高分子膜の一端側に供給された液体を、この2つの疎水性領域で挟まれた親水性領域に沿わせながら他端側に向けて送液することができる。つまり、液体は、疎水性領域に触れた時点で弾かれて再度親水性領域側に戻ってくるので、結果的に親水性領域に沿って進むことになる。
また、油性の液体の場合には、疎水性領域上を流れる性質を有するので、疎水性領域を1つ形成すれば良い。この場合には、油性の液体は、親水性領域に触れた時点で弾かれて疎水性領域側に戻ってくるので、結果的に疎水性領域に沿って進むことになる。
【0027】
いずれの場合にしても、加熱工程により温度応答性高分子膜の選択した微小エリアを特定温度以上に加熱することで、親水性領域と疎水性領域とで形成される流路を作ることができる。特に、加熱するだけで、容易且つ自在に所望するパターンの流路を形成することができるので、用途に応じて予め複数パターンの流路を用意していた従来のものとは異なり、分析や実験等の用途に応じて、その都度流路パターンを変化させて対応することができる。また、分析や実験中であっても、流路パターンを刻々と変化させることもできる。
このように、本発明に係る液体の送液方法によれば、用途に応じて流路パターンを自在に変化させて対応することができるので、簡便で使い易く、効率のよい分析、実験を行うことができる。
【0028】
また、本発明の液体の送液方法は、上記本発明の液体の送液方法において、前記加熱工程が、前記流路パターンを前記一端側から前記他端側に向けて複数形成すると共にこれら複数の流路パターンを途中で合流させるように、前記微小エリアを加熱することを特徴とするものである。
【0029】
この発明に係る液体の送液方法においては、複数の流路パターンが途中で合流されているので、種類の異なる液体を途中で混合させた後、他端側に送液させたり、最初の液体を他端側に送液した後、必要に応じて次の液体を送液させたりすることができる。このように、より多角的な分析や実験等を行うことができる。
【0030】
また、本発明の液体の送液方法は、上記本発明の液体の送液方法において、前記加熱工程が、一定距離を空けた状態で平行に前記疎水性領域が形成されるように、前記微小エリアを前記特定温度以上に加熱して前記流路パターンを形成する一次加熱工程と、該一次加熱工程後、前記一端側において前記流路パターンを横切るように前記微小エリアを前記特定温度以上に加熱すると共に、これら加熱した微小エリアが前記他端側に向けて徐々に移動するように、加熱した微小エリアに隣接する微小エリアを他端側に向けて順次特定温度以上に加熱させる二次加熱工程とを備えていることを特徴とするものである。
【0031】
この発明に係る液体の送液方法においては、まず、一次加熱工程により、一定距離を空けた状態で平行に疎水性領域が形成されるように微小エリアを加熱する。これにより、親水性領域を挟んで2つの疎水性領域を形成でき、一端側から他端側に向かう流路パターンを形成することができる。これにより、液体は、この流路パターンに沿って他端側に送液される。
【0032】
更に、この一次加熱工程の後、一端側において流路パターンを横切るように微小エリアを加熱して疎水性領域を形成すると共に、この加熱した微小エリアに隣接する微小エリアを、他端側に向けて順次特定温度以上に加熱する二次加熱工程を行う。これにより、流路パターンを横切る疎水性領域を、流路パターンの一端側から他端側に徐々に移動させることができる。その結果、流路パターンに沿って送液されている液体を、一端側から他端側に向けて押し出すことができる。よって、液体を流路パターン上に残すことなく、完全に他端側に向けて押し出して送液させることができる。そのため、無駄なく液体を送液でき、ランニングコストの低減化を図ることができる。
【0033】
また、本発明の液体の送液方法は、上記本発明の液体の送液方法において、前記加熱工程が、一定距離を空けた状態で平行に前記疎水性領域が形成されるように、前記微小エリアを前記特定温度以上に加熱して前記流路パターンを形成する一次加熱工程と、該一次加熱工程後、前記一端側及び前記他端側の両端において、前記流路パターンを横切るように前記微小エリアを前記特定温度以上に加熱する二次加熱工程と、該二次加熱工程後、一定時間経過した後に、二次加熱工程時で加熱した微小エリアの加熱を停止して前記特定温度以下にさせる加熱停止工程とを備えていることを特徴とするものである。
【0034】
