説明

マイクロ精留デバイス及び精留方法

【課題】マイクロ流体デバイスに接続して、或いは組み込んで使用することができるマイクロ精留デバイス、及びマイクロ流体デバイスで取り扱い可能な微量試料の精留方法の提供。
【解決手段】沸点の異なる少なくとも2種の成分を含有する混合流体から各成分を精留するマイクロ精留デバイスであって、ガス流入口又は液体流入口6’、ガス流出口5、及び液体流出口7を有する精留用流路1を有し、該流路に設けられた異なる温度に温度制御された2つの温度制御部により、該流路中に向流で気液接触するようにガス部と液体部が形成することにより混合液に含まれた沸点の異なる少なくとも2種の成分を精留するマイクロ精留デバイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所謂マイクロ流体デバイスに接続して、或いは組み込んで、少なくとも2種の成分を含有する混合流体から各成分を精留するマイクロ精留デバイス、および、微少量の試料の精留方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ流体デバイスは、マイクロ流路チップ、マイクロ化学チップ等とも呼ばれるものであり、微細な毛細管状の流路などの場で、化学や生化学の反応、混合や分離などの化学工学的処理、成分の検出や分析などを行うものである。マイクロ流体デバイスは、試料の微量化やデバイスの微小化が可能で、時代の要請である省エネ・省資源・廃棄物の減少に適合している上、反応速度が向上し、実験条件を短時間毎に次々と変えてゆくことが容易なため、反応のスクリーニングや最適条件の検討に必要な時間を大幅に短縮することが出来る。また、急速な昇温・降温が可能で最適温度で反応を進めることができ、温度分布も減少するため、副反応を抑制することができる。さらに、最適条件が求まると、ナンバリングアップ方式により、スケールアップの検討を行うことなく直ちに生産が可能であることなどの特徴があり、今後の化学反応装置として期待されている。
【0003】
しかしながら、これまでは、多くの反応で必要とされる精留をマイクロ流体デバイス内で行うことは出来なかった。なぜなら、精留は垂直に設置された精留管(精留塔)内を上昇するガス相(蒸気相)と下降する液相とを接触させることにより実施されるが、精留用流路の直径が例えば1mm以下のように細い場合には、表面張力の影響が大きくなり、かつ重力の影響が小さくなり、精留用流路が液体によって充填されてしまい、安定した状態でガス相と液相を向流で接触させることが出来なかった。この困難を回避する一つの方法としては、遠心力により大きな重力加速度を付与する方法も考えられるが、使用上の制約が多く、実際的ではない。
【0004】
一方、マイクロ流体デバイスによるミクロ単位操作の一つとして気液接触デバイスが知られている。これは一方の端に2つの流入口、他の端に2つの流出口を持つ気液接触用流路の流入口の一方から気体、他方から液体を導入し、気液接触流路内を並流で流して気液接触させ、各流出口からそれぞれ流出させるものである(例えば、非特許文献1及び特許文献1参照。)。
しかし、これは並流に限られ、向流で流すことは出来なかった。そのため精留に適用することは出来なかった。即ち、向流で流そうとして、前記流入口の一つから液体を導入し、前記流出口の一つから気体を導入すると、液体は他方の流入口から、気体は他方の流出口から流出してしまい、液体も気体も気液接触流路内を流れなかった。
【非特許文献1】坂本,後藤,第5回化学とマイクロ/ナノシステム研究会予稿集, 19 (2002)
【特許文献1】特開平2001−137613号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、マイクロ流体デバイスに接続して、或いは組み込んで使用することができるマイクロ精留デバイス、及び、マイクロ流体デバイスで取り扱い可能な微量試料の精留方法を提供することにある。即ち、毛細管現象により管全体が液相で充填されやすい微小な精留用流路内において液相とガス相を向流で流して接触させ、精留を行う方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、沸点の異なる少なくとも2種の成分を含有する混合流体から各成分を精留するマイクロ精留デバイスであって、
a)前記マイクロ精留デバイスが、ガス流入口又は液体流入口、ガス流出口、及び液体流出口を有する精留用流路を有し、
b)前記精留用流路が、該流路の側面に異なる温度に温度制御された2つの温度制御部を有し、
c)前記温度制御部の内、高温に温度制御された第1温度制御部により、前記精留用流路を流れる前記混合流体の低沸点成分がガス化し、前記第1温度制御部に接して該ガスが流れるガス部が形成され、
前記温度制御部の内、低温に温度制御された第2温度制御部により、前記精留用流路を流れる前記混合流体の高沸点成分が液化し、前記第2温度制御部に接して、該液体が流れる液体部が形成され、
d)前記ガス部と前記液体部が向流気液接触部を形成し、
e)前記ガス流出口が前記ガス部の下流に設けられ、
f)前記液体流出口が前記液体部の下流に設けられている
ことを特徴とする混合液に含まれた沸点の異なる少なくとも2種の成分を精留するマイクロ精留デバイスを用いて精留を行うことにより各成分を精留することができることを見いだし、鋭意検討することにより本発明に到達した。
【0007】
本発明者は、また、沸点の相違する少なくとも2成分を含有する混合流体から各成分を精留する精留方法であって、
a)前記精留用流路の液体流入口から液状の混合流体を流入させるか、又は、ガス流入口からガス状の混合流体を流入させ、
b)前記精留用流路に設けられた2つの前記温度制御部を異なる温度に温度制御し、
c)前記温度制御部の内、高温に温度制御された前記第1温度制御部を、前記精留用流路1を流れる混合流体の低沸点成分をガス化させる温度に制御して、ガスが前記第1温度制御部に接して流れるガス部を形成し、
d)前記温度制御部の内、低温に温度制御された前記第2温度制御部を、精留用流路1を流れる混合流体の高沸点成分を液化させる温度に制御して、液体が前記第2温度制御部に接して流れる液体部を形成し、
e)前記マイクロ精留デバイスの前記精留用流路中の前記液体部を流れる液体と、前記ガス部を流れるガスとを向流気液接触させ、
f)前記ガス部の下流に設けられた前記ガス流出口から、低沸点成分が濃縮されたガスを流出させ、
g)前記液体部の下流に設けられた前記液体流出口から、高沸点成分が濃縮された液体を流出させる
ことを特徴とする精留方法精留方法を見いだし、鋭意検討することにより本発明に到達した。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、マイクロ流体デバイスで取り扱うような微量試料の精留(即ち、理論段数が1を超える蒸留)方法とそれに使用するマイクロ精留デバイスを提供する。即ち、微小な精留用流路内において液相とガス相を向流で流して接触させ、かつ、低沸点成分に富むガス相と高沸点成分に富む液相を別々に流出させることにより精留を行う方法及び装置を提供することが出来る。
【0009】
また本発明は、マイクロ流体デバイス内で実施される合成反応や分析と連続させることにより、合成と分離が統合されたマイクロリアクタを構築することができるし、マイクロ・トータル・アナリシス・システム(μ−TAS)を構築することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明のマイクロ精留デバイスについて、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0011】
本発明の精留対象である混合流体は3成分以上の混合流体であってもよいが、説明の簡略化のため、以下、特に断らない限り2種の成分(低沸点成分および高沸点成分)の混合流体の精留を例として説明する。混合流体は、常温常圧で気相、液相、超臨界流体相であってよい。
【0012】
ここで、「混合流体」とは、精留すべき混合流体(原流体)、又は、精留すべき混合流体を精留処理する途中で生じる、構成成分の組成比が変化した混合物を言うが、精留すべき混合流体(原流体)であることを明確にする必要がある場合には、「原混合流体」と称する場合がある。また、「(原)混合流体由来のガス」は、(原)混合流体の完全ガス化物(蒸気)、一部ガス化物(蒸気)、又は一部が液化した残余のガス(蒸気)を言い、「(原)混合流体由来の液体」は、(原)混合流体の完全液化物、一部液化物、又は、一部ガス化した残余の液体を言う。
【0013】
〔マイクロ精留デバイス〕
