説明

マイグレーション抑制層形成用処理液、および、マイグレーション抑制層を有する積層体の製造方法

【課題】本発明は、配線間の銅イオンのマイグレーションを抑制し、配線間の絶縁信頼性を向上させるマイグレーション抑制層を形成するためのマイグレーション層形成用処理液を提供することを目的とする。
【解決手段】アゾール化合物と水とを含有し、溶存酸素量が8ppm以下である、銅配線または銅合金配線におけるイオンマイグレーションを抑制するマイグレーション抑制層を形成するためのマイグレーション抑制層形成用処理液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイグレーション抑制層形成用処理液、および、該処理液を使用して得られるマイグレーション抑制層を有する積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の高機能化等の要求に伴い、電子部品の高密度集積化、高密度実装化等が進んでおり、これらに使用されるプリント配線基板等も小型化かつ高密度化が進んでいる。このような状況下、プリント配線基板中の配線の間隔はより狭小化しており、配線間の短絡を防止するためにも、配線間の絶縁信頼性のより一層の向上が要求されている。
【0003】
銅または銅合金の配線間の絶縁性を阻害する要因の一つとしては、いわゆる銅イオンのマイグレーションが知られている。これは、配線回路間などで電位差が生じると水分の存在により配線を構成する銅がイオン化し、溶出した銅イオンが隣接する配線に移動する現象である。このような現象によって、溶出した銅イオンが時間と共に還元されて銅化合物となってデンドライト(樹枝状晶)状に成長し、結果として配線間を短絡してしまう。
【0004】
このようなマイグレーションを防止する方法として、ベンゾトリアゾールを使用したマイグレーション抑制層を形成する技術が提案されている(特許文献1および2)。より具体的には、これらの文献においては、配線基板上に銅イオンのマイグレーションを抑制するための層を形成し、配線間の絶縁信頼性の向上を目指している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−257451号公報
【特許文献2】特開平10−321994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、上述したように、近年、配線の微細化が急激に進んでおり、配線間の絶縁信頼性についてより一層の向上が要求されている。
本発明者らは、特許文献1および2に記載されるベンゾトリアゾールを用いたマイグレーション抑制層について検討を行ったところ、配線間において銅のデンドライトの連結が確認され、そのマイグレーション抑制効果は昨今要求されるレベルを満たしておらず、さらなる改良が必要であった。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みて、配線間の銅イオンのマイグレーションを抑制し、配線間の絶縁信頼性を向上させるマイグレーション抑制層を形成するためのマイグレーション層形成用処理液を提供することを目的とする。
また、本発明は、該処理液を用いて得られるマイグレーション抑制層を有する積層体の製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を解決できることを見出した。
【0009】
(1) アゾール化合物と水とを含有し、溶存酸素量が8ppm以下である、銅配線または銅合金配線におけるイオンマイグレーションを抑制するマイグレーション抑制層を形成するためのマイグレーション抑制層形成用処理液。
【0010】
(2) 前記溶存酸素量が、4ppm未満である、(1)に記載のマイグレーション抑制層形成用処理液。
【0011】
(3) 前記アゾール化合物が、1,2,3−トリアゾールおよび/または1,2,4−トリアゾールを含む、(1)または(2)に記載のマイグレーション抑制層形成用処理液。
【0012】
(4) 基板および前記基板上に配置される銅配線または銅合金配線を有する配線付き基板と、(1)〜(3)のいずれかに記載のマイグレーション抑制層形成用処理液とを接触させ、その後前記配線付き基板を溶剤で洗浄して、銅配線または銅合金配線表面上にアゾール化合物を含むマイグレーション抑制層を形成する層形成工程と、
前記マイグレーション抑制層が設けられた配線付き基板上に絶縁層を形成する絶縁層形成工程とを備える、マイグレーション抑制層を有する積層体の製造方法。
【0013】
(5) 基板と、前記基板上に配置される銅配線または銅合金配線と、前記基板上に配置され前記銅配線または銅合金配線の一部が露出するように前記銅配線および銅合金配線を覆う絶縁層とを有する露出配線含有積層体と、(1)〜(3)のいずれかに記載のマイグレーション抑制層形成用処理液とを接触させ、その後前記露出配線含有積層体を溶剤で洗浄して、露出した前記銅配線または銅合金配線表面上にマイグレーション抑制層を形成する層形成工程を備える、マイグレーション抑制層を有する積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、配線間の銅イオンのマイグレーションを抑制し、配線間の絶縁信頼性を向上させるマイグレーション抑制層を形成するためのマイグレーション層形成用処理液を提供することができる。
また、本発明によれば、該処理液を用いて得られるマイグレーション抑制層を有する積層体の製造方法を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のマイグレーション抑制層を有する積層体の製造方法の第1の実施態様における各工程を順に示す模式的断面図である。
【図2】本発明で使用される露出配線含有積層体の一部の斜視断面図である。
【図3】本発明のマイグレーション抑制層を有する積層体の製造方法の第2の実施態様における各工程を順に示す模式的断面図である。(A)は、図2のA−A線断面図である。
【図4】本発明のマイグレーション抑制層を有する積層体の第2の実施態様の一部の斜視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明のマイグレーション抑制層形成用処理液、および、該処理液を用いて得られるマイグレーション抑制層を有する積層体の製造方法について説明する。
まず、従来技術の問題点と本発明の特徴点について詳述する。
本発明者らは従来技術(特許文献1に記載の発明)の問題点について検討を行ったところ、まず、処理液中にある溶存酸素量が多いと形成されるマイグレーション抑制層の機能が十分でないことを見出した。処理液中の溶存酸素量が多いと、銅配線または銅合金配線表面の腐食が促進される。そのため、特に、高湿、加電圧雰囲気下において銅イオンの発生が加速されることになり、マイグレーション抑制層のイオントラップ能を使用してしまい、結果として、充分なマイグレーション抑制機能を発現することができなくなる。
【0017】