この発明に係る液体の送液方法においては、一次加熱工程により、一定距離を空けた状態で平行に疎水性領域が形成されるように微小エリアを加熱する。これにより、親水性領域を挟んで2本の疎水性領域を形成でき、一端側から他端側に向かう流路パターンを形成することができる。これにより、液体はこの流路パターンに沿って他端側に送液される。
【0035】
更に、この一次加熱工程の後、一端側及び他端側の両端において、流路パターンを横切るように微小エリアを加熱して疎水性領域を形成する二次加熱工程を行う。これにより、送液されていた液体は、前後が塞がれた閉塞状態となるので、送液が停止されてその場に留まった状態となる。これにより、例えば、液体として血液を採用した場合には、この時点で凝集が始まり、血液成分の中の固体成分のみが流路パターンに沈殿して固まる。
次いで、一定時間(例えば、凝集が終了するまでの間)経過した後、二次加熱工程で加熱した微小エリアの加熱を停止させて、流路パターンの閉塞状態を解く加熱停止工程を行う。これにより、血液成分のうち、凝集された固体成分を除く液体成分(血漿成分)のみが、再度流路パターンに沿って他端側に送液される。その結果、容易且つ確実に血漿成分を血液から分離して取り出しながら送液を行うことができる。
このように、液体の送液を一時的に停止させることで、単に液体を送液させるだけでなく、同時に途中で各種の処理を行うこともできる。
【0036】
また、本発明の液体の送液方法は、上記本発明の液体の送液方法において、前記加熱工程の際に、前記液体の周囲を囲むように前記微小エリアを前記特定温度以上に加熱すると共に、これら加熱した微小エリアが前記他端側に向けて徐々に移動するように、加熱した微小エリアに隣接する微小エリアを他端側に向けて順次特定温度以上に加熱させることを特徴とするものである。
【0037】
この発明に係る液体の送液方法においては、加熱工程の際、マトリックス状に小分けされた複数の微小エリアのうち、液体の周囲を囲む位置にある微小エリアを特定温度以上に加熱する。これにより、液体は、周囲が疎水性領域に囲まれるので、液滴状態となって保持される。次いで、この加熱した微小エリアに隣接する微小エリアを、他端側に向けて順次特定温度以上に加熱する。つまり、液体を囲んだ疎水性領域がそのままの状態で、他端側に移動した状態となる。その結果、液滴状の液体を、他端側に向けて送液することができる。特に、液体を必要な量だけ液滴状態で送液できるので、液体を無駄に使用することがなく、より効率良く分析や実験等を行うことができる。
【0038】
また、本発明の液体の送液方法は、前記温度応答性高分子膜を、前記液体を間に挟んで一定の距離を空けて対向するように2つ配置した状態で、前記滴下工程及び前記加熱工程をそれぞれ行うことを特徴とする液体の送液方法。
【0039】
この発明に係る液体の送液方法においては、温度応答性高分子膜を、液体を間に挟んで一定の距離を空けて対向するように、2つ配置した状態で送液を行うので、液体を両温度応答性高分子膜の間に挟み込んだ状態で送液することができる。よって、液体の流路抵抗を減らすことができ、より正確に液体を流路パターンに沿って送液させることができると共に、より速やかに送液を行うことができる。
【発明の効果】
【0040】
本発明に係るマイクロ流路デバイス及び液体の送液方法によれば、用途に応じて流路パターンを自在に変化させて対応することができるので、簡便で使い易く、効率のよい分析、実験を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、本発明に係るマイクロ流路デバイス及び液体の送液方法の第1実施形態について、図1から図3を参照して説明する。
本実施形態のマイクロ流路デバイス1は、一方側から他端側に液体Wを送液するものである。具体的には、例えば一端側に位置する図示しない供給口から供給された液体Wを、他端側に位置する図示しない反応槽に向けて送液し、反応槽を利用して液体Wの分析や実験等を行うものである。なお、液体Wとしては、例えば、反応原液、希釈液、反応性生成物溶液、検査原液、緩衝液、アナライト液、血液、体液や細胞を含む溶液やタンパク質等の有機化合物を含む溶液等である。
【0042】
本実施形態のマイクロ流路デバイス1は、図1に示すように、マイクロチップ2と、制御用基板3とを重ね合わせて構成されている。また、流路用基板(基板)5と、該流路用基板5上に被膜され、特定温度である32℃を境にして親水性と疎水性とが反転する性質を有すると共に、液体Wが供給されてくる温度応答性ポリマー(温度応答性高分子膜)6と、該温度応答性ポリマー6を32℃以上に加熱して、親水性領域と疎水性領域とを区分けさせる加熱手段7とを備えている。