本発明のマイクロ精留デバイス100は、図1の分解図、および図2の模式図に代表的な形状を示したように、毛細管状の精留用流路1を必須構成要素として有し、該精留用流路1は、異なる温度に温度制御された2つの温度制御部10、即ち、より高温の第1温度制御部10aと、より低温の第2温度制御部10bを有する。該温度制御部10を所定の温度に温度制御するための温度制御機構80は、マイクロ精留デバイス内に組み込まれていても良いし、マイクロ精留デバイス100外に独立して設けられていて、使用時に組み合わされても良い。
以下、説明の簡略化のため、本マイクロ精留デバイス100及びその構成要素について、図1及び図2側面図に示された姿勢で説明するが、任意の向きに姿勢を変えて使用して良い。
【0014】
本発明のマイクロ精留デバイス100は、精留を実施するためのその他の任意の機構と組み合わせて使用して良い。例えば、本マイクロ精留デバイス100は、マイクロ精留デバイス100を固定する固定部、温度制御機構80及びそれ用の温度制御装置、精留すべき混合流体を送り込むための独立したポンプ、マイクロ流体デバイスに組み込まれたポンプ機構用の駆動機構、などを有する筐体と組合わせて使用できる。このような構造にすることで、接液部であるマイクロ精留デバイス100を使い捨てとしたり、該部分のみを置き換えて、異なる液体の精留を容易に行うことが出来る。
【0015】
本発明のマイクロ精留デバイス100は精留だけを行う独立したデバイスとして形成しても良いし、他の機構、例えば反応槽や濾過機構などを有するマイクロ流体デバイスに組み込んで一体化してもよい。
【0016】
本発明のマイクロ精留デバイス100の外形は任意であり、例えば図1に示されたように板状又はシート状であって、該マイクロ精留デバイス100の平面に平行に精留用流路1が設けられた形状が好ましい。このような構造とすることにより、その上面に温度制御機構80aを設け、下面に温度制御機構80bを設けて、容易かつ高精度に、前記分離用流路1の上側を高温に調節してガス部2と成し、前記分離用流路1の下側を低温に調節して液体部3と成すことができる。つまり2つの温度制御部が、前記精留用流路を囲む板状部分の相対する面に設けられている構造を形成することができる。このような構造は、例えば、図1、図2に示したように、ガス部2となる溝が形成された板状若しくはシート状の部材と、液体部3となる溝が形成された板状若しくはシート状の部材を積層して固定することで製造できる。固定は、クランプやネジ止めによる固定、接着、融着、粘着などであって良い。
【0017】
図1、図2に示された例では、精留用流路1には、混合流体を流入させる流入口として液体流入口6’が設けられているが、一般には図3に示されたように、流入口としては、混合流体を液体状態で導入する場合には液体流入口6又は液体流入口6’が設けられ、混合流体をガス状態で導入する場合にはガス流入口4又はガス流入口4’が設けられる。液体流入口6若しくは液体流入口6’が連絡流路14を介して混合流体導入口24に接続されるか、又は、ガス流入口4若しくはガス流入口4’が、連絡流路14を介して混合流体導入口24に接続される。
【0018】
また、精留用流路1の一方の端にはガス流出口5、他方の端には液体流出口7が設けられており、ガス流出口5は連絡流路15により低沸点成分濃縮液取り出し口25に接続され、液体流出口7は連絡流路17を経て高沸点成分濃縮物取り出し口27に接続されている。液体流入口6は図3のように、精留用流路1の途中に接続されていても良い。また、ガス流出口5は多孔質膜8を介して、連絡流路15に接続されていてもよい。
混合流体導入口24、高沸点成分濃縮物取り出し口27、低沸点成分濃縮液取り出し口17は、マイクロ精留デバイス100外への開口部として形成されていても良いし、マイクロ精留デバイス100外の機構に接続される配管(図示略)が直接接続されていてもよいし、マイクロ精留デバイス100内に設けられた機構、例えば貯液槽(図示略)などに接続されていても良いし、マイクロ精留デバイス100と一体化されたマイクロ流体デバイス内に設けられた他の機構、例えば反応槽(図示略)や検出部(図示略)などに接続されていても良い。
【0019】
本発明に於いて、液体流出口7からは液体のみを流出させガスを流出させないようにする必要がある。そのためには、液体流出口7の直径やそこに接続された連絡流路17の断面積を精留用流路1の断面積より小さくすること、連絡流路17の内表面を親溶媒性にすること、液体流出口7から所定速度で流体を取り出すように、連絡流路17にポンプ(図示略)を接続すること、が有効であり好ましい。
【0020】
本発明のマイクロ精留デバイス100はまた、前記混合流体導入口24に導入された混合流体を液体流入口6、6’に導く連絡流路14の途中に、前記混合流体の全量を液化させる冷却部を設けたり、各取り出し口25、27に接続された連絡流路の途中に、精留した各成分を液化したり常温付近まで冷却したりする冷却部を設けることも好ましい。また、液体流入口6、6’の代わりにガス流入口4、4’が設けられている場合には、前記混合流体導入口24に導入された混合流体をガス流入口4、4’に導く連絡流路14の途中に、前記混合流体の全量をガス化させる加熱部を設けることも好ましい。
【0021】
マイクロ精留デバイス100の、厚み方向、即ち第1温度制御部10aから第2温度制御部10b方向の熱伝導率は、10wm−1−1以下が好ましく、3wm−1−1以下がさらに好ましく、1wm−1−1以下が最も好ましい。熱伝導率の下限は、自ずと限界はあろうが、小さいことそれ自身による不都合はないため限定することを要しない。熱伝導率の下限は、例えば、0.01wm−1−1であり得る。精留用流路の多孔質隔膜を透過する方向の熱伝導率をこのような範囲とすることにより、液体部3とガス部2方向の温度差を付けることが容易になり、温度制御機構80の消費エネルギーの減少が図れる。
【0022】
上記のような熱伝導率を持った素材として、例えば有機重合体、ガラス、セラミックなどを好ましく用いることが出来、中でも、蒸留対象の液体に耐性のあるものを選べば、有機重合体が製造が容易なため好ましい。また、バルクでは高い熱伝導率を有する素材であっても、多孔質体にしたり、低熱伝導率素材との複合体にすることなどにより、熱伝導率を上記範囲にする方法も好ましく採用しうる。このような多孔質体としては、例えば発泡ガラス、気泡を有するセラミック、多孔質重合体を例示出来るし、低熱伝導率素材との複合体としては、例えばガラスや有機重合体のマイクロカプセルの混入、中空繊維の混入、金属やガラスの場合には有機重合体との積層体、上記多孔質体との積層体を例示できる。
【0023】
上記熱伝導率の下限であるような小さな熱伝導率を持つ素材としては、例えば有機重合体の発泡体を例示出来るし、真空断熱層であっても良い。特に、該マイクロ精留デバイス100が、液体部3を構成する部材とガス部2を構成する部材が、多孔質膜を挟持して固着又は固定され、該多孔質膜の一部が多孔質隔膜8とされた構造の場合には、該多孔質膜が前記それを挟持する部材と同じ寸法とし、該多孔質膜中の必要な部分の周囲を樹脂で目止めして多孔質隔膜8と成し、他の部分を多孔質断熱材として機能させることも好ましい。
【0024】
精留用流路1の厚み方向の熱伝導率を上記の範囲にすることによって、大きな温度差を設けながら熱の流れを小さくできるため、省エネルギーに出来る
【0025】
又、精留用流路1の長さ方向の熱伝導率についても、上記厚み方向と同じ範囲にすることによって、精留用流路1の長さ方向に大きな温度勾配を付けることが容易になり、沸点差が大きく異なる混合溶液の精留に於いても、精留用流路の長さを短縮出来るため、効率の高い、即ち、精留用流路の長さ当たりの蒸留段数の多い精留用流路が得られる。その上、第1温度制御部10aと第2温度制御部10bについても、それぞれ省エネルギーで温度勾配を設けることが出来る。
【0026】
この場合も、これらの熱伝導率を実現する素材については、精留用流路1の厚み方向の場合と同様である。
【0027】
〔精留用流路〕
本発明のマイクロ精留デバイス100の精留用流路1は、図3に一般化した模式図を示したように、1本の毛細管状の流路として形成されている。該精留用流路1は、第1温度制御部10a側が、液体が流れる液体部3とされ、第2温度制御部10b側が、ガスが流れるガス部2とされている。上記ガス部2は、前記混合流体由来のガスが流れる領域であり、上記液体部3は前記混合流体由来の液体が流れる領域である。ガス部2と液体部3の間に境界はなく、運転条件により液体部3とガス部2が占める断面積の比は変わりうる。本発明のマイクロ精留デバイスは、液体とガスを精留用流路1の液体部3とガス部2において向流で接触させ、該気液接触界面で高沸点成分のガス化(蒸発)や低沸点成分の液化(凝縮)を行うことができる。
このとき気液接触界面の状態は、例えば、後述の本発明の精留方法で述べるように、精留用流路1の図1、図2に於ける上側の第1温度制御部10aを液体の沸点を超える温度に調節してガス部2と成し、該精留用流路1の下側の第2温度制御部10bを液体の沸点未満の温度に調節して液体部3と成す用法で実施出来る。
