説明

マイコプラズマニューモニエ特異抗原糖脂質の合成方法

【課題】マイコプラズマニューモニエの検出・診断法の開発に際して、材料となる上記のマイコプラズマニューモニエの特異的な糖脂質抗原物質を化学的に合成する方法を提供すること。
【解決手段】2段階のβ−グリコシル化反応を含む以下の4工程を含む、β−ガラクトシル−(1,6)−β−ガラクトシル−sn−ジアシグリセリド又はβ−グルコシル−(1,6)−β−ガラクトシル−sn−ジアシルグリセリドの合成法、及び、その中間物質である、水酸基がエーテル系保護基で保護されたガラクトシドドナー又はグルコシドドナー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマイコプラズマニューモニエ(Mycoplasma pneumoniae)から単離されたマイコプラズマニューモニエ特異抗原糖脂質である、β−ガラクトシル−(1,6)−β−ガラクトシル−sn−ジアシルグリセリド又はβ−グルコシル−(1,6)−β−ガラクトシル−sn−ジアシルグリセリドの化学的合成方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
マイコプラズマは細胞壁を持たず、最も単純かつ小さい微生物群である。その一種であるマイコプラズマニューモニエは、マイコプラズマ肺炎の原因微生物である。又、脱髄性神経疾患、神経変成疾患、溶血性疾患、血管炎、関節炎リューマチ、ベーチェット病、呼吸器系疾患、腎・泌尿器系疾患の原因として報告されている。しかしながら、そのメカニズムは未だ解明されていない。
【0003】
マイコプラズマ肺炎は、特に小児の肺炎において肺炎双球菌やクラミジア感染によるものと区別がつきにくく、それらに対する抗生物質はマイコプラズマ肺炎には無効である。その結果、診断を誤り、マイコプラズマ肺炎に対して間違った抗生物質を使用した結果、重篤な病状に陥ることも稀ではない。従って、正確な感染原因の究明及び病気の診断を行うことが求められる。
【非特許文献1】Y. Park et al., Journal of Allergy and Clinical Immunology, 119, 2007, S24.
【非特許文献2】Gerald S. Braun et al., Journal of Emergency Medicine, 30, 2006, 371-375.
【特許文献1】特開2006−158220号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、現在のマイコプラズマニューモニエの検出方法は、該微生物の抽出混合物を利用したものであり、特異性が低く、更に、抽出物であるためにロット間の差異が生じやすく再現性が得られにくい等の問題点がある。
【0005】
一方、本発明者等は、マイコプラズマニューモニエの膜脂質画分より特異的な糖脂質を分離精製して、構造解析を行い、以下の構造式に示されるようなβ1,6-結合の2糖骨格を有する新規な糖脂質の絶対構造を決定することに成功した。これらの糖脂質はマイコプラズマニューモニエの特異的な抗原であるために、これを高感度・正確に検出するための分子基盤となり、これらの糖脂質を利用することによってマイコプラズマニューモニエが原因である様々な病気の正確な診断法が提供されることが期待される。
【0006】
【化1】

【0007】
そこで、本発明の目的は、マイコプラズマニューモニエの検出・診断法の開発に際して、材料となる上記のマイコプラズマニューモニエの特異的な糖脂質抗原物質を化学的に合成する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は以下の各態様を包含する。
【0009】
[態様1]下記の構造式:
【化1】

を有するβ−ガラクトシル−(1,6)−β−ガラクトシル−sn−ジアシグリセリド又はβ−グルコシル−(1,6)−β−ガラクトシル−sn−ジアシルグリセリドの合成法であって、以下の工程:
(1)D−ガラクトース又はD−グルコースを出発物質として用いて、水酸基がエーテル系保護基で保護されたガラクトシドドナー又はグルコシドドナーを合成する工程;
(2)(S)−グリシドールを出発物質として用いて、sn-1,2位のグリセロール水酸基が保護されたグリセロールアクセプターを合成する工程;
(3)工程(1)で合成されたガラクトシドドナーと工程(2)で合成されたグリセロールアクセプターとを用いて第一のβ−グリコシル化反応を行い、β−ガラクトシル−sn−グリセリドを得、その後、ガラクトース4,6位の水酸基のエーテル系保護基を位置選択的に開裂して6位のみを脱保護する工程;及び
(4)工程(3)で得られた6位水酸基を有するβ−ガラクトシル−sn−グリセリドと工程(1)で合成されたガラクトシドドナー又はグルコシドドナーとを用いて第二のβ−グリコシル化反応を行い、β−ガラクトシル−(1,6)−β−ガラクトシル−sn−グリセリド又はβ−グルコシル−(1,6)−β−ガラクトシル−sn−グリセリドを得、グリセロールアクセプターのsn-1,2位の保護基を選択的に脱保護した後、炭素数14,16及び/又は18の直鎖飽和脂肪酸の塩化物と反応させて脂肪酸エステルとし、その後、エーテル系保護基を脱保護する工程;
から成る前記合成法。
[態様2]以下の構造式から成る化合物:
【化2】

【化3】

式中、OPはエーテル系保護基を示し、Rは低級アルキル基を示す)。
【発明の効果】
【0010】
本発明方法により、マイコプラズマニューモニエの高感度・正確な検出・診断法に必要な、マイコプラズマニューモニエの特異的な糖脂質抗原物質を、高純度で、簡便に且つ安定的に製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の合成方法は、2段階のβ−グリコシル化反応を含む以下の4工程を含むものである。
【0012】
(第1工程)D−ガラクトース又はD−グルコースを出発物質として用いて、水酸基がエーテル系保護基で保護された、ガラクトシドドナー(化2)又はグルコシドドナー(化3)を合成する工程:
【0013】
第1工程においては、ドナーとなるD−ガラクトース又はD−グルコースの水酸基がエーテル系保護基で保護されることを特徴とする。エーテル系保護基としては、当業者に公知の任意のもの、例えば、ベンジル基及びベンジリデン基等を使用することができる。これによって、本発明合成法の最終段階において、2つの糖構造に結合する保護基全てを一度に脱保護することが出来るために全体として効率的な合成法となる。第1工程の代表的態様を以下の化4(ガラクトシドドナーの合成)及び化5(グルコトシドドナーの合成)に示す。
【0014】
【化4】