また、本発明者らは、銅配線または銅合金配線(以後、単に配線とも称する)間の基板上にベンゾトリアゾールなどの従来のマイグレーション抑制剤が残存していると、配線間において、配線付き基板の上に設けられる絶縁層と基板との間で密着不良などが発生し、短絡の原因となることを見出している。一方、そのような配線間に存在するマイグレーション抑制剤を除去するために、基板の洗浄を行うと、銅配線または銅合金配線上のマイグレーション抑制剤も同時に除去されてしまい、所望の効果が発現されない。
【0018】
本発明者らは、上記知見を基にして、アゾール化合物を含み、所定の溶存酸素量を示すマイグレーション抑制層形成用処理液を使用することにより、上記従来技術の問題点が解決できることを見出している。
つまり、溶存酸素量が所定値以下の処理液を使用することにより、銅配線または銅合金配線の腐食がより抑制され、アゾール化合物の銅イオンへの配位能が維持される。結果として、銅イオンのマイグレーションが抑制される。
さらに、複素5員環化合物であるアゾール化合物を使用することにより、溶媒による洗浄処理によっても配線上のアゾール化合物が残存するため、配線間の短絡の原因となり得る配線間に残存するマイグレーション抑制剤を除去しつつ、配線上にマイグレーション抑制層を形成することができる。
【0019】
まず、本発明で使用されるマイグレーション抑制層形成用処理液について詳述し、その後該処理液を使用して得られるマイグレーション抑制層を有する積層体の製造方法について詳述する。
【0020】
[マイグレーション抑制層形成用処理液]
本発明のマイグレーション抑制層形成用処理液(銅イオン拡散抑制層形成用処理液)は、銅配線または銅合金配線におけるイオンマイグレーションを抑制するマイグレーション抑制層を形成するための処理液である。該処理液は、アゾール化合物と水とを含有し、溶存酸素量が8ppm以下である。
以下に、処理液中に含まれる成分(アゾール化合物、水など)について詳述する。
【0021】
(アゾール化合物)
本処理液に含まれるアゾール化合物は、環内に窒素原子1個以上を含む単環式の複素5員環化合物である。例えば、窒素原子の数が2個であるジアゾール、窒素原子の数が3個であるトリアゾール、および、窒素原子の数が4個であるテトラゾールなどが挙げられる。より具体的には、1,2,3−トリアゾール、1,2,4−トリアゾール、1,2,4−トリアゾール−3−カルボキシアミド、テトラゾールなどが挙げられる。なかでも、銅イオンのマイグレーション抑制効果がより優れる点で、1,2,3−トリアゾール、および、1,2,4−トリアゾールが好ましい。
処理液には、2種以上のアゾール化合物が含まれていてもよい。
また、該アゾール化合物は、本発明の効果を損なわない限り、アルキル基、カルボキシル基、水酸基、アミノ基などの置換基を有していてもよい。
【0022】
処理液中におけるアゾール化合物の総含有量は特に制限されないが、マイグレーション抑制層の形成のしやすさ、および、マイグレーション抑制層の付着量制御の点から、処理液全量に対して、0.01〜10質量%が好ましく、0.1〜5質量%がより好ましく、0.25〜5質量%が特に好ましい。アゾール化合物の総含有量が多すぎると、マイグレーション抑制層の堆積量の制御が困難となる。アゾール化合物の総含有量が少なすぎると、所望のマイグレーション抑制層の堆積量になるまで時間がかかり、生産性が悪い。
【0023】
一方、防食剤などで一般的に用いられるベンゾトリアゾールなどを代わりに使用した場合は、後述する溶剤による洗浄によって、大半のベンゾトリアゾールが銅配線または銅合金配線上から洗い流されてしまい、所望の効果が得られない。また、過剰のエッチング剤を含むベンゾトリアゾール含有処理液や、エッチング能を持つイミダゾール化合物を含む処理液では、銅配線または銅合金配線上に形成される有機皮膜中に銅イオンが過剰に含まれてしまい、該皮膜ではマイグレーション抑制能は無く、所望の効果が得られない。
【0024】
処理液には、通常、溶媒として水が含まれる。使用される水の種類は特に制限されず、例えば、蒸留水、イオン交換水、水道水、および井水が挙げられる。なかでも、イオンなどの不純物が少ないことから蒸留水が好ましい。
水の含有量は特に制限されないが、処理液の取扱い性などの点から、処理液全量に対して、90〜99.9質量%が好ましく、95〜99.9質量%がより好ましく、95〜97.5質量%がさらに好ましい。
【0025】
なお、処理液には、本発明の効果を損なわない範囲で、水以外の溶媒が含まれていてもよい。
例えば、アルコール系溶剤(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール)、ケトン系溶剤(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン)、アミド系溶剤(例えば、ホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン)、ニトリル系溶剤(例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル)、エステル系溶剤(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル)、カーボネート系溶剤(例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート)、エーテル系溶剤、ハロゲン系溶剤などの有機溶媒が挙げられる。これらの溶剤を、2種以上混合して使用してもよい。
【0026】
本処理液における溶存酸素量は8ppm以下である。該範囲内であることにより、銅配線または銅合金配線における銅の腐食などが抑えられ上記アゾール化合物の吸着がより進行すると共に、銅イオントラップ能の高いマイグレーション抑制層を形成することができる。さらに、よりマイグレーション抑制機能が高いマイグレーション抑制層を形成できる点で、溶存酸素量は4ppm未満であることが好ましい。
一方、溶存酸素量が8ppm超であると、配線付き基板と処理液との接触時に銅配線または銅合金配線表面に腐食が起こり、高湿、加電圧雰囲気下で銅イオンの発生が加速されるため、マイグレーション抑制層のイオントラップ能を使用してしまい、充分なマイグレーション抑制機能を発現することができない。
【0027】
処理液の溶存酸素量を所定値以下にするための方法は特に制限されず、公知の方法を使用できる。例えば、脱気により処理液中の酸素を減らすことが好ましく、より具体的には、不活性ガスによるバブリング、高分子膜、無機膜等の膜による除去、真空によるガス成分除去、あるいはそれらを組み合わせた方法が挙げられる。
不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウムのいずれか、もしくはそれらを組み合わせたものを用いることが好ましい。また、これらの不活性ガスは汚染による影響を排除するため、極力純度の高いものを用いる方がよい。
なお、溶存酸素濃度の測定方法としては公知の方法を使用することができ、例えば、溶存酸素計DO-31P(東亜ディーケーケー社製)や蛍光式溶存酸素計LDO-HQ10(ハック社製)といった市販の溶存酸素計で測定することができる。
【0028】
