説明

マイクロRNA―143誘導体を含有する医薬

【課題】分解酵素(RNase)によって分解を受けにくいマイクロRNA―143のベンゼンーピリジン誘導体と、その医薬用途の提供。
【解決手段】マイクロRNA―143の4箇所のミスマッチ配列のうちアンチセンス鎖の3’末端2個所をマッチさせ、3’末端をベンゼンーピリジン(BP)で修飾して分解酵素(RNase)によって分解を受けにくいマイクロRNA―143。該マイクロRNA―143を含有する消化器癌治療薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロRNA―143誘導体を含有する医薬に関する。より詳しくは、分解酵素(RNase)によって分解を受けにくいマイクロRNA―143のベンゼンーピリジン誘導体と、その医薬用途に関する。
【背景技術】
【0002】
大腸ガンとさまざまな種類の確立したガン細胞系を用いてマイクロRNAs-143および-145の発現のレベルを測定したところ、マイクロRNAs-143および-145の発現のレベルが減少していることが判明し、マイクロRNAsの発現量が発癌と強く係わっていることが分かってきた(非特許文献1)。
【0003】
大腸腫瘍において、マイクロRNA―143、およびー145の発現が極めて高頻度に減少していることが報告されている。マイクロRNA―143、およびマイクロRNA―145の発現低下の原因として、局在する領域の遺伝子の欠失やエピジェネテックな変化が考えられている(非特許文献2)。
【0004】
特許文献1には、細胞において、標的核酸分子に対する特異性を有する化学的に修飾された低分子干渉核酸(siRNA)コンストラクトを特徴とする化学修飾された核酸が開示されている。化学修飾の例として、ホスホロチオエートヌクレオチド間結合、2’−O−メチルリボヌクレオチド、2’−デオキシー2’−フルオロリボヌクレオチド、2’−デオキシリボヌクレオチド、「ユニバーサル塩基」ヌクレオチド、5−C―メチルヌクレオチド、および反転デオキシ無塩基残基を組み込むことが挙げられる。これらの化学的修飾は、種々のsiRNAコンストラクト中で用いた場合、細胞においてRNAi活性を保ち、同時に、これらの化合物の血清安定性を劇的に増加させることが示されている。
【0005】
また、特許文献2では、細胞内の標的核酸分子に対する特異性を持つ化学修飾した低分子干渉核酸(siRNA)構造が開示されている。化学修飾の例として、ホスホロチオエートヌクレオチド間結合、2’−O−メチルリボヌクレオチド、2’−デオキシー2’−フルオロリボヌクレオチド、2’−デオキシリボヌクレオチド、「ユニバーサル塩基」ヌクレオチド、5−C―メチルヌクレオチド、および逆位のデオキシ脱塩基残基の結合が挙げられている。複数の(1より多い)ホスホロチオエート置換が優れた耐性を示し、修飾したsiRNA構造に対する血清の安定性を大幅に向上させることが開示されている。
【0006】
さらに、特許文献3においては、手術後の肺癌患者に関して、カプランーマイヤー法を用いてlet-7 miRNAの発現低下と当該患者の生存期間との相関性を分析した結果、let-7 miRNAの発現低下と当該患者の生存期間との間に有意な相関性があることを見出し、また、コックス回帰分析により分析した結果、let-7 miRNAの発現低下が肺癌患者の生存に対する独立した予後因子であるという知見が報告されている。そして、癌患者由来の生物学的サンプルにおいて、特定の成熟形miRNA、pre-miRNA、またはpri-miRNA等の発現量を測定することによって、癌患者の予後を判定することができることが開示されている。
【0007】
上記のように、癌患者においてマイクロRNAの発現量が減少していること、この減少したマイクロRNAを癌細胞に導入すると細胞増殖が抑制されることが判明した。しかし、野生型のマイクロRNAは生体に投与しても分解酵素(RNase)によって、分解されやすく抗腫瘍効果を十分に発揮できない。そのために、酵素によって分解されず、毒性が低く、抗腫瘍活性の高いマイクロRNAの出現が望まれている。
【特許文献1】特開2006−271387号公報
【特許文献2】特表2007−525192号公報
【特許文献3】特開2008−000137号公報
【特許文献4】特願2006−266918号公報
【非特許文献1】Y.Akao, N.Nakagawa, Y.Kitade, T.Kinoshita and T.Naoe ;Cancer Sci.,2007,98(12),1914-1920
【非特許文献2】中川義仁、赤尾幸博、直江知樹;消化器科、2007,44(5),484-492
