説明

マイコトキシンの体内への吸収を抑制する効果のある食品または飼料用添加剤

【課題】マイコトキシンの体内吸収を抑制する効果のある食品用もしくは飼料用添加剤、並びに当該添加剤を含む食品または飼料を提供する。また、食品もしくは飼料中に混在し得るマイコトキシンについて、その体内吸収を抑制する方法を提供する。
【解決手段】マイコトキシンの体内吸収を抑制するための食品用もしくは飼料用添加剤として、低メトキシルペクチンおよびカルシウム塩を含有する組成物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイコトキシンの体内吸収を抑制する効果のある食品もしくは飼料用添加剤、並びに当該添加剤を含む食品または飼料に関する。また本発明は、食品もしくは飼料中に混在している可能性のあるマイコトキシンについて、その体内吸収を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイコトキシンは、カビが産生する二次代謝産物で、人と動物に有害な化合物の総称であり、数多くの化合物やその類縁体が存在することが知られている。マイコトキシン中毒は、急性のものでは突発性の下痢と肝機能障害の主症状を呈する。慢性のものでは内臓に炎症をおこすことによって消化障害、呼吸器病の主症状を呈する。また、一部のマイコトキシンは変異原性の強いものや免疫能低下を引き起こすものもある。穀物などに特に頻繁に汚染しているマイコトキシンとして、デオキシニバレノールなどが挙げられる。
【0003】
デオキシニバレノール(以下DONと略す)は、主にフザリウム属のカビ(赤カビ)が産生するトリコテセン系のマイコトキシンであり、別名ボミトキシン(Vomitoxin)や吐血毒素とも言われている。主な産生菌は、Fusarium 属のF.graminearum、F.culmorum 等があり、麦類を中心とした赤カビ病の原因となる植物病原菌の一つで、圃場での汚染により、最も広く穀類に被害を与え、特にとうもろこしや麦類のDON汚染は、世界的に問題となっている。
【0004】
フモニシンはフザリウム属のカビであるF. verticillioides 、F .moniliformeおよび F. proliferatum が産生するマイコトキシンであり、穀類を汚染するカビ毒として知られている。特に家畜飼料のフモニシン汚染例は多く、急性毒性はないが長期毒性としてほとんどの家畜に対して肝機能障害、心機能障害を引き起こし、さらには変異原性も疑われている。国内では飼料に対してのみ基準値が設定さており、食品に対する基準値はないが、最近では、とうもろこし加工品を主食とする国や地域での新生児の神経管に関する催奇形性から注目されており、今後注意が必要なカビ毒である。
【0005】
パツリンは、Penicillium expansum等のカビによって産生され、種々の動物に致死的な毒性を有するカビ毒である。特に果汁に対する汚染が深刻であり、リンゴジュースへのパツリンの混入は様々な国で報告されており、深刻な被害をもたらしている。
【0006】
食品や飼料中のマイコトキシンを除去もしくは減毒する方法としては、従来のように殺菌剤や抗菌剤を主成分とする農薬を用いてマイコトキシン産生菌自体を殺菌および低減する方法が一般的である。また、マイコトキシン生合成阻害剤を用いて汚染されているマイコトキシン量を減少させる方法もある(特許文献1)。しかしながら、これらの方法は、農薬による環境汚染等の問題がある。
【0007】
一方、すでにマイコトキシンに汚染されている食品や飼料中の毒素の除去や無毒化については、マイコトキシン無毒化酵素を用いる方法(特許文献2)やEubacterium属等のマイコトキシン無毒化細菌を繁殖させるなどといった方法がある(特許文献3)。しかしながら、これらの方法には、特殊で高価な酵素や細菌を繁殖させる環境が必要であり、多くの食品や飼料に適用することは難しい。また、化石サンゴを主成分として含有するマイコトキシン吸着剤を用いて飼料からマイコトキシンを取り除く方法も確立されているがその効果は限定的である(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−167138号公報
【特許文献2】特表2001−521362号公報
【特許文献3】特表2008−520194号公報