【0015】
【化5】

【0016】
通常、このような水酸基の2位がベンジル基で保護されたドナーを用いてβ-グリコシル化は行なうことはない。このような方法は、むしろα-結合を構築するためにデザインされた基質及び方法論である。通常のβ-グリコシル化では、ドナーとなる化合物の糖水酸基の2位をアシル系の保護基とし、その隣接基関与を利用してβ-結合を構築する方法論が一般的である。そのため、糖部分の水酸基の保護をアセチル基等にしたドナーを用いる。しかしながら、本発明の合成法においては、このような通常の方法を用いると以下のような問題が生じる。
【0017】
まず、本発明の合成法の目的化合物であるマイコプラズマニューモニエの特異的な糖脂質抗原物質は、β1,6-結合を持つ2糖骨格を有しており、それを合成する為に、工程(3)において、β−ガラクトシル−sn−グリセリド(ガラクトシドドナー)のガラクトース4,6位水酸基のエーテル系保護基を位置選択的に開裂して6位のみを脱保護してフリーにする必要がある。ここで、糖の6位の水酸基は他と違って一級水酸基であるため、6位だけを無保護にするということは簡単ではない。特に、上記のように他の水酸基にアシル系の保護基を使用した場合は、反応性の高い6位水酸基に保護基が転移してしまう問題が起こる。
【0018】
更に、本発明に合成法における工程(4)で、グリセロールアクセプターのsn-1,2位のグリセロール水酸基の保護基を選択的に脱保護した後、炭素数14,16及び/又は18の直鎖飽和脂肪酸の塩化物と反応させて脂肪酸エステルとするが、その際に、もし、糖の保護基として同じエステルであるアシル系保護基を使用していた場合には、最終的にそれを脱保護する際に選択性を出すのが相当に困難になると予想される。
【0019】
そこで、本発明の合成法においては、ドナーとなるD−ガラクトース又はD−グルコースの水酸基をエーテル系保護基で保護することによって、上記の問題点を解決したのである。
【0020】
更に、第1工程において、D−ガラクトース又はD−グルコースの1位に結合する脱離基としては、ガラクトース又はガラクトシドドナー又はグルコシドドナーの脱離基として、チオサリチル酸の低級アルキルエステル基が好ましい。ここで、低級アルキルとは、炭素数が4個までを有するアルキル基、特にメチル基及びエチル基のような直鎖アルキル基が好ましい。その結果、本発明の合成法のβ−グリコシル化において、通常のチオグリコシル化で反応時に発生するチオールに由来する特有の不快臭が生じない、という利点がある。
【0021】
更に、工程(1)においては、D−ガラクトース又はD−グルコースの水酸基をいったんアシル系保護基で保護し、例えば、HBr-AcOHのような化合物を用いて、1位をブロモ化した後、チオサリチル酸の低級アルキルエステル基を1位に導入し、更に、アシル系保護基を脱保護した後、エーテル系保護基で再び水酸基を保護することが好ましい。例えば、ガラクトシドドナーの場合、その4、6位をベンジリデン基で保護し、2、3位をベンジル基で保護することが好ましい。その結果、簡単かつ高収率(ほぼ定量的)に目的とする化合物が得られる。
【0022】
その理由は、例えば、D−ガラクトースに最初からエーテル系保護基であるベンジリデン基を導入しようとすると、4,6位に入るだけでなく1,2位にも入ってしまうために、4,6位のみに入るような選択性を出すことはかなり困難であり、更に、サリチル酸の低級アルキルエステル基を入れるために1位をブロモ化をする際に、ベンジリデン基は酸性条件では非常に不安定である為にブロモ化の条件に耐えられず脱離することが予想されるからである。
【0023】
(第2工程)(S)−グリシドールを出発物質として用いて、sn-1,2位のグリセロール水酸基が保護されたグリセロールアクセプターを合成する工程:
この工程(2)で得られるグリセロールアクセプターはsn配置という立体特異性を有したものである。その為に、光学活性を有する(S)-グリシドールの立体を保持して開環でき、加えてsn-1,2位のグリセロール水酸基の保護基としてその後グリコシル化反応という強い酸性条件でもsn配置という立体特異性を保持できるとなるものとして、例えば、パラメトキシベンジル基のようなパラアルコキシベンジル基、及びパラメトキシフェニル基のようなパラアルコキシフェニル基等の保護基を使用することが好ましい。第2工程の代表的態様を以下の化6に示す。
【0024】
【化6】

【0025】
(第3工程)工程(1)で合成されたガラクトシドドナーと工程(2)で合成されたグリセロールアクセプターとを用いて第一のβ−グリコシル化反応を行い、β−ガラクトシル−sn−グリセリドを得、その後、β−ガラクトシル−sn−グリセリドのガラクトース4,6位の水酸基のエーテル系保護基を位置選択的に開裂して6位のみを脱保護する工程:
この工程(3)におけるβ−グリコシル化反応を、好ましくは、ジクロロメタン及びアセトニトリルの混合溶媒(ジクロロメタン:アセトニトリル=4:1〜1:1)下、ヨードコハク酸イミドとトリフルオロメタンスルホン酸を活性化剤とし、0℃以下(例えば、−78〜−40℃前後)の低温で行うことによって、βーガラクトシル−sn−グリセリドをα:β=1:9以上のβ選択性で合成することができる。
【0026】
βーガラクトシル−sn−グリセリドのガラクトース4,6位の水酸基のエーテル系保護基を位置選択的に開裂して6位のみを脱保護する操作は、当業者に公知の適当な方法で行うことが出来る。尚、この脱保護操作によって、β−ガラクトシル−sn−グリセリドのsn-1,2位の保護基も脱離してしまうことがある。その場合には、好ましくは、イソプロプリデン基のような適当な環状アセタール基で再び保護することが必要である。尚、環状アセタール基は容易に脱保護することが可能であるので、反応全体の効率化を図ることが出来る。このような第3工程の代表的態様を以下の化7に示す。
【0027】
【化7】

【0028】
(第4工程)工程(3)で得られた6位水酸基を有するβ−ガラクトシル−sn−グリセリドと工程(1)で合成されたガラクトシドドナー又はグルコシドドナーとを用いて第二のβ−グリコシル化反応を行い、β−ガラクトシル−(1,6)−β−ガラクトシル−sn−グリセリド又はβ−グルコシル−(1,6)−β−ガラクトシル−sn−グリセリドを得、グリセロールアクセプターのsn−1,2位の保護基を選択的に脱保護した後、炭素数14,16及び/又は18の直鎖飽和脂肪酸の塩化物を反応させて脂肪酸エステルとし、その後、エーテル系保護基を脱保護する工程:
【0029】
この工程(4)における第二のβ−グリコシル化反応を、好ましくは、ジクロロメタンおよびアセトニトリルの混合溶媒(ジクロロメタン:アセトニトリル=1:2〜2:1)下、ヨードコハク酸イミドとトリフルオロメタンスルホン酸を活性化剤とし、0℃以下(例えば、−78〜−40℃前後)の低温条件で行うことによって、β−ガラクトシル−(1,6)−β−ガラクトシル−sn−グリセリド又はβ−グルコシル−(1,6)−β−ガラクトシル−sn−グリセリドをα:β=1:16以上のβ選択性で合成することができる。尚、グリセロールアクセプターの1,2位の保護基の選択的脱保護は、当業者に公知の任意の方法で行うことが出来る。又、炭素数14,16及び/又は18の直鎖飽和脂肪酸の塩化物の一例として、実施例で使用されている、パルミトイルクロライド等を挙げることができる。第4工程の代表的態様を以下の化8に示す。
【0030】
【化8】