【0043】
流路用基板5は、上面視略四角状に形成されており、該流路用基板5の上面全体に亘って、均等の厚さの温度応答性ポリマー6が被膜されている。この温度応答性ポリマー6は、相転移温度である32℃を境にして、親水性と疎水性とが反転する高分子、例えば、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド(PIPAAm)である。これら流路用基板5及び温度応答性ポリマー6は、上記マイクロチップ2を構成している。
【0044】
加熱手段7は、上記加熱を行う際に、図2に示すように、温度応答性ポリマー6の全面領域をマトリックス状(格子状)に小分けした各微小エリアEのうち、所望する微小エリアEのみを加熱するものである。即ち、加熱手段7は、図1及び図3に示すように、複数の微小エリアEのそれぞれに対向するように配された複数のヒータ10と、該複数のヒータ10をそれぞれ制御するヒータ制御部(加熱制御部)11とを備えている。
【0045】
複数のヒータ10は、流路用基板5と同じ形状、サイズに形成された制御基板12内にマトリックス状に組み込まれている。また、これら複数のヒータ10は、ヒータ制御部11にそれぞれ電気的に接続されており、該ヒータ制御部11によってそれぞれ作動が制御されている。
制御基板12上には、図1に示すように、組み込まれた複数のヒータ10を保護する保護膜13が施されている。また、制御基板12の下面には、蓄熱基板14を介してフィン等の放熱機構15が取り付けられている。これにより、制御基板12の放熱性を高めて、加熱を希望しないヒータ10に過度に熱が篭らないようになっている。
なお、これら制御基板12、保護膜13、蓄熱基板14及び放熱機構15は、マイクロチップ2の下面側に重ね合わされる上記制御用基板3を構成している。
【0046】
また、本実施形態のマイクロ流路デバイス1は、流路用基板5及び温度応答性ポリマー6からなるマイクロチップ2と制御用基板3とを、それぞれ2つ備えており、各温度応答性ポリマー6が液体Wを間に挟んだ状態で、一定の距離を空けて対向配置されている。なお、このもう一方のマイクロチップ2及び制御用基板3を、天板用マイクロチップ2’及び天板用制御用基板3’と称する。
【0047】
次に、このように構成されたマイクロ流路デバイス1を利用して、供給口から供給されてきた液体Wを一方側から反応槽のある他端側に向けて液体の送液方法により送液し、反応槽にて液体Wを分析又は実験する場合について説明する。
本実施形態の液体の送液方法は、温度応答性ポリマー6上に液体Wを供給する供給工程と、温度応答性ポリマー6の選択した微小エリアEを32℃以上に加熱して、親水性領域S1と疎水性領域S2とを区分けして流路パターンPを形成し、該流路パターンPに沿って液体Wを送液させる加熱工程とを備えている。なお、上述したように本実施形態では、温度応答性ポリマー6を、液体Wを間に挟んで一定の距離を空けて対向するように2つ配置した状態で滴下工程及び加熱工程を行う。
これら各工程について、以下に詳細に説明する。
【0048】
まず、図示しない供給口からサンプルとなる液体Wを供給することで、図1に示すように、温度応答性ポリマー6上の一端側に該液体Wを供給させる。この供給工程によって、天板用マイクロチップ2’及びマイクロチップ2の両温度応答性ポリマー6の間に液体Wが流れてくる。
また、これと同時に加熱手段7によって、天板用マイクロチップ2’及びマイクロチップ2の温度応答性ポリマー6を共に32℃以上に加熱する。具体的には、図2及び図3に示すように、制御基板12の内部にマトリックス状に組み込まれた複数のヒータ10のうち、一端側から基端側に向かって一定距離離間して平行に並んだヒータ10を加熱する。これらヒータ10が発する熱は、保護膜13及び流路用基板5を介して、加熱されたヒータ10にそれぞれ対向配置された温度応答性ポリマー6の微小エリアEをそれぞれ加熱させる。
【0049】
これにより、温度応答性ポリマー6は、加熱された微小エリアEのみが親水性から疎水性に反転して切り替わる。その結果、図2に示すように、温度応答性ポリマー6に親水性領域S1を挟んで2つの疎水性領域S2がライン状に形成され、一端側から他端側に向かう流路パターンPが形成される。よって、供給口から一端側に流れてきた液体Wは、2つの疎水性領域S2で挟まれた親水性領域S1に沿いながら、一端側から他端側に向けて送液される。つまり、液体Wは、疎水性領域S2に触れた時点で弾かれて再度親水性領域S1側に戻ってくるので、結果的に親水性領域S1に沿って進むことになる。