【特許文献4】特開2007−174926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、すでにマイコトキシンに汚染されている可能性のある食品または飼料を摂取した場合において、マイコトキシンが体内に吸収されることを抑制することによって、マイコトキシンが生体に及ぼす影響を低減するための方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意検討を重ねていたところ、マイコトキシンで汚染された食品または飼料に低メトキシペクチンおよびカルシウム塩を含む組成物を共存させると、マイコトキシンが上記組成物から形成されるゲル内に取り込まれ、しかもその内部に安定に閉じこめられることで、マイコトキシンの体内への吸収および蓄積が抑制できることを見出した。
【0011】
本発明は、かかる知見に基づいて開発されたものであり、下記の態様を含むものである:
(I)マイコトキシンの体内吸収を抑制するための食品もしくは飼料用添加剤
(I-1)低メトキシルペクチンおよびカルシウム塩を含有することを特徴とする、マイコトキシンの体内吸収を抑制するための食品用もしくは飼料用添加剤。
(I-2)低メトキシルペクチン100質量部に対してカルシウム塩を0.2質量部以上の割合で含有する(I-1)に記載する食品用もしくは飼料用添加剤。
(I-3)低メトキシルペクチンがアミド化ペクチンである(I-1)または(I-2)に記載する食品用もしくは飼料用添加剤。
(I-4)上記マイコトキシンがデオキシニバレノール、フモニシン、およびパツリンからなる群から選択される少なくとも1種である、(I-1)乃至(I-3)のいずれかに記載の食品用もしくは飼料用添加剤。
【0012】
(II)飼料
マイコトキシンの体内吸収を抑制することを目的として(I-1)乃至(I-4)のいずれかに記載する飼料用添加剤を含む飼料。
【0013】
(III)体内でのマイコトキシンの吸収を抑制する方法
ヒト以外の動物に、(I-1)乃至(I-4)のいずれかに記載する飼料用添加剤または(II)に記載する飼料を経口投与することを特徴とする、体内でのマイコトキシンの吸収を抑制する方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、マイコトキシンで汚染されている食品や飼料を摂取した際のマイコトキシンの体内への吸収および蓄積を有意に抑制することができる食品用または飼料用の添加剤、並びにそれを添加した食品もしくは飼料を提供することができる。
【0015】
例えば、低メトキシペクチンおよびカルシウム塩を含む本発明の食品用添加剤は、乳児や咀嚼困難な高齢者などを対象とした、例えばゼリー状の食品(菓子を含む)に用いることができ、このため、マイコトキシンに対して抵抗性が低い高リスク者に対するマイコトキシン対策として有用であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の製剤(実施例2)を経口投与したマウス群の血清中のDON濃度の経時的推移を示す(実験例3)。
【図2】比較例1の製剤を経口投与したマウス群の血清中のDON濃度の経時的推移を示す(実験例3)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、低メトキシルペクチン(以下、「LMペクチン」という)とカルシウム塩を主成分として含有する食品用もしくは飼料用の添加剤である。かかる添加剤は、水の存在下でゲルを形成することでマイコトキシンを取り込み、しかもゲル内部に安定に閉じ込める作用を有し、かかる作用に基づいて体内でのマイコトキシンの吸収や蓄積を抑制する効果を発揮する。このため、当該本発明の添加剤は、食品または飼料に混在している可能性のあるマイコトキシンについて、専ら食品または飼料とともに用いられて、マイコトキシンの体内吸収および蓄積を抑制する目的で使用される。
【0018】
なお、ここで「食品または飼料とともに」とは、添加剤を食品または飼料に混合した状態で用いる場合のみならず、食品または飼料と組み合わせて同時に摂取する場合;添加剤を摂取した後、速やかに食品または飼料を摂取する場合;食品または飼料を摂取した後、速やかに添加剤を摂取する場合のいずれの態様をも包含する意味で用いられる。
【0019】
本発明で用いられるLMペクチンは、植物の果皮などを酸性溶液で抽出して得られるα−1,4グリコシド結合したD−ガラクツロン酸もしくはD−カラクツロン酸のカルボキシル基がメチルエステル化されたD−カラクツロン酸メチルエステルからなる主鎖と、主にアラビノースやグルコース等の中性糖からなる側鎖によって構成される多糖類である。ペクチンの由来としてはレモンやライムが最も適しているが、オレンジ、グレープフルーツやリンゴなどでも良い。
【0020】