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
腫瘍細胞でマイクロRNA―143の発現量が減少していること、このマイクロRNA―143を細胞に導入すると細胞増殖が抑制されることが知られている。しかし、マイクロRNA―143を生体内に投与しても抗腫瘍効果を発揮する前に分解され十分な効果が得られない可能性がある。そこで、本発明は、生体内で活性が高く、分解を受け難い、分解酵素(RNase)に強い抗腫瘍効果を有する修飾マイクロRNA―143を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
腫瘍細胞株でマイクロRNA―143の発現量が低下していることを見出し、腫瘍細胞にマイクロRNAを導入すると腫瘍細胞の増殖が抑制されることから、マイクロRNA―143に抗腫瘍効果があることを見出した(特願2006−266918)。しかし、野生型のマイクロRNA―143を投与しても抗腫瘍効果を発揮する前に分解酵素(RNase)で分解されやすいことから、生体内で分解を受け難いマイクロRNA―143を提供するために鋭意研究を重ねた。その結果、分解酵素で分解され難く、しかも野生型よりも高い抗腫瘍効果を有するアンチセンス鎖に変更を加えたBPマイクロRNA―143誘導体を提供することに成功した。
【0010】
本発明の特徴は、マイクロRNA―143の4箇所のミスマッチ配列のうちアンチセンス鎖の3’末端2個所をマッチさせたことを特徴とする3’末端がベンゼンーピリジン(BP)で修飾されたマイクロRNA―143(3,4M−miR−143)である。
【0011】
本発明の別の特徴は、配列表SEQ ID No.1で表されるアンチセンス鎖の3’末端2個所をマッチさせたことを特徴とする3’末端がベンゼンーピリジン(BP)で修飾されたマイクロRNA―143(3,4M−miR−143)である。
【0012】
本発明の別の特徴は、アンチセンス鎖の3’末端1個所をマッチさせたことを特徴とする3’末端がベンゼンーピリジン(BP)で修飾されたマイクロRNA―143(3,4M−miR−143)である。
【0013】
本発明の別の特徴は、配列表SEQ ID No.2で表されるアンチセンス鎖の3’末端1個所をマッチさせたことを特徴とする3’末端がベンゼンーピリジン(BP)で修飾されたマイクロRNA―143(1,2,4M−miR−143)である。
【0014】
本発明の別の特徴は、アンチセンス鎖の3’末端2個所、又は1個所をマッチさせたことを特徴とする3’末端がベンゼンーピリジン(BP)で修飾されたマイクロRNA―143、又は配列表SEQ ID No.2、あるいは配列表SEQ ID No.1に記載の化合物を含有することを特徴とする医薬である。
【0015】
本発明の別の特徴は、アンチセンス鎖の3’末端2個所、又は1個所をマッチさせたことを特徴とする3’末端がベンゼンーピリジン(BP)で修飾されたマイクロRNA―143、又は配列表SEQ ID No.2、あるいは配列表SEQ ID No.1に記載の化合物を含有することを特徴とする消化器癌治療薬である。
【発明の効果】
【0016】
生体内で酵素分解を受け難いベンゼンーピリジン(BP)で修飾したアンチセンス鎖の3’末端2個所、又は1個所をマッチさせたマイクロRNA―143を提供する。すなわち、生体内で分解酵素(RNase)によって分解され難く抗腫瘍効果を有する3’末端がベンゼンーピリジンで修飾されたアンチセンス鎖の3’末端2個所、又は1個所をマッチさせたマイクロRNA―143を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
【実施例1】
【0018】
I.モノマー合成
本実施例では、以下のスキームIに示す化合物2〜化合物5を合成した。すなわち、イソフタル酸ジメチルを還元し化合物2を収率75%で得て、続いてDMTr化を行い化合物3を収率54%で得た。DTMr体3をアミダイド化して化合物4を88%の収率で得た。また、DMTr体3をスクシニル化し、CPG樹脂と結合させ、化合物5を106μmol/gの活性で得た。化合物2〜5の製造例を以下に示す。
I−I ベンゼンユニットの合成
イソフタル酸ジメチル(化合物1)を出発原料とし、LiBH4にて還元反応を行い、化合物2を得た。さらに一方の水酸基をDMTr保護し化合物3であるトリチル体を得た後、これを亜リン酸化することで化合物4であるアミダイトユニットを得た。また化合物3からスクシニル化を経てCPG担体である化合物5を得た。