また、液体Wは、天板用マイクロチップ2’とマイクロチップ2との間に挟まれているので、流路抵抗が極力低減された状態となる。よって、より正確に流路パターンPに沿って液体Wを送液することができると共に、より速やかに送液を行うことができる。
【0050】
このように、加熱手段7により温度応答性ポリマー6の選択した微小エリアEを32℃以上に加熱することで、親水性領域S1と疎水性領域S2とで形成される流路パターンPを作ることができる。特に、加熱するだけで、容易且つ自在に所望するパターンの流路を形成することができるので、用途に応じて予め複数パターンの流路を用意していた従来のものとは異なり、分析や実験の用途に応じてその都度流路パターンPを変化させて対応することができる。また、分析や実験中であっても、流路パターンPを刻々と変化させることもできる。
【0051】
上述したように、本実施形態のマイクロ流路デバイス1及び液体の送液方法によれば、用途に応じて流路パターンPを自在に変化させて対応することができるので、簡便で使い易く、反応槽等を利用して効率の良い分析や実験等を行うことができる。
【0052】
なお、上記第1実施形態では、単に一端側から他端側に向けて直線状の流路パターンPを形成したが、この場合に限られるものではない。
例えば、流路パターンPに沿って送液されている液体Wを、一端側から他端側に向けて押し出すように流路パターンPを形成しても構わない。
即ち、この場合の液体の送液方法は、加熱工程が、一定距離を空けた状態で平行に疎水性領域S2が形成されるように、微小エリアEを32℃以上に加熱して流路パターンPを形成する一次加熱工程と、該一次加熱工程後、一端側において流路パターンPを横切るように微小エリアEを32℃以上に加熱すると共に、これら加熱した微小エリアEが他端側に向けて徐々に移動するように、加熱した微小エリアEに隣接する微小エリアEを他端側に向けて順次32℃以上に加熱させる二次加熱工程とを備えている。
【0053】
上述したように、まず一次加熱工程を行うことで、図4(a)に示すように、上記第1実施形態と同様に一端側から他端側に向かう流路パターンPを形成することができる。これにより、液体Wは、この流路パターンPに沿って他端側に送液される。
ここで、上記二次加熱工程を行うことで、図4(b)及び図4(c)に示すように、流路パターンPを横切る疎水性領域S2を、流路パターンPの一端側から他端側に向けて徐々に移動させることができる。その結果、流路パターンPに沿って送液されている液体Wを、一端側から他端側に向けて押し出すことができる。よって、液体Wを流路パターンP上に残すことなく、完全に他端側に向けて押し出して送液を行うことができる。そのため、無駄なく液体Wを送液でき、ランニングコストの低減化を図ることができる。
【0054】
また、上記第1実施形態において、流路パターンPに沿って送液されている液体Wを、一旦、一定時間の間だけ流れを止め、その後、再度送液を開始するように流路パターンPを形成しても構わない。
即ち、この場合の液体の送液方法は、加熱工程が、一定距離を空けた状態で平行に疎水性領域S2が形成されるように、微小エリアEを32℃以上に加熱して流路パターンPを形成する一次加熱工程と、該一次加熱工程後、一端側及び他端側の両端において流路パターンPを横切るように、微小エリアEを32℃以上に加熱する二次加熱工程と、該二次加熱工程後、一定時間経過した後に、二次加熱工程で加熱した微小エリアEの加熱を停止して32℃以下にさせる加熱停止工程とを備えている。
【0055】
この液体の送液方法について、液体Wとして血液を採用した場合を例にしてより具体的に説明する。
まず一次加熱工程を行うことで、図5(a)に示すように、上記第1実施形態と同様に一端側から他端側に向かう流路パターンPを形成することができる。これにより血液Wは、この流路パターンPに沿って他端側に送液される。次いで、二次加熱工程を行うことで、図5(b)に示すように、流路パターンPの両端において流路パターンPを横切るように微小エリアEが加熱されるので、流路パターンPが塞がれた状態となる。よって、送液されていた血液Wは、送液が停止されてその場に留まった状態となる。これにより、血液Wは凝集が始まる。
【0056】
次いで、この状態が続くと、図5(c)に示すように、凝集が進んで血液成分の中の固体成分W1のみが流路パターンPに沈殿して固まる。そして、一定時間経過した後、二次加熱工程で加熱した微小エリアEの加熱を停止させて、流路パターンPの閉塞状態を解く加熱停止工程を行う。これにより、図5(d)に示すようイ、血液成分のうち凝集された固体成分W1の除く液体成分(血漿成分)のみが、再度流路パターンPに沿って他端側に送液される。
