説明

マイクロ部品の製造方法

【課題】マイクロ部品の製造において、ステッパ、エッチング装置等のリソグラフィー装置を不要として経済性を向上させ、また、リソグラフィー技術によっては製造が困難な複雑な形状の部品の製造をも可能とする。
【解決手段】溶剤を用いて熔解可能な樹脂基台1を成形し、その樹脂基台1に物理的外力を作用させて凹部3を形成し、凹部3に金属を充填した後、余剰の金属を研磨により除去し、樹脂基台1を溶剤を用いて溶解させることによりマイクロ部品を製造する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、マイクロマシンを構成するマイクロ部品の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
マイクロマシンを構成するマイクロ部品は、半導体製造技術を利用したLIGA(Lithographie Galvanoformung abformung)プロセスによって製造されるのが一般的である。
【0003】
LIGAプロセスは、X線リソグラフィー、電気めっき、モールディングを組み合わせた技術であり、通常の半導体製造プロセスに基づく方法では、製造される物の高さが数μm〜数十μmに限られるのに対し、LIGAプロセスを用いた場合には、高さ数百μm、アスペクト比数十以上の三次元的の物を製造することが可能となる。
【0004】
LIGAプロセスにおいては、図7に示すように、まず最初に平坦なサブストレート20の上に一面にレジスト21を塗布する。そして、マスク22の上方からX線を照射し、レンズ23を介してレジスト21に投射して感光させると、マスク22に形成されたマスクパターンが転写される。
【0005】
次に、感光したレジスト21を現像すると、感光して変質部分が取り除かれる。こうして取り除かれた部分に例えばメッキによってニッケルを充填し、残っているレジスト21及びサブストレート20をエッチングにより除去すると、ニッケルによって転写された形状の部品が形成される。また、同様の方法により金型を形成した場合は、その金型を使用して微少な部品を製造することができる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、LIGAプロセスにおいては、製造しようとするマイクロ部品の形状に対応させたマスクを個々に製造しなければならないと共に、ステッパ、エッチング装置等の種々のリソグラフィー装置が必要であるため、設備費等が高額になり、経済性に欠けるという問題がある。また、X線リソグラフィーにより転写されたマスキングパターンは、その側面が垂直面で構成されるため、複雑な形状に加工することは困難であるという問題もある。
【0007】
このように、マイクロ部品の製造においては、経済性を向上させると共に、複雑な形状の部品の製造をも可能とすることに課題を有している。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するための具体的手段として本発明は、溶剤を用いて熔解可能な樹脂基台を成形する樹脂基台成形工程と、樹脂基台に物理的外力を作用させて製造しようとするマイクロ部品の形状に相当する形状の凹部を形成する凹部形成工程と、凹部に金属を充填する金属充填工程と、余剰の金属を研磨して除去する金属除去工程と、樹脂基台を溶剤を用いて溶解させる基台溶解工程とから構成されるマイクロ部品の製造方法を提供する。
【0009】
そしてこのマイクロ部品の製造方法は、物理的外力にはレーザー光線、超音波、切削ブレード、研磨砥石のいずれかを含むこと、金属充填工程においては、スパッタリングによって凹部に金属を散布し、その後、電解めっきによって凹部を充填すること、マイクロ部品は、マイクロマシンを構成する部品または部品の製造に用いる型枠であること、金属はニッケルであり、樹脂はABS樹脂であり、溶剤はアセトンであることを付加的な要件とする。
【0010】
このように構成されるマイクロ部品の製造方法によれば、物理的外力によって、製造しようとするマイクロ部品の形状の凹部を基台に形成し、その凹部に金属を充填した後に基台を除去するようにしたため、従来のようにマスクの製造やリソグラフィー技術によるマスクパターンの転写等が不要となる。
【0011】
また、物理的外力としてレーザー光線を用いた場合には、側面が垂直面でない形状のマイクロ部品も容易に製造することができる。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態として、マイクロ部品として使用される歯車を製造する場合を例に挙げて説明する。
【0013】
図1に示すように、まず最初に、樹脂を用いて製造しようとする歯車より厚さのある樹脂基台1を成形する(樹脂基台成型工程)。樹脂基台1の成形に用いる樹脂は、後に溶剤を用いて化学反応により熔解させることができるものであることが必要であり、例えばABS樹脂を使用することができる。
【0014】
この基台に、従来のようなレジストの塗布及びX線リソグラフィーによる現像による方法ではなく、レジストを塗布せずに、樹脂基台1に対して物理的外力を加えること、例えばレーザー光線2を照射することによって、図2に示すように、製造しようとする歯車と同一形状のキャビティである凹部3を形成する(凹部形成工程)。物理的外力としては、レーザー光線のほかに、超音波、切削ブレード等を用いることができる。また、製造しようとするマイクロ部品の形状によっては研磨砥石を用いることもできる。
【0015】
図2の例のようにレーザー光線2を用いる場合は、製造しようとする歯車の形状に合わせて照射部4若しくは樹脂基台1を移動させながらレーザー光線を照射することによって、歯車の形状の凹部3を形成することができる。