【0031】
本発明合成法の中間物質であるガラクトシドドナー及びグルコシドドナーは新規な物質であるので、本発明は更に、以下の構造式(化9、10)から成る当該化合物にも係るものである。尚、式中、OPはエーテル系保護基を示し、Rは低級アルキル基を示す。
【0032】
【化9】

【0033】
【化10】

【0034】
上記化合物の好適例として、実施例で使用されている、エーテル系保護基がベンジル基であり、且つ、低級アルキル基がメチルである化合物を挙げることができる。
【0035】
本発明の合成法に含まれる各反応で使用する試薬及び溶媒、又は、諸条件に関しては、以上の説明において特に記載されていない限り、当該技術分野における通常の方法に従い当業者が適宜選択して実施することができる。
【0036】
以下、本発明の最良の実施形態について詳細に説明するが、本発明は当業者に自明のその他の多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0037】
Penta-O-acetyl-D-galactopyranoside(1)
D-ガラクトース(10.0g, 55.6mmol)をピリジン(100ml)に溶解し、無水酢酸(50ml)を加え、塩化カルシウム管で栓をして室温で磁気撹拌した。反応の進行をTLC(トルエン:酢酸エチル=1:1)で確認した。18時間後、反応溶液にエタノールを加えて無水酢酸をクエンチして反応を終了し、トルエンで3回共沸した。残渣を1N HClで2回、飽和食塩水で1回抽出・洗浄し、硫酸マグネシウムを加えて乾燥させた。硫酸マグネシウムを濾過で取り除き、減圧濃縮・真空乾燥し無色シロップである化合物1(22.0g, 56.3mmol, >99%)を得た。
【0038】
2,3,4,6-Tetra-O-acetyl-α-D-galactosyl bromide(2)
化合物1(22.0g, 55.6mmol)をジクロロメタン(70ml)に溶解し、無水酢酸(1ml)とHBr-AcOH(40ml)を加え、ゴム風船で栓をして遮光・室温の条件で磁気撹拌した。反応の進行をTLC(トルエン:酢酸エチル=1:1)で確認し、3時間で反応を終了した。反応溶液に氷水を加えクエンチし、クロロホルムで希釈した後、氷水で2回、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で2回、氷水で2回、抽出・洗浄し、硫酸マグネシウムを加えて乾燥させた。硫酸マグネシウムを濾過で取り除き、減圧濃縮・真空乾燥し、シロップ2(30.8g, 74.8mmol, >99%)を得た。
【0039】
Methyl thiosalicylate
チオサリチル酸(15g,, 97.3mmol)をメタノール(150ml)に溶解し、TMSCl(50ml)を加え塩化カルシウム管で栓をして室温で磁気撹拌した。反応の進行をTLC(トルエン:酢酸エチル=1:1)で確認し、20時間で反応を終了した。反応溶液を酢酸エチルで希釈し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で2回、飽和食塩水で1回、抽出・洗浄し硫酸マグネシウムを加えて一晩乾燥した。硫酸マグネシウムを濾過で取り除いて減圧濃縮、真空乾燥し、黄色液体(6.29g, 37.4mmol, 38%)を得た
【0040】
o-Methoxycarbonylphenyl 2,3,4,6-tetra-O-acetyl-1-thio-β-D-galactopyranoside (3)
化合物2(30.8g, 55.6mmol)をDMF(150ml)に溶解し、炭酸カリウム(19.2g, 2.4eq)、チオサリチル酸メチル(7.67g, 45.6mmol)を加え、塩化カルシウム管で栓をして室温で磁気撹拌した。反応の進行をTLC(トルエン:酢酸エチル=1:1)で確認し、3時間後反応の終了を確認した。反応液中に残った炭酸カリウムを濾過で取り除き、酢酸エチル、飽和食塩水で3回振盪、硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムを濾過で取り除き、減圧濃縮、熱エタノールによる再結晶で精製し白色結晶3(17.6g, 34.4mmol, 75%)を得た。
【0041】
o-Methoxycarbonylphenyl 1-deoxy-1-thio-β-D-galactopyranoside (4)
化合物3(32.2g, 64.6mmol)をメタノール(250ml)に懸濁させ、ナトリウムメトキシド(0.34g, 0.1eq)を加え、塩化カルシウム管で栓をして磁気撹拌した。反応の進行をTLC(クロロホルム:メタノール=3:1)で確認し、2.5時間後反応の終了を確認した。生成した無色結晶4をブフナーロートで濾過、真空乾燥させた。また、濾液をアンバーリストで中和、ガラスフィルターで濾過、濃縮し、熱エタノールで再結晶させ、白色結晶4(19.2g, 58.0mmol, 90%)を得た。
【0042】
o-Methoxycarbonylphenyl 4,6-O-benzylidene-1-deoxy-1-thio-β-D-galactopyranoside (5)
二口ナスフラスコで化合物4(11.3g, 34.1mmol)、p-トルエンスルホン酸一水和物(648mg, 0.1eq)をDMF(250ml)に溶かし、45℃、30mmHgで減圧した。30分後大気圧開放し、ベンズアルデヒドジメチルアセタール(7.78ml, 1.5eq)を加え再び減圧して撹拌した。反応の進行をTLC(クロロホルム:メタノール=3:1)で確認し、5時間後反応の終了を確認した。反応液をトリエチルアミンでクエンチした後、酢酸エチルを加え5を結晶化させ濾過した。また、濾液を飽和食塩水で3回抽出・洗浄し、硫酸マグネシウムを加えて乾燥させた。乾燥後ガラスフィルターで濾過、濃縮し、酢酸エチル、ヘキサンで再結晶させ、白色結晶5(10.5g, 25.1mmol, 73%)を得た。
【0043】
o-Methoxycarbonylphenyl 2,3-di-O-benzyl-4,6-O-benzylidene-1-deoxy-1-thio-β-D-galactopyranoside (6)
化合物5(10.5g, 25.1mmol)をDMF(200ml)に溶解し、0℃にした後、水素化ナトリウム(2.4g, 2.4eq)を加えた。30分後、ベンジルブロマイド(7.3ml, 2.4eq)を加え、しばらくしたら室温に戻し磁気撹拌した。反応の進行をTLC(トルエン:酢酸エチル=1:5)で追跡、6.5時間後反応終了を確認し、メタノールを加えクエンチした。24時間後反応液を減圧濃縮し、残渣を酢酸エチルで希釈して飽和食塩水で1回、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で2回、飽和食塩水で1回抽出・洗浄した。有機層に硫酸マグネシウムを加え、乾燥後ガラスフィルターで濾過した。濾液を減圧濃縮して、酢酸エチル、ヘキサンで再結晶させ、白色結晶6(12.1g, 20.2mmol, 81%)を得た。
1H-NMR(δ ppm, 500MHz, CDCl3);δ=7.14-8.00(m, 19H, Ar-H), 5.54(s, 1H, CH of benzylidene), 4.62-4.77(m, 5H, H-1, CH2 of benzyl group), 4,36(dd, 1H, J5,6=1.5Hz, J6,6=12.5Hz, H-6), 4.20(dd, 1H, J3,4=3.5Hz, J4,5=0.5Hz, H-4), 4.05(t, 1H, J1,2=J2,3=9Hz, H-2), 4.01(dd, 1H, J5,6=1.5Hz, J6,6=12.5Hz, H-6), 3.84(s, 3H, O-CH3), 3.65(dd, 1H, J2,3=9Hz, J3,4=3.5Hz, H-3), 3.46(ddd, J4,5=0.5, J5,6=1.5Hz, H-5)