【0019】
< Scheme1 >

(化合物2:1,3-bis-hydroxymethylbenzeneの製造例)
イソフタル酸ジメチル(2.00g,10.30mmol)にAr雰囲気下、dry THF(51.5ml,0.2M solution)を加え、水素化ホウ素リチウム(1.12g,51.1mmol,5eq)を加えた。23時間攪拌した後、氷浴で酢酸を数滴加えて反応液を中性にし、反応を停止した。しばらく攪拌した後、析出した結晶をMeOHで溶解した。反応中のTLC(Hex:EtOAc=1:1)では生成物は1スポットであったが、反応を停止すると2スポットに分かれた。溶媒を減圧留去後、シリカゲルクロマトグラフィー(EtOAc only)で単離し、化合物2(75%)を得た。
(化合物3:1-(4,4’-dimethoxytrityloxy)methyl-3-hydroxymethylbenzeneの製造例)予め真空乾燥させておいた化合物2(0.5g,3.62mmol)をpyridine(18mL)に溶解し、DMAP(22.1mg,0.18mmol,0.05eq)と4,4’-Dimethoxytrityl chloride(1.23g,3.62mmol,1eq)を加え、Ar雰囲気下で17時間攪拌した。TLC(Hex:EtOAc=3:1)により原料の消失を確認した。EtOAcとsatNaHCO3 aqで抽出し、有機層をsat NaCl aqで洗浄、無水Na2SO4を加え乾燥させた。溶媒を減圧留去後、シリカゲルクロマトグラフィー(Hex:EtOAc=4:1)で単離し、化合物3(54%)を得た。
(化合物4:1-(4,4’-dimethoxytrityloxy)methyl-3-O-[(2-cyanoethyl) -(N,N-diisopropyl)]-phosphoamidiomethyl-hydroxymethylbenzene
の製造例)
予め真空乾燥させておいた化合物3(0.35g,0.80mmol)をdry THF(8mL)に溶解し、DIPEA(0.4mL,4.00mmol,5eq)と亜リン酸化試薬(0.29mL,1.60mmol,2eq)を加え、Ar雰囲気下で1.5時間攪拌した。TLC(EtOAc only)により原料の消失を確認した。EtOAcとsatNaHCO3 aqで抽出し、有機層をsat NaCl aqで洗浄、無水Na2SO4を加え乾燥させた。溶媒を減圧留去後、シリカゲルクロマトグラフィー(Hex:EtOAc=1:1)で単離し、化合物4(88%)を得た。
(化合物5(イソフタル酸誘導体のCPG樹脂)の製造例)
化合物3(0.30g,0.68mmol)をpyridine(6.8mL)に溶解し、そこにDMAP(3.7mg,0.03mmol,0.02eq)と無水コハク酸(204mg,2.04mmol,3eq)を加えAr雰囲気下で攪拌した。24時間攪拌した後、TLC(Hex:EtOAc=3:1)により反応の進行を確認し、EtOAcとsatNaHCO3 aqで抽出し、有機層をsat NaCl aqで洗浄、無水Na2SO4を加え乾燥させた。溶媒を減圧留去後、真空乾燥させた。この濃縮物(5)(0.04g,0.74mmol,109%)にdry DMF(10mL)を加え溶解させ、CPG(500mg,0.11mmol)を加え30分間靜置して反応液となじませた。その後、WSC(110mg,0.57mmol,4.9eq)を加え室温で一日振とうさせた。後処理として、pyridineで洗浄した後に0.1M DMAP in pyridine:無水酢酸(9:1)溶液(6mL)を加え、16時間振とうさせた。このものをMeOH、acetoneで洗浄し乾燥させ活性を測定した。化合物5の活性は108.6μmol/gであった。なお、活性は、乾燥したCPG樹脂6mgをガラスフィルターにのせ、HClO4:EtOH=3:2の溶液を流し込み、そのろ液のUV 498 nmの波長(DMTr基の波長)の吸光度を求め、以下の式に代入することにより算出した。
活性(μmol/g)=Abs,(498 nm)×Vol.(solution)(mL)×14.3/Weight(support)(mg)