一方、積層体中の配線間の絶縁信頼性を高める点で、処理液には銅イオンが実質的に含まれていないことが好ましい。過剰量の銅イオンが含まれていると、マイグレーション抑制層を形成する際に該層中に銅イオンが含まれることになり、銅イオンのマイグレーションを抑制する効果が薄れ、配線間の絶縁信頼性が損なわれることがある。
なお、銅イオンが実質的に含まれないとは、処理液中における銅イオンの含有量が、1μmol/l以下であることを指し、0.1μmol/l以下であることがより好ましい。最も好ましくは0mol/lである。
【0029】
また、積層体中の配線間の絶縁信頼性を高める点で、処理液には銅または銅合金のエッチング剤が実質的に含まれていないことが好ましい。処理液中にエッチング剤が含まれていると、配線付き基板と処理液とを接触させる際に、処理液中に銅イオンが溶出することがある。そのため結果として、マイグレーション抑制層中に銅イオンが含まれることになり、銅イオンのマイグレーションを抑制する効果が薄れ、配線間の絶縁信頼性が損なわれることがある。
エッチング剤としては、例えば、有機酸(例えば、硫酸、硝酸、塩酸、酢酸、ギ酸、ふっ酸)、酸化剤(例えば、過酸化水素、濃硫酸)、キレート剤(例えば、イミノジ酢酸、ニトリロトリ酢酸、エチレンジアミン4酢酸、エチレンジアミン、エタノールアミン、アミノプロパノール)、チオール化合物などが挙げられる。また、エッチング剤としては、イミダゾールや、イミダゾール誘導体化合物などのように自身が銅のエッチング作用を持つものも含まれる。
なお、エッチング剤が実質的に含まれないとは、処理液中におけるエッチング剤の含有量が、処理液全量に対して、0.01質量%以下であることを指し、配線間の絶縁信頼性をより高める点で、0.001質量%以下であることがより好ましい。最も好ましくは0質量%である。
【0030】
処理液のpHは特に規定されないが、マイグレーション抑制層の形成性の点から、5〜12であることが好ましい。なかでも、積層体中の配線間の絶縁信頼性がより優れる点から、pHは5〜9であることがより好ましく、6〜8であることがさらに好ましい。
処理液のpHが5未満であると、銅配線または銅合金配線から銅イオンの溶出が促進され、マイグレーション抑制層に銅イオンが多量に含まれることになり、結果として銅イオンのマイグレーションを抑制する効果が低下する場合がある。処理液のpHが12超であると、水酸化銅が析出し、酸化溶解しやすくなり、結果として銅イオンのマイグレーションを抑制する効果が低下する場合がある。
なお、pHの調整は、公知の酸(例えば、塩酸、硫酸)や、塩基(例えば、水酸化ナトリウム)を用いて行うことができる。また、pHの測定は、公知の測定手段(例えば、pHメーター(水溶媒の場合))を用いて実施できる。
【0031】
なお、上記処理液には、他の添加剤(例えば、pH調整剤、界面活性剤、防腐剤、析出防止剤など)が含まれていてもよい。
【0032】
[マイグレーション抑制層を有する積層体の製造方法(第1の実施態様)]
本発明のマイグレーション抑制層を有する積層体の製造方法の好適実施態様の一つとして、層形成工程、乾燥工程、および絶縁層形成工程をこの順で実施する製造方法が挙げられる。
以下に、図面を参照して、各工程で使用される材料、および、工程の手順について説明する。
【0033】
[層形成工程]
該工程では、まず、基板および基板上に配置される銅配線または銅合金配線(以後、単に配線とも称する)を有する配線付き基板と、上述したマイグレーション抑制層形成用処理液とを接触させる(接触工程)。その後、上記接触後の配線付き基板を溶剤(洗浄溶剤)で洗浄して、銅配線または銅合金配線表面上にアゾール化合物を含むマイグレーション抑制層を形成する(洗浄工程)。該工程によって、銅配線または銅合金配線の表面を覆うように、マイグレーション抑制層が形成され、銅のマイグレーションが抑制される。
まず、層形成工程で使用される材料(配線付き基板など)について説明し、その後層形成工程の手順について説明する。
【0034】
(配線付き基板)
本工程で使用される配線付き基板(内層基板)は、基板と、基板上に配置される銅配線または銅合金配線とを有する。言い換えれば、配線付き基板は基板と銅配線または銅合金配線とを少なくとも有する積層構造で、最外層に銅配線または銅合金配線が配置されていればよい。図1(A)には、配線付き基板の一態様が示されており、配線付き基板10は、基板12と、基板12上に配置された銅配線または銅合金配線14(以後、単に配線14とも称する)とを有する。配線14は、図1(A)においては、基板の片面だけに設けられているが、両面に設けられていてもよい。つまり、配線付き基板10は、片面基板であっても、両面基板であってもよい。
【0035】
基板は配線を支持できるものであれば特に制限されないが、通常、絶縁基板である。絶縁基板としては、例えば、有機基板、セラミック基板、シリコン基板、ガラス基板などを使用することができる。
有機基板の材料としては樹脂が挙げられ、例えば、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、またはそれらを混合した樹脂を使用することが好ましい。熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フラン樹脂、ケトン樹脂、キシレン樹脂、ベンゾシクロブテン樹脂等を用いることができる。熱可塑性樹脂としては、ポリイミド樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、アラミド樹脂、液晶ポリマー等が挙げられる。
なお、有機基板の材料としては、ガラス織布、ガラス不織布、アラミド織布、アラミド不織布、芳香族ポリアミド織布や、これらに上記樹脂を含浸させた材料なども使用できる。
【0036】
配線は、銅または銅合金で構成される。配線が銅合金で構成される場合、銅以外の含有される金属としては、例えば、銀、錫、パラジウム、金、ニッケル、クロムなどが挙げられる。
基板上への配線の形成方法は特に制限されず、公知の方法が採用できる。代表的には、エッチング処理を利用したサブトラクティブ法や、電解めっきを利用したセミアディティブ法が挙げられる。
【0037】
配線の幅は特に制限されないが、形成される積層体をプリント配線基板へ応用する際の高集積化の点から、1〜1000μmが好ましく、3〜25μmがより好ましい。
配線間の間隔は特に制限されないが、形成される積層体をプリント配線基板へ応用する際の高集積化の点から、1〜1000μmが好ましく、3〜25μmがより好ましい。
また、配線のパターン形状は特に制限されず、任意のパターンであってよい。例えば、直線状、曲線状、矩形状、円状などが挙げられる。
【0038】
配線の厚みは特に制限されないが、形成される積層体をプリント配線基板へ応用する際の高集積化の点から、1〜1000μmが好ましく、3〜25μmがより好ましい。
配線の表面粗さRzは特に制限されないが、後述する絶縁層との密着性の観点から、0.001〜15μmが好ましく、0.3〜3μmがより好ましい。
配線の表面粗さRzを調整する方法としては、公知の方法を使用でき、例えば、化学粗化処理、バフ研磨処理などが挙げられる。
なお、RzはJIS B 0601(1994年)に従って測定する。
【0039】