【0028】
精留用流路1の長さは任意であり、用途、目的によって設定できるが、好ましくは0.5〜20cm、更に好ましくは1〜10cm、最も好ましくは2〜5cmである。この範囲とすることで、十分な精留効率が得られ、温度調節などの運転も容易になる。
精留用流路1は必ずしも直線状である必要は無く、曲線状、ジグザグ状、渦巻き状、螺旋状など任意の形状に形成されていても良い。本発明のマイクロ精留デバイス100においては、精留用流路1は重力方向とは無関係に設置することができるが、液体部3側若しくは、液体流出口7を下側にすることが、液体の流れを安定させる点から好ましい。。
【0029】
精留用流路1の断面形状は任意であり、矩形、台形、半円形などの形状であってよいが、マイクロ流体デバイスに組み込みやすく、作製が容易であることから矩形、台形、円形、又は半円形が好ましい。また、液体部3の流れを安定させる点から、ガス部2の幅が広く、液体部3の幅が狭い断面形状とすることが好ましい。例えば、幅の広い溝と幅の狭い溝が合わさった形状、例えば、凸の字型(図1、図2bの姿勢で説明するなら、上下逆の凸の字型)、逆台形、逆三角形が好ましく、さらに、精留用流路1の第2温度制御10b部側の内面に、該精留用流路1に平行に設けられた複数の小溝を有する形状が好ましい。上記各小溝の断面形状は任意であり、矩形、半円形、逆台形、V字形等であり得る。溝の数は任意であり、例えば2〜100が好ましく、3〜10が更に好ましい。
【0030】
精留用流路1の第1温度制御部10aと第2温度制御部10b間の距離、即ち、図2b側面模式図に於ける上下方向の寸法(以下、該方向の寸法を精留用流路の「厚み」と称する場合がある。)は、上限が3mm以下であり、好ましくは2mm以下、更に好ましくは1mm以下である。この上限を超えると、試料取扱量が多くなりマイクロ流体デバイスの特徴が失われがちとなる。該平均距離の下限は任意であるが、好ましくは10μm以上、更に好ましくは20μm以上、最も好ましくは30μm以上である。この範囲とすることによって、圧力損失も過剰に大きく成らず、本マイクロ精留デバイスの第1温度制御部10aと第2温度制御部10b間を流れる熱量も過剰に大きくならない。
【0031】
精留用流路1がガス部2となす幅の広い溝と、液体部3となす幅の狭い溝が合わさった形状、例えば、上記逆凸の字型や上記小溝が複数列平行に設けられた形状の場合には、液体部3となす幅の狭い溝の厚みは、上限が好ましくは300μm以下、更に好ましくは200μm以下、最も好ましくは100μm以下である。この上限を超えると液相内での混合は不十分となり、精留の効率が低下する。該厚みの下限は任意に設定できるが、好ましくは3μm以上、更に好ましくは10μm以上、最も好ましくは30μm以上である。この範囲とすることによって、十分な精留速度が確保できる。
【0032】
精留用流路1の、長さ方向と直角な方向で、且つ前記厚み方向と直角な方向の寸法(以下これを、精留用流路の「幅」と称する場合がある。)も任意であり、用途、目的によって設定できるが、好ましい平均幅は3μm〜10mm、更に好ましくは、10μm〜3mm、最も好ましくは30μm〜1mmである。この範囲とすることによって、製造が容易となる。精留用流路1の断面積も任意であるが、30μm〜3mmの範囲にあることが、十分な精留効率と精留速度を確保しつつ、製造も容易であり好ましい。
【0033】
精留用流路1がガス部2となす幅の広い溝と、液体部3となす幅の狭い溝が合わさった形状、例えば、上記逆凸の字型や上記小溝が複数列平行に設けられた形状の場合には、ガス部2となす幅の広い溝の幅は、精留用流路1の好ましい範囲として述べた上記の値と同様である。また、液体部3となす幅の狭い溝及び前記各小溝の幅は、上限はガス部2の幅未満であり、かつ、好ましくは上記ガス部2の幅の1/2以下、更に好ましくは1/3以下、最も好ましくは1/4以下である。この上限未満とすることで、上記構造を採る効果が得られる。該幅の下限は任意に設定できるが、好ましくは3μm以上、更に好ましくは10μm以上、最も好ましくは30μm以上である。この範囲とすることによって、十分な精留速度が確保できる。
【0034】
精留用流路1の内表面は、ガス部2側の内表面は撥溶媒性(疎溶媒性)(但し、本明細書で言う「溶媒」は精留用流路1中を流れる液体のことを言い、「水」を含む。以下同様。)とし、液体部3側の内表面は親溶媒性とすることが、液体が液化しやすくなり、また、ガス部2が液体で充填されにくくなり、ガス部2と液体部3が明確に分離して流れやすくなるため、理論段数が向上し好ましい。
精留用流路1の内表面に、上記のような撥溶媒性部分と親溶媒性部分を設ける方法は、例えば本発明者等の出願になる特開2001-137613号公報に開示されている方法、即ち、紫外線グラフト重合により、所定の位置に所定の官能基をもつ重合体を導入する方法で実施できる。
【0035】
本発明のマイクロ精留デバイスにおいては、液体流出口7は精留用流路1の一方の端に設けられ、ガス流出口5は精留用流路1の他端に設けられている。このように、液体流出口7とガス流出口5が精留用流路1の両端に設けられることにより、本精留デバイスは向流で気液接触させることが出来る。液体流出口7は、好ましくは液体部3側の精留用流路1側壁又は液体部3側の精留用流路1端面に設けられ、ガス流出口5は好ましくはガス部2側の精留用流路1の側壁又はガス部2側の精留用流路1端面に設けられる。この位置に設けることにより、液体とガスの流れがスムーズになり、精留効率が向上する。
【0036】
一方、各流入口4、4’、6、6’を設ける位置は、以下のような場合があり得る。 以下、説明の簡略化のために、精留用流路1、ガス部2、及び液体部3に関して、精留用流路1の一方の端部(図2中左側)を「A端」と称し、他端部を「B端」と称することにする。
(1)第1方式(混合流体をガスとして精留用流路1の端に供給する方式)
本第1方式は、図3において、精留用流路1のA端のガス部2側にガス流入口4が設けられている。
【0037】
本第1方式に於いては、混合流体をガスとしてガス流入口4から精留用流路1に送り込むと、該ガスはガス部2中をガス流出口方向に流れ、その一部は第2温度制御部10bにおいて液化し、次々と液化する液体が、以前に液化した液体を順次押して、毛細管現象により液体部3をA端方向に流れて前記ガスと向流で接触し、液体流出口から流出する。第1温度制御部10aの温度が該混合液体の沸点より高く制御されているため、第1温度制御部10aに接触した液体はガス化し、精留用流路1全体が液体で充満することはなく、又、導入流量と液体取り出し流量を適切に制御すれば、液体がガス流出口5から流出することもない。
【0038】
そしてガス部2をA端からB端方向に流れるガスと、B端からA端方向に流れる液体は精留用流路1内で向流で気液接触する。液化しなかったガスはガス流出口5から流出する。ガス流出口5に多孔質隔膜8が設けられている場合には、ガスは該隔膜を透過し流出する。B端からA端方向に流れる液体の量は、各部位によって変化しうる。例えば、B端付近に於いてガスが液化し、それ以外の部分ではガス化速度と液化速度が等しくなるように温度制御部10の精留用流路1方向の温度分布を調節すれば、精留用流路1中の全領域に於いて、液体量は同じとなる。
【0039】
本方式は、混合流体をガスで供給する方式の回分式精留に好適である。また、連続式精留に於いては、例えばプロパン/ブタン混合流体のように、常温で気体の混合流体の精留に好適である。回分式精留を行う場合の貯液槽(図示略)は、本マイクロ精留デバイス内に、ガス流入口4又は液体流出部7に直接接続して、或いは連絡流路14、17を経て接続して形成することも出来るし、他のデバイス中に形成し、混合流体導入口24に接続することもできる。
【0040】
(2)第2方式(混合流体をガスで精留用流路1の途中に供給する方式)
本第2方式の精留用流路1は、図3において、ガス流入口4’が精留用流路1の途中のガス部2側に設けられていること以外は前記第1方式と同様である。
【0041】
本第2方式に於いては、混合流体をガスとしてガス流入口4’から精留用流路1の途中のガス部2側に送り込むと、該ガスはガス流出口5方向に流れ、第2温度制御部10bにおいてその一部が液化し、液体部3をA端方向に流れてガスと向流で接触し、液体流出口7から流出する。液化しなかったガスはガス流出口5から流出する。
【0042】
一方、ガス流入口4’と液体流出口7との間においても、ガス部2のガスと液体部3の液体は気液接触する。この範囲においてガスの液化量が液体のガス化量を上回れば、液体部3中の液体はA端に近づくほど増加し、ガス部2中をガスがガス流入口4’からA端方向に流れる。逆に、この範囲において液体のガス化量がガスの液化量を上回れば、液体部3中の液体はA端に近づくほど減少し、ガス部2中をガスがA端からガス流入口4’方向に流れる。ガス流入口4’の位置は、混合流体中の低沸点成分が多いほどB端に近くすることが好ましい。