ペクチンはD−ガラクツロン酸のフリーのカルボキシル基が2価のカチオン、特にカルシウムイオンと結合することによりゲルを形成ことが知られている。ペクチンは原料からの粗抽出段階ではエステル化度50%以上の高メトキシル状態である。この状態ではフリーのカルボキシル基が少なすぎるためゲル化反応がすすみ難いため、メトキシル化度を低減させたLMペクチンが広く流通している。本発明においてはペクチンをカルシウムイオンでゲル化させることが必要であるため、低メトキシル化され、メトキシル化度が50%以下になっていることが必要である。好ましくはメトキシル化度10%以上、40%以下のペクチンである。
【0021】
メトキシル化度を低減させるためには一般的に酸、酵素処理やアンモニア処理を行うが、アンモニア処理の際にペクチンはアミド化される。本発明では、アミド化されていない非アミド化ペクチンおよびアミド化されたアミド化ペクチンのいずれをも使用することができる。後述する実験例で示すように、マイコトキシンの取り込み率が大きいことからアミド化ペクチンが好適に使用される。
【0022】
これらのLMペクチンは食品添加物として広く流通しており、誰でも商業的に容易に入手することができる。商業的に入手可能な製品としては、例えば非アミド化ペクチンとしてはビストップ[商標]D−2262、アミド化ペクチンとしてはビストップ[商標]D−2264(いずれも、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)を挙げることができる。その形態は、顆粒状、粒状、または粉末状(スプレードライ粉末品を含む)の形態の別を問わず、いずれの形態も使用することができる。
【0023】
本発明に用いられるカルシウム塩としては、カルシウムの塩化物、水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、有機酸塩などを挙げることができる。ここで有機酸としては、乳酸、クエン酸、ピルビン酸、アスコルビン酸、リンゴ酸、マレイン酸等を挙げることができる。好ましくは炭酸塩や乳酸塩である。なお、ここで、中性条件下で水に溶解しやすいカルシウム塩としてはカルシウムの塩化物および水酸化物を、中性条件下で水に難溶であるものの酸性条件下で易溶性を示すカルシウム塩としてはカルシウムの炭酸塩、炭酸水素塩、または乳酸塩などの有機酸塩を挙げることができる。好ましくは炭酸塩である。
【0024】
これらのカルシウム塩は形態の別を問わず、いずれの形態も使用することができるが、水への溶解性を考慮すれば、粉末または顆粒状の形態を有することが好ましい。かかるカルシウム塩もまた商業的に容易に入手することができる。
【0025】
本発明の添加剤は、LMペクチンとカルシウム塩を混合することによって製造することができる。好ましくは、LMペクチンとカルシウム塩とが互いに固体状態で共存するように混合することによって製造する。水への溶解性を考慮すれば、LMペクチンとカルシウム塩とをそれぞれ顆粒または粉末の状態で混合することが好ましい。また、混合したLMペクチンとカルシウム塩を、流動層造粒機を用いて造粒することにより、顆粒形態の製剤を製造してもよい。さらには、低メトキシルペクチンとカルシウム塩をあらかじめpHが5以上の水性溶媒に溶かすことにより調製される液状の製剤としても使用することができる。
【0026】
本発明の添加剤中に配合するLMペクチンの割合としては、通常20〜99質量%を挙げることができる。好ましくは30〜95質量%、より好ましくは50〜97質量%である。また、本発明の添加剤中のカルシウム塩の割合は、通常0.1〜5質量%を挙げることができ、好ましくは0.2〜3質量%、より好ましくは0.5〜3質量%である。なお、本発明の添加剤中のLMペクチン100質量部に対するカルシウム塩の割合としては、ゲルを形成する範囲であれば特に制限されないが、通常0.2質量部以上、好ましくは0.5〜5質量部、より好ましくは1〜3質量部である。
【0027】
なお、本発明の添加剤は、上記するようにLMペクチンとカルシウム塩からなるものであってもよいし、また本発明の効果を妨げない限り、他の成分を含有することもできる。かかる他の成分としては、グルコース、フルクトース、マルトース、シュークロース、ラクトースなどといった、単糖類や二糖類、オリゴ糖やデキストリンなどの比較的低分子の多糖類などを挙げることができる。
【0028】
本発明の添加剤は、前述するように、マイコトキシンが混在しているおそれのある食品または飼料とともに用いられる。好ましくは本発明の添加剤が対象の食品または飼料と一緒に経口投与されるように、当該食品または飼料に配合した状態で使用される。