本工程で使用される配線付き基板は最外層に配線を有していればよく、基板と配線との間に、他の金属配線(配線パターン)および層間絶縁層をこの順で備えていてもよい。なお、他の金属配線および層間絶縁層は、基板と配線との間に、この順でそれぞれの層を2層以上交互に含まれていてもよい。つまり、配線付き基板は、いわゆる多層配線基板、ビルドアップ基板であってもよい。
層間絶縁層としては、公知の絶縁材料を使用することができ、例えば、フェノール樹脂、ナフタレン樹脂、ユリア樹脂、アミノ樹脂、アルキッド樹脂、エポキシ樹脂、アクリレート樹脂などが挙げられる。
また、配線付き基板は、いわゆるリジッド基板、フレキシブル基板、リジッドフレキシブル基板であってもよい。
【0040】
また、基板中にスルーホールが形成されていてもよい。基板の両面に配線が設けられる場合は、例えば、該ビアホール内に金属(例えば、銅または銅合金)が充填されることにより、両面の配線が導通されていてもよい。
【0041】
(溶剤(洗浄溶剤))
配線付き基板を洗浄する洗浄工程で使用される溶剤(洗浄溶剤)は、基板上の配線間に堆積した余分なアゾール化合物などを除去することができれば、特に制限されない。
溶剤としては、例えば、水、アルコール系溶剤(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール)、ケトン系溶剤(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン)、アミド系溶剤(例えば、ホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン)、ニトリル系溶剤(例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル)、エステル系溶剤(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル)、カーボネート系溶剤(例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート)、エーテル系溶剤、ハロゲン系溶剤などが挙げられる。これらの溶剤を、2種以上混合して使用してもよい。
なかでも、微細配線間への液浸透性の点から、水、アルコール系溶剤、およびメチルエチルケトンからなる群から選ばれる少なくとも1つを含む溶剤であることが好ましく、水ないしはアルコール系溶剤と水の混合液であることがより好ましい。
【0042】
使用される溶剤の沸点(25℃、1気圧)は特に制限されないが、安全性の観点で、75〜100℃が好ましく、80〜100℃がより好ましい。
【0043】
使用される溶剤の表面張力(25℃)は特に制限されないが、配線間の洗浄性がより優れ、配線間の絶縁信頼性がより向上する点から、10〜80mN/mであることが好ましく、15〜60mN/mであることがより好ましい。
【0044】
(層形成工程の手順)
層形成工程を、接触工程および洗浄工程の2つの工程に分けて説明する。
【0045】
(接触工程)
まず、基板および基板上に配置される銅配線または銅合金配線を有する配線付き基板と、上述したマイグレーション抑制層形成用処理液とを接触させる。上記配線付き基板と、上記処理液とを接触させることにより、図1(B)に示すように、配線付き基板10上にアゾール化合物を含む層16が形成される。該層16は、基板12上、および、配線14上に形成される。
アゾール化合物を含む層16には、アゾール化合物が含有される。その含有量などは、後述するマイグレーション抑制層中の含有量と略同義である。また、その付着量は特に制限されず、後述する洗浄工程を経て、所望の付着量のマイグレーション抑制層を得ることができるような付着量であることが好ましい。
【0046】
配線付き基板と上記処理液との接触方法は特に制限されず、公知の方法を採用することができる。例えば、ディップ浸漬、シャワー噴霧、スプレー塗布、スピンコートなどが挙げられ、処理の簡便さ、処理時間の調整の容易さから、ディップ浸漬、シャワー噴霧、スプレー塗布が好ましい。
【0047】
また、接触の際の処理液の液温としては、マイグレーション抑制層の付着量制御の点で、5〜60℃の範囲が好ましく、15〜50℃の範囲がより好ましく、20〜40℃の範囲がさらに好ましい。
また、接触時間としては、生産性およびマイグレーション抑制層の付着量制御の点で、10秒〜30分の範囲が好ましく、15秒〜10分の範囲がより好ましく、30秒〜5分の範囲がさらに好ましい。
【0048】
(洗浄工程)
次に、配線付き基板を溶剤で洗浄して、銅配線または銅合金配線表面上にアゾール化合物を含むマイグレーション抑制層を形成する。具体的には、図1(B)で得られたアゾール化合物を含む層16が設けられた配線付き基板10を上記洗浄溶剤で洗浄することにより、図1(C)に示すように、配線14間のアゾール化合物を含む層16が除去されると共に配線14上の余分なアゾール化合物が除去され、配線14上にアゾール化合物を含むマイグレーション抑制層18が形成される。
【0049】
洗浄方法は特に制限されず、公知の方法を採用することができる。例えば、配線付き基板上に洗浄溶剤を塗布する方法、洗浄溶剤中に配線付き基板を浸漬する方法などが挙げられる。
また、洗浄溶剤の液温としては、マイグレーション抑制層の付着量制御の点で、5〜60℃の範囲が好ましく、15〜30℃の範囲がより好ましい。
また、配線付き基板と洗浄溶剤との接触時間としては、生産性、およびマイグレーション抑制層の付着量制御の点で、10秒〜10分の範囲が好ましく、15秒〜5分の範囲がより好ましい。
【0050】
(マイグレーション抑制層(銅イオン拡散抑制層))
上記工程を経ることにより、図1(C)に示すように、銅配線または銅合金配線14表面上に、アゾール化合物を含むマイグレーション抑制層18を形成することができる。つまり、マイグレーション抑制層18が、銅配線または銅合金配線14表面を覆う。
なお、該図1(C)に示されるように、配線14間のアゾール化合物を含む層は実質的に除去されていることが好ましい。つまり、実質的に、銅配線または銅合金配線14表面上のみに、マイグレーション抑制層18が形成されていることが好ましい。
本発明においては、上記の溶剤の洗浄を施した後であっても、銅イオンのマイグレーションを抑制することができる十分な付着量のマイグレーション抑制層を得ることができる。
【0051】
マイグレーション抑制層中におけるアゾール化合物の含有量は、銅イオンのマイグレーションをより抑制できる点から、0.1〜100質量%であることが好ましく、20〜100質量%であることがより好ましく、50〜90質量%であることがさらに好ましい。特に、マイグレーション抑制層は、実質的にアゾール化合物で構成されていることが好ましい。アゾール化合物の含有量の少なすぎると、銅イオンのマイグレーション抑制効果が低くなる。
【0052】
マイグレーション抑制層中には、銅イオンまたは金属銅が実質的に含まれていないことが好ましい。マイグレーション抑制層に所定量以上の銅イオンまたは金属銅が含まれていると、本発明の効果に劣る場合がある。
【0053】