【0043】
本方式は混合流体をガスで供給する方式の連続式精留に好適であり、濃縮率の高い低沸点成分濃縮留分と、濃縮率の高い高沸点成分濃縮留分を同時に得ることが出来る。
(3)第3方式(混合流体を液体として精留用流路の端に供給する方式)
本第3方式は、図3に於いて、精留用流路1のA端には液体流出口7が設けられており、B端には液体流入口6及びガス流出口が設けられている。本方式に於いては、液体流入口6から導入された液体状の混合流体は、液体部3側を流れて液体流出口7から流出する。そして、流れる途中でガス化生成したガスは、液体と向流で接触しつつガス部2を流れて、ガス流出口5から流出する。
本方式は、濃縮率の高い高沸点成分濃縮留分を得ることが可能である。
【0044】
(4)第4方式(混合流体を液体で精留用流路の途中に供給する方式)
本第4方式の精留用流路1は、図3において、液体流入口6の代わりに、液体流入口6’が精留用流路1の途中の液体部3側に設けられていること以外は前記第3方式と同様である。
【0045】
本方式ではB端付近においてガスの液化量が液体のガス化量を上回るように温度制御部10の温度を調節することが、B端と液体流入口6’の間の部分において、液体流入口6’方向への液体の流れが作られ、理論段数が高まるため好ましい。液体流入口6’の位置は、混合流体中の低沸点成分が多いほどB端に近くすることが好ましい。
【0046】
本方式は混合流体を液体で供給する方式の連続式精留に好適であり、濃縮率の高い低沸点成分濃縮留分と、濃縮率の高い高沸点成分濃縮留分を同時に得ることが出来る。
【0047】
上記いずれの方式の場合にも、精留用流路1のA端又は連絡流路14の途中には、キャリアガスとして窒素、アルゴン等の不活性なガスを導入するための連絡流路(図示略)を接続しても良い。
【0048】
[多孔質隔膜]
本発明のマイクロ精留デバイス100を運転するに当たり、液体がガス流出口5から流出することを阻止し、かつ、ガスが液体流出口7から流出しないよう運転する必要がある。例えば、混合流体導入速度が過剰に大きいと、液体はガス流出口5から流出しがちである。それを抑制するため、運転に当たり、混合流体導入速度(又は、混合流体導入圧力)、温度制御部の温度の微妙な調節が必要である。
【0049】
このような問題は、多孔質隔膜8を設けることにより解決できる。多孔質隔膜8は、表裏を貫通する多数の細孔を有する多孔質膜で構成されている。多孔質隔膜8は、ガスをガス流出口5から流出させ、かつ、液体がガス流出口5から流出することを阻止する隔膜として機能するものである。そのため、本多孔質膜8をガス流出口5に装着することにより、液体の導入速度の許容範囲や温度制御部10の温度の許容範囲が広くなり、制御が容易になる。
【0050】
多孔質隔膜8の多孔質構造は任意であり、例えば、該隔膜の表面に対してほぼ直角な多数の貫通孔状、互いに連通した気泡状、凝集粒子の間隙、ミクロフィブリル間の空隙、微細な不織布の繊維間の空隙、等であり得る。多孔質隔膜8の平均細孔径は、ガス流出口5の直径より小さいものであり、1nm〜10μmが好ましく、10nm〜1μmがさらに好ましく、100nm〜500nmが最も好ましい。この範囲の下限以上とすることで、十分な速度でガスを通過させながら、液体を遮断出来るため、液体の圧力制御の許容範囲や温度制御部10の温度制御の許容範囲が広くなり、制御が容易になる。
【0051】
多孔質隔膜8の厚さは、多孔質隔膜8を形成する材料や細孔径、あるいは精留する対象や精留温度等に応じて十分な強度と十分なガス透過速度を満足するように適宜調整する必要があるが、本願発明においては1〜500μmの範囲であることが好ましく、5〜100μmの範囲であることがさらに好ましい。多孔質膜をそれより孔径の大きな多孔質支持体上に形成した非対称膜も好ましい。このような膜は、孔径の小さな側を精留用流路1側に向けることが好ましい。
【0052】
多孔質隔膜8は、接触する液体に対して接触角が高い、撥溶媒性のものが好ましい。多孔質隔膜8に撥溶媒性のものを使用すると、液体流入口6、6’或いはガス流入口4,4’に混合流体を導入する流量や圧力の許容範囲や、精留用流路1の温度を調節する温度制御機構80の温度制御の許容範が広くなって精留が容易となる。しかしながら、接触する液体に対して接触角が低く、濡れるものであっても、該多孔質隔膜8の温度を、それに接触する液体の沸点より十分高く保つことによって、使用可能である。
【0053】
多孔質隔膜8の表面特性を、接触する液体に対して撥溶媒性とするには、多孔質隔膜8の素材として、例えばポリ四フッ化エチレン及びその共重合体のようなフッ素含有ポリマー、ポリジメチルシロキサン基含有ポリマーなどを使用する方法、細孔表面にフッ素含有基やジメチルシロキサン基などの撥溶媒基で表面修飾する方法などで実施できる。表面修飾法は、シリル化剤による表面修飾、アジド基などによる光化学的修飾、表面グラフト重合など任意の方法を使用できる。精留する混合流体が水系溶液である場合には、多孔質隔膜8の素材として上記の他、ポリオレフィン、ポリアセタール、ポリフェニレンスルフィドなどの撥水性(疎水性)ポリマーを好適に利用できる。
【0054】
多孔質膜8の装着方法は、精留用流路1のガス流出口5を塞ぐ形状であれば任意である。例えば、マイクロ精留デバイス100が、図1に示されるように、低沸点成分濃縮留分取り出し口25に連絡する連絡流路15となる溝が表面に形成された部材と、精留用流路1が形成された部材でもって、多孔質隔膜8を挟んで積層・固定する構造を好ましく採ることが出来る。多孔質隔膜8となる部材は、精留用流路1や連絡流路15部を切り抜いた、マイクロ精留デバイス100全面に渡る多孔質膜であっても良い。
また、図3に示されたように、ガス流出口5に形成された、精留用流路1の厚み方向に平行な多孔質隔膜8であってもよい。このような多孔質隔膜8は、本発明者等の出願になる特開2000-262871号公報に開示されている方法で形成できる。即ち、紫外線架橋重合性単量体と、該単量体は溶解するが生成する架橋重合体はゲル化させない貧溶剤との混合溶液を、前記精留用流路1のガス流出口5となる部分に充填し、多孔質隔膜8となる部分にのみフォトマスクを通して紫外線を照射することによって、照射部が架橋重合すると同時に相分離し、多孔質隔膜8が固着されて形成される。
【0055】
[温度制御部]
本発明のマイクロ精留デバイス100の2つの温度制御部10は、精留用流路1の側面(即ち、精留用流路1の長さ方向に平行な内壁面)に設けられ、高温に温度制御された第1温度制御部10aと、低温に温度制御された第2温度制御部10bからなる。即ち、第1温度制御部10aと第2温度制御部10bは、精留用流路1の側面の異なる部分(精留用流路1の横断面に於ける周上の異なる部分)に設けられる。その結果、本発明の精留方法の欄で述べるように、精留用流路1の第1温度制御部10a側にガス部2が形成され、第2温度制御部10b側に液体部が形成される。
【0056】
第1温度制御部10aと第2温度制御部10bは、精留用流路1の側面の異なる部分であれば良いが、互いに対向する側面であることが好ましい。互いに対向する側面とは、精留用流路1に平行な2つの平面で精留用流路1を挟んだとき、該2つの平面と接触する一対の側面を言う。例えば、精留用流路1の断面形状が矩形の場合には対向する辺を含む側面であり、断面形状が円である場合には、該円周の対向する点を含む側面である。
【0057】
温度制御部10は、精留用流路1の長さ方向の全範囲に設ける必要はないが、温度制御部10が設けられた範囲で実質的に精留が成されるため、精留用流路1の長さ方向の全部若しくは大部分であることが好ましい。
【0058】
このように、本発明の温度制御部は、精留管の下端部(又は該部分に接続された貯液槽)を加熱して混合液体を気化させ、上端部を冷却して蒸気を液化させるような、従来の精留における温度制御部とは異なる。
【0059】
第1温度制御部は、精留用流路1を流れる液体の一部をガス化させ、該ガスが精留用流路1に接して流れる温度に制御することが可能なものであり、第2温度制御部は、精留用流路1を流れるガスの一部を液化させる温度に制御することが可能なものである。分離すべき2つの成分の沸点によって、これらは加熱部である場合も、冷却部である場合もある。従って、温度制御部10の温度を調節する温度制御機構80は、加熱器、冷却器、放熱器、又はこれらの組み合わせであって良い。
【0060】