【0029】
斯くして本発明の添加剤は、食品または飼料とともに経口摂取されることによって、胃内でLMペクチンとカルシウムイオンとが反応してゲル化し、当該ゲル内に食品または飼料中に混在するマイコトキシンを閉じ込める。その結果、マイコトキシンの体内への吸収や蓄積を抑制することができる。
【0030】
この場合、食品または飼料に対して使用される本発明の添加剤の割合は、添加剤を添加した最終食品または飼料100質量%中に、LMペクチンが0.5質量%以上、好ましくは1質量%以上、更に好ましくは2質量%以上の割合で含まれるように設定することが好ましい。なお、上限は特に制限はされないが、通常10質量%程度である。
【0031】
このようにLMペクチンは、pH4以下の低pHにおいて水存在下でカルシウムイオンと反応することによりゲル化する。このため、食品または飼料の形状に応じて、本発明の添加剤の調製に使用するカルシウム塩を選択することが好ましい。
【0032】
食品または飼料が固体形状を有するものである場合は、中性条件での水易溶性および水難溶性の別を問わず、いずれのカルシウム塩をも使用することができる。この場合、本発明の添加剤を配合した食品または飼料(固体形状)は、経口摂取後、胃内の水存在下でLMペクチンとカルシウムイオンとが反応することによりゲル化し、その結果、当該ゲル内に食品または飼料中に混在するマイコトキシンが閉じ込められることになる。
【0033】
食品または飼料がゲル形状を有するものである場合も、中性条件での水易溶性および水難溶性の別を問わず、いずれのカルシウム塩をも使用することができる。好ましくは食品または飼料のpH条件下で水溶性を示すカルシウム塩である。この場合、本発明の添加剤を配合した食品または飼料(ゲル形状)は、すでにその状態でゲル内に食品または飼料中に混在するマイコトキシンが閉じ込められているため、経口摂取後、マイコトキシンの体内吸収や蓄積が抑制されることになる。
【0034】
食品または飼料が中性またはアルカリ性で水溶液の形状を有するものである場合は、中性またはアルカリ性条件では水難溶性で、酸性条件で水易溶性を示すカルシウム塩を使用することが好ましい。この場合、本発明の添加剤を配合した食品または飼料(水溶液)は、経口摂取後、胃内の酸性の胃液存在下でLMペクチンとカルシウムイオンとが反応することによりゲル化し、その結果、当該ゲル内に食品または飼料中に混在するマイコトキシンが閉じ込められることになる。
【0035】
また、当該添加剤を用いて食品や飼料を製造すると、それらの食品や飼料を摂取した場合におけるマイコトキシンによる汚染を被るリスクを減じることができる。当該添加剤は、ゲル状食品または飼料の製造に適しており、食品を例にとると、具体的にはカスタードプリン、ミルクプリンなどのプリン類、ゼリー、ババロア、グミ食感キャンディー及びヨーグルトなどのデザート類などを例示できる。
【0036】
また飼料用添加剤としては、例えば顆粒状や粉末状などの固形形態を有していることが好ましく、これらの添加剤は、通常、固形形態の飼料に配合されて、飼料と一緒に、または飼料として、ヒト以外の動物に摂取される。ここでヒト以外の動物としては、草食動物を挙げることができ、例えばウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギおよびブタ等の家畜;ゾウ、サイ、シカ、キリン、カバ、ラクダ、シカ、ウサギ等の飼育動物;ニワトリ、アヒル、ウズラなどの家禽を例示することができる。
【0037】
当該飼料用添加剤は、飼料と一緒に、または飼料として、上記動物に経口摂取されると、動物の胃内でLMペクチンとカルシウムイオンとが反応してゲル化し、飼料中に混在するマイコトキシンを内部に取り込み、封じ込める。斯くして、マイコトキシンの動物体内への吸収及び蓄積が抑制され、マイコトキシン暴露による悪影響を低減することができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の内容を以下の実施例及び比較例、並びに実験例を用いて具体的に説明する。但し、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0039】
実施例1〜3および比較例1
アミド化ペクチンであるビストップ[商標]D−2264(メトキシル化度:35%、三栄源エフ・エフ・アイ(株)製)と乳酸カルシウム(シグマ社製)を表1に示す配合量で粉体混合し、粉末状の製剤を調製した。また、ビストップ[商標]D−2264単体(乳化カルシウムなし)を比較例1の製剤とした。