FT-IR (KBr film):1714, 1247, 1049 cm-1
MALDI-MS Calcd for [M+Na]+, m/z=621.7 ; found m/z=621.5
【0044】
Penta-O-acetyl-D-glucopyranoside(7)
D-グルコース(10.0g, 55.6mmol)をピリジン(100ml)に溶解し、無水酢酸(50ml)を加え、塩化カルシウム管で栓をして室温で磁気撹拌した。反応の進行をTLC(トルエン:酢酸エチル=1:1)で確認した。18時間後、反応溶液にエタノールを加えて無水酢酸をクエンチして反応を終了し、トルエンで3回共沸した。残渣を1N HClで2回、飽和食塩水で1回抽出・洗浄し、硫酸マグネシウムを加えて乾燥させた。硫酸マグネシウムを濾過で取り除き、減圧濃縮・真空乾燥し無色シロップ7(19.3g, 49.4mmol, 89%)を得た。
【0045】
2,3,4,6-Tetra-O-acetyl-α-D-glucosyl bromide(8)
化合物7(19.3g, 49.4mmol)をジクロロメタン(120ml)に溶解し、無水酢酸(1ml)とHBr-AcOH(50ml)を加え、ゴム風船で栓をして遮光・室温の条件で磁気撹拌した。反応の進行をTLC(トルエン:酢酸エチル=1:1)で確認し、3時間で反応を終了した。反応溶液に氷水を加え、30分クエンチしクロロホルムで希釈した後、氷水で2回、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で2回、氷水で2回、抽出・洗浄し、硫酸マグネシウムを加えて乾燥させた。硫酸マグネシウムを濾過で取り除き、減圧濃縮・真空乾燥し、シロップ8(20.7g, 50.3mmol, >99%)を得た。
【0046】
o-Methoxycarbonylphenyl 2,3,4,6-tetra-O-acetyl-1-thio-β-D-glucopyranoside(9)
化合物8(20.7g, 50.3mmol)をDMF(200ml)に溶解し、炭酸カリウム(21.1g, 3eq)、チオサリチル酸メチル(8.8g, 1eq)を加え、塩化カルシウム管で栓をして室温で磁気撹拌した。反応の進行をTLC(トルエン:酢酸エチル=1:1)で確認し、3時間後反応の終了を確認した。反応液中に残った炭酸カリウムを濾過で取り除き、酢酸エチル、飽和食塩水で3回振盪、硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムを濾過で取り除き、減圧濃縮、熱エタノールによる再結晶で精製し白色結晶9(19.5g, 39.2mmol, 78%)を得た。
【0047】
o-Methoxycarbonylphenyl 1-deoxy-1-thio-β-D-glucopyranoside(10)
化合物9(10.4g, 20.8mmol)をメタノール(80ml)に懸濁させ、ナトリウムメトキシド(113mg, 0.1eq)を加え、塩化カルシウム管で栓をして磁気撹拌した。反応の進行をTLC(クロロホルム:メタノール=4:1)で確認し、5時間後反応の終了を確認した。アンバーリストで中和、ガラスフィルターで濾過、濃縮し、熱エタノールで再結晶させ、白色結晶10(6.06g, 18.3mmol, 81%)を得た。
【0048】
o-Methoxycarbonylphenyl 2,3,4,6-tetra-O-benzyl-1-deoxy-1-thio-β-D-gluctopyranoside (11)
化合物10(6.06g, 18.3mmol)をDMF(100ml)に溶解し、0℃にした後、水素化ナトリウム(3.5g, 4.8eq)を加えた。30分後、ベンジルブロマイド(10.5ml, 4.8eq)を加え、しばらくしたら室温に戻し磁気撹拌した。反応の進行をTLC(クロロホルム:メタノール=3:1)で追跡、5時間後反応終了を確認し、メタノールを加えクエンチした。24時間後反応液を減圧濃縮し、残渣を酢酸エチルで希釈して飽和食塩水で1回、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で2回、飽和食塩水で1回抽出・洗浄した。有機層に硫酸マグネシウムを加え、乾燥後ガラスフィルターで濾過した。濾液を減圧濃縮して、熱エタノールで再結晶させ、白色結晶11(8.10g, 11.7mmol, 64%)を得た。
【0049】
O-Trityl-(S)-glycidol (12)
二口ナスフラスコにモレキュラーシーブ4Å(1g)を入れ、炎で炙って乾燥させた後窒素置換した。(S)-glycidol(1.83ml, 27.0mmol)とジクロロメタン(200ml)、トリエチルアミン(18.7ml, 5eq)をシリンジで注入し、1時間磁気撹拌した。0℃に冷やした後、トリフェニルメチルクロリド(11.3g, 1.5eq)をすばやく加えた。その後室温に戻し18時間磁気撹拌して反応させた。反応の終了をTLC(ヘキサン:酢酸エチル=15:1)で確認した後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で1回、飽和食塩水で3回分液洗浄し、有機層に硫酸マグネシウムを加え、乾燥後ガラスフィルターで濾過した。濾液を減圧濃縮して、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=30:1)により精製し、白色結晶12(8.92g, 28.2mmol, >99%)を得た。
【0050】
3-O-Trityl-sn-glycidol (13)
化合物12(7.47g, 23.6mmol)をDMSO(100ml)に溶解し、1N 水酸化カリウム水溶液(40ml)を加えオイルバスで90℃に加熱した。反応の進行をTLC(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)で確認し、70時間後反応を終了した。反応液を酢酸エチルに抽出し、飽和食塩水で3回分液洗浄して、有機層に硫酸マグネシウムを加え、乾燥後濾過した。濾液を減圧濃縮して、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=3:1)により精製し、白色結晶13(5.05g, 15.1mmol, 64%)を得た。
【0051】
1,2-di-O-p-Methoxybenzyl-3-O-Trityl-sn-glycidol (14)
化合物13(5.29g, 15.8mmol)をDMF(150ml)に溶解し、0℃にした後、水素化ナトリウム(1.90g, 3eq)を加えた。30分後、p-メトキシベンジルクロリド(6.7ml, 3eq)を加え、しばらくしたら室温に戻し磁気撹拌した。反応をTLC(ヘキサン:酢酸エチル=2:1)で追跡し、4時間後反応の終了を確認し、メタノールを加えクエンチした。24時間後反応液を減圧濃縮し、残渣を酢酸エチルで希釈して、飽和食塩水で1回、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で2回、飽和食塩水で1回抽出・洗浄した。有機層に硫酸マグネシウムを加え、乾燥後ガラスフィルターで濾過した。濾液を減圧濃縮して、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=8:1)により精製し、無色シロップ14(8.65g, 15.1mmol, 95%)を得た。
【0052】
1,2-di-O-p-Methoxybenzyl-sn-glycidol (15)