温度制御機構80a、80bの温度制御の方式は任意であり、温度制御機構80aが第1温度制御部10aを、温度制御機構80bが第2温度制御部10bを独立に温度制御する方式、第1温度制御部10aと第2温度制御部10b間の温度差が特定の値になるように設計し、温度制御機構80の一方が温度制御機能を有する方式、第1温度制御部10aと第2温度制御部10bの一方の側のみに温度制御された温度制御機構80の一方が設けられていて、他方の側には一定温度に調節された温度制御機構80の他方が設けられている方式、などがある。さらに、例えば、第1温度制御部10aと第2温度制御部10bの一方の側のみに温度制御された温度制御機構80が設けられていて、他方の側の温度制御機構80は、単なる保温材や気流の変化を防ぐカバーであって、温度制御された温度制御機構80からの熱伝導により自動的に温度調節される方式であってもよい。また、温度制御機構80は温度制御された固体のみならず、液体や気体であっても良い。赤外線などの放射線であっても良いが、熱伝導方式により温度制御部10を温度調節するものが好ましい。
【0061】
また、温度制御部10の温度制御は、所定温度に調節された温度制御機構80との触であっても良いし、温度制御部10付近に設けられた温度センサーからのフィートバックによる温度制御機構80の温度制御であっても良いし、電気抵抗の非直線性などを利用して、自動的に適温に調節される発熱素子を用いたものであっても良い。
【0062】
温度制御部10は、精留用流路1の長さ方向に温度勾配を有することが好ましい。その勾配は、液体部3のA端とB端の間の各位置における液体の沸点に応じた温度とすることが好ましい。そのため、前記2つの温度制御部の内少なくとも第1温度制御部が、液体流出口とガス流出口の間の精留用流路の長さ方向に、それぞれ、精留すべき2種の成分の沸点の差の、好ましくは30%〜200%、更に好ましくは50〜150%、最も好ましくは80〜120%の温度差の温度勾配を設けることが好ましい。
【0063】
さらに、温度制御部10は、A端とB端の間での温度曲線が、直線状又は上に凸の(即ち、直線状より中央部の温度が高い)曲線とすることが好ましい。温度制御部10にこのような温度分布を持たせる温度制御は、例えばA端相当部位からB端相当部位の間に3以上の温度制御されたヒーターを有するプレート状の温度制御機構80を使用することにより実施できる。
【0064】
温度制御部10の温度勾配は近似的な温度勾配であって良く、厳密に見ればうねりを有したり階段状であっても、全体として温度勾配を示していればよい。このような近似的な温度勾配は、3以上の温度制御されたヒーターを並べた温度制御機構80を使用する場合に起こりうる。また、温度制御機構80自体は滑らかな温度勾配を有していても、精留用流路1に階段状の温度勾配が付けられる場合もあり得る。これは例えば、マイクロ精留デバイス100中にジグザグに形成された精留用流路1に、一方向に温度勾配を有する温度制御機構80を接触させた場合に生じる。
【0065】
精留用流路1が設けられたマイクロ精留デバイス100が板状又はシート状であって、第1温度制御部10aが該マイクロ精留デバイス100の一方の面に近い側に形成され、第2温度制御部10bが裏面に近い部分に形成され、温度制御機構80マイクロ精留デバイス100の外部に設けられている場合には、該マイクロ精留デバイス100に密着又は近接可能な平面部を有する形状とすることが好ましい。またこのとき、第2温度制御部10b側に温度勾配を有する温度制御機構80bを配し、第1温度制御部10a側には、実質的に温度勾配の無い温度制御機構80a、または第2温度制御部10bに対して自動的に一定温度だけ高く温度調節される温度制御機構80aを用いることが、制御が容易になり好ましい。第1温度制御部10a側の温度制御機構80aとしては、ITO蒸着ガラスやZnO蒸着ガラスのような透明ガラスヒーターや、2枚のガラス間に熱媒を流す温度制御機構80aを設置することが、該透明ガラスを通して流路を観察できるため好ましい。
【0066】
本発明の方法の精留方式が、混合流体をガスとして精留用流路1に供給する場合には、混合流体導入口24からガス流入口4、4’に連絡する連絡流路14が、第1温度制御部10aを通る構造としたり、混合流体が完全にガス化する温度に調節できるガス化用の温度調節部を有していることが好ましい。
【0067】
本発明のマイクロ精留デバイスは、一つのデバイス中に複数の精留用流路1が直列及び/又は並列に設けられていてよい。直列に設けられる場合には、上記ガス流出口5を次段のガス流入口4若しくはガス流入口4’に接続して形成するか、又は、上記液体流出口7が次段の液体流入口6若しくは液体流入口6’に接続して形成する。このように、複数の精留用流路1を直列に設けることにより、連続精留においても、互いに沸点の異なる3種類以上の成分を分留することが出来る。また、上記直列接続は、上記流出口と次段の流入口を連絡用流路を省いて直接接続し、一体化した精留用流路として形成することも出来る。
【0068】
[精留方法]
本発明の精留方法は、上記のマイクロ精留デバイス100を用いた、微少量の流体を精留できる精留方法であり、精留用流路1の液体部3に流す混合液体とガス部2に流す混合ガスを向流で接触させることにより精留を行う方法である。
【0069】
混合流体は特に制約はなく、各成分がそれぞれ沸点を有する成分であれば、有機物、無機物、液体、気体、超臨界流体等であって良いし、精留は常圧蒸留、減圧蒸留、加圧蒸留であって良い。混合流体が2成分の場合について説明すること、その他の用語については、本発明のマイクロ精留デバイスの説明と同様である。
【0070】
〔液体部〕
液体部3には上記B端からA端方向に混合流体由来の液体を流し、ガス部2から高沸点成分を液化させると共に、液体部3から低沸点成分をガス化させてガス部2へ移動させるようにする。勿論、上記高沸点成分の液化において、同時に低沸点成分も液化するし、また、上記低沸点成分のガス化において、同時に高沸点成分もガス化する。しかし公知のように、精留用流路1の長さ方向の任意の部位に於けるガスの液化に関して、ガス部2に於ける高沸点成分の組成比より液化する高沸点成分の組成比の方が高く、また液体部3に於ける低沸点成分の組成比よりガス化する低沸点成分の組成比の方が高くなる。
【0071】
液体部3をこのような気液接触状態に保つことは、液体部3を流れる液体が全部ガス化して無くなることが無いように、且つ、ガス部2まで液体が充満することがないように温度制御部10を調節する方法で実施できる。このような温度制御は、第1温度制御部10aの温度制御に大きく依存する。
【0072】
第1温度制御部10aの温度が高すぎると液体部3の少なくとも一部で全ての液体がガス化し、精留用流路1内のA端とB端との間で液体部が途切れる。このような状態が生じると単蒸留になり、本発明の精留が行われなくなる。但し、液体部3はB端とA端との間で増減しても良いし、瞬間的に途切れる時間があっても良い。精留用流路1中に液体部3となる微細な溝が形成されている場合や、精留用流路1の液体部3表面が親溶媒性である場合には、沸点を超えても沸騰しない場合があることが知られている。本発明に於いては、沸騰しなければ、第1温度制御部10aの温度を沸点以上にしても良い。
【0073】
逆に、第1温度制御部10aの温度が低すぎると、低沸点成分のガス化が不十分となり、液化速度がガス化速度を上回り、精留用流路1内のA端とB端との間で精留用流路1が液体で満たされる部分が生じる。液体で満たされる部分が精留用流路1の一部である場合は、他の部分で発生したガスが気泡となって、該部分の液体を押しのけてガス流出口方向へ移動するため、精留効率は低下するが精留は可能であり許容される。しかし、常に液体で満たされている場合は精留効率が著しく低下し、常に液体で満たされている部分が精留用流路1の大部分である場合は精留不能となる。
【0074】
液体部3をA端方向に流れつつ気液接触した液体は、組成が変化し、沸点が上昇する。従って、温度制御部の温度を精留用流路1の長さ方向に一定温度とすると、液体の沸点が上昇するA端付近では相対的にガス化速度が低下すると共に液化速度が増加し、液体の量が増しがちとなる。一方、液体の沸点が低下するB端付近では相対的にガス化速度が増加すると共に液化速度が低下し、液体の量が減少しがちとなる。従って、精留用流路一全体にわたって、液体部3の液体を途切れさせず、且つ、ガス部2を液体で充満させない温度条件は狭くなる。混合流体の各成分の沸点差が大きい場合には、上記のいずれかが生じてしまい、精留不能となる場合もある。
【0075】
そのため、精留用流路1の長さ方向にA端側が高く、B端側が低い温度勾配を設けることが好ましい。その勾配は、第2温度性制御部10bの両端の温度差を、精留すべき2種の成分の沸点の差の、好ましくは30%〜200%、更に好ましくは50〜150%、最も好ましくは80〜120%の温度差とすることが好ましい。また、第2温度制御部10bの長さ方向の位置(横軸)対温度(縦軸)の曲線(又は直線)は上に凸とすること、即ち、任意の2つの位置の中点の温度は該2点に於ける温度の平均値より高い曲線とすることが、精留効率を増すために好ましい。