銅配線または銅合金配線表面上におけるアゾール化合物の付着量は、銅イオンのマイグレーションをより抑制できる点から、銅配線または銅合金配線の全表面積に対して、5×10-9〜1×10-6g/mm2であることが好ましく、5×10-9〜2×10-7g/mm2であることがより好ましく、5×10-9〜6×10-8g/mm2であることがさらに好ましい。
なお、付着量は、公知の方法(例えば、吸光度法)によって測定することができる。具体的には、吸光度法では、まず、水で配線間に存在するマイグレーション抑制層を洗浄する(水による抽出法)。その後、有機酸(例えば、硫酸)により銅配線または銅合金配線上のマイグレーション抑制層を抽出し、吸光度を測定して、液量と塗布面積から付着量を算出する。
【0054】
なお、上述したように、配線間にはアゾール化合物を含む層は実質的に除去されていることが好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲で一部アゾール化合物を含む層が残存していてもよい。
【0055】
[乾燥工程]
該工程では、マイグレーション抑制層が設けられた配線付き基板を加熱乾燥する。配線付き基板上に水分が残存していると、銅イオンのマイグレーションを促進させるおそれがあるため、該工程を設けることにより水分を除去することが好ましい。
【0056】
加熱乾燥条件としては、銅配線または銅合金配線の酸化を抑制する点で、70〜120℃(好ましくは、80℃〜110℃)で、15秒〜10分間(好ましくは、30秒〜5分)実施することが好ましい。乾燥温度が低すぎる、または、乾燥時間が短すぎると、水分の除去が十分でない場合があり、乾燥温度が高すぎる、または、乾燥時間が長すぎると、酸化銅が形成されるおそれがある。
乾燥に使用する装置は特に限定されず、恒温層、ヒーターなど公知の加熱装置を使用することができる。
【0057】
なお、本工程は任意の工程であり、層形成工程で使用される溶媒が揮発性に優れる溶媒である場合などは、本工程は実施しなくてもよい。
【0058】
[絶縁層形成工程]
該工程では、マイグレーション抑制層が設けられた配線付き基板上に絶縁層を形成する。図1(D)に示すように、絶縁層20が、マイグレーション抑制層18が表面に設けられた配線14に接するように配線付き基板10上に設けられる。絶縁層20が設けられることにより、配線14間の絶縁信頼性がより担保される。また、基板12と絶縁層20とが直接接触できるために、絶縁層20の密着性が優れる。
まず、使用される絶縁層について説明し、次に絶縁層の形成方法について説明する。
【0059】
絶縁層としては、公知の絶縁性の材料を使用することができる。例えば、いわゆる層間絶縁層として使用されている材料を使用することができ、具体的には、エポキシ樹脂、アラミド樹脂、結晶性ポリオレフィン樹脂、非晶性ポリオレフィン樹脂、フッ素含有樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、全フッ素化ポリイミド、全フッ素化アモルファス樹脂など)、ポリイミド樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、アクリレート樹脂など挙げられる。層間絶縁層としては、例えば、味の素ファインテクノ(株)製、ABF GX−13などが挙げられる。
また、絶縁層として、いわゆるソルダーレジスト層を使用してもよい。ソルダーレジストは市販品を用いてもよく、具体的には、例えば、太陽インキ製造(株)製 PFR800、PSR4000(商品名)、日立化成工業(株)製 SR7200Gなどが挙げられる。
【0060】
配線付き基板上への絶縁層の形成方法は特に制限されず、公知の方法を採用することができる。例えば、絶縁層のフィルムを直接配線付き基板上にラミネートする方法や、絶縁層を構成する成分を含む絶縁層形成用組成物を配線付き基板上に塗布する方法や、配線付き基板を該絶縁層形成用組成物に浸漬する方法などが挙げられる。
なお、上記絶縁層形成用組成物には、必要に応じて溶剤が含まれていてもよい。溶剤を含む絶縁層形成用組成物を使用する場合は、該組成物を基板上に配置した後、必要に応じて溶剤を除去するために加熱処理を施してもよい。
また、絶縁層を配線付き基板上に設けた後、必要に応じて、絶縁層に対してエネルギー付与(例えば、露光または加熱処理)を施してもよい。
【0061】
形成される絶縁層の膜厚は特に制限されず、配線間の絶縁信頼性の観点からは、5〜50μmが好ましく、15〜40μmがより好ましい。
図1(D)においては、絶縁層は一層で記載されているが、多層構造であってもよい。
【0062】
(マイグレーション抑制層を有する積層体)
上記工程を経ることにより、図1(D)に示すように、基板12と、基板12上に配置される配線14と、配線14上に配置される絶縁層20とを備え、配線14と絶縁層20との間にマイグレーション抑制層18が介在する積層体30(マイグレーション抑制層を有する積層体の第1の実施態様)を得ることができる。得られる積層体30は、配線14間の絶縁信頼性に優れると共に、絶縁層20と配線付き基板10との密着性にも優れる。
なお、図1(D)に示すように、上記では一層配線構造の積層体を例にあげたが、もちろんこれに限定されない。例えば、基板と金属配線との間に、他の金属配線(金属配線層)および層間絶縁層をこの順で交互に積層した多層配線付き基板を使用することにより、多層配線構造の積層体を製造することができる。
【0063】
本発明の製造方法により得られる積層体は、種々の用途および構造に対して使用することができ、例えば、プリント配線基板、マザーボード用基板や半導体パッケージ用基板、MID(Molded Interconnect Device)基板などが挙げられ、リジット基板、フレキシブル基板、フレックスリジット基板、成型回路基板などに対して使用することができる。
【0064】
また、得られた積層体中の絶縁層を一部除去して、半導体チップを実装して、プリント回路板として使用してもよい。
例えば、絶縁層としてソルダーレジストを使用する場合は、所定のパターン状のマスクを絶縁層上に配置し、エネルギーを付与して硬化させ、エネルギー未付与領域の絶縁層を除去して配線を露出させる。次に、露出した配線の表面を公知の方法で洗浄(例えば、硫酸や界面活性剤を使用して洗浄)した後、半導体チップを配線表面上に実装する。
絶縁層として公知の層間絶縁層を使用する場合は、ドリル加工やレーザー加工により、絶縁層を除去することができる。
【0065】
また、得られた積層体の絶縁層上にさらに金属配線(配線パターン)を設けてもよい。金属配線を形成する方法は特に制限されず、公知の方法(めっき処理、スパッタリング処理など)を使用することができる。
本発明においては、得られた積層体の絶縁層上にさらに金属配線(配線パターン)を設けられた基板を新たな配線付き基板(内層基板)として使用し、新たに絶縁層および金属配線を幾層にも積層することができる。
【0066】
[マイグレーション抑制層を有する積層体の製造方法(第2の実施態様)]