化合物14(8.65g, 15.1mmol)をジクロロメタン(80ml)とメタノール(160ml)に溶解し、アンバーリスト(3g)を加えて室温で磁気撹拌した。反応をTLC(ヘキサン:酢酸エチル=2:1)で追跡し、20時間後反応の終了を確認した。反応液を酢酸エチルで希釈して、飽和食塩水で1回、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で2回、飽和食塩水で1回抽出・洗浄した。有機層に硫酸マグネシウムを加え、乾燥後ガラスフィルターで濾過した。濾液を減圧濃縮して、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=3:1)により精製し、無色シロップ15(4.03g, 12.1mmol, 80%)を得た。
1H-NMR(δ ppm, 500MHz, CDCl3);δ=6.86-7.26(m, 8H, Ar-H), 4.45-4.63(d×4, 4H, J=11.5Hz, CH2 of pMB group), 3.80(s×2, 6H, CH3 of pMB group), 3.74(m, 1H, CH of sn-2), 3.62-3.68(m×2, 2H, CH2 of sn-3), 3.53-3.59(dd×2, J1,1=10Hz, J1,2=4.5Hz, CH2 of sn-1)
FT-IR (KBr film):3441, 2928, 1613, 1512, 1246,1034 cm-1
MALDI-MS Calcd for [M+Na]+, m/z=355.4 ; found m/z=355.5
【0053】
3-O-(2,3-di-O-benzyl-4,6-O-benzylidene-β-D-galactopyranosyl)-1,2-di-O-p-methoxybenzyl-sn-glycerol (16)
二口ナスフラスコにモレキュラーシーブ4Å(600mg)を入れ、炎で炙って乾燥させた。N-ヨードこはく酸イミド(750mg, 2eq of 6)、化合物6(1.00g, 1.67mmol)を入れ、窒素置換した後セプタムキャップで栓をした。脱水ジクロロメタン(30ml)、化合物15(666mg, 1.2eq of 6)をシリンジで注入して2時間磁気撹拌、脱水アセトニトリル(10ml)をシリンジで注入して−78℃でさらに1時間磁気撹拌した。トリフルオロメタンスルホン酸(50μl)をシリンジで加え、反応をTLC(トルエン:酢酸エチル=2:1)で追跡した。化合物 6の完全消費を確認し、反応液をトリエチルアミンで中和、モレキュラーシーブをセライトで濾過した。クロロホルムで希釈し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で2回、飽和食塩水で1回抽出・洗浄した。(飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で振盪する際、少量のチオ硫酸ナトリウム五水和物を添加した。)有機層に硫酸マグネシウムを加え、乾燥後ガラスフィルターで濾過した。濾液を減圧濃縮してシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=9:1)により精製し、無色シロップ16(760mg, 1.0mmol, 60%)を得た。
【0054】
3-O-(2,3,4-tri-O-benzyl-β-D-galactopyranosyl)-sn-glycerol (17)
二口ナスフラスコにモレキュラーシーブ4Å(500mg)を入れ、炎で炙って乾燥させ、窒素置換した。化合物16(760mg, 1.0mmol)を脱水ジクロロメタン(70ml)に溶かして加え、室温で磁気撹拌した。1時間後、-78℃でトリエチルシラン(795μl, 5eq)、ジクロロフェニルホウ素(655μl, 5eq)を加え、1時間磁気撹拌した。反応の進行をTLC(酢酸エチル)で確認し、トリエチルアミン(1ml)、メタノール(1ml)でクエンチした。セライト濾過後、クロロホルムで希釈し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で2回、飽和食塩水で1回抽出・洗浄した。有機層に硫酸マグネシウムを加え、乾燥後ガラスフィルターで濾過した。濾液を減圧濃縮してシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=1:2)により精製し、白色結晶17を得た。
【0055】
3-O-(2,3,4-tri-O-benzyl-β-D-galactopyranosyl)-1,2-di-O-isopropyliden-sn-glycerol (18)
化合物17(460mg, 0.88mmol)をアセトン(100ml)に溶解し、p-トルエンスルホン酸(400mg)を加え磁気撹拌した。反応の進行をTLC(酢酸エチル)で確認し、4時間後氷浴中でトリエチルアミンを加え中和した。トルエンを加えて希釈後、減圧濃縮し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で2回、飽和食塩水で1回抽出・洗浄した。有機層に硫酸マグネシウムを加え、乾燥後ガラスフィルターで濾過した。濾液を減圧濃縮してシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)により精製し、無色シロップ18(368mg, 0.65mmol, 74%)を得た。
【0056】
3-O-[(2”,3”-di-O-benzyl-4”,6”-O-benzylidene-β-D-galactopyranosyl)-(1”-6’)-(2’,3’,4’-tri-O-benzyl-β-D-galactopyranosyl)]-1,2-di-isopropyliden-sn-glycerol (19)
二口ナスフラスコにモレキュラーシーブ4Å(200mg)を入れ、炎で炙って乾燥させた。化合物6(320mg, 1.8eq of 18)を入れ、窒素置換した後セプタムキャップで栓をした。化合物18(166mg, 0.294mmol)を脱水ジクロロメタン(5ml)に溶解し、シリンジで注入して2時間磁気撹拌、脱水アセトニトリル(5ml)をシリンジで注入してさらに1時間磁気撹拌した。N-ヨードこはく酸イミド(165mg, 2.5eq of 18)を加えた後、-40℃でトリフルオロメタンスルホン酸(5μl)をシリンジで加え、反応をTLC(トルエン:酢酸エチル=2:1)で追跡した。化合物18の完全消費を確認し、反応液をトリエチルアミンで中和、モレキュラーシーブをセライトで濾過した。クロロホルムで希釈し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で2回、飽和食塩水で1回抽出・洗浄した。(飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で振盪する際、少量のチオ硫酸ナトリウム五水和物を添加した。)有機層に硫酸マグネシウムを加え、乾燥後ガラスフィルターで濾過した。濾液を減圧濃縮してシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=8:1)により精製し、無色シロップ19(236mg, 0.237mmol, 81%)を得た
【0057】
3-O-[(2”,3”-di-O-benzyl-4”,6”-O-benzylidene-β-D-galactopyranosyl)-(1”-6’)-(2’,3’,4’-tri-O-benzyl-β-D-galactopyranosyl)]-sn-glycerol (20)
化合物19(245mg, 0.246mmol)をジクロロメタン(55ml)に溶解し、氷浴中でトリフルオロ酢酸(140μl)を加え磁気撹拌した。反応の進行をTLC(酢酸エチル)で確認し、5時間後、トリエチルアミンで中和した。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で2回、飽和食塩水で1回抽出・洗浄し、有機層に硫酸マグネシウムを加え、乾燥後ガラスフィルターで濾過した。濾液を減圧濃縮してシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=1:1)により精製し、白色結晶20(141mg, 0.148mmol, 60%)を得た。