【0016】
上記のようにして所望の形状の凹部3が形成された後は、図3に示すように、その凹部3にマイクロ部品の材料となる金属5を充填する(金属充填工程)。金属の充填は、例えばスパッタリングによって金属を散布し、その後、電解めっきを施す方法によって行うことができる。金属としては、ニッケル、銅等を用いる。
【0017】
凹部3に金属を充填した後は、樹脂基台1の上に余剰の金属が堆積するため、その余剰の金属を研磨により除去する(金属除去工程)。研磨は研磨砥石を用いて行うこともできるし、CMP技術を利用して行うこともできる。研磨により余剰の金属を除去すると、図4に示すように、凹部3に充填され、凹部3の形状となった金属6が露出すると共に、金属6の露出面が平坦化される。
【0018】
最後に、溶剤を用いて樹脂基台1を構成する樹脂を溶解させることにより、図5に示すマイクロ部品である歯車7が形成される(基台溶解工程)。ここで、樹脂基台1がABS樹脂によって形成されている場合には、溶剤としてアセトンを用いる。
【0019】
このようにしてマイクロ部品を形成すると、ステッパ等の高価なリソグラフィー装置が不要であり、形状の異なる部品ごとにマスクを製造する必要もないため、製造をコストを大幅に低減することができる。
【0020】
図1〜図5に示した例においては、側面が垂直面となっている歯車を製造する場合について説明したが、レーザー光線を照射する角度を調整することにより、側面が垂直面ではなく傾斜している場合等、複雑な形状の部品も製造することができる。
【0021】
例えば、図6に示すように、側面がテーパ状に形成されるマイクロ部品の場合には、図示のようにレーザー光線8を斜めに照射することによってテーパ面9を有する凹部10を形成することができる。そして、この凹部10に金属を充填すれば、テーパ面9に対応した側面を有するマイクロ部品が形成される。このように、リソグラフィー技術により従来の方法では製造することができない形状のマイクロ部品も製造することができる。
【0022】
また、本発明によれば、マイクロマシンを構成するマイクロ部品そのものだけでなく、マイクロ部品を成形するための金型等の型枠を製造することもできる。
【0023】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係るマイクロ部品の製造方法によれば、物理的外力によって製造しようとするマイクロ部品の形状の凹部を基台に形成し、その凹部に金属を充填した後に基台を除去するようにしたため、従来のようにマスクの製造やリソグラフィー技術によるマスクパターンの転写等が不要となる。従って、設備費を大幅に低減することができ、製造コストの低減を図ることができる。
【0024】
また、物理的外力としてレーザー光線を用いた場合には、側面が垂直面でない形状のマイクロ部品も容易に製造することができるため、従来製造が困難であった複雑な形状のマイクロ部品も容易かつ安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】基台成形工程により成形された基台を示す斜視図である。
【図2】凹部形成工程により基台に凹部が形成された状態を示す斜視図である。
【図3】金属充填工程により凹部に金属が充填された状態を示す斜視図である。
【図4】金属除去工程により余剰の金属を除去した状態を示す斜視図である。
【図5】基台溶解工程により形成されたマイクロ部品を示す斜視図である。
【図6】側面がテーパ面である凹部を形成する様子を示す断面図である。
【図7】従来の方法におけるリソグラフィー技術を示す斜視図である。
【符号の説明】
1…基台 2…レーザー光線 3…凹部 4…照射部
5、6…金属 7…歯車 8…レーザー光線
9…テーパ面 10…凹部
20…サブストレート 21…レジスト
22…マスク 23…レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶剤を用いて熔解可能な樹脂基台を成形する樹脂基台成形工程と、
該樹脂基台に物理的外力を作用させて、製造しようとするマイクロ部品の形状に相当する形状の凹部を形成する凹部形成工程と、
該凹部に金属を充填する金属充填工程と、
余剰の金属を研磨して除去する金属除去工程と、
該樹脂基台を溶剤を用いて溶解させる基台溶解工程と
から構成されるマイクロ部品の製造方法。
【請求項2】
物理的外力には、レーザー光線、超音波、切削ブレード、研磨砥石のいずれかを含む請求項1に記載のマイクロ部品の製造方法。
【請求項3】
金属充填工程においては、
スパッタリングによって凹部に金属を散布し、
その後、電解めっきによって該凹部を充填する請求項1または2に記載のマイクロ部品の製造方法。
【請求項4】
マイクロ部品は、マイクロマシンを構成する部品または該部品の製造に用いる型枠である請求項1、2または3に記載のマイクロ部品の製造方法。
【請求項5】
金属はニッケルであり、樹脂はABS樹脂であり、溶剤はアセトンである請求項1、2、3または4に記載のマイクロ部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2004−9144(P2004−9144A)
【公開日】平成16年1月15日(2004.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−161389(P2002−161389)
【出願日】平成14年6月3日(2002.6.3)
【出願人】(000134051)株式会社ディスコ (2,397)