その結果、容易且つ確実に血漿成分のみ血液Wから分離して取り出しながら送液を行うことができる。このように、液体Wの送液を一時的に停止させることで、単に液体Wを送液させるだけでなく、同時に途中で各種の処理を行うことができる。
【0057】
また、上記第1実施形態では流路パターンPを1つだけ形成したが、この場合に限られず、例えば、加熱工程の際に、流路パターンPを一端側から他端側に向けて複数形成すると共にこられ複数の流路パターンPを途中で合流させるように微小エリアEを加熱しても構わない。
例えば、図6に示すように、図示しない2つの供給口にそれぞれ繋がるように、一端側に2つの流路パターンPを形成すると共に、これら2つの流路パターンPを途中で合流させて、他端側に位置する図示しない反応槽に繋げても構わない。
こうすることで、2つの供給口からそれぞれ供給された種類の異なる液体Wを途中で混合させた後に、他端側に送液させたり、最初の液体Wを他端側に送液した後、必要に応じて次の液体Wを送液させたりすることができる。このように、より多角的な分析や実験等を行うことができる。
【0058】
なお、この場合において図7に示すように、2つの流路パターンPのうち、一方の流路パターンPを、合流させる前に閉塞するように微小エリアEを加熱しても構わない。こうすることで、他方の流路からの逆流を確実に防止することができる。
【0059】
更に、上記第1実施形態では、流路パターンPに沿って液体Wを切れ目なく送液させたが、この場合に限られず、例えば、液滴状態で液体Wを送液させても構わない。
この場合の液体の送液方法は、加熱工程の際に、液体Wの周囲を囲むように、微小エリアEを32℃以上の温度に加熱すると共に、これら加熱した微小エリアEが他端側に向けて徐々に移動するように、加熱した微小エリアEに隣接する微小エリアEを他端側に向けて順次32℃以上に加熱させる。
【0060】
即ち、図8に示すように、加熱工程の際に、マトリックス状に小分けされた複数の微小エリアEのうち、液体Wの周囲を囲む位置にある微小エリアEを32℃以上に加熱する。これにより、液体Wは、周囲が疎水性領域S2に囲まれるので、液滴状態となって保持される。次いで、この加熱した微小エリアEに隣接する微小エリアEを、他端側に向けて順次32℃以上に加熱する。これにより、液体Wを囲んだ疎水性領域S2がそのままの状態で、他端側に移動した状態となる。その結果、液滴状の液体Wを、疎水性領域S2で囲みながら他端側に向けて送液することができる。
特に、液体Wを必要な量だけ液滴状態で送液できるので、液体Wを無駄に使用することがなく、より効率良く分析や実験等を行うことができる。
【0061】
また、この送液方法によれば、各種の細胞に対して薬剤等の液体を投与した後、該薬剤に耐性のある細胞のみを、他の細胞と区別して取り出すようなことにも応用することができる。つまり、耐性のある細胞のみを、液滴状の溶液に含ませた状態で取り出して観察したり、これとは逆に、死んだ細胞のみを液滴状の溶液に含ませた状態で取り出して排除したりすることも可能である。このように、多種多様の観察に応用することが可能である。
【0062】
次に、本発明に係るマイクロ流路デバイスの第2実施形態を、図9を参照して説明する。なお、この第2実施形態においては、第1実施形態における構成要素と同一の部分については、同一の符号を付しその説明を省略する。
第2実施形態と第1実施形態との異なる点は、第1実施形態では、温度応答性ポリマー6が被膜される流路用基板5が単なる基板であったのに対し、第2実施形態のマイクロ流路デバイス20の流路用基板21は、複数のヒータ10から温度応答性ポリマー6に向かう厚み方向Xへの熱伝導性が、厚み方向Xに直交する平面方向Yよりも優れている異方性の基板である点である。
【0063】
即ち、本実施形態のマイクロチップ22を構成する流路用基板21は、内部に複数の金属板や金属細線等の熱伝導体23が埋め込まれている。この熱伝導体23は、表面に平行な方向が厚み方向Xに向くように配された状態で、平面方向Yに微小な距離を空けて複数配置されている。そのため、流路用基板21をヒータ10の熱が通過する際に、熱伝導体23の表面を通って厚み方向Xに伝わり易い。即ち、ヒータ10からの熱は、流路用基板20の平面方向Yに拡散し難い。よって、より確実に所望する各微小エリアEのみを局所的に加熱でき、余分な領域を加熱してしまうことを防止できる。その結果、流路パターンPを狙い通り、高精度に形成することができる。