【0058】
3-O-[(2”,3”-di-O-benzyl-4”,6”-O-benzylidene-β-D-galactopyranosyl)-(1”-6’)-(2’,3’,4’-tri-O-benzyl-β-D-galactopyranosyl)]-1,2-di-palmitoyl-sn-glycerol (21)
化合物20(14mg)をピリジン(3ml)に溶解し、トリエチルアミン(20μl, 10eq)、DMAP(5mg)を加えた後、パルミトイルクロライド(22μl, 5eq)をゆっくりと滴下し、24時間磁気撹拌した。反応の進行をTLC(トルエン:酢酸エチル=6:1)で確認し、氷浴中メタノールでクエンチした。トルエンで希釈した後、減圧濃縮し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で2回、飽和食塩水で1回抽出・洗浄し、有機層に硫酸マグネシウムを加え、乾燥後ガラスフィルターで濾過した。濾液を減圧濃縮してシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=15:1)により精製し、白色結晶21(44mg, 0.0307mmol, >99%)を得た。
【0059】
3-O-[β-D-galactopyranosyl-(1”-6’)-β-D-galactopyranosyl]-1,2-di-palmitoyl-sn-glycerol (22)
化合物21(89mg)をメタノール(50ml)に溶解し、Pd(OH)2-C(cat.)、HCl(1drop)を加えてH2置換した。反応の進行をTLC(クロロホルム:メタノール=3:1)で確認し、8時間後空気中に開放した。反応溶液にトルエンを加え3回共沸した後、減圧濃縮してシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=10:1)により精製し、白色結晶22(27mg, 0.0302mmol, 49%)を得た。
1H-NMR(δ ppm, 500MHz, クロロホルム:メタノール=4:1, r.t);δ=5.25(m, 1H, glycerol sn-2), 4.37(dd, 1H, J1,1=12.0Hz, J1,2=3.5Hz, glycerol sn-1), 4.30(d, 1H, J1”,2”=7.5Hz, H-1”), 4.23(dd, 1H, J1,1=11.5Hz, J1,2=6.5Hz, glycerol sn-1), 4.22(d, 1H, J1’,2’=7.0Hz, H-1’), 4.03(dd, 1H, J5’,6’=6.5Hz, J6’,6’=10.5Hz, H-6’proS), 3.97(bd, 1H, J3’,4’=3.0Hz, H-4’), 3.91(dd, 1H, J2,3=5.5Hz, J3,3=11.0Hz, glycerol sn-3), 3.88(bd, 1H, J3”,4”=4.0Hz, H-4”), 3.86(dd, 1H, J5’,6’=6.0Hz, J6’,6’=11.0Hz, H-6’proR), 3.84(dd, 1H, J5”,6”=7.0Hz, J6”,6”=11.5Hz, H-6”), 3.76(dd, 1H, J5”,6”=5.0Hz, J6”,6”=12.0Hz, H-6”), 3.73(dd, 1H, J2,3=5.5Hz, J3,3=11.0Hz, glycerol sn-3), 3.67(m, 1H, H-5’), 3.56(dd, 1H, J1”,2”=7.5Hz, J2”,3”=9.5Hz, H-2”), 3.54(dd, 1H, J1’,2’=7.5Hz, J2’,3’=9.5Hz, H-2’), 3.53(m, 1H, H-5”), 3.50(dd, 1H, J2’,3’=9.5Hz, J3’,4’=3.5Hz, H-3’), 3.49(dd, 1H, J2”,3”=9.5Hz, J3”,4”=4.0Hz, H-3”), 2.32 and 2.30(t×2, 4H, -O-CO-CH2-CH2-(CH2)12-CH3×2), 1.61(m, 4H, -O-CO-CH2-CH2-(CH2)12-CH3×2), 1.27(b, 48H, -O-CO-CH2-CH2-(CH2)12-CH3×2), 0.88(t×2, 6H, -O-CO-CH2-CH2-(CH2)12-CH3×2)
13C-NMR(δ ppm, 500MHz, クロロホルム:メタノール=10:1, r.t); δ=174.12and173.88(2C, O-CO-×2), 103.98and103.61(2C, C-1 of sugar×2), 74.99(1C, C of glycerol sn-2), 73.55, 73.26, 73.11, 71.28, 70.33, 69.16, 68.07, 67.77, 67.41, 62.83(11C, 10C of sugars and 1C of glycerol sn-1), 61.77(1C, C of glycerol sn-3), 34.40and34,24(2C, -O-CO-CH2-(CH2)11-CH2-CH2-CH3×2), 32.03, 29.81, 29.77, 29.63, 29.47, 29.42, 29.25, 29.22,(22C, -O-CO-CH2-(CH2)11-CH2-CH2-CH3×2), 25.00and24.98(2C, -O-CO-CH2-(CH2)11-CH2-CH2-CH3×2 ), 22.79(2C, -O-CO-CH2-(CH2)11-CH2-CH2-CH3×2), 14.16(2C, -O-CO-CH2-(CH2)11-CH2-CH2-CH3×2)
HR-MS(FAB) Calcd for [M+Na]+, m/z=915.6021; found m/z=915.5977
[α]D24.2=-0.82 (c=0.1, クロロホルム:メタノール=2:1)
FT-IR(KBr): 3415.31(O-H), 1733.69(C=O), 1070.30(O-C)cm-1
元素分析 Calcd for C47H88O15 C=63.20%, H=9.93%, found C=63.74%, H=10.60%, N=0.17%
【0060】
3-O-[(2”,3”,4”,6”-tetra-O-benzyl-β-D-glucopyranosyl)-(1”-6’)-(2’,3’,4’-tri-O-benzyl-β-D-galactopyranosyl)]-1,2-di-isopropyliden-sn-glycerol (23)
二口ナスフラスコにモレキュラーシーブ4Å(200mg)を入れ、炎で炙って乾燥させた。化合物 11(370mg,1.8eq of 18)を入れ、窒素置換した後セプタムキャップで栓をした。化合物18(168mg,0.297mmol)を脱水ジクロロメタン(7ml)に溶解し、シリンジで注入して2時間磁気撹拌、脱水アセトニトリル(7ml)をシリンジで注入してさらに1時間磁気撹拌した。N-ヨードこはく酸イミド(167mg, 2.5eq of 18)を加えた後、-40℃でトリフルオロメタンスルホン酸(15μl)をシリンジで加え、反応をTLC(トルエン:酢酸エチル=4:1)で追跡した。化合物18の完全消費を確認し、反応液をトリエチルアミンで中和、モレキュラーシーブをセライトで濾過した。クロロホルムで希釈し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で2回、飽和食塩水で1回抽出・洗浄した。(飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で振盪する際、少量のチオ硫酸ナトリウム五水和物を添加した。)有機層に硫酸マグネシウムを加え、乾燥後ガラスフィルターで濾過した。濾液を減圧濃縮してシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=10:1)により精製し、無色シロップ23(211mg, 0.194mmol, 62%)を得た