I−II ピリジンユニットの合成

【0020】
< Scheme2 >

(3’末端ダウングリングエンドの合成のためのピリジンカルボン酸ジメチル誘導体の合成)
2,6-ピリジンカルボン酸ジメチル(化合物6)を出発原料とし、LiBH4にて還元反応を行うことで、化合物7を得た。さらに一方の水酸基をDMTr保護し化合物8であるトリチル体を得た後、これを亜リン酸化することで化合物9であるアミダイトユニットを得た。また、この化合物からスクシニル化を経てCPG担体である化合物10を得た。
(化合物7:2,6-bis-hydroxymethylpyridineの製造例)
2.6ピリジンカルボン酸ジメチル(2.00g,10.25mmol)にAr雰囲気下、無水THF(51.3mL,0.2M solution)を加え、水素化ホウ素リチウム(1.16g, 51.3mmol,
5eq)を加えた。16時間攪拌した後、氷浴で酢酸を数滴加えて反応液を中性にし、反応を停止した。しばらく攪拌した後、析出した結晶をメタノールで溶解した。反応中のTLC(クロロホルム:メタノール=3:1)では生成物は1スポットであったが、反応を停止すると2スポットに分かれた。溶媒を減圧流去後、シリカゲルクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=10:1~3:1)で単離し、化合物7(91%)を得た。
(化合物8:2-(4,4’-dimethoxytrityloxy)methyl-6-hydroxymethylpyridineの製造例)
予め真空乾燥させておいた化合物7(0.5g,3.62mmol)をpyridine(18mL)に溶解し、DMAP(22.1mg,0.18mmol,0.05eq)と4,4’-Dimethoxytrityl chloride
・ 22g,3.60mmol,1eq)を加え、Ar雰囲気下で16時間攪拌した。
(TLC(Hex:EtOAc=1:1)により原料の消失を確認した。EtOAcとsatNaHCO3
aqで抽出し、有機層をsat NaCl aqで洗浄、無水Na2SO4を加え乾燥させた。溶媒を減圧留去後、シリカゲルクロマトグラフィー(Hex:EtOAc=4:1~3:1)で単離し、化合物8(44%)を得た。
(化合物9:2-(4,4’-dimethoxytrityloxy)methyl-6-0-[(2-cyanoethyl) -(N,N-diisopropyl)]-phosphoamidiomethyl-hydroxymethylbenzeneの製造例)
予め真空乾燥させておいた化合物8(0.20g,0.45mmol)を無水THF(4.5mL)に溶解し、DIPEA(0.23mL,2.25mmol,5eq)と亜リン酸化試薬(0.16mL,0.90mmol,2eq)を加え、Ar雰囲気下で15時間攪拌した。TLC(EtOAc only)により原料の消失を確認した。EtOAcとsatNaHCO3 aqで抽出し、有機層をsat NaCl aqで洗浄、無水Na2SO4を加え乾燥させた。溶媒を減圧留去後、シリカゲルクロマトグラフィー(EtOAc only)で単離し、化合物9を0.27g(88%)得た。
(化合物10:ピリジルカルボン酸ジメチル誘導体のCPG樹脂の製造例)
化合物8(0.20g,0.45mmol)をpyridine(4.5mL)に溶解し、そこにDMAP(1.1mg,0.009mmol,0.02eq)と無水コハク酸(136mg,1.36mmol,3eq)を加えAr雰囲気下で攪拌した。17時間攪拌した後、TLC(Hex:EtOAc=1:1)により反応の進行を確認し、EtOAcとsatNaHCO3 aqで抽出し、有機層をsat NaCl aqで洗浄、無水Na2SO4を加え乾燥させた。溶媒を減圧留去後、真空乾燥させた。この濃縮物(0.16g,0.30mmol,66%)にdry DMF(7.5mL)を加え溶解させ、CPG(338mg,0.075mmol)を加え30分間靜置して反応液となじませた。その後、WSC(71mg,0.37mmol,4.9eq)を加え室温で一日振とうさせた。後処理として、pyridineで洗浄した後に0.1M DMAP in pyridine:無水酢酸(9:1)溶液(6mL)を加え、16時間振とうさせた。このものをpyridine、EtOH、acetoneで洗浄し乾燥させ活性を測定した。化合物10の活性は31.4μmol/gであった。
(化学修飾ダングリングエンドを有するmicroRNA(miRNA)の合成)
3’末端ダングリングエンドを有するRNAオリゴヌクレオチドを固相ホスホロアミダイト法に従って核酸自動合成機によって合成した。
【0021】
RNAの固相合成に関してはCPG樹脂に結合したオリゴヌクレオチドをEtOH:NH3=3:1水溶液2mLを加えて室温で12時間振とうして樹脂からの切り出し及び脱保護を行った。また、縮合時間は15分とした。反応後のろ液をエッペンドルフチューブに移し、減圧下で乾固した。残渣に1M TBAF in THF 溶液1mLを加え、12時間振とうした。この反応液を0.1M TEAA bufferで希釈して30mLとした。この反応液を平衡化したC-18カラム(Sep-Pak)に通し、カラムに吸着させた。ここでカラムを滅菌水で洗浄して塩を取り除き50% CH3CN in H2O 3mLで溶出し、減圧下で乾固した。残渣にloading solution (1×TBE in 90% formamide )100 μLを加え20% PAGEにより(600V,20mA)目的のオリゴヌクレオチドを単離した。目的のオリゴヌクレオチドを切り出し0.1M TEAA buffer 1mM EDTA水溶液20mLを加え、12時間振とうした。このろ液を平衡化したC-18逆相かラム(Sep-Pak)に通し、カラムに吸着させた。ここでカラムを滅菌水で洗浄して塩を取り除き50% CH3CN in H2O 3mLで溶出し、減圧下乾固した。
【0022】