【0076】
しかしながら実際には、上記のように精留用流路1中に存在する液体の沸点や温度制御部10b各部の温度を測定することなく、精留用流路1を観察しながら、A端とB端の間に於いて液体部3が途切れず、且つ、ガス部2も途切れないように調節する方法、好ましくは、かつ、A端とB端の間の各位置に於いて液体量がほぼ等しくなる様に温度交配を調節する方法、が最も簡単であり好ましい。
【0077】
本発明に於いては、液体部3の液体を液体流出口7方向へ移動させる。移動方法は、液体流出口7から液体を取り出すことで、液体部3の液体は毛細管現象により自動的に液体流出口7方向へ移動する。液体流出口7から液体を取り出す方法は任意であり、例えば、高沸点成分濃縮留部員取り出し部18に接続された配管の長さと高低差を調節した重力による自然流出、ポンプによる定量的取り出し、減圧による吸引、多孔質体への吸収等であり得る。本発明に於いては、流出口7からガスが流出しないようにする必要がある。ガスの流出を防ぐためには、ガスが流出しない程度の速度で流体を取り出すことが好ましく、中でも、連絡流路17に接続したポンプにより取り出すことが好ましい。
【0078】
〔ガス部〕
一方、ガス部2には、前記液体部3中の液体と向流になる向き、即ち、上記A端からB端方向にガスを流し、精留用流路1の長さ方向の各位置に於いて液体部3の液体と接触させる。第1温度制御部10aは、ガスが液化しない温度に温度調節する。但し、本発明の効果をなくさない程度に時々、ガス部2の一部を閉塞する形状に液化した液体がガスの移動方向に移動することは許容される。第1温度制御部10aの温度が低すぎると、液化した液体がガス部2に充満すると共に多孔質隔膜8の細孔内にも充満して、ガス流出口5から液体流出し、精留不能になる。一方、第1温度制御部10aの温度が相当高くても、液体部3の温度が上記のように制御されている限り問題なく精留可能である。本発明に於いては、第1温度制御部10aの温度は高い方に許容度が高く、例えば液体部の沸点より50℃以上高くても良い。
【0079】
しかし、第1温度制御部10aの温度を過度に高くすると、熱伝導や輻射によって液体部3の液体温度が影響を受け易くなり、第2温度制御部10bの温度制御が不正確になりがちである。第1温度制御部10aの温度の上限は、精留用流路1の寸法、構造、素材の熱伝導率などによって変わるため一概に限定できないが、好ましくは[高沸点成分の沸点+50℃]以下、更に好ましくは[高沸点成分の沸点+30℃]以下、最も好ましくは[高沸点成分の沸点+20℃]以下である。
【0080】
本発明の精留方法に於いては、あらかじめ上記のように第1温度制御部10aの温度を決めた後、上記液体部の説明の項で述べたように、液体部3を流れる液体が全部ガス化して無くなることが無いように、且つ、ガス部2まで液体が充満することがないように第2温度制御部10bを調節する方法が容易であり好ましい。
【0081】
ガスがガス部2を流れる間に、高沸点成分は液化して液体部3中の液体に加わり、液体部3中の液体から低沸点成分がガス化してガス部2中のガスに加わる。よって、ガス部2中を流れるガスはガス部2中をA端かB端方向に流れる間に徐々に液化温度が低下する。従って、第1温度制御部10aもまたA端からB端方向に徐々に温度が低くなる温度勾配を設けることが好ましい。しかしながら、第1温度制御部10aに関しては、前述のように、温度は多少高くても問題ないため、全体を十分高くして、該温度分布を設けなくても良い。
【0082】
ガス部2には、窒素、アルゴン等の不活性な気体をキャリアガスとして少量流しても良い。第2温度制御部10bの温度が過剰に低い部分があったり、低くなる時があると、ガス部2の一部に液体が充満する場合があるが、このような場合にもキャリアガスを流すと、ガス部2に液体が充満しにくくなるため、運転の安定度と信頼性が増す。
【0083】
また、本精留方法に於いては、液体部3の液体がガス流出口5から流出しないようにする必要があるが、第1温度制御部10aの温度を該部分の液体の沸点より十分高く制御し、且つ、混合流体の導入流量を適切に制御することにより、第1温度制御部10aに接触した液体を直ちにガス化させ、ガス流出口5から流出しないようにすることが出来る。又、ガス流出口5及び連絡流路15の内面を疎溶媒性としたり、ガス流出口5に多孔質膜8を装着することにより、液体の導入速度の許容範囲や温度制御部10の温度の許容範囲が広くなり、制御が容易になる。このとき、ガス流出口5や多孔質隔膜8の温度を、そこに接触する液体の沸点より好ましくは高く、より好ましくは5℃以上高く、更に好ましくは10℃以上高く制御する。上限は、精留する成分の分解温度以下であれば任意であるが、液体の沸点より50℃以上高くないことが、省エネルギーの観点やマイクロ精留デバイスの耐熱性の面から好ましい。多孔質隔膜8の温度は第1温度制御部10aと同じ火、それより高いことが好ましい。
【0084】
精留すべき混合流体を精留用流路1に導入する部位や方法は、精留の方式によって異なるが、これについては、本発明のマイクロ精留デバイスの項で述べたとおりである。
【0085】
〔理論段数〕
本発明の精留方法は、蒸留の理論段数が単蒸留より高い蒸留方法であり、蒸留の理論段数が好ましくは1.1以上、さらに好ましくは1.5以上、最も好ましくは2以上であるような蒸留方法である。本発明は、このような理論段数となるよう、精留用流路の長さなど各部寸法の選定、液体とガスの流速、温度条件などの精留条件を制御することにより実施できる。理論段数の上限は、精留用流路を長くすることにより任意に設定でき、好ましくは2段以上、更に好ましくは3段以上、最も好ましくは5段以上である。上限は任意であり、例えば100段や1000段であり得る。
【0086】
[精留方式]
以下、本発明の代表的な精留方式における精留方法を説明する。
1.回分式精留方法
本精留方法は、前記精留用流路の第1方式の精留用流路1を用い、ガス流入口4を連絡流路14により貯液槽(図示略)に接続し、該貯液槽を加熱する貯液槽の温度制御部(図示略)を設ける。ガス流出口5は連絡流路15を経て、開口部として設けられた低沸点成分濃縮留分取り出し口25に接続されており、また、液体流出口7を連絡流路17により前記貯液槽(図示略)に戻すように接続されている。
【0087】
本精留方法では 貯液槽に混合流体を注入し、前記貯液槽の温度制御部により貯液槽中の混合流体を加熱し、ガス化させて、そのガスをガス流入口4に送り込むと、その一部は液体として、液体流出口7から貯液相に戻る。このとき、貯液槽中の混合流体の量が減少するに従い、液体部3の各部における液体の沸点や、ガス部2各部におけるガスの液化点が変化するため、液体部3の液体が途切れないよう、且つ、ガス部2に液体が充満しないように温度制御部10aを調節して、上記の状態を保つようにする。精留終了点は、貯液槽中の混合流体の沸点が急上昇し、ガス化しなくなることで知ることが出来る。このようにすると低沸点成分濃縮留分取り出し口25から低沸点成分が取り出され、精留残渣として高沸点成分が得られる。
【0088】
なお、本精留方式に於いて、混合流体が3種以上の沸点の異なる成分を含むときは、低沸点成分濃縮留分取り出し口25から、経時的に順次低沸点成分から流出する。
本精留方式において、一度に精留する混合流体の量は任意であるが、例えば1mm〜1cm、さらに好ましくは1mm〜100mm程度の微少量の試料の精留が容易であり、また、3種以上の沸点の異なる液体の混合物を互いに分離精製することが容易である。
【0089】
2.連続精留方法
以下の本発明の連続精留方法は、精留すべき混合流体の処理速度は任意であるが、例えば100μm/分〜1000mm/分、さらに好ましく井は1000μm/分〜100mm/分のような微少流量での連続精留が可能である。そのため、連続反応マイクロリアクタに好適に組み込むことが出来る。また、精留する液体の量に制約がない上、定常状態になった後は精留用流路各部の温度は時間変化しないため、温度調節が容易である。
【0090】
(2−1)連続精留方法1(ガス状の混合流体を精留用流路1の端に供給する方式)
本精留方法は、前記精留用流路の第1方式1の精留用流路1を用いた精留方法であり、混合流体導入口、低沸点成分濃縮留分取り出し口27、低沸点成分濃縮留分取り出し口25がマイクロ精留デバイス100の開口部として形成されたマイクロ精留デバイスを好ましく使用できる。
【0091】
本精留方法は、ガス状の混合流体をガス流入口4から精留用流路1に連続的に供給する。ガス状の混合流体をガス流入口4に供給する方法としては、圧力などによって、常温でガス状の混合流体や加熱によりガス化した混合流体を導入する方法、又は、液体状の混合流体をポンプなどにより混合流体導入口24に導入し、連絡流路14中にて加熱ガス化させ、ガス流入口4から精留用流路1に連続的に供給する方法を採ることが出来る。