【0061】
3-O-[(2”,3”,4”,6”-tetra-O-benzyl-β-D-glucopyranosyl)-(1”-6’)-(2’,3’,4’-tri-O-benzyl-β-D-galactopyranosyl)]-sn-glycerol (24)
化合物23(211mg, 0.194mmol)をジクロロメタン(50ml)に溶解し、トリフルオロ酢酸(3ml)を加え磁気撹拌した。反応の進行をTLC(酢酸エチル)で確認し、トリエチルアミンで中和した。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で2回、飽和食塩水で1回抽出・洗浄し、有機層に硫酸マグネシウムを加え、乾燥後ガラスフィルターで濾過した。濾液を減圧濃縮してシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=1:1)により精製し、白色結晶24(125mg, 0.119mmol, 61%)を得た。
【0062】
3-O-[(2”,3”,4”,6”-tetra-O-benzyl-β-D-glucopyranosyl)-(1”-6’)-(2’,3’,4’-tri-O-benzyl-β-D-galactopyranosyl)]-1,2-di-palmitoyl-sn-glycerol (25)
化合物24(125mg, 0.119mmol)をピリジン(10ml)に溶解し、トリエチルアミン(165μl, 10eq)、DMAP(10mg)を加えた後、パルミトイルクロライド(180μl, 5eq)をゆっくりと滴下し、24時間磁気撹拌した。反応の進行をTLC(トルエン:酢酸エチル=8:1)で確認し、氷浴中メタノールでクエンチした。トルエンで希釈した後、減圧濃縮し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で2回、飽和食塩水で1回抽出・洗浄し、有機層に硫酸マグネシウムを加え、乾燥後ガラスフィルターで濾過した。濾液を減圧濃縮してシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=15:1)により精製し、白色結晶25(303mg, 0.199mmol, >99%)を得た。
【0063】
3-O-[β-D-glucotopyranosyl-(1”-6’)-β-D-galactopyranosyl]-1,2-di-palmitoyl-sn-glycerol (26)
化合物25(181mg, 0.119mmol)をメタノール(70ml)に溶解し、Pd(OH)2-C(cat.)、HCl(1drop)を加えてH2置換した。反応の進行をTLC(クロロホルム:メタノール=3:1)で確認し、8時間後空気中に開放した。反応溶液にトルエンを加え3回共沸した後、減圧濃縮してシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=10:1)により精製し、白色結晶26(75mg, 0.084mmol, 70%)を得た。
1H-NMR(δ ppm, 500MHz, クロロホルム:メタノール=10:1, r.t);δ=5.26(m, 1H, glycerol sn-2), 4.35(d, 1H, J1”,2”=8.0Hz, H-1”), 4.33(dd, 1H, J1,1=12.0Hz, J1,2=3.5Hz, glycerol sn-1), 4.23(dd, 1H, J1,1=12.0Hz, J1,2=7.0Hz, glycerol sn-1), 4.21(d, 1H, J1’,2’=6.5Hz, H-1’), 4.01(dd, 1H, J5’,6’=7.5Hz, J6’,6’=10.5Hz, H-6’proS), 3.99(b, 1H, H-4’), 3.94(dd, 1H, J2,3=5.5Hz, J3,3=11.0Hz, glycerol sn-3), 3.88(dd, 1H, J5”,6”=3.0Hz, J6”,6”=12.0Hz, H-6”), 3.86(dd, 1H, J5’,6’=6.0Hz, J6’,6’=10.0Hz, H-6’proR), 3.73(dd, 1H, J5”,6”=5.0Hz, J6”,6”=12.0Hz, H-6”), 3.70(dd, 1H, J2,3=5.5Hz, J3,3=11.0Hz, glycerol sn-3), 3.64(m, 1H, H-5’), 3.50-3.56(m, 2H, H-2’, H-3’), 3.43(m, 2H, H-3”, H-4”), 3.32(m, 1H, H-5”), 3.28(dd, 1H, J1”,2” =J2”,3”=8.5Hz, H-2”), 2.32 and 2.31(t×2, 4H, -O-CO-CH2-CH2-(CH2)12-CH3×2), 1.60(m, 4H, -O-CO-CH2-CH2-(CH2)12-CH3×2), 1.25(b, 48H, -O-CO-CH2-CH2-(CH2)12-CH3×2), 0.88(t×2, 6H, -O-CO-CH2-CH2-(CH2)12-CH3×2)
13C-NMR(δ ppm, 500MHz, クロロホルム:メタノール=10:1, r.t); δ=174.29and174.04(2C, O-CO-×2), 104.08and103.27(2C, C-1 of sugar×2), 76.65(1C, C of glycerol sn-2), 76.28, 73.59, 73.50, 73.24, 71.34, 70.43,70.30, 68.11, 68.00, 67.75, 62.91(11C, 10C of sugars and 1C of glycerol sn-1), 61.75(1C, C of glycerol sn-3), 34.47and34,30(2C, -O-CO-CH2-(CH2)11-CH2-CH2-CH3×2), 32.10, 29.88, 29.86, 29.84, 29.70, 29.69, 29.54, 29.50, 29.31, 29.28, (22C, -O-CO-CH2-(CH2)11-CH2-CH2-CH3×2), 25.07and25.05(2C, -O-CO-CH2-(CH2)11-CH2-CH2-CH3×2), 22.86(2C, -O-CO-CH2-(CH2)11-CH2-CH2-CH3×2), 14.19(2C, -O-CO-CH2-(CH2)11-CH2-CH2-CH3×2)
HR-MS(FAB) Calcd for [M+Na]+, m/z=915.6021; found m/z=915.6000
[α]D25.2=-8.94 (c=0.1, クロロホルム:メタノール=2:1)
FT-IR(KBr): 3350.71(O-H), 1737.55(C=O), 1069.33(O-C)cm-1
元素分析 Calcd for C47H88O15 C=63.20%, H=9.93%, found C=61.72%, H=10.20%, N=0.23%
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の合成法で製造される糖脂質はマイコプラズマニューモニエの特異的な抗原であるために、これを高感度・正確に検出するための分子基盤となり、これらの糖脂質を利用することによってマイコプラズマニューモニエが原因である様々な病気の正確な診断法が提供されることが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の構造式:
【化1】