【0040】
【表1】

【0041】
実施例4〜6および比較例2
非アミド化ペクチンであるビストップ[商標]D−2262(メトキシル化度:35%、三栄源エフ・エフ・アイ(株)製)と炭酸カルシウム(シグマ社製)を表2に示す配合量で粉体混合し、粉末状の製剤を調製した。また、ビストップ[商標]D−2262単体(乳化カルシウムなし)を比較例2の製剤とした。
【0042】
【表2】

【0043】
実験例1 DONの外液への溶出抑制効果
マイコトキシンとしてデオキシニバレノール(DON)を用いて、本発明の添加剤のマイコトキシン取り込み効果(外液への溶出抑制効果)を評価した。
【0044】
(1)実験方法
実施例1〜6、並びに比較例1及び2で調製した各粉末製剤を、表3に示す濃度(重量%)になるように超純水に溶解し、その100mlを5μg/mlのDONを含む超純水15mlと混合した(実験試料1-1〜1-8)。このとき、全ての液状試料は若干の粘性をもった溶液状であった。
【0045】
また、ブランク試料として、超純水100mlに5μg/mlのDONを含む超純水15mlを混合した試料を調製した。この溶液はほとんど粘りをもたない溶液となった。
【0046】
これらにそれぞれ100mMのクエン酸緩衝液(pH3)を35ml加えて攪拌し、次いでこれに1500mlの水を加えて、ゆるやかに攪拌しながら37℃で一昼夜放置した。実験試料1−1〜1−6は、クエン酸添加直後から徐々に固形化し、37℃で一昼夜放置にはゆるやかなゲル状になった。一方、実験試料1−7、1−8およびブランク試料はゲル化しなかった。
【0047】
次いで、水相に遊離しているDONを、下記に説明する免疫酵素測定法(ELISA法)を用いて定量し、得られたDON量から下式に基づいて遊離DON分率(%)を算出した。
【0048】
【数1】

【0049】
<免疫酵素測定法(ELISA法)>
DON/NIV(デオキシニバレノール/ニバレノール)抗体(National Center for Agricultural Utilization Research, USAのMaragos博士より譲り受けた)を0.2Mのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(和光純薬(株)製)を用いて2000倍希釈し抗体を調整した。
【0050】
この抗体を96ウェルのプラスティックプレートの各ウェルに 100μlずつ分注し、4℃で18時間静置した。静置後のプレートを洗浄液(0.2M PBS溶液100mlに対して超純水900mlとTween20 0.5ml(和光純薬(株)製)を加えて1Lとしたもの)で4回洗浄した。これに1%ポリビニルアルコール溶液(東京化成社製)を250μlずつ分注し、30分静置した。これを洗浄液でさらに4回洗浄してDON/NIV抗体をプレートにコーティングした。
【0051】
1%の牛胎児血清(BSA)を含むPBSを用いて10000倍に希釈したDONホースラディッシュペルオキシダーゼ(以後DON−HRPとする)(和光純薬(株)製)75μlと各実験試料75μlを混合し、この混合溶液を100μlずつ上記で調製したDON/NIV抗体コーティングプレートに分注した。これにペルオキシダーゼ発色基質(TMB基質)(BDバイオサイエンス社)を100μlずつ分注し、暗所にて15分間静置した後、2Nの硫酸を100mlずつ分注し、この溶液の490nmの吸光度を測定した。
【0052】
実験試料中のDONの量は、標準検量線から算出した。当該標準検量線は、実験試料の代わりに、1ppmのDON標準品(和光純薬(株)製)をPBSを用いて250ppb、62.5ppb、15.6ppb、および3.9ppbの4段階に希釈したものを、上記と同様の方法で発色させることによって作成した。
【0053】
(2)実験結果
結果を表3に合わせて示す。
【0054】
【表3】

【0055】
低メトキシルペクチン粉末を単独で用いた実験試料1−7および1−8は、いずれも遊離DON分率が100%であり、これから、添加したDONは当該試料(実験試料1−7および1−8)に取り込まれず、そのまま外部に遊離していることがわかる。これに対して、低メトキシルペクチンとカルシウムを含む実施例1〜6の製剤を用いて調製した実験試料1−1〜1−6では、添加したDONはこれらの試料から形成されたゲル内に取り込まれ、DONが外液に流出することが抑制されていることが確認された。特に低メトキシルペクチンとしてアミド化された製剤(実施例1〜3)を用いた実験試料1−1〜1−3において顕著な効果が得られた。低メトキシルペクチンとして非アミド化ペクチンの製剤(実施例4〜6)を用いて調製した実験試料1−4〜1−6は、製剤含有量が多い実験試料1−6では、上記アミド化ペクチンを含む製剤と同様の抑制効果が得られたが、実験試料1−5や1−4のように製剤含有量が少なくなると抑制効果の低下が認められた。これらのことから、低メトキシルペクチンとして非アミド化物よりもアミド化された低メトキシルペクチンを用いるほうが、優れたDONの取り込み効果が得られることが判明した。