本発明のマイグレーション抑制層を有する積層体の製造方法の他の好適実施態様として、基板と、基板上に配置される銅配線または銅合金配線と、基板上に配置され銅配線または銅合金配線の一部が露出するように銅配線および銅合金配線を覆う絶縁層とを有する露出配線を有する露出配線を有する積層体(以後、単に露出配線含有積層体とも称する)を上記配線付き基板の代わりに使用する層形成工程、および乾燥工程をこの順で実施する製造方法が挙げられる。
以下に、図面を参照して、各工程で使用される材料、および、工程の手順について説明する。
【0067】
[層形成工程]
該工程では、まず、露出配線含有積層体と、上述したマイグレーション抑制層形成用処理液とを接触させる(接触工程)。その後、露出配線含有積層体を溶剤(洗浄溶剤)で洗浄して、露出していた銅配線または銅合金配線表面上にアゾール化合物を含むマイグレーション抑制層を形成する(洗浄工程)。
該工程によって、露出していた銅配線または銅合金配線の表面を覆うように、マイグレーション層が形成され、銅のマイグレーションが抑制される。
まず、層形成工程で使用される材料(露出配線含有積層体)について説明し、その後層形成工程の手順について説明する。
【0068】
(露出配線含有積層体)
本工程で使用される露出配線含有積層体は、基板と、基板上に配置される銅配線または銅合金配線(以後、単に配線とも称する)と、基板上に配置され銅配線または銅合金配線の一部が露出するように銅配線および銅合金配線を覆う絶縁層とを有する。図2中、露出配線含有積層体40は、基板12と、銅配線または銅合金配線14(以後、単に配線14とも称する)と、絶縁層20とを備える。配線14は、露出した銅配線または銅合金配線(以後、単に配線14aとも称する)と、絶縁層20で被覆された銅配線または銅合金配線(以後、単に配線14bとも称する)とから構成される。
なお、図2において、露出した配線14aは、基板12上に支持されているが、その一部が基板12外に延在していてもよい。
【0069】
本工程で使用される露出配線含有積層体中の基板の態様(種類など)は、上述した第1の実施態様で使用される配線付き基板(内層基板)中の基板の態様と同じである。
なかでも、基板(特に、絶縁基板)としては、例えば、有機基板、薄いガラスエポキシ基板などを使用することが好ましい。有機基板などの基板を使用することにより、いわゆるフレキシブルプリント配線基板を得ることができる。また、ガラスエポキシ基板からなるリジットな基板を用いることにより、いわゆるリジットプリント配線基板を得ることもできる。
有機基板の材料としては樹脂が挙げられ、例えば、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、液晶ポリマー等が挙げられる。
【0070】
本工程で使用される露出配線含有積層体中の銅配線または銅合金配線の態様(材料の種類、幅、間隔、厚みなど)は、上述した上述した第1の実施態様で使用される配線付き基板(内層基板)の銅配線または銅合金配線の態様と同じである。
【0071】
絶縁層は、銅配線または銅合金配線の一部が露出するように、銅配線または銅合金配線を覆う層である。銅配線または銅合金配線を覆う割合は特に制限されず、基板上に実装される電子部品(例えば、半導体素子)などと電気的に接続できる銅配線または銅合金配線部が残存していればよい。
本工程で使用される露出配線含有積層体中の絶縁層の態様(種類など)は、上述した第1の実施態様で使用される配線付き基板(内層基板)中の絶縁層の態様と同じである。より具体的には、絶縁層を構成する絶縁材料としては、例えば、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂などが挙げられる。
また、絶縁層として、スクリーン印刷インクや感光性カバーレイを用いてもよい。
【0072】
なお、露出配線含有積層体の製造方法は特に制限されず、公知の方法を採用できる。例えば、まず、銅箔付き基板に対してサブトラクティブ法またはセミアディティブ法を適用し、銅配線を有する基板を製造する。次に、該基板上に絶縁フィルムをラミネートし、銅配線の一部を覆った絶縁層を形成する。
【0073】
(溶剤(洗浄溶剤))
露出配線含有積層体を洗浄する洗浄工程で使用される溶剤(洗浄溶剤)は、銅配線または銅合金表面以外の表面に堆積した余分なアゾール化合物などを除去することができれば、特に制限されず、上述した第1の実施態様で使用される溶剤(洗浄溶剤)を使用することができる。
【0074】
(工程の手順)
層形成工程を、接触工程および洗浄工程の2つの工程に分けて説明する。
【0075】
(接触工程)
接触工程は、露出配線含有積層体と、上記のマイグレーション層形成用処理液とを接触させる工程である。具体的には、まず、図3(A)に示すように、基板12と露出した銅配線または銅合金配線14aを備える露出配線含有積層体を用意し、該露出配線含有積層体と、上記マイグレーション抑制層形成用処理液とを接触させることにより、図3(B)に示すように、基板12および露出した配線14a上にアゾール化合物を含む層16が形成される。該層16は、基板12上、配線14a上、および絶縁層(図示しない)上に形成される。
該接触工程の手順・条件は、上述した第1の実施態様で実施した接触工程と同様の手順・条件によってなされる。
【0076】
(洗浄工程)
洗浄工程は、接触工程で得られた露出配線含有積層体を溶剤で洗浄して、銅配線または銅合金配線表面上にアゾール化合物を含むマイグレーション抑制層を形成する工程である。
具体的には、図3(B)で得られたアゾール化合物を含む層16が設けられた露出配線含有積層体を上記洗浄溶剤で洗浄することにより、図3(C)に示すように、配線14a間のアゾール化合物を含む層16が除去されると共に、配線上の余分なアゾール化合物が除去され、配線14a上にマイグレーション抑制層18が形成される。なお、配線14a間のアゾール化合物を含む層16が除去されると同時に、絶縁層(図示しない)上のアゾール化合物を含む層16も除去される。
該洗浄工程の手順・条件は、上述した第1の実施態様で実施した洗浄工程と同様の手順・条件によってなされる。
【0077】
(マイグレーション抑制層)
上記工程を経ることにより、露出した銅配線または銅合金配線表面上に、アゾール化合物を含むマイグレーション抑制層を形成することができる。なお、図3(C)に示すように、露出した配線14a表面以外の面上において、アゾール化合物を含む層は実質的に除去されていることが好ましい。つまり、実質的に、露出した配線14a表面上にのみマイグレーション抑制層18が形成されていることが好ましい。なお、配線14a表面とは、図3(C)に示すように、基板12と接する下面以外の上面および側面を意味する。
形成されるマイグレーション抑制層の態様(アゾール化合物の含有量・付着量など)は、上述した第1の実施態様で得られるマイグレーション抑制層と同様の態様である。
【0078】
[乾燥工程]
該工程では、マイグレーション抑制層が設けられた積層体を加熱乾燥する。積層体上に水分が残存していると、銅イオンのマイグレーションの促進させるおそれがあるため、該工程を設けることにより水分を除去することが好ましい。
なお、本工程は任意の工程であり、層形成工程で使用される溶媒が揮発性に優れる溶媒である場合などは、本工程は実施しなくてもよい。
乾燥工程の手順・条件は、上述した第1の実施態様で実施した乾燥工程と同様の手順・条件によってなされる。