【0064】
次に、本発明に係るマイクロ流路デバイスの第3実施形態を、図10を参照して説明する。なお、この第3実施形態においては、第1実施形態における構成要素と同一の部分については、同一の符号を付しその説明を省略する。
第1実施形態では、ヒータ10により温度応答性ポリマー6を加熱したが、第3実施形態では、レーザ光Lにより温度応答性ポリマー6の微小エリアEを加熱する点である。
【0065】
即ち、本実施形態のマイクロ流路デバイス30は、加熱手段31が、温度応答性ポリマー6の微小エリアEに対して、レーザ光Lを照射して加熱させるレーザ光源32と、該レーザ光源32を制御するレーザ制御部(加熱制御部)33とを備えている。レーザ光源32は、流路用基板5から離間した位置に配置されており、所望する微小エリアEに対して、周期的にレーザ光Lを照射して、32℃以上に加熱している。
【0066】
このように構成されたマイクロ流路デバイス30においても、上記第1実施形態のマイクロ流路デバイス1と同様の作用効果を奏することができる。
特に、レーザ光Lを利用するので、流路用基板5から離間した位置からでも、温度応答性ポリマー6に対して熱を局所的に正確に与えることができる。そのため、流路用基板5とレーザ光源32とを、近接した位置に配置する必要がないので、設計の自由度を向上することができる。
【0067】
次に、本発明に係るマイクロ流路デバイスの第4実施形態を、図11を参照して説明する。なお、この第4実施形態においては、第1実施形態における構成要素と同一の部分については、同一の符号を付しその説明を省略する。
第4実施形態と第1実施形態との異なる点は、第1実施形態では、マイクロチップ2と制御用基板3とを重ね合わせることで、マイクロ流路デバイス1を構成していたが、第4実施形態のマイクロ流路デバイス40は、温度応答性ポリマー6とヒータ10とが1枚の基板、即ち、マイクロチップ41内に組み込まれている点である。
即ち、本実施形態のマイクロ流路デバイス40は、図11に示すように、流路用基板5上に、複数のヒータ10がマトリックス状に配された制御基板12が積層されている。また、この制御基板12上に、保護膜13を介して温度応答性ポリマー6が被膜されている。そして、これら流路用基板5、制御基板12、保護膜13及び温度応答性ポリマー6により、マイクロチップ41を構成している。
【0068】
このように構成されたマイクロ流路デバイス40に関しても、上記第1実施形態のマイクロ流路デバイス1と同様の作用効果を奏することができる。それに加え、第1実施形態のように、マイクロチップ2と制御用基板3とを重ね合わせる必要がないので、構成の簡略化を図ることができる。
【0069】
次に、本発明に係るマイクロ流路デバイスの第5実施形態を、図12を参照して説明する。なお、この第5実施形態においては、第4施形態における構成要素と同一の部分については、同一の符号を付しその説明を省略する。
第5実施形態と第4実施形態との異なる点は、第4実施形態では、単にヒータ10により温度応答性ポリマー6を加熱する構成であったが、第5実施形態のマイクロ流路デバイス50は、温度応答性ポリマー6の実際の加熱状況を検知して温度調整を行う点である。
【0070】
即ち、本実施形態のマイクロ流路デバイス50は、温度応答性ポリマー6の加熱状態を測定する温度測定部51と、該温度測定部51による測定結果に基づいて、加熱手段7をフィードバック制御する制御部52とを備えている。
温度測定部51は、例えば、温度応答性ポリマー6内の各微小エリアEにそれぞれ埋め込まれた図示しない温度センサに基づいて、温度応答性ポリマー6の各微小エリアEの温度をそれぞれ検知しており、その結果を制御部52に出力している。制御部52は、温度測定部51からの測定結果を受けて、加熱されたヒータ10に対向する微小エリアEが確実に32℃以上の温度に達しているか否か、また、加熱を希望しない微小エリアEが周囲の温度の影響により32℃以上の温度に上昇していないか等を判断する。
【0071】
仮に、加熱したい微小エリアEが、32℃以上に達してしない場合には、該当するヒータ10の温度を上げるようにヒータ制御部11を制御する。また、加熱したくない微小エリアEが32℃以上に達していた場合には、加熱されている周囲の微小エリアEの温度を若干下げるようにヒータ制御部11を制御する。
【0072】