【0056】
実験例2 フモニシンB1およびパツリンの外液への溶出抑制効果
マイコトキシンとしてフモニシンB1とパツリンを用いて、本発明の添加剤のマイコトキシン取り込み効果(外液への溶出抑制効果)を評価した。
【0057】
(1)実験方法
実施例1〜3および比較例1の粉末製剤を表4に示す濃度(質量%)になるように超純水に溶解し、その100mlを5μg/mlのフモニシンB1及びパツリンを含む超純水15mlと混合した(実験試料2-1〜2-4)。このとき、全ての液状試料は若干の粘性をもった溶液状であった。また、ブランク試料として、超純水100mlに5μg/mlのフモニシンB1及びパツリンを含む超純水15mlと混合した試料を調製した。この溶液はほとんど粘りを持たない溶液となった。
【0058】
これらにそれぞれ100mMのクエン酸緩衝液(pH3)35mlを加えて緩やかに混合した。これに1500mlの水を加えて、ゆるやかに攪拌しながら37℃で24時間放置した。実験試料2−1〜2−4は、クエン酸緩衝液添加直後から徐々に固定化し、37℃で24時間放置した後にはゆるやかなゲル状になった。一方、ブランク試料はゲル化しなかった。
【0059】
次いで、水相に遊離するフモニシンB1とパツリンの量(マイコトシキン量)を、下記条件のLC/MS/MSで定量した。斯くして得られたマイコトキシン量から下式に基づいて算出した値を、遊離マイコトシキン分率(%)とした。
【0060】
【数2】

【0061】
<LC/MS/MS法>
フモニシンB1およびパツリンの定量は、1100シリーズHPLCシステム(アジレント社製)およびQuattro Ultima LC/MS/MSシステム(Waters)を用い、下記の条件で行った。
【0062】
(1)フモニシンB1
カラム : Agilent Zorbax Extend C18
(5mm, 150 × 2.1mm)(アジレント社製)
移動相:0.1%ギ酸 (in 1.0mM 酢酸アンモニウム)+アセトニトリル
ただし、アセトニトリルは5分間で20%→90%までグラジェント後5分間保持
カラム温度 : 40℃
注入量:10ml
流速:200ml/min
MS/MS条件 : ESI ポジティブモード
722 > 352 (定量イオン)
722 > 334 (定性イオン)。
【0063】
(2)パツリン
カラム : Waters XTerra MS C18
(3.5mm, 100×2.1mm id)(Waters社製)
移動相:2mM酢酸アンモニウム溶液+アセトニトリル
ただし、アセトニトリルは14分間で3%→95%までグラジェント
カラム温度 : 40℃
注入量:10ml
流速:200ml/min
MS/MS条件 : ESI ネガティブモード
153 > 109 (定量イオン)
153 > 81 (定性イオン)。
【0064】
(2)実験結果
結果を表4に合わせて示す。
【0065】
【表4】

【0066】
実施例1〜3の製剤を用いた実験試料2−1〜2−3においても、DONの場合と同様に37℃で24時間放置した後の遊離マイコトキシン分率が有意に抑えられており、フモニシンB1やパツリンのマイコトキシンが本発明の製剤から形成されたゲル内に取り込まれ、外部への流出が抑制されていることが確認された。
【0067】
以上の実験例1および2から、低メトキシペクチンとカルシウム塩を含む本発明の製剤から形成されるゲルには、マイコトキシンを取り込み、外部への流出を抑制する作用があることが確認された。
【0068】
実験例3 DONの血中濃度の変化
実験例1と2の結果から、低メトキシペクチンとカルシウム塩を含む製剤から形成されるゲルは、マイコトキシンを取り込んで内部に閉じ込めることが判明した。そこで、ここでは当該ゲル内に封じ込められたマイコトキシンの体内挙動を調べた。
【0069】
(1)実験方法
1.5ml容のマイクロチューブに1000μg相当のデオキシニバレノール(DON)を分取し乾固した。実施例2および比較例1の粉末製剤0.01gを1mlの超純水に溶解し、これを上記のマイクロチューブに添加した。これをB6C3F1マウス(ミシガン州立大学のPestka博士から譲り受けた)(各試験区毎に4検体)に25μlずつ経口投与した。