ガス流入口4に供給されたガスは精留用流路1中をB端方向に流れてガス流出口5から流出する。本精留方法においては、精留用流路1内に於いて、ガスの液化量が液体のガス化量を上回るように温度制御部10の温度を調節する。このようにすると、次々と液化した液体が液体部3をガスと向流で接触しつつA端方向に流れて、液体流出口7から流出する。流出した該液体は、連絡流路17を経て低沸点成分濃縮留分取り出し口27から取り出す。このとき、低沸点成分濃縮留分取り出し口27に配管を接続し、他端を下方に下げておくと、ポンプ機構を設けなくても、高沸点成分濃縮留分は自重で流出する。該配管の両端の高低差を調節することにより、取り出す流量を調節できる。また、低沸点成分濃縮留分取り出し口25に配管を接続し、該配管を冷却すると、低沸点成分濃縮留分は液体となって流出する、この場合も、該配管の他端を下方に下げておくと、ポンプ機構を設けなくても、低沸点成分濃縮留分は自重で流出する。上記と同様に、該配管の両端の高低差を調節することにより、取り出す流量を調節できる。
本方式は濃縮率の高い低沸点成分濃縮留分を得ることが可能である。
【0092】
(2−2)連続精留方法2(ガス状の混合流体を精留用流路1の途中に供給する方法)
本精留方法は、前記第2方式の精留用流路1を用いた精留方法であり、ガス状の混合流体を精留用流路1の途中のガス部2に供給する点が、前記連続精留方法1と異なる。
本精留方法は、ガスの液化量が液体のガス化量を上回るように温度制御部10の温度を調節する範囲が、ガス流入口4’とB端の間であること以外は、前記連続精留方法1と同様である。一方、ガス流入口4’とA端の間に於いては、液体のガス化量がガスの液化量を上回るように温度制御部10の温度を調節することが好ましい。このようにすると、A端とガス流入口4’の間の部分においても、ガス流出口5方向へのガスの流れが作られ、この範囲に於いても向流で気液接触が行われるため、理論段数が高まる。
本方式は、濃縮率の高い低沸点成分濃縮留分と、濃縮率の高い高沸点成分濃縮留分を共に得ることが出来る。
【0093】
(2−3)連続精留方法3(液体状の混合流体を液体精留用流路1の端に供給する方式)
本精留方法は、前記第3方式の精留用流路1を用いた精留方法である。本方式は、混合流体導入口、低沸点成分濃縮留分取り出し口27、低沸点成分濃縮留分取り出し口25がマイクロ精留デバイス100の開口部として形成されたマイクロ精留デバイスを好ましく使用できる。
【0094】
本精留方法は、液体の混合流体を液体流入口6から精留用流路1に連続的に供給する。
混合流体が常温で液体である場合には、該混合流体を圧力やポンプなどによって混合流体導入口に混合流体を送ると、連等気流路14において特別な温度操作は不要である。混合流体が常温で気体の場合は、あらかじめマイクロ精留デバイス外で冷却液化してから送り込むか、連絡流路14を冷却して液化させる。液体流入口6に供給される液体の温度は沸点直下であることが好ましい。
本精留方法においては、精留用流路1内に於いて、液体のガス化量がガスの液化量を上回るように温度制御部10の温度を調節する。このようにすると、次々とガス化したガスがガス部2をB端方向に流れて、液体と向流で接触し、ガス流出口5から流出する。その他は、前記連続精留方法1と同様である。
本方式は、濃縮率の高い高沸点成分濃縮留分を得ることが可能である。
【0095】
(2−4)連続精留方法4(液体状の混合流体を精留用流路の途中に供給する方法)
本精留方法は、前記精留用流路の第4方式の精留用流路1を用いた精留方法であり、液体状の混合流体を液体流入口6’から精留用流路1の途中の液体部2に供給するところが、前記連続精留方法3と異なる。
本精留方法は、精留用流路1全体として、液体のガス化量がガスの液化量を上回るように温度制御部10の温度を調節するが、特に、液体流入口6’とA端の間に於いて、液体のガス化量がガスの液化量を上回るように温度制御部10の温度を調節することが好ましい。このようにすると、A端とガス流入口4’の間の部分において、B端方向へのガスの流れが作られ、この範囲に於いて、向流で気液接触が行われるため、理論段数が高まる。また、液体流入口6’とB端の間においてガスの液化量が液体のガス化量を上回るように温度制御部10の温度を調節することが好ましい。このようにすると、B端と液体流入口6’の間の部分において、B端からA端方向への液体の流れが作られ、この範囲に於いても向流で気液接触するため、理論段数が高まる。 本方式は、濃縮率の高い低沸点成分濃縮留分と、濃縮率の高い高沸点成分濃縮留分を共に得ることが出来る。
【実施例】
【0096】
以下、実施例を用いて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は、以下の実施例の範囲に限定されるものではない。
【0097】
本実施例で使用する紫外線硬化樹脂組成物の調製方法、および、紫外線照射方法を以下に示す。なお、以下の実施例において、「部」及び「%」は、特に断りがない限り「質量部」及び「質量%」を表わす。
【0098】
[紫外線硬化性の組成物(X1)の調製]
活性エネルギー線重合性成分として東亞合成株式会社製トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート「アロニックスM−315」18部、東亞合成株式会社製ビス(アクリロキシエチル)ヒドロキシエチルイソシアヌレート「アロニックスM−215」72部、及び第一工業製薬株式会社製1,6−ヘキサンジオールジアクリレート「ニューフロンティアHDDA」10部、光重合開始剤としてチバガイギー社製1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン「イルガキュア184」2部を均一に混合して組成物(X1)を調製した。
【0099】
[紫外線の照射]
250W高圧水銀ランプを光源とするウシオ電機株式会社製のマルチライト250Wシリーズ露光装置用光源ユニットを用い、365nmにおける紫外線強度が50mW/cmの紫外線を、特に指定が無い限り室温、大気中で照射した。
【0100】
(実施例1)
図1、図2に示された、精留方式2−4のマイクロ精留デバイスの例を示す。
〔第2温度制御部側部材の作製〕
厚さ1mmのアクリル板製の基材51上にスピンコーターを用いて組成物(X1)を塗布し、該塗膜に紫外線を5秒間照射して、重合性官能基がまだ残存する程度に前記組成物(X1)が半硬化した樹脂層52を形成した。
【0101】
樹脂層52の上に、スピンコーターにて組成物(X1)を塗布し、フォトマスクを通して精留用流路1の液体部3、連絡流路14、及び連絡流路17となるべき部分以外の部分に紫外線照射を5秒間行い、重合性官能基がまだ残存する程度に前記組成物(X1)が半硬化した樹脂層53を形成し、非照射部分の未硬化の組成物(X1)をエタノールで洗浄除去して、精留用流路1の液体部3、連絡流路14及び連絡流路17となるべき溝3、14、17を形成した。以上のようにして、第2温度制御部側部材92を形成した。
【0102】
〔第1温度制御部側部材の作製〕
基材51の代わりに60μmの二軸延伸ポリプロピレンシート(OPPシート)(二村化学社製)を一時的な支持体(図示略)として用いたこと以外は前記第2温度制御部側部材92の作製と同様にして、樹脂層57、及び連絡流路15が形成された樹脂層56の固着体を、一時的な前記支持体の上に作製した。
一方、平均孔径0.2μmのポリ四フッ化エチレン(PTFE)製の多孔質膜(アドバンテック社)を組成物(X1)中に浸漬し、真空に減圧した後常圧に戻して、該多孔質膜の細孔中に組成物X1を充満させた。これを、前記OPPシートを一時的な支持体(図示略)として、その上に広げ、ガラス棒にて多孔質膜の細孔に含浸している部分以外の余剰の組成物(X1)を掻き取り、フォトマスクを通して多孔質隔膜8となす部分以外の部部に紫外線を10秒間照射して照射部を半硬化状態とし、n−ヘキサンで洗浄して、未照射部分の未硬化の組成物(X1)を洗浄除去して、前記一時的な支持体上に、多孔質隔膜8部分のみが連通多孔質膜であり、他の部分の細孔には半硬化状態の組成物(X1)が充填された多孔質隔膜層55を形成した。これを、前記樹脂層57と樹脂層56の固着体の上に、位置を合わせて積層し、多孔質隔膜層55から一時的な支持体を剥離した。
【0103】
また、前記OPPシートを一時的な支持体(図示略)として、その上に組成物(X1)をスピンコートし、フォトマスクを通して精留用流路1のガス部2となる部分以外の部分に紫外線を5秒間照射して照射部を半硬化させて樹脂槽54となし、前記第2温度制御部側部材92の前記樹脂層53上に位置を合わせて積層した後紫外線を10秒間照射して硬化を進め、その後、樹脂層54から一時的な支持体を剥離した。