を有するβ−ガラクトシル−(1,6)−β−ガラクトシル−sn−ジアシグリセリド又はβ−グルコシル−(1,6)−β−ガラクトシル−sn−ジアシルグリセリドの合成法であって、以下の工程:
(1)D−ガラクトース又はD−グルコースを出発物質として用いて、水酸基がエーテル系保護基で保護されたガラクトシドドナー又はグルコシドドナーを合成する工程;
(2)(S)−グリシドールを出発物質として用いて、sn-1,2位のグリセロール水酸基が保護されたグリセロールアクセプターを合成する工程;
(3)工程(1)で合成されたガラクトシドドナーと工程(2)で合成されたグリセロールアクセプターとを用いて第一のβ−グリコシル化反応を行い、β−ガラクトシル−sn−グリセリドを得、その後、ガラクトース4,6位の水酸基のエーテル系保護基を位置選択的に開裂して6位のみを脱保護する工程;及び
(4)工程(3)で得られた6位水酸基を有するβ−ガラクトシル−sn−グリセリドと工程(1)で合成されたガラクトシドドナー又はグルコシドドナーとを用いて第二のβ−グリコシル化反応を行い、β−ガラクトシル−(1,6)−β−ガラクトシル−sn−グリセリド又はβ−グルコシル−(1,6)−β−ガラクトシル−sn−グリセリドを得、グリセロールアクセプターのsn-1,2位の保護基を選択的に脱保護した後、炭素数14,16及び/又は18の直鎖飽和脂肪酸の塩化物と反応させて脂肪酸エステルとし、その後、エーテル系保護基を脱保護する工程;
から成る前記合成法。
【請求項2】
ガラクトシドドナー又はグルコシドドナーの脱離基として、チオサリチル酸の低級アルキルエステル基を1位に有する、請求項1記載の合成法。
【請求項3】
チオサリチル酸低級アルキルエステルがチオサリチル酸メチルである、請求項2記載の合成法。
【請求項4】
工程(1)において、D−ガラクトース又はD−グルコースの水酸基をアシル系保護基で保護し、1位をブロム化した後、チオサリチル酸の低級アルキルエステル基を1位に導入し、更に、アシル系保護基を脱保護した後、水酸基をエーテル系保護基で保護する、請求項1記載の合成法。
【請求項5】
工程(1)におけるエーテル系保護基がベンジル基及び/又はベンジリデン基である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の合成法。
【請求項6】
ガラクトシドドナーの4、6位をベンジリデン基で保護し、2、3位をベンジル基で保護する、請求項5記載の合成法。
【請求項7】
工程(2)におけるグリセロールアクセプターのsn-1,2位のグリセロール水酸基がパラアルコキシベンジル基又はパラアルコキシフェニル基で保護されている、請求項1記載の合成法。
【請求項8】
工程(3)におけるβ−グリコシル化反応において、βーガラクトシル−sn−グリセリドが、α:β=1:9以上のβ選択性で合成される、請求項1記載の合成法。
【請求項9】
工程(3)におけるβ−グリコシル化反応を、ジクロロメタンおよびアセトニトリルの混合溶媒下、ヨードコハク酸イミドとトリフルオロメタンスルホン酸を活性化剤とし、0℃以下の低温で行うことを特徴とする、請求項8に記載の合成法。
【請求項10】
工程(3)において、更に、βーガラクトシル−sn−グリセリドのグリセロール水酸基のsn-1,2位を新たに環状アセタール基で保護することを含む、請求項7記載の合成法。
【請求項11】
環状アセタール基がイソプロピリデン基である、請求項10記載の合成法。
【請求項12】
工程(4)におけるβ−グリコシル化反応において、β−ガラクトシル−(1,6)−β−ガラクトシル−sn−グリセリド又はβ−グルコシル−(1,6)−β−ガラクトシル−sn−グリセリドが、α:β=1:16以上のβ選択性で合成される、請求項1記載の合成法。
【請求項13】
工程(4)におけるβ−グリコシル化反応を、ジクロロメタンおよびアセトニトリルの混合溶媒下、ヨードコハク酸イミドとトリフルオロメタンスルホン酸を活性化剤とし、0℃以下の低温で行うことを特徴とする、請求項12に記載の合成法。
【請求項14】
β−ガラクトシル−(1,6)−β−ガラクトシル−sn−ジアシルグリセリドが
3-O-[β-D-galactopyranosyl-(1”-6’)-β-D-galactopyranosyl]-1,2-di-palmitoyl-sn-glycerol であり、β−グルコシル−(1,6)−β−ガラクトシル−sn−ジアシルグリセリドが
3-O-[β-D-glucotopyranosyl-(1”-6’)-β-D-galactopyranosyl]-1,2-di-palmitoyl-sn-glycerol である、請求項1記載の合成法。
【請求項15】
以下の構造式から成る化合物:
【化2】

【化3】

(式中、OPはエーテル系保護基を示し、Rは低級アルキル基を示す)
【請求項16】
エーテル系保護基がベンジル基であり、且つ、低級アルキル基がメチルである、請求項15記載の化合物。

【公開番号】特開2009−7279(P2009−7279A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−169120(P2007−169120)
【出願日】平成19年6月27日(2007.6.27)
【出願人】(505136789)エム バイオ テック株式会社 (3)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】