【0079】
(マイグレーション抑制層を有する積層体)
上記製造方法を経ることによって、基板と、基板上に配置される銅配線または銅合金配線と、銅配線または銅合金配線の一部の表面上に形成されたアゾール化合物を含むマイグレーション抑制層と、基板上に配置され銅配線または銅合金配線の残部の表面を覆う絶縁層とを有する積層体(マイグレーション抑制層を有する積層体の第2の実施態様)が得られる。言い換えると、銅配線または銅合金配線の一部が絶縁層で覆われ、絶縁層で覆われていない銅配線または銅合金配線の表面がアゾール化合物を含むマイグレーション抑制層で被覆されている、表面被覆配線を有する積層体である。
より具体的には、図4に示すように、基板12と、基板12上に配置される配線14と、基板12上に配置され配線14の一部を被覆する絶縁層20と、絶縁層20が設けられていない配線14aの表面上を被覆するマイグレーション抑制層18とを有する表面被覆配線を有する積層体100が得られる。
【0080】
得られた積層体は、種々の用途に使用することができ、例えば、プリント配線基板、COF(Chip on Film)基板用、またはTAB(Tape Automated Bonding)基板用の基板として使用することができる。
【実施例】
【0081】
以下、実施例により、本発明について更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0082】
(実施例1)
ポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製 カプトンフィルム)を用いて、L/S=100μm/100μmの櫛型銅配線および絶縁層を備える露出配線含有積層体(プリント配線基板に該当)を形成した。露出配線含有積層体は以下の方法により作製した。
【0083】
25μm厚のポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製 カプトンフィルム)上に20μm厚の銅箔(古河電工社製 F3-WS箔)を25μm厚の接着剤(日立化成社製 N4)を介して貼りあわせた。
銅箔テープにフォトレジスト(日立化成工業社製 フォテックH−W425)を100℃で、4kgf/cm2の条件でラミネートし、フォトマスクを介して80mJ/cm2の条件で露光し、現像してエッチングレジストパターンを形成した。
【0084】
その後、エッチングレジストに覆われていない銅箔を、塩化第二鉄エッチング溶液で選択的にエッチング除去し、エッチングレジストを剥離して、L/S=100μm/100μmの銅配線を得た。
さらに、その後、得られた基板上の約半分に絶縁層(日立化成社製 FZ2500)をラミネートし、その後露光、ベークを行って、露出配線含有積層体を得た。なお、得られた露出配線含有積層体中の銅配線の約半分が絶縁層で被覆された。
【0085】
1時間ほど窒素バブリングをおこなった純水に1,2,4−トリアゾール−3−カルボキシアミドを溶解させ、マイグレーション抑制層形成用処理液(1,2,4−トリアゾール−3−カルボキシアミドの処理液中における含有量:2.5質量%)を作製した。処理液中の溶存酸素量を溶存酸素計DO-31P(東亜ディーケーケー)にて測定したところ、溶存酸素量は2ppmであった。
次に、得られた露出配線含有積層体を、作製した処理液に5分浸漬した。その後、エタノールを用いて得られた露出配線含有積層体を洗浄(接触時間:2分、液温度:25℃)し、マイグレーション抑制層を有する積層体(フレキシブルプリント配線基板に該当)を得た。さらに、その後、積層体を100℃で2分間乾燥処理した。
【0086】
なお、水による配線間抽出液の吸光度測定により、銅配線間の基板表面においてマイグレーション抑制層は確認できず、エタノール洗浄により除去されていることが確認された。
【0087】
(水滴滴下試験による基板寿命測定)
得られた積層体を用いて、伝導度0.05μS/cm2、30mLの純水中にて、印加電圧1.2Vの条件で5分間および10分間それぞれ印加した後、絶縁層で被覆されていない配線間の陽極から陰極にわたって発生した、配線間を連結するデンドライトの発生について、光学顕微鏡下(オリンパス社製 BX−51)で計測した。実施例1で得られた結果を、表1に示す。
なお、以下の基準に従って、評価を行った。
「○」:配線間にデンドライトの発生がみられない場合
「△」:配線間にデンドライトの発生は見られるが、配線間を連結するデンドライトは見られず、実用上問題ない場合
「×」:配線間を連結するデンドライトが発生しており、実用上問題がある場合
【0088】
(実施例2)
1,2,4−トリアゾール−3−カルボキシアミドに変えて、1,2,3−トリアゾールを使用した以外は実施例1と同様の手順に従って、積層体を製造した。その後、得られた積層体を用いて、実施例1で行った水滴滴下試験を実施した。表1に結果を示す。
【0089】
(実施例3)
1,2,4−トリアゾール−3−カルボキシアミドに変えて、1,2,4−トリアゾールを使用した以外は実施例1と同様の手順に従って、積層体を製造した。その後、得られた積層体を用いて、実施例1で行った水滴滴下試験を実施した。表1に結果を示す。
【0090】
(実施例4)
実施例3において窒素バブリングの時間を1時間から5分にした以外は実施例3と同様の手順に従って、積層体を製造した。その後、得られた積層体を用いて、実施例1で行った水滴滴下試験を実施した。表1に結果を示す。
【0091】
(実施例5)
実施例3において窒素バブリングの時間を1時間から30分にした以外は実施例3と同様の手順に従って、積層体を製造した。その後、得られた積層体を用いて、実施例1で行った水滴滴下試験を実施した。表1に結果を示す。
【0092】
(実施例6)
銅張積層板(日立化成社製 MCL−E−679F、基板:ガラスエポキシ基板)を用いて、セミアディティブ法によりL/S=23μm/27μmの銅配線を備える配線付き基板を形成した。配線付き基板は以下の方法により作製した。
銅張積層板を、酸洗浄、水洗、乾燥させた後、ドライフィルムレジスト(DFR,商品名;RY3315,日立化成工業株式会社製)を真空ラミネーターにより、0.2MPaの圧力で70℃の条件にてラミネートした。ラミネート後、銅パターン形成部を中心波長365nmの露光機にて、70mJ/m2の条件でマスク露光した。その後、1%炭酸ナトリウム水溶液にて現像して、水洗を行い、めっきレジストパターンを得た。
めっき前処理、水洗を経て、レジストパターン間に露出した銅上に電解めっきを施した。このとき、電解液には硫酸銅(II)の硫酸酸性溶液を用い、純度が99%程度の粗銅の板を陽極に、銅張積層板を陰極とした。50〜60℃、0.2〜0.5Vで電解することで、陰極の銅上に銅が析出した。その後、水洗、乾燥を行った。
レジストパターンを剥離すために、45℃の4%NaOH水溶液に基板を60秒間浸漬した。その後、得られた基板を水洗し、1%硫酸に30秒間浸漬した。その後、再び水洗した。
過酸化水素、硫酸を主成分としたエッチング液により、銅パターン間の導通した銅をクイックエッチングし、水洗、乾燥を行った。