表1 合成したマイクロRNA―143誘導体の配列


Pはピリジンユニットを、Bはベンゼンユニットを示す。
【0023】

表1に示すように、野生型マイクロRNA-143(wild)は(1)、(2)、(3)、(4)で示す4個所のミスマッチが存在する。このミスマッチの位置をそれぞれマッチさせた化合物を合成してその抗腫瘍効果を調べた。
【実施例2】
【0024】
DLD−1細胞の抑制
ヒト癌細胞は2mML-グルタミン、10%の熱不活性化FBS(Sigma,St.Louis,Mo,USA)を含むRPMI-1640培地中で、95%空気と5%炭酸ガスの雰囲気下、37℃で培養した。生存細胞数の測定は、トリパンブルー染色法により行った。
【0025】
図1は大腸癌細胞DLD−1の増殖に対するマイクロRNA―143の誘導体の効果を調べた結果を示す。4個所(1)、(2)、(3)、(4)のミスマッチをマッチさせた1,2,3,4M-miR-143、及び5’端の(1)、(2)をマッチさせた1,2M-miR-143は4個所のミスマッチを有する野生型マイクロRNA-143(Wild-miR-143)に比較して、増殖が促進される傾向が見られた。これに対し、3’端の2個所(3)、(4)をマッチさせた3,4M-miR-143、さらに1個所(4)をマッチさせた1,2,4M-miR-143は有意に大腸癌細胞の増殖を抑制していた。
【0026】
この結果、3’末端のミスマッチを2箇所または1箇所マッチさせることにより、マイクロRNA―143の抗腫瘍効果を野生型よりも高くすることができ、さらに、3’末端をベンゼンーピリジンで修飾することによって分解酵素(RNase)に耐性のあるマイクロRNA−143を得ることができる。
[医薬組成物]
本発明のマイクロRNA―143は、医薬としてヒトおよび動物に投与される場合、マイクロRNA―143それ自体で与えられてもよく、または、薬学的に許容し得る担体とともに例えば0.1〜99.5%(より好ましくは、0.5〜90%)の活性成分を含む医薬組成物として与えられてもよい。
【0027】
本発明のマイクロRNA―143を含有する医薬は、治療目的に適合した他の組成物(安定化剤、分解酵素阻害剤等の化合物を含む)、医学的治療方法におけるそのような組成物の使用、そのような組成物を例えば癌の治療(これは予防的治療を含みうる)のために患者に投与することを含む方法、任意のそのような目的のために投与する組成物、医薬または医薬の製造におけるマイクロRNA―143の使用、ならびに製薬上許容される賦形剤、ビヒクルまたは担体および場合により他の成分とその化合物とを混合することを含む医薬組成物の製造方法を提供される。
【0028】
1つの実施形態においては、医薬組成物を提供するための方法は、
(a)本発明のマイクロRNA-143を製造し、
(b)そのようにして製造されたマイクロRNA-143を、製薬上許容される賦形剤と共に製剤化することを含む。
【0029】
本発明の医薬組成物は、本発明のマイクロRNA―143と製薬上許容される賦形剤とを含みうる。該マイクロRNA―143は、単独の活性物質として使用したり、相互に組合せて、又は任意の他の活性物質、例えば抗腫瘍療法用の物質、他の抗腫瘍化合物または放射線療法もしくは化学療法などの療法と組合せて使用することが可能である。
【0030】
本発明のマイクロRNA―143を使用するに際して、投与は、好ましくは、「予防的に有効な量」または「治療的に有効な量」(予防は療法とみなされうるが、場合に応じて判断される)で行い、これは、個体に対して利益を示すのに十分な量である。実際の投与量ならびに投与の速度および時間経過は、治療対象の性質および重症度に左右される。治療の処方、例えば投与量などに関する決定は、一般医および他の医師の責任において行われる。
【0031】
本発明のマイクロRNA―143又は組成物は、例えば前記のような治療すべき状態に応じて、単独で、あるいは他の治療と組合せて同時に又は逐次的に投与することができる。
【0032】
本発明のマイクロRNA―143を使用する医薬組成物は、有効成分に加えて、製薬上許容される賦形剤、担体、バッファー、安定剤または当技術分野においてよく知られた他の配合物を含みうる。特に、それらは、製薬上許容される賦形剤を含みうる。そのような配合物は無毒性であるべきであり、有効成分の効力を妨げるものであってはならない。担体または他の配合物の厳密な性質は投与経路(これは、経口投与または注射、例えば皮膚、皮下または静脈内注射でありうる)に左右される。
【0033】