【0070】
投与後15分から24時間まで経時的に血液を採取し、血清中のDONの濃度を測定した。また、投与24時間後にマウスから肝臓を取り出し、肝臓中のDON濃度を測定した。
【0071】
<血清中のDONの定量方法>
採取した血液をエッペンドルフチューブに分注し、14000rpmで10分間、4℃で遠心分離し、上清を別のエッペンドルフチューブに分注する。得られた血清60μlに0.2MのPBSを240μl加え、これを実験例1で説明した免疫酵素測定法(ELISA法)に供して、血清中のDON濃度を定量する。
【0072】
<肝臓中のDONの定量方法>
取り出した肝臓をミキサーでホモジナイズした後、0.2MのPBSで10倍に希釈し、100℃で5分間煮沸した後、遠心分離によって固形分を沈殿させ、上清を分取する。これを実験例1で説明した免疫酵素測定法(ELISA法)に供して、肝臓中のDON濃度を定量する。
【0073】
(2)実験結果
実施例2の製剤を経口投与したときの血清中のDON濃度の経時変化を図1に、比較例1の製剤を経口投与したときの血清中のDON濃度の経時変化を図2に示す。また、投与24時間後の肝臓中のDON濃度を表5に示す。
【0074】
【表5】

【0075】
DONは、経口投与直後、胃から比較的短い時間で吸収されることが知られている。比較例1の製剤を経口投与したマウスの血清中のDON濃度は、投与後15分間で最大(約2200ppb)となり、その後時間をかけて徐々に低下していくことが確認された(図2)。一方、実施例2の製剤を経口投与したマウスの血清中のDON濃度は、経口投与15分後に約500ppbまでしか上昇せず(比較例1の場合の1/4以下)、その後すぐに低下した(図1)。また経口投与24時間後の肝臓中のDON濃度は、実施例2の製剤を経口投与したマウスの肝臓内DON濃度は比較例1の製剤を経口投与したマウスのそれに比べて低く、低メトキシペクチンとカルシウム塩を含む本発明の製剤には、当該製剤から形成されたゲル内にマイコトキシンを取り込んで外部に放出することを抑制することで、マイコトキシンの体内への吸収及び蓄積を抑制する効果があることが確認された。この意味で、低メトキシペクチンとカルシウム塩を含む本発明の製剤には、マイコトキシンの毒性の発現を減少する作用があるといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低メトキシルペクチンおよびカルシウム塩を含有することを特徴とする、マイコトキシンの体内吸収を抑制するための食品用もしくは飼料用添加剤。
【請求項2】
低メトキシルペクチン100質量部に対してカルシウム塩を0.2質量部以上の割合で含有する請求項1に記載する食品用もしくは飼料用添加剤。
【請求項3】
低メトキシルペクチンがアミド化ペクチンである請求項1または2に記載する食品用もしくは飼料用添加剤。
【請求項4】
上記マイコトキシンがデオキシニバレノール、フモニシン、およびパツリンからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1乃至3のいずれかに記載の食品用もしくは飼料用添加剤。
【請求項5】
マイコトキシンの体内吸収を抑制することを目的として請求項1乃至4のいずれかに記載する飼料用添加剤を含む飼料。
【請求項6】
ヒト以外の動物に、請求項1乃至4のいずれかに記載する飼料用添加剤または請求項5に記載する飼料を経口投与することを特徴とする、体内でのマイコトキシンの吸収を抑制する方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−55747(P2011−55747A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−207488(P2009−207488)
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り ▲1▼掲載年月日 平成21年8月3日(Title of Poster 071) 平成21年9月3日(Abstract of Poster 071) 掲載アドレス http://www.ism2009.at/ISM2009_posters.pdf
【出願人】(597128004)国立医薬品食品衛生研究所長 (22)
【出願人】(000175283)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 (429)
【Fターム(参考)】