次に、前処理剤(メック社製 CA−5330)により銅配線表面の汚れ等を除去した後、粗化処理剤(メック社製 CZ−8110)により、銅配線表面の粗化処理を施した。
【0093】
次に、得られた配線付き基板を、実施例3で使用したマイグレーション抑制層形成用処理液に30秒間浸漬した。その後、エタノールを用いて得られた配線付き基板を洗浄した(接触時間:2分、液温度:25℃)。さらに、その後、配線付き基板を100℃で2分間乾燥処理した。
【0094】
反射率測定を行うことにより、銅配線上に1,2,4−トリアゾールを含むマイグレーション抑制層が形成されていることを確認した。
なお、銅配線間の基板表面においては、水による配線間抽出液の吸光度測定により、マイグレーション抑制層は確認できず、エタノール洗浄により除去されていることが確認された。
【0095】
乾燥処理が施された配線付き基板上に、絶縁層(太陽インキ社製 PFR−800)をラミネートし、その後露光、ベークを行って、マイグレーション抑制層を有する積層体(プリント配線基板に該当)(絶縁層の膜厚:35μm)を製造した。得られた積層体に関して、以下の寿命測定を行った。
【0096】
(HAST試験による基板寿命測定)
得られた積層体を用いて、湿度85%、温度130度、圧力1.2atm、電圧100Vの条件で寿命測定(使用装置:espec社製、EHS−221MD)を行った。
評価方法としては、20ロッドの試験を実施し、配線間の抵抗値が1×109Ωを基準抵抗値とした。試験開始から120時間経過した時の抵抗値が基準抵抗値以上を示すロッドを合格とした。
実施例6で得られた結果を、表1に示す。
【0097】
(比較例1)
実施例3において窒素バブリングの代わりに酸素バブリングを行い、溶存酸素量が8.5ppmのマイグレーション抑制層形成用処理液を使用した以外は、実施例3と同様の手順に従って、積層体を製造した。その後、得られた積層体を用いて、実施例1で行った水滴滴下試験を実施した。表1に結果を示す。
【0098】
(比較例2)
実施例1で使用した1,2,4−トリアゾール−3−カルボキシアミドの代わりに、エチレンジアミン4酢酸を使用した以外は、実施例1と同様の手順に従って、積層体を製造した。その後、得られた積層体を用いて、実施例1で行った水滴滴下試験を実施した。表1に結果を示す。
【0099】
(比較例3)
実施例1で使用した1,2,4−トリアゾール−3−カルボキシアミドの代わりに、ベンゾトリアゾールを使用した以外は、実施例1と同様の手順に従って、積層体を製造した。その後、得られた積層体を用いて、実施例1で行った水滴滴下試験を実施した。表1に結果を示す。
【0100】
(比較例4)
実施例6において窒素バブリングの代わりに酸素バブリングを行い、溶存酸素量が8.5ppmのマイグレーション抑制層形成用処理液を使用した以外は、実施例6と同様の手順に従って、積層体を製造した。その後、得られた積層体を用いて、実施例6で行ったHAST試験を実施した。表1に結果を示す。
【0101】
以下の表1中、寿命測定の欄の数値は、(120時間後に1×109Ω以上を示すロッド数/試験ロッド数)を意味し、20/20が最も良い結果である。
また、表1中、「pH」は、各実施例および比較例で使用されたマイグレーション抑制剤処理液のpHを意味する。pHの測定には、pHメーター(東亜ディーケーケー社製)を使用した。表1中の「付着量」は処理液中に含まれる化合物(1,2,3−トリアゾール、1,2,4−トリアゾールなど)の銅配線上への付着量を意味し、その測定は上述した吸光度法により行った。
【0102】
【表1】

【0103】
表1に示されるように、本発明のマイグレーション抑制層形成用処理液を使用した実施例1〜5においては、配線間でのデンドライトの連結が見られず、銅イオンのマイグレーションが抑制されていることが確認された。
特に、溶存酸素量が実施例1〜3および5において、水滴滴下試験の電圧の印加時間を5分間から10分間に変更した場合であっても、配線間のデンドライトの発生は見られなかった。つまり、溶存酸素量が4ppm未満の場合、配線間の絶縁信頼性により優れる。
さらに、実施例6に示すように、HAST試験において優れた寿命測定結果を示し、配線間の絶縁信頼性に優れていることが確認された。
【0104】
一方、溶存酸素量が所定値以上の処理液を使用した比較例1、アゾール化合物以外の化合物を使用した比較例2、および、ベンゾトリアゾール化合物を使用した比較例3においては、配線間を連結するデンドライトの発生が確認され、配線間のマイグレーション抑制効果に劣っていた。さらに、比較例4に示すように、HAST試験においても、配線間の絶縁信頼性は劣っていた。
【符号の説明】
【0105】
10:配線付き基板
12:基板
14:銅配線または銅合金配線
14a:露出した銅配線または銅合金配線
14b:絶縁層で被覆された銅配線または銅合金配線
16:アゾール化合物を含む層
18:マイグレーション抑制層
20:絶縁膜
30,100:マイグレーション抑制層を有する積層体
40:露出配線含有積層体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アゾール化合物と水とを含有し、溶存酸素量が8ppm以下である、銅配線または銅合金配線におけるイオンマイグレーションを抑制するマイグレーション抑制層を形成するためのマイグレーション抑制層形成用処理液。
【請求項2】
前記溶存酸素量が、4ppm未満である、請求項1に記載のマイグレーション抑制層形成用処理液。
【請求項3】
前記アゾール化合物が、1,2,3−トリアゾールおよび/または1,2,4−トリアゾールを含む、請求項1または2に記載のマイグレーション抑制層形成用処理液。
【請求項4】
基板および前記基板上に配置される銅配線または銅合金配線を有する配線付き基板と、請求項1〜3のいずれかに記載のマイグレーション抑制層形成用処理液とを接触させ、その後前記配線付き基板を溶剤で洗浄して、銅配線または銅合金配線表面上にアゾール化合物を含むマイグレーション抑制層を形成する層形成工程と、
前記マイグレーション抑制層が設けられた配線付き基板上に絶縁層を形成する絶縁層形成工程とを備える、マイグレーション抑制層を有する積層体の製造方法。
【請求項5】
基板と、前記基板上に配置される銅配線または銅合金配線と、前記基板上に配置され前記銅配線または銅合金配線の一部が露出するように前記銅配線または銅合金配線を覆う絶縁層とを有する露出配線含有積層体と、請求項1〜3のいずれかに記載のマイグレーション抑制層形成用処理液とを接触させ、その後前記露出配線含有積層体を溶剤で洗浄して、露出した前記銅配線または銅合金配線表面上にマイグレーション抑制層を形成する層形成工程を備える、マイグレーション抑制層を有する積層体の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−244005(P2012−244005A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113774(P2011−113774)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】