静脈内、皮膚または皮下注射、あるいは罹患部位への注射の場合には、マイクロRNA―143は、適当なpH、等張性および安定性を有し発熱物質を含有しない非経口的に許容される水溶液の形態となろう。当業者は、例えば等張ビヒクル、例えばSodium Chloride Injection、Ringer's Injection、Lactated Ringer's Injectionを使用して、適当な溶液を製造することが十分に可能である。必要に応じて、保存剤、安定剤、バッファー、抗酸化剤および/または他の添加剤を含有させることも可能である。
【0034】
本発明のマイクロRNA―143を患部に輸送するための製剤においては、リポソーム、特にカチオニックリポソームを使用することが可能である。前記の技術およびプロトコールの具体例はRemington's Pharmaceutical Sciences, 16th edition, Osol, A. (編), 1980に記載されている。
【0035】
本発明のマイクロRNA―143は、特定の部位に局所的に投与することが可能であり、あるいは、例えば動脈内ステントに基づく輸送を用いて、それが特定の細胞または組織を標的とするよう輸送することが可能である。あるタイプの細胞に、より特異的に本発明化合物を運搬するためには、抗体または細胞特異的リガンドのような標的化(ターゲッティング)系を使用した標的化療法を用いることができる。標的化は、より多くの化合物を正確に標的細胞に進入させるために望ましい。
【実施例3】
【0036】
合成二重鎖RNAの血清存在下における安定性の検討
合成二重鎖RNAを静脈投与した際の血液成分(血清中に含まれる各種成分)による分解などの影響を調べ、合成RNAの各種修飾のRNA安定化について検討した。
【0037】
hsa-pre-143 (Ambion社製)、3,4M-miR-143 (BP)、3,4M-miR-143( TTP)の各合成二重鎖RNAを、各20nMの濃度で5%牛胎児血清を含むRPMI-1640培地中に添加し、37℃にて1、2、5、10、15、30分インキュベートし、直ちにRNA分解酵素阻害剤(RNase OUT 40U, Invitrogen社製)を加えてRNAの分解を抑えた。100倍希釈した反応物2μlを鋳型としてTaqMan MicroRNA Reverse Transcription Kit (Applied Biosystems社製)を用いてcDNAを作成し、PreMix Ex Taq (TAKARA社製)、TaqMan MicroRNA Assay (Applied Biosystems社製)及びThermal Cycler Dice TP800 (TAKARA社製)を用いてReal-Time RT-PCRを行い、反応物中の残存RNAの定量を行った。定量は2nd Derivative Maximum法により解析し、Ct値として算出した( 時間0のCt値を0とした。Ct値が大きいほど量が少ないことを示す)。
【0038】
その結果、図2に示すようにAmbion社製のhsa-pre-143、3,4M-miR-143 のBP、及び TTP修飾したものをTTPを比較すると、総じて5分以内にRNAの分解が進行するが、30分後のCt値はそれぞれ8.14、5.38、6.51となり、BP修飾した合成3,4M-miR-143 が最もRNA残存量が多く、血清存在下で安定であることがわかった。
【実施例4】
【0039】
動物モデルを用いたベンゼンーピリジン修飾miR-143の抗腫瘍効果
動物腫瘍モデルを用いて、ベンゼンーピリジン修飾miR-143の抗腫瘍効果について検討した。4〜5週令のヌードマウスの皮下にヒト大腸癌細胞株DLD-1 2 x 106個の細胞を植え付けた。腫瘍が出現し、腫瘍径が1 x 0.5 cmを越えたものについては3群(1群:8匹)に分け、レニラ(海シイタケ)のルシフェラーゼ(R)、ベンゼンーピリジン修飾miR-143の 3,4M-miR-143、 1,2,4-miR-143をそれぞれ1回 0.2 mgのみ腫瘍に局注した。4週間後、腫瘍を摘出し、その重量を測定した。
【0040】
その結果、ベンゼンーピリジン修飾miR-143の 3,4M-miR-143の群はコントロールのR群に比べ有意に腫瘍重量は減少し、1,2,4-miR-143は解剖所見で半数に有効性が認められたがバラツキが大きく、有意差は出なかった。しかし、図3に示すように、全体的に縮小傾向が認められた。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】図1は大腸癌細胞DLD−1に対するマイクロRNA―143の生存率を示す。
【図2】図2は合成二重鎖RNAの血清存在下における安定性の検討下結果を示す。
【図3】図3は動物モデルを用いた修飾miR-143の抗腫瘍効果の結果を示す。
【0042】
SEQUENCE LISTING