次いで、該樹脂槽54と前記積層された多孔質膜55を位置を合1温度制御部側部材91を形成すると同時に第2温度制御部側部材92に固着させ、樹脂層57から一時的な支持体を剥離して、マイクロ精留デバイス前駆体と成した。
【0104】
〔マイクロ精留デバイスの作製〕
マイクロ精留デバイス前駆体の基材51側から、連絡流路14の端部および連絡流路17の端部において、各連絡流路に届く直径0.5mmの孔64、67をドリルで開け、混合流体導入口24および低沸点成分濃縮留分取り出し口27と成し、各開口部に配管接続用のフィッティング74,77を接着した。また、マイクロ精留デバイス前駆体の樹脂層57側から、連絡流路15の端部において、連絡流路に届く直径0.5mmの孔65をドリルで開けて、低沸点成分濃縮留分取り出し口25と成し、該開口部に配管接続用のフィッティング75を接着して、図1,図2に示したマイクロ精留デバイス100を得た。
【0105】
〔デバイスの構造観察〕
上記で作製したデバイスを切断して走査型電子顕微鏡にてデバイス各部の寸法を測定したところ、基材51の厚みは1mm、樹脂層52、樹脂層56、及び樹脂層57の厚みは100μm、樹脂層53及び樹脂層54の厚みは150μm、多孔質隔膜層55の厚みは約100μmであった。また、精留用流路の断面は、ガス部2が幅500μm、厚さ150μm、液体部3が幅150μm、厚み150μmの逆凸の字型であり、連絡流路15、14、17は全て幅が150μmであった。精留用流路の長さは5cmであった。
【0106】
〔温度制御機構の作製〕
10cm×3cm×4mmの鉄板(図示略)に、該鉄板の長さ方向に順に3つの電気ヒーター(図示略)と、10×10mmの角パイプ状の水流管(図示略)1本を平行等間隔に接着し、前記鉄板の電気ヒーター接着部にセンサー(図示略)を埋め込んで、第2温度制御機構80bを作製した。
【0107】
一方、10cm×3cm×1mmのITO蒸着ガラス板(図示略)の、長手方向の両端部のITOコート面に、銅電極(図示略)を銀ペーストで接着し、そこに銅線(図示略)を接着した。また、ITO蒸着面の中心部に無機系接着剤にて熱電対90を接着して第1温度制御機構80aを作製した。
【0108】
〔精留システムの作製〕
マイクロ精留デバイス100の混合流体導入口24のフィッティング74にシリンジポンプ(図示略)を接続し、低沸点成分濃縮留分取り出し口25のフィッティング75、及び、低沸点成分濃縮留分取り出し口27のフィッティング77に内径200μmのPTFE製のチューブ(図示略)を接続した。
【0109】
マイクロ精留デバイス100の第2温度制御部側部材92表面に第2温度制御機構80bを密着させて固定し、マイクロ精留デバイス100の第1温度制御部側部材91の表面に、スペーサー(図示略)により1mmの間隔を空けて第1温度制御機構80aを固定した。以上のようにして、精留システムを作製した。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】本発明の実施例1で作成したマイクロ精留デバイスの分解見取り図である。
【図2】本発明の実施例1で作成したマイクロ精留デバイスの平面模式図(a)、及び、α部断面模式図(b)である。
【図3】本発明のマイクロ精留デバイスの各種の精留方式を示す原理図である。
【符号の説明】
【0111】
1 精留用流路
2 ガス部
3 液体部
4、4’ ガス流入口
5 ガス流出口
6、6’ 液体流入口
7 液体流出口
8 多孔質隔膜
10 温度制御部
10a 第1温度制御部
10b 第2温度制御部
14、15、17 連絡流路
24 混合流体導入口
25 低沸点成分濃縮留分取り出し口
27 高沸点成分濃縮留分取り出し口
51 基材
52、53、54、56、57 樹脂層
55 多孔質隔膜層
64、65、67 孔
74,75、77 フィッティング
80 温度制御機構
80a 第1温度制御機構
80b 第2温度制御機構
91 第1温度制御部側部材
92 第2温度制御部側部材
100 マイクロ精留デバイス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
沸点の異なる少なくとも2種の成分を含有する混合流体から各成分を精留するマイクロ精留デバイスであって、
a)前記マイクロ精留デバイスが、ガス流入口又は液体流入口、ガス流出口、及び液体流出口を有する精留用流路を有し、
b)前記精留用流路が、該流路側面に異なる温度に温度制御された2つの温度制御部を有し、
c)前記温度制御部の内、高温に温度制御された第1温度制御部により、前記精留用流路を流れる前記混合流体の低沸点成分がガス化し、前記第1温度制御部に接して該ガスが流れるガス部が形成され、
前記温度制御部の内、低温に温度制御された第2温度制御部により、前記精留用流路を流れる前記混合流体の高沸点成分が液化し、前記第2温度制御部に接して、該液体が流れる液体部が形成され、
d)前記ガス部と前記液体部が向流気液接触部を形成し、
e)前記ガス流出口が前記ガス部の下流に設けられ、
f)前記液体流出口が前記液体部の下流に設けられている
ことを特徴とする混合液に含まれた沸点の異なる少なくとも2種の成分を精留するマイクロ精留デバイス。
【請求項2】
前記ガス流出口に、多孔質隔膜が装着されている請求項1記載のマイクロ精留デバイス。
【請求項3】
前記精留用流路の前記ガス部を形成する側の流路より、前記液体部を形成する側の流路が小さな断面形状を有する請求項1記載のマイクロ精留デバイス。
【請求項4】
前記マイクロ精留デバイスが板状であって、
前記精留用流路が該マイクロ精留デバイスの表面に平行に形成されており、
前記2つの温度制御部が、前記精留用流路を囲む板状部分の相対する面に設けられている請求項1記載のマイクロ精留デバイス。
【請求項5】
前記精留用流路の断面積が30μm〜3mmである請求項1記載のマイクロ精留デバイス。
【請求項6】
前記精留用流路の前記液体部側の壁面と前記ガス部側の壁面との距離が10μm〜3mmである請求項1記載のマイクロ精留デバイス。
【請求項7】
前記精留用流路の長さが0.5〜20cmである請求項1記載のマイクロ精留デバイス。
【請求項8】
前記2つの温度制御部の内、少なくとも第1温度制御部が、液体流出口とガス流出口の間の精留用流路の長さ方向に、それぞれ、精留すべき2種の成分の沸点の差の30%〜150%の温度勾配を設けることの出来る請求項1記載のマイクロ精留デバイス。
【請求項9】
前記マイクロ精留デバイスの、前記2つの温度制御部間の熱伝導率が、0.01〜10wm−1−1である請求項1記載のマイクロ精留デバイス。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載のマイクロ精留デバイスを用いて、沸点の異なる少なくとも2種の成分を含有する混合流体から各成分を精留する精留方法であって、
a)前記精留用流路の液体流入口から液状の混合流体を流入させるか、又は、ガス流入口からガス状の混合流体を流入させ、
b)前記精留用流路に設けられた2つの前記温度制御部を異なる温度に温度制御し、
c)前記温度制御部の内、高温に温度制御された前記第1温度制御部を、前記精留用流路1を流れる混合流体の低沸点成分をガス化させる温度に制御して、ガスが前記第1温度制御部に接して流れるガス部を形成し、
d)前記温度制御部の内、低温に温度制御された前記第2温度制御部を、精留用流路1を流れる混合流体の高沸点成分を液化させる温度に制御して、液体が前記第2温度制御部に接して流れる液体部を形成し、
e)前記マイクロ精留デバイスの前記精留用流路中の前記液体部を流れる液体と、前記ガス部を流れるガスとを向流気液接触させ、
f)前記ガス部の下流に設けられた前記ガス流出口から、低沸点成分が濃縮されたガスを流出させ、
g)前記液体部の下流に設けられた前記液体流出口から、高沸点成分が濃縮された液体を流出させる
ことを特徴とする精留方法。
【請求項11】
前記液体流出口及び/またはガス流出口に連絡して接続した配管の両端の高低差を調節することにより、液体及び/または液化したガスを取り出す流量を調節する請求項10記載の精留方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−136280(P2007−136280A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−330040(P2005−330040)
【出願日】平成17年11月15日(2005.11.15)
【出願人】(000173751)財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】