このように、制御部52が温度測定部51で測定された測定結果を受けて、ヒータ制御部11をフィードバック制御できるので、温度応答性ポリマー6の各微小エリアEを正確に温度コントロールすることができる。その結果、より高精度且つ確実に流路パターンPを形成することができる。
【0073】
なお、本発明の技術範囲は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変更を加えることが可能である。
【0074】
例えば、油性の液体Wの場合には、疎水性領域S2上を流れる性質を有しているので、図13に示すように、温度応答性ポリマー6の選択した微小エリアEを加熱して疎水性領域S2を1つ形成すれば良い。この場合には、油性の液体Wは、親水性領域S1に触れた時点で弾かれて疎水性領域S2側に戻ってくるので、結果的に疎水性領域S2に沿って進む。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の第1実施形態に係るマイクロ流路デバイスの構成図である。
【図2】図1に示すマイクロ流路デバイスを構成する温度応答性ポリマーを上方から見た図であって、流路パターンに沿って液体を送液している状態を示す図である。
【図3】図2に示す状態の温度応答性ポリマー及びヒータが内蔵された制御基板の断面図である。
【図4】図1に示すマイクロ流路デバイスを利用して、液体を他端側に向けて押し出すように流路パターンを変化させている状態を示す図である。
【図5】図1に示すマイクロ流路デバイスを利用して、液体である血液を送液している最中に、流路パターンの両端を一旦閉塞させ、一定時間経過後に閉塞を解いて、再度送液を行っている状態を示す図である。
【図6】図1に示すマイクロ流路デバイスを利用して、2つを途中で1つに合流させた流路パターンにより送液を行っている状態を示す図である。
【図7】図6において、2本の流路パターンのうち、一方を途中で閉塞させた状態を示す図である。
【図8】図1に示すマイクロ流路デバイスを利用して、液体の周囲を囲むように疎水性領域を形成して、液体を液滴状態のまま送液している状態を示す図である。
【図9】本発明の第2実施形態に係るマイクロ流路デバイスの構成図である。
【図10】本発明の第3実施形態に係るマイクロ流路デバイスの構成図である。
【図11】本発明の第4実施形態に係るマイクロ流路デバイスの構成図である。
【図12】本発明の第5実施形態に係るマイクロ流路デバイスの構成図である。
【図13】図1に示すマイクロ流路デバイスにより、油性の液体を送液している状態を示す図であって、温度応答性ポリマーの微小エリアを加熱して疎水性領域を形成し、該疎水性領域上に沿って液体を送液している状態を示す図である。
【符号の説明】
【0076】
E 微小エリア
L レーザ光
P 流路パターン
S1 親水性領域
S2 疎水性領域
W 液体
1、20、30、40、50 マイクロ流路デバイス
5 流路用基板(基板)
6 温度応答性ポリマー(温度応答性高分子膜)
7、31 加熱手段
10 ヒータ
11 ヒータ制御部(加熱制御部)
32 レーザ光源
33 レーザ制御部(加熱制御部)
51 温度測定部
52 制御部



【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方側から他方側に液体を送液するマイクロ流路デバイスであって、
基板と、
該基板上に被膜され、特定温度を境にして親水性と疎水性とが反転する性質を有すると共に前記液体が供給されてくる温度応答性高分子膜と、
該温度応答性高分子膜を前記特定温度以上に加熱して、親水性領域と疎水性領域とを区分けさせる加熱手段とを備え、
該加熱手段は、前記加熱を行う際に、前記温度応答性高分子膜の全面領域をマトリックス状に複数に小分けした各微小エリアのうち、所望する微小エリアのみを加熱することを特徴とするマイクロ流路デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載のマイクロ流路デバイスにおいて、
前記加熱手段は、前記複数の微小エリアのそれぞれに対向するように配された複数のヒータと、該複数のヒータをそれぞれ制御する加熱制御部とを備えていることを特徴とするマイクロ流路デバイス。
【請求項3】
請求項2に記載のマイクロ流路デバイスにおいて、
前記基板は、前記複数のヒータから前記温度応答性高分子膜に向かう厚み方向への熱伝導性が、該厚み方向に直交する平面方向よりも優れている異方性の基板であることを特徴とするマイクロ流路デバイス。