<110> Gifu International Institute of Biotechnology
Gifu University
Hokkaido System Sience K.K.

<120> Chemical modified Micro RNA

<130> I00104

<150> Akao Yukihiro
<151> 2008-08-10

<150> Kitade Yukio
<151> 2008-08-10

<150> Takenishi Shouichirou
<151> 2008-08-10

<150> Susa Tomoe
<151> 2008-08-10

<160> 5

<170> PatentIn version 3.3

<210> 1
<211> 22
<212> RNA
<213> colon


<220>
<221> modified_base
<222> (1)..(22)

<400> 1
ucucuacguc gugacaucga gu 22


<210> 2
<211> 22
<212> RNA
<213> colon


<220>
<221> modified_base
<222> (1)..(22)
<223> 3'-benzene,pyridine

<400> 2
acucuacuuc gugacgucga gu 22


<210> 3
<211> 22
<212> RNA
<213> colon


<220>
<221> modified_base
<222> (1)..(22)
<223> 3'-benzene,pyridine

<400> 3
ucucuacguc gugacgugga gu 22


<210> 4
<211> 22
<212> RNA
<213> colon


<220>
<221> modified_base
<222> (1)..(22)
<223> 3'-benzene,pyridine

<400> 4
acucuacuuc gugacgugga gu 22


<210> 5
<211> 22
<212> RNA
<213> colon


<220>
<221> modified_base
<222> (1)..(22)
<223> 3'-benzene,pyridine

<400> 5
acucuacuuc gugacaucga gu 22

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンチセンス鎖の3’端2個所をマッチさせたことを特徴とする3’末端がベンゼンーピリジンで修飾されたマイクロRNA―143。
【請求項2】
配列表SEQ ID No.1で表される請求項1に記載のアンチセンス鎖の3’末端2個所をマッチさせたことを特徴とする3’末端がベンゼンーピリジンで修飾されたマイクロRNA―143。
【請求項3】
アンチセンス鎖の3’末端1個所をマッチさせたことを特徴とする3’末端がベンゼンーピリジンで修飾されたマイクロRNA―143。
【請求項4】
配列表SEQ ID No.2で表される請求項3に記載のアンチセンス鎖の3’末端1個所をマッチさせたことを特徴とする3’末端がベンゼンーピリジンで修飾されたマイクロRNA―143。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載のマイクロRNA―143を含有することを特徴とする医薬。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれかに記載のマイクロRNA―143を含有することを特徴とする消化器癌治療薬。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−251912(P2011−251912A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−242263(P2008−242263)
【出願日】平成20年9月22日(2008.9.22)
【出願人】(597112472)財団法人岐阜県研究開発財団 (25)
【出願人】(304019399)国立大学法人岐阜大学 (289)
【出願人】(501394000)北海道システム・サイエンス株式会社 (4)
【Fターム(参考)】