【請求項4】
請求項1に記載のマイクロ流路デバイスにおいて、
前記加熱手段は、前記所望する微小エリアに対して、レーザ光を照射して加熱させるレーザ光源と、該レーザ光源を制御する加熱制御部とを備えていることを特徴とするマイクロ流路デバイス。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のマイクロ流路デバイスにおいて、
前記基板及び前記温度応答性高分子膜を2つ備え、前記温度応答性高分子膜が前記液体を間に挟んだ状態で、一定の距離を空けて対向配置されていることを特徴とするマイクロ流路デバイス。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載のマイクロ流路デバイスにおいて、
前記温度応答性高分子膜の加熱状態を測定する温度測定部を備えていることを特徴とするマイクロ流路デバイス。
【請求項7】
請求項6に記載のマイクロ流路デバイスにおいて、
前記温度測定部による測定結果に基づいて、前記加熱手段をフィードバック制御する制御部を備えていることを特徴とするマイクロ流路デバイス。
【請求項8】
一方側から他方側に液体を送液する液体の送液方法であって、
基板上に被膜され、特定温度を境にして親水性と疎水性とが反転する性質を有する温度応答性高分子膜上に前記液体を供給する供給工程と、
前記温度応答性高分子膜を前記特定温度以上に加熱して、親水性領域と疎水性領域とを区分けして流路パターンを形成し、該流路パターンに沿って前記液体を送液させる加熱工程とを備え、
該加熱工程は、温度応答性高分子膜の全面領域をマトリックス状に複数に小分けした各微小エリアのうち、所望する微小エリアのみを加熱することを特徴とする液体の送液方法。
【請求項9】
請求項8に記載の液体の送液方法において、
前記加熱工程は、前記流路パターンを前記一端側から前記他端側に向けて複数形成すると共にこれら複数の流路パターンを途中で合流させるように、前記微小エリアを加熱することを特徴とする液体の送液方法。
【請求項10】
請求項8に記載の液体の送液方法において、
前記加熱工程は、一定距離を空けた状態で平行に前記疎水性領域が形成されるように、前記微小エリアを前記特定温度以上に加熱して前記流路パターンを形成する一次加熱工程と、
該一次加熱工程後、前記一端側において前記流路パターンを横切るように前記微小エリアを前記特定温度以上に加熱すると共に、これら加熱した微小エリアが前記他端側に向けて徐々に移動するように、加熱した微小エリアに隣接する微小エリアを他端側に向けて順次特定温度以上に加熱させる二次加熱工程とを備えていることを特徴とする液体の送液方法。
【請求項11】
請求項8に記載の液体の送液方法において、
前記加熱工程は、一定距離を空けた状態で平行に前記疎水性領域が形成されるように、前記微小エリアを前記特定温度以上に加熱して前記流路パターンを形成する一次加熱工程と、
該一次加熱工程後、前記一端側及び前記他端側の両端において、前記流路パターンを横切るように前記微小エリアを前記特定温度以上に加熱する二次加熱工程と、
該二次加熱工程後、一定時間経過した後に、二次加熱工程時で加熱した微小エリアの加熱を停止して前記特定温度以下にさせる加熱停止工程とを備えていることを特徴とする液体の送液方法。
【請求項12】
請求項8に記載の液体の送液方法において、
前記加熱工程の際に、前記液体の周囲を囲むように前記微小エリアを前記特定温度以上に加熱すると共に、これら加熱した微小エリアが前記他端側に向けて徐々に移動するように、加熱した微小エリアに隣接する微小エリアを他端側に向けて順次特定温度以上に加熱させることを特徴とする液体の送液方法。
【請求項13】
請求項8から12のいずれか1項に記載の液体の送液方法において、
前記温度応答性高分子膜を、前記液体を間に挟んで一定の距離を空けて対向するように2つ配置した状態で、前記滴下工程及び前記加熱工程をそれぞれ行うことを特徴とする液体の送液方法。











【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2007−196090(P2007−196090A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−14944(P2006−14944)
【出願日】平成18年1月24日(2006.1.24)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】